特許第6583944号(P6583944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6583944
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】時計用ムーブメントおよび時計
(51)【国際特許分類】
   G04C 3/14 20060101AFI20190919BHJP
   G04C 3/00 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   G04C3/14 B
   G04C3/14 G
   G04C3/00 B
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-200053(P2018-200053)
(22)【出願日】2018年10月24日
【審査請求日】2018年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100171251
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】藤原 俊行
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 健治
【審査官】 平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−132519(JP,A)
【文献】 特開2008−116435(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0233791(US,A1)
【文献】 特開2018−21870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04C 3/00,3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に設けられ、針が取り付けられる第1車と、
前記第1車を両方向に回転駆動する第1モータと、
前記第1車の回転軸線とは異なる軸線回りに回転可能に設けられ、前記軸線に沿って延びる軸部を有し、前記軸部の外周面には前記針が接触可能な接触部が設けられ、前記接触部の前記軸線からの距離は前記軸線回りの周方向の位置に応じて変化している、第2車と、
前記第2車を回転駆動する、前記第1モータとは別に設けられた第2モータと、
を備えることを特徴とする時計用ムーブメント。
【請求項2】
前記接触部は、面カット部を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の時計用ムーブメント。
【請求項3】
前記接触部は、互いに平行に設けられた一対の面カット部を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の時計用ムーブメント。
【請求項4】
前記接触部は、前記軸線に対して偏心している、
ことを特徴とする請求項1に記載の時計用ムーブメント。
【請求項5】
前記第1モータは、1つのコイルを有するステータ、および2極のロータを備える、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の時計用ムーブメント。
【請求項6】
前記ステータは、前記ロータが配設されるロータ収容孔が形成されステータヨークを備え、
前記ステータヨークは、前記コイルの励磁によって前記ロータ収容孔の周囲に互いに異なる一対の磁極を発生させる一対の磁気飽和部を備え、
前記一対の磁気飽和部は、前記ロータの回転中心を挟んで互いに対向するように設けられ、
前記ロータ収容孔には、前記ロータに対して保持トルクを作用させる一対の切欠部が形成され、
前記一対の切欠部は、前記ロータの回転中心を挟んで互いに対向するように設けられ、
前記一対の切欠部を通る直線は、前記一対の磁気飽和部を通る直線に対して前記ロータの正転方向に所定角度傾斜し、
前記接触部は、前記ロータを正転させる際に前記針が変位する方向の上流側から前記針を前記接触部に接触させた状態で前記第2車を回転させると、前記ロータが前記所定角度よりも大きく回転するように形成されている、
ことを特徴とする請求項5に記載の時計用ムーブメント。
【請求項7】
前記第1モータおよび前記第2モータを制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記針が前記第2車の前記接触部に接触した場合に、前記第2車を回転させるパルスを前記第2モータに所定回数印加する毎に、前記針を前記第2車から離間する方向に回転させるパルスを前記第1モータに1回印加する、
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の時計用ムーブメント。
【請求項8】
前記所定回数は、1回である、
ことを特徴とする請求項7に記載の時計用ムーブメント。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の時計用ムーブメントと、
前記第1車に取り付けられた第1針と、
前記第2車に取り付けられた第2針と、
を備えることを特徴とする時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用ムーブメントおよび時計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ステッピングモータによって針を駆動させる電子時計において、針の位置を補正する機構が搭載されたものがある。針の回動範囲が規定された時計において、針の位置の補正方法として、針が取り付けられる車を回動範囲の端部まで回動させて度当たりさせる方法がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、回動可能な表示車と、表示車を正逆両方向に回動駆動するステッピングモータと、表示車の正転側への回動を規制する正転度当たり部と、表示車に取り付けられる指示手段とを有する扇形表示部を備えた時計が開示されている。
