特許第6583956号(P6583956)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6583956
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】調光シート
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/14 20060101AFI20190919BHJP
   A01G 13/02 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   A01G9/14 S
   A01G13/02 D
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-71728(P2015-71728)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-189728(P2016-189728A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2017年9月27日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】志野 成樹
(72)【発明者】
【氏名】森川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】西村 直哉
【審査官】 川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−233270(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/092990(WO,A1)
【文献】 実開昭54−082071(JP,U)
【文献】 実開昭57−019037(JP,U)
【文献】 実開昭57−138638(JP,U)
【文献】 特開2000−139244(JP,A)
【文献】 実開昭59−150816(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/14− 9/26
A01G 11/00−15/00
B32B 1/00−43/00
C08J 7/04− 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウス被覆資材に用いられる調光シートであって、通気性を有さない光透過性支持体の上に厚み17μm以上の多孔質層を有し、該多孔質層のメジアン細孔径が46nm以上1μm以下であり、乾燥時の全光線透過率が65%以下であり、調光シートを純水に1分間浸漬した後、表面に付着した水滴を吸い取り紙により吸引し、直ちに測定した吸水時の全光線透過率が89%以上であることを特徴とする調光シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施設園芸に用いられるハウス被覆資材であって、ハウス内部の結露により全光線透過率を向上させることが可能な調光シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からの施設園芸において、一般的に用いられるハウス被覆資材は、冬期の保温性向上および光合成に必要な日射量を確保することを目的に、高い全光線透過率を有するポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートなどの透明合成樹脂フィルムが使用される。しかしながら、これらのフィルムを夏期に用いると、ハウス内が非常に高温となり植物の生育が逆に困難になるという課題があった。
【0003】
この課題を解決するため、自動あるいは手動にて遮光ネットを展開・収納する装置をハウスに取り付ける方法、あるいは遮光を行わずハウス内冷房を実施する方法があるが、煩雑であった。
【0004】
そのため、例えば特開2007−177240号公報(特許文献1)には二酸化チタン粒子表面に炭酸カルシウム粒子を定着させた二酸化チタン・炭酸カルシウム複合粒子とアクリレート系ラテックスを主成分とする30%以上の遮光率を有する遮光用コーティング剤が、特開平10−327684号公報(特許文献2)には合成樹脂の長繊維フィラメントが高密度にかつ無方向に堆積接合された不織布が細幅にスリットされたテープ状糸条を、合成樹脂のフラットヤーン又はフィラメントの編織成又は配列交差により得られるネット基布の少なくとも片面に間隔をおいて熱融着してなる遮光ネットが開示されている。
【0005】
また、ハウス内部の湿度は非常に高くなることから、例えば特開平5−23057号公報(特許文献3)や、特開2000−202932号公報(特許文献4)には通気性を有する補強材が積層された多孔質フィルムを用い、ハウス内部の湿度を外部へ透過させ結露を防止する自然除湿手段が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−177240号公報
【特許文献2】特開平10−327684号公報
【特許文献3】特開平5−23057号公報
