(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セラミックス原料100質量部と、セルロース及び水溶性高分子を含むセルロース複合体0.1〜20質量部とを混練し、混練物を得る原料調合工程と、該混練物を成形する工程と、を有し、
前記セルロース複合体において、水溶性高分子の結合率が50質量%以上である、セラミックス坏土成形体の製造方法。
セラミックス原料100質量部と、セルロース及び水溶性高分子からなるセルロース複合体0.1〜20質量部とを混練し、混練物を得る原料調合工程と、該混練物を成形してセラミックス坏土成形体を得る工程と、該セラミックス坏土成形体を乾燥・仮焼工程に供した後、更に焼結することにより、セラミックス成形体を得る工程と、を有し、
前記セルロース複合体において、水溶性高分子の結合率が50質量%以上である、セラミックス成形体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
【0016】
≪セラミックス坏土成形体の製造方法≫
本実施形態のセラミックス坏土成形体の製造方法は、セラミックス原料100質量部と、セルロース及び水溶性高分子を含むセルロース複合体0.1〜20質量部とを混練し、混練物を得る原料調合工程と、該混練物を成形する工程と、を有する。
【0017】
本実施形態のセラミックス坏土成形体の製造方法では、セルロース複合体を用いる。ここでいうセルロース複合体とは、セルロースと水溶性高分子とが、水素結合、分子間力等の化学結合により結合されたもののことをいう。セルロース複合体の例としては、結晶セルロース粒子の表面が水溶性高分子で被覆されたもの等が挙げられる。
【0018】
<セルロース>
本実施形態において「セルロース」とは、セルロースを含有する天然由来の水不溶性繊維質物質である。原料としては、特に限定されないが、例えば、木材、竹、麦藁、稲藁、コットン、ラミー、バガス、ケナフ、ビート、ホヤ、バクテリアセルロース等が挙げられる。原料として、これらのうち1種の天然セルロース系物質を使用しても、2種以上を混合したものを使用することも可能である。
【0019】
<セルロースの平均重合度>
本実施形態に用いるセルロースは、平均重合度が500以下の結晶セルロースが好ましい。平均重合度は、「第14改正日本薬局方」(廣川書店発行)の結晶セルロース確認試験(3)に規定される銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法により測定できる。セルロースの平均重合度が500以下であれば、水溶性高分子との複合化の工程において、セルロース系物質が攪拌、粉砕、摩砕等の物理処理を受けやすくなり、複合化が促進されやすくなるため好ましい。より好ましくは、セルロースの平均重合度は300以下、さらに好ましくは、セルロースの平均重合度は250以下である。セルロースの平均重合度は、小さいほど複合化の制御が容易になるため、下限は特に制限されないが、好ましい範囲としては10以上である。
【0020】
<セルロースの加水分解>
セルロースの平均重合度を制御する方法としては、加水分解処理等が挙げられる。加水分解処理によって、セルロース繊維質内部の非晶質セルロースの解重合が進み、セルロースの平均重合度が小さくなる。また同時に、加水分解処理により、上述の非晶質セルロースに加え、ヘミセルロースや、リグニン等の不純物も、取り除かれるため、繊維質内部が多孔質化する。それにより、混練工程等で、セルロースと水溶性高分子とに機械的せん断力を与える工程において、セルロースが機械処理を受けやすくなり、セルロースが微細化されやすくなる。その結果、セルロースの表面積が高くなり、水溶性高分子との複合化の制御が容易になる。
【0021】
加水分解の方法は、特に制限されないが、例えば、酸加水分解、熱水分解、スチームエクスプロージョン、マイクロ波分解等が挙げられる。これらの方法は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。酸加水分解の方法では、セルロース系物質を水系媒体に分散させた状態で、プロトン酸、カルボン酸、ルイス酸、ヘテロポリ酸等を適量加え、攪拌させながら、加温することにより、容易にセルロースの平均重合度を制御できる。この際の温度、圧力、時間等の反応条件は、セルロース種、セルロース濃度、酸種、酸濃度により異なるが、目的とする平均重合度が達成されるよう適宜調整されるものである。例えば、2質量%以下の鉱酸水溶液を使用し、100℃以上、加圧下で、10分以上セルロースを処理するという条件が挙げられる。この条件のとき、酸等の触媒成分がセルロース繊維内部まで浸透し、加水分解が促進され、使用する触媒成分量が少なくなり、その後の精製も容易になる。
【0022】
<セルロースの結晶化度>
本実施形態に用いるセルロース複合体中のセルロースは、セルロースI型結晶を含有し、その結晶化度は、10%以上であることが好ましい。ここでいう結晶化度は、セルロースを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10〜30)からSegal法により、以下の式で求められるものである。結晶化度(%)=((2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度)−(2θ/deg.=18の非晶質に起因する回折強度))/(2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度)x100。
【0023】
セルロースの結晶化度は、高いほどセラミックス坏土の保形性が高まるため好ましく、より好ましい範囲は30%以上であり、さらに好ましい範囲は50%以上であり、特に好ましくは70%以上である。セルロースの結晶化度の上限は特に設定されるものではないが90%以下が好ましい。
【0024】
<セルロースの粒子形状(L/D)>
本実施形態に用いるセルロース複合体中のセルロースは、微細な粒子状の形状であることが好ましい。セルロースの粒子形状は、以下の方法で得られる粒子像の長径(L)と短径(D)とした場合の比(L/D)で表される。本実施形態で用いるセルロース複合体を、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させて水分散体を得た。該水分散体を、0.1〜0.5質量%に純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾されたものを、高分解能走査型顕微鏡(SEM)、又は原子間力顕微鏡(AFM)で計測した。当該計測された際に得られる粒子像において、任意に選択した100個〜150個の粒子の長径(L)と短径(D)とを測定し、これらの比(L/D)の平均値をセルロース粒子のL/Dとした。
【0025】
<水溶性高分子>
本実施形態に用いるセルロース複合体に含まれる水溶性高分子は、数平均分子量が1800以上の高分子物質であることが好ましい。また、該水溶性高分子は、0.5質量%濃度でイオン交換水に溶解させ、この溶液を所定量、目開き0.1μmのメンブレンフィルター(PVDF製等)を通過させた際に、ろ液中に全溶質濃度の10%以上の水溶性成分が含まれるものが好ましい。
【0026】
上述の数平均分子量は以下のゲルパーミレーションクロマトグラフィーで測定できる。ゲルパーミレーションクロマトグラフィーとは、株式会社島津製作所製 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)商品名LC−20A型に、カラムとして東ソー株式会社製 商品名TSK−GEL G5000PW型(7.8mmx30cm)一本と、商品名TSK−GEL G3000PWXL型(7.8mmx30cm)二本を直列でつなぎ、移動層として0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用い、移動層の流量を1mL/分、カラム温度30℃、RI検出器もしくはUV検出器(波長210nm)で測定した際に得られるクロマトグラムから求められる。ここでは標準物としてプルラン換算された値を使用する。
【0027】
用いる水溶性高分子は、上記の移動層と同じ溶液に、完全に溶解したものを用いることができ、0.01〜1.0質量%の濃度の範囲で、適宜調整され、打ち込み量は、5〜10μL/回で測定される。
【0028】
本実施形態で用いる水溶性高分子として、上記の特性を満たす水溶性高分子が好ましく、このような水溶性高分子の具体例としては特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド等の合成高分子化合物や、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びそれらの塩等のセルロース系化合物、澱粉、加工澱粉等の澱粉系化合物、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドシードガム、クインスシードガム、カラヤガム、キチン、キトサン、アラビアガム、トラガントガム、ガティガム、アラビノガラクタン、寒天、カラギーナン(ι、λ、κ)、アルギン酸及びその塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ファーセレラン、ペクチン、タラガム、アーモンドガム、アエロモナスガム、アゾトバクター・ビネランジーガム、アマシードガム、ウェランガム、サイリウムシードガム、キサンタンガム、カードラン、プルラン、ジェランガム、水溶性大豆多糖類等の天然多糖類等の多糖類が挙げられる。これらは単独で使用しても、二種以上を併用してもよい。
この水溶性高分子は、セルロースとの複合化を促進するためには、特定の分子量であることが好ましい。より好ましくは水溶性高分子の数平均分子量が1800〜1000000であり、5000〜700000がさらに好ましく、10000〜650000が特に好ましい。
【0029】
また、水溶性高分子は、セルロースとの複合化を促進するためには、主鎖骨格の構造が近いものを選択することが好ましく、上述の中では多糖類を選択することが好ましい。
【0030】
多糖類の中でも、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びそれらの塩等のセルロース系化合物、カラヤガム、キサンタンガム、ジェランガムおよびそれらの塩等の天然多糖類は、セルロースと複合化しやすいため好ましい。
【0031】
さらに好ましくは、主鎖骨格がセルロースと同じβ−1,4−グルカンである、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガムおよびそれらの塩等を用いることが好ましい。
【0032】
上述の中でも、陰イオン性の多糖類である、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガムは、セルロースと複合化しやすいため好ましい。
これらについて、以下に説明する。
【0033】
<カルボキシメチルセルロースナトリウム>