【0003】
しかしながら、表示車が度当たりして静止した際に、ステッピングモータのロータの回転位置によっては、ステッピングモータにパルスを印加してもロータが回転せずにスタックする場合がある。そこで、特許文献1に記載の発明では、正転度当たり部の位置を、表示車が正転度当たり部により停止した正転度当たり時におけるロータの一対の磁極方向が、動的安定位置に対して±30°の範囲から外れるように設定している。これにより、正転度当たり後、逆転信号の印加により、ロータを確実に駆動できるとされている。
【0004】
ところで近年では、文字板の中央付近を中心として回転する時分針等以外に、時分針の回転中心からずれた位置を中心に回動する表示針を設け、時刻以外の各種情報を表示する機能を有する時計がある。この種の時計では、表示針が時分針等の軸部に接触しないようにする必要がある。すなわち、表示針が時分針等の軸部と表示針の軸部との軸間距離よりも長く延びる場合には、表示針が時分針等の軸部に接触しない範囲内で回動して情報を表示するように設計される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−116435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術の表示針を備える時計においては、パルスの過印加等の予期せぬ事態によって、表示針が通常の回動範囲から逸脱して、時分針等の軸部に度当たりする場合がある。このような場合には、表示針が度当たりした状態でのロータの回転位置を予測することが困難である。このため、ステッピングモータにパルスを印加してもロータが回転しないスタック状態となり、表示針の動作不良が生じる可能性がある。
【0007】
そこで本発明は、針の動作不良の発生を抑制できる時計用ムーブメントおよび時計を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の時計用ムーブメントは、回転可能に設けられ、針が取り付けられる第1車と、前記第1車を両方向に回転駆動する第1モータと、前記第1車の回転軸線とは異なる軸線回りに回転可能に設けられ、前記軸線に沿って延びる軸部を有し、前記軸部の外周面には前記針が接触可能な接触部が設けられ、前記接触部の前記軸線からの距離は前記軸線回りの周方向の位置に応じて変化している、第2車と、前記第2車を回転駆動する、前記第1モータとは別に設けられた第2モータと、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、針が第2車の軸部の接触部に接触した状態で第2車を回転させることで、針と第2車の軸部との隙間を設ける、または針を押圧して変位させることができる。これにより、針が第2車に接触してロータが回転不能の状態になった場合でも、ロータを回転させることが可能となる。したがって、針の動作不良の発生を抑制することができる。
【0010】
上記の時計用ムーブメントにおいて、前記接触部は、面カット部を有する、ことが望ましい。
【0011】
本発明によれば、面カット部によって接触部の前記軸線からの距離を前記軸線回りの周方向の位置に応じて変化させることができる。したがって、上述した作用効果を奏する時計用ムーブメントを形成することができる。
【0012】
上記の時計用ムーブメントにおいて、前記接触部は、互いに平行に設けられた一対の面カット部を有する、ことが望ましい。
【0013】
本発明によれば、第2車を少なくとも180°回転させることによって、針と第2車の軸部との隙間を設ける、または針を押圧して変位させることができる。すなわち、面カット部が1つだけ設けられている場合と比較して、速やかに針と第2車の軸部との隙間を設ける、または針を押圧して変位させることができる。
さらに、接触部のうち少なくとも一部は、一対の面カット部の前記軸線からの距離によらず、面カット部よりも前記軸線からの距離が大きい部分となる。このため、接触部の前記軸線からの最大距離は、面カット部を設けても変化しない。すなわち、面カット部が3つ以上設けられている場合と比較して、針と第2車の軸部との隙間を大きく設ける、または針を押圧して大きく変位させることができる。
以上により、針が第2車に接触してロータが回転不能の状態になった場合でも、ロータをより確実に回転させることが可能となる。したがって、針の動作不良の発生を抑制することができる。
【0014】
上記の時計用ムーブメントにおいて、前記接触部は、前記軸線に対して偏心している、ことが望ましい。
【0015】
本発明によれば、接触部の前記軸線からの距離を前記軸線回りの周方向の位置に応じて変化させることができる。したがって、上述した作用効果を奏する時計用ムーブメントを形成することができる。
【0016】
上記の時計用ムーブメントにおいて、前記第1モータは、1つのコイルを有するステータ、および2極のロータを備える、ことが望ましい。
【0017】
本発明によれば、ロータを逆転させる際に、最初にロータを正転させるパルスをコイルに印加する場合がある。このため、ロータを正転させることで針が第2車の軸部に接触した際には、それ以上ロータを正転させることができないので、ロータが逆転不能の状態に陥る。したがって、上述した接触部を有する第2車を組み合わせることで、ロータの逆転不能の状態から抜け出すことが可能な時計用ムーブメントとすることができる。
【0018】
