特許第6583937号(P6583937)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6583937
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】断熱構造体
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/14 20060101AFI20190919BHJP
【FI】
   E04H9/14 B
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-119226(P2018-119226)
(22)【出願日】2018年6月22日
【審査請求日】2019年4月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517357826
【氏名又は名称】株式会社シェルタージャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100103207
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】矢野 昭彦
【審査官】 佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−156247(JP,A)
【文献】 特開2000−110302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00−9/16
E04B 1/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下シェルターに配設される断熱構造体であって、
上下方向に貫通する開口部が設けられた断熱部材と、
前記開口部に篏合可能な断熱蓋と、
前記断熱蓋を前記開口部に篏合させるための巻き上げ装置と、を備え
前記断熱蓋は、層状に分割されて、相互に磁石で連結されることを特徴とする断熱構造体。
【請求項2】
前記開口部の形状は、中心線が垂直から傾斜している錐台であり、
前記開口部の上端の外縁は、平面視で前記開口部の下端の内部領域内に位置することを特徴とする請求項1に記載の断熱構造体。
【請求項3】
前記断熱部材および前記断熱蓋は、厚さが1.0m〜2.5mであることを特徴とする請求項1または2に記載の断熱構造体。
【請求項4】
前記断熱部材は、上層に軽量気泡コンクリート製の上層断熱部材を有する多層構造であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の断熱構造体。
【請求項5】
前記断熱部材は、前記上層断熱部材の下方に発泡プラスチック系の断熱素材を含む下層断熱部材を有することを特徴とする請求項4に記載の断熱構造体。
【請求項6】
前記断熱蓋は、上層に軽量気泡コンクリート製の上層断熱蓋を有する多層構造であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の断熱構造体。
【請求項7】
前記断熱蓋は、前記上層断熱蓋の下方に発泡プラスチック系の断熱素材を含む下層断熱蓋を有することを特徴とする請求項6に記載の断熱構造体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下シェルターに配設される断熱構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
木造住宅密集地域で発生する地震火災は延焼速度が早く、かつ同時多発的に巨大な火炎が迫ってくる危険があり、逃げ遅れないために早期に避難することが重要である。しかし、安全な場所に避難しようとしても、道路は避難する人々で前に進めない事態が想定される。仮に、前に進めたとしても倒壊した家屋によって道路が塞がれ、さらに橋梁の倒壊等により避難路が確保できない事態も予想される。
【0003】
関東大震災や阪神・淡路大震災では、地震に起因する火災、いわゆる地震火災が同時多発的に発生し甚大な被害をもたらした。地震火災は、本震直後から出火し、その件数は建物倒壊数に比例して増大するとされる。また、消防力の分散、建築倒壊や道路損壊による交通障害の発生、消火栓や水道管の破損による水利不足、交通渋滞などの要因が複合して消火活動が阻害されることから、延焼範囲は拡大し、鎮火するまでの時間は長引くことになる。東日本大震災では、過去最大級の津波・津波火災が発生したことによって、多くの尊い人命が失われた。
