(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記焼結工程では、加圧圧力を1MPa以上100MPa以下の範囲内とすることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法。
前記焼結工程では、筒状をなすダイと、このダイの両端の開口部から挿入されるパンチとを備えた成形型を用いて、前記パンチに通電するとともにプレス機によって圧力を付与する構成とされており、
前記パンチの周囲には、前記プレス機と前記ダイの端面との間に、補助通電部材を配設することを特徴とする請求項4から請求項7のいずれか一項に記載のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、粉末焼結法によって製造されたCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいては、脆性が高く、割れ易いといった問題があった。また、粉末焼結法によって製造されたCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、溶解鋳造法に比べて不純物が多くなり、スパッタ成膜時に異常放電やパーティクルが発生し、成膜されたCu−Ga合金膜の品質が低下するおそれがあった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、製造時や使用時における割れの発生が抑制されるとともに、スパッタ成膜時の異常放電及びパーティクルの発生を抑制することが可能なCu−Ga合金スパッタリングターゲット、及び、このCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、Cu−Ga合金からなるCu−Ga合金スパッタリングターゲットであって、炭素濃度が30質量ppm以下とされ、組織観察の結果、粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率が5%以上50%以下、粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率が1%以上30%以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0009】
このような構成とされた本発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいては、粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率が5%以上、粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率が1%以上とされていることから、結晶粒内に存在するポアの個数を少なくすることができ、抗折強度を向上することができる。これにより、製造時や使用時における割れの発生を抑制することが可能となる。
また、炭素濃度が30質量ppm以下に制限されるとともに、粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率が50%以下に制限されているので、スパッタ成膜時にパーティクルの発生を抑制することができ、高品質なCu−Ga合金膜を成膜することができる。
【0010】
また、本発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいては、さらに、粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率が30%以下に制限されているので、スパッタ成膜時における異常放電の発生を抑制することができる。すなわち、スパッタレートは、結晶方位によって異なることから、スパッタが進行するとスパッタ面に、上述のスパッタレートの違いに起因して凹凸が生じる。ここで、粒径100μm以上の結晶粒が多く存在すると、スパッタ面に形成される凹凸が大きくなり、凸部に電荷が集中して異常放電が発生しやすくなる。そこで、粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率を30%以下に制限することで、異常放電の発生を抑制することができる。
【0011】
ここで、本発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいては、平均結晶粒径が100μm以下とされていることが好ましい。
この場合、スパッタが進行した際にスパッタ面に形成される凹凸を確実に小さくすることができ、異常放電の発生をさらに抑制することが可能となる。
【0012】
また、本発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいては、酸素濃度が150質量ppm以下とされていることが好ましい。
この場合、Cu−Ga合金スパッタリングターゲット内部において酸化物の形成を抑制することができる。これにより、スパッタ成膜時に酸化物に電荷が集中することを抑制でき、異常放電の発生を抑制することができる。
【0013】
本発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法は、上述のCu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造するCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法であって、原料粉末を焼結する焼結工程を有しており、前記原料粉末の炭素濃度を140質量ppm以下とするとともに、前記原料粉末中に含まれる粒径10μm以下の粒子の割合を体積比で5%以上50%以下、粒径100μm以上の粒子の割合を体積比で1%以上30%以下の範囲内とし、前記焼結工程では、前記原料粉末を、通電加圧焼結法によって焼結することを特徴としている。
