(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6583924
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】モジュール式アジマス・スラスタ
(51)【国際特許分類】
B63H 5/125 20060101AFI20190919BHJP
B63B 9/00 20060101ALI20190919BHJP
B63H 21/17 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
B63H5/125
B63B9/00 Z
B63H21/17
【請求項の数】16
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-517493(P2016-517493)
(86)(22)【出願日】2014年9月24日
(65)【公表番号】特表2016-531784(P2016-531784A)
(43)【公表日】2016年10月13日
(86)【国際出願番号】EP2014070295
(87)【国際公開番号】WO2015044160
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2017年9月22日
(31)【優先権主張番号】13185723.7
(32)【優先日】2013年9月24日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516086381
【氏名又は名称】コングスベルグ マリタイム セーエム アーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アーセベ、ステイナール
(72)【発明者】
【氏名】ガレン、ルネ
【審査官】
杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2011/0318978(US,A1)
【文献】
特表2012−527590(JP,A)
【文献】
特開昭59−160697(JP,A)
【文献】
実開昭59−179293(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 5/125
B63B 9/00
B63H 21/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水がそのまわりを流れるスラスタ・ハウジング(11)を有する、船舶を推進するためのアジマス・スラスタ(1)において、
前記スラスタ・ハウジングの一部を形成するコア・ユニット・ハウジング(21)を有する標準化コア・ユニット(2)と、
前記コア・ユニット・ハウジング内に配置され、前記スラスタ・ハウジングの長手方向(13)で延びるプロペラ・シャフト(61)を含むトランスミッション・ライン(6)と、
前記スラスタ・ハウジングの外側に配置され、前記プロペラ・シャフトに動作可能に接続されるプロペラ(3)とを含み、
前記アジマス・スラスタは、前記コア・ユニット・ハウジングの外側表面領域(211)によって画定される整合用の第1のコア・ユニット接触面(9a)及び第2のコア・ユニット接触面(9b)上に搭載される第1及び第2の流体力学的要素(4、5)を含むことによって、引張式アジマス・スラスタと押し式アジマス・スラスタの両方として構成可能であり、
前記流体力学的要素は、前記スラスタ・ハウジングのまわりの前記水の流れを制御するように前記スラスタ・ハウジングの一部を形成し、
前記コア・ユニット接触面は、異なる流体力学的性質を有する異なる流体力学的要素を受け入れるように適合され、前記スラスタ・ハウジングは、スタブ部分(7)を含み、その一方端部が船舶上に回転可能に搭載されるように適合され、魚雷状部分(8)が前記スタブ部分の反対側端部に配置され、
前記流体力学的要素は、前記スタブ部分及び前記魚雷状部分の両方の一部を構成する、アジマス・スラスタ。
【請求項2】
前記トランスミッション・ラインは、ベアリング(62)及び歯車(63)をさらに含み、それらのすべては、前記コア・ユニット・ハウジング内に完全に収納される、請求項1に記載のアジマス・スラスタ。
【請求項3】
前記魚雷状部分の一部を形成する前記コア・ユニット・ハウジングの魚雷状区画(81)が、前記スラスタ・ハウジングの前記長手方向で、前記スタブ部分の一部を形成する前記コア・ユニット・ハウジングのスタブ区画(71)より広い、請求項1又は2に記載のアジマス・スラスタ。