【0004】
今後発生が予想される大都市直下地震では、すでに都市の近代化が進み十分な対策が取られていることから、関東大震災や阪神・淡路大震災のように甚大な被害をもたらさないとも考えられる。しかし、大都市においても、現時点で木造住宅密集地は多数存在し、しかも関東大震災当時と比べ過密な状態となっている。
【0005】
このような状況に鑑みると、地震火災が発生したとき、シェルターに避難することが有効である。また、シェルターは、火災が長時間続いた場合でも、内部の温度上昇が抑制される手段が必要となる。
【0006】
特許文献1では、災害等において一時的に避難するために、建造物の防災目的で設置される断熱層を有する構造体を、長時間の火災に耐えられるように、安価なコストでその内部温度の上昇を抑制するための耐火構造が開示されている。具体的には、建造物に設置さ れ、天井壁と側壁と床壁よりなる防災シェルターであって、内部温度の上昇を抑制するために、天井壁の上に水槽を設け、火災発生等の周囲温度が上昇したときに水槽内の水を利用してシェルターに流して内部の温度上昇を未然に防止するものである。
【0007】
しかし、特許文献1で開示されるシェルターは、建造物内に設置されているので、火災で建造物が倒壊した場合、倒壊した建造物が火炎源となり、長時間に渡り火炎熱にさらされる。また、火災発生時等の周囲温度が上昇したとき天井壁の上部に設けられた開放型の水槽から構造体に水を供給する構造となっているため、何らかの原因、例えば、開放型の水槽内の水が地震によって外部飛散した場合、構造体に水が供給されない状態となり、防火シェルターとしての機能を果たすことができない。さらに、水をシェルターに流した直後は、シェルターの内部の温度を抑制できるが、その後、継続して長時間にわたって抑制することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−84883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、長時間続く火災に対して、シェルターの内部温度の上昇を抑制できる断熱構造体を提供することである。また、シェルターに簡単に配設できる断熱部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、地下シェルターに配設される断熱構造体であって、 上下方向に貫通する開口部が設けられた断熱部材と、開口部に篏合可能な断熱蓋と、断熱蓋を開口部に篏合させるための巻き上げ装置とを備え、断熱蓋は、層状に分割されて、相互に磁石で連結されることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、断熱蓋は断熱部材に設けられた開口部に篏合するので、開口部を完全に封止ができる。これにより、断熱部材と断熱蓋は協働して高い断熱性能を具備する。また、断熱蓋を開口部に篏合させるための巻き上げ装置を備えるので、簡単に断熱部材の開口部を塞ぐことができる。
また、断熱蓋は、層状に分割されて、相互に磁石で連結されているので、断熱蓋を低い位置で取付け装置に接続することができる。これにより、車椅子で避難される方々も、簡単に接続することができる。
【0012】
好ましくは、開口部の形状は、中心線が垂直から傾斜している錐台であり、開口部の上端の外縁は、平面視で前記開口部の下端の内部領域内に位置する。
【0013】
地下シェルター内を垂直に昇降するのは高齢者の方々や体力のない方々には負担が大きく、昇降設備としては、一定の傾斜が設けられた梯子等であることが好ましい。しかし、傾斜が設けられた昇降設備を配設するには、開口部を大きくする必要があり、断熱性能の低下が懸念される。また、それに伴って、断熱蓋は大きく、かつ重くなり、開口部への篏合が難しくなる事態が想定される。この構成によれば、開口部は、中心線が傾斜している錐台であるので、梯子を中心線と同方向に傾けることで、開口部を必要以上に大きくすることなく昇降するための開口面積を確保できる。また、開口部の上端の外縁は、平面視で開口部の下端の内部領域内に位置するので、断熱蓋を上方に吊り上げるだけで開口部に簡単に篏合させることが可能となる。
【0014】
好ましくは、断熱部材および断熱蓋は、厚さが1.0m〜2.5mである。
【0015】
この構成によれば、断熱部材および断熱蓋は、厚さが1.0m〜2.5mと厚くなっているので、高い断熱性能を具備する。
【0016】
好ましくは、断熱部材は、上層に軽量気泡コンクリート製の上層断熱部材を有する多層構造である。
