(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0015】
以下、本発明の実施例1に係る真空蒸着装置を図面に基づき説明する。
この真空蒸着装置は、
図1に示すように、所定の真空下(例えば、10
−5Pa以下の高真空下)で被蒸着部材である薄膜状の基板(具体的には、フィルムが用いられる)Kの表面(下面)に蒸着材料Mを付着させて薄膜を形成するための蒸着室(成膜室とも言う)2を有する蒸着用容器(成膜用容器または真空チャンバとも言う)1と、この蒸着用容器1に、すなわち蒸着室2に蒸着材料Mを供給する(導く)材料供給装置3とが具備されている。
【0016】
まず、蒸着用容器1内の構成について簡単に説明しておく。
この蒸着用容器1の蒸着室2内の上部には、被蒸着部材である基板Kの保持装置5が配置されるとともに、この保持装置5の直ぐ側方には、基板Kの表面に付着した蒸着材料Mの膜厚を検出するための膜厚センサ6が配置され、また保持装置5の下方には、基板Kへの蒸着材料Mの供給および停止を行うためのシャッター部材7が設けられている。上記保持装置5は、基板Kであるフィルムを連続的に蒸着領域(後述する材料案内管路先端のノズル部に対応する所定範囲の領域)に案内するためのものであり、基板Kを巻き出すための巻出しロール5aと、基板Kを巻き取る巻取りロール5bと、これら両ロール5a,5b間に配置されて基板Kの蒸着面を蒸着領域に案内する案内ロール5cとから構成されている。なお、基板Kを案内ロール5cの表面に沿って移動させるための転向用ロール5dが案内ロール5cの前後(基板の移動方向での前後)に配置されている。また、上記シャッター部材7は、例えばモータなどの回転機7aにより鉛直軸心回りで回転される回転軸体7bと、この回転軸体7bの上端に取り付けられて保持装置5により保持された基板Kの蒸着面(案内ロール5cの最下端の直線部を含む水平面)と平行な平面内で揺動されるシャッター板7cとから構成され、回転軸体7bの回転により、シャッター板7cが基板Kの表面を覆う蒸着停止位置と、表面を開放する蒸着許可位置との間で揺動自在にされたものである。上記膜厚センサ6からの測定値は、後述するガス流量制御弁を制御する蒸着レート制御装置8に入力される。
【0017】
次に、本発明の要旨である材料供給装置3について説明する。
この材料供給装置3は、蒸着用容器1の下方に配置されて粉体(例えば、粒径が0.25mm以下の粉末である)の蒸着材料Mが充填される材料充填容器(例えば、坩堝と同様の有底円筒状容器が用いられる)11と、この材料充填容器11と上記蒸着用容器1とに亘って鉛直方向で設けられた材料案内手段としての材料案内管路12と、上記材料充填容器11の底部に取り付けられて当該容器11内の蒸着材料Mに振動を与える振動付与器(振動付与手段)13と、上記材料充填容器11内の下部に不活性ガス(例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどが用いられる。また、蒸着材料がフッ素化合物でない場合には、クリプトン、キセノン、ラドンなどを用いてもよい。)Gを供給して上記振動付与器13により振動が与えられた蒸着材料Mを上記材料案内管路12内に、つまり上方に導く(案内)ための不活性ガス供給装置(不活性ガス供給手段)14と、この不活性ガス供給装置14の配管途中(後述する)に設けられて不活性ガスの供給量を、つまりガス流量を制御するガス流量制御弁15aおよびこのガス流量制御弁15aの開度を調節する駆動部15bからなるガス供給量制御装置15と、上記材料案内管路12の途中に配置されて蒸着材料Mの供給量(通過量)を制御するための蒸着量制御弁(蒸着材料制御弁とも言える)16と、上記材料案内管路12における蒸着量制御弁16の設置部分並びにその上側の上側案内管12aおよびその下側の下側案内管12bを加熱することにより材料案内管路12内に移送された蒸着材料Mを気化(昇華または蒸発)させる加熱器(加熱手段)17とから構成したものである。また、加熱個所については、少なくとも下側案内管12bであればよい。
【0018】
したがって、不活性ガス供給装置14は、先端部が材料充填容器11に設けられた充填室11aの下部に形成されたガス供給口11bに接続されたガス供給管21と、このガス供給管21の途中に設けられたガス流量制御弁15aを含むガス供給量制御装置15と、上記ガス供給管21の基端部に接続されて不活性ガスGを供給し得るガス充填ボンベ22などから構成されている。
【0019】
上記振動付与器13は、具体的に図示しないが、例えばケーシング内に偏心軸を介して回転自在に設けられた振動体と、上記偏心軸を回転させて当該振動体を振動させるモータなどから構成されたものである。この振動付与器13により、材料充填容器11内の蒸着材料Mに主として上下方向に振動が付与されて浮遊させられるとともに、水平方向にも振動されて蒸着材料Mがほぐされる。すなわち、振動により蒸着材料Mの浮遊が促進される。
【0020】
また、上記加熱器17は、材料案内管路12の周囲に巻き付けられた電熱線(例えば、ニクロム線など)と、この電熱線に電気を供給する電源(図示せず)などから構成されている。
【0021】
また、上記材料案内管路12の上端、すなわち上側案内管12aの上端部が蒸着用容器1の底壁部を挿通されて蒸着室2内に開口されるとともに、下端は、ベローズなどの管状接続部材25を介して、材料充填容器11の上端開口部に接続されている。なお、上側案内管12aの上端には、蒸着材料を放出するノズル部12cが設けられている。
【0022】
そして、上述した蒸着量制御弁16は上側案内管12aの下部、すなわち上側案内管12aと下側案内管12bとの間に設けられている。なお、上記加熱器17の電熱線は、蒸着量制御弁16並びにその上側案内管12aおよび下側案内管12bに巻き付けられている。なお、蒸着量制御弁16の主な機能は、流路の開閉機能であり、勿論、流量制御機能も有している。この蒸着量制御弁16は、通常は、この真空蒸着装置の主制御部により開閉が行われるようにされており、流量制御機能を用いる場合には、上述した蒸着レート制御装置8からの開度指令に基づき制御される。
【0023】
上記構成において、基板Kとしてのフィルムの表面(下面)に、所定材料の薄膜を形成する場合、蒸着室2内の保持装置5に基板Kを保持させた状態、すなわち基板Kが案内用ロール7cの下部表面に亘って案内された状態で、蒸着室2内を所定の真空度に維持しておく。
【0024】
そして、充填材料供給側では、材料充填容器11の充填室11a内に所定の蒸着材料Mの粉体を充填するとともにガス充填ボンベ22にも不活性ガスGを充填しておき、さらに加熱器17により材料案内管路12を所定温度に加熱しておく。なお、材料案内管路12内も蒸着室2と同様に真空下にされている。
【0025】
この状態で、振動付与器13を作動させて材料充填容器11に所定の振動数および振幅でもって、例えば1Hz〜30Hzの振動数および3mm以下の振幅でもって振動を付与するとともに、ガス流量制御弁15aを所定の初期開度でもって開いてガス供給管21より不活性ガス(例えば、アルゴンガスが用いられる)Gを所定の供給量でもって充填室11a内に供給する。
【0026】
すると、充填室11a内の蒸着材料Mは、振動が付与されるとともに充填室11a内に供給された不活性ガスGにより、上方に舞い上がるとともに材料案内管路12内を上方に移動し、開状態にされた蒸着量制御弁16およびその上方部分に配置された加熱器17により所定温度(具体的には、蒸着材料の気化温度)に加熱されて気化する。この気化した蒸着材料Mはノズル部12cから蒸着室2内に移動し、基板Kの表面に付着して堆積する。すなわち、基板Kの表面に蒸着材料の薄膜が形成される。勿論、基板Kは薄膜の形成とともに、所定速度で巻取りロール5b側に巻き取られて連続的に形成されるが、場合によっては、所定長さ毎に、間欠的に(所謂、バッチ式で)形成するようにしてもよい。
【0027】
なお、この基板Kへの蒸着量については、膜厚センサ6からの測定値である膜厚値が蒸着レート制御装置8に入力され、ここで、蒸着レートが求められるとともに、予め設定された蒸着レートとなるように、駆動部15bに開度指令が出力されてガス流量制御弁15aが制御される。
【0028】
ここで、蒸着材料について説明しておく。
すなわち、蒸着材料Mとしては、無機物材料および有機物材料が用いられ、特に有機物材料の中でも、有機EL用の材料が用いられる他、糖類なども用いられる。
【0029】
詳しく説明すると、無機物材料としては、銅、アルミニウムなどの金属(全ての金属および合金、金属を含む化合物)、半金属(全ての半金属および半金属を含む化合物)、ハロゲン物質(全てのハロゲン物質、ハロゲン物質を含む化合物)が用いられ、その他、炭素(C)若しくはセレン(Se)、または炭素(C)を含む化合物、若しくはセレン(Se)を含む化合物も用いられる。
【0030】
上記金属を含む化合物としては、例えば酸化ガリウム(Ga
2O