【請求項4】
前記コア・ユニット接触面のそれぞれが、前記コア・ユニット・ハウジングの1つ又は複数の端部面(222)によって画定される、請求項1から3までのいずれかに記載のアジマス・スラスタ。
【請求項5】
前記コア・ユニット・ハウジングは、前記コア・ユニット・ハウジングの中心軸(12)と重なり、且つ前記スラスタ・ハウジングの前記長手方向を横切る方向に広がる対称平面(14)のまわりで対称である、請求項1から4までのいずれかに記載のアジマス・スラスタ。
【請求項6】
前記コア・ユニット・ハウジングは、前記アジマス・スラスタ自体の重量及び動作、並びに使用の間に前記スラスタ・ハウジングに対して作用する水によって誘起される力によって引き起こされる構造負荷及びベアリング負荷を吸収することによって、前記アジマス・スラスタの構造上の完全性をもたらすように適合される、請求項1から5までのいずれかに記載のアジマス・スラスタ。
【請求項7】
前記流体力学的要素は、複合材料、ポリマー、ガラス又は炭素の繊維強化ポリマー又はポリウレタンなど、非金属性材料から作られる、請求項1から6までのいずれかに記載のアジマス・スラスタ。
【請求項8】
前記流体力学的要素は、前記標準化コア・ユニットに部分的に重なる、又はそれを包み込む、請求項1から7までのいずれかに記載のアジマス・スラスタ。
【請求項9】
前記長手方向における前記コア・ユニット・ハウジングの最大幅Wcuが、前記長手方向における前記スラスタ・ハウジングの最大幅Wthの1/3〜1/4である、請求項1から8までのいずれかに記載のアジマス・スラスタ。
【請求項10】
前記スラスタ・ハウジングのt/c比が、0.2〜0.6の範囲中で構成可能である、請求項1から9までのいずれかに記載のアジマス・スラスタ。
【請求項11】
前記長手方向における前記コア・ユニット・ハウジングの前記魚雷状部分の幅が、前記プロペラ・シャフトの直径の12〜17倍である、請求項1から10までのいずれかに記載のアジマス・スラスタ。
【請求項12】
前記プロペラを駆動するための駆動手段が、永久磁石モータの形態の電気モータである、請求項1から11までのいずれかに記載のアジマス・スラスタ。
【請求項13】
前記プロペラは、プロペラ・ノズル中に設けられる第1の永久磁石163と、前記プロペラと接続されて配置される第2の永久磁石162と、によるリム駆動式であり、それにより半径方向及び軸方向の負荷を吸収することができるように前記プロペラのためのベアリングを提供し、
前記永久磁石モータは、前記プロペラ・ノズルが前記プロペラを回転させるように適合される回転磁場を形成するための巻線を含むことによって、前記プロペラ・ノズル中に組み込まれる、請求項12に記載のアジマス・スラスタ。
【請求項14】
請求項1から13までのいずれかに記載のアジマス・スラスタを含む船舶。
【請求項15】
請求項1から13までのいずれかに記載のアジマス・スラスタの流体力学的特性を構成する、又は再構成するための方法において、
標準化コア・ユニットを設けるステップと、
前記アジマス・スラスタの流体力学的特性を規定するステップと、
前記規定された流体力学的特性を満たすように流体力学的要素を前記標準化コア・ユニット上に搭載するステップとを含む、方法。
【請求項16】
既に前記標準化コア・ユニット上に搭載されている第1及び/又は第2の流体力学的要素を、流体力学的性質が異なる第3及び/又は第4の流体力学的要素に替えるステップをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水がそのまわりを流れるスラスタ・ハウジングを有する、船舶を推進するためのアジマス・スラスタに関し、このアジマス・スラスタは、スラスタ・ハウジングの一部を形成するコア・ユニット・ハウジングを有する標準化コア・ユニットと、コア・ユニット・ハウジング内に配置され、スラスタ・ハウジングの長手方向に延びるプロペラ・シャフトを含むトランスミッション・ラインと、スラスタ・ハウジングの外側に配置され、プロペラ・シャフトに動作可能に接続されるプロペラとを含む。本発明は、さらに、アジマス・スラスタを含む船舶及びアジマス・スラスタを構成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
