(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記結合剤が、Si、Al、Ti、およびZrの金属塩、金属キレート、および有機金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種の無機酸化物前駆体である、請求項19に記載のコーティング組成物。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】加熱の前後に測定した分散液の粒子サイズおよびpHを示す図である。
【
図2】温度の関数として測定した分散液の粒子サイズを示す図である。
【
図3】コアシェル構造を有する球状粒子を示す顕微鏡写真である。
【0014】
従って、本発明は、
a)有機コロイド粒子をテンプレートとして提供する工程と;
b)少なくとも1種の無機酸化物前駆体を添加する工程と;
c)テンプレート上に前駆体から無機シェル層を形成し、コアシェルナノ粒子を得る工程と、
を含み、テンプレートが合成高分子両性電解質を含む、または、換言すれば、有機コロイド粒子が合成高分子両性電解質をベースにしている、
有機無機ハイブリッドコアシェルナノ粒子の製造方法を提供する。
【0015】
本願に関して、高分子両性電解質は、両性電解質共重合体または両性共重合体、即ち、正電荷を持つ基を有する少なくとも1種のコモノマーと、負電荷を持つ基を有する少なくとも1種のコモノマーとを含む合成(または人造)共重合体または高分子電解質と定義される。従って、高分子両性電解質は、異なるペンダント基に反対の電荷を有する。同じペンダント基に異なる電荷を有する共重合体は、一般的に双性イオン性ポリマーと称される特定のタイプである。
【0016】
正電荷または負電荷を持つ基を有するコモノマーは、カルボン酸基または第三級アミン基等の、溶媒系のpHを変化させることにより容易にイオン化し得る官能基を有するコモノマーを含むものと理解される。換言すれば、高分子両性電解質は、カチオン性基とアニオン性基の両方、および/またはそれらの対応するイオン化可能な基を含有し、適用される条件下で正味電荷を有する共重合体または高分子電解質である。高分子両性電解質を、塩基性基と酸性基の両方を有する荷電ポリマーと定義する著者もいる。高分子両性電解質は、分子組成および条件に応じて、正または負の正味電荷を有することができ;電荷は、例えば、そのゼータ電位(溶液/分散液中での)を測定することにより決定することができる。正の正味電荷を有する共重合体をカチオン性高分子両性電解質と称し;負の正味電荷を持つ共重合体をアニオン性高分子両性電解質と称することにする。
【0017】
本発明の方法では、合成高分子両性電解質から、平均粒子サイズが10〜300nmの範囲の有機コロイド粒子または凝集体を製造することが可能であると判明している。この粒子サイズは、高分子両性電解質のコモノマー組成により、および/または温度、pH、塩濃度、および溶媒組成等の条件を選択することにより制御することができる。粒子の寸法を定める条件を選択および変更することにより、1種の高分子両性電解質から出発して粒子サイズの異なる有機コロイド粒子およびその後にコアシェルナノ粒子の分散液を製造することができる。本方法の別の利点は、得られるコアシェルナノ粒子の分散液が、様々な条件下で非常に安定であり;その貯蔵寿命または貯蔵時間が長くなり、例えば、その濃度および溶媒系の変更が可能となり、様々な異なる用途の要件に好適な分散液が製造されることである。
【0018】
本発明の方法では、コアシェル型で、任意選択により多孔質または中空の粒子を得ることができ、それは、有利には、機能性化合物および成分のカプセル化を含む異なる用途に、低重量もしくは絶縁(isolating)材料用の組成物中の充填材として、または被膜等の材料の屈折率を低下させるための、または低光沢(表面粗さ)の被膜用の成分として適用することができる。
【0019】
国際公開第2001/80823A2号パンフレットおよび米国特許出願公開第2002/0064541A1号明細書には、治療用または化粧用のコアシェルマイクロカプセルを含む組成物が記載されている。好ましくは直径8〜50μmのマイクロカプセルは、典型的には、カプセル化される有効成分の乳化粒子の周囲に無機ポリマーからなるシェルを設けることにより製造される。前記乳化コア粒子の製造時に、界面活性剤またはポリマー界面活性剤であってもよい湿潤剤を使用することができる。ポリマー界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、両性または非イオン性であってもよく、炭化水素ポリマーであってもまたはシリコーンポリマーであってもよい。多くの好適なシリコーンポリマーの中にシリコーン両性ポリマーが挙げられているが、それらの文献は詳細な情報を提供しておらず、このような非有機界面活性剤を使用して得られ得る効果については何も記載していない。
【0020】
本発明の別の具体的な利点は、プラスチック基材と適合する比較的低温での熱処理、およびガラス処理と適合する高い硬化温度での熱処理により、コアシェル粒子を含むコーティング組成物を、基材上のAR特性を有する被膜に製造することができる。
【0021】
本発明の方法では、テンプレート粒子として使用される合成高分子両性電解質は、カチオン性電荷を有する少なくとも1種のモノマー単位と、アニオン性電荷を有する少なくとも1種のモノマー単位と、任意選択により少なくとも1種の中性または非イオン性コモノマーとを含む有機共重合体である。ポリマーは、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。高分子両性電解質は、ポリエステル、ポリアミド、およびポリウレタン等の縮合ポリマーであっても;またはスチレン系、アクリル系、メタクリル系、オレフィン系、および/またはビニル系コモノマーを含む付加重合体であってもよい。本願に関して、これらのモノマーは全て、エチレン性不飽和モノマーまたはビニルモノマーと総称される;即ち、それにはメチルビニル基を含むメタクリレートが含まれる。当該技術分野では、アクリル系化合物とメタクリル系化合物は、典型的には(メタ)アクリル系モノマーと総称される。好ましくは、本発明の方法で使用される高分子両性電解質は、有利には多数の好適なモノマーから既知の様々な重合法を使用して製造することができる付加重合体であり;それにより高分子両性電解質に様々な組成が提供される。
【0022】
本発明の方法に使用されるこのような両性電解質付加共重合体の製造は、従来技術から、例えば、米国特許第4749762号明細書およびその中に引用されている幾つかの文献から既知である。より具体的には、米国特許第4749762号明細書は、(メタ)アクリル系モノマーから高分子両性電解質を製造するための2つの代替の経路を記載している。一方法では、アクリル酸、N,N,−ジメチルアミンエチルメタクリレート(DMAEMA)またはN,N,−ジエチルアミンエチルメタクリレート(DEAEMA)、および任意選択によりアルキル(メタ)アクリレートを強酸の存在下、溶液中で重合し、その間にアミン基がプロトン化される。あるいは、このようなコモノマー混合物であるがアクリル酸のメチルエステルを含むものを(乳化)重合した後、アクリル酸エステルコモノマーを選択的に加水分解する(それはメタクリル酸エステルの加水分解よりずっと速い)。
【0023】
また、様々なエチレン性不飽和モノマーからの高分子両性電解質の合成が、米国特許第6361768号明細書およびその中に引用されている参考文献に記載されている。典型的にはラジカル重合が有機溶媒中で行われ、任意選択により、生成した共重合体の集塊を防止するために界面活性剤が存在する。
【0024】
欧州特許第2178927号明細書では、カチオン性両性電解質共重合体の分散液は、まず、モノマーの混合物、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)、DMAEMAおよびメタクリル酸(MAA)の混合物を塊状または溶液中で共重合した後、共重合体を水性媒体に分散させること(および、分散前または分散中に非イオン性アミン官能基を中和すること)により製造される。
【0025】
本発明の方法では、高分子両性電解質は、好ましくは、
・第三級アミン基を有するモノマー等の、プロトンと結合することができるペンダント基を有する化合物を含む、少なくとも1種のカチオン性または塩基性モノマー(M1)と;
・カルボン酸基を含有するモノマー等の、プロトンを生成することができるペンダント基を有する化合物を含む、少なくとも1種のアニオン性または酸性モノマー(M2)と;
・少なくとも1種の中性または非イオン性モノマー(M3)、好ましくは、非水溶性または疎水性のコモノマーと;
・任意選択により少なくとも1種の架橋性モノマー(M4)と;
から得られる共重合体である。
【0026】
