(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
透明基板上に、スピンオングラス材料を含む下地層と、無機バリア層と、金属酸化物層又はケイ素酸化物層と、透明導電材料を含み、かつ、酸素原子を含む透明電極と、が順に積層された透明電極付半導体素子用基板であって、
前記無機バリア層は、Si系の酸窒化物又は窒化物であり、かつ、下記条件で測定した水蒸気透過度が10−2g/m2/day以下であり、
前記金属酸化物層又はケイ素酸化物層は、窒化物を含まない、透明電極付半導体素子用基板;
(水蒸気透過度)100μmのPETフィルム上に300nmの厚みの前記無機バリア層と同じ組成の層を積層した際の40℃90%RHにおける水蒸気透過度。
前記無機バリア層が前記二次元構造を追従し、前記金属酸化物層又は前記ケイ素酸化物層が前記二次元構造を追従している、請求項2に記載された透明電極付半導体素子用基板。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を適用した半導体素子用基板、有機発光ダイオード素子および有機薄膜太陽電池について、図面を用いてその構成を説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0021】
「半導体素子用基板」
図1は、本発明の半導体素子用基板10を模式的に示す断面図である。
本発明の半導体素子用基板は、基板1上に、スピンオングラス材料を含む下地層2と、無機バリア層3が順に積層されている。
【0022】
半導体素子用基板10は、無機バリア層3を有するため、スピンオングラス材料を含む下地層2が含有する水分が、無機バリア層3の下地層2の反対側の面に透湿することを防ぐことができる。また、無機バリア層3を下地層2上に形成しておくことで、環境雰囲気中の水分を下地層2が再吸収することを抑制し、保管を容易にすることができる。
従来、半導体素子における有機半導体層(例えば、有機発光ダイオードにおける有機発光層)等が水分によって劣化し、その寿命に影響を及ぼすことは知られていた。しかし、スピンオングラスを硬化する際の、脱水縮合反応によって生じる水分を下地層2が含有し、この水分が劣化の起因となることまでは知られておらず、この問題を解決する検討は行われていなかった。これらの水分は、ベーク等によっても完全に除去することは難しく、また除去できたとしても保管時に環境雰囲気中の水分を再吸収してしまう。そのため、有機半導体素子の寿命を維持することや、通常環境で保管することが難しかった。半導体素子用基板10は、無機バリア層3を有するため、このような問題を解決することができる。
【0023】
無機バリア層3は、以下の条件で測定した水蒸気透過度が10
−2g/m
2/day以下であるものを用いる。すなわち、100μmのPET(ポリエチレンテレフタラート)フィルム上に、300nmの厚みの無機バリア層と同じ組成の層を積層した際の40℃90%RHの水蒸気透過度が10
−2g/m
2/day以下であるものを用いる。当該水蒸気透過度は、10
−3g/m
2/day以下であることが好ましく、10
−4g/m
2/day以下であることがより好ましい。
当該条件下での水蒸気透過度が10
−2g/m
2/day以下であれば、同組成である無機バリア層3を下地層2上に形成することで、下地層2からの水分を十分遮断することができる。また水蒸気透過度は低い程好ましく、その下限は特に限定されない。
なお、本測定では100μmのPETフィルム上に、無機バリア層と同じ組成の層を300nmの厚みで形成して水蒸気透過度を測定している。これは、300nmの厚さの無機バリア層を単体で保持することが困難で、無機バリア層のみの水蒸気透過度を直接測定することができないからである。
【0024】
この水蒸気透過度はカルシウム腐食法を用いて測定する。カルシウム腐食法によれば、1g/m
2/day〜10
−6g/m
2/dayの水蒸気透過度を測定することができる。
カルシウム腐食法の原理は以下のとおりである。
測定対象フィルム(100μmのPETフィルム上に300nmの無機バリア層と同じ組成の層が形成されたもの)上にカルシウム層を任意の膜厚で形成するとともに、該カルシウム層の露出面を、水蒸気を10
−6g/m
2/day以上透過しない膜(Al膜等)で被覆する。カルシウム層のカルシウムは測定対象フィルムを透過してきた水と反応し、反応部分のカルシウムは水酸化カルシウムとなり白色となる。白色になった部分の面積が測定対象フィルムを透過した水分量に対応し、白色になった部分の面積の単位時間当たりの増加分が水蒸気透過度となる。
【0025】
より具体的には、以下の手順で測定する。
まず、10cm角の測定対象フィルムの無機バリア層と同じ組成の層側の表面に、蒸着マスクにより1cm×1cmの大きさのカルシウムを50nmの厚さで蒸着してカルシウム層を成膜する。続いて、真空状態のままマスクを取り去り、測定対象フィルムのカルシウムを蒸着した側の面全体にアルミニウムを1μmの厚さで蒸着してアルミニウム層を成膜する。
この測定対象フィルムを真空チャンバーから取り出し、該測定対象のアルミニウム蒸着面側と、10cm角のガラス板とを、蜜蝋とパラフィンを1:1の割合で溶融混合した混合物を用いて貼合し、評価セルを作製する。
【0026】
次に、作製した評価用セルを、恒温恒湿槽にて40℃90%RH環境下で保持する処理(恒温恒湿処理)を行う。恒温恒湿処理開始から7日後の評価セルのカルシウム層を、測定対象フィルム側から、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、VK−8500)にて観察した。レーザー顕微鏡の1.0mm×1.4mm範囲の画像(以下、測定エリアという。)中の白色部分(水と反応して水酸化カルシウムとなった部分)の面積(以下、腐食面積という。)を測定する。
該腐食面積から、以下の式(1)により水蒸気透過度を算出する。
水蒸気透過度(g/m
