(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の切削インサートでは、下記の課題を有していた。
すなわち、この種の切削インサートに対しては、切削の仕上げ加工領域において、幅広い切り込み(ap)・送り(f)に対応可能(つまり低ap−f(低切り込み・低送り)と高ap−f(高切り込み・高送り)の両立が可能)であることが要求されていた。つまり、種々様々な切り込み・送り条件において(広範囲の切削条件において)、切屑の伸びや詰まりを抑制して、切屑処理性を良好に維持するとともに、加工面精度を確保することに改善の余地があった。
【0006】
具体的に、特許文献1の切削インサートは、仕上げ加工のうち低送り領域においては、コーナ刃によって生成された切屑を、2段のブレーカ壁のうち主として第1のブレーカ壁に接触させて処理(カール)し、高送り領域においては切屑を、2段のブレーカ壁のうち主として第2のブレーカ壁に接触させて処理するようにしている。
しかしながら、切り込み・送り条件によっては、切屑がこれらのブレーカ壁に十分に接触させられずに伸びてしまい、切屑処理に手間を要したり、加工面精度を低下させてしまうおそれがあった。或いは上記とは逆に、切屑がブレーカ壁に過度に強く接触して切削抵抗が高まり、切屑詰まりを生じたり、びびり振動が生じて加工面精度が低下したり、摩耗や欠損等により工具寿命が短縮するおそれがあった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、種々様々な切り込み・送り条件において切屑の伸びや詰まりを抑制して、切屑処理性を良好に維持できるとともに、加工面精度を確保できる切削インサートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明は、板状をなすインサート本体と、前記インサート本体の表裏面と、前記インサート本体における前記表裏面の周縁同士を、該インサート本体のインサート軸線方向に沿うように接続する外周面と、前記表裏面のうち少なくとも表面と前記外周面との交差稜線部に形成された切れ刃と、を備えた切削インサートであって、前記切れ刃は、前記表面のコーナ部に位置するコーナ刃を有し、前記表面には、前記コーナ刃から前記インサート軸線に直交するインサート径方向の内側へ向かうに従い漸次前記インサート軸線方向の表面から裏面側へ向けて傾斜するブレーカ溝壁と、前記ブレーカ溝壁の前記インサート径方向の内側の端縁から前記インサート径方向の内側へ向かうに従い漸次前記インサート軸線方向の裏面から表面側へ向けて傾斜する第1ブレーカ起立壁と、前記第1ブレーカ起立壁の前記インサート径方向の内側の端縁から前記インサート径方向の内側へ向けて、前記インサート軸線に垂直となるように形成された第1ブレーカ頂面と、前記第1ブレーカ頂面の前記インサート径方向の内側の端縁から前記インサート径方向の内側へ向かうに従い漸次前記インサート軸線方向の裏面から表面側へ向けて傾斜する第2ブレーカ起立壁と、が備えられ、前記第1ブレーカ頂面は、前記コーナ刃よりも前記インサート軸線方向の表面から裏面側へ向けて後退しており、前記インサート本体を、前記インサート軸線方向の表面から裏面側へ向けて見た平面視で、前記ブレーカ溝壁と前記第1ブレーカ起立壁との境界に位置する第1境界線、及び、前記第1ブレーカ頂面と前記第2ブレーカ起立壁との境界に位置する第2境界線は、それぞれ前記インサート径方向の外側へ向けて凸となる曲線状をなしており、前記第1境界線の曲率半径が、前記第2境界線の曲率半径よりも大きくされており、前記インサート本体を、前記インサート軸線方向の表面から裏面側へ向けて見た平面視で、前記コーナ刃は、前記インサート径方向の外側へ向けて凸となる曲線状をなしており、
前記第1境界線の曲率半径の中心は、前記コーナ刃の曲率半径の中心と前記コーナ刃との間に位置し、前記第2境界線の曲率半径の中心は、前記コーナ刃の曲率半径の中心と前記コーナ刃との間に位置し、前記コーナ刃と前記第1境界線との間の距離である第1の距離は、前記平面視で、前記コーナ刃上に位置する各々の端点に対し、前記端点における前記コーナ刃の接線に垂直に前記端点を通過する第1の直線が前記第1境界線と交わるとき、前記第1の直線と前記第1境界線とが交わる第1の交点と、前記端点との間の距離で与えられ、前記コーナ刃と前記第2境界線との間の距離である第2の距離は、前記平面視で、各々の前記端点に対し、前記端点における前記コーナ刃の接線に垂直に前記端点を通過する第2の直線が前記第2境界線と交わるとき、前記第2の直線と前記第2境界線とが交わる第2の交点と、前記端点との間の距離で与えられ、前記第1の距離、及び、前記第2の距離が、前記コーナ刃における前記インサート軸線回りに沿うインサート周方向の中央から両端部へ向けて前記端点が移動するにつれ大きくされていることを特徴とする。
【0009】
本発明の切削インサートによれば、コーナ刃からインサート径方向の内側へ向けて、ブレーカ溝壁、第1ブレーカ起立壁、第1ブレーカ頂面、第2ブレーカ起立壁、がこの順に配置されており、つまりインサート本体の表面(すくい面)には、少なくとも第1、第2ブレーカ起立壁を含む複数のブレーカ起立壁が、コーナ刃からインサート径方向の内側へ向けて順次並んでいる。
【0010】
従って、切削インサートによる切削加工が、例えば低ap−f(低切り込み・低送り)の場合には、コーナ刃によって生成された切屑が、該コーナ刃に近い第1ブレーカ起立壁に接触させられて処理(カール)される。
また、高ap−f(高切り込み・高送り)の場合には、コーナ刃によって生成された切屑が、第1ブレーカ起立壁と第1ブレーカ頂面を乗り越えて、該コーナ刃から離れた第2ブレーカ起立壁に接触させられて処理される。なお、特に高送りの場合においては、上述のようにコーナ刃から離れた第2ブレーカ起立壁に切屑が接触させられることで、切削抵抗が小さく抑えられるとともに、加工面(仕上げ面)精度を向上でき、工具寿命の延長を図ることができる。
つまり、コーナ刃からインサート径方向の内側へ向けて複数のブレーカ起立壁が設けられていることにより、低ap−fから高ap−fまで広範囲の仕上げ加工領域において、切屑処理を良好に行うことができる。
【0011】
具体的に、本発明とは異なり、例えばブレーカ起立壁が1つのみ設けられている場合には、ブレーカ起立壁をコーナ刃に近づけて低ap−fに対応しようとすると、高ap−fのときに切屑の排出スペースを十分に確保することができず、切屑詰まりが発生する。また、ブレーカ起立壁をコーナ刃から離して高ap−fに対応しようとすると、低ap−fのときに切屑が該ブレーカ起立壁に接触させられにくくなり、切屑がカール・分断されずに伸びやすくなる。
【0012】
ただし、複数のブレーカ起立壁を、コーナ刃からインサート径方向の内側へ向けて単純に並べたのみでは、上述した本発明の作用効果を安定して得ることは難しい。そこで本発明では、第1ブレーカ頂面を、コーナ刃よりもインサート軸線方向の表面から裏面側へ向けて後退して配置することとした。つまり、第1ブレーカ頂面及び第1ブレーカ起立壁が、コーナ刃よりも低い位置に配置されている。
【0013】
これにより、例えば低ap−fの場合に、コーナ刃で生成された切屑が、第1ブレーカ起立壁と第1ブレーカ頂面を乗り越えてしまっても、その後ろの第2ブレーカ起立壁に接触しやすくなって、良好に処理される。つまり、切屑が、第1、第2ブレーカ起立壁に十分に接触させられずに伸びてしまうことが抑制されるので、伸びた切屑の処理に手間を要したり、伸びた切屑が加工面を傷付けてしまったりするようなことが防止される。