また、アジマス・スラスタは、ポッド、ポッド駆動又はゴンドラ駆動として知られており、海洋船舶で広く使用される推進操舵ユニットである。アジマス・スラスタの様々な構成が知られており、それらは、プロペラが下流位置に搭載される押し式アジマス・スラスタ、又はプロペラが上流方向に搭載される引張式アジマス・スラスタのいずれかとして動作させることができる。押し式と引張式のアジマス・スラスタの両方は、それぞれ独特の利点を有し、異なる状況に基づき、たとえば船舶の設計及び運用に依存可能に選ぶことができる。
【0003】
従来、アジマス・スラスタは、鋳鉄及び鋼鉄などの材料から作られ、これらの材料によって、スラスタは、それらのしばしばかなりになるサイズに起因して非常に重くなる。スラスタが重いと、組み立て作業及び修理が面倒な仕事になり、しばしば船舶を乾ドックに入れることが必要になる。
【0004】
また、従来、アジマス・スラスタは、個別の船舶の設計及び対象とする運用に従って設計されて製造される。しかし、船舶の耐用年限の間、設計及び対象とする運用は、変化する可能性があり、元のアジマス・スラスタがそれほど適さなくなる。さらに、アジマス・スラスタが、しばしば個別の船舶の注文に応じて作られるので、構成要素の標準化が困難である。
【0005】
その結果として、構成要素の数量が小さく、生産方法が非効率的になり、生産コストがより高くなる。
【0006】
それゆえ、向上したアジマス・スラスタが有利なことになるはずであり、具体的には、より効率的な製造プロセスが実施できるようになり、重量が減少され、使用領域がより柔軟になるアジマス・スラスタが、有利なことになるはずである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1847455号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
具体的には、生産、使用の柔軟性及び重量に関する先行技術の上記に言及した問題を解決するアジマス・スラスタを提供することは、本発明のさらなる目的として見なすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、上記に述べた目的及びいくつかの他の目的は、本発明の第1の態様において、水がそのまわりを流れるスラスタ・ハウジングを有する、船舶を推進するためのアジマス・スラスタであって、このアジマス・スラスタは、スラスタ・ハウジングの一部を形成するコア・ユニット・ハウジングを有する標準化コア・ユニットと、コア・ユニット・ハウジング内に配置され、スラスタ・ハウジングの長手方向に延びるプロペラ・シャフトを含むトランスミッション・ラインと、スラスタ・ハウジングの外側に配置され、プロペラ・シャフトに動作可能に接続されるプロペラとを含み、該アジマス・スラスタは、コア・ユニット・ハウジングの外側表面領域によって画定される整合用の第1及び第2の流体力学的要素を含むことによって、引張式アジマス・スラスタと押し式アジマス・スラスタの両方として構成可能であり、この流体力学的要素は、スラスタ・ハウジングのまわりの水の流れを制御するようにスラスタ・ハウジングの一部を形成し、そのコア・ユニット接触面は、異なる流体力学的性質を有する異なる流体力学的要素を受け入れるように適合される、アジマス・スラスタを提供することによって、達成されると意図される。
【0010】
本発明は、引張式アジマス・スラスタ又は押し式アジマス・スラスタのいずれかとして構成することが可能であるアジマス・スラスタを得るために、特に、ただし排他的でなく有利である。これを達成するために、標準化コア・ユニットの下流に向かう側及び上流に向かう側の両方に流体力学的要素を備え、それによってスラスタ・ハウジングの流体力学的性質を制御することができるようにすることが望ましい。このことに関し、引張式アジマス・スラスタの所望の流体力学的性質は、押し式アジマス・スラスタのそれら性質と極めて異なる場合があることに留意すべきである。それゆえ、流体力学的要素を変えることによってスラスタ・ハウジングの流体力学的性質を制御できるようにすることが有利である。この点でのさらなる利点は、単に流体力学的要素を変えることによって、生産プロセスの後期においてスラスタの流体力学的特性を規定することができるということである。これによって、モジュール式スラスタの概念が実現され、それによって構成要素の数が増加し、適合したアジマス・スラスタの効率的な生産が保証される。
【0011】
アジマス・スラスタの一実施例では、トランスミッション・ラインは、ベアリング及び歯車をさらに含み、それらのすべては、コア・ユニット・ハウジング内に完全に収納される。
【0012】
