特許第6583989号(P6583989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6583989SiC単結晶シード、SiCインゴット、SiC単結晶シードの製造方法及びSiC単結晶インゴットの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6583989
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】SiC単結晶シード、SiCインゴット、SiC単結晶シードの製造方法及びSiC単結晶インゴットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20190919BHJP
   C30B 33/00 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   C30B29/36 A
   C30B33/00
【請求項の数】22
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-86810(P2015-86810)
(22)【出願日】2015年4月21日
(65)【公開番号】特開2016-204196(P2016-204196A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年5月25日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「低炭素社会を実現する新材料パワー半導体プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100146879
【弁理士】
【氏名又は名称】三國 修
(72)【発明者】
【氏名】古谷 優貴
(72)【発明者】
【氏名】庄内 智博
(72)【発明者】
【氏名】浦上 泰
(72)【発明者】
【氏名】郡司島 造
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−048259(JP,A)
【文献】 特開2012−046377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
{0001}面に対し2°以上20°以下のオフセット角を有する主面と、1つ以上の副成長面と、を有し、
前記主面よりオフセット上流側にありかつ{0001}面に対する傾斜角θが何れの方向にも2°未満である初期ファセット形成面を、前記副成長面が含み、
前記初期ファセット形成面が、螺旋転位発生起点を有し、
前記初期ファセット形成面を含む前記副成長面の数が3以上であり、かつ前記初期ファセット形成面の各辺がそれぞれ主面または副成長面と辺を共有していることを特徴とするSiC単結晶シード。
【請求項2】
前記初期ファセット形成面が、主面と2つ以上の副成長面によって形成される頂部を切り欠いた頂面であることを特徴とする請求項1に記載のSiC単結晶シード。
【請求項3】
前記初期ファセット形成面の実効螺旋転位発生起点密度が16個/cm以上1000個/cm以下であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のSiC単結晶シード。
【請求項4】
前記初期ファセット形成面の螺旋転位発生起点が螺旋転位であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のSiC単結晶シード。
【請求項5】
前記初期ファセット形成面の螺旋転位密度が16個/cm以上1000個/cm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のSiC単結晶シード。
【請求項6】
前記初期ファセット形成面よりオフセット下流に位置する面の螺旋転位密度が15個/cm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のSiC単結晶シード。
【請求項7】
前記初期ファセット形成面の面積が1.0mm以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のSiC単結晶シード。
【請求項8】
前記初期ファセット形成面の実効螺旋転位発生起点密度をd(個/cm)とした際の、初期ファセット形成面の面積A(cm)が、0.5≦1−(1−A)d−1(1−A+dA)を満たすことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のSiC単結晶シード。
【請求項9】
前記初期ファセット形成面の外接円の最大径DF1と内接円の最大径DF2とが、
F1/DF2<4の関係を満たすことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のSiC単結晶シード。
【請求項10】
前記主面と前記初期ファセット形成面の接する辺の少なくとも1つがオフセット方向と略垂直であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のSiC単結晶シード。
【請求項11】
単結晶シードの外接円の直径をDとして、前記初期ファセット形成面が単結晶シード全体の中心からD/4以上離れた位置に存在することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のSiC単結晶シード。
【請求項12】
前記初期ファセット形成面が表面にダメージ層を有さないことを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載のSiC単結晶シード。
【請求項13】
前記初期ファセット形成面が、ステップを有することを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載のSiC単結晶シード。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のSiC単結晶シードから成長したSiCインゴットであって、
SiC単結晶シードの前記初期ファセット形成面からSiCの成長方向全域に渡って、ファセット成長領域を有することを特徴とするSiCインゴット。
【請求項15】
前記ファセット成長領域を成長方向に直交する面で切断した切断面の面積A(cm)が、前記初期ファセット形成面の実効螺旋転位発生起点密度をd(個/cm)とした際に、0.5≦1−(1−Ad−1(1−A+dA)を満たすことを特徴とする請求項14に記載のSiCインゴット。
【請求項16】
前記切断面の螺旋転位密度が16個/cm以上1000個/cm以下であることを特徴とする請求項15に記載のSiCインゴット。
【請求項17】
前記SiC単結晶シードの初期c面ファセットに対して直交する方向から平面視した際に、前記SiC単結晶シードの初期ファセット形成面と前記ファセット成長領域の最表面のc面ファセットとが、少なくとも一部で重なることを特徴とする請求項14〜16のいずれか一項に記載のSiCインゴット。
【請求項18】
前記ファセット成長領域が、SiCインゴットの中心よりオフセット上流側にあることを特徴とする請求項14〜17のいずれか一項に記載のSiCインゴット。
【請求項19】
SiC単結晶の一部を切り出し、{0001}面に対し2°以上20°以下のオフセット角を有する主面と、前記主面よりオフセット上流側にありかつ{0001}面に対する傾斜角θが何れの方向にも絶対値で2°未満である初期ファセット形成面を含む1つ以上の副成長面とを形成する工程を有し、
前記初期ファセット形成面が螺旋転位発生起点を含み、
前記初期ファセット形成面の面積A(cm)を、X=1−(1−A)d−1(1−A+dA)>0を満たすように設定することを特徴とする、SiC単結晶シードの製造方法;
(Xは、初期ファセット形成面に螺旋転位が2個以上含まれる確率であり、dは初期ファセット形成面の実効螺旋転位発生起点密度である)。
【請求項20】
前記初期ファセット形成面に、化学処理をさらに施すことを特徴とする請求項19に記載のSiC単結晶シードの製造方法。
【請求項21】
前記螺旋転位が2個以上含まれる確率Xが0.5以上となるように面積Aを決定することを特徴とする請求項19または20のいずれかに記載のSiC単結晶シードの製造方法。
【請求項22】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のSiC単結晶シードを用いたSiCインゴットの製造方法であって、
前記SiC単結晶シードの前記初期ファセット形成面から<0001>方向に結晶成長したファセット成長領域において、
成長段階での等温面が、前記初期ファセット形成面と平行な面に対する傾斜角δが何れの方向にも絶対値で2°未満であるように結晶成長させることを特徴とするSiCインゴットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC単結晶シード、SiCインゴット、SiC単結晶シードの製造方法及びSiC単結晶インゴットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、また、バンドギャップが3倍大きく、さらに、熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有することから、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。このため、近年、上記のような半導体デバイスにSiCエピタキシャルウェハが用いられるようになっている。
【0003】
SiCエピタキシャルウェハは、SiCエピタキシャル膜を形成する基板としてSiCインゴットから加工したSiC単結晶ウェハを用い、通常、この上に化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)によってSiC半導体デバイスの活性領域となるSiCエピタキシャル膜を成長させることによって製造する。
【0004】
またSiCインゴットは、SiC単結晶シードを成長させて得る。SiCインゴットは、欠陥や異種多形の少ない高品質なものが求められており、その成長起点となるSiC単結晶シードは、欠陥や異種多形を制御できるものが求められている。
【0005】
以前は、貫通螺旋転位、貫通刃状転位、基底面転位等の転位は10〜個/cmと無数に存在し、キラー欠陥となるマイクロパイプを無くしていくことが主な課題であった。しかし、近年の技術向上により、マイクロパイプはほぼ存在せず、転位についても〜10個/cmのウェハを作製することが可能となっている。特に螺旋転位については、a面成長を繰り返すRAF法(repeated a-face method)等の手法で作製したシードを用いて結晶成長を行うことで、螺旋転位密度が〜10個/cmのウェハが得られることも確認されている(非特許文献1)。しかしながら、螺旋転位密度が極めて小さくなることにより、異種多形発生という別の問題が生じている。