上述の陰イオン性多糖類の中でも、カルボキシメチルセルロースナトリウム(以下、「CMC−Na」とも記す)もセルロースと複合化しやすいため好ましい。ここでいうCMC−Naとは、セルロースの水酸基がモノクロロ酢酸で置換されたもので、D−グルコースがβ−1,4結合した直鎖状の化学構造を持つものである。CMC−Naは、パルプ(セルロース)を水酸化ナトリウム溶液で溶かし、モノクロロ酸(或いはそのナトリウム塩)でエーテル化して得られる。
【0034】
特に、置換度と粘度とが特定範囲に調製されたCMC−Naを用いることが、複合化の観点から好ましい。置換度とは、セルロース中の水酸基にカルボキシメチル基がエーテル結合した度合いのことであり、0.6〜2.0が好ましい。置換度が前記の範囲であれば、置換度が高いほど、セルロースと複合化しやすく、セルロース複合体の貯蔵弾性率が高まり、高塩濃度の水溶液中(例えば10質量%の塩化ナトリウム水溶液)でも高い懸濁安定性を発揮できるため好ましい。より好ましくは、置換度は0.6〜1.3である。
【0035】
また、CMC−Naの粘度は、1質量%の純水溶液において、500mPa・s以下が好ましい。ここでいう粘度は、以下の方法で測定される。まず、CMC−Naの粉末を、1質量%として、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)を用いて純水中に分散し、水溶液を調製する。次に、得られたに水溶液ついて、分散3時間後(25℃保存)に、B形粘度計(ローター回転数60rpm)にセットして60秒静置後に、30秒間回転させて測定する。但し、ローターは、粘度によって適宜変更できる。CMC−Naの粘度が低いほど、セルロース、陰イオン性多糖類との複合化が促進されやすい。そのため、CMC−Naの粘度は200mPa・s以下がより好ましく、100mPa・s以下がさらに好ましい。CMC−Naの粘度の下限は特に設定されるものではないが、好ましい範囲としては10mPa・s以上である。粘度の異なるものを二種以上組み合わせてよい。
【0036】
<キサンタンガム>
上述の陰イオン性多糖類の中でも、キサンタンガムはセルロースと複合化しやすいため好ましい。「キサンタンガム」は、微生物Xanthomonas・campestrisが産生する発酵多糖類であり、β−1、4−D−グルカンの主鎖骨格に、D−マンノース、D−グルクロン酸、D−マンノースからなる側鎖が結合したアニオン性の多糖類である。主鎖に結合したD−マンノースのC6位はアセチル化され、末端のD−マンノースはピルビン酸とアセタールで結合している。本実施形態で用いるキサンタンガムは、特に限定することなくアセチル基含量が1%以下のものでも、標準の2〜6%程度のものでも使用してよい。
【0037】
キサンタンガムも粘度が低いほどセルロースと複合化しやすく、上述のカルボキシメチルセルロースの粘度測定法において、0.5質量%濃度として測定される粘度が、2000mPa・s以下が好ましく、より好ましくは1000mPa・s以下であり、さらに好ましくは500mPa・s以下である。当該粘度の下限は特に設定されるものではないが、好ましい範囲としては10mPa・s以上である。粘度の異なるものを二種以上組み合わせてよい。
【0038】
<セルロースと水溶性高分子との配合比率>
本実施形態で用いるセルロース複合体は、好ましくは、セルロースを30〜99質量%、及び水溶性高分子を1〜70質量%含む。複合化によって、水溶性高分子がセルロース粒子の表面を水素結合等の化学結合により被覆することで、セラミックス水系混合物に分散した際に、坏土のグリーン強度、可塑性を高め、坏土を押し出す際には、表面が滑らかとなり、ヒビ等の構造的欠損、押し出し電力を低減できる。また、セルロースと水溶性高分子とを上記の組成とすることで、複合化が促進され、セラミックス坏土の押出性、保形性をさらに高めることが可能となる。本実施形態で用いるセルロース複合体は、セルロースを50〜99質量%、水溶性高分子を1〜50質量%を含むことがより好ましく、セルロースを70〜99質量%、水溶性高分子を1〜30質量%を含むことがさらに好ましく、セルロースを80〜99質量%、水溶性高分子を1〜20質量%を含むことが特に好ましい。
【0039】
<親水性物質>
本実施形態に用いるセルロース複合体は、水への分散性を高める目的で、水溶性高分子以外に、親水性物質を加えてもよい。親水性物質とは、冷水への溶解性が高く粘性を殆どもたらさない有機物質である。親水性物質は数平均分子量が1800未満であることが好ましい。親水性物質は、0.5質量%濃度でイオン交換水に溶解させ、この溶液を所定量、目開き0.1μmのメンブレンフィルター(PVDF製等)を通過させた際に、ろ液中に全溶質濃度の10%以上の水溶性成分が含まれるものが好ましい。
【0040】
親水性物質としては、例えば、澱粉加水分解物、デキストリン類等の親水性糖類、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、乳糖、マルトース、ショ糖、α−、β−、γ−シクロデキストリン等のオリゴ糖類、ブドウ糖、果糖、ソルボース等の単糖類、マルチトール、ソルビット、エリスリトール等の糖アルコール類等が適している。これらの親水性物質は、2種類以上組み合わせてもよい。上述の中でも、澱粉加水分解物、デキストリン類、難消化性デキストリン、ポリデキストロース等の親水性多糖類が分散性の点で好ましい。
【0041】
その他の成分の配合については、組成物の水中での分散及び安定性を阻害しない程度に配合することは自由である。
【0042】
<セルロース複合体の製造方法>
次に、本実施形態で用いるセルロース複合体の製造方法を説明する。
【0043】
本実施形態で用いるセルロース複合体は、混練工程においてセルロースと水溶性高分子とに機械的せん断力をあたえ、セルロースを微細化させるとともに、セルロース表面に水溶性高分子を複合化させることによって得られる。また、この混練工程では、水溶性高分子以外の親水性物質、及び、その他の添加剤などを添加してもよい。上述の処理を経たものは、必要に応じ、乾燥される。セルロース複合体は、上述の機械的せん断を経て、未乾燥のもの及びその後乾燥されたもの等、いずれの形態でもよい。
【0044】
機械的せん断力を与えるには、混練機等を用いて混練する方法を適用することができる。混練機は、ニーダー、エクストルーダー、プラネタリーミキサー、ライカイ機等を用いることができ、連続式でもバッチ式でもよい。混練時の温度は成り行きでもよいが、混練の際の複合化反応、摩擦等により発熱する場合にはこれを除熱しながら混練してもよい。これらの機種を単独で使用することも可能であるが、二種以上の機種を組み合わせて用いることも可能である。これらの機種は、セラミックス坏土の粘性要求等により適宜選択すればよい。
【0045】
また、混練温度は、低いほど、水溶性高分子の劣化が抑制され、セルロースと水溶性高分子との複合化が促進されるため好ましい。混練温度は、0〜100℃が好ましく、90℃以下がより好ましく、70℃以下が特に好ましく、60℃以下がさらに好ましく、50℃以下が特に好ましい。高エネルギー下で、上記の混練温度を維持するには、ジャケット冷却、放熱等の徐熱を工夫することも自由である。
【0046】
混練時の固形分は、20質量%以上とすることが好ましい。混練物の粘性が高い半固形状態で混練することで、混練物が緩い状態にならず、下記に述べる混練エネルギーが混練物に伝わりやすくなり、複合化が促進されるため好ましい。混練時の固形分は、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは40質量%以上であり、特に好ましくは50質量%以上である。混練時の固形分の上限は特に限定されないが、充分な混練効果と均一な混練状態が得られることを考慮して、90質量%以下が好ましい。より好ましくは70質量%以下であり、さらに好ましくは60質量%以下である。また、固形分を上記範囲とするために、加水するタイミングとしては、混練工程の前に必要量を加水してもよいし、混練工程の途中で加水してもよいし、両方実施してもよい。
【0047】
ここで、混練エネルギーについて説明する。混練エネルギーとは混練物の単位質量当たりの電力量(Wh/kg)で定義するものである。混練エネルギーは、50Wh/kg以上とすることが好ましい。混練エネルギーが50Wh/kg以上であれば、混練物に与える磨砕性が高く、セルロースと水溶性高分子との複合化が促進される。より好ましくは80Wh/kg以上であり、さらに好ましくは100Wh/kg以上であり、特に好ましくは200Wh/kg以上であり、一層好ましくは300Wh/kg以上であり、特に好ましくは400Wh/kg以上である。混練エネルギーは、高い方が、複合化が促進されると考えられるが、混練エネルギーが高すぎると、工業的に過大な設備となること、設備に過大な負荷がかかることから、混練エネルギーの上限は1000Wh/kgとするのが好ましい。
【0048】
複合化の程度は、セルロースとその他の成分の水素結合、分子間力による結合の割合と考えられる。複合化が進むと、セルロースと水溶性高分子との結合の割合が高くなり本実施形態の効果が向上する。
【0049】
本実施形態で用いるセルロース複合体を得るにあたって、前述の混練工程より得られた混練物を乾燥する場合は、棚段式乾燥、噴霧乾燥、ベルト乾燥、流動床乾燥、凍結乾燥、マイクロウェーブ乾燥等の公知の乾燥方法を用いることができる。混練物を乾燥工程に供する場合には、混練物に水を添加せず、混練工程の固形分濃度を維持して、乾燥工程に供することが好ましい。
【0050】
乾燥後のセルロース複合体の含水率は1〜20質量%が好ましい。含水率を20%以下とすることで、容器への付着、腐敗等の問題や運搬・輸送におけるコストの問題が生じにくくなる。セルロース複合体の含水率は、より好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下である。また、セルロース複合体の含水率は、1%以上とすることで、過剰乾燥のため分散性が悪化することもない。セルロース複合体の含水率は、より好ましくは1.5%以上である。
【0051】
セルロース複合体を市場に流通させる場合、その形状は、粉体の方が取り扱い易いので、乾燥により得られたセルロース複合体を粉砕処理して粉体状にすることが好ましい。但し、乾燥方法として噴霧乾燥を用いた場合は、乾燥と粉末化とが同時にできるため、粉砕は必要ない。乾燥したセルロース複合体を粉砕する場合、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等の公知の方法を用いることができる。粉砕する程度は、粉砕処理したものが目開き1mmの篩いを全通する程度に粉砕する。より好ましくは、目開き425μmの篩いを全通し、かつ、平均粒度(重量平均粒子径)としては10〜250μmとなるように粉砕することが好ましい。これらの乾燥粉末は、セルロース複合体の微粒子が凝集し、二次凝集体を形成しているものである。この二次凝集体は、水中で攪拌すると崩壊し、上述のセルロース複合体微粒子に分散する。二次凝集体の見かけの重量平均粒子径は、ロータップ式篩振盪機(平工作所製シーブシェーカーA型)、JIS標準篩(Z8801−1987)を用いて、試料10gを10分間篩分することにより得られた粒度分布における累積重量50%粒径のことである。
【0052】
<水溶性高分子の複合化の程度>
本実施形態で用いるセルロース複合体は、その複合化の程度が高いほど、セラミックスに使用した際の効果が高まるため好ましい。この複合化の程度は以下の方法で測定することが可能である。
