【文献】
J. Bacteriol.,2011年,Vol. 193, No. 1,pp.311-312
【文献】
Endoglucanase CeIV3 [Paenibacillus polymyxa SC2],ACCESSION ADO57958,Protein database[online],2014年 1月31日,[retrieved on 2018.11.8],Retrieved from the Internet:,URL,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/309248391?sat=4&satkey=105781022
【文献】
Alpha-amylase [Paenibacillus polymyxa SC2],ACCESSION ADO59158,Protein database[online],2014年 1月31日,[retrieved on 2018.11.8],Retrieved from the Internet:,URL,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/309249591?sat=4&satkey=105781022
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
細菌および酵母以外の真菌が、植物病原菌類、ブドウ球菌属、連鎖球菌属、腸球菌、エスケリキア属およびフザリウム属のいずれかに属する菌の1種以上である、請求項1に記載の細菌。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、
(a)セルロース分解能およびデンプン分解能を有し、
(b)細菌および酵母以外の真菌に対して抗菌活性を示し、
(c)ゼラチン分解能および硝酸塩還元能を有していない、
パエニバチルス属に属する細菌またはその変異体を提供する。
【0013】
本明細書中に記載の化合物は、その全ての異性体をも包含する。
【0014】
本発明のパエニバチルス属に属する細菌(以下、本発明の細菌と略記する場合がある)またはその変異体は、セルロースおよびデンプンを単糖または少糖類へ分解し得る。すなわち、本発明の細菌またはその変異体は、セルロースおよびデンプンを糖化する活性を有する。本発明の細菌またはその変異体によるセルロースの分解は、セルロース分子内部をランダムに切断するエンド型の分解様式、またはセルロース分子の末端から切断してセロビオースを産生するエキソ型の分解様式であり得る。当該分解反応は細胞内で起きてもよいし、細胞外で起きてもよい。当該分解産物の例として、単糖であるグルコース、二糖であるセロビオース、および3糖〜6糖のオリゴ糖を産生し得る。当該分解産物は、好ましくはグルコース、セロビオースまたは3糖であり、より好ましくはグルコースである。
また、デンプンの分解は、その構成分子であるアミロース分子およびアミロペクチン分子をランダムに切断するエンド型の分解様式、ならびに/またはアミロースおよびアミロペクチン分子の末端から切断してマルトースもしくはグルコースを産生するエキソ型の分解様式であり得る。エンド型の分解活性を示すアミラーゼはα−アミラーゼ、エキソ型の分解活性を示しマルトースを産生するアミラーゼはβ−アミラーゼ、エキソ型の分解活性を示しグルコースを産生するアミラーゼはグルコアミラーゼと呼ばれる。後述するように、本発明の細菌が産生するアミラーゼは、α−アミラーゼの触媒ドメインとβ−アミラーゼの触媒ドメインの両方を有することから、好ましい分解様式としては、エンド型の分解様式、およびエキソ型の分解によりマルトースを産生する分解様式が例示される。さらに、本発明の好ましいデンプン分解様式として、本発明のアミラーゼによりデンプンからマルトースが産生された後、該マルトースをα−グルコシダーゼにより分解しグルコースを産生する分解様式が例示される。これらデンプンの分解反応は、細胞内で起きてもよいし、細胞外で起きてもよい。デンプンの分解産物としては、例えば、単糖であるグルコース、二糖であるマルトース、および3〜6糖のオリゴ糖が挙げられる。当該分解産物は、好ましくはグルコース、マルトースまたは3糖であり、より好ましくはグルコースである。
【0015】
本発明の細菌またはその変異体が有するセルラーゼの代表例として配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられ、それをコードするポリヌクレオチドの例として配列番号2で表されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。配列番号2のセルラーゼ遺伝子は、パエニバチルス・ポリミクサ(Paenibacillus polymyxa)のβ−1.4−グルカナーゼと高い相同性を示し、糖質加水分解酵素のファミリー5に分類される触媒ドメイン(GH5)、N末端側に分泌シグナル配列、およびC末端側に糖質結合モジュールであるcarbohydrate−binding module(CBM)のファミリー3(CBM3)ドメインを有する。本発明の細菌またはその変異体が産生するセルラーゼは、セルロースの添加により発現が誘導され、培養上清中に分泌される、基質誘導型の分泌酵素であり得る。
【0016】
本発明の細菌またはその変異体が有するアミラーゼの代表例として配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられ、それをコードするポリヌクレオチドの例として配列番号4で表されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。配列番号4のアミラーゼ遺伝子は、パエニバチルス・ポリミクサのβ/α−アミラーゼと高い相同性を示し、N末端側に分泌シグナル配列を有している。さらに、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドは、N末端側にβ−アミラーゼの触媒ドメイン(GH14)および2つのCBM25を有し、C末端側にはα−アミラーゼの触媒ドメイン(GH13)およびCBMの一種であるAamy−Cモジュールを有するため、α−アミラーゼ活性およびβ−アミラーゼ活性の両方を示すと考えられる。本発明の細菌またはその変異体が有するアミラーゼポリペプチドは、配列番号3で表されるアミノ酸配列に対し、1、2、3または4個のアミノ酸の置換、挿入、または欠失がなされた、α−アミラーゼ活性およびβ−アミラーゼ活性を有するポリペプチド、ならびにそれをコードするポリヌクレオチドも提供する。本発明の細菌が産生するアミラーゼは、デンプンの添加により発現が誘導され、培養上清中に分泌される、基質誘導型の分泌酵素であり得る。
【0017】
本発明の細菌またはその変異体が有するα−グルコシダーゼの代表例として配列番号5で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられ、それをコードするポリヌクレオチドの例として配列番号6で表されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。配列番号6のα−グルコシダーゼ遺伝子は、糖質分解酵素ファミリー31(GH31)に分類される酵素である。本発明の細菌が産生するα−グルコシダーゼは、細胞内に局在する酵素であり得る。
【0018】
本発明の細菌またはその変異体が有する、セルラーゼ、アミラーゼおよびα−グルコシダーゼのポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、本発明の細菌またはその変異体のマーカーとして有用である。本発明の細菌またはその変異体が有する、セルラーゼ、アミラーゼおよびα−グルコシダーゼのポリヌクレオチドは、本発明の細菌またはその変異体を検出するための核酸プローブを作製するために用いることができ、また、本発明の細菌またはその変異体が有する、セルラーゼ、アミラーゼおよびα−グルコシダーゼのポリペプチドは、本発明の細菌またはその変異体を検出するための抗体を作製するために用いることができる。該プローブおよび抗体は、本発明の細菌またはその変異体を同定するために好適に使用し得る。
【0019】
さらに、本発明は、本発明の細菌またはその変異体が有する、セルラーゼ、アミラーゼまたはα−グルコシダーゼのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクター、ならびに該ベクターにより形質転換された形質転換体も提供し得る。
【0020】
本発明の細菌またはその変異体は、他の細菌および酵母以外の真菌に対して抗菌活性を示す。当該他の細菌および酵母以外の真菌は、本発明の細菌またはその変異体が示す抗菌活性によって、死滅または増殖が抑制される。具体例としては、植物病原微生物やヒト病原微生物(例えば、ブドウ球菌属の菌、連鎖球菌属の菌、腸球菌、エスケリキア属の菌、白癬菌、カンジダ症起因菌、クリプトコッカス症起因菌およびフザリウム属の菌)等が挙げられ、より具体的には、トマト葉かび病菌(Fulvia fulvum(Cooke)Ciferri)、イネいもち病菌(Magnaporthe grisea)、イネいもち病菌(Magnaporthe oryzae)、オオムギ赤かび病菌(Fusarium graminearum)、イチゴ炭疽病菌(Colletotrichum acutatum)、トマト萎凋病菌(Fusarium oxysporum Schechtendal f.sp.Lycopersici)、サトイモ乾腐病菌(Fusarium oxysporum Schechtendal f.sp.Colocasiae)、キュウリつる割病菌(Fusarium oxysporum f.sp.cucumerinum)、イネばか苗病菌(Fusarium moniliforme)、スイカつる枯病菌(Didymella bryoniae)、スイカ炭疽病菌(Colletotrichum orbiculare)、ダイズ紫斑病菌(Cercospora kikuchii)、青枯病菌(Ralstonia solanacearum(旧学名Pseudomonas solanacearum))、および軟腐病(Erwinia carotovora subsp.carotovora)等の植物病原菌類の菌、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、Staphylococcus epidermidis、およびStaphylococcus saprophyticus等のブドウ球菌属の細菌、Streptococcus pyogenes、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus viridans、Streptococcus agalactiae、およびStreptococcus dysgalactiae等の連鎖球菌属の細菌、Enterococcus faecalis、Enterococcus faecium、Enterococcus avium、Enterococcus casseliflavus、Enterococcus gallinarum、およびEnterococcus flavescens等の腸球菌、大腸菌(Escherichia coli)等のエスケリキア属の細菌、Trichophyton rubrum、Trichophyton mentagrophytes、Trichophyton tonsurans、Microsporum canis、Microsporum gypseum、Trichophyton verrucosum等の白癬菌類、Candida albicans等のカンジダ症起因菌、Cryptococcus neoformans等のクリプトコッカス症起因菌、Neisseria gonorrhoeae等の淋菌、Neisseria meningitidis等の髄膜炎菌、Shigella dysenteriae、Shigella flexneri、Shigella boydii、Shigella sonnei等の赤痢菌、Salmonella Typhi、Salmonella Paratyphi、Salmonella Typhimurium,Salmonella Enteritidis等のサルモネラ菌、Vibrio cholerae等のコレラ菌、Pseudomonas aeruginosa等の緑膿菌、Bordetella pertussis等の百日咳菌、Haemophilus influenzae等のインフルエンザ菌、Mycobacterium tuberculosis等の結核菌、Clostridium tetani等の破傷風菌、Corynebacterium diphtheriae等のジフテリア菌、ならびにFusarium oxysporum、Fusarium solani、Fusarium graminearum、Fusarium asiaticum、Fusarium culmorum、およびFusarium fujikuroi(完全(有性)世代:Gibberella fujikuroi)等のフザリウム属の菌が挙げられる。本発明の細菌またはその変異体は、少なくともこれらの菌から選択される1種に対して、好ましくは全てに対して抗菌活性を有する。
