特許第6583908号(P6583908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6583908
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】強誘電ポリマー球体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/14 20060101AFI20190919BHJP
【FI】
   C08J3/14CEW
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-91730(P2015-91730)
(22)【出願日】2015年4月28日
(65)【公開番号】特開2016-204614(P2016-204614A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】山本 洋平
(72)【発明者】
【氏名】岡田 大地
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−097281(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/117982(WO,A1)
【文献】 特開昭56−130983(JP,A)
【文献】 特開平09−196756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で表され、下記の式(1)におけるa、bの共重合比が80:20〜50:50であるポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体からなる球状構造体であり、
蛍光色素を含み、
前記蛍光色素は、ローダミン6G、ローダミン800、ローダミンBであり、
前記蛍光色素の含有量は、強誘電ポリマー球体の全質量(蛍光色素を含む。100質量%)に対して、1質量%〜10質量%であることを特徴とする強誘電ポリマー球体。
【化1】
【請求項2】
粒子径が100nm〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載の強誘電ポリマー球体。
【請求項3】
ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体を良溶媒に溶解して、前記ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体を含む溶液を調製する工程と、
貧溶媒を容れた密閉容器内に、前記ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体を含む溶液を容れた、前記密閉容器よりも容量が小さい容器を配置して、恒温漕中にて、25℃にて1日〜7日間静置することにより、前記溶液中に前記ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体からなる球状構造体の強誘電ポリマー球体を析出させる工程と、を有することを特徴とする強誘電ポリマー球体の製造方法。
【請求項4】
ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体と、蛍光色素および界面活性剤の少なくともいずれか一方と、を良溶媒に溶解して、前記ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体と、前記蛍光色素および前記界面活性剤の少なくともいずれか一方と、を含む溶液を調製する工程と、
容器内に容れた、前記良溶媒よりも極性が高い貧溶媒上に、前記溶液を徐々に加えて、前記溶液と前記貧溶媒の界面にて、前記ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体からなる球状構造体の強誘電ポリマー球体を析出させる工程と、を有し、
前記蛍光色素および前記界面活性剤は、前記貧溶媒および前記良溶媒に可溶であり、
前記強誘電ポリマー球体を析出させる工程にて、前記貧溶媒の量と前記溶液の量を、体積比で、2:1〜4:1とすることを特徴とする強誘電ポリマー球体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電ポリマー球体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズからマイクロサイズの微粒子を集積することにより形成されるコロイド結晶は、新たな光機能を発現することから注目されている。これまでに報告されているコロイド結晶の多くは、ポリスチレンやポリメチルメタクリレート(PMMA)等、それ自体が特別な電気的特性や光学的特性を持たないポリマー微粒子で形成されている。
そこで、強誘電性を持つポリマー微粒子でコロイド結晶を形成することができれば、そのコロイド結晶が新たな光学的機能が発現することを期待できる。また、単一のマイクロスケールの強誘電性微粒子にレーザーを入射することにより、ウィスパリングギャラリモード(Whispering Gallery Mode、WGM)特性等の新たな光学特性が発現することを期待できる。
【0003】