アジマス・スラスタが船舶上に搭載されたとき、プロペラ・シャフトが、コア・ユニット・ハウジングから取り囲む水中に延びるトランスミッション・ラインのただ1つの部品であるアジマス・スラスタを提供することによって、標準化コア・ユニットの不浸透性だけを保証することが必要になる。これによって、流体力学的要素と標準化コア・ユニットの間の接続設計が受けなければならない要件をより少なくすることができ、アジマス・スラスタのコア・ユニットの不浸透性に対する懸念なしに、流体力学的要素を交換することができる。
【0013】
さらにまた、スラスタ・ハウジングは、スタブ部分を含むことができ、その一方の端部が船舶上に搭載されるように適合され、魚雷状部分がスタブ部分の反対側端部に配置され、流体力学的要素が両方のスタブ部分の一部及び魚雷状部分の一部を構成する。
【0014】
さらに、魚雷状部分の一部を形成するコア・ユニット・ハウジングの魚雷状区画は、スラスタ・ハウジングの長手方向でスタブ部分の一部を形成するコア・ユニット・ハウジングのスタブ区画より広くすることができる。
【0015】
コア・ユニット・ハウジングの魚雷状区画の幅を広くすることによって、プロペラ・シャフトを担うベアリングの間の距離を長くすることができ、それによってプロペラ・シャフトの懸架が向上される。
【0016】
また、コア・ユニット接触面のそれぞれは、コア・ユニット・ハウジングの1つ又は複数の端部面によって画定することができる。
【0017】
さらに、第1のコア・ユニット接触面及び第2のコア・ユニット接触面は、スラスタ・ハウジングのそれぞれ反対側に配置することができ、上流方向及び下流方向それぞれに向いている。
【0018】
さらに、上流方向に向いている第1のコア・ユニット接触面は、下流方向に向いている第2のコア・ユニット接触面と実質的に平行とすることができる。
【0019】
また、第1及び第2のコア・ユニット接触面は、スラスタ・ハウジングのスタブ部分の一部を形成するコア・ユニット・ハウジングの部分とスラスタ・ハウジングの魚雷状部分の一部を形成する部分の両方をカバーすることができる。
【0020】
さらに、コア・ユニット接触面のそれぞれは、コア・ユニット・ハウジングの複数の端部面によって画定することができ、複数の端部面は、互いに対してスラスタ・ハウジングの長手方向でずらされる。
【0021】
アジマス・スラスタの一実施例では、コア・ユニット・ハウジングは、コア・ユニット・ハウジングの中心軸と重なり、スラスタ・ハウジングの長手方向を横切る方向に広がる対称平面のまわりで対称である。
【0022】
さらにまた、コア・ユニット・ハウジングは、アジマス・スラスタ自体の重量及び動作、及び使用の間にスラスタ・ハウジング上に作用する水によって誘起される力によって引き起こされる構造負荷及びベアリング負荷を吸収することによって、アジマス・スラスタの構造上の完全性をもたらすように適合させることができる。
【0023】
コア・ユニット・ハウジングがアジマス・スラスタの重量及び動作、並びに水によって誘起される力によって引き起こされる構造負荷及びベアリング負荷を吸収することによって、流体力学的要素の設計のための高い柔軟性が実現される。
【0024】
また、コア・ユニット・ハウジングは、鋳鉄から作ることができる。
【0025】
さらにまた、一実施例では、流体力学的要素は、複合材料、ポリマー、ガラス又は炭素の繊維強化ポリマー又はポリウレタンなど、非金属性材料から作られる。
【0026】
従来の鋳鉄及び鋼鉄以外の材料を使用することによって、重量軽減が達成され、且つ流体力学的要素の形作りがより容易になる。これによって、流体力学的要素をより進んだ形状に形作ることが可能になる。
【0027】
上記に述べたアジマス・スラスタは、動作及びプロペラ効果を向上させるようにプロペラを取り囲むプロペラ・ノズルをさらに含むことができる。
【0028】
さらに、コア・ユニット・ハウジングは、スラスタ・ハウジングの補助部品になることができ、流体力学的要素は、スラスタ・ハウジングの主部品になることができる。
【0029】
また、長手方向におけるコア・ユニット・ハウジングの最大幅は、長手方向におけるスラスタ・ハウジングの最大幅の1/3〜1/4とすることができる。
【0030】
幅及び/又はサイズが比較的小さいコア・ユニット・ハウジングを実装することによって、コア・ユニット・ハウジングの形状は、スラスタの全体の流体力学的性質に対してほとんど影響を与えない。これによって、様々なスラスタ構成で使用するための共通の標準化コア・ユニット・ハウジングを実現することができる。