【0053】
<水溶性高分子の結合率>
本実施形態で用いるセルロース複合体は、水溶性高分子の結合率が50質量%以上であることが好ましい。水溶性高分子の結合率とは、セルロース複合体に含まれる水溶性高分子全量に対し、該複合体を所定の条件で水に分散してもセルロースから遊離しない程度に強く結合している水溶性高分子の割合である。この割合が高いほど、複合化の程度が高いといえる。この結合率は、以下の方法で測定することができる。
【0054】
まず、セルロース複合体を、0.5質量%濃度となるようにイオン交換水を加え、次いで高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、懸濁液を得る。この懸濁液を、目開き0.1μmのメンブレンフィルター(ミリポア製 商品名Ultrofree Durapore Centrifugal Filters PVDF0.1μm)に200μL仕込み、市販の遠心分離機で、116000m
2/sで45分間遠心処理する。得られたろ液中に含まれる水溶性高分子を、ゲルパーミレーションクロマトグラフィー法や、絶乾法にて定量し、ろ液中の濃度を測定し、以下の式から水溶性高分子の結合率は算出される。結合率(%)=(懸濁液中に含まれる水溶性高分子の濃度(質量%)−ろ液中に含まれる水溶性高分子の濃度(質量%))/(懸濁液中に含まれる水溶性高分子の濃度(質量%))x100。
【0055】
この結合率は高いほど好ましく、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上であり、特に好ましくは80%以上であり、最も好ましくは90%以上である。上限は理論値から100%以下である。
【0056】
<粘度比>
本実施形態で用いるセルロース複合体は、これを1.0質量%含む水分散液の粘度を、25℃または60℃で測定した際に、それらの粘度比(60℃の粘度/25℃の粘度)が0.70以上であることが好ましい。この粘度比も、セルロース複合体における水溶性高分子の複合化の程度を表す。この粘度比が高いということは、複合化の程度が高いため、温度による粘度低下が小さいことを意味する。
【0057】
ここでいう粘度比は、以下の方法で測定することができる。まずセルロース複合体を1.0質量%濃度となるようにイオン交換水で希釈し、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散液を調整する。その後、分散液を60℃又は25℃で3時間静置し、B型粘度計(ローター回転数60rpm)にセットして30秒静置後に、30秒間回転させて粘度を測定する。ここで、ローターは分散液の粘度によって適宜変更できる。目安としては、粘度が1〜20mPa・sの場合はBL型を用い、粘度が21〜100mPa・sの場合はNo1ローターを用い、粘度が101〜300mPa・sの場合はNo2ローターを用い、301mPa・s以上の場合はNo3を用いる。この粘度比は、得られた各粘度値から以下の式で求められる。粘度比=(60℃の粘度値(mPa・s)/25℃の粘度値(mPa・s))粘度比は高いほど好ましく、より好ましくは0.75以上であり、さらに好ましくは0.80以上であり。特に好ましくは0.90以上である。水溶性高分子が仕込み量の全てにおいて良好な状態で複合化されていた場合は、この粘度比は、1.0以上となるので好ましい。この粘度の上限は特に設定されないが、通常は10以下である。
【0058】
<コロイド状セルロース複合体含有量>
本実施形態で用いるセルロース複合体は、コロイド状セルロース複合体を30質量%以上含有することが好ましい。ここでいうコロイド状セルロース複合体含有量とは、セルロース複合体の懸濁液を遠心分離にかけ、回収された上澄みに含まれる固形分の質量が、遠心分離前の分散液に含まれる固形分の質量に占める割合のことである。
【0059】
具体的には、セルロース複合体を0.5質量%の濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、遠心分離を行う。遠心分離は、久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」ロータータイプRA−400型を用い、処理条件:遠心力39200m
2/sで10分間遠心した上澄みを採取し、さらに、この上澄みについて、116000m
2/sで45分間遠心処理する。この遠心分離操作によって得られた上澄みに含まれる固形分の質量と、遠心分離前の分散液に含まれる固形分の質量との割合を、コロイド状セルロース複合体含有量とする。該固形分中には、セルロース、水溶性高分子が含まれ、さらに親水性物質が含まれる場合もある。
【0060】
コロイド状セルロース複合体の含有量が30質量%以上であると、懸濁安定性が向上する。コロイド状セルロース複合体の含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。コロイド状セルロース複合体含有量は、多ければ多いほど、粘度比が高いため、その上限は特に制限されないが、好ましい範囲としては、100質量%以下である。
【0061】
<セルロースからの水溶性高分子の広がり>
本実施形態で用いるセルロース複合体は、セルロース粒子表面から放射状に伸びた水溶性高分子の広がりが大きいという特徴があり、特に水溶性高分子として多糖類を用いた場合はこの広がりが大きい。この水溶性高分子の広がりは、上述のコロイド状セルロース複合体における、動的光散乱法により測定されるメジアン径で表され、本実施形態で用いるセルロース複合体については、このメジアン径は0.30μm以上であることが好ましい。この動的光散乱法によるメジアン径は、以下の方法で測定することができる。まず、セルロース複合体を、0.5質量%の濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、遠心分離(久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」ロータータイプRA−400型、処理条件:遠心力39200m
2/sで10分間遠心した上澄みを採取し、さらに、この上澄みについて、116000m
2/sで45分間遠心処理する。)し、遠心後の上澄みを採取する。
【0062】
この上澄み液を、50mL容量のPP製サンプル管に入れて、超音波洗浄器(アズワン製超音波洗浄器商品名AUC−1L型)で10分間、超音波処理する。その後、ゼータ電位・粒径測定システム(大塚電子(株)製 商品名「ELSZ−2」(バッチセル))により粒度分布(粒径値に対する散乱強度の度数分布)を測定される。ここでいうメジアン径とは、この度数分布における散乱強度の積算50%に対応する粒径値(μm)のことである。このメジアン径は大きいほど、セルロース複合体の懸濁安定性が優れるため、好ましくは0.50μm以上であり、より好ましくは0.70μm以上であり、さらに好ましくは0.90μm以上であり、特に好ましくは1.0μm以上である。このメジアン径の上限については、特に制限はないが、好ましくは5.0μm以下であり、より好ましくは3.0μm以下であり、さらに好ましくは2.0μm以下であり、特に好ましくは1.5μm以下である。
【0063】
<セルロース複合体中のセルロース芯材の粒子径>
本実施形態で用いるセルロース複合体のコロイド状セルロース複合体について、レーザー回折/散乱法により測定されるメジアン径は、1.0μm以下であることが好ましい。この方法で計測されるメジアン径は、上述の動的光散乱法によるものと異なり、セルロース複合体の中心に存在するセルロース芯材の粒子径を表すものである。このレーザー回折/散乱法によるメジアン径は、以下の方法で測定することができる。まず、セルロース複合体を、0.5質量%の濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、遠心分離(久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」ロータータイプRA−400型、処理条件:遠心力39200m
2/sで10分間遠心した上澄みを採取し、さらに、この上澄みについて、116000m
2/sで45分間遠心処理する。)し、遠心後の上澄みを採取する。この上澄み液を、レーザー回折/散乱法粒度分布計(堀場製作所(株)製、商品名「LA−910」、超音波処理1分、屈折率1.20)により得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径(体積平均粒子径)のことである。この値が小さいほど、セルロース複合体をセラミックス混合物に使用した際に、坏土の保形性、可塑性が高められるため好ましい。この方法で計測されるメジアン径は、より好ましくは0.7μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下であり、特に好ましくは0.3μm以下であり、極めて好ましくは0.2μm以下である。
【0064】
<セルロース複合体中の粗大粒子の大きさ>
本実施形態で用いるセルロース複合体は、それに含まれる粗大粒子のメジアン径が小さい特徴がある。この粗大粒子の大きさは、以下の方法で測定できる。まず、セルロース複合体を、0.5質量%の濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、遠心分離を経ずに、そのまま、レーザー回折/散乱法粒度分布計(堀場製作所(株)製、商品名「LA−910」、超音波処理1分、屈折率1.20)により得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径(体積平均粒子径)のことである。このメジアン径が20μm以下であると、セルロース複合体を配合した坏土を押し出した場合に成形体表面の滑らかさが向上するため好ましい。また、セルロース複合体を含有する食品を食した際に、ザラツキのない、なめらかな舌触りのものを提供することができる。このメジアン径は、より好ましくは15μm以下であり、特に好ましくは10μm以下、さらに好ましくは8μm以下である。このメジアン径の下限は特に制限されないが、好ましい範囲としては0.1μm以上である。
【0065】
<セルロース複合体の貯蔵弾性率>
次に、本実施形態で用いるセルロース複合体の貯蔵弾性率(G')について説明する。
本実施形態で用いるセルロース複合体は、セルロース複合体を1質量%含むpH6〜7の水分散体において貯蔵弾性率(G')が0.30Pa以上である。貯蔵弾性率とは、水分散体のレオロジー的な弾性を表現するものであり、セルロースと水溶性高分子との複合化の程度を表すものである。貯蔵弾性率が高いほど、セルロースと水溶性高分子との複合化が促進され、セルロース複合体の水分散体におけるネットワーク構造が、剛直であることを意味する。ネットワーク構造が剛直なほど、セラミックスの坏土の硬度及び保形性が高まり、かつ同等の保形性の場合には、チキソトロピー性が発現し、押し出し電力が低減されるため好ましい。
【0066】
本実施形態において、貯蔵弾性率は、セルロース複合体を純水中に分散させた水分散体(pH6〜7)の動的粘弾性測定により得られる値とした。水分散体に歪みを与えた際の、セルロース複合体ネットワーク構造内部に蓄えられた応力を保持する弾性成分が貯蔵弾性率として表される。
