(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
メルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)が0.05〜5g/10分であり、かつ溶融張力(MT)(190℃、シリンダー押し込み速度10mm/min)が5〜25gであるスタンパブルシート表層用ポリオレフィン系樹脂であって、プロピレン単独重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体及びプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリプロピレン系樹脂(ア)を含むスタンパブルシート表層用ポリオレフィン系樹脂を表層に用いるスタンパブルシートであって、
該スタンパブルシートは、さらに、ポリプロピレン系樹脂層とガラス繊維マット層とを有し、
該ポリプロピレン系樹脂層は、下記の条件(B−1)を満足するポリプロピレン系樹脂(イ)からなり、かつ該ガラス繊維マット層は、下記の条件(C−1)を満足するガラス繊維マット(ウ)からなることを特徴とするスタンパブルシート。
条件(B−1):ポリプロピレン系樹脂(イ)は、プロピレン単独重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体及びプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリプロピレン系樹脂であり、かつポリプロピレン系樹脂(イ)全体のメルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)が50〜500g/10分である。
条件(C−1):ガラス繊維マット(ウ)は、繊維径が9〜25μm、繊維長が5mm以上のガラス繊維からなる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のスタンパブルシートは、スタンパブルシートの表層に用いられる、例えば特定のポリプロピレン系樹脂(ア)を含むポリオレフィン系樹脂と、少なくともポリプロピレン系樹脂(イ)からなる層と、ガラス繊維マット(ウ)からなる層を有する。
以下、本発明において用いられる各成分、得られるスタンパブルシート、及びその成形体について、詳細に説明する。
【0015】
1.ポリオレフィン系樹脂
本発明のスタンパブルシート表層用ポリオレフィン系樹脂は、下記の条件(A−1)を満足するポリオレフィン系樹脂であれば、特に限定するものではなく、公知のポリオレフィン系樹脂を使用できる。
条件(A−1):ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)が0.05〜5g/10分であり、かつ、溶融張力(MT)(190℃、シリンダー押し込み速度10mm/min)が5〜25gである。
【0016】
ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)は、0.05〜5g/10分であり、0.1〜3g/10分が好ましく、0.3〜1g/10分がより好ましい。ポリオレフィン系樹脂のMFRをこの様な範囲とすることにより、ポリオレフィン系樹脂の流動性が良好となり、スタンパブルシートの生産性と、成形品の平滑性が良好なスタンパブルシートを得ることが可能となる。
なお、ここでいうメルトフローレート(MFR)とは、JIS K7210に準拠し、230℃、2.16kg荷重(21.18N荷重)で測定した値である。
【0017】
ポリオレフィン系樹脂の溶融張力(MT)(190℃、シリンダー押し込み速度10mm/min)は、5〜25gであり、7〜20gが好ましく、10〜15gがより好ましい。ポリオレフィン系樹脂の溶融張力(MT)をこの様な範囲とすることにより、ポリオレフィン系樹脂のドローダウン性(垂れ性)が良好となり、スタンパブルシートの生産性と、成形品の平滑性が良好なスタンパブルシートを得ることが可能となる。
なお、ここでいう溶融張力(MT)とは、キャピログラフ(例えば、本明細書の実施例では(株)東洋精機製キャピログラフを使用)を使用して、温度190℃に加熱した直径9.6mmのシリンダーに樹脂を入れ、押し込み速度10mm/分で溶融樹脂を直径2.1mm、長さ8mmのオリフィスから押し出した樹脂を速度4.0m/分で引き取っていった時にプーリーに検出される張力の値である。
【0018】
上記ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ酢酸ビニルなどが挙げられる。また、上記ポリオレフィン系樹脂を主成分とする共重合体やグラフト樹脂やブレンド樹脂、例えば、エチレン−塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、ウレタン−塩化ビニル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体なども、使用できる。
これらのポリオレフィン系樹脂のうち、本発明のスタンパブルシートの物性バランス、及び成形品の平滑性のなどをより向上させる観点から、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂がより好ましい。
【0019】
以下、本発明に係るポリオレフィン系樹脂のうち、より好ましいポリプロピレン系樹脂(ア)について、説明する。
【0020】
(1)要件
(ア−i)ポリプロピレン系樹脂(ア)の種類:
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂(ア)は、プロピレン単独重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体及びプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリプロピレン系樹脂(ア)である。
ポリプロピレン系樹脂(ア)として、これらの重合体を用いることにより、成形品の平滑性に優れたスタンパブルシートが得られる。
【0021】
また、本発明に係るポリプロピレン系樹脂(ア)として、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体を使用する場合、α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、メチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ペンテン、エチル−1−ペンテン、トリメチル−1−ブテン、1−オクテン等を挙げることができる。
これらのα−オレフィンは、1種を用いて共重合してもよく、また、2種以上を組み合わせて共重合してもよい。中でも、スタンパブルシートの機械物性バランスの向上という観点からは、その効果が大きいエチレン又は1−ブテンであるのが好ましく、最も好ましいのはエチレンである。
プロピレンとエチレンのランダム共重合体の場合、好ましいプロピレン・エチレンランダム共重合体は、プロピレン単位を好ましくは75〜99.5重量%、さらに好ましくは85〜99重量%、一方、エチレン単位を好ましくは0.5〜25重量%、さらに好ましくは1〜15重量%含んでなるものである。
エチレン単位が上記の範囲であると、スタンパブルシートの剛性の向上を図ることができる。すなわち、エチレン単位が0.5重量%未満であると、スタンパブルシートの機械物性のバランスが低下するおそれがあり、一方、エチレン単位が25重量%を超えると、剛性などが低下するおそれがある。
【0022】
また、本発明に係るポリプロピレン系樹脂(ア)として、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体を使用する場合、用いられるプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体は、プロピレン単独重合体部分(a1)とプロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)とからなるが、ここで用いられるプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体は、通常は、逐次重合して得られる。
プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体におけるプロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)の含有量は、通常、3〜60重量%、好ましくは5〜50重量%、更に好ましくは7〜40重量%である。
プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体におけるプロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)の含有量が上記範囲であると、スタンパブルシートの剛性の向上を図ることができる。すなわち、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)の含有量が3重量%未満であると、スタンパブルシートの機械物性のバランスが低下するおそれがあり、一方、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)の含有量が60重量%を超えると、スタンパブルシートの剛性などが低下するおそれがある。
【0023】
プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)の重合に使用されるα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、メチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ペンテン、エチル−1−ペンテン、トリメチル−1−ブテン、1−オクテン等を挙げることができる。
これらのα−オレフィンは、1種を用いて共重合してもよく、また、2種以上を組み合わせて共重合してもよい。中でも、スタンパブルシートの機械物性バランスの向上という観点からは、その効果が大きいエチレン又は1−ブテンであるのが好ましく、最も好ましいのはエチレンである。
【0024】
プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)のプロピレン含有量は、通常、0.5〜80重量%、好ましくは5〜75重量%、より好ましくは10〜50重量%である。
プロピレン含有量が上記範囲であると、スタンパブルシートの機械物性のバランスを良好なものとすることができる。すなわち、該含有量が上記範囲外であると、スタンパブルシートの機械物性のバランスが低下するおそれがある。
プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)のプロピレン含有量は、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)の重合時のα−オレフィンとプロピレンの組成比を制御することにより、調整することができる。
また、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)の割合や、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)のプロピレン含有量は、クロス分別装置やFT−IR等を用いて測定される値であり、その測定条件等は、例えば、特開2008−189893号公報に記載されている方法を使用すればよい。
【0025】
(ア−ii)ポリプロピレン系樹脂(ア)のメルトフローレート(MFR)および溶融粘度:
本発明に係るポリオレフィン系樹脂として、ポリプロピレン系樹脂(ア)を使用する場合、ポリプロピレン系樹脂(ア)の全体のメルトフローレート(以下、MFRと略記することがある)(230℃、2.16kg荷重)は、0.05〜5g/10分、好ましくは0.1〜3g/10分、より好ましくは0.3〜1g/10分である。
MFRが上記範囲であると、成形性と成形品の平滑性が良好となる。すなわち、MFRが0.05g/10分未満であると、溶融流動性が低下するため、押出し機にてシート状に成形する際に押出し機への負荷が増加し、生産性が低下するおそれがある。一方、MFRが5g/10分を超えると、成形品の平滑性が損なわれるおそれがあり、好ましくない。
また、樹脂の流動性の指標としてMFR以外に溶融粘度が知られている。本発明に於いて用いられるポリプロピレン系樹脂(ア)では、溶融粘度は通常300〜1500Pa・s、好ましくは500〜1200Pa・s、より好ましくは700〜1100Pa・sである。溶融粘度を上記範囲とすることによって、成形性と成形品とした時の平滑性(外観)を良好にすることができる。すなわち、溶融粘度が1500Pa・sを超えると、溶融流動性が低下するため成形性が低下したり、押出し機にてシート状に成形する際に押し出し機への負荷が増加し、生産性が低下したりするおそれがある。一方、溶融粘度が300Pa・s未満であると、成形品とした時の、平滑性(外観)が損なわれるおそれがあり、好ましくない。
ポリプロピレン系樹脂(ア)がプロピレン単独重合体、および、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体の場合は、重合時の水素濃度等を制御することにより、MFR及び溶融粘度を調整することができる。また、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体においては、MFR及び溶融粘度は、プロピレン単独重合体部分(a1)のMFR及び溶融粘度とプロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)のMFR及び溶融粘度とのバランスにより調整、決定されるので、プロピレン単独重合体部分(a1)を製造する際の水素濃度などを制御することで、調整することができる。
なお、MFRは、JIS K7210に準拠して、230℃、2.16kg荷重(21.18N荷重)で測定した値である。
また、溶融粘度はISO 11443に準拠して測定された値であり、例えば株式会社東洋精機社製キャピログラフを使用して、温度230℃に加熱した直径9.6mmのシリンダーに樹脂を入れ、押し込み速度10mm/分で溶融樹脂を直径1.0mm、長さ40mmのオリフィスから押し出した時に測定することによって値を得ることができる。
【0026】
(ア−iii)ポリプロピレン系樹脂(ア)の溶融張力(MT):
本発明に係るポリオレフィン系樹脂として、ポリプロピレン系樹脂(ア)を使用する場合、ポリプロピレン系樹脂(ア)の溶融張力(以下、MTと略記することがある)(190℃、押し込み速度10mm/min)は、5〜25g、好ましくは7〜20g、より好ましくは10〜15gである。
溶融張力(MT)が上記範囲であると、成形性と成形品の平滑性が良好となる。すなわち、溶融張力(MT)が5g未満であると、成形品の平滑性が損なわれるおそれがある。一方、溶融張力(MT)が25gを超えると、押出し機にてシート状に成形する際に、押出し機への負荷が増加し、生産性が低下するおそれがあり、好ましくない。
ポリプロピレン系樹脂(ア)の溶融張力(MT)の制御方法としては、触媒の種類にもよるが、連鎖移動剤の水素を、水素/プロピレンのモル比で1.0×10
−6〜0.2の範囲で行うことにより、所望の溶融張力(MT)に調節することが可能である。
また、触媒の種類によっても、所望の溶融張力(MT)に調節することが可能であり、例えば、特開2009−275207号公報によれば、特定の二種類の遷移金属化合物を含む触媒を用いることで得られたプロピレン系重合体が比較的高い溶融張力を示すことが報告されている。
なお、前記したように、溶融張力(MT)は、後述の実施例に示すように、キャピログラフ(例えば、本明細書の実施例では(株)東洋精機製キャピログラフを使用)を使用して、温度190℃に加熱した直径9.6mmのシリンダーに樹脂を入れ、押し込み速度10mm/分で、溶融樹脂を直径2.1mm、長さ8mmのオリフィスから押し出した樹脂を、速度4.0m/分で引き取っていった時にプーリーに検出される張力を測定し、溶融張力(MT)とした値である。
【0027】
(2)ポリプロピレン系樹脂(ア)の製造方法
本発明のスタンパブルシートの表層に用いられるオレフィン系樹脂において、好ましく使用されるポリプロピレン系樹脂(ア)の製造方法について説明する。先ず、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体の製造方法について説明する。
【0028】
(2−i)プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体の製造方法
本発明で用いられるプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体の製造は、高立体規則性触媒を用いて重合する方法が好ましく用いられる。
プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体は、プロピレン単独重合体部分(a1)とプロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)との反応混合物である。これは、結晶性プロピレン重合体部分であるプロピレン単独重合体部分(a1)の重合(前段)と、この後に続く、プロピレン・α−オレフィン共重合体(a2)の重合(後段)の製造工程により得られる。
【0029】
上記重合に用いられる触媒としては、高立体規則性触媒であれば、特に限定されるものではなく、前記したように、公知の触媒が使用可能である。例えば、チタン化合物と有機アルミニウムを組み合わせた、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒(例えば、ポリプロピレンハンドブック(1998年5月15日初版第1刷発行)等に記載)、あるいは、メタロセン触媒(例えば、特開平5−295022号公報参照。)が使用できる。
チーグラー・ナッタ触媒には、チタン化合物として有機アルミニウム等で還元して得られた三塩化チタンまたは三塩化チタン組成物を電子供与性化合物で処理し、更に活性化したもの(例えば、特開昭47−34478号公報、特開昭58−23806号公報、特開昭63−146906号公報参照。)、塩化マグネシウム等の担体に四塩化チタンを担持させることにより得られるいわゆる担持型触媒(例えば、特開昭58−157808号公報、特開昭58−83006号公報、特開昭58−5310号公報、特開昭61−218606号公報参照。)等が含まれる。
【0030】
また、助触媒として使用される有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライドなどのアルキルアルミニウムハライド、ジエチルアルミニウムハイドライドなどのアルキルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムエトキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシド、メチルアルモキサン、テトラブチルアルモキサンなどのアルモキサン、メチルボロン酸ジブチル、リチウムアルミニウムテトラエチルなどの複合有機アルミニウム化合物などが挙げられる。また、これらを2種類以上混合して使用することも可能である。
