(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
[本発明の第1実施形態]
(測定システム1の構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る測定システム1の概略構成図である。本発明の第1実施形態に係る測定システム1は、フロー系において、流体に含まれる物質を表面増強ラマン分光法により同定する。
【0018】
図1に示すように、第1実施形態に係る測定システム1は、供給機10と、搬送管20,30と、微細流路デバイス100と、発光器40と、受光器50とを備える。
【0019】
供給機10は、フロー系の一部として、検体となる物質を含む流体を供給する。搬送管20,30は、中空状の管であり、流体を搬送する。微細流路デバイス100は、搬送管20,30の間において、搬送管20,30を連結するように配置されている。
【0020】
発光器40は、微細流路デバイス100に励起光L1を照射し、受光器50は、励起光L1によって発光するラマン散乱光L2を受光する。受光器50によって受光されたラマン散乱光L2は、ラマンスペクトルとして解析される。なお、測定システム1は、分光器や解析装置などの他の機器(不図示)も備えているが、ここでは詳細な説明を省略する。
【0021】
(微細流路デバイス100の構成)
次に、微細流路デバイス100の構成について説明する。
図2は、微細流路デバイス100の中心軸Axに沿った断面図である。なお、本実施形態では、
図2に示すように、中心軸Axに沿ったX方向と、中心軸Axに直交するY方向とを規定する。
図3は、
図2における微細流路デバイス100の一部を拡大した拡大断面図である。
【0022】
微細流路デバイス100は、流体を流す微細流路を備え、流体に含まれる物質を表面増強ラマン分光法により測定する際に用いられる。
【0023】
図2に示すように、微細流路デバイス100は、所定方向に沿って延びる中空部111が形成される管部材110と、中空部111に嵌合される嵌合部材120と、を備える。すなわち、管部材110は、嵌合部材120を覆っている。なお、所定方向とは、流体の搬送方向であり、本実施形態では、微細流路デバイス100の中心軸Axに沿ったX方向である。
【0024】
本実施形態では、管部材110の少なくともラマン分光測定部分110Xは、透明な部材で形成される。ラマン分光測定部分110Xは、励起光L1及び散乱光L2が透過する部分である。ラマン分光測定部分110Xのサイズは、励起光L1を照射できるとともに、ラマン散乱光L2を受光できれば、特に制限はない。例えば、ラマン分光測定部分110Xのサイズは、中心軸Axに直交するY方向に沿って見た場合に、一辺2mm×2mm以上(4mm
2以上)、もしくは、直径2mm以上としてもよい。なお、管部材110の全体が、透明な部材で形成されていてもよいことは無論である。
【0025】
管部材110のラマン分光測定部分110Xの素材となる透明な部材は、一般に、表面増強ラマン分光法に使用される波長において透明な部材である。例えば、管部材110には、ガラス、プラスチックやシリコーンなどの樹脂、及び他の任意の部材を使用してもよい。なお、本実施形態において「透明」とは、波長が380nmから2000nmの波長帯域の特定波長の光に対して透過率が50%以上であることを意味している。管部材110のラマン分光測定部分110Xの光透過率は、80%以上であることが更に好ましい。また、管部材110のラマン分光測定部分110Xの光透過率は、その厚みを増減することで調節してもよい。
【0026】
本実施形態では、管部材110は、中空チューブである。例えば、管部材110は、シリコーンなどの弾性部材からなる円筒状の中空チューブである。
【0027】
嵌合部材120は、管部材110の中空部111に嵌合される。嵌合部材120の外周部120aには、管部材110の内周部110aとの間に微細流路を形成する微細溝121が設けられている。
【0028】
具体的に、微細溝121によって形成される外側端部123が管部材110の内周部110aに接することで、微細溝121と管部材110との間の隙間空間に微細流路が形成される。なお、微細溝121が微細流路を構成するとも言い換えることができる。微細溝121は、嵌合部材120のX方向の一方から他方に連続する。これにより、微細流路が、嵌合部材120のX方向の両側に連通する。
【0029】
本実施形態では、嵌合部材120の外周部120aには、微細溝121が螺旋状に形成されている。具体的に、微細溝121は、外周部120aにおいて、中心軸Axを中心とした螺旋状に延びている。
【0030】
また、
