特許第6583958号(P6583958)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6583958
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】溶接用電源装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/10 20060101AFI20190919BHJP
【FI】
   B23K9/10 Z
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-133328(P2015-133328)
(22)【出願日】2015年7月2日
(65)【公開番号】特開2017-13095(P2017-13095A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】伊佐 太作
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−058009(JP,A)
【文献】 実開平05−018765(JP,U)
【文献】 特開昭57−154374(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0049116(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物に対して消耗電極アーク溶接を実施するために送給装置及び消耗電極溶接トーチを備えた消耗電極溶接モジュールと、被覆アーク溶接を実施するために溶接棒ホルダを備えた被覆アーク溶接モジュールと、を付け替えて接続可能な溶接用電源装置であって、
出力電流の生成する主電源回路と、前記主電源回路により生成された出力電流を出力する一対の出力端子と、前記一方の出力端子を電力線を介して前記送給装置の入力端子に接続し、前記入力端子と前記他方の出力端子との間の電圧を一対の接続検出線を介して検出し、前記検出した電圧に基づいて前記送給装置が接続しているか否かを判別する接続検出信号を出力する接続検出回路と、前記接続検出信号に基づいて消耗電極溶接モード又は被覆アーク溶接モードのどちらか一方を選択し前記主電源回路を制御する主制御回路と、を備えたことを特徴とする溶接用電源装置。
【請求項2】
前記接続検出回路は、前記検出した電圧値が予め定めた電圧基準値より大きいとき前記送給装置が接続していると判別して前記接続検出信号を出力し、前記主制御回路は、前記接続検出信号が入力されると前記消耗電極溶接モードを選択する、ことを特徴とする請求項1に記載の溶接用電源装置。
【請求項3】
被加工物に対して消耗電極式アーク溶接を実施するために送給装置及び消耗電極溶接トーチを備えた消耗電極溶接モジュールと、被覆アーク溶接を実施するために溶接棒ホルダを備えた被覆アーク溶接モジュールと、を付け替えて接続可能な溶接用電源装置の制御方法であって、前記消耗電極溶接モジュールと被加工物との間の電圧の情報に基づいて前記消耗電極溶接モジュールの接続の有無の情報を含み接続検出信号を出力するステップと、
前記接続検出信号に基づいて消耗電極溶接モード又は被覆アーク溶接モードのどちらか一方を選択するステップと、備えたことを特徴とする溶接用電源装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極アーク溶接、非消耗電極アーク溶接および被覆アーク溶接の複数の溶接モードを1台の溶接用電源装置で実施する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の溶接用電源装置では、消耗電極アーク溶接又は被覆アーク溶接のどちらか一方の溶接モードを選択するとき、作業者が溶接電源のパネルに設けられた切換スイッチまで移動して溶接モードを選択していた。
【0003】
例えば、特許文献1では、消耗電極アーク溶接のとき、溶接用変圧器の2次側巻線の低電圧側のタップに接続されたサイリスタがゲート信号切換回路にて選択し、被覆アーク溶接を行うときは、溶接用高電圧側のタップに接続されたサイリスタがゲート信号切換回路にて選択する方法であり、作業者が溶接電源のパネルに設けられた切換スイッチまで移動して溶接モードが選択する内容が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−58009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
