特許第6583417号(P6583417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6583417触媒粒子ならびにこれを用いてなる電極触媒、電解質膜−電極接合体および燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6583417
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】触媒粒子ならびにこれを用いてなる電極触媒、電解質膜−電極接合体および燃料電池
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/89 20060101AFI20190919BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20190919BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20190919BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20190919BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   B01J23/89 M
   B01J35/02 A
   B01J35/02 H
   H01M4/86 M
   H01M4/90 B
   H01M4/88 K
【請求項の数】12
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2017-536161(P2017-536161)
(86)(22)【出願日】2015年8月27日
(86)【国際出願番号】JP2015074309
(87)【国際公開番号】WO2017033342
(87)【国際公開日】20170302
【審査請求日】2017年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】在原 一樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕行
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−045614(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/129253(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/108162(WO,A1)
【文献】 特開2011−072981(JP,A)
【文献】 特表2014−508038(JP,A)
【文献】 特開2010−242179(JP,A)
【文献】 特開2006−128117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
H01M4/86−4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金原子および非白金金属原子からなる合金粒子であり、前記合金粒子は粒状をなす本体部と、前記本体部の外面よりも外側に向けて突出している複数の突状部と、を有し、
前記本体部は非白金金属および白金で形成され、前記突状部は白金を主成分として形成され、および
前記突状部のアスペクト比(直径/長さ)が0を超えて2以下であ
前記本体部が本体部の全モル量に対して60〜100モル%の割合で非白金金属で構成され、
前記突状部が突状部の全モル量に対して60〜100モル%の割合で白金で構成される、燃料電池の電極用の触媒粒子。
【請求項2】
前記合金粒子の直径が0nmを超えて100nm以下である、請求項1に記載の燃料電池の電極用の触媒粒子。
【請求項3】
前記突状部は、直径が0nmを超えて4nm以下であり、かつ長さが0nmを超えて10nm以下である、請求項1または2に記載の燃料電池の電極用の触媒粒子。
【請求項4】
前記非白金金属原子が、遷移金属原子である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池の電極用の触媒粒子。
【請求項5】
前記遷移金属原子が、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)および亜鉛(Zn)からなる群より選択される、請求項4に記載の燃料電池の電極用の触媒粒子。
【請求項6】
前記触媒粒子の組成が、白金原子1モルに対して、非白金金属原子が、0.3モル以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池の電極用の触媒粒子
【請求項7】
前記触媒粒子の組成が、白金原子1モルに対して、非白金金属原子が、0.1〜0.3モルである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池の電極用の触媒粒子
【請求項8】
前記触媒粒子の組成が、白金原子1モルに対して、非白金金属原子が、0.15〜0.3モルである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池の電極用の触媒粒子
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載の燃料電池の電極用の触媒粒子、および前記触媒粒子を担持する導電性担体を有する燃料電池用電極触媒。
【請求項10】
請求項に記載の電極触媒を含む燃料電池用電解質膜−電極接合体。
【請求項11】
請求項10に記載の燃料電池用電解質膜−電極接合体を用いてなる燃料電池。
【請求項12】
非白金金属前駆体を含む非白金金属前駆体溶液を調製し(工程(1));
吸着剤および還元剤を含む還元剤混合液を調製し(工程(2));
前記非白金金属前駆体溶液と前記還元剤混合液とを混合し、前記非白金金属前駆体を還元して、非白金金属粒子分散液を得(工程(3));
白金前駆体を含む白金前駆体溶液を調製し(工程(4));
前記非白金金属粒子分散液と前記白金前駆体溶液とを混合し、前記白金前駆体を還元して、非白金金属粒子表面に白金を成長させて突状部を形成する(工程(5))
ことを有し、
前記工程(3)において、前記還元剤混合液中の吸着剤の添加量が、前記非白金金属前駆体の1モル(金属換算)に対して、2.3モル以上である、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池の電極用の触媒粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒粒子ならびにこれを用いてなる電極触媒、電解質膜−電極接合体および燃料電池に関する。特に、本発明は、高活性を発揮できる触媒粒子ならびにこれを用いてなる電極触媒、電解質膜−電極接合体および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー・環境問題を背景とした社会的要求や動向と呼応して、常温でも作動して高出力密度が得られる燃料電池が電気自動車用電源、定置型電源として注目されている。燃料電池は、電極反応による生成物が原理的に水であり、地球環境への悪影響がほとんどないクリーンな発電システムである。特に、固体高分子形燃料電池(PEFC)は、比較的低温で作動することから、電気自動車用電源として期待されている。固体高分子形燃料電池の構成は、一般的には、電解質膜−電極接合体(MEA)を、セパレータで挟持した構造となっている。電解質膜−電極接合体は、高分子電解質膜が一対の電極触媒層およびガス拡散性の電極(ガス拡散層;GDL)により挟持されてなるものである。
【0003】
上記したような電解質膜−電極接合体を有する固体高分子形燃料電池では、固体高分子電解質膜を挟持する両電極(カソードおよびアノード)において、その極性に応じて以下に記す反応式で示される電極反応を進行させ、電気エネルギーを得ている。まず、アノード(負極)側に供給された燃料ガスに含まれる水素は、触媒成分により酸化され、プロトンおよび電子となる(2H→4H+4e:反応1)。次に、生成したプロトンは、電極触媒層に含まれる固体高分子電解質、さらに電極触媒層と接触している固体高分子電解質膜を通り、カソード(正極)側電極触媒層に達する。また、アノード側電極触媒層で生成した電子は、電極触媒層を構成している導電性担体、さらに電極触媒層の固体高分子電解質膜と異なる側に接触しているガス拡散層、セパレータおよび外部回路を通してカソード側電極触媒層に達する。そして、カソード側電極触媒層に達したプロトンおよび電子はカソード側に供給されている酸化剤ガスに含まれる酸素と反応し水を生成する(O+4H+4e→2HO:反応2)。燃料電池では、上述した電気化学的反応を通して、電気を外部に取り出すことが可能となる。
【0004】
発電性能を向上させることを目的として、例えば、特許文献1では、中心部より放射状に樹枝状部分が伸長した金平糖形状を有する金属ナノ粒子が報告されている。特許文献1によると、熱的に安定な粒子径を有しながら、比表面積が増加することができるため、触媒機能を向上できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−26665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の金属ナノ粒子は、所望の活性を達成しようとするために必要とされる金属(特に白金)量を依然として多く必要とする。このため、特許文献1に記載の金属ナノ粒子は、触媒として必要とされる活性が十分であるとはいえない。
【0007】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、高活性を発揮できる触媒粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、金平糖形状を有する触媒粒子のうち、反応に主に寄与する突状部を活性の高い白金で実質的に形成することによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る触媒粒子を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池の基本構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の触媒粒子は、白金原子および非白金金属原子からなる合金粒子であり、前記合金粒子は粒状をなす本体部と、前記本体部の外面よりも外側に向けて突出している複数の突状部と、を有する。ここで、前記本体部は非白金金属および白金で形成され、前記突状部は白金を主成分として形成され、および前記突状部のアスペクト比(直径/長さ)が0を超えて2以下である。上記構成によると、触媒の活性を向上できる。
【0011】
本明細書において、「粒状をなす本体部」を、「本発明に係る本体部」または単に「本体部」とも称する。同様にして、「本体部の外面よりも外側に向けて突出している複数の突状部」を、「本発明に係る突状部」または単に「突状部」とも称する。
【0012】
従来、燃料電池用の触媒層には粒子状の触媒(特に白金粒子)が使用されていた。しかしながら、このような単純な球状構造では、比表面積が小さいため、活性(面積比活性、質量比活性)に劣るという課題があった。一方、上記特許文献1の金属ナノ粒子は金平糖形状であるため、単純な球状構造に比して比表面積を増加することができる。このため、このような金属ナノ粒子を担体に担持した触媒は、組成の同じ単純な球状構造の金属粒子に比べると、活性、特に質量比活性を向上できる。特許文献1の実施例では、金平糖形状の金属ナノ粒子を白金で形成している。しかし、このような金平糖形状の金属ナノ粒子では、粒状の中心部は反応ガスとあまり接触しないため、反応への寄与が小さい。ここで、白金は、触媒活性は非常に高く、通常、電極触媒の触媒成分として使用されているが、非常に高価であり、資源的にも稀少な金属である。このため、可能な限り白金の利用率を高める必要があるが、上記特許文献1に記載の金属ナノ粒子をもっても、白金を有効利用しているとはいいがたく、活性、特に質量比活性が十分であるといえなかった。また、特許文献1によると、白金と他の金属との合金化させた金属ナノ粒子も製造できることが記載されている(段落「0026」)。しかし、当該方法をもってしても、反応への寄与が小さい中心部に白金が使用されているため、白金を有効利用しているとはいいがたく、活性、特に質量比活性が十分であるといえなかった。このため、白金の有効利用率を高め、活性(面積比活性、質量比活性)が向上した触媒粒子の開発が希求されていた。
【0013】
これに対して、本発明の触媒粒子は、
(a)白金原子および非白金金属原子からなる合金粒子であり;
(b)合金粒子は粒状をなす本体部と、前記本体部の外面よりも外側に向けて突出している複数の突状部と、を有し;
(c)前記本体部は非白金金属および白金で形成され、前記突状部は白金を主成分として形成され;および
(d)前記突状部のアスペクト比(直径/長さ)が0を超えて2以下である、
ことを特徴とする。
【0014】