2/day)=Y×M
H2O×n×(A1/A2)×(24/T) …(1)
【0027】
ただし、Yは、恒温恒湿処理後のカルシウム層中の水酸化カルシウムのモル量であって式:(δ×t×d
Ca(OH)2)/M
Ca(OH)2により求められる値である。
δは、腐食面積(cm
2)である。
tは、カルシウム層の厚み(cm)である。
d
Ca(OH)2は、水酸化カルシウムの密度(g/cm
3)である。
M
Ca(OH)2は、水酸化カルシウムの分子量である。
M
H2Oは、水の分子量である。
nは、カルシウムの価数である。
A1は、成膜したカルシウム層の面積(cm
2)である。
A2は、測定エリアの面積(cm
2)である。
Tは、恒温恒湿処理時間(hour)である。
【0028】
また無機バリア層3は、組成式M
xO
yN
z(ただし、Mは金属またはSi、xは任意の正の実数、y、zはゼロ又は任意の正の実数)で表される。具体的には、無機バリア層3としては、Si
3N
4、SiN、TiO
2等を用いることができる。当該組成を満たす無機バリア層3を用いると、水分が無機バリア層3内を透湿することを十分防ぐことができる。なかでもSi系の酸窒化物(Si−O−N)及び窒化物(Si−N)は、水分のバリア性が高くかつ光の透過率が高いため好ましい。
【0029】
また無機バリア層3は、透明であることが好ましい。例えば、ボトムエミッション型の有機発光ダイオード素子に不透明な基板を用いると、基板側から光を取り出すことができなくなる。また有機薄膜太陽電池に不透明な基板を用いると、発電部である有機半導体層に効率的に光を入射させることが難しくなる。
また、無機バリア層3の屈折率は、下地層2の屈折率と同等であることがより好ましい。無機バリア層3の屈折率が、下地層2の屈折率と同等であれば、不要な屈折率界面が無くなり、光の反射をより抑制することができる。
【0030】
無機バリア層3は、100nm以上500nm以下の厚さで形成されていることが好ましい。100nmより薄いと、十分に水分を遮断することが難しくなる。一方、500nmより厚くても特に利点はないため、生産性の面で好ましくない。
なお、無機バリア層3の厚みは、当該半導体素子基板を任意の10カ所の断面における膜厚の平均値を意味する。任意の断面における厚みは、走査型電子顕微鏡を用いて測定した。
【0031】
下地層2は、基板1上にスピンオングラス材料を用いて形成される。
スピンオングラス材料は、塗布段階では粘性を有する液体状であり、塗布後に硬化させることにより、固体形態になるものをいう。したがって、液体を基板1上に塗布することが可能であり、基板1上に均一な層を形成することができる。
またスピンオングラス材料は、一般に用いられているものを使用することができ、例えば、シリケート系のスピンオングラス材料、シロキサン系のスピンオングラス材料等を用いることができる。
【0032】
スピンオングラス材料の硬化方法は、一般に用いられる加熱処理、UV照射処理、オゾン処理、ゾルゲル法等を用いることができる。このとき、液体状のスピンオングラスの硬化反応はいずれも脱水縮合反応であり、この反応により発生した水分の一部が下地層2に含有される。
そのため、下地層2を形成した後、ベークすることが好ましい。半導体素子用基板10は、無機バリア層3を有しているため、下地層2が水分を含有していても、その水分が透湿することはないが、下地層2が含有する水分量が少なければ、無機バリア層3をより薄くすることができる。
【0033】
下地層2は、50nm以上5000nm以下の厚さで形成されていることが好ましい。50nmより薄いと、均質な層を形成することが難しい。また後述するように、下地層2に凹凸形状を形成する際に、所定の形状を形成することが難しくなる。一方、5000nmより厚いと、下地層2中に含有される水分量が多くなるため好ましくない。また、下地層が厚すぎると、下地層にクラックが発生しやすくなり好ましくない。さらに、形成される半導体素子全体の厚みが不要に厚くなり、半導体素子の小型化を阻害する。下地層2の厚みは、無機バリア層3と同様の方法で測定することができる。
【0034】
また、下地層2の基板1と反対側の面に、複数の凹部又は凸部が二次元に配置された二次元構造を有することが好ましい。
図2は、基板1と反対側の面に、複数の凸部2aが二次元に配置された二次元構造の断面模式図である。
図2では、凸部2a同士を繋ぐ平坦部2bを図示しているが、平坦部2bは無くても良い。凸部2aの形状は、当該形状に限られず後述する種々の形状を用いることができる。
下地層2の基板1と反対側の面に、複数の凹部又は凸部が二次元に配置された二次元構造を有していると、この半導体素子用基板を半導体素子に用いた際に、各層界面での全反射を抑制し、光を効率的に利用することができる。具体的には、例えば有機発光ダイオード素子を半導体素子用基板10’上に形成した場合は、全反射が抑制されることで光取り出し効率が向上する。また、有機薄膜太陽電池を半導体素子用基板10’上に形成した場合は、発電部に入射する光が反射することを抑制し、発電効率を向上させることができる。
【0035】
また無機バリア層3が、この二次元構造を追従していることが好ましい。無機バリア層3が二次元構造を追従していることで、下地層2を完全に被覆することができ、下地層2が含有する水分が透湿することを抑制することができる。
さらに、この半導体素子用基板10’上に半導体素子を形成する場合、形成される各層が二次元構造を追従していることが好ましく、特に金属反射電極が二次元構造を追従していることが好ましい。半導体素子用基板上に形成される各層が二次元構造を追従していれば、それだけ各層界面での反射を抑制することができる。また後述の有機発光ダイオード素子についての記載で詳細を説明するが、金属反射電極が二次元構造を追従していれば、表面プラズモンのエネルギーを再輻射することができる。
【0036】
複数の凹部又は凸部が二次元に配置された二次元構造は、周期的であっても非周期的であってもよい。
【0037】