上記の時計用ムーブメントにおいて、前記ステータは、前記ロータが配設されるロータ収容孔が形成されステータヨークを備え、前記ステータヨークは、前記コイルの励磁によって前記ロータ収容孔の周囲に互いに異なる一対の磁極を発生させる一対の磁気飽和部を備え、前記一対の磁気飽和部は、前記ロータの回転中心を挟んで互いに対向するように設けられ、前記ロータ収容孔には、前記ロータに対して保持トルクを作用させる一対の切欠部が形成され、前記一対の切欠部は、前記ロータの回転中心を挟んで互いに対向するように設けられ、前記一対の切欠部を通る直線は、前記一対の磁気飽和部を通る直線に対して前記ロータの正転方向に所定角度傾斜し、前記接触部は、前記ロータを正転させる際に前記針が変位する方向の上流側から前記針を前記接触部に接触させた状態で前記第2車を回転させると、前記ロータが前記所定角度よりも大きく回転するように形成されている、ことが望ましい。
【0019】
ここで、ロータを正転させた際に針が回転する方向を第1方向と称する。本発明によれば、ロータの磁極軸が一対の磁気飽和部を通る直線に直交する位置にある状態では、ロータは、磁極軸が一対の内ノッチを通る直線に直交する位置に向けて正転しようとする。針が第2車の接触部における前記軸線から最も離れた箇所に第1方向上流側から接触した場合、第2車を回転させて針を第1方向に回転させると、ロータは、静止安定位置まで前記所定角度θ正転して、静止安定位置で停止する。さらに第2車を回転させると、ロータの停止に伴って、針と第2車の軸部との隙間ができる。これにより、ロータを正転させることが可能となるので、ロータを上述したパルスによって逆転させることが可能となる。したがって、針の動作不良の発生を抑制することができる。
【0020】
上記の時計用ムーブメントにおいて、前記第1モータおよび前記第2モータを制御する制御部を備え、前記制御部は、前記針が前記第2車の前記接触部に接触した場合に、前記第2車を回転させるパルスを前記第2モータに所定回数印加する毎に、前記針を前記第2車から離間する方向に回転させるパルスを前記第1モータに1回印加する、ことが望ましい。
【0021】
本発明によれば、第1モータに定期的に逆転パルスを印加できる。これにより、第2車の接触部における針の接触位置が不明であっても、針と第2車の軸部との隙間ができた状態、または針が第2車によって押圧されて変位した状態で、第1モータに逆転パルスを印加できる。したがって、ロータの回転不能の状態から確実に抜け出すことができる。
【0022】
上記の時計用ムーブメントにおいて、前記所定回数は、1回である、ことが望ましい。
【0023】
本発明によれば、針と第2車の軸部との隙間ができた状態、または針が第2車によって押圧されて変位した状態で、第1モータに逆転パルスを確実に印加できる。したがって、ロータの回転不能の状態からより確実に抜け出すことができる。
【0024】
本発明の時計は、上記の時計用ムーブメントと、前記第1車に取り付けられた第1針と、前記第2車に取り付けられた第2針と、を備えることを特徴とする。
【0025】
本発明によれば、第1針の動作不良の発生が抑制された時計を提供できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、針の動作不良の発生を抑制できる時計用ムーブメントおよび時計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】第1実施形態の時計の平面図である。
図2】第1実施形態の時計の断面図である。
図3】第1実施形態の時計の構成を示すブロック図である。
図4】第1実施形態のステッピングモータの構成を示す模式図である。
図5】第1実施形態のステッピングモータの構成を示す模式図である。
図6】第1実施形態の筒車の斜視図である。
図7】第1実施形態に係るステッピングモータの正転動作を示す動作図である。
図8】第1実施形態に係るステッピングモータの逆転動作を示す動作図である。
図9】第1実施形態に係るステッピングモータの逆転動作を示す動作図である。
図10】第1実施形態に係るステッピングモータの逆転動作を示す動作図である。
図11】第1実施形態の時計において、表示針が筒車に接触した場合の動作の一例を示す平面図である。
図12】第1実施形態の時計において、表示針が筒車に接触した場合の動作の一例を示す平面図である。
図13】第1実施形態の時計において、表示針が筒車に接触した場合の動作の一例を示す平面図である。
図14】第2実施形態の筒車の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の実施形態では、時計の一例として、アナログクォーツ式の電子時計を例に挙げて説明する。なお以下の説明では、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それら構成の重複する説明は省略する場合がある。
【0029】
[第1実施形態]
最初に第1実施形態の時計1およびムーブメント10について説明する。
(時計)
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。このムーブメントに文字板、指針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。
【0030】
図1は、第1実施形態の時計の平面図である。
図1に示すように、時計1のコンプリートは、ケース裏蓋(不図示)およびガラス3を含む時計ケース4の内部に、ムーブメント10、文字板11、時針12、分針13および表示針14(針)を備える。時針12および分針13は、時刻を指示する。時針12および分針13は、ムーブメント10が備える第1出力軸21(図2参照)に取り付けられ、第1回転軸線O(軸線)回りに回転する。第1回転軸線Oは、第1出力軸21の中心軸線である。表示針14は、時計1が実行しているモードの種類など、時針12および分針13が指示する時刻情報とは異なる情報を指示する。表示針14は、ムーブメント10が備える第2出力軸22(図2参照)に取り付けられ、第1回転軸線Oとは異なる第2回転軸線P回りに回動する。第2回転軸線Pは、第2出力軸22の中心軸線である、第2回転軸線Pは、第1回転軸線Oと平行に設けられている。
【0031】
