(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の衣料品用積層生地は、表生地、羽毛繊維層、裏生地が順に積層され、前記羽毛繊維層が表生地及び裏生地に接着剤によって接着され一体化してなるので、羽毛が固着されていて縫い目からの吹き出しや偏りがなく、軽量であり、かつ、羽毛繊維層により羽毛の保温性が発揮され暖かく、またダウンパックやダウンプルーフ加工を必要としないので、通気性もよく快適性に優れている。
そして、前記衣料品用積層生地は、積層される羽毛繊維層の厚さを0.2〜1.5mm程度で構成し表生地及び裏生地と接着されるため、あたかも一枚の生地のように扱え、嵩張ることがなく、動きやすく、コンパクトに畳めることができ、保管もしやすいという特徴を有する。
【0007】
本願発明者は、より高い保温性を備えた衣服品用積層生地を求め、さらに研究を重ね、断熱性の高いエアロゲルに着目し、羽毛の暖かさに加え、高い保温性を備え軽量で嵩張らず、しなやかな衣服等の生地として使用することができる高保温性衣服品用積層生地及び高保温性衣服品用積層生地の製造方法を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を下記の手段により解決した。なお、本発明の構成を明確にするため、対応する実施例の図面における主要構成の符号を付してある。
〈1〉表生地(8)と、羽毛繊維層(7)と、裏生地(2)とが積層されてなる高保温性衣服品用積層生地であって、
前記裏生地(2)の上面に熱可塑性樹脂層(3、4)が積層され、その上面に上方に向かって順にエアロゲル混合体層(5)、蜘蛛の巣状の樹脂層(6)、羽毛繊維層(7)が積層され、前記羽毛繊維層(7)の上面に、裏面に起毛組織を備えた表生地(8)が積層されてなり、
前記裏生地(2)と、前記表生地(8)が、前記熱可塑性樹脂層(3、4)の熱可塑性樹脂材料を介して接着され、前記羽毛繊維層(7)が前記表生地(8)及び前記裏生地(2)と一体化してなることを特徴とする高保温性衣服品用積層生地。
【0009】
〈2〉前記衣服品用積層生地における羽毛繊維層(3)が、層の厚さが0.05〜2.0mmであることを特徴とする請求項1に記載の高保温性衣服品用積層生地。
〈3〉前記高保温性衣服品用積層生地が、全体の厚さが0.5〜4.0mmであることを特徴とする請求項1に記載の高保温性衣服品用積層生地。
〈4〉請求項1〜3のいずれかに記載の高保温性衣服品用積層生地を少なくともその一部に用いてなることを特徴とする衣料品。
〈5〉請求項1〜3のいずれかに記載の高保温性衣服品用積層生地を少なくともその一部に用いてなることを特徴とする寝装品。
【0010】
〈6〉表生地と羽毛繊維層及び裏生地からなる高保温性衣服品用積層生地の製造方法であって、
[1]基台上に羽毛を積層する側を上面にした裏生地(2)を載せ、
[2]前記裏生地(2)に熱可塑性樹脂を点状に噴霧し、
[3]前記点状の熱可塑性樹脂の上に、有機溶剤に混合した熱可塑性樹脂を平らに均一に塗布し、
[5]前記平らに均一に噴霧された熱可塑性樹脂の上にエアロゲル混合体を配置し、
[6]前記エアロゲル混合体の上に蜘蛛の巣状に樹脂を噴霧して蜘蛛の巣状の樹脂層(6)を設け、
[7]前記蜘蛛の巣状の樹脂層(6)の上に、羽毛を積層した羽毛繊維層(7)を積層し、
[8]その後、前記羽毛繊維層(7)の上面に、前記羽毛繊維層(7)に接する側に裏起毛組織を備えた表生地を載せ積層体を製造し、
[9]前記積層体を加熱プレスし、乾燥して接着一体化
してなることを特徴とする高保温性衣服品用積層生地の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、下記の効果が発揮される。
