特許第6583940号(P6583940)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6583940
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】泡安定性測定装置、泡安定性測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 13/02 20060101AFI20190919BHJP
   G01N 33/00 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   G01N13/02
   G01N33/00 B
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-152629(P2018-152629)
(22)【出願日】2018年8月14日
【審査請求日】2019年6月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000162504
【氏名又は名称】協和界面科学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】肥後 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】千葉 正昭
【審査官】 本村 眞也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−001942(JP,A)
【文献】 特開昭60−135747(JP,A)
【文献】 中国実用新案第202075199(CN,U)
【文献】 青木健二,泡の安定化と消泡機構に関する考察,塗料の研究,日本,2014年10月,No.156,p.26-30,URL,https://www.kansai.co.jp/rd/token/156.html
【文献】 表面張力計の応用事例。液体の泡沫安定性および粉体の分散性評価,[online],日本,協和界面科学株式会社,2017年12月25日,[検索日 2019.08.09],URL,https://web.archive.org/web/20171225052138/http://www.face-kyowa.co.jp/science/literature/surfacetention01/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 13/00−13/02;33/00
C11D 1/00−19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
泡の安定性を測定する泡安定性測定装置であって、
対象物を貯留する容器と、
前記対象物の上方に配置されて、前記対象物の表面から上方に延びるラメラを形成するラメラ形成部と、
前記対象物の表面と前記ラメラ形成部の相対距離を変化させる移動機構と、
前記移動機構を制御する移動制御装置と、
前記ラメラの状態変化を検知するラメラ状態検知部と、
時間を測定するタイマ部と、
を備え、
前記移動制御装置は、
前記ラメラ形成部を前記対象物に接触させる接触制御部と、
前記対象物に接触した前記ラメラ形成部を前記対象物から上方に引き上げる引き上げ制御部と、
前記ラメラ形成部を継続的に引き上げて前記ラメラが破断する限界長さ(以下、ラメラ最大長と称する)よりも小さい範囲内で、前記対象物の表面と前記ラメラ形成部の前記相対距離を維持して、前記ラメラを経時的に保持するラメラ維持制御部と、を備え、
前記ラメラ状態検知部は、前記ラメラ維持制御部によって保持される前記ラメラの状態変化を検知し、
前記タイマ部は、前記状態変化が生じるまでに前記ラメラが維持される時間(以下、ラメラ維持時間)を測定することを特徴とする泡安定性測定装置。
【請求項2】
前記ラメラ形成部は、管状のラメラを形成する環状部を備えることを特徴とする、
請求項1に記載の泡安定性測定装置。
【請求項3】
前記ラメラ状態検知部は、前記ラメラの外形変化、前記ラメラの張力の変化、前記ラメラの消失の少なくともいずれかを検知することを特徴とする、
請求項1又は2に記載の泡安定性測定装置。
【請求項4】
前記ラメラ形成部に作用する荷重を測定する荷重センサを備え、
前記ラメラ状態検知部は、
前記荷重センサの出力変化によって、前記ラメラの変化及び前記ラメラの消失の少なくともいずれかを検知することを特徴とする、
請求項1乃至3のいずれかに記載の泡安定性測定装置。
【請求項5】
泡安定性に関する評価値を算出する評価処理部を備え、
前記評価処理部は、前記評価値として、複数回の測定によって得られる前記ラメラ維持時間の平均値又は最大値を算出することを特徴とする、
請求項1乃至4のいずれかに記載の泡安定性測定装置。
【請求項6】
前記ラメラ維持制御部は、前記相対距離を、前記ラメラが最大引っ張り力に達する距離以上に維持することを特徴とする、
請求項1乃至5のいずれかに記載の泡安定性測定装置。
【請求項7】
前記ラメラ維持制御部は、前記相対距離を、前記ラメラが前記最大引っ張り力以下かつ当該最大張力の70%以上となる距離に維持することを特徴とする、
請求項6のいずれかに記載の泡安定性測定装置。
【請求項8】