また、上述の触媒には、立体規則性改良や粒子性状制御、可溶性成分の制御、分子量分布の制御等を目的とする各種重合添加剤を使用することができる。例えば、ジフェニルジメトキシシラン、tert−ブチルメチルジメトキシシランなどの有機ケイ素化合物、酢酸エチル、安息香酸ブチル、p−トルイル酸メチル、ジブチルフタレートなどのエステル類、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、安息香酸、プロピオン酸などの有機酸類、エタノール、ブタノールなどのアルコール類等の電子供与性化合物を挙げることができる。
【0031】
重合形式としては、前記の通りであるが、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン若しくはトルエン等の不活性炭化水素を重合溶媒として用いるスラリー重合、プロピレン自体を重合溶媒とするバルク重合、また、原料のプロピレンを気相状態下で重合する気相重合が可能である。また、いずれの重合形式を組み合わせて行うことも可能である。例えば、プロピレン単独重合体部分(a1)をバルク重合で行い、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)を気相重合で行う方法や、プロピレン単独重合体部分(a1)をバルク重合、続いて気相重合で行い、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)は、気相重合で行う方法などが挙げられる。
また、重合形式として、回分式、連続式、半回分式のいずれによってもよく、所望により、二段及び三段等の複数段の連続重合法を用いてもよい。
さらに、重合用の反応器としては、特に形状、構造を問わないが、スラリー重合、バルク重合で一般に用いられる攪拌機付き槽や、チューブ型反応器、気相重合に一般に用いられる流動床反応器、攪拌羽根を有する横型反応器などが挙げられる。
【0032】
気相重合においては、プロピレン単独重合体部分(a1)の重合工程は、プロピレン、連鎖移動剤として水素を供給して、前記触媒の存在下に、温度0〜100℃、好ましくは30〜90℃、特に好ましくは40〜80℃、プロピレンの分圧0.6〜4.2MPa、好ましくは1.0〜3.5MPa、特に好ましくは1.5〜3.0MPa、滞留時間は0.5〜10時間で行う。
また、プロピレン単独重合体部分(a1)には、本発明の効果を損なわない範囲で、プロピレン以外のα−オレフィン、例えば、α−オレフィンがエチレンの場合は、7重量%以下のエチレンが共重合されていても構わない。
【0033】
本発明に用いられるプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体のプロピレン単独重合体部分(a1)のMFRは、通常、0.1〜50g/10分の範囲である。
プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体のプロピレン単独重合体部分(a1)のMFRをこの様な範囲とするためには、触媒の種類にもよるが、連鎖移動剤の水素を、水素/プロピレンのモル比で1×10
−3〜0.2の範囲で行うことにより、所望のMFRに調節することが可能である。
【0034】
プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体を製造する際は、引き続いて、即ち前段重合工程で製造されたプロピレン単独重合体部分(a1)の存在下、後段重合工程で、プロピレン、α−オレフィンと水素を供給して、前記触媒(前記プロピレン単独重合体部分(a1)の製造に使用した当該触媒)の存在下に、0〜100℃、好ましくは30〜90℃、特に好ましくは40〜80℃、プロピレン及びα−オレフィンの分圧各0.1〜2.0MPa、好ましくは0.1〜1.5MPa、滞留時間は0.5〜10時間の条件で、プロピレンとα−オレフィンの共重合を行い、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)を製造し、最終的な生成物として、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体を得る。
プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)には、本発明の効果を損なわない範囲でプロピレンと2種類以上のα−オレフィンが共重合されていても構わない。
【0035】
本発明に係るポリオレフィン系樹脂として、ポリプロピレン系樹脂(ア)を使用し、そのポリプロピレン系樹脂(ア)がプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体である場合、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体のMFRは、0.05〜5g/10分、好ましくは0.1〜3g/10分、より好ましくは0.3〜1g/10分である。
前記のように、プロピレン単独重合体部分(a1)のMFRは、通常、0.1〜50g/10分の範囲なので、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合のMFRを、この範囲とするためには、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)のMFRは、10
−4〜10g/10分とするのが好ましい。
プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)のMFRを10
−4〜10g/10分にコントロールする場合、触媒の種類にもよるが、水素/(プロピレン+α−オレフィン)モル比を、10
−5〜0.8の範囲で行うことにより、所望のMFRに調節することが可能である。
また、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)中のα−オレフィン含有量を特定の範囲内に維持するためには、後段のプロピレン濃度に対するα−オレフィン濃度を調整すればよい。
【0036】
さらに、ゲル発生やベタツキを抑えるために、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)の反応中あるいは反応前に、エタノールなどのアルコール類を添加することが望ましい。具体的には、アルコール類/有機アルミニウム化合物の比で、0.5〜3.0モル比の条件で行うことができる。また、このアルコール類の添加量で、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体のプロピレン・α−オレフィン共重合体部分(a2)の割合も、コントロールすることができる。
また、このようなプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体は、各社から種々の市販品が上市されているので、これら市販品の物性を測定して、所望のものを用いることもできる。
【0037】
(2−ii)プロピレン単独重合体の製造方法
本発明に係るポリオレフィン系樹脂として、ポリプロピレン系樹脂(ア)を使用し、そのポリプロピレン系樹脂(ア)がプロピレン単独重合体である場合、プロピレン単独重合体の製造方法は、前記のプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体の製造方法のうち、プロピレン単独重合体部分(a1)の製造方法に準じて行えばよい。
本発明に用いられるプロピレン単独重合体のMFRは、0.05〜5g/10分、好ましくは0.1〜3g/10分、より好ましくは0.3〜1g/10分である。
プロピレン単独重合体のMFRをこの様な範囲とするためには、触媒の種類にもよるが、連鎖移動剤の水素を、水素/プロピレンのモル比で1×10
−3〜0.2の範囲で行うことにより、所望のMFRに調節することが可能である。
【0038】
(2−iii)プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体の製造方法
本発明に係るポリオレフィン系樹脂として、ポリプロピレン系樹脂(ア)を使用し、そのポリプロピレン系樹脂(ア)がプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体である場合、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体の製造方法については、前記のプロピレン単独重合体の製造方法に準じて行えばよく、プロピレン単独重合体部分(a1)に、プロピレン以外のα−オレフィン、好ましくはα−オレフィンのエチレンと、共重合させる方法が用いられる。
本発明に用いられるプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体のMFRは、0.05〜5g/10分、好ましくは0.1〜3g/10分、より好ましくは0.3〜1g/10分である。
プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体のMFRをこの様な範囲とするためには、触媒の種類にもよるが、連鎖移動剤の水素を、水素/(プロピレン+α−オレフィン)モル比を、10
−5〜0.8の範囲で行うことにより、所望のMFRに調節することが可能である。
【0039】
2.ポリプロピレン系樹脂(イ)
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂(イ)は、下記の条件(B−1)に規定する要件を有する。また、本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂(イ)は、スタンパブルシートにおいて、良好な強度と剛性、および加工性などを付与する機能を有する。