〈1〉本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地は、表生地(8)と、羽毛繊維層(7)と、裏生地(2)とが積層されてなる高保温性衣服品用積層生地であって、前記裏生地(2)の上面に熱可塑性樹脂層(3、4)が積層され、その上面に上方に向かって順にエアロゲル混合体層(5)、蜘蛛の巣状の樹脂層(6)、羽毛繊維層(7)が積層され、前記羽毛繊維層(7)の上面に、裏面に起毛組織を備えた表生地(8)が積層されてなり、前記裏生地(2)と、前記表生地(8)が、前記熱可塑性樹脂層(3、4)の熱可塑性樹脂材料を介して接着され、前記羽毛繊維層(7)が前記表生地(8)及び前記裏生地(2)と一体化してなるので、加熱プレスによる成形時に、熱可塑性樹脂層(3、4)の熱可塑性樹脂材料及びエアロゲル混合体層(5)のエアロゲル混合体が、羽毛繊維層(7)、蜘蛛の巣状の樹脂層(6)の隙間から、各層を通過して、表生地(8)の裏面の裏起毛組織内に入り込み、かつ前記裏起毛組織(8b)の起毛が、羽毛繊維層(7)、蜘蛛の巣状の樹脂層(6)を貫通してエアロゲル混合体層(5)に粘着し一体化し、また、熱可塑性樹脂層(3、4)とで裏生地(2)と表生地(8)とを接着し、前記羽毛繊維層(7)の羽毛を表生地(8)及び裏生地(2)に固着することができる。
したがって、羽毛が偏ることもなく、軽量であり、かつ、多孔質のエアロゲルを含むエアロゲル混合体層(5)による保温性と、羽毛繊維層(7)の羽毛による保温性が相まって発揮され断熱性能に優れた高保温性衣服品用積層生地となる。
【0012】
また、羽毛は、熱可塑性樹脂層(3、4)や蜘蛛の巣状の樹脂層(6)の樹脂及びエアロゲル混合体層5のエアロゲル混合体の樹脂によって、相互に接着するので、縫製した際に縫い目からの羽毛が吹き出すことなく、またダウンパックやダウンプルーフ加工を必要としないので、通気性もよく快適性に優れている。
さらに熱可塑性樹脂層(4)を形成するための熱可塑性樹脂材料を、例えば有機溶剤に混合したのものを用いれば、熱可塑性樹脂材料を均等に広げることができるため、樹脂が偏ることなくエアロゲル混合体や蜘蛛の巣状の樹脂及び羽毛繊維層(7)の羽毛の隙間に入り込んで平らで滑らかな生地となるとともに、前記熱可塑性樹脂材料が、加熱後の冷却によりフィルム上に積層されるので、防風効果を備え、上層に積層されるエアロゲル混合体層(5)の高い保温性の効果を高めることができる。
【0013】
〈2〉また、本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地は、積層される羽毛繊維層の厚さを0.05〜2.0mm程度で構成し、表生地及び裏生地と接着され、全体として0.5〜4.0mm程度に構成されるので、あたかも一枚の生地のように扱え、製品化においては、そのまま裁断、縫製でき、表生地は衣料品や寝装品の表生地となるので、製造作業がしやすく、別途特殊な加工や羽毛の詰め込み作業等の必要がなく、さらに裁断時や縫製時に羽毛が飛び散ることもなく、作業環境を良好に維持することができる。
また、羽毛繊維層の厚さが0.05〜2.0mmの場合、全体の最終形態の厚さが0.5〜4.0mm程度という薄さで構成されるので、本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地で製造された衣料品や寝装品は、嵩張ることがなく、動きやすく、コンパクトに畳めることができ保管もしやすい。
そして、本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地は、高い保温性を備えるので、極寒地等の過酷な環境においても、暖かく快適で、かつ着やすく軽くて嵩張らない衣料品や寝装品を提供できる。また、表生地や裏生地に、防水、撥水加工や吸水加工等することによりあらゆる用途の衣服品に採用できる。
【0014】
〈3〉さらに、本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地は、