【0006】
一般に、SiCは、3C−SiC、4H−SiC、6H−SiC等の多形を有している。これらの多形はc面方向(<0001>方向)から見た際の最表面構造としては、違いがない。そのため、c面方向に結晶成長する際に異なる多形(異種多形)に変化しやすい。これに対し、多形をa面方向(<11−20>方向)から見た際の最表面構造は、違いを有しているため、a面方向への成長では、このような多形の違いを引き継ぐことができる。すなわち、異種多形が発生しにくい。
一般に、c面成長においても多形が保存することができるのは、成長面をc面からわずかにずれた面とすることによりステップフロー成長が生じるためである。一方で、c面と平行な面が成長面上に露出してしまう部分は必ず発生してしまい、そこでは成長の様式が異なりファセット成長領域となる。ファセット成長領域が形成される段階におけるc面ファセットの成長において、螺旋転位を起点とした螺旋成長では、螺旋部がステップを形成するため、a面方向への成長を可能とし、多形を引き継ぐことができる。これに対し、ファセット内に螺旋転位がない場合には島状成長が起こり、多形を引き継ぐことができずに異種多形が発生してしまう。そのため、多形を維持するためにファセットには螺旋転位が必要となり、そのための手法が求められている。
【0007】
例えば、特許文献1には、{0001}面よりオフセット角度60度以内の面を成長面として有し、成長面上に螺旋転位発生可能領域を有する転位制御種結晶を用いて、SiCを成長させる炭化ケイ素単結晶の製造方法が開示されている。
特許文献1に記載の螺旋転位発生領域を有する転位制御種結晶を用いた炭化ケイ素単結晶の製造方法を用いることにより、c面ファセット内に螺旋転位を確実に形成することができ、異種多形や異方位結晶の生成を抑制することができる。
【0008】
また特許文献2には、種結晶の成長端面が所定の曲率を持つ凸形状を有することで、成長過程において渦巻き成長を行うc面ファセット領域を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−323348号公報
【特許文献2】特許第5171571号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Yasushi Urakami et al.,Materials Science Forum(2012),717−720,9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、RAFシードおよびRAFシードから成長したインゴットをシードにしたもの等の、極めて螺旋転位密度が小さいシードから成長する場合、特許文献1に記載された従来の方法では異種多形の発生を十分抑制することができなかった。従来の手法では、初期からファセット内に螺旋転位を確実に入れることはできないと考え、異種多形が発生しうるファセットの面積をできるだけ小さくすること(点、または線)で、初期の異種多形防止を試みていた。この場合、ファセットが徐々に広がり螺旋転位が導入されるまでの間に異種多形が発生しなければ、異種多形のない成長が実施できた。しかし、極初期の異種多形はどうしてもある確率で入ってしまう。対策として、極めて高密度(数千個/cm〜)に螺旋転位を導入すれば、螺旋転位が成長初期からc面ファセット内に導入され、異種多形発生確率を減らすことができる。しかし、この場合も転位がオフセット下流方向に流出し、多数の欠陥を生み出す原因となる。また、欠陥の集中によりクラックが入りやすくなるという問題があった。
【0012】
例えば、特許文献1には、人工的に表面処理を行うことで螺旋転位発生可能領域を形成し、異種多形や異方位結晶の生成を抑制することができることが記載されている。しかしながら、{0001}面に対して傾斜させた種結晶表面上に、螺旋転位発生可能領域を形成すると、c面ファセットが形成される面が安定しない。また螺旋転位の一部が積層欠陥等に変換され、オフセット下流側に転位が流出するという問題も生じると考えられる。
【0013】
また特許文献1の段落0046には、転位制御種結晶の<0001>方向とオフセット方向との両方に直角な方向の略中央部に1つ以上の角部を形成し、c面ファセットを転位制御種結晶の角部付近に発生させることも記載されている。
しかしながら、角部付近にc面ファセットを発生させる場合、成長初期のc面ファセットは、ほぼ点であり非常に小さい。そのため、この点に近いc面ファセット内には十分な螺旋転位を導入することができず、異種多形の発生を十分抑制できるとは言えない。また高密度に螺旋転位を導入することができたとしても、転位がオフセット下流方向に流出し、多数の欠陥を生みだすことが考えられる。
【0014】
また特許文献2には、種結晶の成長端面が所定の曲率を持つ凸形状を有することで、成長過程において渦巻き成長を行うc面ファセット領域を形成することが記載されている。凸形状の接面が{0001}面と平行になる点が、成長過程においてc面ファセットとなり、当該面での結晶成長が渦巻き成長となり異種多形等の発生を抑制することができる。しかしながら、当該方法では、結晶成長の過程で渦巻き成長することにより、異種多形の発生を抑制しているが、凸形状であるため、{0001}面と平行になる点が結晶の成長状態によって変移し、それに伴い渦巻き成長する箇所が変移することが考えられる。そのため、ファセット位置、サイズ、形状、表面状態等を任意に設定することができない。
【0015】
このため、異種多形の発生を抑制すると共に、高密度な螺旋転位導入に伴う結晶転位の流出及び結晶欠陥の発生を抑制でき、ファセット位置を制御できるSiC単結晶シード、SiC単結晶シードの製造方法が求められていた。またそれに伴い、異種多形の発生を抑制すると共に、高密度な螺旋転位導入に伴う結晶転位の流出及び結晶欠陥の発生が抑制され、ファセット位置が制御されたSiCインゴット、SiC単結晶ウェハが切に求められていた。
【0016】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、結晶成長初期に発生する異種多形を確実に防止しつつ、高密度な螺旋転位導入に伴う結晶転位の流出及び結晶欠陥の発生を抑制でき、ファセット位置を制御できるSiC単結晶シード、SiC単結晶シードの製造方法を提供することを目的とする。またそれに伴い、異種多形の発生を抑制すると共に、高密度な螺旋転位導入に伴う結晶転位の流出及び結晶欠陥の発生が抑制され、ファセット位置が制御されたSiCインゴット、SiC単結晶ウェハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、異種多形の発生を抑制しつつ高密度な螺旋転位導入に伴う結晶転位の流出及び結晶欠陥の発生を抑制できるSiC単結晶シードについて検討した。その結果、SiC単結晶シードが、主面よりオフセット上流側にありかつ{0001}面に対する傾斜角θが何れの方向にも絶対値で2°未満である初期ファセット形成面を有し、その所定の領域を有する初期ファセット形成面が螺旋転位発生起点を有することで、螺旋転位による異種多形の発生抑制効果と、螺旋転位が高密度になり過ぎないことによる結晶転位の流出及び結晶欠陥の発生を抑制する効果を同時に実現できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0018】
(1)本発明の一態様にかかるSiC単結晶シードは、{0001}面に対し2°以上20°以下のオフセット角を有する主面と、1つ以上の副成長面と、を有し、前記主面よりオフセット上流側にありかつ{0001}面に対する傾斜角θが何れの方向にも絶対値で2°未満である初期ファセット形成面を、前記副成長面が含み、前記初期ファセット形成面が、螺旋転位発生起点を有する。
【0019】
(2)上記(1)に記載のSiC単結晶シードは、前記初期ファセット形成面が、主面と2つ以上の副成長面によって形成される頂部を切り欠いた頂面であってもよい。
【0020】
(3)上記(1)または(2)のいずれかに記載のSiC単結晶シードは、前記初期ファセット形成面の実効螺旋転位発生起点密度が16個/cm以上1000個/cm以下であってもよい。
【0021】
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載のSiC単結晶シードは、前記初期ファセット形成面の螺旋転位発生起点が螺旋転位であってもよい。
【0022】
(5)上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載のSiC単結晶シードは、前記初期ファセット形成面の螺旋転位密度が16個/cm以上1000個/cm以下であってもよい。
【0023】
(6)上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載のSiC単結晶シードは、前記初期ファセット形成面よりオフセット下流に位置する面の螺旋転位密度が15個/cm以下であってもよい。
【0024】
(7)上記(1)〜(6)のいずれか一つに記載のSiC単結晶シードは、前記初期ファセット形成面を含む前記副成長面の数が3以上であり、かつ前記初期ファセット形成面の各辺がそれぞれ主面または副成長面と辺を共有していてもよい。
【0025】
(8)上記(1)〜(7)のいずれか一つに記載のSiC単結晶シードは、前記初期ファセット形成面の面積が1.0mm以上であってもよい。
【0026】
(9)上記(1)〜(8)のいずれか一つに記載のSiC単結晶シードは、前記初期ファセット形成面の実効螺旋転位発生起点密度をd(個/cm)とした際の、初期ファセット形成面の面積A(cm)が、0.5≦1−(1−A)d−1(1−A+dA)を満たしてもよい。
【0027】
(10)上記(1)〜(9)のいずれか一つに記載のSiC単結晶シードは、前記初期ファセット形成面の外接円の最大径DF1と内接円の最大径DF2とが、DF1/DF2<4、の関係を満たしていてもよい。
【0028】
(11)上記(1)〜(10)のいずれか一つに記載のSiC単結晶シードは、前記主面と前記初期ファセット形成面の接する辺の少なくとも1つがオフセット方向と略垂直であってもよい。
【0029】
(12)上記(1)〜(11)のいずれか一つに記載のSiC単結晶シードは、単結晶シードの外接円の直径をDとして、前記初期ファセット形成面が単結晶シード全体の中心からD/4以上離れた位置に存在してもよい。
【0030】
(13)上記(1)〜(12)のいずれか一つに記載のSiC単結晶シードは、前記初期ファセット形成面が表面にダメージ層を有さないことが好ましい。
【0031】
(14)上記(1)〜(13)のいずれか一つに記載のSiC単結晶シードは、前記初期ファセット形成面が、ステップを有してもよい。