ところで、フルオロポリマーの1種であるポリフッ化ビニリデン(Poly(Vinylidene Fluoride)、PVDF)や、そのコポリマーであるポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体(Poly[(Vinylidene Fluoride)−co−trifluoroethylene]、PVDF−TrFE)等は、分子内に大きな双極子モーメントを有し、圧電効果、焦電効果、強誘電性等の電気的活性を示すことが知られている(例えば、非特許文献1参照)。これらの特性を利用して、前記のフルオロポリマー(以下、「強誘電ポリマー」とも言う。)を、メモリー素子、センサー、アクチュエーター、発電素子等の様々な電気デバイスへ応用する研究が進められている。また、前記の強誘電ポリマーは、電気的特性のみならず、第二次高調波(SHG)のような光学的特性を示すことも開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】PVDF−TrFEを用いたFET特性向上に関する論文:R.Naber et al.,Nat.Materials 2005,4,243−248
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、強誘電ポリマーであるPVDF−TrFEで薄膜を形成し、その薄膜をメモリー素子やFET等へ応用することが開示されている。しかしながら、PVDF−TrFEで球状構造体(以下、「ポリマー球体」と言う。)を形成することや、そのポリマー球体を電気デバイスへ応用することについては開示されていなかった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、電気デバイスへの応用が可能であり、強誘電性のPVDF−TrFEからなる強誘電ポリマー球体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の強誘電ポリマー球体は、下記の式(1)で表され、下記の式(1)におけるa、bの共重合比が80:20〜50:50であるポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体からなる球状構造体であり、蛍光色素を含み、前記蛍光色素は、ローダミン6G、ローダミン800、ローダミンBであり、前記蛍光色素の含有量は、強誘電ポリマー球体の全質量(蛍光色素を含む。100質量%)に対して、1質量%〜10質量%であることを特徴とする。
【化2】
【0008】
本発明の強誘電ポリマー球体は、粒子径が100nm〜50μmであることが好ましい。
【0009】
本発明の強誘電ポリマー球体の製造方法は、ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体を良溶媒に溶解して、前記ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体を含む溶液を調製する工程と、貧溶媒を容れた密閉容器内に、前記ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体を含む溶液を容れた、前記密閉容器よりも容量が小さい容器を配置して、恒温漕中にて、25℃にて1日〜7日間静置することにより、前記溶液中に前記ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体からなる球状構造体の強誘電ポリマー球体を析出させる工程と、を有することを特徴とする
【0010】
本発明の強誘電ポリマー球体の製造方法は、ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体と、蛍光色素および界面活性剤の少なくともいずれか一方と、を良溶媒に溶解して、前記ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体と、前記蛍光色素および前記界面活性剤の少なくともいずれか一方と、を含む溶液を調製する工程と、容器内に容れた、前記良溶媒よりも極性が高い貧溶媒上に、前記溶液を徐々に加えて、前記溶液と前記貧溶媒の界面にて、前記ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体からなる球状構造体の強誘電ポリマー球体を析出させる工程と、を有し、前記蛍光色素および前記界面活性剤は、前記貧溶媒および前記良溶媒に可溶であり、前記強誘電ポリマー球体を析出させる工程にて、前記貧溶媒の量と前記溶液の量を、体積比で、2:1〜4:1とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電気デバイスへの応用が可能であり、強誘電性のPVDF−TrFEからなる強誘電ポリマー球体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態である強誘電ポリマー球体を示す概略斜視図である。
図2】本発明の一実施形態である強誘電ポリマー球体の製造方法を示す模式図である。
図3】本発明の一実施形態である強誘電ポリマー球体の製造方法を示す概略斜視図である。
図4】実施例1の構造体の走査型電子顕微鏡像である。
図5】比較例1の構造体の走査型電子顕微鏡像である。
図6】比較例2の構造体の走査型電子顕微鏡像である。