【0014】
このような構成とされた本発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法においては、原料粉末を通電加圧焼結法(いわゆる放電プラズマ焼結法(SPS))によって焼結しているので、原料粉末の粒径が大きく変化することなく、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの結晶粒径となる。よって、原料粉末準備工程において、前記原料粉末中に含まれる粒径10μm以下の粒子の割合を体積比で5%以上50%以下、粒径100μm以上の粒子の割合を体積比で1%以上30%以下の範囲内とすることで、粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率が5%以上50%以下、粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率が1%以上30%以下の範囲内とされたCu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造することが可能となる。
また、原料粉末を通電加圧焼結法によって焼結しているので、電流が原料粉末同士の点接触部を流れる際、電流経路の断面積が非常に小さくなり電流密度が大幅に増加するため、発生するジュール熱も大幅に増加し、局所的にはプラズマが発生する程の高温に達して炭素が脱離するため、焼結時に炭素量を低減することができる。よって、原料粉末の炭素量を140質量ppm以下とすることで、炭素濃度が30質量ppm以下とされたCu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造することが可能となる。
【0015】
ここで、本発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法においては、前前記焼結工程では、焼結温度T
Sを、製造されるCu−Ga合金スパッタリングターゲットを構成するCu−Ga合金の液相出現温度T
Lに対して、0.5×T
L≦T
S≦T
Lの範囲内とするとともに、保持時間を0.5min以上60min以下の範囲内とすることが好ましい。
この構成のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法においては、焼結温度T
Sと保持時間を上述の範囲内としているので、原料粉末を確実に焼結することができるとともに、原料粉末が溶解してしまうことを抑制できる。
なお、状態図の液相線、または固液共存領域の下限を液相出現温度T
Lとする。
【0016】
また、本発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法においては、前記焼結工程では、加圧圧力を1MPa以上100MPa以下の範囲内とすることが好ましい。
この構成のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法においては、前記焼結工程における加圧圧力を1MPa以上としているので、原料粉末に確実に通電して加熱することができる。また、前記焼結工程における加圧圧力を100MPa以下としているので、大型の加圧設備を用いる必要がなく、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットを効率良く製造することが可能となる。
【0017】
さらに、本発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法においては、前前記原料粉末の平均粒径を100μm以下とすることが好ましい。
この構成のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法においては、通電加圧焼結法によって焼結しているので、原料粉末の粒径が大きく変化することなく、平均結晶粒径が100μm以下とされたCu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造することができる。
【0018】
また、本発明のCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法においては、前記焼結工程では、筒状をなすダイと、このダイの両端の開口部から挿入されるパンチとを備えた成形型を用いて、前記パンチに通電するとともにプレス機によって圧力を付与する構成とされており、前記パンチの周囲には、前記プレス機と前記ダイの端面との間に、補助通電部材を配設することが好ましい。
パンチとダイとを備えた成形型を用いて通電加圧焼結を行う場合、パンチのみが配設された領域と、ダイが配設された領域と、では、通電方向に直交する断面積が異なるため、ジュール熱によって温度差が生じるおそれがある。そこで、パンチの周囲に補助通電部材を配設することにより、パンチのみが配設された領域におけるジュール熱の発生を抑制し、温度差が生じることを抑制できる。これにより、局所的に焼結が不十分な箇所が発生することを抑制でき、抗折強度を十分に向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、製造時や使用時における割れの発生が抑制されるとともに、スパッタ成膜時の異常放電及びパーティクルの発生を抑制することが可能なCu−Ga合金スパッタリングターゲット、及び、このCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態であるCu−Ga合金スパッタリングターゲット、及び、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法について、添付した図面を参照して説明する。