(1)基台上に羽毛を積層する側を上面にした裏生地を載せ、(2)前記裏生地に熱可塑性樹脂を点状に噴霧し、前記熱可塑性樹脂の上に、さらに熱可塑性樹脂を均一に塗布し、前記均一に噴霧された熱可塑性樹脂の上にエアロゲル混合体を配置し、その上面に蜘蛛の巣状に樹脂を噴霧して蜘蛛の巣状の樹脂層を設け、前記蜘蛛の巣状の樹脂層の上に、羽毛を積層した羽毛繊維層を積層し、その後、前記羽毛繊維層の上面に、羽毛繊維層に接する側に裏起毛組織を備えた表生地を載せ積層体を製造し、加熱プレスし乾燥して接着一体化して製造されるので、製造時に羽毛が飛び散ることもなく、また生地にダウンプルーフ加工やキルティング加工など特殊な縫製や加工を必要としないので、衣服品や寝具類の製造が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地及び該高保温性衣服品用積層生地の製造方法を実施するための形態を、実施例の図に基づいて説明する。
【0017】
図1は本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地の実施例の構成の説明用断面図である。
(a)は各種材料が積層された状態を説明用に示したものであり、(b)は加熱プレスして成形した高保温性衣服品用積層生地を示している。
図において、1は高保温性衣服品用積層生地、2は裏生地、3は点状に配置される第1の熱可塑性樹脂層、4は平らに均一に塗布される第2の熱可塑性樹脂層、5はエアロゲル混合体層、6は蜘蛛の巣状の樹脂層、7は羽毛繊維層、8は表生地であり、8aは表面、8bは表生地の裏面に備えられた裏起毛組織である。
【0018】
図1に示す高保温性衣服品用積層生地の実施例の形態において、高保温性衣服品用積層生地1は、最下層に配置される裏生地2の上面に順に、点状に配置された第1の熱可塑性樹脂層3、平らに均一に塗布された第2の熱可塑性樹脂層4、エアロゲル混合体からなるエアロゲル混合体層5、蜘蛛の巣状に形成された蜘蛛の巣状の樹脂層6、羽毛からなる羽毛繊維層7及び表生地8が積層されて構成される。
【0019】
前記裏生地2の上面に積層される熱可塑性樹脂層は、第1の熱可塑性樹脂層3と第2の熱可塑性樹脂層4が積層されて構成されている。
第1の熱可塑性樹脂層3には、熱可塑性樹脂が点状に均等に噴射されて配置される。前記点状に配置される第1の熱可塑性樹脂層3は、加熱プレスされた際に溶け、上層のエアロゲル混合体層5や蜘蛛の巣状の樹脂層6の隙間に入り込んで裏生地2と羽毛繊維層7及び表生地8を接着し一体化する。前記第1の熱可塑性樹脂層3を構成する樹脂としては、例えば、酢酸ビニル樹脂系、ポリビニルアセタール系、エチレン酢酸ビニル樹脂系(EVA)、塩化ビニル樹脂(PVC)系、アクリル樹脂系(ACR)、ポリアミド系(PA)、ポリエチレン系(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)系、ポリプロピレン(PP)系、ポリスチレン(PS)系、セルロース系、α−オレフィン系、合成ゴム系(SR)等から、後述する第2の熱可塑性樹脂層4やエアロゲル混合体層5のエアロゲル混合体との間の接着性能や、製造工程における加熱工程の順番等を考慮して選択することができる。
上記第1の熱可塑性樹脂層3は熱可塑性樹脂材料単独で又は2種以上混合して構成してもよい。
本実施例においては、ポリアミド樹脂(PA)や熱可塑性ポリウレタンエラストマー樹脂(TPU)を用いている。これらは接着性、伸縮性に優れ好適である。
【0020】
前記点状に配置される第1の熱可塑性樹脂層3の上面には、第2の熱可塑性樹脂層4が積層されている。
前記第2の熱可塑性樹脂層4は、通気性を有する程度に、全体に平らに均一に積層される。第2の熱可塑性樹脂層4は、接着の効果だけでなく、加熱プレスされて溶剤の水分が蒸発して残った樹脂材がフィルムのようになり、通気性を有しつつも、防風効果を発揮し、上層のエアロゲル混合体層5の保温性能を高めるのに役立っている。
前記第2の熱可塑性樹脂層4を構成する熱可塑性樹脂材料は、粉末状、粒子状、繊維状あるいは液状であってもよいが、有機溶剤に粉末状の熱可塑性樹脂材料を混ぜて、第1の熱可塑性樹脂層3上に噴霧して塗布することで、簡単に第2の熱可塑性樹脂層4を形成することができる。