【0067】
貯蔵弾性率の測定方法としては、まず、セルロース複合体を、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)を用いて純水中に分散させ、1.0質量%の純水分散体を調製する。得られた水分散体を3日間室温で静置する。この水分散体の応力のひずみ依存性を、粘弾性測定装置(Rheometric Scientific,Inc.製、ARES100FRTN1型、ジオメトリー:Double Wall Couette型、温度:25.0℃一定、角速度:20rad/秒、ひずみ:1→794%の範囲で掃引、水分散体は微細構造を壊さないようスポイトを使用して、ゆっくりと仕込み、5分間静置した後に、Dynamic Strainモードで測定を開始する)により測定する。
【0068】
本実施形態における貯蔵弾性率は、上述の測定で得られた歪み−応力曲線上の、歪み20%の値のことである。この貯蔵弾性率の値が大きいほど、セルロース複合体が形成する水分散体の構造はより弾性的であり、セルロースと水溶性高分子とが高度に複合化していることを表す。
【0069】
セルロース複合体の貯蔵弾性率は、0.50Pa以上が好ましく、0.7Pa以上がより好ましく、さらに好ましくは0.9Pa以上であり、特に好ましくは1.1Pa以上であり、極めて好ましくは、1.5Pa以上である。セルロース複合体の貯蔵弾性率の上限は、特に設定されるものではないが、現実的な坏土の押し出し性を勘案すると10Pa以下が好ましい。
【0070】
<セルロース複合体の構造>
本実施形態で用いるセルロース複合体は、セルロース単独には見られない、セルロース表面から放射状に伸びた水溶性高分子の広がりが、大きいという特徴がある。水溶性高分子として多糖類を用いた場合が広がりは大きく、セルロース表面から伸びた水溶性高分子の広がりが大きいほど、隣接するセルロース複合体の水溶性高分子と絡み合いやすくなる。その結果、セルロース複合体同士の絡み合いが密に生じることで、ネットワーク構造が剛直になり、貯蔵弾性率(G')が向上する。この水溶性高分子の広がりは、以下の方法で測定することができる。
【0071】
まず、セルロース複合体を、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間、全量300g)を用いて純水中に分散させ、1.0質量%の純水分散体を調製する。得られた水分散体を3日間以上、室温で静置する。その後、純水で20倍希釈され、サンプル液が調製される。水分散体の微細構造を壊さないよう、スポイトを使用して、5μLをゆっくりと吸出し、1cmx1cmの壁開されたマイカ上に、ゆっくり滴下し、エアダスターで余分な水分を吹き飛ばし、マイカ上に定着したサンプルを、AFM(島津製作所製 走査型プローブ顕微鏡SPM−9700、位相モード、オリンパス社製プローブOMCL−AC240TSを使用)にて、観察する。この観察像において、セルロース粒子は高さ2nm以上の棒状粒子として観察され、そのセルロース粒子から周囲に放射状に伸びる高さ2nm未満の水溶性高分子が観察できる。本実施形態では、このセルロース粒子から周囲に放射状に伸びた水溶性高分子の広がりを、前記コロイド状セルロース複合体における、動的光散乱法により測定されるメジアン径で表す。
【0072】
水溶性高分子は高度に複合化されると、この広がりがより大きくなるため好ましい。さらに、水溶性高分子として多糖類を用いた場合は広がりが大きい。
【0073】
<セラミックス>
セラミックスとは、無機物を焼き固めた焼結体のことをいう。ここでは金属や非金属を問わず、シリコンのような半導体や、炭化物、窒化物、ホウ化物、酸化チタンなどの無機化合物の成形体、粉末、膜など無機固体材料の総称とする。本実施形態で製造するセラミックスの原料(セラミックス原料)は、多くの場合は粉末状をとり、焼結を経ずに、そのままでは成形しにくい材料のことをいう。
【0074】
<セラミックス坏土成形体の製造方法>
本実施形態のセラミックス坏土成形体の製造方法は、原料調合工程、成形工程を含む。セラミックス坏土成形体は、さらに乾燥・仮焼工程(脱脂工程ともいう)、焼結工程に供することにより、セラミックス成形体となる。この他に、仕上げ加工工程等も任意で含まれる。
【0075】
原料調合工程(混練を含む)は、乾式であっても、湿式であってもよく、特に湿式の場合は水系でも、有機溶剤系でもよい。これらを組み合わせた方法を用いてもよい。また必要に応じ、バインダー、可塑剤、分散剤、潤滑剤、湿潤材、消泡剤を使用することも自由である。
【0076】
次に成形工程とは、原料を焼き固める(焼結)前に、形を整える工程のことをいう。完成品の用途に応じてさまざまな成形方法を使い分けることができる。例えば、乾式成形、一軸加圧成形(金型成形)、CIP(冷間静水圧成形)、HP(ホットプレス)、HIP(熱間静水圧成形)、塑性成形、ろくろ成形、押出し成形、射出成形、鋳込み成形、泥漿(でいしょう)鋳込み、加圧鋳込み、回転鋳込み、テープ成形、ドクターブレード法等の公知の方法を用いることができ、これらは単独で使用しても、二種以上を併用してもよい。
【0077】
特に、自動車排ガス用触媒担体としてハニカムセラミックスを調製する際には、原料調合を水系湿式で行い、押出し成形法する方法が好ましく、これにより均質かつ高強度のハニカムが得やすく、量産性に優れている。この概略プロセスは、以下の通りである。まず、セラミックス原料を粉砕・粒度調整し、所定の化学組成になるように調合して、水とバインダー等の添加剤を加え、混練することで坏土を調製し、これを押出し機に入れ、ダイスを通して押出す方法である。ここでハニカム状に押出成形されたものを乾燥(脱脂)、焼成してハニカムセラミックスを得ることができる。ハニカムの押出製造プロセスで最も重要なのは押出しのダイスの構造である。ここでは、坏土(混練物)はダイス裏面の供給孔からダイスに入り、途中から出口側のハニカム構造を形成する溝(スリット)に入り十文字に拡がり、隣接する坏土が圧縮合体して一体のハニカム構造になる。
【0078】
上記の水系湿式押し出し法による製造方法において、原料調合工程で坏土を得る際に、セラミックス粉にセルロース複合体を配合することで、硬く(グリーン強度が高く)、保形性が優れた坏土が得られ、加水量を減らした条件でも坏土の可塑性を保つことができるため、ハニカムのように複雑な微細加工が必要となる押し出し時において、ヒビ割れがなく、寸法精度が高い成形体が得られる。
【0079】
<セラミックス薄膜の膜厚>
本実施形態のセラミクス成形体の製造方法は、ハニカムセラミックスなど、構造の一部に薄膜構造を有するセラミクス成形体の製造において、特に好適に用いられる。一般的に、ハニカムセラミックスは、単位断面積におけるセル数が多いほど、触媒としての性能が高いため好ましい。しかしながら、セル数が多くなるほど、膜厚が薄くなるため、製造工程において成形、乾燥、焼成時の熱収縮により破損しやすくなる。また、膜厚の低下に伴い、押し出し金型の流路幅も狭くなり、グリーン強度が高い坏土を押し出す際には、押し出し圧が高くなり、電力が多く必要となるため、生産性が損なわれる。そこで本実施形態の製造方法を用いることで、従来の製造方法と比べて、低圧、低電力で、生産性を損なうことなく、薄膜化が可能となる。
【0080】
セラミクス成形体の構造の少なくとも一部において、薄膜構造の膜厚は、6ミル(1ミルは、1/1000インチ)以下が好ましく、より好ましくは5ミル以下であり、さらに好ましくは4ミル以下であり、特に好ましくは3ミル以下であり、最も好ましくは2ミル以下である。膜厚は薄いほど、セル数を増やすことができるので下限は特に設定されないが、生産性の観点から、1ミル以上が好ましい。
【0081】
<セラミックス粉末>
本実施形態で用いるセラミックス原料としては、特に限定されないが、例えば、コージェライトやムライト、ベントナイト等の粘土、タルク、ジルコン、ジルコニア、スピネル、アルミナ、カオリン及びそれらの前駆体、炭化物(例えば炭化ケイ素)、窒化物(例えば窒化ケイ素)、ケイ酸塩、アルミン酸塩、リチウムアルミノケイ酸塩、アルミナシリカ、チタニア、チタン酸アルミニウム、溶融シリカ、ホウ化物、ソーダ石灰、アルミノケイ酸塩、ホウケイ酸塩、ソーダバリウムケイ酸塩等が挙げられる。目的とする成形体が得られれば、これらは単独で使用しても、二種以上を併用してもよい。
【0082】
上記の中でも、特に、自動車排ガス用触媒担体としてハニカムセラミックスを製造する際には、用いるセラミックス原料は、コージェライトが好ましく。これは、天然に菫青石として得られるものを用いても、コージェライトタルク(3MgO・4SiO
2・H
2O)、カオリン(Al
2O
3・2SiO
2・2H
2O)、アルミナ(Al
2O
3)が好ましく、これらをコージェライト組成(2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2)になるように調合されたものを用いてもよい。
【0083】
上述のセラミックス粉末の添加量は、成形体の耐熱性の観点から、セラミックス材料及び必要に応じて添加される無機質材料の合計100質量%に対し、好ましくは50〜100質量%、更に好ましくは60〜95質量%、特に好ましくは75〜85質量%である。
【0084】
<バインダー>
本実施形態のセラミックス坏土成形体の製造方法では、セルロース複合体に加え、必要に応じバインダーを添加してもよい。バインダー種は特に制限はなく、例えば、水系バインダーとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びそれらの塩等のセルロース系化合物、澱粉、加工澱粉等の澱粉系化合物、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド等の合成高分子化合物を用いることができる。
【0085】
また、熱可塑性バインダーとしては、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂等を用いることができる。上述のバインダーは、単独で使用しても、二種以上を併用することもできる。
【0086】
特に、自動車排ガス用触媒担体としてハニカムセラミックスを調製する際には、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びそれらの塩等のセルロース系化合物を用いることが好ましく、より好ましくは、メチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いると、焼成時の保形性、寸法安定性が高められる。
【0087】
<可塑剤>
本実施形態では必要に応じ可塑剤を使用してもよい。例えば、代表的なものとしてグリコール系化合物、フタール系化合物があり、グリセリン、ポリエチレングリコール、ジブチルフタレート等が好適に使用できる。これらは単独でも、二種以上を併用することも自由である。
【0088】
<分散剤>
本実施形態では、水系または非水系の分散剤を用いることもできる。水系分散剤としては、カルボキシメチルセルロースアンモニウム、アクリル酸又はそのアンモニウム塩のオリゴマー、アニオン系界面活性剤、ポリカルボン酸アンモニウム、ワックスエマルジョン、モノエチルアミン等の各種アミン、ピリジン、ピペリジン、水酸化テトラメチルアンモニウムが挙げられ、非水系としては脂肪酸、リン酸エステル、合成界面活性剤、ベンゼンスルホン酸等が挙げられる。これらは単独でも二種以上を併用することも自由である。