前記ラメラ維持制御部は、前記相対距離を、前記ラメラが静的表面張力に達する距離以下に維持することを特徴とする、
請求項1乃至5のいずれかに記載の泡安定性測定装置。
【請求項9】
前記ラメラ維持制御部は、前記ラメラを少なくとも3秒以上維持するように、前記相対距離を維持することを特徴とする、
請求項1乃至8のいずれかに記載の泡安定性測定装置。
【請求項10】
前記ラメラ維持制御部は、前記相対距離を2cm未満に維持することを特徴とする、
請求項1乃至9のいずれかに記載の泡安定性測定装置。
【請求項11】
前記ラメラ維持制御部は、前記相対距離を、前記ラメラ最大長の90%以下に維持することを特徴とする、
請求項1乃至10のいずれかに記載の泡安定性測定装置。
【請求項12】
前記ラメラ維持制御部は、前記相対距離を、前記ラメラ最大長の50%以上に維持することを特徴とする、
請求項1乃至11のいずれかに記載の泡安定性測定装置。
【請求項13】
泡の安定性を測定する泡安定性測定方法であって、
容器に対象物を貯留し、
前記対象物の上方にラメラ形成部を配置して、前記対象物の表面から上方に延びるラメラを形成し、
前記ラメラ形成部を継続的に引き上げて前記ラメラが破断する限界長さ(以下、ラメラ最大長と称する)よりも小さい範囲内で、前記対象物の表面と前記ラメラ形成部の相対距離を維持して、ラメラを経時的に保持し、
前記ラメラが保持される間において前記ラメラの状態変化を検知し、
前記状態変化が生じるまでの前記ラメラが維持される時間(以下、ラメラ維持時間)を測定することを特徴とする泡安定性測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泡の安定性を測定・評価等する泡安定性測定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
泡の一種である泡沫は、液体等の対象物の表面に浮上する気泡が集合して塊をなした状態を言う。例えばビールや炭酸水など飲料は、泡沫の安定性が品質における重要な要素に成る。また、洗剤等においても、泡沫の安定性が、濯ぎ時の泡切れ等において重要な要素となる。
【0003】
泡の安定度(FoamStability)は、泡寿命の評価指標であり、ロスマイルス法によって測定される。このロスマイルス法の測定装置を図18に示す。
【0004】
測定装置は透明なメスシリンダーを備えており、このメスシリンダーに試料液50mlを入れる(図18(A)参照)。メスシリンダーの上方には、貯留タンクが配置されており、この貯留タンクに、同じ試料液200mlを入れておく。貯留タンクのコックを開けて試料液を流下させると、流下した液体が、メスシリンダー内の試料液と衝突して、泡が発生する。この200mlの試料液の流下が終わった直後の泡の高さ(起泡高さ)Aを測定する(図18(B)参照)。
【0005】
その後、時間が経過するにつれて泡沫が減少するので、5分経過した後の泡の高さ(泡沫残存高さ)Bを測定する(図18(C)参照)。高さの増減比率(B/A)によって安定度を評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−1942号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ロスマイルス法は、以下の課題が存在する。
【0008】
(1)泡沫の上面は、大小さまざまな気泡が入り組んで凹凸をなしているので、泡の高さが不明確と成りやすい。従って、測定者によって誤差が生じやすい。
【0009】
(2)泡沫の高さは、透明なメスシリンダーを透視して目視によって測定する。墨汁や塗料等の有色液体の場合、その液体が、メスシリンダーの内周面に付着・残存することで視認性が悪化し、泡沫の高さが正確に測定できない。
【0010】
(3)泡の安定性の評価は、同じ試料液に対して複数回測定してその再現性を確認する必要があるが、測定毎に、メスシリンダーの液体を廃棄したり、必要に応じて洗浄したりしなければならず、多大な手間と時間が要する。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、泡の安定性を簡便且つ高精度に測定することが可能な技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する本発明は、泡の安定性を測定する泡安定性測定装置であって、対象物を貯留する容器と、前記対象物の上方に配置されて、前記対象物の表面から上方に延びるラメラを形成するラメラ形成部と、前記対象物の表面と前記ラメラ形成部の相対距離を変化させる移動機構と、前記移動機構を制御する移動制御装置と、前記ラメラの状態変化を検知するラメラ状態検知部と、時間を測定するタイマ部と、を備え、前記移動制御装置は、前記ラメラ形成部を前記対象物に接触させる接触制御部と、前記対象物に接触した前記ラメラ形成部を前記対象物から上方に引き上げる引き上げ制御部と、前記ラメラ形成部を継続的に引き上げて前記ラメラが破断する限界長さ(以下、ラメラ最大長と称する)よりも小さい範囲内で、前記対象物の表面と前記ラメラ形成部の前記相対距離を維持して、前記ラメラを経時的に保持するラメラ維持制御部と、を備え、前記ラメラ状態検知部は、前記ラメラ維持制御部によって保持される前記ラメラの状態変化を検知し、前記タイマ部は、前記状態変化が生じるまでに前記ラメラが維持される時間(以下、ラメラ維持時間)を測定することを特徴とする泡安定性測定装置である。
