【実施例1】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る発電機付き車輪用軸受装置を適用した足回りの一部を示す縦断面図、
図2は、本発明に係る発電機付き車輪用軸受装置の第1の実施形態を示す縦断面図、
図3(a)は、
図2の発電機付き車輪用軸受装置の軸受部を示す縦断面図、(b)は、(a)のアウター側から見た矢視図、(c)は、(a)のインナー側から見た矢視図、
図4は、
図2のIV−IV矢視図、
図5は、本発明に係る電気部品を概略的に示すブロック図である。なお、以下の説明では、車両に組み付けた状態で車両の外側寄りとなる側をアウター側(
図1の左側)、中央寄り側をインナー側(
図1の右側)という。
【0022】
図1に、本発明に係る発電機付き車輪用軸受装置を適用した足回りの一部を示す。サスペンションには大きく分けて2つの方式があり、独立懸架方式と固定車軸方式がある。このうち独立懸架方式は、左右それぞれの車輪を別々のサスペンションで動作する方式のことで、操作性や乗り心地が良く、一般的な乗用車やスポーツカーあるいは小型のフロントサスペンションとして採用されている。この独立懸架方式にはストラット式、ダブルウィッシュボーン式、マルチリンク式、リーディング式およびトレーリンク式等があり、この中でもストラット式は広く乗用車の懸架装置として採用されている。
【0023】
懸架装置を構成するナックルKが、懸架装置の上下動を受持つアッパーアームUAと、車輪Wの旋回を受持つロアアームLAに連結されて車体側に固定されている。ここで、ロアアームLAは、ナックルKに装着されたボールジョイントBJを介して回動可能に連結されている。また、アッパーアームUAの上部と車体との上下方向の間にはショックアブソーバSAが配設され、このショックアブソーバSAの外周にはコイルスプリングCSが略同軸に配置されている。車輪Wは、ナックルブラケットKBに連結されたナックルKに対して車輪用軸受装置1を介して回転自在に支持されている。
【0024】
車輪用軸受装置1はナックルKに固定される外方部材2と、車輪Wを支持するハブ輪3とを備え、等速自在継手4によってエンジンからの回転トルクがドライブシャフトDSを介してハブ輪3に伝達されている。
【0025】
ここで、図示しない操舵機構を介して操舵力がナックルKに伝達されると、このナックルKはキングピン軸(アッパーアームUAの支持点とロアアームLAのボールジョイントBJを結ぶ線、所謂キングピン軸周りに回動し、このナックルKに支持された車輪Wが転舵される。また、車体重量は、ショックアブソーバSA、ナックルKを介して車輪Wに支持される。そして、車両が走行路面上の凹凸を通過する等して発生する車輪Wの上下動に対しては、ショックアブソーバSAの伸縮によって減衰されると共に、このショックアブソーバSAと同軸に配設されたコイルスプリングCSの撓みによって吸収される。
【0026】
図2に本発明に係る発電機付き車輪用軸受装置1を示す。この車輪用軸受装置1は駆動輪用の第3世代と呼称され、内方部材5と外方部材2、および両部材5、2間に転動自在に収容された複列の転動体(ボール)6、6とを備え、等速自在継手4が着脱自在に結合されている。内方部材5は、ハブ輪3と、このハブ輪3に圧入固定された内輪7とからなる。
【0027】
ハブ輪3は、アウター側の端部に車輪(図示せず)を取り付けるための車輪取付フランジ8を一体に有し、外周に一方(アウター側)の内側転走面3aと、この内側転走面3aから軸方向に延びる円筒状の小径段部3bが形成され、内周にトルク伝達用のセレーション(またはスプライン)3cが形成されている。車輪取付フランジ8の円周等配位置には車輪を取り付けるハブボルト(図示せず)を固定するボルト孔8aが穿設されている。
【0028】
ハブ輪3はS53C等の炭素0.40〜0.80重量%を含む中高炭素鋼で形成され、内側転走面3aをはじめ、アウター側のシール9が摺接するシールランド部となる車輪取付フランジ8のインナー側の基部8bから小径段部3bに亙って高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理が施されている。
【0029】
内輪7は外周に他方(インナー側)の内側転走面7aが形成され、ハブ輪3の小径段部3bに所定のシメシロをもって圧入され、軸方向に固定されている。内輪7はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れにより芯部まで58〜64HRCの範囲に硬化処理されている。また、転動体6はSUJ2等の高炭素クロム鋼で形成され、ズブ焼入れにより芯部まで62〜67HRCの範囲に硬化処理されている。
【0030】
外方部材2は、外周にナックル(図示せず)に取り付けられるための車体取付フランジ2bを一体に有し、内周に前記内方部材5の内側転走面3a、7aに対向する複列の外側転走面2a、2aが一体に形成されている。この外方部材5は、ハブ輪3と同様、S53C等の炭素0.40〜0.80重量%を含む中高炭素鋼で形成され、少なくとも複列の外側転走面2a、2aが高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理が施されている。そして、それぞれの転走面2a、3aと2a、7a間に複列の転動体6、6が保持器10、10によって転動自在に収容されている。また、外方部材2と内方部材5との間に形成される環状空間の開口部にシール9、11が装着され、軸受内部に封入された潤滑グリースの漏洩を防止すると共に、外部から軸受内部に泥水等の異物が侵入するのを防止している。