3)、酸化タングステン(WO
3)などが用いられ、上記半金属としては、例えばホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)、ポロニウム(Po)などが用いられ、上記半金属を含む化合物としては、例えば酸化ホウ素(B
2O
3)、酸化ケイ素(SiO
2)などが用いられる。
【0031】
また、有機EL用の材料としては、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子注入層および電子輸送層に用いられるものがある。
正孔注入層用および正孔輸送層用の材料としては、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(TPD)、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(α−NPD)などがある。
【0032】
発光層用の材料としては、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体などがある。
電子注入層用および電子輸送層用の材料としては、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq
3)、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)などがある。
【0033】
ここで、振動数と基板表面での蒸着レートとの関係を調べると、
図2に示すように、蒸着レートは振動数に比例していることが分かる。また、不活性ガスの供給量についても、多くすると蒸着レートが大きくなり、少なくすると、蒸着レートが小さくなる。
図3に、不活性ガスの供給量と蒸着レートとの関係をグラフにて示す。このグラフから、不活性ガスの供給量に比例して蒸着レートが上昇していることが分かる。すなわち、振動数および不活性ガスの供給量により、蒸着レートを制御し得ることが分かる。勿論、振動数を一定に維持した状態で、不活性ガスの供給量を制御すれば、容易に、蒸着レートを制御することができる。なお、振動数を一定に維持することにより、蒸着材料を均すことができるので、蒸着レートの安定化を図ることができる。このように、不活性ガスの供給量により蒸着レートを制御し得るということは、従来のように不活性ガスを供給しない場合に、蒸着レートが蒸着材料の限界温度に依存していたのに対して、蒸着レートを、限界温度に依存する蒸着レートよりも大きくし得ることを意味している。
【0034】
上記真空蒸着装置の構成によると、材料充填容器11に不活性ガスを供給することにより、充填室11aに充填された蒸着材料を材料案内管路12に案内させるとともに、この材料案内管路12に加熱器17を設けて蒸着材料を気化させるようにしたので、従来のように、坩堝にて蒸着材料を加熱させるとともに坩堝での加熱量を制御することにより蒸着レートを制御するものに比べて、坩堝すなわち材料充填容器11での蒸着材料を加熱する必要がなくなり、したがって蒸着材料の劣化を心配する必要がない。また、不活性ガスの供給量を多くすることにより、蒸着レートを上げることができるので、従来のように、蒸着材料の加熱温度に依存していた場合とは異なり、その限界温度を考慮しなくてもよく、したがって蒸着レートを広範囲に制御することができる。すなわち、蒸着材料の加熱による悪影響を防止することができる。
【0035】
ところで、上記実施例1においては、不活性ガス供給装置14において、不活性ガスGを材料充填容器11の下部側方から供給するように説明したが、例えば
図4に示すように、充填室11a内に底から所定高さでもって多孔性板材(目が小さいメッシュ板)31を配置するとともにその下方空間部Sに不活性ガスGを供給し得るように、ガス供給管21を側壁から挿通させて充填室11aの下方に開口させ(勿論、ガス供給管21を下方空間部Sに直接開口させるようにしてもよい)、そして充填室11aの下部から不活性ガスGを供給することにより、粉体からなる蒸着材料Mを舞い上がりやすくさせるようにしてもよい。
【0036】
また、
図5に示すように、振動付与器13′を材料充填容器11の側面に取り付けて、不活性ガスGを材料充填容器11の底壁部に形成された穴部11cから供給することにより、
図4の場合と同様に、蒸着材料を舞い上がりやすくさせてもよい。
【0037】
また、上記実施例1においては、下側案内管12bの外側を加熱するように説明したが、内部から加熱するようにしてもよい。
例えば、
図6に示すように、下側案内管12bの内面に、加熱器としての電熱線33を配置して、内部で加熱するようにしてもよい。
【0038】
また、
図7に示すように、下側案内管12b内で且つ高さ方向の中間位置に、加熱器としての多孔性板材例えばパンチングメタル(金網であってもよい)35を配置するとともに、このパンチングメタル35を加熱源(図示しないが、例えば当該パンチングメタルに設けた抵抗加熱方式の加熱器)により加熱するようにしてもよい。
【0039】
また、
図8に示すように、下側案内管12bの高さ方向の中間位置における側壁部に透光性を有する窓部材37を設け、且つこの窓部材37に加熱器としての加熱用ランプ38を配置し、この加熱用ランプ(例えば、ハロゲンランプ、白熱球などが用いられる)38からの放射光により、下側案内管12b内を移動する蒸着材料Mを加熱するようにしてもよい。
【0040】
また、上記実施例1においては、振動付与器13を材料充填容器11の底壁部に且つその外側に配置したが、
図9に示すように、充填室11a内の底部に振動付与器13″を配置してもよい。この場合、振動付与器13″が振動体(振動発生部とも言える)とモータなどの駆動部とが分離して配置し得る場合には、少なくとも、振動体を充填室11a内に配置すればよい。
【0041】
また、上記実施例1においては、管状接続部材25の直ぐ上方(蒸着材料の移動方向での下流側)に加熱が行われる材料案内管路12を配置(接続)したが、
図10に示すように、これら両者の間に加熱が行われないとともに熱伝導率が低いつまり断熱性の良い材料からなる断熱部41を配置してもよい。この断熱部41としては、例えばジルコニア、ガラスなどにより構成された所定長さの管状体が用いられる。
【0042】
このように、加熱が行われる材料案内管路12の下方に断熱部41を配置したので、材料案内管路12から熱が管状接続部材25に(蒸着材料の移動方向での上流側に)伝わるのが防止され、つまり下側における温度勾配領域(厳密には、加熱が行われる材料案内管路12よりも上流側の加熱されない領域における温度勾配)が短くなり、したがって加熱による蒸着材料の液化を抑制することができる。
【0043】
また、上記実施例1においては、管状接続部材25の直ぐ上方に加熱が行われる材料案内管路12を配置(接続)したので、これよりも上流側の温度勾配領域にて蒸着材料が液化して内面に付着するが、
図11に示すように、両者の間に、断熱部として液体貯溜部46を設けてその液体を回収するようにしてもよい。この液体貯溜部46は、管体部46aと、この管体部46aの内方に且つ内面下端から上方に向かって設けられた円錐台形状(所謂、逆ホッパー形状をしており、下端開口径よりも上端開口径が小さくされている)の液受用筒状部46bとから構成され、この管体部46aと液受用筒状部46bとの間に液体貯溜室47が形成されている。したがって、蒸着材料が材料案内管路12より上流側の温度勾配領域で液化されてなる液体は落下して液体貯溜室47に貯溜される。このように、液体の蒸着材料を回収することにより、材料充填容器11内で舞い上がった蒸着材料を蒸着室2にスムーズに移動させることができる。より詳しく説明すると、温度勾配領域の内壁面に液体が付着して舞い上がった蒸着材料の通過を阻害したり、液体が材料充填容器11内に落下して蒸着材料の舞い上がりを阻害するのを、抑制することができる。
【0044】
また、上記実施例1においては、管状接続部材25の直ぐ上方(蒸着材料の移動方向での下流側)に加熱が行われる材料案内管路12を配置(接続)したが、
図12〜
図14に示すように、これら両者の間に、上流側の温度勾配領域を減少させるための冷却機構51を設けてもよい。この冷却機構51は、管状接続部材25とその直ぐ上方(蒸着材料の移動方向での下流側)の加熱が行われる下側案内管12bとの間に配置される短管部52と、この短管部52と下側案内管12bの一部とに亘って且つこれらの内面に対して所定の環状隙間dを有して配置される冷却部53とから構成されている。
【0045】
