特許第6583935号(P6583935)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6583935
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】新規なバチルス菌株
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20190919BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20190919BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20190919BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20190919BHJP
   A01N 63/00 20060101ALI20190919BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   C12N1/20 A
   C12N1/20 F
   C12N1/20 D
   C12N1/20 E
   C02F3/34 ZZAB
   C02F11/00 F
   A01P3/00
   A01N63/00 F
   B09B3/00 D
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-100014(P2018-100014)
(22)【出願日】2018年5月24日
【審査請求日】2018年9月10日
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02700
(73)【特許権者】
【識別番号】000203656
【氏名又は名称】多木化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】秋津 教雄
(72)【発明者】
【氏名】金城 裕行
(72)【発明者】
【氏名】山口 勇
【審査官】 松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/101060(WO,A1)
【文献】 特開2018−008945(JP,A)
【文献】 特開平11−285378(JP,A)
【文献】 特開平07−222791(JP,A)
【文献】 特開2007−302706(JP,A)
【文献】 特開平08−175924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20
A01N 63/00
A01P 3/00
B09B 3/00
C02F 3/34
C02F 11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
AGRICOLA(STN)
BIOTECHNO(STN)
FSTA(STN)
SCISEARCH(STN)
TOXCENTER(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接抗菌活性及び間接抗菌活性を備えた、受託番号:NITE P−02700で寄託されているBacillus subtilisに属する新規微生物BS-T2株。
【請求項2】
更に、消臭能を備えた請求項記載のBS-T2株。
【請求項3】
請求項1又は2記載のBS-T2株の生菌及び芽胞のいずれか一方又は双方を含有した粉状又は粒状の固形物。
【請求項4】
請求項記載の固形物を含有した、抗菌防黴用、消臭用、ぬめり抑制用、堆肥化促進用、生ごみ処理用、土壌改良用、植物病害防除用、水質浄化用又は汚泥処理用の組成物。
【請求項5】
請求項記載の組成物を、抗菌防黴用途、消臭用途、ぬめり抑制用途、堆肥化促進用途、生ごみ処理用途、土壌改良用途、植物病害防除用途、水質浄化用途又は汚泥処理用途に使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Bacillus subtilis(バチルス ズブチリス)に属する新規な菌株に関する。
【背景技術】
【0002】
バチルス属微生物については、種々の菌株が分離・開発され、用途展開が図られている。例えば、特許文献1には、バチルス フィルムス(Bacillus firmus)に属する菌株を水質浄化剤、抗菌防黴剤等の用途に用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018−7581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規なバチルス菌株の提供を課題とするものであり、とりわけ当該菌株が直接抗菌活性及び間接抗菌活性、更には消臭能を備えたものの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下のとおりである。