【0017】
この構成によれば、断熱部材の上層は、耐火性能に優れるとともに断熱性能を具備する軽量気泡コンクリート製であるので、火炎熱で断熱部材が加熱され温度が上昇した場合でも、断熱部材の燃焼を防止できる。また、下層の温度上昇を抑制できる。
【0018】
好ましくは、断熱部材は、上層断熱部材の下方に発泡プラスチック系の断熱素材を含む下層断熱部材を有する。
【0019】
この構成によれば、断熱部材は、上層断熱部材の下方に発泡プラスチック系の断熱素材で構成される下層断熱部材を有するので、断熱部材を軽量化することができる。また、湿度の高い地下空間に長時間置いた状態であっても、吸湿による重量の増加・形状の変化が生じない。そのため、経年変化によって、篏合が困難となる状態を回避できる。
【0020】
好ましくは、断熱蓋は、上層に軽量気泡コンクリート製の上層断熱蓋を有する多層構造である。
【0021】
断熱蓋の上層は、耐火性能に優れるとともに断熱性能を具備する軽量気泡コンクリート製であるので、火炎熱で断熱部材が加熱され温度が上昇した場合でも、断熱蓋の燃焼を防止できる。また、下層の温度上昇を抑制できる。
【0022】
好ましくは、断熱蓋は、上層断熱蓋の下方に発泡プラスチック系の断熱素材を含む下層断熱蓋を有する。
【0023】
この構成によれば、断熱蓋は、上層断熱蓋の下方に発泡プラスチック系の断熱素材で構成される下層断熱蓋を有するので、断熱蓋を軽量化することができる。また、湿度の高い地下空間に長時間置いた状態であっても、吸湿による重量の増加・形状の変化が生じない。そのため、経年変化によって、篏合が困難となる状態を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】断熱構造体が地下シェルターに配設された状態を説明する正面断面図(地上部分は正面図)である。
図2】地下シェルターの平面図である。
図3】(a)は断熱部材の開口部の平面図であり(b)は、断熱部材の正面断面図である。
図4】断熱部材が分割された状態を説明する平面図である。
図5】断熱蓋が分離された状態を示す正面図である。
図6】扉シーブの支柱への取付け状態を説明する平面図である。
図7】支柱の側面図である。
図8】外枠の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0032】
図1に示す通り、地中140に埋設された地下シェルター100は、天井開口部113が設けられた天井板110と、円筒形の側壁111と、底板114を有する。天井板110の上面に、扉5と、扉5を開閉するための開閉装置6が設けられている。また、地下シェルター100の内部には断熱構造体101が設けられて、その下方に避難空間120が設けられている。さらに、昇降するための梯子130が配設されている。地下シェルター100とは、避難空間120が、地中140に設けられているシェルターをいう。
【0033】
図1、2に示す通り、扉5は、枠体50と扉本体55を有している。枠体50は、枠体開口部59が設けられて、天井板110の上面に配設されている。
【0034】
図2に示す通り、平面視で矩形の扉本体55は、鋼製の外枠55aと、コンクリート製の充填体55bを有する鋼とコンクリートの複合構造体である。また、上方に回動できるように、2個の丁番57を介して枠体50に支持されている。
【0035】
図8に示す通り、外枠55aは底板550aと、底板550aの外縁から垂直に延びる側板550bで構成された構造体であり、底板550aと、側板550bが協働して上方に開口する開口凹部550cを設ける。充填体55bは、この上方に開口する開口凹部550cにコンクリートを隙間なく充填することで構築される。鋼とコンクリートの複合体とすることで、津波の波力や、津波による漂流物の衝突に耐えることができる。また、扉本体55として、鋼製の箱の中にコンクリートを充填した構造体としてもよい。本実施形態の扉本体55に比べ、高強度化を図ることができる。
【0036】
開閉装置6は、扉ウインチ66を電動または手動で作動することにより、扉本体55を回動するものである。図1、2に示す通り、開閉装置6は、支柱60と、回動棒61と、扉シーブ64と、扉ワイヤー65と、カウンターウエイトWと、扉ウインチ66を有している。
【0037】
支柱60は、対向する一対の支柱板60a、60aと、支柱板60aの上端部を補強するための補強板68a、68bを有している。対向する一対の支柱板60a、60aは、平面視で丁番57の取付け面52dに垂直な状態で、枠体50に固定されている。図6に示す通り軸支部材62が、扉シーブ64を軸支する状態で、一対の支柱板60a、60aに固定されている。
