【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。
【0029】
<評価試験1>
研磨用組成物として、コラーゲンペプチド(分子量:4000)及び水を含んだ実施例1〜5、並びに、HEC及び水を含んだ比較例1〜5を作製した。また、コラーゲンペプチド及びHECのいずれも含まない水を準備し、比較例6とした。各実施例及び比較例の配合量は、表1に示す。実施例1〜5及び比較例1〜5の作製条件は、添加剤の種類及び濃度の少なくとも一方が変更されていることを除いて、全て同一であった。
【0030】
研磨装置としてG&P社製のPoli500、研磨パッドとしてニッタ・ハース株式会社製のIC1000を用い、研磨用組成物として実施例1〜5及び比較例1〜6を用いて、シリコンウェーハの研磨を行った。研磨条件は、プラテン回転数:67rpm、研磨ヘッド回転数:66rpm、荷重:100gf/cm
2、及びスラリー供給速度:150mL/minであった。
【0031】
各実施例及び比較例を用いて行った研磨の研磨速度を、黒田精工株式会社製のウェーハ用平坦度検査装置(Nanometro 300TT−A)を用いて測定した。測定結果を表1に示す。なお、
図1は、評価試験1の実施例1〜5において、コラーゲンペプチドの濃度と研磨速度の関係をグラフ化したものである。
【0032】
【表1】
【0033】
表1を参照して、コラーゲンペプチド及び水のみを含む実施例1〜5では良好な研磨速度でウェーハ表面の研磨を行うことができたのに対し、HECと水のみを含む比較例1〜5、及び水そのものである比較例6では、ウェーハの研磨を行うことができなかった。これより、コラーゲンペプチド溶液を用いれば、砥粒や親水性高分子を含んでいなくても、良好な研磨速度でウェーハの研磨をすることができることが分かる。
【0034】
また、表1及び
図1より、コラーゲンペプチドの濃度が大きくなるほど研磨速度が低下する傾向が分かる。これは、コラーゲンペプチドの濃度が過剰に大きくなることにより、研磨布とシリコンウェーハとに吸着するコラーゲンペプチドの量が増加しすぎて、ウェーハと研磨布との直接的な接触が阻害されるためであると考えられる。
【0035】
<評価試験2>
実施例6〜13のコラーゲンペプチド水溶液を作製した。実施例6〜13のコラーゲンペプチド水溶液は、配合するコラーゲンペプチドの分子量が異なることを除いて、全て同一の条件で作製した。各実施例の配合量は、表2に示す。そして、得られた実施例6〜13のコラーゲンペプチド水溶液について、pHの値を測定した。pHの測定結果についても、表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
表2を参照して、pH調整剤を含まない中性の研磨用組成物のpHの値の範囲について検討すると、コラーゲンペプチド水溶液中のコラーゲンペプチドの分子量によってpHの値が変化することが分かる。このことから、中性の研磨用組成物のpHの値は、4以上7以下の範囲で分散していることが分かる。
【0038】
<評価試験3>
研磨用組成物として、コラーゲンペプチド(分子量:4000)、アンモニア及び水を含んだ実施例14〜17を作製した。また、アンモニア及び水を含んだ研磨用組成物を作製し、比較例7とした。各実施例及び比較例の配合量は、表3に示す。実施例14〜17の研磨用組成物は、コラーゲンペプチドの配合量及びアンモニアの配合量の少なくとも一方が異なることを除いて、全て同一の条件で作製したものである。
【0039】
研磨装置として岡本工作機械製作所製のSPP800S、研磨パッドとしてニッタ・ハース株式会社製のSupreme RN−Hを用い、研磨用組成物として実施例14〜17、及び比較例7を用いて、シリコンウェーハの研磨を行った。研磨条件は、プラテン回転数:40rpm、研磨ヘッド回転数:39rpm、荷重:100gf/cm
2、及びスラリー供給速度:600mL/minであった。
【0040】
各実施例14〜17、及び比較例7を用いて行った研磨の研磨速度を、評価試験1と同様の方法で測定した。また、各実施例を用いた研磨後のウェーハの欠陥数を、株式会社日立ハイテクノロジーズ製のウェーハ表面検査装置(LS6600)を用いて測定した。なお、ここでは、80nm以上の大きさの欠陥数がカウントされている。さらに、研磨中のウェーハに対する研磨用組成物の親水性を目視により観察し、親水性が良好なものを「○」、ウェーハ上で研磨用組成物が撥水しているものを「×」で評価した。これらの測定結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