そして、この冷却部53は、管内面に配置されて二重管構造により環状冷却室55が形成されるとともに任意位置で上下方向の仕切板56が配置されることにより当該環状冷却室55の水平断面がC字形状にされた冷却用管体54と、この冷却用管体54の環状冷却室55の仕切板56の一側面寄り位置で当該冷却用管体54に接続されて冷却水などの冷却流体(所謂、ブラインである)Fを供給する冷却流体供給管57と、環状冷却室55の仕切板56の他側面寄り位置で当該冷却用管体54に接続されて冷却流体Fを排出する冷却流体排出管58と、これら冷却流体供給管57および冷却流体排出管58を介して冷却流体を循環供給するための冷却器59とから構成されている。また、環状冷却室55内には、冷却流体Fを上下に蛇行して移動させるための邪魔板60が所定間隔置きで且つ上下から交互に複数突出するように設けられている。なお、環状隙間dの底部には環状底板65が設けられて、上流側(下方)から蒸着材料および不活性ガスが入るのを防止している。
【0046】
ところで、環状隙間dを設けたのは、下側案内管12bから熱が冷却部53に伝わるのを防ぐためであり、さらにこの環状隙間dには、互いに細い隙間を有して筒状の薄いステンレス鋼板(
図13および
図14に、1枚だけ配置した状態を仮想線にて示すが、実際には、複数枚でもって配置されている)66が複数枚(例えば、2〜3重程度でもって)配置されて、下側案内管12bからの輻射熱が冷却部53に伝わるのが確実に防止されている。
【0047】
したがって、冷却流体供給管57から供給された冷却流体Fは、環状冷却室55の一端側に入るとともに邪魔板60により上下に移動しながら且つ環状冷却室55の他端側に移動し、つまり、その周囲を冷却しながら、冷却流体排出管58から排出される。この排出された冷却流体Fは、冷却器59にて冷却された後、再度、冷却流体供給管57を介して環状冷却室55に供給される。このように、冷却機構51、すなわち下側案内管12bの一部および短管部52を冷却するようにしたので、蒸着材料の温度勾配の距離を短くすることができる。言い換えれば、冷却部の一部を高温の加熱部に配置して、より蒸着材料の温度勾配の距離を短くすることにより、蒸発した蒸着材料つまり蒸発材料の液化を抑制することができる。
【0048】
なお、上記冷却部53においては、環状冷却室55内に邪魔板60を配置したが、邪魔板を無くしたものでもよく、また二重管構造の代わりに、管内面(下側案内管12bの一部および短管部52の内面)に冷却管を螺旋状に巻き付けるようにしたものでもよい。
【0049】
また、上記実施例1においては、管状接続部材25の直ぐ上方に加熱が行われる材料案内管路12を直線状に(鉛直方向で)接続したが、
図15に示すように、この材料案内管路12の下側案内管12bと管状接続部材25との間に配置されて上方に移動する蒸着材料の移動経路を変更させる側面視L字形状(傾斜したものでもよい)の管状体からなる材料移動経路変更管(材料移動経路変更部材とも言える)61を配置してもよい。
【0050】
この材料移動経路変更管61は、側面視L字形状(正確には、逆L字形状)にされた下側案内管12bに一端部が接続された水平の第1移動経路変更管61aと、この第1移動経路変更管61aの他端部と管状接続部材25とに接続された鉛直の第2移動経路変更管61bとから構成されており、勿論、下側案内管12bと第2移動経路変更管61bとは、その設置位置が水平方向で互いにずらされている。なお、この材料移動経路変更管61は非加熱領域にされている。
【0051】
このように、下側案内管12bと管状接続部材25との間に、側面視がL字形状の材料移動経路変更管61を配置したので、材料充填容器11内の蒸着材料が、加熱器17が設けられた加熱領域である下側案内管12bからの輻射熱の影響を受けるのが防止されている。すなわち、材料充填容器11内の蒸着材料表面での溶融がなくなり、蒸着レートの安定化および不活性ガスの流量の低減化を図ることができる。なお、材料移動経路変更管61を設けない場合には、蒸着材料側から加熱領域である高温加熱部(下側案内管12b)が直接見えるため、高温加熱部からの輻射熱により蒸着材料の表面が溶融し、したがって溶着材料の損失に加えて材料の舞い上がりが抑制されることにより、蒸着レートが不安定になるとともに供給する不活性ガスの流量が増加するのを防止することができる。
【0052】
これら
図12〜
図15に示す変形例についても、
図4〜
図9で示したものに適用することができる。
上記実施例1における蒸着材料の移動経路を構成する管部材同士の結合部についての説明は特にしなかったが、図面に示すように、フランジ継手が用いられている(以下に示す実施例2および実施例3についても同様とする)。
【実施例2】
【0053】
次に、本発明の実施例2に係る真空蒸着装置を図面に基づき説明する。
上述の実施例1では、材料充填容器を振動付与器(振動手段)により振動させるものとして説明したが、本実施例2の真空蒸着装置は、振動させる替わりに材料充填容器内を攪拌させるようにしたものである。
【0054】
本実施例2に係る真空蒸着装置と実施例1との異なる個所は、材料充填容器の部分であるため、本実施例2では、この部分に着目して説明するとともに、実施例1と同一の構成部材については、同一の番号を付してその詳しい説明は省略する。
【0055】
簡単に説明すると、実施例1で説明した材料移動経路変更管61に、材料充填容器11内の蒸着材料を攪拌し得る攪拌装置(攪拌手段)を設けたものであり、ここでは、この攪拌装置を中心にして説明する。なお、材料充填容器は振動されないため、管状接続部材25は設けられていない。
【0056】
すなわち、
図16に示すように、実施例2に係る攪拌装置71は、下側案内管12bに一端部が接続された水平の第1経路変更管部61aの他端側に配置された電動機72と、第2経路変更管部61b内に鉛直方向で配置されるとともに上端が電動機72に接続された回転軸74およびこの回転軸の下端に取り付けられた攪拌羽根(攪拌部材の一例で、羽根に限定されるものではない)75からなる攪拌体73とから構成されている。
【0057】
したがって、蒸着時に、電動機72により攪拌体73を回転させることにより、材料充填容器11内の蒸着材料を舞い上がらせて、材料案内管路12側に移動させることができ、したがって上述した実施例1における振動と同様の作用効果が得られる。
【0058】
すなわち、材料充填容器11内の粉体からなる蒸着材料を攪拌体73により攪拌するとともに不活性ガスを供給して材料案内管路12に案内させ且つこの材料案内管路12に加熱器16を設けて蒸着材料を気化させるようにしたので、従来のように、坩堝にて蒸着材料を加熱させるとともに、坩堝での加熱量を制御することにより蒸着レートを制御するものに比べて、坩堝すなわち材料充填容器11での蒸着材料を加熱する必要がなくなり、したがって蒸着材料の劣化を心配する必要がない。そして、不活性ガスの供給量を制御することにより、つまり不活性ガスの供給量を多くすることにより、蒸着レートを上げることができるので、従来のように、蒸着材料の加熱温度に依存していた場合とは異なり、限界温度を考慮する必要がなく、したがって蒸着レートを広範囲に制御することができる。すなわち、蒸着材料の加熱による悪影響を防止することができる。
【0059】
上記説明においては、振動付与器の替わりに攪拌装置71を設けたが、攪拌装置71と振動付与器とを一緒に設けてもよい。この場合、管状接続部材25が必要となる。
この場合、振動とともに攪拌も行われるため、振動により蒸着材料が塊になった場合に、この塊をほぐすことができる。
【0060】
そして、本実施例2においても、上記実施例1で説明した
図4〜
図8に係る変形例と同様の構成を適用することができる。
さらに、本実施例2においても、実施例1で説明した断熱部を設けた変形例(
図10にて示す)および液体貯溜部を設けた変形例(
図11にて示す)を適用することができる。
【0061】
以下、断熱部を設けた場合の真空蒸着装置の構成を、
図17に基づき簡単に説明する。
すなわち、材料移動経路変更管61と材料案内管路12との間に、実施例1の
図15に基づき説明した変形例のものと同様に、加熱が行われないとともに熱伝導率が低いつまり断熱性の良い材料からなる断熱部76が配置されている。この断熱部76としては、例えばジルコニア、ガラスなどにより構成された所定長さの管状体が用いられる。
【0062】
このように、加熱が行われる材料案内管路12の上流側に断熱部76を配置したので、材料案内管路12から熱が材料移動経路変更管61に伝わるのが防止され、つまり下側における温度勾配領域が短くなり、したがって加熱による蒸着材料の液体量を少なくすることができる。
【0063】
以下、液体貯溜部を設けた場合の真空蒸着装置の構成を、
図18に基づき簡単に説明する。
すなわち、材料移動経路変更管61と材料案内管路12との間に、実施例1の
図16に基づき説明した変形例のものと同様に、液体貯溜部78を設けて蒸着材料が液化した液体を回収するようにしてもよい。なお、液体貯溜部78と材料移動経路変更管61との間には両者を接続するための接続管80が設けられている。
【0064】