【0089】
<湿潤剤>
本実施形態では湿潤剤として、非イオン界面活性剤、アルコール、グリコール等を用いることもできる。これらは単独でも二種以上を併用することもできる。
【0090】
<消泡剤>
本実施形態では消泡剤として、非イオン界面活性剤、ポリアルキレン誘導体、ポリエーテル系誘導体を用いることもできる。これらは単独でも二種以上を併用してもよい。
【0091】
<セルロース複合体の配合量>
本実施形態において、配合されるセルロース複合体の添加量としては、上述のセラミックス原料100質量部に対し、セルロース複合体を0.1〜20質量部である。セルロース複合体は、上述の原料調合工程において、混練を経ると、粒子が微細化し、水を含んで均一な坏土を形成する。また、坏土中で、セラミックス粒子の周囲をセルロース複合体の粒子が取り囲み、それぞれの粒子が相互作用し、ネットワークを形成することで坏土に適度な、硬さ(グリーン強度)、保形性、チキソトロピー性が付与される。ここでチキソトロピー性は、弱いシアが坏土にかかることで、ゲルが不可逆的にゾルに転移する性質のことであり、これを付与された坏土は、同じグリーン強度でも、押し出し時に、装置内でシアがかかることで押し出し電力を低減できる効果がある。セルロース複合体の添加量が少ないと、上述の効果が小さく、添加量が多すぎると坏土が硬くなりすぎ、可塑性が損なわれるため適正範囲に設定することが好ましい。セルロース複合体の添加量のより好ましい範囲としては、セラミックス原料100質量部に対し、0.5質量部〜10質量部であり、さらに好ましくは1質量部〜8質量部であり、特にこのましくは2質量部〜6質量部であり、極めて好ましくは3質量部〜5質量部である。
【0092】
<セルロース複合体の添加方法>
セラミックス原料に、本実施形態で用いるセルロース複合体を添加する方法としては次の方法が挙げられる。例えば、乾式法としては、セラミックス原料粉末とセルロース複合体と必要に応じ他の添加剤と同時に添加し一括で混合する方法、セラミックス原料粉末と他の添加剤を予め混合し、その後にセルロース複合体粉末を添加し混合する方法、他の添加剤とセルロース複合体を予め混合し、セラミック原料粉末に投入し混合する方法等のいずれを用いてもよい。また湿式法としては、セラミック原料粉末とセルロース複合体と必要に応じ他の添加剤の混合物に加水する方法、予めセラミック原料粉末に加水し、その後他の添加剤とセルロース粉末を添加して混合する方法、予め他の添加剤とセルロース粉末を水に分散し、セラミック原料粉末に添加しながら混合する方法等をとることができる。
【0093】
特に、乾式でセラミック原料粉末と、セルロース複合体と必要に応じ他の添加剤を混合し、加水しながら混合・混練する方法、又は、セラミック原料粉末と必要に応じ他の添加剤を混合したものに、予め水に分散したセルロース複合体を混合しながら混練する方法をとると、得られる坏土中にセルロース複合体と多成分が均一に分散できるので好ましい。
【0094】
<加水量>
本実施形態のセラミックス坏土成形体の製造方法において、分散媒としての水の配合量は、押出成形するために坏土が適切な可塑性を得るため調整されることが好ましい。例えば、適切な坏土を形成するためには、加水量は、坏土全体の質量において、10〜60質量%であることが好ましく、さらに好ましくは15〜50質量%である。特に好ましくは15〜40質量%である。加水量が少ないと坏土が硬くなりすぎ、押し出し成形時にヒビ等の欠損が入りやすくなり、加水量が多すぎると坏土が緩くなり、保形性が損なわれる。
【0095】
<坏土の調整(混練)>
本実施形態の原料調合工程における混練物(坏土)の調整方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、プレミキシング等の方法を挙げることができる。そして、上記混合を行ったものを混練して坏土を形成する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、ニーダー、エクストルーダー、プラネタリーミキサー、ライカイ機、真空土練機等を用いることができ、これらは連続式でもバッチ式でもよい。上記は単独で行っても、複数を併用してもよい。
【0096】
<成形工程>
次に、得られた坏土は、続いて成形工程に供される。代表的な成形手段としては、押出成形が挙げられる。得られた坏土を、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度等を有する口金を用いて、押出成形することにより作製することが好ましい。例えば、ハニカム形状のダイスを通せば、ハニカム成形体が得られる。
【0097】
≪セラミックス成形体の製造方法≫
本実施形態のセラミックス成形体は、上述した工程で得られたセラミックス坏土成形体を乾燥・仮焼工程に供した後、更に焼結することにより得ることができる。
【0098】
<乾燥・仮焼工程(脱脂)>
次にセラミックス坏土成形体中の有機物(水溶性バインダ、造孔材等)を燃焼させ一部、また完全に除去する目的で仮焼させることが好ましい。
【0099】
一般的に、バインダ(有機バインダ)の燃焼温度は100〜300℃程度、造孔材の燃焼温度は200〜800℃程度であるので、仮焼温度は200〜1000℃程度とすればよい。仮焼時間としては特に制限はないが、通常は、10〜100時間程度である。
【0100】
方法としては、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の従来公知の方法を用いることができる。中でも、成形体全体を迅速かつ均一に乾燥・仮焼することができる点で、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせた方法が好ましい。
【0101】
<焼結>
次に、仮焼した成形体を焼成してセラミックス成形体(セラミックス焼結体)を作製する。焼成により、仮焼した成形体中のセラミック原料を焼結させて緻密化し、所定の強度を確保することができる。例えば、コージェライト化原料の焼成条件(温度、時間)としては、1350〜1440℃で、3〜10時間程度焼成することが好ましい。仮焼と焼成とは、別途実施してもよいが、連続して実施することもできる。後者は、工程削減、エネルギー効率の観点から、好適である。
【0102】
<セラミックスの表面平滑性>
上記の工程を経て得られるセラミックス成形体は、表面が平滑なほど、組み立て時の歪みが発生しにくく、焼結後に触媒粒子を担持する際に均一にコートできるため好ましい。この表面平滑性は、窒素吸着法によるBET比表面積、細孔容積で表すことができる。これらは、例えば以下の方法で測定できる。比表面積・細孔分布測定装置(マイクロメリティクス(株)製、商品名、TriSTAR)を用い、吸着ガスとして窒素を使用し、BET法により測定することができる。各セラミックス試料は、形状に歪み・歪みが入らないようにダイヤモンドカッター等で、最大直径が10mm以下となるようにカットされ、約1gずつセルに仕込み測定される。測定に用いた各試料は、予め110℃で3時間減圧乾燥したものが使用される。
【0103】
セラミックス成形体において、窒素吸着法で測定されるBET比表面積は、0.010m
2/g未満であることが好ましく、0.009m
2/g以下であることがより好ましく、0.008m
2/g以下であることがさらに好ましく、0.007m
2/g以下であることが特に好ましく、0.006m
2/g以下であることが最も好ましい。この値は小さければ小さいほど、表面が平滑であるため好ましく、下限は特に設定されるものではないが、0.001m
2/g以上ならば十分である。
【0104】
さらに、セラミックス成形体において、上記方法で得られる細孔容積は、0.60m
3/g未満が好ましく、0.50m
3/g以下がより好ましく、0.40m
3/g以下がさらに好ましく、0.30m
3/g以下が特に好ましく、0.20m
3/g以下が最も好ましい。この値は小さければ小さいほど、表面が平滑であるため好ましく、下限は特に設定されるものではないが、0.05m
3/g以上ならば十分である。
【0105】
また、セラミックス成形体において、窒素吸着法で測定されるBET比表面積は、0.010m
2/g未満又は細孔容積は、0.60m
3/g未満の少なくともいずれかを満たすことが、成型体の組み立て時の歪みが発生しにくいため好ましい。
【実施例】
【0106】
本実施形態を下記の実施例により説明する。ただし、これらは本実施形態の範囲を制限するものではない。
【0107】
<セルロースの平均重合度>
「第14改正日本薬局方」(廣川書店発行)の結晶セルロース確認試験(3)に規定される銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法によりセルロースの平均重合度を測定した。
【0108】
<セルロースの結晶化度>
X線回折装置(株式会社リガク製 多目的X線回折装置)で粉末法にて回折像を測定(常温)し、Segal法でセルロースの結晶化度を算出した。
【0109】
<セルロース粒子のL/D>
セルロース複合体、又はセルロースと水溶性高分子との混合物を、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させて水分散体を得た。該水分散体を、0.1〜0.5質量%に純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾されたものを、原子間力顕微鏡(島津製作所製 走査型プローブ顕微鏡SPM−9700、位相モード、オリンパス社製プローブOMCL−AC240TSを使用)で計測した。当該計測の際に得られる粒子像において、任意に選択した100個〜150個の粒子の長径(L)と短径(D)とを測定し、これらの比(L/D)の平均値をセルロース粒子のL/Dとした。
【0110】
<水溶性高分子、親水性物質の数平均分子量>
実施例、比較例で使用した水溶性高分子、親水性物質について、それぞれを0.025〜0.1質量%濃度になるように、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に溶解し、サンプル液とした。次に、各サンプル液を20μL以下の高速液体クロマトグラフィーに打ち込み、数平均分子量を求めた。株式会社島津製作所製 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)商品名LC−20A型に、カラムとして東ソー株式会社製 商品名TSK−GEL G5000PW型(7.8mmx30cm)一本と、商品名TSK−GEL G3000PWXL型(7.8mmx30cm)二本とを直列でつなぎ、移動層として0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用い、移動層の流量を1mL/分、カラム温度30℃、RI検出器もしくはUV検出器(波長210nm)で測定した際に得られるクロマトグラムから求めた。ここでは標準物としてプルラン換算された値を使用した。
【0111】
<水溶性高分子の結合率>