上記構成(a)、(b)及び(c)によると、本発明に係る触媒(合金)粒子は、非白金金属および白金から形成される本体部及び白金から実質的に形成される突状部から構成される。上記構成(b)及び(c)によると、反応寄与率の低い本体部は白金に加えて触媒活性が相対的に低い非白金金属を含むよう構成する一方で、反応ガスと接触し、反応寄与率の高い突状部を触媒活性が高い白金で主に構成する。このため、白金で形成する触媒粒子や上記特許文献1に記載の金属粒子に比して、白金の利用率を高め、同じ活性を達成するために必要とされる白金量を低減することができる。また、上記構成により、高活性を示す結晶面を多く露出できる。また、触媒粒子を金平糖様構造とすることで、圧縮応力が作用して、白金間距離が短縮する。このため、活性(質量比活性および面積比活性)、特に面積比活性を向上させることができる。つまり、電極触媒の活性が向上し、触媒粒子に占める白金含有量を低減した白金合金系触媒を提供することができる。上記構成(d)によると、触媒粒子表面のラフネスが増加するため、反応に有効に寄与できる面積が増加する。このため、活性、特に面積比活性を向上できる。また、触媒粒子の比表面積が増大するため、活性、特に質量比活性をも向上できる。
【0015】
したがって、本発明の触媒粒子は、少ない白金含有量であっても、高い活性(質量比活性および面積比活性)を発揮できる。このため、本発明の触媒粒子を用いた電極触媒、当該電極触媒を触媒層に有する膜電極接合体および燃料電池は、発電性能に優れる。
【0016】
また、上記構造をとる触媒(合金)粒子は、その構造により、触媒粒子表面には白金が主として存在している(白金が露出している)。このため、触媒粒子は、溶出耐性が高く、酸性条件下、例えば、強酸性の電解質に接触した状態であっても、非白金金属の連鎖的溶出を抑制・防止できる。ゆえに、本発明の触媒粒子は、非白金金属原子による効果を長期間にわたって発揮できる。
【0017】
したがって、本発明の触媒粒子は、耐久性にも優れ、高い活性(質量比活性および面積比活性)を長期間維持できる。このため、本発明の触媒粒子を用いた電極触媒、当該電極触媒を触媒層に有する膜電極接合体および燃料電池は、耐久性に優れる。
【0018】
なお、本発明は、上記メカニズムによって限定されるものではない。
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0020】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の触媒粒子の一実施形態、並びにこれを使用した電極、電解質膜−電極接合体(MEA)および燃料電池の一実施形態を詳細に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。なお、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。また、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明した場合では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
【0022】
[触媒粒子]
本発明の触媒粒子は、下記構成を有する:
(a)白金原子および非白金金属原子からなる合金粒子であり;
(b)合金粒子は粒状をなす本体部と、前記本体部の外面よりも外側に向けて突出している複数の突状部と、を有し;
(c)前記本体部は非白金金属および白金で形成され、前記突状部は白金を主成分として形成され;および
(d)前記突状部のアスペクト比(直径/長さ)が0を超えて2以下である。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る触媒粒子を模式的に示す断面図である。図1に示されるように、本発明に係る触媒粒子20は、本体部21及び複数の突状部22を有し、好ましくは本体部21及び複数の突状部22から構成される。本体部21は、粒状(球状)構造を有する(構成(b))。また、本体部21は、非白金金属および白金から構成される(構成(c))。ここで、本体部21は、非白金金属および白金から構成される限り、本体部全体が実質的に均一の組成を有する、組成の異なる部分から構成されるなど、いずれの構造をとってもよい。好ましくは、本体部は、少なくとも非白金金属を主成分として形成される部分を有する。これにより、白金の利用率をより高め、同じ活性を達成するために必要とされる白金量をより低減することができる。本発明の一実施形態によると、本体部の中心部分は非白金金属で形成される。このため、本発明の好ましい実施形態によると、本体部は、非白金金属を主成分として形成される中心部(コア部)を有する。また、上記形態において、突状部と接する本体部表面層は非白金金属および白金が均一に混ざり合った固溶体の状態であってもよい。このため、本発明のより好ましい実施形態によると、本体部は、非白金金属を主成分として形成される中心部(コア部)ならびに当該中心部(コア部)を被覆しかつ非白金金属及び白金から構成される外殻部(シェル部)から構成される。当該構成をとることによって、本体部中心は溶出しやすい非白金金属で実質的に構成され、かつ触媒粒子表面には溶出しにくい白金がより選択的に存在する(より多くの白金が露出している)。このため、触媒粒子は、溶出耐性をより向上し、酸性条件下、例えば、強酸性の電解質に接触した状態であっても、非白金金属の連鎖的溶出をより有効に抑制・防止できる(耐久性をより向上できる)。ここで、「本体部または中心部(コア部)が非白金金属を主成分として形成される」とは、本体部または中心部(コア部)が全モル量に対して50モル%を超えて(上限:100モル%)の割合で非白金金属で構成されることを意味する。また、本体部が本体部の全モル量に対して60モル%以上(上限:100モル%)の割合で非白金金属で構成されることが好ましい。なお、本体部に非白金金属が占める割合は、TEM−EDX等による各粒子内の組成分布によって確認できる。なお、上記より好ましい形態において、外殻部(シェル部)の組成は、特に制限されず、触媒粒子の製造条件(例えば、非白金金属や白金の添加量など)によって適切に調整できる。
【0024】
突状部22は、本体部21の外面よりも外側に向けて突出している(構成(b))。また、突状部22は、白金を主成分として形成される(構成(c))。ここで、「突状部は、白金を主成分として形成される」とは、突状部が突状部の全モル量に対して50モル%を超えて(上限:100モル%)の割合で白金で構成されることを意味する。また、突状部が突状部の全モル量に対して60モル%以上(上限:100モル%)の割合で白金で構成されることが好ましい。なお、突状部に白金が占める割合は、TEM−EDX等による各粒子内の組成分布によって確認できる。
【0025】
また、突状部22に関しては、突状部のアスペクト比(直径/長さ)が0を超えて2以下である(構成(d))。このような構成により、触媒粒子表面のラフネスが増加するため、反応に有効に寄与できる面積、すなわち触媒粒子の比表面積が大きくなる。このため、活性、特に質量比活性を向上できる。また、このような構成により、高活性を示す結晶面を多く露出できる。また、触媒粒子を金平糖様構造とすることで、圧縮応力が作用して、白金間距離が短縮する。このため、活性、特に面積比活性を向上させることができる。逆に、突状部のアスペクト比が2を超える場合には、触媒粒子が球状に近くなり、比表面積を大きくとれる効果が小さくなり、また高活性を示す結晶面の露出が少なくなり、さらに圧縮応力が作用しにくくなるため白金間距離が短縮しにくくなり、好ましくない。比表面積の増大、高活性を示す結晶面の露出、圧縮応力による白金間距離の短縮などを考慮すると、突状部のアスペクト比は、0.1〜2であることが好ましく、0.2〜2であることがより好ましい。なお、突状部は複数存在するが、これらのすべてが上記アスペクト比を満足する必要はない。しかし、突状部の全本数のうち、好ましくは60%以上、より好ましく80%以上、特に好ましくすべて(100%)が上記アスペクト比を満足する。
【0026】
突状部の大きさは、アスペクト比が本発明に係る範囲に含まれるものであれば、特に制限されない。比表面積の増大、高活性を示す結晶面の露出、圧縮応力による白金間距離の短縮などを考慮すると、突状部の直径が、好ましくは0nmを超えて5nm以下であり、より好ましくは0nmを超えて4nm以下、特に好ましくは1.5〜4nmである。また、比表面積の増大、高活性を示す結晶面の露出、圧縮応力による白金間距離の短縮などを考慮すると、突状部の長さが、0nmを超えて10nm以下であり、より好ましくは2〜8nmである。なお、突状部は複数存在するが、これらのすべてが上記大きさ(突状部の直径または長さ)を満足する必要はない。しかし、突状部の全本数のうち、好ましくは60%以上、より好ましく80%以上、特に好ましくすべて(100%)が上記大きさ(突状部の直径または長さ)を満足する。
【0027】
本体部の大きさも、アスペクト比が本発明に係る範囲に含まれるものであれば、特に制限されない。本体部の直径が、好ましくは3〜40nm以下であり、より好ましくは5〜30nmである。
【0028】
ここで、突状部のアスペクト比は、突状部の直径を突状部の長さで除した割合(=突状部の直径/突状部の長さ)であり、下記により定義・決定される。すなわち、上述したように、触媒粒子は、本体部及び突状部から構成されるが、この際、本体部及び突状部は、本体部21と突状部22との境界(図1中の点線)に対して定義される。すなわち、本体部は上記境界に対して中心部側の領域(図1中の点線の内部)を意図し、突状部は上記境界に対して外方向の領域(図1中の点線より外側の部分)を意図する。この際、上記「本体部21と突状部22との境界(図1中の点線)」は、隣り合う突状部の間の底部を結んだ線に基づいて求められた近似円とする。ここで、近似円は、測定点の座標から最小二乗法により求められる。突状部の長さは、突状部の頂点から上記近似円におろした垂線の長さ(図1中の「L22」)である。突状部の直径は、突状部の最大直径(図1中の「R22」)である。また、本体部の直径は、上記近似円の最大(図1中の「R21」)である。上記突状部の直径(図1中の「R22」)及び長さ(図1中の「L22」)、ならびに本体部の直径(図1中の「R21」)は、それぞれ、公知の方法によって測定できるが、本明細書では、透過型電子顕微鏡(TEM)によって測定された値を採用する。
【0029】
触媒(合金)粒子の大きさは、特に制限されず、上記本体部や突状部の大きさを満たすような大きさであることが好ましい。具体的には、触媒(合金)粒子の直径は、好ましくは0nmを超えて100nm以下であり、より好ましくは6nmを超えて60nm以下であり、特に好ましくは10〜50nmである。このような大きさであれば、触媒(合金)粒子は、より高い活性(質量比活性および面積比活性)を発揮できる。なお、触媒(合金)粒子の大きさが均一でない場合には、触媒(合金)粒子の直径は触媒(合金)粒子の最大径(図1中の「R20」)とする。
【0030】
また、触媒粒子は、白金原子および非白金金属原子からなる合金粒子である(構成(a))。本発明に係る合金粒子は、粒子全体が白金原子および非白金金属原子からなる合金で構成されていることを意図するものではなく、少なくとも一部が白金原子および非白金金属原子からなる合金で構成されることを意図する。好ましい実施形態では、触媒粒子では、本体部が非白金金属を主成分として形成され、突状部が白金を主成分として形成され、本体部と突状部との境界付近が白金原子と非白金金属原子との合金を主成分として形成される。本明細書において、「合金」とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。本発明の触媒粒子は、その合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがある。本発明では、触媒粒子は、いずれの形態であってもよいが、少なくとも白金原子および非白金原子が金属間化合物を形成しているものを含む。
【0031】
上記非白金金属原子は、特に制限されないが、触媒活性、本発明に係る構造(特に本体部や突状部)の形成しやすさなどの観点から、遷移金属原子であることが好ましい。ここで、遷移金属原子とは、第3族元素から第12族元素を指し、遷移金属原子の種類もまた、特に制限されない。触媒活性、突状部の形成しやすさなどの観点から、遷移金属原子は、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)および亜鉛(Zn)からなる群より選択されることが好ましい。遷移金属原子は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)であることがより好ましい。上記遷移金属原子は、白金(Pt)と金属間化合物を形成しやすいため、白金の使用量を低減しつつも、活性(質量比活性および面積比活性)をより向上できる。なお、上記遷移金属原子は、単独で白金と合金化されても、あるいは2種以上が白金と合金化されても、いずれでもよいが、単独で白金と合金化されることが好ましい。
【0032】
触媒粒子の組成もまた、特に制限されない。触媒活性、突状部の形成しやすさなどの観点から、触媒粒子の組成は、白金原子1モルに対して、非白金金属原子が、0.1〜1モルであることが好ましく、0.1〜0.5モルであることがより好ましく、0.15〜0.3モルであることが特に好ましい。このような組成であれば、触媒粒子は、高い活性を発揮・維持できる。なお、触媒粒子の組成(触媒粒子中の各金属原子の含有量)は、誘導結合プラズマ発光分析(ICP atomic emission spectrometry)や誘導結合プラズマ質量分析(ICP mass spectrometry)、蛍光X線分析(XRF)等の、従来公知の方法によって決定できる。