イオン性コモノマーM1およびM2により、共重合体の水系に対する溶解性および分散性が増大するのに対し、非イオン性モノマー単位M3の存在により溶解性は低下し得るが、凝集体の形成は促進され得る。M3の量が多過ぎると、共重合体は不溶性となり得るおよび/または沈殿し得る。従って、M3の種類および量は、好ましくは、ポリマーが依然として水性媒体中に分散してコロイド粒子となり、M3単位が非極性または疎水性相互作用による自己会合を促進し得るように選択される。任意選択により、共重合体は、少量の二官能性または多官能性モノマーM4を含み得、それにより、形成されるコロイド粒子をさらに安定化させ得るレベルの架橋が誘導される。典型的にはこのようなランダム共重合体は、水性媒体中で好適な凝集体を既に形成することができ、従って、ブロック共重合体を製造する比較的複雑な合成経路を使用する必要がなくなる。
【0027】
好ましい実施形態では、本発明の方法に使用される高分子両性電解質は、
・少なくとも1種のモノマーM1を0.1〜40モル%と;
・少なくとも1種のモノマーM2を0.1〜40モル%と;
・少なくとも1種のモノマーM3を18〜98.8モル%と;
・少なくとも1種のモノマーM4を0〜2モル%(M1、M2、M3、およびM4の合計は合わせて100%となる)と;
から得られる共重合体である。
【0028】
M2よりM1のモル数が過剰な場合はカチオン性高分子両性電解質が得られ、M1よりM2が過剰な場合はアニオン性高分子両性電解質が得られるが、それはまた例えば、pHにも依存する。好ましくは、本発明の方法に使用される高分子両性電解質は、カチオン性共重合体、より具体的には、
・少なくとも1種のモノマーM1を5〜40モル%と;
・少なくとも1種のモノマーM2を0.5〜20モル%と;
・少なくとも1種のモノマーM3を38〜94.5モル%と;
・少なくとも1種のモノマーM4を0〜2モル%と;
から得られるカチオン性共重合体であり、高分子両性電解質はM2モノマー単位よりM1モノマー単位を多く含み、正味の正電荷を有する。
【0029】
他の好ましくは実施形態では、本発明の方法に使用される高分子両性電解質は、少なくとも1種のモノマーM1を6、7、8、9または10モル%以上、且つ35、30、25、20または16モル%以下と;少なくとも1種のモノマーM2を0.6、0.7、0.8、0.9または1モル%以上且つ15、10、8、6、5または4モル%以下と;M1、M2、およびM3の合計が100モル%となるような量の少なくとも1種のモノマーM3とから得られるカチオン性共重合体である。
【0030】
アニオン性高分子両性電解質を使用する本発明の実施形態では、M1およびM2の好ましい範囲は、それぞれ、カチオン性高分子両性電解質について前述したようなM2およびM1と類似している。
【0031】
付加重合による本発明の方法に使用される高分子両性電解質の生成に好適に使用できるカチオン性モノマーM1としては、ペンダントのアミノ官能基を有するビニルモノマーが挙げられ、それは、共重合体の生成中または生成後に中和され得る非イオン性モノマー、既に中和されたアミノ官能基を有するモノマー、または永久的な第四級アンモニウム基を有するビニルモノマーであってもよい。
【0032】
非イオン性アミノ官能基を有するビニルモノマーの例としては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノヘキシル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−メチル−N−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、tert−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、2−(1,1,3,3,−テトラメチルブチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、β−モルホリノエチル(メタ)アクリレート、4−(β−アクリルオキシエチル)ピリジン、ビニルベンジルアミン類、ビニルフェニルアミン、2−ビニルピリジン類または4−ビニルピリジン類、p−アミノスチレン類、ジアルキルアミノスチレン類、例えば、N,N,−ジアミノメチルスチレン、置換ジアリルアミン類、N−ビニルピペリジン類、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルイミダゾリン、N−ビニルピラゾール、N−ビニルインドール、N−置換(メタ)アクリルアミド類、例えば、2−(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、2−(t−ブチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、3−(ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N−アミノアルキル(メタ)アクリルアミド類、ビニルエーテル類、例えば、10−アミノデシルビニルエーテル、9−アミノオクチルビニルエーテル、6−(ジエチルアミノ)ヘキシルビニルエーテル、5−アミノペンチルビニルエーテル、3−アミノプロピルビニルエーテル、2−アミノエチルビニルエーテル、2−アミノブチルビニルエーテル、4−アミノブチルビニルエーテル、2−ジメチルアミノエチルビニルエーテル、N−(3,5,5,−トリエチルヘキシル)アミノエチルビニルエーテル、N−シクロヘキシルアミノエチルビニルエーテル、N−tert−ブチルアミノエチルビニルエーテル、N−メチルアミノエチルビニルエーテル、N−2−エチルヘキシルアミノエチルビニルエーテル、N−t−オクチルアミノエチルビニルエーテル、β−ピロリジノエチルビニルエーテル、または(N−β−ヒドロキシエチル−N−メチル)アミノエチルビニルエーテルが挙げられる。環状ウレイドまたはチオ尿素含有エチレン性不飽和モノマー、例えば、(メタ)アクリルオキシエチルエチレン尿素、(メタ)アクリルオキシエチルエチレンチオ尿素(メタ)アクリルアミドエチレン尿素、および(メタ)アクリルアミドエチレンチオ尿素等も使用することができる。好ましいモノマーは、アミノ官能性(メタ)アクリレート類および(メタ)アクリルアミド類;とりわけN,N,−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート類、より具体的にはt−ブチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)またはジエチルアミノエチルメタクリレート(DEAEMA)、より好ましくはDMAEMAおよびDEAEMAである。
【0033】
重合の前に、例えば、酸、好ましくは、カルボン酸などの有機酸で処理することにより、前述の好適で好ましい非イオン性M1モノマーの例をそれらのイオン化された形態で使用することもできる。
【0034】
永久的な第四級アンモニウム基を有するM1モノマーの好適な例としては、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド(MAPTAC)、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DADMAC)、2−トリメチルアンモニウムエチルメタクリル酸クロライド(TMAEMC)および置換(メタ)アクリル系モノマーおよび(メタ)アクリルアミドモノマーの第四級アンモニウム塩が挙げられる。
【0035】
付加重合による本発明の方法に使用される高分子両性電解質の生成に好適に使用できるアニオン性または酸性モノマーM2としては、ペンダントのリン酸基、スルホン酸基、またはカルボン酸基を有するビニルモノマーが挙げられる。好ましくはカルボン酸基を有するビニルモノマーが使用され、その例としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸および/またはジカルボン酸、例えば、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸等が挙げられ、とりわけカルボン酸基を有する(メタ)アクリル系モノマー、例えば、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)およびβ−カルボキシエチルアクリレートが使用される。好ましいM2モノマーは、アクリル酸およびメタクリル酸である。
【0036】
付加重合による本発明の方法に使用される高分子両性電解質の生成に好適に使用できる中性または非イオン性モノマーM3としては、様々なスチレン系、(メタ)アクリル系、オレフィン系、および/またはビニル系コモノマーを含む、様々なエチレン性不飽和モノマーまたはビニルモノマーが挙げられる。少なくとも1種のモノマーM3は、親水性もしくは疎水性であっても、または両方の混合物であってもよい。好ましくは、両性電解質共重合体は、ある一定量の非水溶性または疎水性コモノマーを含み、それにより、完全な水溶性ではない共重合体が、水性媒体中で自己集合してコロイド粒子または凝集体となることが促進される。当業者は、この説明、および場合により他の幾つかの実験により補助された実験に開示されている情報に基づいて、また共重合体の組成(M1およびM2の種類および量など)および条件(溶媒組成、温度、pHなど)に応じて、モノマーの好適な組み合わせおよびそれらの含有率を選択できるであろう。