本実施形態に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、例えばCIGS系薄膜太陽電池においてCu−In−Ga−Se四元系合金薄膜からなる光吸収層を形成するために、Cu−Ga合金膜をスパッタによって成膜する際に用いられるものである。
【0022】
本実施形態に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、20原子%以上40原子%以下の範囲内で含み、残部がCu及び不可避不純物とされた組成のCu−Ga合金で構成されている。
また、炭素濃度が30質量ppm以下とされ、酸素濃度が150質量ppm以下とされている。
そして、スパッタ面の組織観察した結果、粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率が5%以上50%以下、粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率が1%以上30%以下の範囲内とされている。さらに、平均結晶粒径が100μm以下とされている。
【0023】
さらに、本実施形態に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、抗折強度をY(MPa)とし、Cu−Ga合金のGaの含有量をX(原子%)とした場合に、
Y≧−8×X+490
の関係を有する。
また、本実施形態に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、5箇所以で測定した抗折強度のワイブル係数が20以上とされている。
【0024】
また、本実施形態に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、その相対密度が99%以上とされている。なお、本実施形態における相対密度は、縦軸が密度で横軸がGa組成比のグラフにおいて、純銅の密度ρ
Cu=8.96g/cm
3とCu−Ga合金(Cu:69.23原子%、Ga:30.77原子%)の密度ρ
CuGa=8.47g/cm
3とを直線で結び、当該Cu−Ga合金の組成(Gaの含有量)に応じて内挿あるいは外挿することによって求めた値を100%として算出したものである。
【0025】
次に、本実施形態であるCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法について説明する。
本実施形態であるCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法は、
図1に示すように、原料粉末を準備する原料粉末準備工程S01と、成形型内に形成されたキャビティに原料粉末を充填する原料粉末充填工程S02と、真空雰囲気中で焼結温度T
S(℃)にまで加熱して焼結する焼結工程S03と、得られた焼結体に対して機械加工を行う機械加工工程S04と、を備えている。
【0026】
(原料粉末準備工程S01)
まず、原料粉末となるCu−Ga合金粉末を準備する。Cu−Ga合金粉末は、購入してもよいし、例えば以下に示すアトマイズ法によって製造してもよい。
塊状のCu原料及びGa原料を所定の組成となるように秤量し、カーボン製のるつぼに入れてガスアトマイズ装置にセットする。真空排気を行って1000℃以上1200℃の温度条件で1分以上30分保持して原料を溶解した後、孔径1mm以上3mm以下のノズルから溶湯を落下させながら、噴射ガス圧10kgf/cm
2以上50kgf/cm
2以下の条件でArガスを噴射させ、ガスアトマイズ粉を作製する。冷却後、得られたガスアトマイズ粉をふるいで分級することにより、所定の粒径のCu−Ga合金粉末を得る。なお、Cu及びGaの組成比によっては、噴射温度が高いために、溶湯が凝固して粉になる前にチャンバーに到達してしまうおそれがある。その場合は、噴射温度を加熱保持温度から100〜400℃程度下げて行うことが好ましい。
【0027】
以上のようなアトマイズ法によって製造されたCu−Ga合金粉末においては、平均粒径が100μm以下とされている。
また、原料粉末(Cu−Ga合金粉末)の粒度分布は、粒径10μm以下の粒子の割合が体積比で5%以上50%以下の範囲内、粒径100μm以上の粒子の割合が体積比で1%以上30%以下の範囲内とされている。
【0028】
(原料粉末充填工程S02)
次に、
図2に示すように、上述の原料粉末を充填する成形型10を準備する。本実施形態においては、円筒形状をなすダイ11の下方側に下パンチ12を挿入する。これにより、成形型10内にキャビティを形成する。この成形型10内(キャビティ内)に原料粉末を充填した後、上パンチ13を挿入する。
なお、この成形型10(ダイ11、下パンチ12及び上パンチ13)は、カーボン等の導電性材料で構成されている。なお、ダイ11については、必ずしも導電性を有しなくてもよい。
【0029】
(焼結工程S03)
次に、充填された原料粉末を、焼結温度T
S(℃)にまで加熱して保持し、焼結を行う。本実施形態では、電極を兼ねたプレス機20を用いて、上パンチ13と下パンチ12とで原料粉末を加圧する。このときの加圧圧力は、1MPa以上100MPa以下の範囲内とすることが好ましい。本実施形態では、真空雰囲気(圧力1000Pa以下)で、焼結を行っている。
ここで、真空雰囲気中で上パンチ13及び下パンチ12に電力を印加することで、原料粉末に通電してジュール熱によって原料粉末を加熱する、通電加圧焼結法(いわゆる放電プラズマ焼結法)によって焼結を行う。本実施形態では、