【0033】
[触媒粒子の製造方法]
上記触媒粒子の製造方法は、下記構成(a)〜(d)を有する触媒粒子を製造できる方法であれば、特に限定されるものではない:
(a)白金原子および非白金金属原子からなる合金粒子であり;
(b)合金粒子は粒状をなす本体部と、前記本体部の外面よりも外側に向けて突出している複数の突状部と、を有し;
(c)前記本体部は非白金金属および白金で形成され、前記突状部は白金を主成分として形成され;および
(d)前記突状部のアスペクト比(直径/長さ)が0を超えて2以下である。
【0034】
好ましい実施形態によると、
非白金金属前駆体を含む非白金金属前駆体溶液を調製し(工程(1));
吸着剤および還元剤を含む還元剤混合液を調製し(工程(2));
前記非白金金属前駆体溶液と前記還元剤混合液とを混合し、前記非白金金属前駆体を還元して、非白金金属粒子分散液を得(工程(3));
白金前駆体を含む白金前駆体溶液を調製し(工程(4));
前記非白金金属粒子分散液と前記白金前駆体溶液とを混合し、前記白金前駆体を還元して、非白金金属粒子表面に白金が成長して突状部を形成する(工程(5))
ことによって、本発明に係る触媒粒子が製造できる。
【0035】
以下、上記実施形態の製造方法の各工程について詳述する。しかしながら、本発明は、下記方法に限定されるものではない。
【0036】
(工程(1))
本工程では、非白金金属前駆体を含む非白金金属前駆体溶液を調製する。
【0037】
ここで、非白金金属前駆体を構成する非白金金属は、特に制限されないが、上記非白金金属原子における記載と同様であるため、ここでは説明を省略する。また、非白金金属前駆体の形態は、特に制限されないが、非白金金属塩及び非白金金属錯体が好ましく使用できる。より具体的には、非白金金属の、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、アミン塩、炭酸塩、重炭酸塩、臭化物及び塩化物などのハロゲン化物、亜硝酸塩、シュウ酸塩などの無機塩類、スルファミン酸塩、ギ酸塩などのカルボン酸塩、水酸化物、アルコキサイド、酸化物、アンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、ヒドロキシ錯体などを用いることができる。つまり、非白金金属が、純水などの溶媒中で金属イオンになれる化合物が好ましく挙げられる。これらのうち、非白金金属の塩としては、ハロゲン化物(特に塩化物)、硫酸塩、硝酸塩、スルファミン酸塩がより好ましく、硫酸塩、スルファミン酸塩が特に好ましい。なお、上記非白金金属前駆体は、1種を単独で使用してもあるいは2種以上の混合物として使用されてもよい。また、非白金金属前駆体は、水和物の形態であってもよい。
【0038】
上記非白金金属前駆体溶液の調製に使用される溶媒は、特に制限されず、使用される非白金金属前駆体の種類によって適宜選択される。なお、上記非白金金属前駆体溶液の形態は特に制限されず、溶液、分散液および懸濁液を包含する。均一に混合できるという観点から、非白金金属前駆体溶液は溶液の形態であることが好ましい。具体的には、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の有機溶媒、酸、アルカリなどが挙げられる。これらのうち、非白金金属のイオン化合物を十分に溶解する観点から、水が好ましく、純水または超純水を用いることが特に好ましい。上記溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0039】
非白金金属前駆体溶液における非白金金属前駆体の濃度は、特に制限されないが、金属換算で0.01M(mol/L)以上であることが好ましく、0.02M(mol/L)以上であることがより好ましく、0.03M(mol/L)以上であることが特に好ましい。また、非白金金属前駆体溶液における非白金金属前駆体の濃度の上限もまた特に制限されないが、金属換算で0.10M(mol/L)以下であることが好ましく、0.09M(mol/L)以下であることがより好ましく、0.08M(mol/L)以下であることが特に好ましい。上記したような濃度であれば、本体部の大きさを上記したような範囲により効率よく制御できる。
【0040】
(工程(2))
本工程では、吸着剤および還元剤を含む還元剤混合液を調製する。ここで、吸着剤とは、下記工程(3)において、非白金金属前駆体が還元されて非白金金属粒子となる際に非白金金属粒子表面に吸着して、下記工程(5)での白金イオンとの置換反応を阻害する化合物を指す。吸着剤はまた、凝集を防止するように作用する。また、還元剤とは、非白金金属前駆体(好適には遷移金属前駆体)及び白金前駆体を還元しうる化合物である。
【0041】
本工程で使用できる吸着剤としては、特に限定されるものではないが、クエン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム等のクエン酸塩;クエン酸三ナトリウム二水和物などのクエン酸塩水和物;クエン酸;ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、キトサン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸エステルなどの水溶性高分子;デカンチオール、ヘキサンチオールなどの硫黄化合物;セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムクロリドなどの脂肪族4級アミン塩などが挙げられる。これらのうち、クエン酸塩またはその水和物であることが好ましく、クエン酸三ナトリウム二水和物であることがより好ましい。これらの吸着剤は、非白金金属前駆体が還元されて非白金金属粒子となる際に非白金金属粒子表面により選択的にかつより均一に吸着して、下記工程(5)での白金イオンとの置換反応をより有効に阻害する。このため、下記工程(5)で、突状部が非白金金属粒子表面により選択的にかつより均一に形成できる。また、上記吸着剤は、凝集防止効果に優れ、また緩衝剤として作用して反応時のpH変化を最小限にでき、反応が均一に進行しやすくすることもできる。
【0042】
なお、上記吸着剤は、1種を単独で使用してもあるいは2種以上の混合物として使用してもよい。
【0043】
また、本工程で使用できる還元剤は、特に制限されないが、30℃以下、より好ましくは20℃以下で還元作用を示す還元剤であることが好ましい。このような還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、水素化ホウ素カルシウム(Ca(BH)、水素化ホウ素リチウム(LiBH)、水素化ホウ素アルミニウム(Al(BH)、水素化ホウ素マグネシウム(Mg(BH)などの水素化ホウ素化合物;エタノール、メタノール、プロパノールなどの低級アルコール;ギ酸、ギ酸ナトリウムやギ酸カリウムなどのギ酸塩;チオ硫酸ナトリウム、およびヒドラジン(N)などが使用できる。これらは水和物の形態になっていてもよい。また、上記還元剤は、1種を単独で使用してもあるいは2種以上の混合物として使用してもよい。なお、クエン酸塩、例えば、クエン酸三ナトリウム二水和物は、白金の還元剤ではあるが、遷移金属原子を還元させることはできないため、本発明でいう還元剤には含まれない。中でも、還元作用の点から、還元剤として水素化ホウ素化合物を用いることが好ましく、水素化ホウ素ナトリウムを用いることがより好ましい。特にクエン酸塩またはその水和物を吸着剤として使用する場合には、水素化ホウ素化合物を用いると、水溶液が弱アルカリ性になり、水素化ホウ素化合物の還元能力の寿命を延ばすという役割も果たせるため、好ましい。
【0044】
上記還元剤および吸着剤を含む混合液の調製に使用される溶媒は、特に制限されず、使用される還元剤および吸着剤の種類によって適宜選択される。なお、上記混合液の形態は特に制限されず、溶液、分散液および懸濁液を包含する。均一に混合できるという観点から、混合液は溶液の形態であることが好ましい。また、還元剤を溶液状態で非白金金属前駆体溶液に添加することで、粉末状の還元剤を添加するよりも混合溶液内で反応速度が均一となり、粒子径が均一になりやすいため好ましい。同様にして、吸着剤を溶液状態で非白金金属前駆体溶液に添加することで、粉末状の還元剤を添加するよりも混合溶液内で反応速度が均一となり、非白金金属粒子表面により選択的にかつより均一に吸着できるため好ましい。
【0045】
溶媒としては、具体的には、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の有機溶媒、酸、アルカリなどが挙げられる。これらのうち、還元剤および吸着剤を十分に溶解する観点から、水が好ましく、純水または超純水を用いることが特に好ましい。上記溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用してもよい。なお、還元剤混合液における吸着剤や還元剤の濃度は、特に制限されず、吸着剤及び還元剤が下記工程(3)に記載される好ましい添加量となるように適宜決定されればよい。例えば、還元剤混合液における吸着剤の濃度は、好ましくは0.1〜5g/溶媒100mLであり、より好ましくは0.2〜3g/溶媒100mLである。また、還元剤混合液における還元剤の濃度は、好ましくは0.3〜10g/溶媒100mLであり、より好ましくは0.5〜5g/溶媒100mLである。
【0046】
還元剤および吸着剤を含む還元剤混合液の調製方法は、特に制限されない。例えば、吸着剤を溶媒に添加した後、還元剤を添加する;還元剤を溶媒に添加した後、吸着剤を添加する;吸着剤および還元剤をそれぞれ別々に溶媒に溶解した後、これらを混合する;吸着剤および還元剤を一括して溶媒に添加する;のいずれの方法を使用してもよい。
【0047】
また、上記混合液は、均一に混合するために、撹拌してもよい。ここで、撹拌条件は、特に均一に混合できる条件であれば特に制限されない。例えば、スターラーやホモジナイザなどの適当な攪拌機を用いる、あるいは、超音波分散装置など超音波を印加することによって、均一に分散混合できる。また、撹拌時間としては分散が十分に行われるように適宜設定すればよく、通常、0.5〜60分であり、好ましくは1〜40分である。
【0048】
(工程(3))
本工程では、上記工程(1)で調製された非白金金属前駆体溶液と、上記工程(2)で調製された還元剤混合液とを混合し、前記非白金金属前駆体を還元して、非白金金属粒子分散液を得る。
【0049】
ここで、還元剤混合液と非白金金属前駆体溶液との混合方法(還元剤混合液と非白金金属前駆体溶液との混合液の調製方法)は、特に制限されない。例えば、還元剤混合液を非白金金属前駆体溶液に添加しても、非白金金属前駆体溶液を還元剤混合液に添加しても、または非白金金属前駆体溶液及び還元剤混合液を一括して添加しても、いずれでもよい。還元/吸着条件(例えば、還元速度、非白金金属粒子表面への吸着剤の吸着状態)を制御しやすいなどの観点から、還元剤混合液を非白金金属前駆体溶液に添加することが好ましい。また、添加方法もまた特に制限されない。例えば、還元剤混合液を、非白金金属前駆体溶液に一括してまたは分割して添加してもよい。同様にして、非白金金属前駆体溶液を、還元剤混合液に一括してまたは分割して添加してもよい。
【0050】
また、還元剤混合液と非白金金属前駆体溶液との混合割合は、特に制限されず、所望の効果に応じて適宜選択される。
【0051】
例えば、還元剤混合液中の吸着剤の添加量は、非白金金属粒子への吸着剤の吸着状態の制御のしやすさ(ゆえに、後の工程での突状部の形成のしやすさ)、凝集防止の効果などを考慮して、適宜設定される。例えば、還元剤混合液中の吸着剤の添加量は、非白金金属前駆体の1モル(金属換算)に対して、2.3モル以上であることが好ましく、2.4モル以上であることがより好ましい。還元剤混合液中の吸着剤の添加量の上限は特に制限されないが、非白金金属前駆体の1モル(金属換算)に対して、10モル以下であることが好ましく、8モル以下であることがより好ましい。このように吸着剤が非白金金属に対して比較的多量に使用することによって、下記メカニズムにより、非白金金属粒子(本体部)表面に白金の突状部がより効率よく形成できる。なお、下記メカニズムは推定であり、本発明は下記推定によって限定されない。すなわち、下記工程(5)で、非白金金属粒子分散液と白金前駆体溶液とを混合すると、白金前駆体溶液中でイオン形態の白金前駆体は、非白金金属粒子を構成する金属のイオン化を誘導し、白金前駆体自身は還元されて白金となり、非白金金属粒子を構成する非白金金属を白金に置換する。上記置換反応によって、非白金金属粒子表面に白金が析出する。一方、吸着剤が存在する(吸着した)非白金金属粒子部分は、白金イオンと接触しないため、吸着剤が非白金金属のイオン化を阻害する。このため、吸着剤が存在する(吸着した)非白金金属粒子表面では、溶液中で非白金金属のイオン化が起こりにくい(非白金金属が溶出しにくい)。すなわち、本工程で吸着剤が吸着した非白金金属粒子表面では、白金は析出しにくいまたは析出しない。したがって、上記したような量で吸着剤を表面に過剰に存在させることにより、非白金金属と白金イオンとの置換反応(非白金金属と白金との合金化)が局部的に進行して、白金が突状に成長する。ゆえに、突状部(金平糖状の構造)が効率よく形成できる。
【0052】