【0021】
本明細書中、「抗菌活性」とは、菌を殺す活性および菌の増殖を抑制する活性を意味する。
【0022】
本発明の細菌またはその変異体は、近縁種である、Paenibacillus polymyxa、Paenibacillus jamilae、Paenibacillus peoriae、およびPaenibacillus kribbensisと異なり、ゼラチン分解能および硝酸塩還元能を有していない。ゼラチン分解能は、ゼラチンを含有する培地に細菌を接種したときに、固化していたゼラチンを室温で溶解する能力を意味する。硝酸塩還元能は、硝酸塩を含有する培地で細菌の培養を行い、還元反応により亜硝酸を生成する能力を意味する。当業者であれば、公知の方法によりゼラチン分解能および硝酸塩還元能の試験を容易に行うことができる。あるいは、ゼラチン分解能および硝酸塩還元能を試験するための市販のキット(例えば、API20Eキット(bioMerieux, Lyon, France))なども好適に使用し得る。本発明の細菌は、ゼラチン分解能および硝酸塩還元能を有していないことを特徴の一つとする。
【0023】
その他、本発明の細菌またはその変異体の特徴の例として、以下が挙げられる。
・細胞形態が桿状で周鞭毛を持ち、活発な運動性を有する。
・コロニーが白色に近いクリーム色を呈する(培地により多少異なる)。
【0024】
更なる局面において、本発明の細菌は、土壌中の難溶性リン化合物の可溶化(植物へのリンの供給)能力、植物生長ホルモンの産生能力、シデロフォアにより環境中の鉄を奪うことによる植物病原微生物の増殖抑制能力(植物もシデロフォアを産生可能)、シアン化水素や抗生物質による植物病原微生物の殺菌能力、植物の生長を抑制するエチレンの生合成阻害能力、窒素固定能力を有するという特徴を有する。
【0025】
(難溶性リン化合物の可溶化能力)
本発明の細菌は、難溶性リン化合物を可溶化できる。
リンは、植物の必須元素の一つであり、核酸、リン脂質、NADP、ATPなどの構成元素として重要な役割を担っている。土壌に含まれる細菌の一部は、有機酸により、土壌中に含まれるリン酸カルシウム、リン酸アルミニウムおよびリン酸鉄などの難溶性リン化合物を可溶化することができる。理論に束縛されないが、本発明の細菌も、難溶性リン化合物の可溶化することができ、可溶化されたリンを植物に供給することができるため、植物生長促進作用を有すると考えられる。
【0026】
(植物生長ホルモンの産生能力)
本発明の細菌は、植物生長ホルモンであるインドール−3−酢酸(IAA)を産生できる。インドール−3−酢酸(IAA)は、植物生長ホルモン(オーキシン)の1つである。理論に束縛されないが、本発明の細菌は、IAAを産生することにより、植物の生長促進効果を有すると考えられる。
【0027】
(シデロフォアの産生能力)
シデロフォア(Siderophore)とは、細菌や菌類が分泌する鉄キレーターである。シデロフォアは、環境中の微量の鉄と結合して機能する。理論に束縛されないが、本発明の細菌は、シデロフォアを産生し、環境中の鉄を奪うことにより植物病原微生物の増殖を抑制することができると考えられる。
【0028】
(シアン化水素の産生能力)
本発明の細菌は、シアン化水素(HCN)を産生する。理論に束縛されないが、シアン化水素(HCN)の産生により、植物病原微生物の殺菌が行われるため、植物の生長促進効果を有すると考えられる。
【0029】
(エチレンの生合成阻害能力)
メチオニン→S−アデノシルメチオニン(SAM)→1−アミノシクロプロパン−1−カルボン酸(ACC)→エチレンという経路を通じて、エチレンは合成される。本発明の細菌はACCデアミナーゼ遺伝子を有しており、ACCの添加により増殖速度が増加する。
一般的に、エチレンは、生長を阻害し、花芽形成や萌芽を抑制する。理論に束縛されないが、本発明の細菌はACCを分解する作用を有するため、植物の生長を促進することができると考えられる。
【0030】
(窒素固定能力)
窒素固定とは、空気中に多量に存在する安定な窒素分子を、アンモニア、硝酸塩、二酸化窒素などの無機窒素化合物に変換するプロセスをいう。本発明の細菌は、ニトロゲナーゼ(フラボドキシン)遺伝子を有しており、窒素非含有培地で増殖することができる。
従って、理論に束縛されないが、本発明の細菌は、窒素固定能力を有し、土壌中に窒素化合物を供給できるため、植物の生長を促進することができると考えられる。
【0031】
本発明の細菌の特徴として、キチン分解活性を有さないことも挙げられる。本発明の細菌は、キチン分解酵素(キチナーゼ)遺伝子を有さず、キチン含有培地上で培養した際にハローを形成しない。
【0032】
好ましい態様において、本発明の細菌は、受託番号NITE P−01802で表されるパエニバチルス・エスピー(Paenibacillus sp.)FPU−37株である。当該細菌は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されている(受託日:平成26年2月20日)。
【0033】
本発明の細菌またはその変異体は、好ましくは、単離された細菌である。「単離された」とは、天然材料からの細菌の分離がなされることで、天然に存在する場合よりも高い純度であることを意味する。本発明の細菌またはその変異体が単離されたものである場合、その純度は、含有される菌全体の個数に対して、50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは100%である。
【0034】
本発明の細菌は、本発明の細菌の変異体であり得る。該変異体は、本発明の細菌に由来する菌株である限り特に限定されないが、例えば、形態学的特徴、染色性、増殖性、栄養要求性、遺伝学的特徴、生理学的特徴、および生化学的特徴等において、本発明の細菌と1以上の同様の性質を示し、かつ本発明の細菌の所望の性質を保持している菌株であり得る。該所望の性質としては、セルラーゼ分解能、デンプン分解能、抗菌活性、植物生長促進作用、難溶性リン化合物の可溶化能、インドール−3−酢酸(IAA)産生能、シデロフォア産生能、シアン化水素(HCN)産生能、エチレン生合成阻害能、窒素固定能が挙げられる。あるいは、該変異体は、該所望の性質を発揮するために必要な本発明の細菌由来の遺伝子(例、本発明の細菌のセルラーゼおよびアミラーゼの遺伝子等)を、他の宿主細胞に導入することによって作製することもできる。
【0035】
本発明の細菌の変異体は、本発明の細菌に自体公知の変異原処理を行い、親株と同等もしくはそれ以上の所望の効果を有する菌株を選抜することにより得ることができる。セルラーゼ分解能は、例えば後述の実施例に記載される方法を用いて試験することができるが、それらに限定されず、自体公知のいかなる方法を用いてもよい。
本発明の変異体は、例えば、本発明の細菌を改変処理することにより作製できる。このような改変処理としては、例えば、変異原性物質等の存在下での培養、本発明の細菌の有用性を高め得る遺伝子の導入、本発明の細菌の有用性を高め得る遺伝子(例、Indole−3−pyruvic acid (IPA)の生合成系遺伝子群、Siderophore 生合成遺伝子、Fe
3+−siderophore ABC transporter permease遺伝子、1−aminocyclopropane−1−carboxylate (ACC) deaminase遺伝子、窒素固定遺伝子(nitrogenase = flavodoxin)、抗生物質産生系遺伝子群、酵素などのタンパク質の生合成能力を高めることを目的としたリボソームの高機能化など遺伝子)の機能改変、および本発明の細菌が保有する遺伝子の破壊、ならびにこれらの操作の組合せなどが挙げられる。本発明はまた、このような作製方法を提供する。
ここで変異原としては、例えば、アルキル化剤(N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルホン酸(EMS)等)、ヌクレオチド塩基類似体(ブロモウラシル等)、ニトロソ化合物、DNAインターカレーター、DNA架橋剤、放射線、紫外線等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、当該変異体は、所望の効果(例えば、セルラーゼ分解能、デンプン分解能、抗菌活性または生長促進作用)が親株と比較して増大しているか、あるいはそれらの効果については同等であるが、例えば広いpHレンジで増殖可能、増殖速度が早い、低温下でも増殖可能などの他の有利な効果を奏する菌株などである。
【0036】
得られた変異体が抗菌性物質を産生しているか否かは自体公知の方法により検証することができる。
例えば、AM寒天培地上に変異体の培養液をスポットしたペーパーディスクをおよび何もスポットしていないペーパーディスクを置き、植物病原菌をそれぞれに植菌し、28℃で培養することにより試験できる。何もスポットしていないペーパーディスクと比較して、変異体の培養液をスポットしたペーパーディスク上での該植物病原菌数が少ない場合、該変異体は該植物病原菌に対して抗菌活性を有する。
【0037】
得られた変異体が植物生長促進作用を有しているか否かは自体公知の方法により検証することができる。
例えば、変異体が難溶性リン化合物を可溶化することができるか否かは、例えば、リン酸カルシウムを懸濁させたPikovskaya寒天培地上で培養し、コロニーを形成させ、ハロー(halo−zone)形成の有無を調べることにより試験することができる。難溶性リン化合物の可溶化することができる変異体である場合、変異体のコロニー周囲に、リン酸カルシウムの溶解によりハロー(halo−zone)が形成される。
【0038】
変異体がインドール−3−酢酸(IAA)を産生できるか否かは、例えば、salkowski’s試験によって評価することができる。
変異体がシデロフォアを産生するか否かは、例えば、Chrome Azurol S−鉄錯体を用いた呈色反応によって試験することができる。
変異体がシアン化水素(HCN)を産生するか否かは、例えば、ピクリン酸−炭酸ナトリウム試験紙によって試験することができる。
変異体がエチレンの生合成を阻害するか否かは、例えば、ACCデアミナーゼ活性を測定することによって評価することができる。
変異体が窒素固定するか否かは、例えば、ニトロゲナーゼ活性を測定することによって評価することができる。
【0039】
本発明の細菌またはその変異体は、パエニバチルス属細菌全般の培養に用いられる自体公知の方法により培養することができる。当業者であれば培養に使用する培地を適宜選択可能であるが、培地の例としては、M9培地(最少培地)、KL培地、BHI培地、2YT培地、YPD培地、AM3培地、LB培地等が挙げられる。本発明の細菌は窒素固定能力を有するため、窒素を含まない培地で培養することもできる。培養時間や培養スケールなどは、当該培養物の用途等に応じて適宜設定することができる。培養温度は、好ましくは15〜40℃、より好ましくは28〜37℃であり、最も好ましくは37℃である。また、培地は、好ましくは、pH3〜10に調節される。