セルロース複合体、又はセルロースと水溶性高分子との混合物を、0.5質量%濃度となるようにイオン交換水を加え、次いで高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、懸濁液を得た。この懸濁液を、目開き0.1μmのメンブレンフィルター(ミリポア製 商品名Ultrofree Durapore Centrifugal Filters PVDF0.1μm)に200μL仕込み、市販の遠心分離機で、116000m
2/sで45分間遠心処理した。得られたろ液中に含まれる水溶性高分子を、ゲルパーミレーションクロマトグラフィー法で定量した。当該定量値に基づきセルロース複合体又は混合物における水溶性高分子の結合率を以下の式から算出した。
結合率(%)=(懸濁液中に含まれる水溶性高分子の濃度(質量%)−ろ液中に含まれる水溶性高分子の濃度(質量%))/(懸濁液中に含まれる水溶性高分子の濃度(質量%))×100
【0112】
<粘度比>
セルロース複合体、又はセルロースと水溶性高分子との混合物を1.0質量%濃度となるようにイオン交換水で希釈し、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散液を調整した。その後、分散液を60℃又は25℃で3時間静置し、B型粘度計(ローター回転数60rpm)にセットして30秒静置後に、30秒間回転させて粘度を測定した。ここで、ローターは分散液の粘度によって適宜変更した。目安としては、粘度が1〜20mPa・sの場合はBL型を用い、粘度が21〜100mPa・sの場合はNo1ローターを用い、粘度が101〜300mPa・sの場合はNo2ローターを用い、301mPa・s以上の場合はNo3を用いた。この粘度比は、上記測定で得られた各粘度値から以下の式で求めた。
粘度比=(60℃の粘度値(mPa・s)/25℃の粘度値(mPa・s))
【0113】
<コロイド状セルロース複合体含有量>
セルロース複合体、又はセルロースと水溶性高分子との混合物を、0.5質量%の濃度で純水懸濁液とした。該純水懸濁液を、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、遠心分離器(久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」ロータータイプRA−400型)を用いて、処理条件:遠心力39200m
2/sで10分間遠心した上澄みを採取し、さらに、この上澄みについて、116000m
2/sで45分間遠心処理した。遠心後の上澄みに残存する固形分を絶乾法で測定し、コロイド状セルロース複合体又は混合物の質量百分率(コロイド含量)を算出した。
【0114】
<セルロース複合体の貯蔵弾性率>
セルロース複合体、又はセルロースと水溶性高分子との混合物を、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)を用いて純水中に分散させ、1.0質量%の純水分散体を調製した。得られた水分散体を3日間室温で静置した。この水分散体の応力のひずみ依存性を、粘弾性測定装置(Rheometric Scientific,Inc.製、ARES100FRTN1型、ジオメトリー:Double Wall Couette型)を用いて、温度:25.0℃一定、角速度:20rad/秒、ひずみ:1→794%の範囲で掃引して測定した。なお、当該測定において、水分散体は微細構造を壊さないようスポイトを使用して、ゆっくりと仕込み、5分間静置した後に、Dynamic Strainモードで測定を開始した。貯蔵弾性率は、上述の測定で得られた歪み−応力曲線上の、歪み20%の値を選定した。
【0115】
<セルロースからの水溶性高分子の広がり(DLS粒子径)>
セルロース複合体、又はセルロースと水溶性高分子との混合物を、0.5質量%の濃度で純水懸濁液とした。該純水懸濁液を、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、遠心分離器(久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」ロータータイプRA−400型)を用いて、処理条件:遠心力39200m
2/sで10分間遠心した上澄みを採取し、さらに、この上澄みについて、116000m
2/sで45分間遠心処理し、遠心後の上澄みを採取した。この上澄み液を、50mL容量のPP製サンプル管に入れて、超音波洗浄器(アズワン製超音波洗浄器商品名AUC−1L型)で10分間、超音波処理した。その後、ゼータ電位・粒径測定システム(大塚電子(株)製 商品名「ELSZ−2」(バッチセル))により粒度分布(粒径値に対する散乱強度の度数分布)を測定し、メジアン径(DLS粒子径)を算出した。
【0116】
<セルロース複合体中のセルロース芯材の粒子径>
セルロース複合体、又はセルロースと水溶性高分子との混合物を、0.5質量%の濃度で純水懸濁液とした。該純水懸濁液を、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、遠心分離器(久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」ロータータイプRA−400型)用いて、処理条件:遠心力39200m
2/sで10分間遠心した上澄みを採取し、さらに、この上澄みについて、116000m
2/sで45分間遠心処理し、遠心後の上澄みを採取した。この上澄み液について、レーザー回折/散乱法粒度分布計(堀場製作所(株)製、商品名「LA−910」、超音波処理1分、屈折率1.20)により体積頻度粒度分布を測定した。得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径(体積平均粒子径)を測定し、該測定値をセルロース複合体又は混合物中のセルロース芯材の粒子径(芯材粒子径)とした。
【0117】
<セルロース複合体中の粗大粒子の大きさ>
セルロース複合体、又はセルロースと水溶性高分子との混合物を、0.5質量%の濃度で純水懸濁液とした。該純水懸濁液を、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、遠心分離を経ずに、そのまま、レーザー回折/散乱法粒度分布計(堀場製作所(株)製、商品名「LA−910」、超音波処理1分、屈折率1.20)により体積頻度粒度分布を測定した。得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径(体積平均粒子径)を測定し、該測定値をセルロース複合体又は混合物中の粗大粒子の大きさ(粗大粒子径)とした。
【0118】
<セルロース複合体の構造観察>
セルロース複合体、又はセルロースと水溶性高分子との混合物を、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件:回転数15,000rpm×5分間、全量300g)を用いて純水中に分散させ、1.0質量%の純水分散体を調製した。得られた水分散体を3日間以上、室温で静置した。その後、純水で20倍希釈され、サンプル液を調製した。水分散体の微細構造を壊さないよう、スポイトを使用して、サンプル液5μLをゆっくりと吸出し、1cmx1cmの壁開されたマイカ上に、ゆっくり滴下し、エアダスターで余分な水分を吹き飛ばし、マイカ上に定着したサンプルを、AFM(島津製作所製 走査型プローブ顕微鏡SPM−9700、位相モード、オリンパス社製プローブOMCL−AC240TSを使用)にて観察した。
【0119】
<セラミックス坏土成形体の硬さ(グリーン強度)>
各実施例、比較例で得られたセラミックス坏土成形体を、φ40mm、高さ60mmの円筒型SUS製シリンダーに充填し、硬度計(日本ガイシ株式会社製、商品名CLAYHARDNESS TESTER)を用いて硬さ(グリーン強度)を測定した。ここでは、針入度(mmで表される)が大きいほど、セラミックス坏土成形体は硬く、グリーン強度が高いことを表す。
【0120】
<セラミックス坏土成形体のヒビ>
各実施例、比較例で得られた混練物をφ6.5mmのダイス(中心部に一穴)を備えた一軸式押し出し機(不二電機株式会社製 装置名ECK、軸回転数50rpm、処理速度90〜90g/分)で押し出した後、セラミックス坏土成形体を、180mmの長さにカットして、目視で表面のヒビの数をカウントした。
【0121】
<セラミックス坏土成形体の押出電力>
各実施例、比較例で得られた混練物を上記ヒビの測定条件で押し出した際の押し出し電力を電力計で測定した(1秒間隔)。連続で120時間押出における30〜120分の押し出し電力の平均値を算出し、当該平均値をセラミックス坏土成形体の押出電力とした。
【0122】
<セラミックス坏土成形体の表面観察>
各実施例、比較例で得られたセラミックス坏土成形体について、蒸着処理を経ずに、走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製 商品名JEOL JSM5510−LV)を用いて観察した。
【0123】
<セラミックス成形体の表面観察>
各実施例、比較例で得られたセラミックス成形体(焼結されたもの)について、白金蒸着処理を経て、走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製 商品名JEOL JSM5510−LV)を用いて観察した。
【0124】
<セラミックス成形体の膜厚>
各実施例、比較例で薄膜を得たものについては、ダイヤモンドカッターで5mm角に切り出し、白金蒸着処理を経て、膜厚方向を走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製 商品名JEOL JSM5510−LV)を用いて観察し、膜厚を測定した。
【0125】
<セラミックス成形体の比表面積、細孔容積>
マイクロメリティクス(株)製、商品名、TriSTARを用い、吸着ガスとして窒素を使用しBET法により、BET比表面積及び細孔容積を求めた。各セラミックス試料は、ダイヤモンドカッターで最大直径が5mm以下となるようにカットされ、約1gずつセルに仕込み測定された。測定に用いた各試料は、110℃で3時間減圧乾燥されたものを使用した。
【0126】
(実施例1)
市販DPパルプ(平均重合度1600)を細断後、2.5mol/L塩酸中で105℃、15分間加水分解した後、水洗・濾過を行い、固形分が50質量%のウェットケーキ状のセルロースを作製した(平均重合度は220、結晶化度は78%、粒子L/Dは1.6であった)。次に、ウェットケーキ状のセルロースと、CMC−Na(2%溶解液の粘度620mPa・s、置換度0.7〜0.8、数平均分子量は636000以上)とをセルロース/CMC−Naの質量比が90/10となるように投入し、固形分37質量%でプラネタリーミキサー((株)品川工業所製、5DM−03−R、撹拌羽根はフック型)中で、126rpmにて混練してセルロース複合体Aを得た。混練エネルギー(電力)は、プラネタリーミキサーの混練時間により制御され、実測値は、60Wh/kgであった。混練温度は、ジャケット冷却の調整で行われ、熱伝対を用いて、混練物の温度が直接測定され、混練を通して20〜85℃であった。
【0127】