本発明の半導体用基板を、狭い周波数帯域の光を発光する発光素子に使用する場合、或いは、特定の狭い周波数帯域の光を利用する半導体素子に使用する場合には、複数の凹部又は凸部の二次元的な配置は、周期的であることが好ましい。
前記二次元的な配置の周期を特定の周波数の光の回折に適した周期とすることで、光の取り出し効率、或いは、光の取り込み効率を向上させることができる。または、前記二次元的な配置の周期を半導体素子内に発生する表面プラズモンの取り出しに適した周期とすることで、光取り出し効率の高い発光素子、或いは、発電効率の高い太陽電池を得ることができる。
【0038】
ここで、「凸部が周期的に二次元に配置」とは、複数の凸部2aが平面上の少なくとも2方向に周期的に配置されている状態をいう。周期的な二次元構造の好ましい具体例として、配向方向が2方向で、その交差角度が90°であるもの(正方格子)、配向方向が3方向で、その交差角度が60°であるもの(三角格子、六方格子)等が挙げられる。
また、上記の「交差角度が60°の位置関係」とは、具体的には、以下の条件を満たす関係をいう。まず、1つの中心点t1から、隣接する中心点t2の方向に長さが最頻ピッチPと等しい長さの線分L1を引く。次いで中心点t1から、線分L1に対して、60゜の方向に、最頻ピッチPと等しい長さの線分L2を引く。中心点t1に隣接する中心点が、中心点t1と反対側における各線分L1の終点から、各々最頻ピッチPの15%以内の範囲にあれば、交差角度が60°の位置関係にある。交差角度が90度の位置関係とは、上述の「60°」との記載を「90°」と読み替えることで定義される。
また、中心点は以下のように定義する。AFM(原子間力顕微鏡)の測定結果に基づき、基準面と平行に各凸部について20nm毎に複数の等高線を引き、各等高線の重心点(x座標とy座標で決定される点)を求める。これらの各重心点の平均位置(各x座標の平均とy座標の平均で決定される位点)が、該凸部の中心点である。
なお、「凹部が周期的に二次元に配置」している場合の状態と中心点は、上記の定義における凸部を凹部と読み替えることで同様に定義可能である。
【0039】
ここで、最頻ピッチPは、具体的には、以下のようにして求めることができる。
まず、基板上における無作為に選択された領域で、一辺が最頻ピッチPの30〜40倍の正方形の領域について、AFMイメージを得る。例えば、最頻ピッチPが300nm程度の場合、9μm×9μm〜12μm×12μmの領域のイメージを得る。そして、このイメージをフーリエ変換により波形分離し、FFT像(高速フーリエ変換像)を得る。ついで、FFT像のプロファイルにおける0次ピークから1次ピークまでの距離を求める。こうして求められた距離の逆数がこの領域における最頻ピッチPである。このような処理を無作為に選択された合計25カ所以上の同面積の領域について同様に行い、各領域における最頻ピッチを求める。こうして得られた25カ所以上の領域における最頻ピッチP
1〜P
25の平均値が最頻ピッチPである。なお、この際、各領域同士は、少なくとも1mm離れて選択されることが好ましく、より好ましくは5mm〜1cm離れて選択される。
【0040】
これに対し、本発明の半導体用基板を、広い周波数帯域の光または互いに異なる複数の周波数帯域の光を発光する発光素子に使用する場合、或いは、太陽光などの広い周波数帯域の光を利用する半導体素子に使用する場合には、複数の凹部又は凸部の二次元的な配置は、非周期的であることが好ましい。ここで「二次元的に非周期な配置」とは、凹部又は凸部の中心間の間隔および配置方向が一定でない状態をいう。
【0041】
中でも二次元的な配置を非周期とし、以下に説明するような構造とすることで、半導体素子が利用する周波数帯域の光の取り出し/取り込みを効率よく行うことができる。
この好ましい構造の一例としては、その高さ分布のスペクトル強度において、半導体素子が利用する周波数帯域の光の下限周波数を回折するのに適した波数から上限周波数を回折するのに適した波数までに対応した波数を含むように、高さ分布のスペクトル強度が調整された構造が挙げられる。より具体的には、半導体素子が利用する周波数帯域の光の下限周波数を回折するのに適した波数から上限周波数を回折するのに適した波数までに対応した波数スペクトル強度の積分値が、全スペクトル強度の35%以上となるように調整された構造であることがより好ましい。
【0042】
このような構造は、以下の手順で確認することができる。
まず、複数の凹部又は凸部の二次元的な配置によって形成された構造物の表面の顕微鏡画像を撮影する。
図3は複数の凹部又は凸部の二次元的な配置によって形成された構造物の表面の顕微鏡画像の例である。顕微鏡画像の構造物の高さ情報は、グレースケールで表される画像で変換されている。グレースケール画像では、例えば、白度が低いところ程、凹部の底部が深い(白度が高いところ程、凸部の頂部が高い)ことを表している。
次にグレースケール画像対して2次元フーリエ変換を施し、フーリエ変換画像を得る。
図4は、構造物の高さ情報をグレースケールで変化した画像のフーリエ変換画像の例である。
図4は、輝点の集合で表され、画像の中心から輝点までの距離は構造物が持つ凹凸ピッチを表し、輝点の密度が高い程、構造物がその長さの凹凸ピッチ成分を多く含んでいることを示している。画像の中心から輝点までの距離が長い程、凹凸ピッチは短くなる。
画像の中心からの距離と輝点の密度をプロットすると高さ分布のスペクトル強度のグラフが得られる。
図5は、高さ分布のスペクトル強度のグラフの例である。
図5において横軸は波数、縦軸は強度である。
【0043】
本発明の半導体用基板の有する複数の凹部又は凸部の二次元的な配置の好ましい別の一例としては、半導体素子内に発生する表面プラズモンが広い周波数帯域に渡って存在する場合、前記二次元的な配置を非周期とし、半導体素子内に発生する表面プラズモンの下限周波数を取り出すのに適した波数から上限周波数を取り出すのに適した波数までに対応した波数を含むように、高さ分布のスペクトル強度が調整された構造である。