【0031】
さらにまた、スラスタ・ハウジングのt/c比は、0.2〜0.6の範囲中で構成可能とすることができる。
【0032】
なおさらに、長手方向におけるコア・ユニット・ハウジングの魚雷状部分の幅は、プロペラ・シャフトの直径の12〜17倍の範囲中とすることができる。
【0033】
また、本発明は、アジマス・スラスタを含む船舶に関する。
【0034】
さらに、本発明は、上記に述べたアジマス・スラスタを構成するための、又は再構成するための方法に関し、この方法は、標準化コア・ユニットを設けるステップと、アジマス・スラスタの流体力学的特性を規定するステップと、規定された流体力学的特性を満たすように、流体力学的要素を標準化コア・ユニット上に搭載するステップとを含む。
【0035】
さらにまた、本方法は、標準化コア・ユニット上に既に搭載された第1の及び/又は第2の流体力学的要素を、流体力学的性質が異なる第3及び/又は第4の流体力学的要素に替えるステップを含むことができる。
【0036】
アジマス・スラスタを構成するための本方法は、提案するモジュール式アジマス・スラスタの有利な効果を明らかに例示する。標準化コア・ユニットを使用することによって、全体のアジマス・スラスタの流体力学的性質は、製造プロセス中の比較的遅い段階で規定し確定することができる。これは、流体力学的性質が、一般的なスラスタ・ハウジングの設計によって、より早期に決定される従来のスラスタと比較すべきである。また、既に取り付けられた本発明によるアジマス・スラスタの流体力学的性質は、流体力学的要素を変えることによって再構成することができる。
【0037】
本発明の上記に述べた態様は、それぞれ他の態様のいずれかと結合することができる。本発明のこれら及び他の態様は、以降に述べる実施例を参照すると明らかになり、それによってはっきりと説明されることになる。
【0038】
ここで、本発明によるアジマス・スラスタを添付図に関してより詳細に述べることにする。図は、本発明を実施する1つの方法を示すが、その方法は、添付した特許請求の範囲内に含まれる他の可能な実施例を限定するとして解釈すべきでない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例によるアジマス・スラスタの概略図面である。
【
図2a】
図2aは、本発明の一実施例による押し式アジマス・スラスタの概略図面である。
【
図2b】
図2bは、本発明の別の実施例による引張式アジマス・スラスタの概略図面である。
【
図3a】
図3aは、アジマス・スラスタの標準化コア・ユニットの一実施例を示す図である。
【
図3b】
図3bは、アジマス・スラスタの標準化コア・ユニットの別の実施例を示す図である。
【
図4】
図4は、コア・ユニット・ハウジング内に収納されるトランスミッション・ラインを示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施例による押し式アジマス・スラスタを示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の別の実施例による引張式アジマス・スラスタを示す図である。
【
図7】
図7は、前縁がねじれたアジマス・スラスタを例示する概略図面である。
【
図8a】
図8aは、流体力学的要素をコア・ユニット上に搭載するための原理を示す図である。
【
図8b】
図8bは、流体力学的要素をコア・ユニット上に搭載するための別の原理を示す図である。
【
図9】
図9は、永久磁石モータを組み込んだプロペラ・ノズルの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1を参照すると、この図は、船、浮遊式生産プラットフォームなど、船舶17を推進するためのアジマス・スラスタ1を示す。アジマス・スラスタは、水がそのまわりを流れるスラスタ・ハウジング11を有し、そして第1及び第2の流体力学的要素4、5を備える標準化コア・ユニット2と、プロペラ3とを含む。スラスタ・ハウジング11は、船舶上に回転可能に搭載されるように適合されるスタブ部分7と、スタブ部分の反対側端部に配置される魚雷状部分8とを含む。アジマス・スラスタ1は、アジマス・スラスタの上に設けられた1つ又は複数の動作用操舵エンジン18によって、中心軸12のまわりで回転可能である。これによって、アジマス・スラスタの引っ張る又は押す力のベクトルを、中心軸12のまわりにおいて360°の区間で配向することができる。
【0041】
