(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される変形例も含まれる。
【0022】
本発明のインクジェットインキは、少なくとも、水(A)、顔料(B)、有機溶剤(C)、表面調整剤(D)、バインダー樹脂(E)、および顔料分散樹脂(F)を含有し、前記バインダー樹脂(E)が、ポリカーボネート系ウレタン樹脂であり、前記顔料分散樹脂(F)が、炭素数10〜24のアルキル基を有するスチレンアクリル樹脂であることを特徴とする。以下、本発明の実施形態であるインクジェットインキに含まれる各成分について詳細に説明する。
【0023】
(水(A))
本発明で使用する水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることができる。また、紫外線照射、または過酸化水素添加などにより滅菌した水を用いることにより、インクジェットインキを長期保存する場合に、カビまたはバクテリアの発生を防止することができるので好適である。
【0024】
(顔料(B))
本発明で使用することができる顔料(B)としては、従来既知のものが使用できる。
本発明で使用することができるシアンの顔料としては、例えば、C.I.PigmentBlue1、2、3、15:3、15:4、15:6、16、22、C.I.VatBlue4、6等が挙げられる。
【0025】
本発明で使用することができるマゼンタの顔料としては、例えば、C.I.PigmentRed5、7、12、22、23、1、48(Ca)、48(Mn)、49、52、53、57(Ca)、57:1、112、122;キナクリドン固溶体、146、147、150、238、242、254、255、269、C.I.PigmentViolet19、23、29、30、37、40、50等が挙げられる。
【0026】
本発明で使用することができるイエローの顔料としては、例えば、C.I.PigmentYellow12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、94、95、109、110、117、120、125、128、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、213等が挙げられる。
【0027】
本発明で使用することができるブラックの顔料としては、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックが挙げられる。例えば、これらのカーボンブラックであって、一次粒子径が11〜40mμm(nm)、BET法による比表面積が50〜400m
2/g、揮発分が0.5〜10重量%、pH値が2乃至10等の特性を有するものが好適である。このような特性を有する市販品としては下記のものが挙げられる。例えば、No.33、40、45、52、900、2200B、2300、MA7、MA8、MCF88(以上、三菱化学製)、RAVEN1255(コロンビア製)、REGAL330R、400R、660R、MOGULL(以上、キャボット製)、Nipex160IQ、Nipex170IQ、Nipex75、Printex85、Printex95、Printex90、Printex35、PrintexU(以上、オリオンエンジニアドカーボンズ株式会社製)等があり、何れも好ましく使用することができる。
【0028】
(有機溶剤(C))
本発明で使用することができる有機溶剤(C)としては、従来よりインクジェットインキの調製に用いられているものをいずれも使用できるが、水溶性溶媒を用いることが好ましい。
水溶性溶媒としては、例えば、メトキシブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオール類、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルオキサゾリジノン、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、などである。これらは、単独で用いても、又は2種以上を併用してもよい。
【0029】
これらの有機溶剤(C)のうち、インキ中において樹脂との相溶性が比較的高く、インキの保存安定性を良好にできることから、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の炭素数3以上のアルカンジオールを含むことが好ましい。