図7】比較例3の構造体の走査型電子顕微鏡像である。
図8】比較例4の構造体の走査型電子顕微鏡像である。
図9】比較例5の構造体の走査型電子顕微鏡像である。
図10】実施例2の構造体の走査型電子顕微鏡像である。
図11】実施例2の構造体の蛍光顕微鏡像であり、(a)は構造体に励起光を入射していない状態を示す微鏡像であり、(b)は構造体に励起光を入射し、その励起光によって蛍光体が発光している状態を示す微鏡像である。
図12】実施例で用いたマイクロフォトルミネッセンスの装置を示す模式図である。
図13】構造体から発光された光のスペクトルを測定した結果を示す図である。
図14】実施例3の構造体の走査型電子顕微鏡像である。
図15】実施例4の構造体の走査型電子顕微鏡像である。
図16】実施例5の構造体の走査型電子顕微鏡像である。
図17】実施例6の構造体の走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の強誘電ポリマー球体およびその製造方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0015】
[強誘電ポリマー球体]
以下、図1を参照しながら、本実施形態の強誘電ポリマー球体を説明する。
図1は、本実施形態の強誘電ポリマー球体を示す概略斜視図である。
本実施形態の強誘電ポリマー球体10は、図1に示すように、ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体(PVDF−TrFE)からなる球状構造体である。
PVDF−TrFEは、通常、下記の一般式(1)で表わされる直鎖状(linear)の高分子である。
これに対して、本実施形態の強誘電ポリマー球体10は、下記の一般式(1)で表わされるPVDF−TrFEからなる球状構造体である。
【0016】
【化1】
【0017】
本実施形態の強誘電ポリマー球体10では、上記の一般式(1)において、a、bの共重合比は80:20〜50:50であることが好ましく、aの比率がより大きいことがより好ましい。上記の一般式(1)において、a、bの共重合比が、上記の範囲内であれば、PVDF−TrFEは、球状構造体を形成する。
【0018】
本実施形態の強誘電ポリマー球体10は、一次粒子からなる球体であり、一次粒子が凝集した二次粒子からなる球体ではない。本実施形態の強誘電ポリマー球体10は、粒子径が_100nm〜50μmであることが好ましく、応用の仕方により好ましいサイズが変わってくる。
本実施形態の強誘電ポリマー球体10は、粒子径が数百nmサイズの場合、トランジスタ等の電気デバイス等に応用可能であり、また、数〜数十μmサイズであれば、球体内部への光の閉じ込め等が可能になる。
本実施形態の強誘電ポリマー球体10の粒子径は、走査型電子顕微鏡によって得られた画像のスケールバーと画像中の球体の直径とを比較することで算出された値と定義される。
【0019】
本実施形態の強誘電ポリマー球体10は、圧電効果、焦電効果、強誘電性等の電気的活性を有する球状構造体である。そのため、本実施形態の強誘電ポリマー球体10は、圧電効果を用いた圧電センサー、焦電効果を用いた焦電センサー、強誘電性を用いたナノジェネレーター(外部刺激による発電)等に応用することができる。
【0020】
また、本実施形態の強誘電ポリマー球体10は、蛍光色素を含んでいてもよい。
本実施形態の強誘電ポリマー球体10に蛍光色素が含まれる場合、蛍光色素は、PVDF−TrFEからなる母体の中にほぼ均一に分散していると考えられる。
【0021】
蛍光色素としては、アセトニトリル、メタノール、アセトン、水等の溶媒に可溶であり、波長350nm以上の光(励起光)を吸収し、波長400nm以上の光を発光するものであれば特に限定されない。
このような蛍光色素としては、例えば、ローダミン6G(光吸収極大波長530nm、発光極大波長575nm)、ローダミン800(光吸収極大波長680nm、発光極大波長700nm)、ローダミンB(光吸収極大波長554nm、発光極大波長627nm)等が挙げられる。
【0022】
本実施形態の強誘電ポリマー球体10が蛍光色素を含む場合、蛍光色素の含有量は、強誘電ポリマー球体10の全質量(蛍光色素を含む。100質量%)に対して、0.5質量%〜20質量%であることが好ましく、5質量%〜10質量%であることがより好ましい。
蛍光色素の含有量を上記の範囲内とすることにより、本実施形態の強誘電ポリマー球体10は、外部からの光を吸収して、その光を内部に閉じ込めて、吸収した光とは異なる波長の光を発光(蛍光発光)することができる。
【0023】
ここで、本実施形態の強誘電ポリマー球体10における蛍光発光について説明する。
蛍光色素を含む強誘電ポリマー球体10に光(励起光)を照射すると、蛍光色素がその光を吸収する。すると、蛍光色素は、吸収した光よりも長波長の光を発光するが、その光はウィスパリングギャラリモード(Whispering Gallery Mode、WGM)と称される、強誘電ポリマー球体10の周方向に伝播する進行波となって、強誘電ポリマー球体10内に閉じ込められる。前記の光は、強誘電ポリマー球体10と空気の屈折率差により、強誘電ポリマー球体10と空気の界面で全反射しながら、強誘電ポリマー球体10の周方向に伝播する。そして、光の光路長と、光の波長の整数倍とが一致したとき、発光が干渉し強め合うことにより、WGMが発生する。これにより、強誘電ポリマー球体10が蛍光発光する。