得られたセルロース複合体Aにおいて、CMC−Naの結合率は81%であり、粘度比(60℃の粘度/25℃の粘度)は0.75であった。また、コロイド状セルロース複合体含有量(コロイド含量)は70質量%、貯蔵弾性率(G’)は0.45Pa、コロイド状セルロース複合体の動的光散乱メジアン径(DLS粒子径)は0.81μm、レーザー回折/散乱法メジアン径(芯材粒子径)は0.13μm、粗大粒子のメジアン径(粗大粒子径)は9.5μmであった。セルロース複合体AをAFMで観察した結果、セルロースの表面にCMC−Na分子が結合し、放射状に延びていることが確認された。
【0128】
次に、セミミックスの原料粉末としてコージェライト(丸ス釉薬合資会社製 商品名配合コージェライトAF−31、平均粒子径32.9μm)、バインダーとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下「HPMC」とも記す、信越化学株式会社製 商品名メトローズ60SH−4000、メトキシ置換度1.9、ヒドロキシプロポキシ置換モル数0.25、粘度4000mPa・s(2%))、セルロース複合体Aを用い、それぞれ固形分換算で、セラミックス原料粉末/バインダー/セルロース複合体=94/3/3となるよう配合(全量500g)し、ポリ袋中で3分間混合して坏土を形成した。その後、プラネタリーミキサー((株)品川工業所製、5DM−03−R、撹拌羽根はフック型)に仕込み、イオン交換水を坏土に対し32.5質量%一括添加して、100rpmで坏土形成後60秒間混練して(複数回調製)混練物を得た。得られた混練物をφ6.5mmのダイス(中心部に一穴)を備えた一軸式押し出し機(不二電機株式会社製 装置名ECK、軸回転数50rpm、処理速度90〜90g/分)で120分押し出し成形することによりセラミックス坏土成形体を得た。得られたセラミックス坏土成形体の硬さ(グリーン強度)、ヒビの観察結果、押し出し電力は表1に示した。
【0129】
得られたセラミックス坏土成形体は、押し出し電力が低いため可塑性が高いことがわかった。また、グリーン強度が高いため保形性に優れることがわかった。さらに、グリーン強度が高く、押し出し電力が低く、さらにひび割れが少ないため、微細加工が容易性であることがわかった。
【0130】
(実施例2)
実施例1と同様の操作で加水分解してウェットケーキ状セルロースを得て、固形分を45質量%とし、混練エネルギーを390Wh/kgとし、混練温度を20〜40℃とする以外は、実施例1と同様の操作でセルロース複合体Bを得た。
【0131】
得られたセルロース複合体Bにおいて、CMC−Naの結合率は93%であり、粘度比は1.7であった。また、コロイド状セルロース複合体含有量は78質量%、貯蔵弾性率(G’)は5.5Pa、コロイド状セルロース複合体の動的光散乱メジアン径は2.5μm、レーザー回折/散乱法メジアン径は0.13μm、粗大粒子のメジアン径は6.5μmであった。セルロース複合体BをAFMで観察した結果、セルロースの表面にCMC−Na分子が結合し、放射状に延びていることが確認され、実施例1で得られたセルロース複合体Aより格段に広がりが大きかった。
【0132】
セルロース複合体Bを用いた以外は実施例1と同様にセラミックス坏土成形体を作製し、評価した。結果を表1に示した。
【0133】
(実施例3)
実施例1と同様の操作で加水分解してウェットケーキ状セルロースを得て、固形分を30質量%とし、混練エネルギーを50Wh/kgとし、混練温度を20〜90℃とする以外は、実施例1と同様の操作でセルロース複合体Cを得た。
得られたセルロース複合体Cにおいて、CMC−Naの結合率は55%であり、粘度比は0.71であった。また、コロイド状セルロース複合体含有量は68質量%、貯蔵弾性率(G’)は0.35Pa、コロイド状セルロース複合体の動的光散乱メジアン径は0.35μm、レーザー回折/散乱法メジアン径は0.16μm、粗大粒子のメジアン径は10.3μmであった。セルロース複合体CをAFMで観察した結果、セルロースの表面にCMC−Na分子が結合し、放射状に延びていることが確認され、実施例1で得られたセルロース複合体Aより広がりが小さかった。
【0134】
セルロース複合体Cを用いた以外は実施例1と同様にセラミックス坏土成形体を作製し、評価した。結果を表1に示した。
【0135】
(実施例4)
実施例1で得られたセルロース複合体Aを使用し、セラミックスの配合率を、セラミックス原料粉末/バインダー/セルロース複合体=94/5.5/0.5となるよう配合した以外は実施例1と同様にセラミックス坏土成形体を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0136】
(実施例5)
実施例1で得られたセルロース複合体Aを使用し、セラミックスの配合率を、セラミックス原料粉末/バインダー/セルロース複合体=87/3/10となるよう配合した以外は実施例1と同様にセラミックス坏土成形体を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0137】
(実施例6)
実施例1と同様の操作で、細断した市販DPパルプを用いてセルロースの加水分解を行いウェットケーキ状セルロース(MCC)を得て、A成分:CMC−Na(2%溶解液の粘度620mPa・s、置換度0.7〜0.8、数平均分子量は636000以上)、B成分:CMC−Na(2%溶解液の粘度25mPa・s、置換度0.7〜0.8、数平均分子量は636000以上)を用意し、セルロース、CMC−Na以外に、キサンタンガム(ダニスコジャパン株式会社製 商品名グリンステッドキサンタン200、数平均分子量は636000以上)を、親水性物質としてデキストリン(三和澱粉工業株式会社製 商品名サンデック♯30、数平均分子量は1600)を配合し、MCC/CMC−Na(A成分+B成分)/キサンタンガム/デキストリンの質量比が70/5(CMC−Naの構成:A成分/B成分=50/50)/5/20となるように投入し、固形分45質量%となるように加水し、実施例1と同様に混練し、セルロース複合体Dを得た。混練エネルギーは、プラネタリーミキサーの混練時間により制御され、実測値は80Wh/kgであった。混練温度は20〜65℃であった。
【0138】
得られたセルロース複合体Dにおいて、CMC−Na、キサンタンガムを含む水溶性高分子の結合率は51%であり、粘度比は0.83であった。また、コロイド状セルロース複合体含有量は75質量%、貯蔵弾性率(G’)は1.2Pa、コロイド状セルロース複合体の動的光散乱メジアン径は0.95μm、レーザー回折/散乱法メジアン径は0.16μm、粗大粒子のメジアン径は8.5μmであった。セルロース複合体DをAFMで観察した結果、セルロースの表面に水溶性高分子が結合し、放射状に延びていることが確認された。
【0139】
セルロース複合体Dを用いた以外は実施例1と同様にセラミックス坏土成形体を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0140】
(実施例7)
実施例1と同様の操作で、細断した市販DPパルプを用いてセルロースの加水分解を行いウェットケーキ状セルロース(MCC)を得て、水溶性高分子としてメチルセルロース(信越化学株式会社製 商品名メトローズMCE−25、数平均分子量は636000以上)を準備し、MCC/メチルセルロースの質量比が90/10ように投入し、固形分45質量%となるように加水し、実施例1と同様に混練し、セルロース複合体Eを得た。混練エネルギーは、プラネタリーミキサーの混練時間により制御され、実測値は235Wh/kgであった。混練温度は20〜50℃であった。
得られたセルロース複合体Eにおいて、メチルセルロースの結合率は95%であり、粘度比は1.1であった。また、コロイド状セルロース複合体含有量は46質量%、貯蔵弾性率(G’)は0.8Pa、コロイド状セルロース複合体の動的光散乱メジアン径は0.9μm、レーザー回折/散乱法メジアン径は0.13μm、粗大粒子のメジアン径は7.2μmであった。セルロース複合体EをAFMで観察した結果、セルロースの表面にメチルセルロース分子が結合し、放射状に延びていることが確認された。
【0141】
セルロース複合体Eを用いた以外は実施例1と同様にセラミックス坏土成形体を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0142】
(実施例8)
実施例1と同様の操作で、細断した市販DPパルプを用いてセルロースの加水分解を行い、セルロース/キサンタンガム(ダニスコジャパン株式会社製 商品名グリンステッドキサンタン200、数平均分子量は636000以上)の質量比が90/10となるように投入し、固形分40質量%となるように加水し、実施例1と同様に混練し、セルロース複合体Fを得た。混練エネルギーは、プラネタリーミキサーの混練時間により制御され、実測値は70Wh/kgであった。混練温度は20〜85℃であった。
得られたセルロース複合体Fにおいて、キサンタンガムを含む水溶性高分子の結合率は87%であり、粘度比は0.86であった。また、コロイド状セルロース複合体含有量は73質量%、貯蔵弾性率(G’)は0.8Pa、コロイド状セルロース複合体の動的光散乱メジアン径は0.80μm、レーザー回折/散乱法メジアン径は0.13μm、粗大粒子のメジアン径は8.7μmであった。セルロース複合体FをAFMで観察した結果、セルロースの表面に水溶性高分子が結合し、放射状に延びていることが確認された。
【0143】
セルロース複合体Fを用いた以外は実施例1と同様にセラミックス坏土成形体を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0144】
(実施例9)
実施例1で得られたセルロース複合体Aを使用し、セラミックスの配合率を、セラミックス原料粉末/バインダー/セルロース複合体=94/5/1となるよう配合した以外は実施例1と同様にセラミックス坏土成形体を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0145】
(実施例10)
実施例1で得られたセルロース複合体Aを使用し、セラミックスの配合率を、セラミックス原料粉末/バインダー/セルロース複合体=94/1/5となるよう配合した以外は実施例1と同様にセラミックス坏土成形体を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0146】
(比較例1)
セルロース複合体を配合せず、セラミックス原料粉末/バインダー=94/6となるよう配合した以外は実施例1と同様にセラミックス坏土成形体を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0147】
(比較例2)
市販のDPパルプを細断後、2規定の塩酸中で98℃、20分間加水分解し得られた酸不溶性残さをろ過、洗浄して水分60質量%(固形分40質量%)のウェットケーキを得た。このウェットケーキ500gをプラネタリーミキサーで126rpmで60分間摩砕して摩砕ケーキ(平均重合度は240、結晶化度は77%、粒子L/Dは1.3であった)を得た。
【0148】