【0030】
また、インキの吐出性の観点から、主溶媒である水との相溶性を良好にするために、ハンセン溶解度パラメーター(HSP値)の水素結合項δhが10以上である有機溶剤を用いることが好ましく、より好ましくは20〜30である。
HSP値の水素結合項δhが20〜30である有機溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等を挙げることができる。
なおHSP値とは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメーターを、分散項δd、極性項δp、水素結合項δhの3成分に分割し、3次元空間に表したものである。HSP値は、公知の値を用いてもいいし、パソコンソフトHSPiP(出典: http://www.hansen-solubility.com/index.html)等を使用してもよい。
【0031】
これらの有機溶剤(C)は、インクジェットインキ全量中に、有機溶剤総量として10〜50質量%含有することが好ましい。さらに好ましくは20〜40質量%含有することである。有機溶剤の含有量が10質量%未満の場合、乾燥性や印刷媒体への濡れ性が悪化し、50質量%を超えると、インキの保存安定性が低下する場合があり、好ましくない。
【0032】
(表面調整剤(D))
本発明で使用することができる表面調整剤(D)としては、ポリシロキサン系界面活性剤やアセチレン系界面活性剤を用いることができる。これらのうち、インキ中における相溶性が高く、間欠吐出性を良好にできることから、HLB値が10〜20のアセチレン系界面活性剤を含むことが特に好ましい。HLB値が10未満であると水への溶解性が著しく低下するため、吐出性、発色性、及び保存安定性が悪化する。
好ましく用いられる市販のアセチレン系界面活性剤としては、日信化学工業社製のサーフィノールシリーズや、Evonik社製のTego Wet 520等を挙げることができる。
インクジェットインキ中の表面調整剤(D)の含有量としては、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜3質量%がより好ましい。上記範囲の含有量とすることで、吐出性に優れたインクジェットインキを得ることができる。
【0033】
なおHLB値とは、材料の親水性・疎水性の程度を表すものとして知られており、グリフィン法、デイビス法、川上法などで算出できるが、本発明ではグリフィン法で、下記式(1)のようにして求めた。なお、HLB値は小さいほど材料の疎水性が高く、大きいほど材料の親水性が高くなる。
【0034】
式(1):
HLB値=20×(親水性部分の分子量の総和)÷(材料の分子量)
【0035】
(バインダー樹脂(E))
本発明で使用するバインダー樹脂(E)は、ポリカーボネート系のウレタン樹脂である。ポリカーボネート系ウレタン樹脂とはカーボネート結合を有するウレタン樹脂を意味し、具体的には一般式(2)のポリカーボネート構造を有するウレタン樹脂を意味する。
【0037】
一般式(2)中、Rは任意の基を表し、nは繰り返し数を表す。ポリカーボネート系ウレタン樹脂を使用することで、布基材への密着性に優れ、堅牢性の高い被膜を得ることができる。
【0038】
ウレタン樹脂のイソシアネート成分としては、芳香族ジイソシアネートを用いると、塗膜の黄変がおこりやすいため、発色性に影響することがある。脂肪族もしくは脂環式ジイソシアネートを用いた場合には、黄変がおこりにくいため好ましい。具体的にはヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアナート等が好ましく用いられる。
【0039】
バインダー樹脂(E)としては、破断伸度が300%以上のポリカーボネート系ウレタン樹脂であることが好ましく、より好ましくは破断伸度が600〜800%、およびヤング率が5〜20N/mm
2であることである。ヤング率とは硬さを表す指数であり、ヤング率が低い樹脂は軟らかく、摩擦耐性が優れる。破断伸度およびヤング率が上記範囲内である場合、伸縮しやすい布基材などに対して堅牢性が高く、優れた風合いの被膜を得られる点から好ましい。破断伸度およびヤング率は、万能引張試験機((株)島津製作所製)により測定することができる。具体的には、長さ50mm×幅5mmの試験片を、引張速度300mm/分の条件で引張試験を行う事により、測定した値である。
