【実施例】
【0037】
以下に実施例を示す。これらは、あくまでも例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の改良及び設計の変更を行ってもよい。
【0038】
1.亜鉛を含有する非晶質炭素膜の成膜実験
1−1.概要
真空炉にアルゴンとアセチレンのガスを導入し、亜鉛のターゲットを用いて亜鉛をドーピングした非晶質炭素膜の成膜実験を行った。ガス流量比とスパッタ電源の電圧・パルス幅を操作し、該炭素膜中の亜鉛含有量の制御を試みた。またスパッタ電源には、DC電源とHiPIMS電源を用いた。シリコンのウエハを成膜サンプルとし、段差測定とEDX測定で評価した。
【0039】
1−2.使用装置
真空炉は日本真空技術株式会社のIPB−450VHSを用いた。DC電源はKYOSANのHPK06Gを使用し、HiPIMS電源はナノテック株式会社のICF−500 plus SIを使用した。
【0040】
1−3.装置概略図
図1に本実験で使用した成膜装置の概略図を示す。真空炉内に、被加工材を保持する基板と、該基板に対向配置される亜鉛ターゲット基板を100mmの間隔を空けて設置し、両基板間にスパッタ電源を用いることで、所定の電圧の印加が可能な構成となっている。
【0041】
1−4.評価方法
段差測定と、EDX測定を行いサンプルの膜厚と組成を評価した。段差測定には東京精密のE−RA−SO1Aを使用した。EDX測定にはHITACHIのSwift ED3000を用い、観察視野は700nm×800nm、収集時間は100秒、定性元素を炭素(C)、酸素(O)、亜鉛(Zn)とした。
【0042】
1−5.成膜条件と測定結果
1−5−1.実験1:DC電源を使用し、スパッタ電源電圧を変化させる。
[実験手順]
・真空炉にサンプルをセットし、真空度を5x10
−3Pa以下にする。
・真空炉にアルゴンガスを導入し、亜鉛ターゲットのスパッタリングを行う。
・真空炉にアルゴンガスとアセチレンガスを導入し、ターゲットに電圧を印加することで、アルゴンイオンによる亜鉛のスパッタとアセチレンガスのプラズマCVDを進行させ、基板にセットしたサンプルに成膜を行う。
[成膜条件]
・DC電源の電圧をそれぞれ400、500、600、700、800Vとして、基板は接地し、アセチレン/アルゴンガス流量比を1とした。
[測定結果]
・段差測定によりサンプルの膜厚を測定し成膜レートを算出した。また、EDX測定によりサンプルの組成を評価した。結果を表1に示す。
【表1】
表1. 実験1のサンプル評価
【0043】
1−5−2.実験2:DC電源を使用しガス流量比を変化させる。
[実験手順]
・真空炉にサンプルをセットし、真空度を5x10
−3Pa以下にする。
・真空炉にアルゴンガスを導入し、亜鉛ターゲットのスパッタリングを行う。
・真空炉にアルゴンガスとアセチレンガスを導入し、ターゲットに電圧を印加することで、アルゴンイオンによる亜鉛のスパッタとアセチレンガスのプラズマCVDを進行させ、基板にセットしたサンプルに成膜を行う。
[成膜条件]
・DC電源の電圧を700Vとして、基板は接地し、アセチレン/Arガス流量比を1、0.8、0.6、0.4、0.2とした。
・追加でアセチレン/アルゴンガス流量比が1.05、1、0.95、0.9、0.85の実験も行った。
[測定結果]
・段差測定によりサンプルの膜厚を測定し成膜レートを算出した。また、EDX測定によりサンプルの組成を評価した。結果を表2に示す。
【表2】
表2.実験2のサンプル評価(空欄は未測定)
【0044】
1−5−3.実験3:HiPIMS電源を使用し、スパッタ電圧を変化させる。
[実験手順]
・真空炉にサンプルをセットし、真空度を5x10
−3Pa以下にする。
・真空炉にアルゴンガスを導入し、亜鉛ターゲットのスパッタリングを行う。
・真空炉にアルゴンガスとアセチレンガスを導入し、ターゲットに電圧を印加することで、アルゴンイオンによる亜鉛のスパッタとアセチレンガスのプラズマCVDを進行させ、基板にセットしたサンプルに成膜を行う。
