【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
春野 雅彦,“社会行動における意識”,NICT NEWS,独立行政法人情報通信研究機構,2014年11月,No.446,p.1−2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明に従う各実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらについての詳細な説明は繰り返さない。また、以下で説明する各実施の形態または変形例は、適宜選択的に組み合わされてもよい。
【0014】
[被験者の状態の推定方法]
図1および
図2を参照して、被験者の状態の推定方法について説明する。当該推定を行う推定システム100(
図3参照)は、学習処理および推定処理を実行する。
図1は、学習処理を概略的に示す概念図である。
図2は、推定処理を概略的に示す概念図である。
【0015】
学習処理では、推定システム100は、任意の知覚刺激によって被験者から得られる脳活動情報と、当該被験者の状態との間の相関関係を学習する。知覚刺激とは、視覚や聴覚等の感覚器を通して被験者に与えられる刺激のことをいう。被験者の状態とは、たとえば、被験者の現在または将来の傾向等を含む。当該傾向は、被験者の病気の傾向(たとえば、鬱傾向等)を含む。
【0016】
推定処理では、推定システム100は、学習処理と同一種類の知覚刺激を検査対象の被験者に与えるとともに当該被験者から脳活動情報を取得し、学習処理で得られた相関関係を利用して、取得された脳活動情報から検査対象の被験者の状態を推定する。
【0017】
以下では、学習処理および推定処理について順に説明する。
(学習処理)
まず、
図1を参照して、学習処理について説明する。
図1に示されるように、学習処理は、主として、ステップS1〜S4の処理を含む。
【0018】
ステップS1において、推定システム100は、被験者が有する状態に相関し得る知覚刺激を各被験者に対して与えたときに計測される脳活動情報を、当該被験者の脳内の互いに異なる各領域について取得する。以下では、典型例として、知覚刺激として画像15(すなわち、視覚に対する刺激)を用いる場合について説明する。
【0019】
画像15は、たとえば、被験者に不平等の感覚を与えるためのものである。詳細については後述するが、画像15は被験者間での分配金を表わし、不平等感は、分配金の差によって与えられる。
【0020】
推定システム100は、画像15を順次表示することにより被験者1に不平等感を与えると同時に被験者1の脳活動情報を計測することで、被験者1から脳活動画像1A〜1Cを得る。同様に、推定システム100は、被験者2から脳活動画像2A〜2Cを得る。同様に、推定システム100は、被験者3から脳活動画像3A〜3Cを得る。脳活動画像1A〜3Cは、1次元で表わされてもよいし、複数次元で表わされてもよい。脳活動画像1A〜3Cは、たとえば、fMRI計測によって得られる。脳活動画像1A〜3Cの各画素は、被験者の脳内の各領域における脳活動情報を表わす。各脳活動情報は、たとえば、対応する脳内部分の血流量を表わす。好ましくは、推定システム100は、不平等を感じたときに反応する脳内の扁桃体から脳活動画像1A〜3Cを取得する。
【0021】
ステップS2において、推定システム100は、被験者1に与えた知覚刺激の変化を数値群12として数値化する。数値群12の各数値は、画像15によって被験者1に想起させる感情の度合いを表わす。たとえば、画像15によって不平等感が被験者1に与えられる場合には、数値群12の各数値は、不平等感の度合いを表わす。一例として、不平等感の度合いは、各被験者の分配される金額差に相当する。
【0022】
ステップS3において、推定システム100は、与えた知覚刺激に反応する脳内の活動領域を特定する。より具体的には、推定システム100は、脳活動画像1A〜1Cの同一画素における時系列の脳活動情報と数値群12との間の類似度を、脳活動画像の各画素について算出する。
【0023】
被験者1の脳内の所定部分から得られた時系列の脳活動情報11A〜11Cを例に挙げて類似度の算出方法について説明する。推定システム100は、脳活動情報11A〜11Cと数値群12との間の相関値を類似度16Aとして算出する。脳活動情報11A〜11Cが知覚刺激に連動しているほど、類似度16Aの値は大きくなる。