半導体素子内に発生する表面プラズモンの下限周波数を取り出すのに適した波数から上限周波数を取り出すのに適した波数までに対応した波数スペクトル強度の積分値が、全スペクトル強度の35%以上となるように調整された構造であることがより好ましい。
【0044】
凸部2aの形状および高さは、特に限定されない。形状としては、たとえば円柱状、円錐状、円錐台形状、正弦波状、半球形状、略半球体形状、楕円形状、或いはそれらを基本とした派生形状等が挙げられる。
半導体素子用基板10’上に形成される半導体素子が二次元構造を追従している場合、金属反射電極の表面形状はこの凸部2aの形状、高さ及び最頻ピッチに依存する。そのため、凸部2aの形状、高さ及び最頻ピッチにより金属反射電極表面において表面プラズモンからの光取り出し効率は変化するため、以下の形状および高さを有することが好ましい。以下の形状および高さであれば、表面プラズモンを効率よく再輻射させることができる。
【0045】
凸部2aの最頻ピッチは、半導体素子の発光波長等によっても変化するため、発光波長に合わせて設定することが好ましい。具体的には、国際公開第2012/060404号の凹部の最頻ピッチ(中心間距離)と発光層の発光波長λの関係を用いることができる。
【0046】
凸部2aの形状が円錐台形上の場合、好ましい高さは12nm以上180nm以下であり、更に好ましくは15nm以上70nm以下、最も好ましくは20nm以上50nm以下である。ここで挙げた円錐台形状とは、上底と下底は円形であり、かつその直径比が10/100〜90/100の範囲であり、かつ上底と下底の面が平行であり、かつ母線が直線である構造体を示している。微細構造体としては、隣り合う2つの円錐台の下底が接する配置から下底の直径の5倍程度の距離離れている配置が好ましい。
【0047】
また、凸部2aの形状が正弦波形状の場合、好ましい高さは12nm以上180nm以下であり、更に好ましくは50nm以上160nm以下、最も好ましくは70nm以上140nm以下である。ここにおいて正弦波形状とは、たとえば、平面上の六方最密配置の格子点αにおいて隣り合う2点を結ぶ直線を引き、かつその直線とZ軸を含む面を振動面とする正弦波を考え、各格子点αがいずれも極大値となり、隣り合う格子点の中間点βがいずれも極小値となる様な波長の正弦波を想定するとき、ある格子点αから±1/2波長の位置βで正弦波を切取り、前記格子点を通るZ軸を中心に前記切り取った正弦波を回転させて得られる面から構成される立体形状である(
図6)。
図7は、前記立体形状を構成単位とするとき、複数の構成単位を正弦波の頂点αを六方最密配置の各格子点αに合わせるように配置した構造体の上面図を示している。
図6では、互いに最も近い3つの格子点で構成される正三角形の中心付近にある回転面で被覆されない領域は、基板1の上部水平面であり、回転面の最も低い高さ(正弦波の極小値)と同じ高さを表している。
【0048】
凸部2aの形状が円錐形状の場合、好ましい高さは12nm以上180nm以下であり、更に好ましくは60nm以上170nm以下、最も好ましくは80nm以上150nm以下である。ここにおいて円錐形状とは、たとえば、下底は円形であり、かつ母線は直線である構造体である。微細構造体としては、隣り合う2つの円錐の下底が接する配置から下底の直径の5倍程度の距離離れている配置が好ましい。
【0049】
また、凸部2aの形状が円柱形状の場合、好ましい高さは12nm以上180nm以下であり、更に好ましくは15nm以上70nm以下、最も好ましくは20nm以上50nm以下である。ここにおいて円柱形状とは、たとえば、上底と下底は円形であり、かつその上底と下底の直径は同一であり、かつ上底と下底の面は平行であり、かつ母線は直線である構造体である。微細構造体としては、隣り合う2つの円柱の下底が接する配置から下底の直径の5倍程度の距離離れている配置が好ましい。
【0050】
ここで、凸部2aの高さは、AFM(原子間力顕微鏡)により測定することができる。具体的には、まず、二次元構造内の無作為に選択された5μm×5μmの領域1カ所についてAFM像を得る。ついで、該AFM像の対角線方向に線を引き、この線と交わった凸部2aの高さをそれぞれ単独に求める。そして、これら凸部2aの高さの平均値を求める。このような処理を、無作為に選択された合計25カ所の5μm×5μmの領域について同様に行い、各領域における凸部2aの高さの平均値を求める。こうして得られた25カ所の領域における平均値をさらに平均した値を凸部2aの高さとする。
【0051】
以上に挙げた円錐台形状、正弦波形状、円錐形状、円柱形状とは、典型的な形状を現しているのであって、本発明の凸部または凹部の構造は、本発明の効果を有する限り、前記形状のいずれかに厳密に限定される必要はない。すなわち、上記基本形状の定義を多少ずれた形状(略形状)も本発明の効果を有する限り本発明の範囲に含まれる。
以上述べた円錐台形状、正弦波形状、円錐形状、円柱形状の構造体はすべて凸型に関する説明であるが、それらの反転型である凹型についても本発明の効果を得ることが出来る。凹型の構造体の形状の定義は、凸型の表面構造体の基底面(複数の構造体突起物の最も低い部分を含む平面)を基準面(鏡面)として、面対称構造体(鏡像)を作製したものとなる。たとえば、面対称構造体が下地層表面に形成されているとき、構造体表面から基準面側の空間は空隙であり、構造体表面から基準面と反対側の空間は下地層を構成する材料で構成されていることになる。
【0052】
以下に、これらの複数の凸部2aが形成する二次元構造を具体的に図示する。
図8は、下地層2に円錐台形状の複数の凸部2aが離間して周期的に形成されている例である。
図9は、下地層2に正弦波形状の複数の凸部2aが周期的に形成されている例である。
図10は、下地層2に円柱形状の複数の凸部2aが離間して周期的に形成されている例である。
図11は、下地層2に円錐形状の複数の凸部2aが離間して周期的に形成されている例である。