【0037】
好適なスチレンモノマーM3としては、スチレン、α−メチルスチレンおよび他の置換スチレンが挙げられる。好適な(メタ)アクリル系モノマーM3としては、アルキルまたはシクロアルキル(メタ)アクリレート類、好ましくはC
1〜C
18アルキル(メタ)アクリレート類またはC
1〜C
8アルキル(メタ)アクリレート類、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル(全ての異性体)、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸プロピル(全ての異性体)が挙げられる。最も好ましい(メタ)アクリル系モノマーとしては、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸エチル(EMA)、メタクリル酸n−ブチル(BMA)が挙げられる。同様に、N−アルキル(メタ)アクリルアミド類をモノマーM3として使用することもできる。また、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ブタジエン;ビニルモノマー、例えば、塩化ビニル、ビニルピロリドン、ビニルエステル、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、およびビニルアルキルエーテル等を含む、M1およびM2と共重合できる他のモノマーもモノマーM3として使用することもできる。
【0038】
二官能性または多官能性モノマーM4の好適な例としては、アリルメタクリレート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレートおよびトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが挙げられる。好ましくは、二官能性モノマーを、好ましくは高分子両性電解質に基づいて0〜1モル%の量で使用する。
【0039】
本発明の方法の好ましい実施形態では、高分子両性電解質は、
・アミノ官能性(メタ)アクリレート類および(メタ)アクリルアミド類からなる群から選択される少なくとも1種のモノマーM1を8〜20モル%と;
・カルボン酸基を有する(メタ)アクリル系モノマーからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーM2を1〜4モル%と;
・C1〜C18アルキル(メタ)アクリレート類からなる群から選択される少なくとも1種のモノマーM3を76〜91モル%と;
から得られるカチオン性共重合体である。
【0040】
本発明の方法では、高分子両性電解質のモル質量は、非常に様々であってよい。典型的には、高分子両性電解質は重量平均モル質量(Mw)が1〜500kDa(kg/mol)の範囲の共重合体であり、好ましくは、コロイド凝集体の形成を最適化するために、Mwは2、5、10、15、またはさらには20kDa以上、且つ250、200、150、100、50またはさらには35kDa以下である。共重合体のモル質量は、既知のモル質量を有するポリメチルメタクリレート類を標準物質として、およびヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒として使用するゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で決定することができる。
【0041】
本発明の方法では、有機コロイド粒子をテンプレートとして提供する工程は、上記で引用した文献から既知のような、高分子両性電解質を水性媒体に分散したコロイド分散液の製造を含む。例えば、カチオン性高分子両性電解質を溶液重合で製造する場合、得られる溶液を、任意選択により溶媒を部分的に除去した後、酸性溶液、例えば、ギ酸の酸性水溶液に、典型的には周囲条件で分散させることができる(例えば、欧州特許第2178927号明細書参照)。アニオン性高分子両性電解質の場合、7を超えるpHが分散に好ましい。例えば、水系中での高分子両性電解質の自己会合によるコロイド粒子または凝集体の形成を、様々な方法で、例えば、動的光散乱(DLS)で監視することができる。水性媒体は、水と混和性の、または少なくとも水に溶解し得る有機溶媒、例えば、アルコール、ケトン、エステル、またはエーテルを含むことができる。例としては、1,4−ジオキサン、アセトン、酢酸ジエチル、プロパノール、エタノール、メタノール、ブタノール、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、およびテトラヒドロフランが挙げられる。好ましくは、溶媒は、水および低級(C1〜C8)脂肪族アルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールまたは1−メトキシプロパン−2−オール;より好ましくはエタノールまたはイソプロパノールを含む。使用する有機溶媒の量は、共重合体が溶解するのではなく分散するように選択される。好ましくは、水性媒体の溶媒組成は、後のシェル層の形成工程にも好適である。
【0042】
必要に応じて、本発明の方法では、分散した共重合体凝集体の形成を容易にし、得られた分散液をさらに安定化させるために、別の界面活性剤が存在してもよい。使用する界面活性剤は、高分子両性電解質の種類、およびpH等の条件に応じて、非イオン性、カチオン性もしくはアニオン性、またはこれらの組み合わせであってもよい。好ましくは、界面活性剤を、0.1〜1.5質量%、好ましくは0.2〜1.0質量%のように少量しか使用しない。
【0043】
本発明の方法では、高分子両性電解質分散液の濃度は広範囲にわたってもよく、例えば、1〜45質量%または2〜40質量%、好ましくは約10〜25質量%(分散液に基づくポリマー)であってもよい。
【0044】
得られた、DLSで測定されたコロイド粒子または凝集体の平均粒子サイズは非常に様々であってよく、例えば、5〜500nmであってもよい。好ましくは、コロイド粒子の平均サイズは、目的の用途に応じて、約10、15、20、25または30nm以上、且つ約−300、250、200、150または100nm以下である。粒子サイズは、高分子両性電解質の分子組成だけでなく、溶媒組成、高分子両性電解質の濃度、pH、温度、塩濃度等の分散条件にも依存することが判明している。
【0045】
得られた分散液中のコロイド凝集体の粒子サイズは、ある一定の温度範囲またはpH範囲内で比較的安定であることがさらに判明したが、分散液が置かれる条件を比較的大きく変化させることにより、またはpHと温度の両方を変化させることにより調節することができる。本発明者らはどのような理論にも拘泥されることを望まないが、本発明者らは、共重合体の両性電解質特性が、例えば、反対の電荷を有するペンダントのイオン性基の分子内および/または分子間会合により、独特な役割を果たすものと考える。
【0046】
従って、本発明は、合成高分子両性電解質を水性媒体に分散させること、およびpHと温度の両方を変化させることにより粒子サイズを調節することにより有機コロイド粒子を提供する有機無機ハイブリッドコロイド粒子の製造方法にも関する。例えば、DMAEMA約14モル%、MAA3.5モル%およびMMA82.5モル%を含有するカチオン性高分子両性電解質の水性コロイド分散液の場合、pH4.5で分散させた後の初期粒子サイズは約140nmであり、pHを約4.5から2.5に低下させても、または温度を周囲温度から約90℃に上昇させても、ほぼ一定のままであった。しかし、pHを約4未満にし、約60℃超に加熱すると、約20nmの粒子が得られた。また、これらの粒子は安定であることが判明した;pHを高分子両性電解質の等電点近傍に上昇させるだけで、これらの粒子のサイズが元のように増大し、ゲルが形成した。従って、本発明の方法では、出発高分子両性電解質の組成を変えることによりおよび/または分散条件を変えることにより、粒子サイズが調整可能な有機コロイド粒子の分散液を製造することが可能である。
【0047】
典型的には、本発明の方法では、従って、合成高分子両性電解質からコロイド分散液を得ること、およびその平均粒子サイズを10〜300nm、好ましくは15〜200、15〜150、15〜100、20〜75または25〜60nmの範囲内に調節することが可能である。
【0048】
