特許第6583732号(P6583732)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6583732
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】保存可能な海草類播種体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 33/00 20060101AFI20190919BHJP
【FI】
   A01G33/00
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-127975(P2016-127975)
(22)【出願日】2016年6月28日
(65)【公開番号】特開2018-37(P2018-37A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2018年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】塚崎 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】谷本 照己
(72)【発明者】
【氏名】鶴島 修夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 奈海葉
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 昌弘
【審査官】 門 良成
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−205915(JP,A)
【文献】 特開2014−100103(JP,A)
【文献】 特開2006−141299(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102976677(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 33/00
A01K 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海草類を海上より播種するための海草類播種体であって、
前記海草類播種体は、製鋼スラグと海底堆積物との混合土壌からなり、
前記製鋼スラグが前記混合土壌中に50〜95質量%で含まれ、
前記混合土壌が500kPa以上の硬度を有することを特徴とする
海草類播種体。
【請求項2】
請求項1に記載の海草類播種体であって、
前記製鋼スラグが、脱炭スラグであることを特徴とする、海草類播種体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の海草類播種体であって、
前記海草類がアマモであることを特徴とする、海草類播種体。
【請求項4】
海草類を海上より播種するための海草類播種体の製造方法であって、
製鋼スラグと海底堆積物とを混合することにより混合土壌を作製する工程であって、前記製鋼スラグが前記混合土壌中に50〜95質量%となるように混合し、500kPa以上の硬度を有する混合土壌を作製する工程を含む、製造方法。
【請求項5】
海草類を海上より播種するための海草類播種体の保存方法であって、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の海草類播種体、または、請求項4に記載の製造方法により得られた海草類播種体の表面に海草類の種子を付着させる工程と、
前記工程により得られた海草類播種体を好気的な塩分30〜35psuの海水中に保存することを特徴とする、保存方法。
【請求項6】
藻場の造成方法であって、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の海草類播種体、または、請求項4に記載の製造方法により得られた海草類播種体の表面に海草類の種子を付着させる工程と、
前記工程により得られた海草類播種体を海上より蒔く工程と
を含む、造成方法。
【請求項7】
藻場の造成方法であって、
請求項5に記載の保存方法により得られた海草類播種体を海上より蒔く工程と
を含む、造成方法。
【請求項8】
請求項6および7に記載の藻場の造成方法であって、
前記海草類の種子を表面上に付着した海草類播種体を、海上より播く工程の前に、淡水、または、低塩分、嫌気的もしくは発芽至適水温の海水に浸ける工程であって、海底へ着底後の発芽を促進する工程
