特許第6583614号(P6583614)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6583614-アーク炉の電極折損防止装置 図000002
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  • 特許6583614-アーク炉の電極折損防止装置 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6583614
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】アーク炉の電極折損防止装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 7/109 20060101AFI20190919BHJP
   F27D 11/08 20060101ALI20190919BHJP
   F27B 3/08 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   H05B7/109 A
   F27D11/08 G
   F27B3/08
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-96179(P2015-96179)
(22)【出願日】2015年5月11日
(65)【公開番号】特開2016-213072(P2016-213072A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2018年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】野村 保
【審査官】 沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】 実開平07−008996(JP,U)
【文献】 特開2005−008332(JP,A)
【文献】 特開平02−110286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 7/109
F27B 3/08
F27D 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極昇降装置によってアーク炉の炉体内を昇降させられる消耗電極と、消耗電極およびこれと一体に昇降する電極昇降装置の昇降部の荷重を検出する荷重検出手段と、消耗電極を所定位置へ上昇させたときに荷重検出手段で検出された荷重値をリセットするリセット手段と、リセットされた荷重値が所定値を越えて上方ないし下方へ変化した時に電極折損のおそれ有りとして電極昇降装置による消耗電極の下降を中止させる第1下降制限手段と、前記消耗電極の長さを算出する算出手段と、長さ算出値に応じて前記所定値の値を変更する変更手段とを備えるアーク炉の電極折損防止装置。
【請求項2】
前記荷重検出手段の検出範囲を、リセットされた荷重値に対して上方ないし下方へ予想される荷重変化範囲に対応させて設定した請求項1に記載のアーク炉の電極折損防止装置。
【請求項3】
前記荷重検出手段で検出された荷重の変化速度を算出する変化速度算出手段と、算出された変化速度が他の所定値を越えて上方へ変化した時に電極折損のおそれ有りとして前記電極昇降装置による前記消耗電極の下降を中止させる第2下降制限手段とをさらに備える請求項1又は2に記載のアーク炉の電極折損防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアーク炉の電極折損防止装置に関し、特に、誤動作を生じることなく確実に電極折損を防止できる電極折損防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電極折損防止装置の一例が特許文献1に記載されており、この装置では、電極を昇降支持する電極支柱を操作するためのワイヤの荷重をロードセルで検出して、当該ロードセルの検出荷重が上限値および下限値のいずれかを越えた時に電極折損のおそれ有りとして電極の昇降を停止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平7−8996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、アーク炉に使用される黒鉛電極は操業中に次第に消耗してその重量が軽くなるため、比較的小さなワイヤ荷重の変動で下限値を越えてしまうことがあり、上記従来の装置では電極折損のおそれを誤検知してその都度電極昇降が中止させられるため操業効率が低下するという問題があった。