図2に示すように、下パンチ12及び上パンチ13の周囲には、補助通電部材として、導電性を有するコイルスプリング15が配設されている。このコイルスプリング15によって増加する通電面積は、ダイの通電面積の0.1倍以上とされている。プレス機20で加圧した際には、コイルスプリング15は、プレス機20とダイ11の端面の間で収縮し、このコイルスプリング15を介してプレス機20とダイ11との間で通電する。
【0030】
なお、本実施形態においては、焼結工程S03における焼結温度T
S(℃)は、製造されるCu−Ga合金スパッタリングターゲットを構成するCu−Ga合金の液相出現温度T
Lに対して、0.5×T
L≦T
S≦T
Lの範囲内に設定している。
また、焼結温度T
S(℃)での保持時間を0.5min以上60min以下の範囲内に設定している。
さらに、昇温速度を5℃/min以上75℃/min以下の範囲内に設定している。
【0031】
(機械加工工程S04)
上述の焼結工程S03によって得られた焼結体に機械加工を施すことにより、所定のサイズのCu−Ga合金スパッタリングターゲットが製造される。
【0032】
以上のような構成とされた本実施形態であるCu−Ga合金スパッタリングターゲットによれば、粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率が5%以上、粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率が1%以上とされている。
ここで、粒径10μm以下の微細な結晶粒においては、結晶粒内にポアがほとんど存在しない。また、粒径100μm以上の粗大な結晶粒においては、サイズが大きくなっても結晶粒内のポアの個数がほとんど増加しないことから、基準面積当たりポアの個数が少なくなる。よって、粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率を5%以上、かつ、粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率を1%以上とすることで、結晶粒内のポアの個数を低減することができる。
【0033】
なお、焼結体からなるCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいては、結晶粒界にポアが存在することで抗折強度が低下するため、結晶粒内のポアの個数を低減して、結晶粒内のポアの個数と結晶粒界のポアの個数との比(結晶粒内のポアの個数/結晶粒界のポアの個数)を大きくすることで、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの抗折強度を向上させることができる。これにより、製造時及び使用時における割れの発生を抑制することが可能となる。
【0034】
ここで、本実施形態であるCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいて、抗折強度を確実に向上させるためには、粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率の下限を10%以上とすることが好ましい。また、粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率の下限を5%以上とすることが好ましい。
【0035】
また、本実施形態であるCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいては、炭素濃度が30質量ppm以下に制限されるとともに、粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率が50%以下に制限され、かつ、粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率が1%以上とされているので、スパッタ成膜時におけるパーティクルの発生を抑制することができる。
Cu−Ga合金スパッタリングターゲットに含有される炭素は、原料粉末の表面に存在していると考えられるため、粒径10μm以下の微細な結晶粒を少なくし、粒径100μm以上の粗大な結晶粒を多くすることで、スパッタ面における結晶粒界の長さが短くなり、パーティクルの発生を抑制することができる。
【0036】
ここで、本実施形態であるCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいて、パーティクルの発生を確実に抑制するためには、粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率の上限を40%以下とすることが好ましい。また、粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率の下限を5%以上とすることが好ましい。
【0037】
さらに、粒径100μm以上の粗大な結晶粒の占める面積率が30%以下に制限されているので、スパッタが進行してスパッタ面が消耗しても、スパッタ面に大きな凹凸が形成されず、凸部に電荷が集中して異常放電が発生することを抑制できる。
また、本実施形態では、スパッタ面における平均結晶粒径が100μm以下とされているので、スパッタ面が消耗しても、スパッタ面に大きな凹凸が形成されず、異常放電を確実に抑制することができる。
さらに、本実施形態においては、酸素濃度が150質量ppm以下とされているので、Cu−Ga合金スパッタリングターゲット内に酸化物が形成されることを抑制でき、この酸化物に起因する異常放電及びパーティクルの発生を抑制することができる。
【0038】
ここで、本実施形態であるCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいて、異常放電を確実に抑制するためには、粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率の上限を20%以下とすることが好ましい。