このように本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地1は、第1の熱可塑性樹脂層3だけでなく、第2の熱可塑性樹脂層4を積層することで、第1の熱可塑性樹脂層3が通気性を高め、第2の熱可塑性樹脂層4が保温性を高め、エアロゲル混合体層5の効果を最大限に引き出す構成となっている。
【0021】
前記第2の熱可塑性樹脂層4を構成する熱可塑性樹脂材料としては、第1の熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂材料と同様の樹脂群から選ばれ、特に熱可塑性ポリウレタンエラストマー樹脂(TPU)は、第1の熱可塑性樹脂層3となじみがよく、加熱プレス後に溶剤が溶けて残った熱可塑性ポリウレタンエラストマー樹脂がフィルム状になりやすく、かつ適度に通気性があり、接着性、伸縮性に優れ好適である。
また、前記第2の熱可塑性樹脂層4の熱可塑性樹脂材料を均等分散する溶剤としては、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類が挙げられ、加熱プレス時に水分が蒸発しやすく、熱可塑性樹脂材料との相性で分散性のよいものを選択することが好ましい。
【0022】
上記のごとく、裏生地2の上面に積層される熱可塑性樹脂層は、第1の熱可塑性樹脂層3と第2の熱可塑性樹脂層4とからなる。第1の熱可塑性樹脂層3を点状に配置することにより、単に第1の熱可塑性樹脂層3と第2の熱可塑性樹脂層4に相当する厚さに均一に樹脂を塗布するよりも、格段に通気性、保温性の高い高保温性衣服品用積層生地1となる。
【0023】
前記第2の熱可塑性樹脂層4の上面には、エアロゲル混合体層5が積層される。
前記エアロゲル混合体層5は、エアロゲルと合成樹脂を混合したエアロゲル混合体で構成される。
エアロゲルとしては、シリカエアロゲル、カーボンエアロゲル、アルミナエアロゲルなどが挙げられるが、本発明では、特にシリカエアロゲルが好適に用いることができる。
本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地におけるエアロゲル混合体層5を形成するエアロゲルの材料の形状としては、細かい粒状のものが好ましく用いられる。また、エアロゲル微粒子を合成樹脂発泡体に含有させた混合体が好ましく用いられる。エアロゲルの微粒子は、非常に低密度な個体で、液体中で調製した多孔体、即ちゲルを超臨界乾燥を用いて空隙を維持して乾燥多孔体としたもので、エアロゲルを用い場合は、加熱圧縮後も、あたかも中空層を形成するように機能する。また、エアロゲルは極めて軽量の固体である。
そして、前記エアロゲルは熱伝導率が、空気の熱伝導率よりも低いため、高い断熱特性を有する。
【0024】
従来より、高空隙率のエアロゲルは非常に脆弱であり、破砕しやすく、粉砕されて粉塵を生じやすい傾向があり、シート状に成形すると割れや崩壊を生じやすく、使用用途が大きく制限されている。
そこで、本発明では、上記のような衣服品用積層生地に使うのは難しいとされるエアロゲルの問題点を、エアロゲルと合成樹脂発泡体を混合したエアロゲル混合体をエアロゲル混合体層5に用いることで解消している。
エアロゲル混合体を構成するエアロゲルと混合する合成樹脂発泡体は、ポリプロピレン(PP)発泡体、ポリアミド樹脂(PA)発泡体や熱可塑性ポリウレタンエラストマー樹脂(TPU)、ポリオレフィン系樹脂発泡体などであり、特に、ポリプロピレン(PP)発泡体は化学的安定性に優れ、耐熱性も高く、空隙率も高く柔軟性もあり好適に用いられる。
【0025】
本発明にかかる実施の形態では、ポリプロピレン(PP)発泡体にエアロゲル微粒子を配合し混合一体化してエアロゲル混合体層5を構成することで、全体的に高い断熱特性を備え通気性を過度に阻害しない高保温性衣服品用積層生地1の形成を担っている。
また、エアロゲル混合体層5を構成する合成樹脂発泡体は、加熱プレスして成形する際には接着剤となり、上層に積層される羽毛繊維層7の隙間に入り込み、さらに上層の表生地8の裏面の起毛組織8b内まで入り込む。そして、表生地8の裏面と羽毛繊維層7をしっかり接着する。