【特許文献4】特開2000−202932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、日射の弱い朝夕においては高い全光線透過率を有することで遮光を行わず、日射の強い日中には低い全光線透過率を有し遮光を行い、ハウス内温度の上昇を抑える機能を有する調光シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、以下の調光シートにより達成された。
1.ハウス被覆資材に用いられる調光シートであって、通気性を有さない光透過性支持体の上に厚み17μm以上の多孔質層を有し、該多孔質層のメジアン細孔径が46nm以上1μm以下であり、乾燥時の全光線透過率が65%以下であり、調光シートを純水に1分間浸漬した後、表面に付着した水滴を吸い取り紙により吸引し、直ちに測定した吸水時の全光線透過率が89%以上であることを特徴とする調光シート。
【発明の効果】
【0009】
日射の弱い朝夕には高い全光線透過率を有することで遮光を行わず、日射の強い日中には低い全光線透過率を有し遮光を行い、ハウス内温度の上昇を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明における調光シートは通気性を有さない光透過性支持体の上に、厚み17μm以上の多孔質層を有し、該多孔質層のメジアン細孔径が46nm以上である。
【0012】
一般的にハウス内部の湿度は高いため、外気温が低下する夕方から夜間、朝方にかけてはハウスを覆うシートのハウス内部には結露水が生じる。本発明の調光シートは、通気性を有さない光透過性支持体の表面に形成された本発明の多孔質層を有する側の面がハウス内部側となるように設置されることにより、ハウス内部の空気中に含まれる水分をハウス外に透過させることなく、ハウス内部にて発生する結露に由来する水滴(以下結露水とする)を多孔質層が吸収し、多孔質層内部の細孔部分が水で満たされ、全光線透過率が向上するという作用を有する。多孔質層はその構造上、多孔質層内に含まれる細孔(空気)と構造体を形成する固体物質との間で、光が散乱あるいは反射されるため全光線透過率は低くなる。この多孔質層内に含まれる細孔を空気より屈折率の高い水が埋めるため、前記した固体物質と細孔間の屈折率の差異が小さくなり、透過する光は散乱あるいは反射されにくくなり、全光線透過率が向上する。本発明者は当該機能がハウス内温度の上昇を抑制しうることを見出し、多孔質層の厚みが17μm以上かつ細孔分布におけるメジアン細孔径が46nm以上である場合、多孔質層の全光線透過率が低くなりハウス被覆資材としての遮光特性として満足しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
また、本発明の調光シートは、通気性を有さない光透過性支持体の表面に形成された本発明の多孔質層を有する側の面をハウス外部側となるように設置されることにより、降雨の水滴により全光線透過率が向上し、雨天時の弱い日射をハウス内部へ透過させることができる。
【0014】
また、通気性を有さない光透過性支持体の両面に本発明の多孔質層を設けることにより、降雨および/または結露による水滴により全光線透過率が向上する調光シートを得ることができる。
【0015】
本発明において、該多孔質層の細孔分布におけるメジアン細孔径は遮光性の観点から46nm以上であることが必要であり、60nm以上がより好ましい。メジアン細孔径の上限については特にないが、結露水を毛細管現象により吸収・保持するという観点から、10μm以下が好ましく、1μm以下が特に好ましい。
【0016】
本発明における細孔分布におけるメジアン細孔径の測定方法は、その細孔径の大きさに応じて任意の方法を用いることができる。例えば、細孔径が100nm以下である細孔分布に関しては、窒素吸着法などを用いると共に、細孔径が100nm以上である細孔分布に関しては、水銀圧入法などを用いる。この窒素吸着法を用いた細孔分布測定装置としては、例えば、ベックマン・コールター社製SA3100を挙げることができる。また水銀圧入法を用いた細孔分布測定装置としては、例えば、島津製作所製のトライスター3000を挙げることができる。
【0017】
本発明における多孔質層の層厚(乾燥時)は、十分な遮光性を得るという観点から、17μm以上が必要であり、好ましくは20μm以上である。上限については特にないが、多孔質層の膜厚が厚すぎると調光シートの施工性が悪化するという観点から、5mm以下が好ましく、1mm以下が特に好ましい。
【0018】
本発明において通気性を有さない光透過性支持体とは、多孔質層を形成保持するための支持体である光透過性支持体の表面と裏面に貫通した孔を有さない支持体のことであり、目の粗い不織布や網は光を透過させ、多孔質層を形成保持することは可能ではあるが、表面と裏面に貫通した孔を有し通気性を持つことから本発明に用いることはできない。具体的には表面と裏面に貫通した孔を有さない板状のガラスや樹脂からなるフィルムを例示することができる。通気性を有さない光透過性支持体の厚さは、10μm〜10mmであることが好ましい。光透過性支持体の全光線透過率はハウス内部の植物に十分な光を与えるという観点から80%以上であることが好ましく、85%以上がより好ましい。樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂等を挙げることができる。なお通気性を有さない光透過性支持体とは支持体だけではなく、その上に形成される易接着層や接着層等もこれに含む。また通気性を有さない光透過性支持体には耐傷性を目的としたハードコート層(HC層)や、反射率低減を目的としたアンチリフレクション層(AR層)等公知の層を含んでもよい。