標準化コア・ユニット2は、スラスタ・ハウジング11の一部を形成するコア・ユニット・ハウジング21を有する。プロペラ・シャフト61及びドライブ・シャフト64を含むトランスミッション・ライン6が、コア・ユニット・ハウジングの内部に配置される。トランスミッション・ライン6は、
図4に分離して示されている。ドライブ・シャフト64は、スラスタ・ハウジングのスタブ部分を貫通して船舶中に延び、船舶中ではこのドライブ・シャフトを、搭載燃焼機関などの船舶の駆動手段(図示せず)に動作可能に接続することができる。プロペラ・シャフト61は、スラスタ・ハウジングの長手方向13で延び、プロペラ3は、スラスタ・ハウジングの外側でドライブ・シャフト上に搭載される。プロペラ・シャフト61は、ドライブ・シャフト64上に設けられたプロペラ・シャフト上に配置された駆動歯車631と協同するピニオン・ギア632によって、駆動される。
【0042】
別の実施例では(図示せず)、電気モータなどのプロペラを駆動するための駆動手段を、アジマス・スラスタのスラスタ・ハウジング中に配置することができる。これによって、プロペラ・シャフトは、駆動手段と直接関連付けることができ、ドライブ・シャフトが不必要になる。
【0043】
図9に示すように、電気モータは、スラスタ・ハウジング中に配置された、又はそれと接続されている永久磁石モータとすることができる。永久磁石モータは、アジマス・スラスタのプロペラ・ノズル15中に組み込むことができ、それによってリム駆動プロペラがもたらされる。或いは、永久磁石モータは、アジマス・スラスタにシャフト駆動プロペラを与えるスラスタ・ハウジング中に配置することができる。リム駆動プロペラは、第2の永久磁石162を備えた、プロペラ・ノズルの内部に回転可能に配置されたプロペラ・ハウジング161中にプロペラ3を配置することによって、実現することができる。プロペラ・ノズルの内周に沿って、第1の永久磁石163が配置され、第1及び第2の永久磁石は、共に、軸方向及び半径方向の両方の負荷を吸収することができる、プロペラ・ハウジングのためのベアリングになる。さらに、プロペラ・ノズルは、プロペラ・ハウジングを回転させるように適合される回転磁場を形成するための巻線を含む固定子164を構成し、そのプロペラ・ハウジングは、永久磁石を含むことによって回転子を構成する。巻線を通って流れる電流を制御することによって、プロペラ・ハウジングを回転させることができ、プロペラを駆動するための永久磁石モータがもたらされる。
【0044】
図2a及び
図3bにさらに詳細に示されている標準化コア・ユニットは、コア・ユニット・ハウジング21の外側表面領域211によって画定される第1のコア・ユニット接触面9a及び第2のコア・ユニット接触面9bを含む。流体力学的要素4、5は、コア・ユニット・ハウジング上に第1及び第2のコア・ユニット接触面9a、9bにおいて搭載され、それによってスラスタ・ハウジングの一部が形成される。コア・ユニット接触面は、流体力学的性質が異なる、すなわち
図2a及び
図2bに示すように形状及びサイズが変化する異なる流体力学的要素を受け入れるように適合される。コア・ユニット接触面の設計のための、且つ流体力学的要素4、5をコア・ユニット・ハウジング21上に搭載するための様々な原理は、当業者が予想することができる。たとえば、流体力学的要素は、コア・ユニット接触面9a、9bを単に当接させることができる、或いは、
図8a及び8bに示すように、部分的に、又は完全にコア・ユニット・ハウジングに重ねることができる。
図8aは、流体力学的要素がコア・ユニット・ハウジング21に部分的に重なるアジマス・スラスタを示す。
図8bは、標準化コア・ユニット2それゆえコア・ユニット・ハウジング21が流体力学的要素4、5によって包み込まれたアジマス・スラスタの実施例を示す。コア・ユニット・ハウジング21は、流体力学的要素によって部分的に、又は完全にのいずれかで包み込むことができ、それによって流体力学的要素は、1つの例示の実施例で互いに結合させることができる。
【0045】
流体力学的要素は、スラスタ・ハウジングの所望の流体力学的性質が達成されるように選ぶことができるが、しかしまた、アジマス・スラスタが引張式又は押し式のアジマス・スラスタであるのかどうかによって選ぶことができる。これによって、アジマス・スラスタは、引張式と押し式のアジマス・スラスタの両方として構成可能である。
【0046】