図3に示すように、微細溝121の延在方向に直交する方向において、微細溝121の断面形状は、V字形状である。微細溝121の溝幅Wgは、10μm〜1mmの範囲であることが好ましい。微細溝121の溝深さDgは、10μm〜100μmの範囲であることが好ましい。また、微細溝121の延在方向に直交する方向において、微細溝121の断面積は、100μm
2〜0.1mm
2の範囲であることが好ましい。
【0031】
ここで、より安価に構成するという観点から、嵌合部材120には、規格に規定されるネジ(所謂、雄ネジ)を使用することが好ましい。なお、規格は、使用される地域に有効な産業規格によって定められており、例えば、JIS(日本工業規格)やISO(国際標準化機構)に規定される規格などである。
【0032】
例えば、微細流路デバイス100では、内径D110が3mmの管部材110を使用した場合、嵌合部材120にM3のネジを使用してもよい。なお、管部材110の材料として弾性部材を用いた場合、管部材110は、中心軸Axに直交するY方向に伸張可能である。このため、嵌合部材120の直径D120は、管部材110の内径D110に対して、例えば5〜10%程度大きくてもよい。
【0033】
嵌合部材120の素材には、鉄鋼材、特殊鋼材、ステンレス鋼材、アルミ、チタン、樹脂等の材料を適用できる。
【0034】
嵌合部材120は、管部材110の中空部111に嵌合した状態で固定されている。本実施形態では、嵌合部材120は、管部材110の中空部111にねじ込まれることにより、管部材110の中空部111に固定されている。
【0035】
微細溝121の溝内面122には、表面増強ラマン分光測定用金属ナノ粒子M(以下、金属ナノ粒子Mとして適宜説明する)が形成される。金属ナノ粒子Mを構成する金属は、例えば、金、銀、白金等の貴金属である。また、金属ナノ粒子Mを形成する手法としては、例えば、次の手法を適用できる。
【0036】
まず、嵌合部材120の溝内面122に粒径が50〜500nmのシリカナノ粒子を吸着させる。シリカナノ粒子を吸着させる方法は、嵌合部材120の材料によって適宜可能であるが、例えば、真空蒸着又はメッキ法により、金薄膜を嵌合部材120の溝内面122に形成した後に、シリカナノ粒子を吸着させてもよい。これにより、シリカナノ粒子を容易に吸着できる。
【0037】
次に、真空蒸着法により、厚さ5〜500nmの金又は銀をシリカナノ粒子の一部に帽子状にコーティングすることにより、嵌合部材120の溝内面122に貴金属帽子状ナノ粒子を形成する。
【0038】
上述の例では、金属ナノ粒子Mとして、貴金属帽子状ナノ粒子を形成する手法を例に挙げたが、これに限定されるものではない。例えば、金属ナノ粒子Mは、貴金属で構成されたナノ粒子そのものを嵌合部材120の溝内面122に吸着させることで形成してもよい。
【0039】
また、上述のようにして金属ナノ粒子Mを形成した嵌合部材120を、管部材110の中空部111に嵌合させることによって、微細溝121と管部材110との間の隙間空間に微細流路が形成された微細流路デバイス100を製造できる。
【0040】
(測定方法)
次に、測定システム1を用いた測定方法について説明する。
図4は、測定方法を示すフローチャートである。
【0041】
ステップS10において、測定システム1を準備する。具体的に、供給機10に対して、搬送管20と、微細流路デバイス100と、搬送管30とを連結する。
【0042】
ステップS20において、微細流路デバイス100を用いて、流体に含まれる物質を表面増強ラマン分光法により測定する。具体的に、測定システム1では、供給機10から供給される流体が、搬送管20、微細流路デバイス100、搬送管30を介して、搬送される。
【0043】
このとき、微細流路デバイス100では、流体が、嵌合部材120に設けられる微細溝121に沿って、嵌合部材120の外周部120aを螺旋状に流れる。
【0044】
そして、発光器40から放射された励起光L1が、管部材110を介して、微細流路デバイス100に形成される金属ナノ粒子Mに照射されると、ラマン散乱光L2が、受光器50によって検出される。受光器50によって検出されたラマン散乱光L2は、分光器(不図示)などによってラマンスペクトルとして検出される。測定システム1では、検出されたラマンスペクトルを解析することで、流体に含まれる物質を同定する。
【0045】
(作用及び効果)
以上のように、本発明の第1実施形態に係る微細流路デバイス100は、管部材110と嵌合部材120とを備える。嵌合部材120の外周部120aには、管部材110の内周部110aとの間に微細流路を形成する微細溝121が形成されている。また、微細溝121の溝内面122には、表面増強ラマン分光測定用金属ナノ粒子Mが形成される。
【0046】
すなわち、微細流路デバイス100では、管部材110と嵌合部材120とが別体であり、嵌合部材120の微細溝121の溝内面122に金属ナノ粒子Mが形成される。
【0047】