また、高ap−fの場合においては、切屑が第1ブレーカ起立壁を乗り越えるときに過度に強く接触することが抑制されるので、切屑処理性が良好に維持されつつ、切削抵抗は抑えられる。つまり、切屑詰まりの発生や、びびり振動による加工面精度の低下や、摩耗や欠損等により工具が短寿命化するようなことが防止される。
【0014】
さらに本発明では、インサート本体をインサート軸線方向の表面から裏面側へ向けて見た平面視で(つまりインサート本体の表面を正面に見て)、ブレーカ溝壁と第1ブレーカ起立壁との境界に位置する第1境界線、及び、第1ブレーカ頂面と第2ブレーカ起立壁との境界に位置する第2境界線が、ともにコーナ刃へ向けて凸となる曲線状をなしている。
またこのように、第1、第2境界線が凸曲線状に形成されていることにより、第1境界線のインサート径方向の内側に隣接する第1ブレーカ起立壁、及び、第2境界線のインサート径方向の内側に隣接する第2ブレーカ起立壁は、コーナ刃へ向けて凸となる曲面状に形成されることになる。
これにより、コーナ刃と第1、第2ブレーカ起立壁との間隔が、該コーナ刃の刃長全域で大きく変動することが抑えられるので、種々の仕上げ加工領域において、上述した作用効果が安定して得られやすくなる。
【0015】
そして、第1境界線の曲率半径が、第2境界線の曲率半径よりも大きくされているので、以下の格別顕著な作用効果を奏功する。
すなわち、第1境界線の曲率半径が大きくされているのにともない、該第1境界線に隣接する第1ブレーカ起立壁の曲率半径も大きくなるので、この第1ブレーカ起立壁のインサート軸線回りに沿うインサート周方向の長さを大きく確保することが容易となり、例えば低ap−fの切削加工において、コーナ刃で生成された切屑の流出方向が安定しづらい場合であっても、第1ブレーカ起立壁に対して切屑が確実に接触しやすくなる。従って、切屑が伸びることが顕著に抑制されて、切屑処理性が良好に維持される。
【0016】
また、第2境界線の曲率半径が小さくされているのにともない、該第2境界線に隣接する第2ブレーカ起立壁の曲率半径も小さくなるので、この第2ブレーカ起立壁のインサート周方向の長さを小さく抑えることが容易となり、例えば高ap−fの切削加工において、コーナ刃で生成された切屑が第2ブレーカ起立壁に接触した後、該第2ブレーカ起立壁の両サイド(つまり第2ブレーカ起立壁の側方であり、第2ブレーカ起立壁のインサート周方向の両側)に向けて流出しやすくなる(排出されやすくなる)。従って、切屑排出性が高められ、切屑詰まりが顕著に抑制されて、切屑処理性が良好に維持される。
また、本発明の切削インサートにおいて、前記インサート本体を、前記インサート軸線方向の表面から裏面側へ向けて見た平面視で、前記コーナ刃は、前記インサート径方向の外側へ向けて凸となる曲線状をなしており、
前記第1境界線の曲率半径の中心は、前記コーナ刃の曲率半径の中心と前記コーナ刃との間に位置し、前記第2境界線の曲率半径の中心は、前記コーナ刃の曲率半径の中心と前記コーナ刃との間に位置し、前記コーナ刃と前記第1境界線との間の距離である第1の距離は、前記平面視で、前記コーナ刃上に位置する各々の端点に対し、前記端点における前記コーナ刃の接線に垂直に前記端点を通過する第1の直線が前記第1境界線と交わるとき、前記第1の直線と前記第1境界線とが交わる第1の交点と、前記端点との間の距離で与えられ、前記コーナ刃と前記第2境界線との間の距離である第2の距離は、前記平面視で、各々の前記端点に対し、前記端点における前記コーナ刃の接線に垂直に前記端点を通過する第2の直線が前記第2境界線と交わるとき、前記第2の直線と前記第2境界線とが交わる第2の交点と、前記端点との間の距離で与えられ、前記第1の距離、及び、前記第2の距離が、前記コーナ刃における前記インサート軸線回りに沿うインサート周方向の中央から両端部へ向けて前記端点が移動するにつれ大きくされている。
上記構成によれば、コーナ刃と、第1、第2境界線との間隔が、該コーナ刃の刃長全域のうち中央よりも両端部において、広く確保されることになる。従って、特に高ap−fの切削加工において、コーナ刃の両端部から生成した切屑が、第1、第2ブレーカ起立壁との間で詰まるようなことが防止される。
【0017】
以上より本発明によれば、種々様々な切り込み・送り条件において、切屑の伸びや詰まりを抑制して、切屑処理性を良好に維持できるとともに、加工面精度を確保できるのである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の切削インサートによれば、種々様々な切り込み・送り条件において切屑の伸びや詰まりを抑制して、切屑処理性を良好に維持できるとともに、加工面精度を確保できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る切削インサート1について、図面を参照して説明する。
本実施形態の切削インサート1は、不図示の刃先交換式バイトの工具本体(ホルダ)に装着されて、例えば鋼材等の金属材料からなる被削材に旋削加工を施すものであり、特に切削の仕上げ加工領域において、幅広い切り込み(ap)・送り(f)に対応可能(つまり低ap−fと高ap−fの両立が可能)に構成されたものである。
切削インサート1は、例えば超硬合金等の硬質材料からなり、その外面のうち少なくとも後述する切れ刃5近傍(切れ刃5、すくい面7及び逃げ面8)がCVDコーティング膜等の硬質膜で被覆される。ただしこれに限定されるものではなく、硬質膜は形成されていなくてもよい。
【0021】
図1〜
図3に示されるように、切削インサート1は、板状をなすインサート本体2と、該インサート本体2の表裏面3(表面3A及び裏面3B)と、インサート本体2における表裏面3の周縁同士を、該インサート本体2のインサート軸線O方向に沿うように接続する外周面4と、表裏面3のうち少なくとも表面3Aと外周面4との交差稜線部に形成された切れ刃5と、インサート本体2をインサート軸線O方向に貫通して形成されるとともに表裏面3に開口し、工具本体に設けられるクランプ駒やクランプネジ等のクランプ手段に係止される取付孔6と、を備えている。
なお、本実施形態の切削インサート1は、インサート本体2が表裏反転対称形状とされた両面インサートであり、従って表裏面3のうち裏面3Bと外周面4との交差稜線部にも、切れ刃5が形成されている。ただしこれに限定されるものではなく、切削インサート1は、非表裏反転対称形状の片面インサートや両面インサートであってもよい。
【0022】
ここで、本明細書においては、インサート本体2のインサート軸線Oが延在する方向をインサート軸線O方向といい、
図2(b)及び
図3において、インサート軸線O方向に沿って上から下へ向かう方向を、インサート軸線Oの表面3Aから裏面3B側へ向かう方向といい、インサート軸線O方向に沿って下から上へ向かう方向を、インサート軸線Oの裏面3Bから表面3A側へ向かう方向という。なお、インサート軸線O方向に沿ってインサート本体2の表裏面3からインサート内部へ向かう方向を、インサート軸線O方向のインサート内側といい、インサート内部から表裏面3へ向かう方向を、インサート軸線O方向のインサート外側ということがある。
また、インサート軸線Oに直交する方向をインサート径方向といい、インサート径方向のうち、インサート軸線Oへ接近する方向をインサート径方向の内側といい、インサート軸線Oから離間する方向をインサート径方向の外側という。