【0026】
なお、エアロゲル混合体層5を構成するエアロゲル混合体は、さらに繊維を含浸させたものであってもよい。繊維を含浸し配合することにより、生地の強度を高めることができる。前記繊維としては、ガラス繊維や炭素繊維が挙げられる。
また、前記エアロゲル混合体層5は、前記エアロゲルと合成樹脂発泡体との混合体を、斑点状やドット状に配置すると、保温性ともに通気性を高めることができ好ましい。
【0027】
本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地1は、前記エアロゲル混合体層5の上面に蜘蛛の巣状の樹脂層6が積層されている。
前記蜘蛛の巣状の樹脂層6は、蜘蛛の巣状に形成された樹脂により構成される。
蜘蛛の巣状の樹脂層6は、例えば、熱可塑性を有するポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド系の各樹脂又は繊維から選ばれる材料で構成される。これらの樹脂材料を溶解し蜘蛛の巣状に噴霧する。そうして、加熱プレスして成形すると、蜘蛛の巣状に噴霧された樹脂が溶けて、さらに上面に積層される羽毛と複雑に接着するため、羽毛の浮きや偏り、吹き出し、飛び散りを防止することができる。
【0028】
さらに、蜘蛛の巣状の樹脂層6は、多数の通気孔が形成され、表生地2と接着しても固くなりにくく、またその通気孔内に、例えばさらに上層に積層される表生地8の裏面の裏起毛組織8bの起毛が入り込み、加熱プレス時に蜘蛛の巣状の樹脂層6を形成する熱可塑性樹脂が溶けて前記起毛と一体化し、また、表生地2や羽毛繊維層3とも馴染みやすく、確実に羽毛70が接着されるので、羽毛70の抜けや飛び散りを防止することができ、さらに羽毛70による凸凹の浮き等も生じにくくなる。
このように本発明における高保温性衣服品用積層生地1は、裏生地2と羽毛繊維層3との間に、蜘蛛の巣状の樹脂層5を設けることで、羽毛30の吹き出しや抜け、衣服品への加工時の飛び散り等を防ぎ、より保温性が高い滑らかな生地を構成する。
【0029】
前記蜘蛛の巣状の樹脂層6の上面には、羽毛繊維層7が積層される。
本発明にかかる羽毛繊維層7は、羽毛70の集合体で構成される。ここで「羽毛」とは、アヒルやガチョウなどの鳥のダウン(羽毛)やフェザー(羽根)のいずれをも含む総称である。したがって、羽毛繊維層7は、ダウンだけで構成しても、フェザーだけで構成してもよく、ダウンとフェザーを混合してもよい。
なお、軽量で暖かく風合いが柔らかいことから天然の羽毛が好ましいが、本発明の構成は、人工羽毛、人工羽毛綿と呼ばれる合成繊維の疑似羽毛を用いてもよい。
【0030】
そして、前記羽毛繊維層7の上面には、表生地8が積層されている。
表生地9は、裏面に起毛組織8bを備えたものが用いられる。
本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地1を構成する羽毛繊維層7、蜘蛛の巣状の樹脂層6はそれぞれ隙間や貫通孔が形成されているので、加熱プレス時、羽毛繊維層7に接している裏起毛組織8bの起毛は前記羽毛繊維層7の隙間、蜘蛛の巣状の樹脂層6の通気孔を貫通し、その下のエアロゲル混合体層5に粘着する構成となっている。したがって、加熱プレスして成形した際には、羽毛繊維層7も蜘蛛の巣状の樹脂層6もあたかも前記裏起毛組織8bの起毛の間の隙間に入り込んだ状態で接着されることになる。
そして、裏起毛組織8bの起毛の間の隙間に羽毛繊維層7の羽毛70や、蜘蛛の巣状の樹脂層6の樹脂が入り込んでエアロゲル混合体層5と前記エアロゲル混合体層5の下層の第2の熱可塑性樹脂層4とで一体に接着され、一つの保温構造体を形成する。
前記保温構造体は、さらにその下の第1の熱可塑性樹脂層3の合成樹脂とも混ざって裏生地2と強固に接着され一体化する。
【0031】