【0005】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、電極の消耗による誤検出を生じることなく、確実に電極折損のおそれを判定してこれを回避でき、操業効率の低下を招かないアーク炉の電極折損防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本第1発明では、電極昇降装置(4)によってアーク炉の炉体(1)内を昇降させられる消耗電極(3)と、消耗電極(3)およびこれと一体に昇降する電極昇降装置(4)の昇降部の荷重を検出する荷重検出手段(5)と、消耗電極(3)を所定位置へ上昇させたときに荷重検出手段(5)で検出された荷重値をリセットするリセット手段(6)と、リセットされた荷重値が所定値を越えて上方ないし下方へ変化した時に電極折損のおそれ有りとして電極昇降装置(4)による消耗電極(3)の下降を中止させる第1下降制限手段(6)と、消耗電極の長さを算出する算出手段(6)と、長さ算出値に応じて前記所定値の値を変更する変更手段(6)とを備える。
【0007】
本第1発明においては、消耗電極への通電前に荷重値をリセットしておくから、黒鉛電極が操業中に次第に消耗してその重量が軽くなっても、その影響を受けることはなく、常に適正に電極折損のおそれを判定できる。これにより、無駄な電極昇降操作の中止が回避されて操業効率の低下が防止される。加えて、電極折損は消耗電極にモーメント力が作用する結果であることに鑑み、消耗電極の長さに応じて電極折損の判定のための所定値を変更することによって、無駄な電極昇降の中止が無くなり、操業効率をさらに向上させることができる。
【0008】
本第2発明では、荷重検出手段(6)の検出範囲を、リセットされた荷重値に対して上方ないし下方へ予想される荷重変化範囲に対応させて設定する。
【0009】
本第2発明によれば、検出範囲を上記荷重変化範囲に対応させて設定したことにより、検出の分解能を上げることができ、電極折損のおそれをより確実に判定することができる。
【0012】
本第3発明では、荷重検出手段(5)で検出された荷重の変化速度を算出する変化速度算出手段(6)と、算出された変化速度が他の所定値を越えて上方へ変化した時に電極折損のおそれ有りとして電極昇降装置(4)による消耗電極(3)の下降を中止させる第2下降制限手段(6)とをさらに備える。
【0013】
本第3発明によれば、溶落した細かいスクラップが黒鉛電極に徐々に寄りかかることによって電極折損を生じることを有効に防止することができる。
【0014】
なお、上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を一例として示すものである。
【発明の効果】
【0015】
以上のように本発明のアーク炉の電極折損防止装置によれば、電極の消耗による誤検出を生じることなく、確実に電極折損のおそれを判定してこれを回避でき、操業効率の低下を招くことがない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態における、電極折損防止装置を付設したアーク炉の全体構成を示す図である。
図2】本発明の第2実施形態における、検出スパンの設定範囲を示す図である。
図3】本発明の第5実施形態における、電極折損防止装置を付設したアーク炉の全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0018】
(第1実施形態)
図1には電極折損防止装置を備えたアーク炉の概略断面を示す。図において、アーク炉の炉体1内には、上方開口に覆着された蓋体2を貫通して消耗電極たる黒鉛電極3が挿入されており、その先端と炉体1の底部に装入されたスクラップSとの間で放電が生じてスクラップSが加熱溶融される。黒鉛電極3は三相交流アーク炉では複数設けられるが、他の黒鉛電極についても同様である。
【0019】
黒鉛電極3はその上端部外周が電極昇降装置4を構成する把持器41によって把持され、把持器41は水平に延びる支腕42の一端に設けられている。支腕42は中間部を、起立した支柱43によって支持されており、この支柱43には両側面にガイドローラ431が当接して、当該支柱43の上下動を案内している。
【0020】
支柱43の下端に設けたプーリ441の下側外周にはワイヤ45が懸架され、上方へ延びるワイヤ45の一端は荷重検出手段たるロードセル5の一端に結合されている。ロードセル5の他端は固定側に結合されている。そして、ロードセル5から出力される荷重信号5aが制御装置6に入力している。
【0021】
上記ワイヤ45の上方へ延びる他端はアイドルプーリ442を経て下方へ向きを変えた後、昇降機構46に設けられた巻取りドラム461に巻回されている。巻取りドラム461は昇降機構46の駆動モータ462によって正逆回転駆動され、正転時にはワイヤ45を巻き取って支柱43(したがって黒鉛電極3)を上昇移動させ、逆転時にはワイヤ45を繰り出して支柱43(したがって黒鉛電極3)を下降移動させる。
【0022】
駆動モータ462は制御装置6の出力によってその正逆転と停止が制御されている。制御装置6はロードセル5の荷重信号5aを常時取り込んでいるが、黒鉛電極3が所定位置(通常は上限位置)へ上昇させられた際に荷重信号5aの荷重値を内部でリセット(通常は零リセット)する。なお、上限位置は図略のリミットスイッチの作動を検出することで知ることができる。黒鉛電極3が上限位置へ上昇させられるのは通常は蓋体2が開放される操業開始時やスクラップSの追装時で、この時は黒鉛電極3への通電は行われない。