図に示すように、流体力学的要素4、5は、スラスタ・ハウジングのスタブ部分7と魚雷状部分8の両方の一部を構成し、それによってアジマス・スラスタの流体力学的性質に対して実質的な影響を及ぼす。それゆえ、流体力学的要素4、5の形状を変えることによって、スラスタ・ハウジングの長さ及び表面領域は、制御することができる。
【0047】
図7を参照すると、また、流体力学的要素は、スラスタ・ハウジングのt/c比を制御するために使用することができ、この比は、コード長、すなわち長手方向におけるスラスタ・ハウジングの最大幅W
thと、スラスタ・ハウジングの厚さ、すなわち横切る方向におけるスラスタ・ハウジングの最大幅との間の関係である。
【0048】
モジュール式設計のさらなる効果は、スラスタ・ハウジングのねじり、すなわち
図7に示すように、スラスタ・ハウジングの長手方向で延びる中心軸131に対してスラスタ・ハウジングの前縁224の位置を制御するために、流体力学的要素を使用することができるということである。必要なねじりは、スラスタが引張式又は押し式のスラスタであるかどうか、船舶の意図する速度、プロペラの回転方向、プロペラ負荷などで決めることができる。
【0049】
再び
図2を参照すると、魚雷状部分8の一部を形成するコア・ユニット・ハウジングの魚雷状区画81が、スタブ部分7の一部を形成するコア・ユニット・ハウジングのスタブ区画71より、長手方向において広いことが示されている。そのような構成を使用することによって、プロペラ・シャフト61を担うベアリング62の間の距離を、コア・ユニット・ハウジングのスタブ部分の幅を最小に保ちながら、長くすることができる。また、
図2bから、長手方向におけるコア・ユニット・ハウジングの最大幅W
cuが、長手方向におけるスラスタ・ハウジングの最大幅W
thの1/3〜1/4であることが分かる。
【0050】
コア・ユニット・ハウジングの幅を減少させると、一般に、スラスタ・ハウジングの全部の流体力学的性質に対するコア・ユニット・ハウジングの影響が減少する。標準化コア・ユニットの魚雷状区画81の幅を広くすることによるさらなる有利な効果は、コア・ユニット接触面9a、9bのそれぞれが、互いに対してずらされるコア・ユニット・ハウジングの複数の端部面222によって画定されることである。コア・ユニット接触面のこの構成によって、コア・ユニット・ハウジングと流体力学的要素の間に向上した接続を生成することになり得る。
【0051】
図2a及び
図5は、矢印の方向によって示される押し式アジマス・スラスタとして構成されたアジマス・スラスタを示す。押し式アジマス・スラスタは、プロペラがスラスタ・ハウジングの下流側に搭載される。
図5に示す本実施例では、スラスタは、動作及びプロペラ効果を向上させるためにプロペラを取り囲むプロペラ・ノズル15をさらに含む。
【0052】
図2b及び
図6の両方は、矢印の方向によって示される引張式アジマス・スラスタとして構成されたアジマス・スラスタを示す。引張式アジマス・スラスタは、プロペラがスラスタ・ハウジングの上流側に搭載され、スラスタは、スラスタ・ハウジングの総外側表面積を増加させるために、魚雷状部分から延びるフィン要素16をさらに備えることができる。
【0053】
図1に示し上記に述べたように、アジマス・スラスタは、スラスタを回すために1つ又は複数の操舵エンジン18を含む船舶17から延びる。一実施例では、操舵エンジン(複数可)は、船舶上に回転可能に搭載されたスタブ部分7の端部に設けられた歯車リム(図示せず)と協同する油圧モータの電気部とすることができる。操舵エンジンを含むアジマス・スラスタのための搭載部の寸法を付けるとき、アジマス・スラスタを回すために必要なトルクを考慮すべきである。アジマス・スラスタを回すために必要なトルクは、スラスタ・ハウジングの流体力学的性質、スラスタの回転速度、プロペラの回転及び船舶の速度など、いくつかの変数によって決まる。これに関し、欧州特許出願公開第1847455号明細書に、プロペラ軸を駆動するピニオン・ギアが、動作の間、スラスタを回すことに関連するアジマス・スラスタの抵抗トルクに逆らって作用するトルクを生成するアジマス・スラスタが開示されている。この結果、ピニオン・ギアの回転によって生じるトルクは、スラスタのトルク抵抗に対抗するために使用され、それによって動作の間にアジマス・スラスタを回すために必要なトルクが減少する。次いで、これは、アジマス・スラスタを回すために必要な操舵エンジンのサイズ及び/又は数量を減少させることになり得る。
【0054】