本実施例において、表生地8の表面8a及び裏生地2は、綿、ウール、麻等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル系繊維等の合成繊維、天然あるいは合成の皮革等、任意の素材の生地を使用できる。
また、表生地8の表面8aと裏生地2を同じ素材としても、異なる素材としてもよく、製造するものによって適宜素材を選ぶことができる。
素材が限定されないのは、表生地8と裏生地2の間に介挿される羽毛繊維層7の羽毛70が、表生地8の裏面の起毛組織8bに入り込み、蜘蛛の巣状の樹脂層6の樹脂材料、エアロゲル混合体層5の混合体を構成する合成樹脂、さらにその下層の熱可塑性樹脂層(3、4)の熱可塑性樹脂材料等の樹脂等が接着剤として機能を発揮し、加熱プレスして成形されると、各樹脂が羽毛70間に入り込み、羽毛70自体を相互に接着することになるため、羽毛70が単独で表生地8や裏生地2から吹き出ることがないからである。
したがって、本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地1の表生地8及び裏生地2は、特に高密度の素材に限定されず、密度に関係なく、またダウンプルーフ加工の有無にも関係なく、任意の素材を使用することができるものとなっている。
【0032】
なお、衣料品や寝装品を製造する場合には、高保温性衣服品用積層生地1の表生地8がそのまま製品の表生地として使用でき、例えば、衣料品の製造の場合、表生地8や裏生地2に伸縮性のある素材を選択すると、脱いだり着たりしやすく好適であり、寝装品を製造する場合、表生地8や裏生地2にシルクや綿布を使うと、軽やかで肌ざわりがよく好適である。
このように、本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地1は、表生地8、羽毛繊維層7及び裏生地2を接着効果のある熱可塑性樹脂、蜘蛛の巣状の樹脂、エアロゲル混合体によりしっかりと接着され一体化し、あたかも一枚の生地のように取り扱えるため、表生地8や羽毛繊維層7及び裏生地2は、それぞれ互いの動きに追従し伸縮性を阻害することがなく、異なった素材も用途に合わせて任意に選ぶことができる。
【0033】
本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地1を構成する羽毛繊維層7は、該羽毛繊維層7の厚さα1をおよそ0.05〜2.0mmとなるように構成することが好ましい。これは、薄すぎると、羽毛の量が少なすぎて保温性を確保できず、また2.0mm以上になると、高保温性衣服品用積層生地1の厚さが厚くなり、嵩張る上に、軽量感がなくなり、裁断、縫製等の製造作業がしにくくなるためである。
したがって、さらに好ましくは、表生地8及び裏生地2の素材にもよるが、羽毛繊維層7の厚さα1が0.4〜0.8mm程度になるよう羽毛の量を調整すると、軽量で嵩張らず、より一枚の生地のように扱え、通常の一枚生地のごとく裁断、縫製等の製造作業ができるので好適である。
【0034】
なお、厚さα1は、最終形態における羽毛繊維層7の厚さを意味し、表生地8と裏生地2を除いた部分の厚さである。表生地8と裏生地2を含めた全体としての厚さα2は、0.5〜4.0mmとなるように構成することが好ましい。特に、0.8〜2.5mm程度になるように蜘蛛の巣状の樹脂層6やエアロゲル混合体層5の樹脂の量を調整し加熱プレスして成形すると、
図1(b)に示すように極めて薄く軽いにもかかわらず、高い保温性を備える高保温性衣服品用積層生地1をあたかも一枚の生地のように仕上げることが可能となる。
【0035】
このように本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地1は、裏生地2、点状に配置された第1の熱可塑性樹脂層3、均一に平らに塗布された第2の熱可塑性樹脂層4、エアロゲル混合体からなるエアロゲル混合体層5、蜘蛛の巣状に形成された蜘蛛の巣状の樹脂層6、羽毛からなる羽毛繊維層7及び裏面に起毛組織8bを備えた表生地8が順に積層され、前記熱可塑性樹脂層3、4、エアロゲル混合体層5、蜘蛛の巣状の樹脂層6がそれぞれ接着材として機能し、表生地8と羽毛繊維層7及び裏生地2をしっかり接着し一体化して構成されている。