本発明の細菌またはその変異体の培養は、例えば、試験管、培養フラスコ等の培養器に一定量の培地を入れ、本発明の細菌またはその変異体を接種し、試験管振とう機、シンプロカルシェーカー、ロータリーシェーカー等を用い、好気条件下で30〜42℃にて振とう培養により行うことができる。より大規模な培養は、数L規模のジャーファーメンターや数100L〜数100t規模の工業的タンク等の大規模培養槽を用いての通気攪拌培養にて行うことができる。培養時間は特に制限はない。
【0040】
本発明は、本発明の細菌またはその変異体の抗菌性抽出物を提供する。該抗菌性抽出物は、本発明の細菌またはその変異体に由来するものであれば、どのような方法により抽出されたものであってもよい。当該方法は、例えば、本発明の細菌またはその変異体を含む培養液を遠心分離に供し、該細菌をペレットにし、アセトニトリルまたは低級アルコール等の有機抽出溶媒に該細菌を再懸濁した液を抗菌性抽出物とすることができ、あるいは、アセトニトリルまたは低級アルコール等の有機抽出溶媒に懸濁した後にさらに遠心分離に供し、その上清を抗菌性抽出物とすることもできる。本明細書中、「低級アルコール」とは、炭素数1〜5のアルコールを意味し、好ましい低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールおよびペンタノールが挙げられ、より好ましくはブタノールである。
【0041】
当該抗菌性抽出物は、抗菌性物質を含むことにより、植物病原微生物やヒト病原微生物(例えば、ブドウ球菌属の菌、連鎖球菌属の菌、腸球菌、エスケリキア属の菌、白癬菌、カンジダ症起因菌、クリプトコッカス症起因菌およびフザリウム属の菌)等、より具体的には、トマト葉かび病菌(Fulvia fulvum(Cooke)Ciferri)、イネいもち病菌(Magnaporthe grisea)、イネいもち病菌(Magnaporthe oryzae)、オオムギ赤かび病菌(Fusarium graminearum)、イチゴ炭疽病菌(Colletotrichum acutatum)、トマト萎凋病菌(Fusarium oxysporum Schechtendal f.sp.Lycopersici)、サトイモ乾腐病菌(Fusarium oxysporum Schechtendal f.sp.Colocasiae)、キュウリつる割病菌(Fusarium oxysporum f.sp.cucumerinum)、イネばか苗病菌(Fusarium moniliforme)、スイカつる枯病菌(Didymella bryoniae)、スイカ炭疽病菌(Colletotrichum orbiculare)、ダイズ紫斑病菌(Cercospora kikuchii)、青枯病菌(Ralstonia solanacearum(旧学名Pseudomonas solanacearum))、および軟腐病(Erwinia carotovora subsp.carotovora)等の植物病原菌類の菌、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、Staphylococcus epidermidis、およびStaphylococcus saprophyticus等のブドウ球菌属の細菌、Streptococcus pyogenes、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus viridans、Streptococcus agalactiae、およびStreptococcus dysgalactiae等の連鎖球菌属の細菌、Enterococcus faecalis、Enterococcus faecium、Enterococcus avium、Enterococcus casseliflavus、Enterococcus gallinarum、およびEnterococcus flavescens等の腸球菌、大腸菌(Escherichia coli)等のエスケリキア属の細菌、Trichophyton rubrum、Trichophyton mentagrophytes、Trichophyton tonsurans、Microsporum canis、Microsporum gypseum、Trichophyton verrucosum等の白癬菌類、Candida albicans等のカンジダ症起因菌、Cryptococcus neoformans等のクリプトコッカス症起因菌、Neisseria gonorrhoeae等の淋菌、Neisseria meningitidis等の髄膜炎菌、Shigella dysenteriae、Shigella flexneri、Shigella boydii、Shigella sonnei等の赤痢菌、Salmonella Typhi、Salmonella Paratyphi、Salmonella Typhimurium,Salmonella Enteritidis等のサルモネラ菌、Vibrio cholerae等のコレラ菌、Pseudomonas aeruginosa等の緑膿菌、Bordetella pertussis等の百日咳菌、Haemophilus influenzae等のインフルエンザ菌、Mycobacterium tuberculosis等の結核菌、Clostridium tetani等の破傷風菌、Corynebacterium diphtheriae等のジフテリア菌、ならびにFusarium oxysporum、Fusarium solani、Fusarium graminearum、Fusarium asiaticum、Fusarium culmorum、およびFusarium fujikuroi(完全(有性)世代:Gibberella fujikuroi)等のフザリウム属の菌から選択される少なくとも1種の菌に対して抗菌活性を有する。
【0042】
また、当該抗菌性抽出物は、抽出に使用した溶媒の種類に応じて、異なる菌に対して抗菌活性を示し得る。例えば、アセトニトリルを使用して抽出した抗菌性抽出物は、植物病原菌類およびフザリウム属の菌に対して抗菌活性を有し得、低級エタノールを使用して抽出した抗菌性抽出物は、ブドウ球菌属の菌、連鎖球菌属の菌、腸球菌、およびエスケリキア属の菌に対して抗菌活性を有し得る。
【0043】
当該抗菌性抽出物は、広範囲の細菌および酵母以外の真菌に対して抗菌活性を示すため、農薬や医薬品、種子消毒剤、土壌改良剤等に好適に使用し得る。
【0044】
当該抗菌性抽出物が農薬として使用される場合、対象となる農作物としては、例えば、イネ、大麦、トマト、スイカ、キュウリ、イチゴ、サトイモ、大豆、小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、インゲンマメ、エンドウ、ラッカセイ、テンサイ、サトウキビ、ナス、ピーマン、メロン、カボチャ、ダイコン、ハクサイ、キャベツ、コマツナ、タマネギ、ネギ、ニラ、ニンニク、アスパラガス、ゴボウ、レタス、シュンギク、ニンジン、ホウレンソウ、オクラ、リンゴ、ナシ、ウメ、ブドウ、カキ、イチジク、キウイなどが挙げられる。
【0045】
当該抗菌性抽出物が医薬品として使用される場合、ヒトおよび他の哺乳動物(例、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して、経口的または非経口的に安全に投与することができる。該医薬品は、細菌感染症および真菌感染症に対して治療効果を有し得る。当該感染症の具体例として、ブドウ球菌属の菌、連鎖球菌属の菌、腸球菌、エスケリキア属の菌、白癬菌、カンジダ症起因菌、クリプトコッカス症起因菌またはフザリウム属の菌に感染したことにより発症する感染症などが挙げられる。
【0046】
一態様において、本発明は、上記抗菌性抽出物を含有する抗菌組成物を提供する。該抗菌組成物は、上記本発明の抗菌性抽出物を有効成分として含むものであれば、該抗菌性抽出物の効果を損なわないその他の多糖、オリゴ糖、糖タンパク質、ペプチド、タンパク質、核酸、脂質、無機化合物、有機化合物、およびミネラルなどの成分を含有してもよい。また、該抗菌組成物は、所望の効果を損なわないものであれば、希釈剤、賦形剤、安定化剤、保存剤などの生理学的に許容される担体を更に含んでいてもよい。該抗菌組成物中に含まれる、本発明の抗菌性抽出物の含有量は、抽出方法や用途等に応じて適宜調整できるが、例として、0.1〜100(w/w)%であり得る。
【0047】
本発明の抗菌組成物は、広範な抗菌スペクトルを示すことから、殺菌剤等の農薬、抗生物質等の医薬品、種子消毒剤、土壌改良剤等として好適に使用し得る。あるいは、上記抽出操作をせずに本発明の細菌またはその変異体を生物農薬、種子消毒剤、土壌改良剤等として使用することもできる。
【0048】
本発明の抗菌組成物が農薬として使用される場合、および本発明の細菌またはその変異体を生物農薬として使用する場合、対象となる農作物としては、例えば、イネ、大麦、トマト、スイカ、キュウリ、イチゴ、サトイモ、大豆、小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、インゲンマメ、エンドウ、ラッカセイ、テンサイ、サトウキビ、ナス、ピーマン、メロン、カボチャ、ダイコン、ハクサイ、キャベツ、コマツナ、タマネギ、ネギ、ニラ、ニンニク、アスパラガス、ゴボウ、レタス、シュンギク、ニンジン、ホウレンソウ、オクラ、リンゴ、ナシ、ウメ、ブドウ、カキ、イチジク、キウイなどが挙げられる。
【0049】
本発明の抗菌組成物が医薬品として使用される場合、ヒトおよび他の哺乳動物(例、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して、経口的または非経口的に安全に投与することができる。該医薬品は、細菌感染症および真菌感染症に対して治療効果を有し得る。当該感染症の具体例として、ブドウ球菌属の菌、連鎖球菌属の菌、腸球菌、エスケリキア属の菌、白癬菌、カンジダ症起因菌、クリプトコッカス症起因菌またはフザリウム属の菌に感染したことにより発症する感染症などが挙げられる。
【0050】
別の態様において、本発明は、本発明の細菌またはその変異体を培養することによって得られる培養物を提供する。本明細書中、「培養物」は、培養された菌体および培養上清を意味する。
【0051】
該培養物は、上記した本発明の抗菌性抽出物および抗菌組成物の製造に有用である。該培養物には、α−グルコシダーゼも含有されると考えられるので、マルトースを分解しグルコースを産生する目的にも好適に使用し得る。また、該培養物は、後述する、本発明のセルロースおよび/またはデンプン分解物の製造方法、本発明のエタノール製造方法、ならびに本発明の抗菌性抽出物の製造方法に用いることができる。本発明の細菌またはその変異体は、長期培養による自己消化(オートリシス)により培養上清中にα−グルコシダーゼを遊離するので、マルトースを分解しグルコースを産生するために、該培養上清を用いることもできる。
【0052】
また、上記、本発明の培養物は、本発明の細菌またはその変異体により産生されたセルラーゼおよびアミラーゼを含有すると考えられるので、セルロースやデンプンの糖化に好適に使用し得る。
【0053】
当業者であれば当該培養に使用する培地を適宜選択可能であるが、培地の例としては、M9培地(最少培地)、BHI培地、2YT培地、YPD培地、AM3培地、LB培地等が挙げられる。培養時間や培養スケールなどは、当該培養物の用途等に応じて適宜設定することができる。培養温度は、好ましくは15〜40℃、より好ましくは28〜37℃であり、最も好ましくは37℃である。また、培地は、好ましくは、pH3〜10に調節される。
【0054】
本発明の細菌またはその変異体を培養することによって得られる培養物は、例えば、当該培養物を水もしくは適当な希釈液(例えば、等張緩衝液や培地等)で適切な菌体濃度となるまで希釈することができる。あるいは、培養物をろ過もしくは遠心分離して菌体を回収し、適当な分散媒(例えば、等張緩衝液や新鮮培地等)に再懸濁することもできる。さらに、回収した菌体を常法により凍結乾燥することもできる。あるいはまた、培養物に10〜20%のグリセロールを添加して−80℃で凍結保存し、用時融解して培地等に再懸濁して用いることもできる。また、当該細菌は芽胞(内生胞子)を形成するが、芽胞は熱や乾燥などの環境変化に対して耐性を示し長期間安定に保存できるので、芽胞の形態で製品化し、用時発芽させ菌体を増殖させてもよい。