【0013】
上記泡安定性測定装置に関連して、前記ラメラ形成部は、管状のラメラを形成する環状部を備えることを特徴とする。
【0014】
上記泡安定性測定装置に関連して、前記ラメラ状態検知部は、前記ラメラの外形変化、前記ラメラの張力の変化、前記ラメラの消失の少なくともいずれかを検知することを特徴とする。
【0015】
上記泡安定性測定装置に関連して、前記ラメラ形成部に作用する荷重を測定する荷重センサを備え、前記ラメラ状態検知部は、前記荷重センサの出力変化によって、前記ラメラの変化及び前記ラメラの消失の少なくともいずれかを検知することを特徴とする。
【0016】
上記泡安定性測定装置に関連して、泡安定性に関する評価値を算出する評価処理部を備え、前記評価処理部は、前記評価値として、複数回の測定によって得られる前記ラメラ維持時間の平均値又は最大値を算出することを特徴とする。
【0017】
上記泡安定性測定装置に関連して、前記ラメラ維持制御部は、前記相対距離を、前記ラメラが最大引っ張り力に達する距離以上に維持することを特徴とする。
【0018】
上記泡安定性測定装置に関連して、前記ラメラ維持制御部は、前記相対距離を、前記ラメラが前記最大引っ張り力以下かつ当該最大引っ張り力の70%以上となる距離に維持することを特徴とする。
【0019】
上記泡安定性測定装置に関連して、前記ラメラ維持制御部は、前記相対距離を、前記ラメラが静的表面張力に達する距離以下に維持することを特徴とする。
【0020】
上記泡安定性測定装置に関連して、前記ラメラ維持制御部は、前記ラメラを少なくとも3秒以上維持するように、前記相対距離を維持することを特徴とする。
【0021】
上記泡安定性測定装置に関連して、前記ラメラ維持制御部は、前記相対距離を2cm未満に維持することを特徴とする。
【0022】
上記泡安定性測定装置に関連して、前記ラメラ維持制御部は、前記相対距離を、前記ラメラ最大長の90%以下に維持することを特徴とする。
【0023】
上記泡安定性測定装置に関連して、前記ラメラ維持制御部は、前記相対距離を、前記ラメラ最大長の50%以上に維持することを特徴とする。
【0024】
上記目的を達成する本発明は、泡の安定性を測定する泡安定性測定方法であって、容器に対象物を貯留し、前記対象物の上方にラメラ形成部を配置して、前記対象物の表面から上方に延びるラメラを形成し、前記ラメラ形成部を継続的に引き上げて前記ラメラが破断する限界長さ(以下、ラメラ最大長と称する)よりも小さい範囲内で、前記対象物の表面と前記ラメラ形成部の相対距離を維持して、ラメラを経時的に保持し、前記ラメラが保持される間において前記ラメラの状態変化を検知し、前記状態変化が生じるまでの前記ラメラが維持される時間(以下、ラメラ維持時間)を測定することを特徴とする泡安定性測定方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、再現性の高い状態で、泡の安定性を簡便且つ高精度に測定することが可能になるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態に係る泡安定性測定装置の全体構造を示す側面図である。
図2】(A)は同測定装置に適用されるラメラ形成部を示す拡大斜視図であり、(B)はラメラ形成部に形成されるラメラの状態を示す断面図である。
図3】(A)は同測定装置の移動制御装置の機能構成を示すブロック図であり、(B)は同測定装置のタイマ装置の機能構成を示すブロック図である。
図4】(A)は同測定装置の状態判定装置の機能構成を示すブロック図であり、(B)は同測定装置の評価処理装置の機能構成を示すブロック図であり、(C)乃至(E)は同測定装置の荷重センサの出力パターン例を示すグラフである。
図5】(A)乃至(G)は、同測定装置の測定手順を示す側面図である。
図6】(A)は、本発明の実施例1にかかる泡安定性測定結果の最大値を示すグラフであり、(B)は比較例となるロスマイルス法による泡安定性測定結果を示すグラフである。
図7】(A)は、比較例にかかるラメラ長の測定結果を示すグラフであり、(B)は比較例となる静的表面張力の測定結果を示すグラフである。
図8】本発明の実施例1にかかる泡安定性測定結果を示す図表である。
図9】本発明の比較例にかかる泡安定性測定結果を示す図表である。
図10】(A)は、本発明の実施例2にかかる泡安定性測定結果の最大値を示すグラフであり、(B)は比較例となるロスマイルス法による泡安定性測定結果を示すグラフである。
図11】(A)は、比較例にかかるラメラ長の測定結果を示すグラフであり、(B)は比較例となる静的表面張力の測定結果を示すグラフである。
図12】本発明の実施例2にかかる泡安定性測定結果を示す図表である。
図13】本発明の比較例にかかる泡安定性測定結果を示す図表である。
図14】(A)は、本発明の実施例3にかかる泡安定性測定結果の最大値を示すグラフであり、(B)は平均値を示すグラフである。
図15】(A)は、比較例にかかるラメラ長の測定結果を示すグラフであり、(B)は比較例となる静的表面張力の測定結果を示すグラフである。
図16】本発明の実施例3にかかる泡安定性測定結果を示す図表である。