DLSで測定されたコロイド粒子の粒子サイズは、ポリマー凝集体の、とりわけ比較的大きい粒子の流体力学的体積を示し、これらまたは後で製造される粒子について他の技術で測定されるサイズとは異なり得る。それにもかかわらず、硬化した被膜の気孔サイズについて観察されるように、コロイド粒子のサイズと後で粒子を使用する時の他のパラメータとの間に相関が存在し得る。ある一定のサイズ以上の粒子をベースにする被膜は、可逆的な水吸収/脱離曲線を示すことが判明したのに対して、例えば、20nm未満の小さい粒子の場合、水を吸収するが、周囲条件下ではその水を元のように脱離させることがほとんどない被膜が得られる可能性がある(毛管凝縮作用とも称される)。
【0049】
分散したコロイド高分子両性電解質粒子は、高分子両性電解質のみからなる「硬質」粒子であるとは見なされず、水(および溶媒)で膨潤した高分子両性電解質を含有すると見なされる。有機コロイド粒子は、少なくとも部分的に溶媒和した高分子両性電解質凝集体から実質的になると表すことができる。さらに、イオン性基は大部分は外層中に存在し、ポリマー鎖が水性媒体中に突出しており、非イオン性基は粒子の比較的内側に存在する可能性がある。
【0050】
本発明はまた、合成高分子両性電解質を水性媒体に分散させることにより有機コロイド粒子を提供する工程を含み、得られた分散液に機能性化合物を添加し、これにより機能性化合物が有機粒子中に含有されるようにする工程をさらに含む、有機無機ハイブリッドコロイド粒子の製造方法にも関する。後でテンプレート上に前駆体からシェル層を形成し、コアシェルナノ粒子を得た後、機能性化合物はコア内に;または、換言すれば、コアシェル粒子もしくはマイクロカプセル内に収容されている。このようにカプセル化される機能性化合物は、様々な化合物から選択することができる。典型的には、化合物は、コロイド粒子に優先的に取り込まれるように、水溶性が低く;それは、水中油型分散液と見なすこともできる。本方法でコアシェルナノ粒子内にカプセル化することができる機能性化合物の例としては、例えば、多孔質または中空コアを得るために後で粒子から蒸発させることができる有機化合物または有機溶媒;放出制御の目的の生物活性または医薬活性化合物;化粧料成分;触媒;センサまたはインジケータとして使用される有機色素;および文献に記載のその他の化合物および用途を挙げることができる。機能性化合物は、シェルを(機械的に)破壊すること等の何らかの外部刺激により;例えば、皮膚に化粧用ローションを塗布する時に、シェル層を通って拡散し得るまたは放出され得る。従って、本発明の方法にテンプレートとして使用される有機コロイド粒子は、合成高分子両性電解質、水、有機溶媒、界面活性剤および機能性化合物を含み得る。好ましくは、コロイド粒子は、合成高分子両性電解質、水、有機溶媒、および界面活性剤から実質的になる。本発明の別の好ましい実施形態では、有機コロイド粒子は、合成高分子両性電解質、水、有機溶媒および機能性化合物から実質的になり、より好ましくは、合成高分子両性電解質、水および有機溶媒からなる。
【0051】
本発明の方法は、a)合成高分子両性電解質を含む有機コロイド粒子をテンプレートとして提供する工程と;b)少なくとも1種の無機酸化物前駆体を添加する工程と;c)テンプレート上に前駆体からシェル層を形成し、コアシェルナノ粒子を得る工程と;を含む。典型的にはゾルゲル法による、無機シェル層のこのような形成は、本願に引用されている文献、およびその中で参照されている刊行物を含む多くの刊行物に記載されている。好適な無機酸化物前駆体としては、金属塩、金属キレート、および有機金属化合物、好ましくは金属アルコキシド、およびこれらの組み合わせが挙げられる。このような化合物は、様々な加水分解反応および/または縮合反応を経て、対応する酸化物または混合酸化物を生成することができる。本願内で、ケイ素(Si)は金属であると見なされる。好適な金属としては、Si、Al、Bi、B、In、Ge、Hf、Laおよびランタノイド、Sb、Sn、Ti、Ta、Nb、Y、ZnおよびZr、ならびにこれらの混合物が挙げられ、好ましくは、金属は、Si、Al、Ti、およびZrの少なくとも1種である。好ましい前駆体としては、アルコキシシラン、例えば、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、チタンテトライソプロポキシド、硝酸アルミニウム、アルミニウムブトキシド、硝酸イットリウムおよびジルコニウムブトキシドが挙げられる。このような前駆体化合物は、部分的に予備反応または予備加水分解し、ゾル粒子とも称される、典型的には約1〜20nmのナノサイズの粒子の形態のオリゴマー種を生成したものであってもよい。
【0052】
本発明の好ましい実施形態では、少なくとも1種の無機前駆体は、アルコキシシラン、より好ましくはTMOSおよび/またはTEOSを含む。好ましくは、形成されたシェル層はシリカから実質的になり;シェルは、例えば、無機酸化物中の金属としてSiを80、85、または90モル%以上、より好ましくはSiを95モル%以上含む。
【0053】
本発明の方法では、テンプレート上に前駆体からシェル層を形成し、コアシェルナノ粒子を得る工程は、典型的には、穏やかな条件下、水性媒体中で行われる。前述のように、水性媒体は、水と混和性の有機溶媒、例えば、アルコール、ケトン、エステル、またはエーテル;好ましくは、メタノール、エタノールまたはイソプロパノールなどのアルコールを含んでもよい。水は、組成物の溶媒または希釈剤の役割を果たすが、無機酸化物前駆体、例えば、アルコキシシランと反応することもできる。従って、組成物中に存在する水の量は、好ましくは少なくとも、例えば、テトラエトキシシランの(部分)加水分解等の望ましい反応に必要な量である。TEOSの完全な加水分解を目的とする場合、組成物は、水をSiに対して少なくとも4:1のモル比で含有しなければならない。
【0054】
温度は、本発明の方法ではあまり重要ではなく、高分子両性電解質分散液が破壊されない限り、非常に様々であってもよい。温度は100℃以下であってもよいが、典型的には周囲温度、即ち、約15〜40℃である。前記加水分解反応は発熱反応であるため、冷却を使用してこの工程の温度を制御してもよい。pHは、高分子両性電解質の種類に応じて、酸性または塩基性領域で選択され:カチオン性高分子両性電解質の場合、pHは2〜6、好ましくは3〜5または3〜4.5の範囲であり、アニオン性高分子両性電解質を使用する場合、pHは約8〜12、好ましくは9〜11または9〜10である。このような条件を適用する利点は、前駆体から形成され、典型的には電荷を有するナノ粒子が反対の電荷を有するコロイド高分子両性電解質粒子上に少なくとも部分的に堆積することである。このようにして、疎なもしくは「ふわふわした」またはさらにより凝縮された無機酸化物(前駆体)層が高分子両性電解質粒子の周囲に形成し得る。
【0055】
本発明の方法のこれらの前述の工程は、典型的には周囲圧力で行われるが、加圧(または減圧)を使用してもよい。
【0056】
本発明の方法では、テンプレート上に前駆体からシェル層を形成する工程は、典型的には、無機酸化物対有機テンプレートの質量比約0.25〜5、好ましくは0.5〜2、より好ましくは1〜1.8で行われる。
【0057】
本発明の方法では、テンプレート上に前駆体からシェル層を形成する工程は、例えば、DLSでコロイド粒子の寸法の変化を測定することにより監視することができる。DLS法には、例えば、比較的大きい粒子を主に検出することなどの欠点があり、また、コアに吸収されているアルコールなどの化合物が前駆体から遊離される結果として粒子サイズが変化し得るが、それは、シェルの形成を観察するのに簡単で好都合な方法である。高分子両性電解質の電荷と反対の電荷を有する無機酸化物(前駆体)によりコロイド粒子の正味電荷が減少すると、シェルの形成は減速または停止し得る。ある一定の電荷レベルは、粒子を分散した状態に保ち続ける可能性がある。シェルの形成は、無機ナノ粒子と高分子両性電解質外層との複合化により生じると考えられるため、密なシェルではなく、疎なまたはふわふわした構造が形成されると予想される。
【0058】
本発明の方法の実施形態では、形成されるシェルの構造、例えば、その密度または表面特性を、反応時間の延長、カップリング剤との反応または当該技術分野で既知の他の処理によりさらに最適化することができる。このようにして形成されるシェル層の厚みは、典型的には1〜20nm、好ましくは2〜10nmの範囲である。コアシェルナノ粒子のシェル厚みおよびそれらのモルフォロジーを、TEM、とりわけクライオTEM、SAXS、SANS、またはAFMなどの方法で粒子について評価することができる。
【0059】
本発明の方法の特定の実施形態では、成長が外見上停止した後、最初はCarusoらにより記載された交互積層(layer−by−layer)法(例えば、国際公開第9947253号パンフレット参照)を使用することによりシェルの形成を継続することができる。従って、多層シェルは、追加量の高分子両性電解質または同じ(正または負の)正味電荷を有する別の高分子電解質と無機酸化物前駆体とを交互に添加することにより形成することができる。このような方法で、例えば、25、30、40またはさらには50nm以下の比較的厚いシェル層を得ることができる。