【0023】
黒鉛電極3への通電を開始する際には、制御装置6は、駆動モータ462によって黒鉛電極3を下降させ、その後は水冷ケーブル31を介して黒鉛電極3に通電される電流と電圧を検出して、これらが所望の値になるように黒鉛電極3を適宜昇降させスクラップSとの間の放電を制御してスクラップSの加熱溶融を行う。
【0024】
この際、前回の通電時の消耗によって黒鉛電極3の重量が小さくなっていても、上述のように新たな通電の開始前にはロードセル5の荷重信号5aの荷重値が零にリセットされるから、黒鉛電極3の消耗による荷重の絶対的な減少はキャンセルされている。
【0025】
この状態で、黒鉛電極3が不導体のスクラップSに乗り上げると、黒鉛電極3の荷重が見かけ上大きく減少し、ロードセル5で検出される荷重値が所定の下限値を越えて下方へ変化する。そこで、この場合は電極折損のおそれがあるとして上記電極3の下降を停止し、あるいは電極3を所定量引き上げて、電極折損を未然に防止する。
【0026】
また、溶落したスクラップSが黒鉛電極3に寄りかかってロードセル5で検出される荷重値が所定の上限値を越えて上方へ変化した場合にも、電極折損のおそれがあるとして上記電極3の下降を停止し、あるいは電極3を所定量引き上げて、電極折損を未然に防止する。
【0027】
なお、この場合にも通電によって黒鉛電極3は次第に消耗してその荷重(重量)が減少するが、この消耗による荷重減少は小さいから、リセットされた荷重値が上記下限値を越えて下方へ変化することはない。したがって、従来のように電極折損のおそれを誤検知して電極昇降が停止させられて、操業が妨げられるという不具合は生じない。
【0028】
(第2実施形態)
上記第1実施形態において、ロードセル5の荷重信号5aに対する制御装置6内の検出スパン(範囲)Xを、図2に示すように、リセットされた荷重値Rに対して上方ないし下方へ予想される荷重変化範囲Aに対応させて設定し、この検出スパンX内に上記上限値および下限値をそれぞれ設定する。このようにすると、ロードセル5の荷重変化をより高い分解能で検出することができるから、確実な電極折損の防止を図ることができる。なお、図2のYで示す検出スパンは従来のものであり、Eは風袋荷重値、Mはロードセル5の許容荷重値である。
【0029】
(第3実施形態)
上記第1実施形態において、黒鉛電極3の折損は多くが把持器41直下の電極接続部(黒鉛電極3は複数の電極を接続して構成されている)で生じており、これは棒状の黒鉛電極3が斜めのスクラップSに乗り上げる等によって電極下端に水平力が作用し、黒鉛電極3の長さ(正確には電極下端から把持器41直下の電極接続部までの長さ)に比例したモーメント力が上記電極接続部に加わるからである。
【0030】
黒鉛電極3の断面は一定であるから、リセット前のロードセル5で検出された荷重を、操業開始時の、長さの判明している時の検出荷重と比較すれば、その荷重差(重量差)より、消耗した分短くなった黒鉛電極3の長さを通電前に予想することができる。そこで、黒鉛電極3の長さが長い時は電極折損を防止するための上記上限値および下限値の値を黒鉛電極3の長さが短い時に比して上限値の値は相対的に小さく下限値の値は相対的に大きくし、黒鉛電極3の長さが短くなった時は上記上限値および下限値の値を黒鉛電極3の長さが長い時に比して上限値の値は相対的に大きく下限値の値は相対的に小さくする。このようにすれば、特に黒鉛電極3が短くなった時に電極折損防止のため電極昇降が徒らに止められることが無いから、操業効率がさらに改善される。
【0031】
(第4実施形態)
上記第1実施形態において、電極折損の他の原因として、溶落した細かいスクラップSが黒鉛電極3に徐々に寄りかかって当該電極3に荷重が加わることが考えられる。そこで、本実施形態では、制御装置6は、ロードセル5の検出荷重の変化速度が一定の上限値を超えて変化した時には電極折損のおそれがあるとして黒鉛電極3の下降を停止し、あるいは当該電極3を所定量引き上げて、電極折損を未然に防止する。
【0032】
(第5実施形態)
本発明の対象となるアーク炉は例えば図3に示すような構造のものでも良い。図3において、黒鉛電極3を昇降させる支柱43は筒状に成形されており、その内部に油圧シリンダ71が設置されて、当該油圧シリンダ71によって支柱43が上下に移動駆動されるようになっている。油圧シリンダ71の作動は制御装置6の出力信号によって油圧機構7から油圧供給ライン72を介して行われる。ロードセル5は油圧シリンダ71とフロアの間に介設されている。他の構造は第1実施形態と同様であり、第1実施形態と同様の制御で電極折損が未然に防止される。
【0033】
この場合、荷重検出手段として、ロードセル5に代えて、油圧供給ライン72に圧力センサ73を設けて、黒鉛電極3の荷重を圧力センサ73の検出圧力から換算するようにしても良い。
【符号の説明】
【0034】
1…炉体、3…消耗電極、4…電極昇降装置、5…ロードセル(荷重検出手段)、6…制御装置(リセット手段、第1下降制限手段、算出手段、変更手段、変化速度算出手段、第2下降制限手段)、7…油圧機構、73…圧力センサ(荷重検出手段)。
図1
図2
図3