条件(B−1):ポリプロピレン系樹脂(イ)は、プロピレン単独重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体及びプロピレン−α−オレフィンブロック共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリプロピレン系樹脂であり、かつポリプロピレン系樹脂(イ)全体のメルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)が50〜500g/10分である。
【0040】
(1)要件
(イ−i)ポリプロピレン系樹脂(イ)の種類:
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂(イ)は、プロピレン単独重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体及びプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリプロピレン系樹脂であり、かつポリプロピレン系樹脂(イ)全体のメルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)が50〜500g/10分である。
これらの重合体を用いることにより、良好な強度と剛性を有する本発明のスタンパブルシートが得られ、また、スタンパブルシートの加工性を高めることができるため、スタンピング成形等で良好な成形体が得られる。
【0041】
また、本発明でポリプロピレン系樹脂(イ)として、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体を使用する場合、α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、メチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ペンテン、エチル−1−ペンテン、トリメチル−1−ブテン、1−オクテン等を挙げることができる。これらは、1種を用いて共重合してもよく、また、2種以上を組み合わせて共重合してもよい。中でも、スタンパブルシートの機械物性バランスの向上という観点から、その効果が大きいエチレン又は1−ブテンであるのが好ましく、最も好ましいのはエチレンである。
【0042】
プロピレンとエチレンのランダム共重合体の場合、プロピレン単位を好ましくは90〜99.5重量%、さらに好ましくは92〜99重量%、一方、エチレン単位を好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1〜8重量%含んでなるものである。
エチレン単位が上記の範囲であると、スタンパブルシートの剛性の向上を図ることができる。すなわち、エチレン単位が0.5重量%未満であると、スタンパブルシートの機械物性のバランスが低下する場合がある。また、エチレン単位が10重量%を超えると、剛性などが低下するおそれがある。
プロピレンとエチレンのランダム共重合体におけるプロピレン単位とエチレン単位の含有量は、プロピレンとエチレンのランダム共重合体の重合時のプロピレンとエチレンの組成比を、制御することにより、調整することができる。
また、プロピレンとエチレンのランダム共重合体のプロピレン含有量は、クロス分別装置やFT−IR等を用いて測定される値であり、その測定条件等は、例えば、特開2008−189893号公報に記載されている方法を使用すればよい。
【0043】
また、本発明でポリプロピレン系樹脂(イ)として、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体を使用する場合、用いられるプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体は、プロピレン単独重合体部分(イa1)とプロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)とからなるが、ここで用いられるプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体は、通常は逐次重合して得られる。
プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体におけるプロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)の含有量は、通常3〜60重量%、好ましくは5〜50重量%、更に好ましくは7〜40重量%である。
プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体におけるプロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)の含有量が上記範囲であると、スタンパブルシートの剛性の向上を図ることができる。すなわち、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)の含有量が3重量%未満であると、スタンパブルシートの機械物性のバランスが低下する場合がある。また、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)の含有量が60重量%を超えると、剛性などが低下するおそれがある。
【0044】
プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)に使用されるα−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、メチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ペンテン、エチル−1−ペンテン、トリメチル−1−ブテン、1−オクテン等を挙げることができる。これらは1種を用いて共重合してもよく、また、2種以上を組み合わせて共重合してもよい。中でも、スタンパブルシートの機械物性のバランスを良好なものとするという観点から、その効果が大きいエチレン又は1−ブテンであるのが好ましく、最も好ましいのはエチレンである。
【0045】
プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)のプロピレン含有量は、通常40〜80重量%、好ましくは45〜75重量%、50〜70重量%がさらに好ましい。
プロピレン含有量が上記範囲であると、スタンパブルシートの機械物性のバランスを良好なものとすることができる。すなわち、該含有量が上記範囲外であると、スタンパブルシートの機械物性のバランスが低下するおそれがある。
プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)のプロピレン含有量は、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)の重合時のα−オレフィンとプロピレンの組成比を制御することにより、調整することができる。
また、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)の割合や、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)のプロピレン含有量は、クロス分別装置やFT−IR等を用いて測定される値であり、その測定条件等は、例えば、特開2008−189893号公報に記載されている方法を使用すればよい。
【0046】
(イ−ii)メルトフローレート(MFR)および溶融粘度:
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂(イ)の全体のメルトフローレート(以下、MFRと略記することがある)(230℃、2.16kg荷重)は、通常50〜500g/10分、好ましくは60〜400g/10分、より好ましくは70〜300g/10分である。
MFRが上記範囲であると、成形加工性が良好となる。すなわち、MFRが50g/10分未満であると、スタンピング成形した際に欠損が生じるなど、成形加工性が低下する場合がある。また、MFRが500g/10分を超えると、スタンパブルシートの製造において、バリを生じるおそれがあり、好ましくない。
また、樹脂の流動性の指標としてMFR以外に溶融粘度が知られている。本発明に於いて用いられるポリプロピレン系樹脂(イ)では、溶融粘度は通常0.01〜300Pa・s、好ましくは0.02〜250Pa・s、より好ましくは0.03〜200Pa・sである。溶融粘度を上記範囲とすることによって、スタンパブルシートとする際の成形性を良好にすることができる。すなわち、溶融粘度が300Pa・sを超えると、スタンピング成形した際に欠損が生じるなど、成形加工性が低下する場合がある。一方、溶融粘度が0.01Pa・s未満であると、スタンパブルシートの製造において、バリを生じるおそれがあり、好ましくない。
ポリプロピレン系樹脂(イ)がプロピレン単独重合体、および、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体の場合は、重合時の水素濃度等を制御することにより、MFR及び溶融粘度を調整することができる。また、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体においては、MFR及び溶融粘度は、プロピレン単独重合体部分(イa1)のMFR及び溶融粘度とプロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)のMFR及び溶融粘度とのバランスにより調整、決定されるので、プロピレン単独重合体部分(イa1)を製造する際の水素濃度などを制御することで、調整することができる。