【0060】
本発明の方法で製造されたコアシェルナノ粒子は任意の好適なサイズであってもよいが、好ましくは、平均粒子サイズが500nm以下、より好ましくは400、300、200、150、100、またはさらには75nm以下である。粒子サイズは、非球状粒子では0.5×(長さ+幅)、球状粒子では半径と定義される。好ましくは、平均粒子サイズは10nm以上、より好ましくは15、20、25または30nm以上である。平均粒子サイズは、表面に粒子の希薄懸濁液を展延し、ある一定数、例えば、100個の乾燥粒子について顕微鏡法、好ましくは電子顕微鏡法(SEMもしくはTEM)または原子間力顕微鏡法(AFM)を使用することにより個々の粒子のサイズを測定することにより、または分散液について動的光散乱(DLS)により決定することができる。
【0061】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、分散液を、例えば、5または3質量%未満に、好ましくは前述の溶媒で希釈することにより、および/またはpHを変化させることにより、得られた分散液を安定化させる工程をさらに含む。また、低温、好ましくは室温未満、より好ましくは15または10℃未満、且つ凝固点温度より高い温度で貯蔵すると、組成物の貯蔵寿命が長くなる。
【0062】
別の態様では、本発明の方法は、コアシェル粒子の集塊が防止されるように、無機酸化物および/またはその前駆体が、少なくとも非常にゆっくりとしか反応しないことを含む、反応しないレベルにpHを変化させることにより、シリカ前駆体の場合、好ましくはpH約2〜3(水性またはアルコール性分散液について標準型pH電極で測定した場合)にpHを変化させることにより、得られた分散液を安定化させる工程をさらに含む。
【0063】
本発明の方法はまた、コアシェルナノ粒子からテンプレートを少なくとも部分的に除去して、多孔質または中空のコア(簡潔にするために、中空コアと総称する)を得る別の工程を含んでもよい。コアシェル粒子の有機コアは、溶媒和した高分子両性電解質凝集体を含む、即ち、有機ポリマーと、水および有機溶媒を含む溶媒とを含む。このコアは、溶媒等の揮発性成分を蒸発させることにより;および/または溶媒抽出もしくはエッチング、熱による分解、触媒分解、光分解、電子線またはレーザー照射、およびこれらの組み合わせにより;任意選択により、その後、分解生成物を蒸発させることにより、少なくとも部分的に除去することができる。コア材料を部分的にまたは事実上完全に除去することができると共に、ナノ粒子は依然として分散した形態となっており、しかしまた、後で使用するために分散液から粒子を分離する時もしくはその後も、または後で使用するために分散液を適用して組成物を形成する時もしくはその後も、例えば、コーティング組成物を製造し、被膜層を形成する時もしくはその後も分散した形態となっている。後で使用または適用する前にコア材料が除去される場合、これは、任意の好適な方法で、本発明の方法の任意の好適な時点で達成することができる。
【0064】
本発明の方法の好ましい実施形態では、コアは、得られたナノ粒子分散液を基材上に被膜層を形成するのに使用されるコーティング組成物に製造した後、少なくとも部分的に除去される。従って、本発明の範囲は、コアが存在するコアシェル粒子、およびコアが部分的にまたは完全に除去されたコアシェル粒子を含むコーティング組成物を包含する。
【0065】
本発明の方法で直接得られる生成物は、有機無機ハイブリッドコロイド粒子、またはより具体的にはコアシェルナノ粒子の水性分散液(より詳細には、有機無機または中空無機コアシェルナノ粒子の分散液)である。このような分散液は、非常に良好な貯蔵安定性および取り扱い安定性を示すことが判明している、即ち、分散液は、他のゾルゲル法に基づく分散液と比較して、粘度が変化するまたはゲル化する傾向をほとんど示さない。さらに驚くべきことに、分散液を高温に曝すこともでき;減圧してまたは減圧することなく蒸発させることにより、水を含む溶媒の少なくとも一部を除去し、このようにして分散液の固形分含有率を増加させ得ることが判明した。驚くべきことに、またこのような濃縮分散液は、その後の取り扱い中も良好な安定性を示した。これにより、得られた分散液を幾つかの異なる用途に使用する可能性が大きく増加する。従って、本発明の方法は、好ましくは、溶媒を部分的に除去することにより固形分含有率を増加させる別の工程を含む。
【0066】
幾つかの用途では、とりわけナノ粒子が機能性化合物を含む場合、本発明の方法が、得られた分散液からナノ粒子を分離する任意選択の工程をさらに含むことが望ましい場合がある(後述)。このような分離工程は、濾過法、凍結乾燥法または噴霧乾燥法などの既知の任意の方法を含み得る。
【0067】
従って、本発明は、本発明の方法で、有機無機ハイブリッドコロイド粒子の水性分散液として、または有機無機コアシェルナノ粒子もしくは中空無機コアシェルナノ粒子自体として得られるコアシェルナノ粒子にも関する。特定の実施形態では、本発明は、機能性化合物を含むこのようなコアシェルナノ粒子に関する、または、換言すれば、本発明は、本発明の方法で得られるコアシェルナノ粒子中にカプセル化された機能性化合物に関する。
【0068】
本発明は、さらに、光学的組成物、とりわけ反射防止膜組成物を含むコーティング組成物等の、本発明の方法で得られる有機無機ナノ粒子または中空無機コアシェルナノ粒子を含む組成物、および前記ナノ粒子および組成物の様々な使用、ならびに、反射防止膜、化粧料組成物、放出制御医薬、および複合材料を含む、前記ナノ粒子および組成物を含むまたはそれらから製造される製品に関する。
【0069】
有機無機ナノ粒子または中空無機コアシェルナノ粒子の有利な特性は、合成高分子両性電解質をテンプレートとして適用する前述の方法に関連する。従って、本発明は、ハイブリッドコロイド粒子、有機無機コアシェルナノ粒子または中空無機コアシェルナノ粒子、および様々なコーティング組成物またはポリマー組成物を製造するための全ての好ましい特徴および実施形態を含む、前述の高分子両性電解質の使用にも関する。
【0070】
好ましい実施形態では、本発明は、基材上に被膜、とりわけ基材上に多孔質無機酸化物被膜を製造するために使用することができるコーティング組成物に関する。被膜の気孔率は、組成物中のコアシェル粒子の相対量に、および被膜の形成中に粒子から除去されるコア材料に依存する。とりわけ、組成物の固形分含有率および塗布される被膜層厚に応じて、ハードコート、低摩擦被膜、およびAR膜を含む異なる用途のための異なる特性を有する被膜を、コーティング組成物から製造することができる。
【0071】
好ましくは、本発明はまた、本発明の方法で得られる有機無機コアシェルナノ粒子または中空無機コアシェルナノ粒子と、少なくとも1種の溶媒と、任意選択により少なくとも1種の結合剤とを含む、基材上に反射防止層を製造するのに好適なコーティング組成物にも関する。溶媒とは、溶解した、または分散したもしくはコロイドの状態の他の被膜成分を含有する液体成分を意味し、従って、希釈剤と称することもできる。
【0072】
本発明のコーティング組成物中の少なくとも1種の溶媒は、典型的には水を含み、それは、部分的にナノ粒子の製造方法に起因し得る。結合剤および任意選択により存在し得る他の成分の性質に応じて、非プロトン性およびプロトン性有機溶媒、例えば、ケトン、エステル、エーテル、アルコール、グリコール、およびこれらの混合物を含む他の様々な溶媒を本発明の組成物に使用することができる。他の好適な溶媒は、水と混和性であるか、またはある一定量の水を少なくとも溶解することができる。例としては、1,4−ジオキサン、アセトン、酢酸ジエチル、プロパノール、エタノール、メタノール、ブタノール、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、およびテトラヒドロフランが挙げられる。好ましくは、溶媒は、低級(C1〜C8)脂肪族アルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールまたは1−メトキシプロパン−2−オールを含み;より好ましくは、溶媒は、エタノールまたはイソプロパノール;およびある一定量の水を含む。
【0073】
所望のコーティング組成物粘度が得られるように溶媒の量を変化させることができ、その粘度は、例えば、光学薄膜としての用途には、薄膜として基材に容易に塗布できるように比較的低くてもよい。典型的にはコーティング組成物の粘度は、約0.6mPa.s以上、好ましくは1.0または2.0mPa.s以上である。他の用途では、例えば、ハードコートまたは低摩擦被膜の製造用には、粘度は1000mPa.sと高くてもよく、それはまた塗布方法または堆積方法にも依存する。均一な厚みの薄層を製造するために、好ましくは、粘度は500、300または200mPa.s.以下である。粘度は、既知の方法を用いて、例えば、とりわけ低粘度範囲ではウベローデ(Ubbelohde)PSL ASTM IP no 1(27042型)を用いて、またはブルックフィールド(Brookfield)粘度計を用いて測定することができる。
