特許第6584309号(P6584309)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6584309-コンクリート硬化体 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6584309
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】コンクリート硬化体
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20190919BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20190919BHJP
   C04B 16/08 20060101ALI20190919BHJP
   C04B 38/08 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   C04B28/02
   C04B38/00 301A
   C04B16/08
   C04B38/08 C
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-238849(P2015-238849)
(22)【出願日】2015年12月7日
(65)【公開番号】特開2017-105655(P2017-105655A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2018年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 学
(72)【発明者】
【氏名】林 大介
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−104026(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0068430(US,A1)
【文献】 米国特許第04057526(US,A)
【文献】 特開平08−133799(JP,A)
【文献】 千歩修ら,中空微小球を用いたフライアッシュコンクリートの耐凍害性,セメント・コンクリート論文集,2005年 2月20日,No.58,p.313-318
【文献】 七海隆之ら,中空微小球添加水中不分離性コンクリートの耐凍害性、圧縮強度に及ぼす高炉スラグ微粉末の影響,セメント・コンクリート論文集,2000年 2月25日,No.53,p.435-440
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00−32/02,
C04B38/00−38/10,
C04B40/00−40/06,
C04B103/00−111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気泡部を分散形成したコンクリート硬化体であって、
前記気泡部の前記コンクリート硬化体に対する体積比である空気量が6%以下であり、
直径0.01mm以上0.1mm以下の気泡部である微細気泡部の前記コンクリート硬化体に対する体積比が、1.0%以上であって、
直径0.01mm以上0.1mm以下の樹脂製の中空ビーズによって形成されている樹脂製微細気泡部の前記コンクリート硬化体に対する体積比が0.4%以上0.8%以下であるコンクリート硬化体。
【請求項2】
気泡間隔係数が0.4mm以下である、請求項1記載のコンクリート硬化体。
【請求項3】
セメントと、水と、を含んでなるフレッシュコンクリートの製造方法であって、
直径0.01mm以上0.1m以下の樹脂製の中空ビーズを、フレッシュコンクリート材料に混入する弾性中空体混入工程と、
AE剤をフレッシュコンクリート中に添加することによって、該フレッシュコンクリート中に存在する直径0.01mm以上0.1mm以下の気泡部である微細気泡部を増加させる工程と、を備え、
前記弾性中空体混入工程における前記中空ビーズの混入量を、前記フレッシュコンクリートの硬化後におけるコンクリート硬化体に対する前記中空ビーズの体積比が0.4%以上0.8%以下、となる量に調整し、
前記AE剤添加工程におけるAE剤の添加量を、前記弾性中空体混入工程における前記中空ビーズの混入量に応じて、直径0.01mm以上0.1mm以下の気泡部である微細気泡部の前記コンクリート硬化体に対する体積比が1.0%以上となる量に調整し
前記コンクリート硬化体に対する気泡部の体積比である空気量を6%以下に保持するために必要な場合には、消泡剤を添加することによって、前記空気量が6%以下となるようにする、
フレッシュコンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート硬化体に関する。更に詳しくは、コンクリート硬化体内に気泡部を分散形成したコンクリート硬化体、所謂、気泡コンクリートであって、強度や施工性等の基本性能を確保しながら、凍結融解抵抗性を向上させたコンクリート硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート硬化体について、コンクリート硬化体内部の水分が凍結して体積増加することによりコンクリートに悪影響を与える凍害を防止するために、一般に、フレッシュコンクリート中における空気量は、体積比で6%以下程度が適切であるとされており、硬化体内に所定比率の気泡を形成することが一般的なコンクリートの品質基準として定められている。
【0003】
しかし、実際に、上記の凍害防止に寄与する空気は、直径0.15mm程度未満の微細な気泡として形成されている部分のみであり、直径1mmを超える気泡は、凍結融解抵抗性の向上にほとんど寄与しないことも、本発明の発明者を含む研究グループの研究成果として、近年知られるようになっている(非特許文献1参照)。
【0004】