【0032】
(15)本発明の一態様にかかるSiCインゴットは、上記(1)〜(14)のいずれか一つに記載のSiC単結晶シードから成長したSiCインゴットであって、SiC単結晶シードのファセット形成面からSiCの成長方向全域に渡って、ファセット成長領域を有する。
【0033】
(16)上記(15)に記載のSiCインゴットは、前記ファセット成長領域を成長方向に直交する面で切断した切断面の面積A(cm)が、前記初期ファセット形成面の実効螺旋転位発生起点密度をd(個/cm)とした際に、0.5≦1−(1−Ad−1(1−A+dA)を満たしてもよい。
【0034】
(17)上記(15)または(16)に記載のSiCインゴットは、前記切断面の螺旋転位密度が16個/cm以上1000個/cm以下であってもよい。
【0035】
(18)上記(15)〜(17)のいずれか一つに記載のSiCインゴットは、前記c面ファセットに対して直交する方向から平面視した際に、前記SiC単結晶シードの初期ファセット形成面と前記ファセット成長領域の最表面のc面ファセットとが、少なくとも一部で重なってもよい。
【0036】
(19)上記(15)〜(18)のいずれか一つに記載のSiCインゴットは、前記ファセット成長領域が、SiCインゴットの中心よりオフセット上流側にあってもよい。
【0037】
(20)本発明の一態様にかかるSiC単結晶シードの製造方法は、初期ファセット形成面が螺旋転位発生起点を含むSiC単結晶シードの製造方法であって、SiC単結晶の一部を切り出し、{0001}面に対し2°以上20°以下のオフセット角を有する主面と、主面よりオフセット上流側にありかつ{0001}面に対する傾斜角θが何れの方向にも絶対値で2°未満である初期ファセット形成面を含む1つ以上の副成長面とを形成する工程を有する。
【0038】
(21)上記(20)に記載のSiC単結晶シードの製造方法は、前記螺旋転位発生起点を形成する工程の後に、化学処理をさらに施してもよい。
【0039】
(22)上記(20)又は(21)のいずれかに記載のSiC単結晶シードの製造方法は、前記ファセット形成面の面積A(cm)を、X=1−(1−A)d−1(1−A+dA)>0を満たすように設定してもよい。ここで、Xは、初期ファセット形成面に螺旋転位が2個以上含まれる確率であり、dは初期ファセット形成面の実効螺旋転位発生起点密度である。
【0040】
(23)上記(22)に記載のSiC単結晶シードの製造方法は、前記螺旋転位が2個以上含まれる確率Xが0.5以上となるように面積Aを決定してもよい。
【0041】
(24)本発明の一態様にかかるSiCインゴットの製造方法は、上記(1)〜(14)のいずれか一つに記載のSiC単結晶シードを用いる。
【0042】
(25)上記(24)に記載のSiCインゴットの製造方法は、前記SiC単結晶シードの前記初期ファセット形成面から<0001>方向に結晶成長したファセット成長領域において、成長段階での等温面が、前記初期ファセット形成面と平行な面に対する傾斜角δが何れの方向にも絶対値で2°未満であるように結晶成長させる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の一態様にかかるSiC単結晶シードは、{0001}面に対し2°以上20°以下のオフセット角を有する主面と、1つ以上の副成長面とを有し、前記副成長面が、主面よりオフセット上流側にありかつ{0001}面に対する傾斜角θが何れの方向にも絶対値で2°未満である初期ファセット形成面を含み、前記初期ファセット形成面が、螺旋転位発生起点を有する。初期ファセット形成面の{0001}面に対する傾斜角θが、何れの方向にも絶対値で2°未満であるため、SiC単結晶の成長段階において、c面ファセットは成長初期から当該面近傍に、ある一定以上の面積を持った状態で形成される。また初期ファセット形成面は、オフセット上流側に位置し、所定の領域内に螺旋転位発生起点を有する。そのため、オフセット上流側にSiC単結晶の成長直後に形成されるc面ファセットには、複数の螺旋転位が形成され、かつその螺旋転位が高密度になり過ぎることがない。したがって、結晶転位の流出及び異種多形発生に伴う結晶欠陥の発生を抑制できる。また螺旋転位発生起点は、螺旋転位であることが好ましい。螺旋転位発生起点は、螺旋転位それ自体以外に、螺旋転位を生み出す歪み等も含む。これに対し、異種多形等の抑制効果は、歪み等が螺旋転位を生み出した後でないと得られない。そのため、螺旋転位発生起点が、SiC単結晶シード自体が有する螺旋転位であれば、より異種多形等の抑制効果を高めることができる。
【0044】
本発明の一態様にかかるSiC単結晶シードにおいて、初期ファセット形成面が、主面と2つ以上の副成長面によって形成される頂部を切り欠いた頂面であってもよい。3つ以上の面で形成される頂部を切り欠いた頂面は、ちょうど台地の上面のような形状となるため、SiC単結晶シードにおける初期ファセット形成面の占める割合を少なくできる。そのため、SiC単結晶シード全体で螺旋転位発生起点を有する領域の面積を所定の範囲に抑えることができ、成長中に発生する螺旋転位を所定の範囲に限定することができる。これに伴い、高品質なSiCインゴット及びSiCウェハを得ることができる。
【0045】
本発明の一態様にかかるSiC単結晶シードにおいて、初期ファセット形成面の実効螺旋転位発生起点密度が16個/cm以上1000個/cm以下であることが好ましい。初期ファセット形成面の螺旋転位発生起点密度を当該範囲とすることで、より異種多形の発生を抑制することができる。
【0046】
本発明の一態様にかかるSiC単結晶シードにおいて、初期ファセット形成面を含む副成長面の数が3以上であり、初期ファセット形成面の各辺が、それぞれ主面または副成長面と辺を共有しているとよい。初期ファセット形成面の各辺が、それぞれ主面または副成長面と辺を共有していれば、必然的にSiC単結晶シードにおける初期ファセット形成面を形成できる領域が限られるため、初期ファセット形成面の面積が過剰に大きくなることはない。
【0047】
本発明の一態様にかかるSiC単結晶シードにおいて、初期ファセット形成面の面積は1mm以上であることが好ましい。また、初期ファセット形成面の実効螺旋転位発生起点密度をd(個/cm)とした際の、初期ファセット形成面の面積A(cm)が、0.5≦1−(1−A)d−1(1−A+dA)を満たすことが好ましい。初期ファセット形成面の面積が大きければ、それだけ初期ファセット形成面の直上に形成されるファセット内に螺旋転位が初期から導入しやすくなり、異種多形等の発生をより低減することができる。
また、DF1/DF2<4とすることで螺旋転位間の距離が過剰に広くなることを防ぎ、少数の螺旋転位発生起点で有効に異種多形の発生を抑制することができる。
【0048】
本発明の一態様にかかるSiC単結晶シードにおいて、主面と初期ファセット形成面の接する辺の少なくとも1つがオフセット方向と略垂直であることが好ましい。初期ファセット形成面を形成する辺がオフセット方向と略垂直であれば、初期ファセット形成面の成長を安定的なものとすることができる。
【0049】
本発明の一態様にかかるSiC単結晶シードにおいて、初期ファセット形成面よりオフセット下流に位置する面の螺旋転位密度が15個/cm以下であることが好ましい。初期ファセット形成面よりオフセット下流に位置する面の螺旋転位密度を当該範囲以下とすることで、より欠陥の少ない高品質なSiCインゴットおよびSiCウェハを得ることができる。
【0050】
本発明の一態様にかかるSiC単結晶シードにおいて、単結晶シードの外接円の直径をDとして、前記初期ファセット形成面が単結晶シード全体の中心からD/4以上離れた位置に存在してもよい。初期ファセット形成面の位置をこの範囲とすることで、成長時のファセット成長領域を外周付近に限定することができる。すなわち、より欠陥の少ない高品質なSiCインゴットおよびSiCウェハを得ることができる。
【0051】
本発明の一態様にかかるSiC単結晶シードにおいて、初期ファセット形成面は、表面にダメージ層を有しないことが好ましい。表面にダメージ層を有しないことで、ダメージ層が螺旋転位および他の欠陥に変換されることに伴う、成長直後のc面ファセット内の螺旋密度の高密度化および他の欠陥の発生を抑制することができる。また初期ファセット形成面は、原子レベルのステップを有してもよい。初期ファセット形成面が、原子レベルのステップを有すると、成長の初期段階からステップフロー成長を行い、より異種多形の発生を抑制することができる。
【0052】
本発明の一態様にかかるSiCインゴットは、上述のSiC単結晶シードから成長したSiCインゴットであり、SiC単結晶シードのファセット形成面からSiCの成長方向全域に渡って、ファセット成長領域を有する。このSiCインゴットは、<0001>方向に結晶成長したファセット成長領域を有し、このファセット成長領域を成長方向に直交する面で切断した切断面の面積A(cm)が、前記初期ファセット形成面の実効螺旋転位発生起点密度をd(個/cm)とした際に、0.5≦1−(1−Ad−1(1−A+dA)を満たすことが好ましい。またその切断面の螺旋転位密度は16個/cm以上1000個/cm以下であることが好ましい。上述のSiC単結晶シードを用いて得られたSiCインゴットであるため、高品質であり、このSiCインゴットを用いて作製された半導体デバイスの性能を高めることができる。またファセット成長領域の面積及び螺旋転位密度がこの範囲内であれば、結晶成長過程における異種多形の発生は、十分抑制されており、より高品質なSiCインゴットとなる。
【0053】
このSiCインゴットにおいて、c面ファセットに対して直交する方向から平面視した際に、前記SiC単結晶シードの初期ファセット形成面と前記ファセット成長領域の最表面のc面ファセットとが、少なくとも一部で重なることが好ましい。またファセット成長領域が、SiCインゴットの中心よりオフセット上流側にあることが好ましい。このような構成とすることで、ファセット成長領域がオフセット上流端部に限定されるため、高品質な領域の面積率を高めることができる。
【0054】
本発明の一態様にかかるSiC単結晶シードの製造方法は、初期ファセット形成面に螺旋転位発生起点を含むSiC単結晶シードの製造方法であって、SiC単結晶の一部を切り出し、{0001}面に対し2°以上20°以下のオフセット角を有する主面と、前記主面よりオフセット上流側にありかつ{0001}面に対する傾斜角θが何れの方向にも絶対値で2°未満である初期ファセット形成面を含む1つ以上の副成長面とを形成する工程を有する。