また凸部2aが反転した凹部でも上記の効果は得られるため、複数の凹部が形成する二次元構造についても具体的に以下に図示する。
図12は、下地層2に円錐台形状の複数の凹部が離間して周期的に形成されている例である。
図13は、下地層2に正弦波形状の複数の凹部が周期的に形成されている例である。
図14は、下地層2に円柱形状の複数の凹部が離間して周期的に形成されている例である。
図15は、下地層2に円錐形状の複数の凹部が離間して周期的に形成されている例である。
【0053】
また
図16に示すように凸部2aは周期的な構造が各エリアC
1〜C
nで形成され、巨視的な全体としては、各エリアC
1〜C
nが非周期的に配置された構造となっていてもよい。
図16に示す各エリアC
1〜C
nは、各中心点の交差角度が60°の位置関係で整列している領域である。なお、
図16では、各凸部の中心点の位置を、便宜上、その中心点を中心とする円uで示している。円uは、各凸部だけでなく、その周辺の平坦面を含む領域に相当する。
【0054】
各エリアC
1〜C
nの最頻面積Q(各エリア面積の最頻値)は、以下の範囲であることが好ましい。
最頻ピッチPが500nm未満の時、10μm×10μmのAFMイメージ測定範囲内における最頻面積Qは、0.026μm
2〜6.5μm
2であることが好ましい。
最頻ピッチPが500nm以上1μm未満の時、10μm×10μmのAFMイメージ測定範囲内における最頻面積Qは、0.65μm
2〜26μm
2であることが好ましい。
最頻ピッチPが1μm以上の時、50μm×50μmのAFMイメージ測定範囲内における最頻面積Qは、2.6μm
2〜650μm
2であることが好ましい。
最頻面積Qが好ましい範囲内であれば、金属表面から所定の角度に再輻射される表面プラズモンの素子外部への放出角度がランダムになり、発光光が異方性を有することを抑制することができる。
【0055】
また、各エリアC
1〜C
nは、
図16に示すように、面積、形状及び格子方位がランダムである。
面積のランダム性の度合いは、具体的には、以下の条件を満たすことが好ましい。
まず、ひとつのエリアの境界線が外接する最大面積の楕円を描き、その楕円を下記式(2)で表す。
X
2/a
2+Y
2/b
2=1・・・(2)
【0056】
最頻ピッチPが500nm未満の時、10μm×10μmのAFMイメージ測定範囲内におけるπabの標準偏差は、0.08μm
2以上であることが好ましい。
最頻ピッチPが500nm以上1μm未満の時、10μm×10μmのAFMイメージ測定範囲内におけるπabの標準偏差は、1.95μm
2以上であることが好ましい。
最頻ピッチPが1μm以上の時、50μm×50μmのAFMイメージ測定範囲内におけるπabの標準偏差は、8.58μm
2以上であることが好ましい。
πabの標準偏差が好ましい範囲内であれば、金属表面から所定の角度に再輻射される表面プラズモンの素子外部への放出角度を平均化させる効果に優れ、発光光が異方性を有することを抑制することができる。
【0057】
また、各エリアC
1〜C
nの形状のランダム性の度合いは、具体的には、前記式(2)におけるaとbの比、a/bの標準偏差が0.1以上であることが好ましい。
また各エリアC
1〜C
nの格子方位のランダム性は、具体的には、以下の条件を満たすことが好ましい。
まず、任意のエリア(I)における任意の隣接する2つの凸部の中心点を結ぶ直線K0を画く。次に、該エリア(I)に隣接する1つのエリア(II)を選択し、そのエリア(II)における任意の凸部と、その凸部に隣接する6つの凸部の中心点を結ぶ6本の直線K1〜K6を画く。直線K1〜K6が、直線K0に対して、いずれも3度以上異なる角度である場合、エリア(I)とエリア(II)との格子方位が異なる、と定義する。
エリア(I)に隣接するエリアの内、格子方位がエリア(I)の格子方位と異なるエリアが2以上存在することが好ましく、3以上存在することが好ましく、5以上存在することがさらに好ましい。
【0058】
このとき凸部は、格子方位が各エリアC
1〜C
nの内では揃っているが、巨視的には揃っていない多結晶構造体である。巨視的な格子方位のランダム性は、FFT(高速フーリエ変換)基本波の最大値と最小値の比で評価できる。FFT基本波の最大値と最小値の比は、AFM像を取得し、その2次元フーリエ変換像を求め、基本波の波数だけ原点から離れた円周を作図し、この円周上の最も振幅の大きい点と最も振幅の小さな点を抽出し、その振幅の比として求める。この際のAFM像の取得方法は、最頻ピッチPを求める際のAFM像の取得方法と同じである。
FFT基本波の最大値と最小値の比が大きい場合は、凸部の格子方位が揃っており、凸部を2次元結晶とみなした場合単結晶性が高い構造と言える。反対に、FFT基本波の最大値と最小値の比が小さい場合は、凸部の格子方位が揃っておらず、凸部を2次元結晶とみなした場合は多結晶構造であると言える。
【0059】
また、無機バリア層3上には金属酸化物層又はケイ素酸化物層4が形成されていることが好ましい。
図17は、無機バリア層3上に金属酸化物層又はケイ素酸化物層4が形成された半導体素子用基板20を模式的に示す断面図である。
図17では、半導体素子用基板20が凹凸形状を有していない場合を図示しているが、複数の凸部2aが二次元に配置された二次元構造を有する場合、当該構造に追従するように金属酸化物層又はケイ素酸化物層4が凹凸形状を有していても良い。
一般に半導体素子用基板上に半導体素子を積層する場合、最初に積層される層は電極層である。この電極層は金属または透明導電材料により形成される。有機発光ダイオード素子のボトムエミッション構造の場合および有機薄膜太陽電池素子では、透明導電材料からなる透明電極が形成される。透明導電材料としては、公知のものが使用できる。たとえばインジウム−スズ酸化物(Indium Tin Oxide(ITO))、インジウム−亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide(IZO))、酸化亜鉛(Zinc Oxide(ZnO))、亜鉛−スズ酸化物(Zinc Tin Oxide(ZTO))等が挙げられる。