【0019】
前記光透過性支持体は易接着処理が施されていても良い。また易接着層を有することができる。易接着層は光透過性支持体上に塗布する多孔質層の塗布性(面質)、および光透過性支持体と多孔質層の密着性を向上させることができる。易接着層は、合成樹脂あるいは水溶性ポリマーを含有する層であることが好ましく、かかる合成樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニリデン、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、特にアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリウレタン樹脂が好ましい。また合成樹脂としては水分散性のポリマー(エマルジョンやラテックス)を利用することが好ましい。水溶性ポリマーとしては、例えばゼラチンやポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0020】
本発明における多孔質層は、例えばセルロース繊維から構成される紙、ポリエステル等の樹脂繊維やガラス繊維から構成される不織布の貼合、フィルム内部にフィルム表面と連接した微細孔を有する多孔質フィルムの貼合、無機微粒子と樹脂バインダーを含有する塗液を塗布乾燥することにより得られる被膜を挙げることができる。これらの中でも、結露水を吸収したときの全光線透過率が高いという観点から、多孔質フィルムあるいは、無機微粒子と樹脂バインダーからなる多孔質層が好ましく、生産性とコストの観点から無機微粒子と樹脂バインダーからなる多孔質層が特に好ましい。
【0021】
本発明における多孔質層として用いられる、フィルム内部にフィルム表面と連接した微細孔を有する多孔質フィルムとは、結露水をフィルム内部へ毛細管吸収し微細孔を結露水で満たすことの出来る、所謂連続細孔構造を有するフィルムであり、樹脂としてはポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂やポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリスルフォン樹脂等を挙げることができる。製造方法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂の場合には樹脂中に溶出成分を分散含有させ延伸を行い当該溶出成分をフィルム中から溶出除去することにより、フッ素樹脂の場合には2軸延伸を行うことにより、ポリスルホン樹脂の場合にはフィルムを形成する成膜溶液を非溶媒で凝固させ相分離を発生させることにより製造することができる。また、フッ素樹脂の場合にはプラズマや真空紫外光を用いた親水化処理を行うことが好ましい。
【0022】
本発明における多孔質層として用いられる無機微粒子と樹脂バインダーからなる多孔質層とは、無機微粒子と無機微粒子に対し200質量%以下の樹脂バインダーを含有する層であることを意味する。用いられる無機微粒子としては、公知の無機微粒子を広く用いることが出来る。例えば非晶質合成シリカ、アルミナ、アルミナ水和物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、二酸化チタン等公知の各種微粒子が挙げられるが、多孔質層内部の細孔部分が水で満たされ状態における全光線透過率が高くなるという観点から非晶質合成シリカあるいはアルミナ水和物が好ましく、コストの観点から非晶質合成シリカが特に好ましい。
【0023】
本発明に好ましく利用される非晶質合成シリカは、製造法によって湿式法シリカ、気相法シリカ、およびその他に大別することが出来る。
【0024】
湿式法シリカは、更に製造方法によって沈降法シリカ、ゲル法シリカ、ゾル法シリカに分類される。沈降法シリカは珪酸ソーダと硫酸をアルカリ条件で反応させて製造され、粒子成長したシリカ粒子が凝集・沈降し、その後濾過、水洗、乾燥、粉砕・分級の工程を経て製品化される。沈降法シリカとしては、例えば東ソーシリカ(株)からニップシールとして、(株)トクヤマからトクシール、ファインシールとして、水澤化学工業(株)からミズカシルとして市販されている。ゲル法シリカは珪酸ソーダと硫酸を酸性条件下で反応させて製造する。熟成中に微小粒子は溶解し、他の一次粒子どうしを結合するように再析出するため、明確な一次粒子は消失し、内部細孔構造を有する比較的硬い凝集粒子を形成する。例えば、東ソーシリカ(株)からニップゲルとして、グレースジャパン(株)からサイロイド、サイロジェットとして、水澤化学工業(株)からミズカシルとして市販されている。ゾル法シリカは、コロイダルシリカとも呼ばれ、珪酸ソーダの酸等による複分解やイオン交換樹脂層を通して得られるシリカゾルを加熱熟成して得られ、例えば日産化学工業(株)からスノーテックスとして市販されている。本発明においては、沈降法シリカあるいはゲル法シリカが好ましく、特にゲル法シリカが好ましい。発明に用いられる湿式法シリカ粒子としては、平均一次粒子径5〜50nmが好ましく、かつ平均凝集粒子径が5〜50μmである湿式法シリカ粒子が好ましい。