【0040】
また、バインダー樹脂(E)の重量平均分子量Mwは、5,000〜500,000が好ましく、10,000〜300,000がより好ましく、50,000〜200,000がさらに好ましい。重量平均分子量分布Mwを上記の範囲にすることで、優れた密着性を得ることができる。
バインダー樹脂(E)の重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で、単分散ポリスチレン標準試料で作成した検量線を用いて測定することができる。
インクジェットインキ中のバインダー樹脂(E)の含有量は、3〜15質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることがより好ましい。バインダー樹脂の含有量を上記範囲にすることで、堅牢性を良好にするとともに、吐出性に優れたインクジェットインキを得ることができる。
【0041】
(顔料分散樹脂(F))
本発明で用いられる顔料分散樹脂(F)は、炭素数10〜24のアルキル基を有するスチレンアクリル樹脂である。
【0042】
アルキル基を有する樹脂の合成は、基本となる樹脂骨格が持つカルボン酸などの官能基へ、アルキル基を有するアルコールやアミンを縮合させる方法や、樹脂合成時にアルキル基を有するモノマーを使用することで、アルキル基を有する樹脂を合成する方法が挙げられるが、樹脂合成時にアルキル基を有するモノマーを使用した合成方法のほうが、バインダー樹脂との相溶性がより良好になる傾向があることから好ましい。
【0043】
アルキル基は炭素数10〜24の範囲であれば、直鎖であっても分岐していても何れも使用することができるが、直鎖状のものが好ましい。直鎖のアルキル基としてはラウリル基(C12)、ミリスチル基(C14)、セチル基(C16)、ステアリル基(C18)、アラキル基(C20)、ベヘニル基(C22)、リグノセリル基(C24)等が挙げられる。
【0044】
本発明では顔料分散樹脂(F)の有するアルキル基の炭素数を10〜24とすることで、顔料分散体の低粘度化と粘度安定性を実現している。炭素数が10よりも小さいと粘度安定性が低下し、長期の運用ができなくなるため実用に適さない。また、炭素数が24よりも大きいと顔料分散体の粘度が高くなりすぎるため、インクジェット用途に適さなくなる。
顔料分散樹脂に長鎖のアルキル基を含有することによって、バインダー樹脂であるポリカーボネート系ウレタン樹脂との相溶性が向上し、高い発色性を示す。
顔料分散樹脂(F)におけるの炭素数10〜24のアルキル基を有するモノマー由来の構造単位の含有量は、顔料分散樹脂(F)全量中の10〜50質量%であることが好ましく、さらに好ましくは30〜50質量%である。
【0045】
本発明では顔料分散樹脂(F)の酸価が50〜400mgKOH/gであることが好ましい。酸価が50mgKOH/gよりも小さいと顔料の分散安定性が低下し、吐出安定性が悪化する傾向がある。また、400mgKOH/gよりも大きい場合には、顔料表面への顔料分散樹脂の吸着力が低下し、保存安定性が悪化する。顔料分散樹脂の酸価は、好ましくは100〜350mgKOH/gであり、更に好ましくは150〜300mgKOH/gである。なお、「酸価」は、顔料分散樹脂固形分1gあたりの酸価を表し、JIS K 0070に準じ、電位差滴定法によって求めた値である。
【0046】
更に、顔料分散樹脂(F)に芳香族基を導入することで、顔料分散性を高め、分散安定性を向上させることが可能となる。芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、アニシル基等が挙げられる。中でもフェニル基、トリル基が分散安定性の面から好ましい。
【0047】
本発明の顔料分散樹脂(F)は水への溶解度を上げるために、樹脂中の酸基を塩基で中和してあることが好ましい。塩基としてはアンモニア水、ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機塩基や水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基等を使用することができる。
【0048】
本発明の顔料と顔料分散樹脂(F)との質量比率は2:1〜100:1であることが好ましい。顔料分散樹脂が2:1よりも多いと顔料分散体の粘度が高くなる傾向が見られる。また、100:1よりも少ないと分散性が低下し、粘度、分散等の安定性が低下する場合がある。顔料と顔料分散樹脂の比率としてより好ましくは20:9〜50:1、更に好ましくは10:3〜20:1である。