[成膜条件]
・HiPIMS電源の電圧を550、600、650、700、750Vとして、周波数を1000Hz、パルス幅を100マイクロ秒とし、基板は接地した。アセチレン/アルゴンガス流量比を1とした。
[測定結果]
・段差測定によりサンプルの膜厚を測定し成膜レートを算出した。また、EDX測定によりサンプルの組成を評価した。結果を表3に示す。
【表3】
表3.実験3のサンプル評価
【0045】
1−5−4.実験4:パルス幅が100マイクロ秒のHiPIMS電源を使用し、ガス流量比を変化させる。
[実験手順]
・真空炉にサンプルをセットし、真空度を5x10
−3Pa以下にする。
・真空炉にアルゴンガスを導入し、亜鉛ターゲットのスパッタリングを行う。
・真空炉にアルゴンガスとアセチレンガスを導入し、ターゲットに電圧を印加することで、アルゴンイオンによる亜鉛のスパッタとアセチレンガスのプラズマCVDを進行させ、基板にセットしたサンプルに成膜を行う。
[成膜条件]
・HiPIMS電源の電圧を750Vとして、周波数を1000Hz、パルス幅を100マイクロ秒とし、基板は接地した。アセチレン/アルゴンガス流量比を1、0.8、0.6とした。
[測定結果]
EDX測定によりサンプルの組成を評価した。結果を表4に示す。
【表4】
表4.実験4のサンプル評価(空欄は未測定)
【0046】
1−5−5.実験5:HiPIMS電源を使用しパルス幅が500マイクロ秒で固定条件として設定し、ガス流量比を変化させた。
[実験手順]
・真空炉にサンプルをセットし、真空度を5x10
−3Pa以下にする。
・真空炉にアルゴンガスを導入し、亜鉛ターゲットのスパッタリングを行う。
・真空炉にアルゴンガスとアセチレンガスを導入し、ターゲットに電圧を印加することで、アルゴンイオンによる亜鉛のスパッタとアセチレンガスのプラズマCVDを進行させ、基板にセットしたサンプルに成膜を行う。
[成膜条件]
・HiPIMS電源の電圧を750Vとして、周波数を1000Hz、パルス幅を500マイクロ秒とし、基板は接地した。アセチレン/アルゴンガス流量比を1、0.8、0.6、0.4とした。
[測定結果]
EDX測定によりサンプルの組成を評価した。結果を表5に示す。
【表5】
表5.実験5のサンプル評価(空欄は未測定)
【0047】
1−5−6.実験6:DC電源、及びHiPIMS電源を使用し、パルス幅を変化させる。
[実験手順]
・真空炉にサンプルをセットし、真空度を5x10
−3Pa以下にする。
・真空炉にアルゴンガスを導入し、亜鉛ターゲットのスパッタリングを行う。
・真空炉にアルゴンガスとアセチレンガスを導入し、ターゲットに電圧を印加することで、アルゴンイオンによる亜鉛のスパッタとアセチレンガスのプラズマCVDを進行させ、基板にセットしたサンプルに成膜を行う。
[成膜条件]
・HiPIMS電源、及びDC電源の電圧を750Vとして、HiPIMS電源は周波数を1000Hz、パルス幅を250、500、750マイクロ秒とし、基板は接地した。アセチレン/アルゴンガス流量比を1とした。
[測定結果]
段差測定によりサンプルの膜厚を測定し成膜レートを算出した。また、EDX測定によりサンプルの組成を評価した。結果を表6に示す。
【表6】
表6.実験6のサンプル評価(空欄は未測定)
【0048】
1−5−7.パルス幅とZn/C原子数濃度比の関係
上記実験1〜6において検討した成膜条件及びその測定結果の中から、スパッタ電圧750V、周波数1000Hz、ガス流量比(アセチレン/アルゴン)が1におけるパルス幅とZn/C原子数濃度比を選択し、両者の関係を図示した(
図2)。
本成膜条件において、パルス幅が250マイクロ秒から500マイクロ秒までの範囲でZn/C原子数濃度比の変化はなかったが、DC電源をパルス幅1000マイクロ秒(Duty 100%)と捉えると、500マイクロ秒から1000マイクロ秒の範囲で、パルス幅が大きくなるに従い、Zn/C原子数濃度比が増加する結果となった。