消耗電極アーク溶接、非消耗電極アーク溶接および被覆アーク溶接等などの複数の溶接モードを1台の溶接電源で行うとき、開示されている従来の溶接電源の構造では、溶接電源に設置されたスイッチを操作して溶接電源の溶接モードを設定している。しかし、一般的に溶接の施工場所と載置されている溶接電源とは離れている場合が多く、そのため、特許文献1に開示されている溶接電源では、溶接モードの切換に際して、作業者が施工場所から溶接電源の載置場所まで移動して溶接モード切換えた後、施工場所まで戻って作業を再開する必要が生じる。そのため、作業効率が大きく低下するという課題がある。
そこで、本発明の目的は、消耗電極溶接モジュール、非消耗電極溶接モジュールおよび被覆溶接モジュールの中から1つの溶接モジュールを付け替えるとき作業効率が低下しない溶接用電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1記載の発明は、被加工物に対して消耗電極アーク溶接を実施するために送給装置及び消耗電極溶接トーチを備えた消耗電極溶接モジュールと、被覆アーク溶接を実施するために溶接棒ホルダを備えた被覆アーク溶接モジュールと、を付け替えて接続可能な溶接用電源装置であって、
出力電流の生成する主電源回路と、前記主電源回路により生成された出力電流を出力する一対の出力端子と、前記一方の出力端子を電力線を介して前記送給装置の入力端子に接続し、前記入力端子と前記他方の出力端子との間の電圧を一対の接続検出線を介して検出し、前記検出した電圧に基づいて前記送給装置が接続しているか否かを判別する接続検出信号を出力する接続検出回路と、前記接続検出信号に基づいて消耗電極溶接モード又は被覆アーク溶接モードのどちらか一方を選択し前記主電源回路を制御する主制御回路と、を備えたことを特徴とする溶接用電源装置である。
【0007】
請求項2記載の発明は、前記接続検出回路は、前記検出した電圧値が予め定めた電圧基準値より大きいとき前記送給装置が接続していると判別して前記接続検出信号を出力し、前記主制御回路は、前記接続検出信号が入力されると前記消耗電極溶接モードを選択する、ことを特徴とする請求項1に記載の溶接用電源装置である。
【0009】
請求項3記載の発明は、被加工物に対して消耗電極式アーク溶接を実施するために送給装置及び消耗電極溶接トーチを備えた消耗電極溶接モジュールと、被覆アーク溶接を実施するために溶接棒ホルダを備えた被覆アーク溶接モジュールと、を付け替えて接続可能な溶接用電源装置の制御方法であって、
前記消耗電極溶接モジュールと被加工物との間の電圧の情報に基づいて前記消耗電極溶接モジュールの接続の有無の情報を含み接続検出信号を出力するステップと、前記接続検出信号に基づいて消耗電極溶接モード又は被覆アーク溶接モードのどちらか一方を選択するステップと、備えたことを特徴とする溶接用電源装置の制御方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の溶接用電源装置およびその制御方法によれば、消耗電極溶接モジュール、非消耗電極溶接モジュールおよび被覆溶接モジュールの中から1つの溶接モジュールが付け替え可能であって、付け替えた時点で自動的にどの溶接モジュールが接続されたか判別し、且つ、判別された溶接モジュールに基づいて溶接モードが自動選択するので、溶接モードの選択に際して、作業者が施工場所から溶接電源の載置場所まで移動して溶接モードを切換えた後、施工場所まで戻って作業を再開するという面倒な作業が必要なくなり、溶接の作業効率が大きく改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態1の溶接用電源装置のブロック図である。
図2】実施形態1の送給装置の詳細図である。
図3】実施形態1の動作を説明するフローチャト図である。
図4】実施形態2の溶接用電源装置のブロック図である。
図5】実施形態2の動作を説明するフローチャト図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1図3を参照して本発明の実施形態1の動作について説明する。
図1に示す溶接電源1は、被加工物11に対して消耗電極アーク溶接を実施する消耗電極溶接モジュールと、被覆アーク溶接を実施する被覆アーク溶接モジュールとを付け替えて接続可能な構造を有している。溶接電源1は、主電源回路2と、主制御回路3と、送給用電源回路4と、接続検出回路5と、第1出力端子A、第2出力端子B、コネクタCON1を備えている。
【0014】