【0024】
脳活動情報11A〜11Cは、被験者の脳内における所定部分の血流量を示し、時系列の数値群として示される。推定システム100は、数値群として示される脳活動情報11A〜11Cと、数値群12とのうち互いに同じ時刻に対応する数値同士のそれぞれを掛け合わせ、当該掛け合わせた結果を足し合わせて類似度16Aを算出する。すなわち、類似度16Aは、数値群として示される脳活動情報11A〜11Cと、数値群12との内積に相当する。
【0025】
推定システム100は、類似度16Aと同様に、当該類似度を被験者1の脳内の各領域について算出する。被験者1の脳内の各領域について算出された類似度群は、脳活動パターンX
1として表される。被験者2についても同様に、推定システム100は、脳活動画像2A〜2Cにおける同一画素の脳活動情報と数値群13との間の類似度を被験者2の脳内の各領域について算出し、当該類似度群からなる脳活動パターンX
2を生成する。被験者3についても同様に、推定システム100は、脳活動画像3A〜3Cにおける同一画素の脳活動情報と数値群14との間の類似度を被験者3の脳内の各領域について算出し、当該類似度群からなる脳活動パターンX
3を生成する。
【0026】
ステップS4において、推定システム100の学習部20は、予め定量化されている各被験者の状態と、各被験者に対応する脳活動パターンX
1〜X
3(以下、「脳活動パターンX」と総称することもある。)とを用いて、被験者の状態と脳活動パターンXとの間の相関関係を学習する。学習に用いられる被験者の状態は、たとえば、BDIスコアとして定量化されている。BDIスコアは、鬱の度合いを示し、各被験者について実施されたBDIテストの結果から定量化される。BDIテストは、脳活動パターンX
1〜X
3を得るための試験が行われてから所定期間が経過した後(たとえば、1年後)に実施される。
【0027】
学習部20は、各被験者の実際のBDIスコアを含む教師データ22を用いて、脳活動パターンXと被験者の将来の鬱度合いとの間の相関関係を学習する。教師データ22に示されるの「Y
n」は、n番目の被験者における実際のBDIスコアを表わす。
【0028】
一例として、t番目の被験者のBDIスコアZ
tは、標準ライブラリ「sparse Bayesia」に含まれるカーネル法を用いて推定される。BDIスコアZ
tは、たとえば、以下の式(1)で示される。
【0030】
式(1)の「X
i」は、i番目の被験者の脳活動パターンを示す。「X
t」は、注目しているt番目の被験者の脳活動パターンを示す。「K(X
i,X
t)」は、脳活動パターンX
iと脳活動パターンX
tとの間の類似度を示す。当該類似度は、たとえば、脳活動パターンX
iと脳活動パターンX
tとの内積に相当する。
【0031】
学習部20は、実際のBDIスコアY
tと推定されたBDIスコアZ
tとの間の差(=Z
t−Y
t)を最小化するように重みw
iを学習する。学習部20による学習方法の詳細については後述する。
【0032】
当該学習によって、学習結果25が得られる。学習結果25において、被験者の脳活動パターンX
1〜X
nのそれぞれと各被験者について得られた重みw
1〜w
nのそれぞれとが互いに対応付けられる。
【0033】
以上のようにして、学習処理では、推定システム100は、被験者が有する状態に相関し得る知覚刺激を各被験者に対して与えたときに計測される時系列の脳活動情報を、当該被験者の脳内の互いに異なる各領域について取得する。その後、推定システム100は、各被験者について、当該被験者の脳内の各領域から得られた脳活動情報のそれぞれの時間的な変化と、当該被験者に与えられ知覚刺激の時間的な変化との間のそれぞれの類似度からなる脳活動パターンX(類似度群)を算出する。推定システム100は、予め定量化されている各被験者の状態と、各被験者に対応する脳活動パターンXとを用いて、脳活動パターンXと被験者の状態との間の相関関係を学習する。
【0034】
脳活動パターンXは、知覚刺激に連動している度合いを脳内の各領域について表わしているため、知覚刺激に反応している部分が容易に特定され得る。これにより、推定システム100は、知覚刺激の種類が変わった場合でも脳内の活動部分を正確に特定することができる。推定システム100は、知覚刺激に連動している脳内部分の脳活動情報を利用して後述の推定処理で被験者の状態を推定するため、被験者の状態を正確に推定することが可能になる。