【0036】
そして、羽毛繊維層7は、大量の羽毛を挟み込んで構成され、かつ上下の表生地8及び裏生地2の厚さに比して薄く構成されている。例えば、高保温性衣服品用積層生地1全体の厚さがおよそ2.5cmの場合に、羽毛繊維層7はおよそ0.5〜0.8mmで構成される。
したがって、本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地1は、上記のようにあたかも一枚の生地のごとく取り扱うことができるので、ジャケットやズボン、スカート、シャツ、防寒用インナーや帽子など、任意の衣料品を製造するための生地として用いることができ、高保温性衣服品用積層生地1の表生地8は、そのまま各製品の表生地として使用できる。
【0037】
また、各種衣料品の一部に本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地1を用いることもできる。例えば、ジャケットの前身頃と後身頃だけ該高保温性衣服品用積層生地1を用いて、袖部を既存の薄手の生地を用いるなど組み合わせて、デザイン性の高い製品とすることもできる。
同様に、本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地1は、寝装品についても用いることができる。寝装品についても、高保温性衣服品用積層生地1の表生地8は、そのまま各製品の表生地として使用できる。
そして、寝装品も、製品全体を高保温性衣服品用積層生地1で構成してもよく、製品の一部に本発明の高保温性衣服品用積層生地1を用いる構成とすることもできる。
衣料品、寝装品いずれに用いる場合においても、少なくとも表生地8の素材を、製造する製品に応じて選択して高保温性衣服品用積層生地1を構成すれば、伸縮性があってとても暖かいうえに、軽く適度に通気性のある衣料品、寝装品を製造することができる。
【0038】
次に、本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地の製造方法を
図2及び
図3に基づいて説明する。
本発明にかかる高保温性衣服品用積層生地1の製造方法の一例としては、
(1)基台上に羽毛を積層する側を上面にした裏生地2を載せ、
(2)前記裏生地2に熱可塑性樹脂を点状に噴霧し、
(3)前記熱可塑性樹脂の上に、さらに熱可塑性樹脂を均一に塗布し、
(4)前記均一に噴霧された熱可塑性樹脂の上にエアロゲル混合体を配置し、
(5)前記エアロゲル混合体の上に蜘蛛の巣状に樹脂を噴霧して蜘蛛の巣状の樹脂層6を設け、
(6)前記蜘蛛の巣状の樹脂層6の上に、羽毛を積層した羽毛繊維層7を積層し、
(7)その後、前記羽毛繊維層7の上面に、羽毛繊維層7に接する側に裏起毛組織8bを備えた表生地8を載せ積層体を製造し、
(8)前記積層体を加熱プレスし、乾燥して接着一体化
して製造されてなる。
【0039】
まず、
図2に示すように、羽毛を積層する側が上面になるように裏生地2がセットされる(第1工程)。
そして、前記裏生地2の上面に、樹脂供給手段により、第1の熱可塑性樹脂層3を構成する熱可塑性樹脂材料が均一に点状に噴霧される(第2工程)。点状に噴霧することで通気性を高めている。
【0040】
そして、第2工程で、第1の熱可塑性樹脂を噴霧した後、樹脂供給手段により、第2の熱可塑性樹脂層4を構成する熱可塑性樹脂材料が噴霧により全面に均一に塗布され積層される(第3工程)。
前記第1の熱可塑性樹脂層3が点状に噴霧された上面に第2の熱可塑性樹脂層4を平らに均一に塗布することで、通気性を保持しつつ、保温性を高め、かつ平滑で弾力性、伸縮性のある高保温性衣服品用積層生地1を構成している。また、均一に塗布するため、第2の熱可塑性樹脂は、有機溶剤に混合させて使用することが好ましい。
【0041】
その後、第2の熱可塑性樹脂層4の上面に、樹脂供給手段によりエアロゲル混合体が均一に斑点状に配置される(第4工程)。配置されたエアロゲル混合体は、後の加熱プレス工程により、エアロゲル混合体層5を形成する。