さらに、本発明によるアジマス・スラスタが引張式と押し式の両方のアジマス・スラスタとして使用されることになる場合、当業者は、引張構成であるとき、アジマス・スラスタに対して作用する力に従って搭載部の寸法を付けるべきであることを知ることになるはずである。これは、引張式アジマス・スラスタを回すために必要なトルクは、対応する押し式アジマス・スラスタを回すために必要なトルクより大きいという一般の観測による。
【0055】
下記では、構成する、すなわち標準化構成要素から製造するための方法、上記に述べたアジマス・スラスタの実施例をより詳細に述べることにする。
【0056】
流体力学的性質がそれぞれ独特である押し式と引張式の両方のアジマス・スラスタの様々な実施例は、同じ標準化コア・ユニット2に基づき構成することができる。本発明によってアジマス・スラスタを生産するために、標準化コア・ユニット2が設けられる。コア・ユニット・ハウジング21のいずれもの側にプロペラ3のための搭載部を設けることができ、そしてトランスミッション・ライン6の構成内容及び寸法付けを変えることができるので、標準化コア・ユニットの変形例が存在することができる。次に、具体的なアジマス・スラスタ1を押し式タイプ又は引張式タイプのものにすべきかどうかが決定されて、所望の流体力学的特性が規定される。アジマス・スラスタの規定された流体力学的特性に基づき、適切な流体力学的要素4、5が選ばれて、標準化コア・ユニット上に搭載される。
【0057】
この点においてかなりの有利な効果は、カスタマイズされたアジマス・スラスタ1を標準化された構成要素に基づき組み立てることができるということである。標準化構成要素を使用する1つの利点は、製品変形が最終生産プロセスの終わりごろに導入されるということである。それゆえ、標準化構成要素は、将来アジマス・スラスタの正確な仕様が知られた後、生産することができる。これによって、注文から納入までの生産時間を短縮することができ、標準化構成要素を使用すると数量を増加させることができる。数量を増加させることによって、より効率的な生産プロセスを利用することができる。特に、流体力学的要素のために複合材料又は非金属性材料を使用することになると、効率的な生産プロセスが決定的に重要なことになる。標準化構成要素を使用せずに複合材料からカスタマイズされたアジマス・スラスタを作ることは、費用が極めて非効率であって競合できない。したがって、アジマス・スラスタに複合材料又は非金属性材料を使用できるようにするために、標準化構成要素を設計に組み入れることが必須である。
【0058】
本発明によるアジマス・スラスタ1のさらなる利点は、既に標準化コア・ユニット上に搭載されている流体力学的要素4、5の1つ又は両方を交換することによって、アジマス・スラスタを再構成することができるということである。たとえば、アジマス・スラスタ1がその上に搭載されている船舶に対する設計が変更される場合、又は使用パターンが変更される場合、アジマス・スラスタ1の流体力学的性質を変化させることが有利になり得る。具体的には、本発明の実施例によるアジマス・スラスタは、再構成して、スラスタ・ハウジングのねじれ、又はt/c比を変更することができる。完全に新しいアジマス・スラスタを船舶上に取り付けなければならない代わりに、本発明によるアジマス・スラスタの流体力学的性質を、流体力学的要素4、5を単に変えることによって、変更することができる。
【0059】
当業者が容易に理解されることになるはずのように、アジマス・スラスタが押し式と引張式の両方のアジマス・スラスタとして構成可能であるためには、スラスタ・ハウジングの前縁部及び後縁部の両方の形状が、最適な流体力学的性質を有するアジマス・スラスタに到達するように、制御可能でなくてはならない。これは、本発明によって、コア・ユニット・ハウジングの両側に配置される流体力学的要素を使用して達成される。
【0060】
本発明を詳細に記した実施例に関して述べてきたけれども、本発明は、提示した実例に限定されると決して解釈すべきでない。本発明の範囲は、添付した特許請求の範囲によって設定される。請求項の文脈において、用語「含む(comprising)」又は「含む(comprises)」は、他の可能な要素又はステップを排除しない。また、「1つの(a)」又は「1つの(an)」などの参照記号の言及は、複数を排除するものとして解釈すべきでない。また、図に示す要素に関する請求項における参照記号の使用は、本発明の範囲を限定すると解釈しないものとする。さらにまた、異なる請求項における個別の特徴は、恐らく有利に互いに結合することができ、異なる請求項におけるこれらの特徴の言及は、特徴の組み合わせが可能でなく不利であることを排除しない。