初期ファセット形成面の{0001}面に対する傾斜角θが、何れの方向にも絶対値で2°未満であるため、SiC単結晶の成長段階において、c面ファセットを成長初期から当該面近傍に、ある一定以上の面積を持った状態で形成することができる。この初期ファセット形成面が螺旋転位発生起点を有することで、成長直後に発生する螺旋転位がオフセット上流に存在でき、異種多形の発生を抑制することができる。また、所定の領域内に螺旋転位発生起点を有するため、成長直後に形成される螺旋転位が高密度になり過ぎず、結晶転位の流出及び異種多形発生に伴う結晶欠陥の発生を抑制できるSiC単結晶シードを得ることができる。
またさらに螺旋転位発生起点を形成する工程の後に、化学処理をさらに施すことで、初期ファセット形成面に原子レベルのステップを形成することができ、成長の初期段階からステップフロー成長を行い、より異種多形の発生を抑制することができるSiC単結晶シードを得ることができる。
【0055】
本発明の一態様に係るSiC単結晶シードの製造方法において、前記初期ファセット形成面の実効螺旋転位発生起点密度をd(個/cm)、初期ファセット形成面の面積をA(cm)としたとき、初期ファセット形成面に螺旋転位が2個以上含まれる確率X=1−(1−A)d−1(1−A+dA)が0より大きくなるように面積Aを決定することが好ましく、X≧0.5以上となることがより好ましい。初期ファセット形成面の面積が当該範囲内であれば、高い確率で初期ファセット形成面に複数の螺旋転位を導入することができ、より異種多形の発生を抑制することができる。
【0056】
本発明の一態様にかかるSiCインゴットの製造方法は、上述のSiC単結晶シードを用いる。そのため、成長中に発生する螺旋転位を所定の範囲に限定することができ、高品質なSiCインゴットを製造することができる。
またSiC単結晶シードの初期ファセット形成面から<0001>方向に結晶成長したファセット成長領域において、成長段階での等温面が、前記初期ファセット形成面と平行な面に対する傾斜角δが何れの方向にも絶対値で2°未満ように結晶成長させてもよい。当該条件でSiCインゴットを製造することで、成長時のファセット成長領域を外周付近に限定することができる。すなわち、より欠陥の少ない高品質なSiCインゴットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】本発明の一態様に係るSiC単結晶シードの一部を平面視した模式図である。
図2図1のSiC単結晶シードの一部をA−A’面で切断した切断面である。
図3】本発明の一態様に係るSiC単結晶シードの初期ファセット形成面付近を拡大した断面模式図であって、初期ファセット形成面が平面でない場合を示した模式図である。
図4】本発明の一態様に係るSiC単結晶シードの他の例の、初期ファセット形成面付近を拡大した模式図である。
図5】本発明の一態様に係るSiC単結晶シードの一部を拡大して平面視し、主面と初期ファセット形成面の{0001}面に対する傾き方向と角度を示した平面模式図である。
図6】本発明の一態様に係るSiC単結晶シードから結晶成長したSiCインゴットの断面を模式的に示したものであり、ステップフロー成長領域とファセット成長領域の界面の拡大した写真を同時に示したものである。
図7】本発明の一態様に係るSiC単結晶シードの初期ファセット形成面を作成する前後の平面模式図と立体模式図である。
図8】(a)はステップフロー成長を模式的に示した模式図であり、(b)はファセット成長を模式的に示した模式図であり、(c)は螺旋転位を有する場合のファセット成長を模式的に示した模式図である。
図9】本発明の一態様に係るSiCインゴットの一部の断面模式図である。
図10図9のB−B’面で切断した切断面の一部を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、本発明を適用したSiC単結晶シード、SiCインゴット、SiC単結晶シードの製造方法およびSiCインゴットの製造方法について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。また、以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0059】
[SiC単結晶シード]
図1は、本発明の一態様に係るSiC単結晶シードの一部を平面視した模式図である。図2は、図1のSiC単結晶シードの一部をA−A’面で切断した切断面である。図1は初期ファセット形成面21を中心に円状に囲んだ一定領域のみを図示する。
SiC単結晶シード100は、{0001}面に対し2°以上20°以下のオフセット角を有する主面10と、1つ以上の副成長面20とを有する。副成長面20は、主面10よりオフセット上流側にありかつ{0001}面に対する傾斜角θが何れの方向にも絶対値で2°未満初期ファセット形成面21を含む。初期ファセット形成面21は、螺旋転位発生起点30を有する。
【0060】
本発明において、「螺旋転位発生起点」とは、結晶成長の過程において螺旋転位になりうる発生起点をいう。たとえば、SiC単結晶シードに最初から存在する螺旋転位は、c面方向にそのまま引き継がれていく貫通転位であるため、通常そのまま成長結晶に引き継がれる。そのため、SiC単結晶シードに最初から存在する螺旋転位は、螺旋転位発生起点である。また、SiC単結晶シードの表面に何らかの処理を施すことによっても螺旋転位発生起点を人工的に作製することもできる。例えば、機械加工、イオン注入などによって表面に結晶構造が乱れた層を作成すると、成長過程においてそこから螺旋転位が発生する。これは、結晶構造が乱れた層があれば、その上に整った結晶構造のものが成長するには、その乱れを何らかの形で吸収しなければならないためである。例えば、成長方向に平行な<0001>方向の乱れは、<0001>に平行なバーガーズベクトルを持つ螺旋転位やマイクロパイプ、フランク型の積層欠陥等に、成長方向に垂直な<11−20>方向や<1−100>方向の乱れは、それらの方向にバーガーズベクトルを持つ、貫通刃状転位や基底面転位、ショックレー型の積層欠陥等に変換されることで吸収されると考えられる。
【0061】
また本発明において、「オフセット上流側」とは、ステップフロー成長の起点となる側を意味する。具体的に例示すると、図1の−X方向がオフセット上流側に対応し、+X方向がオフセット下流側に対応する。
【0062】
(主面)
主面10は、{0001}面に対し2°以上20°以下のオフセット角を有する面である。すなわち、図2の一点鎖線で示すように、主面10に対し、{0001}面は傾きを有している。そのため、SiC単結晶シード100を図2の+Z方向に結晶成長させる際に、主面10はステップフロー成長することができる。
【0063】
主面10の{0001}面に対するオフセット角は、2°以上20°以下であり、3°以上9°以下であることが好ましい。オフセット角が小さすぎると、オフセット下流に欠陥が流れにくい。欠陥がオフセット下流(図2の+X方向)に流れず、同一の箇所に留まると、成長中に欠陥が減りにくいという問題がある。またオフセット角が小さすぎると、成長形状にわずかなずれが生じた場合に、想定外の箇所にファセットが発生してしまうという問題もある。ファセット成長領域では、異種多形発生リスクが高まる。
一方、オフセット角が大きすぎると、温度勾配により、c面が滑る方向({0001}面に平行な方向)に応力がかかり、基底面転位が発生しやすくなるという問題がある。またデバイス等を作製する際に用いるSiCウェハのオフセット角(通常、4°以下)との差が大きくなる。そのため、SiCインゴットからSiCウェハを斜めに切り出す必要があり、得られるSiCウェハの取れ数が少なくなる。
【0064】
ここで、SiC単結晶シードは、自身が核となり結晶成長することでSiCインゴットを作製する。そのため、SiC単結晶シードにおいて、結晶成長の状態を考慮する必要がある。上述の「ファセット」及び「ファセット成長領域」はSiC単結晶シードが、結晶成長する際に生じる面及び部分を意味する。より厳密には、本発明において「ファセット」とは、結晶の幾何学的規則性に沿って原子的なスケールでみて平坦な結晶面であり、結晶成長の際に成長機構の違いから平坦な面として現れる面をいう。例えば、{0001}面ファセット(c面ファセット)とは、{0001}面と平行な面であり、結晶成長の際には平面として現れる。また本発明において「ファセット成長領域」とは、成長過程のSiCインゴットの最表面にファセットが形成された部分の集合体からなる領域をいう。ファセット成長領域は、ステップフロー成長するその他の領域と比べて、その成長機構の違いから不純物濃度が異なる。そのため、成長後の結晶からファセット成長領域を判別することもできる。
【0065】
(副成長面、初期ファセット形成面)
「副成長面」とは、成長方向に向いた面のうち、最も面積の広い主面を除いた面のことをいう。「初期ファセット形成面」とは、副成長面の一例であり、主面10よりオフセット上流側にありかつ{0001}面に対する傾斜角θが何れの方向にも絶対値で2°未満のものである。
副成長面20は複数あってもよい。また副成長面20及び初期ファセット形成面21は、図2に示すように平面でもよく、図3(a)に示すように曲面でもよく、図3の(b)に示すように角度や曲率が一定でない凹凸面でもよい。
【0066】
図4は、本発明の一態様に係るSiC単結晶シードの他の例の、初期ファセット形成面21付近を拡大した平面模式図である。図1と同様、初期ファセット形成面21を中心に円状に囲んだ一定領域のみを図示する。図4における太線は、各面の境界線を示し、図4(j)の図示下側の線は、単結晶シードの端面を意味する。図4(j)は、単結晶シードの端面付近に初期ファセット形成面21が存在する場合であり、単結晶シードが無い部分は図示せず、円形の一部を欠いた図としている。
副成長面20及び初期ファセット形成面21は、図4に示すような種々の構造をとることができる。例えば図4(j)は、副成長面が1つであり、その副成長面が初期ファセット形成面21である。図4(h)、(i)は、副成長面20が単結晶シード100の一辺(オフセット成長方向と垂直な一辺)と平行に形成され、そのうちの一つが初期ファセット形成面21である。図4(a)、(b)、(c)、(d)、(e)は、副成長面20が角度の異なる複数の平面から構成され、そのうちの一つが初期ファセット形成面21である。図4(f)、(g)は、主面10が曲面であり、そこに形成された副成長面20が初期ファセット形成面21である。
【0067】
初期ファセット形成面21は、主面10よりオフセット上流側にありかつ{0001}面に対する傾斜角θが何れの方向にも絶対値で2°未満である。ここで、図5は、本発明の一態様に係るSiC単結晶シードの一部を拡大して平面視し、主面と初期ファセット形成面の{0001}面に対する傾き方向と傾斜角θを示した模式図である。
初期ファセット形成面21が{0001}面に対して傾斜する方向は、図5(a)の矢印で示すように、いずれの方向でもよい。例えば図5(b)は、図5(a)の±X方向に初期ファセット形成面が{0001}面に対して傾いた場合であり、図5(c)は、図5(a)の±Y方向に初期ファセット形成面が{0001}面に対して傾いた場合を模式的に示した図である。傾斜角θは、図5(b)及び図5(c)で示すように、{0001}面と初期ファセット形成面21とが交差する内角を意味する。