また、インサート軸線O回りに周回する方向(インサート軸線O回りに沿う方向)を、インサート周方向という。
【0023】
図1及び
図2(a)(b)において、本実施形態では、切削インサート1のインサート本体2が、略菱形の矩形板状をなしており、表裏面3は、略菱形の矩形面状をそれぞれなしている。また外周面4は、インサート周方向に並ぶ4つの矩形状面を有している。外周面4において互いに隣り合う前記矩形状面同士の間の部分は、凸曲面状に形成されており、インサート軸線Oに垂直な断面が凸曲線状をなしている。図示の例では、外周面4の前記矩形状面同士の間の部分が、円筒体の外周面の一部をなすように形成されており、インサート軸線Oに垂直な断面が凸円弧状をなしている。
【0024】
図2(a)に示されるように、インサート本体2の表裏面3における各コーナ部の外周端縁はそれぞれ凸曲線状をなしており、これら各コーナ部のうち、菱形状をなす表裏面3の一対の鋭角に位置するコーナ部及びその近傍の外周端縁が、切れ刃5とされている。また、表裏面3の各中央部に(インサート軸線Oに同軸に)、取付孔6が開口している。
本実施形態のインサート本体2は、インサート軸線Oを中心とした回転対称形状とされており、具体的にこのインサート本体2は、インサート軸線Oを中心とした180°回転対称形状である。
【0025】
本実施形態の切削インサート1が、不図示の工具本体(ホルダ)の先端部に凹状に形成されたインサート取付座に装着された状態で、インサート本体2の表裏面3のうち、該インサート取付座の取付面(底壁)とは反対側を向く表面3Aにおいて、少なくとも切れ刃5に隣接する領域を含む部位(切屑が接触(擦過)させられる部位)が、すくい面7とされる。またインサート本体2の表裏面3のうち、この切削インサート1がインサート取付座に装着された状態で、該インサート取付座の取付面側を向く裏面3Bは、着座面とされる。
またインサート本体2の外周面4のうち、少なくとも切れ刃5に隣接する領域を含む部位(加工面との間に隙間をあけるように対向配置される部位)が、逃げ面8とされる。
【0026】
図1及び
図2(b)に示されるように、本実施形態の切削インサート1は、インサート本体2の逃げ面8(外周面4)がインサート軸線Oに平行となるように形成された、所謂ネガティブインサートであるが、これに限定されるものではない。すなわち切削インサート1は、逃げ面8が、切れ刃5からインサート軸線O方向のインサート内側へ向かうに従い漸次インサート径方向の内側へ向けて傾斜する、所謂ポジティブインサートであってもよい。
【0027】
図4及び
図5に示されるように、切れ刃5は、すくい面7と逃げ面8との交差稜線部に形成されている。切れ刃5は、表裏面3のコーナ部(すくい面7のコーナ部)に位置するコーナ刃9と、コーナ刃9の両端に接続して直線状に延びる一対の直線刃10、11と、を有している。つまり切れ刃5は、コーナ刃9と、このコーナ刃9をインサート周方向から挟むように該コーナ刃9に連続する一対の直線刃10、11と、を備えており、コーナ刃9は、切れ刃5全長における中間部分(一対の直線刃10、11同士の間)に配置されている。
【0028】
図5に示されるように、インサート本体2をインサート軸線O方向の表面3Aから裏面3B側へ向けて見た平面視で、コーナ刃9は、インサート径方向の外側へ向けて凸となる曲線状をなしており、本実施形態に示される例では凸円弧状をなしている。
コーナ刃9のうち、旋削加工時において工具送り方向の前方に位置する部位(コーナ刃9において直線刃10側に位置する部位)及び直線刃10は、被削材の加工面に切り込んでいき、コーナ刃9のうち、工具送り方向の後方に位置する部位(コーナ刃9において直線刃11側に位置する部位)は、被削材の加工面を仕上げる。なお、コーナ刃9の工具送り方向の後方に連なる直線刃11を用いて被削材の加工面を仕上げてもよい。また、上記とは逆に、切れ刃5の直線刃11側から被削材の加工面に切り込み、直線刃10側で加工面を仕上げてもよい。
【0029】
直線刃10、11は、円弧状をなすコーナ刃9の両端に接する接線方向に延びているとともに、該コーナ刃9に滑らかに連なっている。また、一対の直線刃10、11同士の間に形成される角度(直線刃10、11の仮想延長線同士の交差角)は、本実施形態では90°よりも小さい鋭角とされており、例えば80°程度である。
【0030】
また本実施形態の切削インサート1は、
図5に示される平面視において、一対の直線刃10、11同士の間に形成される角の二等分線Sを対称軸とした線対称形状(鏡像対称)となっている。従って切れ刃5についても、前記角の二等分線Sを対称軸とした線対称形状とされており、直線刃10、11同士は、互いに同一形状、かつ同一の刃長とされている。ただしこれに限定されるものではなく、切れ刃5は前記角の二等分線Sを対称軸とした線対称形状に形成されていなくてもよい(つまり非線対称形状であってもよい)。また直線刃10、11同士は、互いに異なる形状や刃長とされていてもよい。
【0031】
そして、
図4〜
図9に示されるように、インサート本体2の表面3Aには、切れ刃5のコーナ刃9からインサート径方向の内側(すくい面7の内側)へ向かって、ブレーカ溝20、第1ブレーカ突起21、及び第2ブレーカ突起22が、この順に形成されている。すなわち、表面3Aのコーナ部に位置するすくい面7は、凹状のブレーカ溝20、凸状の第1ブレーカ突起21、及び、凸状の第2ブレーカ突起22を備えている。
なお、すくい面7のブレーカ突起は、少なくとも2つ以上(つまり複数)設けられていればよく、特に図示していないが、第2ブレーカ突起22のインサート径方向の内側に、第3ブレーカ突起、第4ブレーカ突起…、が設けられていてもよい。この場合、各ブレーカ突起において、後述するブレーカ起立壁及びブレーカ頂面が形成される。本実施形態の例では、すくい面7のブレーカ突起として、第1ブレーカ突起21及び第2ブレーカ突起22が設けられている。
【0032】
図4及び
図5において、ブレーカ溝20は、切れ刃5のすくい面7側に隣接して配置されており、切れ刃5の刃長方向に沿って延在している。
【0033】
図4及び
図6において、ブレーカ溝20は、切れ刃5のコーナ刃9から、インサート径方向の内側へ向かうに従い漸次インサート軸線O方向の表面3Aから裏面3B側(インサート軸線O方向のインサート内側)へ向けて傾斜するブレーカ溝壁20aを有している。
本実施形態では、ブレーカ溝壁20aが、切れ刃5の刃長全域(コーナ刃9及び一対の直線刃10、11)にわたって、該切れ刃5のすくい面7側に形成されている。
【0034】
なお、
図6に示されるように本実施形態では、ブレーカ溝壁20aが、切れ刃5からインサート径方向の内側(
図6における右側)へ向かうに従い漸次インサート軸線O方向のインサート内側(
図6における下方)へ向かって、一定の角度(傾斜角)で傾斜している。ただしこれに限定されるものではなく、ブレーカ溝壁20aは、切れ刃5からインサート径方向の内側へ向かうに従いインサート軸線O方向のインサート内側へ向かって、段階的に或いは漸次、傾斜角が変化するように傾斜していてもよい。
【0035】
図4及び
図5において、第1ブレーカ突起21は、ブレーカ溝20におけるブレーカ溝壁20aのインサート径方向の内側に隣接して配置されており、切れ刃5の刃長方向に沿うように延在している。図示の例では、第1ブレーカ突起21が、切れ刃5におけるコーナ刃9、及び直線刃10、11のうちコーナ刃9側に位置する端部に対応するように、切れ刃5及びブレーカ溝壁20aのインサート径方向の内側に形成されている。