上記液体貯溜部78は、管体部78aと、この管体部78aの内方に且つ内面下端から上方に向かって設けられた円錐台形状(所謂、逆ホッパー形状をしており、下端開口径よりも上端開口径が小さくされている)の液受用筒状部78bとから構成され、この管体部78aと液受用筒状部78bとの間に液体貯溜室79が形成されている。したがって、蒸着材料が材料案内管路12より上流側の温度勾配領域にて液化されてなる液体は落下して液体貯溜室79に貯溜される。このように、液体の蒸着材料を回収することにより、材料充填容器11内で舞い上がった蒸着材料を蒸着室2にスムーズに移動させることができる。
【実施例3】
【0065】
さらに、本発明の実施例3に係る真空蒸着装置を図面に基づき説明する。
上述の実施例1では、材料充填容器を振動付与器により振動させるものとして説明したが、本実施例3の真空蒸着装置では、振動させる替わりに材料充填容器を回転させるようにしたものである。
【0066】
本実施例3に係る真空蒸着装置と実施例1との異なる個所は、材料充填容器の部分であるため、本実施例3においては、この部分に着目して説明するとともに、実施例1と同一の構成部材については、同一の番号を付してその詳しい説明は省略する。
【0067】
簡単に説明すると、実施例1で説明した材料案内管路に材料充填容器を接続するとともに、この材料充填容器を回転させる容器回転手段を具備したものであり、ここでは、この容器回転手段を中心にして説明する。なお、材料充填容器は振動されないため、管状接続部材は設けられていない。
【0068】
すなわち、
図19および
図20に示すように、本実施例3に係る真空蒸着装置における材料案内管路12の下側案内管12′bは、所定角度θ(例えば、0度を超えて90度以下の範囲)でもって屈曲されるとともに、その下端部には材料充填容器82を回転可能に保持し得る有底筒状の容器保持体81が接続されている。なお、下側案内管12′bを屈曲させなくてもよい。
【0069】
すなわち、この容器保持体81の内部には、上下端が開口された円筒体82aおよびこの円筒体82aの下端開口に取り付けられた多孔板82bから材料充填容器82が回転可能に且つ容器保持体81の底壁部から所定高さの隙間δを有して配置されている。そして、容器保持体81の底壁部の外面には容器回転手段として例えば電動機83が取り付けられるとともに、この電動機83の出力軸83aが容器保持体81の底壁部を挿通して材料充填容器82の多孔板82bに接続されている。また、この材料充填容器82の内部には螺旋羽根84が配置されている。勿論、容器保持体81の側面下部には、不活性ガスを供給するためのガス供給管21が接続されており、当然ながら、その接続口81aは上記隙間δに連通するように設けられている。
【0070】
したがって、蒸着時に、ガス供給管21より不活性ガスを容器保持体81内に供給して多孔板82bから円筒体82a内に噴出させるとともに電動機83により円筒体82aを回転させることにより、材料充填容器82内の蒸着材料を舞い上がらせて材料案内管路12側に移動させることができるので、上述した実施例1における振動と同様の作用効果が得られる。
【0071】
すなわち、材料充填容器82を回転させながら不活性ガスを供給して当該材料充填容器82内の蒸着材料を材料案内管路12に案内させるとともに、この材料案内管路12に加熱器17を設けて蒸着材料を気化させるようにしたので、従来のように、坩堝にて蒸着材料を加熱させるとともに、坩堝での加熱量を制御することにより蒸着レートを制御するものに比べて、坩堝すなわち材料充填容器82での蒸着材料を加熱する必要がなくなり、したがって蒸着材料の劣化を心配する必要がない。そして、不活性ガスの供給量を制御することにより、つまり不活性ガスの供給量を多くすることにより、蒸着レートを上げることができるので、従来のように、蒸着材料の加熱温度に依存していた場合とは異なり、限界温度を考慮する必要がなく、したがって蒸着レートを広範囲に制御することができる。すなわち、蒸着材料の加熱による悪影響を防止することができる。なお、材料充填容器82内に螺旋羽根84が配置されているため、当該材料充填容器82を回転させた際に、蒸着材料の舞い上がりを促進させることができる。場合によっては、螺旋羽根84を無くしてもよい。
【0072】
そして、本実施例3においても、上記実施例1で説明した
図6〜
図8に係る変形例と同様の構成を適用することができる。
また、本実施例3においても、上記実施例1で説明した
図12〜
図14に係る変形例と同様の構成を適用することができる。
【0073】
すなわち、材料案内管路12の下側案内管12′bに冷却機構を適用することができる。具体的に説明すれば、加熱が行われる下側案内管12′bが短くされるとともに、この下側案内管12′bと容器保持体81との間に新たに設けられる接続管との間に配置される短管部と、この短管部と下側案内管12′bの一部とに亘って且つこれらの内面に対して所定の環状隙間を有して配置される冷却部とから構成されることになる。なお、冷却部の構成は、
図12〜
図14で説明したものと同一にされる。
【0074】
さらに、本実施例3においても、実施例1で説明した断熱部を設けた変形例(
図21にて示す)および液体貯溜部を設けた変形例(
図22にて示す)を適用することができる。
以下、断熱部を設けた場合の真空蒸着装置の構成を、
図21に基づき簡単に説明する。
【0075】
すなわち、材料案内管路12の下側案内管12′bと容器保持体81との間に、実施例1の
図10に基づき説明した変形例のものと同様に、加熱が行われないとともに熱伝導率が低いつまり断熱性の良い材料からなる断熱部91が配置されている。この断熱部91としては、例えばジルコニア、ガラスなどにより構成された所定長さの管状体が用いられる。なお、折曲状の下側案内管12′bの上方直線部12′buを加熱領域としての上側案内管とし、折り曲げられた部分を含む折曲管部12′bdを断熱部としてもよい。
【0076】
このように、加熱が行われる材料案内管路12の上流側に断熱部91を配置したので、材料案内管路12から材料充填容器82側に熱が伝わるのが防止され、つまり下側における温度勾配領域が短くなり、したがって加熱による蒸着材料の液体量を少なくすることができる。
【0077】
また、液体貯溜部を設けた場合の真空蒸着装置の構成を、
図22に基づき簡単に説明する。
すなわち、材料案内管路12と材料充填容器82との間に、実施例1の
図11に基づき説明した変形例のものと同様に、液体貯溜部96を設けて蒸着材料が液化した液体を回収するようにしてもよい。なお、材料充填容器82を保持する容器保持体81は傾斜して設けられているため、液体貯溜部96と容器保持体81との間には折曲状の接続管98が設けられている。
【0078】
上記液体貯溜部96は、管体部96aと、この管体部96aの内方に且つ内面下端から上方に向かって設けられた円錐台形状(所謂、逆ホッパー形状をしており、下端開口径よりも上端開口径が小さくされている)の液受用筒状部96bとから構成され、この管体部96aと液受用筒状部96bとの間に液体貯溜室97が形成されている。
【0079】
したがって、蒸着材料が材料案内管路12より上流側の温度勾配領域にて液化されてなる液体は落下して液体貯溜室97に貯溜される。このように、液体の蒸着材料を回収することにより、材料充填容器11内で舞い上がった蒸着材料を蒸着室2にスムーズに移動させることができる。
【0080】
また、上記実施例1〜3においては、基板がフィルムである場合について説明したが、例えば
図1,
図15,
図16,
図17および
図19の仮想線にて示すように、基板K′が、平面視が矩形状のステンレス製、シリコン製の板材であってもよい。勿論、この場合、蒸着作業はバッチ式で行われる。
【0081】
また、上記実施例1〜3においては、先端部を除いた材料案内管路および材料充填容器を、蒸着用容器の外部に配置したが、必要に応じて、材料案内管路を、または材料案内管路および材料充填容器を、蒸着用容器の内部に配置してもよく、さらには、蒸着用容器内で水平に配置された基板の下面に蒸着させるように説明したが、例えば基板を鉛直に配置して基板の鉛直面に蒸着させるものにでも、または水平に配置された基板の上面に蒸着させるようにしたものにでも適用することができる。
【0082】
この場合の構成を上述した実施例1〜3に係る構成に含めた真空蒸着装置の構成を説明すると、下記のようになる。
すなわち、この真空蒸着装置は、真空下で被蒸着部材の表面に蒸着材料を付着させて薄膜を形成するための蒸着用容器と、上記蒸着用容器内の被蒸着部材に蒸着材料を導く材料供給装置とを具備し、
上記材料供給装置を、
粉体の蒸着材料が充填される材料充填容器と、
上記材料充填容器内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段と、
上記蒸着材料を被蒸着部材に案内する材料案内手段と、
上記被蒸着部材に案内される蒸着材料の供給量を制御する蒸着材料制御手段と、
上記材料案内手段を、または上記材料案内手段の内部を加熱することにより当該材料案内手段にて案内される蒸着材料を気化させる加熱手段とから構成したものであり、
また上記蒸着材料制御手段として、不活性ガス供給手段に設けられて不活性ガスの供給量を制御するガス流量制御弁を用いたものである。