なお、MFRは、JIS K7210に準拠し、230℃、2.16kg荷重(21.18N荷重)で測定した値である。
また、溶融粘度はISO 11443に準拠して測定された値であり、例えば株式会社東洋精機社製キャピログラフを使用して、温度230℃に加熱した直径9.6mmのシリンダーに樹脂を入れ、押し込み速度10mm/分で溶融樹脂を直径1.0mm、長さ40mmのオリフィスから押し出した時に測定することによって値を得ることができる。
【0047】
(2)ポリプロピレン系樹脂(イ)の製造方法
以下、本発明のスタンパブルシートに用いられるポリプロピレン系樹脂(イ)の製造方法について説明する。先ず、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体の製造方法について説明する。
【0048】
(2−i)プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体の製造方法
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂(イ)として、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体を用いる場合、当該プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体の製造方法は、高立体規則性触媒を用いて重合する方法が好ましく用いられる。プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体は、プロピレン単独重合体部分(イa1)とプロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)との反応混合物である。これは、結晶性プロピレン重合体部分であるプロピレン単独重合体部分(イa1)の重合(前段)と、この後に続く、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)の重合(後段)の製造工程により得られる。
【0049】
上記重合に用いられる触媒としては、高立体規則性触媒であれば特に限定されるものではなく、前記したように、公知の触媒が使用可能である。例えば、チタン化合物と有機アルミニウムを組み合わせた、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒(例えば、ポリプロピレンハンドブック(1998年5月15日初版第1刷発行)等に記載)、あるいは、メタロセン触媒(例えば、特開平5−295022号公報参照。)が使用できる。
チーグラー・ナッタ触媒には、チタン化合物として有機アルミニウム等で還元して得られた三塩化チタンまたは三塩化チタン組成物を電子供与性化合物で処理し更に活性化したもの(例えば、特開昭47−34478号公報、特開昭58−23806号公報、特開昭63−146906号公報参照。)、塩化マグネシウム等の担体に四塩化チタンを担持させることにより得られるいわゆる担持型触媒(例えば、特開昭58−157808号公報、特開昭58−83006号公報、特開昭58−5310号公報、特開昭61−218606号公報参照。)等が含まれる。
【0050】
また、助触媒として使用される有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライドなどのアルキルアルミニウムハライド、ジエチルアルミニウムハイドライドなどのアルキルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムエトキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシド、メチルアルモキサン、テトラブチルアルモキサンなどのアルモキサン、メチルボロン酸ジブチル、リチウムアルミニウムテトラエチルなどの複合有機アルミニウム化合物などが挙げられる。また、これらを2種類以上混合して使用することも可能である。
また、上述の触媒には、立体規則性改良や粒子性状制御、可溶性成分の制御、分子量分布の制御等を目的とする各種重合添加剤を使用することができる。例えば、ジフェニルジメトキシシラン、tert−ブチルメチルジメトキシシランなどの有機ケイ素化合物、酢酸エチル、安息香酸ブチル、p−トルイル酸メチル、ジブチルフタレートなどのエステル類、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、安息香酸、プロピオン酸などの有機酸類、エタノール、ブタノールなどのアルコール類等の電子供与性化合物を挙げることができる。
【0051】
重合形式としては前記の通りであるが、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン若しくはトルエン等の不活性炭化水素を重合溶媒として用いるスラリー重合、プロピレン自体を重合溶媒とするバルク重合、また、原料のプロピレンを気相状態下で重合する気相重合が可能である。また、いずれの重合形式を組み合わせて行うことも可能である。例えば、プロピレン単独重合体部分(イa1)をバルク重合で行い、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)を気相重合で行う方法や、プロピレン単独重合体部分(イa1)をバルク重合、続いて気相重合で行い、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)は、気相重合で行う方法などが挙げられる。
また、重合形式として、回分式、連続式、半回分式のいずれによってもよく、所望により、二段及び三段等の複数段の連続重合法を用いてもよい。
さらに、重合用の反応器としては、特に形状、構造を問わないが、スラリー重合、バルク重合で一般に用いられる攪拌機付き槽や、チューブ型反応器、気相重合に一般に用いられる流動床反応器、攪拌羽根を有する横型反応器などが挙げられる。
【0052】
気相重合においては、プロピレン単独重合体部分(イa1)の重合工程は、プロピレン、連鎖移動剤として水素を供給して、前記触媒の存在下に、温度0〜100℃、好ましくは30〜90℃、特に好ましくは40〜80℃、プロピレンの分圧0.6〜4.2MPa、好ましくは1.0〜3.5MPa、特に好ましくは1.5〜3.0MPa、滞留時間は0.5〜10時間で行う。
プロピレン単独重合体部分(イa1)には、本発明の効果を損なわない範囲で、プロピレン以外のα−オレフィン、例えば、α−オレフィンがエチレンの場合は0.5重量%未満のエチレンが共重合されていても構わない。
【0053】
本発明において、ポリプロピレン系樹脂(イ)として用いられるプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体のプロピレン単独重合体部分(イa1)のMFRは、通常60〜700g/10分の範囲である。
プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体のプロピレン単独重合体部分(イa1)をこの様な範囲とするためには、触媒の種類にもよるが、連鎖移動剤の水素を、水素/プロピレンのモル比で5×10
−3〜0.2の範囲で行うことにより、所望のMFRに調節することが可能である。
【0054】
ポリプロピレン系樹脂(イ)として用いられるプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体を製造する際は、引き続いて、即ち前段重合工程で製造されたプロピレン単独重合体部分(イa1)の存在下、後段重合工程で、プロピレン、α−オレフィンと水素を供給して、前記触媒(前記プロピレン単独重合体部分(イa1)の製造に使用した当該触媒)の存在下に、0〜100℃、好ましくは30〜90℃、特に好ましくは40〜80℃、プロピレン及びα−オレフィンの分圧各0.1〜2.0MPa、好ましくは0.1〜1.5MPa、滞留時間は0.5〜10時間の条件で、プロピレンとα−オレフィンの共重合を行い、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)を製造し、最終的な生成物として、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体を得る。
プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)には、本発明の効果を損なわない範囲でプロピレンと2種類以上のα−オレフィンが共重合されていても構わない。
【0055】
本発明に用いられるプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体のMFRは、50〜500g/10分、好ましくは60〜400g/10分、より好ましくは70〜300g/10分である。
前記のように、プロピレン単独重合体部分(イa1)のMFRは、通常60〜700g/10分の範囲なので、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体のMFRをこの範囲とするためには、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)のMFRは、10
−4〜100g/10分とするのが好ましい。
プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)のMFRを10
−4〜100g/10分にコントロールする場合、触媒の種類にもよるが、水素/(プロピレン+α−オレフィン)モル比を、10