【0036】
第1ブレーカ突起21は、ブレーカ溝壁20aのインサート径方向の内側の端縁からインサート径方向の内側へ向かうに従い漸次インサート軸線O方向の裏面3Bから表面3A側(インサート軸線O方向のインサート外側)へ向けて傾斜する第1ブレーカ起立壁21aと、第1ブレーカ起立壁21aのインサート径方向の内側の端縁からインサート径方向の内側へ向けて、インサート軸線Oに垂直となるように形成された第1ブレーカ頂面21bと、を有している。
【0037】
図4、
図5及び
図7(d)に示されるように、第1ブレーカ起立壁21aは、インサート径方向の外側へ向けて凸となる曲面状をなしており、具体的には、円錐体の周面(側面)の一部又は円柱体の周面の一部をなすように形成されていて、コーナ刃9へ向けて突出する凸曲面状をなしている。特に図示していないが、第1ブレーカ起立壁21aは、インサート軸線Oに垂直な横断面視で、インサート径方向の外側へ向けて凸となる曲線状をなしている。
図5に示されるように、第1ブレーカ起立壁21aは、そのインサート周方向の中央が最も切れ刃5に接近して配置されており、該中央からインサート周方向の両端部に向かうに従い漸次切れ刃5との間の距離が大きくされている。
【0038】
第1ブレーカ頂面21bは、インサート軸線Oに略垂直な平面状をなしている。具体的に本実施形態では、第1ブレーカ頂面21bが、インサート軸線Oに垂直な平面に形成されているが、これに限定されるものではない。すなわち、第1ブレーカ頂面21bは、インサート軸線Oに垂直な仮想平面に対して、例えば±5°の範囲内で傾斜して形成されていてもよい。
また、
図6に示されるインサート本体2の縦断面視で、第1ブレーカ頂面21bは、コーナ刃9よりもインサート軸線O方向の表面3Aから裏面3B側(インサート内側)へ向けて後退して配置されている。つまり、第1ブレーカ頂面21bのインサート軸線O方向の高さ(
図6における上下方向の位置)は、コーナ刃9のインサート軸線O方向の高さよりも低い。第1ブレーカ頂面21bが、コーナ刃9に対してインサート軸線O方向の表面3Aから裏面3B側へ向けて後退させられる距離(後退量)cは、例えば0.01mm以上であり、本実施形態では0.02mm程度となっている。
【0039】
第1ブレーカ突起21における第1ブレーカ起立壁21aと第1ブレーカ頂面21bとの接続部分は、凸曲面状をなしている。
図6に示される縦断面視において、前記接続部分は凸曲線状をなしており、該接続部分の曲率半径(この接続部分がなす稜線の延在方向に垂直な断面視における凸曲線の曲率半径)は、
図4及び
図9(a)(b)に示されるように、第1ブレーカ突起21のインサート周方向の中央から両端部に向かうに従い(つまり前記稜線の延在方向に沿って該稜線の中央から両端部に向かうに従い)漸次大きくされている。また、前記接続部分の幅も、第1ブレーカ突起21のインサート周方向の中央から両端部に向かうに従い漸次大きくされている。
【0040】
図4及び
図5において、第2ブレーカ突起22は、第1ブレーカ突起21における第1ブレーカ頂面21bのインサート径方向の内側に隣接して配置されており、インサート径方向に沿うように延設されている。図示の例では、第2ブレーカ突起22は、インサート径方向の外側へ向かうに従い漸次インサート周方向の幅が小さくされており、切れ刃5のコーナ刃9へ向けて突出するように形成されている。
【0041】
第2ブレーカ突起22は、第1ブレーカ頂面21bのインサート径方向の内側の端縁からインサート径方向の内側へ向かうに従い漸次インサート軸線O方向の裏面3Bから表面3A側(インサート外側)へ向けて傾斜する第2ブレーカ起立壁22aと、第2ブレーカ起立壁22aのインサート径方向の内側の端縁からインサート径方向の内側へ向けて、インサート軸線Oに垂直に形成された第2ブレーカ頂面22bと、第2ブレーカ起立壁22aのインサート周方向に隣り合い、インサート周方向に交差するように形成された第2ブレーカ側壁22cと、を有している。
【0042】
図4、
図5及び
図7(d)に示されるように、第2ブレーカ起立壁22aは、インサート径方向の外側へ向けて凸となる曲面状をなしており、具体的には、円錐体の周面(側面)の一部又は円柱体の周面の一部をなすように形成されていて、コーナ刃9へ向けて突出する凸曲面状をなしている。特に図示していないが、第2ブレーカ起立壁22aは、インサート軸線Oに垂直な横断面視で、インサート径方向の外側へ向けて凸となる曲線状をなしている。
図5に示されるように、第2ブレーカ起立壁22aは、そのインサート周方向の中央が最も切れ刃5に接近して配置されており、該中央からインサート周方向の両端部に向かうに従い漸次切れ刃5との間の距離が大きくされている。
【0043】
図5に示される平面視において、第2ブレーカ起立壁22aのインサート周方向の長さは、第1ブレーカ起立壁21aのインサート周方向の長さよりも小さくされている。言い換えると、この平面視で、第2ブレーカ起立壁22aにおける角の二等分線Sに直交する方向(
図5における左右方向)の長さは、第1ブレーカ起立壁21aにおける前記長さよりも短くなっている。
また、
図6に示される縦断面視で、第2ブレーカ起立壁22aのうち、第1ブレーカ頂面21b側に位置する端部以外の部位は、コーナ刃9よりもインサート軸線O方向の裏面3Bから表面3A側(インサート外側)へ向けて突出して配置されている。つまり、第2ブレーカ起立壁22aにおけるインサート径方向の外端部(
図6における左端部)以外の部位は、コーナ刃9よりインサート軸線O方向の高さ(
図6における上下方向の位置)が高くなっている。従って、コーナ刃9を通りインサート軸線Oに垂直な仮想平面(
図6において左右方向に延在する水平線であり、図中の距離cを表す寸法補助線に相当)は、第2ブレーカ起立壁22aに交差する。
【0044】
第2ブレーカ頂面22bは、インサート軸線Oに垂直な平面状をなしている。
図6に示されるインサート本体2の縦断面視で、第2ブレーカ頂面22bは、コーナ刃9よりもインサート軸線O方向の裏面3Bから表面3A側(インサート外側)に配置されている。つまり、第2ブレーカ頂面22bのインサート軸線O方向の高さ(
図6における上下方向の位置)は、コーナ刃9のインサート軸線O方向の高さよりも高い。
図1〜
図3に示されるように、本実施形態では、第2ブレーカ頂面22bが、表裏面3において取付孔6を囲むように形成された着座面(インサート本体2においてインサート取付座の取付面に着座される面)に面一となるように形成されている。
【0045】
図4及び
図5に示されるように、第2ブレーカ側壁22cは、第2ブレーカ突起22における第2ブレーカ起立壁22aのインサート周方向の両側に隣り合って、一対形成されている。第2ブレーカ側壁22cは、インサート軸線O方向及びインサート径方向に沿うように拡がっているとともに、インサート周方向に対しては交差するように形成されている。
また、
図5、
図7〜
図9に示されるように、一対の第2ブレーカ側壁22c同士は、インサート軸線O方向の裏面3Bから表面3A側(インサート外側)へ向かうに従い漸次互いのインサート周方向の距離が小さくなるように、傾斜させられている。つまり、
図7(a)〜(c)に示されるように、背中合わせに配置(背向配置)される一対の第2ブレーカ側壁22c同士の間の距離は、インサート軸線O方向の裏面3Bから表面3A側(
図7における上方)へ向かうに従い漸次小さくされている。またこれにともない、第2ブレーカ突起22のインサート周方向の幅(