【0083】
以下、さらに実施例4〜6について説明する。
上記実施例1〜3で示した真空蒸着装置においては、蒸着材料の蒸発量の制御を、振動と不活性ガスの供給量に基づき行うものとして説明したが、以下に示す実施例では、振動と材料案内管路での蒸着材料(蒸発した蒸着材料)の通過量(蒸着量)を制御するようにしたものである。
【0084】
なお、実施例4〜6に係る真空蒸着装置の構成は、上述した実施例1〜3で説明したものと、殆ど同じものであるが、再度、説明する。
【実施例4】
【0085】
以下、本発明の実施例4に係る真空蒸着装置を図面に基づき説明する。
この真空蒸着装置は、
図23に示すように、所定の真空下(例えば、10
−5Pa以下の高真空下)で被蒸着部材である薄膜状の基板(具体的には、フィルムが用いられる)Kの表面(下面)に蒸着材料Mを付着させて薄膜を形成するための蒸着室(成膜室とも言う)102を有する蒸着用容器(成膜用容器または真空チャンバとも言う)101と、この蒸着用容器1に、すなわち蒸着室102に蒸着材料Mを供給する(導く)材料供給装置103とが具備されている。
【0086】
まず、蒸着用容器101内の構成について簡単に説明しておく。
この蒸着用容器101の蒸着室102内の上部には、被蒸着部材である基板Kの保持装置105が配置されるとともに、この保持装置105の直ぐ側方には、基板Kの表面に付着した蒸着材料Mの膜厚を検出するための膜厚センサ106が配置され、また保持装置105の下方には、基板Kへの蒸着材料Mの供給および停止を行うためのシャッター部材107が設けられている。上記保持装置105は、基板Kであるフィルムを連続的に蒸着領域(後述する材料案内管路先端のノズル部に対応する所定範囲の領域)に案内するためのものであり、基板Kを巻き出すための巻出しロール105aと、基板Kを巻き取る巻取りロール105bと、これら両ロール105a,105b間に配置されて基板Kの蒸着面を蒸着領域に案内する案内ロール105cとから構成されている。なお、基板Kを案内ロール105cの表面に沿って移動させるための転向用ロール105dが案内ロール105cの前後(基板の移動方向での前後)に配置されている。また、上記シャッター部材107は、例えばモータなどの回転機107aにより鉛直軸心回りで回転される回転軸体107bと、この回転軸体107bの上端に取り付けられて保持装置105により保持された基板Kの蒸着面(案内ロール105cの最下端の直線部を含む水平面)と平行な平面内で揺動されるシャッター板107cとから構成され、回転軸体107bの回転により、シャッター板107cが基板Kの表面を覆う蒸着停止位置と、表面を開放する蒸着許可位置との間で揺動自在にされたものである。上記膜厚センサ106からの測定値は、後述する蒸着量制御弁を制御する蒸着レート制御装置108に入力される。
【0087】
次に、本発明の要旨である材料供給装置103について説明する。
この材料供給装置103は、蒸着用容器101の下方に配置されて粉体(例えば、粒径が0.25mm以下の粉末である)の蒸着材料Mが充填される材料充填容器(例えば、坩堝と同様の有底円筒状容器が用いられる)111と、この材料充填容器111と上記蒸着用容器101とに亘って鉛直方向で設けられた材料案内手段としての材料案内管路112と、上記材料充填容器111の底部に取り付けられて当該容器111内の蒸着材料Mに振動を与える振動付与器(振動付与手段)113と、上記材料充填容器111内の下部に不活性ガス(例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどが用いられる。また、蒸着材料がフッ素化合物でない場合には、クリプトン、キセノン、ラドンなどを用いてもよい。)Gを供給して上記振動付与器113により振動が与えられた蒸着材料Mを上記材料案内管路112内に、つまり上方に導く(案内)ための不活性ガス供給装置(不活性ガス供給手段)114と、上記材料案内管路112の途中に配置されて蒸着材料Mの通過量(蒸着量)を制御するための蒸着量制御弁(蒸着材料制御弁とも言える)115aおよびこの蒸着量制御弁115aの開度を調節する駆動部115bからなる蒸着量制御装置(蒸着材料制御手段)115と、上記材料案内管路112における蒸着量制御弁115aの設置部分並びにその上側の上側案内管112aおよびその下側の下側案内管112bを加熱することにより材料案内管路112内に移送された蒸着材料Mを気化(昇華または蒸発)させる加熱器(加熱手段)116とから構成したものである。また、加熱個所については、少なくとも下側案内管112bであればよい(下側案内管112bを加熱するのは、蒸着量制御弁115aで蒸着レートを制御する関係上、その上流側で蒸着材料Mを気化させる必要があるから)。
【0088】
上記振動付与器113は、具体的に図示しないが、例えばケーシング内に偏心軸を介して回転自在に設けられた振動体と、上記偏心軸を回転させて当該振動体を振動させるモータなどから構成されたものである。この振動付与器113により、材料充填容器111内の蒸着材料Mに主として上下方向に振動が付与されて浮遊させられるとともに、水平方向にも振動されて蒸着材料Mがほぐされる。すなわち、振動により蒸着材料Mの浮遊が促進される。
【0089】
また、上記加熱器116は、材料案内管路112の周囲に巻き付けられた電熱線(例えば、ニクロム線など)と、この電熱線に電気を供給する電源(図示せず)などから構成されている。
【0090】
また、上記不活性ガス供給装置114は、先端部が材料充填容器111に設けられた充填室111aの下部に形成されたガス供給口111bに接続されるとともに途中にガス流量制御弁122が設けられたガス供給管121、このガス供給管121の基端部に接続されて不活性ガスGを供給し得るガス充填ボンベ123などから構成されている。
【0091】
また、上記材料案内管路112の上端、すなわち上側案内管112aの上端部が蒸着用容器101の底壁部を挿通されて蒸着室102内に開口されるとともに、下端は、ベローズなどの管状接続部材125を介して、材料充填容器111の上端開口部に接続されている。なお、上側案内管112aの上端には、蒸着材料を放出するノズル部112cが設けられている。
【0092】
そして、上述した蒸着量制御弁115aは上側案内管112aの下部、すなわち上側案内管112aと下側案内管112bとの間に設けられている。なお、上記加熱器116の電熱線は、蒸着量制御弁115a並びにその上側案内管112aおよび下側案内管112bに巻き付けられている。上記蒸着量制御弁115aは、上述した蒸着レート制御装置108からの開度指令に基づき制御される。
【0093】
上記構成において、基板Kとしてのフィルムの表面(下面)に、所定材料の薄膜を形成する場合、蒸着室102内の保持装置105に基板Kを保持させた状態、すなわち基板Kが案内用ロール107cの下部表面に亘って案内された状態で、蒸着室102内を所定の真空度に維持しておく。
【0094】
そして、充填材料供給側では、材料充填容器111の充填室111a内に所定の蒸着材料Mの粉体を充填するとともにガス供給管121にも不活性ガスGを充填しておき、さらに加熱器116により材料案内管路112を所定温度に加熱しておく。なお、材料案内管路112内も蒸着室102と同様に真空下にされている。
【0095】
この状態で、振動付与器113を作動させて材料充填容器111に所定の振動数および振幅でもって、例えば1Hz〜30Hzの振動数および3mm以下の振幅でもって振動を付与するとともに、ガス流量制御弁122を開いてガス供給管121より不活性ガス(例えば、アルゴンガスが用いられる)Gを所定の供給量でもって充填室111a内に供給する。
【0096】
すると、充填室111a内の蒸着材料Mは、振動が付与されるとともに充填室111a内に供給された不活性ガスGにより、上方に舞い上がるとともに材料案内管路112内を上方に移動し、蒸着量制御弁115aおよびその上方部分に配置された加熱器116により所定温度(具体的には、蒸着材料の気化温度)に加熱されて気化する。この気化した蒸着材料Mはノズル部112cから蒸着室102内に移動し、基板Kの表面に付着して堆積する。すなわち、基板Kの表面に蒸着材料の薄膜が形成される。勿論、基板Kは薄膜の形成とともに、所定速度で巻取りロール105b側に巻き取られて連続的に形成されるが、場合によっては、所定長さ毎に、間欠的に(所謂、バッチ式で)形成するようにしてもよい。
【0097】
なお、この基板Kへの蒸着量については、膜厚センサ106からの測定値である膜厚値が蒸着レート制御装置108に入力され、ここで、蒸着レートが求められるとともに、予め設定された蒸着レートとなるように、駆動部115bに開度指令が出力されて蒸着量制御弁115aが制御される。
【0098】
ここで、蒸着材料について説明しておく。
すなわち、蒸着材料Mとしては、無機物材料および有機物材料が用いられ、特に有機物材料の中でも、有機EL用の材料が用いられる他、糖類なども用いられる。
