【実施例】
【0039】
以下、本発明について実施例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等限定されるものではない。
【0040】
(加水分解性シリル基を有する硬化性樹脂の合成)
以下の表1に示す配合割合にて合成報告例(Macromol. React. Eng., 2007, 1, 313-320)に従い、フリーラジカル反応により加水分解性シリル基を分子内に有する硬化性樹脂(反応物1〜3)を得た。
【0041】
【表1】
【0042】
(β−ジチオケトン金属錯体とアミン化合物との複合錯体の合成)
表2の配合割合にて、複合錯体1及び2を得た。具体的には、反応容器に2,4−ペンタンジチオオン亜鉛(II)錯体327.8g(1モル当量)、又は2,4−ペンタンジチオオン銅(II)錯体326.0g(1モル当量)を投入し、その後常温にて乾燥クロロホルム1000mLを加え完全に溶解させた。クロロホルム溶液中にn−オクタデシルアミン269.5g(1モル当量)を加え、常温にて60分間攪拌した後、クロロホルムをエバポレートすることで、それぞれ複合錯体1及び2を得た。複合錯体1及び2の分析結果を以下に示す。
【0043】
複合錯体1
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ0.88(-CH
2CH3, 3H), 1.25(-
CH2-, 30H), 1.46(H
2N-CH
2-
CH2-, 2H), 2.30(C-CH
3, 12H), 5.27(C=
CH-C, 2H).
元素分析 Anal. Calcd for C
28H
58NS
4Zn: C, 56.30; H, 8.94; N, 2.34%. Found: C, 56.25; H, 8.79; N, 2.25%.
【0044】
複合錯体2
元素分析 Anal. Calcd for C
28H
58NS
4Cu: C, 56.47; H, 8.97; N, 2.35%. Found: C, 56.11; H, 9.18; N, 2.49%.
【0045】
【表2】
【0046】
(硬化性樹脂組成物の調製)
下記の手順に従って硬化性樹脂組成物(1)〜(24)を調製し、軟化温度を測定することによって硬化性樹脂組成物の速硬化性を評価した。
【0047】
[実施例1] 硬化性樹脂組成物(1)の調製
反応容器に表1記載の反応物1(500g)を投入し、その後150℃に加熱し、樹脂の溶融ならび脱水を30分間行った。反応物1に表2記載の複合錯体1(0.5g)を加えて150℃の温度で30分間攪拌混合して硬化性樹脂組成物(1)を得た。
【0048】
[実施例2] 硬化性樹脂組成物(2)の調製
複合錯体1に代えて表2記載の複合錯体2(0.5g)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(2)を得た。
【0049】
[比較例1] 硬化性樹脂組成物(3)の調製
複合錯体1を加えなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(3)を得た。
【0050】
[比較例2] 硬化性樹脂組成物(4)の調製
複合錯体1に代えて2,4−ペンタンジチオオン亜鉛錯体(0.5g)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(4)を得た。
【0051】
[比較例3] 硬化性樹脂組成物(5)の調製
複合錯体1に代えてn−オクタデシルアミン(0.5g)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(5)を得た。
【0052】
[比較例4] 硬化性樹脂組成物(6)の調製
複合錯体1に代えて2,4−ペンタンジチオオン亜鉛錯体(0.3g)とn−オクタデシルアミン(0.2g)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(6)を得た。
【0053】
[比較例5] 硬化性樹脂組成物(7)の調製
複合錯体1に代えてジブチル錫(II)ジラウレート(0.5g)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(7)を得た。
【0054】
[比較例6] 硬化性樹脂組成物(8)
複合錯体1に代えて三フッ化ホウ素モノエチルアミン錯体(0.5g)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(8)を得た。
【0055】
[実施例3] 硬化性樹脂組成物(9)の調製
反応容器に表1記載の反応物2(500g)を投入し、その後150℃に加熱し、樹脂の溶融ならび脱水を30分間行った。反応物2に表2記載の複合錯体1(0.5g)を加えて150℃の温度で30分間攪拌混合して硬化性樹脂組成物(9)を得た。
【0056】
[実施例4] 硬化性樹脂組成物(10)の調製
複合錯体1に代えて表2記載の複合錯体2(0.5g)を用いたこと以外は実施例3と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(10)を得た。
【0057】
[比較例7] 硬化性樹脂組成物(11)の調製
複合錯体1を加えなかったこと以外は実施例3と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(11)を得た。
【0058】
[比較例8] 硬化性樹脂組成物(12)の調製
複合錯体1に代えて2,4−ペンタンジチオオン亜鉛錯体(0.5g)を用いたこと以外は実施例3と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(12)を得た。
【0059】
[比較例9] 硬化性樹脂組成物(13)