一方、所望の効果をもたらす有効物質が菌体外(培養上清)に分泌される場合は、培養上清をそのままで、あるいは濃縮もしくは希釈して使用することもできる。
【0055】
(農薬)
本発明の一実施態様として、本発明は、本発明の抗菌性抽出物、抗菌組成物、本発明の細菌もしくはその変異体、またはそれらの培養物を含有する農薬(本明細書中、本発明の農薬ともいう)を提供する。本発明の農薬は、本発明の抗菌性抽出物、抗菌組成物または細菌もしくはその変異体が抗菌活性を有する植物病原微生物に起因する病害に対して、防除効果を有する。
本発明の農薬の対象となる農作物の例としては、上記に記載のとおりであるが、所望の効果を有する限り、上記に限定されるものではない。
【0056】
所望の効果を有する限り、本発明の農薬により農作物を処理する方法は特に制限されない。例えば、対象とする農作物に、水性溶媒で希釈した本発明の農薬をスプレーヤーにより散布してもよく、対象とする農作物が生育する土壌に本発明の農薬を直接混和するか水等に懸濁した本発明の農薬を用いて潅注処理してもよい。
本発明の農薬を用いて農作物を処理する場合、本発明の農薬で農作物を直接処理してもよく、本発明の農薬で農作物に接触し得る物質(例、農業用水、防根透水シート等)を間接的に処理してもよい。さらには、一実施態様において、農作物に接触し得る物質をあらかじめ本発明の農薬で処理し、続いて本発明の農薬を除去してから、該物質を使用することもできる。
本発明の農薬を散布することにより農作物を処理する場合、農薬の量は、使用土壌約5リットルあたり散布が液体であれば、100〜500ml適用することが好ましく、その菌体濃度は散布液体1mlあたり通常10
3〜10
6cfuである。
本発明の農薬により農作物を処理するタイミングは、所望の効果を有する限り特に制限されず、任意のタイミングで使用することができる。
本発明の農薬の施用頻度に対しては特に制限はない。本発明の農薬により植物を処理する前および後において、通常の方法で植物を栽培することができる。
【0057】
本発明の農薬に本発明の細菌の変異体を用いる場合、該変異体は、抗菌性物質を生成する細菌であることが好ましい。
【0058】
(種子消毒剤)
本発明の一実施態様として、本発明は、本発明の抗菌性抽出物、抗菌組成物、本発明の細菌もしくはその変異体またはそれらの培養物を含有する種子消毒剤(本明細書中、本発明の種子消毒剤ともいう)を提供する。本発明の種子消毒剤は、本発明の抗菌性抽出物、抗菌組成物または細菌が抗菌活性を有する植物病原微生物に対して、防除効果を有する。
【0059】
本発明の種子消毒剤は、種子、種もみ、種芋、球根などの消毒に使用することができる。
【0060】
本発明の種子消毒剤は、所望の効果を損なわない限り、従来公知の種子消毒方法により使用され得る。
種子を消毒する方法としては湿粉衣、浸漬、吹付け、塗沫などの方法があるが、これらに限定されない。一実施態様として、本発明の種子消毒剤は、液状である本発明の種子消毒剤に種子を浸す浸漬法に用いられる。別の実施態様としては、粉末状の本発明の種子消毒剤を種子にまぶす粉衣法に用いられる。浸漬法は種子の浸種前処理、種子の催芽処理時のいずれにおいても、用いることができる。また粉衣法は、乾燥種子に用いることができる。また別の実施形態として、本発明の種子消毒剤は、表面を湿らせた種子に本発明の種子消毒剤を付着させて用いることができる。
【0061】
種子消毒を行う場合には、種子質量に対して製剤を2〜50質量%適用することが好ましく、その菌体濃度は種子質量1gあたり通常10
3〜10
9cfuである。
浸漬法により種子消毒を行う場合、例えば、種子を本発明の種子消毒剤0.5時間から48時間、好ましくは1時間から24時間、浸潤させることにより種子消毒を行うことができる。
【0062】
本発明の種子消毒剤に本発明の細菌の変異体を用いる場合、該変異体は、抗菌性物質を生成する細菌であることが好ましい。
【0063】
(植物生長促進剤)
本発明の一実施形態として、本発明の細菌もしくはその変異体またはそれらの培養物を含む植物生長促進剤(本明細書中、本発明の植物生長促進剤ともいう)を提供する。
本発明の細菌もしくはその変異体またはそれらの培養物は、土壌中の難溶性リン化合物の可溶化(植物へのリンの供給)、植物生長ホルモンの産生、シデロフォアにより環境中の鉄を奪うことによる植物病原微生物の増殖抑制(植物もシデロフォアを産生可能)、シアン化水素や抗生物質による植物病原微生物の殺菌、植物の生長を抑制するエチレンの生合成阻害、窒素固定などにより、植物に対する生長促進効果を有する。
【0064】
本発明の植物生長促進剤の対象となる植物としては、ナス科植物(トマト、ナス、ジャガイモ、タバコ、ピーマン、トウガラシ等)、マメ科植物(インゲン、ダイズ、ラッカセイ、ササゲ、アズキ等)、アブラナ科植物(ハクサイ、カブ、キャベツ、ダイコン、アブラナ等)、イネ科植物(イネ、コムギ、トウモロコシ、オオムギ、ライムギ、サトウキビ等)、ウリ科植物(キュウリ、メロン、スイカ、カボチャ、トウガン等)、ユリ科植物(チューリップ、ユリ、タマネギ、アスパラガス、ネギ、ニラ、ニンニク等)、ミカン科植物(特に柑橘類:ウンシュウミカン、ユズ、レモン、ブンタン、イヨカン、ハッサク、グレープフルーツ等)を挙げることができ、中でも好ましい例としてナス科植物、およびイネ科植物を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0065】
所望の効果を有する限り、本発明の植物生長促進剤により植物を処理する方法は特に制限されない。例えば、対象とする植物に、水性溶媒で希釈した本発明の植物生長促進剤をスプレーヤーにより散布してもよく、対象とする植物が生育する土壌に本発明の植物生長促進剤を直接混和するか水等に懸濁した本発明の植物生長促進剤を用いて潅注処理してもよい。
植物生長促進剤を直接土壌に混和することにより植物生長促進処理を行う場合には、使用土壌約5リットルあたり散布が液体であれば、100〜500ml適用することが好ましく、その菌体濃度は散布液体1mlあたり通常10
3〜10
9cfu、好ましくは10
4〜10
8cfuである。
【0066】
本発明の植物生長促進剤の施用頻度に対しては特に制限はない。本発明の植物生長促進剤を使用する前および後において、通常の方法で植物を栽培することができる。
【0067】
本発明の植物生長促進剤に本発明の細菌の変異体を用いる場合、該変異体は、難溶性リン化合物の可溶化能力、植物生長ホルモンの産生能力、シデロフォアの産生能力、シアン化水素の産生能力、エチレンの生合成阻害能力、窒素固定能力および抗菌性物質の産生能力から成る群より選ばれる少なくとも1つ以上の能力を有する細菌であることが好ましく、より好ましくは2つ以上、さらに好ましくは3つ以上、最も好ましくは7つの能力を有する細菌である。
【0068】
(土壌改良剤)
本発明の一実施形態として、本発明の抗菌性抽出物、抗菌組成物、本発明の細菌もしくはその変異体またはそれらの培養物を含む、土壌改良剤(本明細書中、本発明の土壌改良剤ともいう)を提供する。
本発明の細菌もしくはその変異体またはそれらの培養物は、植物に対する生長促進効果を有し、抗菌作用を有するため、土壌改良剤として使用することができる。本発明の抗菌性抽出物および抗菌組成物もまた抗菌作用を有するため、土壌改良剤として使用することができる。
本明細書において、土壌は、土耕栽培に用いる土等の固形培地、養液栽培等に用いる液体培地、または半流動培地を含む。本明細書中、土壌改良剤とは、土壌の、物理性または化学性を改良する作用を有する剤を指す。本発明の土壌改良剤は、土耕栽培用土壌、養液土耕栽培用土壌、および養液栽培(水耕栽培、噴霧耕、固形培地耕)用土壌のいずれにも使用され得る。
土壌改良の例としては、病原性の低い土壌への改良、生長促進作用を有する土壌への改良、防腐作用を有する土壌への改良などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0069】
所望の効果を有する限り、本発明の土壌改良剤により土壌を処理する方法は特に制限されない。例えば、本発明の土壌改良剤を土壌に直接混和してもよく、本発明の土壌改良剤を水等に懸濁した後に潅注処理してもよい。養液栽培または水耕栽培の場合、本発明の土壌改良剤を培養液または水耕液へ直接添加してもよい。本発明の一実施形態において、あらかじめ本発明の土壌改良剤により土壌を処理し、その後本発明の土壌改良剤を除去した土壌を、植物の栽培に使用することもできる。土壌改良剤の除去は、例えばろ過膜によるろ過等によって行われ得るが、所望の効果を有する限りこれに限定されない。
本発明の一実施態様において、本発明の土壌改良剤により、養液栽培用の液体培地を処理することにより、細菌および酵母以外の真菌に対する防腐効果を液体培地に与えることができる。
【0070】
本発明の土壌改良剤を用いて土壌改良を行う場合には使用土壌約5リットルあたり散布が液体であれば、100〜500ml適用することが好ましく、その菌体濃度は散布液体1mlあたり通常10
3〜10
9cfu、好ましくは10
4〜10
8cfuである。
【0071】
本発明の土壌改良剤を散布するタイミングは、所望の効果を有する限り特に制限されず、植物の播種前、植物の育種中などの任意のタイミングで使用することができる。
本発明の土壌改良剤の施用頻度に対しては特に制限はない。
【0072】
本発明の種子消毒剤、本発明の土壌改良剤、本発明の農薬または本発明の植物生長促進剤は、所望の効果を損なわないものであれば、粉剤、粒剤、水和剤、顆粒水和剤(ドライフロアブル)、フロアブル剤(懸濁剤)、乳剤、エマルション、マイクロカプセル剤などの様々な剤形で提供され得る。
【0073】
本発明の種子消毒剤、本発明の土壌改良剤、本発明の農薬または本発明の植物生長促進剤は、所望の効果を損なわないものであれば、有効成分に加え、担体を含んでも良い。使用できる担体としては、農薬または種子消毒剤に常用されるものであれば、固体または液体のいずれでも使用でき特定のものに限定されるものではない。
固体担体としては、鉱物系担体(クレー、タルク、炭酸カルシウム、けいそう土、ゼオライト、ベントナイト、酸性白土、活性白土、アタパルガスクレー、バーミキュライト、パーライト、軽石、珪砂、シリカ、ホワイトカーボン、二酸化チタンなど)、植物系担体(木質粉、トウモロコシ茎(穂軸)、クルミ殻(堅果外皮)、果実核、モミガラ、オガクズ、ふすま、大豆粉、粉末セルロース、デンプン、デキストリン、糖類(グルコース、マルトース、ラクトース、シュークロースなど)などの不活性な粉体または粒状物、寒天などの水溶性高分子ゲルなどや塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、尿素−アルデビド樹脂などの種々のポリマー粉末)などが挙げられる。
また、液体担体としては、水、アルコール類、多価アルコール類、多価アルコール誘導体類、ケトン類、エステル類、含窒素担体類、油脂類などが挙げられ、具体的には、エタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレン系グリコールエーテル、シクロヘキサノン、γ―ブチロラクトン、脂肪酸メチルエステル(ヤシ油脂肪酸メチルエステル)、二塩基酸メチルエステル(コハク酸ジメチルエステル,グルタミン酸ジメチルエステル、アジピン酸ジメチルエステル)、N―アルキルピロリドン、ヤシ油、大豆油、菜種油などが挙げられる。
【0074】
本発明の種子消毒剤、本発明の土壌改良剤、本発明の農薬または本発明の植物生長促進剤は、所望の効果を損なわないものであれば、界面活性剤、乳化剤、粉砕助剤、結合助剤、滑助剤、溶解助剤、懸濁分散助剤、粉末化助剤、液性調整剤、増粘剤、崩壊分散剤、酸化防止剤、拡展剤、展着剤、湿潤剤、安定化剤、乾燥剤、紫外線吸収剤、ドリフト防止剤、アジュバント、物理性改良剤、有効成分安定化剤または凍結防止剤などを含んでも良い。
また、本発明の種子消毒剤、本発明の土壌改良剤、本発明の農薬または本発明の植物生長促進剤には、有効成分に加え、他の殺菌成分、殺虫成分、植物生育調節成分が含まれていてもよい。
【0075】
さらに、本発明は、本発明の細菌またはその変異体、ならびにセルロースおよび/またはデンプンを含む、組成物を提供する。