また、スパッタ面における平均結晶粒径を75μm以下とすることが好ましい。
さらに、酸素濃度を100質量ppm以下とすることが好ましい。
【0039】
また、本実施形態であるCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいては、抗折強度をY(MPa)とし、Cu−Ga合金のGaの含有量をX(原子%)とした場合に、Y≧−8×X+490の関係を有しているので、抗折強度Yが従来に比べて十分に高く、割れの発生を抑制することができる。
さらに、本実施形態であるCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいては、5箇所以で測定した抗折強度のワイブル係数が20以上であるので、Cu−Ga合金スパッタリングターゲット内における抗折強度のバラつきが小さく、割れの発生を十分に抑制することができる。
ワイブル係数は以下の方法で算出される。測定サンプルの累積破壊確率をF、抗折強度をYとした場合、縦軸をlnln((1−F)
-1)、横軸をln(Y)のグラフにプロットした測定値の傾きがワイブル係数である。
【0040】
また、本実施形態であるCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法によれば、焼結工程S03において、上パンチ13及び下パンチ12に電力を印加することで、原料粉末に通電してジュール熱によって原料粉末を加熱する、通電加圧焼結法(いわゆる放電プラズマ焼結法)によって焼結しているので、原料粉末の粒径が大きく変化することなく、原料粉末の粒径がそのままCu−Ga合金スパッタリングターゲットの結晶粒径となる。
【0041】
ここで、本実施形態においては、原料粉末準備工程S01において、原料粉末(Cu−Ga合金粉末)の粒度分布を、粒径10μm以下の粒子の割合を体積比で5%以上50%以下の範囲内、粒径100μm以上の粒子の割合を体積比で1%以上30%以下の範囲内としているので、粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率が5%以上50%以下、粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率が1%以上30%以下の範囲内とされたCu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造することができる。
さらに、原料粉末準備工程S01において、Cu−Ga合金粉末の平均粒径を100μm以下としているので、平均結晶粒径が100μm以下とされたCu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造することができる。
【0042】
また、本実施形態では、焼結工程S03において、通電加圧焼結法(いわゆる放電プラズマ焼結法)によって焼結しているので、焼結工程S03において炭素量を低減することができる。よって、原料粉末準備工程S01において、原料粉末(Cu−Ga合金粉末)の炭素量を140質量ppm以下とすることで、炭素濃度が30質量ppm以下とされたCu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造することが可能となる。
さらに、本実施形態では、真空雰囲気(圧力1000Pa以下)で、放電プラズマ焼結法(SPS)によって焼結しているので、確実に炭素量を低減することが可能となる。
なお、焼結工程S03においてさらに炭素量を確実に低減して、Cu−Ga合金スパッタリングターゲット中の炭素濃度を低くするためには、焼結工程S03における真空雰囲気を50Pa以下とすることが好ましい。
【0043】
さらに、本実施形態では、焼結工程S03において、焼結温度T
Sを、製造されるCu−Ga合金スパッタリングターゲットを構成するCu−Ga合金の液相出現温度T
Lに対して、0.5×T
L以上とし、保持時間を0.5min以上としているので、原料粉末(Cu−Ga合金粉末)を確実に焼結することができる。また、焼結温度T
Sを、液相出現温度T
L以下とし、保持時間を60min以下としているので、焼結工程S03において原料粉末(Cu−Ga合金粉末)が溶融してしまうことを抑制できる。
【0044】
ここで、確実に原料粉末(Cu−Ga合金粉末)を焼結させるためには、焼結温度T
Sの下限を0.7T
L以上とすることが好ましい。また、保持時間の下限を10min以上とすることが好ましい。
また、確実に原料粉末(Cu−Ga合金粉末)の溶融を抑制するためには、焼結温度T
Sの上限を0.95T
L以下とすることが好ましい。また、保持時間の上限を30min以下とすることが好ましい。
【0045】
また、本実施形態では、焼結工程S03において、上パンチ13及び下パンチ12による加圧圧力を1MPa以上に設定しているので、原料粉末(Cu−Ga合金粉末)に確実に通電して加熱することができ、原料粉末(Cu−Ga合金粉末)の焼結を確実に行うことができる。
さらに、上パンチ13及び下パンチ12による加圧圧力を100MPa以下としているので、大型の加圧設備を用いる必要がなく、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットを効率良く製造することが可能となる。
【0046】
ここで、原料粉末(Cu−Ga合金粉末)に確実に通電して焼結するためには、焼結工程S03における加圧圧力の下限を10MPa以上とすることが好ましい。