【0038】
一対の支柱板60a、60aの枠体開口部59側にスライド板63が取り付けられている。図7に示す通り、スライド板63の中央部に、上下方向に延びるスリット63aが設けられている。スリット63aは、回動棒61を上下方向にスライドさせるためのものである。スリット63aの上下方向の長さは、扉本体55を所定の位置まで回動させる長さに設定されている。
【0039】
回動棒61の一方の端部は、扉本体55に設けられる軸支部材62に軸支され、他方の端部はスリット63aに挿通されている。また、回動棒61がスリット63aから抜け落ちるのを防止するためのストッパー66aが回動棒61の他方の端部の先端部に取り付けられている。ストッパー66aには凹部66bが設けられており、この凹部66bに扉ワイヤー65の一方の端部が接続されている。これにより、扉ワイヤー65の回動棒61からの抜け出しを防止できる。
【0040】
扉ワイヤー65は、扉シーブ64を経由することで方向を転換し、下方に向かって延びカウンターウエイトWを介して扉ウインチ66に接続する。扉ウインチ66は、一対の支柱板60a、60a間に取り付けられた支持板67に固定されている。カウンターウエイトWは、扉ウインチ66の負荷を低減するためのものであり、扉本体55の重量よりも軽いことが好ましい。これにより、扉ウインチ66を動作しない状態(カウンターウエイトWと扉ウインチ66間の扉ワイヤー65が若干たるんでいる状態。)で、扉本体55は、枠体開口部59を閉鎖した状態を保つ。
【0041】
扉本体55が枠体開口部59を閉鎖した状態で、扉ウインチ66を動作すると、回動棒61の他方の端部はスライド板63に設けられたスリット63aに沿って上昇する。これに伴い、扉本体55は上方に回動する。
【0042】
リフト装置8は、天井部88と、天井部88を支持し枠体50に固定される脚部89と、天井部88に固定されるリフト滑車85と、支持板69を介して一対の支柱板60a、60aに固定されるリフト滑車86、および電動または手動で動作するリフトウインチ87と、フック81と、フック81に接続し、リフト滑車85、86を経由してリフトウインチ87に接続するリフトワイヤー82を有している。リフト装置8は、人が乗車した車椅子を懸垂することができる強度を具備することが好ましい。リフトウインチ87を作動してリフトワイヤー82を巻き上げ、巻き戻すことにより、障害者の方々を、車椅子で避難空間120の内外へ移動することができる。
【0043】
図1に示す通り、断熱構造体101は、地下シェルター100に配設されて、断熱部材1と、断熱蓋2と、巻き上げ装置3を有している。
【0044】
断熱部材1は、その側面が地下シェルター100の側壁111に接する状態で上端部に配設されて、受け金具112によって支持されている。これにより、下方への移動が制限されて、地下シェルター100の内部に固定される。また、断熱部材1の下方に避難空間120が、上方に断熱空間170が設けられている。
【0045】
断熱部材1は、厚さが1.0m〜2.5mの円柱であり、中央部に上下に貫通する開口部13が設けられている。また、軽量気泡コンクリート製の上層断熱部材11と、上層断熱部材11の下方に設けられる下層断熱部材12で構成される2層構造である。下層断熱部材12は、グラスウール、セルローズファイバー、羊毛断熱材、もしくはロックウール等の繊維系の断熱素材、または硬質ウレタンフォーム、ビーズ法ポリスチレンフォーム、もしくはフェノールフォーム等の発泡プラスチック系の断熱素材であることが好ましい。より好ましくは軽量で透湿への抵抗力に優れる発泡プラスチック系の断熱素材である。これにより、軽量化できるとともに、湿度の高い地下空間に長時間置いた状態であっても、吸湿による重量の増加・形状の変化が生じない。そのため、経年変化によって、断熱蓋2の篏合が困難となる状態を回避できる。
【0046】
軽量気泡コンクリート製の上層断熱部材11は、耐火性能に優れ、断熱性能を具備し、さらに所定の剛度を有し加熱による変形は少ない。これにより、火炎熱で長時間加熱された場合でも、上層断熱部材11が燃焼することはなく、また、下層断熱部材12の温度上昇が抑制されることで下層断熱部材12も燃焼することがなく、さらに、下層断熱部材12の変形を抑制できる。
【0047】
本実施形態では、断熱部材1は2層構造としているが、繊維系の断熱素材または発泡プラスチック系の断熱素材で構成される単層構造としてもよい。