また、還元剤混合液中の還元剤の添加量は、非白金前駆体を効率よく還元できる量であれば特に制限されない。例えば、還元剤混合液中の還元剤の添加量は、非白金金属前駆体の1モル(金属換算)に対して、3モル以上であることが好ましく、5モル以上であることがより好ましい。還元剤混合液中の吸着剤の添加量の上限は特に制限されないが、非白金金属前駆体の1モル(金属換算)に対して、20モル以下であることが好ましく、10モル以下であることがより好ましい。このような量であれば、非白金前駆体をより効率よく還元できる。
【0053】
還元剤混合液と非白金金属前駆体溶液との混合は、均一に混合するために、撹拌することが好ましい。撹拌処理によって、非白金金属前駆体の還元剤による還元反応がより均一にかつより効率よく進行するため、未還元の非白金金属前駆体をより有効に抑制できる。また、非白金金属粒子表面に吸着剤がより均一に分布するため、下記工程(5)で突状部がより局部的にかつより均一に形成できる。ここで、撹拌条件は、特に均一に混合できる条件であれば特に制限されない。例えば、スターラー(例えば、マグネチックスターラー)やホモジナイザ(例えば、超音波ホモジナイザ)などの適当な攪拌機を用いる、あるいは、超音波分散装置など超音波を印加することによって、均一に分散混合できる。また、混合条件は、還元剤、吸着剤及び非白金金属前駆体が均一に分散できるような条件であれば特に制限されない。具体的には、スターラー(例えば、マグネチックスターラー)を使用する場合には、撹拌速度は、好ましくは100〜600rpm、より好ましくは200〜400rpmである。また、撹拌温度は、好ましくは10〜50℃、より好ましくは15〜40℃である。また、撹拌時間は、好ましくは5分〜2時間であり、より好ましくは10分〜1時間である。なお、上記混合は、例えば、スターラー(例えば、マグネチックスターラー)及びホモジナイザ(例えば、超音波ホモジナイザ)など、2種以上を適宜組み合わせてもよい。また、この際、2種以上の操作を同時にまたは順次行ってもよい。
【0054】
(工程(4))
本工程では、白金前駆体を含む白金前駆体溶液を調製する。
【0055】
ここで、白金前駆体としては、特に制限されないが、白金塩および白金錯体が使用できる。より具体的には、塩化白金酸(典型的にはその六水和物;H[PtCl]・6HO)、ジニトロジアンミン白金等の硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、アミン、テトラアンミン白金およびヘキサアンミン白金等のアンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、ヒドロキシ錯体、炭酸塩、重炭酸塩、臭化物や塩化白金等のハロゲン化物、亜硝酸塩、シュウ酸などの無機塩類、スルファミン酸塩やギ酸塩などのカルボン酸塩、水酸化物、アルコキサイドなどを使用することができる。なお、上記白金前駆体は、1種を単独で使用してもあるいは2種以上の混合物として使用してもよい。
【0056】
上記白金前駆体溶液の調製に使用される溶媒は、特に制限されず、使用される非白金金属前駆体の種類によって適宜選択される。なお、上記白金前駆体溶液の形態は特に制限されず、溶液、分散液および懸濁液を包含する。均一に混合できるという観点から、白金前駆体溶液は溶液の形態であることが好ましい。具体的には、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の有機溶媒、酸、アルカリなどが挙げられる。これらのうち、非白金金属のイオン化合物を十分に溶解する観点から、水が好ましく、純水または超純水を用いることが特に好ましい。上記溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0057】
白金前駆体溶液における白金前駆体の濃度は、特に制限されないが、上記したような触媒粒子組成になるような割合であることが好ましい。例えば、白金前駆体溶液における白金前駆体の濃度は、金属(Pt)換算で0.1M(mol/L)以上であることが好ましく、0.3M(mol/L)以上であることがより好ましく、0.5(mol/L)以上であることが特に好ましい。また、白金前駆体溶液における白金前駆体の濃度の上限もまた特に制限されないが、金属換算で7M(mol/L)以下であることが好ましく、5M(mol/L)以下であることがより好ましく、3M(mol/L)以下であることが特に好ましい。上記したような濃度であれば、本体部表面に所望の大きさの突状部をより効率よく形成できる。
【0058】
(工程(5))
本工程では、上記工程(3)で調製された非白金金属粒子分散液と上記工程(4)で調製された白金前駆体溶液とを混合し、前記白金前駆体を還元して、非白金金属粒子表面に白金が成長して突状部を形成する。
【0059】
本工程では、非白金金属粒子分散液と白金前駆体溶液とを混合すると、白金前駆体溶液中でイオン形態の白金前駆体は、非白金金属粒子を構成する金属のイオン化を誘導し、白金前駆体自身は還元されて白金となり、非白金金属粒子を構成する非白金金属を白金に置換する。上記置換反応によって、非白金金属粒子表面に白金が析出する。一方、吸着剤が存在する(吸着した)非白金金属粒子部分は、白金イオンと接触しないため、吸着剤が上記非白金金属粒子のイオン化を阻害する。このため、吸着剤が存在する(吸着した)非白金金属粒子表面では、溶液中で非白金金属のイオン化が起こりにくい(非白金金属が溶出しにくい)。すなわち、本工程で吸着剤が吸着した非白金金属粒子表面では、白金は析出しにくいまたは析出しない。したがって、本工程では、還元剤及び吸着剤により、非白金金属と白金イオンとの置換反応(非白金金属と白金との合金化)および白金イオンの還元反応が局部的に進行して、白金が突状に成長(析出)する。ゆえに、突状部(金平糖状の構造)が効率よく形成できる。また、上記置換反応が生じる非白金金属粒子表面では、非白金金属および白金が均一に混ざり合った固溶体が形成する。ゆえに、本工程により、非白金金属を主成分として形成される中心部(コア部)を被覆するように、非白金金属及び白金から構成される外殻部(シェル部)が形成する。
【0060】
ここで、非白金金属粒子分散液と白金前駆体溶液との混合方法(非白金金属粒子分散液と白金前駆体溶液との混合液の調製方法)は、特に制限されない。例えば、非白金金属粒子分散液を白金前駆体溶液に添加しても、または白金前駆体溶液を非白金金属粒子分散液に添加してもいずれでもよいが、白金前駆体溶液を非白金金属粒子分散液に添加することが好ましい。これにより、非白金金属と白金イオンとの置換反応(非白金金属と白金との合金化)状態(例えば、速度)をより有効に制御して、所望の突状部の大きさ(アスペクト比、直径、長さ)をより効率よく達成できる。また、添加方法もまた特に制限されない。例えば、白金前駆体溶液を、非白金金属粒子分散液に一括してまたは分割して添加してもよい。同様にして、非白金金属粒子分散液を、白金前駆体溶液に一括してまたは分割して添加してもよい。
【0061】
また、非白金金属粒子分散液と白金前駆体溶液との混合割合は、特に制限されないが、上記したような触媒粒子の組成となるような割合であることが好ましい。
【0062】
非白金金属粒子分散液と白金前駆体溶液との混合条件は特に制限されない。例えば、混合温度は、好ましくは10〜50℃、より好ましくは15〜40℃である。また、非白金金属粒子分散液と白金前駆体溶液との混合は、攪拌せずに(単に添加することにより)行っても、または攪拌しながら混合してもよい。攪拌する際の、撹拌条件は、特に均一に混合できる条件であれば特に制限されない。例えば、スターラー(例えば、マグネチックスターラー)やホモジナイザ(例えば、超音波ホモジナイザ)などの適当な攪拌機を用いる、あるいは、超音波分散装置など超音波を印加することによって、均一に分散混合できる。また、混合条件は、還元剤、吸着剤及び非白金金属前駆体が均一に分散できるような条件であれば特に制限されない。具体的には、スターラー(例えば、マグネチックスターラー)を使用する場合には、撹拌速度は、好ましくは100〜600rpm、より好ましくは200〜400rpmである。また、撹拌温度は、好ましくは10〜50℃、より好ましくは15〜40℃である。また、撹拌時間は、好ましくは5分〜2時間であり、より好ましくは10分〜1時間である。なお、上記混合は、例えば、スターラー(例えば、マグネチックスターラー)及びホモジナイザ(例えば、超音波ホモジナイザ)など、2種以上を適宜組み合わせてもよい。また、この際、2種以上の操作を同時にまたは順次行ってもよい。
【0063】
上記により、触媒粒子が得られる。ここで、必要であれば、触媒粒子を、上記にて得られた分散液から単離してもよい。ここで、単離方法は、特に制限されず、触媒粒子を濾過し、乾燥すればよい。なお、必要であれば、触媒粒子を濾過した後に、洗浄(例えば、水洗)を行ってもよい。また、上記濾過ならびに必要であれば洗浄工程は、繰り返し行ってもよい。また、濾過または洗浄後、触媒粒子を乾燥してもよい。ここで、触媒粒子の乾燥は、空気中で行ってもよく、また減圧下で行ってもよい。また、乾燥温度は特に限定されないが、例えば、10〜100℃、好ましくは室温(25℃)〜80℃程度の範囲で行うことができる。また、乾燥時間もまた、特に限定されないが、例えば、1〜60時間、好ましくは5〜50時間程度の範囲で行うことができる。
【0064】
[触媒(電極触媒)]
上述したように、本発明に係る触媒粒子は、高活性な結晶面が多く露出しており、反応に有効に寄与できる面積が大きい。このため、触媒粒子は、活性(面積比活性、質量比活性)が高い。ゆえに、触媒粒子は好適には導電性担体に担持されて、電極触媒として使用できる。すなわち、本発明は、本発明の触媒粒子、および前記触媒粒子を担持する導電性担体を有する電極触媒をも提供する。本発明の電極触媒は、少ない白金含有量であっても、高い活性(面積比活性、質量比活性)を発揮・維持できる。
【0065】
導電性担体は、上述した触媒粒子を担持するための担体、および触媒粒子と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。導電性担体としては、触媒粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、集電体として十分な電子導電性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであるのが好ましい。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、実質的に炭素原子からなるとは、2〜3重量%程度以下の不純物の混入が許容されることを意味する。
【0066】
導電性担体としては、具体的には、アセチレンブラック、チャンネルブラック、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック(例えば、バルカン)、ランプブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック;ブラックパール;黒鉛化アセチレンブラック;黒鉛化チャンネルブラック;黒鉛化オイルファーネスブラック;黒鉛化ガスファーネスブラック;黒鉛化ランプブラック;黒鉛化サーマルブラック;黒鉛化ケッチェンブラック;黒鉛化ブラックパール;カーボンナノチューブ;カーボンナノファイバー;カーボンナノホーン;カーボンフィブリル;活性炭;コークス;天然黒鉛;人造黒鉛等のカーボン材料などを挙げることができる。また、導電性担体として、ナノサイズの帯状グラフェンが3次元状に規則的に連結した構造を有するゼオライト鋳型炭素(ZTC)も挙げることができる。
【0067】
導電性担体のBET比表面積は、触媒粒子を高分散担持させるのに十分な比表面積であればよいが、好ましくは10〜5000m/g、より好ましくは50〜2000m/gとするのがよい。このような比表面積であれば、導電性担体に十分な触媒粒子を担持(高分散)して、十分な発電性能を達成できる。なお、担体の「BET比表面積(m/g担体)」は、窒素吸着法により測定される。
【0068】
また、導電性担体の大きさは、特に限定されないが、担持の容易さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。なお、「担体の平均粒子径」は、X線回折(XRD)における担体粒子の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過型電子顕微鏡(TEM)により調べられる担体の粒子径の平均値として測定されうる。本明細書では、「担体の平均粒子径」は、統計上有意な数(例えば、少なくとも200個、好ましくは少なくとも300個)のサンプルについて透過型電子顕微鏡像より調べられる担体粒子の粒子径の平均値である。ここで、「粒子径」とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味するものとする。
【0069】
導電性担体は、表面上にラクトン基、水酸基、エーテル基、およびカルボニル基からなる群より選択される少なくとも一つ以上の官能基(以下、「特定の官能基」とも称する)を、総量として0.5μmol/m以上を有するカーボン担体であることが好ましい。より好ましくは表面上にラクトン基、水酸基、エーテル基、およびカルボニル基からなる群より選択される少なくとも一つ以上の官能基を、総量として0.8〜5μmol/mを有するカーボン担体である。かようなカーボン担体を用いることで、得られる触媒粒子の突状部のアスペクト比をより容易に制御し、活性(面積比活性、質量比活性)をより向上できる。これは、触媒粒子を得るための熱処理によっても合金粒子の凝集を抑制でき、担持されている触媒粒子全体の比表面積の低下を抑制できるためであると考えられる。