−5〜0.8の範囲で行うことにより、所望のMFRに調節することが可能である。
また、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)中のα−オレフィン含有量を特定の範囲内に維持するためには、後段のプロピレン濃度に対するα−オレフィン濃度を調整すればよい。
【0056】
さらに、ゲル発生やベタツキを抑えるために、プロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)の反応中あるいは反応前に、エタノールなどのアルコール類を添加することが望ましい。
具体的には、アルコール類/有機アルミニウム化合物の比で、0.5〜3.0モル比の条件で行うことができる。また、このアルコール類の添加量で、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体のプロピレン・α−オレフィン共重合体部分(イa2)の割合も、コントロールすることができる。
また、このようなプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体は、各社から種々の市販品が上市されているので、これら市販品の物性を測定して、所望のものを用いることもできる。
【0057】
(ii)プロピレン単独重合体の製造方法
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂(イ)として、プロピレン単独重合体を用いる場合、当該プロピレン単独重合体の製造は、前記のプロピレン・α−オレフィンブロック共重合体の製造方法のうち、プロピレン単独重合体部分(イa1)の製造方法に準じて行えばよい。
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂(イ)として、プロピレン単独重合体を用いる場合、当該プロピレン単独重合体のMFRは、50〜500g/10分、好ましくは60〜400g/10分、より好ましくは70〜300g/10分である。
プロピレン単独重合体のMFRをこの様な範囲とするためには、触媒の種類にもよるが、連鎖移動剤の水素を、水素/プロピレンのモル比で5×10
−3〜0.2の範囲で行うことにより、所望のMFRに調節することが可能である。
【0058】
(iii)プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体の製造方法
本発明で用いられるポリプロピレン系樹脂(イ)として、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体を用いる場合、当該プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体の製造方法においては、前記のプロピレン単独重合体の製造方法に準じて行えばよく、プロピレン単独重合体部分(イa1)に、プロピレン以外のα−オレフィン、好ましくはα−オレフィンのエチレンと、共重合させる方法が用いられる。
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂(イ)として、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体を用いる場合、当該プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体のMFRは、50〜500g/10分、好ましくは60〜400g/10分、より好ましくは70〜300g/10分である。
プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体のMFRをこの様な範囲とするためには、触媒の種類にもよるが、連鎖移動剤の水素を、水素/(プロピレン+α−オレフィン)モル比を、10−5〜0.8の範囲で行うことにより、所望のMFRに調節することが可能である。
【0059】
3.ガラス繊維マット(ウ)
本発明に用いられるガラス繊維マット(ウ)は、下記条件(C−1)に規定する要件を有する。また、本発明に用いられるガラス繊維マット(ウ)は、本発明のスタンパブルシートにおいて、良好な剛性、強度などを付与する。
条件(C−1):ガラス繊維マット(ウ)は、繊維径が9〜25μm、繊維長が5mm以上、具体的には、繊維長が5mm〜17kmのガラス繊維からなる。
【0060】
(1)要件:
(C−1)ガラス繊維の繊維径および繊維長
本発明に用いられるガラス繊維マット(ウ)のガラス繊維の繊維径は、9〜25μm、好ましくは10〜15μmである。繊維径が9μm未満の場合、ガラス繊維マットの剛性が著しく低下することで、スタンパブルシートの剛性、および、機械物性のバランスが低下する場合があり、一方、繊維径が25μmを超えると、スタンパブルシートの強度が低下するので、好ましくない。
なお、繊維径は、走査型電子顕微鏡などを用いて測定することができる。
また、本発明に用いられるガラス繊維マット(ウ)は、ガラス繊維の繊維長が5mm以上、好ましくは30mm以上のものが用いられる。平均繊維長が5mm未満のものであると、スタンパブルシートの強度、および、機械物性のバランスが低下するので、好ましくない。
尚、ガラス繊維の繊維長の上限には、特に制限はなく、例えば、ガラス繊維を用いてプルトリュージョン法によって製造したペレットを使用する場合には、そのペレットの長さがガラス繊維の繊維長となるので、最大で20mm程度となる。また、ガラス長繊維を使用したスワールマット系では、製造に使用したロービングにおけるガラス繊維の長さが繊維長となるので、17000m(17km)程度にもなる。したがって、ガラス長繊維を使用する場合は、繊維長の上限は上記のとおりに決定すればよく、短繊維を使用する場合は、スタンパブルシートを燃焼、灰化の後、残渣として得られるガラス繊維を顕微鏡などで拡大して、観察し、直接測定することにより、決定することができる。
【0061】
本発明に用いられるガラス繊維マット(ウ)の材質について、特別な制限はなく、無アルカリガラス,低アルカリガラス,含アルカリガラスのいずれでも良く、従来からガラス繊維として、使用されている各種の組成のものを使用することができる。
また、本発明に用いられるガラス繊維マット(ウ)の形態としては、特に制限はなく、様々な形態のものを使用することができるが、その形態上、マット状ないしはシート状に形成しているものが好ましい。
具体的には、短繊維ガラス綿で加工したフェルト及びブランケット、連続ガラス繊維を加工したチョップドストランドマット、連続ガラス繊維のスワール(渦巻状)マット、一方向引き揃えマットなどが挙げられる。これらの中でも、特に連続ガラス繊維のスワール(渦巻状)マットをニードルパンチしたガラス繊維マットを使用すると、スタンパブルシートの強度、および、機械物性のバランスが優れており、好ましい。
【0062】
4.任意添加成分
本発明に係るスタンパブルシートにおいては、必要に応じて、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、例えば、発明の効果を一層向上させる、または、その他の効果を各樹脂層に付与する等の目的のため、ポリプロピレン系樹脂(ア)及び/またはポリプロピレン系樹脂(イ)に、任意の添加成分を配合することができる。
【0063】
具体的には、顔料などの着色剤、ヒンダードアミン系などの光安定剤、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、ソルビトール系などの造核剤、フェノール系、リン系などの酸化防止剤、非イオン系などの帯電防止剤、無機化合物などの中和剤、チアゾール系などの抗菌・防黴剤、ハロゲン化合物などの難燃剤、可塑剤、有機金属塩系などの分散剤、脂肪酸アミド系などの滑剤、窒素化合物などの金属不活性剤、非イオン系などの界面活性剤や、前記ポリプロピレン系樹脂(ア)やポリプロピレン系樹脂(イ)以外のポリアミド樹脂やポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーなどのエラストマー(ゴム成分)などを挙げることができる。
これらの任意添加成分は、2種以上を併用することもできる。
【0064】
着色剤として、例えば、無機系や有機系の顔料などは、本発明に係るスタンパブルシートの着色外観、見映え、風合い、商品価値、耐候性や耐久性などの付与、向上などに有効である。
具体例として、無機系顔料としては、ファーネスカーボン、ケッチェンカーボンなどのカーボンブラック;酸化チタン;酸化鉄(ベンガラ等);クロム酸(黄鉛など);モリブデン酸;硫化セレン化物;フェロシアン化物などが挙げられ、有機系顔料としては、難溶性アゾレーキ;可溶性アゾレーキ;不溶性アゾキレート;縮合性アゾキレート;その他のアゾキレートなどのアゾ系顔料;フタロシアニンブルー;フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料;アントラキノン;ペリノン;ペリレン;チオインジゴなどのスレン系顔料;染料レーキ;キナクリドン系;ジオキサジン系;イソインドリノン系などが挙げられる。また、メタリック調やパール調にするには、アルミフレーク;パール顔料を含有させることができる。また、染料を含有させることもできる。
【0065】
光安定剤や紫外線吸収剤として、例えば、ヒンダードアミン化合物、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系やサリシレート系などは、本発明に係るスタンパブルシートの耐候性や耐久性などの付与、向上に有効であり、耐候変色性の一層の向上に有効である。