【0025】
本発明では、平均凝集粒子径が5〜50μmである湿式法シリカ粒子を平均二次粒子径1μm以下に微粉砕した湿式法シリカ微粒子を使用することが好ましい。粉砕方法としては、水性媒体中に分散した湿式法シリカを機械的に粉砕する湿式分散法が好ましく使用され、これにはビーズミル等のメディアミルを用いることが好ましい。ビーズミルは密閉されたベッセル内に充填されたビーズとの衝突により顔料粉砕を行うものであり、(株)シンマルエンタープライゼスよりダイノミルとして、浅田鉄工(株)よりグレンミルとして、アシザワ・ファインテック(株)よりスターミルとして市販されている。
【0026】
気相法シリカは、湿式法に対して乾式法とも呼ばれ、一般的には火炎加水分解法によって作られる。具体的には四塩化ケイ素を水素および酸素と共に燃焼して作る方法が一般的に知られているが、四塩化ケイ素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシラン等のシラン類も、単独または四塩化ケイ素と混合した状態で使用することが出来る。気相法シリカは日本アエロジル(株)からアエロジル、(株)トクヤマからQSタイプとして市販されている。本発明に用いられる気相法シリカの平均一次粒子径は5〜50nmが好ましく、15〜50nmが特に好ましい。
【0027】
気相法シリカを用いた場合においても、湿式法シリカと同様に、平均二次粒子径が1μm以下に分散することが好ましい。分散方法としては、通常のプロペラ撹拌、タービン型撹拌、ホモミキサー型撹拌等で気相法シリカと水を主体とする分散媒を予備混合し、次にボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のメディアミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機、および薄膜旋回型分散機等を使用して分散を行うことが好ましい。
【0028】
微粉砕あるいは分散により湿式法シリカあるいは気相法シリカを含むスラリーを製造する際に、スラリーの高濃度化や分散安定性を向上させるため、公知の種々の方法を用いても良い。例えば、特開2002−144701号公報、特開2005−1117号公報に記載されているが如くアルカリ性化合物の存在下で分散する方法、特開2001−19421号公報に記載されているが如くカチオン性化合物の存在下で分散する方法、特開2006−110770号公報に記載されているが如くシランカップリング剤存在下で分散する方法等を挙げることが出来、アルカリ性化合物の存在下で分散する方法が好ましい。
【0029】
本発明に使用するアルミナ水和物はAl・nHO(n=1〜3)の構成式で表される。アルミナ水和物は、一般にアルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシドの加水分解、アルミニウム塩のアルカリによる中和、アルミン酸塩の加水分解等の公知の製造方法により得られる。本発明に使用されるアルミナ水和物の平均二次粒子径は1μm以下であることが好ましい。アルミナ水和物は、好ましくは、酢酸、乳酸、ぎ酸、硝酸等の公知の分散剤によって水中に分散されたスラリーの形態から使用される。
【0030】
なお、本発明でいう平均一次粒子径とは、微粒子の電子顕微鏡観察により一定面積内に存在する100個の一次粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子径として平均粒子径を求めたものである。また平均二次粒子径とは、透過型電子顕微鏡による写真撮影で求めることが出来るが、簡易的にはレーザー散乱式の粒度分布計(例えば、堀場製作所製、LA920)を用いて、体積メジアン径として測定することが出来る。また、平均凝集粒子径とは、粉体として供給される湿式シリカの平均粒子径を示し、例えばコールターカウンター法で求めることが出来る。
【0031】
本発明において、多孔質層を構成する微粒子と共に用いられる樹脂バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、シリル変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類、酸化澱粉、エーテル化澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチン、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系共重合体ラテックス等の各種ラテックス類、メラミン樹脂、尿素樹脂等の熱硬化合成樹脂系等の水性接着剤、水性アクリル樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性ウレタン樹脂、ポリメチルメタクリレート、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルブチラール、アルキッド樹脂等の合成樹脂系接着剤等を挙げることが出来、これらを単独あるいは混合して用いることが出来る。この他、公知の天然、あるいは合成樹脂バインダーを単独であるいは混合して用いることは特に限定されない。
【0032】
