特許第6583434号(P6583434)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

特許6583434非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法
<>
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000002
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000003
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000004
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000005
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000006
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000007
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000008
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000009
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000010
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000011
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000012
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000013
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000014
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000015
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000016
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000017
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000018
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000019
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000020
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000021
  • 特許6583434-非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法 図000022
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6583434
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/054 20100101AFI20190919BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20190919BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20190919BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20190919BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   H01M10/054
   H01M4/58
   H01M4/485
   H01M4/36 C
   H01M2/16 P
   H01M2/16 M
   H01M2/16 L
【請求項の数】10
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2017-560035(P2017-560035)
(86)(22)【出願日】2016年10月18日
(86)【国際出願番号】JP2016080845
(87)【国際公開番号】WO2017119171
(87)【国際公開日】20170713
【審査請求日】2018年3月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-1234(P2016-1234)
(32)【優先日】2016年1月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】菅野 直之
【審査官】 式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/163045(WO,A1)
【文献】 特開2015−115283(JP,A)
【文献】 特開2014−238960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/054
H01M 2/16
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NaXFeY(SO4Z(但し、0<X≦3,1≦Y≦3,2≦Z≦4の範囲にある)から成る正極活物質、導電材、及び、結着剤を含む正極部材、
ナトリウムイオンが挿入、脱離可能な負極活物質、及び、結着剤を含む負極部材、並びに、
セパレータ、
を備えており、
前記正極活物質の表面は、水素基含有の炭素質層で被覆されており、
前記セパレータは、細孔を有するポリオレフィン系材料から成り、
前記セパレータの両面には、ナトリウムイオン伝導性を有する無機化合物粉末層が形成されている非水系二次電池。
【請求項2】
正極活物質のCu-Kα線を用いたX線回折での2θ=14度近傍におけるピークの半値幅は0.4度以上である請求項1に記載の非水系二次電池。
【請求項3】
負極活物質は、NaPQTiOR(但し、0<P<0.5,0<Q<0.5,1≦R≦2の範囲にあり、MはNa以外のアルカリ金属元素)から成る請求項1に記載の非水系二次電池。
【請求項4】
負極活物質は、ハードカーボン、NaTiO2系材料又はNaFePO4系材料から成る請求項1に記載の非水系二次電池。
【請求項5】
負極部材を構成する結着剤は、少なくともポリアクリル酸ナトリウムを含む請求項1に記載の非水系二次電池。
【請求項6】
負極部材を構成する結着剤は、更に、カルボキシメチルセルロースを含む請求項5に記載の非水系二次電池。
【請求項7】
無機化合物粉末層はβアルミナから構成されている請求項に記載の非水系二次電池。
【請求項8】
正極活物質を構成するNaXFeY(SO4Zは、Na2Fe2(SO43、Na2Fe(SO43又はNa2Fe(SO44から成る請求項1に記載の非水系二次電池。
【請求項9】
正極合剤厚さ>負極合剤厚さ>(セパレータの厚さ)×6
を満足し、且つ、
セパレータの面積>負極部材の面積>正極部材の面積
を満足する請求項1に記載の非水系二次電池。
【請求項10】
負極部材には導電材が含まれる請求項1に記載の非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナトリウム(Na)を含む材料を活物質とする非水系二次電池の開発が進められている。例えば、WO2015/037489A1には、「M」を遷移金属元素としたとき、Namn(SO43で表される硫酸塩を含むナトリウムイオン二次電池用の正極活物質が開示されている。ここで、正極活物質は、導電性材料によって被覆されており、導電性材料として、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、メソポーラスカーボンが挙げられている。そして、正極活物質と導電性材料とを粉砕、混合することで、電極が作製される。あるいは又、導電性材料又は導電性材料の前駆体を含む溶液中に正極活物質の粉体を浸漬し、その後、熱処理し、粉体表面に導電性材料を析出させることで、電極が作製される。あるいは又、導電性材料又は導電性材料の前駆体を含む気相中に正極活物質の粉体を流動させ、その後、必要に応じて熱処理することで、電極が作製される。
【0003】
また、特開2015−115283には、物質の構造中にナトリウムイオンを含有するナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質を含む正極;金属ナトリウム、ナトリウム含有物質又はナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質を含む負極、及び;ナトリウムイオン伝導性を有する電解質を含むナトリウム二次電池が開示されている。ここで、ナトリウムイオンの挿入及び脱離が可能な物質は、NaxFe2(SO43(0<x≦2)を含む。更には、この特許公開公報において、正極は、NaxFe2(SO43とカーボン粒子(具体的には、アセチレンブラックやケッチェンブラック)とを粉砕、混合するボールミル処理を行うことで得られた材料から構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2015/037489A1
【特許文献2】特開2015−115283
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの国際公開あるいは特許公開公報に開示された技術は、黒鉛等から成る導電性材料やカーボン粒子が、正極活物質へのナトリウムイオンの円滑な挿入、正極活物質からのナトリウムイオンの円滑な離脱を妨害するといった問題、正極活物質からのナトリウムイオンの離脱によって正極活物質の結晶構造が崩壊するといった問題を有する。そして、その結果、優れた長期信頼性を有する非水系二次電池を得ることが困難である。
【0006】
従って、本開示の目的は、優れた長期信頼性を有する非水系二次電池、係る非水系二次電池での使用に適した正極活物質及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本開示の非水系二次電池は、
NaXFeY(SO4Z(但し、0<X≦3,1≦Y≦3,2≦Z≦4の範囲にある)から成る正極活物質、導電材、及び、結着剤を含む正極部材、
ナトリウムイオンが挿入、脱離可能な負極活物質、及び、結着剤を含む負極部材、並びに、
セパレータ、
を備えており、
正極活物質の表面は、水素基含有の炭素質層で被覆されている。
【0008】
上記の目的を達成するための本開示の非水系二次電池用の正極活物質は、NaXFeY(SO4Z(但し、0<X≦3,1≦Y≦3,2≦Z≦4の範囲にある)から成り、水素基含有の炭素質層で表面が被覆されている。
【0009】
上記の目的を達成するための本開示の非水系二次電池用の正極活物質の製造方法は、NaXFeY(SO4Z(但し、0<X≦3,1≦Y≦3,2≦Z≦4の範囲にある)から成る、非水系二次電池用の正極活物質の製造方法であって、
正極活物質の表面を炭素系材料で被覆した後、炭素系材料を、不活性ガス雰囲気中、400゜C以下で焼成し、以て、水素基含有の炭素質層で表面が被覆された正極活物質を得る。
【発明の効果】
【0010】
本開示の非水系二次電池、本開示の非水系二次電池用の正極活物質、本開示の非水系二次電池用の正極活物質の製造方法によって得られる正極活物質にあっては、水素基含有の炭素質層でその表面が被覆されているので、正極活物質に導電性を付与することができ、しかも、正極活物質へのナトリウムイオンの挿入、正極活物質からのナトリウムイオンの脱離が炭素質層によって阻害され難く、円滑な反応を行うことができる。特に、水素基含有の炭素質層が形成されているが故に、ナトリウムイオンが正極活物質から脱離する際の正極活物質の結晶層間の歪みが分散され、結晶構造の崩壊を確実に抑制することができる。また、大電流での充放電でも結晶の安定化を達成することができ、優れた長期信頼性を得ることができる。一方、水素基含有ではない炭素質層で表面が被覆されている場合、正極活物質の結晶層間の配列がこのような炭素質層によって固められてしまい、ナトリウムイオンが脱離すると、正極活物質の結晶層の状態が不安定となり、結晶の崩壊が起こり易くなる。尚、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものでは無く、また、付加的な効果があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1Aは、実施例1、比較例1A、比較例1B及び比較例1Cの非水系二次電池の初回充放電カーブ(横軸は容量(単位:ミリアンペア・時/グラム)であり、縦軸は電圧(単位:ボルト))を示すグラフであり、図1Bは、実施例1、比較例1A、比較例1B及び比較例1Cの非水系二次電池の充放電サイクル数と放電容量維持率(%)との関係を調べた結果を示すグラフである。
図2図2は、実施例1、比較例1A、比較例1B及び比較例1Cの非水系二次電池の負荷電流(単位:ミリアンペア/cm2)と容量(単位:ミリアンペア・時/グラム)との関係を調べた結果を示すグラフである。
図3図3A及び図3Bは、それぞれ、実施例1及び比較例1Aの非水系二次電池を構成する正極活物質において、炭素質層が水素基を含有しているか否かを反射式赤外線分光測定に基づき調べた結果を示すグラフである。
図4図4A及び図4Bは、それぞれ、実施例1及び比較例1Aの非水系二次電池を構成する正極活物質のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
図5図5Aは、実施例1、比較例1D−1、比較例1D−2及び比較例1D−3の非水系二次電池の放電電流(単位:アンペア)と放電容量(単位:アンペア・時)との関係を調べた結果を示すグラフであり、図5Bは、実施例1、比較例1D−1、比較例1D−2及び比較例1D−3の非水系二次電池の充放電サイクル数と容量(単位:アンペア・時)との関係を調べた結果を示すグラフである。
図6図6Aは、実施例2A、実施例2B及び比較例2の非水系二次電池の放電電流(単位:アンペア)と放電容量(単位:アンペア・時)との関係を調べた結果を示すグラフであり、図6Bは、実施例2A、実施例2B及び比較例2の非水系二次電池の充放電サイクル数と容量(単位:アンペア・時)との関係を調べた結果を示すグラフである。
図7図7は、実施例3において得られた負極活物質(Na1.6Li1.60.8Ti512)のX線回折データを示すチャートである。
図8図8Aは、実施例5、比較例5A及び比較例5Bの非水系二次電池の初回充放電カーブ(横軸は容量(単位:ミリアンペア・時/グラム)であり、縦軸は電圧(単位:ボルト))であり、図8Bは、実施例5、比較例5A及び比較例5Bの非水系二次電池の充放電サイクル数と容量(単位:ミリアンペア・時/グラム)との関係を調べた結果を示すグラフである。
図9図9は、実施例5、比較例5A及び比較例5Bの非水系二次電池の負荷電流(単位:ミリアンペア/cm2)と容量(単位:ミリアンペア・時/グラム)との関係を調べた結果を示すグラフである。