初期ファセット形成面21が、{0001}面と略平行であると、初期ファセット形成面21直上での結晶成長は、ステップフロー成長することができず、ファセットが形成される。初期ファセット形成面内は{0001}面に対する傾斜角θが何れの方向にも絶対値で2°未満であれば、図3(a)に示すように曲面でもよく、図3(b)に示すような角度や曲率にバラつきのある凹凸面でもよい。初期ファセット形成面21を有することで、ファセットが形成される位置をオフセット上流側に制限することができる。
【0068】
例えば、SiC単結晶シードが、副成長面を有さず直方体形状である場合に、SiC単結晶シード上に結晶成長を行うと以下のような問題が生じる。SiC単結晶が、直方体形状の場合、オフセットの最上流(SiC単結晶シードの−X方向)の角付近にファセットが形成される。これは、オフセットの最上流の角付近以外は、ステップフロー成長を行うためである。上述の角のような点にファセットが形成される場合、成長状態によらずファセットの形成される位置を一定にすることが難しく、成長に伴いファセットが形成される位置が変移していくことがある。すなわち、初期ファセット形成面を有さないとファセットが形成される位置を十分制御することができない。
【0069】
次いで、初期ファセット形成面21が、{0001}面に対する傾斜角θが何れの方向にも絶対値で2°未満であれば、その直上にファセットが形成されることについて説明する。
図6は、SiC単結晶シード100から結晶成長したSiCインゴット200の断面を模式的に示したものであり、ステップフロー成長領域220とファセット成長領域210の界面の拡大した写真を同時に示したものである。ファセット成長領域210は、図示網掛け部であり、ステップフロー成長領域220はその他の部分である。
SiCインゴット200は、SiC単結晶シード100を種として+Z方向に結晶成長することで得られる。ファセット成長領域210は、ステップフロー成長領域220とその成長機構に違いがあり、不純物濃度が異なる。そのため、図6の拡大写真で示すように、写真からもファセット成長領域210とステップフロー成長領域220は判別することができる。図6において結晶成長方向(+Z方向)に略垂直な方向(±X方向)に見える色調の異なる界面は、不純物であるNの流量を変えることによって形成されたある時間における成長界面210a、220aである。また一般にファセット成長領域の成長界面210aは直線状であり、ステップフロー成長領域の成長界面220aは曲線状である。
【0070】
ここで、ファセット成長領域210の成長界面210aとステップフロー成長領域220の成長界面220aの境界に注目する。ファセット成長領域210の成長界面210aとステップフロー成長領域220の成長界面220aは、その境界部で折れ曲がっている。すなわち、ファセット成長領域210の成長界面210aの延長線とステップフロー成長領域220の成長界面220aは、角度φを成して交差している。ファセット成長領域210は、上述のように成長過程においてSiCインゴットの最表面にファセットを有している。すなわち、ファセット成長領域210の成長界面210aは、成長過程におけるSiCインゴットの最表面に対応するため{0001}面と平行である。
【0071】
そのため、ステップフロー成長領域220の成長界面220aは、{0001}面と角度φだけずれていると換言することができる。つまり、{0001}面に対し角度φ以上ずれた領域では、その結晶成長はステップフロー成長となる。このことは、逆の視点から考えると、{0001}面との角度ずれが絶対値でφ未満の領域は、ファセットを形成しながら成長をするということを示している。ここで、この角度φは、図6で示すように、結晶成長後のSiCインゴット200の断面を確認すると、最大でも2°である。したがって、初期ファセット形成面21が、{0001}面との角度ずれが何れの方向にも絶対値で2°未満であれば、その直上にファセットが形成される。換言すると、{0001}面に対する傾斜角θが何れの方向にも絶対値で2°未満の初期ファセット形成面21を設けることで、SiC単結晶インゴットを成長する過程において、初期ファセット形成面21の直上にファセットを形成することができる。
【0072】
初期ファセット形成面21は、主面10と2つ以上の副成長面20によって形成される頂部を切り欠いた頂面であることが好ましい。図7は、本発明の一態様に係るSiC単結晶シードの初期ファセット形成面を作製する前後の平面模式図と立体模式図である。図7(a)〜(d)において、図示上側が平面模式図であり、図示下側が立体模式図である。また図示左側が初期ファセット形成面の作製前であり、図示右側が初期ファセット形成面の作製後である。
例えば、図7(a)に示すように、直方状のSiC単結晶シードの隣接する二つの角を切り欠き、この切り欠きにより形成された2つの副成長面20と主面10で形成される頂部を{0001}面と略平行に切り欠くことで初期ファセット形成面21を作製してもよい。他にも、図7(b)〜図7(d)で示すように初期ファセット形成面21を作製してもよい。図7(b)は、副成長面を含む領域を円錐状に加工した後、さらにこの頂部を{0001}面と略平行に切り欠くことで初期ファセット形成面21を作製したものである。図7(c)は、直方状のSiC単結晶シードの角を切り欠き、この切り欠きにより形成された1つの副成長面20と主面10で形成される角部を{0001}面と略平行に切り欠くことで初期ファセット形成面21を作製したものである。図7(d)は、直方状のSiC単結晶シードの主面10とシード側面とで形成される角部を{0001}面と略平行に切り欠くことで初期ファセット形成面21を作製したものである。
【0073】
主面10と2つ以上の副成長面20で形成される頂部を切り欠いた頂面は、ちょうど台地の上面のような形状となるため、SiC単結晶シード100における初期ファセット形成面21の占める割合を少なくできる。そのため、SiC単結晶シード100から結晶成長を行う際に、ファセットが形成される領域の面積を少なくすることができる。また後述するが、初期ファセット形成面21には螺旋転位発生起点を複数設けるため、初期ファセット形成面21の大きさを制限することで、成長中に発生する螺旋転位を所定の範囲に限定することができる。これに伴い、高品質なSiCインゴット及びSiCウェハを得ることができる。
【0074】
初期ファセット形成面21は、主面10よりオフセット上流に存在し、螺旋転位発生起点30を有する。初期ファセット形成面21が、螺旋転位発生起点30を有することで、SiC単結晶シードを成長させる際に、異種多形の発生及び結晶転位の流出に伴う欠陥の発生を抑制することができる。
螺旋転位発生起点30は、SiC単結晶シードに初期から備えられた螺旋転位であることがもっとも望ましい。螺旋転位発生起点30がSiC単結晶に初期から備えられた螺旋転位であれば、成長過程において、螺旋転位の数の増減や、位置の変化等を抑制することができる。SiC単結晶シードに初期から備えられた1つの螺旋転位は、貫通転位であるため、成長過程においても1つの螺旋転位として機能する。これに対して、螺旋転位発生起点が、例えば結晶の歪み等であると、成長過程において複数の螺旋転位を発生させる場合がある等、螺旋転位の数の増減や、位置の変化等を生み出すおそれがある。これらのSiC単結晶シードに初期から備えられた螺旋転位以外の螺旋転位発生起点を導入する場合でも、導入密度や導入強度を操作することで、初期に発生する螺旋転位の数と位置を操作できる。しかしながら、SiC単結晶シードに初期から備えられた螺旋転位そのものを利用すれば、導入密度や導入強度等を操作しなくても、確実に成長過程においても螺旋転位を導入することができる。
【0075】
ここで、図8を用いて結晶成長の違いを説明すると同時に、螺旋転位発生起点30を有することで、異種多形の発生及び結晶転位の流出に伴う欠陥の発生を抑制することができることについて説明する。図8(a)はステップフロー成長を模式的に示した図であり、(b)はファセット成長を模式的に示した図であり、(c)は螺旋転位を有する場合のファセット成長を模式的に示した図である。図8における点線は、{0001}面を示す。すなわち図8(a)の結晶成長面(SiC単結晶シード100の+Z側の面)は、{0001}面に対しオフセット角を有しており、主面10に対応する。一方、図8(b)及び(c)の結晶成長面(SiC単結晶シード100の+Z側の面)は、{0001}面と平行であり、初期ファセット形成面21に対応する。
【0076】
SiCは、3C−SiC、4H−SiC、6H−SiC等の多形を有しており、これらの多形はc面方向(<0001>方向)から見た際の最表面構造に違いがない。そのため、c面方向に結晶成長する際に異なる多形(異種多形)に変化しやすい。これに対し、a面方向(<11−20>方向)から見た際の最表面構造は違いを有しており、a面方向への成長では、このような多形の違いを引き継ぐことができる。
図8(a)に示すように、ステップフロー成長は、a面方向に結晶が成長しながら、SiC単結晶シード100全体として+Z方向に成長する。すなわち、a面からの情報を引き継いだ形で結晶成長が行われるため、多形の違いを引き継ぐことができる。一方、図8(b)に示すように、結晶成長面が{0001}面と平行な場合は、c面方向に結晶が島状成長しながら、SiC単結晶シード100全体として+Z方向に成長する。c面からは多形の情報を得ることができないため、多形の違いを引き継ぐことができず、異種多形が発生する。
【0077】
これに対し、図8(c)は結晶成長面に螺旋転位31を有する。図8(c)において螺旋転位31が無いと、図8(b)と同様に島状成長を行うため、異種多形の発生は抑制できない。しかしながら、螺旋転位31を有すると、螺旋転位31の螺旋部がステップを形成するため、a面方向への成長を可能とし、多形を引き継ぐことができる。図8(c)では螺旋転位発生起点30の一例である螺旋転位31を用いて説明したが、螺旋転位31以外の螺旋転位発生起点を有する場合でも、螺旋転位発生起点30は結晶成長直後に螺旋転位31を生み出すため、同様のことが言える。
【0078】
次いで、初期ファセット形成面21が、主面10よりオフセット上流に存在することについても説明する。図8(a)で示したように、ステップフロー成長は、a面方向に結晶が成長しながら、SiC単結晶シード100全体として+Z方向に成長する。そのため、オフセット上流側の情報は、オフセット下流側に伝わりやすい。したがって、オフセット上流側に螺旋転位発生起点30を有する初期ファセット形成面21を設け、異種多形の発生及び結晶転位の流出に伴う欠陥の発生を抑制することができれば、オフセット下流側での発生も同時に抑制することにつながる。すなわち、主面10上に結晶成長することで得られる高品質領域に、螺旋転位や異種多形等が流れることを抑制し、より高品質なSiCインゴットを作製することができる。