【0074】
好ましくは、コーティング組成物は、少なくとも1種の無機または有機ポリマー化合物または重合性化合物であってもよい結合剤をさらに含む。結合剤は、皮膜形成剤として機能し、ナノ粒子を結合させ、形成される被膜の機械的特性を改善し、乾燥および/または硬化時の基材への接着性を向上させることができる。好適な有機結合剤としては、当業者に既知の様々な異なるポリマーおよび熱または放射線硬化性モノマーが挙げられる。有機結合剤はとりわけナノ粒子がコア中に揮発性成分を含むまたは中空粒子である場合に使用することができる。ナノ粒子に含まれる有機ポリマーコアを除去する場合、無機結合剤が好ましいが、その理由は、無機結合剤では約250〜900℃の高温で仮焼することにより結合剤の硬化と有機コアの除去を同時に行うことが可能であるからである。
【0075】
本発明のコーティング組成物中の好適な無機結合剤としては、金属アルコキシド、金属キレートおよび金属塩等の無機酸化物前駆体が挙げられる。本明細書に関して、金属はケイ素(Si)を含むものと理解される。好適な金属としては、Si、Al、Be、Bi、B、Fe、Mg、Na、K、In、Ge、Hf、Laおよびランタノイド、Sb、Sn、Ti、Ta、Nb、Y、ZnおよびZrから選択される少なくとも1種の元素が挙げられ;好ましくは、金属は、Si、Al、Ti、およびZrから選択される少なくとも1種の元素である。好適な無機酸化物前駆体としては、当該技術分野で周知のように、加水分解反応および/または縮合反応により反応して対応する酸化物を生成することができる化合物が挙げられる。無機酸化物前駆体は、金属塩または有機金属化合物、例えば、アルコキシ、アリールオキシ、ハロゲン化物、硝酸塩、または硫酸塩化合物、およびこれらの組み合わせであってもよい。好ましい前駆体としては、ハロゲン化誘導体を含むアルコキシシラン、例えば、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、チタンテトライソプロポキシド、硝酸アルミニウム、アルミニウムブトキシド、硝酸イットリウムおよびジルコニウムブトキシドが挙げられる。より好ましくは、前駆体はTMOSおよび/またはTEOSを含む。
【0076】
無機酸化物前駆体は、無機酸化物前駆体化合物と対応する無機酸化物との混合物であってもよい。このような混合物は、例えば、前駆体化合物が部分的に予備反応または予備加水分解して、典型的にはナノサイズの粒子の形態のオリゴマー種を生成した場合に得ることができ、それはゾルゲル法における公知の手順である。
【0077】
別の好ましい実施形態では、本発明のコーティング組成物中の結合剤は、異なる無機酸化物前駆体の混合物を含み、その場合、例えば、様々なガラスに関して既知のように、典型的には混合無機酸化物が生成する。このような混合酸化物では、元素は異なる酸化物の物理的混合物として存在するのではなく、元素は酸素原子を介して結合し、イオン性または共有結合性網目構造の一部を形成する。本開示に関して、混合無機酸化物は、このような定義を指す。混合酸化物の生成は、異なる組成物から生成される、例えば、薄層の形態の酸化物の等電点の変化を評価することにより、またはIRおよび固体NMR等の分析法により確認することができる。それにもかかわらず、当該技術分野では通例、存在する各金属について、無機酸化物の理論量によりこのような混合無機酸化物の組成を定め;例えば、Si酸化物およびAl酸化物の前駆体から製造されるアルミノケイ酸塩の組成は、典型的にはシリカおよびアルミナの含有率で表される。結合剤として混合酸化物を用いる場合、主要な金属元素は、好ましくはSi、Al、Ti、およびZrから選択され、第2の元素はSi、Al、Be、Bi、B、Fe、Mg、Na、K、In、Ge、Hf、Laおよびランタノイド、Sb、Sn、Ti、Ta、Nb、Y、ZnおよびZrから選択され;主要な元素対第2の元素のモル比は約75:25〜99:1である。
【0078】
形成される混合酸化物が高い耐候性(outdoor resistance)または耐久性を示すため、好ましくは、コーティング組成物中の結合剤は、シリカ前駆体とAl酸化物またはY酸化物の前駆体との混合物を含む。
【0079】
本発明のコーティング組成物は、例えば、防汚性等の得られる被膜の特性をさらに改善するために、または基材への接着性を向上させるために、無機結合剤と有機結合剤との組み合わせも含み得る。これらの結合剤は、それ自体でポリマーを生成し得るまたは網状構造を形成し得るが、共反応することもできる。
【0080】
好ましい実施形態では、本発明のコーティング組成物中の結合剤は、少なくとも1種の無機酸化物前駆体から実質的になる。
【0081】
本発明のコーティング組成物中のナノ粒子の量は、被膜としてのその用途に依存し、非常に様々であってよい。適切な反射防止特性を得るために、ナノ粒子含有率は、最終被膜中、例えば、固形分に基づいて50質量%超、好ましくは60または70質量%超とすることができる。固形分濃度または固形分含有率は、コーティング組成物を基材に塗布し、その後乾燥させ、必要に応じて硬化させた後に、蒸発していない全成分の含有率である。
【0082】
本発明のコーティング組成物は、ナノ粒子および結合剤の他に、任意選択により、他の不揮発性成分または固体成分を、固形分に基づいて、好ましくは20または10質量%以下、より好ましくは5質量%以下含んでもよい。これらの成分は、被膜の他の機能に影響を及ぼすためにまたはコーティング組成物の処理を助けるために添加することができる。他の成分の例としては、有機結合剤、緩衝剤、触媒、カップリング剤、界面活性剤、消泡剤、キレート剤、スリップ剤およびレベリング剤が挙げられる。
【0083】
本発明のコーティング組成物の固形分含有率は、典型的には約20、15または10質量%未満であり、最低固形分含有率は約0.1質量%、好ましくは0.2、0.5または1.0質量%以上である。
【0084】
本発明のコーティング組成物は、良好な経時安定性を示す;即ち、粘度または分散粒子のサイズが著しく変化することなく、液体を周囲条件で貯蔵できることが判明しており、ゾルゲル系に基づく組成物は一般的に短い貯蔵寿命を示すため、それは驚くべきことである。
【0085】
別の態様では、本発明は、
・基材に本発明のコーティング組成物を塗布する工程と;
・塗布された被膜層を乾燥および硬化させる工程と;
を含む、基材上に多孔質無機酸化物被膜を製造する方法に関する。
【0086】
好ましい実施形態では、本発明は、
・基材に本発明のコーティング組成物を塗布する工程と;
・塗布された被膜層を乾燥および硬化させる工程と;
を含む、反射防止(AR)コーティングされた透明基材の製造方法に関する。
【0087】
本発明のコーティング組成物を塗布することができる透明基材は非常に様々であってよく、有機物であってもまたは無機物であってもよく、様々な幾何学的形態を有してもよい。好ましくは、基材は可視光に対して透明である。好適な基材としては、無機ガラス(例えば、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、ガラスセラミック、アルミノケイ酸塩ガラス)およびプラスチック(例えば、PET、PC、TAC、PMMA、PE、PP、PVCおよびPS)、またはラミネート等の複合材料が挙げられる。好ましくは、基材は、ホウケイ酸ガラス等のガラス;好ましくは、表面が平滑なまたはパターン化されているフロートガラス等の板ガラスである。
【0088】
本発明のコーティング組成物は、基材に直接塗布することができるが、アルカリイオンに対するバリア層または接着促進層等の、基材上に既に存在する別の被膜層に塗布することもできる。
【0089】
本発明の方法は、2層以上の被膜層に適用することもでき、各層の塗布後に中間乾燥を行う。幾つかの実施形態では、中間乾燥および硬化は、層の幾つかまたは全部を塗布した後に行われる。
【0090】
本発明の方法では、薄い均一な被膜層を製造するための当業者に既知の様々な堆積法を用いてコーティング組成物を基材に塗布することができる。好適な方法としては、スピンコーティング法、ディップコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコーティング法、およびスロットダイコーティング法等が挙げられる。好ましい方法は、ディップコーティング法、ロールコーティング法およびスロットダイコーティング法である。塗布される湿潤被膜層の厚みは、コーティング組成物中の固体皮膜形成成分の量、および後で乾燥および硬化した後の所望の層厚に依存する。当業者は、状況に応じて適切な方法および条件を選択することができるであろう。
【0091】