【0024】
[強誘電ポリマー球体の製造方法]
(第1の実施形態)
次に、図2を参照して、本実施形態の強誘電ポリマー球体の製造方法を説明する。
本実施形態の強誘電ポリマー球体の製造方法は、PVDF−TrFEを含む溶液を調製する工程と、PVDF−TrFEを含む溶液中に、PVDF−TrFEからなる球状構造体の強誘電ポリマー球体10を析出させる工程と、を有する。
【0025】
PVDF−TrFEを含む溶液を調製する工程では、PVDF−TrFEを良溶媒に溶解して、PVDF−TrFEを含む溶液を調製する。
貧溶媒としては、例えば、アセトニトリル、クロロホルム、ジクロロメタン、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、オルトジクロロベンゼン等が用いられる。
PVDF−TrFEを含む溶液の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.5mg/mL〜2mg/mLである。
【0026】
強誘電ポリマー球体10を析出させる工程では、後述する蒸気拡散法により、強誘電ポリマー球体10を作製する。
すなわち、強誘電ポリマー球体10を析出させる工程では、図2に示すように、貧溶媒20を容れた密閉容器30内の中央に、PVDF−TrFEを含む溶液40を容れた、密閉容器30よりも容量が小さい容器50を配置し、恒温漕の中に、25℃で1日〜7日静置する。
このとき、容器50は、蓋をすることなく、開放しておく。
【0027】
また、貧溶媒20の量(体積)が、溶液40の量(体積)よりも多くなるようにする。例えば、貧溶媒20の量と溶液40の量を、体積比で、10:1〜10:10とする。
貧溶媒20としては、例えば、ヘキサン、エタノール、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、クロロホルム、水、トルエン等が用いられる。
【0028】
溶液40の蒸気圧と貧溶媒20の蒸気圧が内側および外側の容器において等しくなるように、貧溶媒20の蒸気圧に等しくなるように、貧溶媒20の蒸気が、容器50内の溶液40に徐々に移行(混入)する。すると、溶液40中に、次第にPVDF−TrFEからなる構造体が析出する。この構造体は、熱的再安定な構造になるため、球状構造体、すなわち、上述の強誘電ポリマー球体10となる。
【0029】
本実施形態の強誘電ポリマー球体の製造方法によれば、上述の強誘電ポリマー球体10が得られる。
【0030】
(第2の実施形態)
次に、図3を参照して、本実施形態の強誘電ポリマー球体の製造方法を説明する。
本実施形態の強誘電ポリマー球体の製造方法は、PVDF−TrFEと、蛍光色素および界面活性剤の少なくともいずれか一方と、を含む溶液を調製する工程と、PVDF−TrFEと、蛍光色素および界面活性剤の少なくともいずれか一方と、を含む溶液と貧溶媒の界面にて、PVDF−TrFEからなる球状構造体の強誘電ポリマー球体10を析出させる工程と、を有する。
【0031】
PVDF−TrFEと、蛍光色素および界面活性剤の少なくともいずれか一方と、を含む溶液を調製する工程では、PVDF−TrFEと、蛍光色素および界面活性剤の少なくともいずれか一方と、を良溶媒に溶解して、PVDF−TrFEと、蛍光色素および界面活性剤の少なくともいずれか一方と、を含む溶液を調製する。
良溶媒としては、例えば、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド(N,N−dimethylformamide、DMF)、ジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide、DMSO)等が用いられる。
【0032】
PVDF−TrFEと、蛍光色素および界面活性剤の少なくともいずれか一方と、を含む溶液におけるPVDF−TrFEの濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1mg/mL〜20mg/mLである。
【0033】
蛍光色素としては、上記のアセトニトリル、メタノール、アセトン、水等の溶媒に可溶なものが用いられる。
PVDF−TrFEと、蛍光色素と、を含む溶液における蛍光色素の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.01mg/mL〜1mg/mLである。
【0034】
界面活性剤としては、上記のアセトニトリル、メタノール、アセトン、水等の溶媒に可溶なものが用いられる。
PVDF−TrFEと、蛍光色素と、を含む溶液における界面活性剤の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.01mg/mL〜0.5mg/mLである。
【0035】
PVDF−TrFEと、蛍光色素および界面活性剤と、を含む溶液における、蛍光色素および界面活性剤の合計濃度は、特に限定されないが、例えば、0.2mg/mL〜1mg/mLである。
【0036】
強誘電ポリマー球体10を析出させる工程では、まず、図3(A)に示すように、容器60内に、所定量の貧溶媒70を容れる。