図10図10Aは、実施例6及び比較例6Aの非水系二次電池の初回充放電カーブ(横軸は容量(単位:ミリアンペア・時/グラム)であり、縦軸は電圧(単位:ボルト))を示すグラフであり、図10Bは、実施例6及び比較例6Aの非水系二次電池の充放電サイクル数と放電容量維持率(%)との関係を調べた結果を示すグラフである。
図11図11は、実施例6及び比較例6Aの非水系二次電池の負荷電流(単位:ミリアンペア/cm2)と容量(単位:ミリアンペア・時/グラム)との関係を調べた結果を示すグラフである。
図12図12Aは、実施例7及び比較例7の非水系二次電池の初回充放電カーブ(横軸は容量(単位:ミリアンペア・時/グラム)であり、縦軸は電圧(単位:ボルト))を示すグラフであり、図12Bは、実施例7及び比較例7の非水系二次電池の充放電サイクル数と放電容量維持率(%)との関係を調べた結果を示すグラフである。
図13図13は、実施例7及び比較例7の非水系二次電池の負荷電流(単位:ミリアンペア/cm2)と容量(単位:ミリアンペア・時/グラム)との関係を調べた結果を示すグラフである。
図14図14Aは、実施例6の非水系二次電池を構成する正極活物質において、炭素質層が水素基を含有しているか否かを反射式赤外線分光測定に基づき調べた結果を示すグラフであり、図14Bは、比較例6Bの非水系二次電池を構成する正極活物質において、炭素質層が水素基を含有しているか否かを反射式赤外線分光測定に基づき調べた結果を示すグラフである。
図15図15Aは、実施例6の非水系二次電池を構成する正極活物質のラマン分光スペクトルを示すグラフであり、図15Bは、実施例7の非水系二次電池を構成する正極活物質のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
図16図16は、実施例1の円筒型の非水系二次電池(ナトリウムイオン二次電池)の模式的な断面図である。
図17図17は、実施例8のラミネートフィルム型の角型の非水系二次電池(ナトリウムイオン二次電池)の模式的な分解斜視図である。
図18図18Aは、図17に示したとは別の状態における、実施例8のラミネートフィルム型の非水系二次電池(ナトリウムイオン二次電池)の模式的な分解斜視図であり、図18Bは、実施例8のラミネートフィルム型の非水系二次電池(ナトリウムイオン二次電池)における電極積層体の図17図18Aの矢印A−Aに沿った模式的な断面図である。
図19図19は、実施例8における本開示の非水系二次電池(ナトリウムイオン二次電池)の適用例(電池パック:単電池)の模式的な分解斜視図である。
図20図20A及び図20Bは、実施例1〜実施例8における本開示の(ナトリウムイオン二次電池)の適用例(電池パック:単電池)の構成を表すブロック図である。
図21図21A図21B及び図21Cは、それぞれ、実施例1〜実施例8の本開示の非水系二次電池(ナトリウムイオン二次電池)の適用例(電動車両)の構成を表すブロック図、実施例1〜実施例8の本開示の非水系二次電池(ナトリウムイオン二次電池)の適用例(電力貯蔵システム)の構成を表すブロック図、及び、実施例1〜実施例8の本開示の非水系二次電池(ナトリウムイオン二次電池)の適用例(電動工具)の構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本開示を説明するが、本開示は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.本開示の非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法、全般に関する説明
2.実施例1(本開示の非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法)
3.実施例2(実施例1の変形)
4.実施例3(実施例1の別の変形)
5.実施例4(実施例3の変形)
6.実施例5(実施例1及び実施例4の変形)
7.実施例6(実施例1〜実施例5の変形)
8.実施例7(実施例1〜実施例5の別の変形)
9.実施例8(実施例1〜実施例7の変形例)
10.実施例9(実施例1〜実施例8の二次電池の応用例)
11.その他
【0013】
〈本開示の非水系二次電池、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法、全般に関する説明〉
本開示の非水系二次電池用の正極活物質の製造方法においては、炭素系材料を、不活性ガス雰囲気中、300゜C乃至400゜Cにて、12時間乃至24時間、焼成することが好ましい。
【0014】
本開示の非水系二次電池、本開示の非水系二次電池用の正極活物質、上記の好ましい形態を含む本開示の非水系二次電池用の正極活物質の製造方法によって得られた正極活物質(以下、これらを総称して、『本開示の正極活物質等』と呼ぶ)において、正極活物質のCu−Kα線(波長:1.54184オングストローム)を用いたX線回折での2θ=14度近傍におけるピークの半値幅は0.4度以上であることが好ましい。そして、これによって、イオン半径の大きなナトリウムイオンの挿入、脱離における正極活物質の結晶層間の膨張、収縮を緩和することができ、正極活物質の結晶の崩壊を防ぐことができる結果、優れた長期サイクル特性を有する正極活物質を備えた非水系二次電池を提供することができる。
【0015】
上記の好ましい形態を含む本開示の非水系二次電池において、負極活物質は、NaPQTiOR(但し、0<P<0.5,0<Q<0.5,1≦R≦2の範囲にあり、MはNa以外のアルカリ金属元素)から成る形態とすることができる。NaPQTiORにおける「M」の具体例として、リチウム(Li)、カリウム(K)、あるいは、リチウム(Li)及びカリウム(K)の組合せを挙げることができ、より具体的には、例えば、NaPLi0.5-QM’QTiOR、NaP0.5-QM’QTiOR、NaP(K+Li)0.5-QM’QTiOR(但し、M’は希土類元素)を挙げることができる。あるいは又、上記の好ましい形態を含む本開示の非水系二次電池において、負極活物質は、ハードカーボン、NaTiO2系材料又はNaFePO4系材料から成る形態とすることができる。ここで、NaTiO2系材料の具体例として、NaTiO2、Na4Ti512等を挙げることができる。NaxFeyPOz系材料の具体例として、Na2Fe2(PO43、NaFe2(PO43、Na2Fe(PO43、NaFe(PO43等を挙げることができる。また、負極部材に正極活物質と同様の活物質を用いて、所謂ロッキングチェア型の非水系二次電池とすることもできる。
【0016】
以上に説明した各種の好ましい形態を含む本開示の非水系二次電池において、負極部材を構成する結着剤は、少なくともポリアクリル酸ナトリウム(PAcNa)を含む形態とすることができ、あるいは又、負極部材を構成する結着剤は、ポリアクリル酸ナトリウム(PAcNa)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む形態とすることができる。これらの結着剤は、負極活物質との親和性、負極活物質との間の分散状態に優れ、充放電反応を阻害することが無く、負極活物質へのナトリウムイオンの円滑な挿入、負極活物質からのナトリウムイオンの円滑な離脱を妨害することが無い。
【0017】
更には、以上に説明した各種の好ましい形態を含む本開示の非水系二次電池において、
セパレータは、細孔を有するポリオレフィン系材料から成り、
セパレータの両面には、ナトリウムイオン伝導性を有する絶縁材料から成る無機化合物粉末層が形成されている形態とすることができ、この場合、無機化合物粉末層はβアルミナから構成されている形態とすることができる。セパレータをこのような構成とすることでナトリウムイオンの伝導性の向上を図ることができ、電極の厚さを一層厚くすることができる。即ち、非水系二次電池の充放電容量の増加を図ることができる。但し、無機化合物粉末層を構成する材料は、βアルミナに限定されず、ベーマイトや、K2O含有アルミナ、酸化ジルコニウム、NaZrOx、NaSiOx、NaPOx等を挙げることもできる。そして、例えば適切なバインダと共に用いることで、セパレータの上に無機化合物粉末層を形成することができる。セパレータを構成するポリオレフィン系材料として、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)といったポリオレフィン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂を挙げることができる。無機化合物粉末層の厚さは、セパレータに要求される耐熱性や、電池容量等を考慮して決定すればよく、例えば、2μm乃至10μm、好ましくは、3μm乃至7μmを例示することができる。場合によっては、セパレータの片面に、ナトリウムイオン伝導性を有する絶縁材料から成る無機化合物粉末層が形成されている形態とすることもできる。無機化合物粉末層には、耐熱性樹脂が含まれていることが好ましい。耐熱性樹脂として、具体的には、主鎖に窒素原子と芳香族環を含む重合体、より具体的には、例えば、芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド等を挙げることができる。セパレータの厚さは、5μm以上、50μm以下であることが好ましく、7μm以上、30μm以下であることがより好ましい。セパレータは、厚すぎると活物質の充填量が低下して電池容量が低下すると共に、イオン伝導性が低下して電流特性が低下する。逆に、薄すぎると、セパレータの機械的強度が低下する。
【0018】
更には、以上に説明した各種の好ましい形態を含む本開示の非水系二次電池において、負極部材の電気容量の値は正極部材の電気容量の値よりも大きい形態とすることが好ましく、また、同じ活物質から構成された正極部材及び負極部材を備えたロッキングチェア型の非水系二次電池を構成すれば、これらによって、負極部材においてナトリウムが析出し難くなる。
【0019】
更には、以上に説明した各種の好ましい形態を含む本開示の正極活物質等において、正極活物質を構成するNaXFeY(SO4Zは、具体的には、Na2Fe2(SO43、Na2Fe(SO43、Na2Fe(SO44、NaFe(SO42、又は、Na2Fe(SO42から成る構成とすることができる。ここで、Na2Fe2(SO43、Na2Fe(SO43、Na2Fe(SO44、NaFe(SO42、Na2Fe(SO42には、ノンストイキオメトリの状態が包含される。
【0020】
更には、以上に説明した各種の好ましい形態、構成を含む本開示の非水系二次電池において、
正極合剤厚さ>負極合剤厚さ>(セパレータの厚さ)×6
を満足し、且つ、
セパレータの面積>負極部材の面積>正極部材の面積、又は、セパレータの幅>負極部材の幅>正極部材の幅
を満足することが好ましい。正極合剤、負極合剤、セパレータの仕様をこのように規定することで、従来の非水系二次電池よりも厚い合剤層によって電極を構成することができる。ところで、電極の厚さを薄くすることで大電流での充放電特性を向上させることができるが、本開示で用いるNASICON型活物質は、ナトリウムイオンのイオン電導性が高く、活物質の電子伝導性も向上しているので、リチウムイオンの場合よりも厚めの合剤の使用が可能である。但し、セパレータの厚さ(例えば、20μm乃至50μm)の6倍を超えると、捲回した電極積層体を作製するに際して、電極(合剤)の割れが発生して活物質の脱落が起こり、また、脱落物により内部短絡等の不具合が発生して、サイクル寿命の短縮が生じる虞があるので、合剤の厚さとして、セパレータ厚さの6倍を目安に実際の非水系二次電池を作製することが望ましい。
【0021】
更には、以上に説明した各種の好ましい形態を含む本開示の非水系二次電池において負極部材には導電材が含まれる形態とすることができる。
【0022】
本開示の正極活物質等において、水素基含有の炭素質層を得るための原料として、ショ糖、植物由来の果糖類、ポリビニルアルコール(PVA)及びその化合物、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の水溶性セルロース誘導体、ポリエチレノキサイド化合物、ポリアクリル酸化合物等を挙げることができ、このような材料は、水に良く溶け、水溶液を容易に得ることができ、正極活物質の表面を容易に、且つ、確実に被覆することができ、好ましい材料である。水素基含有の炭素質層が形成されているか否かは、赤外線分光法に基づき調べることができる。具体的には、「C−H」結合の存在を反射式赤外線分光測定に基づき評価すればよい。即ち、反射式赤外線分光測定に基づき評価したとき、2800cm-1付近に「C−H」振動に起因した吸収が認められれば、炭素質層が水素基を含有していると判断することができる。尚、1000cm-1〜800cm-1には「C=C」振動に起因した吸収が認められる。
【0023】
正極部材を構成する導電材として、例えば、ケッチェンブラック(KB)、気相成長カーボンファイバー、アセチレンブラック(AB)、グラファイトを挙げることができる。また、正極部材を構成する結着剤として、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)といったフッ素系樹脂やこれらのフッ素系樹脂の共重合体、変性物;ポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィン系樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル等のアクリル系樹脂を挙げることができる。フッ化ビニリデンの共重合体として、より具体的には、例えばフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体を挙げることができる。また、上記に例示した共重合体に、更に他のエチレン性不飽和モノマーを共重合させたものを挙げることもできる。正極部材は、更に、正極集電体を備えていてもよい。正極集電体の両面又は片面に正極活物質を含む層(正極活物質層、正極合剤層)が形成される。正極集電体を構成する材料として、例えば、アルミニウム(Al)及びその合金、ニッケル(Ni)及びその合金、銅(Cu)及びその合金、ステンレス鋼から構成することができる。正極集電体には正極リード部が取り付けられている。正極集電体あるいは次に述べる負極集電体の形態として、箔状材料、不織布状材料、網目状材料、多孔体シート状材料、棒状材料、板状材料を例示することができる。正極活物質層や次に述べる負極活物質層は、例えば、塗布法に基づき形成することができる。即ち、粒子(粉末)状の正極活物質あるいは負極活物質を正極結着剤や負極結着剤等と混合した後、混合物を有機溶剤等の溶媒に分散させ、正極集電体や負極集電体に塗布する方法に基づき形成することができる。
【0024】
負極部材を構成する導電材として、例えば、負極活物質としてNaTiO2系材料やNaFeSO4系材料を用いる場合、正極部材を構成する導電材と同様の導電材を用いることができる。また、この他に、負極活物質として炭素材や金属化合物を用いる場合、これらの材料に加えて、ニッケル(Ni)や銅(Cu)の粉末を用いることができる。負極部材は、更に、負極集電体を備えていてもよい。負極集電体の両面又は片面に負極活物質を含む層(負極活物質層、負極合剤層)が形成される。負極集電体を構成する材料として、例えば、銅(Cu)及びその合金、ニッケル(Ni)及びその合金、アルミニウム(Al)及びその合金、ステンレス鋼を挙げることができる。負極集電体の表面は、所謂アンカー効果に基づき負極集電体に対する負極活物質層の密着性を向上させるといった観点から、粗面化されていることが好ましい。この場合、少なくとも負極活物質層を形成すべき負極集電体の領域の表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法として、例えば、電解処理を利用して微粒子を形成する方法を挙げることができる。電解処理とは、電解槽中において電解法を用いて負極集電体の表面に微粒子を形成することで負極集電体の表面に凹凸を設ける方法である。負極集電体には負極リード部が取り付けられている。