図7における左右方向の長さ)は、インサート軸線O方向の裏面3Bから表面3A側へ向けて徐々に狭くなっている。
【0046】
図4、
図5、
図7(a)〜(c)、
図8及び
図9(a)〜(d)において、第2ブレーカ側壁22cは、凹曲面状に形成されている。本実施形態では、第2ブレーカ側壁22cが、インサート軸線O方向の全長にわたって(つまり第1、第2ブレーカ頂面21b、22b間の全域にわたって)、凹曲面状に形成されている。
【0047】
そして、
図5に示されるように、インサート本体2を、インサート軸線O方向の表面3Aから裏面3B側へ向けて見た平面視で、ブレーカ溝壁20aと第1ブレーカ起立壁21aとの境界に位置する第1境界線31、及び、第1ブレーカ頂面21bと第2ブレーカ起立壁22aとの境界に位置する第2境界線32は、それぞれインサート径方向の外側へ向けて凸となる曲線状をなしており、第1境界線31の曲率半径R1が、第2境界線32の曲率半径R2よりも大きくされている。
【0048】
本実施形態では、第1境界線31の曲率半径R1が、第2境界線32の曲率半径R2の3倍以上とされており、具体的には、第1境界線31の曲率半径R1は、例えば0.3mm以上である。
なお、第1境界線31の曲率半径R1は、コーナ刃9の曲率半径R0よりは小さくされている。
【0049】
図5に示される平面視で、第1境界線31は、切れ刃5の刃長方向に沿うように延びており、該第1境界線31のうち少なくともコーナ刃9に対応するインサート周方向の中央部が、凸曲線状をなしている。なお、図示の例では、第1境界線31のうち直線刃10、11に対応するインサート周方向の両端部については、直線状をなしている。
また、第1境界線31は、そのインサート周方向の中央が最も切れ刃5に接近して配置されており、該中央からインサート周方向の両端部に向かうに従い漸次切れ刃5との間の距離が大きくされている。
具体的に、
図5に示される平面視において、コーナ刃9と第1境界線31との間の距離は、該コーナ刃9(の刃長方向)におけるインサート周方向の中央から両端部へ向けて大きくされている。また、直線刃10、11と第1境界線31との間の距離は、該直線刃10、11(の刃長方向)におけるコーナ刃9側の端縁から、このコーナ刃9とは反対側(コーナ刃9から離間する方向)へ向かうに従い大きくされている。
【0050】
またこの平面視で、第1境界線31の曲率半径R1の中心は、コーナ刃9の曲率半径R0の中心と、該コーナ刃9との間に位置している。つまり、第1境界線31の曲率半径R1の中心は、コーナ刃9と該コーナ刃9の曲率半径R0の中心との間に画成される扇形の内部に配置されている。またこれにより、コーナ刃9と第1境界線31との間の距離は、該コーナ刃9の刃長全域のうちインサート周方向の中央よりも両端部において、大きくされている。
【0051】
また、
図6に示される角の二等分線Sに沿う縦断面視において、コーナ刃9から第1境界線31までのインサート径方向の距離(奥行き)aは、0.3mm以下とされており、第1境界線31から第1ブレーカ頂面21bまでのインサート軸線O方向の距離(高さ)bは、0.06mm以上とされている。ただし、第1ブレーカ頂面21bがインサート軸線Oに垂直な仮想平面に対して僅かに傾斜して形成される場合には、前記距離bとは、第1ブレーカ頂面21bにおけるインサート径方向の外端部(つまり、第1ブレーカ頂面21bにおける第1ブレーカ起立壁21a側の端部であり、第1ブレーカ起立壁21aのインサート軸線O方向の頂部の高さに相当)と、第1境界線31と、のインサート軸線O方向の距離を指す。
【0052】
なお、本実施形態では、
図6に示される縦断面視において、第1境界線31が、ブレーカ溝壁20aと第1ブレーカ起立壁21aとの境界に位置して凹V字状をなす角部に形成されているが、これに限定されるものではない。すなわち、この縦断面視において、第1境界線31は、ブレーカ溝壁20aと第1ブレーカ起立壁21aとの境界に位置するとともに、これらブレーカ溝壁20a、第1ブレーカ起立壁21a同士を滑らかに接続する凹曲線部に形成されていてもよい。この場合、上述した「第1境界線31の曲率半径R1」とは、上記縦断面視で凹曲線状とされた第1境界線31における中央部(縦断面視における前記凹曲線部の中央)の曲率半径R1を指す。
【0053】
またこの縦断面視で、インサート軸線Oに垂直な不図示の仮想平面(
図6において左右方向に延在する水平線)に対して、ブレーカ溝壁20aが傾斜する角度(前記仮想平面とブレーカ溝壁20aとの間に形成される2つの交差角のうち、鋭角の角度)は、前記仮想平面に対して、第1ブレーカ起立壁21aが傾斜する角度(前記仮想平面と第1ブレーカ起立壁21aとの間に形成される2つの交差角のうち、鋭角の角度)よりも、小さくされている。
言い換えると、ブレーカ溝壁20aの、インサート径方向の内側へ向けた単位長さあたりのインサート軸線O方向の表面3Aから裏面3B側(インサート内側)へ向けた変位量は、第1ブレーカ起立壁21aの、インサート径方向の内側へ向けた単位長さあたりのインサート軸線O方向の裏面3Bから表面3A側(インサート外側)へ向けた変位量よりも、小さくされている。
【0054】
またこの縦断面視において、本実施形態では、前記仮想平面に対して、第1ブレーカ起立壁21aが傾斜する角度(前記仮想平面と第1ブレーカ起立壁21aとの間に形成される2つの交差角のうち、鋭角の角度)と、前記仮想平面に対して、第2ブレーカ起立壁22aが傾斜する角度(前記仮想平面と第2ブレーカ起立壁22aとの間に形成される2つの交差角のうち、鋭角の角度)とは、互いに等しくされている。
言い換えると、第1ブレーカ起立壁21aの、インサート径方向の内側へ向けた単位長さあたりのインサート軸線O方向の裏面3Bから表面3A側(インサート外側)へ向けた変位量と、第2ブレーカ起立壁22aの、インサート径方向の内側へ向けた単位長さあたりのインサート軸線O方向の裏面3Bから表面3A側(インサート外側)へ向けた変位量とは、互いに同等とされている。
【0055】
また、
図5に示される平面視で、コーナ刃9と第2境界線32との間の距離は、該コーナ刃9(の刃長方向)におけるインサート周方向の中央から両端部へ向けて大きくされている。なお、本実施形態では、この平面視において第2境界線32が、コーナ刃9の刃長に対応するように形成されている一方、直線刃10、11に対応する部位には形成されておらず、これら直線刃10、11に対応する部位には、第2境界線32の代わりに後述する第2側方境界線33が形成されている。
ただしこれに限定されるものではなく、第2境界線32は、コーナ刃9に対応する部位(コーナ刃9のインサート径方向の内側(すくい面7内側))から直線刃10、11に対応する部位(直線刃10、11のインサート径方向の内側(すくい面7内側))にわたって形成されていてもよい。
【0056】
またこの平面視で、第2境界線32の曲率半径R2の中心は、コーナ刃9の曲率半径R0の中心と、該コーナ刃9との間に位置している。つまり、第2境界線32の曲率半径R2の中心は、コーナ刃9と該コーナ刃9の曲率半径R0の中心との間に画成される扇形の内部に配置されている。またこれにより、コーナ刃9と第2境界線32との間の距離は、該コーナ刃9の刃長全域のうちインサート周方向の中央よりも両端部において、大きくされている。
【0057】