【0099】
詳しく説明すると、無機物材料としては、銅、アルミニウムなどの金属(全ての金属および合金、金属を含む化合物)、半金属(全ての半金属および半金属を含む化合物)、ハロゲン物質(全てのハロゲン物質、ハロゲン物質を含む化合物)が用いられ、その他、炭素(C)若しくはセレン(Se)、または炭素(C)を含む化合物、若しくはセレン(Se)を含む化合物も用いられる。
【0100】
上記金属を含む化合物としては、例えば酸化ガリウム(Ga
2O
3)、酸化タングステン(WO
3)などが用いられ、上記半金属としては、例えばホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)、ポロニウム(Po)などが用いられ、上記半金属を含む化合物としては、例えば酸化ホウ素(B
2O
3)、酸化ケイ素(SiO
2)などが用いられる。
【0101】
また、有機EL用の材料としては、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子注入層および電子輸送層に用いられるものがある。
正孔注入層用および正孔輸送層用の材料としては、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(TPD)、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(α−NPD)などがある。
【0102】
発光層用の材料としては、アリールアミン誘導体、アントラセン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体などがある。
電子注入層用および電子輸送層用の材料としては、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq
3)、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)などがある。
【0103】
ここで、振動数と基板表面での蒸着レートとの関係を調べると、
図24に示すように、蒸着レートは振動数に比例していることが分かる。すなわち、振動数を制御した場合でも、蒸着レートを制御し得ることが分かる。なお、振動数を一定に維持することにより、蒸着材料を均すことができるので、蒸着レートの安定化を図ることができる。
【0104】
上記真空蒸着装置の構成によると、材料充填容器111に不活性ガスを供給することにより、充填室111aに充填された蒸着材料を材料案内管路112に案内させるとともに、この材料案内管路112に加熱器116を設けて蒸着材料を気化させるようにしたので、従来のように、坩堝にて蒸着材料を加熱させるとともに坩堝での加熱量を制御することにより蒸着レートを制御するものに比べて、坩堝すなわち材料充填容器111での蒸着材料を加熱する必要がなくなり、したがって蒸着材料の劣化を心配する必要がない。
【0105】
ところで、上記実施例4においては、不活性ガス供給装置114において、不活性ガスGを材料充填容器111の下部側方から供給するように説明したが、例えば
図25に示すように、充填室111a内に底から所定高さでもって多孔性板材(目が小さいメッシュ板)131を配置するとともにその下方空間部Sに不活性ガスGを供給し得るように、ガス供給管121を側壁から挿通させて充填室111aの下方に開口させ(勿論、ガス供給管121を下方空間部Sに直接開口させるようにしてもよい)、そして充填室111aの下部から不活性ガスGを供給することにより、粉体からなる蒸着材料Mを舞い上がりやすくさせるようにしてもよい。
【0106】
また、
図26に示すように、振動付与器113′を材料充填容器111の側面に取り付けて、不活性ガスGを材料充填容器111の底壁部に形成された穴部111cから供給することにより、
図25の場合と同様に、蒸着材料を舞い上がりやすくさせてもよい。
【0107】
また、上記実施例4においては、下側案内管112bの外側を加熱するように説明したが、内部から加熱するようにしてもよい。
例えば、
図27に示すように、下側案内管112bの内面に、加熱器としての電熱線133を配置して、内部で加熱するようにしてもよい。
【0108】
また、
図28に示すように、下側案内管112b内で且つ高さ方向の中間位置に、加熱器としての多孔性板材例えばパンチングメタル(金網であってもよい)135を配置するとともに、このパンチングメタル135を加熱源(図示しないが、例えば当該パンチングメタルに設けた抵抗加熱方式の加熱器)により加熱するようにしてもよい。
【0109】
また、
図29に示すように、下側案内管112bの高さ方向の中間位置における側壁部に透光性を有する窓部材137を設け、且つこの窓部材137に加熱器としての加熱用ランプ(例えば、ハロゲンランプ、白熱球などが用いられる)138を配置し、この加熱用ランプ138からの放射光により、下側案内管112b内を移動する蒸着材料Mを加熱するようにしてもよい。
【0110】
また、上記実施例4においては、振動付与器113を材料充填容器111の底壁部に且つその外側に配置したが、
図30に示すように、充填室111a内の底部に振動付与器113″を配置してもよい。この場合、振動付与器113″が振動体(振動発生部とも言える)とモータなどの駆動部とが分離して配置し得る場合には、少なくとも、振動体を充填室111a内に配置すればよい。
【0111】
また、上記実施例4においては、管状接続部材125の直ぐ上方(蒸着材料の移動方向での下流側)に加熱が行われる材料案内管路112を配置(接続)したが、
図31に示すように、これら両者の間に加熱が行われないとともに熱伝導率が低いつまり断熱性の良い材料からなる断熱部141を配置してもよい。この断熱部141としては、例えばジルコニア、ガラスなどにより構成された所定長さの管状体が用いられる。
【0112】
このように、加熱が行われる材料案内管路112の下方に断熱部141を配置したので、材料案内管路112から熱が管状接続部材125に(蒸着材料の移動方向での上流側に)伝わるのが防止され、つまり下側における温度勾配領域(厳密には、加熱が行われる材料案内管路112よりも上流側の加熱されない領域における温度勾配)が短くなり、したがって加熱による蒸着材料の液化を抑制することができる。
【0113】
また、上記実施例4においては、管状接続部材125の直ぐ上方に加熱が行われる材料案内管路112を配置(接続)したので、これよりも上流側の温度勾配領域にて蒸着材料が液化して内面に付着するが、
図32に示すように、両者の間に、断熱部として液体貯溜部146を設けてその液体を回収するようにしてもよい。この液体貯溜部146は、管体部146aと、この管体部146aの内方に且つ内面下端から上方に向かって設けられた円錐台形状(所謂、逆ホッパー形状をしており、下端開口径よりも上端開口径が小さくされている)の液受用筒状部146bとから構成され、この管体部146aと液受用筒状部146bとの間に液体貯溜室147が形成されている。したがって、蒸着材料が材料案内管路112より上流側の温度勾配領域で液化されてなる液体は落下して液体貯溜室147に貯溜される。このように、液体の蒸着材料を回収することにより、材料充填容器111内で舞い上がった蒸着材料を蒸着室102にスムーズに移動させることができる。より詳しく説明すると、温度勾配領域の内壁面に液体が付着して舞い上がった蒸着材料の通過を阻害したり、液体が材料充填容器111内に落下して蒸着材料の舞い上がりを阻害するのを、抑制することができる。
【0114】
また、上記実施例4においては、管状接続部材125の直ぐ上方(蒸着材料の移動方向での下流側)に加熱が行われる材料案内管路112を配置(接続)したが、
図33〜
図35に示すように、これら両者の間に、上流側の温度勾配領域を減少させるための冷却機構151を設けてもよい。この冷却機構151は、管状接続部材125とその直ぐ上方(蒸着材料の移動方向での下流側)の加熱が行われる下側案内管112bとの間に配置される短管部152と、この短管部152と下側案内管112bの一部とに亘って且つこれらの内面に対して所定の環状隙間dを有して配置される冷却部153とから構成されている。
【0115】
そして、この冷却部153は、管内面に配置されて二重管構造により環状冷却室155が形成されるとともに任意位置で上下方向の仕切板156が配置されることにより当該環状冷却室155の水平断面がC字形状にされた冷却用管体154と、この冷却用管体154の環状冷却室155の仕切板156の一側面寄り位置で当該冷却用管体154に接続されて冷却水などの冷却流体(所謂、ブラインである)Fを供給する冷却流体供給管157と、環状冷却室155の仕切板156の他側面寄り位置で当該冷却用管体154に接続されて冷却流体Fを排出する冷却流体排出管158と、これら冷却流体供給管157および冷却流体排出管158を介して冷却流体を循環供給するための冷却器159とから構成されている。また、環状冷却室155内には、冷却流体Fを上下に蛇行して移動させるための邪魔板160が所定間隔置きで且つ上下から交互に複数突出するように設けられている。なお、環状隙間dの底部には環状底板165が設けられて、上流側(下方)から蒸着材料および不活性ガスが入るのを防止している。