【0079】
初期ファセット形成面21の実効螺旋転位発生起点密度は、16個/cm以上1000個/cm以下であることが好ましい。ここで、「実効螺旋転位発生起点密度」とは、起点(螺旋転位や歪)そのものの数密度を表すのではなく、結晶成長させた際に「螺旋転位発生起点」によって発生する「螺旋転位密度」を指す。「螺旋転位発生起点」が「螺旋転位」である場合には、「実効螺旋転位発生起点密度」はSiC単結晶シードに初期から備えられた「螺旋転位密度」である。
上述のように、螺旋転位発生起点30を有するとa面方向への成長が可能となり、多形を引き継ぐことができる。しかしながら、初期ファセット形成面21上に螺旋転位発生起点30があっても、螺旋転位発生起点30同士の距離(図8(c)のdに対応)が広いと、螺旋転位発生起点30同士の間では島状成長が生じて異種多形が発生する可能性がある。
検討の結果、初期ファセット内の螺旋転位密度が16個/cm以上であれば異種多形が発生せず、それ未満であると確率的に異種多形が発生することがあることを実験的に確認した。すなわち、初期ファセット内が16個/cm以上の螺旋転位密度となれば初期異種多形を防止でき、そのために初期ファセット形成面は16個/cm以上の実効螺旋転位発生起点密度であることが好ましい。
一方、螺旋転位発生起点30の密度が多すぎると、クラック等が発生する可能性が高まる。螺旋転位発生起点30の密度が高いということは、SiC単結晶シード100中の欠陥密度が多いことと等しいためである。
【0080】
また、初期ファセット形成面の螺旋転位密度は16個/cm以上1000個/cm以下であることが望ましい。
上述のように、螺旋転位発生起点としてはSiC単結晶シードに初期から備えられた螺旋転位がもっとも望ましい。螺旋転位発生起点がSiC単結晶シードに初期から備えられた螺旋転位であれば、成長途中においても1つの螺旋転位が発生する。そのため、他の螺旋転位発生起点に比べ、成長段階で発生する螺旋転位の数・位置ともに制御しやすい。
【0081】
初期ファセット形成面を含む副成長面の数は3以上であり、かつ初期ファセット形成面の各辺がそれぞれ主面または副成長面と辺を共有していることが望ましい。初期ファセット形成面21上の実効螺旋転位発生起点密度が高ければ、初期ファセット内に螺旋転位が導入される確率が上がり、異種多形の発生確率が減少する。しかし、実効螺旋転位発生起点密度が高くても、異種多形が発生する場合がある。1つは、面積が過剰に小さく、螺旋転位が初期ファセット内に十分導入されない場合である。もう1つは、初期ファセット内に螺旋転位が導入されていても螺旋転位間の距離d図8(c)参照)が離れすぎている場合である。初期ファセット形成面が、過剰に大きい場合には、螺旋転位発生起点30同士の距離(図8(c)のdに対応)が広くなる部分が存在する可能性が高まる。すなわち、螺旋転位発生起点30同士の間では島状成長が生じる部分が発生し、異種多形を抑制する効果が低下してしまう。
そのため、同じ初期ファセット形成面面積でも、初期ファセット形成面の外接円の最大径が大きいほど、螺旋転位間の距離が離れてしまう場合が多くなる。したがって、同じ面積であれば初期ファセット形成面の外接円の最大径が小さいほどよい。具体的には、図4(a)〜(e)のように、初期ファセット形成面の外接円に沿うように初期ファセット形成面が形成されていることが好ましい。これに対し、図4(h)、(i)、(j)のように、初期ファセット形成面の各辺が主面または副成長面と辺を共有していない場合は、初期ファセット形成面が一方方向に長くなってしまい、初期ファセット形成面の外接円の最大径が大きくなってしまうため望ましくない。
【0082】
初期ファセット形成面21の面積は、1mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましく、25mm以上であることがさらに好ましい。初期ファセット形成面21の面積が大きければ、それだけ初期ファセット形成面21の直上に形成されるファセット内に螺旋転位が初期から導入しやすくなり、異種多形等の発生をより低減することができる。初期ファセット形成面が小さすぎると螺旋転位を初期ファセット面内に適切に導入することが難しくなる。これは、初期ファセット形成面が小さすぎると、CMP等の加工において面ダレが発生し、適切な面を形成することが難しくなるためである。また螺旋転位が初期ファセット形成面に元からある場合は、X線トポグラフィーを元に位置を決めて面を作っても、面積が小さすぎると所定の箇所に初期ファセット形成面を設定することが難しくなる。さらに、螺旋転位発生起点を新たに導入する場合にも、面積が小さいと、導入が困難であるためである。
【0083】
初期ファセット形成面21の面積A(cm)は、実効螺旋転位発生起点密度d(個/cm)とした際に、0.5≦1−(1−A)d−1(1−A+dA)を満たすことが好ましい。
初期ファセット形成面21の面積が適切な大きさを有すれば、それだけ初期ファセット形成面21の直上に形成されるファセット内に螺旋転位が初期から導入される可能性が高くなり、異種多形等の発生をより低減することができる。
初期ファセット形成面内には最低1個の螺旋転位が必要であるが、螺旋転位の個数が多い方が異種多形の発生を防止するという面で好ましい。これは、1個の場合にはその後のファセット形状変化で螺旋転位がファセット内に含まれなくなり、異種多形が発生してしまうおそれがあるためである。また、ファセット内に、螺旋転位から極端に離れた場所(螺旋転位の影響が小さい場所)ができる可能性があり、異種多形が発生してしまうおそれが残るためである。
従って、より確実に異種多形を防止するには、初期ファセット形成面内に2個以上の螺旋転位が含まれることが望ましい。
初期ファセット形成面内に螺旋転位が2個以上含まれる確率は、初期ファセット形成面内に螺旋転位が1つも含まれない確率と、初期ファセット形成面内に螺旋転位が1つだけ含まれる確率を1から引けばよい。初期ファセット形成面内に螺旋転位が1つも含まれない確率Xは、X(A)(1−A)で表すことができ、初期ファセット形成面内に螺旋転位が1つだけ含まれる確率Xは、X(A)(1−A)d−1で表すことができる。ここで、dは実効螺旋転位発生起点密度(個/cm)である。従って、初期ファセット形成面内に螺旋転位が2個以上含まれる確率Xは、X=1−X−X=1−(A)(1−A)(A)(1−A)d−1=1−(1−A)d−1(1−A+dA)で表すことができる。この式より、例えば、50%以上の確率で初期ファセット形成面に2個以上螺旋転位を導入するために必要な面積Aは、0.5≦1−(1−A)d−1(1−A+dA)を満たしていればよい。
【0084】
初期ファセット形成面21は、初期ファセット形成面21の「外接円の最大径DF1」と「内接円の最大径DF2」との間に、DF1/DF2<4、の関係が成り立つことが望ましい。上述のように、初期ファセット形成面21上に螺旋転位発生起点30があっても、螺旋転位発生起点30同士の距離(図8(c)のdに対応)が広いと、螺旋転位発生起点30同士の間では島状成長が生じて異種多形が発生する可能性が残る。そのため、同じ初期ファセット形成面面積でも、外接円の最大径DF1が大きいほど、螺旋転位間の距離dが過剰に大きくなってしまう可能性が高くなる。そのため、異種多形の発生を確実に防ぐためには、より高い実効螺旋転位発生起点密度としなければならない。したがって、同じ面積であれば最大径が小さいほどよい。より具体的には、「外接円の最大径DF1」と「内接円の最大径DF2」との間に、DF1/DF2<4の関係が成り立つことが望ましく、より望ましくはDF1/DF2<2、さらに望ましくはDF1/DF2≒1であるとよい。形状としては、図4(d)のように多角形の辺の数が多いほど外接円と内接円の最大径の差が小さくなるために望ましく、図4(f)のようにDF1/DF2=1となる真円がもっとも望ましい。
【0085】
主面10と初期ファセット形成面21の接する辺の少なくとも1つは、オフセット方向と略垂直であることが望ましい。具体的には、図4(a)〜(e)のような形状が望ましい。当該構成を有していれば、主面10と初期ファセット形成面21で形成される形態が結晶成長中にも安定であり、成長を安定化することができる。ここで、オフセット方向は、結晶成長方向の法線ベクトルを成長面上に投影したベクトルの方向であり、図5の±X方向を意味し、通常<11−20>方向と略平行である。また、略垂直とは、初期ファセット形成面21を形成する辺とオフセット方向とのなす角が90°±5°程度の範囲を意味する。ステップフロー成長は微視的には面の傾きの方向に成長するため、<11−20>方向に成長する。すなわち、<11−20>方向のステップフロー成長がもっとも安定であるため、主面10と初期ファセット形成面21の接する辺の少なくとも1つが、オフセット方向と略垂直であれば、成長を阻害せず、安定的な成長を行うことができる。
また{0001}面上で<11−20>と60×n°(n≦5の自然数)の角度をなす<11−20>と等価な他の5つの方位にも同様のことが言える。すなわち、主面と初期ファセット形成面の接する辺の少なくとも1つが、これらの方位と略垂直であるとき、全ての辺での成長が安定し、より望ましい。具体的には、図4(a)、(d)、(e)のように、初期ファセット形成面を形成する辺がその辺と略平行であるか、60°の傾きをもっていることが好ましい。
【0086】
初期ファセット形成面21よりオフセット下流に位置する面の螺旋転位密度は、15個/cm以下であることが好ましい。ここでオフセット下流に位置する面は、ステップフロー成長において結晶成長が進む方向であり、図1及び図2の構成における主面10を意味する。また、他にも図4(i)の構成においては、主面10と図示上側の副成長面20を意味する。本来、螺旋転位発生起点は、結晶が乱れている部分であり、高品質なSiCインゴットを得るために少なければ少ない程好ましい。一方、上述のように異種多形の発生及び結晶転位の流出に伴う欠陥の発生を抑制するという観点からは、成長過程における螺旋転位は必要であり、その螺旋転位を生み出す程度(実効螺旋転位発生起点密度15個/cm超)の螺旋転位発生起点は必須である。
しかしながら本発明では、初期ファセット形成面21が螺旋転位発生起点30を有することで、そのオフセット下流領域においても異種多形の発生及び結晶転位の流出に伴う欠陥の発生を抑制することができる。換言すると、本発明のSiC単結晶シード100では、初期ファセット形成面21よりオフセット下流に位置する面の螺旋転位密度が低くても、十分異種多形の発生及び結晶転位の流出に伴う欠陥の発生を抑制することができる。そのため、オフセット下流に位置する面においては、結晶の乱れが生じている部分及び螺旋転位は少なければ少ない程好ましい。異種多形の発生及び結晶転位の流出に伴う欠陥の発生を抑制するために従来必須と考えられていた15個/cm以下の螺旋転位密度であることが好ましい。