【0070】
ここで、官能基量の測定方法は、昇温脱離法により計測した値を採用する。昇温脱離法とは超高真空下で試料を等速昇温し、試料から放出されるガス成分(分子・原子)を四重極質量分析計でリアルタイム検出する手法である。ガス成分が放出される温度は、試料表面上でのその成分の吸着/化学結合状態に依存する、すなわち脱着/解離に大きなエネルギーを必要とする成分は、相対的に高い温度で検出される。カーボン上に形成された表面官能基は、その種類に応じて異なる温度でCOあるいはCOとして排出されることになる。COあるいはCOに対して得られた昇温脱離曲線をピーク分離し、各ピークの積分強度Tを測定し、積分強度Tから各官能基成分の量(μmol)を算出することができる。この量(μmol)から下記式により官能基量が算出される。
【0071】
【数1】
【0072】
各官能基の昇温による脱離ガスおよび温度は以下のとおりである;ラクトン基 CO(700℃)、水酸基 CO(650℃)、エーテル基 CO(700℃)、カルボニル基 CO(800℃)。
【0073】
また、本発明においては、下記装置および条件により測定された値を採用する。
【0074】
【化1】
【0075】
上記特定の官能基を有するカーボン担体は、市販されていてもまたは製造してもよい。後者の場合、特定の官能基を有するカーボン担体の製造方法としては特に限定されるものではないが、例えば、導電性担体として上記列挙したカーボン材料を酸性溶液に接触させた後、熱処理を行う(以下、「酸処理」とも称する);蒸気賦活処理;気相酸化処理(オゾン、フッ素ガス等);液相酸化処理(過マンガン酸、塩素酸、オゾン水等)などによって得ることができる。
【0076】
以下、好適な形態である酸処理について述べる。
【0077】
酸性溶液に用いられる酸としては特に限定されるものではないが、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸などを挙げることができる。中でも、表面官能基形成の点から、硫酸および硝酸の少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0078】
また、酸性溶液に接触させるカーボン材料としては、特に限定されるものではないが、比表面積が大きく、酸処理によっても安定であることから、カーボンブラックであることが好ましい。
【0079】
酸処理は、担体を酸性溶液に1回接触させる場合のみならず、複数回繰り返し行っても良い。また、複数回の酸処理を行う場合には、処理ごとに酸性溶液の種類を変更しても良い。酸性溶液の濃度は、カーボン材料、酸の種類などを考慮して適宜設定されるが、0.1〜10mol/Lとすることが好ましい。
【0080】
カーボン材料を酸性溶液に接触させる方法としては、酸性溶液にカーボン材料を混合することが好ましい。また、上記混合液は、均一に混合するために、撹拌することが好ましい。ここで、撹拌条件は、特に均一に混合できる条件であれば特に制限されない。例えば、スターラーやホモジナイザなどの適当な攪拌機を用いる、超音波分散装置など超音波を印加することによって、均一に分散混合できる。また、撹拌温度は、好ましくは5〜40℃である。また、撹拌時間としては分散が十分に行われるように適宜設定すればよく、通常、1〜60分であり、好ましくは3〜30分である。
【0081】
接触後の熱処理は、特定の官応基が上記導入量となるように適宜設定されるが、熱処理温度としては、20〜90℃が好ましく、60〜80℃がより好ましい。また、熱処理時間としては、30分〜10時間が好ましく、1時間〜4時間がより好ましい。上記熱処理は、攪拌しながら行ってもよい。攪拌する際の、撹拌条件は、熱処理が均等に進行できる条件であれば特に制限されない。例えば、スターラー(例えば、マグネチックスターラー)やホモジナイザ(例えば、超音波ホモジナイザ)などの適当な攪拌機を用いる、あるいは、超音波分散装置など超音波を印加することによって、均一に分散混合できる。また、スターラー(例えば、マグネチックスターラー)を使用する場合には、撹拌速度は、好ましくは100〜600rpm、より好ましくは200〜400rpmである。
【0082】
上記熱処理により、特定の官能基を有する導電性担体が得られる。ここで、必要であれば、この担体を単離してもよい。ここで、単離方法は、特に制限されず、担体を濾過し、乾燥すればよい。なお、必要であれば、担体を濾過した後に、洗浄(例えば、水洗)してもよい。また、上記濾過ならびに必要であれば洗浄工程は、繰り返し行ってもよい。また、濾過または洗浄後、担体を乾燥してもよい。ここで、担体の乾燥は、空気中で行ってもよく、また減圧下で行ってもよい。また、乾燥温度は特に限定されないが、例えば、10〜100℃、より好ましくは室温(25℃)〜80℃程度の範囲で行うことができる。また、乾燥時間もまた、特に限定されないが、例えば、1〜60時間、好ましくは5〜48時間である。
【0083】
なお、導電性担体が上記酸処理により特定の官能基を有する場合に、導電性担体のBET比表面積は、特に制限されないが、好ましくは10〜5000m/g、より好ましくは50〜2000m/gである。このようなBET比表面積であれば、適切な比表面積を確保して、導電性担体に十分な触媒粒子を担持(高分散)して、十分な発電性能を達成できる。また、この場合の導電性担体の大きさもまた、特に制限されないが、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。このような大きさであれば、適切な大きさを確保して、導電性担体に十分な触媒粒子を担持(高分散)して、十分な発電性能を達成できる。
【0084】
導電性担体に触媒粒子が担持された電極触媒において、触媒粒子の担持濃度(担持量)は、特に制限されないが、担体の全量に対して、2〜70重量%とすることが好ましい。担持濃度をこのような範囲にすることで、触媒粒子同士の凝集が抑制され、また、電極触媒層の厚さの増加を抑制できるため好ましい。より好ましくは5〜60重量%、さらにより好ましくは5重量%を超えて50重量%以下、特に好ましくは10〜45重量%である。触媒成分の担持量がかような範囲内の値であると、触媒担体上での触媒成分の分散度と触媒性能とのバランスが適切に制御されうる。なお、触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分析(ICP atomic emission spectrometry)や誘導結合プラズマ質量分析(ICP mass spectrometry)、蛍光X線分析(XRF)等の、従来公知の方法によって調べることができる。
【0085】
[触媒(電極触媒)の製造方法]
触媒(電極触媒)は、本発明の触媒粒子を使用する以外は公知の方法を用いて製造できる。例えば、上記[触媒粒子の製造方法]に記載の方法において、上記工程(3)で、非白金金属前駆体溶液及び還元剤混合液に加えて、導電性担体(カーボン担体)を混合して、触媒(電極触媒)を製造してもよい(方法(i))。または、上記[触媒粒子の製造方法]に記載の方法に従って触媒粒子を製造した後、上記触媒粒子と導電性担体(カーボン担体)とを混合して、触媒(電極触媒)を製造してもよい(方法(ii))。以下では、方法(i)および方法(ii)を説明する。なお、本発明は、これらの方法によって限定されるものではなく、他の方法によって触媒(電極触媒)を製造してもよい。
【0086】
(方法(i))
本実施形態によると、上記工程(3)で、非白金金属前駆体溶液及び還元剤混合液に加えて、導電性担体(カーボン担体)を混合する以外は、上記[触媒粒子の製造方法]に記載の方法に従うことによって、触媒(電極触媒)を製造する。
【0087】
ここで、非白金金属前駆体溶液と導電性担体との混合比は、特に制限されないが、上記したような触媒粒子の担持濃度(担持量)となるような量であることが好ましい。
【0088】
非白金金属前駆体溶液、還元剤混合液および導電性担体(カーボン担体)の混合順序は特に制限されない。例えば、非白金金属前駆体溶液及び導電性担体を混合した後、還元剤混合液を添加する;非白金金属前駆体溶液及び還元剤混合液を混合した後、導電性担体を添加する;還元剤混合液及び導電性担体を混合した後、非白金金属前駆体溶液を添加する;非白金金属前駆体溶液、還元剤混合液及び導電性担体を一括してまたは分割しながら添加する、などいずれでもよい。好ましくは、非白金金属前駆体溶液及び導電性担体を混合した後、還元剤混合液を添加する。当該方法によると、非白金金属粒子表面への吸着剤の分布をより均一にすることができる。このため、後の工程(5)において、突状部がより均一に及びより位置選択的に形成できる。また、非白金金属前駆体の還元速度を適切に制御しやすく、所定の大きさの非白金金属粒子(本体部)をより効率よく形成できる。また、導電性担体上に非白金金属粒子の一部を担持できる。なお、導電性担体は、そのまま混合されても、または溶液の形態で添加されてもよい。
【0089】
また、非白金金属前駆体溶液と導電性担体とを混合した後、撹拌することが好ましい。これにより、非白金金属前駆体(非白金金属前駆体粒子)及び導電性担体を均一に混合するため、非白金金属粒子を導電性担体に高分散・担持することが可能である。また、上記撹拌処理によって、未還元の非白金金属前駆体の還元剤による還元反応も同時に起こるため、非白金金属粒子の導電性担体への高分散・担持をより進行させることも可能である。ここで、撹拌条件は、特に制限されないが、具体的には上記工程(3)での条件と同様である。
【0090】
また、本方法(i)では、工程(5)が終了した後、触媒粒子を含む分散液(触媒粒子含有分散液)を再度撹拌してもよい。これにより、触媒粒子及び導電性担体をさらに均一に混合するため、触媒粒子を導電性担体により効率よく高分散・担持できる。また、上記撹拌処理によって、未還元の白金前駆体や非白金金属前駆体の還元剤による還元反応も同時に起こるため、触媒粒子の導電性担体への高分散・担持をより進行させることも可能である。ここで、撹拌条件は、触媒粒子の導電性担体への担持をより進行できる条件であれば特に制限されない。例えば、スターラー(例えば、マグネチックスターラー)やホモジナイザ(例えば、超音波ホモジナイザ)などの適当な攪拌機を用いる、あるいは、超音波分散装置など超音波を印加することによって、均一に分散混合できる。また、混合条件は、還元剤、吸着剤及び非白金金属前駆体が均一に分散できるような条件であれば特に制限されない。具体的には、スターラー(例えば、マグネチックスターラー)を使用する場合には、撹拌速度は、好ましくは100〜600rpm、より好ましくは200〜400rpmである。また、撹拌温度は、好ましくは0〜50℃、より好ましくは5〜40℃である。また、撹拌時間は、好ましくは0.3〜90時間であり、より好ましくは0.5〜80時間である。なお、上記混合は、例えば、スターラー(例えば、マグネチックスターラー)及びホモジナイザ(例えば、超音波ホモジナイザ)など、2種以上を適宜組み合わせてもよい。また、この際、2種以上の操作を同時にまたは順次行ってもよい。
【0091】
上記処理により、触媒粒子が担持した導電性担体(触媒粒子担持担体または担持担体)が得られる。ここで、必要であれば、この担持担体を単離してもよい。ここで、単離方法は、特に制限されず、担持担体を濾過し、乾燥すればよい。なお、必要であれば、担持担体を濾過した後に、洗浄(例えば、水洗)してもよい。また、上記濾過ならびに必要であれば洗浄工程は、繰り返し行ってもよい。また、濾過または洗浄後、担持担体を乾燥してもよい。ここで、担持担体の乾燥は、空気中で行ってもよく、また減圧下で行ってもよい。また、乾燥温度は特に限定されないが、例えば、10〜100℃、より好ましくは室温(25℃)〜80℃程度の範囲で行うことができる。また、乾燥時間もまた、特に限定されないが、例えば、1〜60時間、好ましくは3〜48時間である。また、乾燥は、空気中で行われてもまたは不活性雰囲気(窒素ガス雰囲気、ヘリウムガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気)中で行われてよい。
【0092】
(方法(ii))
本実施形態によると、上記[触媒粒子の製造方法]に記載の方法に従って触媒粒子を製造した後、上記触媒粒子と導電性担体(カーボン担体)とを混合して、触媒(電極触媒)を製造する。
【0093】
ここで、触媒粒子と導電性担体との混合比は、特に制限されないが、上記したような触媒粒子の担持濃度(担持量)となるような量であることが好ましい。なお、導電性担体は、そのまま混合されても、または溶液の形態で添加されてもよい。同様にして、触媒粒子は、固体形状で混合されても、または溶液の形態で添加されてもよい。好ましくは、触媒粒子及び導電性担体の少なくとも一方が溶液の形態で混合される。より好ましくは、触媒粒子及び導電性担体双方が溶液の形態で混合される。これにより、触媒粒子と導電性担体とがより均一に混合されるため、触媒粒子を導電性担体により均一に分散・担持することが可能である。
【0094】
触媒粒子(または触媒粒子溶液)および導電性担体(または導電性担体溶液)の混合順序は特に制限されない。例えば、導電性担体(または導電性担体溶液)を触媒粒子(または触媒粒子溶液)に添加する;触媒粒子(または触媒粒子溶液)を導電性担体(または導電性担体溶液)に添加する;触媒粒子(または触媒粒子溶液)及び導電性担体(または導電性担体溶液)を同時に添加・混合する、などいずれでもよい。