を含む、造成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋め立て等の臨海部開発等により広大な面積が消滅すると共に、棲息適地の減少が著しいアマモ場などの藻場の回復のため、アマモなどの海草類の種子により簡易で効率的に藻場を造成するための海草類播種体の作製およびその保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アマモ場は魚介類の産卵成育場として活用されているだけでなく、アマモが海水や海底から栄養塩を吸収すると共に、懸濁物質の沈降を促すことから、水質浄化にも有用な機能を有している。しかしながら、近年の埋め立て等の臨海部開発等により広大な面積のアマモ場が消滅すると共に、アマモの生息適地が減少し、沿岸域の生態系への影響が懸念されている。そのため、アマモ場を人工的に造成する試みが行われてきた。アマモの造成には、アマモ株を採取し造成予定地に移植する方法と、種子を採取して造成予定地に播種する方法がある。
【0003】
アマモ株を移植するには、自生しているアマモ場からアマモ株を採取し、海中でダイバ−が1本1本、海底に移植する方法で、移植後の流失を防ぐため、アマモ株を棒状の木片、釘状の金属片等に結束して海底に差し込み固定する方法や、アマモ1株ごとに、その根茎部を粘土で包み海底に移植する方法(特許文献1)が提案されてきた。しかしながら、このような方法ではダイバ−が1本1本のアマモ株を採取し、移植する必要があることから、広大な面積のアマモ場を造成するためには多大の労力、時間、費用を必要とする。移植するアマモ株の採取が必要となるため天然アマモ場への影響も大きい。また、造成予定地に必要とする量のアマモ株が既存の天然のアマモ場から調達できない場合もある。
【0004】
一方、アマモ種子を造成予定地にそのまま播種するには、単に船上や海岸等から種子を蒔くだけでは、種子が潮流等によって目的外の海域に流されるおそれがあり、また、海底に着床した種子や出芽後の幼苗も潮流等により流され易いので、海底を掘り起こして播種し、覆土する必要がある。予めアマモ種子を混合した土壌を3〜5cmの厚みで海底に敷設もしくは海水中分解可能な育成容器にいれて海底に埋設する方法(特許文献2)も提案されているが、海中でこれらの作業および工事を行うことは多大の労力と時間を必要とするため、あらかじめ種子の流失を抑止する対策を施した種々の播種基盤を作製し、海上から海底に沈降敷設する(蒔く)方法が提案されている。例えば、腐食性材料よりなるネット状袋体にアマモの種子を含む生育基盤材を充填して海底に沈降敷設する方法(特許文献3)や、ゲル化して得られた混合物にアマモ種子を混合し分散させた培養砂壌を船上投棄により海底に敷置する方法(特許文献4)や、海水より比重の大きい粘土様物質からなる塊の表層にアマモの種子を埋め込み、海底にそのまま着床または埋設する方法(特許文献5)が提案されてきた。
【0005】
アマモ場造成のためにはこのように流出抑止策を施したアマモ播種体の作製が有用といえるが、通常、造成は広大な面積を対象にして行われるため、アマモ播種体の作製は簡易で大量にでき、かつ安価な手法であることが重要である。従来の腐食性材料から成るネット状袋体を作製後、袋体の中へアマモの種子を含む生育基盤材を充填するといった方法(特許文献3)は煩雑で袋体を大量に作成する必要があり材料費もかかる。粘土様物質によるアマモ播種基体の提案(特許文献5)では、海底に着床させる方法も含めて記載されているが、潮流の影響をうけないように穴を掘り海底の土壌に被覆された場合で種子の発芽がみられたということで、実際には海中での手作業での埋設が必要と考えられる。また、粘土もしくは粘土鉱物の粉末に糊を混ぜる等して作製した粘土様物質を大量にかつ安価に入手しなければならないという課題や、潮汐や波浪のある自然海域における粘土の流出および崩壊によるアマモ種子および幼苗の流失の懸念もある。ゲル状物質にアマモ種子を充填する方法(特許文献4)では、ゲル化の程度が温度や使用する材料に大きく影響され、低塩分の海水ではアマモの保持力が低下するなどの問題点が挙げられる。このようにアマモ播種体については製作の煩雑さや、材料の性質、費用や大量入手可能であるか等の問題が残されている。
【0006】