この摩砕ケーキに、プラネタリーミキサー(46rpm)で撹拌しながら4.4%のメチルセルロース水溶液(信越化学株式会社製 商品名メトローズMCE−25)を500g徐々に加えた後、1L容のSUS製容器に入れて、高せん断ホモジナイザー(株式会社プライミクス製 商品名TKホモジナイザーMARKII)を用いて5000rpmで10分間均一化し、噴霧乾燥機(東京理化機器株式会社製 商品名スプレードライヤーSD−1000)で、水分を10質量%含む粉末状まで乾燥し、セルロース混合物Aを得た。
【0149】
得られたセルロース混合物Aにおいて、メチルセルロースの結合率は0%であり、粘度比は0.68であった。また、コロイド状セルロース混合物含有量は65質量%、貯蔵弾性率(G’)は0.05Pa、コロイド状セルロース混合物の動的光散乱メジアン径は0.29μm、レーザー回折/散乱法メジアン径は0.17μm、粗大粒子のメジアン径は4.8μmであった。セルロース混合物AをAFMで観察した結果、セルロースの表面にメチルセルロース分子が観察されなかった。
【0150】
セルロース混合物Aを用いた以外は実施例1と同様にセラミックス坏土成形体を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0151】
(実施例1〜10、比較例1、2の比表面積、細孔容積)
実施例1〜10、比較例1、2で得られた各円柱状の坏土成形体を、高さ方向に10mmにカットし、通風型オーブンに仕込み200℃で3時間脱脂(仮焼・乾燥)し、次いで電気炉に仕込み1100℃で3時間焼結した。各焼結体について、BET比表面積と細孔容積とを測定した。結果を表1に示す。
【0152】
(比較例3)
実施例1で得られたセルロース複合体Aを使用し、セラミックスの配合率を、セラミックス原料粉末/バインダー/セルロース複合体=76/3/21となるよう配合した以外は、実施例1と同様にセラミックス坏土成形体を調製し、評価した(加水量は坏土に対し32.4質量とした)。その結果、坏土はパサパサしたものとなり、押し出し電力は0.8A以上となり、可塑性に乏しく、硬さは15mm以上となったが、セラミックス坏土成形体の表面のヒビは×であった。
【0153】
(実施例11)
実施例1で得られたセルロース複合体Aを使用し、以下の方法でセラミックス坏土成形体を調製した。γアルミナ粉末300gを用い、セルロース複合体Aを全固形分に対して3.0質量%、メチルセルロースを1.0質量%配合し、加水量を210gとした以外は実施例1と同様に混練物を調製した。
【0154】
得られた混練物を用いて、木屋式硬度計(株式会社藤原製作所製)で硬さ(グリーン強度)を測定した結果、70.6Nであった。得られた混練物を用いた以外は実施例1と同様に押し出し成形することによりセラミックス坏土成形体を調製した結果、セラミックス坏土成形体の表面のヒビは◎であった。
【0155】
(比較例4)
γアルミナ粉末300gを用い、セルロース複合体を配合せず、メチルセルロースを1.0質量%配合し、加水量を195gとした以外実施例1と同様に混練物を調製した。
【0156】
得られた混練物を用いて、木屋式硬度計(株式会社藤原製作所製)で硬さ(グリーン強度)を測定した結果、56.5Nであった。得られた混練物を用いた以外は実施例1と同様に押し出し成形することによりセラミックス坏土成形体を調製した結果、セラミックス坏土成形体の表面のヒビは×であった。
【0157】
(実施例12)
実施例1で得られたセルロース複合体Aを使用し、以下の方法でセラミックス坏土成形体を調製した。γアルミナ粉末300gを用い、セルロース複合体Aを全固形分に対して3.0質量%、ポリエチレングリコールを10質量%配合し、加水量を160gとした以外は実施例1と同様に混練物を調製した。
【0158】
得られた混練物を用いて、木屋式硬度計(株式会社藤原製作所製)で硬さ(グリーン強度)を測定した結果、17.2Nであった。得られた混練物を用いた以外は実施例1と同様に押し出し成形することによりセラミックス坏土成形体を調製した結果、セラミックス坏土成形体の表面のヒビは◎であった。
【0159】
(比較例5)
γアルミナ粉末300gを用い、セルロース複合体を配合せず、ポリエチレングリコールを3.0質量%配合し、加水量を140gとした以外は実施例1と同様に混練物を調製した。
【0160】
得られた混練物を用いて、木屋式硬度計(株式会社藤原製作所製)で硬さ(グリーン強度)を測定した結果、4N以下であった。得られた混練物を用いた以外は実施例1と同様に押し出し成形することによりセラミックス坏土成形体を調製した結果、セラミックス坏土成形体の表面のヒビは×であった。
【0161】
(実施例13)
市販のセルロース複合体G(旭化成ケミカルズ製 商品名セオラスRC−N30、組成:セルロース/キサンタンガム/デキストリン=75/5/20)を原料として用いた。セルロース複合体Gにおいてキサンタンガムを含む水溶性高分子の結合率は85%であり、粘度比は0.98であった。また、コロイド状セルロース複合体含有量は75質量%、貯蔵弾性率(G’)は0.5Pa、コロイド状セルロース複合体の動的光散乱メジアン径は0.94μm、レーザー回折/散乱法メジアン径は0.19μm、粗大粒子のメジアン径は8.7μmであった。セルロース複合体GをAFMで観察した結果、セルロースの表面に水溶性高分子が結合し、放射状に延びていることが確認された。セラミックスの原料粉末としてコージェライト(丸ス釉薬合資会社製 商品名配合コージェライトAF−31、平均粒子径32.9μm)、バインダーとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学株式会社製 商品名メトローズ60SH−4000、メトキシ置換度1.9、ヒドロキシプロポキシ置換モル数0.25、粘度4000mPa・s(2%))、セルロース複合体Gを用い、それぞれ固形分換算で、セラミックス原料粉末/バインダー/セルロース複合体=94/1.5/4.5となるよう配合(全量500g)した以外は実施例1と同様の操作でセラミックス坏土成形体を得た。得られたセラミックス坏土成形体の硬さ(グリーン強度)は13.6mm、ヒビの観察結果は◎、押し出し電力は0.50Aであった。
【0162】
上記のセラミックス坏土成形体を、通風型オーブンに仕込み200℃で3時間脱脂(仮焼・乾燥)し、次いで電気炉に仕込み1100℃で3時間焼結してセラミックス成形体を得た。
【0163】
脱脂、焼結前のセラミックス坏土成形体、及び焼結後得られたセラミックス成形体を走査型電子顕微鏡で表面観察した。得られた結果を
図1、2に示した。
図1はセラミックス坏土成形体の電子顕微鏡像であり、
図2はセラミックス成形体の電子顕微鏡像である。
【0164】
(比較例6)
複合体ではない市販のセルロース粉末(旭化成ケミカルズ製 商品名セオラスTG−101、組成:セルロース=100)を原料として用いた。セルロース粉末において、水溶性高分子の結合率は0%であり、粘度比は0.58であった。また、コロイド状セルロース含有量は11質量%、貯蔵弾性率(G’)は0.1Pa未満、コロイド状セルロースの動的光散乱メジアン径、レーザー回折/散乱法メジアン径は測定不能(遠心分離でほぼ全量沈降したため)、粗大粒子のメジアン径は34.6μmであった。セルロース粉末をAFMで観察した結果、セルロースの表面に水溶性高分子は確認されなかった。セラミックスの原料粉末としてコージェライト(丸ス釉薬合資会社製 商品名配合コージェライトAF−31、平均粒子径32.9μm)、バインダーとしてヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学株式会社製 商品名メトローズ60SH−4000、メトキシ置換度1.9、ヒドロキシプロポキシ置換モル数0.25、粘度4000mPa・s(2%))、セルロース粉末を用い、それぞれ固形分換算で、セラミックス原料粉末/バインダー/セルロース=94/1.5/4.5となるよう配合(全量500g)し、実施例1と同様の操作でセラミックス坏土成形体を得た。
【0165】
上記のセラミックス坏土成形体を、通風型オーブンに仕込み200℃で3時間脱脂(仮焼・乾燥)し、次いで電気炉に仕込み1100℃で3時間焼結した。
【0166】
脱脂、焼結前のセラミックス坏土成形体、及び焼結後得られたセラミックス成形体を走査型電子顕微鏡で表面観察した。得られた結果を
図3、4に示した。
図3はセラミックス坏土成形体の電子顕微鏡像であり、
図4はセラミックス成形体の電子顕微鏡像である。
【0167】
(比較例7)
比較例1で得られたセラミックス坏土成形体を実施例13及び比較例6と同様の方法で脱脂(仮焼・乾燥)及び焼結した。得られた焼結前のセラミックス坏土成形体、及び焼結後得られたセラミックス成形体を走査型電子顕微鏡で表面観察した。得られた結果を
図5、6に示した。
図5はセラミックス坏土成形体の電子顕微鏡像であり、
図6はセラミックス成形体の電子顕微鏡像である。
【0168】
図1、2は、本願の実施例13で得られたセラミックス坏土成形体及びセラミックス成形体のSEM観察像である。当該SEM観察像からセラミックス坏土成形体は滑らかな表面を示し、ヒビ等の欠損が少ないことが分かった。また焼結後得られたセラミックス成形体もセラミックス坏土成形体の状態を維持して非常に滑らかな表面を有していた。
【0169】
同じ倍率で比較すると
図3、4のように、セルロース複合体ではないセルロース粉末を使用した場合は、セラミックス坏土成形体の状態でかなり表面が粗く、欠損が観察された。また焼結後得られたセラミックス成形体も、セラミックス坏土成形体の状態を反映して比較的欠損が多かった。
【0170】
図5、6は、セルロースを使用せず、HPMCのみで試作したものである。セルロースを含まないことで、セラミックス坏土成形体、セラミックス成形体のいずれも、構造が粗く、最も欠損が多かった。
【0171】
【表1】
【0172】
(実施例14〜16)
実施例2、6、8において得られたセラミックス坏土を使用し、二段式押出・混練機(宮崎鉄工株式会社製 FM−30型、押出速度0.1kg/時間)を使用し、シート状平膜押し出し金型を調整し、4ミルの膜厚で薄膜を成形した。得られた薄膜は、一辺5mmの正方形にカットされ、通風型オーブンに仕込み200℃で3時間脱脂(仮焼・乾燥)し、次いで電気炉に仕込み1100℃で3時間焼結してセラミックス成形体を得た。実施例2、6、8の坏土を使用したものを、それぞれ実施例14、15、16とした。
【0173】
焼結後得られたセラミックス成形体を走査型電子顕微鏡で膜厚及び表面を観察した。その結果、いずれも膜厚は4ミル以下であり、膜表面にはヒビ、欠損がなく、良好な膜状態を示した。
【0174】
(実施例17〜19)
実施例2、6、8において得られたセラミックス坏土を使用し、実施例14〜16と同様の方法で、膜厚を3ミルに変更し、押出速度0.1kg/時間で薄膜を作成し、同様に膜厚、形状観察を行った。膜厚は3ミルであることが確認されたが、実施例17〜19は、実施例14〜16に対し、シートの収縮が見られた。
【0175】
上記の3ミルの薄膜の製法において、押出速度を0.05kg/時間に低下させ、同様に試作・評価した結果、シートの膜厚は3ミルであり、収縮・欠損のないものが得られた。
【0176】
本出願は、2015年11月13日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2015−223289号)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。