かかる微細流路デバイス100によれば、管部材110の中空部111に嵌合部材120を嵌合すれば、金属ナノ粒子Mを溝内面122に形成した微細流路を容易に形成できる。これにより、従来技術のように、基板の内部に微細溝を形成することや、この微細溝の溝内面に金属ナノ粒子を形成するといった特殊な加工処理も不要になるため、容易に製造できるとともに、微細流路デバイス100を安価に製造できる。
【0048】
このように、本実施形態に係る微細流路デバイス100によれば、コストを抑制した微細流路デバイス100を提供できる。
【0049】
また、管部材110には、流体を流す際に一般的に用いられている管部材を適用できる。例えば、管部材110には、搬送管20及び搬送管30を適用することもできる。このため、微細流路デバイス100を製造する際のコストを一層抑制できる。
【0050】
更に、管部材110の中空部111に嵌合部材120を嵌合すれば、管部材110の内部に微細流路を形成できる。これにより、従来技術のように板状の基板と、搬送管20及び搬送管30などの他の管部材とを連結する場合に比べて、より隙間なく連結できるため、連結部分において流体の漏れが発生する等の問題を防止できる。また、流体を流すフロー系の一部に微細流路デバイス100を組み込み易くなり、フロー系を構築しやすくなる。
【0051】
また、本実施形態では、嵌合部材120の外周部120aには、微細溝121が螺旋状に形成されている。これにより、嵌合部材120を管部材110の中空部111にねじ込みやすくなる。すなわち、嵌合部材120を管部材110に取り付け易くなるため、微細流路デバイス100が製造しやすくなる。
【0052】
[実施例]
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0053】
ここで、実施例では、測定システム1を用いて、微細流路デバイス100に流体を流す前の第1状態と、微細流路デバイス100に流体を流している間の第2状態とを測定し、それぞれの測定結果を比較することとした。
【0054】
まず、第1状態の微細流路デバイス100として、参照モデル分子を付着させた嵌合部材120を有する微細流路デバイス100を作成した。参照モデル分子としては、トランス1,2ビス4ピリジルエチレン(通称、BPE)を用いた。具体的に、嵌合部材120をBPEの1mM溶液に浸漬し、その後、嵌合部材120を洗浄乾燥させた。また、乾燥後の嵌合部材120を、管部材110に嵌合させることで、微細流路デバイス100を作成した。
【0055】
そして、第1状態の微細流路デバイス100を、表面増強ラマン分光法によって測定した。
【0056】
次に、第1状態の微細流路デバイス100に対して、対象モデル分子を含む流体を流しながら、第2状態の微細流路デバイス100を測定した。具体的に、対象モデル分子であるp−アミノチオフェノール(通称、PATP)の1mM溶液を、流体として流しながら、表面増強ラマン分光法によってリアルタイムで測定した。
【0057】
図5には、測定システム1を用いて測定した測定結果を示すグラフが示されている。
図5の縦軸はラマン信号強度を示し、横軸はラマンシフト(cm−1)を示す。
【0058】
図5において、データX1は、微細流路デバイス100に流体を流さずに、参照モデル分子を付着させた第1状態の微細流路デバイス100を用いて、ラマンスペクトルを測定したデータである。
【0059】
一方、
図5において、データX2は、対象モデル分子であるPATPの1mM溶液を流体として流した第2状態の微細流路デバイス100を用いて、ラマンスペクトルをリアルタイムで測定したデータである。
【0060】
図5に示すように、データX1に見られたピークが、データX2では減少しており、データX1〜X2間のピークの変化を確認できる。特に、データX2では、PATPの特徴である1073cm−1付近のピークが検出できていることから、流体に含まれる物質をリアルタイムに測定できることが確認できた。
【0061】
[変形例]
次に、上述した第1実施形態の変形例について説明する。上述した第1実施形態では、嵌合部材120の溝内面122に金属ナノ粒子Mが形成されていたが、これに限定されるものではない。例えば、嵌合部材120は、微細溝121の溝底部122bに固定される微小部材132を更に備え、金属ナノ粒子Mが、微小部材132の表面132aに形成されていてもよい。
【0062】
具体的に、
図6(a)に示すように、微小部材132は、微細溝121の一部に形成される穴部131に埋め込まれることで、微細溝121の溝底部122bに固定されていてもよい。また、微小部材132は、微細溝121の一部に所定間隔を設けて複数配置されていてもよい。
【0063】
微小部材132は、嵌合部材120を貫通する構成であってもよい。また、微小部材132の固定方法は、接着剤を用いて固定してもよいし、穴部131に形成した雌ネジに、微小部材132に形成した雄ネジを締め込むことによって固定してもよい。