近年大量かつ安価に安定して入手可能なアマモ場の基盤材料として、製鉄の産業副産物である高炉水砕スラグや製鋼スラグを活用した技術(特許文献2、6および7)が提案されている。高炉水砕スラグは天然砂よりも比重が大きく、安定性には優れているが、硫黄含有量が多いことから海域で大量に用いる際には、海域底質環境への悪影響が懸念される。一方製鋼スラグは鉄分やリン、シリカを豊富に含んでおり、比重の大きさからアマモの流出抑止効果とアマモへの施肥効果が期待できる。製鋼スラグと浚渫土からなる土壌に予めアマモ種子を混合した土壌を3〜5cmの厚みで海底に敷設もしくは海水中分解可能な育成容器にいれて海底に埋設する方法(特許文献2)では、アマモ種子の発芽や苗の成長が確認されている。この方法で用いられている浚渫土は浚渫工事により発生する建設副産物で、これも大量かつ安価に入手可能である。また製鋼スラグのもつ固化作用を利用するので、製鋼スラグと浚渫土を混ぜ合わせるだけで煩雑な作業は必要とされない。しかし、前述したように、海底への敷設工事を行うことには多大の労力、時間、費用がかかり、さらに敷設し海底面を覆うことで工事箇所の既存の生態系の破壊につながる。
【0007】
さらに、播種体の製造に問題となる点として、上述した材料の供給や費用、作製の煩雑性の他に、保存方法があげられる。アマモの種子は乾燥に弱いため、播種体を作製後すぐに播種しなければならず、播種体の製造は播種の好適時期の直前に必要な分だけ必要な地域に限られてしまう。アマモの種子の保存方法については水温や塩分を管理した海水中での保存が知られている。アマモの種子はおよそ20度から23度もしくはおよそ5度以下で塩分(実用塩分:Practical Salinity Unit(psu))30から35程度の海水中に保存されることが多い。アマモは初夏に種子を放出し、アマモの種子は水温の低下する晩秋から初冬にかけて発芽する。しかし、発芽可能水温にあっても好気的な環境下においてはアマモの発芽のスピードは抑えられるといった報告もある(非特許文献1)。塩分に関しては多くの研究で低塩分なほど種子の発芽率は増加することが報告されている(非特許文献2)。このようにアマモの種子の発芽や保存に関しては様々な知見がある。しかしながら、播種体の保存方法についてはこれまでに報告がされておらず適切な保存方法の考案が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平7−2063号公報
【特許文献2】特開2014−100103号公報
【特許文献3】特開2001−169611号公報
【特許文献4】特公平2−59683号公報
【特許文献5】特開平09−205915号公報
【特許文献6】特開2011−4768号公報
【特許文献7】特開2006−288322号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Brencheley JL and Probert RJ (1998) Seed germination responses to some environmental factors in the seagrass Zostera capricorni from eastern Australia. Aquatic botany 62:177-188
【非特許文献2】Orth RJ, Harwell MC, Bailey EM, Bartholomew A, Jawad JT, Lombana AV, Moore KA, Rhode JM, Woods HE (2000) A review of issues in seagrass seed dormancy and germination: implications for conservation and restoration. Mar Ecol Prog Ser 200:277-288
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
多大の労力、時間、費用をかけず、かつ生態系や自然環境への影響を抑えた広大なアマモ場の造成を達成するためには、アマモの苗や種、種を含んだ基盤を埋設するような海中作業を伴わない、アマモの種子を造成予定地に海上から蒔く方法が最も簡便である。船上や海岸等から蒔くだけで、着底し、種子や幼苗が流失せず造成予定地に保持されるアマモ播種体を大量かつ安定して入手可能な安価な材料から手間をかけずに作製し、播種体の発芽能を落とさず適切に保存する方法を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明のアマモ播種体を作製するための材料には、大量かつ安価に入手可能な製鋼スラグと海底堆積物、たとえば浚渫土を用いる。製鋼スラグが土壌などを混合すると固結する性質をもつことを利用して、アマモ種子などの海草類の種子を混合土壌の小塊に付着、保持させることにより比重を大きくし、長期にわたって種子および苗の流失を抑止する播種体を人手をかけず簡易に作製する。