【0049】
2.亜鉛を含有する非晶質炭素膜からの亜鉛溶出量測定実験
2−1.概要
亜鉛含有量が既知の亜鉛含有非晶質炭素膜からの亜鉛溶出量を測定することにより、非晶質炭素膜への亜鉛含有量と、該炭素膜からの亜鉛の溶出量の関係を明らかにすることを目的とする。
2−2.方法
サンプル(各条件にて10mm角のステンレス基板に片面のみコーティングしたもの)ごとに、生理食塩水(0.9%NaCl、pH7.4、20mL)に浸漬し、恒温槽(90℃)にて、72時間保持した。その後、各サンプルから溶出したZnイオン濃度を、該生理食塩水を希釈せずに、ICP発光分析装置(ICPS−8100、株式会社島津製作所)により測定した。なお、測定には202.551nmの輝線を用いた。
2−3.結果
上記実験1〜6において成膜した非晶質炭素膜(一部)からの亜鉛溶出量を、上記方法に従って測定し、以下に纏めた(表7)。
【表7】
表7.実験1〜6のサンプル(一部)と亜鉛溶出量
本データに基づき、非晶質炭素膜の亜鉛含有量と、該炭素膜から溶出される亜鉛量の関係を図示したところ(
図3)、非晶質炭素膜中のZn/C原子数濃度比に応じて亜鉛の溶出量が上昇しており、特にDC電源を用いて成膜した亜鉛を含有する非晶質炭素膜は、そのほとんどが、Zn/C原子数濃度比、亜鉛溶出量共に高値を示していた。
【0050】
3.マウス頭蓋冠由来細胞株における亜鉛濃度と骨形成促進効果の相関性評価
3−1.概要
本件発明に係る非晶質炭素膜の成膜方法により成膜された、所望のZn/C原子数濃度比を有する非晶質炭素膜から溶出される亜鉛量により、該炭素膜近傍で実現されるレベルの亜鉛濃度が、マウス頭蓋冠由来細胞株の骨形成に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。
【0051】
3−2.方法
3−2−1.細胞の培養条件
マウス頭蓋冠由来細胞株MC3T3−E1を、MEM−alpha培地(Lifetechnologies)−10%ウシ胎児血清−100Units/mL penicillin−100マイクロg/mL streptomycin(Gibco)を用いて、細胞密度10.4×10
4(個/well)にて24wellプレートに播種し、インキュベータ(温度37℃、5%CO
2)内で培養を開始した。
播種から4日後に培養液を除去し、塩化亜鉛を0,0.005,0.01,0.05,0.1,0.5,1mMの濃度で含有するMEM−alpha培地を培養液として加え、3〜4日毎に各亜鉛濃度を含有したMEM−alpha培地にて培地交換を行いつつ、インキュベータ内で培養を継続した。
培養開始から4週間後に、以下に示す方法により、染色実験を行った。
【0052】
3−2−2.アリザリンレッド染色
上記培養細胞に対して、骨芽細胞の骨形成指標であるアリザリンレッド染色を以下の手順にて実施した;
各亜鉛濃度条件にて培養した培養プレートから培地を除去し、1wellごとにPBSで洗浄後、メタノールを添加し、細胞を固定した。
メタノール除去し、精製水で1回洗浄した後、コスモバイオ社製の石灰化染色キットAK21付属の染色液をwellに添加し、室温で5分間静置することで反応を行った。
該染色液を除去後、付属の緩衝液でwellを洗浄すると、骨形成の指標である、カルシウムの沈着が生じている細胞のみが赤く染色された。
本染色像を光学顕微鏡にて画像化し、当該画像の細胞部分を線で囲み、「WinROOF 2013」を用いて当該細胞部分の面積を定量、wellの全面積中で、該染色細胞が占める面積の割合を、亜鉛濃度条件ごとに測定・算出した。
【0053】
3−3.結果
培地に含まれる塩化亜鉛の含有量(mM)に対する細胞染色面積率(%)を纏めた(
図4)。
0.05mMまでは用量依存的な骨形成促進効果が認められたが、0.1mMから骨形成の減少が認められ、それ以上の亜鉛濃度(0.5mM、1mM)においては顕著な骨形成阻害を確認した。