表3を参照して、アンモニアの濃度を変更した実施例14〜16を比較すると、pHが大きくなるほど(実施例16)、欠陥数が低減し、研磨速度が大きくなることが分かる。
【0043】
また、表3を参照して、同一のpHにおいてコラーゲンペプチドの濃度を変更した実施例15及び実施例17を比較すると、コラーゲンペプチドの濃度が15ppmと25ppmとでは、欠陥数、研磨速度ともに同等の結果が得られていることが分かる。
【0044】
さらに、表3を参照して、コラーゲンペプチド、アンモニア及び水を含む研磨用組成物である実施例14〜17と、アンモニア及び水を含む研磨用組成物である比較例7とを比較すると、コラーゲンペプチドを含まない比較例7では、ウェーハ表面の欠陥数が著しく増加していることが分かる。また、比較例7の研磨用組成物のウェーハ表面への親水性も低下している。さらに、研磨速度においても、比較例7は実施例14〜17と比較して低い値となっている。このことから、研磨用組成物中に含まれるコラーゲンペプチドがウェーハ表面の欠陥の低減、及び良好な研磨速度の効果を得るのに寄与していることが分かる。
【0045】
<評価試験4>
研磨用組成物として、コラーゲンペプチド、アンモニア、砥粒及び水を含んだ実施例18〜26及び比較例8、9を作製した。各実施例及び比較例の配合量は、表4に示す。実施例18〜26及び比較例8、9の研磨用組成物は、コラーゲンペプチドの分子量が異なる。また、実施例18〜26及び比較例8、9の研磨用組成物は、pHが10.5となるように各々のアンモニアの配合量を調整している。それ以外の作製条件は全て同一である。なお、砥粒としては動的光散乱(DLS)法で測定した2次粒子径が70nmのコロイダルシリカを用いた。また、砥粒の濃度は、3333ppmであった。
【0046】
研磨装置として岡本工作機械製作所製のSPP800S、研磨パッドとしてニッタ・ハース株式会社製のSupreme RN−Hを用い、研磨用組成物として実施例18〜26、及び比較例8、9を用いて、シリコンウェーハの研磨を行った。研磨条件は、プラテン回転数:40rpm、研磨ヘッド回転数:39rpm、荷重:100gf/cm
2、及びスラリー供給速度:600mL/minであった。
【0047】
各実施例18〜26、及び比較例8、9を用いて行った研磨の研磨速度、研磨後のウェーハ表面の欠陥(欠陥数)を、評価試験3と同様の方法で評価した。ただし、評価試験4においては、ウェーハ表面の欠陥(欠陥数)の評価において、径60nm以上の大きさの欠陥の数がカウントされている。これらの測定結果を表4に示す。
図2は、評価試験4において、コラーゲンペプチドの分子量と欠陥数の関係をグラフ化したものである。
【0048】
【表4】
【0049】
表4及び
図2を参照して、分子量が2400〜86000のコラーゲンペプチドを含む実施例18〜26では、分子量が各々1130、160000のコラーゲンペプチドを含む比較例8及び9と比較して、ウェーハ表面の欠陥数が著しく低減している(つまり、ウェーハの表面特性が著しく向上している)ことが分かる。具体的には、分子量が2400〜86000のコラーゲンペプチドを含む実施例18〜26では、比較例8及び9と比較して、分子量が1130から2424になることにより、欠陥数が5448から12と2桁以上減少し、分子量が160000から86000になることにより、欠陥数が3258から33と2桁近く減少する。そして、2424〜86000の範囲では、欠陥数は、比較例8,9に対して、2桁以上減少している。
【0050】
なお、コラーゲンペプチドの分子量が2400よりも小さい場合には、コラーゲンペプチドの分子の大きさが小さく、コラーゲンペプチドの分子同士が互いに絡み合いにくくなる。そのため、ウェーハの表面へのコラーゲンペプチドの吸着が十分に得られず、ウェーハ表面の欠陥数が増加すると考えられる。
【0051】
また、研磨用組成物が砥粒を含み、コラーゲンペプチドの分子量が86000よりも大きい場合には、コラーゲンペプチドの分子の大きさが大きくなることでコラーゲンペプチドが砥粒と絡まり合いやすくなり、凝集してしまう虞がある。そして、コラーゲンペプチドと砥粒とが凝集することにより、スクラッチが発生したり、ウェーハの洗浄性が低下して欠陥が発生したりするため、ウェーハ表面の欠陥数が増加すると考えられる。