【0025】
正極リード部を、スポット溶接又は超音波溶接に基づき、正極集電体に取り付けることができる。正極リード部は金属箔、網目状のものが望ましいが、電気化学的及び化学的に安定であり、導通がとれるものであれば金属でなくともよい。正極リード部の材料として、例えば、アルミニウム(Al)やニッケル(Ni)等を挙げることができる。負極リード部も、スポット溶接又は超音波溶接に基づき、負極集電体に取り付けることができる。負極リード部も金属箔、網目状のものが望ましいが、電気化学的及び化学的に安定であり、導通がとれるものであれば金属でなくともよい。負極リード部の材料として、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)等を挙げることができる。
【0026】
電解質として、ナトリウムイオンを伝導できるNaPF6や、NaBF4、NaAsF6、NaClO4、NaNO3、NaOH、NaCl、Na2SO4、Na2S、NaCF3SO3、NaN(SO2CF32等を、単独で、あるいは又、2種類以上を組み合わせて用いることができる。また、これらを溶解する溶媒として、炭酸エチレンや、炭酸プロピレンや炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、炭酸ジプロピルやγ−ブチルラクトン、炭酸エステル類、ジメチルスルフォキサイド等の溶媒、ポリエーテル化合物、ポリフッ化ビニリデンやポリアクリル酸化合物等の高分子化合物に電解質を溶解させた流動性、非流動性の混合化合物を用いることができる。電解質塩の濃度として、0.5モル/リットル乃至1.5モル/リットルを例示することができる。
【0027】
また、有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)といった環状炭酸エステル;ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、プロピルメチルカーボネート(PMC)、プロピルエチルカーボネート(PEC)といった鎖状炭酸エステル;テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2−MeTHF)、1,3ジオキソラン(DOL)、4−メチル−1,3ジオキソラン(4−MeDOL)といった環状エーテル;1,2ジメトキシエタン(DME)、1,2ジエトキシエタン(DEE)といった鎖状エーテル;γ−ブチロラクトン(GBL)、γ−バレロラクトン(GVL)といった環状エステル;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、酪酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピルといった鎖状エステルを挙げることができる。あるいは又、有機溶媒として、テトラヒドロピラン、1,3ジオキサン、1,4ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、N−メチルピロリジノン(NMP)、N−メチルオキサゾリジノン(NMO)、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、トリメチルホスフェート(TMP)、ニトロメタン(NM)、ニトロエタン(NE)、スルホラン(SL)、メチルスルホラン、アセトニトリル(AN)、アニソール、プロピオニトリル、グルタロニトリル(GLN)、アジポニトリル(ADN)、メトキシアセトニトリル(MAN)、3−メトキシプロピオニトリル(MPN)、ジエチルエーテルを挙げることができる。あるいは又、イオン液体を用いることもできる。イオン液体として、従来公知のものを用いることができ、必要に応じて選択すればよい。
【0028】
非水系電解液及び保持用高分子化合物によって電解質層を構成することもできる。非水系電解液は、例えば、保持用高分子化合物によって保持されている。このような形態における電解質層は、ゲル状電解質であり、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に、非水系電解液の漏液が防止される。電解質は、液系電解質とすることもできるし、ゲル状電解質とすることもできる。
【0029】
保持用高分子化合物として、具体的には、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリカーボネート、塩化ビニルを例示することができる。これらは、単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。また、保持用高分子化合物は共重合体であってもよい。共重合体として、具体的には、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体等を例示することができるが、中でも、電気化学的な安定性といった観点から、単独重合体としてポリフッ化ビニリデンが好ましく、共重合体としてフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体が好ましい。
【0030】
正極部材と負極部材とを、セパレータを介して、多数回、捲回して、渦巻状のあるいは平板状の電極積層体を得ることができる。あるいは又、正極部材と負極部材とを、セパレータを介して、多数回、積層することで、スタックされた状態の電極積層体を得ることができる。
【0031】
非水系二次電池の形状として、円筒型、円盤型、コイン型、角型、平板型、ラミネート型(ラミネートフィルム型)を挙げることができ、外装体として、底部を有する円筒状の電池容器(ケース)、底部を有する角型の電池容器(ケース)、アルミニウム等と樹脂フィルムとのラミネート材料を所定形状に成形したラミネート電池容器(ケース)を挙げることができる。
【0032】
電池容器(電池缶)の材料として、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)等、あるいは、これらの合金、ステンレス鋼(SUS)等を挙げることができる。電池缶には、非水系二次電池の充放電に伴う電気化学的な腐食を防止するために、例えばニッケル等のメッキが施されていることが好ましい。ラミネート型(ラミネートフィルム型)の非水系二次電池における外装部材は、プラスチック材料層(融着層)、金属層及びプラスチック材料層(表面保護層)の積層構造を有する形態、即ち、ラミネートフィルムである形態とすることが好ましい。ラミネートフィルム型の非水系二次電池とする場合、例えば、融着層同士が電極積層体を介して対向するように外装部材を折り畳んだ後、融着層の外周縁部同士を融着する。但し、外装部材は、2枚のラミネートフィルムが接着剤等を介して貼り合わされたものでもよい。融着層は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン、これらの重合体等のオレフィン樹脂のフィルムから成る。金属層は、例えば、アルミニウム箔、ステンレス鋼箔、ニッケル箔等から成る。表面保護層は、例えば、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート等から成る。中でも、外装部材は、ポリエチレンフィルムと、アルミニウム箔と、ナイロンフィルムとがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムであることが好ましい。但し、外装部材は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレン等の高分子フィルムでもよいし、金属フィルムでもよい。
【0033】
本開示の非水系二次電池は、例えば、パーソナルコンピュータ、各種表示装置、PDA(Personal Digital Assistant、携帯情報端末)、携帯電話機、スマートフォン、コードレス電話の親機や子機、ビデオムービー(ビデオカメラやカムコーダ)、デジタルスチルカメラ、電子書籍(電子ブック)や電子新聞等の電子ペーパー、電子辞書、音楽プレーヤ、携帯音楽プレイヤー、ラジオ、携帯用ラジオ、ヘッドホン、ヘッドホンステレオ、ゲーム機、ナビゲーションシステム、メモリカード、心臓ペースメーカー、補聴器、電動工具、電気シェーバー、冷蔵庫、エアコンディショナー、テレビジョン受像機、ステレオ、温水器、電子レンジ、食器洗浄器、洗濯機、乾燥機、室内灯等を含む照明機器、各種電気機器(携帯用電子機器を含む)、玩具、医療機器、ロボット、ロードコンディショナー、信号機、鉄道車両、ゴルフカート、電動カート、電気自動車(ハイブリッド自動車を含む)等の駆動用電源又は補助用電源として使用することができる。また、住宅をはじめとする建築物又は発電設備用の電力貯蔵用電源等に搭載し、あるいは、これらに電力を供給するために使用することができる。電気自動車において、電力を供給することにより電力を駆動力に変換する変換装置は、一般的にはモータである。車両制御に関する情報処理を行う制御装置としては、二次電池の残量に関する情報に基づき、二次電池残量表示を行う制御装置等が含まれる。また、二次電池を、所謂スマートグリッドにおける蓄電装置において用いることもできる。このような蓄電装置は、電力を供給するだけでなく、他の電力源から電力の供給を受けることにより蓄電することができる。他の電力源としては、例えば、火力発電、原子力発電、水力発電、太陽電池、風力発電、地熱発電、燃料電池(バイオ燃料電池を含む)等を用いることができる。
【0034】
非水系二次電池、非水系二次電池に関する制御を行う制御手段、及び、非水系二次電池を内包する外装を有する電池パックにおける非水系二次電池に、本開示の非水系二次電池を適用することができる。この電池パックにおいて、制御手段は、例えば、非水系二次電池に関する充放電、過放電又は過充電の制御を行う。
【0035】
非水系二次電池から電力の供給を受ける電子機器における非水系二次電池に、本開示の非水系二次電池を適用することができる。
【0036】
非水系二次電池から電力の供給を受けて車両の駆動力に変換する変換装置、及び、非水系二次電池に関する情報に基づいて車両制御に関する情報処理を行う制御装置を有する電動車両における非水系二次電池に、本開示の非水系二次電池を適用することができる。この電動車両において、変換装置は、典型的には、非水系二次電池から電力の供給を受けてモータを駆動させ、駆動力を発生させる。モータの駆動には、回生エネルギーを利用することもできる。また、制御装置は、例えば、非水系二次電池の電池残量に基づいて車両制御に関する情報処理を行う。この電動車両には、例えば、電気自動車、電動オートバイ、電動自転車、鉄道車両等の他、所謂ハイブリッド車が含まれる。
【0037】
非水系二次電池から電力の供給を受け、及び/又は、電力源から非水系二次電池に電力を供給するように構成された電力システムにおける非水系二次電池に、本開示の非水系二次電池を適用することができる。この電力システムは、おおよそ電力を使用するものである限り、どのような電力システムであってもよく、単なる電力装置も含む。この電力システムは、例えば、スマートグリッド、家庭用エネルギー管理システム(HEMS)、車両等を含み、蓄電も可能である。
【0038】
非水系二次電池を有し、電力が供給される電子機器が接続されるように構成された電力貯蔵用電源における非水系二次電池に、本開示の非水系二次電池を適用することができる。この電力貯蔵用電源の用途は問わず、基本的にはどのような電力システム又は電力装置にも用いることができるが、例えば、スマートグリッドに用いることができる。
【実施例1】
【0039】
実施例1は、本開示の非水系二次電池(具体的には、ナトリウムイオン二次電池)、並びに、非水系二次電池用の正極活物質及びその製造方法に関する。
【0040】
実施例1、あるいは又、以下に説明する種々の実施例の非水系二次電池用の正極活物質は、NaXFeY(SO4Z(但し、0<X≦3,1≦Y≦3,2≦Z≦4の範囲にある)から成り、水素基含有の炭素質層で表面が被覆されている。
【0041】
また、実施例1、あるいは又、以下に説明する種々の実施例の非水系二次電池(具体的には、ナトリウムイオン二次電池)は、
NaXFeY(SO4Z(但し、0<X≦3,1≦Y≦3,2≦Z≦4の範囲にある)から成る正極活物質、導電材、及び、結着剤を含む正極部材、
ナトリウムイオンが挿入、脱離可能な負極活物質、及び、結着剤を含む負極部材、並びに、
セパレータ、
を備えており、
正極活物質の表面は、水素基含有の炭素質層で被覆されている。
【0042】
ここで、実施例1あるいは以下に説明する種々の実施例(但し、実施例6、実施例7を除く)において、正極活物質を構成するNaXFeY(SO4Zは、具体的には、Na2Fe2(SO43から成る。
【0043】
このように、NaXFeY(SO4Zから正極活物質を構成することで、イオン伝導性の向上を図ることができる結果、リチウムイオン二次電池よりも電極の厚さを厚くすることができる。尚、反応律速は、負極部材でのナトリウムイオンの内部拡散に依存している。そして、初回充電でナトリウムイオンの導通経路が確立されると、その後は、リチウムイオンとほぼ同じようにサイクル推移する。また、実施例1における正極活物質の結晶構造は、ナトリウムイオンの挿入、脱離時にあっても結晶格子間隔の変動が少なく、膨張、収縮はLiFePO4等と同程度に小さい。従って、充放電での結晶構造の崩壊が進まず、長期間、充放電サイクルを繰り返しても、安定した充放電容量を維持することができる。
【0044】
また、負極活物質をハードカーボンから構成することで、あるいは又、NaTiO2系材料やNaFePO4系材料等から構成することで、負極活物質の結晶の空隙にナトリウムイオンを挿入することができ、しかも、負極活物質の結晶の空隙からナトリウムイオンを脱離させることができる、やや大きめの空間結晶構造を付与することができる。
【0045】
以下、実施例1の非水系二次電池用の正極活物質の製造方法及び非水系二次電池の製造方法を説明する。ここで、実施例1の非水系二次電池用の正極活物質の製造方法は、NaXFeY(SO4Z(但し、0<X≦3,1≦Y≦3,2≦Z≦4の範囲にある)から成る、非水系二次電池用の正極活物質の製造方法であって、
正極活物質の表面を炭素系材料で被覆した後、炭素系材料を、不活性ガス雰囲気中、400゜C以下で焼成し、以て、水素基含有の炭素質層で表面が被覆された正極活物質を得る。
【0046】
[工程−100]