【0095】
また、触媒粒子(または触媒粒子溶液)および導電性担体(または導電性担体溶液)の混合との混合液を撹拌してもよい。これにより、触媒粒子及び導電性担体をより均一に混合するため、触媒粒子を導電性担体により効率よく高分散・担持できる。また、上記撹拌処理によって、未還元の白金前駆体や非白金金属前駆体の還元剤による還元反応も同時に起こるため、触媒粒子の導電性担体への高分散・担持をより進行させることも可能である。ここで、撹拌条件は、触媒粒子の導電性担体への担持をより進行できる条件であれば特に制限されない。例えば、スターラー(例えば、マグネチックスターラー)やホモジナイザ(例えば、超音波ホモジナイザ)などの適当な攪拌機を用いる、あるいは、超音波分散装置など超音波を印加することによって、均一に分散混合できる。また、混合条件は、還元剤、吸着剤及び非白金金属前駆体が均一に分散できるような条件であれば特に制限されない。具体的には、スターラー(例えば、マグネチックスターラー)を使用する場合には、撹拌速度は、好ましくは100〜600rpm、より好ましくは200〜400rpmである。また、撹拌温度は、好ましくは0〜50℃、より好ましくは5〜40℃である。また、撹拌時間は、好ましくは0.5〜60時間であり、より好ましくは1〜48時間である。なお、上記混合は、例えば、スターラー(例えば、マグネチックスターラー)及びホモジナイザ(例えば、超音波ホモジナイザ)など、2種以上を適宜組み合わせてもよい。また、この際、2種以上の操作を同時にまたは順次行ってもよい。
【0096】
上記処理により、触媒粒子が担持した導電性担体(触媒粒子担持担体または担持担体)が得られる。ここで、必要であれば、この担持担体を単離してもよい。ここで、単離方法は、特に制限されず、担持担体を濾過し、乾燥すればよい。なお、必要であれば、担持担体を濾過した後に、洗浄(例えば、水洗)してもよい。また、上記濾過ならびに必要であれば洗浄工程は、繰り返し行ってもよい。また、濾過または洗浄後、担持担体を乾燥してもよい。ここで、担持担体の乾燥は、空気中で行ってもよく、また減圧下で行ってもよい。また、乾燥温度は特に限定されないが、例えば、10〜100℃、より好ましくは室温(25℃)〜80℃程度の範囲で行うことができる。また、乾燥時間もまた、特に限定されないが、例えば、1〜60時間、好ましくは3〜48時間である。また、乾燥は、空気中で行われてもまたは不活性雰囲気(窒素ガス雰囲気、ヘリウムガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気)中で行われてよい。
【0097】
上述した電極触媒は、電解質膜−電極接合体(MEA)および燃料電池に好適に使用できる。すなわち、本発明は、上記製造方法によって得られた電極触媒を含む電解質膜−電極接合体(MEA)、および該電解質膜−電極接合体(MEA)を含む燃料電池をも提供する。
【0098】
[燃料電池]
燃料電池は、電解質膜−電極接合体(MEA)と、燃料ガスが流れる燃料ガス流路を有するアノード側セパレータと酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路を有するカソード側セパレータとからなる一対のセパレータとを有する。本発明の燃料電池は、高い発電性能を発揮できる。
【0099】
図2は、本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)1の基本構成を示す概略図である。PEFC 1は、まず、固体高分子電解質膜2と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3c)とを有する。そして、固体高分子電解質膜2と触媒層(3a、3c)との積層体はさらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層4aおよびカソードガス拡散層4c)により挟持されている。このように、固体高分子電解質膜2、一対の触媒層(3a、3c)および一対のガス拡散層(4a、4c)は、積層された状態で電解質膜−電極接合体(MEA)10を構成する。
【0100】
PEFC 1において、MEA10はさらに、一対のセパレータ(アノードセパレータ5aおよびカソードセパレータ5c)により挟持されている。図2において、セパレータ(5a、5c)は、図示したMEA10の両端に位置するように図示されている。ただし、複数のMEAが積層されてなる燃料電池スタックでは、セパレータは、隣接するPEFC(図示せず)のためのセパレータとしても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEAは、セパレータを介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレータ(5a、5c)と固体高分子電解質膜2との間や、PEFC 1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部が配置されるが、図2ではこれらの記載を省略する。
【0101】
セパレータ(5a、5c)は、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで図2に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凸部はMEA10と接触している。これにより、MEA10との電気的な接続が確保される。また、セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、PEFC 1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ5aのガス流路6aには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ5cのガス流路6cには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
【0102】
一方、セパレータ(5a、5c)のMEA側とは反対の側から見た凹部は、PEFC 1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路7とされる。さらに、セパレータには通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
【0103】
なお、図2に示す実施形態においては、セパレータ(5a、5c)は凹凸状の形状に成形されている。ただし、セパレータは、かような凹凸状の形態のみに限定されるわけではなく、ガス流路および冷媒流路の機能を発揮できる限り、平板状、一部凹凸状などの任意の形態であってもよい。
【0104】
上記のような、本発明のMEAを有する燃料電池は、優れた発電性能を発揮する。ここで、燃料電池の種類としては、特に限定されない。上記した説明中では固体高分子形燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、固体高分子形燃料電池(PEFC)が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求される自動車などの移動体用電源として用いられることが特に好ましい。
【0105】
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
【0106】
また、燃料電池の適用用途は特に限定されるものではないが、車両に適用することが好ましい。本発明の電解質膜−電極接合体は、発電性能および耐久性に優れ、小型化が実現可能である。このため、本発明の燃料電池は、車載性の点から、車両に適用した場合に特に有利である。
【0107】
[電解質膜−電極接合体(MEA)]
上述した電極触媒は、電解質膜−電極接合体(MEA)に好適に使用できる。すなわち、本発明は、本発明の電極触媒を含む電解質膜−電極接合体(MEA)、特に燃料電池用電解質膜−電極接合体(MEA)をも提供する。本発明の電解質膜−電極接合体(MEA)は、高い発電性能を発揮できる。また、本発明の電解質膜−電極接合体(MEA)は、高い耐久性をも発揮できる。
【0108】
本発明の電解質膜−電極接合体(MEA)は、従来の電極触媒に代えて、本発明の電極触媒(触媒)を用いる以外は、同様の構成を適用できる。以下に、本発明のMEAの好ましい形態を説明するが、本発明は下記形態に限定されない。
【0109】
MEAは、電解質膜、上記電解質膜の両面に順次形成されるアノード触媒層及びアノードガス拡散層ならびにカソード触媒層及びカソードガス拡散層から構成される。そしてこの電解質膜−電極接合体において、前記カソード触媒層およびアノード触媒層の少なくとも一方に本発明の電極触媒が使用される。
【0110】
(電解質膜)
電解質膜は、例えば、固体高分子電解質膜から構成される。この固体高分子電解質膜は、例えば、燃料電池(PEFC等)の運転時にアノード触媒層で生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層へと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
【0111】
固体高分子電解質膜を構成する電解質材料としては特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、以下の触媒層にて高分子電解質として説明したフッ素系高分子電解質や炭化水素系高分子電解質を同様にして用いることができる。この際、触媒層に用いた高分子電解質と必ずしも同じものを用いる必要はない。
【0112】
電解質膜の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質膜の厚さは、通常は5〜300μm程度である。電解質膜の厚さがかような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性及び使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
【0113】
(触媒層)
触媒層は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層では水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層では酸素の還元反応が進行する。ここで、本発明の触媒は、カソード触媒層またはアノード触媒層のいずれに存在していてもよい。酸素還元活性の向上の必要性を考慮すると、少なくともカソード触媒層に本発明の電極触媒が使用されることが好ましい。ただし、上記形態に係る触媒層は、アノード触媒層として用いてもよいし、カソード触媒層およびアノード触媒層双方として用いてもよいなど、特に制限されるものではない。
【0114】
触媒層は、本発明の電極触媒および電解質を含む。電解質は、特に制限されないが、イオン伝導性の高分子電解質であることが好ましい。上記高分子電解質は、燃料極側の触媒活物質周辺で発生したプロトンを伝達する役割を果たすことから、プロトン伝導性高分子とも呼ばれる。
【0115】
当該高分子電解質は、特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。高分子電解質は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質とに大別される。
【0116】
フッ素系高分子電解質を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性、耐久性、機械強度に優れるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質が用いられる。
【0117】
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾール、ホスホン化ポリベンズイミダゾール、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
【0118】
プロトンの伝達を担う高分子電解質においては、プロトンの伝導度が重要となる。ここで、高分子電解質のEWが大きすぎる場合には触媒層全体でのイオン伝導性が低下する。したがって、本形態の触媒層は、EWの小さい高分子電解質を含むことが好ましい。具体的には、本形態の触媒層は、好ましくはEWが1500g/eq.以下の高分子電解質を含み、より好ましくは1200g/eq.以下の高分子電解質を含み、特に好ましくは1000g/eq.以下の高分子電解質を含む。一方、EWが小さすぎる場合には、親水性が高すぎて、水の円滑な移動が困難となる。かような観点から、高分子電解質のEWは600以上であることが好ましい。なお、EW(Equivalent Weight)は、プロトン伝導性を有する交換基の当量重量を表している。当量重量は、イオン交換基1当量あたりのイオン交換膜の乾燥重量であり、「g/eq」の単位で表される。
【0119】
また、触媒層は、EWが異なる2種類以上の高分子電解質を発電面内に含み、この際、高分子電解質のうち最もEWが低い高分子電解質が流路内ガスの相対湿度が90%以下の領域に用いることが好ましい。このような材料配置を採用することにより、電流密度領域によらず、抵抗値が小さくなって、電池性能の向上を図ることができる。流路内ガスの相対湿度が90%以下の領域に用いる高分子電解質、すなわちEWが最も低い高分子電解質のEWとしては、900g/eq.以下であることが望ましい。これにより、上述の効果がより確実、顕著なものとなる。