【0031】
本実施形態では、インナー側の転動体6のピッチ円直径PCDiがアウター側の転動体6のピッチ円直径PCDoよりも大径に設定されている(PCDi>PCDo)。また、こうしたピッチ円直径PCDo、PCDiの違いにより、それぞれの転動体6のサイズは同じで、インナー側の転動体6の個数Ziがアウター側の転動体6の個数Zoよりも多く設定されている。これにより、有効に軸受スペースを活用してアウター側に比べインナー側部分の軸受剛性を増大させることができると共に、軸受列の負荷容量を増大させて軸受の長寿命化を図ることができる。
【0032】
なお、本実施形態では、転動体6にボールを使用した複列アンギュラ玉軸受で構成された車輪用軸受装置を例示したが、これに限らず、例えば、転動体6に円すいころを用いた複列の円すいころ軸受で構成されていても良い。また、ここでは、ハブ輪3の外周に一方の内側転走面3aが直接形成された第3世代構造からなる車輪用軸受装置を例示したが、図示はしないが、ハブ輪の小径段部に一対の内輪が圧入された、所謂第2世代構造であっても良い。
【0033】
等速自在継手4は、外側継手部材12と継手内輪13とケージ14およびトルク伝達ボール15を備えている。外側継手部材12は、カップ状のマウス部16と、このマウス部16の底部をなす肩部17と、この肩部17から軸方向に延びるステム部18を一体に有している。ステム部18は、外周にハブ輪3のセレーション3cに係合するセレーション(またはスプライン)18aと、このセレーション18aの端部に雄ねじ18bが形成されている。
【0034】
外側継手部材12のマウス部16の内周および継手内輪13の外周には軸方向に延びる曲線状のトラック溝16a、13aがそれぞれ形成されている。また、外側継手部材12および継手内輪13はS53C等の炭素0.40〜0.80重量%を含む中高炭素鋼で形成され、トラック溝16a、13aをはじめ、外側継手部材12の肩部17からステム部18の基部に亙ってその外周面に高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理が施されている。
【0035】
ハブ輪3と外側継手部材12との結合は、外側継手部材12の肩部17が内輪7の大端面7bに衝合するまでステム部18がハブ輪3に嵌挿され、この内輪7の大端面7bと外側継手部材12の肩部17とが突き合わせ状態で、雄ねじ18bに固定ナット19が所定の締付トルクで締結され、ハブ輪3と外側継手部材12が軸方向に着脱自在に結合されている。
【0036】
ここで、ハブ輪3の車輪取付フランジ8は、
図3(b)に示すように、ボルト孔8aの近傍を除く部分を切欠いて、各ボルト孔8aの形成部分と略同じ幅でもって、環状の基部(8b)から放射状に突出するように形成されている。すなわち、車輪取付フランジ8は、円周方向に離れた複数(ここでは、4つ)の部分フランジに分割して形成されている。これにより、ハブ輪3の剛性を低下させることなく軽量化を図ることができる。なお、このような部分フランジからなる車輪取付フランジ8に限らず、図示はしないが、ボルト孔8aの周辺を避けてボルト孔8a間に、このボルト孔8aのピッチ円直径より内径側まで深くR形状の切欠きが形成された花形形状であっても良い。
【0037】
外方部材2の車体取付フランジ2bは、図示しないアッパーアームとロアアームに連結される二股状に形成されたナックルブラケットにそれぞれ固定され、路面垂直方向に突出して一対形成されている。そして、この車体取付フランジ2bの図示しないナックルに締結されるボルトが挿通されるボルト孔20が複数(ここでは、3個)穿設されている。
【0038】
また、(a)に示すように、外方部材2のインナー側の側面2cに軸方向に延びる環状の突出部21が形成されている。この突出部21と円筒状の外周面2dとの間に環状空間22が形成され、この環状空間22に後述する発電機30を構成するステータ23が収容されている。
【0039】
ステータ23は、電磁鋼板を積層することにより構成されているステータコア24と、このステータコア24に巻回されたコイル25と、(c)に示すホール素子26を備えている。また、ステータ23にはステータブラケット27が装着されており、組立時に外方部材2に位置決め固定されると共に、ステータカバー28が、突出部21と外周面2dとで形成される環状空間22の開口部に装着され、ステータ23が環状空間内に閉塞されている。なお、コイル25の巻き付け方法は、分布巻きあるいは集中巻きのいずれであっても良い。
【0040】
一方、発電機30を構成するロータ界磁部材である永久磁石29は等速自在継手4側に装着されている。具体的には、
図2に示すように、永久磁石29は、外側継手部材12の肩部17から径方向外方に延びて形成されたフランジ状のロータケース31内に装着されている。そして、
図4に示すように、永久磁石29は略扇形に形成され、円周方向に複数とホール素子26用の磁石が配列されると共に、所定の軸方向のエアギャップを介してステータコア24に対向配置されている。なお、ロータケース31を外側継手部材12の肩部17に着脱可能に圧入しても良いが、本実施形態のように、ロータケース31が外側継手部材12に一体形成されていれば、部品点数と組立工数を削減することができる。
【0041】