先ず、Na2SO4とFeSO4・7H2Oとをモル比率で1:2で計量する。そして、これらを、室温下、3質量%のショ糖を含む水中に分散させながら混合する。次いで、水温を徐々に昇温させ、60゜Cとなったならば60゜Cで約2時間保持し、混合、撹拌を続ける。次に、水温を90゜Cまで昇温させて1時間保持し、混合、撹拌を行った後、室温まで冷却する。その後、混合溶液から固形物を分離するために濾過し、固形物をアルコール中に分散させて洗浄し、その後、固形物を濾過分離した後、固形物を軽く解砕し、粉末状の固形物(正極活物質の表面が炭素系材料で被覆された粉末状の固形物)を得た。次に、粉末状の固形物をアルミナ製の容器に入れて、乾燥装置に搬入し、200゜Cまで昇温して200゜Cで12時間、乾燥空気を流しながら乾燥させた。次いで、電気炉に搬入し、窒素ガスを流しながら、昇温速度5゜C/分で300゜Cまで加熱して300゜Cで6時間保持し、更に、5゜C/分で350゜Cまで昇温して350゜Cで12時間保持し、更に、5゜C/分で380゜Cまで昇温して380゜Cで12時間保持した。そして、その後、5゜C/分で降温して室温付近まで冷却した。こうして、水素基含有の炭素質層(炭素と水素とが共存した所謂生焼け状態の炭素質層)で表面が被覆された正極活物質を得ることができた。尚、好ましい焼成条件として、ナトリウムの酸化を防止するために、不活性ガス雰囲気中で、温度500゜C以下、好ましくは温度400゜C以下、より好ましくは温度300゜C乃至400゜C、12時間乃至24時間を挙げることができる。
【0047】
粉末状の正極活物質は黒色を呈しており、ショ糖が炭素化した状態にあると推定された。即ち、正極活物質の表層には導電性を呈する炭素質層が形成されていると推定された。正極活物質を常湿の大気に曝すと、時間と共に吸湿して水滴状のものが表面に付着した。これは、正極活物質がNaを含む化合物であるために、大気中の水分と反応して形成された化合物であると推定される。尚、ショ糖を含まない溶液に基づき製造した正極活物質は、乳白色に近い色を呈した。
【0048】
正極活物質を、窒素ガスで満たしたグローブボックス内において、瑪瑙製の乳鉢に移して粉砕、撹拌を行った。そして、正極活物質のX線回折データ(XRDデータ)をX線回折装置を用いて採取した。XRDのデータから、Nature Comm. 20140717 に開示されているX線回折ピークに合致する化合物と推定できた。即ち、Na2Fe2(SO43の結晶構造に近似できる回折ピークを有するとの結果が得られた。この正極活物質のCu−Kα線を用いたX線回折での2θ=14度近傍におけるピークの半値幅は0.5度以上であり、具体的には0.5度乃至0.7度であった。
【0049】
[工程−110]
そして、正極活物質91.5質量部と、ケッチェンブラック(KB)から成る導電材3.5質量部と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)から成る結着剤5質量部とを、窒素ガスで満たされたグローブボックス内において計量、混合した。そして、希釈溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(以下、『NMP』と略称する)を加えて、固形分50質量%のスラリー状の正極合剤を得た。次いで、正極合剤を15μm厚さのアルミニウム箔から成る正極集電体の一方の面に塗布し、希釈溶媒を乾燥させて、均一な厚さを有する正極合剤層を得た。同様にして、正極集電体の他方の面にも正極合剤層を形成した。尚、正極集電体の各面(片面)において、正極合剤層の厚さが加圧成形後に170μmとなるように、正極合剤を塗布した。尚、「正極合剤層あるいは負極合剤層の厚さが加圧成形後にLμmとなるように正極合剤あるいは負極合剤を塗布した」とは、非水系二次電池に正極部材あるいは負極部材が組み込まれた状態において正極合剤あるいは負極合剤の厚さがLμmであることを意味する。正極集電体及び正極合剤層から成る正極部材を、所定の幅、長さに裁断し、アルミニウムから成る正極リード部を端部に溶着し、正極部材とした。
【0050】
[工程−120]
一方、負極活物質として、有機物を焼成した難黒鉛化炭素(ハードカーボン)から成る炭素材を用い、炭素材95質量部と、ポリアクリル酸ナトリウム(PAcNa)から成る結着剤5質量部とを混合して、これらの混合物に希釈溶媒としてNMPを固形分50質量%になるように加えてスラリー状の負極合剤を得た。そして、負極合剤を10μm厚さの銅箔から成る負極集電体の一方の面に塗布し、希釈溶媒をゆっくり乾燥させて、均一な厚さの負極合剤層を得た。同様にして、負極集電体の他方の面にも負極合剤層を形成した。尚、負極集電体の各面(片面)において、負極合剤層の厚さが加圧成形後に160μmとなるように、負極合剤を塗布した。負極集電体及び負極合剤層から成る負極部材を、所定の幅、長さに裁断し、ニッケルから成る負極リード部を端部に溶着し、負極部材とした。
【0051】
[工程−130]
正極部材と負極部材とを、セパレータを介して、多数回、捲回して渦巻状の電極積層体を得た。ここで、セパレータは、細孔を有するポリオレフィン系材料(具体的には、厚さ25μmの微多孔性のポリエチレン(PE))から成り、セパレータの両面には、ナトリウムイオン伝導性を有する厚さ5μmの無機化合物粉末層が形成されている。無機化合物粉末層はβアルミナから構成されている。
【0052】
実施例1の円筒型の非水系二次電池(ナトリウムイオン二次電池)の模式的な断面図を図16に示す。実施例1の非水系二次電池にあっては、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、電極積層体(積層構造体)20及び一対の絶縁板12,13が収納されている。
【0053】
電池缶11は、一端部が閉鎖され、他端部が開放された中空構造を有しており、鉄(Fe)やアルミニウム(Al)等から作製されている。電池缶11の表面にはニッケル(Ni)等がメッキされていてもよい。一対の絶縁板12,13は、電極積層体20を挟むと共に、電極積層体20の捲回周面に対して垂直に延在するように配置されている。電池缶11の開放端部には、電池蓋14、安全弁機構15及び熱感抵抗素子(PTC素子、Positive Temperature Coefficient 素子)16がガスケット17を介してかしめられており、これによって、電池缶11は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料から作製されている。安全弁機構15及び熱感抵抗素子16は、電池蓋14の内側に設けられており、安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。安全弁機構15にあっては、内部短絡や、外部からの加熱等に起因して内圧が一定以上になると、ディスク板15Aが反転する。そして、これによって、電池蓋14と電極積層体20との電気的接続が切断される。大電流に起因する異常発熱を防止するために、熱感抵抗素子16の抵抗は温度の上昇に応じて増加する。ガスケット17は、例えば、絶縁性材料から作製されている。ガスケット17の表面にはアスファルト等が塗布されていてもよい。
【0054】
電極積層体20の捲回中心には、センターピン18が挿入されている。但し、センターピン18は、捲回中心に挿入されていなくともよい。正極部材22には、アルミニウム等の導電性材料から作製された正極リード部23が接続されている。負極部材24には、銅等の導電性材料から作製された負極リード部25が接続されている。負極リード部25は、電池缶11に溶接されており、電池缶11と電気的に接続されている。正極リード部23は、安全弁機構15に溶接されていると共に、電池蓋14と電気的に接続されている。尚、図16に示した例では、負極リード部25は1箇所(捲回された電極積層体の最外周部)であるが、2箇所(捲回された電極積層体の最外周部及び最内周部)に設けられている場合もある。電池缶11の内部には、電解液として、NaPF6を1モル/リットル溶解したプロピレンカーボネート:ジエチルカーボネート=1:1の混合液が注入されている。
【0055】
ナトリウムイオン二次電池は、例えば、以下の手順に基づき製造することができる。即ち、先ず、上述したとおり、正極部材22と負極部材24とを、セパレータ26を介して、多数回、捲回して渦巻状の電極積層体を得た。その後、電極積層体20の中心にセンターピン18を挿入する。次いで、一対の絶縁板12,13で電極積層体20を挟みながら、電極積層体20を電池缶11の内部に収納する。この場合、溶接法等を用いて、正極リード部23の先端部を安全弁機構15に取り付けると共に、負極リード部25の先端部を電池缶11に取り付ける。その後、減圧方式に基づき積の内部に電解液を注入して、電解液をセパレータ26に含浸させる。次いで、ガスケット17を介して電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15及び熱感抵抗素子16をかしめる。
【0056】
上記のセパレータは、以下の方法で作製することができる。即ち、NMPに乾燥した無水塩化カルシウムを溶解し、6質量%の塩化カルシウム溶液を調製した。そして、塩化カルシウムのNMP溶液に繊維状の芳香族ポリアミド樹脂(以下、『アラミド樹脂』と呼ぶ)を加えて、アラミド樹脂のNMP溶液を調製した。次いで、アラミド樹脂のNMP溶液に、βアルミナを、アラミド樹脂:アルミナ=40:60(質量比)となるように加えて、βアルミナ(NaO−Al23)を分散させたアラミド溶液を調製した。そして、βアルミナを分散させたアラミド溶液を、厚さ25μmの微多孔性のポリエチレンの一方の面にドクターブレード(合剤塗布用装置)を用いて塗布し、80゜Cの熱風で乾燥し、βアルミナから構成された厚さ5μmの無機化合物粉末層を形成した。更に、同様の方法に基づき、微多孔性のポリエチレンの他方の面にβアルミナから構成された厚さ5μmの無機化合物粉末層を形成した。そして、無機化合物粉末層を純水で十分に水洗して塩化カルシウムを除去すると同時に、無機化合物粉末層に微細孔部を形成し、乾燥した。こうして、微多孔性のポリエチレンの両面に、厚さ5μmの無機化合物粉末層が形成された、耐熱性を有するセパレータを得ることができた。
【0057】
このような両面にナトリウムイオン伝導性を有する無機化合物粉末層(具体的には、βアルミナから構成された無機化合物粉末層)を備えたセパレータを用いることで、重負荷(大電流)での充放電を行うことができる。また、充放電サイクルでの内部抵抗の増加を抑制することができる結果、長期サイクル寿命を達成することができるし、非水系二次電池の内部抵抗を抑制できるので、多数の非水系二次電池を直列接続させたときの抵抗損失を少なくすることができ、組電池としたときの電池容量をより大きくすることができる。しかも、非水系二次電池(セル)の内部で異常が発生した場合であっても、セパレータは耐熱性を有しているので、異常が発生した非水系二次電池以外の非水系二次電池への悪影響を抑制することができ、組電池の安全性を高めることができる。
【0058】
βアルミナから成る無機化合物粉末層には微細孔部が不規則に形成されており、セパレータの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した結果、平均孔径は約0.7μmであり、空隙率は約50%であった。また、使用したβアルミナの粒径分布をパーティクルアナライザで測定した結果、粒径分布は0.1μm乃至2μmであり、粒径分布にピークが存在することが確認された。50%粒子径は0.5μmであった。形成すべき無機化合物粉末層の厚さや、所望の耐熱性を考慮して、使用するβアルミナの粒径を決定すればよい。尚、無機化合物粉末層には繊維状のアラミド樹脂が含まれており、これによって微細孔部を有する無機化合物粉末層を得ることができる。
【0059】
作製した非水系二次電池を、充電電流0.5アンペア、上限電圧4.1ボルトでCC−CV(定電流−定電圧)充電した。そして、放電電流0.5アンペア、終止電圧2.5ボルトとする充放電試験を行った。尚、以下に説明する実施例や比較例においても、同様の条件で充放電試験を行った。
【0060】
[比較例1A]
比較例1Aにあっては、実施例1と同様にして、正極活物質の表面が炭素系材料で被覆された粉末状の固形物を得た。そして、粉末状の固形物を、実施例1と同様にして、アルミナ製の容器に入れて、乾燥装置に搬入し、200゜Cまで昇温して200゜Cで12時間、乾燥空気を流しながら乾燥させた。次いで、電気炉に搬入し、窒素ガスを流しながら昇温速度5゜C/分で300゜Cまで加熱して300゜Cで6時間保持した。以上の操作は、実施例1と同様である。
【0061】
その後、実施例1と異なり、5゜C/分で500゜Cまで昇温して500゜Cで12時間保持し、更に、5゜C/分で600゜Cまで昇温して600゜Cで12時間保持した。その後、5゜C/分で降温して室温付近まで冷却した。こうして、比較例1Aの正極活物質を得た。粉末状の正極活物質は黒色を呈しており、ショ糖が炭素化した状態にあると推定された。即ち、正極活物質の表層には導電性を有する炭素質層が形成されていると推定できた。
【0062】
比較例1Aの正極活物質のXRDデータを、実施例1と同様にして採取した。その結果、Na2Fe2(SO43の結晶構造に近似できる回折ピークを有するとの結果が得られた。しかしながら、比較例1Aの正極活物質のCu−Kα線を用いたX線回折での2θ=14度近傍におけるピークの半値幅は、実施例1と異なり、0.3度未満(具体的には、0.28度)であった。そして、比較例1Aの正極活物質に基づき、実施例1と同様にして非水系二次電池を作製した。
【0063】
[比較例1B]
比較例1Bにあっては、先ず、Na2SO4とFeSO4・7H2Oとをモル比率で1:2で計量する。そして、これらを、室温下、実施例1とは異なり、ケッチェンブラック(KB)が分散された水中に分散させながら混合した。以降、実施例1と同様にして比較例1Bの正極活物質を得た。
【0064】
比較例1Bの正極活物質のXRDデータを、実施例1と同様にして採取した。その結果、Na2Fe2(SO43の結晶構造に近似できる回折ピークを有するとの結果が得られた。また、ケッチェンブラック(KB)のX線回折ピークが測定された。比較例1Bの正極活物質のCu−Kα線を用いたX線回折での2θ=14度近傍におけるピークの半値幅は、実施例1と異なり、0.3度未満(具体的には、0.29度)であった。そして、比較例1Bの正極活物質に基づき、実施例1と同様にして非水系二次電池を作製した。
【0065】
[比較例1C]
比較例1Cにあっては、先ず、比較例1Bと同様に、Na2SO4とFeSO4・7H2Oとをモル比率で1:2で計量する。そして、これらを、室温下、実施例1とは異なり、ケッチェンブラック(KB)が分散された水中に分散させながら混合した。そして、比較例1Bと異なり、以降、比較例1Aと同様にして比較例1Cの正極活物質を得た。
【0066】
比較例1Cの正極活物質のXRDデータを、実施例1と同様にして採取した。その結果、Na2Fe2(SO43の結晶構造に近似できる回折ピークを有するとの結果が得られた。また、ケッチェンブラック(KB)のX線回折ピークが測定された。比較例1Cの正極活物質のCu−Kα線を用いたX線回折での2θ=14度近傍におけるピークの半値幅は、実施例1と異なり、0.3度未満であった。そして、比較例1Cの正極活物質に基づき、実施例1と同様にして非水系二次電池を作製した。
【0067】
実施例1、比較例1A、比較例1B及び比較例1Cの非水系二次電池の初回充放電カーブ(横軸は容量(単位:ミリアンペア・時/グラム)であり、縦軸は電圧(単位:ボルト))を図1Aに示し、充放電サイクル数と放電容量維持率(%)との関係を調べた結果を図1Bに示し、負荷電流(単位:ミリアンペア/cm2)と容量(単位:ミリアンペア・時/グラム)との関係を調べた結果を図2に示す。図1A図1B図2から、実施例1の非水系二次電池は、比較例1A、比較例1B及び比較例1Cの非水系二次電池と比較して、優れた充放電特性を示し、また、長期間、充放電サイクルを繰り返しても、安定した放電容量を維持することができることが判る。
