(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、所定のアミン、カルボン酸、又はアルコール化合物がコールタールの流動性を向上しうる、という知見に基づく。
コールタールの流動性が向上するメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推測される。すなわち、疎水性成分を主として構成されるコールタールに、疎水基と親水性の両方を持つ前記成分の疎水基が配位することで、コールタール成分の分子表面に親水基が修飾されたような状態となる。このわずかな親水化によって、本質的には疎水性であるコールタール成分の分子同士で反発力が生じ、流動性が向上すると推測される。前記成分の疎水基と親水基の形状や大きさのバランスによって、コールタール成分への配位しやすさが異なるため、アルキル基の形状や炭素数によって改質効果に差があると推測する。但し、本開示はこのメカニズムに限定されなくてもよい。
【0011】
[成分A]
本開示に係るタール改質剤は、一又は複数の実施形態において、成分A:第一級アミンである炭素数1〜20の直鎖脂肪族モノアミンを含む。成分Aは、一又は複数の実施形態において、直鎖の炭化水素鎖の一方の末端(α位)にアミノ基(−NH
2基)が結合している形態である。
【0012】
本開示において、成分Aの炭素数は、タールの流動性向上の点から、好ましくは2〜20、より好ましくは4〜20である。成分Aの炭化水素鎖は、1つ若しくは2つ若しくは3つの不飽和結合を有してもよく、飽和炭化水素鎖であってもよい。成分Aの炭化水素鎖は、1又は2の水素がヒドロキシル基に置換されていてもよい。
【0013】
成分Aは、一又は複数の実施形態において、メチルアミン、エチルアミン、1−プロピルアミン、1−ブチルアミン、1−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン、n−デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン及び、イコシルアミンが挙げられる。成分Aは、一種類であってもよく、二種類以上の組み合わせであってもよい。
【0014】
[成分B]
本開示に係るタール改質剤は、一又は複数の実施形態において、成分B:炭素数4〜20の直鎖脂肪族モノカルボン酸を含む。成分Bは、一又は複数の実施形態において、直鎖の炭化水素鎖の一方の末端(α位)にカルボキシル基(−COOH基)が結合している形態である。
【0015】
本開示において、成分Bの炭素数は、タールの流動性向上の点から、好ましくは8〜20、より好ましくは10〜20である。成分Bの炭化水素鎖は、1つ若しくは2つ若しくは3つの不飽和結合を有してもよく、飽和炭化水素鎖であってもよい。成分Bの炭化水素鎖は、1又は2の水素がヒドロキシル基に置換されていてもよい。
【0016】
成分Bは、一又は複数の実施形態において、ブタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リシノール酸、ノナデカン酸及び、エイコサン酸が挙げられる。成分Bは、一種類であってもよく、二種類以上の組み合わせであってもよい。
【0017】
[成分C]
本開示に係るタール改質剤は、一又は複数の実施形態において、成分C:第一級アルコールである炭素数1〜20の直鎖脂肪族アルコールを含む。成分Cは、一又は複数の実施形態において、直鎖の炭化水素鎖の一方の末端(α位)にヒドロキシ基(−OH基)が結合している形態である。
【0018】
成分Cの炭化水素鎖は、1つ若しくは2つ若しくは3つの不飽和結合を有してもよく、飽和炭化水素鎖であってもよい。
【0019】
成分Cは、一又は複数の実施形態において、メタノール、エタノール、プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−ドデカノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、エイコサノールが挙げられる。成分Cは、一種類であってもよく、二種類以上の組み合わせであってもよい。
【0020】
[タール改質剤]
本開示に係るタール改質剤は、一又は複数の実施形態において、成分A、成分B及び成分Cのうちのいずれか1つを含むのであってもよく、成分A、成分B及び成分Cから選ばれる2又は3の組み合わせであってもよい。
【0021】
本開示に係るタール改質剤は、一又は複数の実施形態において、成分A〜C以外の成分を含んでもよく、含まなくてもよい。成分A〜C以外の成分としては、成分A〜Cの取り扱い性を向上させるために使用される溶媒が挙げられる。
【0022】
本開示に係るタール改質剤の改質対象は、タールであって、一又は複数の実施形態において、コールタールである。タールは、さらなる一又は複数の実施形態において、コークス製造工程で発生するコールタールである。タールは、さらなる一又は複数の実施形態において、コークス製造工程で発生するコールタールが蒸留工程を経たあとの重質分である軟ピッチやバインダーピッチなどのコールタールピッチである。タールは、さらなる一又は複数の実施形態において、コールタールとコールタールピッチとの混合物である。
【0023】
本開示に係るタール改質剤によれば、一又は複数の実施形態において、タールを改質でき、さらなる一又は複数の実施形態において、タールの流動性を向上できる。流動性の向上は、一又は複数の実施形態において、実施例で示した方法で確認できる。
【0024】
[改質されたタール]
本開示は、その他の態様において、本開示に係るタール改質剤によって改質されたタールに関する。本開示に係る改質タールは、一又は複数の実施形態において、本開示に係るタール改質剤を含むタール、コールタール、コールタールピッチ又はこれらの組み合わせが挙げられ、さらなる一又は複数の実施形態において、本開示に係るタール改質剤を含み、かつ、流動性が向上したタール、コールタール、コールタールピッチ又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0025】
[タールの改質方法]