また、一実施の形態において、作製した播種体を水温をコントロールした、もしくは好気的な環境に保った海水中に保存することで、播種体の作製を好きな時期に好きな分だけ行うことが可能となり、播種体もいつでも利用可能となる。また、一実施の形態において、播種体の保存が長期におよんだ場合には、至適時期に海域に播種しても発芽率が低下している可能性も考えられるので、播種体を淡水や低塩分(例えば、約0〜15psu)あるいは嫌気的もしくは発芽至適水温(例えば、約5℃〜15℃)等の海水にあらかじめ短期間浸けることで発芽を促進した後、海域に播種を行うとさらに効果的である。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
本発明は、一態様において、
〔1〕海草類を海上より播種するための海草類播種体であって、
前記海草類播種体は、製鋼スラグと海底堆積物との混合土壌からなり、
前記製鋼スラグが前記混合土壌中に50〜95質量%で含まれ、
前記混合土壌が500kPa以上の硬度を有することを特徴とする海草類播種体に関する。
また、本発明の海草類播種体は、一実施の形態において、
〔2〕上記〔1〕の海草類播種体であって、
前記製鋼スラグが、脱炭スラグであることを特徴とする。
また、本発明の海草類播種体は、一実施の形態において、
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載の海草類播種体であって、
前記海草類がアマモであることを特徴とする。
また、本発明は、別の態様として、
〔4〕海草類を海上より播種するための海草類播種体の製造方法であって、
製鋼スラグと海底堆積物とを混合することにより混合土壌を作製する工程であって、前記製鋼スラグが前記混合土壌中に50〜95質量%で混合し、500kPa以上の硬度を有する混合土壌を作製する工程を含む、製造方法に関する。
また、本発明は、別の態様として、
〔5〕海草類を海上より播種するための海草類播種体の保存方法であって、
上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一つに記載の海草類播種体、または、上記〔4〕に記載の製造方法により得られた海草類播種体の表面に海草類の種子を付着させる工程と、
前記工程により得られた海草類播種体を好気的な塩分30〜35psuの海水中に保存することを特徴とする、保存方法に関する。
また、本発明は、別の態様として、
〔6〕藻場の造成方法であって、
上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一つに記載の海草類播種体、または、上記〔4〕に記載の製造方法により得られた海草類播種体の表面に海草類の種子を付着させる工程と、
前記工程により得られた海草類播種体を海上より蒔く工程と
を含む、造成方法に関する。
また、本発明の藻場の造成方法は、一実施の形態において、
〔7〕藻場の造成方法であって、
上記〔5〕に記載の保存方法により得られた海草類播種体を海上より蒔く工程と
を含む、造成方法に関する。
また、本発明の藻場の造成方法は、一実施の形態において、
〔8〕上記〔6〕または〔7〕に記載の藻場の造成方法であって、
前記海草類の種子を表面上に付着した海草類播種体を、海上より播く工程の前に、淡水、または、低塩分、嫌気的もしくは発芽至適水温の海水に浸ける工程であって、海底へ着底後の発芽を促進する工程
を含む、造成方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係わる海草類播種基体作製法は、前述のように播種体の材料として、産業副産物である製鋼スラグおよび海底堆積物、たとえば建設副産物である海底浚渫土を用い、製鋼スラグのもつ固結作用を利用したもので、海草類の種子を混合土壌の小塊に付着、保持させるだけで海草類播種体が得られるので、人手がかからず極めて簡易で安価な方法である。そのため広大な造成面積に対しても容易に適用できる。
【0013】
得られた海草類播種体はスラグの固結作用により生成された物質で比較的強固に保持されているため、環境変化によりその保持力が低下することがなく、かつ、人工物を含有せず小塊であることから、海底面を完全に覆うことがなく、既存の生態系や自然環境への影響が最小限に抑えられる。
【0014】