[1]受託番号:NITE P−02700で寄託されているBacillus subtilisに属する新規微生物BS-T2株。
[2]直接抗菌活性及び間接抗菌活性を備えた上記[1]記載のBS-T2株。
[3]更に、消臭能を備えた上記[2]記載のBS-T2株。
[4]上記[1]〜[3]のいずれか1項記載のBS-T2株の生菌及び芽胞のいずれか一方又は双方を含有した粉状又は粒状の固形物。
[5]上記[4]記載の固形物を含有した、抗菌防黴用、消臭用、ぬめり抑制用、堆肥化促進用、生ごみ処理用、土壌改良用、植物病害防除用、水質浄化用又は汚泥処理用の組成物。
[6]上記[5]記載の組成物を、抗菌防黴用途、消臭用途、ぬめり抑制用途、堆肥化促進用途、生ごみ処理用途、土壌改良用途、植物病害防除用途、水質浄化用途又は汚泥処理用途に使用する方法。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】試験例1(直接抗菌活性)における培養期間終了後の居住空間汚染菌の生育状況を示した写真である。
図2】試験例1(直接抗菌活性)における培養期間終了後のリゾクトニア菌の生育状況を示した写真である。
図3】試験例2(間接抗菌活性)における培養期間終了後の居住空間汚染菌の生育状況を示した写真である。
図4】試験例3(消臭能)における試験対象ガスの経時変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【0008】
本発明の新規なバチルス菌株は、遺伝子解析等によりBacillus subtilisに属すると判断されたものであり、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)に受託番号:NITE P−02700として2018年4月20日付けで寄託が受託されたBS-T2株である。
【0009】
BS-T2株の有する好適な特性として、直接抗菌活性及び間接抗菌活性が挙げられる。
【0010】
直接抗菌活性は、接触抗菌活性とも称されるものであり、BS-T2株が直接的に接触する汚染菌に対して抗菌活性を示すことをいう。BS-T2株による直接抗菌活性が作用する汚染菌は、居住空間汚染菌であれば、例えば、クロカビ、アカカビ、カワキコウジカビ、コウジカビ、黒色酵母様菌、アオカビ、クモノスカビ、ケタマカビ等が挙げられ、植物病原菌であれば、例えば、ラージパッチ病等の病原菌として知られるリゾクトニア菌、灰色カビ病の病原菌として知られるボトリシス菌等が挙げられる。上記居住空間汚染菌のうち、特にBS-T2株による直接抗菌活性の作用が顕著に認められるのは、クロカビ、アカカビ、カワキコウジカビ、コウジカビ、ケタマカビである。
【0011】
直接抗菌活性には、そのメカニズムは定かではないが、BS-T2株が産生・放出する各種の抗菌物質、例えば、酵素、抗生物質、抗菌性ペプチド、プロテアーゼ等が作用しているものと推測される。
【0012】
直接抗菌活性を評価するための好適な一方法は、同一シャーレ内においてBS-T2株と汚染菌を対峙培養し、BS-T2株非接種の無処理区における汚染菌の広がりと比較する方法である。無処理区と比較して汚染菌の広がりが抑制されていれば、直接抗菌活性を有すると評価することができる。
【0013】
間接抗菌活性は、遠隔抗菌活性、空間抗菌活性、非接触抗菌活性とも称されるものであり、BS-T2株が、空間を介して、即ち、汚染菌と直接接触しない状況下で、汚染菌に対して抗菌活性を示すことをいう。BS-T2株による間接抗菌活性が作用する汚染菌は、居住空間汚染菌であれば、例えば、クロカビ、アカカビ、カワキコウジカビ、コウジカビ、黒色酵母様菌、アオカビ、クモノスカビ、ケタマカビ等が挙げられる。
【0014】
間接抗菌活性には、そのメカニズムは定かではないが、BS-T2株が産生・放出する揮発性の抗菌物質が作用しているものと推測される。
【0015】
間接抗菌活性を評価するための好適な一方法は、次のとおりである。まず、同じ形状のシャーレを2枚用意し、一方のシャーレにはBS-T2株を接種し、一定程度の範囲となるまで培養する。この時点で他方のシャーレに汚染菌を接種する。なお、上記各シャーレは、接種する菌に適した培地が付されたものである。次に、BS-T2株を培養したシャーレ上に、汚染菌を接種したシャーレを天地反転させてずれのないように接合し(BS-T2株の上方に空間を介して汚染菌を対峙させる)、両シャーレ間に隙間ができないように封止する。この状態で、一定期間経過後に、無処理区と比較して汚染菌の広がりが抑制されていれば、間接抗菌活性を有すると評価することができる。
【0016】