多孔質層は上記した樹脂バインダーと共に必要に応じ硬膜剤を用いることも出来る。硬膜剤の具体的な例としては、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドの如きアルデヒド系化合物、ジアセチル、クロルペンタンジオンの如きケトン化合物、ビス(2−クロロエチル)尿素、2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン、米国特許第3,288,775号記載の如き反応性のハロゲンを有する化合物、米国特許第3,635,718号記載の如き反応性のオレフィンを持つ化合物、米国特許第2,732,316号記載の如きN−メチロール化合物、米国特許第3,103,437号記載の如きイソシアナート類、米国特許第3,017,280号、同2,983,611号記載の如きアジリジン化合物類、米国特許第3,100,704号記載の如きカルボジイミド系化合物類、米国特許第3,091,537号記載の如きエポキシ化合物、ジヒドロキシジオキサンの如きジオキサン誘導体、ホウ砂、ホウ酸、ホウ酸塩類の如き無機架橋剤等があり、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることが出来る。硬膜剤の使用量は特に限定されないが、樹脂バインダーに対して、50質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以下であり、特に好ましくは30質量%以下である。
【0033】
樹脂バインダーとしてケン化度が80%以上の部分ケン化または完全ケン化したポリビニルアルコールあるいはシラノール変性ポリビニルアルコールを用いる場合には、ホウ砂、ホウ酸、ホウ酸塩類が好ましく、ホウ酸が特に好ましく、使用量はポリビニルアルコールに対し、40質量%以下が好ましく、より好ましくは30質量%以下であり、特に好ましくは20質量%以下である。
【0034】
また、本発明において、多孔質層を構成する親水性のバインダーとしてケト基を有する樹脂バインダーを用いることも出来る。ケト基を有する樹脂バインダーは、ケト基を有するモノマーと他のモノマーを共重合する方法等によって合成することができる。ケト基を有するモノマーの具体例としては、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリレート、アセトアセトキシエチルメタクレート、4−ビニルアセトアセトアニリド、アセトアセチルアリルアミド等が挙げられる。また、ポリマー反応でケト基を導入してもよく、例えばヒドロキシ基やアミノ基とジケテンとの反応等によってアセトアセチル基を導入することができる。ケト基を有する樹脂バインダーの具体例としては、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性セルロース誘導体、アセトアセチル変性澱粉、ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール、特開平10−157283号公報に記載の樹脂バインダー等が挙げられる。本発明では、特にケト基を有する変性ポリビニルアルコールが好ましい。ケト基を有する変性ポリビニルアルコールとしては、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0035】
アセトアセチル変性ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールとジケテンの反応等の公知の方法によって製造することができる。アセトアセチル化度は0.1〜20モル%が好ましく、更に1〜15モル%が好ましい。ケン化度は80モル%以上が好ましく、更に85モル%以上が好ましい。重合度としては、500〜5000のものが好ましく、特に2000〜4500のものが更に好ましい。
【0036】
ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールは、ジアセトンアクリルアミド−酢酸ビニル共重合体をケン化する等公知の方法によって製造することができる。ジアセトンアクリルアミド単位の含有量としては、0.1〜15モル%の範囲が好ましく、更に0.5〜10モル%の範囲が好ましい。ケン化度としては85モル%以上、重合度としては500〜5000のものが好ましい。
【0037】
本発明において、多孔質層に含有されるケト基を有する樹脂バインダーは、その架橋剤で架橋されることが好ましい。かかる架橋剤としてはポリヒドラジド化合物、及び多価金属塩が好ましい。ポリヒドラジド化合物の中でも特にジヒドラジド化合物が好ましく、更にアジピン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジドが好ましい。多価金属塩としては、特にジルコニウム塩が好ましく、更に、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウムが好ましい。
【0038】
また、本発明において、多孔質層に含まれる樹脂バインダーとして、紫外線あるいは電子線で硬化する樹脂を用いることも好ましい。
【0039】
本発明で用いられる紫外線硬化樹脂として、エチレン性不飽和結合を有する化合物が挙げられるが、具体的には以下の化合物が挙げられる。
【0040】