第2回転軸線Pから表示針14の先端までの距離は、第2回転軸線Pから第1出力軸21(図2参照)までの距離よりも長くなっている。このため、表示針14の回動範囲は、通常時には、360°未満であって、第1出力軸21を避けた扇形状に設定されている。
【0032】
文字板11は、円板状に形成されている。文字板11は、時針12および分針13に対応する主表示領域15と、表示針14に対応する副表示領域16と、を有する。主表示領域15には、時針12および分針13の先端により指示される目盛りが、文字板11の外周に沿って円周状に設けられている。副表示領域16には、表示針14の先端により指示される目盛りや文字等が、表示針14の回動範囲に対応して、第2回転軸線Pを中心とする円弧状に設けられている。本実施形態では、副表示領域16は、表示針14との組み合わせにより、例えば活動量計の目標値に対する達成率や、時計1が実行しているモードの種類等を表示可能となっている。文字板11、時針12、分針13および表示針14は、ガラス3を通じて視認可能に配置されている。
【0033】
時計ケース4の側面のうち、2時に位置する部分、および4時に位置する部分のそれぞれにはボタン17が設けられている。ボタン17は、時針12および分針13が示す時刻を修正する時刻修正や、時計1が実行するモードの切り替え等に用いられる。
【0034】
(ムーブメント)
図2は、第1実施形態の時計の断面図である。
図2に示すように、ムーブメント10は、文字板11とケース裏蓋(不図示)との間に配置されている。ムーブメント10は、時針12、分針13および表示針14を駆動する。なお、以下の説明では、時針12および分針13の回転中心である第1回転軸線Oの延在方向を軸方向という。
【0035】
図3は、第1実施形態の時計の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、ムーブメント10は、複数のステッピングモータ30A,30B,30Cと、複数の輪列50A,50B,50Cと、制御部70と、支持体80と、を備える。支持体80は、地板や輪列受等であって、例えばムーブメント10の外郭を形成する。支持体80は、複数のステッピングモータ30A,30B,30Cや、複数の輪列50A,50B,50C等を支持する。支持体80は、時計本体に対して着脱可能の別体のユニットの形態として構成されていてもよい。この場合、ムーブメント10は、時計本体を完成品とした場合の半製品、中間製品として取り扱われるものである。
【0036】
複数のステッピングモータ30A,30B,30Cは、時針12を駆動する時針用ステッピングモータ30A(第2モータ)と、分針13を駆動する分針用ステッピングモータ30Bと、表示針14を駆動する表示針用ステッピングモータ30C(第1モータ)と、である。なお、以下では、ステッピングモータを単にモータと称する。また、以下の説明では、時針用モータ30A、分針用モータ30Bおよび表示針用モータ30Cのうち1つを特定しない場合は、単にモータ30という。
【0037】
図4および図5は、モータの構成を示す模式図である。
図4に示すように、モータ30は、ロータ収容孔40が形成されたステータ31と、ロータ収容孔40に回転可能に配設されたロータ32と、を備える。モータ30は、ロータ32を正逆両方向に回転させることができる。図4において、矢印Dnはロータ32の正転方向を示している。本実施形態では、ロータ32の正転(正方向の回転)は、後述する磁気飽和部42および内ノッチ43の位置関係によって決まる方向である。ロータ32は、軸方向に延びる軸線回りに回転する。ロータ32は、径方向に2極に着磁されることにより磁気的な極性を有する。ロータ32は、支持体80(図3参照)によって回転可能に支持されている。ロータ32には、輪列50A,50B,50Cが有する歯車に噛み合うかなが形成されている(不図示)。
【0038】
ステータ31は、ステータヨーク34と、ステータヨーク34と磁気的に接合された磁心35と、磁心35に巻回されたコイル36と、を備える。ステータヨーク34は、例えばパーマロイ等の高透磁率材料を用いた板材により形成されている。ステータヨーク34は、軸方向から見て所定の形状に延在している。ステータヨーク34の中間部には、円形状のロータ収容孔40が形成されている。ロータ収容孔40は、ステータヨーク34を軸方向に貫通している。なお、中間部とは、ステータヨーク34の両端間の中央のみならず、ステータヨーク34の両端間の内側の範囲を含む意とする。
【0039】
磁心35は、例えばパーマロイ等の高透磁率材料により形成されている。磁心35は、ステータヨーク34の両端部に磁気的に接続されている。磁心35には、上述したコイル36が巻回されている。コイル36を励磁すると、磁心35およびステータヨーク34に沿って磁束が流れる。
【0040】
ここで、ステータヨーク34におけるロータ収容孔40の周囲には、ステータヨーク34の外縁からロータ収容孔40に向かって切り欠かれた一対の外ノッチ41が形成されている。一対の外ノッチ41は、ロータ32の回転中心を挟んで互いに反対側に配置されている。具体的に、一対の外ノッチ41は、ロータ32の回転中心回りに互いに180°ずれた位置に設けられている。各外ノッチ41は、円弧状に切り欠かれている。ステータヨーク34におけるロータ収容孔40の周囲は、各外ノッチ41によって局所的に狭くなっている。ステータヨーク34における外ノッチ41によって狭くなった部分は、磁気飽和部42とされている。
【0041】
磁気飽和部42は、ロータ32の磁束によっては磁気飽和せず、コイル36が励磁されたときに磁気飽和して磁気抵抗が大きくなるように構成されている。これにより、ステータヨーク34は、磁気飽和部42において磁気飽和が生じることによってロータ収容孔40の周囲において磁気的に2つに分割される。一対の磁気飽和部42は、ロータ32の回転中心を挟んで互いに対向するように設けられている。具体的に、一対の磁気飽和部42は、ロータ32の回転中心回りに互いに180°ずれた位置に設けられている。
【0042】