また、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットをさらに効率良く製造するためには、焼結工程S03における加圧圧力の上限を70MPa以下とすることが好ましい。
【0047】
さらに、本実施形態では、焼結工程S03において、下パンチ12及び上パンチ13の周囲に、補助通電部材としてコイルスプリング15が配設されており、このコイルスプリング15を介してプレス機20とダイ11との間で通電する構成とされているので、下パンチ12及び上パンチ13のみが配設された領域と、ダイ11が配設された領域とで、ジュール熱の発生量が大きく異なることを抑制でき、温度差を小さく抑えることができる。これにより、局所的に焼結が不十分な部分が形成されることを抑制でき、抗折強度を大幅に向上させることができる。また、抗折強度のバラつきも抑制することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、太陽電池においてCu−In−Ga−Se四元系合金薄膜からなる光吸収層を形成するために、Cu−Ga合金薄膜をスパッタによって成膜する際に用いられるものとして説明したが、これに限定されることなく、他の用途に使用されるCu−Ga合金スパッタリングターゲットであってもよい。
また、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの形状やサイズに特に限定はなく、矩形板状、円板状、円筒状をなしていてもよい。
【0049】
さらに、本実施形態では、
図2に示すように、上パンチ13および下パンチ12の周囲に、補助通電部材としてコイルスプリング15を配設したものとして説明したが、これに限定されることはなく、
図3に示すように、リーフ型スプリング115を配設してもよいし、
図4に示すように、ピンチ型スプリング215を配設してもよい。また、
図5に示すように、導電性ワイヤ315を配設したものであってもよい。また、
図6に示すように、補助通電部材を必ずしも配設する必要もない。
【実施例】
【0050】
以下に、本発明に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲット及びCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法の作用効果を確認すべく実施した確認試験の結果について説明する。
【0051】
(実施例1)
まず、表1,2に示す組成及び粒度分布の原料粉末(Cu−Ga合金粉末)を準備した。
この原料粉末を、成形型に充填した。ここで、成形型(ダイ、上パンチ及び下パンチ)として、表3,4に示す材質のものを使用した。そして、表3,4に示す条件で放電プラズマ焼結法によって焼結を行った。なお、
図6に示すように、補助通電部材は使用しなかった。
なお、得られたCu−Ga合金スパッタリングターゲット(焼結体)のサイズは、φ100mm×10mmtとした。
【0052】
また、比較例10では、表2に示す原料粉末を用いて、ホットプレスによって焼結を行い、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造した。
比較例11では、表2に示す原料粉末を用いて、鋳造法によってCu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造した。
比較例12では、表2に示す原料粉末を用いて、HIP(熱間静水圧プレス法)によって焼結を行い、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットを製造した。
比較例10,11,12の作製条件は表4に示す。
【0053】
得られたCu−Ga合金スパッタリングターゲットについて、相対密度、酸素濃度、炭素濃度、平均結晶粒径、粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率、粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率、抗折強度、スパッタ成膜時のパーティクル個数及び異常放電発生回数を、以下のように評価した。
【0054】
(相対密度)
アルキメデス法によって密度を測定し、純銅の密度ρ
Cu=8.96g/cm
3とCu−Ga合金(Cu:69.23原子%、Ga:30.77原子%)の密度ρ
CuGa=8.47g/cm
3とを直線で結び、当該Cu−Ga合金の組成(Gaの含有量)に応じて内挿あるいは外挿することによって求めた値を100%として、相対密度を算出した。評価結果を表5,6に示す。
【0055】
(酸素濃度)
JIS Z 2613の「金属材料の酸素定量方法通則」に記載された赤外線吸収法によって測定した。測定結果を表5,6に示す。
【0056】
(炭素濃度)
JIS Z 2615の「金属材料の炭素定量方法通則」に記載された赤外線吸収法によって測定した。測定結果を表5,6に示す。
【0057】
(結晶粒径)
スパッタ面を研磨し、硝酸でエッチングを行った後、光学顕微鏡で観察した。測定倍率は250倍、観察面積は7.5mm
2以上である。線分法によって、結晶粒径を測定し、平均結晶粒径、粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率、粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率、を算出した。面積率は、印刷した組織写真に線間隔5μm相当の正方格子を描き、各粒が含む正方形の数を計測して算出した。評価結果を表5,6に示す。
【0058】
(抗折強度)
焼結体を厚さ方向(上パンチと下パンチによる加圧方向)に3分割し、厚さ中央部から試験片(3mm×4mm×35mm)を5個採取し、島津製作所製オートグラフAG−Xを用いて、押し込み速度0.5mm/minで応力曲線を測定し、弾性領域の最大点応力を求め、5個の試験片の平均値で抗折強度を評価した。評価結果を表5,6に示す。