【0035】
また、脳活動パターンXは、知覚刺激に対する連動度合いを示すため、知覚刺激の種類が同じであれば、知覚刺激の内容が変わったとしても、脳活動パターンXは被験者間で同様の傾向になる。したがって、各被験者に与える知覚刺激の試行回数や内容を任意に変えることができるので、汎用性の高い学習機能が実現され得る。
【0036】
なお、上述では、知覚刺激として、被験者に視覚刺激を与える例について説明を行ったが、知覚刺激の種類は、視覚刺激に限定されない。たとえば、被験者に与える知覚刺激は、聴覚への刺激や触覚への刺激等も含む。
【0037】
また、上述では、被験者に不平等感を伴わせる視覚刺激を与える例について説明を行ったが、知覚刺激は、他の感情を伴わせる視覚刺激であってもよい。たとえば、当該知覚刺激は、幸福感、嫌悪感等を伴わせる視覚刺激等を含む。
【0038】
さらに、上述では、不平等感を伴わせるための知覚刺激を与えた場合の脳活動パターンと鬱状態との間の相関関係を学習する例について説明を行ったが、相関関係を学習する対象は、これらに限定されない。すなわち、推定システム100は、任意の知覚刺激を与えた場合の脳活動パターンと、被験者が有する任意の状態との相関関係を学習することができる。たとえば、推定システム100がマーケティングに用いられる場合には、商品を見せたときの脳活動パターンと当該商品に対するアンケート結果とを学習データとして、脳活動パターンと被験者の購買意欲との相関関係を学習することもできる。
【0039】
(推定処理)
図2を参照して、本実施の形態に従う推定方法における推定処理について説明する。推定処理では、推定システム100は、脳活動パターンXと被験者の状態との間の相関関係(すなわち、学習結果25)を利用して、検査対象の被験者について算出された脳活動パターンXから当該被験者の状態を推定する。推定処理は、主として、ステップS11〜S14の処理を含む。
【0040】
ステップS11において、推定システム100は、学習処理と同一種類の知覚刺激(たとえば、画像15の表示)を被験者Tに対して与えるとともに被験者Tから脳活動画像5A〜5Cを取得する。
【0041】
ステップS12において、推定システム100は、学習処理と同一の方法で、被験者Tに与えた知覚刺激の変化を数値群18として数値化する。
【0042】
ステップS13において、推定システム100は、数値群18と、脳活動画像5A〜5Cの同一画素における時系列の脳活動情報との類似度を各画素について算出する。脳活動画像5A〜5Cの所定画素における脳活動情報17A〜17Cに注目すると、推定システム100は、数値群として示される脳活動情報17A〜17Cと、数値群18とのうち互いに同じ時刻に対応する数値同士のそれぞれを掛け合わせ、当該掛け合わせた結果を足し合わせて類似度19Aを算出する。推定システム100は、脳活動画像5A〜5Cの各画素について類似度19Aを算出し、脳活動パターンX
Tを生成する。
【0043】
ステップS14において、推定システム100の推定部30は、学習処理で得られた学習結果25を用いて、被験者Tの状態(たとえば、鬱傾向)を推定する。より具体的には、推定部30は、学習結果25に含まれる脳活動パターンX
1〜X
nのそれぞれと、検査対象の被験者Tの脳活動パターンX
Tとの間のそれぞれの類似度を算出する。推定部30は、算出された類似度のそれぞれに重みw
1〜w
nのそれぞれを掛け合わせ、掛け合わせた結果を総和して被験者TのBDIスコアの変化を推定する。推定されたBDIスコアの変化が正の値を示せば、そのことは、現在よりも被験者Tが鬱になる可能性が高いことを示す。推定されたBDIスコアの変化度が負の値を示せば、そのことは、被験者Tの鬱度合いが現在よりも改善される可能性が高いことを示す。
【0044】
[学習部20]
以下では、学習部20(
図1参照)による学習処理についてさらに詳細に説明する。
【0045】
学習部20による学習方法として、たとえば、ベイジアンカーネル法(Baysian kernel method)が用いられる。ベイジアンカーネル法では、上記式(1)に示されるように、推定されるBDIスコアZ
tが、(n−1)個のカーネル関数の合計を重み付けすることで算出される。
【0046】
上述したように、式(1)のカーネル関数K(X
i,X
t)によって、i番目の被験者の脳活動パターンX