図5に示すように、一対の磁気飽和部42は、コイル36の励磁によってロータ収容孔40の周囲に互いに異なる一対の磁極を発生させる。一対の磁極は、一対の磁気飽和部42を通る直線を挟んだ両側に発生する。一対の磁極を励磁すると、ロータ32は磁極軸が一対の磁気飽和部42を通る直線に直交する位置で静止する(図5に示す状態)。以下、ロータ32の磁極軸が一対の磁気飽和部42を通る直線に直交するときのロータ32の停止位置を中間静止位置という。
【0043】
また、図4に示すように、ロータ収容孔40の内周縁には、一対の内ノッチ43(切欠部)が形成されている。一対の内ノッチ43は、ロータ32の回転中心を挟んで互いに対向するように設けられている。具体的に、一対の内ノッチ43は、ロータ32の回転中心回りに互いに180°ずれた位置に設けられている。各内ノッチ43は、円弧状に切り欠かれている。例えば、一対の内ノッチ43を通る直線は、一対の磁気飽和部42を通る直線に対してロータ32の回転中心で交差している。一対の内ノッチ43を通る直線は、一対の磁気飽和部42を通る直線に対して、ロータ32の正転方向に90°未満の所定角度θ傾斜している。換言すると、ロータ32の正転方向は、一対の磁気飽和部42を通る直線に対して、一対の内ノッチ43を通る直線が90°未満で傾斜する方向である。
【0044】
内ノッチ43は、ロータ32に対して保持トルクを作用させる。内ノッチ43は、コイル36が励磁されていないときのロータ32の静止位置を決めるための位置決め部として構成されている。ロータ32は、その磁極軸が一対の内ノッチ43を通る直線と直交する位置にあるときに、最もポテンシャルエネルギーが低くなり、安定して停止する。以下、ロータ32の磁極軸が一対の内ノッチ43を通る直線に直交するときのロータ32の停止位置を安定静止位置という。ロータ32は、ステータ31の一対の磁極を励磁し続けると中間静止位置で静止し、ステータ31の一対の磁極の励磁を停止すると安定静止位置で静止する。
【0045】
図3に示すように、複数の輪列50A,50B,50Cは、時針用モータ30Aの出力を時針12に伝達する時針用輪列50Aと、分針用モータ30Bの出力を分針13に伝達する分針用輪列50Bと、表示針用モータ30Cの出力を表示針14に伝達する表示針用輪列50Cと、である。複数の輪列50A,50B,50Cは、支持体80に回転可能に支持された少なくとも1つの歯車を有する。時針用輪列50Aは、時針用モータ30Aのロータ32に連結されている。分針用輪列50Bは、分針用モータ30Bのロータ32に連結されている。表示針用輪列50Cは、表示針用モータ30Cのロータ32に連結されている。なお、以下では表示針用モータ30Cのロータ32を表示針用ロータ32と称する。
【0046】
図2に示すように、時針用輪列50Aは、筒車51(第2車)を有する。筒車51は、第1回転軸線Oと同軸に配置されている。筒車51は、第1回転軸線O回りに回転可能に設けられている。筒車51は、文字板11からガラス3(図1参照)側に突出する第1軸部52を備える。第1軸部52は、第1回転軸線Oに沿って延びる円筒状に形成されている。第1軸部52は、第1出力軸21である。第1軸部52の先端には、時針12が取り付けられる。筒車51は、時針用モータ30Aによって両方向に回転駆動される。筒車51は、時針用モータ30Aのロータ32を正転させることで、ガラス3側から見た時計回り方向に回転し、時針12を時計回り方向に回転させる。
【0047】
分針用輪列50Bは、分針車54を有する。分針車54は、第1回転軸線Oと同軸に配置されている。分針車54は、第1回転軸線O回りに回転可能に設けられている。分針車54は、文字板11からガラス3側へ突出する第2軸部55を備える。第2軸部55は、第1回転軸線Oに沿って延びる円柱状、または円筒状に形成されている。第2軸部55は、筒車51の第1軸部52に挿通され、筒車51の第1軸部52よりもガラス3側へ突出している。第2軸部55は、第1出力軸21である。第2軸部55の先端には、分針13が取り付けられる。分針13は、時針12よりもガラス3側に配置されている。分針車54は、分針用モータ30Bによって両方向に回転駆動される。分針車54は、分針用モータ30Bのロータ32を正転させることで、ガラス3側から見た時計回り方向に回転し、分針13を時計回り方向に回転させる。
【0048】
表示針用輪列50C、表示針車57(第1車)を有する。表示針車57は、第2回転軸線Pと同軸に配置されている。表示針車57は、第2回転軸線P回りに回転可能に設けられている。表示針車57は、文字板11からガラス11側へ突出する第3軸部58を備える。第3軸部58は、第2回転軸線Pに沿って延びる円柱状、または円筒状に形成されている。第3軸部58は、第2出力軸22である。第3軸部58の先端には、表示針14が取り付けられる。表示針14は、時針12よりも文字板11側に配置されている。表示針車57は、表示針用モータ30Cによって両方向に回転駆動される。表示針車57は、表示針用ロータ32を正転させることで、ガラス3側から見た時計回り方向に回転し、表示針14を時計回り方向に回転させる。
【0049】
第1出力軸21の外周面の一部には、表示針14が接触可能となっている。本実施形態では、筒車51の第1軸部52の外周面には、表示針14が接触可能な接触部60が設けられている。接触部60は、軸方向において表示針14と同じ位置に設けられている。すなわち、接触部60は、軸方向に直交する方向から見て、表示針14と重なるように設けられている。接触部60は、筒車51の第1軸部52における時針12の取付部52aよりも文字板11側に設けられている。
【0050】
図6は、第1実施形態の筒車の斜視図である。
図6に示すように、接触部60の第1回転軸線Oからの距離は、第1回転軸線O回りの周方向の位置に応じて変化している。接触部60は、一定の曲率半径で軸方向および第1回転軸線O回りの周方向に延びる円周面部61と、円周面部61よりも小径の小径部62と、を備える。小径部62は、筒車51の第1軸部52の外周面を面カットすることにより形成されている。本実施形態では、小径部62は、2面カットにより形成された一対の面カット部63を備える。一対の面カット部63は、互いに平行な同一形状の平面とされている。これにより、接触部60は、第1回転軸線Oについて2回対称に形成されている。