本開示に係るタール改質剤によりタールの改質方法は、該タール改質剤をタールに添加することを含む。一又は複数の実施形態において、本開示に係るタールの改質方法は、コールタール及びコールタールピッチのデカンタ、タールタンク、並びに移送配管の少なくとも1カ所において、30℃〜350℃の状態であるタールに該タール改質剤を添加し混合することを含む。
【0026】
タールを改質するために添加する本開示に係るタール改質剤の量は、成分Aの場合、一又は複数の実施形態において、流動性向上の観点から、タールに対して0.1%(vol/wt)以上であることが好ましく、より好ましくは0.5%(vol/wt)以上である。成分Aの添加量の上限は特に制限されないが、一又は複数の実施形態において、経済性の点から、10%(vol/wt)以下が好ましい。
【0027】
タールを改質するために添加する本開示に係るタール改質剤の量は、成分Bの場合、一又は複数の実施形態において、流動性向上の観点から、タールに対して0.1%(vol/wt)以上であることが好ましく、より好ましくは0.5%(vol/wt)以上、さらに好ましくは1%(vol/wt)以上である。成分Bの添加量の上限は特に制限されないが、一又は複数の実施形態において、経済性の点から、10%(vol/wt)以下が好ましく、より好ましくは5%(vol/wt)以下である。
【0028】
タールを改質するために添加する本開示に係るタール改質剤の量は、成分Cの場合、一又は複数の実施形態において、流動性向上の観点から、タールに対して1%(vol/wt)以上であることが好ましく、より好ましくは2.5%(vol/wt)以上である。成分Cの添加量の上限は特に制限されないが、一又は複数の実施形態において、経済性の点から、10%(vol/wt)以下が好ましい。
【0029】
本開示は、以下の一又は複数の実施形態に関しうる;
[1] 第一級アミンである炭素数1〜20の直鎖脂肪族モノアミン(成分A)、炭素数4〜20の直鎖脂肪族モノカルボン酸(成分B)、及び第一級アルコールである炭素数1〜20の直鎖脂肪族アルコール(成分C)、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される成分を含む、タール改質剤。
[2] 前記直鎖脂肪族モノアミン(成分A)の炭素数が4〜20である、[1]記載のタール改質剤。
[3] 前記直鎖脂肪族モノカルボン酸(成分B)の炭素数が10〜20である、[1]記載のタール改質剤。
[4] タールが、コールタール、コールタールピッチ、又はこれらの混合物である、[1]から[3]のいずれかに記載のタール改質剤。
[5] [1]から[4]のいずれか一つに記載のタール改質剤を含む、タール。
[6] [1]から[4]のいずれか一つに記載のタール改質剤をタールに添加することを含む、タールの改質方法。
【0030】
以下の実施例及び比較例に基づいて本開示を説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
種々の試薬について下記タール改質試験を行い、下記基準で評価した。その結果を下記表1〜4に示す。なお、表1〜4の添加量(%)は、(体積/質量)%である。
【0032】
[タール改質試験]
(1)105℃、2時間以上余熱済みのコールタールピッチを、100ml容量ガラス製スクリュー管に10g秤量する。
(2)試薬を所定量、投入する。
(3)スクリュー管の蓋を閉め、80℃、ウォーターバスもしくは恒温槽にて30分間加温する。
(4)Sus製スパチラーで、十分に混錬する。
(5)80℃、80分間、恒温槽内で加温する。
(6)試料を恒温槽から取り出し、傾斜器(角度6.1°)に設置し、コールタールピッチをスクリュー管の蓋へ到達させる(
図1参照)。
(7)スクリュー管を直立に戻し、1時間静置後の壁面付着汚れの状態を目視確認する。
【0033】
(タール改質試験の評価)
1時間静置後の壁面汚れの状態を、下記のような評価基準(目視判断)で分類した(
図2参照)。
◎:壁面の汚れ付着面積がブランク(試薬無添加)と比較して、20%未満
○:壁面の汚れ付着面積がブランク(試薬無添加)と比較して、20%以上50%未満
△:壁面の汚れ付着面積がブランク(試薬無添加)と比較して、50%以上80%未満
×:壁面の汚れ付着面積がブランク(試薬無添加)と比較して、80%以上
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示すとおり、第一級アミンである炭素数2〜18の直鎖脂肪族モノアミン(実施例101〜117)は、試薬無添加の場合(下記表4比較例401)と比べ、流動性が向上した。また、同表1に示すとおり、第一級アミンである炭素数2〜18の直鎖脂肪族モノアミン(実施例101〜117)は、その他のアミン及びアミド(比較例101〜111)に比べ、流動性が向上した。さらに、実施例101〜117のなかでも、炭素数が4〜18のアミンは、炭素数2〜3のアミンに比べ、流動性が向上した。
【0036】
【表2】
【0037】
表2に示すとおり、炭素数10〜19の直鎖脂肪族モノカルボン酸(実施例201〜212)は、試薬無添加の場合(下記表4比較例401)と比べ、流動性が向上した。また、同表2に示すとおり、炭素数10〜19の直鎖脂肪族モノカルボン酸(実施例201〜212)は、分枝脂肪族モノカルボン酸及び炭素数が22の直鎖脂肪族モノカルボン酸(比較例201〜204)に比べ、流動性が向上した。さらに、実施例201〜212のなかでも、実施例202及び203は、他の実施例に比べ、流動性が向上した。
【0038】
【表3】
【0039】
表3に示すとおり、第一級アルコールである炭素数1〜20の直鎖脂肪族アルコール(実施例301〜310)は、試薬無添加の場合(下記表4比較例401)と比べ、流動性が向上した。また、同表3に示すとおり、第一級アルコールである炭素数1〜20の直鎖脂肪族アルコール(実施例301〜310)は、分枝脂肪族アルコール及び炭素数が22の直鎖脂肪族アルコール(比較例301〜302)に比べ、流動性が向上した。
【0040】
【表4】
【0041】
表4に示すとおり、水、ドデカン、2−トリデカノン(比較例402〜406)では、試薬無添加の場合(比較例401)と同程度であって、改質効果は認められなかった。