【0068】
炭素質層が水素基を含有しているか否かを、反射式赤外線分光測定に基づき調べた結果を図3A(実施例1)及び図3B(比較例1A)に示す。実施例1の結果を示す図3Aにあっては、2800cm-1付近に「C−H」振動に起因した吸収が明確に認められた。一方、比較例1Aの結果を示す図3Bにあっては、2800cm-1付近に「C−H」振動に起因した吸収が明確には認められない。即ち、実施例1にあっては、水素基含有の炭素質層が形成されていると判断することができるが、比較例1Aにあっては、水素基含有の炭素質層が形成されているとは判断することができない。尚、実施例1、比較例1Aのいずれの場合においても、1000cm-1〜800cm-1には「C=C」振動に起因した吸収が認められた。また、比較例1B及び比較例1Cにあっても、2800cm-1付近に「C−H」振動に起因した吸収が明確には認められなかった。
【0069】
波長513nmのアルゴンレーザ光を用いたラマン分光スペクトルで測定される1580cm-1を中心としたピーク(ピーク強度:I1580)は、黒鉛の六角網面が規則正しく積層された状態を示すものとされている。一方、1360cm-1を中心としたピーク(ピーク強度:I1360)は、六角網面の積層の崩れを示すとされており、この六角網面の積層の崩れは、ナトリウムイオンからみた場合、積層した六角網面の端面で進行する。ここで、R値(=I1360/I1580)が0.65を下回ると(即ち、ピーク強度I1360がピーク強度I1580に対して相対的に小さくなると)、端面の比率が小さく、規則性が高くなる。一方、R値(=I1360/I1580)が1.00を超えると(即ち、ピーク強度I1360がピーク強度I1580より大きくなると)、六角網面が不規則で乱れた構造形態となる。即ち、六角網面の積層の乱れが大きくなり、その結果、大きなイオン半径を有するナトリウムイオンの挿入、脱離反応が可能となる。
【0070】
図4Aに、実施例1の正極活物質のラマン分光スペクトルを示し、図4Bに、比較例1Aの正極活物質のラマン分光スペクトルを示す。実施例1にあっては、炭素質層が水素基を含有している(即ち、炭素と水素が混在している)が故に、六角網面が発達せず、一部に水素残基により黒鉛の結晶性が乱れた不規則性を有する炭素質層(炭素質被覆層)が形成されていると考えられる。一方、比較例1Aにあっては、高い結晶性を示している。実施例1の正極活物質の製造条件と、実施例1の正極活物質の製造条件と同じ条件でショ糖を焼成したときの、炭素と水素の残存比率は94:6の元素比であった。一方、実施例1の正極活物質にあっては、炭素と水素の残存比率は95:5〜92:8の元素比の範囲にあると考えられる。
【0071】
実施例1の非水系二次電池にあっては、
正極合剤厚さ =170μm
負極合剤厚さ =160μm
(セパレータの厚さ)×6=150μm
であり、
正極合剤厚さ>負極合剤厚さ (A)
負極合剤厚さ>(セパレータの厚さ)×6 (B)
を満足している。また、セパレータの面積>負極部材の面積>正極部材の面積、又は、セパレータの幅>負極部材の幅>正極部材の幅とした。
【0072】
[比較例1D]
比較例1Dにおいては、実施例1における正極合剤厚さ及び負極合剤厚さ(単位:μm)を以下の表1のとおり変更した。尚、表1中、「厚さA」は、「(セパレータの厚さ)×6」を示す。
【0073】
〈表1〉
比較例1D−1 比較例1D−2 比較例1D−3
正極合剤厚さ 120 160 110
負極合剤厚さ 110 170 120
厚さA 150 150 150
【0074】
比較例1D−1にあっては、式(B)を満足していない。比較例1D−2にあっては、式(A)を満足していない。比較例1D−3にあっては、式(A)及び式(B)を満足していない。
【0075】
実施例1、比較例1D−1、比較例1D−2及び比較例1D−3の非水系二次電池の放電電流(単位:アンペア)と放電容量(単位:アンペア・時)との関係を調べた結果を図5Aに示し、充放電サイクル数と容量(単位:アンペア・時)との関係を調べた結果を図5Bに示す。実施例1の非水系二次電池は、比較例1D−1、比較例1D−2及び比較例1D−3の非水系二次電池よりも優れた特性を有することが判る。また、式(B)を満足しない場合、特性の低下が大きいことも判る。
【0076】
[実施例1の変形例]
正極活物質の製造時、粉末状の固形物を電気炉に搬入し、窒素ガスを流しながら昇温速度5゜C/分で300゜Cまで加熱して300゜Cで6時間保持し、更に、5゜C/分で350゜Cまで昇温して350゜Cで12時間保持した。その後、380゜Cまで昇温することなく、直ちに、5゜C/分で降温して室温付近まで冷却して、実施例1の変形例の正極活物質を得た。得られた実施例1の変形例の正極活物質のCu−Kα線を用いたX線回折での2θ=14度近傍におけるピークの半値幅は0.4度を超えていた。2800cm-1付近に「C−H」振動に起因した吸収が明確に認められた。そして、この実施例1の変形例の正極活物質に基づき非水系二次電池を作製し、特性を評価したところ、上述した実施例1の非水系二次電池と同等の特性が得られた。
【0077】
また、正極活物質として、その他、Na2Fe(SO43、Na2Fe(SO44、Na3Fe(SO43を用いても、Na2Fe2(SO43と同様の結果を得ることができた。
【0078】
[実施例1の別の変形例]
負極活物質を、NaTiO2あるいはNaFePO4から構成した。そして、正極部材と負極部材を同じ構成とする所謂ロッキングチェア型の非水系二次電池を作製した。正極活物質及び負極活物質の構成を除き、非水系二次電池の構成、構造は、実施例1の非水系二次電池の構成、構造と同じである。そして、作製した非水系二次電池を、充電電流0.5アンペア、上限電圧3.5ボルトでCC−CV(定電流−定電圧)充電した。そして、放電電流0.5アンペア、終止電圧1.5ボルトとする充放電試験を行った。その結果、実施例1の非水系二次電池と同等のサイクル性能が得られた。尚、充放電容量として、実施例1の非水系二次電池の2/3の充放電容量が得られた。また、平均電圧は、実施例1の非水系二次電池よりも0.5ボルト低い結果であった。
【0079】
実施例1の非水系二次電池(具体的には、ナトリウムイオン二次電池)、実施例1の非水系二次電池用の正極活物質、実施例1の非水系二次電池用の正極活物質の製造方法によって得られる正極活物質にあっては、水素基含有の炭素質層で表面が被覆されている。それ故、正極活物質に導電性を付与することができ、しかも、正極活物質へのナトリウムイオンの挿入、脱離が炭素質層によって阻害され難く、円滑な反応を行うことができる結果、正極活物質の結晶構造の崩壊を抑制することができる。また、大電流での充放電でも結晶の安定化を達成することができ、優れた長期信頼性を得ることができる。一方、比較例1A、比較例1B、比較例1Cのように水素基含有ではない炭素質層で表面が被覆されている場合、正極活物質の結晶層間の配列がこのような炭素質層によって固められてしまい、ナトリウムイオンが脱離すると、正極活物質の結晶層の状態が不安定となり、結晶の崩壊が起こり易くなる。
【0080】
しかも、希少元素を含まない非水系二次電池を実現することができ、資源的な制約を無くすことができる。また、ナトリウムイオンを非水系二次電池において使用することができ、高エネルギー密度の非水系二次電池を実現することができる。しかも、金属ナトリウムを用いない非水系二次電池とすることができるが故に、高い安全性を確保することができる。また、正極活物質は、これまでのリチウム(Li)に比較して少ないエネルギーで製造することができ、経済的なメリットが大きい。しかも、充放電電圧がリチウムイオン二次電池と互換性のある領域にあり、リチウムイオン二次電池と相互に利用可能な非水系二次電池を実現することができるが故に、これまでの設計要素を継承でき、制御・設計資産を活用することができ、ほぼ同等の使用条件で電池パック(組電池)に活用することができる。
【実施例2】
【0081】
実施例2は、実施例1の変形である。実施例2にあっては、実施例1と同様にして正極部材を作製した。但し、導電材として、3質量部のケッチェンブラック(KB)の代わりに、3質量部の気相成長カーボンファイバーを用いた。
【0082】
一方、負極活物質として、有機物を焼成した難黒鉛化炭素(ハードカーボン)から成る炭素材を用い、炭素材95質量部と、ポリアクリル酸ナトリウム(PAcNa)から成る結着剤4.5質量部と、カルボキシメチルセルロース(CMC)から成る結着剤0.5質量部とを混合して、これらの混合物に希釈溶媒としてNMPを固形分50質量%になるように加えてスラリー状の負極合剤を得た。そして、実施例1と同様にして負極部材を作製した。更には、この負極部材と実施例2の正極部材とを用いて、実施例1と同様にして実施例2Aの非水系二次電池を得た。
【0083】
また、上記の正極活物質から構成された正極部材と、実施例1において説明した負極部材(結着剤が5質量部のポリアクリル酸ナトリウム(PAcNa)から成る)とを用いて、実施例1と同様にして実施例2Bの非水系二次電池を得た。
【0084】
[比較例2]
比較例2にあっては、負極部材を構成する結着剤として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた。即ち、比較例2においては、負極活物質として難黒鉛化炭素(ハードカーボン)を用い、負極活物質95質量部とポリフッ化ビニリデン(PVDF)から成る結着剤5質量部を用い、これらを混合して、希釈溶媒としてNMPを加えて、固形分50質量%のスラリー状の負極合剤を得た。そして、実施例2Aと同様にして負極部材を作製した。更には、この負極部材と実施例2の正極部材とを用いて、実施例1と同様にして比較例2の非水系二次電池を得た。
【0085】
実施例2A、実施例2B及び比較例2の非水系二次電池の放電電流(単位:アンペア)と放電容量(単位:アンペア・時)との関係を調べた結果を図6Aに示し、充放電サイクル数と容量(単位:アンペア・時)との関係を調べた結果を図6Bに示す。負極部材を構成する結着剤としてPAcNa及びCMCあるいはPAcNaを用いた実施例2A、実施例2Bの非水系二次電池は、安定した充放電を行うことができる。一方、負極部材を構成する結着剤としてPVDFを用いた比較例2の非水系二次電池では、大きな放電電流としたときや、長期間、充放電サイクルを繰り返したとき、放電容量の低下が認められた。
【実施例3】
【0086】
実施例3も、実施例1の変形である。実施例3において、負極活物質は、NaPQTiOR(但し、0<P<0.5,0<Q<0.5,1≦R≦2の範囲にあり、MはNa以外のアルカリ金属元素)から成る。NaPQTiORは、具体的には、Na1.6Li1.60.8Ti512(P=0.32,Q=0.48,R=2.4、Mはリチウム(Li)及びカリウム(K))である。
【0087】
実施例3においては、先ず、実施例1と同様にして正極活物質を得た。そして、正極活物質92質量部と、ケッチェンブラック(KB)から成る導電材3質量部と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)から成る結着剤5質量部とを、窒素ガスで満たしたグローブボックス内において計量、混合した。そして、希釈溶媒としてNMPを加えて、固形分50質量%のスラリー状の正極合剤を得た。次いで、実施例1と同様にして正極部材を得た。
【0088】
一方、負極活物質として、純水に、水酸化リチウム及び水酸化ナトリウムを各々0.4モル、水酸化カリウムを0.2モル溶解した溶液にアナターゼ型酸化チタン1モルを投入し、攪拌し、乾燥させた。そして、この混合物をアルミナ製の容器に入れ、大気中で電気炉内に搬入し、5゜C/分で昇温して780゜Cで10時間保持することで焼成処理を施し、NaとLiとKの割合が0.4:0.4:0.2のスピネル型ナトリウム・リチウム・カリウム・チタン複合酸化物(Na1.6Li1.60.8Ti512)を得た後、瑪瑙製の乳鉢に移して解砕、撹拌を行った。
【0089】
尚、負極活物質であるNaPQTiORの焼成は、680゜C以上、1000゜C以下で、1時間以上、24時間以下程度行えばよく、好ましくは、720゜C以上、800゜C以下で、5時間以上、10時間以下が好ましい。また、焼成雰囲気は大気中で行えばよいし、酸素雰囲気や、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気といった不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。Li等の含有割合「Q」は適宜調整可能である。
【0090】
得られた粉末(負極活物質)のX線回折データ(XRDデータ)をX線回折装置を用いて採取した。その結果を、図7のチャートに示す。
【0091】
負極活物質90質量部と、ケッチェンブラック(KB)から成る導電材5質量部と、結着剤としてカルボキシメチルセルロース4.5質量部とを混合して、希釈溶媒としてカルボキシメチルセルロース(CMC)/ポリアクリル酸ナトリウムイオン5%水溶液を加えて、固形分50質量%のスラリー状の負極合剤を得た。そして、負極合剤を10μm厚さの銅箔から成る負極集電体の一方の面に塗布し、希釈溶媒をゆっくり乾燥させて、均一な厚さの負極合剤層を得た。同様にして、負極集電体の他方の面にも負極合剤層を形成した。負極集電体及び負極合剤層から成る負極部材を、所定の幅、長さに裁断し、ニッケルから成る負極リード部を端部に溶着し、負極部材とした。
【0092】
そして、これらの正極部材と負極部材とを用いて、実施例1と同様にして実施例3の非水系二次電池を得た。得られた実施例3の非水系二次電池にあっては、上述した実施例1の非水系二次電池と同等の特性が得られた。
【0093】
NaPQTiORは、NASICON材料として、ナトリウムイオンの挿入、脱離可能な負極活物質として優れた特性を有しており、予めチタン酸にアルカリ金属を挿入しておくことで、充放電時のナトリウムイオンの拡散、脱離、挿入を円滑に行うことができ、しかも、ナトリウムイオンを析出させること無く充放電を行うことができる優れた材料である。即ち、炭素負極と比較して、急速大電流充電時あるいは低温充電時において、Naの析出が無く、サイクル寿命をより長寿命化できる。これは、NaPQTiORへのナトリウムイオンの拡散が速やかに行われるが故に、ナトリウムの析出が生じ難いからである。
【0094】
実施例1の変形例の正極活物質に基づき、実施例3と同様にして正極部材を得た。そして、この正極部材に基づき、実施例3と同様にして非水系二次電池を得た。得られた非水系二次電池にあっては、上述した実施例1の非水系二次電池と同等の特性が得られた。また、負極活物質として、NaPQTiORの他にも、ハードカーボンや、Si、Si・SiOX、Sn化合物等のナトリウムイオンの挿入、脱離可能な化合物を用いることができるし、また、場合によっては黒鉛炭素等を用いることもでき、これらに基づき得られた負極部材と実施例3の正極部材とを用いて、実施例1と同様にして得られた非水系二次電池にあっても、上述した実施例1の非水系二次電池と同等の特性が得られた。
【実施例4】
【0095】
実施例4は、実施例3の変形である。実施例4においては、実施例3と同様にして正極部材を得た。