【0049】
また、本発明のインクジェットインキは上記成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインキとするために、消泡剤、増粘剤、pH調整剤、防腐剤等の添加剤を適宜添加することができる。これらの添加剤の添加量としては、インクジェットインキの全質量に対して0.01〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.05〜5質量%、さらに好ましくは0.1〜3質量%である。
【0050】
本発明のインクジェットインキは単色で使用してもよいが、用途に合わせて複数の色を組み合わせたインキセットとして使用することもできる。組み合わせは特に限定されないが、シアン、マゼンタ、イエローの3色を使用することでフルカラーの画像を得ることができる。また、ブラックインキを追加することで黒色感を向上させ、文字等の視認性を上げることができる。更にオレンジ、グリーン等の色を追加することで色再現性を向上させることも可能である。白色以外の印刷基材へ印刷を行う際にはホワイトインキを併用することで鮮明な画像を得ることができる。
【0051】
(インクジェットインキの製造方法)
本発明のインクジェットインキは公知の方法によって製造することができるが、具体的には、以下のように行われる。まず始めに、水、顔料、顔料分散樹脂等を混合した後、ペイントシェーカー、サンドミル、ロールミル、メディアレス分散機等によって顔料を分散することで顔料分散体を調整し、得られた顔料分散体に、所望のインキ特性を有するように、水の残部、有機溶剤、バインダー樹脂、表面調整剤等その他添加剤を添加することで得られる。
【0052】
(インクジェットインキの物性)
本発明のインクジェットインキは、プリントヘッドからの吐出性、着弾後のドット形成の信頼性とのバランス等の観点から、25℃における表面張力は20〜50mN/mであることが好ましく、21〜40mN/mであることがより好ましく、22〜30mN/mであることがさらに好ましい。同様の観点から、25℃における粘度は、2〜20mPa・sが好ましく、3〜15mPa・sがより好ましく、5〜12mPa・sであることがさらに好ましい。
なお、表面張力の測定は、協和界面科学社製 自動表面張力計CBVP−Zを用いて、25℃の環境下で白金プレートをインキで濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。粘度の測定は、東機産業社製 TVE25L型粘度計を用いて、25℃の環境下で、50rpm時の粘度を読み取ることにより測定することができる。
【0053】
(印刷基材)
本発明で用いられる印刷基材については特に限定はないが、特に布基材へインクジェット方式で捺染する用途において、優れた発色性、及び堅牢性を有する。
印刷基材の繊維種としては、綿、麻、絹、羊毛、レーヨン、キュプラ、ナイロン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、混紡等が挙げられる。好ましくは、綿、ポリエステル、綿とポリエステルの混紡であり、特に高い発色と堅牢性を示す。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の態様はこれらの実施例に限定されるものではない。なお以下については、「部」は特に断りのない限り全て「質量部」を、「%」は特に断りのない限り全て「質量%」を表す。
【0055】
使用したバインダー樹脂を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
(製造例1)
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた反応容器にクラレポリオールC−590(2官能ポリカーボネートジオール、(株)クラレ製)100部、2,2−ジメチロールプロパン酸 10部、ヘキサメチレンンジイソシアネート(HDI)19部、メチルエチルケトン 90部、触媒としてジブチル錫ジラウレート 0.01部を加え、80℃で5時間反応させた。その後、50℃まで冷却し、トリエチルアミン 7.9部、及び水500部を加え、減圧下でメチルエチルケトンを留去し、水を加えて不揮発分20質量%のウレタン樹脂水性分散体(PU−3)を得た。固形分の破断伸度は900%、ヤング率は8.2N/mm