【0076】
本発明の組成物に含まれるセルロースおよび/またはデンプンとしては、セルロースおよび/またはデンプンを含有するものであればいかなるものも使用可能である。食用農作物の価格の高騰を防ぐ観点から、食料供給と競合しないセルロースおよび/またはデンプン原料を使用するのが好ましい。食料供給と競合しない原料としては、農作物の非可食部分(例えば、サトウキビ搾汁後のバガス、稲藁等のソフトセルロース、トウモロコシの茎)や木質廃材が好適な例として挙げられる。また、食用価値の低い農作物(例えば、規格外農産物、資源作物、大麦、および食品廃棄物等)も、原料として好適に用い得る。入手しやすさの観点から、大麦粉末、コーンスターチ等の市販のデンプン原料や、結晶性セルロース等の精製品も好適に使用し得る。本発明の組成物中のセルロースおよび/またはデンプンの含有量は、セルロース原料の種類、デンプン原料の種類、該組成物の使用目的等に応じて適宜設定することができる。
【0077】
本発明の組成物に含まれる微生物の含有量は、その使用目的等に応じて適宜設定することができる。
【0078】
本発明の組成物は、本発明の細菌またはその変異体、ならびにセルロースおよび/またはデンプンを有効成分として含むものであれば、さらに、所望の効果を損なわないその他の多糖、オリゴ糖、糖タンパク質、ペプチド、タンパク質、核酸、脂質、無機化合物、有機化合物、およびミネラルなどの成分を含有してもよい。また、該組成物は、所望の効果を損なわないものであれば、希釈剤、賦形剤、安定化剤、保存剤などの生理学的に許容される担体を更に含んでいてもよい。
【0079】
本発明の組成物は、後述する、本発明のセルロースおよび/またはデンプン分解物の製造方法、ならびに本発明のエタノール製造方法に好適に用いることができる。
【0080】
本発明の組成物は、さらに酵母を含有し得る。本明細書中、「酵母」は、アルコール発酵を行うことのできる酵母を意味し、好ましい例としては、Saccharomyces cerevisiae、Schizosaccharomyces pombe、Saccharomyces pastrianus、Saccharomyces carlsbergensis、Saccharomyces uvarum、およびSaccharomyces bayanusが挙げられる。当該酵母を含む本発明の組成物は、後述する、本発明のエタノールの製造方法に好適に用いることができる。
【0081】
本発明の組成物を、細菌が生育可能な適切な条件下でインキュベートすることによって、セルロースおよび/またはデンプンの分解が進み、結果としてグルコース、セロビオース、マルトース、および3糖〜6糖のオリゴ糖等を得ることができ、さらに酵母によるアルコール発酵に供することで、エタノールを製造することができる。本発明の細菌またはその変異体は、広範な微生物に対して抗菌活性を示すため、コンタミネーションを抑制しつつセルロースおよび/またはデンプンの分解を行うことが可能で、かつ、酵母に対しては抗菌活性を示さないので、該分解工程後の糖溶液をそのままアルコール発酵に使用可能である。従って、本発明は、本発明の細菌またはその変異体、酵母、ならびにセルロースおよび/またはデンプンを含む、エタノール製造用キットも提供し、該キットを用いれば、効率的にエタノールを製造することができる。
【0082】
一態様において、本発明は、本発明の細菌またはその変異体を、セルロースおよび/またはデンプンを含有する培地中で培養することを含む、セルロースおよび/またはデンプンの分解物の製造方法を提供する。この培養を行うことで、本発明の細菌またはその変異体によってセルロースおよび/またはデンプンが糖化され、培地中にグルコース、セロビオース、マルトース、および3糖〜6糖のオリゴ糖などの分解物が生じる。
【0083】
当該製造方法における、本発明の細菌またはその変異体の定義、好ましいセルロースおよび/またはデンプン原料については上記に準じる。
【0084】
当該製造方法における培養の方法は、本発明の細菌またはその変異体によるセルロースおよび/またはデンプンの糖化が可能であれば特に制限されない。使用し得る培地としては、例えば、M9培地(最少培地)、BHI培地、2YT培地、YPD培地、AM3培地、LB培地等が挙げられる。培養温度は、好ましくは10〜40℃、より好ましくは28〜37℃であり、最も好ましくは37℃であり、培地は、好ましくは、pH3〜10に調節される。培養時間や培養スケールなどは、当該培養によって得られる分解物の使用目的等に応じて適宜設定することができる。
【0085】
「セルロースおよび/またはデンプンの分解物」は、セルロースの分解物、デンプンの分解物、またはこれら分解物の混合物を意味する。当該製造方法によって得られる分解物の糖鎖の大きさは特に限定されないが、例えば、単糖であるグルコース、二糖であるセロビオースおよびマルトース、3〜6糖のオリゴ糖等が挙げられる。該分解物は、好ましくはグルコースである。
【0086】
さらに、本発明は、
(a)本発明の細菌またはその変異体を、セルロースおよび/またはデンプンを含有する培地中で培養することにより、セルロースおよび/またはデンプンをグルコースに変換する工程、
(b)(a)で得たグルコースを含む培地中で、酵母を培養することにより、グルコースをエタノールに変換する工程、
を含むエタノールの製造方法を提供する。
【0087】
上記(a)の工程における、本発明の細菌またはその変異体の定義、好ましいセルロース原料およびデンプン原料、好ましい培地および培養方法は上記に準じる。培養時間については、少なくとも、セルロース原料およびデンプン原料をグルコースにまで分解し、必要量のグルコースを得るのに要する時間であることが好ましい。当該培養時間は、使用するセルロース原料およびデンプン原料の種類や量、培養スケール等に応じて適宜設定可能である。
【0088】
上記(b)の工程において用いられる酵母は、アルコール発酵を行うことのできる酵母であれば特に制限されないが、好ましくは、Saccharomyces cerevisiae、Schizosaccharomyces pombe、Saccharomyces pastrianus、Saccharomyces carlsbergensis、Saccharomyces uvarum、およびSaccharomyces bayanusである。
【0089】
該酵母の培養は、アルコール発酵に適した条件で行われるのであれば、特に制限されないが、例えば、酵母を増殖させる必要がある場合の培養温度は10〜40℃、好ましくは28℃であり、発酵を行う際の温度は10〜30℃、好ましくは15〜25℃、より好ましくは15℃であり得る。また、培地のpHは、好ましくはpH3〜10、より好ましくはpH4.9に調節し得る。使用し得る培地の種類は上記に準じる。
【0090】
上記(a)および(b)の工程は、同時に行うことも可能である。即ち、本発明は、本発明の細菌またはその変異体、および酵母を、セルロースおよび/またはデンプンを含有する培地中で培養する工程を含む、エタノールの製造方法も提供する。
【0091】
本発明のエタノールの製造方法においては、デンプン原料のα化をしなくてもデンプン原料の糖化を効率的に行うことができるため、原料の前処理を簡略化することができる。また、本発明の細菌は広範な微生物に対し抗菌活性を示すことから、原料の滅菌処理を省いたとしてもコンタミネーションを抑制しつつ原料の糖化を行うことが可能で、滅菌処理に要する大きなエネルギーを節約することができる。従って、本発明のエタノールの製造方法は、原料の前処理や滅菌処理の工程を省略し、低コストかつ低環境負荷型のエタノール製造方法を提供することができる。一方で、本発明の細菌またはその変異体は、酵母に対しては抗菌活性を示さないので、糖化処理後の培養液をそのまま酵母によるアルコール発酵に使用するか、あるいは本発明の細菌またはその変異体と酵母とを共培養し、原料の糖化処理とアルコール発酵を同時進行で行うことも可能である。
【0092】
上記方法により製造されたエタノールは、当業者に公知の方法により精製し、燃料等の所望の用途に使用することができる。
【0093】
他の態様において、本発明は、アセトニトリルを用いた抽出または低級アルコールを用いた抽出によって、本発明の細菌またはその変異体の抽出物を得る工程を含む、抗菌性抽出物の製造方法を提供する。
【0094】
当該方法は、例えば、本発明の細菌またはその変異体を含む培養液を遠心分離に供し、該細菌をペレットにし、アセトニトリルまたは低級アルコールに該細菌を再懸濁した液を抗菌性抽出物とすることができ、あるいは、アセトニトリルまたは低級アルコールに懸濁した後にさらに遠心分離に供し、その上清を抗菌性抽出物とすることもできる。アセトニトリルを用いた抽出および低級アルコールを用いた抽出は単独で行ってもよいし、あるいは連続して行ってもよい。連続して行う場合は、アセトニトリル抽出および低級アルコール抽出のいずれを先に行ってもよい。
【0095】
当該方法により得られた抗菌性抽出物は、広範囲の細菌および酵母以外の真菌に対し抗菌活性を示す。該細菌および酵母以外の真菌については上記に準じる。よって、該抗菌性抽出物は、農薬や医薬品等に好適に使用し得る。
【0096】
当該抗菌性抽出物が農薬として使用される場合、対象となる農作物としては、例えば、イネ、大麦、トマト、スイカ、キュウリ、イチゴ、サトイモ、大豆、小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、インゲンマメ、エンドウ、ラッカセイ、テンサイ、サトウキビ、ナス、ピーマン、メロン、カボチャ、ダイコン、ハクサイ、キャベツ、コマツナ、タマネギ、ネギ、ニラ、ニンニク、アスパラガス、ゴボウ、レタス、シュンギク、ニンジン、ホウレンソウ、オクラ、リンゴ、ナシ、ウメ、ブドウ、カキ、イチジク、キウイなどが挙げられる。
【0097】
当該抗菌性抽出物が医薬品として使用される場合、ヒトおよび他の哺乳動物(例、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して、経口的または非経口的に安全に投与することができる。該医薬品は、細菌感染症および真菌感染症に対して治療効果を有し得る。当該感染症の具体例として、ブドウ球菌属の菌、連鎖球菌属の菌、腸球菌、エスケリキア属の菌、白癬菌、カンジダ症起因菌、クリプトコッカス症起因菌またはフザリウム属の菌に感染したことにより発症する感染症などが挙げられる。
【0098】
(防除方法)
本発明の一実施態様として、本発明は、本発明の抗菌性抽出物、抗菌組成物、本発明の細菌もしくはその変異体、またはそれらの培養物を含有する農薬(本明細書中、本発明の農薬ともいう)により植物を処理する工程を含む、細菌および酵母以外の真菌による病害の防除方法を提供する。使用する本発明の農薬の濃度、対象となる農作物、散布方法、使用頻度などは、本発明の農薬について記載したものに準ずる。
【0099】
(種子消毒方法)
本発明の一実施態様として、本発明は、本発明の抗菌性抽出物、抗菌組成物、本発明の細菌もしくはその変異体、またはそれらの培養物により、種子を処理する工程を含む、種子消毒方法を提供する。種子消毒の方法については、種子消毒剤について記載したものに準ずる。
【0100】
(植物生長促進方法)
本発明の一実施形態として、本発明の細菌もしくはその変異体またはそれらの培養物により植物を処理する工程を含む、植物生長促進方法を提供する。
方法については、植物生長促進剤について記載したものに準ずる。
【0101】
(土壌改良方法)
本発明の一実施形態として、本発明の抗菌性抽出物、抗菌組成物、本発明の細菌もしくはその変異体、またはそれらの培養物により土壌を処理する工程を含む、土壌改良方法を提供する。
土壌改良方法については、土壌改良剤について記載したものに準ずる。
【0102】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0103】
(実施例1)セルロース分解能およびデンプン分解能を有する新規微生物のスクリーニング
1.セルロース分解能を有する微生物の選別(
図1)
まず、稲藁の粉末を唯一の炭素源として含む最少培地を作製した。稲藁粉末は、稲藁をハサミで約3〜5cmの長さに切り、70℃の乾燥機で一週間程乾燥させた後、ミキサーで粉末状になるまで粉砕することで得た。7%稲藁培地は、100mLのM9培地(Na