図17】本発明の測定装置において、ラメラ形成部と液面の相対距離を継続的に定速離反させる際の荷重の挙動を示すグラフである。
図18】(A)乃至(C)は従来のロスマイルス法による測定装置を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0028】
図1に、本発明の実施形態に係る泡安定性測定装置1の全体構造を示す。泡安定性測定装置1は、測定対象物となる液体試料Sを貯留する容器10と、容器10の上方に配置されるラメラ形成部20と、ラメラ形成部20を垂下させる吊り下げ部30と、吊り下げ30の上端に配置されてラメラ形成部20に形成されるラメラの状態を検知するラメラ状態検知部40と、容器10とラメラ形成部20の鉛直方向の相対距離を変化させる移動機構50と、これらの部材を保持する筐体60を備える。更に泡安定性測定装置1は、移動機構50を制御する移動制御装置70と、時間を測定するタイマ装置80と、泡安定性に関する評価値を算出する評価処理装置90を有する。
【0029】
移動機構50は、容器10が載置されるテーブル52と、テーブル52を鉛直方向に往復案内するガイド54と、ガイド54に沿ってテーブル52を駆動する駆動部56を有する。本実施形態では、ラメラ形成部20の鉛直方向の位置は固定されており、移動機構50によって容器10を鉛直方向に移動させることで、ラメラ形成部20と容器10(液体試料S)の相対距離を自在に変化させる。勿論、ラメラ形成部20側を鉛直方向に移動させるようにしても良い。
【0030】
ラメラ形成部20は、図2(A)に拡大して示すように、正円の環状部となるリング部22と、リング部22から上方に延びるリング保持フレーム24を有する。リング保持フレーム24は、吊り下げ部30のフック32に掛けられる。リング部22を液体試料Sの液面SAに接触させてから、リング22を上方に引き上げる(つまり、容器10を下方に引き下げる)ことで、液体試料Sによって、リング部22と液面SAの間に筒状(円筒状)の薄膜が懸架される。この薄膜はラメラLと称され、泡沫を形成する膜と類似する。
【0031】
リング部22の環径は、線材中心を基準に好ましくは10mm〜50mm程度、より好ましくは10mm〜20mm程度に設定され、本実施形態では15mmに設定される。また線材径は、好ましくは0.1mm〜2.0mm程度、より望ましくは0.1mm〜1.0mm、具体的には0.4mmに設定される。線材の材料は、濡れやすい材料であることが好ましく、例えば、90°以下の接触となる材料が好ましい。金属の場合は、ステンレスや白金の他、表面が錫めっきされた金属等が好ましい。
【0032】
なお、ここでは環状部材となるリング部22によってラメラLを形成する場合を例示したが、筒状部材であってもよく、また正円に限られず楕円や多角形などの各種形状の環状部材であってもよい。更にラメラLの形状は、筒形状であることが好ましいが、本発明はこれに限定されず、枠内に形成される一枚のシート形状等であっても良い。また、容器10の大きさや、容器10内の液体試料Sの液量(深さ)は、ラメラLの形成自体に悪影響を及ぼさない範囲で適宜設定できる。
【0033】
図1に戻って、ラメラ状態検知部40は、荷重センサ42と状態判定装置44を備えており、ラメラ形成部20に印加される荷重を荷重センサ42で検知して、状態判定装置44においてラメラLの状態変化を判定する。ラメラLが形成されている間は、液面SAとラメラ形成部20の間に軸方向(鉛直方向)に張力及び重力が作用する。一方、ラメラLが破断すると、張力及び重力が解放されるので、荷重センサで検知される荷重が急激に減少する。従って、荷重センサの出力によって、ラメラLの状態変化を検知可能となる。
【0034】
ちなみに、図2(B)に示すように、ラメラLは、時間が経つと自重によって薄膜内の液体が、鉛直下方(矢印YA参照)に移動する(これを排液と称する)。しかし、その分だけ鉛直方向の中央近傍の膜厚tが薄くなって表面張力が増大し、この張力勾配によって液体を鉛直上方(矢印YB参照)に引き戻そうとする。これにより、ラメラLは、膜厚tの増減を繰り返して振動状態に遷移し、その後、ラメラLが破断する傾向にある。結果、このラメラLの振動を、破断に関連する状態変化(具体的には破断の起点)と判定することができる。同様に、ラメラLが形成される際の最大荷重を基準として、所定量(所定比率)まで荷重が減少した場合も、破断の関連する状態変化(具体的には破断の起点)と判定することが出来る。
【0035】
従って、ラメラ状態検知部40による「ラメラ状態Lの状態を検知」には、ラメラLの実際の破断に限られず、ラメラLの張力が振動する状態や、破断直前に急激に張力が低下する状態等も含まれる。特に、本願発明では、「破断に関連するラメラLの状態変化」を検知することが好ましい。
【0036】
なお、状態判定装置44は、荷重センサ42の出力を利用してラメラLの状態変化を検知する場合を例示するが、荷重以外にも、カメラやレーザー等によって外形変化を検知したり、膜の存在や、膜厚等を各種センサで検知したりしても良い。
【0037】