複合錯体1に代えてn−オクタデシルアミン(0.5g)を用いたこと以外は実施例3と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(13)を得た。
【0060】
[比較例10] 硬化性樹脂組成物(14)の調製
複合錯体1に代えて2,4−ペンタンジチオオン亜鉛錯体(0.3g)とn−オクタデシルアミン(0.2g)を用いたこと以外は実施例3と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(14)を得た。
【0061】
[比較例11] 硬化性樹脂組成物(15)の調製
複合錯体1に代えてジブチル錫(II)ジラウレート(0.5g)を用いたこと以外は実施例3と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(15)を得た。
【0062】
[比較例12] 硬化性樹脂組成物(16)
複合錯体1に代えて三フッ化ホウ素モノエチルアミン錯体(0.5g)を用いたこと以外は実施例3と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(16)を得た。
【0063】
[実施例5] 硬化性樹脂組成物(17)
反応容器に表1記載の反応物3(500g)を投入し、その後150℃に加熱し、樹脂の溶融ならび脱水を30分間行った。反応物3に表2記載の複合錯体1(0.5g)を加えて150℃の温度で30分間攪拌混合して硬化性樹脂組成物(17)を得た。
【0064】
[実施例6] 硬化性樹脂組成物(18)
複合錯体1に代えて表2記載の複合錯体2(0.5g)を用いたこと以外は実施例5と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(18)を得た。
【0065】
[比較例13] 硬化性樹脂組成物(19)
複合錯体1を加えなかったこと以外は実施例5と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(19)を得た。
【0066】
[比較例14] 硬化性樹脂組成物(20)
複合錯体1に代えて2,4−ペンタンジチオオン亜鉛錯体(0.5g)を用いたこと以外は実施例5と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(20)を得た。
【0067】
[比較例15] 硬化性樹脂組成物(21)
複合錯体1に代えてn−オクタデシルアミン(0.5g)を用いたこと以外は実施例5と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(21)を得た。
【0068】
[比較例16] 硬化性樹脂組成物(22)
複合錯体1に代えて2,4−ペンタンジチオオン亜鉛錯体(0.3g)とn−オクタデシルアミン(0.2g)を用いたこと以外は実施例5と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(22)を得た。
【0069】
[比較例17] 硬化性樹脂組成物(23)
複合錯体1に代えてジブチル錫(II)ジラウレート(0.5g)を用いたこと以外は実施例5と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(23)を得た。
【0070】
[比較例18] 硬化性樹脂組成物(24)
複合錯体1に代えて三フッ化ホウ素モノエチルアミン錯体(0.5g)を用いたこと以外は実施例5と同様の操作を行って、硬化性樹脂組成物(24)を得た。
【0071】
(軟化温度の測定)
150℃で調製(溶融状態)した上記硬化性樹脂組成物(1)〜(24)のそれぞれについて、1対の帆布を貼り合わせて所定時間放置(経過)した後の軟化温度を測定した。具体的には、25℃、相対湿度50%の雰囲気下で、2.5cm幅の帆布に溶融状態の硬化性樹脂組成物を塗布し、直ちにもう一方の帆布を貼り合わせ(貼り合わせ面積2.5×2.5cm
2)、10分(測定A)または2時間(測定B)放置した。一方の帆布を固定して他方の帆布に200gの重りを取り付けて温度を徐々に上昇させ、重りが落下した温度を硬化性樹脂組成物の軟化点とした。測定結果を表3〜5に示す。なお測定は3回行ってその平均値を使用した。表中の「×」は、硬化性樹脂組成物が十分に硬化しておらず、上記測定の温度上昇前室温条件下で重りが落下したことを示す。
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
【表5】
【0075】
硬化後の硬化性樹脂組成物の軟化温度が60℃に達している場合、耐熱性が実用的に十分であると判断される。表3から明らかなように、硬化触媒として複合錯体1、複合錯体2を用いた硬化性樹脂組成物(1)及び(2)(実施例1及び2)は、塗布後10分後で硬化しているのに対し、他の硬化触媒を用いた硬化性樹脂組成物(4)〜(8)(比較例1〜6)では硬化に長時間を必要とすることがわかった。表4の結果から、加水分解性シリル基が2官能である反応物2の硬化において、複合錯体1及び複合錯体2が硬化触媒として作用し、硬化速度を速めていると理解できる。表5の結果から、複合錯体1及び複合錯体2による硬化促進が、2官能及び3官能の加水分解性シリル基が混在する反応物3に対しても発揮されることがわかった。
【0076】
上述したように、硬化後の硬化性樹脂組成物の軟化温度が60℃に達するか否かは、耐熱性が実用的に十分であるかを判断する上で重要な温度である。上記硬化性樹脂組成物の中で硬化物の軟化温度が60℃を越えるものは硬化触媒として複合錯体1、複合錯体2を用いた硬化性樹脂組成物(1)、(2)、(9)、(10)、(17)及び(18)(実施例1〜実施例6)だけであり、この軟化温度は、従来には見られない非常に高い温度である。