2HPO
4;6g、KH
2PO
4;3g、NaCl;0.5g、NH
4Cl;1gを蒸留水に溶解し1Lとすることで作製した)、および7gの稲藁粉末をボトルに入れて、オートクレーブ(121℃、20分)し、冷却後に滅菌済みの100mM CaCl
2を1mLおよび1M MgSO
4を1mL添加することで作製した。
稲藁培地に、福井県内外の40箇所よりサンプリングされた土壌を加え、セルロース分解能を有する微生物を同定すべく集積培養を繰り返した。該土壌に含まれる酵母は、セルロースの分解により生成したグルコースを利用して発酵し、二酸化炭素を発生するため、二酸化炭素の発泡を指標に目的とする微生物を濃縮した(
図1A)。
さらに、コンゴレッドとカルボキシメチルセルロース(CMC)を添加した寒天培地上に微生物を播種し、溶解斑の大きさを指標に微生物の選抜を行った(
図1B)。
こうして、高いセルロース分解能を有する微生物を選別した。
【0104】
2.デンプン分解能を有する微生物の選別(
図2)
蒸留水1Lと六条大麦粉末(福井大麦倶楽部、石挽、βg)50gを混合した溶液にサンプリング土壌約300gを添加して混ぜ、室温(約23℃)で4日間静置培養した。六条大麦粉末10gと蒸留水200mLを混合し、乳酸を使用してpHを2.5〜3.0に調整した培地を新たに作製し、前記培養液を5mL添加し、50℃で3日間静置培養した。培地のpHを低くすることによって雑菌の繁殖を抑え、培地の腐敗を防ぐことができる。その後、100μLの培養液を、6.25%(w/v)六条大麦液体培地(0.5gの六条大麦と蒸留水8mLを混合し、121℃で20分間オートクレーブすることで作製した)(約pH5.6)の入った試験管に添加した(
図2、1次スクリーニング)。
デンプン分解酵素(アミラーゼ)を産生する微生物は、デンプンの分解産物である二糖(マルトース)の資化性(代謝能力)が高いと考え、マルトースを唯一の炭素源とする最少寒天培地上での増殖速度を指標にし、大きなコロニーを形成する微生物を選抜した(
図2、2次スクリーニング)。マルトース含有寒天培地は、6gのNa
2HPO
4、3gのKH
2PO
4、0.5gのNaCl、1gのNH
4Cl、15gのAgarを蒸留水500mLに溶解後、121℃で20分間オートクレーブし、冷却後に別個に滅菌した、20gマルトース水和物を溶解した500mLの水溶液、100mM CaCl
2を1mL、および1M MgSO
4を1mL混合し、シャーレに流入することで作製した。
さらに、デンプン質を豊富に含んでいる六条大麦粉を添加した最少寒天培地上で、溶解斑の大きさを指標にし、デンプン糖化能の高い微生物を選抜した(
図2、3次スクリーニング)。六条大麦寒天培地への植菌の際は、なるべく形状の異なるコロニーを選択して植菌した。六条大麦寒天培地は、6gのNa
2HPO
4、3gのKH
2PO
4、0.5gのNaCl、1gのNH
4Cl、20gの六条大麦粉末、15gのAgarを蒸留水1Lに溶解後、121℃で20分間オートクレーブし、冷却後に別個に滅菌した、100mM CaCl
2を1mL、および1M MgSO
4を1mL混合し、シャーレに流入することで作製した。
3次スクリーニングで溶解斑を形成したシングルコロニーをそれぞれ2YT液体培地(Polypepton 16g、Yeast Extract 10g、およびNaCl 5gを蒸留水に溶解し、NaOHでpH7.5に調整後、蒸留水を加え1Lとし、121℃で20分間オートクレーブすることで作製した)5mLに植菌し、一晩前培養を行った。1%(w/v)コーンスターチを含有するM9液体培地10mLに、前培養液20μLを混合し、28℃、150rpmで4日間振とう培養した。その後、培養液を15000rpmで5分間遠心し、培養上清20μLをグルコース迅速比色定量法(Anal.Sci.,29(11),1021−5)に供し、デンプンをグルコースに効率的に分解することができる微生物を同定した(
図2、4次スクリーニング)。
【0105】
(実施例2)セルロース分解能およびデンプン分解能を有する新規微生物の同定試験
興味深いことに、上記のようにして選別された、高いセルロース分解能を有する微生物、および高いデンプン分解能を有する微生物は同じエリアからサンプリングされたものであった。そこで、両微生物の属(genus)を決定するために、16S rRNA遺伝子(約1.5kb)の塩基配列を利用して分子系統解析を行ったところ、これら微生物の16S rRNA遺伝子の塩基配列は100%一致した。さらに、両微生物の結晶性セルロース分解能、デンプン分解能、生理学的性質、生化学的性質、および形態学的特徴を比較した結果、これら微生物が同一の微生物であることが判明した。以下に、該微生物の特徴を列記する。
・細胞形態は桿状で周鞭毛を持ち、活発な運動性を有する。
・コロニーは白色に近いクリーム色を呈する(培地により多少異なる)。
・アミラーゼを産生する。
・グルカナーゼを産生する。
・細菌および真菌類に対する抗生物質を産生する。
・ゼラチンを加水分解しない。
・硝酸塩を還元しない。
また、16S rRNA遺伝子の塩基配列を利用した分子系統解析の結果を
図3に示す。分子系統解析の結果、当該微生物はPaenibacillus属の微生物であり、Paenibacillus属の基準株(type strain)であるAJ320493やAJ271157、AB680894、AF391123と遺伝子クラスターを形成していることが明らかになった(
図3)。当該微生物は、ゼラチン分解能および硝酸塩還元能を有していない点で前記近縁種とは異なることから、当該微生物をPaenibacillus属の新種細菌と同定し、FPU−37株と命名した。
【0106】
(実施例3)FPU−37株の糖質分解酵素の同定
次世代シーケンサー(Illumina Hiseq)によるゲノムドラフト解析を行った結果、FPU−37株のゲノムサイズは約5.9Mbpであり、細菌としては比較的大きなゲノムサイズを有することが明らかとなった。すでにPaenibacillus属で報告されている既知のセルラーゼ、アミラーゼおよびα−グルコシダーゼの遺伝子配列に基づいて、FPU−37株のゲノム上に存在しているこれら遺伝子配列の相同性検索を行ったところ、それぞれ1種類の遺伝子がヒットした。
FPU−37株のセルラーゼ遺伝子(配列番号1)は、Paenibacillus polymyxaのβ−1.4−グルカナーゼと高い相同性を示し、糖質加水分解酵素(Glycoside Hydrolases;GH)のファミリー5に分類される触媒ドメイン(GH5)、N末端側に分泌シグナル配列、およびC末端側に糖質結合モジュールであるcarbohydrate−binding module(CBM)のファミリー3(CBM3)ドメインを有することが明らかとなった。
FPU−37株のアミラーゼ遺伝子(配列番号3)は、パエニバチルス・ポリミクサのβ/α−アミラーゼと高い相同性を示し、N末端側に分泌シグナル配列を有していた。さらに、該アミラーゼ遺伝子は、N末端側にβ−アミラーゼの触媒ドメイン(GH14)および2つのCBM25を有し、C末端側にはα−アミラーゼの触媒ドメイン(GH13)およびCBMの一種であるAamy−Cモジュールを有することが明らかとなった。よって、FPU−37株のアミラーゼ遺伝子は、α−アミラーゼ活性およびβ−アミラーゼ活性の両方を有すると考えられる。
また、FPU−37株のα−グルコシダーゼ遺伝子(配列番号5)は、糖質分解酵素ファミリー31(GH31)に分類される酵素であることが明らかとなった。
【0107】
(実施例4)FPU−37株のセルラーゼ、アミラーゼおよびα−グルコシダーゼの局在と発現誘導
1.FPU−37株のセルラーゼの局在と発現誘導
(1)BHI培地(3.7gのBHIを蒸留水で溶解し100mLとした後、オートクレーブ滅菌(121℃、20分)することで作製した)のみ、および(2)1%(w/v)スターチ、(3)1%(w/v)結晶性セルロース、または(4)1%(w/v)Fusarium粉末を添加したBHI培地100mLをそれぞれ作製した。
BHI液体培地20mL中、37℃で1日振とう培養したFPU−37の前培養から、上記(1)〜(4)の培地にそれぞれ5mLずつ培養液を添加し、37℃で3日間旋回培養した。その後、これら培養液から1.5mLずつをチューブに移し、遠心分離(15000回転、5分間)を行い、上清を新しいチューブに移した。該上清を以下の酵素反応に使用した。
氷上にて、1.5mLチューブに基質溶液(p−Nitrophenyl−β−D−Glucoside(PNP−Glu)またはp−Nitrophenyl−β−D−Cellobioside(PNP−(Glu)
2))40μL、緩衝液(クエン酸緩衝液(pH5.6))30μL、および酵素液(上記で得られた上清)30μLを加え、反応液を作製した。ネガティブコントロールとして、反応液を反応させず直ちに反応停止液(0.2M水酸化ナトリウム溶液)200μL添加したものを作製した。反応液は37℃で3時間反応させ、反応後直ちに氷上に移し、反応停止液を200μL添加し反応を停止させた。
その後、96ウェルプレートに反応液を200μL/wellとなるように移し、吸光プレートリーダーで405nmでの吸光度を測定した。
結果を
図4に示す。結晶性セルロースを添加して培養した培養上清でのみセルラーゼ活性が認められたことから、FPU−37株のセルラーゼはセルロースにより発現誘導されることが明らかとなった。また、セルラーゼ活性の局在を調べたところ、該活性は、培養上清のみに認められた(
図4B)。これらの結果より、FPU−37株のセルラーゼは、セルロースにより発現誘導され、細胞外へ分泌されることが明らかとなった。
【0108】
2.FPU−37株のアミラーゼの局在と発現誘導
2YT、2YT+3%(w/v)可溶スターチ液体培地それぞれ20mL中において、30℃、120rpmでFPU−37株を3日間振とう培養した。その後、それぞれの培養液から2mLずつ分注し、15000rpm、5分間遠心分離し、上清を新しいチューブに移した。沈殿している菌体に対して、懸濁用緩衝液(MES緩衝液(48mL,1M,pH6.2)、EDTA2Na(20mM)、ウシ血清アルブミン(10mg/mL,0.2%(w/v)アジ化ナトリウムを含む)を蒸留水で500mLとすることで作製した)をそれぞれ2mLずつ加え、ボルテックスして沈殿を懸濁し、15000rpmで5分間遠心分離し、上清を廃棄した後、さらに15000rpmで1分間遠心分離し、上清を廃棄し、懸濁用緩衝液をそれぞれ2mLずつ加えボルテックスで沈殿を懸濁することで、菌体懸濁液を得た。
α−アミラーゼ測定キット(キッコーマンバイオケミファ株式会社)を使用して、2YT培地または2YT+3%(w/v)可溶スターチ培地から得られた、上記培養上清と菌体懸濁液のα−アミラーゼ活性を測定した(
図5A)。α−アミラーゼ活性は、FPU−37株の培養上清(
図5A、培養上清)において認められ、菌体懸濁液(
図5A、菌体画分)では活性が低かった。さらに、可溶スターチを添加した培養上清(
図5A、培養上清、デンプン+)において、添加しないもの(
図5A、培養上清、デンプン−)と比べ、α−アミラーゼの活性が顕著に高いことから、デンプンの添加によりα−アミラーゼの発現が誘導されたことを確認した。
BETA−AMYLASE BETAMYL−3 ASSAY KIT(MEGAZYME)を使用して、2YT培地または2YT+3%(w/v)可溶スターチ培地から得られた、上記培養上清と菌体懸濁液のβ−アミラーゼ活性を測定した(
図5B)。β−アミラーゼ活性は、培地に可溶スターチを添加したFPU−37株の培養上清(
図5B、培養上清、デンプン+)において強く認められ、培地に可溶スターチを添加していないFPU−37株の培養上清(
図5B、培養上清、デンプン−)において弱いながらも認められ、菌体懸濁液(
図5B、菌体画分)では活性が低かった。さらに、可溶スターチを添加した培養上清(
図5B、培養上清、デンプン+)において、添加しないもの(
図5B、培養上清、デンプン−)と比べ、β−アミラーゼの活性が顕著に高いことから、デンプンの添加によりβ−アミラーゼの発現が誘導されたことを確認した。
【0109】
3.FPU−37株のα−グルコシダーゼの局在