【0059】
(スパッタ成膜条件)
マグネトロンスパッタ装置を用いて、投入電力:3.3W/cm2、10minの直流(DC)スパッタリングにより、φ100mmの基板に膜厚100nmのCu−Ga合金膜を成膜した。ここで、スパッタリング時のAr流量は30sccmとし、圧力を0.67Paとした。
【0060】
(パーティクル個数)
成膜されたCu−Ga合金膜中に存在する直径0.3μm以上のパーティクル個数をパーティクルカウンターで測定した。評価結果を表5,6に示す。
【0061】
(異常放電)
上記成膜条件において10分間のスパッタリングを行い、異常放電の発生回数を目視で計測した。この測定結果を表5,6に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
炭素量が35質量ppmとされた比較例1においては、スパッタ成膜時においてパーティクルが多く発生し、異常放電が確認された。
粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率が0.5%とされた比較例2、粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率が3%及び粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率が0.5%とされた比較例4、粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率が3%とされた比較例5においては、抗折強度が低くなっていることが確認された。
【0069】
粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率が50%とされた比較例3、粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率が3%及び粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率が50%とされた比較例6、粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率が60%及び粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率が50%とされた比較例9においては、異常放電回数が多くなっていることが確認される。
【0070】
粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率が60%及び粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率が0.5%とされた比較例7、粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率が60%及び粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率が10%とされた比較例8、粒径10μm以下の結晶粒の占める面積率が60%及び粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率が50%とされた比較例9においては、パーティクル個数が多くなっていることが確認される。
【0071】
ホットプレスによって焼結を行った比較例10においては、酸素量及び炭素量が多くなっており、パーティクル個数が多く、異常放電も発生した。
鋳造法によって製造された比較例11においては、粒径10μm以下の結晶粒が存在せず、平均結晶粒径も非常に大きくなっており、異常放電が発生した。
HIP(熱間静水圧プレス法)によって焼結を行った比較例12においては、炭素量が多く、粒径10μm以下の結晶粒及び粒径100μm以上の結晶粒の占める面積率が本発明の範囲から外れており、パーティクル個数が多く、異常放電も発生した。
【0072】
これに対して、本発明例1−16においては、抗折強度が150MPa以上と高く、パーティクル個数が7個以下に抑えられており、異常放電回数も0回であった。
【0073】
以上のことから、本発明例によれば、抗折強度が高く割れの発生が抑制されるとともに、スパッタ成膜時の異常放電及びパーティクルの発生を抑制することが可能なCu−Ga合金スパッタリングターゲット、及び、このCu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造方法を提供できることが確認された。
【0074】
(実施例2)
次に、本発明例1−16において、表3,4に示す条件で放電プラズマ焼結法によって焼結を行う際に、
図2に示すように、カーボン製のコイルスプリングからなる補助通電部材を用いた。この補助通電部材の通電面積はダイの通電面積の0.2倍である。
そして、実施例1と上述と同様の条件で、抗折強度を測定した。また、5個の試験片の測定値からワイブル係数を求めた。評価結果を表7に示す。なお、表7においては、Ga濃度X(原子%)と、このGa濃度Xを用いた下記(1)式で示す抗折強度の下限値Y
0の値を合わせて示す。
Y
0=−8×X+490 ・・・(1)
【0075】
【表7】
【0076】
補助通電部材を使用した場合には、補助通電部材を使用しない場合に比べて抗折強度が大幅に向上している。また、ワイブル係数も大きくなっており、抗折強度のバラつきが抑制されている。さらに、補助通電部材を使用した場合には、式(1)で算出された抗折強度を上回っていた。
以上のことから、通電電焼結時に補助通電部材を用いることにより、抗折強度に優れたCu−Ga合金スパッタリングターゲットを提供可能であることが確認された。