【0096】
また、実施例3において説明した負極活物質90質量部と、ケッチェンブラック(KB)から成る導電材5質量部と、ポリアクリル酸ナトリウム(PAcNa)から成る結着剤5質量部とを、ドラフトチャンバー内において計量、混合した。そして、希釈溶媒としてカルボキシメチルセルロース(CMC)5%水溶液を加えて、固形分50質量%のスラリー状の負極合剤を得た。そして、実施例1と同様にして負極部材を作製した。
【0097】
そして、これらの正極部材と負極部材とを用いて、実施例1と同様にして実施例4の非水系二次電池を得た。得られた実施例4の非水系二次電池にあっては、上述した実施例1の非水系二次電池と同等の特性が得られた。
【0098】
[比較例4A]
比較例4Aにおいては、Na2CO3とCo34とを元素比1対1で計量し、乳鉢で混合し、次いで、アルミナ製の容器に入れて、大気中、5゜C/分で昇温して900゜Cで12時間保持した後、CO2ガスを流しながら室温まで冷却することで、正極活物質を得た。その後、軽く解砕した後に、乳鉢で粉砕した。粉末(正極活物質)をX線回折装置で回折パターンを求め、回折ピークデータを取得した。JCPDSのピーク回折強度値と比較することで、NaCoO2と一致する回折パターンであることを確認した。この正極活物質を用いて、実施例4と同様にして非水系二次電池を得た。
【0099】
[比較例4B]
比較例4Bにおいては、正極活物質として、シュウ酸鉄(FeC24)とリン酸水素アンモニウム(NH42PO4)と炭酸ナトリウムとを混合し、ショ糖を含む水溶液を加えて更に混合した。次いで、アルミナ製の容器に入れて、加熱、乾燥した後、窒素ガス中で加熱して300゜Cで12時間での予備焼成を行った。次いで、窒素ガス中で650゜Cの温度で12時間焼成した後、室温まで冷却して、粉末(正極活物質)を得た。粉末を、X線回折装置で回折ピークを測定した。回折ピークはJCPDSのデータと比較することで、NaFePO4とほぼ一致することを確認した。この正極活物質を用いて、実施例4と同様にして非水系二次電池を得た。
【0100】
比較例4Aの非水系二次電池にあっては、正極活物質にNaCoO2を用いているので、室温条件で充放電を繰り返し行うと、50サイクル経過後から充放電容量の低下が始まり、100サイクル経過後から充放電容量が急速に低下し、初期の50%以下に低下してしまった。比較例4Bの非水系二次電池にあっては、正極活物質として650゜C焼成のNaFePO4の表面に炭素質層を形成している。そして、充放電の初期にあっては、実施例4とほぼ同じような充放電サイクルであったが、100サイクル経過後から充放電容量の低下が始まり、200サイクル以降、徐々に充放電容量の低下が顕著となり、300サイクル以降では、実施例4よりも明確な充放電容量の低下が認められ、長期サイクルでの安定性、信頼性が劣る結果となった。
【実施例5】
【0101】
実施例5は、実施例1及び実施例4の変形である。実施例5にあっては、実施例4と同様にして正極部材を作製した。また、実施例1と同様にして負極部材を作製した。
【0102】
[比較例5A]
比較例5Aにおいては、実施例4と同様にして正極部材を作製した。また、実施例1と同様にして負極部材を作製した。セパレータは、実施例1と同様に、細孔を有するポリオレフィン系材料(具体的には、厚さ25μmの微多孔性のポリエチレン)から成るが、実施例1と異なり、セパレータの両面には無機化合物粉末層が形成されていない。そして、これらの正極部材と負極部材とを用いて、実施例1と同様にして比較例5Aの非水系二次電池を得た。
【0103】
[比較例5B]
比較例5Bにおいては、実施例4と同様にして正極部材を作製した。また、実施例1と同様にして負極部材を作製した。セパレータは、実施例1と同様に、細孔を有するポリオレフィン系材料(具体的には、厚さ25μmの微多孔性のポリエチレン)から成るが、実施例1と異なり、セパレータの両面には、αアルミナから成る無機化合物粉末層が形成されている。そして、これらの正極部材と負極部材とを用いて、実施例1と同様にして比較例5Bの非水系二次電池を得た。
【0104】
尚、比較例5Bにおけるセパレータは、以下の方法で作製することができる。即ち、NMPに乾燥した無水塩化カルシウムを溶解し、6質量%の塩化カルシウム溶液を調製した。そして、塩化カルシウムのNMP溶液に繊維状のアラミド樹脂を加えて、アラミド樹脂のNMP溶液を調製した。次いで、アラミド樹脂のNMP溶液に、αアルミナを、アラミド樹脂:アルミナ=40:60(質量比)となるように加えて、αアルミナ(純Al23)を分散させたアラミド溶液を調製した。そして、αアルミナを分散させたアラミド溶液を、厚さ16μmの微多孔性のポリエチレンの一方の面にドクターブレード(合剤塗布用装置)を用いて塗布し、80゜Cの熱風で乾燥し、αアルミナから構成された厚さ4μm無機化合物粉末層を形成した。更に、同様の方法に基づき、微多孔性のポリエチレンの他方の面にαアルミナから構成された厚さ4μmの無機化合物粉末層を形成した。そして、無機化合物粉末層を純水で十分に水洗して塩化カルシウムを除去すると同時に、無機化合物粉末層に微細孔部を形成し、乾燥した。こうして、微多孔性のポリエチレンの両面に、厚さ4μmの無機化合物粉末層が形成され、耐熱性を有する比較例5Bにおけるセパレータを得ることができた。
【0105】
αアルミナから成る無機化合物粉末層には微細孔部が不規則に形成されており、セパレータの断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した結果、平均孔径は約0.5μmであり、空隙率は約45%であった。また、使用したαアルミナの粒径分布をパーティクルアナライザで測定した結果、50%粒子径は0.4μmであった。
【0106】
実施例5、比較例5A及び比較例5Bの非水系二次電池の初回充放電カーブ(横軸は容量(単位:ミリアンペア・時/グラム)であり、縦軸は電圧(単位:ボルト))を図8Aに示し、充放電サイクル数と容量(単位:ミリアンペア・時/グラム)との関係を調べた結果を図8Bに示す。また、実施例5、比較例5A及び比較例5Bの非水系二次電池の負荷電流(単位:ミリアンペア/cm2)と容量(単位:ミリアンペア・時/グラム)との関係を調べた結果を図9に示す。尚、図8Aにおいて実施例5と比較例5Aのデータは重なっている。実施例5の非水系二次電池の初期特性は、比較例5Aの非水系二次電池の初期特性と同等であり、比較例5Bの非水系二次電池の初期特性よりも優れている。また、実施例5の非水系二次電池は安定して充放電を行うことができ、比較例5A、比較例5Bよりも優れた特性を示している。
【実施例6】
【0107】
実施例6は、実施例1〜実施例5の変形である。実施例1にあっては、正極活物質を構成するNaXFeY(SO4ZをNa2Fe2(SO43とした。一方、実施例6にあっては、正極活物質を構成するNaXFeY(SO4Zは、具体的には、NaFe(SO42から成る。
【0108】
以下、実施例6の非水系二次電池用の正極活物質の製造方法及び非水系二次電池の製造方法を説明する。
【0109】
先ず、Na2SO4とFeSO4・7H2Oとをモル比率で1:2で計量する。そして、これらを、室温下、3質量%のショ糖を含む水中に分散させながら混合する。次いで、水温を徐々に昇温させ、60゜Cとなったならば60゜Cで約2時間保持し、混合、撹拌を続ける。次に、水温を90゜Cまで昇温させて1時間保持し、混合、撹拌を行った後、室温まで冷却する。その後、混合溶液から固形物を分離するために濾過し、固形物をアルコール中に分散させて洗浄し、その後、固形物を濾過分離した後、固形物を軽く解砕し、粉末状の固形物(正極活物質の表面が炭素系材料で被覆された粉末状の固形物)を得た。次に、粉末状の固形物をアルミナ製の容器に入れて、乾燥装置に搬入し、200゜Cまで昇温して200゜Cで12時間、乾燥空気を流しながら乾燥させた。次いで、電気炉に搬入し、窒素ガスを流しながら、昇温速度5゜C/分で300゜Cまで加熱して300゜Cで6時間保持し、更に、5゜C/分で350゜Cまで昇温して350゜Cで12時間保持し、更に、5゜C/分で380゜Cまで昇温して380゜Cで12時間保持した。そして、その後、5゜C/分で降温して室温付近まで冷却した。こうして、水素基含有の炭素質層(炭素と水素とが共存した所謂生焼け状態の炭素質層)で表面が被覆された正極活物質を得ることができた。
【0110】
正極活物質を、窒素ガスで満たしたグローブボックス内において、瑪瑙製の乳鉢に移して粉砕、撹拌を行った。そして、正極活物質のX線回折データ(XRDデータ)をX線回折装置を用いて採取した。XRDのデータから、Energy & Environmental Science, "Eldfellite, NaFe(SO4)2: an intercalation cathode host for low-cost Na-ion batteries", 2015.Vol10. (2015.9.2, web published) に開示されているX線回折ピークに合致する化合物と推定できた。即ち、NaFe(SO42の結晶構造に近似できる回折ピークを有するとの結果が得られた。この正極活物質のCu−Kα線を用いたX線回折での2θ=14度近傍におけるピークの半値幅は0.5度以上であり、具体的には0.5度乃至0.7度であった。
【0111】
そして、実施例1の[工程−110]と同様にして、正極部材を作製した。また、実施例1の[工程−120]と同様にして、負極部材を作製した。次いで、実施例1の[工程−130]と同様にして、捲回して渦巻状の電極積層体を得た。そして、更には、実施例1と同様にして、ナトリウムイオン二次電池を得た。
【0112】
[比較例6A]
比較例6Aにあっては、先ず、Na2SO4とFeSO4・7H2Oとをモル比率で1:2で計量する。そして、これらを、室温下、実施例6とは異なり、ケッチェンブラック(KB)が分散された水中に分散させながら混合した。以降、実施例6と同様にして比較例6Aの正極活物質を得た。そして、比較例6Aの正極活物質に基づき、実施例6と同様にして非水系二次電池を作製した。
【0113】
[比較例6B]
比較例6Bにあっては、実施例6と同様にして、正極活物質の表面が炭素系材料で被覆された粉末状の固形物を得た。そして、粉末状の固形物を、実施例6と同様にして、アルミナ製の容器に入れて、乾燥装置に搬入し、200゜Cまで昇温して200゜Cで12時間、乾燥空気を流しながら乾燥させた。次いで、電気炉に搬入し、窒素ガスを流しながら昇温速度5゜C/分で300゜Cまで加熱して300゜Cで6時間保持した。以上の操作は、実施例6と同様である。その後、実施例6と異なり、5゜C/分で500゜Cまで昇温して500゜Cで12時間保持し、更に、5゜C/分で600゜Cまで昇温して600゜Cで12時間保持した。その後、5゜C/分で降温して室温付近まで冷却した。こうして、比較例6Bの正極活物質を得た。粉末状の正極活物質は黒色を呈しており、ショ糖が炭素化した状態にあると推定された。即ち、正極活物質の表層には導電性を有する炭素質層が形成されていると推定できた。そして、比較例6Bの正極活物質に基づき、実施例6と同様にして非水系二次電池を作製した。
【実施例7】
【0114】
実施例7も、実施例1〜実施例5の変形である。実施例7にあっては、正極活物質を構成するNaXFeY(SO4Zは、具体的には、Na2Fe(SO42から成る。
【0115】
以下、実施例7の非水系二次電池用の正極活物質の製造方法及び非水系二次電池の製造方法を説明する。
【0116】
先ず、Na2SO4とFeSO4・7H2Oとをモル比率で1:1で計量する。そして、これらを、室温下、3質量%のショ糖を含む水中に分散させながら混合する。次いで、水温を徐々に昇温させ、60゜Cとなったならば60゜Cで約2時間保持し、混合、撹拌を続ける。次に、水温を90゜Cまで昇温させて1時間保持し、混合、撹拌を行った後、室温まで冷却する。その後、混合溶液から固形物を分離するために濾過し、固形物をアルコール中に分散させて洗浄し、その後、固形物を濾過分離した後、固形物を軽く解砕し、粉末状の固形物(正極活物質の表面が炭素系材料で被覆された粉末状の固形物)を得た。次に、粉末状の固形物をアルミナ製の容器に入れて、乾燥装置に搬入し、200゜Cまで昇温して200゜Cで12時間、乾燥空気を流しながら乾燥させた。次いで、電気炉に搬入し、窒素ガスを流しながら、昇温速度5゜C/分で300゜Cまで加熱して300゜Cで6時間保持し、更に、5゜C/分で350゜Cまで昇温して350゜Cで12時間保持し、更に、5゜C/分で380゜Cまで昇温して380゜Cで12時間保持した。そして、その後、5゜C/分で降温して室温付近まで冷却した。こうして、水素基含有の炭素質層(炭素と水素とが共存した所謂生焼け状態の炭素質層)で表面が被覆された正極活物質を得ることができた。
【0117】
正極活物質を、窒素ガスで満たしたグローブボックス内において、瑪瑙製の乳鉢に移して粉砕、撹拌を行った。そして、正極活物質のX線回折データ(XRDデータ)をX線回折装置を用いて採取した。XRDのデータから、特表2015−515084号に開示されているX線回折ピークに合致する化合物と推定できた。即ち、Na2Fe(SO42の結晶構造に近似できる回折ピークを有するとの結果が得られた。この正極活物質のCu−Kα線を用いたX線回折での2θ=14度近傍におけるピークの半値幅は0.5度以上であり、具体的には0.5度乃至0.7度であった。
【0118】
そして、実施例1の[工程−110]と同様にして、正極部材を作製した。また、実施例1の[工程−120]と同様にして、負極部材を作製した。次いで、実施例1の[工程−130]と同様にして、捲回して渦巻状の電極積層体を得た。そして、更には、実施例1と同様にして、ナトリウムイオン二次電池を得た。
【0119】
[比較例7]
比較例7にあっては、先ず、Na2SO4とFeSO4・7H2Oとをモル比率で1:1で計量する。そして、これらを、室温下、実施例7とは異なり、ケッチェンブラック(KB)が分散された水中に分散させながら混合した。以降、実施例7と同様にして比較例7の正極活物質を得た。そして、比較例7の正極活物質に基づき、実施例7と同様にして非水系二次電池を作製した。
【0120】
実施例6及び比較例6Aの非水系二次電池の初回充放電カーブ(横軸は容量(単位:ミリアンペア・時/グラム)であり、縦軸は電圧(単位:ボルト))を図10Aに示し、充放電サイクル数と放電容量維持率(%)との関係を調べた結果を図10Bに示し、負荷電流(単位:ミリアンペア/cm2)と容量(単位:ミリアンペア・時/グラム)との関係を調べた結果を図11に示すが、実施例6の非水系二次電池は、比較例6Aの非水系二次電池と比較して、優れた充放電特性を示し、また、長期間、充放電サイクルを繰り返しても、安定した放電容量を維持することができることが判る。
【0121】
また、実施例7及び比較例7の非水系二次電池の初回充放電カーブ(横軸は容量(単位:ミリアンペア・時/グラム)であり、縦軸は電圧(単位:ボルト))を図12Aに示し、充放電サイクル数と放電容量維持率(%)との関係を調べた結果を図12Bに示し、負荷電流(単位:ミリアンペア/cm2)と容量(単位:ミリアンペア・時/グラム)との関係を調べた結果を図13に示すが、実施例7の非水系二次電池は、比較例7の非水系二次電池と比較して、優れた充放電特性を示し、また、長期間、充放電サイクルを繰り返しても、安定した放電容量を維持することができることが判る。
【0122】