そのような微細な気泡をコンクリート内に形成する方法として、例えば、AE剤又はAE減水剤をフレッシュコンクリートに混入することによって、コンクリート内の微細気泡の径を0.25mm以下程度にする方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
又、コンクリート内に微細な気泡を形成する他の手段として、合成樹脂発泡ビーズをフレッシュコンクリート内に混入させることによって物理的に微細な気泡部(中空部)をコンクリート内に形成する方法も開示されている(特許文献2参照)。但し、この中空部の形成は、単に、コンクリートの強度を保ったまま、軽量化を図ることをその目的としているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−259050号公報
【特許文献2】特開平5―310483号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】コンクリート工学論文集 第23巻第1号 2012年1月 コンクリートの気泡組織と耐凍害性の関係に関する考察
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、コンクリート硬化体の凍結融解抵抗性を向上させるためには、コンクリート硬化体に、直径0.15mm程度以下の微細な気泡をに形成することが有効である。このようなごく微細な気泡のみを硬化体に安定的に形成することができれば、コンクリート硬化体に対する体積比で、1%程度の空気量があれば、十分な凍結融解抵抗性をコンクリート硬化体に備えさせることができることが、本発明者らの研究によって明らかになっている。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、極端に大きな径の気泡を排除することはできるとしても、依然、気泡の大きさのばらつきは大きく、硬化後における気泡のサイズや量を特定の範囲に制御することが困難であった。
【0010】
特許文献2に記載の方法によれば、気泡は、硬化の前後を通じて、フレッシュコンクリート中に安定的に存在することができる。しかしながら、合成樹脂発泡ビーズのみによって、凍結融解抵抗性を担保するために必要な空気量(1体積%程度)を確保できるほどに樹脂性のビーズの添加量を増加させると、フレッシュコンクリートのスランプ低下による施工性への悪影響が生じることが分かってきた。又、上記のビーズは極めて高価であるため、その大量の添加はコスト高につながり、経済性の観点からビーズの添加量の抑制が求められるところであった。
【0011】
本発明は上記状況に鑑みてなされたものである。即ち、微細気泡のサイズと存在量が安定的に制御されていることによって、強度や施工性等の基本性能を確保しながら、凍結融解抵抗性を十分に向上させたものであり、且つ、経済性にも優れるコンクリート硬化体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、フレッシュコンクリートへの樹脂製の中空ビーズの添加量を、当該中空ビーズのみで凍結融解抵抗性を担保するために必要とされる最小の添加量よりも、相対的に少ない一定量範囲において最適化することにより、強度や施工性等の基本性能と併せて、好ましい凍結融解抵抗性を備え、尚且つ、経済性にも優れるコンクリート硬化体を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0013】
(1) 気泡部を分散形成したコンクリート硬化体であって、前記気泡部の前記コンクリート硬化体に対する体積比である空気量が6%以下であり、直径0.01mm以上0.1mm以下の気泡部である微細気泡部の前記コンクリート硬化体に対する体積比が、1.0%以上であって、直径0.01mm以上0.1mm以下の樹脂製の中空ビーズによって形成されている樹脂製微細気泡部の前記コンクリート硬化体に対する体積比が0.4%以上0.8%以下であるコンクリート硬化体。
【0014】
(1)の発明によれば、樹脂製の中空ビーズをコンクリート硬化体内に0.1mm以下の微細気泡部を1.0体積%以上の割合で形勢するための手段として用いることとした。但し、中空ビーズの添加量は、コンクリート硬化体の施工性を損なうことのない所定の添加量範囲内での調整とし、微細気泡部の一部は、AE剤の添加等によって形成される通常の気泡に由来するものとした。これにより、高価な樹脂製の中空ビーズの添加量を必要最小限の量に制限しながら、コンクリート硬化体の強度や施工性等の基本性能を確保し、尚且つ、その凍結融解抵抗性を、十分に向上させることができる。
【0015】
又、(1)の発明によれば、このコンクリート硬化体は、コンクリート中の空気中の総量も従来の一般的な基準よりも更に小さい範囲に限定されており、従来品よりも強度が高いものとなる。又、従来と同程度の強度を確保するためのセメント量を節約してコストを削減することもできる。
【0016】
又、(1)の発明は、樹脂製の中空ビーズの過剰な添加によるスランプの低下を回避して施工性についても十分な配慮がされた好ましいものとなっている。
【0017】
(2) 前記樹脂製微細気泡部の直径の分散が、2.5×10−3〜62.5×10−3である(1)に記載のコンクリート硬化体。
【0018】
(2)の発明によれば、微細気泡部の直径の分散が極めて小さいコンクリート硬化体を得ることができる。これにより、(1)の発明の効果をより確実に発揮させることができる。特に、気泡直径の分散が大きい同空気量程度の従来のフレッシュコンクリートよりもスランプが大きくなるため施工性において顕著に優れたものとなる。
【0019】
(3) 気泡間隔係数が0.4mm以下である、(1)又は(2)に記載のコンクリート硬化体。
【0020】
(3)の発明によれば、(1)又は(2)に記載のコンクリート硬化体の凍結融解抵抗性を更に向上させることができる。
【0021】