iと、注目しているt番目の被験者の脳活動パターンX
tとの間の類似度が算出される。式(1)の重みw
iは、調整され得るパラメータであり、ベイズ法により、実際のBDIスコアY
tと推定されたBDIスコアZ
tとの間の差(=Z
t−Y
t)を最小化するように調整される。このモデルは、式(1)に示されるパラメータに対して線形であり、効率的な計算が実現される。その一方で、カーネル関数は、非線形であり、複合関数にもなり得る。
【0047】
疎なベイジアン法(sparse Baysian methodology)を実現するためのポイントは、以下の式(2)のモデルパラメータw(w
iのセット)に基づいてハイパーパラメータ化された事前分布を定義することである。
【0049】
このタイプの事前分布は、データのフィット性とまばら性との両方で有利に働く。異なる言い方をすれば、事前分布により、ほとんどの事前分布の確率質量がw
i=0になる。このことは、本学習において、w
iが0ではない被験者は少数であることを意味し、少数の被験者に対応するw
iだけが推定に利用されていることを意味する。上記ベイズ法によって、ハイパーパラメータα
iに基づいて事後分布が計算され、周辺尤度関数を最大化することによって、最も可能性の高い値が出力される。結果として、ほとんどが0に設定されたパラメータw
iに基づいた事後分布が得られる。
【0050】
現在の実装では、最適化は、MATLABに搭載されているソフトウェア「SparseBayes」(バージョン2.0)を用いて行われ、Kは、線形スプラインカーネルK(X
i,X
t)に基づいて計算される。線形スプラインカーネルK(X
i,X
t)は、
図3に示されるMATLABのコードのようにX
iおよびX
tのためにバプニック(Vapnik)等によって提案された。
図3に示されるコードの「lengthScale」は、正規化されたパラメータであり、10分割交差確認法(10-fold cross-validation procedure)によって決定される。
【0051】
(変形例)
以下では、推定システム100の学習部20(
図1参照)による学習処理の変形例について説明する。
【0052】
上述のベイジアンカーネル法では、目的関数がカーネル関数の総計として表され、限られた被験者だけが推定時に用いられていた。そこで、発明者らは、ベイジアンカーネル法の代わりに、ベイシアン一般化加法モデル(Bayesian generalized additive model)の適用可能性について調べた。ベイシアン一般化加法モデルは、各被験者の多項式表現X
i(たとえば、x
i、x
i2、...、x
ip)を入力として、以下の式(3)に示されるように、これらの成分の重み加算として推定モデルを出力する。
【0054】
式(3)の「X
ip」は、i番目の入力ベータ値のp乗の項を表わす。式(3)の「w
ip」は、当該項のための調整可能なパラメータである。このモデルは、一般化加法モデルと呼ばれ、入力変数の相互作用項を必要としない非線形の関数を表わすのに十分に有効である。ベイシアンカーネル法と同じ最適化と事前分布とが一般化加法モデルに適用される。そのため、w
ipが0とならない被験者は、少数となる。最適化も、MATLABに搭載されているソフトウェア「SparseBayes」(バージョン2.0)を用いて行われた。
【0055】
疎なカーネル(または一般化加法モデルの次数)における正規化されたパラメータと主成分分析(PCA:Principal Component. Analysis)の次元とのために、実際のBDIスコアの変化値と推定される変化値との間の平均平方誤差が、10分割交差確認法を用いたカーネルパラメータおよび主成分の数に対してプロットされ、最適な値のセットが決定される。拡散係数は、推定値Zと回帰線との間の絶対値差の平均として定義される。
【0056】
[推定システム100]
図4を参照して、本実施の形態に従う推定システム100の装置構成の概要について説明する。
図4は、推定システム100の主要なハードウェア構成を示すブロック図である。
図4に示されるように、推定システム100は、fMRI装置200と、情報処理装置400とを含む。
【0057】