(単層)AR膜を製造するために、コーティング組成物は、乾燥および/または硬化後の厚みが約20nm以上となるような湿潤厚みで基材に塗布され、好ましくは塗布された被膜の層厚は約50または70nm以上、且つ約160または140nm以下である。多層被膜の場合、当業者は異なる層厚を選択することができる。
【0092】
本発明の方法では、塗布されたコーティング組成物を乾燥および硬化させる工程は、溶媒および他の揮発性成分を蒸発させ、結合剤を反応させて無機酸化物を生成し、ナノ粒子から有機コアを除去することを含む。
【0093】
乾燥は、好ましくは周囲条件下(例えば、15〜30℃)で行われるが、高温(例えば、約250℃以下、より好ましくは100、50または40℃以下)を使用して全乾燥時間を短縮することもできる。乾燥は、不活性ガス流を適用すること、または減圧することにより制御することができる。具体的な乾燥条件は、蒸発させる溶媒または希釈剤に基づいて、当業者が決定することができる。
【0094】
乾燥中、コアシェル粒子中に含有される溶媒も少なくとも部分的に除去され、気孔または空隙が生じ得るが、それは依然として高分子両性電解質を含み得る。また、本方法により、高分子両性電解質を含む有機物を全て完全に除去しなくても、ある一定の気孔率および被膜のAR特性が得られる。この利点は、AR膜を比較的低温で製造することができ、プラスチック基材等の耐熱性の低い基材にAR膜を塗布することが可能となることである。本発明の方法を実施するこのような方法で、基材と適合する温度で硬化工程を行うこともできる。硬化後、AR特性を示す有機無機ハイブリッド被膜でコーティングされた基材がこのようにして得られる。
【0095】
乾燥後、即ち、揮発性成分を実質的に除去した後、好ましくは被膜層を硬化させる。硬化は、熱硬化、瞬間硬化、UV硬化、電子線硬化、レーザー誘導硬化、γ線硬化、プラズマ硬化、マイクロ波硬化およびこれらの組み合わせを含む幾つかの方法を使用して行うことができる。硬化条件は、コーティングの組成および結合剤の硬化機構、ならびに基材の種類に依存する。例えば、ガラス基材の場合、例えば、ガラスの軟化温度以下の比較的高温で硬化を行うことができる。この利点は、コアシェル粒子中の有機コアを含む、被膜層中に存在する有機化合物を熱により除去できることである。別の利点は、硬化をガラス焼き戻し(tempering)工程;即ち、ガラスを約600〜700℃に加熱した後、急冷する工程と組み合わせて、強化ガラスまたは安全ガラスを得ることができることである。
【0096】
基材が有機ポリマーである場合、硬化温度は、一般的に、半結晶性または非晶質ポリマーの融点または軟化点未満に制限されるか、またはごく短時間で行わなければならない。あるいは、例えば、国際公開第2012037234号パンフレットに記載のように、有利には瞬間加熱を適用して、基材が高温に曝されることを最小限に抑えることができる。耐熱性の低い有機基材の場合、放射線硬化性結合剤の使用には特定の利点がある。あるいは、被膜を乾燥させ、任意選択により硬化させた後、他の方法で;例えば、被膜を有機コア用の溶媒に曝し、被膜から化合物および/またはポリマーを抽出することにより、存在する有機造孔剤を除去することができる。有機化合物の溶解と分解/蒸発とを組み合わせた処理を適用してもよい。具体的な事例に基づいて、当業者は好適な条件を決定できるであろう。
【0097】
本発明はさらに、本発明の方法でおよび前述のように得ることができるまたは得られるARコーティングされた基材に関し、それには、記載する特徴および実施形態の全ての組み合わせおよび変更(perturbation)が含まれる。
【0098】
反射防止(AR)膜または光反射低減膜は、5°の入射角度で測定した場合、425〜675nmの1つ以上の波長の、基材、好ましくは透明基材の表面からの光の反射を低減する被膜である。コーティングされた基材とコーティングされていない基材について測定を行う。好ましくは、反射の低減は約30%以上、好ましくは約50%以上、より好ましくは約70%以上、さらにより好ましくは約85%以上である。パーセンテージで表される反射の低減は、100×(コーティングされていない基材の反射−コーティングされた基材の反射)/(コーティングされていない基材の反射)に等しい。
【0099】
典型的には、本発明の方法で得ることができるARコーティングされた基材は、良好なAR特性と、鉛筆硬度試験で測定した場合、表面硬度少なくとも3H、より好ましくは少なくとも4Hまたは5Hの良好な機械的特性とを兼備している。本発明のARコーティングされた基材は、コーティングされた面が、ある一定の波長で2%以下、好ましくは最大で約1.4、1.2、1.0、0.8または0.6%の最小反射を示す(両面にコーティングを有する基材)。両面コーティングされた基材では425〜675nmの波長域での平均反射が、好ましくは約3%以下、より好ましくは最大で約2、1.8、1,7、1.6または1.5%である。
【0100】
本発明のARコーティングされた基材は、窓ガラス(window glazing)、太陽熱および太陽光発電システムを含むソーラーモジュール用のカバーガラス、またはTVスクリーンおよびディスプレイ用のカバーガラス等の多くの異なる用途および最終用途に使用することができる。従って、本発明はさらに、本発明の方法で得られるARコーティングされた基材を含む物品に関する。このような物品の例としては、ソーラーパネル、例えば、太陽熱パネルまたは太陽電池モジュール、モニター、タッチスクリーンディスプレイ、例えば、携帯電話、タブレットpcまたは一体型(all−in−one)pc、およびTV受像機用のものが挙げられる。
【0101】
本明細書で使用する場合、「固体分の質量(mass of the solid fraction)による」または「固形分に基づく質量%」という用語は、水を含む溶媒を全て除去し、前駆体から無機酸化物を生成した後の質量パーセンテージを指す。
【0102】
本明細書の説明および特許請求の範囲全体を通して、「含む(comprise)」および「含有する(contain)」という用語、ならびにそれらの用語の変形、例えば、「含む(comprising)」および「含む(comprises)」は、「含むが、限定されるものではない」ことを意味し、他の部分、添加剤、成分、整数または工程の除外を意図するものではない(および除外しない)。
【0103】
本明細書の説明および特許請求の範囲全体を通して、文脈上、他の解釈を必要としない限り、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞を使用する場合、文脈上、他の解釈を必要としない限り、本明細書は複数形および単数形を考えるものと理解することができる。
【0104】
本発明の特定のまたは好ましい態様、実施形態または実施例に関して記載される特徴、整数、特性、化合物、化学的部分または基は、特記しない限りまたはそれと明らかに矛盾しない限り、本明細書に記載の他の任意の態様、実施形態または実施例に適用可能であると理解されたい。
【0105】
以下の実施例および比較実験により本発明をより詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0106】
[実験]
[材料および方法]
[高分子両性電解質分散液]
表1は、欧州特許第2178927号明細書の実験部分に記載の手順に従って得られる、水性分散液の形態の複数の共重合体の幾つかの特性を示す。これらの分散液は、水中での共重合体の濃度が約20質量%およびpHが約4(ギ酸で酸性にした)であり、約80℃で約30分間の加熱を行った。PA1〜PA4は、両性電解質三元共重合体であり、PE1は、比較のカチオン性共重合体である。共重合体のM
wは、25〜40kDaの範囲であった。
【0107】
高分子両性電解質PA1〜PA4から明らかなコロイド凝集体が生じたことに留意されたい;高分子電解質PE1は、DLSで明瞭な粒子が検出されなかったため、溶解したように見受けられた。
【0108】
【表1】
【0109】
[DLS測定]
マルバーン・ナノ(Malvern Nano)ZSを使用して、25℃のKCl水溶液(1mmol/L)10ml中に分散液1滴を添加したものについて後方散乱モードで、分散粒子の粒子サイズを測定した。この装置は、希釈試料のゼータ電位測定にも使用した(M3 PALSおよびMPT−2装置を用いた)。
【0110】
[鉛筆硬度]
被膜を製造し、硬化させて少なくとも1日経過した後に、ガードコ(Gardco)3363鉛筆硬度試験機を用い、基材に対して300gの公称荷重を使用して、片面コーティングされた基材で被膜の硬度を評価した。ASTM D3363試験方法に従い、最初の1cmを無視して表面の損傷を判断した。
【0111】
[光学的特性]
島津(Shimadzu)UV−2450分光光度計を用いて、コーティングされた透明基材の反射および透過を評価した。反射率測定用付属装置を用いて、入射角度5°で相対鏡面反射率を測定した。透過を測定するために、積分球付属装置を試料室に取り付け、入射角度は0°とした。波長域425〜675nmについて平均反射値を算出する。特記しない限り、両面コーティングされた基材で測定を行う。