2であった。
【0058】
(製造例2)
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた反応容器にクラレポリオールC−1090(2官能ポリカーボネートジオール、(株)クラレ製)100部、2,2−ジメチロールプロパン酸 10部、イソホロンジイソシアネート(IPDI)25部、メチルエチルケトン 90部、触媒としてジブチル錫ジラウレート 0.01部を加え、80℃で5時間反応させた。その後、50℃まで冷却し、トリエチルアミン 7.9部、及び水500部を加え、減圧下でメチルエチルケトンを留去し、水を加えて不揮発分20質量%のウレタン樹脂水性分散体(PU−4)を得た。固形分の破断伸度は620%、ヤング率は25N/mm
2であった。
【0059】
(製造例3)
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた反応容器に、水 50部と乳化剤としてアクアロンKH−10(第一工業製薬株式会社製)0.4部とを仕込んだ。別途、メチルメタクリレート 34部、アクリル酸ブチル 24部、アクリル酸 2部、水 30部および乳化剤としてアクアロンKH−10 0.6部をホモミキサーで攪拌混合して調製した乳化液を、5部分取して、上記の反応容器に加えた。次に、内温を70℃に昇温し十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液 4.0部、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液 5.0部を添加して重合を開始した。反応開始後、内温を75℃に保ちながら上記の乳化液の残りと過硫酸カリウムの5%水溶液 1.5部、および無水重亜硫酸ナトリウムの1%水溶液 5.8部を1.5時間かけて滴下し、さらに2時間攪拌を継続した。反応終了後、温度を30℃まで冷却し、ジメチルアミノエタノールを添加して、pHを8.9とした。さらに水で固形分を30質量%に調整してアクリル樹脂水性分散体(AC−1)を得た。
【0060】
(顔料分散樹脂製造例1)
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた反応容器に、ブタノール 93.4部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱して、スチレン 35部、アクリル酸 30部、ベヘニルメタクリレート(アルキル基の炭素数22) 35部および重合開始剤V−601(和光純薬製)6部の混合物を2時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で3時間反応させた後、V−601 0.6部を添加し、さらに110℃で1時間反応を続けた。さらに、室温まで冷却した後、ジメチルアミノエタノール 37.1部添加し中和し、水を100部添加し、水性化した。その後、100℃以上に加熱し、ブタノールを水と共沸させてブタノールを留去し、固形分が20質量%になるように水で調整し、顔料分散樹脂1の水性溶液(固形分20質量%)を得た。顔料分散樹脂1の酸価は230mgKOH/gであった。
【0061】
(顔料分散樹脂製造例2)
顔料分散樹脂製造例1のベヘニルメタクリレート 35部をラウリルメタクリレート(アルキル基の炭素数12) 35部に替えた以外は顔料分散樹脂製造例1と同様の操作にて、顔料分散樹脂2の水性溶液(固形分20質量%)を得た。顔料分散樹脂2の酸価は230mgKOH/gであった。
【0062】
(顔料分散樹脂製造例3)
顔料分散樹脂製造例1のベヘニルメタクリレート 35部をベンジルメタクリレート 35部に替えた以外は顔料分散樹脂製造例1と同様の操作にて、顔料分散樹脂3の水性溶液(固形分20質量%)を得た。顔料分散樹脂3の酸価は230mgKOH/gであった。
【0063】
<顔料分散液Bk−1>
顔料としてPRINTEX85(カーボンブラック、オリオンエンジニアドカーボンズ社製)を20部、顔料分散樹脂として顔料分散樹脂1の水性溶液(固形分20質量%)を15部、及び水65部を混合した後、ディスパーで予備分散処理を行った。次いで、得られた混合物について、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて、本分散処理を行い、顔料分散液Bk−1を得た。