BS-T2株の有する更に好適な特性として、消臭能が挙げられる。消臭能は、BS-T2株によって悪臭物質の濃度が低減することをいう。BS-T2株による消臭能が作用する悪臭物質として、例えば、アンモニア、トリメチルアミン、酢酸、イソ吉草酸、ホルムアルデヒド、硫化水素等が挙げられる。
【0017】
消臭能には、そのメカニズムは定かではないが、BS-T2株が産生・放出する揮発性物質が作用しているものと推測される。
【0018】
消臭能を評価するための好適な一方法は、密閉容器内にBS-T2株と所定量の悪臭物質を封入し、BS-T2株非設置の無処理区と悪臭濃度を比較する方法である。無処理区と比較して悪臭濃度が低下していれば、消臭能を有すると評価することができる。
【0019】
BS-T2株の実用上の好適な形態は、BS-T2株の生菌及び芽胞のいずれか一方又は双方を含有した粉状又は粒状の固形物(以下「BS-T2固形物」という)である。BS-T2固形物として、(i)BS-T2株の生菌及び/又は芽胞だけで構成された粉体、(ii)(i)を造粒した粒状体、(iii)BS-T2株の生菌及び/又は芽胞を粉状又は粒状の担体に担持させたもの、を例示することができる。
【0020】
上記(i)は、BS-T2株以外の成分を含有しないものである。具体例として、BS-T2株の生菌だけで構成された凍結乾燥粉体、BS-T2株の芽胞だけで構成された凍結乾燥粉体、BS-T2株の生菌及び芽胞だけで構成された凍結乾燥粉体、BS-T2株の芽胞だけで構成された乾燥粉体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。芽胞状態であることの利点は、特に乾燥、熱、圧力、薬品等に対する耐性に優れているため、高い保存安定性を得ることができることである。
【0021】
上記(ii)は、上記(i)の粉体を所定の造粒剤を用いて造粒したものである。造粒剤は、造粒に資するものであれば特に限定されないが、形態としては粉体が好ましい。例えば、無機粉体、多糖類、高分子等が挙げられる。無機粉体の例として、ベントナイト、カオリン、石膏等が挙げられる。多糖類の例として、デンプン、セルロース等が挙げられる。高分子の例として、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0022】
上記(iii)に用いる担体は、BS-T2株の生菌及び/又は芽胞を担持できるものであることが好ましい。好例は、多孔質状のものである。担体の構成材料として、例えば、炭化物、鉱物、金属又は金属塩、ケイ素、高分子等が挙げられ、これらの粉体又は粒状体が好ましい。具体例として、竹炭、木炭、籾殻くん炭、活性炭、ゼオライト、パーライト、ベントナイト、セラミクス、アルミナ、石膏、シリカゲル、多孔質ガラス、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。担体に保持される菌数については特に限定されることなく、使用目的及び担体の担持力に応じて適宜設定すればよいが、例えば、担体1g当たり104CFU以上であることが好ましく、より好ましくは105CFU以上であり、更に好ましくは106CFU以上である。
【0023】
BS-T2固形物は、その有する特性を活かして、抗菌防黴用、消臭用、ぬめり抑制用、堆肥化促進用、生ごみ処理用、土壌改良用、植物病害防除用、水質浄化用又は汚泥処理用の組成物として使用することができる。当該組成物は、BS-T2固形物そのものであってもよいし、組成物の使用目的に応じてBS-T2固形物の他に第三の成分・化合物を含有して構成された粉体、粒子、その他固体形状のものであってもよい。
【0024】
上記組成物は、その有する特性を活かして、抗菌防黴用途、消臭用途、ぬめり抑制用途、堆肥化促進用途、生ごみ処理用途、土壌改良用途、植物病害防除用途、水質浄化用途又は汚泥処理用途に使用することができる。
【実施例】
【0025】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0026】
(BS-T2固形物)
所定濃度のBS-T2株の培養液をゼオライトに担持させ、これを乾燥したものをBS-T2固形物とした。BS-T2固形物における菌数の桁数は、109CFU/gであった。
【0027】
(汚染菌の種類)
以下の試験例1(直接抗菌活性)と試験例2(間接抗菌活性)に用いた居住空間汚染菌を表1に示した。これら汚染菌は、居住空間などで問題となっているものである。ここで、アカカビは細菌に分類されるものであり、表1中のアカカビ以外の居住空間汚染菌は不完全菌類、接合菌、子嚢菌等の糸状菌に分類されるものである。また、試験例1(直接抗菌活性)に用いた植物病原菌を表2に示した。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