【0116】
ところで、環状隙間dを設けたのは、下側案内管112bから熱が冷却部153に伝わるのを防ぐためであり、さらにこの環状隙間dには、互いに細い隙間を有して筒状の薄いステンレス鋼板(
図34および
図35に、1枚だけ配置した状態を仮想線にて示すが、実際には、複数枚でもって配置されている)166が複数枚(例えば、2〜3重程度でもって)配置されて、下側案内管112bからの輻射熱が冷却部53に伝わるのが確実に防止されている。
【0117】
したがって、冷却流体供給管157から供給された冷却流体Fは、環状冷却室155の一端側に入るとともに邪魔板160により上下に移動しながら且つ環状冷却室155の他端側に移動し、つまり、その周囲を冷却しながら、冷却流体排出管158から排出される。この排出された冷却流体Fは、冷却器159にて冷却された後、再度、冷却流体供給管157を介して環状冷却室155に供給される。このように、冷却機構151、すなわち下側案内管112bの一部および短管部152を冷却するようにしたので、蒸着材料の温度勾配の距離を短くすることができる。言い換えれば、冷却部の一部を高温の加熱部に配置して、より蒸着材料の温度勾配の距離を短くすることにより、蒸発した蒸着材料つまり蒸発材料の液化を抑制することができる。
【0118】
なお、上記冷却部153においては、環状冷却室155内に邪魔板160を配置したが、邪魔板を無くしたものでもよく、また二重管構造の代わりに、管内面(下側案内管112bの一部および短管部152の内面)に冷却管を螺旋状に巻き付けるようにしたものでもよい。
【0119】
また、上記実施例4においては、管状接続部材125の直ぐ上方に加熱が行われる材料案内管路112を直線状に(鉛直方向で)接続したが、
図36に示すように、この材料案内管路112の下側案内管112bと管状接続部材125との間に配置されて上方に移動する蒸着材料の移動経路を変更させる側面視L字形状(傾斜したものでもよい)の管状体からなる材料移動経路変更管(材料移動経路変更部材とも言える)161を配置してもよい。
【0120】
この材料移動経路変更管161は、側面視L字形状(正確には、逆L字形状)にされた下側案内管112bに一端部が接続された水平の第1移動経路変更管161aと、この第1移動経路変更管161aの他端部と管状接続部材125とに接続された鉛直の第2移動経路変更管161bとから構成されており、勿論、下側案内管112bと第2移動経路変更管161bとは、その設置位置が水平方向で互いにずらされている。なお、この材料移動経路変更管161は非加熱領域にされている。
【0121】
このように、下側案内管112bと管状接続部材125との間に、側面視がL字形状の材料移動経路変更管161を配置したので、材料充填容器111内の蒸着材料が、加熱器116が設けられた加熱領域である下側案内管112bからの輻射熱の影響を受けるのが防止されている。すなわち、材料充填容器111内の蒸着材料表面での溶融がなくなり、蒸着レートの安定化および不活性ガスの流量の低減化を図ることができる。なお、材料移動経路変更管161を設けない場合には、蒸着材料側から加熱領域である高温加熱部(下側案内管112b)が直接見えるため、高温加熱部からの輻射熱により蒸着材料の表面が溶融し、したがって溶着材料の損失に加えて材料の舞い上がりが抑制されることにより、蒸着レートが不安定になるとともに供給する不活性ガスの流量が増加するのを防止することができる。
【0122】
これら
図33〜
図36に示す変形例についても、
図25〜
図30で示したものに適用することができる。
上記実施例4における蒸着材料の移動経路を構成する管部材同士の結合部についての説明は特にしなかったが、図面に示すように、フランジ継手が用いられている(以下に示す実施例5および実施例6についても同様とする)。
【実施例5】
【0123】
次に、本発明の実施例5に係る真空蒸着装置を図面に基づき説明する。
上述の実施例4では、材料充填容器を振動付与器(振動手段)により振動させるものとして説明したが、本実施例5の真空蒸着装置は、振動させる替わりに材料充填容器内を攪拌させるようにしたものである。
【0124】
本実施例5に係る真空蒸着装置と実施例1との異なる個所は、材料充填容器の部分であるため、本実施例5では、この部分に着目して説明するとともに、実施例4と同一の構成部材については、同一の番号を付してその詳しい説明は省略する。
【0125】
簡単に説明すると、実施例4で説明した材料移動経路変更管161に、材料充填容器111内の蒸着材料を攪拌し得る攪拌装置(攪拌手段)を設けたものであり、ここでは、この攪拌装置を中心にして説明する。なお、材料充填容器は振動されないため、管状接続部材125は設けられていない。
【0126】
すなわち、
図37に示すように、実施例5に係る攪拌装置171は、下側案内管112bに一端部が接続された水平の第1経路変更管部161aの他端側に配置された電動機172と、第2経路変更管部161b内に鉛直方向で配置されるとともに上端が電動機172に接続された回転軸174およびこの回転軸の下端に取り付けられた攪拌羽根(攪拌部材の一例で、羽根に限定されるものではない)175からなる攪拌体173とから構成されている。
【0127】
したがって、蒸着時に、電動機172により攪拌体173を回転させることにより、材料充填容器111内の蒸着材料を舞い上がらせて、材料案内管路112側に移動させることができ、したがって上述した実施例4における振動と同様の作用効果が得られる。
【0128】
すなわち、材料充填容器111内の粉体からなる蒸着材料を攪拌体173により攪拌するとともに不活性ガスを供給して材料案内管路112に案内させ且つこの材料案内管路112に加熱器116を設けて蒸着材料を気化させるようにしたので、従来のように、坩堝にて蒸着材料を加熱させるとともに、坩堝での加熱量を制御することにより蒸着レートを制御するものに比べて、坩堝すなわち材料充填容器111での蒸着材料を加熱する必要がなくなり、したがって蒸着材料の劣化を心配する必要がない。
【0129】
上記説明においては、振動付与器の替わりに攪拌装置171を設けたが、攪拌装置171と振動付与器とを一緒に設けてもよい。この場合、管状接続部材125が必要となる。
この場合、振動とともに攪拌も行われるため、振動により蒸着材料が塊になった場合に、この塊をほぐすことができる。
【0130】
そして、本実施例5においても、上記実施例4で説明した
図25〜
図29に係る変形例と同様の構成を適用することができる。
また、本実施例5においても、上記実施例1で説明した
図33〜
図35に係る変形例と同様の構成を適用することができる。
【0131】
すなわち、材料案内管路112の下側案内管112bに冷却機構を適用することができる。具体的に説明すれば、加熱が行われる側面視L字形状の下側案内管112bの鉛直部が長くされ、且つこの下側案内管112bの上方部が加熱部にされるとともにこの下側案内管112bの下方部が短管部とされ、この短管部と下側案内管112bの上方部とに亘って且つこれらの内面に対して所定の環状隙間を有して配置される冷却部が設けられる。なお、冷却部の構成は、
図33〜
図35で説明したものと同一にされる。
【0132】
さらに、本実施例5においても、実施例4で説明した断熱部を設けた変形例(
図31にて示す)および液体貯溜部を設けた変形例(
図32にて示す)を適用することができる。
以下、断熱部を設けた場合の真空蒸着装置の構成を、
図38に基づき簡単に説明する。
【0133】
すなわち、材料移動経路変更管161と材料案内管路112との間に、実施例4の
図36に基づき説明した変形例のものと同様に、加熱が行われないとともに熱伝導率が低いつまり断熱性の良い材料からなる断熱部176が配置されている。この断熱部176としては、例えばジルコニア、ガラスなどにより構成された所定長さの管状体が用いられる。
【0134】
このように、加熱が行われる材料案内管路112の上流側に断熱部176を配置したので、材料案内管路112から熱が材料移動経路変更管161に伝わるのが防止され、つまり下側における温度勾配領域が短くなり、したがって加熱による蒸着材料の液体量を少なくすることができる。
【0135】
以下、液体貯溜部を設けた場合の真空蒸着装置の構成を、
図39に基づき簡単に説明する。
すなわち、材料移動経路変更管161と材料案内管路112との間に、実施例4の
図37に基づき説明した変形例のものと同様に、液体貯溜部178を設けて蒸着材料が液化した液体を回収するようにしてもよい。なお、液体貯溜部178と材料移動経路変更管161との間には両者を接続するための接続管180が設けられている。