【0120】
さらに、EWが最も低い高分子電解質を冷却水の入口と出口の平均温度よりも高い領域に用いることが望ましい。これによって、電流密度領域によらず、抵抗値が小さくなって、電池性能のさらなる向上を図ることができる。
【0121】
さらには、燃料電池システムの抵抗値を小さくする観点から、EWが最も低い高分子電解質は、流路長に対して燃料ガス及び酸化剤ガスの少なくとも一方のガス供給口から3/5以内の範囲の領域に用いることが望ましい。
【0122】
触媒層には、必要に応じて、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などの撥水剤、界面活性剤などの分散剤、グリセリン、エチレングリコール(EG)、ポリビニルアルコール(PVA)、プロピレングリコール(PG)などの増粘剤、造孔剤等の添加剤が含まれていても構わない。
【0123】
触媒層の膜厚(乾燥膜厚)は、好ましくは0.05〜30μm、より好ましくは1〜20μm、さらに好ましくは2〜15μmである。なお、上記は、カソード触媒層およびアノード触媒層双方に適用される。しかしながら、カソード触媒層及びアノード触媒層は、同じであってもあるいは異なってもよい。
【0124】
(ガス拡散層)
ガス拡散層(アノードガス拡散層4a、カソードガス拡散層4c)は、セパレータのガス流路(6a、6c)を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層(3a、3c)への拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
【0125】
ガス拡散層(4a、4c)の基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
【0126】
ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0127】
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層;MPL、図示せず)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
【0128】
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。カーボン粒子の平均粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
【0129】
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
【0130】
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性および電子伝導性のバランスを考慮して、重量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚さについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
【0131】
(電解質膜−電極接合体の製造方法)
電解質膜−電極接合体の作製方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を使用できる。例えば、電解質膜に触媒層をホットプレスで転写または塗布し、これを乾燥したものに、ガス拡散層を接合する方法や、ガス拡散層の微多孔質層側(微多孔質層を含まない場合には、基材層の片面に触媒層を予め塗布して乾燥することによりガス拡散電極(GDE)を2枚作製し、固体高分子電解質膜の両面にこのガス拡散電極をホットプレスで接合する方法を使用することができる。ホットプレス等の塗布、接合条件は、固体高分子電解質膜や触媒層内の高分子電解質の種類(パ−フルオロスルホン酸系や炭化水素系)によって適宜調整すればよい。
【0132】
[燃料電池]
上述した電解質膜−電極接合体(MEA)は、燃料電池に好適に使用できる。すなわち、本発明は、本発明の電解質膜−電極接合体(MEA)を用いてなる燃料電池をも提供する。本発明の燃料電池は、高い発電性能および耐久性を発揮できる。ここで、本発明の燃料電池は、本発明の電解質膜−電極接合体を挟持する一対のアノードセパレータおよびカソードセパレータを有する。
【0133】
(セパレータ)
セパレータは、固体高分子形燃料電池などの燃料電池の単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列に接続する機能を有する。また、セパレータは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互に分離する隔壁としての機能も有する。これらの流路を確保するため、上述したように、セパレータのそれぞれにはガス流路および冷媒流路が設けられていることが好ましい。セパレータを構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板などのカーボンや、ステンレスなどの金属など、従来公知の材料が適宜制限なく採用できる。セパレータの厚さやサイズ、設けられる各流路の形状やサイズなどは特に限定されず、得られる燃料電池の所望の出力特性などを考慮して適宜決定できる。
【0134】
燃料電池の製造方法は、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0135】
さらに、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータを介して電解質膜−電極接合体を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
【0136】
上述したPEFCや電解質膜−電極接合体は、発電性能に優れる触媒層を用いている。また、上述したPEFCや電解質膜−電極接合体は、発電性能および耐久性に優れる触媒層を用いている。したがって、当該PEFCや電解質膜−電極接合体は発電性能(または発電性能および耐久性)に優れる。
【0137】
本実施形態のPEFCやこれを用いた燃料電池スタックは、例えば、車両に駆動用電源として搭載されうる。
【実施例】
【0138】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「重量%」および「重量部」を意味する。
【0139】
実施例1
まず、スルファミン酸ニッケル(II)四水和物を超純水に溶解し、0.0645M濃度のニッケル水溶液(1)を調製した。
【0140】
別途、超純水100mLに、クエン酸三ナトリウム二水和物0.78g及び水素化ホウ素ナトリウム0.26gを添加・混合して、還元剤水溶液(1)を調製した。
【0141】
ビーカーにいれた0.5MのHNO溶液500mLに、カーボン担体(ケッチェンブラック(登録商標)KetjenBlack EC300J、平均粒子径:40nm、BET比表面積:800m/g、ライオン株式会社製)2gを添加し、室温(25℃)で30分、300rpmでスターラーで撹拌・混合した。続いて、300rpmの撹拌下で、80℃、2時間の熱処理を行ってカーボン担体を得た。そして、カーボン担体をろ過した後、超純水で洗浄した。上記ろ過・洗浄操作を計3回繰り返した。このカーボン担体を60℃で24時間乾燥させた後、酸処理カーボン担体Aを得た。得られた酸処理カーボン担体Aの表面に形成されたラクトン基、水酸基、エーテル基、およびカルボニル基からなる群より選択される少なくとも一つ以上の官能基量は、1.25μmol/mであり、BET比表面積は850m/gであり、平均粒子径は40nmであった。
【0142】
ビーカーに入れた100ml超純水に、酸処理カーボン担体A 0.2gを添加し、15分間超音波処理を行って担体分散液(1)を得た。下記において、ニッケル水溶液(1)と混合するまで、担体分散液(1)を室温(25℃)、150rpmで撹拌し続けた。
【0143】
超純水1000mLに、上記ニッケル水溶液(1)17.1mL及び上記担体分散液(1)を混合した後、上記還元剤水溶液(1)を添加し、35℃で、マグネチックスターラーで300rpmで30分間撹拌することにより、ニッケル粒子及び担体を含む触媒前駆体の分散液(前駆体分散液(1))を調製した。この際、ニッケル(金属換算)に対する還元剤である水素化ホウ素ナトリウムのモル比は6.2である。また、ニッケル(金属換算)に対する吸着剤であるクエン酸三ナトリウム二水和物のモル比は2.4である。
【0144】
次に、上記前駆体分散液(1)に、0.51M濃度の塩化白金酸(ヘキサクロリド白金(IV)酸(HPtCl))水溶液を0.22mL添加し、35℃で、300rpmでマグネチックスターラーを回転させながら、超音波ホモジナイザで30分間攪拌することにより、ニッケル粒子表面に白金突状部が形成してなる触媒粒子および担体を含む分散液(触媒粒子含有分散液(1))を調製した。ここで、得られた触媒粒子を触媒粒子(1)と称する。このようにして得られた触媒粒子(1)の、白金に対するニッケル(それぞれ、金属換算)のモル比は、9.8である。
【0145】
このようにして得られた触媒粒子(1)を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察した。その結果、触媒粒子は、粒状をなす本体部と、前記本体部の外面よりも外側に向けて突出している複数の突状部と、を有することが観察された。また、触媒粒子の、粒径(粒子直径)、本体部の直径、ならびに突状部の直径及び長さを測定し、その結果を下記表1に示す。また、上記突状部の直径及び長さに基づいて、アスペクト比(直径/長さ)を算出し、その結果を下記表1に合わせて示す。なお、下記表1では、触媒粒子の、触媒粒子の粒径(粒子直径)、本体部の直径、ならびに突状部の直径及び長さは、200nm×300nmのTEM写真内に観察される触媒粒子全てについて測定し、その最大値及び最小値を範囲として示す(以下、同様)。
【0146】
また、このようにして得られた触媒粒子(1)の本体部及び突状部の組成を、TEM−EDXによって測定した。その結果、本体部は全モル量に対して60モル%以上の割合で非白金金属(ニッケル)で構成された中心部ならびに当該中心部の周辺に形成された非白金金属及び白金から構成される外殻部から構成され、突状部は全モル量に対して60モル%以上の割合で白金で構成されていることを確認した。
【0147】
さらに、上記で調製された触媒粒子含有分散液(1)を、室温(25℃)で、超音波ホモジナイザで30分間撹拌した後、マグネチックスターラーで300rpmで72時間攪拌することにより、担体に触媒粒子を担持した。その後、触媒粒子担持担体を濾過し、超純水で3回洗浄した後、空気中、60℃で4時間以上乾燥することにより、電極触媒(1)を調製した。電極触媒(1)の触媒粒子の担持濃度(担持量)は、担体に対して、12.6重量%(Pt:11.8重量%、Ni:0.8重量%)であった。
【0148】
実施例2
まず、スルファミン酸ニッケル(II)四水和物を超純水に溶解し、0.041M濃度のニッケル水溶液(2)を調製した。
【0149】
別途、超純水100mLに、クエン酸三ナトリウム二水和物1.2g及び水素化ホウ素ナトリウム0.5gを添加・混合して、還元剤水溶液(2)を調製した。
【0150】
上記実施例1と同様にして、酸処理カーボン担体Aを得た。超純水100mLに、上記にて調製した酸処理カーボン担体A 0.2gを混合して、担体分散液(2)を調製した。下記において、ニッケル水溶液(2)と混合するまで、担体分散液(2)を室温(25℃)、150rpmで撹拌し続けた。
【0151】
超純水1000mLに、上記ニッケル水溶液(2)40.8mL及び上記担体分散液(2)を混合した後、上記還元剤水溶液(2)を添加し、室温(25℃)で、マグネチックスターラーを300rpmで回転させながら、超音波ホモジナイザで30分間攪拌することにより、ニッケル粒子及び担体を含む触媒前駆体の分散液(前駆体分散液(2))を調製した。この際、ニッケル(金属換算)に対する還元剤である水素化ホウ素ナトリウムのモル比は7.9である。また、ニッケル(金属換算)に対する吸着剤であるクエン酸三ナトリウム二水和物のモル比は2.4である。
【0152】
次に、上記前駆体分散液(2)に、0.51M濃度の塩化白金酸(ヘキサクロリド白金(IV)酸(HPtCl))水溶液を0.34mL添加し、室温(25℃)で、マグネチックスターラーで400rpmで30分間攪拌することにより、ニッケル粒子表面に白金突状部が形成してなる触媒粒子および担体を含む分散液(触媒粒子含有分散液(2))を調製した。ここで、得られた触媒粒子を触媒粒子(2)と称する。このようにして得られた触媒粒子(2)の、白金に対するニッケル(それぞれ、金属換算)のモル比は、9.6である。
【0153】
このようにして得られた触媒粒子(2)を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察した。その結果、触媒粒子は、粒状をなす本体部と、前記本体部の外面よりも外側に向けて突出している複数の突状部と、を有することが観察された。また、触媒粒子の、粒径(粒子直径)、本体部の直径、ならびに突状部の直径及び長さを測定し、その結果を下記表1に示す。また、上記突状部の直径及び長さに基づいて、アスペクト比(直径/長さ)を算出し、その結果を下記表1に合わせて示す。