貧溶媒70としては、上記の良溶媒よりも極性が高い溶媒であれば特に限定されないが、例えば、水、または、水とエタノールの混合溶媒、水とテトラヒドロフラン(THF)の混合溶媒、水とアセトニトリルの混合溶媒等が挙げられる。
【0037】
次いで、図3(B)に示すように、容器60内に容れた貧溶媒70上に、PVDF−TrFEと、蛍光色素および界面活性剤の少なくともいずれか一方と、を含む溶液80を徐々に加える。
ここで、貧溶媒70の量(体積)が、溶液80の量(体積)よりも多くなるようにする。例えば、貧溶媒70の量と溶液80の量を、体積比で、2:1〜4:1とする。
【0038】
容器60内に容れた貧溶媒70上に、溶液80を徐々に加えると、図3(C)に示すように、溶液80と貧溶媒70の界面にて、PVDF−TrFEからなる球状構造体の強誘電ポリマー球体10が徐々に析出する。
【0039】
最終的に、図3(D)に示すように、溶液80に含まれる良溶媒と貧溶媒70は混合し、さらに、良溶媒は蒸発して、容器60内には、貧溶媒70と、析出した強誘電ポリマー球体10とが残る。
【0040】
本実施形態の強誘電ポリマー球体の製造方法によれば、蛍光色素および界面活性剤として、良溶媒および貧溶媒70に可溶なものを用いることにより、第1の実施形態で得られるものよりも粒子径が一桁大きい強誘電ポリマー球体10が得られる。
また、本実施形態の強誘電ポリマー球体の製造方法によれば、上述の蛍光色素を含む強誘電ポリマー球体10が得られる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
PVDF−TrFE(呉羽化学社製)を、アセトンに溶解して、PVDF−TrFEを含む溶液を調製した。
PVDF−TrFEを含む溶液の濃度は、0.5mg/mLであった。
次いで、ヘキサン6mLを容れた密閉容器内の中央に、PVDF−TrFEを含む溶液3mLを容れた容器を配置し、恒温漕の中に、25℃で7日静置した。このとき、密閉容器内に配置する容器は、蓋をすることなく、開放しておいた。
密閉容器内では、ヘキサンの蒸気が、容器内のPVDF−TrFEを含む溶液に徐々に移行して、溶液中に、PVDF−TrFEからなる、実施例1の構造体が析出した。
得られた構造体を、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)(商品名:JSM−5610、日本電子社製)で観察した。その走査型電子顕微鏡像を図4に示す。
図4の結果から、粒子径が200nm〜2μmの球体の構造体が得られていることが確認された。
【0043】
[比較例1]
ヘキサンの代わりに、トルエンを用いたこと以外は実施例1と同様にして、PVDF−TrFEからなる、比較例1の構造体を作製した。
得られた構造体を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。その走査型電子顕微鏡像を図5に示す。
図5の結果から、不定形の構造体が得られていることが確認された。
【0044】
[比較例2]
ヘキサンの代わりに、メタノールを用いたこと以外は実施例1と同様にして、PVDF−TrFEからなる、比較例2の構造体を作製した。
得られた構造体を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。その走査型電子顕微鏡像を図6に示す。
図6の結果から、不定形の構造体が得られていることが確認された。
【0045】
[比較例3]
ヘキサンの代わりに、テトラヒドロフラン(Tetrahydrofuran、THF)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、PVDF−TrFEからなる、比較例3の構造体を作製した。
得られた構造体を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。その走査型電子顕微鏡像を図7に示す。
図7の結果から、不定形の構造体が得られていることが確認された。
【0046】
[比較例4]
ヘキサンの代わりに、ジクロロメタンを用いたこと以外は実施例1と同様にして、PVDF−TrFEからなる、比較例4の構造体を作製した。
得られた構造体を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。その走査型電子顕微鏡像を図8に示す。
図8の結果から、不定形の構造体が得られていることが確認された。
【0047】
[比較例5]
ヘキサンの代わりに、クロロホルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして、PVDF−TrFEからなる、比較例5の構造体を作製した。
得られた構造体を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。その走査型電子顕微鏡像を図9に示す。
図9の結果から、不定形の構造体が得られていることが確認された。
【0048】
[比較例6]
ヘキサンの代わりに、アセトニトリルを用いたこと以外は実施例1と同様にして、PVDF−TrFEからなる、比較例6の構造体を作製した。
得られた構造体を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果から、不定形の構造体が得られていることが確認された。