【0087】
初期ファセット形成面21は、単結晶シード100の外接円の直径をDとした場合、単結晶シード100全体の中心からD/4以上離れた位置に存在することが好ましい。単結晶シード100の中心から離れた位置に初期ファセット形成面21が存在すれば、成長時のファセット成長領域を外周付近に限定することができる。すなわち、より欠陥の少ない高品質なSiCインゴットおよびSiCウェハを得ることができる。
【0088】
初期ファセット形成面21は、ダメージ層を有さないことが好ましい。ここで、「ダメージ層」とは、切断・研削・研磨等の外力により結晶構造に乱れが生じ、内部応力がかかっている層のことをいう。この結晶構造の乱れは、X線トポグラフィーやX線ロッキングカーブで観察することができる。本来の構造からズレが生じた部位を含んでいるため、回折角が変化し、X線トポグラフィーではコントラストから、X線ロッキングカーブからは、ピークの半値幅(FWHM)の増加から判断することができる。また、本来の安定構造からズレが生じているためにやや不安定であり、化学的なエッチングでも優先的に除去される。切断・研削を行った面には、〜数十μm程度の結晶格子が乱れた層が発生し、その上に結晶成長を行うと、結晶構造の乱れにより成長結晶に転位や積層欠陥等が導入されてしまう。そのため、制御された螺旋転位発生起点30以外の欠陥が初期ファセット形成面21直上に形成されるファセットに発生してしまい、SiC単結晶シード100から得られるSiCインゴットの品質を下げてしまう。なお、この結晶格子が乱れた層は、外力を伴わないエッチングや、母相であるSiCよりもやわらかい砥粒を用いた化学的な研磨(CMP)などにより取り除くことができる。
【0089】
初期ファセット形成面21は、ステップを有することが好ましい。ここで、「ステップ」とは、結晶の幾何学的規則性に沿って原子的なスケールでみて形成される段差構造である。初期ファセット形成面21は、{0001}面に略平行であるが、初期ファセット形成面21の全てが原子的なスケールで同一の平面からなる必要はない。つまり、初期ファセット形成面21が{0001}面に略平行で原子的なスケールで高さの異なる複数の面から形成されていてもよい。この場合、高さの異なる複数の面のそれぞれの境界部には段差があり、a面が露出している。そのため、初期ファセット形成面21がステップを有すると、結晶成長の初期の段階から初期ファセット形成面21の一部はステップフロー成長を行うことが可能となり、より異種多形の発生及び結晶転位の流出に伴う欠陥の発生を抑制することができる。
【0090】
螺旋転位発生起点30は、上述のようにSiC単結晶シード100中に含まれる螺旋転位でもよく、人工的に設けた発生の起点であってもよい。いずれであっても、成長初期のファセットでは螺旋転位となり、異種多形の発生及び結晶転位の流出に伴う欠陥の発生を抑制することができる。
ここで、SiC単結晶シード100中に含まれる螺旋転位とは、SiC単結晶シード100が初期から有している螺旋転位を意味する。SiC単結晶シード100は、別の異なるシードから成長したインゴットを切り出して作製したものであるため、螺旋転位を初期から有していることがある。
一方、近年のa面成長したインゴットをスライスしてSiC単結晶シードを作製した場合、SiC単結晶シード100に初期から含まれる螺旋転位密度は極めて小さいものとなる。そのため、SiC単結晶シード100の初期ファセット形成面21の螺旋転位密度が十分では無い場合がある。螺旋転位の密度は、X線トポグラフ等で確認することができる。この場合、イオン注入や研削等の機械加工を用いて、人為的に螺旋転位を生み出すことができる起点を設けることが好ましい。
すなわち、SiC単結晶シード100を用いて結晶成長を行う際に、十分な量の螺旋転位を導入できればよく、そのために螺旋転位発生起点の数を調整することができる。
【0091】
(SiCインゴット)
図9は、本発明の一態様に係るSiCインゴットの一部の断面を模式的に示した図である。また図10は、図9のB−B’面でSiCインゴットを切断した切断面のファセット成長領域付近を模式的に示した図である。
本発明のSiCインゴット200は、前述のSiC単結晶シード100から成長したものである。SiCインゴット200は、SiC単結晶シードの初期ファセット形成面からSiCの成長方向全域に渡って、ファセット成長領域を有する。ここで、「SiCの成長方向全域」とは、SiCインゴットを成長させる際の、成長初期から成長が終了するまでと言う意味であり、図9で示すSiC単結晶シード100の表面から、ファセット成長領域210の最表面210bに至るまで、結晶成長方向にファセット成長領域が途切れないことを意味する。この際、ファセット成長領域210は、常に一定以上のサイズを有しており、この一定以上のサイズは1mm以上であることが好ましい。ファセット成長領域210は、初期ファセット形成面から成長するが、初期ファセット形成面は、上述のように1mm以上であれば、加工しやすく、螺旋転位も適切に設定しやすい。
【0092】
SiCインゴット200は、SiC単結晶シード100から成長したものである。そのため、SiCインゴット200には、成長段階での履歴が残っている。デバイスの作製等に用いられるSiCウェハは、SiCインゴット200をワイヤーソー等で切断することで得られるため、高品質なSiCウェハを得るためには、高品質なSiCインゴット200が必要である。高品質なSiCインゴット200であるかどうかは、成長の履歴から確認することができる。
【0093】
SiCインゴット200は、前述のように、ファセット成長領域210とステップフロー成長領域220を有する。ファセット成長領域210とステップフロー成長領域220とは、その成長機構に違いがあり、不純物濃度が異なる。そのため、SiCインゴット200の断面を見ることで、ファセット成長領域210とステップフロー成長領域220は区別することができる。
【0094】
ファセット成長領域210は、SiC単結晶シード100からSiCインゴット200を作製する過程において、SiC単結晶シード100の初期ファセット形成面21から成長した領域である。そのため、初期ファセット形成面の面積A(cm)が、0.5≦1−(1−A)d−1(1−A+dA)を満たしていれば、ファセット成長領域210を成長方向に直交する面で切断した切断面240の面積A(cm)も、0.5≦1−(1−Ad−1(1−A+dA)の関係を満たす。この切断面240の面積Aが上記関係式を満たしていれば、切断面240に螺旋転位を導入することができ、結晶成長の過程における異種多形の発生及び結晶転位の流出に伴う欠陥の発生をより低減することができる。すなわち、切断面240の面積Aが上記関係式を満たしていれば、SiCインゴット200は、異種多形および欠陥の少ない高品質なものであり、高品質なSiCウェハを得ることができる。
【0095】
ここで、切断面240の螺旋転位230と異種多形の発生及び結晶転位の流出に伴う欠陥の発生について説明する。切断面240の螺旋転位230と異種多形の発生及び結晶転位の流出に伴う欠陥の発生の関係性は、原則的には、SiC単結晶シード100の初期ファセット形成面21の螺旋転位発生起点30と異種多形の発生及び結晶転位の流出に伴う欠陥の発生の関係性と同一である。
前述のように、SiC単結晶シード100においては、結晶成長させた直後の初期の段階で螺旋転位が必要である。そのため、螺旋転位発生起点30を初期ファセット形成面21に設けることで、結晶成長の初期の段階でファセットが形成される位置の制御を可能とし、さらにそのファセットに十分な数の螺旋転位を導入することを可能としている。
これに対し、上述の切断面240は、SiCインゴット200になる過程での成長段階に形成された面である。ファセット成長領域210は、<0001>方向に成長しているため、その切断面240は{0001}面と平行である。すなわち、この切断面240の上に結晶成長を行う場合、この切断面240はSiC単結晶シード100の初期ファセット形成面21と同様に機能する。すなわち、切断面240が螺旋転位230を有すれば、異種多形の発生及び結晶転位の流出に伴う欠陥の発生を低減することができる。
なお、初期ファセット形成面21では螺旋転位発生起点30であり、切断面240においては螺旋転位230と言う点に違いがある。初期ファセット形成面21は、結晶成長が始まる前のものである。そのため、成長段階で螺旋転位になることができるものも含まれる。一方、切断面240は成長過程に形成された面である。そのため、成長途中の段階では螺旋転位またはマイクロパイプになっていることが一般的であり、螺旋転位かマイクロパイプのみに限定される。
【0096】
ファセット成長領域210の切断面240の螺旋転位密度は16個/cm以上1000個/cm以下であることが好ましい。これは、初期ファセット形成面21上の実効螺旋転位発生起点密度と同様の理由による。ファセット成長領域210では、既に螺旋転位となっていることが通常であるため、実効螺旋転位発生起点密度ではなく、螺旋転位密度で定義できる。螺旋転位230の密度が少なすぎると、螺旋転位230間の間隔が広くなり、異種多形が発生する可能性が高くなる。これに対し、螺旋転位230の密度が高すぎると、クラック等の発生する可能性が高まる。
【0097】
またc面ファセットに対して直交する方向から平面視した際に、SiC単結晶シード100の初期ファセット形成面21と、ファセット成長領域210の最表面210bのc面ファセットとが、少なくとも一部で重なっていることが好ましい。またSiC単結晶シード100の初期ファセット形成面21の内接円の中心と、ファセット成長領域210の最表面210bのc面ファセットの内接円の中心との距離が、SiC単結晶シード100の初期ファセット形成面21の内接円の半径と、ファセット成長領域210の最表面210bのc面ファセットの内接円の半径を加えた長さより短いことがより好ましい。
c面ファセットに対して直交する方向から平面視した際に、SiC単結晶シード100の初期ファセット形成面21とファセット成長領域210の最表面210bのc面ファセットとが、少なくとも一部で重なっていれば、ステップフロー成長領域220と比較して欠陥の多いファセット成長領域210がオフセット上流端部に限定される。そのため、SiCインゴット200の高品質な領域の面積率を高めることができる。
【0098】
またファセット成長領域210は、SiCインゴット200の中心よりオフセット上流側にあることが好ましい。ここで、SiCインゴット200の中心とは、SiCインゴット200の重心の位置を意味する。ファセット成長領域210が、SiCインゴット200の中心よりオフセット上流側にあれば、ファセット成長領域210がオフセット上流端部に限定される。また成長過程においては、ファセットの螺旋転位230等により、欠陥がオフセット下流側に流れることが抑制される。そのため、SiCインゴット200の高品質な領域の面積率を高めることができる。