(前培養)
表1の居住空間汚染菌の前培養用の培地として、アカカビはNBRC325液体培地、カワキコウジカビはNBRC3寒天培地、ケタマカビはNBRC8培地、それ以外の菌はPDA培地を用いた。
アカカビは、上記培地30mLを入れた50mL容三角フラスコ内で対数増殖期まで静置培養し、培養液200μLを滅菌生理食塩水1.8mLに懸濁させたものを菌原液とした。
表1中のアカカビ以外の居住空間汚染菌は、試験例1用には、上記各培地20mLを入れた直径90mmシャーレで胞子形成期まで静置培養したものを培地ごと5mm角で切り出し、これをイノキュラム(inoculum;接種材料)とした。
表1中のアカカビ以外の居住空間汚染菌は、試験例2用には、上記各培地20mLを入れた直径90mmシャーレで胞子形成期まで静置培養した後、0.01%SDS添加滅菌生理食塩水3mLを加え、ここから回収した胞子懸濁液2mLを滅菌生理食塩水によって100倍希釈したものを糸状菌原液とした。
表2中の植物病原菌は、PDA培地20mLを入れた直径90mmシャーレで胞子形成期まで静置培養したものを培地ごと5mm角で切り出し、これをイノキュラムとした。
【0031】
〔試験例1:直接抗菌活性〕
標準寒天培地を設置した直径90mmシャーレにおいて、シャーレを平面視したときに、シャーレの中心Oを通る仮想線(仮想線1)でシャーレを上半分と下半分を分け、シャーレの中心を通り仮想線1に直角な仮想線を仮想線2とし、シャーレ下半分の円弧と仮想線2との交点をPとする。
各汚染菌について、シャーレ下半分側に汚染菌を配置した。具体的には、菌原液(アカカビ)は仮想線1よりも下半分側の部分において菌原液100μLを画線接種により配置し、イノキュラム(アカカビ以外の菌)は中心OとPを結ぶ線分の中点付近に設置した。
・BS-T2区:BS-T2固形物0.5gをシャーレ上半分側、具体的には、仮想線1よりも上側の各所に配置した。
・無処理区:上記においてシャーレ上半分側には何も配置しなかった。
菌原液(アカカビ)を接種したシャーレは30℃で3日間培養し、また、イノキュラム(アカカビ以外の菌)を設置したシャーレは30℃で7日間培養した。各培養期間終了後に、無処理区のシャーレと比較したBS-T2区における汚染菌のコロニーの生育程度を観察し評価した。
【0032】
図1(a)〜(c)に、培養期間終了後の写真を示した。
(a)のクロカビ(菌株:NBRC 6348)において、無処理区ではクロカビが全面的に蔓延したのに対し、BS-T2区ではシャーレ上半分側のBS-T2固形物の配置箇所とその周辺ではクロカビの生育が抑制された。なお、BS-T2固形物を誤ってシャーレ下半分側にも配置したが、その配置箇所でもクロカビの生育が抑制された。
(b)のカワキコウジカビ(菌株:NBRC 8157)と(c)のコウジカビ(菌株:NBRC 105649)においても、BS-T2区ではシャーレ上半分側のBS-T2固形物の配置箇所とその周辺ではそれぞれのカビの生育が抑制された。
【0033】
図2は、培養期間終了後のリゾクトニア菌におけるBS-T2区の写真である。シャーレ上半分側のBS-T2固形物の配置箇所とその周辺ではクロカビの生育が抑制された。
【0034】
表3に、培養期間終了後の無処理区と比較したBS-T2区における汚染菌のコロニーの生育程度の5段階評価を示した。
【0035】
【表3】
【0036】
表3の結果より、BS-T2株は、居住空間汚染菌及び植物病原菌に対して強い直接抗菌活性を発揮したことが分かる。このメカニズムは定かではないが、BS-T2株が標準寒天培地中に分泌した何らかの物質、例えば、酵素、抗生物質、抗菌性ペプチド、プロテアーゼ等が居住空間汚染菌及び植物病原菌に対して作用することによって生育抑制効果が得られたと推察された。この結果は、居住空間汚染菌について言えば、BS-T2株を居住空間汚染菌に直接接触させたときに、居住空間汚染菌の生育を抑制させることにより、居住空間汚染菌に起因する素材の劣化や染み・汚れ等を抑制することが可能となることを示唆するものである。
【0037】
〔試験例2:間接抗菌活性〕
直径90mmシャーレに設置した標準寒天培地上にBS-T2固形物を敷き詰め、30℃で24時間培養した(これをBS-T2株シャーレと称する)。この24時間培養終了後に、居住空間汚染菌を直径90mmシャーレに接種し(これを汚染菌シャーレと称する)、BS-T2株シャーレの上に汚染菌シャーレを天地反転させてずれのないように載置し、シャーレ同士の接合部はテープで封止した。これにより、BS-T2株と居住空間汚染菌を密閉条件下で空間を介して対峙させた。なお、アカカビの汚染菌シャーレは、シャーレに設置した前培養用と同じ種類の培地に菌原液を100μL塗沫接種して作製した。アカカビ以外の居住空間汚染菌の汚染菌シャーレは、シャーレに設置した前培養用と同じ種類の培地に糸状菌原液を100μL塗沫接種して作製した。無処理区は、上記において下側シャーレにBS-T2株を配置しなかったものである。