【0064】
<顔料分散液Bk−2>
顔料分散樹脂として、顔料分散樹脂1の水性溶液に替えて、顔料分散樹脂2の水性溶液(固形分20質量%)を用いた以外は顔料分散液Bk−1と同様の操作にて、顔料分散液Bk−2を得た。
【0065】
<顔料分散液Bk−3>
顔料分散樹脂として、顔料分散樹脂1の水性溶液に替えて、顔料分散樹脂3の水性溶液(固形分20質量%)を用いた以外は顔料分散液Bk−1と同様の操作にて、顔料分散液Bk−3を得た。
【0066】
<顔料分散液Bk−4>
顔料分散樹脂1の水性溶液に替えて、花王社製のアニオン性界面活性剤「デモールN」の水溶液(有効成分20質量%)を用いた以外は顔料分散液Bk−1と同様の操作にて、顔料分散液Bk−4を得た。
【0067】
(実施例1〜12、比較例1〜7)
表2〜3の組成でインクジェットインキを調整し、以下の評価を行った。評価結果も表2〜3に記載した。なお表中の配合の単位は質量部である。また、評価点数は全ての項目において、3点以上が合格レベルである。
【0068】
なお、水溶性有機溶剤としては、プロピレングリコール(HSP値δh:21.7)、グリセリン(HSP値δh:28.5)、1,2−ヘキサンジオール(HSP値δh:17.1)、1,2−ブタンジオール(HSP値δh:19.2)、メトキシブタノール(HSP値δh:12.1)を、表面調整剤としては、以下の界面活性剤を、それぞれ表2〜表3の組成で添加した。
SF465 :サーフィノール465(日信化学工業社製、アセチレン系)HLB値13
DF110D:サーフィノールDF110D(日信化学工業社製、アセチレン系)HLB値3
TG440 :TEGO Glide 440(Evonik社製、シロキサン系)
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
(評価用布帛の作製)
インクジェットプリンター((株)ミマキエンジニアリング製、Tx300P−1800)に各インキをセットし、印字率100%のベタ画像(10cm×10cm)をポリエステルと綿の混紡である布帛にインクジェットプリンターで印刷後、160℃、1分間の加熱処理を行うことで評価用布帛を作製した。
【0072】
<摩擦堅牢性>
摩擦堅牢性は、JIS L 0849:2004に準拠して評価を行った。すなわち、学振型摩擦堅牢度試験機を使用して、乾燥状態及び湿潤状態で試験を行った後、JIS L 0801:2004の変退色用グレースケールを用いて判定した。なお、1点が最も退色が大きく、5点に近づくほど退色が少ない。4点以上が合格レベルである。
5:JIS 5級相当。
4:JIS 4級相当。
3:JIS 3級相当。
2:JIS 2級相当。
1:JIS 1級相当。
【0073】
<洗濯堅牢性>
洗濯堅牢性は、JIS L 0844:2005のA−4法に準拠して試験を繰り返し30回行った後、JIS L 0801:2004の変退色用グレースケールを用判定した。なお、1点が最も退色が大きく、5点に近づくほど退色が少ない。4点以上が合格レベルである。
5:JIS 5級相当。
4:JIS 4級相当。
3:JIS 3級相当。
2:JIS 2級相当。
1:JIS 1級相当。
【0074】
<風合い>
評価用布帛の触感により、以下の基準に従って風合いの評価を行った。3点以上が合格レベルである。
5:印刷部と非印刷部の境目が感じられない。
4:印刷部と非印刷部の境目がわずかに感じられる。
3:印刷部と非印刷部の境目が感じられる。
2:印刷部と非印刷部の境目が明確に感じられる。
1:印刷部と非印刷部の境目が明確に感じられ、尚且つ堅い触感である。
【0075】
<白化試験(発色性)>
上記のインクジェットプリンターでPETフィルムへベタ画像を印刷し、以下の基準に従って、目視にて白化具合を判定した。3点以上が合格レベルである。
5:ベタ画像の白化が見られず、透明度が高い。
4:ベタ画像が白化は見られないが、極わずかに透明度が劣る。
3:ベタ画像がわずかに白化しており、わずかに透明度が劣る。
2:ベタ画像が明らかに白化しており、透明度が劣る。
1:ベタ画像が明らかに白化しており、非常に透明度が悪い。
【0076】
<吐出評価>
評価1:初期吐出性