【0049】
[比較例7]
ヘキサンの代わりに、水を用いたこと以外は実施例1と同様にして、PVDF−TrFEからなる、比較例7の構造体を作製した。
得られた構造体を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果から、不定形の構造体が得られていることが確認された。
【0050】
以上の結果から、蒸気拡散法において、密閉容器に容れる貧溶媒として、無極性溶媒のヘキサンを用いることにより、極性ポリマーであるPVDF−TrFEが接触面積を最小にするように集合化し、球状構造体を形成したものと考えられる。
また、球状構造体の粒子径を制御するために、貧溶媒のヘキサンの使用量を10mLに増加すると、球状構造体の粒子径を2μmまで増大できることが分かった。
【0051】
[実施例2]
PVDF−TrFEと、蛍光色素のローダミン6Gとを、アセトンに溶解して、PVDF−TrFEとローダミン6Gを含む溶液を調製した。
PVDF−TrFEとローダミン6Gを含む溶液におけるPVDF−TrFEの濃度は、0.5mg/mLであった。
PVDF−TrFEとローダミン6Gを含む溶液におけるローダミン6Gの濃度は、0.1mg/mLであった。
次いで、容器内に水の上に、PVDF−TrFEとローダミン6Gを含む溶液を徐々に加えた。ここで、水の量とPVDF−TrFEとローダミン6Gを含む溶液の量を、体積比で、2:1とした。
すると、PVDF−TrFEとローダミン6Gを含む溶液と水の界面にて、PVDF−TrFEからなる、実施例2の構造体が析出した。
【0052】
得られた構造体を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。その走査型電子顕微鏡像を図10に示す。
図10の結果から、粒子径が500nm〜8μmの球体の構造体が得られていることが確認された。
また、図10の結果から、実施例2の球状の構造体は、実施例1の球状の構造体よりも、粒子径が2倍以上になっていることが確認された。これは、溶液中における、PVDF−TrFEとローダミン6Gの相互作用により、PVDF−TrFEの溶解性が変化して、球状の構造体が形成するプロセスに変化が生じたものと推察できる。
【0053】
得られた球体の構造体を蛍光顕微鏡(商品名:BX53、オリンパス社製)で観察した。その蛍光顕微鏡像を図11に示す。図11の結果から、球体の構造体は緑色に発光していることが確認された。なお、図11(a)は、球状の構造体に励起光を入射していない状態を示し、図11(b)は、球状の構造体に励起光を入射し、その励起光によって蛍光体が発光している状態を示す。
【0054】
得られた球状の構造体について、図12に示すようなマイクロフォトルミネッセンスの装置200を用いて評価した。
【0055】
装置200は、球状の構造体100を載置する載置面210aを有するXYステージ210と、XYステージ210の載置面210aに載置された発光素子10にレーザー光α´を照射するCWレーザー(Continuous Wave Laser)220と、球状の構造体100から発光した光β´のスペクトルを測定する分光器230と、発光素子10からの光β´を観察(撮影)するCCDカメラ240と、を備えている。
CCDカメラ240は、XYステージ210の載置面210aと間隔を置いて対向するように配置されている。また、CCDカメラ240は、球状の構造体100からの光β´の出射方向と、撮像素子(図示略)の光入射面とが垂直となるように配置されている。
【0056】
XYステージ210の載置面210aとCCDカメラ240との間、すなわち、球状の構造体100からCCDカメラ240へ至る光β´の光路上には、XYステージ210側から順に所定の間隔を置いて、第1のハーフミラー251と第2のハーフミラー252が配置されている。第1のハーフミラー251と第2のハーフミラー252は、それぞれの反射面251a、252aが発光素子10からCCDカメラ240へ至る光β´の光路に対して45度傾くように配置されている。
また、XYステージ210の載置面210aと第1のハーフミラー251との間には、Z軸方向(XYステージ210の載置面210aと垂直方向)の位置を調整することが可能な対物レンズ260が配置されている。
【0057】
CWレーザー220は、第1のハーフミラー251と間隔を置いて対向するように配置されている。また、CWレーザー220は、レーザー光α´の出射方向と、球状の構造体100からCCDカメラ240へ至る光β´の光路とが垂直となる位置に配置されている。
CWレーザー220と第1のハーフミラー251との間には、CWレーザー220側から順に所定の間隔を置いて、レーザーフィルター270と強度調整フィルター280が配置されている。
【0058】
分光器230は、第2のハーフミラー252と間隔を置いて対向するように配置されている。また、分光器230は、第2のハーフミラー252で反射した光β´の反射方向と、球状の構造体100からCCDカメラ240へ至る光β´の光路とが垂直となる位置に配置されている。
分光器230と第2のハーフミラー252との間には、ロングパスフィルター290が配置されている。
【0059】