fMRI装置200は、被験者Sの脳活動情報を取得したい領域に向けて、共鳴周波数の高周波電磁場を印加するともに、特定の原子核(例えば、水素原子核)の共鳴により生じる電磁波を検出することで、脳活動情報を計測する。一例として、fMRI装置200には、シーメンス社製の「Trio TIM 3T スキャナ」が用いられる。fMRI装置200のイメージング方法には、たとえば、EPI(Echo Planar Imaging)法が用いられる。EPI法によって得られた画像は、2×2×2mmのボクセルに分けられ、6mmの半値幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)の等方性のガウシアンカーネルで平滑化される。当該データは、SPM8のデフォルト設定を用いることで高周波がフィルタリングされる(カットオフ周波数:128s)。
【0058】
fMRI装置200は、静磁場磁石101と、傾斜磁場コイル102と、送信部103と、送信コイル104と、受信コイル105と、受信部106と、表示部109と、電源110と、寝台115と、天板116と、データ処理部150とを含む。
【0059】
データ処理部150は、推定システム100の全体制御を行う。たとえば、データ処理部150は、fMRI装置200の各部を駆動することで、脳活動情報の収集等を行う。データ処理部150としては、専用のコンピュータであってもよいし、記憶部153等に格納された制御プログラムを実行することで、所定の処理を実現する汎用コンピュータであってもよい。データ処理部150は、シーケンス制御部151と、画像再構成部152と、記憶部153と、表示制御部154と、インターフェイス155と、表示部156と、入力部157とを含む。
【0060】
静磁場磁石101は、中空の円筒形状に形成された磁石であり、内部の空間に一様な静磁場を発生する。静磁場磁石101としては、たとえば、永久磁石、超伝導磁石等が用いられる。
【0061】
傾斜磁場コイル102は、中空の円筒形状に形成されたコイルであり、静磁場磁石101の内側に配置される。この傾斜磁場コイル102は、互いに直交するx,y,z軸にそれぞれ対応する3つのコイルが組み合わされて形成されている。これら3つのコイルは、電源110から個別に電流供給を受けて、x,y,z軸のそれぞれに沿って磁場強度を変化させるための傾斜磁場を発生する。
【0062】
傾斜磁場コイル102によって発生するx,y,z軸の各々の傾斜磁場は、たとえば、スライス選択用の傾斜磁場Gs、位相エンコード用の傾斜磁場Gp、およびリードアウト用の傾斜磁場Grにそれぞれ対応する。スライス選択用の傾斜磁場Gsは、被験者Sの撮像スライス面を任意に決めるために利用される。位相エンコード用の傾斜磁場Gpは、磁気共鳴信号の位相を変化させるために利用される。リードアウト用の傾斜磁場Grは、磁気共鳴信号の周波数を変化させるために利用される。
【0063】
送信部103は、シーケンス制御部151による制御に基づいて、ラーモア周波数に対応する高周波信号を送信コイル104に送信する。送信コイル104は、傾斜磁場コイル102の内側に配置され、送信部103から出力されるラジオ波を被験者Sに照射する。
【0064】
受信コイル105は、たとえば、複数のチャンネルの磁気共鳴信号を受信することが可能なものが用いられる。受信コイル105で検出された磁気共鳴信号は、受信部106に送信される。
【0065】
受信部106は、シーケンス制御部151による制御に基づいて、受信コイル105から出力される磁気共鳴信号をA/D(Analog-to-Digital)変換する。スライス選択用の傾斜磁場Gs、位相エンコード用の傾斜磁場Gp、およびリードアウト用の傾斜磁場Grが印加されながら、磁気共鳴信号が収集されることで、受信部106によって収集される信号データに信号源の位置情報がエンコードされる。
【0066】
本実施の形態に従う推定システム100においては、
図1のステップS1に示されるように、被験者Sが画像15を見たときの脳活動情報が計測される。そのため、被験者Sが画像15を見ることができるように構成される。その一例として、表示部109がfMRI装置200の空洞内に設けられる。画像15が表示部109に表示されることにより、被験者Sに対して視覚刺激が与えられる。
【0067】
寝台115には、被験者Sが載置される天板116が取り付けられている。天板116は、被験者Sが載置された状態で傾斜磁場コイル102の空洞内へ挿入される。通常、この寝台115は、長手方向が静磁場磁石101の中心軸と平行になるように設置される。
【0068】