(1)脂肪族、脂環族、芳香族、芳香脂肪族の多価アルコール及びポリアルキレングリコールのポリ(メタ)アクリレート
(2)脂肪族、脂環族、芳香族、芳香脂肪族の多価アルコールにアルキレンオキサイドを付加させた多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート
(3)ポリエステルポリ(メタ)アクリレート
(4)ポリウレタンポリ(メタ)アクリレート
(5)エポキシポリ(メタ)アクリレート
(6)ポリアミドポリ(メタ)アクリレート
(7)ポリ(メタ)アクリロイルオキシアルキルリン酸エステル
(8)(メタ)アクリロイルオキシ基を側鎖、または末端に有するビニル系またはジエン系化合物
(9)単官能(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、(メタ)アクリロイル化合物
(10)エチレン性不飽和結合を有するシアノ化合物
(11)エチレン性不飽和結合を有するモノあるいはポリカルボン酸、およびそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩など
(12)エチレン性不飽和(メタ)アクリルアミドまたはアルキル置換(メタ)アクリルアミドおよびその多量体
(13)ビニルラクタムおよびポリビニルラクタム化合物
(14)エチレン性不飽和結合を有するポリエーテルおよびそのエステル
(15)エチレン性不飽和結合を有するアルコールのエステル
(16)エチレン性不飽和結合を有するポリアルコールおよびそのエステル
(17)スチレン、ジビニルベンゼンなど1個以上のエチレン性不飽和結合を有する芳香族化合物
(18)(メタ)アクリロイルオキシ基を側鎖、または末端に有するポリオルガノシロキサン系化合物
(19)エチレン性不飽和結合を有するシリコーン化合物
(20)上記(1)〜(19)記載の化合物の多量体あるいはオリゴエステル(メタ)アクリレート変性物
【0041】
これらの樹脂は、単独で使用できるし、他の樹脂と混合して使うことができる。また、無溶剤で塗布することもできるし、溶媒で希釈して塗布することもできるし、エマルジョン状態で塗布、乾燥、硬化して用いることもできる。中でも前記(4)で示したウレタンアクリレート系樹脂は比較的分子量が大きいことで乾燥収縮が小さく、光透過性支持体の反り等を発生させるおそれが少ないことから本発明においては好適である。
【0042】
本発明では、水中で分散・粉砕された無機微粒子との親和性を得るため、水溶性の紫外線硬化樹脂を用いることが好ましい。近年では、作業環境への配慮から無溶剤の水系タイプが各メーカーから上市されている。例えば、荒川化学工業(株)からビームセットシリーズが、新中村化学工業(株)からNKオリゴシリーズ等が市販されている。
【0043】
本発明において使用される光重合開始剤としては、ジおよびトリクロロアセトフェノンのようなアセトフェノン類、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン類、アゾ化合物、各種銀塩等があり、光重合開始剤の使用量は、紫外線硬化樹脂に対して、固形分で通常0.1〜10%の範囲である。また、光重合開始剤にハイドロキノンのような貯蔵安定剤が使用される場合もある。
【0044】
また、電子線の照射によっても紫外線硬化樹脂を硬化することもできる。電子線加速器としては、例えば、エレクトロカーテンシステム、スキャンニングタイプ、ダブルスキャンニングタイプ等の何れでも良く、あるいは近年実用化されている、例えば3μm程度のシリコン箔を窓に用いて、比較的低エネルギーの例えば加速電圧100KV以下の電子線を低損失で取り出せる超小型の電子線照射装置、例えばアメリカンインターナショナルテクノロジー社からMin−EBとして市販されている装置を用いることも、多孔質層形成部分以外に電子線によるダメージを与えないという観点から非常に好ましく使用できる。
【0045】
本発明に適した多孔質層を形成するためには、樹脂バインダーの含有量は、無機微粒子に対して200質量%以下であり、更には10〜150質量%の範囲が好ましい。その他、多孔質層を形成する塗液は、公知のレベリング剤、界面活性剤、抗菌剤、防黴剤、紫外線吸収剤等を適宜含有することができる。
【0046】
上記した無機微粒子と樹脂バインダーからなる多孔質層は、スライドカーテン方式、スライドビード方式、スロットダイ方式、ダイレクトグラビアロール方式、リバースグラビアロール方式、スプレー方式、エアナイフ方式、ブレードコーティング方式、ロッドバーコーティング方式、スピンコート方式等、公知の各種塗布方法を用いて光透過性支持体上に形成される。
【0047】
以下実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
<調光シート1の作製>
水に無機微粒子として気相法シリカ(平均一次粒子径30nm、比表面積50m/g)1000gと水酸化ナトリウム5gを添加し、のこぎり歯状ブレード型分散機(ブレード周速30m/秒)を使用して予備分散液を作製した。次に得られた予備分散物を高圧ホモジナイザーで処理して、固形分濃度20質量%の無機微粒子分散液1を得た。得られた無機微粒子分散液1の堀場製作所製LA920にて測定された平均二次粒子径は155nmであった。
【0049】