このような透明導電材料は、無機バリア層3に含まれる金属窒化物と接触すると、時間の経過と共に、材料中の酸素原子が金属窒化物側へマイグレーションする。このようなマイグレーションが生じると、透明電極の透過率が劣化する。そのため、酸素原子のマイグレーションによる透過率の劣化を抑制するために金属酸化物層又はケイ素酸化物層4をさらに積層することが好ましい。
【0060】
金属酸化物層又はケイ素酸化物層4は窒化物を含まなければ、特に限定されるものではない。例えば、SiO
2、TiO
2、Al
2O
3等を用いることができる。ここでいう「窒化物を含まない」とは窒化物を組成の構成要素として含んでいないだけでなく、不純物としても窒化物を含まないことを意味する。
また、金属酸化物層又はケイ素酸化物層4と無機バリア層3が同一の材料からなることは妨げられない。例えば、無機バリア層3および金属酸化物層又はケイ素酸化物層4が同一のTiO
2からなる場合でも、無機バリア層3が不純物として窒化物を含んでいる場合、当該金属酸化物層又はケイ素酸化物層4をさらに積層することでマイグレーションを抑制することができる。
【0061】
基板1には、可視光を透過する透明体が用いられる。基板1を構成する材質としては、無機材料でも有機材料でもよく、それらの組み合わせでもよい。無機材料としては、たとえば、石英ガラス、無アルカリガラス、白板ガラス等の各種ガラス、マイカ等の透明無機鉱物などが挙げられる。有機材料としては、シクロオレフィン系フィルム、ポリエステル系フィルム等の樹脂フィルム、該樹脂フィルム中にセルロースナノファイバー等の微細繊維を混入した繊維強化プラスチック素材などが挙げられる。
用途にもよるが、一般に、基板1は可視光透過率の高いものを使用する。透過率は可
視光の範囲(波長380nm〜800nm)でスペクトルに偏りを与えず、透過率70%
以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上のものを用いる。
【0062】
「半導体素子用基板の製造方法」
本発明の半導体素子用基板の製造方法は、基板1上に下地層2、無機バリア層3、金属酸化物層又はケイ素酸化物層4を積層することで形成される。金属酸化物層又はケイ素酸化物層4は、半導体素子を形成する際に金属酸化物層又はケイ素酸化物層4上に形成される層によっては除くこともできる。
下地層2は、一般に使用されるスピンコート、バーコート、スリットコート、ダイコート、スプレーコート等の方法を用いて形成することができる。また凹凸構造を形成する場合は、それに対応する金型を形成し、インプリントすることで形成することができる。インプリントする金型は、電子ビームリソグラフィー、機械式切削加工、レーザー熱リソグラフィー、干渉露光、縮小露光、アルミニウムの陽極酸化法等を用いて形成することができる。また、粒子単層膜を下地層2上に形成し、かかる粒子単層膜をエッチングマスクとしてドライエッチングを行うことで下地層2上に直接凹凸形状を形成してもよい。また粒子単層膜を利用して金型を作製し、インプリントしてもよい。また粒子単層膜を利用して非周期構造を形成する場合、粒子径の異なる複数の粒子を用いることで作製することができる。
【0063】
無機バリア層3及び金属酸化物層又はケイ素酸化物層4は、特に制限されるものではないが、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマCVD法等を用いて成膜することができる。この時のターゲットは、例えば、無機バリア層として窒化シリコンを用いる場合は、窒化シリコンのターゲットも用いても、シリコンターゲットを用いて窒素雰囲気中で行っても良い。
【0064】
「有機発光ダイオード素子」
図18は本発明の有機発光ダイオード素子100の断面を模式的に示した図である。上述の半導体素子用基板20上に、少なくとも第1電極11と、有機発光層12と、第2電極13とが順に積層されている。金属酸化物層又はケイ素酸化物層4は、必須の層ではなく、積層される第1電極11の材質によっては除くこともできる。
本発明の有機発光ダイオード素子は、いわゆるボトムエミッション構造でもトップエミッション構造でも、いずれを適用してもよい。また第1電極11及び第2電極13は一方が陽極で他方が陰極であれば、いずれの構成でもよい。
ボトムエミッション構造の場合、第1電極11が透明電極、第2電極13が金属反射電極となり、トップエミッション構造の場合、第1電極11が金属反射電極、第2電極13が透明電極となる。
【0065】
以下の説明では、
図18を用いて、ボトムエミッション構造で、第1電極11を陽極、第2電極13を陰極とする構成を、例に挙げて説明する。この場合、第1電極11は透明電極であり、第2電極13は金属反射電極となるため、以下のボトムエミッション構造に関する説明においては第1電極を透明電極と記載し、第2電極を金属反射電極と記載する。
また、本発明の有機発光ダイオード素子100は本発明の効果を損ねない範囲で以下に記載していない層や構造を備えてもよい。具体的には、透明電極11と有機発光層12の間に、ホール注入層12a、ホール輸送層12b等を備えてもよく、有機発光層12と金属反射電極13の間に電子輸送層12c、電子注入層12d等を備えてもよい。
また透明電極11と金属反射電極13は、電圧を印加できるようになっている。透明電極11と金属反射電極13との間に電圧を印加することで、有機発光層12に電子とホールが注入され、これらが結合することで光が発生する。発生した光は、透明電極11を直接透過して素子外部に取り出されるか、金属反射電極13で一度反射して素子外部に取り出される。
【0066】
有機発光ダイオード素子100は、上述の半導体素子用基板20上に各層を積層することで形成されている。