【0099】
(SiC単結晶シードの製造方法)
本発明のSiC単結晶シードの製造方法は、初期ファセット形成面に螺旋転位発生起点を含むSiC単結晶シードの製造方法であって、SiC単結晶の一部を切り出し、{0001}面に対し2°以上20°以下のオフセット角を有する主面と、主面よりオフセット上流側にあり、{0001}面に対する傾斜角θが何れの方向にも絶対値で2°未満である初期ファセット形成面を含む1つ以上の副成長面とを形成する工程を有する。
【0100】
まず、SiC単結晶シードを、既に結晶成長により作製した別のSiC単結晶からワイヤーソー等により切り出す。このSiC単結晶シードを切り出すSiC単結晶は、欠陥等の少ない高品質なものであることが好ましい。基礎となるSiC単結晶の品質が高ければ、SiC単結晶シードも高品質となる。SiC単結晶シードが高品質であれば、そのSiC単結晶シードを結晶成長させて得られるSiCインゴット、SiCウェハの品質を高めることができる。
【0101】
ここで、欠陥(螺旋転位を含む)の極めて少ない高品質なSiC単結晶は、RAF法等によって得ることができる。RAF法により得られた高品質なSiC単結晶をスライスすることにより、高品質な単結晶シードを作製することができる。このとき、SiC単結晶からスライスするSiC単結晶シードの角度を調整することで、{0001}面に対し2°以上20°以下のオフセット角を有する主面を形成することができる。
【0102】
次いで、スライスされたSiC単結晶シードの一部をさらに切り欠くことにより、副成長面を形成する。副成長面を形成する方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、ワイヤーソー等を用いることができる。図7のSiC単結晶シード100を作製する場合は、直方体形状にスライスされたSiC単結晶シードのオフセット上流側に位置する隣接する二つの角を切り欠くことで二つの副成長面20を形成することができる。
【0103】
次いで、主面よりオフセット上流側にあり、{0001}面に対する傾斜角θが何れの方向にも絶対値で2°未満である初期ファセット形成面を形成する。初期ファセット形成面は、副成長面と同様に、SiC単結晶シードの一部を切り欠くことにより形成することができる。初期ファセット形成面の{0001}面との角度ずれ等は、X線トポグラフィーで結晶面を確認した上で、初期ファセット形成面を切り欠くことで、調整することができる。また、SiC単結晶内に、螺旋転位発生起点となる螺旋転位が十分に存在することがX線トポグラフィー等で確認できた際には、それらの螺旋転位が含まれるように初期ファセット形成面を切り欠くことが好ましい。
【0104】
この際、初期ファセット形成面の面積をA(cm)は、以下の関係式を満たすように決定することが好ましい。上述のように、初期ファセット形成面の実効螺旋転位発生起点密度をd(個/cm)としたとき、初期ファセット形成面に螺旋転位が2個以上含まれる確率X=1−(1−A)d−1(1−A+dA)である。そのため、この螺旋転位が2個以上含まれる確率Xが0より大きくなるように、初期ファセット形成面の面積Aを決定することが好ましく、確率Xが0.5以上となるように、初期ファセット形成面の面積Aを決定することがより好ましい。このように初期ファセット形成面を作製すると、初期ファセット形成面内に複数の螺旋転位が導入され易くなる。すなわち、より異種多形の発生を抑制することができる。
【0105】
初期ファセット形成面を切り欠いた段階で、初期ファセット形成面に螺旋転位発生起点が十分に存在しない場合は、初期ファセット形成面に人工的に螺旋転位発生起点を設ける。人工的に螺旋転位発生起点を設ける方法としては、例えば、機械加工、イオン注入などによって表面に結晶構造が乱れた層を作製することができる。これらの結晶構造が乱れた層上に、整った結晶構造を成長させるためには、その乱れを何らかの形で吸収しなければならない。そのため、螺旋転位発生起点は、結晶成長の段階で螺旋転位となる。
【0106】
また初期ファセット形成面に、化学処理をさらに施すことが好ましい。初期ファセット形成面に化学処理を施すと、非常に微小なステップが初期ファセット形成面に形成される。初期ファセット形成面がステップを有すると、結晶成長の初期の段階から初期ファセット形成面の一部はステップフロー成長を行うことが可能となり、より異種多形の発生及び結晶転位の流出に伴う欠陥の発生を抑制することができる。
【0107】
(SiCインゴットの製造方法)
本発明のSiCインゴットの製造方法では、上述の方法で得られたSiC単結晶シードを用いる。SiC単結晶シード上に、SiCをエピタキシャル成長させることで、SiCインゴットを作製することができる。
【0108】
またSiCインゴットを作製する際には、成長段階での等温面が、初期ファセット形成面と平行な面に対する傾斜角δが何れの方向にも絶対値で2°未満であるとなるように結晶成長させることが好ましい。等温面を初期ファセット形成面と平行な面に対する傾斜角δが何れの方向にも絶対値で2°未満であるとなるように、制御すると、SiCインゴットのファセット成長領域をオフセット下流側に制限することができる。これは、SiCの結晶成長面の形状は、基本的には、等温面とほぼ同一の形状となるためである。SiCの結晶成長は、SiC単結晶シードの状態から始まる。SiC単結晶シードは、初期ファセット形成面を有するため、成長の極初期のファセットは初期ファセット形成面の直上に形成される。そして、結晶成長時の等温面を初期ファセット形成面と略平行になるように制御すると、結晶成長の各段階で得られるファセットは、初期ファセット形成面の直上から大きくずれずに形成される。すなわち、結晶成長の各段階でファセットの位置を制御しておけば、結晶成長後のSiCインゴットのファセット成長領域が作製される位置は、必然的にオフセット上流側に限定することができる。ファセット成長領域を外周付近に限定することができれば、より欠陥の少ない高品質なSiCインゴットを得ることができる。
【0109】
ここで、結晶成長時の等温面を維持することは、例えば二つの技術を組み合わせることにより実現することができる。一つは、ルツボ外側のヒータや断熱材の配置を調整することによりファセットが端に維持される微小に凸な等温面を作り出す技術であり、もう一つは、成長中にルツボを移動し、その等温面と成長面高さを一致させる技術である。高温領域と低温領域の間に断熱材を設けると、その位置から下は凸の温度分布になり、位置関係で凸度を調整できる。各時間における成長面高さは同条件の成長の結果から類推することができるため、成長面高さが上記の断熱材に対して相対的に同じ高さになるように調節しながら成長すれば、等温面の角度を維持することができる。
【0110】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、本発明では{0001}面のうち(000−1)面(C面)について主に記載しているが、本発明はそれに限定されるものではなく、(0001)面(Si面)についても同様に適用できる。
なお、結晶学的に、(0001)及び{0001}は結晶面を示す。これらの違いは、{0001}面は等価な対称性を持つ面を含むため、(0001)面および(000−1)面のいずれも含む。一方<0001>は結晶方向を示す。
【実施例】
【0111】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0112】
(実施例1)
RAF法を用いて得られたSiC単結晶から{0001}面に対し4°のオフセット角を有する主面が得られるようにSiC単結晶シードを切り出した。この切り出したSiC単結晶シードのオフセット上流側の2つの角を切り欠き、2つの副成長面を作製した。さらにこの2つの副成長面と主面で形成される頂部を切り欠いて、図4(a)で示されるような初期ファセット形成面を有するSiC単結晶シードを作製した。このとき、初期ファセット形成面の面積は、25mmとし、{0001}面に対する傾斜角θは0°とした。このとき、初期ファセット形成面における螺旋転位密度は、16個/cmであった。
上記のようにして得られた、SiC単結晶シードに昇華法によるSiCエピタキシャル成長を行うことで、SiCインゴットを作製した。その結果、実施例1のSiCインゴットでは、異種多形の発生は確認できなかった。
【0113】
(実施例2)
実施例1と同様の手順でSiCインゴットを作製した。ただし、形成した初期ファセット面における螺旋転位密度が36個/cmであった点が、実施例1と異なる。
実施例2のSiCインゴットでも、実施例1と同様に、異種多形の発生は確認できなかった。
【0114】
(実施例3)
実施例1と同様の手順でSiCインゴットを作製した。ただし、形成した初期ファセット面における螺旋転位密度が60個/cmであった点が、実施例1と異なる。
実施例3のSiCインゴットでも、実施例1と同様に、異種多形の発生は確認できなかった。
【0115】
(比較例1)
実施例1と同様の手順でSiCインゴットを作製した。ただし、形成した初期ファセット面に螺旋転位発生起点が無かった。すなわち、螺旋転位発生起点密度が0個/cmであった点が、実施例1と異なる。
比較例1のSiCインゴットでは、異種多形の発生が確認された。
(比較例2)
RAF法を用いて得られたSiC単結晶から{0001}面に対し4°のオフセット角を有する主面が得られるようにSiC単結晶シードを切り出した。この切り出したSiC単結晶シードのオフセット上流側の2つの角を切り欠き、2つの副成長面を作製した。この2つの副成長面と主面で形成される頂部を切りかかず、図7(a)図示左側に表記される状態のSiC単結晶シードを作製した。このとき、この2つの副成長面と主面で形成される頂部の周辺における螺旋転位密度は、約1000個/cmであった。
上記のようにして得られた、SiC単結晶シードにSiCエピタキシャル成長を行うことで、SiCインゴットを作製した。その結果、実施例1のSiCインゴットでは、50%の確率で異種多形が発生した。
【0116】
【表1】
【符号の説明】
【0117】
10:主面、20:副成長面、21:初期ファセット形成面、30:螺旋転位発生起点、100:SiC単結晶シード、200:SiCインゴット、210:ファセット成長領域、210a:成長界面、210b:ファセット成長領域の最表面、220:ステップフロー成長領域、220a:成長界面、230:螺旋転位、240:ファセット成長領域の切断面
図1
図2
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図10