2YT+3%(w/v)可溶スターチ液体培地10mL中において、30℃でFPU−37株を3日間振とう培養した。その後、培養液を15mL容量のチューブに移し、8000rpm、10分間遠心分離し、上清を新しいチューブに移した。沈殿している菌体に、PBS緩衝液(NaCl 8g/L, KCl 0.2g/L, Na
2HPO
4×12H
2O 2.9g/L, KH
2PO
40.24g/L)を10mL加え、ボルテックスして菌体を洗浄した。この菌体懸濁液を8000rpmで10分間遠心分離し、上清を廃棄した後、さらに8000rpmで1分間遠心分離し、上清を完全に廃棄した後、PBS緩衝液を10mL加え、ボルテックスで沈殿を懸濁することで、菌体懸濁液を得た。菌体液の1mLを別のチューブに移し、残りの菌体液に1mg/mLとなるように溶菌酵素リゾチームを添加し、30℃で30分間反応後、超音波破砕を行い、15000rpmで10分間遠心分離し、その上清を細胞溶解液として用いた。
培養前の培地(コントロール)、培養上清(細胞外画分=分泌酵素)、菌体懸濁液(菌体表層酵素)および細胞溶解液(菌体内酵素)のα−グルコシダーゼ活性は、サンプル0.5mLに対して等量の3%マルトース水溶液を加えて37℃で1時間反応後、グルコース迅速比色定量法(Anal.Sci.,29(11),1021−5)によりグルコースの生成を指標に測定した。その結果、α−グルコシダーゼ活性は、細胞溶解液においてのみ検出された。
以上の結果より、FPU−37株のα−アミラーゼおよびβ−アミラーゼは、ともにデンプンの添加により発現誘導される菌体外酵素であり、α−グルコシダーゼは、細胞内に局在していることを確認した。
【0110】
(実施例5)FPU−37株が有する抗菌活性の解析
1.植物病原菌類に対する抗菌活性
本発明者らは、FPU−37株のスクリーニングの過程において、FPU−37株が周囲の微生物を排除する強力な抗菌活性を示すことを見出した。そこで、本発明者らは、農業上重要な植物病原菌類に対するFPU−37株の抗菌活性を対峙培養により確認した(
図6)。
AM3寒天培地上に、FPU−37株の培養液を40μLスポットしたペーパーディスクおよび何もスポットしていないペーパーディスクを置き、
図6に示す植物病原菌をそれぞれ植菌し、28℃で培養した。
FPU−37株は、いずれの植物病原菌に対しても強い抗菌活性を有することが示された。
2.抗菌性物質の局在と誘導
1%(w/v)結晶性セルロースを含有するBHI培地中で、FPU−37株を3日間培養した500mLの培養液を遠心分離(8000rpm、10分間)し、その上清を1mL取ってフィルター滅菌し、培養上清サンプルとした。残りの上清は廃棄し、菌体にPBSを20mL加えて再懸濁した。該菌体懸濁液を遠心分離(6000rpm、15分間)し、菌体量の5倍量のアセトニトリル(例:菌体1mgに対してアセトニトリル5μL)を加え再懸濁した。その後、懸濁液を撹拌し(145rpm、30分間)、遠心分離(6000rpm、15分間)し、上清を採取し、さらに該上清を遠心分離(8000rpm、5分間)し、その上清を採取した。当該上清をアセトニトリル抽出画分とした。
キュウリ病原菌(Fusarium oxysporum f.sp.cucumerinum)に対する抗菌活性を確認したところ、培養上清、培地のみ、およびコントロール(アセトニトリルのみ)においては、抗菌活性が確認されず、アセトニトリル抽出画分のみが抗菌活性を示した(
図7A)。この結果は、FPU−37株が産生する抗菌性物質が培養上清には分泌されず、菌体に付着していることを示している。
また、上記抗菌活性は、結晶性セルロースまたは真菌細胞壁(1%(w/v)Fusarium粉末)を含有する培地でFPU−37株を培養したときに誘導されることが明らかとなった(
図7B)。
3.アセトニトリル抽出画分およびブタノール抽出画分の抗菌活性の解析
上記と同様の方法によりアセトニトリル抽出画分を得た。また、アセトニトリルの代わりにブタノールを使用すること以外は同様の方法によって、ブタノール抽出画分を得た。これら抽出画分の微生物に対する抗菌活性を解析した。
黄色ブドウ球菌、フザリウム属の菌、および酵母(公益財団法人 日本醸造協会、協会901号酵母を使用)に対する抗菌活性を確認したところ、アセトニトリル抽出画分はフザリウム属の菌のみに対して、ブタノール抽出画分は黄色ブドウ球菌のみに対して抗菌活性を示した(
図8A)。従って、FPU−37株は、少なくとも2種類の抗菌性物質を産生することが示唆された。また、該抗菌性物質は、酵母に対しては抗菌活性を示さないことが明らかとなった。この性質は、FPU−37株と酵母を共培養することを可能とし、セルロース原料および/またはデンプン原料から簡便かつ効率的にエタノールを製造することを可能にする。
さらに、ブタノール抽出画分の抗菌スペクトルを確認したところ、グラム陽性菌とグラム陰性菌の両方に広く抗菌活性を示すことが明らかとなった(
図8B)。
【0111】
(実施例6)FPU−37および酵母を用いたエタノール製造
FPU−37株はデンプンを効率よく糖化可能であり、酵母以外の広範な微生物に対し抗菌活性を示す強力な抗菌性物質を産生するので、この特徴を利用して、アミラーゼによるデンプン糖化に必要な原料のα化処理と滅菌処理を行わずに、デンプンを豊富に含む六条大麦粉をそのまま唯一の炭素源として用い、FPU−37株および酵母(協会酵母901号)による並行複発酵行った(
図9)。
六条大麦粉70gとM9培地100mLを混合し、乳酸でpHを4.9に調整しオートクレーブによる滅菌をせずに発酵培地として用いた。FPU−37株を2YT培地400mL中で2日間(28℃)培養し、5000rpmで15分間遠心分離し、上清を廃棄し、乳酸でpHを4.9に調整したM9培地10mLを加え、菌体を懸濁し、該懸濁液10mLを上記発酵培地へ加えた。その後、25℃の恒温槽中で2日間糖化処理を行った。YPD培地400mL中で2日間振とう培養(28℃)した協会酵母901号を、5000rpmで12分間遠心分離し、上清を廃棄し、乳酸でpHを4.9に調整したM9培地5mLを加え、菌体を懸濁し、該懸濁液5mLを上記糖化処理後の発酵培地へ加えた。15℃の恒温槽中で、静置培養発酵を40日間行った。発酵液を数日おきに採取し、MilliQ水で100倍希釈し、ガスクロマトグラフィーを使用してエタノール濃度を測定した。
図9に示すように、発酵培地中のエタノール濃度は、発酵開始から19日間大きく上昇し、19日目以降は上昇が緩やかとなった。FPU−37株を加えていない発酵培地においてもエタノール濃度の上昇が見られるが、これは六条大麦粉を加熱せずにそのまま使用したため、大麦由来のアミラーゼが失活せずに機能したためと考えられる。尚、オートクレーブ処理でα化した六条大麦粉を使用し、FPU−37株を発酵培地に加えなかった場合は、発酵培地に酵母を加えてもエタノールが検出されないことを確認している。また、FPU−37株が産生するα−グルコシダーゼは細胞内に局在するが、FPU−37株は溶菌しやすい細菌であるため、溶菌により培養液中にα−グルコシダーゼが放出され、FPU−37のアミラーゼにより産生されたマルトースをさらにグルコースに分解し、該グルコースから酵母がエタノールを産生したものと考えられる。
発酵開始40日目で、FPU−37株を使用した場合の産生されたエタノールの濃度は4.8%で、FPU−37株を使用しなかった場合は、3.8%であった(
図9)。よって、FPU−37株を用いることで、原料のα化処理および滅菌処理を行わずとも、効率的にエタノールを製造できることが示された。
【0112】
(実施例7)FPU−37株の種子消毒(雑菌抑制)効果
種子消毒は、育苗期に発生する多くの病害を防ぐために重要な処理である。種子消毒には農薬が主に使用されているが、消費者の食に対する安全性意識の向上から、最近では農薬や化学肥料を使用しない有機栽培が消費者から歓迎されている。また、生産者にとっても農作物の付加価値が向上するため、その生産量は年々増加している。農薬としてカウントされない有機栽培農法に使用できる種子消毒方法は、温湯消毒と微生物農薬(エコホープ、タフブロック)の2種類に限られている。しかしながら、温湯消毒は温度管理が難しく、正確に熱処理を行うためには特別な装置が必要である。一方、微生物農薬は適用できる作物の範囲が狭く、イネを中心に使用されている。そこで、広い抗菌スペクトルを持つFPU−37株は、イネ以外(トマト、レタス、コマツナ、キャベツ、ホウレンソウ、球根、種芋など)にも使用できる種子消毒剤として使用できるのではないかと考え、トマトの種子を用いて種子消毒試験を行った。
試験は、実際に種子に付着している微生物に対するFPU−37株の効果を明確に判定できるように、無菌の寒天培地上で行った。培地はMurashige and Skoog Plant Salt Mixture(4.6 g/L、和光純薬 392−00591)を用い、植物と微生物の両方が増殖できるように酵母エキス(5g/L)およびグルコース(5g/L)、寒天(15g/L)をさらに添加した(MSYG培地)。寒天培地は、オートクレーブ滅菌後にシャーレに分注した。雑菌の増殖を抑制するために使用した抗生物質(ストレプトマイシン)は、オートクレーブ滅菌後に50℃程度にまで温度が下がってから100μg/ml濃度となるように添加した。トマトの種子は、そのままMSYG培地または抗生物質含有MSYG培地の上に各60個ずつを置いて発芽させた。FPU−37株の種子消毒(雑菌抑制)効果では、FPU−37株の一晩培養液1mL(2x10
8CFU/mL)に種子を含浸させてからMSYG培地の上に置いて発芽させた。
【0113】
【表1】
【0114】
種子消毒せずにMSYG培地上に置いて発芽させたトマトの種は、その多くが種子の周囲に雑菌が大量に繁殖して出芽しなかった(発芽率18%)。一方、抗生物質含有MSYG培地では、雑菌の繁殖が抑えられることにより高い発芽率(92%)となり、種子消毒の重要性が実感できる結果となった。FPU−37株を含浸させた種子においても、雑菌の繁殖が良く抑えられており、83%という高い発芽率であった。以上の結果から、FPU−37株は雑菌の繁殖を抑えて発芽率を高める効果があると考えられる。また、土壌改良剤(土壌殺菌)としても期待される。
【0115】
(実施例8)FPU−37株の生長促進効果
FPU−37株が植物の生長に与える効果を試験した。
FPU−37株がイネの生長に与える効果を試験するため、イネ(コシヒカリ)を2群に分けた。ハウス内において、半分にはFPU−37株の一晩培養液(2x10
8CFU/mL)を、残りの半分には培地のみを、潅水により育苗箱あたり50mLを一週間間隔で2回与えた。圃場に移して20日後の結果を
図10に示す。
FPU−37株を添加したイネは、培地のみを与えられたイネと比較して、生長が促進された。従って、FPU−37株の一晩培養液は、イネに対して生長促進作用を有することが示された。
次にFPU−37株がトマトの生長に与える効果を試験した。
トマト苗を4群に分け、それぞれに、FPU−37株の一晩培養液(2x10
8CFU/mL)、10−1株の一晩培養液(2x10
8CFU/mL)、1K−5株の一晩培養液(2x10
8CFU/mL)または培地のみを、潅水により根部に10mLづつ与えた。添加20日後の結果を
図11に示す。
FPU−37株を添加したトマトは、培地のみを与えられたトマトと比較して、生長が促進された。従って、FPU−37株の一晩培養液は、トマトに対して生長促進作用を有することが示された。その効果は、すでに生長促進作用が確認されている1K−5株や10−1株に匹敵するものであった。
FPU−37株は植物病原菌類等に対して強い抗菌活性を有しているが、大変興味深いことにイネやトマトなどの作物に対して生長促進効果を示すことを発見した(
図10および
図11)。そこで、FPU−37株の植物生長促進効果に関する分子機構の解明を目的として、生長促進に係わる各因子を解析した。
植物の生長促進効果に関与することが推定される表2に記載の因子について解析した。
【0116】
【表2】
【0117】
実施例8−1. 有機酸による難溶性リン酸塩の可溶化能力試験