状態判定装置44、移動制御装置70、タイマ装置80、評価処理装置90は、例えば、PLC(Programmable Logic Controller)やコンピュータ等のいわゆる計算機であり、様々な種類を用いることが出来る。一般的に計算機は、演算処理部(例えばCPU)、主記憶装置(例えばRAM)、記憶媒体(例えばハードディスクやROM)等を備えており、記憶媒体に保存される所望のプログラムが演算処理部で実行されることで、目的とする動作(制御)を実現する。なお、ここでは、移動制御装置70やタイマ装置80、評価処理装置90が別々の計算機で実現されていてもよく、共通の計算機で実現されていてもよい。
【0038】
移動制御装置70は、図3に示すように、接触制御部710、引き上げ制御部720、ラメラ維持制御部730を備える。接触制御部710は、容器10の上方に保持されるラメラ形成部20のリング部22を(図5(A)参照)、容器10に接近させることによって、液体試料Sに接触させる(図5(B)参照)。なお、容器10の上昇速度は、例えば1mm/sに設定する。
【0039】
更に詳細に、接触制御部710は、着液位置検知部712と濡らし制御部714を備える。着液位置検知部712は、リング部22が液体試料Sの液面SAに触れた瞬間を、ラメラ状態検知部40の荷重センサの変化から検知して、液面SAとリング部22の相対距離がゼロとなる位置(以下、着液基準位置と称する)を検知・記憶する。濡らし制御部714は、着液基準位置によりも、ラメラ形成部20と容器10を接近させる(即ち、容器10を上昇させる)ことで、リング部22の全体を、液体試料Sの中に沈下させて濡らしてから(図5(C)参照)、容器10を下げることで着液基準位置に戻す(図5(D)参照)。
【0040】
次に、引き上げ制御部720が、着液基準位置から容器10を更に下降させることで、着液基準位置のリング部22を、液面SAから上方に離反させて、ラメラLの形成を開始する(図5(E)参照)。この離反速度は、例えば5mm/sに設定する。ラメラ維持制御部730は、液面SAとリング部22の距離が5mmとなる場所(すなわち1秒経過後)で、容器10の下降を停止して、ラメラLを維持する(図5(F)参照)。この維持状態で時間が経過すると、ラメラLの薄膜が破断して消滅する(図5(G))。ラメラLが破断するまでの経過時間を、タイマ装置80によって測定することで、その経過時間データを、泡の安定性に関する評価値とする。
【0041】
なお、ラメラ維持制御部730によってラメラLを維持する際において、液面SAからリング部22までの距離(以下、ラメラ維持距離と称する)は、例えば、以下の観点に基づくことが好ましい。
【0042】
<観点1> 仮に、このラメラ形成部20を所定の速度範囲(例えば、0.1〜10mm/s、好ましくは0.1〜5mm/s)で、継続的に引き上げる際にラメラが破断する長さを限界長さ(以下、ラメラ最大長と称する)と定義すると、ラメラ維持距離は、ラメラ最大長よりも小さく設定する。すなわち、ラメラ形成部20によってラメラLを限界まで鉛直方向に引き延ばすのではなく、途中でラメラ形成部20の上昇を、破断前の途中で停止することで、ラメラL自身の経時的な維持力を測定できるようにする。なお、ラメラ最大長の定義として、ラメラ形成部20を「継続的に引き上げる」という表現は、ラメラ形成部20を「ラメラが破断するまで引き上げる」と同義である。破断させる際の上昇速度は特に限定されないが、例えば、定速にすることが好ましい。
【0043】
参考として、ラメラ形成部20を所定の速度範囲(例えば0.1〜10mm/s、好ましくは0.1〜5mm/s)で継続的に引き上げ続ける際の、液面SAからリング部22までの相対距離変化と、荷重センサから得られる出力変化の関係を図17に示す。ラメラLが形成されるに連れて、荷重(張力)が略線形状に増大し、所望のタイミングで荷重(張力)が上限に達する。この最大荷重(最大引っ張り荷重)F1を利用すれば、表面張力γを計算式γ=F1×C/(4πR)で算出できる(この計算式をリング法という)。なお、計算式中のCは補正項となる。
【0044】
さらに、最大荷重F1を経過した後に相対距離を増大させると、荷重が減少しつつ、ラメラLの軸方向の中央のくびれが大きくなり、いわゆるラメラLの伸長状態となる。ラメラLの伸長が限界となる相対距離Mに達すると、ラメラLが消失する。この相対距離Mが、本実施形態における「ラメラ最大長」と定義される。なお、ラメラLの消失と同時に、リング部22にシート状の薄膜が形成されたり、液滴が付着したりするので、消失後の荷重センサからの出力には、その薄膜や液滴の重量のみが残存する。
【0045】
なお、液体膜がどれだけ伸びるかという指標に関しては、「ラメラ長」という評価概念が知られている。この「ラメラ長」は、図17において、ラメラ最大長(相対距離M)と、最大荷重F1におけるラメラの長さ(これを最大引っ張り荷重時距離)Nと差P=(M−N)のことを意味する。
【0046】
<観点2> ラメラ維持距離は、最大引っ張り荷重時距離N以上に設定する。ラメラLを、最大荷重F1を超えた「伸び領域」の途中で保持することで、積極的に、ラメラLを不安定な状態に維持し、その安定性を維持時間の観点から測定する。例えば、液面SAとラメラ形成部20の相対距離の大きくしていく過程で、次の(A)〜(D)の場所で停止させる。(A)荷重が上限に達した位置N(すなわち、荷重が下降した瞬間)。(B)最大荷重位置Nから所望距離だけラメラLを伸ばした場所。(C)最大荷重位置Nから更に引っ張って荷重を所定量(又は所定比率)まで下降させた場所。(D)ラメラ最大長から所定距離だけ小さい場所。これらの(A)〜(D)のいずれかをラメラ維持距離として、相対距離の変化を停止させる。このようにすると「不安定な状態におけるラメラの維持力」という視点、つまり、実際の泡に近い状態を想定した泡の安定性指標となる。また、ラメラ維持時間が短くなる分、測定効率を高めることができる。