図1に示す第2出力端子Bには、第2電力線13を介して被加工物11が接続される。また、第1出力端子Aには、消耗電極溶接モジュールが接続されている。消耗電極溶接モジュールは、消耗電極溶接トーチ7と、消耗電極溶接トーチ7に溶接ワイヤを送給する送給装置6とを含んでいる。そして、送給装置6は、第1出力端子Aに第1電力線12を介して接続されると共に、送給装置6は、送給制御線15、第1接続検出線16、第1送給電力線17及び第2送給電力線18を介して溶接電源1に接続されている。
【0015】
図1に示す主電源回路2は、図示省略の1次側整流回路と、インバータ回路と、主変圧器及び2次側整流回路を含んでいる。接続検出回路5は、第1接続検出線16を介して図2に示す送給装置6の内部で出力端子Cに接続し、第2接続検出線21を介して溶接電源1の内部で第2出力端子Bに接続し、送給装置6の出力端子Cと溶接電源1の第2出力端子Bとの間の電圧を検出し、検出した電圧値が予め定めた電圧基準値より大きいとき送給装置6が接続されていると判別して接続検出信号5aを出力する。
【0016】
図2は送給装置6の詳細図であり、ワイヤ電極を消耗電極溶接トーチ7に送り出すものである。また、ガスボンベ8のシールドガスを消耗電極溶接トーチ7の先端に供給する。送給装置6は、電源回路6A、制御回路6B、モータ駆動回路6C及び送給モータ6Dで形成され、電源回路6Aは、送給用電源回路4から第1送給電力線17及び第2送給電力線18を介して供給される送給用電圧を制御回路6B、モータ駆動回路6C及び送給モータ6Dに対応する電圧に変換して供給する。
【0017】
図2に示す制御回路6Bは、送給装置6に内蔵されている各回路の制御を行うものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路6Bは、溶消耗電極溶接トーチ7から入力される起動信号を制御線15を介して溶接電源装置1の主電制御回路3に入力する。
【0018】
図1に示す主制御回路3は、接続検出信号5aに基づいて溶接モードを選択する。具体的には、図1に示す溶接電源1に、送給装置6が接続されると接続検出回路5は、第1接続検出線16および第2接続検出線21を介して送給装置6の入力端子Cと溶接電源1の第2出力端子Bとの間の電圧を検出し、この検出した電圧値が予め定めた電圧基準値より大きいとき送給装置6が接続されていると判別し接続検出信号5aを出力する。そして、主制御回路3は接続検出信号5aの入力に基づいて消耗電極溶接モードを選択し主電源回路2を制御する。
【0019】
次に、実施形態1の詳細について図1図3を参照して説明する。
ステップ(S10)において、トーチスイッチ10をオン状態にすると、溶接電源1の主電源回路2がオン状態になり、電力系統から入力される三相交流電力をアーク溶接に適した直流電力に変換し一対の出力端子A,Bに出力する。そして、送給装置6の入力端子Cと溶接電源1の第2出力端子Bとの間の電圧を検出し、この検出した電圧値が予め定めた電圧基準値より大きいとき、溶接電源1に送給装置6が接続されていると判別し接続検出信号5aを出力する。
【0020】
図3に示すステップ(S20)において、接続検出信号5aが主制御回路3に入力されているか否かを判別し、YESのとき、ステップ(S30)に進み、主制御回路5aは消耗電極溶接モードを選択する。このとき、図示省略の表示器に選択された消耗電極溶接モードを表示してもよい。そして、溶接モードの選択が終了した後に、作業者がトーチスイッチ10を再度操作することにより消耗電極アーク溶接が開始される。
【0021】
一方、第1出力端子Aに図示省略の溶接棒ホルダが接続されている場合、ステップ(S10)において、接続検出回路5で検出した電圧値は、略零Vになり電圧基準値より小さいので接続検出信号5aの出力を停止する。このとき、ステップ(S20)において、NOとなり、接続検出信号5aが主制御回路3に入力されない。これに基づき、ステップ40において、主制御回路3は被覆アーク溶接モードが選択される。そして、溶接モード選択のが終了すると、作業者が図示省略の手棒の先端部を被加工物11に接触させることにより、溶接電源1から電流が供給されて被覆アーク溶接が開始される(タッチスタート)。
【0022】
実施形態1の溶接電源1では、接続検出信号に基づいて溶接モードが自動設定されるため、モード切換用のスイッチ等を別途設ける必要がないので、作業者が施工場所から溶接用電源装置1の設置場所まで移動して、溶モードを切換える作業を必要としないので、作業の効率化が図られる。