得られた海草類播種体を船上や浅場等から蒔けば、海草類の種子は海水より比重の大きいスラグにより付着、保持されていることから、潮流等に流されることなく容易に目的海域の海底に着床される。また海草類播種体の比重の大きさから、海底土壌に2cm程度の適切な深度で埋没する、もしくは安定して定位置に保持されることで時間の経過とともに播種体が土壌に被覆されていくことで、アマモ種子や幼苗の流失はもとより、地下茎の分岐による分枝(栄養繁殖)も妨げないため、本発明の海草類播種体を起点とした安定した海草類の生育基盤が自然に形成されていく。
【0015】
海草類の種子は海草類の栄養分となる、鉄分やリン、シリカ等を豊富に含む製鋼スラグ、および無機窒素、リンおよびシリカが豊富な海底堆積物からなる混合土壌に付着されているため、アマモ種子の発芽、発根およびアマモ株の発育は良好にすすむ。また海底堆積物には底生生物の餌となる有機物も含まれており底生生物の成長も阻害しない。
【0016】
本発明により海草類播種体を水温コントロールした、もしくは好気的な環境に保った海水中に浸けることで海草類播種体の保存を可能としたことにより、製鋼スラグや浚渫土等の材料が手に入った時に季節や需要に関係なく効率的に一気に海草類播種体を作りおくことが可能となり、必要時にどこでも使用できるようになる。海草類播種体により藻場を作る場合、1m2あたり30〜40個の播種体を蒔くとすると、1ha(100m×100m)の面積を造成する際には30〜40万個もの海草類播種体が必要となるが、海草類播種体の保存を可能としたことで、小規模な製造設備しかない場合においても、材料さえそろえば少量ずつ年中作り続けられるので大量の需要にも対応することができる。本発明により海草類播種体の作製は安価かつ容易に行うことができるようになるが、実際には海草類の種子や材料、海水等が入手可能な人および事業者による海草類播種体の製造が見込まれる。しかし本発明がアマモ播種体作製後の保存が可能としたことにより、出来上がった海草類播種体の幅広い人間への販売や配付が可能となる。あとは海域に蒔くだけの海草類播種体を誰でもいつでも手軽に入手できるようになり、幅広い利用が期待される。
【0017】
以上から、本発明は、海草類播種体の海中の光環境などアマモの生育条件を満たす海域への人工的な海草類場の修復および創生を容易に達成するためのものであり、本発明を利用して海草類場が形成されることにより沿岸の水質浄化と環境および生態系の保全を図り、沿岸漁業の生産性の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】固結前のアマモ播種体を各マス目に充てんすることにより、固結前に適切なサイズに分け、そのまま海水に浸すことで固結させ、固結後取り外すことにより適切なサイズのキューブ状のアマモ播種体を多数得るために使用するメッシュ枠の平面図である。
図2A図2Aは製鋼スラグと海底堆積物を混合した土壌からなるアマモ播種基体の概念図である。アマモ種子はスラグと浚渫土の混合土壌により、付着、保持されている。
図2B図2Bは本発明の作製法により、実際に得られた脱炭スラグおよび浚渫土の混合土壌を基盤としたアマモ播種体の外観図である。
図2C図2C図2Bのアマモ播種体の表面を拡大した外観図である。
図2D図2Dは固化前のアマモ播種体に1cm×1cm角の切れ目を入れて成形する際の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、海草類を海上より播種するための海草類播種体を提供する。ここで、海草類としては、代表的にアマモ類を挙げることができる。以下、明細書中では例示としてアマモを例に説明する。
アマモ播種体の要件
平均粒子0.8〜5mm程度の粒子状製鋼スラグと海底堆積物からなるアマモ播種体。なお、本明細書において、播種体というときは、製鋼スラグと海底堆積物との混合土壌であって、海草類の種子を表面に付着させる前の状態にあるものをいい、播種体の表面に、海草類の種子を付着して使用するものである。本発明の播種体においては、製鋼スラグの割合が高いため、つなぎである海底堆積物(具体的には、浚渫土など)が少なくなる。よって、製鋼スラグの粒子径が大きすぎると構造内に空間が生じ、崩壊しやすくなってしまう。播種体の大きさは、例えば、1cm×1cm程度のサイズで作るため、製鋼スラグの粒子径5mm程度以下のサイズを用いることが好ましい。アマモ播種体1個の大きさは数センチ角程度で、1個当たり複数個のアマモ種子を播種体の表面上に付着させる。種子は、播種体の内部に混合されずに表面に付着するため、播種体の硬度によらず、海底において発芽・成長することができる。アマモ播種体は船上や浅場等からばらまいて使用し、沈降着床させる。種子が海底に埋まる最適な深さは約2cmといわれているので、播種体一つ当たりのサイズは播種体の堆積物への沈み込みを考慮して播種海域の堆積物の硬度によって変化させることが好ましい。