【0047】
例えば上記(B)の場合、最大荷重位置Nを基準として、1.8N以下の範囲内にラメラ維持距離を設定する。より好ましくは、1.6N以下の範囲内にラメラ維持距離を設定する。
【0048】
例えば上記(C)の場合、最大荷重Fに対して、70%(0.7F)以上の引っ張り力を維持する場所の範囲内、より望ましくは、80%(0.8F)以上の引っ張り力を維持する場所の範囲内を、ラメラ維持距離に設定することが好ましい。ラメラLに作用する引っ張り荷重が、70%(0.7F)未満に下降するまでラメラLを引き延ばすと、ラメラLが不安定となって測定誤差が増加しやすい。
【0049】
例えば上記(D)の場合、ラメラ最大長Mに対して90%(0.9M)以下の範囲内にラメラ維持距離を設定する。より好ましくは、ラメラ最大長Mの80%(0.8M)以下の範囲内にラメラ維持距離を設定する。ラメラLを、0.9M以上に引き延ばすと、ラメラLが不安定となって測定誤差が増加しやすい。一方、ラメラ最大長Mに対して50%(0.5M)以上の範囲内にラメラ維持距離を設定することが好ましい。
【0050】
更に、実測時におけるリング部22と液面SAの離反速度(ラメラLの伸長速度)は、特に限定されないが、0.1mm/s以上が好ましく、望ましくは1.0mm/s以上とし、本実施形態では5.0mm/sとしている。伸長速度が0.1mm/s未満になると、ラメラ維持距離に到達するまでに長時間を要してしまい、雰囲気中のホコリや振動等の他の要因によってラメラLが破断する確率が増え、測定精度が悪化する可能性が有る。
【0051】
なお、本実施形態では、ラメラ維持制御部730が、ラメラLのラメラ維持距離を、ラメラ最大長M未満に維持する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。また例えば、ラメラ維持制御部730は、上記の最大荷重F1となる際のラメラの長さ(距離)N以下に、ラメラ維持距離を保持することもできる。ラメラ維持距離が小さいほうが、ラメラLが安定するので、純粋なラメラLの維持能力を測定できる。しかし、測定時間が長くなり、測定効率が低下するので、ラメラ最大長Mの20%以上にラメラ維持距離を設定することが好ましい。例えば、ラメラLに一定の振動を付加することで、ラメラLを破断しやすくすることもできる。
【0052】
また、ラメラ維持距離の絶対値としては、20mm以下に設定することが好ましく、更に好ましくは10mm以下、望ましくは8mm以下とする。また、望ましくは2mm以上に設定し、より望ましくは4mm以上に設定する。
【0053】
また例えば、下限維持時間(例えば少なくとも1秒〜3秒)を設定しておき、その維持時間以上にラメラLが維持可能となるように、ラメラ維持距離を適宜設定することも好ましい。ラメラ維持時間が短すぎると、評価指標とすることが困難になるからである。つまり、ラメラLが不安定で素早く消失する場合は、ラメラ維持距離を小さく設定し、ラメラLが安定しており長時間維持できる場合は、ラメラ維持距離を大きく設定しても良い。例えば、複数の材料の間の相対評価を行う場合、その材料間でラメラ維持距離が一致していれば良い。維持時間の上限は無いが、維持時間を長く設定しすぎると、測定効率が悪化したり、雰囲気中のホコリや振動等の他の要因によってラメラLが破断する確率が増えて測定精度が悪化したりする。
【0054】
なお、泡安定性の評価値を、相対的な値ではなく、絶対値として規格化することを想定すると、ラメラ維持距離は、最大荷重F、最大引っ張り荷重時距離N、ラメラ最大長Mのいずれかに基づいて算出することが望ましい。
【0055】
図3に戻って、タイマ装置80は、計測開始処理部82と計測終了処理部84を有する。計測開始処理部82は、ラメラLの維持時間の計測を開始する。計測開始は、例えば、引き上げ制御部720によって、ラメラ形成部20が液面SAから離反してラメラLの形成を開始した時でもよく、また、液面SAとラメラ形成部20の相対移動が完了して、ラメラ維持制御部730によるラメラLの維持を開始した時でもよい。計測終了処理部84は、後述する状態判定装置44によって、ラメラLの維持状態が変化した時に、維持時間の計測を終了する。この開始から終了までの経過時間が、ラメラLの維持時間となる。
【0056】
なお、ラメラ維持制御部730が、ラメラLを、最大荷重F1を超えた「伸び領域」の途中で保持する場合、計測開始処理部82は「ラメラLが最大荷重F1を超えた時」を、維持開始時刻に設定することも好ましい。
【0057】
図4(A)に示すように、状態判定装置44は、例えば、ラメラ消失判定部44A、荷重減少判定部44B、荷重振動判定部44Cの少なくともいずれかを備えることができる。ラメラ消失判定部44Aは、荷重センサ42の出力値が、ラメラ消失を意味する所定の閾値を超えたか否かや、ラメラLの形成前の出力値に近似するか否か等を判定する。ラメラLが消失したと判定できれば、維持時間の測定を終了(Te)する。図4(C)に示すように、ラメラLが維持されている間は荷重が安定していて、破断時に急激に荷重が減少するような出力特性の判定に適している。