上記封止後、アカカビ接種の系は30℃で3日間培養し、アカカビ以外の居住空間汚染菌接種の系は30℃で7日間培養した。各培養期間終了後に、無処理区と比較したBS-T2区における汚染菌のコロニーの生育程度を観察し評価した。
【0038】
図3(a)〜(c)に、培養期間終了後の写真を示した。写真中のシャーレは、いずれも汚染菌を接種した上側シャーレである。
(a)のアカカビ(菌株:NBRC 15688)において、無処理区ではアカカビが全面的に蔓延したのに対し、BS-T2区ではアカカビが確認できないほどに生育が顕著に抑制された。(b)のクロカビ(菌株:NBRC 6348)と(c)のクロカビ(菌株:NBRC 30313)においても、BS-T2区ではそれぞれクロカビが確認できないほどに生育が顕著に抑制された。
【0039】
表4に、培養期間終了後の無処理区と比較したBS-T2区における汚染菌のコロニーの生育程度の5段階評価を示した。
【0040】
【表4】
【0041】
表4の結果より、BS-T2株は、居住空間汚染菌に対して強い間接抗菌活性を発揮したことが分かる。このメカニズムは定かではないが、BS-T2株が産生し放出する揮発性の抗菌物質が空間を介して居住空間汚染菌に対して作用することによって生育抑制効果が得られたと推察された。この結果は、BS-T2株を用いることにより、対象とする居住空間汚染菌に直接接触せずとも、空間を介した間接的な居住空間汚染菌の生育抑制により、居住空間汚染菌に起因する素材の劣化や染み・汚れ等を抑制することが可能となることを示唆するものである。
【0042】
〔試験例3:消臭能〕
(1)試薬及び器具
・におい袋(35cm×50cm)(アラム株式会社)
・試験対象ガス
アンモニア:アンモニア水(28%、特級)(小宗化学薬品株式会社)から発生させたガス
トリメチルアミン:トリメチルアミン水溶液(28%)(東京化成工業株式会社)から発生させたガス
酢酸:酢酸(特級)(小宗化学薬品株式会社)から発生させたガス
イソ吉草酸:イソ吉草酸(特級)(東京化成工業株式会社)から発生させたガス
ホルムアルデヒド:ホルムアルデヒド(36%、特級)(関東化学株式会社)から発生させたガス
硫化水素:硫化鉄(II)(硫化水素発生用)(小宗化学薬品株式会社)に希硫酸を加えて発生させたガス
・ガス検知管:上記各ガスを対象としたガス検知管(株式会社ガステック)を用いた。
(2)操作
検体を前処理した後、試験を実施した。詳細は以下のとおりである。
・検体:BS-T2固形物10gをナイロンメッシュ袋に収容したものを用いた。
・前処理:容量9.3Lのポリプロピレン製のシール容器内の両端部に合計1Lのイオン交換水を入れた200mLビーカーを複数個配置し、中央部に検体を立てて放置できるようにしたスライドガラス立てを配置し、このスライドガラス立てを用いて検体を立てた状態とした。シール容器を密閉状態とし、約16時間加湿させた。
・試験:加湿した検体をにおい袋に入れ、ヒートシールを施した後、空気9Lを封入し、設定したガス濃度(表5「初期ガス濃度」参照)となるように試験対象ガスを添加した。これを室温で静置し、所定の経過時間ごと(表5「測定時間」参照)に袋内のガス濃度をガス検知管を用いて測定した(BS-T2区)。一方、検体を入れずに同様にしてガス濃度を測定したものを無処理区とした。
【0043】
【表5】
【0044】
結果を図4に示した。各グラフにおいて、縦軸はガス濃度、横軸は時間である。
BS-T2区は、いずれの試験対象ガスにおいても無処理区よりもガス濃度が低下したことより、BS-T2株の有する消臭能によって悪臭である試験対象ガスの濃度を低減させたと評価できるものであった。特に、短時間で顕著な効果が現れた試験対象ガスは、アンモニア、トリメチルアミン、酢酸、イソ吉草酸、ホルムアルデヒドであった。BS-T2株による消臭能のメカニズムは定かではないが、BS-T2株が産生・放出する揮発性物質が作用しているものと推測された。
【要約】
【課題】本発明は、新規なバチルス菌株の提供を課題とするものであり、とりわけ当該菌株が直接抗菌活性及び間接抗菌活性、更には消臭能を備えたものの提供を課題とする。
【解決手段】本発明は、受託番号:NITE P−02700で寄託されているBacillus subtilisに属する新規微生物であるBS-T2株を提供するものである。当該BS-T2株が備える好適な特性として、直接抗菌活性及び間接抗菌活性を挙げることができ、更には消臭能を挙げることができる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4