なお、本実施形態では、この平面視において、コーナ刃9の曲率半径R0の中心、第1境界線31の曲率半径R1の中心、及び、第2境界線32の曲率半径R2の中心が、すべて角の二等分線S上に位置している。また図示の例では、第1境界線31の曲率半径R1の中心と、第2境界線32の曲率半径R2の中心とが、互いに同一の位置に配置されている。
【0058】
なお、本実施形態では、
図6に示される縦断面視において、第2境界線32が、第1ブレーカ頂面21bと第2ブレーカ起立壁22aとの境界に位置して凹V字状をなす角部に形成されているが、これに限定されるものではない。すなわち、この縦断面視において、第2境界線32は、第1ブレーカ頂面21bと第2ブレーカ起立壁22aとの境界に位置するとともに、これら第1ブレーカ頂面21b、第2ブレーカ起立壁22a同士を滑らかに接続する凹曲線部に形成されていてもよい。この場合、上述した「第2境界線32の曲率半径R2」とは、上記縦断面視で凹曲線状とされた第2境界線32における中央部(縦断面視における前記凹曲線部の中央)の曲率半径R2を指す。
【0059】
また、
図4及び
図5において、第2境界線32のインサート周方向の両側には、第1ブレーカ頂面21bと第2ブレーカ側壁22cとの境界に位置する第2側方境界線33が、それぞれ接続している。第2側方境界線33は、インサート径方向の内側へ向けて凹となる曲線状をなしており、第2境界線32のインサート周方向の端縁に滑らかに繋がっている。本実施形態では、第2側方境界線33の曲率半径(不図示)が、第2境界線32の曲率半径R2よりも大きくされている。
【0060】
なお、本実施形態では、
図7(d)及び
図9(a)(b)に示される縦断面視において、第2側方境界線33が、第1ブレーカ頂面21bと第2ブレーカ側壁22cとの境界に位置して凹V字状をなす角部に形成されているが、これに限定されるものではない。すなわち、上記縦断面視において、第2側方境界線33は、第1ブレーカ頂面21bと第2ブレーカ側壁22cとの境界に位置するとともに、これら第1ブレーカ頂面21b、第2ブレーカ側壁22c同士を滑らかに接続する凹曲線部に形成されていてもよい。この場合、上述した「第2側方境界線33の曲率半径」とは、上記縦断面視で凹曲線状とされた第2側方境界線33における中央部(縦断面視における前記凹曲線部の中央)の曲率半径を指す。
【0061】
また
図5に示される平面視で、本実施形態で説明した第1境界線31、第2境界線32、及び第2側方境界線33は、それぞれが単一の円弧により形成されていてもよいし、曲率の異なる複数の円弧が滑らかに接続して形成されていてもよい。さらに、隣り合う円弧同士の接続部分等において、部分的に直線部を有していてもよい。
なお、第1、第2境界線31、32が、曲率の異なる複数の円弧を有する場合には、上述した曲率半径R1、R2は、前記複数の円弧のうち、角の二等分線S上に位置する所定の円弧における曲率半径を指す。
【0062】
このように構成された切削インサート1は、不図示の工具本体のインサート取付座における取付面(底壁)に、インサート本体2の裏面3Bが着座させられ、取付孔6に挿通されるクランプ手段によって、工具本体に着脱可能に取り付けられる。
なお、本実施形態の切削インサート1は表裏反転対称形状であることから、上述した説明において、表裏面3における表面3Aを裏面3Bに、かつ、裏面3Bを表面3Aに置き換えた構成としてもよい。
【0063】
以上説明した本実施形態の切削インサート1によれば、コーナ刃9からインサート径方向の内側へ向けて、ブレーカ溝壁20a、第1ブレーカ起立壁21a、第1ブレーカ頂面21b、第2ブレーカ起立壁22a、がこの順に配置されており、つまりインサート本体2の表面3A(すくい面7)には、少なくとも第1、第2ブレーカ起立壁21a、22aを含む複数のブレーカ起立壁が、コーナ刃9からインサート径方向の内側へ向けて順次並んでいる。
【0064】
従って、切削インサート1による切削加工が、例えば低ap−f(低切り込み・低送り)の場合には、コーナ刃9によって生成された切屑が、該コーナ刃9に近い第1ブレーカ起立壁21aに接触させられて処理(カール)される。
また、高ap−f(高切り込み・高送り)の場合には、コーナ刃9によって生成された切屑が、第1ブレーカ起立壁21aと第1ブレーカ頂面21bを乗り越えて、該コーナ刃9から離れた第2ブレーカ起立壁22aに接触させられて処理される。なお、特に高送りの場合においては、上述のようにコーナ刃9から離れた第2ブレーカ起立壁22aに切屑が接触させられることで、切削抵抗が小さく抑えられるとともに、加工面(仕上げ面)精度を向上でき、工具寿命の延長を図ることができる。
つまり、コーナ刃9からインサート径方向の内側へ向けて複数のブレーカ起立壁21a、22aが設けられていることにより、低ap−fから高ap−fまで広範囲の仕上げ加工領域において、切屑処理を良好に行うことができる。
【0065】
具体的に、本実施形態とは異なり、例えばブレーカ起立壁が1つのみ設けられている場合には、ブレーカ起立壁をコーナ刃9に近づけて低ap−fに対応しようとすると、高ap−fのときに切屑の排出スペースを十分に確保することができず、切屑詰まりが発生する。また、ブレーカ起立壁をコーナ刃9から離して高ap−fに対応しようとすると、低ap−fのときに切屑が該ブレーカ起立壁に接触させられにくくなり、切屑がカール・分断されずに伸びやすくなる。
【0066】
ただし、複数のブレーカ起立壁21a、22aを、コーナ刃9からインサート径方向の内側へ向けて単純に並べたのみでは、上述した本実施形態の作用効果を安定して得ることは難しい。そこで本実施形態では、第1ブレーカ頂面21bを、コーナ刃9よりもインサート軸線O方向の表面3Aから裏面3B側へ向けて後退して配置することとした。つまり、第1ブレーカ頂面21b及び第1ブレーカ起立壁21aが、コーナ刃9よりも低い位置に配置されている。具体的に本実施形態では、コーナ刃9に対して第1ブレーカ頂面21bがインサート軸線O方向の表面3Aから裏面3B側へ向けて後退する距離(高さ)cが、0.01mm以上とされている。
【0067】
これにより、例えば低ap−fの場合に、コーナ刃9で生成された切屑が、第1ブレーカ起立壁21aと第1ブレーカ頂面21bを乗り越えてしまっても、その後ろの第2ブレーカ起立壁22aに接触しやすくなって、良好に処理される。つまり、切屑が、第1、第2ブレーカ起立壁21a、22aに十分に接触させられずに伸びてしまうことが抑制されるので、伸びた切屑の処理に手間を要したり、伸びた切屑が加工面を傷付けてしまったりするようなことが防止される。
また、高ap−fの場合においては、切屑が第1ブレーカ起立壁21aを乗り越えるときに過度に強く接触することが抑制されるので、切屑処理性が良好に維持されつつ、切削抵抗は抑えられる。つまり、切屑詰まりの発生や、びびり振動による加工面精度の低下や、摩耗や欠損等により工具が短寿命化するようなことが防止される。
【0068】
さらに本実施形態では、
図5に示されるように、インサート本体2をインサート軸線O方向の表面3Aから裏面3B側へ向けて見た平面視で(つまりインサート本体2の表面3Aを正面に見て)、ブレーカ溝壁20aと第1ブレーカ起立壁21aとの境界に位置する第1境界線31、及び、第1ブレーカ頂面21bと第2ブレーカ起立壁22aとの境界に位置する第2境界線32が、ともにコーナ刃9へ向けて凸となる曲線状をなしている。またこのように、第1、第2境界線31、32が凸曲線状に形成されていることにより、第1境界線31のインサート径方向の内側に隣接する第1ブレーカ起立壁21a、及び、第2境界線32のインサート径方向の内側に隣接する第2ブレーカ起立壁22aは、コーナ刃9へ向けて凸となる曲面状に形成されることになる。