【0058】
荷重減少判定部44Bは、荷重センサ42の出力値が、安定状態の出力値Faから所定量または所定比率まで減少したか否かを判定する。所定量または所定比率となる出力値Fbまで減少したら、ラメラLが破断に近づいたと判定して、維持時間の測定を終了(Te)する。これは図4(D)に示すように、ラメラLが破断に近づくにつれて、少しずつ荷重が減少するような出力特性の判定に適しており、最終的に破断するまでのラメラLのねばりに関して、測定毎に再現性が低い場合(グラフの点線a,b,c参照)にも適している。
【0059】
荷重振動判定部44Cは、荷重センサ42の出力値が、(所望の振幅を超えて)振動するか否かを判定する。出力値が振動し始めたら、ラメラLが破断に近づいたと判定して、維持時間の測定を終了(Te)する。これは図4(E)に示すように、ラメラLが破断に近づくにつれて、ラメラLが振動するような出力特性の判定に適しており、最終的に破断するまでのラメラLのねばりに関して、測定毎に再現性が低い場合(グラフの点線a,b,c参照)に適している。これらの三種類の判定手法を組み合わせて、ラメラLの状態変化を検知してもよい。
【0060】
図4(B)に示すように、評価処理装置90は、平均算出部92、最大抽出部94、ノイズ除去部96の少なくともいずれかを有する。平均算出部は、同一の液体試料Sに対して、繰り返し測定したラメラ維持時間の平均値を算出して、これを泡安定性に関する評価値とする。最大抽出部94は、同一の液体試料Sに対して、繰り返し測定したラメラ維持時間の最大値を抽出して、これを泡安定性に関する評価値とする。ノイズ除去部96は、同一の液体試料Sに対して繰り返し測定した複数のラメラ維持時間の中から、評価に悪影響を与えるノイズデータを除去する。例えば、複数のラメラ維持時間の中から最大値や最小値を除去することも好ましい。また、複数のラメラ維持時間の分散や標準偏差が、所望の値より小さくなるように、平均値から離れたデータを除去することも好ましい。ノイズ除去部96を備える場合、平均算出部92、最大抽出部94は、ノイズ除去後のラメラ維持時間を利用して算出すればよい。
【0061】
<泡安定性測定方法>
【0062】
本泡安定性測定装置1を用いた測定方法を、図5を参照して説明する。まず、容器10に液体試料Sを貯留して、この上方にラメラ形成部20を配置する(図5(A))。次に、移動制御装置70によって容器10を上昇させることで、液体試料Sとラメラ形成部20を接触させる(図5(B))。接触した瞬間は、ラメラ状態検知部40の荷重センサ42によって検知できるので、移動制御装置70は、この接触位置(着液基準位置)を記憶しておく。次いで、移動制御装置70は更に容器10を上昇させることで、ラメラ形成部20のリング部22の全体を、液体試料S中に沈めることで濡らす(図5(C))。このプリウェット処理によって、測定誤差を抑制できる。なお、このプリウェット処理のタイミングは、ラメラ形成前であればいつでも良い。次に、移動制御装置70は、容器10を下降させることで、着液基準位置をリング部22が通過する(図5(D))。これと同時に、タイマ装置80は、経過時間の計測を開始する。維持時間の計測開始と同時に、移動制御装置70は、容器10を下降させることでラメラLの形成を開始し(図5(E))、ラメラLの長さが、ラメラ維持距離に到達したら容器10の下降を停止する(図5(F))。その後、時間が経つに連れて、ラメラLの状態が不安定となって、最後にラメラLが消滅する(図5(G))。この消滅をラメラ状態検知部40が検知したら、タイマ装置80による経過時間の計測を終了して、ラメラLの維持時間とする。これらの一連のラメラLの維持時間の測定を、複数回に亘って連続的に繰り返した後、評価処理装置90が、泡安定性に関する評価値を算出して測定を終了する。
【0063】
以上の通り、本実施形態の泡安定性測定装置1によれば、ラメラ最大長よりも小さい範囲となるラメラ維持距離でラメラLを経時的に保持し、そのラメラLが消滅する(または消滅に近い状態となる)までの時間経過(ラメラ維持時間)によって、泡の安定性を評価できる。ちなみに、本願発明者らの非公知の実証では、ラメラ長や表面張力の評価指標では、泡の安定性を正確に評価できなかった。しかし、本願発明のラメラ維持時間によれば、ロスマイルス法に常に近似する測定結果を得ることが可能となる。なお、ロスマイルス法では、泡の高さを測定する際に測定誤差が大きかったところ、本実施形態では、ラメラLが形成されてから消失するまでの経過時間という新たな評価観点となるので、人為的な誤差を排除できる。結果、ロスマイルス法よりも高精度かつ客観的に測定することも可能となる。
【実施例1】
【0064】
図1の泡安定性測定装置1を利用して、4種類のビールA乃至Dの泡の安定性について測定した結果を図6(A)及び図8に示す。なお、本実施例1では、図8の通り、各ビールについて10回測定を行い、その最大値を泡安定性の評価値に採用して、図6(A)にグラフ化した。測定結果では、ビールA、ビールB、ビールC、ビールDの順番に泡の安定性が悪い結果となった。また、ビールDが、突出して泡の安定性が高い結果となった。なお、図8の通り、平均値でも同様の関係性となった。