31.3gのPikovskaya’Agar(HIMEDIA M520−500G)を1Lの水に溶解し、121℃で20分オートクレーブ後にシャーレに分注した。この寒天培地上でFPU−37株を28℃で1週間培養し、不溶性リンで白濁した培地に形成される透明な溶解斑を指標に難溶性リン化合物の可溶化能力を検定した。
【0118】
【表3】
【0119】
FPU−37株の菌体周辺に明確な溶解斑が形成され、難溶性リン化合物の可溶化能力が確認された(
図12)。
【0120】
実施例8−2. シデロフォアの産生試験
(1) Fe−CAS Indicator(10mM HClに溶解した1mM FeCl
3・6H
2O溶液10mLに対して、50mLのChrome Azurol S(TCI TG2VM−TS)水溶液(1.21mg/mL)と40mlのHDTMA(TCI 33H7B−RI)水溶液(1.82mg/ml)を混合して調製)60mL、(2)2YT−PIPES寒天培地(酵母エキス10g/L、ポリペプトン16g/L、NaCl 5g/L、PIPES(DOJINDO GB157)30.24g/L、寒天15g/L)1L、および(3)10%(w/v)カザミノ酸溶液 50mL、をそれぞれオートクレーブ滅菌後に混合し、シャーレに分注してシデロフォア検定培地を作成した。Chrome Azurol S−鉄錯体は青色に呈色するが、シデロフォアにより鉄が奪われると呈色は消失する。寒天培地上でFPU−37株を28℃で12日間培養して、Chrome Azurol S−鉄錯体に由来する青色の消失を指標にシデロフォアの産生を評価した。
シデロフォア検定培地上で明確な青色の消失が確認されたことから、FPU−37株のシデロフォア産生能力が確認された(
図13)。
【0121】
実施例8−3. シアン化水素(HCN)の産生分析
M9最少培地(表4)に寒天15g/Lおよび酵母エキス5g/L、グリシン5g/Lを添加して寒天培地を作成し、この寒天培地上に形成したコロニーを用いてシアン化水素の酸性能力を検定した。シアン化水素を検定するために検定紙は、0.5%(w/v)Picric Acid(2,4,6−Trinitrophenol)(Wako 207−08671)水溶液に、2%(w/v)になるようにSodium Carbonateを加えてフィルター滅菌し、Whatman Filter Paper(no.1)に含浸・風乾することで作成した(この状態で黄色)。
この検定紙(黄色)を寒天培地上に形成したコロニーの上に置き、黄色から褐色への変化を指標にHCN産生を評価した。この方法では、検定紙の色が黄色からオレンジ、赤、茶色に変化し、それぞれ低、中、高レベルのHCN産生を評価可能である。
結果を
図14に示す。検定紙が褐色に変色したことから、高いHCN産生能力を有していることが確認された。
【0122】
【表4】
【0123】
実施例8−4. キチン分解活性
キチンの分解活性は、キチン含有培地(0.5%(w/v)コロイダルキチンと0.5%酵母エキスを含むM9寒天培地)上での溶解斑形成を指標に評価した。また、ゲノム解析によりキチン分解酵素(キチナーゼ)遺伝子の存在についても確認した(
図15)。
キチン含有培地上においてハローが形成されなかったことから、FPU−37株はキチン分解能力のないと判定した。この結果は、ゲノム解析によりゲノム上にキチナーゼ遺伝子が存在しないことと一致する。
【0124】
実施例8 −5. インドール−3−酢酸(IAA)の産生試験
【0125】
【表5】
【0126】
KL培地に最終濃度0.1%となるようにトリプトファンを添加し、FPU−37株を植菌して28℃で3日間振盪培養した。菌体を遠心分離で除去した培養上清2mLに対して、2滴のオルトリン酸を滴下し、さらに4mLのSalkowski試薬(35%過塩素酸50mLに対して0.5M FeCl
3を1mL混合して調製)を加えて室温で30分間IAAを赤色に発色させ、530nmの吸光度を測定した。培養液の測定と同時にIAA標品で検量線を作成し、培養液中のIAA産生量を定量した。
測定の結果、FPU−37株が培養上清中に「8.41μg/mL」という高濃度のインドール−3−酢酸(IAA)を植物成長ホルモンとして産生していることを確認した。
【0127】
実施例8−6. ニトロゲナーゼ(フラボドキシン)の測定
ニトロゲナーゼ(フラボドキシン)は、窒素固定を行う細菌が持っている酵素であり、大気中の窒素をアンモニアに変換する反応を触媒する。ニトロゲナーゼ活性は、窒素源を含まない最少培地(KL培地から硫酸アンモニウムを除いた培地)での増殖能力を指標に評価した。また、ゲノム解析によりニトロゲナーゼ(フラボドキシン)遺伝子の存在についても確認した。
培養試験の結果、窒素源非含有培地での培養において、培養三日後にOD660における吸光度が0.65にまで達したため、FPU−37株には窒素固定能力があると判断した。さらに、ゲノム上に存在するニトロゲナーゼ(フラボドキシン)遺伝子(配列番号7)も確認した。
【0128】
[FPU−37株由来ニトロゲナーゼ(フラボドキシン)の塩基配列(配列番号7)]
ATGAACTTGGGTAAAATCATGATTGCTTATGCTAGCATGACCGGTAATACAGAGGAAATCGCGGAATTGATCGCCGAGGGTGTTCGTCAGGCAGGGCATGAGGCAGAGTTGAAGGCTTCGTATGATTGCAACGCGCAAGAATTGCTCGCATATGACGGATTCCTGTTGGGTGTATATACATGGGGAGATGGTGAGCTTCCTGATGAATTTTTAGATTTTTACGAGGAACTAGACGAGCTTGATCTGTCTGGTAAAAAGACTGCTGTATTTGGCAGTGGAGATACATCTTATACACAATTCTGTGGCGCAGTGGACTTGGTAGAGGGAAAAGTCAAAGAACGCGGCGCATCAGTCATTCAGGAGAGTTTGAAGATTGAATTCAATCCACTCGATGATGAGAAGGAGAATTGCCGAGCTTACGGAAGACAATTTGCGCAGGCTGGCATTGGAGTGTCCTGA
[FPU−37株由来ニトロゲナーゼ(フラボドキシン)のアミノ酸配列(配列番号8)]
MNLGKIMIAYASMTGNTEEIAELIAEGVRQAGHEAELKASYDCNAQELLAYDGFLLGVYTWGDGELPDEFLDFYEELDELDLSGKKTAVFGSGDTSYTQFCGAVDLVEGKVKERGASVIQESLKIEFNPLDDEKENCRAYGRQFAQAGIGVS
【0129】
実施例8−7. 1−アミノシクロプロパン−1−カルボン酸(ACC)デアミナーゼ活性の測定
エチレン生合成における前駆体であるACCの代謝による資化能力(ACCデアミナーゼは代謝酵素)を測定することにより、エチレンの合成阻害能力を評価した。具体的には、ACCを唯一の窒素源として含む最少培地(KL培地から硫酸アンモニウムを除いた培地)を作成し、その増殖能力を濁度として数値化することにより評価した。上述の試験により、FPU−37株は窒素固定能力を有することが明らかとなったため、実際にはACCの添加により増殖能力が高くなることでACC代謝能力を評価した。また、ゲノム解析により1−aminocyclopropane−1−carboxylate deaminase(ACC代謝酵素)遺伝子の存在についても確認した。
試験の結果、FPU−37株はACCの添加により増殖速度が増加したことから、ACC代謝能力があり、ACC代謝酵素を産生していると判断した。さらに、ゲノム上に存在する1−aminocyclopropane−1−carboxylate deaminase(ACC代謝酵素)遺伝子(配列番号9)も確認した。
【0130】
【表6】
【0131】
[FPU−37株由来1−aminocyclopropane−1−carboxylate deaminaseの塩基配列(配列番号9)]
ATGAACAGAATTTATCTGGATCATGCCGCATCGACTCCTATGCATCCTGAGGTTGCGCAGACTATGATGGATATCATGACCGGCCAATTCGGCAACGCTTCGAGCGTTCATGCCTTTGGCCGCGATGCCAAGCGCACCGTCAGCGCAGCGCGGGATGCCGTTGCGGCCTCTTTGGGCTGCAAGCCTGAAGAAATTATATTTACGAGCGGAGGGACAGAGAGTGATAATCTGGCCCTGTTTGGGACGGCTACGGCAGATGGTCGTACTTCCGGCCATATTATTACAACCGCGATTGAACATCACGCCGTGCTTCATGCTTGCGATGAGCTGGAAAAAGCAGGATACCAGGTGACCTATGTCCCAGTCAATGGTTTTGGGCGTGTGAATCCTGCGGACATTGAGGCAGCTATTCGCCCGGATACTTTTTTGATCAGCATGATGTATGCCAACAATGAGGTGGGCGTCATTCAGCCGGTCCAAGAAGTAGGACAGATTGCGAGAGAGCATGGAATTATATTTCATGTAGATGCAGTCCAAGCCTTCGGGCATATATCCATCGACTGCGGGAACCTCCCGATTGACTTACTTAGTGTGTCTGGCCATAAGATTAATGGACCGCAAGGAGTGGGTGCATTGTATATCCGTCAGGGTACACGCATTCAGCCGCTAATGCATGGGGGACTTCAGGAGAAGAAACGCCGTGCAGGAACAGAAAATATCGCCGGCATTGCTGGGCTGGCTAAAGCCGCAACTCTTGCCAATGCTTCCATTGAAGAGCGAGGAGCACACGATATGGCTCTTCGCCAAACGCTGCTAAAAGCGTTGGAAAACTCTCTGGGCAGTCATGAGTTTATAATCAATGGCGATCCTGAACATTTTGTGCCTAATGTGCTAAATATTAGCTTTCCAGCCATTGGTACAGAGACCATGCTGATGAATCTCGACATGGAAGGAATCGCAGCGGCCAGCGGATCAGCCTGCACTTCGGGGTCTCTAGAGCTATCGCATGTGTTGCAGGCGATGGATCTTCCTGAAGATGTTTTGAATTCAGCGATTCGATTTAGCTTCGGTTTGGGTAATACTACGGAAGAAATGGAATACACGGCCAAGAAAATTGAAACTATATGGAAGCGGCTGCGTACTAGGTACTAG
[FPU−37株由来1−aminocyclopropane−1−carboxylate deaminaseのアミノ酸配列(配列番号10)]
MNRIYLDHAASTPMHPEVAQTMMDIMTGQFGNASSVHAFGRDAKRTVSAARDAVAASLGCKPEEIIFTSGGTESDNLALFGTATADGRTSGHIITTAIEHHAVLHACDELEKAGYQVTYVPVNGFGRVNPADIEAAIRPDTFLISMMYANNEVGVIQPVQEVGQIAREHGIIFHVDAVQAFGHISIDCGNLPIDLLSVSGHKINGPQGVGALYIRQGTRIQPLMHGGLQEKKRRAGTENIAGIAGLAKAATLANASIEERGAHDMALRQTLLKALENSLGSHEFIINGDPEHFVPNVLNISFPAIGTETMLMNLDMEGIAAASGSACTSGSLELSHVLQAMDLPEDVLNSAIRFSFGLGNTTEEMEYTAKKIETIWKRLRTRY
【0132】
実施例8−8. 抗生物質
実施例5に記載のとおり、FPU−37株は抗生物質を産生する。
【0133】
FPU−37株の生長促進効果に関するまとめ
以上の結果から、FPU−37株が有する植物に対する生長促進効果の分子機構は、「土壌中の難溶性リン化合物の可溶化(植物へのリンの供給)」や「植物生長ホルモンの産生」、「シデロフォアにより環境中の鉄を奪うことによる植物病原微生物の増殖抑制(植物もシデロフォアを産生可能)」、「シアン化水素や抗生物質による植物病原微生物の殺菌」、「植物の生長を抑制するエチレンの生合成阻害」、「窒素固定」などによる複数の因子による複合効果であることが示唆された。結果を表7に示す。
FPU−37株の優れた抗菌活性は、種子消毒剤だけでなく、土壌改良剤やバイオ農薬への応用が期待できる。
【0134】
【表7】