半導体素子用基板20は、下地層2を有するため、その表面平滑性を高くすることができる。半導体素子用基板20の表面平滑性が高いと、その上に形成される透明電極11、有機発光層12、金属電極13の結晶性及び均質性を高くすることができる。そのため、高い発光効率とムラのない発光を実現することができる。
また下地層2の有機発光層12側の面には、無機バリア層3が形成されている。そのため、下地層2に含有された水分が、有機発光層12に透湿することを防ぐことができる。つまり、無機バリア層3により、有機発光層12が劣化することを抑制し、有機発光ダイオード素子100の寿命を長くすることができる。
さらに、無機バリア層3の透明電極11側の面には、金属酸化物層又はケイ素酸化物層4が形成されている。透明電極11が導電性酸化物からなる場合、無機バリア層3に用いられる金属窒化物と接触すると、時間の経過と共に、材料中の酸素原子が金属窒化物側へマイグレーションする。金属酸化物層又はケイ素酸化物層4を形成することで、酸素原子のマイグレーションを抑制し、透明電極11の透明度を高く維持することができる。なお、金属酸化物層又はケイ素酸化物層4については必須ではなく、透明電極11の材料によっては、除去することができる。
【0067】
また下地層2の基板1と反対側の面が、複数の凹部又は凸部が二次元に配置された二次元構造を有することが好ましい。またこの二次元構造を、その上に積層される透明電極11、有機発光層12、金属反射電極13のそれぞれが追従していることが好ましい。
図19は、半導体素子用基板が二次元構造を有し、その上に形成される各層が二次元構造を追従している場合の有機発光ダイオード素子100の断面模式図である。
半導体素子用基板の二次元構造を各層が追従することで、各層界面での全反射を抑制することができる。また、各層が二次元構造を追従することで、金属反射電極13の有機発光層12側の面に凹部13aが形成される。この凹部13aは、半導体用基板10における凸部2aの構造が反転した構造となる。すなわち、第2電極13の有機発光層12側の面には、複数の凹部13aによる二次元構造が形成される。
具体的な例を挙げると、凸部2aが
図8の形状の場合、凹部13aは
図12の形状となる。凸部2aが
図9の形状の場合、凹部13aは
図13の形状となる。凸部2aが
図10の形状の場合、凹部13aは
図14の形状となる。凸部2aが
図11の形状の場合、凹部13aは
図15の形状となる。
【0068】
この二次元構造が、金属反射電極13の有機発光層12側の面に形成されていることで、金属反射電極13表面に表面プラズモンとして捕捉されたエネルギーを再輻射し、光として取り出すことができる。
表面プラズモンの捕捉は以下のような過程で生じる。発光層12で発光分子から発光する際に、ごく近傍に近接場光が発生する。発光層12と金属反射電極13との距離は非常に近いため、近接場光は金属反射電極13の表面で伝播型の表面プラズモンのエネルギーに変換される。
金属表面の伝播型表面プラズモンは、入射した電磁波(近接場光など)により生じる自由電子の疎密波が表面電磁場を伴うものである。平坦な金属表面に存在する表面プラズモンの場合、該表面プラズモンの分散曲線と光(空間伝播光)の分散直線とは交差しないため、表面プラズモンのエネルギーを光として取り出すことはできない。これに対し、金属表面に二次元構造があると、該二次元構造によって回折された空間伝播光の分散曲線が表面プラズモンの分散曲線と交差するようになり、表面プラズモンのエネルギーを輻射光として取り出すことができる。
このように、二次元構造が設けられていることで、表面プラズモンとして失われていた光のエネルギーが取り出される。取り出されたエネルギーは、輻射光として金属反射電極13表面から放射される。このとき金属反射電極13から輻射される光は指向性が高く、その大部分が取出し面に向かう。そのため、取出し面から高強度の光が出射し、取出し効率が向上する。
【0069】
このとき凹部13aの深さは、12nm以上180nm以下であり、15nm以上70nm以下がより好ましい。深さが12nm未満または180nm超であると光取出し効率の向上効果が不充分となる。
凹部13aの深さの上記範囲は以下の理由による。すなわち、凹部13aの深さが12nm未満であると、二次元構造として十分な表面プラズモンの回折波を生成できなくなり、表面プラズモンを輻射光として取り出す効果が低下する。また、凹部13aの深さが180nmを超えると、表面プラズモンが局在型の性質を持ち始め、伝播型ではなくなってくるため、輻射光の取出し効率が低下する。さらに、凹部13aの深さが180nmを超えると、有機発光ダイオードの陽極層、有機薄膜層、陰極層を順次積層する際に凹凸が急峻になり、陽極と陰極が短絡する可能性も高くなってくるため好ましくない。
凹部13aの深さは、凸部2aの高さと同じであるため、凸部2aの高さをAFM(原子間力顕微鏡)により測定することで間接的に定量できる。
【0070】
なお、ここまでボトムエミッション構造の有機発光ダイオード素子を例に説明してきたが、トップエミッション構造においても同様の効果を得ることができる。トップエミッション構造の場合、半導体素子用基板上に金属反射電極が形成されるため、二次元構造は凸部2aと同等の形状となる。そのため、凸部2aによって形成される二次元構造によって、表面プラズモンとして失われていた光のエネルギーを取り出すことができる。
【0071】
[透明電極]
本実施形態において透明電極11には、可視光を透過する透明導電体が用いられる。
透明電極11を構成する透明導電体は、特に限定されず、透明導電材料として公知のものが使用できる。たとえばインジウム−スズ酸化物(Indium Tin Oxide(ITO))、インジウム−亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide(IZO))、酸化亜鉛(Zinc Oxide(ZnO))、亜鉛−スズ酸化物(Zinc Tin Oxide(ZTO))等が挙げられる。
透明電極11の厚さは、通常、50〜500nmである。