【0065】
比較例として、実施例1と同じ4種類のビールA乃至Dについて、ロスマイルス法によって泡の安定性を測定した結果を図6(B)及び図9に示す。測定結果では、ビールA、ビールB、ビールC、ビールDの順番に泡の安定性が悪い結果となった。また、ビールDが、突出して泡の安定性が高い結果となった。つまり、実施例1と近似する測定結果になった。
【0066】
更に比較例として、実施例1と同じ4種類のビールA乃至Dについて、ラメラ長(液膜の伸び指標)を3回測定した平均値を図7(A)に、静的表面張力を3回測定した平均値を図7(B)に示す。ラメラ長と静的表面張力の双方について、ビールA乃至Dについて殆ど差が生じない結果となった。つまり、ビールの場合、ラメラ長と静的表面張力は、泡の安定性と関係性が低いことが分かった。
【実施例2】
【0067】
図1の泡安定性測定装置1を利用して、麦茶A、緑茶B、ほうじ茶C、濃茶Dの泡の安定性について測定した結果を図10(A)及び図12に示す。なお、本実施例2では、図12の通り、各茶について10回測定を行い、その最大値を泡安定性の評価値に採用して、図10(A)にグラフ化した。測定結果では、麦茶A、緑茶B、ほうじ茶C、濃茶Dの順番に泡の安定性が悪い結果となった。また、麦茶Aが、突出して泡の安定性が悪い結果となった。なお、図12の通り、平均値でも同様の関係性となった。
【0068】
比較例として、実施例2と同じ麦茶A、緑茶B、ほうじ茶C、濃茶Dについて、ロスマイルス法によって泡の安定性を測定した結果を図10(B)及び図13に示す。測定結果では、麦茶A、緑茶B、ほうじ茶C、濃茶Dの順番に泡の安定性が悪い結果となった。また、麦茶Aが、突出して泡の安定性が悪い結果となった。つまり、実施例2と近似する測定結果になった。
【0069】
更に比較例として、実施例2と同じ麦茶A、緑茶B、ほうじ茶C、濃茶Dについて、ラメラ長を測定した結果を図11(A)に、静的表面張力を測定した結果を図11(B)に示す。ラメラ長は、実施例1と近似する結果となったが、静的表面張力は、麦茶A、緑茶B、ほうじ茶C、濃茶Dについて殆ど差が生じない結果となった。つまり、お茶の場合、ラメラ長は泡の安定性について関係性を有するが、静的表面張力は、泡の安定性と無関係であることが分かった。
【実施例3】
【0070】
図1の泡安定性測定装置1を利用して、三種類の墨汁A乃至Cの泡の安定性について測定した結果を図14及び図16に示す。お、本実施例3では、図16の通り、各墨汁について10回測定を行い、その最大値及び平均値を泡安定性の評価値に採用して、図14(A)及び(B)にグラフ化した。測定結果では、最大値及び平均値共に、墨汁A乃至Cの順番に泡の安定性が悪い結果となり、更にまた、墨汁Cが、突出して泡の安定性が高い結果となった。なお、墨汁をロスマイルス法で測定しようと試みたが、泡生成時に墨汁が飛散してメスシリンダーの内壁に付着した結果、泡沫の高さを目視で測定することができなかった。
【0071】
また、比較例として、実施例3と同じ墨汁A乃至Cについて、ラメラ長を測定した結果を図15(A)に、静的表面張力を測定した結果を図15(B)に示す。ラメラ長と静的表面長禄の双方ともに、実施例3による泡の安定性と無関係であることが分かった。
【0072】
なお、本発明の実施形態では、ラメラ維持制御部730が、液面SAとラメラ形成部20の相対距離を固定することで、ラメラLを最大長M以下に維持する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ラメラ形成部20を微細に上下振動させながら、ラメラLを最大長M以下に維持してもよい。本発明者らの実験によると、ラメラ形成部20を微細に上下振動させながらラメラLを保持しても、振動させない場合と比較して、測定結果に差が生じにくいことが判っている。
【0073】
また、本実施形態の泡安定性測定装置1の変形例として、ラメラ形成部20と液面SAの相対距離を、きわめて低速で引き離していくことで、ラメラLが最大長Mに達する前に、必ず、時間経過による消滅を生じさせることで、泡安定性について測定することも可能である。例えば、1mm/s以下、更に望ましくは0.5mm/s以下、より好ましくは0.3mm/s以下で相対距離を離反させることで、実質的にラメラLが最大長Mに達する前に、ラメラLを経時消滅させることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 泡安定性測定装置
10 容器
20 ラメラ形成部
22 リング部
30 吊り下げ部
32 フック
40 ラメラ状態検知部
42 荷重センサ
44 状態判定装置
50 移動機構
70 移動制御装置
80 タイマ装置
90 評価処理装置
【要約】
【課題】泡の安定性を客観的かつ高精度に測定する。
【解決手段】容器10に対象物を貯留し、その上方にラメラ形成部20を配置して、対象物の表面から上方に延びるラメラLを形成する。ラメラが破断する限界長さ(以下、ラメラ最大長と称する)よりも小さい範囲内で、ラメラLを経時的に保持し、ラメラLが保持される間においてラメラLの状態変化を検知し、状態変化が生じるまでの維持時間(以下、ラメラ維持時間)を測定するようにした。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18