【0051】
接触部60は、第2回転軸線P中心の時計回り方向の上流側から表示針14を接触部60に接触させた状態で筒車51を回転させると、表示針用ロータ32が前記所定角度θよりも大きく回転するように形成されている。具体的に、接触部60は、表示針14が小径部62に接触した状態における表示針用ロータ32の位置と、表示針14が円周面部61に接触した状態における表示針用ロータ32の位置と、の角度差が、前記所定角度θよりも大きくなるように形成されている。
【0052】
図3に示すように、制御部70は、例えばモータドライバIC(集積回路)である。制御部70は、モータ30を駆動する駆動信号を生成し、生成した駆動信号をモータ30のコイル36に印加してロータ32を駆動する。駆動信号として、正転パルスおよび逆転パルスがある。正転パルスは、安定静止位置にあるロータ32を180°正転させる。図7に示すように、正転パルスは、ロータ32を反発させるように、ロータ32の磁極と対向するステータ31の一対の磁極を励磁する。
【0053】
逆転パルスは、安定静止位置にあるロータ32を180°逆転させる。例えば、逆転パルスは、正転パルスと同極性の第1パルスと、第1パルスと逆極性の第2パルスと、第2パルスと逆極性の第3パルスと、を含む。
【0054】
図8に示すように、第1パルスは、ロータ32を反発させるように、ロータ32の磁極と対向するステータ31の一対の磁極を励磁する。第1パルスは、ロータ32を安定静止位置から正転させる。すなわち、第1パルスは、逆転させたいロータ32を正転方向に逆振りする。例えば、第1パルスは、ロータ32の磁極軸と一対の磁気飽和部42を通る直線とが平行となる位置を越えない位置までロータ32を正転させる。
【0055】
第2パルスは、第1パルスに続いて印加される。図9に示すように、第2パルスは、第1パルスの印加時とは逆極性となるように、ステータ31の一対の磁極を励磁する。第2パルスは、第1パルスによって正転したロータ32を吸引して逆転させる。すなわち、第2パルスは、第1パルスによって逆振りされたロータ32に戻りの反動を付与する。例えば、第2パルスは、中間静止位置を越える位置までロータ32を逆転させる。
なお、これらパルスの設定は、第1パルスによる逆振りと第2パルスによる戻りの反動を利用可能な設定であれば、前述のようなロータ32の位置との関係に限定されるものではない。
【0056】
第3パルスは、第2パルスに続いて印加される。図10に示すように、第3パルスは、ロータ32を反発させるように、ロータ32の磁極と対向するステータ31の一対の磁極を励磁する。第3パルスは、第2パルスにより逆転したロータ32をさらに逆転させる。例えば、第3パルスは、ロータ32が安定静止位置を越える位置まで逆転し、回転方向が正転方向に転じるまで印加される。ロータ32は、第3パルスの印加停止後、安定静止位置に向けて自由振動により振動を収束させる。
【0057】
ここで、表示針14を駆動できないスタック状態について説明する。
図11から図13は、第1実施形態の時計において、表示針が筒車に接触した場合の動作の一例を示す平面図である。
図11に示すように、表示針14が通常の回動範囲から時計回り方向に逸脱して筒車51の第1軸部52に接触すると、表示針14を駆動できないスタック状態となる場合がある。
【0058】
例えば、表示針14が第1軸部52に時計回り方向の上流側から接触した状態で、表示針用ロータ32が安定静止位置にあると、表示針用ロータ32を逆転パルスの第1パルスによって正転させることができない。このため、逆転パルスによって表示針用ロータ32を逆転させることができず、表示針14を時計回り方向および反時計回り方向の両方向に駆動できないスタック状態となる。
【0059】
そこで、制御部70は、スタック状態から抜け出すために、例えばリセット時に、時針用モータ30Aに正転パルスまたは逆転パルスを所定回数入力する毎に、表示針用モータ30Cに逆転パルスを1回入力する処理を繰り返す。例えば、制御部70は、時針用モータ30Aに逆転パルスを1回入力する毎に、表示針用モータ30Cに逆転パルスを1回入力する処理を繰り返す。制御部70は、時針用モータ30Aへのパルスの入力と、表示針用モータ30Cへのパルスの入力と、を同時に行ってもよいし、交互に行ってもよい。本実施形態では、筒車51の接触部60が第1回転軸線Oについて2回対称に形成されているので、制御部70は例えば筒車51を少なくとも180°回転させる。
【0060】
これにより、図12に示すように、表示針14が筒車51の円周面部61に接触していた場合には、小径部62が表示針14に対向する位置まで回転することで、表示針14と筒車51の第1軸部52とに隙間が形成される。また、表示針14が筒車51の小径部62に接触していた場合には、筒車51が回転することで、筒車51の接触部60の径差によって表示針14が反時計回り方向に押される。すると、表示針14が円周面部61に接触する状態となる。このため、筒車51の回転が進行して筒車51の小径部62が表示針14に再度対向する位置まで回転することで、表示針14と筒車51の第1軸部52とに隙間が形成される。
【0061】
表示針14と筒車51の第1軸部52とに隙間が形成された状態では、図13に示すように、表示針14は時計回り方向に回転可能となる。このため、表示針用ロータ32は逆転パルスの第1パルスによって正転可能となる。よって、表示針用ロータ32は逆転パルスによって逆転することができる。また、表示針14が筒車51の接触部60に押されて反時計回り方向に回転する過程で、表示針用ロータ32には逆転方向への回転力が付与される。このため、ロータ32への逆転方向の回転力の付与によっても、表示針用ロータ32は回転不能な状態から抜け出すことができる。