エアロゲル混合体層5は、エアロゲルと合成樹脂発泡体を混合したエアロゲル混合体からなる。前記合成樹脂発泡体は、成形時の加熱プレスにより溶けて接着材料化するので、これを考慮して、斑点状あるいはライン状に配置することが好ましい。
本実施例においては、エアロゲル混合体層5は、ポリプロピレン(PP)発泡体にエアロゲル微粒子を配合し混合一体化したエアロゲル混合体で構成されている。
【0042】
そして、エアロゲル混合体を配置した後、その上面に蜘蛛の巣状の樹脂層6を構成する樹脂材料を噴霧する(第5工程)。
蜘蛛の巣状の樹脂層6を形成するため、あらかじめ、蜘蛛の巣状に成形した樹脂シートや樹脂テープを配置したエアロゲル混合体の上に配置してもよいが、生地の形状に柔軟に対応すべく、エアロゲル混合体の上面に蜘蛛の巣状に樹脂を噴霧して蜘蛛の巣状の樹脂層6を形成することが好ましい。
【0043】
前記第5工程で積層した蜘蛛の巣状の樹脂層6の上面には、羽毛供給手段により羽毛70が積層され、羽毛繊維層が形成される(第6工程)。
羽毛供給手段は、できるだけムラなく積層できる方法が選択される。例えば、塗布された蜘蛛の巣状の樹脂の上に羽毛を自然落下させる方法や、電極を配置して静電植毛と同様の方法により羽毛を吸着させてもよい。
【0044】
第6工程で羽毛70を積層し羽毛繊維層7を形成した後に、前記羽毛繊維層3の上面に表生地8を、前記裏生地2の上に順に積層された熱可塑性樹脂材料、エアロゲル混合体及び羽毛70を、裏生地2とで挟み込むように合わせて積層体を形成するように配置して積層する(第7工程)。
本発明において、表生地8は、裏面に裏起毛組織8bを備える。前記裏起毛組織8bの起毛は、下層の羽毛70の隙間や蜘蛛の巣状の樹脂の通気孔に貫通し、エアロゲル混合体層5の合成樹脂発泡体に粘着し、羽毛繊維層7の羽毛70を絡めるように挟み込み、全体を一体化する。
【0045】
そして、前記第7工程でできた積層体を、加熱し圧縮手段でプレスする(第8工程)。
この第7工程で、前記積層体を構成する各種熱可塑性樹脂材料が加熱され溶解し、それぞれ混ざり合うとともに、蜘蛛の巣状の樹脂層6の隙間や羽毛繊維層7の隙間に入り込み、それぞれを強固に接着する。
また、エアロゲル混合体層5を構成する合成樹脂発泡体も加熱により溶解し、エアロゲルが合成樹脂発泡体や下層の熱可塑性樹脂層4の熱可塑性樹脂材料を介して裏生地2上に接着されるとともに、前記エアロゲルが、合成樹脂発泡体や蜘蛛の巣状の樹脂層の樹脂を介して前記表生地8の裏面の裏起毛組織8bの起毛の間に、羽毛70とともに入り込み接着されて一体化し、高保温性衣服品用積層生地全体の保温性を高めるよう機能する。
【0046】
その後、乾燥手段により乾燥し仕上げる(完成製品)。
なお、圧縮手段によるプレスは、羽毛繊維層7が所定の厚さα1になるように調整され、全体として、所定の厚さα2になるように仕上げられる。
図示しないが、上記一連の製造工程を、製造ライン上で実施することで、仕上がった高保温性衣服品用積層生地1をロール状に巻き上げて仕上げることもできる。
なお、プレス機と乾燥機による作業は別でなくてもよく、ホットプレス機等で一気に圧縮(圧着)と加熱及び乾燥を同時に行えば、作業効率を高めることができる。
【0047】
なお、本発明の高保温性衣服品用積層生地1の製造は、上記の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることができる。
表生地と羽毛繊維層及び裏生地とが積層されてなり、前記裏生地の上面に熱可塑性樹脂層が積層され、その上面に上方に向かって順にエアロゲル混合体層、蜘蛛の巣状の樹脂層、羽毛繊維層が積層され、前記羽毛繊維層の上面に、裏面に起毛組織を備えた表生地が積層されてなり、前記裏生地と、前記表生地が、前記熱可塑性樹脂層の熱可塑性樹脂材料を介して接着され、前記羽毛繊維層が前記表生地及び裏生地と一体化してなる高保温性衣服品用積層生地。