【0020】
アマモ播種体の成形
発明者らは、製鋼スラグの一種である脱炭スラグと浚渫土を混合した土壌が、海水に浸しておくことでさらに固結がすすむことを実験的に確認している。本発明の海草類播種体に用いられる製鋼スラグは特に制限されない。しかしながら、脱炭スラグは他の製鋼スラグ、例えば、脱リンスラグと比べて、浚渫土との混合により土壌硬度が上がりやすく、崩れにくい播種体を作りやすい。そのため、好ましくは、製鋼スラグとしては脱炭スラグを用いることが好ましい。そこで、アマモ播種体の成形法として、アマモ播種体を適切なサイズに成形した後、海水に浸けて固結させる方法と、シート状もしくは棒状にして海水を添加もしくは海水に浸すことであらかじめ固結させたアマモ播種体の塊を適切なサイズに切り分ける方法が適用できる。しかし、固結後に切り分けると播種体の崩壊やアマモ種子の脱離の恐れがあるため、未固結の状態での適切なサイズへの成形法が好ましい。固結前に適切なサイズに成形してアマモ播種体を作製する具体的な方法としては、製鋼スラグと海洋堆積物からなる混合土壌を適切なサイズの団子状に成形し、表面にアマモ種子を付着させた後固結させる方法や、トレイなど平らな容器に混合土壌を適切な厚みで入れて、アマモの種子を蒔き、ヘラやナイフ、格子状の型等を用いて適切なサイズに切り分けた後固結させる方法や、図1のような適切なサイズのメッシュ枠1を作製してメッシュ枠1を底板(平たい板の上やトレイの中など)に置き、メッシュのマス目の中に混合土壌を適切な厚みで入れてアマモ種子を蒔き、混合土壌をメッシュ枠1および底板ごと海水中に沈めて固結させた後に、枠を取り外すことで一度に同サイズの播種体を多数得るような方法等が利用できる。アマモ播種体のサイズを十分に小さく、たとえば8mm角などにする場合においては、播種体の奥深くにアマモの種子が保持され、アマモの胚軸や幼根の成長を阻害する恐れは少ないと思われるので、混合土壌を作る際にあらかじめアマモの種子を混ぜ込んでから成形してもよい。
なお、製鋼スラグは、海底堆積物との混合土壌中に50〜95質量%で含まれることが好ましく、60〜80質量%で含まれることがより好ましい。この範囲の割合で製鋼スラグを含むことにより、混合土壌の硬度を上げることができ、海上から播種体を蒔いた際にも、崩れることがなく海底に着底することができる。
したがって、混合土壌は一定の硬度を有することが好ましく、500kPa以上の硬度を有する。より好ましくは、600kPa以上の硬度を有するものである。ただし上記土壌硬度の基準は山中式土壌硬度計を用いて測定した圧入抵抗値である。
【0021】
アマモ播種体の保存
アマモ播種体の保存は海水中で行う。保存に使う海水の塩分(実用塩分:Practical Salinity Unit(psu))は30から35psu程度が好ましい。水温を20度〜23度や5度以下に保った海水もしくは好気的な環境に保った海水もしくはその両方の条件を満たす海水中に播種体を保存する。水温の制御には恒温培養装置内に海水に浸したアマモ播種体の入った容器を設置する方法や、恒温海水循環水槽内にアマモ播種体を沈めておく方法等が挙げられる。好気的な環境を保つ方法を使用する場合は、播種体を海水に浸すための容器は上部を開放し海水の深さを浅く保つ方法や、海水が常に循環している開放系の水槽に播種体を沈める方法あるいは空気で曝気した海水水槽に播種体を浸す方法等が使用できる。アマモ播種体作製後ただちに使用しない場合は、アマモ播種体を海水中に沈めて固める際に上述の保存条件を満たす海水を使用することで、作製と同時にそのまま放置しておけば播種体の保存もできる。
【実施例】
【0022】
粒径0.85〜4.75mmの脱炭スラグに浚渫土を乾重量比7:3で加えてよく混ぜた混合土壌を、容器2に1cm位の厚さで敷き詰めた。そこにアマモ種子3を1cm2あたり3〜4個程度となるように蒔いた(図2BおよびC)。未固結の状態で1cm×1cm程度のサイズに切れ目をいれて(図2D)、塩分およそ32の海水中に2週間程度沈めて固めた。このように作製された脱炭スラグ、浚渫土およびアマモ種子からなるアマモ播種体はトレイから取り出したらただちに海域で利用可能である。アマモ播種体作製後ただちに使用しない場合は、アマモ播種体の作製を23度の恒温培養器の中で行う。
【符号の説明】
【0023】
1…メッシュ枠
2…容器
3…アマモ種子
4…製鋼スラグおよび海底堆積物からなる混合土壌
5…アマモ種子を播種した脱炭スラグおよび浚渫土からなる混合土壌。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D