具体例としては、ヒンダードアミン化合物として、コハク酸ジメチルと1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンとの縮合物;ポリ〔〔6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル〕〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕〕;テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート;テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート;ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート;ビス−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルセバケートなどが挙げられ、ベンゾトリアゾール系としては、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール;2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールなどが挙げられ、ベンゾフェノン系としては、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン;2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノンなどが挙げられ、サリシレート系としては、4−t−ブチルフェニルサリシレート;2,4−ジ−t−ブチルフェニル3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエートなどが挙げられる。
ここで、前記光安定剤と紫外線吸収剤とを併用する方法は、耐候性、耐久性、耐候変色性などの向上効果が大きく好ましい。
【0066】
酸化防止剤として、例えば、フェノール系、リン系やイオウ系の酸化防止剤などは、本発明に係るスタンパブルシートの、耐熱安定性、加工安定性、耐熱老化性などの付与、向上などに有効である。
また、帯電防止剤として、例えば、非イオン系やカチオン系などの帯電防止剤は、本発明に係るスタンパブルシートの帯電防止性の付与、向上に有効である。
【0067】
オレフィン系エラストマーとしては、例えば、エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(EPR)、エチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)、エチレン・ヘキセン共重合体エラストマー(EHR)、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)などのエチレン・α−オレフィン共重合体エラストマー;エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・ブタジエン共重合体、エチレン・プロピレン・イソプレン共重合体などのエチレン・α−オレフィン・ジエン三元共重合体エラストマー、スチレン・ブタジエン・スチレントリブロック共重合体エラストマー(SBS)などを挙げることができる。
【0068】
また、スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン・イソプレン・スチレントリブロック共重合体エラストマー(SIS)、スチレン−エチレン・ブチレン共重合体エラストマー(SEB)、スチレン−エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(SEP)、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレン共重合体エラストマー(SEBS)、スチレン−エチレン・ブチレン−エチレン共重合体エラストマー(SEBC)、水添スチレン・ブタジエンエラストマー(HSBR)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン共重合体エラストマー(SEPS)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレン共重合体エラストマー(SEEPS)、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレン共重合体エラストマー(SBBS)、部分水添スチレン−イソプレン−スチレン共重合体エラストマー、部分水添スチレン−イソプレン・ブタジエン−スチレン共重合体エラストマーなどのスチレン系エラストマー、さらにエチレン−エチレン・ブチレン−エチレン共重合体エラストマー(CEBC)などの水添ポリマー系エラストマーなどを挙げることができる。
中でも、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)及び/又はエチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)を使用すると、本発明に係るスタンパブルシートにおいて、適度の柔軟性などが付与し易く、耐衝撃性が優れる傾向にあるなどの点から好ましい。
【0069】
5.表層及びポリプロピレン系樹脂(イ)からなるポリプロピレン系樹脂層
(1)表層及びポリプロピレン系樹脂(イ)からなるポリプロピレン系樹脂層の製造方法
本発明に係る表層のポリオレフィン系樹脂の層、および、ポリプロピレン系樹脂(イ)の層は、ポリオレフィン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂(イ)を、例えば、射出成形(ガスアシスト射出成形、二色射出成形、インサート射出成形、コアバック射出成形、サンドイッチ射出成形も含む)、射出圧縮成形(プレスインジェクション)、押出成形、シート成形及び中空成形機などの周知の成形方法にて、成形することによって得ることができる。
この内、シート成形が、大型の樹脂層を連続で成形できるため、生産効率が良く、また、用途に合わせて各種厚みの樹脂層の製造が容易であるため、好ましい。
【0070】
シート成形は、通常、一軸押出機、二軸押出機などの混練機器を用いて、融点以上に加熱したポリオレフィン系樹脂、および、ポリプロピレン系樹脂(イ)をシート状に押し出すことで、成形体のポリオレフィン系樹脂の層、および、ポリプロピレン系樹脂(イ)の層を得る。
【0071】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂(ア)を含むポリオレフィン系樹脂の層は、厚みが0.1〜2.0mm、好ましくは0.3〜1.5mm、更に好ましくは0.4〜1.0mmである。
厚みが0.1mm未満であると、成形品の平滑性が優れないおそれがあり、一方、厚みが2.0mmを超えると、スタンパブルシートの重量が重くなり、軽量化の効果が十分得られないおそれがある。
また、均一な層構造のスタンパブルシートを得るには、ポリプロピレン系樹脂(イ)と同じ幅と長さであるものが好ましい。
【0072】
本発明に係るポリプロピレン系樹脂(ア)とポリプロピレン系樹脂(イ)の重量としては、ポリプロピレン系樹脂(ア)とポリプロピレン系樹脂(イ)との合計が、スタンパブルシート全重量に対して、通常50〜90重量%であり、好ましくは60〜80重量%である。
ポリプロピレン系樹脂(ア)とポリプロピレン系樹脂(イ)との重量の合計が上記の範囲であると、スタンパブルシートの強度、剛性および耐衝撃性が優れたものとなる。すなわち、ポリプロピレン系樹脂(ア)とポリプロピレン系樹脂(イ)との重量の合計が50重量%未満であると、ガラス繊維マット(ウ)に含浸するポリプロピレン系樹脂(イ)の量が減り、スタンパブルシートの強度、剛性が低下する場合があり、一方、ポリプロピレン系樹脂(ア)とポリプロピレン系樹脂(イ)との重量の合計が90重量%を超えると、スタンパブルシートの強度、剛性、および、耐衝撃性が低下する場合があり、好ましくない。
【0073】
6.ガラス繊維マット(ウ)
(1)ガラス繊維マット(ウ)の形状など
本発明において用いられるガラス繊維マット(ウ)の形状としては、特に制限はなく、様々な形状のものを使用することができるが、均一な層構造のスタンパブルシートを得るには、ポリプロピレン系樹脂(イ)と同じ幅と長さであるものが好ましい。
また、本発明において用いられるガラス繊維マット(ウ)のスタンパブルシート全体における重量は、通常10〜50重量%であり、好ましくは20〜40重量%である。
ガラス繊維マット(ウ)の重量が上記の範囲であると、スタンパブルシートの強度、剛性および耐衝撃性が優れたものとなる。すなわち、ガラス繊維マット(ウ)の重量が10重量%未満であると、スタンパブルシートの強度、剛性、および、耐衝撃性が低下する場合があり、一方、ガラス繊維マット(ウ)の重量が50重量%を超えると、ガラス繊維マット(ウ)に含浸するポリプロピレン系樹脂(イ)の量が減り、スタンパブルシートの強度、剛性が低下する場合があり、好ましくない。
【0074】
7.スタンパブルシート
(1)スタンパブルシートの製造方法
本発明のスタンパブルシートは、例えば、前記方法で製造されたポリプロピレン系樹脂(ア)を含むポリオレフィン系樹脂の層と、ポリプロピレン系樹脂(イ)の層と、ガラス繊維マット(ウ)とを、少なくともポリプロピレン系樹脂(ア)を含むポリオレフィン系樹脂を表層に有するよう積層し、その後、その積層体を加熱及び加圧し、次いで、冷却固化させることで得ることができる。
【0075】
その際、加熱温度は、170〜300℃であることが好ましい。加熱温度が170℃未満では、例えばポリプロピレン系樹脂(ア)、およびポリプロピレン系樹脂(イ)の流動性が低いため、ガラス繊維マット(ウ)に、例えばポリプロピレン系樹脂(ア)、およびポリプロピレン系樹脂(イ)が十分に含浸せず、好適なスタンパブルシートが得られないおそれがあり、一方、加熱温度が300℃より高温であると、例えばポリプロピレン系樹脂(ア)、およびポリプロピレン系樹脂(イ)の劣化の原因となるおそれがある。