【0154】
また、このようにして得られた触媒粒子(2)の本体部及び突状部の組成を、TEM−EDXによって測定した。その結果、本体部は全モル量に対して60モル%以上の割合で非白金金属(ニッケル)で構成された中心部ならびに当該中心部の周辺に形成された非白金金属及び白金から構成される外殻部から構成され、突状部は全モル量に対して60モル%以上の割合で白金で構成されていることを確認した。
【0155】
さらに、上記で調製された触媒粒子含有分散液(2)を、室温(25℃)で、超音波ホモジナイザで60分間撹拌した後、マグネチックスターラーで300rpmで48時間攪拌することにより、担体に触媒粒子を担持した。その後、触媒粒子担持担体を濾過し、超純水で3回洗浄した後、空気中、60℃で4時間以上乾燥することにより、電極触媒(2)を調製した。電極触媒(2)の触媒粒子の担持濃度(担持量)は、担体に対して、18.0重量%(Pt:17.0重量%、Ni:1.0重量%)であった。
【0156】
実施例3
まず、硫酸ニッケル(II)(NiSO)を超純水に溶解し、0.0645M濃度のニッケル水溶液(3)を調製した。
【0157】
別途、超純水100mLに、クエン酸三ナトリウム二水和物1.57g及び水素化ホウ素ナトリウム0.52gを添加・混合して、還元剤水溶液(3)を調製した。
【0158】
上記実施例1と同様にして、酸処理カーボン担体Aを得た。超純水100mLに、上記にて調製した酸処理カーボン担体A 0.2gを混合して、担体分散液(3)を調製した。下記において、触媒粒子含有分散液(3)と混合するまで、担体分散液(3)を室温(25℃)、150rpmで撹拌し続けた。
【0159】
超純水1000mLに、上記ニッケル水溶液(3)34.2mLを混合した後、上記還元剤水溶液(3)を添加し、室温(25℃)で、マグネチックスターラーを300rpmで回転させながら、超音波ホモジナイザで30分間攪拌することにより、ニッケル粒子の分散液(3)を調製した。この際、ニッケル(金属換算)に対する還元剤である水素化ホウ素ナトリウムのモル比は6.2である。また、ニッケル(金属換算)に対する吸着剤であるクエン酸三ナトリウム二水和物のモル比は2.4である。
【0160】
次に、上記ニッケル粒子の分散液(3)に、16℃で、1.16M濃度の塩化白金酸(ヘキサクロリド白金(IV)酸(HPtCl))水溶液 0.39mLを30分間かけて添加し、ニッケル粒子表面に白金突状部が形成してなる触媒粒子を含む分散液(触媒粒子含有分散液(3))を調製した。ここで、得られた触媒粒子を触媒粒子(3)と称する。このようにして得られた触媒粒子(3)の、白金に対するニッケル(それぞれ、金属換算)のモル比は、4.9である。
【0161】
このようにして得られた触媒粒子(3)を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察した。その結果、触媒粒子は、粒状をなす本体部と、前記本体部の外面よりも外側に向けて突出している複数の突状部と、を有することが観察された。また、触媒粒子の、粒径(粒子直径)、本体部の直径、ならびに突状部の直径及び長さを測定し、その結果を下記表1に示す。また、上記突状部の直径及び長さに基づいて、アスペクト比(直径/長さ)を算出し、その結果を下記表1に合わせて示す。
【0162】
また、このようにして得られた触媒粒子(3)の本体部及び突状部の組成を、TEM−EDXによって測定した。その結果、本体部は全モル量に対して60モル%以上の割合で非白金金属(ニッケル)で構成された中心部ならびに当該中心部の周辺に形成された非白金金属及び白金から構成される外殻部から構成され、突状部は全モル量に対して60モル%以上の割合で白金で構成されていることを確認した。
【0163】
さらに、上記で調製された触媒粒子含有分散液(3)に、上記担体分散液(3)を混合し、室温(25℃)で、超音波ホモジナイザで60分間撹拌した後、マグネチックスターラーで300rpmで24時間攪拌することにより、ケッチェンブラックに触媒粒子を担持した。その後、触媒粒子を担持したケッチェンブラックを濾過し、超純水で3回洗浄した後、空気中、60℃で4時間以上乾燥することにより、電極触媒(3)を調製した。電極触媒(3)の触媒粒子の担持濃度(担持量)は、担体に対して、38.4重量%(Pt:35.7重量%、Ni:2.7重量%)であった。
【0164】
比較例1
0.2gのカーボン担体(ケッチェンブラック(登録商標)KetjenBlack EC300J、平均粒子径:40nm、BET比表面積:800m/g、ライオン株式会社製)を秤量し、200mLビーカーに入れ、ビーカーの壁面から超純水を加え、カーボンに水を含ませた。次に、このビーカーに、超純水を総量が100mLになるまで加え、超音波にて分散した後、マグネチックスターラーで攪拌して、担体分散液(4)を得た。
【0165】
別途、超純水100mLに、クエン酸三ナトリウム二水和物1.2g及び水素化ホウ素ナトリウム0.4gを添加・混合して、還元剤水溶液(4)を調製した。
【0166】
塩化ニッケル(II)(NiCl)を超純水に溶解し、0.105M濃度のニッケル水溶液(4)を調製した。
【0167】
また、塩化白金酸(ヘキサクロリド白金(IV)酸(HPtCl))を超純水に溶解し、1.16M濃度の塩化白金酸水溶液(4)を調製した。
【0168】
超純水を1000mL加えたビーカーに、ニッケル水溶液(4) 11.174gおよび塩化白金酸水溶液(4) 0.6gを混合した後、還元剤水溶液(4)を添加し、室温(25℃)で30分間撹拌して、触媒粒子分散液(4)を調製した。この触媒粒子分散液(4)に、担体分散液(4)を混合し、室温(25℃)で60時間攪拌することにより、担体に触媒粒子を担持した。その後、触媒粒子担持担体を濾過し、超純水で3回洗浄した後、空気中、60℃で4時間以上乾燥することにより、平均粒径(粒子直径)が4.0nmである電極触媒(4)を調製した。電極触媒(4)の触媒粒子の担持濃度(担持量)は、担体に対して、34.3重量%(Pt:29.6重量%、Ni:4.7重量%)であった。
【0169】
比較例2
ビーカーにいれた0.5MのHNO溶液500mLに、カーボン担体(ケッチェンブラック(登録商標)KetjenBlack EC300J、平均粒子径:40nm、BET比表面積:800m/g、ライオン株式会社製)2gを添加し、室温(25℃)で30分、300rpmでスターラーで撹拌・混合した。続いて、300rpmの撹拌下で、80℃、2時間の熱処理を行ってカーボン担体を得た。そして、カーボン担体をろ過した後、超純水で洗浄した。上記ろ過・洗浄操作を計3回繰り返した。このカーボン担体を60℃で24時間乾燥させた後、酸処理カーボン担体Aを得た。得られた酸処理カーボン担体Aの表面に形成されたラクトン基、水酸基、エーテル基、およびカルボニル基からなる群より選択される少なくとも一つ以上の官能基量は、1.25μmol/mであり、BET比表面積は850m/gであり、平均粒子径は40nmであった。
【0170】
ビーカーに入れた100ml超純水に、酸処理カーボン担体A 0.2gを添加し、15分間超音波処理を行って担体分散液(5)を得た。下記において、触媒粒子分散液(5)と混合するまで、担体分散液(5)を室温(25℃)、150rpmで撹拌し続けた。
【0171】
別途、超純水100mLに、クエン酸三ナトリウム二水和物1.2g及び水素化ホウ素ナトリウム0.4gを添加・混合して、還元剤水溶液(5)を調製した。
【0172】
塩化コバルト(II)(CoCl)を超純水に溶解し、0.105M濃度のコバルト水溶液(5)を調製した。
【0173】
また、塩化白金酸(ヘキサクロリド白金(IV)酸(HPtCl))を超純水に溶解し、1.16M濃度の塩化白金酸水溶液(5)を調製した。
【0174】
超純水を1000mL加えたビーカーに、コバルト水溶液(5) 22.348gおよび塩化白金酸水溶液(5) 0.6gを混合し、室温(25℃)で300rpmで撹拌した後、還元剤水溶液(5)を添加し、室温(25℃)で30分間撹拌して、触媒粒子分散液(5)を調製した。この触媒粒子分散液(5)に、担体分散液(5)を混合し、室温(25℃)で72時間攪拌することにより、担体に触媒粒子を担持した。その後、触媒粒子担持担体を濾過し、超純水で3回洗浄した後、空気中、60℃で12時間以上乾燥することにより、平均粒径(粒子直径)が2.7nmである電極触媒(5)を調製した。電極触媒(5)の触媒粒子の担持濃度(担持量)は、担体に対して、34.1重量%(Pt:29.6重量%、Co:4.5重量%)であった。
【0175】
比較例3
担体として、ケッチェンブラック(ケッチェンブラック(登録商標)KetjenBlack EC300J、平均粒子径:40nm、BET比表面積:800m/g、ライオン株式会社製)を用い、これに触媒金属として平均粒径1.8nmの白金(Pt)を担持率が50重量%となるように担持させて、電極触媒(6)を得た。すなわち、白金濃度4.6重量%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を1000g(白金含有量:46g)に担体(ケッチェンブラック)を46g浸漬させ撹拌後、還元剤として100%エタノールを100ml添加した。この溶液を沸点で7時間、撹拌、混合し、白金を担体に担持させた。そして、濾過、乾燥することにより、担持率が50重量%の触媒粉末を得た。その後、水素雰囲気において、温度900℃に1時間保持し、平均粒径(粒子直径)が4.5nmである電極触媒(6)を得た。電極触媒(6)の触媒粒子の担持濃度(担持量)は、担体に対して、50重量%(Pt)であった。
【0176】
上記電極触媒(1)〜(6)について、下記方法にしたがって、触媒有効表面積(ECA)、面積比活性(i)および質量比活性(i)を評価した。結果を下記表1に示す。
【0177】
(触媒の性能評価)
<触媒有効表面積(ECA)の測定>
三電極式の電気化学セルを用い、ポテンショスタットとして、北斗電工社製電気化学システムHZ−5000を用いた。作用極として、グラッシーカーボン回転電極(GC−RDE)を用い、分散媒(イソプロピルアルコール(IPA)6ml、水19mlとの混合溶媒)に各種電極触媒をインク中のカーボン量が10mgとなる濃度で分散させたインクをコーティングして乾燥させた電極を用いた。電極面積は0.196cmであった。対極に白金ワイヤー、参照電極には可逆水素電極を用いた。電解液は0.1M過塩素酸を用い、Oで飽和させた。測定は25℃で行なった。
【0178】
触媒有効表面積(ECA)の算出は、サイクリックボルタンメトリー(CV)により実施した。測定実施前に、500mV/sの電位掃引速度で0〜1.2Vの電位範囲を、20サイクル電位走査を実施した(触媒表面クリーニング処理)。その後、0〜1.2Vの電位範囲を50mV/sの電位掃引速度で3サイクル測定した。このときの3サイクル目のデータを用い、水素吸着の電気量210μC/cmを用いて触媒有効表面積(ECA)を算出した。
【0179】
<面積比活性(i)および質量比活性(i)の測定>
各電極触媒を、直径5mmのグラッシーカーボンディスクにより構成される回転ディスク電極(幾何面積:0.19cm)上に34μg・cm−2となるように均一にNafionと共に分散担持し、性能評価用電極を作製した。
【0180】
各電極に対して、Nガスで飽和した25℃の0.1M過塩素酸中において、可逆水素電極(RHE)に対して0.05〜1.2Vの電位範囲で、50mVs−1の走査速度でサイクリックボルタンメトリーを行った。得られたボルタモグラムの0.05〜0.4Vに現れる水素吸着ピークの面積より、各電極触媒の電気化学的表面積(cm)を算出した。
【0181】
次に、電気化学計測装置を用い、酸素で飽和した25℃の0.1M過塩素酸中で、0.2Vから1.2Vまで速度10mV/sで電位走査を行った。さらに、電位走査によりに得られた電流から、物質移動(酸素拡散)の影響をKoutecky-Levich式を用いて補正した上で、0.9Vでの電流値を抽出した。そして、得られた電流値を上述の電気化学的表面積で除した値を面積比活性(μAcm−2)とした。また、得られた電流値を担持した触媒中の白金量(g)で除した値を質量比活性(i)(A・g−1Pt)とした。Koutecky-Levich式を用いた方法は、例えば、Electrochemistry Vol.79, No.2, p.116-121 (2011) (対流ボルタモグラム(1)酸素還元(RRDE))の「4 Pt/C触媒上での酸素還元反応の解析」に記載されている。抽出した0.9Vの電流値を電気化学表面積で除算することで面積比活性(i)が算出される。
【0182】
【表1】
【0183】
上記表1から、実施例1〜3の触媒粒子は、ほぼ同組成の粒状の比較例1の触媒粒子に比して、面積比活性および質量比活性共により高いことが示される。なお、実施例2の触媒粒子の質量比活性が若干低いが、これは、触媒粒子が一部凝集していたため、ECAが低く計測されたためであると考察される。
【符号の説明】
【0184】
1…固体高分子形燃料電池(PEFC)、
2…固体高分子電解質膜、
3…触媒層、
3a…アノード触媒層、
3c…カソード触媒層、
4a…アノードガス拡散層、
4c…カソードガス拡散層、
5a…アノードセパレータ、
5c…カソードセパレータ、
6a…アノードガス流路、
6c…カソードガス流路、
7…冷媒流路、
10…電解質膜−電極接合体(MEA)
20…触媒粒子、
21…本体部、
22…突状部。
図1
図2