【実施例】
【0025】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0026】
(BS-T2固形物)
所定濃度のBS-T2株の培養液をゼオライトに担持させ、これを乾燥したものをBS-T2固形物とした。BS-T2固形物における菌数の桁数は、10
9CFU/gであった。
【0027】
(汚染菌の種類)
以下の試験例1(直接抗菌活性)と試験例2(間接抗菌活性)に用いた居住空間汚染菌を表1に示した。これら汚染菌は、居住空間などで問題となっているものである。ここで、アカカビは細菌に分類されるものであり、表1中のアカカビ以外の居住空間汚染菌は不完全菌類、接合菌、子嚢菌等の糸状菌に分類されるものである。また、試験例1(直接抗菌活性)に用いた植物病原菌を表2に示した。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
(前培養)
表1の居住空間汚染菌の前培養用の培地として、アカカビはNBRC325液体培地、カワキコウジカビはNBRC3寒天培地、ケタマカビはNBRC8培地、それ以外の菌はPDA培地を用いた。
アカカビは、上記培地30mLを入れた50mL容三角フラスコ内で対数増殖期まで静置培養し、培養液200μLを滅菌生理食塩水1.8mLに懸濁させたものを菌原液とした。
表1中のアカカビ以外の居住空間汚染菌は、試験例1用には、上記各培地20mLを入れた直径90mmシャーレで胞子形成期まで静置培養したものを培地ごと5mm角で切り出し、これをイノキュラム(inoculum;接種材料)とした。
表1中のアカカビ以外の居住空間汚染菌は、試験例2用には、上記各培地20mLを入れた直径90mmシャーレで胞子形成期まで静置培養した後、0.01%SDS添加滅菌生理食塩水3mLを加え、ここから回収した胞子懸濁液2mLを滅菌生理食塩水によって100倍希釈したものを糸状菌原液とした。
表2中の植物病原菌は、PDA培地20mLを入れた直径90mmシャーレで胞子形成期まで静置培養したものを培地ごと5mm角で切り出し、これをイノキュラムとした。
【0031】
〔試験例1:直接抗菌活性〕
標準寒天培地を設置した直径90mmシャーレにおいて、シャーレを平面視したときに、シャーレの中心Oを通る仮想線(仮想線1)でシャーレを上半分と下半分を分け、シャーレの中心を通り仮想線1に直角な仮想線を仮想線2とし、シャーレ下半分の円弧と仮想線2との交点をPとする。
各汚染菌について、シャーレ下半分側に汚染菌を配置した。具体的には、菌原液(アカカビ)は仮想線1よりも下半分側の部分において菌原液100μLを画線接種により配置し、イノキュラム(アカカビ以外の菌)は中心OとPを結ぶ線分の中点付近に設置した。
・BS-T2区:BS-T2固形物0.5gをシャーレ上半分側、具体的には、仮想線1よりも上側の各所に配置した。
・無処理区:上記においてシャーレ上半分側には何も配置しなかった。
菌原液(アカカビ)を接種したシャーレは30℃で3日間培養し、また、イノキュラム(アカカビ以外の菌)を設置したシャーレは30℃で7日間培養した。各培養期間終了後に、無処理区のシャーレと比較したBS-T2区における汚染菌のコロニーの生育程度を観察し評価した。
【0032】
図1(a)〜(c)に、培養期間終了後の写真を示した。
(a)のクロカビ(菌株:NBRC 6348)において、無処理区ではクロカビが全面的に蔓延したのに対し、BS-T2区ではシャーレ上半分側のBS-T2固形物の配置箇所とその周辺ではクロカビの生育が抑制された。なお、BS-T2固形物を誤ってシャーレ下半分側にも配置したが、その配置箇所でもクロカビの生育が抑制された。
(b)のカワキコウジカビ(菌株:NBRC 8157)と(c)のコウジカビ(菌株:NBRC 105649)においても、BS-T2区ではシャーレ上半分側のBS-T2固形物の配置箇所とその周辺ではそれぞれのカビの生育が抑制された。
【0033】
図2は、培養期間終了後のリゾクトニア菌におけるBS-T2区の写真である。シャーレ上半分側のBS-T2固形物の配置箇所とその周辺ではクロカビの生育が抑制された。
【0034】
表3に、培養期間終了後の無処理区と比較したBS-T2区における汚染菌のコロニーの生育程度の5段階評価を示した。
【0035】
【表3】
【0036】
表3の結果より、BS-T2株は、居住空間汚染菌及び植物病原菌に対して強い直接抗菌活性を発揮したことが分かる。このメカニズムは定かではないが、BS-T2株が標準寒天培地中に分泌した何らかの物質、例えば、酵素、抗生物質、抗菌性ペプチド、プロテアーゼ等が居住空間汚染菌及び植物病原菌に対して作用することによって生育抑制効果が得られたと推察された。この結果は、居住空間汚染菌について言えば、BS-T2株を居住空間汚染菌に直接接触させたときに、居住空間汚染菌の生育を抑制させることにより、居住空間汚染菌に起因する素材の劣化や染み・汚れ等を抑制することが可能となることを示唆するものである。