【0136】
上記液体貯溜部178は、管体部178aと、この管体部178aの内方に且つ内面下端から上方に向かって設けられた円錐台形状(所謂、逆ホッパー形状をしており、下端開口径よりも上端開口径が小さくされている)の液受用筒状部178bとから構成され、この管体部178aと液受用筒状部178bとの間に液体貯溜室179が形成されている。したがって、蒸着材料が材料案内管路112より上流側の温度勾配領域にて液化されてなる液体は落下して液体貯溜室179に貯溜される。このように、液体の蒸着材料を回収することにより、材料充填容器111内で舞い上がった蒸着材料を蒸着室102にスムーズに移動させることができる。
【実施例6】
【0137】
さらに、本発明の実施例6に係る真空蒸着装置を図面に基づき説明する。
上述の実施例4では、材料充填容器を振動付与器により振動させるものとして説明したが、本実施例6の真空蒸着装置では、振動させる替わりに材料充填容器を回転させるようにしたものである。
【0138】
本実施例6に係る真空蒸着装置と実施例4との異なる個所は、材料充填容器の部分であるため、本実施例6においては、この部分に着目して説明するとともに、実施例4と同一の構成部材については、同一の番号を付してその詳しい説明は省略する。
【0139】
簡単に説明すると、実施例4で説明した材料案内管路に材料充填容器を接続するとともに、この材料充填容器を回転させる容器回転手段を具備したものであり、ここでは、この容器回転手段を中心にして説明する。なお、材料充填容器は振動されないため、管状接続部材は設けられていない。
【0140】
すなわち、
図40および
図41に示すように、本実施例6に係る真空蒸着装置における材料案内管路112の下側案内管112′bは、所定角度θ(例えば、0度を超えて90度以下の範囲)でもって屈曲されるとともに、その下端部には材料充填容器182を回転可能に保持し得る有底筒状の容器保持体181が接続されている。なお、下側案内管112′bを屈曲させなくてもよい。
【0141】
すなわち、この容器保持体181の内部には、上下端が開口された円筒体182aおよびこの円筒体182aの下端開口に取り付けられた多孔板182bから材料充填容器182が回転可能に且つ容器保持体181の底壁部から所定高さの隙間δを有して配置されている。そして、容器保持体181の底壁部の外面には容器回転手段として例えば電動機183が取り付けられるとともに、この電動機183の出力軸183aが容器保持体181の底壁部を挿通して材料充填容器182の多孔板182bに接続されている。また、この材料充填容器182の内部には螺旋羽根184が配置されている。勿論、容器保持体181の側面下部には、不活性ガスを供給するためのガス供給管121が接続されており、当然ながら、その接続口181aは上記隙間δに連通するように設けられている。
【0142】
したがって、蒸着時に、ガス供給管121より不活性ガスを容器保持体181内に供給して多孔板182bから円筒体182a内に噴出させるとともに電動機183により円筒体182aを回転させることにより、材料充填容器182内の蒸着材料を舞い上がらせて材料案内管路112側に移動させることができるので、上述した実施例4における振動と同様の作用効果が得られる。
【0143】
すなわち、材料充填容器182を回転させながら不活性ガスを供給して当該材料充填容器182内の蒸着材料を材料案内管路112に案内させるとともに、この材料案内管路112に加熱器116を設けて蒸着材料を気化させるようにしたので、従来のように、坩堝にて蒸着材料を加熱させるとともに、坩堝での加熱量を制御することにより蒸着レートを制御するものに比べて、坩堝すなわち材料充填容器182での蒸着材料を加熱する必要がなくなり、したがって蒸着材料の劣化を心配する必要がない。なお、材料充填容器182内に螺旋羽根184が配置されているため、当該材料充填容器182を回転させた際に、蒸着材料の舞い上がりを促進させることができる。場合によっては、螺旋羽根184を無くしてもよい。
【0144】
そして、本実施例6においても、上記実施例4で説明した
図27〜
図29に係る変形例と同様の構成を適用することができる。
さらに、本実施例6においても、実施例4で説明した断熱部を設けた変形例(
図42にて示す)および液体貯溜部を設けた変形例(
図43にて示す)を適用することができる。
【0145】
以下、断熱部を設けた場合の真空蒸着装置の構成を、
図42に基づき簡単に説明する。
すなわち、材料案内管路112の下側案内管112′bと容器保持体181との間に、実施例4の
図31に基づき説明した変形例のものと同様に、加熱が行われないとともに熱伝導率が低いつまり断熱性の良い材料からなる断熱部191が配置されている。この断熱部191としては、例えばジルコニア、ガラスなどにより構成された所定長さの管状体が用いられる。なお、折曲状の下側案内管112′bの上方直線部112′buを加熱領域としての上側案内管とし、折り曲げられた部分を含む折曲管部112′bdを断熱部としてもよい。
【0146】
このように、加熱が行われる材料案内管路112の上流側に断熱部191を配置したので、材料案内管路112から材料充填容器182側に熱が伝わるのが防止され、つまり下側における温度勾配領域が短くなり、したがって加熱による蒸着材料の液体量を少なくすることができる。
【0147】
また、液体貯溜部を設けた場合の真空蒸着装置の構成を、
図43に基づき簡単に説明する。
すなわち、材料案内管路112と材料充填容器182との間に、実施例4の
図32に基づき説明した変形例のものと同様に、液体貯溜部196を設けて蒸着材料が液化した液体を回収するようにしてもよい。なお、材料充填容器182を保持する容器保持体181は傾斜して設けられているため、液体貯溜部196と容器保持体181との間には折曲状の接続管198が設けられている。
【0148】
上記液体貯溜部196は、管体部196aと、この管体部196aの内方に且つ内面下端から上方に向かって設けられた円錐台形状(所謂、逆ホッパー形状をしており、下端開口径よりも上端開口径が小さくされている)の液受用筒状部196bとから構成され、この管体部196aと液受用筒状部196bとの間に液体貯溜室197が形成されている。
【0149】
したがって、蒸着材料が材料案内管路112より上流側の温度勾配領域にて液化されてなる液体は落下して液体貯溜室197に貯溜される。このように、液体の蒸着材料を回収することにより、材料充填容器111内で舞い上がった蒸着材料を蒸着室102にスムーズに移動させることができる。
【0150】
また、上記各実施例においては、基板がフィルムである場合について説明したが、例えば
図23,
図36,
図37,
図38および
図40の仮想線にて示すように、基板K′が、平面視が矩形状のステンレス製、シリコン製の板材であってもよい。勿論、この場合、蒸着作業はバッチ式で行われる。
【0151】
また、上記実施例4〜6においては、先端部を除いた材料案内管路および材料充填容器を、蒸着用容器の外部に配置したが、必要に応じて、材料案内管路を、または材料案内管路および材料充填容器を、蒸着用容器の内部に配置してもよく、さらには、蒸着用容器内で水平に配置された基板の下面に蒸着させるように説明したが、例えば基板を鉛直に配置して基板の鉛直面に蒸着させるものにでも、または水平に配置された基板の上面に蒸着させるようにしたものにでも適用することができる。
【0152】
この場合の構成を上述した実施例4〜6に係る構成を含めた真空蒸着装置の構成を説明すると、下記のようになる。
すなわち、この真空蒸着装置は、真空下で被蒸着部材の表面に蒸着材料を付着させて薄膜を形成するための蒸着用容器と、上記蒸着用容器内の被蒸着部材に蒸着材料を導く材料供給装置とを具備し、
上記材料供給装置を、
粉体の蒸着材料が充填される材料充填容器と、
上記材料充填容器内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段と、
上記蒸着材料を被蒸着部材に案内する材料案内手段と、
上記被蒸着部材に案内される蒸着材料の供給量を制御する蒸着材料制御手段と、
上記材料案内手段を、または上記材料案内手段の内部を加熱することにより当該材料案内手段にて案内される蒸着材料を気化させる加熱手段とから構成したものであり、
また上記蒸着材料制御手段として、材料案内手段の途中に配置された蒸着材料の通過量を制御する蒸着量制御弁を用いたものである。
【0153】
ところで、上記実施例1〜3においては、不活性ガスの供給量を蒸着レート制御装置により制御するように説明し、また上記実施例4〜6においては、材料案内手段での(材料案内管路内の)蒸着材料の通過量を蒸着レート制御装置により制御するように説明したが、場合によっては、不活性ガスの供給量および蒸着材料の通過量を蒸着レート制御装置により制御するようにしてもよい。すなわち、ガス流量制御弁および蒸着量制御弁を蒸着レート制御装置により制御するようにしてもよい。