【0062】
なお、以上の説明では、表示針14が第1軸部52に時計回り方向の上流側から接触した状態で、表示針用ロータ32が安定静止位置にある場合を説明したが、他の場合であっても同様の方法でスタック状態から抜け出すことができる。例えば、表示針14が第1軸部52に時計回り方向の上流側から接触した状態で、表示針用ロータ32が中間静止位置にある場合も生じうる。この場合、ステータ31の磁極を励磁しても磁束が表示針用ロータ32の磁極軸に平行になるので、表示針用ロータ32が回転せず、表示針14を駆動できない。そこで、筒車51を回転させることで、表示針用ロータ32を中間静止位置から回転させることができる。これにより、表示針用ロータ32には回転力が付与されるので、表示針用ロータ32は回転不能な状態から抜け出すことができる。
【0063】
以上に説明したように、本実施形態のムーブメント10および時計1では、筒車51の第1軸部52の外周面に、表示針14が接触可能な接触部60が設けられている。接触部60の第1回転軸線Oからの距離は、第1回転軸線O回りの周方向の位置に応じて変化している。この構成によれば、表示針14が筒車51の第1軸部52の接触部60に接触した状態で筒車51を回転させることで、表示針14と筒車51の第1軸部52との隙間を設ける、または表示針14を押圧して変位させることができる。これにより、表示針14が筒車51に接触して、表示針用ロータ32が回転不能の状態になった場合でも、表示針用ロータ32を回転させることが可能となる。したがって、表示針14の動作不良の発生を抑制することができる。
【0064】
また、接触部60は、面カット部63を有する。この構成によれば、面カット部63によって接触部60の第1回転軸線Oからの距離を第1回転軸線O回りの周方向の位置に応じて変化させることができる。したがって、上述した作用効果を奏するムーブメント10および時計1を形成することができる。
【0065】
また、接触部60は、一対の面カット部63を有する。この構成によれば、筒車51を少なくとも180°回転させることによって、表示針14と筒車51の第1軸部52との隙間を設ける、または表示針14を押圧して変位させることができる。すなわち、面カット部63が1つだけ設けられている場合と比較して、速やかに表示針14と筒車51の第1軸部52との隙間を設ける、または表示針14を押圧して変位させることができる。
さらに、接触部60のうち少なくとも一部は、一対の面カット部63の第1回転軸線Oからの距離によらず円周面部61となるので、接触部60の第1回転軸線Oからの最大距離は面カット部63を設けても変化しない。すなわち、面カット部が3つ以上設けられている場合と比較して、表示針14と筒車51の第1軸部52との隙間を大きく設ける、または表示針14を押圧して大きく変位させることができる。
以上により、表示針14が筒車51に接触して表示針用ロータ32が回転不能の状態になった場合でも、表示針用ロータ32をより確実に回転させることが可能となる。したがって、表示針14の動作不良の発生を抑制することができる。
【0066】
また、表示針用モータ30Cは、1つのコイル36を有するステータ31、および2極の表示針用ロータ32を備える。この構成によれば、表示針用ロータ32を逆転させる際に、上述した逆転パルスの第1パルスのように、最初に表示針用ロータ32を正転させるパルスをコイル36に印加する場合がある。このため、表示針用ロータ32を正転させることで表示針14が筒車51の第1軸部52に接触した際には、それ以上表示針用ロータ32を正転させることができないので、表示針用ロータ32が逆転不能の状態に陥る。したがって、上述した接触部60を有する筒車51を組み合わせることで、表示針用ロータ32の逆転不能の状態から抜け出すことが可能なムーブメント10とすることができる。
【0067】
また、ステータヨーク34において、一対の内ノッチ43を通る直線は、一対の磁気飽和部42を通る直線に対して、表示針用ロータ32の正転方向に所定角度θ傾斜している。接触部60は、表示針14を時計回り方向上流側から接触部60に接触させた状態で筒車51を回転させると、表示針用ロータ32が前記所定角度θよりも大きく回転するように形成されている。この構成によれば、表示針用ロータ32が中間静止位置にある状態では、表示針用ロータ32は静止安定位置に向けて正転しようとする。表示針14が筒車51の円周面部61に時計回り方向上流側から接触した場合、筒車51を回転させて表示針14に筒車51の小径部62を接触させるように表示針14を時計回り方向に回転させると、表示針用ロータ32は、静止安定位置まで前記所定角度θ正転して、静止安定位置で停止する。さらに筒車51を回転させると、表示針用ロータ32の停止に伴って、表示針14と筒車51の小径部62の第1軸部52との隙間ができる。これにより、表示針用ロータ32を正転させることが可能となるので、表示針用ロータ32を逆転パルスによって逆転させることが可能となる。したがって、表示針14の動作不良の発生を抑制することができる。
【0068】
また、制御部70は、表示針14が筒車51の接触部60に接触した場合に、正転パルスまたは逆転パルスを時針用モータ30Aに所定回数印加する毎に、逆転パルスを表示針用モータ30Cに1回印加する。この構成によれば、表示針用モータ30Cに定期的に逆転パルスを印加できる。これにより、筒車51の接触部60における表示針14の接触位置が不明であっても、表示針14と筒車51の第1軸部52との隙間ができた状態、または表示針14が筒車51によって押圧されて変位した状態で、表示針用モータ30Cに逆転パルスを印加できる。
しかも本実施形態では、制御部70は、正転パルスまたは逆転パルスを時針用モータ30Aに1回印加する毎に、逆転パルスを表示針用モータ30Cに1回印加する。このため、表示針14と筒車51の第1軸部52との隙間ができた状態、または表示針14が筒車51によって押圧されて変位した状態で、表示針用モータ30Cに逆転パルスを確実に印加できる。