シーケンス制御部151は、データ処理部150で生成されるシーケンス実行データにしたがって送信部103、受信部106、および電源110を駆動することで、被験者Sの脳活動画像を生成するためのデータを収集する。シーケンス実行データとは、被験者Sから生データを収集するためのパルスシーケンスを定義する情報である。より具体的には、シーケンス実行データは、電源110によって傾斜磁場コイル102に供給される電源の強さや電力を供給するタイミング、送信部103が送信コイル104に送信する高周波信号のレベルや高周波信号を送信するタイミング、受信部106が磁気共鳴信号を検出するタイミング等、データ収集を行うための手順を定義した情報である。
【0069】
画像再構成部152は、受信部106が受信したk空間の磁気共鳴信号に対してフーリエ変換等の再構成処理を実行し、被験者Sの脳活動画像を生成する。記憶部153は、fMRI計測にかかる処理を実行するための制御プログラム、パラメータ、画像データ(3次元モデル像等)、その他の電子データ等を格納する。表示制御部154は、送信部103を介してから表示部109の表示を切り替えたり、表示部156の表示を切り替えたりする。
【0070】
インターフェイス155は、情報処理部210と情報処理装置400とを互いに通信接続するための通信インターフェイスである。情報処理部210および情報処理装置400は、インターフェイス155を介して無線または有線で接続される。表示部156は、被験者Sの関心領域に関する各種画像および各種情報を画面表示する。入力部157は、操作者(図示しない)から各種操作や情報入力を受付ける。
【0071】
[情報処理装置400]
図5を参照して、推定システム100を構成する情報処理装置400(
図4参照)のハードウェア構成の一例について説明する。
図5は、情報処理装置400の主要なハードウェア構成を示すブロック図である。
【0072】
図5に示されるように、情報処理装置400は、ROM(Read Only Memory)401と、CPU402と、RAM(Random Access Memory)403と、ネットワークインターフェイス405と、表示部406と、記憶装置410とを含む。
【0073】
ROM401は、オペレーティングシステム、推定システム100で実行される推定プログラム等を格納する。CPU402は、オペレーティングシステムや推定システム100の推定プログラム等の各種プログラムを実行することで、推定システム100の動作を制御する。CPU402は、機能構成として、上述の学習部20と上述の推定部30とを含む。RAM403は、ワーキングメモリとして機能し、プログラムの実行に必要な各種データを一時的に格納する。
【0074】
コントロールインターフェイス404は、fMRI装置200のデータ処理部150との間でデータを遣り取りする。ネットワークインターフェイス405は、外部装置(たとえば、クラウド上のデータサーバ装置等)との間でデータを遣り取りする。コントロールインターフェイス404およびネットワークインターフェイス405は、有線LAN(Local Area Network)、無線LAN、USB(Universal Serial Bus)、Bluetooth(登録商標)等の任意の通信コンポーネントで構成される。推定システム100は、ネットワークインターフェイス405を介して、本実施の形態に従う各種の処理を実現するための推定プログラム412をダウンロードできるように構成されてもよい。
【0075】
表示部406は、たとえば、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、またはその他の表示機器等を含む。表示部406は、タッチセンサ(図示しない)と組み合わされてタッチパネルとして構成されてもよい。表示部406には、被験者に知覚刺激を与えるための画像と同一の画像が表示され得る。
【0076】
記憶装置410は、たとえば、ハードディスクや外付けの記憶装置等の記憶媒体である。一例として、記憶装置410は、上述の学習処理で用いられる教師データ22、当該学習処理における学習結果25、本実施の形態に従う推定プログラム412等を保持する。
【0077】