図2に戻って、本実施形態では、発電機30におけるエアギャップの磁力線の方向は、軸心と平行となるアキシアルエアギャップ形で、永久磁石型同期発電機である。永久磁石29はフェライト系であるが、これ以外にも希土類磁石にしても良い。ここでは、アキシアルエアギャップ部にすきまがあり、外部から塵埃や泥水等の異物が内部に侵入しないよう、シール32がロータケース31の外縁部に装着されている。このシール32はガータースプリング付きのオイルシールで構成されている。
【0042】
また、発電機30は、鉛電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池等の2次電池34から充電可能なバッテリーと制御装置35により、電力の授受が行われるように構成されている。この制御装置35は、
図5に示すように、発電機30から出力される3相出力電圧は、制御装置35より順変換されて直流出力電圧となり、バッテリーに充電される。この場合、バッテリー充電を効率よく行うため、交流発電機の発電量を制御する進角・遅角制御が行われている。
【0043】
制御回路は、ステータコイルU相、W相に電圧が誘起され、この誘起された電圧は、回路の整流回路33により直流電圧に変換されてコンデンサに印加される。そして、電圧の降圧、昇圧の電圧制御も適宜実行される。また、制御装置35は、バッテリーの充電量を監視し、バッテリー容量を超えない範囲で走行エネルギーを電力とする。バッテリー容量が規定値になった場合、図示しない抵抗器により電力を損出させてバッテリーの過充電を防止する。
【0044】
本発明に係る発電機付き車輪用軸受装置1では、既存の車両エンジンコンパートメントにおける発電機30を小型化させることができると共に、車両エンジンコンパートメントの空間に余裕を持たせることができ、既存のパワートレーンが利用可能で、かつ、従来の車輪用軸受装置と置き換えができる。さらには、界磁部品のサイズアップにより発電容量の増大を図った発電機付き車輪用軸受装置を提供することができる。また、組立工程においては、前工程で予め外方部材2へステータ23をサブアッシーとして組立ができ、組立工程を簡素化することができる。
【実施例2】
【0045】
図6は、本発明に係る発電機付き車輪用軸受装置の第2の実施形態を示す縦断面図である。なお、この第2の実施形態は、前述した第1の実施形態と基本的には発電機の構成が異なるだけで、その他同一部品同一部位あるいは同様の機能を有する部品や部位には同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0046】
図6に示す車輪用軸受装置36は駆動輪用の第3世代と呼称され、内方部材5と外方部材2、および両部材5、2間に転動自在に収容された複列の転動体6、6とを備え、等速自在継手38が着脱自在に結合されている。内方部材5は、ハブ輪3と、このハブ輪3に圧入固定された内輪7とからなる。
【0047】
等速自在継手37は、外側継手部材38と継手内輪13とケージ14およびトルク伝達ボール15を備えている。外側継手部材38は、カップ状のマウス部16と、このマウス部16の底部をなす肩部39と、この肩部39から軸方向に延びるステム部18を一体に有している。
【0048】
外側継手部材38はS53C等の炭素0.40〜0.80重量%を含む中高炭素鋼で形成され、トラック溝16a、13aをはじめ、外側継手部材38の肩部39からステム部18の基部に亙ってその外周面に高周波焼入れによって表面硬さを58〜64HRCの範囲に硬化処理が施されている。
【0049】
ここで、外方部材2のインナー側の側面2cに軸方向に延びる環状の突出部21が形成されている。この突出部21と円筒状の外周面2dとの間に環状空間22が形成され、この環状空間22に後述する発電機40を構成するステータ41が収容されている。
【0050】
ステータ41は、電磁鋼板を積層することにより構成されているステータコア42と、このステータコア42に巻回されたコイル43を備えている。また、ステータ41にはステータブラケット27が装着されており、組立時に外方部材2に位置決め固定されると共に、ステータカバー44が、突出部21と外周面2dとで形成される環状空間22の開口部に装着され、ステータ41が環状空間内に閉塞されている。
【0051】
一方、発電機40を構成するロータ界磁部材である永久磁石45は、外側継手部材38の肩部39から径方向外方に延び、環状空間22内にアウター側に突出した円筒状のロータケース46の外径部に装着され、所定の径方向のエアギャップを介してステータコア42に対向配置されている。
【0052】
本実施形態では、発電機40におけるエアギャップの磁力線の方向は、軸心と直交するラジアルエアギャップ形で、永久磁石型同期発電機である。そして、ラジアルエアギャップ部にすきまがあり、外部から塵埃や泥水等の異物が内部に侵入しないよう、シール32がステータカバー44の内縁部に装着されている。
【0053】
このように、本実施形態においては、前述した実施形態と同様、発電機40を小型化させることができると共に、車両エンジンコンパートメントの空間に余裕を持たせることができ、既存のパワートレーンが利用可能で、かつ、従来の車輪用軸受装置と置き換えができ、界磁部品のサイズアップにより発電容量の増大を図ることができる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。