さらに、加圧圧力としては、0.1〜1MPaであることが好ましい。加圧圧力が0.1MPa未満では、ガラス繊維マット(ウ)に、例えばポリプロピレン系樹脂(ア)を含むポリオレフィン系樹脂、およびポリプロピレン系樹脂(イ)が十分に含浸せず、好適なスタンパブルシートが得られないおそれがあり、一方、加圧圧力が1MPaより高圧であると、例えばポリプロピレン系樹脂(ア)を含むポリオレフィン系樹脂、およびポリプロピレン系樹脂(イ)が流動し、バリが生じるおそれがある。
また、冷却時の温度としては、ポリプロピレン系樹脂などの熱可塑性樹脂の凝固点以下であれば、特に制限されないが、冷却温度が80℃より高温であると、得られたスタンパブルシートを取り出す際に、変形するおそれがあるため、室温〜80℃であることが好ましい。
【0076】
上記の積層体を加熱及び加圧、冷却して、スタンパブルシートを得る方法としては、加熱装置の付いた金型内で積層体をプレス成形する方法、および、積層体を加熱装置の付いた2対のローラーの間を通して加熱と加圧を行うラミネート加工などがあり、特に、ラミネート加工は、連続生産が行えるため、生産性がよく、好ましい。
【0077】
本発明のスタンパブルシートの厚みは、通常1〜10mm、好ましくは2〜5mmである。このスタンパブルシートの厚みが1mm未満であると、スタンパブルシートの製造が困難となり、一方、このスタンパブルシートの厚みが10mmを超えると、スタンパブルシートをスタンピング成形などで加工する際に、長時間の予備加熱が必要となるため、いずれも好ましくない。
【0078】
本発明のスタンパブルシートは、常法に従いスタンピング成形、および、折り曲げ成形することで、所望の形状に成形することにより、スタンパブルシートからなる成形品を得ることができる。
具体的には、スタンピング成形は、加熱したスタンパブルシートを金型に挟んで所定の形状に成形する方法であり、一定の形状であるため、成形サイクルが短く、生産性に優れる。また、折り曲げ成形は、スタンパブルシートを、加熱した金属ロール等で挟み、所定の位置で折り曲げる成形方法であり、成形品の用途に合わせて、折り曲げ位置や角度などの調整が可能であるため、汎用性に優れる。
【0079】
(2)用途
本発明のスタンパブルシートの用途としては、例えば、自動車の車体周りや建築など工業分野の成形素材等が挙げられる。とりわけ軽量、かつ、機械物性に優れ、また、成形品表面が平滑で加工性にも優れるため、これらの性能をバランスよく、より高度に必要とされる用途、例えば、自動車外板や建築部材のハウジングなどに、好適に用いることができる。
【実施例】
【0080】
本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で用いた評価法、分析の各法および材料は、以下の通りである。
【0081】
1.評価方法、分析方法
(1)メルトフローレート(MFR、単位:g/10分):
JIS K7210に準拠し、230℃、2.16kg荷重(21.18N荷重)で測定した。
(2)溶融張力(MT、単位:g):
(株)東洋精機製キャピログラフを使用して、温度190℃に加熱した直径9.6mmのシリンダーに樹脂を入れ、押し込み速度10mm/分で溶融樹脂を直径2.1mm、長さ8mmのオリフィスから押し出した樹脂を速度4.0m/分で引き取っていった時にプーリーに検出される張力を溶融張力(MT)とした。
(3)溶融粘度(単位:Pa・s):
ISO 11443に準拠し、株式会社東洋精機社製キャピログラフを使用して、温度230℃に加熱した直径9.6mmのシリンダーに樹脂を入れ、押し込み速度10mm/分で溶融樹脂を直径1.0mm、長さ40mmのオリフィスから押し出した時の粘度を測定した。
(4)密度:
スタンパブルシートから切削した、40mm×10mm×3.8mmの試験片を用い、JIS K7112に準拠して測定した。
【0082】
(5)スタンパブルシートに含有される成分(ウ)の含有量(重量%):
下記の要領にて実施した。
・試験片;スタンパブルシートから切削した、15mm×15mm×3.8mmの試験片を使用した。
・加熱装置;CEM Corporation製、Phoenix Microwave Furnaceを使用した。
・測定手法;空のるつぼの重量を重量(i)、さらに、るつぼに試験片を入れた際の重量(ii)として測定した。その後、試験片を入れたるつぼを450℃で40分加熱を行い、工程の後の試験片入りるつぼの重量を重量(iii)として、測定した。
得られた重量(i)〜(iii)から、下記の計算式を用いて、スタンパブルシートに含有される成分(ウ)の含有量(重量%)を求めた。
スタンパブルシートに含有される成分(ウ)の含有量(重量%)=100×[重量(iii)−重量(i)]÷[重量(ii)−重量(i)]
【0083】
(6)平滑性(外観):
成形品の平滑性については、下記要領にて実施し、外観を評価した。
先ず、200mm×150mm×3.8mmのスタンパブルシートの中央部(200mm×15mm)を赤外線ヒーターにて170℃に加熱後、加熱部を角度120度の凹凸に押し当て折り曲げ成形し、成形加工部を下記評価基準に従い、目視にて評価した。
○:成形加工部のガラス繊維マット(ウ)が成形体の表面に露出していない。
×:成形加工部のガラス繊維マット(ウ)が成形体の表面に露出している。
【0084】
(7)曲げ弾性率および曲げ応力:
スタンパブルシートから切削した、80mm×10mm×3.8mmの試験片を用い、JIS K7171に準拠し、測定雰囲気温度23℃にて測定した(単位はMPa)。
【0085】
2.材料
(1)ポリオレフィン系樹脂としてのポリプロピレン系樹脂(ア)
(以下、いずれも酸化防止剤、中和剤を添加済みのペレットである。)
(i)ア−1:日本ポリプロ社製、商品名「ノバテックPP」の下記組成のグレードを用いた。
該材料は、チーグラー・ナッタ触媒で重合されたプロピレン・エチレンブロック共重合体であり、プロピレン・エチレンブロック共重合体全体のMFR(230℃、2.16kg荷重)が0.5g/10分、プロピレン・エチレンブロック共重合体全体に対するプロピレン・エチレン共重合体部分の含有率が8重量%、プロピレン・エチレン共重合体部分のエチレン含有量が78重量%、溶融張力(190℃、押し込み速度10mm/min)が12g、溶融粘度(230℃、押し込み速度10mm/分)が890Pa・sである。
(ii)ア−2:日本ポリプロ社製、商品名「ノバテックPP」の下記組成のグレードを用いた。
該材料は、チーグラー・ナッタ触媒で重合されたプロピレン単独重合体であり、プロピレン単独重合体全体のMFR(230℃、2.16kg荷重)が0.4g/10分、溶融張力(190℃、押し込み速度10mm/min)が19g、溶融粘度(230℃、押し込み速度10mm/分)が950Pa・sである。
(iii)ア−3:日本ポリプロ社製、商品名「ノバテックPP」の下記組成のグレードを用いた。
該材料は、チーグラー・ナッタ触媒で重合されたプロピレン単独重合体であり、プロピレン単独重合体全体のMFR(230℃、2.16kg荷重)が2.4g/10分、溶融張力(190℃、押し込み速度10mm/min)が3g、溶融粘度(230℃、押し込み速度10mm/分)が570Pa・sである。
上記ポリプロピレン系樹脂(ア)のア−1〜ア−3の物性(MFRとMT)の纏めを表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
(2)ポリプロピレン系樹脂(イ)
(i)イ−1:日本ポリプロ社製、商品名「ノバテックPP」の下記組成のグレードを用いた。
該材料は、チーグラー・ナッタ触媒で重合されたプロピレン単独重合体であり、プロピレン単独重合体全体のMFR(230℃、2.16kg荷重)が60g/10分、溶融張力(190℃、押し込み速度10mm/min)が1.0g未満、溶融粘度(230℃、押し込み速度10mm/分)が100Pa・sである。
【0088】
(3)ガラス繊維マット(ウ)
(i)ウ−1:ロービングの連続したガラス繊維(繊維径23μm)から製造されたスワール(渦巻状)マット(目付900g/m
2)をニードルパンチしたガラス繊維マットを使用した。
【0089】
3.実施例及び比較例
[実施例1、2及び比較例1、2]
(1)スタンパブルシートの製造
前記ポリプロピレン系樹脂(イ)を押出機に入れて、溶融した後、厚み2.0mmのシート状に押出し成形するとともに、押出されたシート状物の両面に、ガラス繊維マット(ウ)を表裏1枚ずつ供給して積層し、さらに、これらガラス繊維マットとシート状物との3層の積層体の両面に、表層用としてポリプロピレン系樹脂(ア)又は(イ−1)からなる別のシートを表裏1枚ずつ供給して、5層を積層した後、ラミネーターを用いて0.3MPa、230℃、4分間、加熱及び加圧し、次いで、冷却固化させることで、厚み3.8mmスタンパブルシートを得た。
表層用のシートについては、厚み0.5mmの物を使用した。
得られたスタンパブルシートの層構造を表2に示す。
【0090】
(2)評価
得られたスタンパブルシートは、前記評価方法に示した要領で、それぞれ性能評価を行った。
評価結果を表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
表1、2から、本発明のスタンパブルシートの発明の構成要件を満たしている実施例1と2は、機械物性に優れると共に、成形品の平滑性に優れていることがわかる。
一方、本発明の必須構成要件における各規定を満たさない比較例1、2は、これらの性能バランスが不良で、特に、成形品の平滑性が見劣りしている。