炭素質層が水素基を含有しているか否かを、反射式赤外線分光測定に基づき調べた結果を図14A(実施例6)及び図14B(比較例6B)に示す。実施例6の結果を示す図14Aにあっては、2800cm-1付近に「C−H」振動に起因した吸収が明確に認められた。一方、比較例6Bの結果を示す図14Bにあっては、2800cm-1付近に「C−H」振動に起因した吸収が明確には認められない。即ち、実施例6にあっては、水素基含有の炭素質層が形成されていると判断することができるが、比較例6Bにあっては、水素基含有の炭素質層が形成されているとは判断することができない。尚、実施例6、比較例6Bのいずれの場合においても、1000cm-1〜800cm-1には「C=C」振動に起因した吸収が認められた。
【0123】
図15Aに、実施例6の正極活物質のラマン分光スペクトルを示し、図15Bに、実施例7の正極活物質のラマン分光スペクトルを示す。実施例6及び実施例7にあっては、炭素質層が水素基を含有している(即ち、炭素と水素が混在している)が故に、実施例1において説明したと同様に、六角網面が発達せず、一部に水素残基により黒鉛の結晶性が乱れた不規則性を有する炭素質層(炭素質被覆層)が形成されていると考えられる。
【0124】
実施例6において説明した正極活物質NaFe(SO42、及び、実施例7において説明した正極活物質Na2Fe(SO42を、実施例3、実施例4、実施例5において説明した非水系二次電池の正極部材に適用したところ、実施例3、実施例4、実施例5と同様の結果が得られた。
【実施例8】
【0125】
実施例8は、実施例1〜実施例5の変形であり、平板型のラミネートフィルム型のナトリウムイオン二次電池から成り、正極部材、セパレータ及び負極部材が捲回されている。ナトリウムイオン二次電池の模式的な分解斜視図を図17及び図18Aに示し、図18Aに示す電極積層体(積層構造体)の矢印A−Aに沿った模式的な拡大断面図(YZ平面に沿った模式的な拡大断面図)を図18Bに示す。
【0126】
実施例8のナトリウムイオン二次電池にあっては、ラミネートフィルムから成る外装部材300の内部に、基本的に実施例1〜実施例5と同様の電極積層体20が収納されている。電極積層体20は、セパレータ26及び電解質層27を介して正極部材22と負極部材24とを積層した後、この積層構造体を捲回することで作製することができる。正極部材22には正極リード部23が取り付けられており、負極部材24には負極リード部25が取り付けられている。電極積層体20の最外周部は、保護テープ28によって保護されている。
【0127】
正極リード部23及び負極リード部25は、外装部材300の内部から外部に向かって同一方向に突出している。正極リード部23は、アルミニウム等の導電性材料から形成されている。負極リード部25は、銅、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性材料から形成されている。これらの導電性材料は、例えば、薄板状又は網目状である。
【0128】
外装部材300は、図17に示す矢印Rの方向に折り畳み可能な1枚のフィルムであり、外装部材300の一部には、電極積層体20を収納するための窪み(エンボス)が設けられている。外装部材300は、例えば、融着層と、金属層と、表面保護層とがこの順に積層されたラミネートフィルムである。ナトリウムイオン二次電池の製造工程では、融着層同士が電極積層体20を介して対向するように外装部材300を折り畳んだ後、融着層の外周縁部同士を融着する。但し、外装部材300は、2枚のラミネートフィルムが接着剤等を介して貼り合わされたものでもよい。融着層は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のフィルムから成る。金属層は、例えば、アルミニウム箔等から成る。表面保護層は、例えば、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート等から成る。中でも、外装部材300は、ポリエチレンフィルムと、アルミニウム箔と、ナイロンフィルムとがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムであることが好ましい。但し、外装部材300は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレン等の高分子フィルムでもよいし、金属フィルムでもよい。具体的には、ナイロンフィルム(厚さ30μm)と、アルミニウム箔(厚さ40μm)と、無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ30μm)とが外側からこの順に積層された耐湿性のアルミラミネートフィルム(総厚100μm)から成る。
【0129】
外気の侵入を防止するために、外装部材300と正極リード部23との間、及び、外装部材300と負極リード部25との間には、密着フィルム301が挿入されている。密着フィルム301は、正極リード部23及び負極リード部25に対して密着性を有する材料、例えば、ポリオレフィン系樹脂等、より具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂から成る。
【0130】
図18Bに示すように、正極部材22は、正極集電体22Aの片面又は両面に正極活物質層22Bを有している。また、負極部材24は、負極集電体24Aの片面又は両面に負極活物質層24Bを有している。
【実施例9】
【0131】
実施例9においては、本開示の非水系二次電池の適用例について説明する。
【0132】
本開示の非水系二次電池の用途は、本開示の非水系二次電池を駆動用・作動用の電源又は電力蓄積用の電力貯蔵源として利用可能な機械、機器、器具、装置、システム(複数の機器等の集合体)であれば、特に限定されない。電源として使用される非水系二次電池(具体的には、ナトリウムイオン二次電池)は、主電源(優先的に使用される電源)であってもよいし、補助電源(主電源に代えて、又は、主電源から切り換えて使用される電源)であってもよい。ナトリウムイオン二次電池を補助電源として使用する場合、主電源はナトリウムイオン二次電池に限られない。
【0133】
本開示の非水系二次電池(具体的には、ナトリウムイオン二次電池)の用途として、前述したように、具体的には、ビデオカメラやカムコーダ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、パーソナルコンピュータ、テレビジョン受像機、各種表示装置、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、音楽プレーヤ、携帯用ラジオ、電子ブックや電子新聞等の電子ペーパー、PDA(Personal Digital Assistant)を含む携帯用情報端末といった各種電子機器、電気機器(携帯用電子機器を含む);玩具;電気シェーバ等の携帯用生活器具;室内灯等の照明器具;ペースメーカや補聴器等の医療用電子機器;メモリカード等の記憶用装置;着脱可能な電源としてパーソナルコンピュータ等に用いられる電池パック;電動ドリルや電動鋸等の電動工具;非常時等に備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステム等の電力貯蔵システムやホームエネルギーサーバ(家庭用蓄電装置);蓄電ユニットやバックアップ電源;電動自動車、電動オートバイ、電動自転車、セグウェイ(登録商標)等の電動車両;航空機や船舶の電力駆動力変換装置(具体的には、例えば、動力用モータ)の駆動を例示することができるが、これらの用途に限定するものではない。
【0134】
中でも、本開示の非水系二次電池(具体的には、ナトリウムイオン二次電池)は、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具、電子機器、電気機器等に適用されることが有効である。優れた電池特性が要求されるため、本開示のナトリウムイオン二次電池を用いることで、有効に性能向上を図ることができる。電池パックは、ナトリウムイオン二次電池を用いた電源であり、所謂組電池等である。電動車両は、ナトリウムイオン二次電池を駆動用電源として作動(走行)する車両であり、非水系二次電池以外の駆動源を併せて備えた自動車(ハイブリッド自動車等)であってもよい。電力貯蔵システムは、ナトリウムイオン二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源であるナトリウムイオン二次電池に電力が蓄積されているため、電力を利用して家庭用の電気製品等が使用可能となる。電動工具は、ナトリウムイオン二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリル等)が可動する工具である。電子機器や電気機器は、ナトリウムイオン二次電池を作動用の電源(電力供給源)として各種機能を発揮する機器である。
【0135】
以下、ナトリウムイオン二次電池の幾つかの適用例について具体的に説明する。尚、以下で説明する各適用例の構成は、あくまで一例であり、構成は適宜変更可能である。
【0136】
単電池を用いた電池パックを分解した模式的な斜視図を図19に示し、電池パック(単電池)の構成を表すブロック図を図20Aに示す。電池パックは、1つのナトリウムイオン二次電池を用いた簡易型の電池パック(所謂ソフトパック)であり、例えば、スマートフォンに代表される電子機器等に搭載される。電池パックは、実施例1〜実施例8(図示した例では、実施例8)のナトリウムイオン二次電池から成る電源301、及び、電源301に接続された回路基板305を備えている。電源301には、正極リード部23及び負極リード部25が取り付けられている。
【0137】
電源301の両側面には、一対の粘着テープ307が貼り付けられている。回路基板305には、保護回路(PCM:Protection Circuit Module)が設けられている。回路基板305は、タブ304Aを介して正極リード部23に接続され、タブ304Bを介して負極リード部25に接続されている。また、回路基板305には、外部接続用のコネクタ付きリード線306が接続されている。回路基板305が電源301に接続された状態において、回路基板305は、ラベル308及び絶縁シート309によって上下から保護されている。ラベル308を貼り付けることで、回路基板305及び絶縁シート309は固定される。回路基板305は、制御部41、スイッチ部42、PTC素子43、温度検出部44、及び、温度検出素子44Aを備えている。電源301は、正極端子45A及び負極端子45Bを介して外部と接続可能であり、充放電される。電源301は、正極端子45A及び負極端子45Bを介して充放電される。温度検出部44は、温度検出素子44Aを介して温度を検出可能である。
【0138】
電池パック全体の動作(電源301の使用状態を含む)を制御する制御部41には、中央演算処理装置(CPU)及びメモリ等が備えられている。制御部41は、電池電圧が過充電検出電圧に到達すると、スイッチ部42を切断することで、電源301の電流経路に充電電流が流れないようにする。また、制御部41は、充電時において大電流が流れると、スイッチ部42を切断し、充電電流を遮断する。その他、制御部41は、電池電圧が過放電検出電圧に到達すると、スイッチ部42を切断することで、電源301の電流経路に放電電流が流れないようにする。また、制御部41は、放電時において大電流が流れると、スイッチ部42を切断し、放電電流を遮断する。
【0139】
ナトリウムイオン二次電池の過充電検出電圧は、例えば、4.20ボルト±0.05ボルトであり、過放電検出電圧は、例えば、2.4ボルト±0.1ボルトである。
【0140】
スイッチ部42は、制御部41の指示に応じて、電源301の使用状態(電源301と外部機器との接続の可否)を切り換える。スイッチ部42には、充電制御スイッチ及び放電制御スイッチ等が備えられている。充電制御スイッチ及び放電制御スイッチは、例えば、金属酸化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(MOSFET)等の半導体スイッチから成る。充放電電流は、例えば、スイッチ部42のオン抵抗に基づいて検出される。サーミスタ等の温度検出素子44Aを備えた温度検出部44は、電源301の温度を測定し、測定結果を制御部41に出力する。温度検出部44の測定結果は、異常発熱時における制御部41による充放電制御、制御部41による残容量算出時における補正処理等に用いられる。回路基板305にはPTC素子43が備えられていなくともよく、この場合、別途、回路基板305にPTC素子を配設すればよい。
【0141】
次に、図20Aに示したとは別の電池パック(組電池)の構成を表すブロック図を図20Bに示す。この電池パックは、例えば、プラスチック材料等から作製された筐体50の内部に、制御部51、メモリ52、電圧検出部53、電流測定部54、電流検出抵抗器54A、温度検出部55、温度検出素子55A、スイッチ制御部56、スイッチ部57、電源58、正極端子59A、及び、負極端子59Bを備えている。
【0142】
制御部51は、電池パック全体の動作(電源58の使用状態を含む)を制御し、例えば、CPU等を備えている。電源58は、例えば、実施例1〜実施例8において説明した2以上のナトリウムイオン二次電池(図示せず)を含む組電池であり、ナトリウムイオン二次電池の接続形式は、直列でもよいし、並列でもよいし、双方の混合型でもよい。一例を挙げると、電源58は、2並列3直列となるように接続された6つのナトリウムイオン二次電池を備えている。
【0143】
スイッチ部57は、制御部51の指示に応じて電源58の使用状態(電源58と外部機器との接続の可否)を切り換える。スイッチ部57には、例えば、充電制御スイッチ、放電制御スイッチ、充電用ダイオード及び放電用ダイオード(いずれも図示せず)が備えられている。充電制御スイッチ及び放電制御スイッチは、例えば、MOSFET等の半導体スイッチから成る。
【0144】
電流測定部54は、電流検出抵抗器54Aを用いて電流を測定し、測定結果を制御部51に出力する。温度検出部55は、温度検出素子55Aを用いて温度を測定し、測定結果を制御部51に出力する。温度測定結果は、例えば、異常発熱時における制御部51による充放電制御、制御部51による残容量算出時における補正処理等に用いられる。電圧検出部53は、電源58中におけるナトリウムイオン二次電池の電圧を測定し、測定電圧をアナログ−デジタル変換して制御部51に供給する。
【0145】
スイッチ制御部56は、電流測定部54及び電圧検出部53から入力される信号に応じて、スイッチ部57の動作を制御する。スイッチ制御部56は、例えば、電池電圧が過充電検出電圧に到達した場合に、スイッチ部57(充電制御スイッチ)を切断して、電源58の電流経路に充電電流が流れないように制御する。これによって、電源58では、放電用ダイオードを介した放電のみが可能になる。また、スイッチ制御部56は、例えば、充電時に大電流が流れた場合に、充電電流を遮断する。更には、スイッチ制御部56は、例えば、電池電圧が過放電検出電圧に到達した場合に、スイッチ部57(放電制御スイッチ)を切断して、電源58の電流経路に放電電流が流れないようにする。これによって、電源58では、充電用ダイオードを介した充電のみが可能になる。また、スイッチ制御部56は、例えば、放電時に大電流が流れた場合に、放電電流を遮断する。
【0146】