XYステージ210は、マニピュレーターにより、X軸方向(XYステージ210の載置面210aと平行な方向)およびY軸方向(XYステージ210の載置面210aと平行な方向)に可動するようになっている。
対物レンズ260は、CWレーザー220からのレーザー光α´(波長532nm)を直径1μm以下のスポットに絞ることができるようになっている。これにより、球状の構造体100において、部分的に光励起が可能である。
【0060】
次に、装置200の動作の概略を説明する。
まず、XYステージ210の載置面210aに、球状の構造体100を載置する。球状の構造体100において、光励起させたい位置にレーザー光α´が照射されるように、XYステージ210を動かし、対物レンズ260に対して、球状の構造体100を位置合わせする。
CWレーザー220からのレーザー光α´を出射すると、レーザー光α´はレーザーフィルター270と強度調整フィルター280を透過して、第1のハーフミラー251の反射面251aに至る。レーザー光α´は、第1のハーフミラー251の反射面251aで、XYステージ210の載置面210a側に反射し、対物レンズ260に入射する。対物レンズ260に入射したレーザー光α´は、XYステージ210の載置面210aに載置された球状の構造体100に入射する。このとき、対物レンズ260をZ軸方向に動かして、対物レンズ260と発光素子10の距離(間隔)を調整して、レーザー光α´をスポットに絞ることにより、球状の構造体100における任意の位置にレーザー光α´を照射する。すると、レーザー光α´が照射された位置にあるパイ共役系高分子が励起して、レーザー光α´よりも長波長の光β´を発光する。光β´は、対物レンズ260と第1のハーフミラー251を透過して、第2のハーフミラー252にて一部が分光器230側に反射して、分光器230に入射し、残りが第2のハーフミラー252を透過して、CCDカメラ240の撮像素子に入射する。そして、分光器230により、光β´のスペクトルを測定し、CCDカメラ240により、光β´を観察(撮影)する。
【0061】
ここでは、レーザー光α´の強度を1μW、球状の構造体100に対するレーザー光α´の照射時間を0.001秒とした。
球状の構造体100にレーザー光α´を照射した場合について、上記の装置200の分光器230により、球状の構造体100からの光β´のスペクトルを測定した結果を図13に示す。
図13の結果から、球状の構造体100に入射した光は、構造体100の内部に閉じ込められて共鳴することで発生する、WGM発光と呼ばれるスパイク状の発光ピークを示すことが確認された。
【0062】
[実施例3]
水の代わりに、体積比で1:1の水とエタノールからなる混合溶媒を用いたこと以外は実施例2と同様にして、PVDF−TrFEからなる、実施例3の構造体を作製した。
得られた構造体を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。その走査型電子顕微鏡像を図14に示す。
図14の結果から、粒子径が200nm〜500nmの球体の構造体が得られていることが確認された。
【0063】
[実施例4]
水の代わりに、体積比で1:1の水とテトラヒドロフランからなる混合溶媒を用いたこと以外は実施例2と同様にして、PVDF−TrFEからなる、実施例4の構造体を作製した。
得られた構造体を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。その走査型電子顕微鏡像を図15に示す。
図15の結果から、粒子径が200nm〜2μmの球体の構造体が得られていることが確認された。
【0064】
[実施例5]
水の代わりに、体積比で1:1の水とアセトニトリルからなる混合溶媒を用いたこと以外は実施例2と同様にして、PVDF−TrFEからなる、実施例5の構造体を作製した。
得られた構造体を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。その走査型電子顕微鏡像を図16に示す。
図16の結果から、粒子径が200nm〜2μmの球体の構造体が得られていることが確認された。
【0065】
[実施例6]
アセトンの代わりに、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、PVDF−TrFEからなる、実施例6の構造体を作製した。
得られた構造体を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。その走査型電子顕微鏡像を図17に示す。
図17の結果から、粒子径が100nm〜300nmの球体の構造体が得られていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の強誘電ポリマー球体は、圧電効果、焦電効果、強誘電性等の電気的活性を有する球状構造体である。そのため、本発明の強誘電ポリマー球体は、圧電効果を用いた圧電センサー、焦電効果を用いた焦電センサー、強誘電性を用いたナノジェネレーター等に応用することができる。
【符号の説明】
【0067】
10・・・強誘電ポリマー球体、20・・・貧溶媒、30・・・密閉容器、40・・・溶液、50・・・容器、60・・・容器、70・・・貧溶媒、80・・・溶液。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17