【0048】
また、下層断熱部材12については、側壁111に接する部分を高い耐火性能を具備するグラスウールまたはロックウールとし、その内部を軽量で高い断熱性能を具備するプラスチック系の断熱素材の2重構造としてもよい。これにより、軽量化が図れるとともに、側壁111が高温となっても、2重構造の内部の燃焼を免れる。
【0049】
図3(a)(b)に示す断熱部材1は、単一の構造体である。断熱部材1の一般的な施工方法は、層状の材料の各層を地下シェルター100の形状に合わせて切断し、積層する方法である。このような施工方法は、現場での作業期間が長くなり労務費の増大を招く。断熱部材1を、単一の構造体とすることで、現場での作業はこの単一の構造体を地下シェルター100に配設するのみで済むことから、作業の簡略化が可能となる。その結果、工期短縮、コストダウンを図ることができる。
【0050】
断熱部材1が所定の大きさを超える場合、現場への搬入が困難となる。このようのときは、図4に示す通り、断熱部材1を径方向(放射方向)に分割、例えば1a、1b、1c、1dの4分割することで搬入が可能となる。この場合は、4分割された断熱部材1のそれぞれを地下シェルター100の上方から内部に挿入し、所定の位置に取り付けることで、簡単に配設できる。
【0051】
断熱部材1の中央部に、上下方向に貫通する開口部13が設けられている。図3(a)(b)に示す通り、開口部13の形状は、中心線CLが傾斜している四角錐台である。ここで、中心線CLとは、平面視で、開口部13の上端の図心と下端の図心を結んだ線を意味する。側面14は、四角錐台の4つの側面のうちで一番緩い傾斜角を有する側面であり、側面14に対向する側面15は垂直面である。
【0052】
梯子130は、一端は天井板110の側面110aに着脱可能に固定され、他端は底板114に着脱可能に固定された状態で、開口部13の側面14に平行に配設されている。このように斜めに配設することで、高齢者の方々や体力のない方々でも、安全に昇降できる。また、傾斜が設けられた昇降設備を配設するには、開口部13を大きくする必要があるが、梯子130と平行となる側面14を一番緩い勾配としていることで、開口部13の形状を小さく定めている。
【0053】
巻き上げ装置3は、底板114に載置された断熱蓋2を吊り上げて開口部13に篏合させるとともに、吊り降ろして断熱蓋2を再度、底板114に載置させるためのものであり、巻き上げウインチ31と、巻き上げワイヤー32と、巻き上げフック35を有している。
【0054】
巻き上げウインチ31は、扉本体55の下面(避難空間120側の面)に取り付けられている。巻き上げウインチ31は電動であり、遠隔操作で動作できる。
【0055】
巻き上げワイヤー32は巻き上げウインチ31によって巻き上げ・巻き戻しされ、先端に巻き上げフック35が取り付けられている。巻き上げフック35は、断熱蓋2を吊り上げるだけで断熱部材1の開口部13に勘合できる位置に配設されている。これにより、位置調整することなく断熱蓋2を、簡単に断熱部材1の開口部13に勘合できる。
【0056】
図5に示す通り、断熱蓋2は開口部13の形状に対応する四角錐台であり、軽量気泡コンクリート製の上層断熱蓋21と、下層断熱蓋22を有し、第1断熱蓋25と第2断熱蓋26に分割可能である。第1断熱蓋25は、上層断熱蓋21と下層断熱蓋22の一部である第1下層断熱蓋23を有している。また、上層断熱蓋21の上面に断熱蓋2を吊り下げるためのリング27が取り付けられている。リング27は、巻き上げウインチ31で巻き上げ、巻き戻しされる巻き上げワイヤー32の先端に取り付けられる。リング27は、断熱蓋2を吊り下げることで、角度調整をすることなく開口部13に篏合する位置に取り付けることが好ましい。
【0057】
第2断熱蓋26は下層断熱蓋22の一部を構成している。第1断熱蓋25の下面と第2断熱蓋26の上面は同一の形状であり、それぞれの4隅に互いに吸引する磁石25a、25bが設けられている。磁石25a、25bを用いて第1断熱蓋25と第2断熱蓋26を連結することで、断熱蓋2が構成される。
【0058】
断熱蓋2の厚さが高くなる場合巻き上げフック35にリング27を取り付けることが困難となる。足が不自由な方々が車椅子に乗車した状態での作業はなおさらである。しかし、上述の通り、断熱蓋2を上下に2分割可能であるので、あらかじめ断熱蓋2を分割して底板114に載置しておくことで、リング27を低い位置で巻き上げフック35に取り付けて、断熱蓋2を簡単に吊り上げることができる。同様に、リング27を巻き上げフック35から外すことも簡単である。