これにより、コーナ刃9と第1、第2ブレーカ起立壁21a、22aとの間隔が、該コーナ刃9の刃長全域で大きく変動することが抑えられるので、種々の仕上げ加工領域において、上述した作用効果が安定して得られやすくなる。
【0069】
そして、第1境界線31の曲率半径R1が、第2境界線32の曲率半径R2よりも大きくされているので、以下の格別顕著な作用効果を奏功する。
すなわち、第1境界線31の曲率半径R1が大きくされているのにともない、該第1境界線31に隣接する第1ブレーカ起立壁21aの曲率半径も大きくなるので、この第1ブレーカ起立壁21aのインサート周方向の長さを大きく確保することが容易となり、例えば低ap−fの切削加工において、コーナ刃9で生成された切屑の流出方向が安定しづらい場合であっても、第1ブレーカ起立壁21aに対して切屑が確実に接触しやすくなる。
従って、切屑が伸びることが顕著に抑制されて、切屑処理性が良好に維持される。
【0070】
また、第2境界線32の曲率半径R2が小さくされているのにともない、該第2境界線32に隣接する第2ブレーカ起立壁22aの曲率半径も小さくなるので、この第2ブレーカ起立壁22aのインサート周方向の長さを小さく抑えることが容易となり、例えば高ap−fの切削加工において、コーナ刃9で生成された切屑が第2ブレーカ起立壁22aに接触した後、該第2ブレーカ起立壁22aの両サイド(つまり第2ブレーカ起立壁22aの側方であり、第2ブレーカ起立壁22aのインサート周方向の両側に位置する第2ブレーカ側壁22c上)に向けて流出しやすくなる(排出されやすくなる)。従って、切屑排出性が高められ、切屑詰まりが顕著に抑制されて、切屑処理性が良好に維持される。
【0071】
以上より本実施形態によれば、種々様々な切り込み・送り条件において、切屑の伸びや詰まりを抑制して、切屑処理性を良好に維持できるとともに、加工面精度を確保できるのである。
【0072】
また本実施形態では、第1境界線31の曲率半径R1が、第2境界線32の曲率半径R2の3倍以上とされているので、上述した第1、第2境界線31、32の曲率半径R1、R2の大小による作用効果が、より確実に、かつ安定して得られやすくなる。
なお、第1境界線31の曲率半径R1が、本実施形態で説明したように0.3mm以上であると、切屑の伸びを顕著に、かつ安定して抑制できることから、より好ましい。
【0073】
また本実施形態では、第2ブレーカ突起22において第2ブレーカ起立壁22aのインサート周方向に隣り合う第2ブレーカ側壁22cが、凹曲面状に形成されているので、下記の作用効果を奏する。
すなわち上記構成によれば、例えば高ap−fの切削加工において、コーナ刃9で生成された切屑が、第2ブレーカ起立壁22aに接触した後、該第2ブレーカ起立壁22aのインサート周方向に隣り合う第2ブレーカ側壁22c上を流れていく際などに、第2ブレーカ側壁22cが凹曲面状に形成されていることにより、切屑の排出スペースが十分に確保されて、切屑排出性が高められる。従って、切屑詰まりが抑制されて、切屑処理性が良好に維持される。
【0074】
また本実施形態では、
図5に示される平面視で、コーナ刃9が、インサート径方向の外側へ向けて凸となる曲線状をなしており、コーナ刃9と第1境界線31との間の距離、及び、コーナ刃9と第2境界線32との間の距離が、コーナ刃9におけるインサート周方向の中央から両端部へ向けて大きくされており、具体的には、第1境界線31の曲率半径R1の中心、及び、第2境界線32の曲率半径R2の中心が、コーナ刃9の曲率半径R0の中心と、該コーナ刃9との間に位置しているので、下記の作用効果を奏する。
すなわち上記構成によれば、コーナ刃9と、第1、第2境界線31、32との間隔が、該コーナ刃9の刃長全域のうち中央よりも両端部において、広く確保されることになる。
従って、特に高ap−fの切削加工において、コーナ刃9の両端部から生成した切屑が、第1、第2ブレーカ起立壁21a、22aとの間で詰まるようなことが防止される。
【0075】
また本実施形態では、インサート本体2が、インサート軸線Oを中心とした回転対称形状とされており、またインサート本体2は、表裏反転対称形状とされている。従って、この切削インサート1は、コーナ刃9を複数有することから、使用後の古いコーナ刃9を未使用の新しいコーナ刃9に替えて切削加工を行うことができ、切削インサート1の工具寿命が延長する。
【0076】
また本実施形態では、
図6に示される縦断面視において、コーナ刃9と第1境界線31とのインサート径方向の距離aが、0.3mm以下とされており、第1境界線31に隣接する第1ブレーカ起立壁21aが、コーナ刃9に対して十分に接近して配置されるので、例えば低ap−fの切削加工において、コーナ刃9で生成された切屑の流出方向が安定しづらい場合であっても、第1ブレーカ起立壁21aに対して切屑が確実に接触しやすくなる。従って、切屑が伸びることが顕著に抑制されて、切屑処理性が良好に維持される。
具体的に、例えばコーナ刃9と第1境界線31とのインサート径方向の距離aが、0.3mmを超える場合には、第1ブレーカ起立壁21aをコーナ刃9に対して十分に接近配置することができず、該第1ブレーカ起立壁21aに対して切屑を安定して接触させることができなくなるおそれがある。
【0077】
なお、距離aは、0.15mm以上であることが好ましい。距離aが、0.15mm以上とされていることにより、仕上げ領域の低ap−fの切削加工においても、第1ブレーカ起立壁21aを安定して機能させることができ、切屑乗り上げ(切屑が表面3Aのうち第2ブレーカ突起22よりもインサート径方向の内側の部位へ乗り上げる現象)の発生を抑制できる。
【0078】
また、第1境界線31から第1ブレーカ頂面21bまでのインサート軸線O方向の距離bが、0.06mm以上とされており、つまり第1ブレーカ起立壁21aのインサート軸線O方向の高さが大きく確保されているので、上述のように第1ブレーカ頂面21b及び第1ブレーカ起立壁21aをコーナ刃9よりも低く配置して顕著な作用効果を奏功しつつも、第1ブレーカ起立壁21aに対する切屑の接触領域を大きく確保できる。つまり、第1ブレーカ起立壁21aに対して切屑を確実に接触させることが可能になり、上述の作用効果がより格別顕著なものとなる。
具体的に、例えば第1境界線31から第1ブレーカ頂面21bまでのインサート軸線O方向の距離bが、0.06mm未満の場合には、第1ブレーカ起立壁21aのインサート軸線O方向の高さを十分に確保することができず、切屑が第1ブレーカ起立壁21aに接触しにくくなるとともに伸びやすくなって、切屑処理性を良好に維持できなくなるおそれがある。
【0079】
なお、距離bの上限については、切屑処理性の観点からは、上述した距離a(a≦0.3mm)、距離c(c>0mm)を満たしていればその値は限定されない。ただし、コーナ刃9の切れ刃強度を確保する観点からは、そのすくい角(
図6においてインサート軸線Oに垂直な不図示の仮想平面と、ブレーカ溝壁20aとの間に形成される鋭角及び鈍角のうち、鋭角の角度)が30°未満に設定されるので、これに対応して、距離bは0.17mm以下であることが好ましい。なお、「コーナ刃9のすくい角が30°未満」に設定されるとは、本実施形態のように逃げ面8がインサート軸線Oに平行(ネガ)に形成されている場合には、コーナ刃9の刃物角(