推定プログラム412は、単体のプログラムとしてではなく、任意のプログラムの一部に組み込まれて提供されてもよい。この場合、任意のプログラムと協働して本実施の形態に従うイメージングが実現される。このような一部のモジュールを含まないプログラムであっても、本実施の形態に従う推定システム100の趣旨を逸脱するものではない。さらに、本実施の形態に従う推定プログラム412によって提供される機能の一部または全部は、専用のハードウェアによって実現されてもよい。さらに、推定システム100とサーバとが協働して、本実施の形態に従うイメージングを実現するようにしてもよい。さらに、少なくとも1つのサーバが本実施の形態に従うイメージングを実現する、所謂クラウドサービスの形態で推定システム100が構成されてもよい。
【0078】
[実験]
(実験内容)
図6を参照して、発明者らが実施した実験の内容について説明する。発明者らは、不平等感に対する脳の反応を調べるために、最後通牒ゲーム(Ultimatum game)を被験者に対して実施した。
【0079】
最後通牒ゲームは、2人の被験者間で不平等感を生じさせるためのゲームである。より具体的には、まず、一方の被験者(以下、「第1被験者」ともいう。)は、他方の被験者(以下、「第2被験者」ともいう。)にM円のうちX円を与えることを提案する。第2被験者は、第1被験者の提案を受諾するか拒否するかを決定する。提案が受諾された場合には、第1被験者には(M−X)円が支払われ、第2被験者にはM円が支払われる。提案が拒否された場合には、第1被験者および第2被験者の両方は、お金を得ることができない。第1被験者から提案される分配金に差があるほど、第2被験者は、不平等を感じる。このような分配金の表示により不平等を伴う知覚刺激が与えられる。分配金の差が不平等の度合いとして数値化される(
図1のステップS2参照)。
【0080】
図6は、不平等感に対する脳の反応を調べるための最後通牒ゲーム(Ultimatum game)の手順を概略的に示す概念図である。最後通牒ゲームでは、画像15A〜15Eが順に表示される。画像15A〜15Eは、
図1および
図2に示される画像15に対応する。
【0081】
図6に示されるように、まず、開始を示す画像15Aが表示される。その後、分配金の提案者である第1被験者の顔と名前とが画像15Bとして1秒間表示される。提案者の顔および名前は、提案者ごとに1回だけ表示される。
【0082】
次に、第1被験者への分配金と第2被験者への分配金とが画像15Cとして表示される。第1被験者および第2被験者への分配金の合計は、たとえば500円である。提案可能な分配は、たとえば、「350円−150円」、「300円−200円」、「250円−250円」、「200円−300円」、「150円−350円」、「100円−400円」、「50円−450円」である。第1被験者によって選択された分配には、±25円以内のノイズがランダムに付与される。これにより、最後通牒ゲームに被験者を没頭させることができる。
【0083】
分配金を表示する画像15Cは、約6秒間表示される。その後、第2被験者は、第1被験者からの提案を承諾するか拒否するかをボタンの押下によって選択する。第2被験者が提案を承諾した場合には、承諾を示す画像15Dが表示される。その後、次の試行の開始を示す画像15Eが表示される。
【0084】
1回の試行にかかる時間は、約21秒(たとえば、19〜23秒)であり、56回の試行が順次実施される。すなわち、1回の最後通牒ゲームにかかる時間は、約1176秒(=21秒×56回)である。
【0085】
(実験結果1)
図7および
図8を参照して、最後通牒ゲームの実施時に得られた脳活動パターンから鬱傾向を推定した実験結果について説明する。
図7は、推定されたBDIスコアと実際のBDIスコアとの対比を示す図である。
図8は、不平等感に対する脳内の活動領域を示す図である。
【0086】
図7のグラフ(A)には、最後通牒ゲームの実施時に得られた脳活動パターンから推測されたBDIスコアの結果が示される。グラフ(A)のX軸は、BDIスコアの変化量の実測値を表わす。グラフ(A)のY軸は、BDIスコアの変化量の推定値を表わす。グラフ(A)において、実測値と推定値との結果が各被験者についてプロットされている。グラフ(A)には、推定値と実測値との正の相関が示されている(傾き:slope=0.194、相関係数:R=0.41、p値:p=0.00029)。これにより、将来の鬱傾向が脳活動パターンから推定できることが示された。
【0087】