【0112】
[実施例1]
PA3の水性分散液を10%HClを用いて約pH2.5の酸性にし、60℃より高温に加熱し、室温に冷却した後、希釈してDLS装置に入れ;粒子サイズ、pHおよびゼータ電位を同時に測定できるようにした。アンモニア水を一定量ずつ添加することにより、分散液のpHを徐々に上昇させた。粒子サイズは約pH6.5まで約25nmのままであり、その後、粒子サイズは急速に増大することが判明した。ゼータ電位はこの範囲で約35mVから−5mVに低下し、正味電荷が正から負に変化したことが分かる。
【0113】
他の実験では、より濃縮された分散液のpHは室温で徐々に上昇し、その結果、約pH6.5でゲルが形成した。
【0114】
[実施例2]
DLSに必要な希釈工程を行わずに実施例1を繰り返し、アンモニア水の各添加後に、分散液を約90℃に加熱した。加熱の前後に粒子サイズおよびpHを測定した。
図1に示す結果から、pHと温度の両方を変化させることにより、この高分子両性電解質コロイド分散液の平均粒子サイズを20〜50nmの範囲に調節できることが分かる。pH6.5にした試料は、加熱時にゲル化したことに留意されたい。
【0115】
[実施例3]
pH4のPA3分散液の試料を希釈してDLS装置に入れ;粒子サイズを温度の関数として測定した。
図2に示すグラフから、分散液は少なくとも約80℃以下で安定であることが分かる。pHを約3に調節した後、実験を繰り返したが、その場合、温度が約60℃より高温に上昇すると、粒子サイズは減少した。同様に、pHを約2に調節した後、粒子サイズは減少した。
【0116】
この試料を後で冷却し、pHを3に調節した後、再加熱すると、粒子サイズは元のように増大した。
【0117】
これらの実験からも、pHと温度の両方を変化させることにより、高分子両性電解質コロイド分散液の粒子サイズを調節できることが分かる。
【0118】
[実施例4]
これらの実験では、異なる量のシリカ前駆体をPA3分散液に添加した後、得られたコロイド分散液を使用してコーティング組成物を製造し、その後、コーティングされたガラス基材を製造した。
【0119】
8cmの磁気撹拌子を備えた5L三角フラスコ内で、PA3分散液(pH4の水中に固形分約20%)425gを水3835gで希釈した。希釈後、DLS z−平均粒子サイズは25.6nm、ゼータ電位は+25mV、pHは4.1であった。次いで、21〜25℃の範囲内の温度で撹拌しながらTMOS300gを約5分かけて添加した。24時間撹拌した後、粒子サイズは28.5nm、ゼータ電位は+12mV、pHは3.8と測定された。これらの変化から、高分子両性電解質粒子上にSi含有シェルが形成され、コアシェル粒子が得られたと結論付けることができる。算出されたSiO
2(TMOSから得られる)対高分子両性電解質の質量比は1.39である。
【0120】
8cmの撹拌子を備えた5L三角フラスコ内でTEOS339gをエタノール922gに添加することにより、TEOSがエタノール/水に分散したゾルを調製した。その後、水310g、次いで氷酢酸34.6gを添加し、周囲条件で24時間撹拌した。次いで、エタノール965g、および硝酸(65%)7.2gを添加した。
【0121】
コアシェル粒子分散液にTEOSゾル1124gを結合剤として添加した後、硝酸(65%)を添加することによりpHを約2に調節し、その後、エタノール5600gを添加して1時間還流した。このコーティング組成物では、算出されたSiO
2(TMOSおよびTEOSから得られる)対高分子両性電解質の質量比は1.89である。
【0122】
得られたコーティング組成物を使用して、ディップコーティング法によりガラス板に被膜層を設けた。この組成物を収容する容器に浸漬することにより、50×50cmおよび厚み2mmのフロートガラス板をディップコーティングした。コーティング浴は、周囲条件、即ち、約21℃および相対湿度50%に保った。次いで、そのガラス板を浴から約6.0mm/sの速度で垂直に引き上げた。その後、コーティングされたガラス板を周囲条件で約5分乾燥させ、次いで、450℃の熱風循環炉で3時間硬化させた。
【0123】
このようにして得られたコーティングされたガラスは、肉眼で完全に透明に見え、目に見える欠陥は認められなかった。コーティングされたガラス板の反射特性を測定したが、その結果を表2に要約する。
【0124】
硬化した被膜の硬度は、片面ディップコーティングされたガラス板では鉛筆硬度5Hと測定された。
【0125】
中間コアシェル粒子分散液とコーティング組成物は両方とも安定であることが判明した。コーティング組成物は肉眼で事実上透明に見え、周囲条件下で7ヶ月以上貯蔵しても、視覚的な変化がなかった。前記貯蔵期間中にコーティング実験を繰り返したところ、類似の被膜性能が得られた。また18ヶ月貯蔵した後も、組成物はヘイズが発生せず、類似の特性を有する被膜に製造することができた。
【0126】
【表2】
【0127】
[実施例5〜9]
実施例4を繰り返したが、異なる量のTMOSを使用し、TEOSゾルの添加量を無添加(実施例5)から、算出されたSiO
2対高分子両性電解質の比が2.5となる量まで変えた。組成データおよび測定した反射特性を表2に要約する。TEOSの量を増加すると反射が幾分高くなる(またはAR特性が幾分低下する)と結論付けることができる。これは、TEOSが分散粒子の結合剤として機能し、そのため気孔率が低下することにより説明でき、それにより機械的特性が予想通り向上する。
【0128】
[実施例10]
実施例4と同様に、コロイドコアシェルPA3/TMOS分散液を製造した後、硝酸でpH2.5の酸性にして減圧下で約80℃に加熱し、その時、水の蒸発を観察した。この分散液は初期固形分含有率が約4質量%であったが、この時点では約13.5質量%と測定された(また、依然として透明であった)。
【0129】
コーティング組成物を製造するために、この分散液をここでもエタノールで固形分約3質量%に希釈した後、「SiO
2」/高分子両性電解質比が1.6となるようにTEOSゾル(上記のように製造)を添加した。ディップコーティングされたガラス板は、欠陥がなく良好な光学的特性を示し、628nmで最小反射0.4%であった。
【0130】
[実施例11]
MMA、DMAEMAおよびMAAモノマー単位を含有する高分子両性電解質は、開始剤としての過硫酸アンモニウム、連鎖移動剤としてのチオグリコール酸イソオクチル、およびリン酸ベースのアニオン性界面活性剤(Rhodafac RS−710)の存在下、MMAとDMAEMA(mol比85:15)を85℃で60分間乳化重合することにより調製した。このようにして得られた分散液の安定性を改善するために、非イオン性界面活性剤を添加した。室温に冷却した後、ギ酸溶液を30分間添加してpH4にした。得られた高分子両性電解質分散液の固形分含有率は20質量%であり、粒子サイズは約78nm(z−平均粒子サイズ;PDI0,1)であり、Mwは40kDa(GPC)であった。
【0131】
DMAEMAは加水分解して酸基(MAA)を生成し得ることが知られているため、Muetek PCD 03 pH.粒子電荷検出器を使用して分散液の電荷密度を測定した。試料約100mgを水で30mlに希釈し、0.1M緩衝酢酸(pH4)1000μlを添加した。試料を電荷電位ゼロ(単位:mV)になるまで0.001Nポリエチレン硫酸ナトリウム(NaPES)溶液で滴定した。測定された電荷密度は、MMA/DMAEMA85/15共重合体について算出された電荷密度より約20%低かった。約20%のDMAEMAが加水分解してMAA単位になったことが明らかであり;それを等電点測定により確認した。
【0132】
次いで、高分子両性電解質分散液を水で希釈して固形分含有率10質量%にした後、TMOS/分散した高分子両性電解質の質量比が5となるように約15℃で撹拌しながらTMOSを添加することによりコーティング組成物を調製した。16時間後、DLS測定から粒子サイズが120nmであることが分かり、次いで、製剤を希硝酸でpH1.5の酸性にした後、イソプロパノールで希釈して、理論SiO
2含有率約2質量%の組成物を得た。得られた組成物は無色であり、ヘイズが発生せず、室温で数ヶ月間(または40℃で数週間)貯蔵された。毎週、目視検査およびDLS測定を行ったが、測定可能な変化は現れなかった。組成物の試料をクライオTEMで検査した。
図3に示す顕微鏡写真は、コアシェル構造を有し、直径約60〜90nmの球状粒子を示す。
【0133】
実施例4と同様に、ガラス板をディップコーティングし、650℃で2.5分間硬化させた。得られたコーティングされたガラス板は透明で、ヘイズが発生せず、目に見える欠陥は認められなかった。最小反射は、575nmで0.7%であった。光学的特性は、周囲条件下で貯蔵中、相対湿度の変化の影響を受けないように見受けられた。