【0037】
〔試験例2:間接抗菌活性〕
直径90mmシャーレに設置した標準寒天培地上にBS-T2固形物を敷き詰め、30℃で24時間培養した(これをBS-T2株シャーレと称する)。この24時間培養終了後に、居住空間汚染菌を直径90mmシャーレに接種し(これを汚染菌シャーレと称する)、BS-T2株シャーレの上に汚染菌シャーレを天地反転させてずれのないように載置し、シャーレ同士の接合部はテープで封止した。これにより、BS-T2株と居住空間汚染菌を密閉条件下で空間を介して対峙させた。なお、アカカビの汚染菌シャーレは、シャーレに設置した前培養用と同じ種類の培地に菌原液を100μL塗沫接種して作製した。アカカビ以外の居住空間汚染菌の汚染菌シャーレは、シャーレに設置した前培養用と同じ種類の培地に糸状菌原液を100μL塗沫接種して作製した。無処理区は、上記において下側シャーレにBS-T2株を配置しなかったものである。
上記封止後、アカカビ接種の系は30℃で3日間培養し、アカカビ以外の居住空間汚染菌接種の系は30℃で7日間培養した。各培養期間終了後に、無処理区と比較したBS-T2区における汚染菌のコロニーの生育程度を観察し評価した。
【0038】
図3(a)〜(c)に、培養期間終了後の写真を示した。写真中のシャーレは、いずれも汚染菌を接種した上側シャーレである。
(a)のアカカビ(菌株:NBRC 15688)において、無処理区ではアカカビが全面的に蔓延したのに対し、BS-T2区ではアカカビが確認できないほどに生育が顕著に抑制された。(b)のクロカビ(菌株:NBRC 6348)と(c)のクロカビ(菌株:NBRC 30313)においても、BS-T2区ではそれぞれクロカビが確認できないほどに生育が顕著に抑制された。
【0039】
表4に、培養期間終了後の無処理区と比較したBS-T2区における汚染菌のコロニーの生育程度の5段階評価を示した。
【0040】
【表4】
【0041】
表4の結果より、BS-T2株は、居住空間汚染菌に対して強い間接抗菌活性を発揮したことが分かる。このメカニズムは定かではないが、BS-T2株が産生し放出する揮発性の抗菌物質が空間を介して居住空間汚染菌に対して作用することによって生育抑制効果が得られたと推察された。この結果は、BS-T2株を用いることにより、対象とする居住空間汚染菌に直接接触せずとも、空間を介した間接的な居住空間汚染菌の生育抑制により、居住空間汚染菌に起因する素材の劣化や染み・汚れ等を抑制することが可能となることを示唆するものである。
【0042】
〔試験例3:消臭能〕
(1)試薬及び器具
・におい袋(35cm×50cm)(アラム株式会社)
・試験対象ガス
アンモニア:アンモニア水(28%、特級)(小宗化学薬品株式会社)から発生させたガス
トリメチルアミン:トリメチルアミン水溶液(28%)(東京化成工業株式会社)から発生させたガス
酢酸:酢酸(特級)(小宗化学薬品株式会社)から発生させたガス
イソ吉草酸:イソ吉草酸(特級)(東京化成工業株式会社)から発生させたガス
ホルムアルデヒド:ホルムアルデヒド(36%、特級)(関東化学株式会社)から発生させたガス
硫化水素:硫化鉄(II)(硫化水素発生用)(小宗化学薬品株式会社)に希硫酸を加えて発生させたガス
・ガス検知管:上記各ガスを対象としたガス検知管(株式会社ガステック)を用いた。
(2)操作
検体を前処理した後、試験を実施した。詳細は以下のとおりである。
・検体:BS-T2固形物10gをナイロンメッシュ袋に収容したものを用いた。
・前処理:容量9.3Lのポリプロピレン製のシール容器内の両端部に合計1Lのイオン交換水を入れた200mLビーカーを複数個配置し、中央部に検体を立てて放置できるようにしたスライドガラス立てを配置し、このスライドガラス立てを用いて検体を立てた状態とした。シール容器を密閉状態とし、約16時間加湿させた。
・試験:加湿した検体をにおい袋に入れ、ヒートシールを施した後、空気9Lを封入し、設定したガス濃度(表5「初期ガス濃度」参照)となるように試験対象ガスを添加した。これを室温で静置し、所定の経過時間ごと(表5「測定時間」参照)に袋内のガス濃度をガス検知管を用いて測定した(BS-T2区)。一方、検体を入れずに同様にしてガス濃度を測定したものを無処理区とした。
【0043】
【表5】
【0044】
結果を
図4に示した。各グラフにおいて、縦軸はガス濃度、横軸は時間である。
BS-T2区は、いずれの試験対象ガスにおいても無処理区よりもガス濃度が低下したことより、BS-T2株の有する消臭能によって悪臭である試験対象ガスの濃度を低減させたと評価できるものであった。特に、短時間で顕著な効果が現れた試験対象ガスは、アンモニア、トリメチルアミン、酢酸、イソ吉草酸、ホルムアルデヒドであった。BS-T2株による消臭能のメカニズムは定かではないが、BS-T2株が産生・放出する揮発性物質が作用しているものと推測された。