このような推定は、提案者の顔の提示では不可能である。そのことを示す結果がグラフ(B)に示される(傾き:slope=0.046、相関係数:R=0.24)。また、このような推定は、申し出の提示では不可能である。そのことを示す結果がグラフ(C)に示される(傾き:slope=0.081、相関係数:R=0.311)。
【0088】
これらの結果は、ロバストである。なぜならば、発明者らは、カーネルベイシアン法の他にも、ベイシアン一般化加法モデルを用いても同じ結果を得ることを確認したからである。
【0089】
図8に示されるように、発明者らは、不平等に対して脳内の扁桃体の血流量が変化していることを確かめた。破線701〜703で囲まれている領域が扁桃体である。
図8の画像(A)は、被験者の脳の水平方向の断面図を示す。
図8の画像(B)は、画像(A)のVIII−VIII線に沿った断面図を示す。画像(A),(B)に示されるように、不平等感に対して脳内の扁桃体の血流量が変化している。そのため、鬱状態の推定時には、脳内の中でも扁桃体の脳活動情報を用いて推定することが好ましい。なお、鬱状態の推定において、扁桃体の脳活動情報の代わりに、中前頭回(MFG:Middle Frontal Gyrus)の脳活動パターンが用いられてもよい。
【0090】
(実験結果2)
発明者らは、さらに、鬱傾向の変化を予測するために寄与している扁桃体の部分を調べた。以下では、
図9を参照して、その結果について説明する。
図9は、不平等感を被験者に与えた場合における扁桃体の脳活動パターンを示す図である。
【0091】
発明者らは、上述の学習処理で出力された重みw
iが0ではない被験者について、GLM(Generalized Linear Model)分析を行った。発明者らは、不平等感を与えることによって得られた扁桃体の活動パターンを、重みw
iがプラスになった被験者(
図9の「plus-W」)と重みw
iがナイナスになった被験者(
図9の「minus-W」)との間で比較した。「plus-W」の被験者は、鬱が改善される傾向にある。「minus-W」の被験者は、鬱が悪化する傾向にある。「plus-W」の被験者においては、扁桃体の中心核90Aと外側基底核90Bとが不平等感に相関している。一方で、「plus-W」の被験者においては、境界領域90Cが不平等感に相関している。
【0092】
扁桃体の各領域のピークボクセルでのベータ値が実験結果92A〜92Cに示されている。実験結果92A〜92Cに示されるように、「plus-W」の被験者と「minus-W」の被験者とは、不平等感に対して、互いに反対のパターンの相関を示している。発明者らのマルチボクセルパターン分析は、推定のために、これらの差を検出および収集する可能性が高い。本実験結果により、中心核90Aおよび外側基底核90Bにおける正相関と、境界領域90Cにおける不平等感に対する相関の減少とが鬱傾向を増加させることが示された。
【0093】
[まとめ]
以上のようにして、学習処理では、推定システム100は、被験者が有する状態に相関し得る知覚刺激を各被験者に対して与えたときに計測される時系列の脳活動情報を、当該被験者の脳内の互いに異なる各領域について取得する。その後、推定システム100は、各被験者について、当該被験者の脳内の各領域から得られた脳活動情報のそれぞれの時間的な変化と、当該被験者に与えられ知覚刺激の時間的な変化との間のそれぞれの類似度からなる脳活動パターンXを算出する。推定システム100は、予め定量化されている各被験者の状態と、各被験者に対応する脳活動パターンXとを用いて、脳活動パターンXと被験者の状態との間の相関関係を学習する。
【0094】
脳活動パターンXは、知覚刺激に連動している度合いを脳内の各領域について示しているため、推定システム100は、知覚刺激に反応している部分を容易に特定することができる。これにより、推定システム100は、知覚刺激の種類が変わった場合でも脳内の活動部分を正確に特定することができる。
【0095】
推定処理では、推定システム100は、脳活動パターンXと被験者の状態との間の相関関係(すなわち、学習結果25)を利用して、検査対象の被験者について算出された脳活動パターンXから当該被験者の状態を推定する。
【0096】
推定システム100は、知覚刺激に連動している脳内部分の脳活動情報を利用して被験者の状態を推定するため、被験者の状態を正確に推定することが可能になる。
【0097】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。