さらに、モード切換用スイッチの設定作業において、作業者が溶接モードの設定ミスを抑制でき溶接の品質向上に繋がる。
【0023】
(実施形態2)
次に、実施形態2について、図4及び図5を参照して説明する。
実施形態2における溶接電源1は、基本的には実施形態1の場合と同様の構造を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施形態2の溶接電源1は、エア検出回路22が主制御回路3に接続され、エアが供給可能となったことを示すエア検出信号を入力する点において、実施の形態1の場合とは異なっている。
【0024】
実施の形態2の溶接電源1は、図4に示すガスボンベ8からエアが供給可能となったときにエア検出信号22aを出力するエア検出回路22が設置されている。エア検出回路22は、例えば、圧力センサで形成され、主制御回路3にエア検出信号22aを入力する。
主制御回路3は、接続検出信号5a及びエア検出信号22aに基づいて溶接モードを選択する。
つぎに、図4を参照して、第1出力端子Aに非消耗電極溶接トーチ7が接続されているTIG溶接の場合、接続検出回路5から接続検出信号5aが出力されず、エア検出回路22からエア検出信号22aを出力する。このとき、主制御回路3は非消耗電極溶接モードを選択される。さらに、図4に図示省略の溶接棒ホルダが第1出力端子Aに接続されると、接続検出回路5は接続検出信号5aが出力されず、エア検出回路22もエア検出信号22aを出力しないので、主制御回路3は被覆アーク溶接モードが選択される
【0025】
次に、実施形態2の詳細について図4および図5を参照して説明する。
ステップ(S10)において、トーチスイッチ10をオン状態にすると、溶接電源1の主電源回路2がオン状態になり、電力系統から入力される三相交流電力をアーク溶接に適した直流電力に変換し一対の出力端子A,Bに出力する。そして、送給装置6の入力端子Cと溶接電源1の第2出力端子Bとの間の電圧を検出し、この検出した電圧値が予め定めた電圧基準値より大きいとき、溶接電源1に送給装置6が接続されていると判別し接続検出信号5aを出力する。
【0026】
図5に示すステップ(S20)において、接続検出信号5aが主制御回路3に入力されているか否かを判別し、YESのとき、ステップ(S30)に進み、主制御回路5aは消耗電極溶接モードを選択する。
上述において、主制御回路3は、接続検出信号5aの入力で消耗電極溶接モードを選択しているが、接続検出信号5a及びエア検出信号22aの2つの信号が入力されたときに消耗電極溶接モードを選択してもよい。
【0027】
ステップ(S20)において、接続検出信号5aが主制御回路3に入力されているか否かを判別し、NOのとき、ステップ(S40)に進む。
ステップ(S40)において、図4に示すガスボンベ8からガスが供給されたか否かを、エア検出部22でガスの供給を検出し、YESのとき、エア検出信号22aを主制御回路3に入力される。そして、ステップ(S50)において、主制御回路3は、エア検出信号22aに基づき、溶接電源1に非消耗電極溶接トーチ20が接続されていると判別し、非消耗電極溶接モードが選択され、非消耗電極溶接(例えば、TIG溶接)が開始可能な状態となる。
【0028】
一方、図4に示す第1出力端子Aに図示省略の溶接棒ホルダが接続されていると、エア検出部22からはエア検出信号22aが出力されないので、ステップ(S40)においてNOとなり、主制御回路3は、接続検出信号5a及びエア検出信号22aが入力されないので、被覆アーク溶接モードが選択される。
【0029】
実施形態2の溶接用電源装置によれば、溶接電源1に消耗電極モジュール、非消耗電極モジュール、被覆アーク溶接モジュールの付け替えにおいて、溶接モードが自動設定されるため、作業者が溶接モードの設定ミスを抑制でき溶接の品質向上に繋がる。
【符号の説明】
【0030】
1 溶接電源
2 主電源回路
3 主制御回路
4 送給用電源回路
5 接続検出回路
5a 接続検出信号
6 送給装置
6A 電源回路
6B 制御回路
6C モータ駆動回路
6D 送給モータ
7 消耗電極溶接トーチ
8 ガスボンベ
9 電磁弁
9b 電磁弁駆動信号
10 トーチスイッチ
11 被加工物
12 第1電力線
13 第2電力線
14 ガスホース
15 制御線
16 第1接続検出線
17 第1送給電力線
18 第2送給電力線
19 制御線
20 非消耗電極溶接トーチ
21 第1接続検出線
22 エア検出回路
22a エア検出信号
A 第1出力端子
B 第2出力端子
C 入力端子

図1
図2
図3
図4
図5