したがって、表示針用ロータ32の逆転不能の状態から確実に抜け出すことができる。
【0069】
なお、本実施形態では、筒車51の接触部60の小径部62として、面カット部63が一対設けられているが、これに限定されるものではない。筒車の接触部に必要な径差(面カット量)が確保できるのであれば、面カット部を3つ以上設けてもよい。面カット部を多く設けることで、スタック状態から抜け出す際に筒車を回転させる角度が小さくなるので有効である。例えば、図6に示す筒車51の第1軸部52に面カット部63を4つ設けることで、スタック状態から抜け出す際の筒車51の回転角度を90°とすることができる。ただし、面カット部を多く設けることで製造コストが増加するため、本実施形態では2面カットを採用した。
【0070】
[第2実施形態]
次に、図14を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、筒車51の接触部160が偏心した円周面である点で、第1実施形態とは異なる。なお、以下で説明する以外の構成は、第1実施形態と同様である。
【0071】
図14は、第2実施形態の筒車の斜視図である。
図14に示すように、第2実施形態の筒車51の第1軸部52のうち、時針12の取付部52aに対して文字板11側に隣接する部分は、第1回転軸線Oに対して偏心した円筒状に形成されている。これにより、筒車51の第1軸部52の外周面のうち表示針14が接触可能な接触部160は、第1回転軸線Oに対して偏心した円周面に形成されている。接触部160の第1回転軸線Oからの距離は、第1回転軸線O回りの周方向の位置に応じて変化している。接触部160は、第1回転軸線Oからの距離が最も大きい大径部161と、第1回転軸線Oからの距離が最も小さい小径部162と、を備える。接触部160は、第1回転軸線Oについて1回対称に形成されている。
【0072】
接触部160は、第2回転軸線P中心の時計回り方向の上流側から表示針14を接触部160に接触させた状態で筒車51を回転させると、表示針用ロータ32が前記所定角度θよりも大きく回転するように形成されている。具体的に、接触部160は、表示針14が小径部162に接触した状態における表示針用ロータ32の位置と、表示針14が大径部161に接触した状態における表示針用ロータ32の位置と、の角度差が、前記所定角度θ以上となるように形成されている。
【0073】
このように、筒車51の接触部160は、第1回転軸線Oに対して偏心しているので、表示針14が筒車51の第1軸部52の接触部160に接触した状態で筒車51を回転させることで、表示針14と筒車51の第1軸部52との隙間を設ける、または表示針14を押圧して変位させることができる。したがって、第1実施形態の筒車51と同様の作用効果を奏することができる。
なお、第2実施形態の筒車51を用いた場合であっても、制御部70は、表示針14を駆動できないスタック状態から抜け出すために、第1実施形態と同様の処理を行う。本実施形態では、接触部160は、第1回転軸線Oについて1回対称に形成されているので、筒車51を少なくとも360°回転させる。
【0074】
なお、本発明は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、制御部70がムーブメント10の一部を構成しているが、制御部はムーブメントと別に設けられていてもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、接触部60,160の第1回転軸線Oからの距離を周方向の位置に応じて変化させるために、筒車51の第1軸部52に面カット部63または偏心した外周面を設けているが、これに限定されない。例えば、筒車51の第1軸部52の外周面に突起を設けてもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、時針12および分針13が互いに異なるモータによって駆動されるように構成されているが、これに限定されない。表示針14と筒車51とを互いに独立して駆動できればよく、筒車51および分針車54が輪列を介して連結され、時針12および分針13が1つのモータによって駆動されるように構成されていてもよい。
【0077】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した各実施形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1…時計 10…ムーブメント(時計用ムーブメント) 12…時針(第2針) 14…表示針(針、第1針) 30A…時針用ステッピングモータ(第2モータ) 30C…表示針用ステッピングモータ(第1モータ) 31…ステータ 32…ロータ 34…ステータヨーク 36…コイル 40…ロータ収容孔 42…磁気飽和部 43…内ノッチ(切欠部) 51…筒車(第2車) 52…第1軸部(軸部) 57…表示針車(第1車) 60,160…接触部 63…面カット部 70…制御部 θ…所定角度 O…第1回転軸線(軸線)
【要約】
【課題】針の動作不良の発生を抑制できる時計用ムーブメントを提供する。
【解決手段】ムーブメントは、回転可能に設けられ、表示針14が取り付けられる表示針車と、表示針車を両方向に回転駆動する表示針用ステッピングモータと、表示針車の回転軸線とは異なる第1回転軸線O回りに回転可能に設けられ、第1回転軸線Oに沿って延びる第1軸部52を有し、第1軸部52の外周面には表示針14が接触可能な接触部60が設けられ、接触部60の第1回転軸線Oからの距離は第1回転軸線O回りの周方向の位置に応じて変化している、筒車51と、筒車51を回転駆動する、表示針用ステッピングモータとは別に設けられた時針用ステッピングモータと、を備える。
【選択図】図11
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14