ナトリウムイオン二次電池の過充電検出電圧は、例えば、4.20ボルト±0.05ボルトであり、過放電検出電圧は、例えば、2.4ボルト±0.1ボルトである。
【0147】
メモリ52は、例えば、不揮発性メモリであるEEPROM等から成る。メモリ52には、例えば、制御部51によって演算された数値や、製造工程段階で測定されたナトリウムイオン二次電池の情報等(例えば、初期状態の内部抵抗等)が記憶されている。メモリ52にナトリウムイオン二次電池の満充電容量を記憶させておけば、制御部51が残容量等の情報を把握することが可能となる。サーミスタ等から成る温度検出素子55Aは、電源58の温度を測定し、測定結果を制御部51に出力する。正極端子59A及び負極端子59Bは、電池パックによって作動させられる外部機器(例えばパーソナルコンピュータ等)や、電池パックを充電するために用いられる外部機器等(例えば充電器等)に接続される端子である。電源58の充放電は、正極端子59A及び負極端子59Bを介して行われる。
【0148】
次に、電動車両の一例であるハイブリッド自動車といった電動車両の構成を表すブロック図を図21Aに示す。電動車両は、例えば、金属製の筐体60の内部に、制御部61、各種センサ62、電源63、エンジン71、発電機72、インバータ73,74、駆動用のモータ75、差動装置76、トランスミッション77及びクラッチ78を備えている。その他、電動車両は、例えば、差動装置76や、トランスミッション77に接続された前輪81、前輪用駆動軸82、後輪83、後輪用駆動軸84を備えている。
【0149】
電動車両は、例えば、エンジン71又はモータ75のいずれか一方を駆動源として走行可能である。エンジン71は、主要な動力源であり、例えば、ガソリンエンジン等である。エンジン71を動力源とする場合、エンジン71の駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置76、トランスミッション77及びクラッチ78を介して前輪81又は後輪83に伝達される。エンジン71の回転力は発電機72にも伝達され、回転力を利用して発電機72が交流電力を発生させ、交流電力はインバータ74を介して直流電力に変換され、電源63に蓄積される。一方、変換部であるモータ75を動力源とする場合、電源63から供給された電力(直流電力)がインバータ73を介して交流電力に変換され、交流電力を利用してモータ75を駆動する。モータ75によって電力から変換された駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置76、トランスミッション77及びクラッチ78を介して前輪81又は後輪83に伝達される。
【0150】
図示しない制動機構を介して電動車両が減速すると、減速時の抵抗力がモータ75に回転力として伝達され、その回転力を利用してモータ75が交流電力を発生させるようにしてもよい。交流電力はインバータ73を介して直流電力に変換され、直流回生電力は電源63に蓄積される。
【0151】
制御部61は、電動車両全体の動作を制御するものであり、例えば、CPU等を備えている。電源63は、実施例1〜実施例8において説明した1又は2以上のナトリウムイオン二次電池(図示せず)を備えている。電源63は、外部電源と接続され、外部電源から電力供給を受けることで電力を蓄積する構成とすることもできる。各種センサ62は、例えば、エンジン71の回転数を制御すると共に、図示しないスロットルバルブの開度(スロットル開度)を制御するために用いられる。各種センサ62は、例えば、速度センサ、加速度センサ、エンジン回転数センサ等を備えている。
【0152】
尚、電動車両がハイブリッド自動車である場合について説明したが、電動車両は、エンジン71を用いずに電源63及びモータ75だけを用いて作動する車両(電気自動車)でもよい。
【0153】
次に、電力貯蔵システムの構成を表すブロック図を図21Bに示す。電力貯蔵システムは、例えば、一般住宅及び商業用ビル等の家屋90の内部に、制御部91、電源92、スマートメータ93、及び、パワーハブ94を備えている。
【0154】
電源92は、例えば、家屋90の内部に設置された電気機器(電子機器)95に接続されていると共に、家屋90の外部に停車している電動車両97に接続可能である。また、電源92は、例えば、家屋90に設置された自家発電機96にパワーハブ94を介して接続されていると共に、スマートメータ93及びパワーハブ94を介して外部の集中型電力系統98に接続可能である。電気機器(電子機器)95は、例えば、1又は2以上の家電製品を含んでいる。家電製品として、例えば、冷蔵庫、エアコンディショナー、テレビジョン受像機、給湯器等を挙げることができる。自家発電機96は、例えば、太陽光発電機や風力発電機等から構成されている。電動車両97として、例えば、電動自動車、ハイブリッド自動車、電動オートバイ、電動自転車、セグウェイ(登録商標)等を挙げることができる。集中型電力系統98として、商用電源、発電装置、送電網、スマートグリッド(次世代送電網)を挙げることができるし、また、例えば、火力発電所、原子力発電所、水力発電所、風力発電所等を挙げることもできるし、集中型電力系統98に備えられた発電装置として、種々の太陽電池、燃料電池、風力発電装置、マイクロ水力発電装置、地熱発電装置等を例示することができるが、これらに限定するものではない。
【0155】
制御部91は、電力貯蔵システム全体の動作(電源92の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPU等を備えている。電源92は、実施例1〜実施例8において説明した1又は2以上のナトリウムイオン二次電池(図示せず)を備えている。スマートメータ93は、例えば、電力需要側の家屋90に設置されるネットワーク対応型の電力計であり、電力供給側と通信可能である。そして、スマートメータ93は、例えば、外部と通信しながら、家屋90における需要・供給のバランスを制御することで、効率的で安定したエネルギー供給が可能となる。
【0156】
この電力貯蔵システムでは、例えば、外部電源である集中型電力系統98からスマートメータ93及びパワーハブ94を介して電源92に電力が蓄積されると共に、独立電源である自家発電機96からパワーハブ94を介して電源92に電力が蓄積される。電源92に蓄積された電力は、制御部91の指示に応じて電気機器(電子機器)95及び電動車両97に供給されるため、電気機器(電子機器)95の作動が可能になると共に、電動車両97が充電可能になる。即ち、電力貯蔵システムは、電源92を用いて、家屋90内における電力の蓄積及び供給を可能にするシステムである。
【0157】
電源92に蓄積された電力は、任意に利用可能である。そのため、例えば、電気料金が安価な深夜に集中型電力系統98から電源92に電力を蓄積しておき、電源92に蓄積しておいた電力を電気料金が高い日中に用いることができる。
【0158】
以上に説明した電力貯蔵システムは、1戸(1世帯)毎に設置されていてもよいし、複数戸(複数世帯)毎に設置されていてもよい。
【0159】
次に、電動工具の構成を表すブロック図を図21Cに示す。電動工具は、例えば、電動ドリルであり、プラスチック材料等から作製された工具本体100の内部に、制御部101及び電源102を備えている。工具本体100には、例えば、可動部であるドリル部103が回動可能に取り付けられている。制御部101は、電動工具全体の動作(電源102の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPU等を備えている。電源102は、実施例1〜実施例8において説明した1又は2以上のナトリウムイオン二次電池(図示せず)を備えている。制御部101は、図示しない動作スイッチの操作に応じて、電源102からドリル部103に電力を供給する。
【0160】
以上、本開示を好ましい実施例に基づき説明したが、本開示はこれらの実施例に限定するものではなく、種々の変形が可能である。実施例において説明した非水系二次電池(具体的にはナトリウムイオン二次電池)の構成、構造は例示であり、適宜、変更することができる。電極積層体(積層構造体)は、捲回された状態の他、スタックされた状態であってもよい。
【0161】
尚、本開示は、以下のような構成を取ることもできる。
[A01]《非水系二次電池》
NaXFeY(SO4Z(但し、0<X≦3,1≦Y≦3,2≦Z≦4の範囲にある)から成る正極活物質、導電材、及び、結着剤を含む正極部材、
ナトリウムイオンが挿入、脱離可能な負極活物質、及び、結着剤を含む負極部材、並びに、
セパレータ、
を備えており、
正極活物質の表面は、水素基含有の炭素質層で被覆されている非水系二次電池。
[A02]正極活物質のCu−Kα線を用いたX線回折での2θ=14度近傍におけるピークの半値幅は0.4度以上である[A01]に記載の非水系二次電池。
[A03]負極活物質は、NaPQTiOR(但し、0<P<0.5,0<Q<0.5,1≦R≦2の範囲にあり、MはNa以外のアルカリ金属元素)から成る[A01]又は[A02]に記載の非水系二次電池。
[A04]負極活物質は、ハードカーボン、NaTiO2系材料又はNaFePO4系材料から成る[A01]又は[A02]に記載の非水系二次電池。
[A05]負極部材を構成する結着剤は、少なくともポリアクリル酸ナトリウムを含む[A01]乃至[A04]のいずれか1項に記載の非水系二次電池。
[A06]負極部材を構成する結着剤は、更に、カルボキシメチルセルロースを含む[A05]に記載の非水系二次電池。
[A07]セパレータは、細孔を有するポリオレフィン系材料から成り、
セパレータの両面には、ナトリウムイオン伝導性を有する無機化合物粉末層が形成されている[A01]乃至[A06]のいずれか1項に記載の非水系二次電池。
[A08]無機化合物粉末層はβアルミナから構成されている[A07]に記載の非水系二次電池。
[A09]負極部材の電気容量の値は正極部材の電気容量の値よりも大きい[A01]乃至[A08]のいずれか1項に記載の非水系二次電池。
[A10]正極活物質を構成するNaXFeY(SO4Zは、Na2Fe2(SO43、Na2Fe(SO43又はNa2Fe(SO44から成る[A01]乃至[A09]のいずれか1項に記載の非水系二次電池。
[A11]正極合剤厚さ>負極合剤厚さ>(セパレータの厚さ)×6
を満足し、且つ、
セパレータの面積>負極部材の面積>正極部材の面積、又は、セパレータの幅>負極部材の幅>正極部材の幅
を満足する[A01]乃至[A10]のいずれか1項に記載の非水系二次電池。
[A12]負極部材には導電材が含まれる[A01]乃至[A11]のいずれか1項に記載の非水系二次電池。
[B01]《非水系二次電池用の正極活物質》
NaXFeY(SO4Z(但し、0<X≦3,1≦Y≦3,2≦Z≦4の範囲にある)から成り、水素基含有の炭素質層で表面が被覆されている非水系二次電池用の正極活物質。
[B02]Cu−Kα線を用いたX線回折での2θ=14度近傍におけるピークの半値幅は0.4度以上である[B01]に記載の非水系二次電池用の正極活物質。
[B03]正極活物質を構成するNaXFeY(SO4Zは、Na2Fe2(SO43、Na2Fe(SO43又はNa2Fe(SO44から成る[B01]又は[B02]に記載の非水系二次電池用の正極活物質。
[C01]《非水系二次電池用の正極活物質の製造方法》
NaXFeY(SO4Z(但し、0<X≦3,1≦Y≦3,2≦Z≦4の範囲にある)から成る、非水系二次電池用の正極活物質の製造方法であって、
正極活物質の表面を炭素系材料で被覆した後、炭素系材料を、不活性ガス雰囲気中、400゜C以下で焼成し、以て、水素基含有の炭素質層で表面が被覆された正極活物質を得る、非水系二次電池用の正極活物質の製造方法。
[C02]炭素系材料を、不活性ガス雰囲気中、300゜C乃至400゜Cにて、12時間乃至24時間、焼成する[C01]に記載の非水系二次電池用の正極活物質の製造方法。
[C03]正極活物質のCu−Kα線を用いたX線回折での2θ=14度近傍におけるピークの半値幅は0.4度以上である[C01]又は[C02]に記載の非水系二次電池用の正極活物質の製造方法。
[C04]正極活物質を構成するNaXFeY(SO4Zは、Na2Fe2(SO43、Na2Fe(SO43又はNa2Fe(SO44から成る[C01]乃至[C03]のいずれか1項に記載の非水系二次電池用の正極活物質の製造方法。
[D01]《電池パック》
[A01]乃至[A12]のいずれか1項に記載の二次電池、
二次電池の動作を制御する制御部、及び、
制御部の指示に応じて二次電池の動作を切り換えるスイッチ部、
を備えている電池パック。
[D02]《電動車両》
[A01]乃至[A12]のいずれか1項に記載の二次電池、
二次電池から供給された電力を駆動力に変換する変換部、
駆動力に応じて駆動する駆動部、及び、
二次電池の動作を制御する制御部、
を備えている電動車両。
[D03]《電力貯蔵システム》
[A01]乃至[A12]のいずれか1項に記載の二次電池、
二次電池から電力を供給される1又は2以上の電気機器、及び、
二次電池からの電気機器に対する電力供給を制御する制御部、
を備えている電力貯蔵システム。
[D04]《電動工具》
[A01]乃至[A12]のいずれか1項に記載の二次電池、及び、
二次電池から電力を供給される可動部、
を備えている電動工具。
[D05]《電子機器》
[A01]乃至[A12]のいずれか1項に記載の二次電池を電力供給源として備えている電子機器。
【符号の説明】
【0162】
11・・・電池缶、12,13・・・絶縁板、14・・・電池蓋、15・・・安全弁機構、15A・・・ディスク板、16・・・熱感抵抗素子(PTC素子)、17・・・ガスケット、18・・・センターピン、20・・・電極積層体(積層構造体)、22・・・正極部材、22A・・・正極集電体、22B・・・正極活物質層、23・・・正極リード部、24・・・負極部材、24A・・・負極集電体、24B・・・負極活物質層、25・・・負極リード部、26・・・セパレータ、27・・・電解質層、28・・・保護テープ、41・・・制御部、42・・・スイッチ部、43・・・PTC素子、44・・・温度検出部、44A・・・温度検出素子、45A・・・正極端子、45B・・・負極端子、50・・・筐体、51・・・制御部、52・・・メモリ、53・・・電圧検出部、54・・・電流測定部、54A・・・電流検出抵抗器、55・・・温度検出部、55A・・・温度検出素子、56・・・スイッチ制御部、57・・・スイッチ部、58・・・電源、59A・・・正極端子、59B・・・負極端子、60・・・筐体、61・・・制御部、62・・・各種センサ、63・・・電源、71・・・エンジン、72・・・発電機、73,74・・・インバータ、75・・・モータ、76・・・差動装置、77・・・トランスミッション、78・・・クラッチ、81・・・前輪、82・・・前輪用駆動軸、83・・・後輪、84・・・後輪用駆動軸、90・・・家屋、91・・・制御部、92・・・電源、93・・・スマートメータ、94・・・パワーハブ、95・・・電気機器(電子機器)、96・・・自家発電機、97・・・電動車両、98・・・集中型電力系統、100・・・工具本体、101・・・制御部、102・・・電源、103・・・ドリル部、301・・・電源、304A,304B・・・タブ、305・・・回路基板、306・・・コネクタ付きリード線、307・・・粘着テープ、308・・・ラベル、309・・・絶縁シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21