【0064】
なお、微小部材132の形状は、円柱、四角柱、三角柱など、何れの柱状であってもよい。また、微小部材132の形状は、
図6(b)に示すように、球状であってもよい。
【0065】
また、微小部材132は、紐状であってもよい。この場合、紐状の微小部材132は、微細溝121の溝底部122bに沿って固定した状態で配置される。
【0066】
以上のように、嵌合部材120は、金属ナノ粒子Mを形成した微小部材132を別体で作成した上で、微細溝121に取り付ける構成であってもよい。
【0067】
これにより、微小部材132に金属ナノ粒子Mをより確実に形成した上で、微細溝121に取り付けることができるので、金属ナノ粒子Mをより確実に形成した嵌合部材120を作成できる。よって、表面増強ラマン分光法を用いた測定方法により、ラマン散乱光L2をより確実に発光させることができ、この結果、測定精度を向上することができる。
【0068】
[本発明のその他の実施形態]
以上、上述の実施形態を用いて本発明について詳細に説明したが、当業者にとっては、本発明が本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではないということは明らかである。
【0069】
例えば、上述した第1実施形態では、微細溝121の断面形状は、V字形状である場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、
図7(a)〜(b)に示すように、微細溝121の断面形状は、コの字状、又は、U字形状あってもよい。すなわち、微細溝121の断面形状は、V字形状、U字形状、コの字状の何れであってもよい。又は、それらの組合せであってもよい。すなわち、V字形状、U字形状、コの字状の内の2つ以上を組合せた構成であってもよい。
【0070】
例えば、微細溝121の断面形状が、コの字状、又は、U字形状である場合、V字形状に比べて、溝底部122bに底面を広く確保でき、この底面に金属ナノ粒子Mを形成できる。このため、発光器40から放出させる励起光L1が、金属ナノ粒子Mに照射されやすくなり、ラマン散乱光L2がより発光しやすくなる。
【0071】
また、嵌合部材120の形状や微細溝121の形状は、様々な形状を適用できる。例えば、
図8(a)に示すように、嵌合部材120が、円柱形状であって、嵌合部材120の外周部120aに、中心軸Axに沿って延びる微細溝121が形成されていてもよい。また、
図8(b)に示すように、嵌合部材120が、円錐形状であって、嵌合部材120の外周部120aに、中心軸Axに沿って延びる微細溝121が形成されていてもよい。また、
図8(c)に示すように、嵌合部材120が、卵形形状であって、嵌合部材120の外周部120aに、中心軸Axに沿って延びる微細溝121が形成されていてもよい。
【0072】
或いは、
図9(a)に示すように、嵌合部材120は、中空部125を有する筒形状であって、嵌合部材120の外周部120aの一部において、両端が中空部125に連通する微細溝121が形成される構成であってもよい。また、
図9(b)に示すように、嵌合部材120の外周部120aに形成される微細溝121が、溝断面積が所定面積の第1微細溝121aと、溝断面積が所定面積よりも小さい第2微細溝121bとによって構成されていてもよい。なお、第1微細溝121aの溝断面積は、0.01mm
2〜10mm
2であり、第2微細溝121bの溝断面積は、100μm
2〜0.1mm
2であることが好ましい。
【0073】
図9(a)〜(b)に示す嵌合部材120によれば、溝面積の小さい微細溝121及び第2微細溝121bを、嵌合部材120の外周部120aの一部にのみ形成するので、全部にわたって形成する場合に比べて、流体を搬送する際の流路抵抗を抑制することができる。
【0074】
また、例えば、上述の実施形態では、管部材110の中空部111において、嵌合部材120が嵌合によってねじ込まれることで固定されていたが、これに限定されるものではない。例えば、嵌合部材120は、接着剤によって、管部材110の中空部111に固定されていてもよい。或いは、管部材110の外側から、管部材110と嵌合部材120とを挟み込む挟込部材を更に備えることで、嵌合部材120を固定してもよい。
【0075】
また、例えば、嵌合部材120を管部材110に嵌合する作業効率を高める観点から、嵌合部材120は、嵌合部材120のX方向の端部(端面)において、ドライバーなどの工具でねじ込むためのマイナス(−)溝又はプラス(+)溝が形成されていてもよい。
【0076】
このように、本発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。