京セラ社製ヘッド(QA06NTB)を搭載したインクジェット吐出装置に、各インキを充填した。ノズルチェックパターンを印刷し、全てのノズルから正常にインキが吐出されていることを確認してから1分間放置した後、周波数30kHz、600×600dpiの印字条件で印字率100%のベタ画像の印刷を行った。その際、100%ベタの打ち始めの部分が印刷されているか目視及びルーペで確認を行うことで、初期吐出性の評価を行った。評価基準は下記のとおりである。なお、印刷基材として王子製紙社製のOKトップコート+(コート紙)を用いた。
5:目視及びルーペで確認しても、打ち始めの部分に、全く欠けが見られず初発が出ていた。
4:目視では欠けが見られないが、ルーペで確認すると僅かに欠けが見られた。
3:目視で僅かに欠けが見られた。
2:目視で明らかに打ち始めの部分に欠けが見られた。
1:目視で明らかに打ち始めの部分に欠けが見られ、尚且つ初発が出ていなかった。
評価2:間欠吐出性
上記評価1と同様の印刷条件、印刷基材を用いて印字率100%のベタ画像の印刷を行った。印刷後に25℃の環境下で一定時間インクジェット吐出装置を待機させ、その後にノズルチェックパターンの印刷を行い、ノズル抜けが起こっているのか目視確認することで、間欠吐出性の評価を行った。評価基準は下記のとおりである。
5:3時間待機させた後に印刷してもノズル抜けが全くなかった。
4:2時間待機させた後に印刷してもノズル抜けが全くなかったが、3時間待機させた後に印刷するとノズル抜けが発生した。
3:1時間待機させた後に印刷してもノズル抜けが全くなかったが、2時間待機させた後に印刷するとノズル抜けが発生した。
2:1時間待機させた後に印刷するとノズル抜けが1〜9本発生していた。
1:1時間待機させた後に印刷するとノズル抜けが10本以上発生していた。
評価1〜2の平均点を吐出性の点数とした。3点以上が合格レベルである。
【0077】
<保存安定性>
作成したインキの粘度をE型粘度計(東機産業社製TVE−20L)を用いて、25℃において回転数50rpmの条件で測定した。このインキを70℃の恒温機に保存し、経時促進させた後、経時前後でのインキの粘度変化を評価した。評価基準は下記のとおりとした。3点以上が合格レベルである。
5:4週間保存後の粘度変化率が±10%未満。
4:2週間保存後の粘度変化率が±10%未満。
3:1週間保存後の粘度変化率が±10%未満。
2:1週間保存後の粘度変化率が±10〜20%。
1:1週間保存後の粘度変化率が±20%以上。
【0078】
実施例1〜12のとおり、ポリカーボネート系のウレタン樹脂をバインダー樹脂として使用し、長鎖アルキル基を有するスチレンアクリル樹脂を顔料分散剤として使用したインキが、いずれも高い堅牢性を有し、且つ良好な発色性、安定性、吐出性、優れた風合いをもつことがわかった。一方で、比較例1のように、活性剤タイプの顔料分散剤を用いた場合には、十分な吐出性を得ることができなかった。また、比較例2のように、顔料分散剤として長鎖アルキル基を有さないスチレンアクリル樹脂を用いた場合には、吐出性、保存安定性が悪化するとともに、印刷物の白化が生じた。これは顔料分散樹脂と、バインダー樹脂との相溶性が悪いためだと考えられる。さらに比較例3〜7のように、ポリカーボネート系以外のウレタン樹脂、またはアクリル樹脂をバインダー樹脂として含むインキは、摩擦堅牢性や風合いが低下した。
【0079】
特に実施例1〜9のように、ポリカーボネート系のウレタン樹脂の中でも、破断伸度が600%〜800%であり、ヤング率が5N/mm
2〜20N/mm
2である方が、実施例10〜12よりも耐摩擦性がより向上しており、より好ましい結果であった。また、HLB値が10〜20のアセチレン系界面活性剤を使用した場合、シリコン系界面活性剤を使用した場合よりも良好な吐出性、及び保存安定性を有する傾向があることがわかった。また実施例1〜5、10〜12から分かるように、HSP値水素結合項δhが20〜30のプロピレングリコールおよびグリセリンを含む場合、発色性、吐出性、及び保存安定性がより良好な結果であった。
【課題】本発明は、特に捺染に用いた時に、保存安定性、発色性、風合いに優れ、且つ高い洗濯及び摩擦堅牢性を有した水性顔料インクジェットインキを提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも、水(A)、顔料(B)、有機溶剤(C)、表面調整剤(D)、バインダー樹脂(E)、および顔料分散樹脂(F)を含有するインクジェットインキであって、