なお、有機発光ダイオード素子100を構成する各層の厚さは、分光エリプソメーター、接触式段差計、AFM等により測定できる。
【0072】
[有機発光層]
本発明における有機発光層12は、有機発光材料から構成される。
有機発光材料としては、たとえば、Tris[1−phenylisoquinoline−C2,N]iridium(III)(Ir(piq)3)、1,4−bis[4−(N,N−diphenylaminostyrylbenzene)](DPAVB)、Bis[2−(2−benzoxazolyl)phenolato]Zinc(II)(ZnPBO)等の色素化合物が挙げられる。また、蛍光性色素化合物やりん光発光性材料を他の物質(ホスト材料)にドープしたものを用いてもよい。この場合、ホスト材料としては、ホール輸送材料、電子輸送材料等が挙げられる。
【0073】
[ホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層および電子注入層]
また本発明における有機発光ダイオード素子100は、ホール注入層12a、ホール輸送層12b、電子輸送層12cおよび電子注入層12dを備えてもよい。
ホール注入層12a、ホール輸送層12b、電子輸送層12cおよび電子注入層12dを構成する材質としては、それぞれ、有機材料が一般的に用いられる。
たとえばホール注入層12aを構成する材質(ホール注入材料)としては、たとえば、4,4’,4”−tris(N,N−2−naphthylphenylamino)triphenylamine(2−TNATA)等の化合物などが挙げられる。
ホール輸送層12bを構成する材質(ホール輸送材料)としては、たとえば、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(1−ナフチル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(NPD)、銅フタロシアニン(CuPc)、N,N’−Diphenyl−N,N’−di(m−tolyl)benzidine(TPD)等の芳香族アミン化合物などが挙げられる。
電子輸送層12cを構成する材質(電子輸送材料)及び電子注入層12dを構成する材質(電子注入材料)としては、たとえば、2,5−Bis(1−naphthyl)−1,3,4−oxadiazole(BND)、2−(4−tert−Butylphenyl)−5−(4−biphenylyl)−1,3,4−oxadiazole(PBD)等のオキサジオール系化合物、Tris(8−quinolinolato)aluminium(Alq)等の金属錯体系化合物などが挙げられる。
有機発光層12、ホール注入層12a、ホール輸送層12b、電子輸送層12cおよび電子注入層12dの全体の厚さは、通常、30〜500nmである。
【0074】
[金属反射電極]
金属反射電極13の材料としては、ほとんどの金属の単体または合金を用いることができるが、複素誘電率の実部が絶対値が大きな負の値を持つような材料が好ましい。かかる材料としては例えば、金、銀、銅、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム等の単体や、金と銀との合金、銀と銅との合金、真鍮等の合金が挙げられる。また金属反射電極13は、2層以上の積層構造であってもよい。
金属反射電極13の厚さは特に限定はされないが、例えば20〜2000nmであり、好ましくは50〜500nmである。20nmより薄いと反射率が低くなり正面輝度が低下し、また、500nmより厚いと成膜時の熱や放射線によるダメージ、膜応力による機械的ダメージが有機発光層12等の有機物からなる層に蓄積する。
【0075】
「有機薄膜太陽電池」
本発明の有機薄膜太陽電池は、本発明の半導体素子用基板10を備えることを特徴とする。半導体素子用基板上に形成する層構成は、公知の層構成及び材料を採用できる。
本発明の一実施形態にかかる有機薄膜太陽電池は、例えば、第1電極、ホール注入層、ホール輸送層、電子供与型有機半導体層、電子受容型有機半導体層、電子輸送層、第2電極を順に備える。ホール注入層、ホール輸送層および電子輸送層は必須の層ではないため、これらの層を備えなくてもよい。なお、電子供与型有機半導体層および電子受容型有機半導体層を併せて、以下「有機光電変換層」という。
下地層2を形成することで、半導体素子用基板10の表面平滑性を高くすることができる。そのため、半導体素子用基板10上に形成される第1電極、ホール注入層、ホール輸送層、電子供与型有機半導体層、電子受容型有機半導体層、電子輸送層、第2電極の結晶性及び均質性を高くすることができる。そのため、高い発電効率を実現することができる。
また下地層2に凹凸形状を形成した場合、第1電極、ホール注入層、ホール輸送層、電子供与型有機半導体層、電子受容型有機半導体層、電子輸送層、第2電極のすべての層の界面に、又はいずれか1つ以上の層の界面に、本発明の凹凸基板上の凹凸構造が反映された凹凸構造が形成されていることが好ましい。基板以外の層の界面にも凹凸構造を有することによって、外部から入射される光が各層で反射されることなく電子供与型有機半導体層及び電子受容型有機半導体層に効率的に供給されるため、発電効率を更に高めることができる。
【0076】
また中でも、反射面として第1電極または第2電極のいずれかが金属層からなる場合、金属層が本発明の凹凸基板上の凹凸構造を反映していることが好ましい。
金属層の光電変換層側の表面に凹凸構造があると、回折により伝播光が表面プラズモンに変換される。一般に有機薄膜太陽電池では、光電変換層は、当該金属層の近傍に存在している。そのため、表面プラズモンの周囲に発生する電磁場が光電変換層に届き、この電磁場が電力に変換される。すなわち、伝播光強度を表面プラズモンに変換し、さらに表面プラズモンを電力へエネルギー変換することができる。したがって、金属層の表面が凹凸構造を有すると、高い発電効率を維持することができる。