上記無機微粒子分散液1を用い下記組成の多孔質層形成塗液1を作製した。
【0050】
<多孔質層形成用塗液1>
無機微粒子分散液 (シリカ固形分として)100g
アセトアセチル変性ポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)Z−320)
20g
アジピン酸ジヒドラジド 1.0g
固形分濃度が15質量%になるように水で調整した。
【0051】
多孔質層形成塗液1を易接着処理がなされた厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂株式会社製、全光線透過率92%)上に固形分として平米あたり24gとなるように、塗布・乾燥し、調光シート1を得た。得られた調光シート1の多孔質層の厚みは40μm、ベックマン・コールター株式会社SA3100にて測定されたメジアン細孔径は70.1nmであった。
【0052】
<調光シート2の作製>
水に無機微粒子として気相法シリカ(平均一次粒子径20nm、比表面積90m/g)1000gと水酸化ナトリウム5gを添加し、のこぎり歯状ブレード型分散機(ブレード周速30m/秒)を使用して予備分散液を作製した。次に得られた予備分散物を高圧ホモジナイザーで処理して、固形分濃度20質量%の無機微粒子分散液2を得た。堀場製作所製LA920にて測定された平均二次粒子径は144nmであった。
【0053】
調光シート1の作製方法において、無機微粒子分散液1の替わりに上記無機微粒子分散液2を用い、他は調光シート1と同様に作製し、調光シート2を得た。得られた調光シート2の多孔質層の厚みは38μm、メジアン細孔径は61.5nmであった。
【0054】
<調光シート3の作製>
多孔質層としてポリテトラフルオロエチレン樹脂を2軸延伸し、真空紫外光による親水化処理の行われた膜厚30μmのフィルムをエチレン酢酸ビニル系ホットメルト接着剤を用い、易接着処理がなされた厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂株式会社製)上に貼合し、調光シート3を得た。得られた調光シート2の多孔質層の厚みは30μm、島津製作所製のトライスター3000にて測定されたメジアン細孔径は110nmであった。
【0055】
<調光シート4の作製>
水に無機微粒子として気相法シリカ(平均一次粒子径7nm、比表面積300m/g)1000gと水酸化ナトリウム5gを添加し、のこぎり歯状ブレード型分散機(ブレード周速30m/秒)を使用して予備分散液を作製した。次に得られた予備分散物を高圧ホモジナイザーで処理して、固形分濃度20質量%の無機微粒子分散液3を得た。堀場製作所製LA920にて測定された平均二次粒子径は108nmであった。
【0056】
調光シート1の作製方法において、無機微粒子分散液1の替わりに上記無機微粒子分散液3を用い、他は調光シート1と同様に作製し、調光シート4を得た。得られた調光シート4の多孔質層の厚みは38μm、メジアン細孔径は30.5nmであった。
【0057】
<調光シート5の作製>
調光シート1の作製方法において、固形分として平米あたり2.4gとなるように、塗布・乾燥した他は調光シート1と同様に作製し、調光シート5を得た。得られた調光シート5の多孔質層の厚みは4μm、メジアン細孔径は69.5nmであった。
【0058】
<調光シート6の作製>
調光シート1から5の作製に光透過性支持体として用いられた、易接着処理がなされた厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂株式会社製)を調光シート6とした。
【0059】
得られた各調光シートについて以下の評価を行い、その結果を表1に示した。
【0060】
<乾燥時の全光線透過率>
各調光シートを23℃50%Rh環境下に24時間放置した後、全光線透過率を、スガ試験機製、ダブルビーム方式ヘーズコンピューターを用いて測定した結果を表1に示す。
【0061】
<吸水時の全光線透過率>
各調光シートを純水に1分間浸漬した後、表面に付着した水滴を吸い取り紙により吸引し、直ちに全光線透過率を測定した結果を表1に示す。
【0062】
<全光線透過率の結露変化>
各調光シートを25℃に温調されたパネルに貼り付け、35℃80%Rh環境下に10分放置した。結露が発生し調光シートの全光線透過率が向上した場合に○、変化しない場合に×とし、その結果を表1に示す。
【0063】
<ハウス内温度>
各調光シートを用い、換気口を有する巾1.8m、奥行3.6m、高さ2mのハウスを作製した。夏場日中に評価を実施した。評価時の平均照度は93000ルクス、外気温35℃であった。本条件におけるハウス内部の最高温度を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1の結果より、本発明の調光シート1〜3においては、夏場日中のハウス温度が低下し、遮光効果があることが判る。また結露により全光線透過率が向上することが判る。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の調光シートは結露により大きく全光線透過率が変化するため、結露検知シートとして有用である。この全光線透過率の変化を透過型光センサー等でセンシングすることにより、結露センサーとすることができる。