【0059】
下層断熱蓋22は、グラスウール、セルローズファイバー、羊毛断熱材、もしくはロックウール等の繊維系の断熱素材、または硬質ウレタンフォーム、ビーズ法ポリスチレンフォーム、もしくはフェノールフォーム等の発泡プラスチック系の断熱素材であることが好ましい。より好ましくは軽量で透湿への抵抗力に優れる発泡プラスチック系の断熱素材である。これにより、軽量化できるとともに、湿度の高い地下空間に長時間置いた状態であっても、吸湿による重量の増加・形状の変化が生じない。そのため、経年変化によって、断熱蓋2の篏合が困難となる状態を回避できる。
【0060】
軽量気泡コンクリート製の上層断熱蓋21は、耐火性能に優れ、断熱性能を具備し、さらに変形しにくい性質を有する。これにより、火炎熱で長時間加熱された場合でも、上層断熱蓋21が燃焼することはなく、また、下層断熱蓋22の温度上昇が抑制されることで下層断熱蓋22も燃焼することがなく、さらに、変形を抑制できる。
【0061】
本実施形態では、断熱蓋2は2層構造としているが、繊維系の断熱素材または発泡プラスチック系の断熱素材で構成される単層構造としてもよい。また、開口部13および断熱蓋2の形状は四角錐台としているが、5角以上の多角錐台としてもよいし、円錐台としてもよい。
【0062】
断熱蓋2を断熱部材1に取り付ける手順について説明する。梯子130を取り外すとともに、縮めて避難空間120の所定の場所に収容する。これにより、断熱蓋2を、開口部13に勘合するときに支障となる梯子130が取り除かれる。
【0063】
巻き上げウインチ31を遠隔操作で動作して巻き上げフック35を降下させ、第1断熱蓋25に取り付けられたリング27に巻き上げフック35を取り付ける。その後、巻き上げフック35を上昇させ第1断熱蓋25と第2断熱蓋26を磁石25a、25bを介して連結する。これにより、断熱蓋2は単一の構造体となる。巻き上げフック35をさらに巻き上げ、断熱蓋2を開口部13に挿入する。断熱蓋2の上面は、開口部13の下面よりも小さいため、位置調整をすることなく簡単に挿入できる。断熱蓋2の上面の高さが断熱部材1の上面と一致したとき、断熱蓋2は断熱部材1に勘合した状態となる。これにより、開口部13は断熱蓋2によって封止される。断熱蓋2を固定棒(図示略)で支持する。
【0064】
断熱蓋2を断熱部材1から取り外す手順について説明する。固定棒の支持を開放し、巻き上げフック35を降下させて、篏合状態を解く。磁石25a、25bを切り離し、リング27から巻き上げフック35を取り外す。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、長時間延焼する火災に対しても、避難空間内の温度上昇を抑制することができる地下シェルターを提供することができ、産業上の利用可能性は大である。
【符号の説明】
【0066】
1 :断熱部材
2 :断熱蓋
3 :巻き上げ装置
5 :扉
6 :開閉装置
8 :リフト装置
11 :上層断熱部材
12 :下層断熱部材
13 :開口部
14、15:側面
21 :上層断熱蓋
22 :下層断熱蓋
23 :第1下層断熱蓋
25 :第1断熱蓋
25a、25b :磁石
26 :第2断熱蓋
31 :巻き上げウインチ
32 :巻き上げワイヤー
35 :巻き上げフック
120 :避難空間
130 :梯子
140 :地中
CL :中心線
【要約】      (修正有)
【課題】長時間続く火災に対して、シェルターの内部温度の上昇を抑制できる断熱構造体を提供する。また、シェルターに簡単に配設できる断熱部材を提供する。
【解決手段】断熱構造体101は、地下シェルター100に配設されて、断熱部材1と、断熱蓋2と、巻き上げ装置3を有している。断熱部材1は、厚さが1.0m〜2.5mの円柱であり、中央部に上下に貫通する開口部13が設けられている。また、軽量気泡コンクリート製の上層断熱部材11と、発泡プラスチック系の断熱素材で構成される下層断熱部材12を有している。断熱蓋2は、開口部13の形状に対応しており、断熱部材1と同様の2層構造である。巻き上げウインチ31を遠隔操作で動作して、巻き上げフック35を降下させ、リング27に取り付ける。第1断熱蓋25と第2断熱蓋26を磁石を介して連結し、単一の構造体となった断熱蓋2を吊り上げて、開口部13に篏合する。
【選択図】図1
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