図6に示される縦断面視においてブレーカ溝壁20aと逃げ面8との間に形成される角度)が60°以上に設定されることと略等しい。
【0080】
また本実施形態では、第1ブレーカ起立壁21aと第1ブレーカ頂面21bとの接続部分が、凸曲面状をなしているので、下記の作用効果を奏する。
すなわち上記構成によれば、例えば高ap−fの切削加工において、コーナ刃9で生成された切屑が第1ブレーカ起立壁21a及び第1ブレーカ頂面21bを乗り越えるときに、凸曲面状の前記接続部分に沿うように流れて、その後ろの第2ブレーカ起立壁22aに対して、より確実に接触させられやすくなるので、切屑処理性が良好に維持される。
【0081】
特に本実施形態で説明したように、前記接続部分の曲率半径(この接続部分がなす稜線の延在方向に垂直な断面視における凸曲線の曲率半径)が、
図4及び
図9(a)(b)に示されるように、第1ブレーカ突起21のインサート周方向の中央から両端部に向かうに従い漸次大きくされていると、高ap−fの切削加工であるほど上述した作用効果が顕著に得られやすくなることから、より好ましい。
【0082】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0083】
例えば、前述の実施形態では、切削インサート1のインサート本体2が、略菱形の矩形板状をなしており、表裏面3は、略菱形の矩形面状をそれぞれなしているとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、インサート本体2は、上記矩形板状以外の例えば三角形板状等の多角形板状であってもよい。
【0084】
また前述の実施形態では、インサート本体2が、インサート軸線Oを中心とした180°回転対称形状であるとしたが、これに限定されるものではない。例えば、インサート本体2が上記三角形板状の場合には、該インサート本体2は、インサート軸線Oを中心とした120°回転対称形状であってもよい。
また、インサート本体2は、インサート軸線Oを中心とした回転対称形状でなくてもよい。
【0085】
また、前述の実施形態では、切削インサート1は、例えば超硬合金等の硬質材料からなり、その外面のうち少なくとも切れ刃5近傍(切れ刃5、すくい面7及び逃げ面8)がCVDコーティング膜等の硬質膜で被覆されるとしたが、これに限定されるものではない。
すなわち切削インサート1は、例えば、超硬合金製の台金(基体)のコーナ部に形成された凹部に、PCD(多結晶ダイヤモンド)焼結体やcBN(立方晶窒化硼素)焼結体のような超高硬度焼結体からなる切れ刃チップが、ろう付け等により一体に形成されたものであってもよい。この場合、切削インサート1の切れ刃5、すくい面7及び逃げ面8は、切れ刃チップに形成される。
【0086】
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例及びなお書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0088】
[切屑処理性の確認試験]
本発明の実施例1、2として、前述した実施形態の切削インサート1を、工具本体(ホルダ)のインサート取付座に装着した刃先交換式バイトを用いて、被削材の旋削加工を行った。また、比較例1〜4として、上記切削インサート1の代わりに、該切削インサート1とブレーカ形状は見かけ上似ているが、曲率半径R1、R2の大小関係、距離cのいずれかが本発明の条件を満たさない以下の切削インサートを用いて、実施例1、2と同一条件で被削材の旋削加工を行った。
そして、切屑処理性(切屑伸び、切屑詰まり等)について比較した。
【0089】
<切削インサート>
確認試験に用いた切削インサートは、下記の通りである。なお、インサート形状は、呼び記号:CNMG120408とした。
[実施例1]
切削インサート1
第1境界線31の曲率半径R1:0.3mm
第2境界線32の曲率半径R2:0.1mm
コーナ刃9から第1ブレーカ頂面21bがインサート軸線O方向に後退する距離(
高さ)c:0.02mm
[実施例2]
切削インサート1
第1境界線31の曲率半径R1:0.4mm
第2境界線32の曲率半径R2:0.1mm
コーナ刃9から第1ブレーカ頂面21bがインサート軸線O方向に後退する距離(
高さ)c:0.02mm
[比較例1]
切削インサート(切削インサート1と見かけ上似たブレーカ形状を有するもの)
第1境界線31の曲率半径R1:0.3mm
第2境界線32の曲率半径R2:0.1mm
コーナ刃9から第1ブレーカ頂面21bがインサート軸線O方向に後退する距離(
高さ)c:0mm
(コーナ刃9と第1ブレーカ頂面21bのインサート軸線O方向の高さが同じ)
[比較例2]
切削インサート(切削インサート1と見かけ上似たブレーカ形状を有するもの)
第1境界線31の曲率半径R1:0.1mm
第2境界線32の曲率半径R2:0.1mm
コーナ刃9から第1ブレーカ頂面21bがインサート軸線O方向に後退する距離(
高さ)c:0.02mm
[比較例3]
切削インサート(切削インサート1と見かけ上似たブレーカ形状を有するもの)
第1境界線31の曲率半径R1:0.3mm
第2境界線32の曲率半径R2:0.3mm
コーナ刃9から第1ブレーカ頂面21bがインサート軸線O方向に後退する距離(
高さ)c:0.02mm
[比較例4]
切削インサート(切削インサート1と見かけ上似たブレーカ形状を有するもの)
第1境界線31の曲率半径R1:0.1mm
第2境界線32の曲率半径R2:0.3mm
コーナ刃9から第1ブレーカ頂面21bがインサート軸線O方向に後退する距離(
高さ)c:0.02mm
【0090】
<切削対象・加工の種類>
被削材:SCr420H
加工の種類:外径加工(外周旋削)
【0091】
<切削条件>
条件I…低切り込み低送り(低ap−f)領域の仕上げ加工
切削速度:200m/min
切り込み:0.2〜0.5mm
送り:0.1mm/rev
クーラント:有り
条件II…高切り込み高送り(高ap−f)領域の仕上げ加工
切削速度:200m/min
切り込み:0.2〜0.5mm
送り:0.2mm/rev
クーラント:有り
【0092】
<結果>
この試験の結果を、表1に示す。なお、表1に示される評価の記号(○、×)の意味は、下記の通りである。
「○」…切屑が伸びることなく適度に分断され、かつ、切屑が詰まってしまうことがなく切屑排出性が良好に維持されている。
「×」…切屑が伸びたり、切屑が詰まったり、切屑形状が不安定になったりして、切屑処理が良好に行われていない。
また、評価の「備考」として、各例において具体的に確認された切屑処理の状態等を記載している。
【0093】
【表1】
【0094】
表1に示されるように、本発明の実施例1、2においては、条件I、IIの切削加工の両方において、切屑伸びや切屑詰まりが生じることはなく、切屑処理を良好に行えることが確認された。
一方、比較例1〜4のうち、距離cが0mm(つまり第1ブレーカ頂面21bがコーナ刃9と同じ高さ)とされた比較例1では、条件IIの切削加工において、切屑乗り上げ(切屑が表面3Aのうち第2ブレーカ突起22よりもインサート径方向の内側の部位へ乗り上げる現象)が生じて、不安定な切屑処理となった。
また、曲率半径R1>曲率半径R2の関係を満たさない比較例2〜4のうち、比較例2、4においては、条件Iの切削加工で切屑伸びが生じ、比較例3、4においては、条件IIの切削加工で切屑詰まりが生じた。
以上より、本発明の切削インサート1(実施例1、2)によれば、比較例1〜4よりも切屑処理性が高められることがわかった。