(4) セメントと、水と、を含んでなるフレッシュコンクリートの製造方法であって、直径0.01mm以上0.1m以下の樹脂製の中空ビーズを、フレッシュコンクリート材料に混入する弾性中空体混入工程と、AE剤をフレッシュコンクリート中に添加することによって、該フレッシュコンクリート中に存在する直径0.01mm以上0.1mm以下の気泡部である微細気泡部を増加させる工程と、を備え、前記弾性中空体混入工程における前記中空ビーズの混入量を、前記フレッシュコンクリートの硬化後におけるコンクリート硬化体に対する前記中空ビーズの体積比が0.4%以上0.8%以下、となる量に調整し、前記AE剤添加工程におけるAE剤の添加量を、前記コンクリート硬化体に対する気泡部の体積比である空気量が6%以下、直径0.01mm以上0.1mm以下の気泡部である微細気泡部の前記コンクリート硬化体に対する体積比が1.0%以上となる量とするフレッシュコンクリートの製造方法。
【0022】
(4)の発明によれば、樹脂性の中空ビーズとAE剤を適切に併用することにより、(1)から(3)のいずれかの発明に係るコンクリート硬化体を製造可能なフレッシュコンクリートを製造して、当該コンクリート硬化体の奏する効果を享受することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、微細気泡のサイズと存在量が安定的に制御されていることによって、強度や施工性等の基本性能を確保しながら、凍結融解抵抗性を十分に向上させたものであり、且つ、経済性にも優れるコンクリート硬化体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明のコンクリート硬化体について、凍結融解抵抗試験を行った結果を示すグラフであり、凍結融解サイクルと相対動弾性係数(%)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施態様について説明する。尚、本発明は以下の実施態様に限定されない。
【0026】
<フレッシュコンクリート>
本発明のコンクリート硬化体を製造するためのフレッシュコンクリート(以下、単に「フレッシュコンクリート」とも言う)は、所定サイズの樹脂製の中空ビーズと、AE剤とが、それぞれが、所定量範囲で混入又は添加されていることを特徴とする。中空ビーズ及びAE剤の上記所定量範囲は、コンクリート硬化体における空気量、即ち全ての気泡部の体積の合計の硬化体体積に対する比率を6%以下に保持することができる量であることを前提として、その範囲内で、以下に詳細を示す通りに最適化された量であればよい。フレッシュコンクリートの配合比の好ましい具体的としては、下記実施例に例示される配合を挙げることができる。フレッシュコンクリートのその他の材料の配合比は、特段限定されない。従来公知の材料を実施用途に応じて適宜、設定すればよい。
【0027】
(中空ビーズ)
フレッシュコンクリートに混入させる中空ビーズは、硬化時に直径0.01mm以上0.1mm以下の微細気泡部を形成可能な樹脂製の中空ビーズであればよい。本明細書において「ビーズ」とは球形や長円形や円筒形の球を意味する。本発明に用いる中空ビーズは、凍結融解に伴う水圧を緩和して凍結融解抵抗性を発揮させるに足る可撓性を有するものであればよく、その形状は、中空であり、且つ、略球形状であることが好ましい。又、中空ビーズの粒径は、中空部の内径が、0.01mm以上0.1mm以下の範囲であればよく、その外径の0.95倍以上程度であることが好ましい。又、中空ビーズの粒径(外径)は、上記範囲内で一定の分散があってもよいが、粒径が0.1mm前後であって、その分散が少ないものが、より好ましい。具体的には、中空ビーズの全粒数のうち70%の粒が、粒径0.1mm±0.05mmの範囲にあるものが好ましい。
【0028】
中空ビーズの材料の具体例としては、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリルニトリルスチレン共重合体、スチレン・エチレン共重合体、ポリ塩化ビニリデン等の可撓性を有する樹脂を挙げることができる。これらの樹脂を発泡させることにより得ることができる中空ビーズを好ましく用いることができる。
【0029】
中空ビーズのフレッシュコンクリートへの配合比は、中空ビーズによって形成される微細気泡部のコンクリート硬化体に対する体積比が、0.4%以上0.8%以下となる量とする。尚、フレッシュコンクリートにおける気泡部の体積比等を測定する方法については、水中を上昇した気泡による浮力の経時変化より解析を行う浮力法等の従来公知の方法を採用することができる。又、コンクリート硬化体中における気泡について、混入空気由来の気泡と樹脂製ビーズ由来の気泡とは、顕微鏡による計測により分離して、それぞれの分布とコンクリート硬化体中におけるそれぞれの体積比を、個別に測定することが可能である。ンクリート硬化体における各気泡部の体積比を測定する方法については、より具体的には、例えば、公知の方法である「ASTM C457 硬化コンクリートの気泡パラメータの顕微鏡による測定方法」等によることができる。
【0030】
(結合材)
フレッシュコンクリートにおいて結合材として用いるセメント材としては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント等のポルトランドセメント以外に高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等を挙げることができる。これらを上記の通り、コンクリート硬化体の使用用途により使い分けることが好ましい。
【0031】
但し、セメント材としては、ブレーン値が普通ポルトランドセメントよりも小さいMKC(低発熱型高炉セメントB種)を用いることにより、コンクリート硬化体の施工性を更に向上させることもできる。この配合では、通常、ブリーディングが発生しやすいが、均質に微細な気泡を分散させることでブリーディングを抑制することができる。又、振動に対して広がりやすい性質を持つのでフレッシュコンクリートのスランプフローの値が大きくなるからである。
【0032】
フレッシュコンクリートには、適切なサイズと量の空気由来の微細気泡を形成するために、一般的なAE剤、AE減水剤、高性能AE減水剤等の混和剤を適量添加する。これにより、樹脂製ビーズによる微細気泡部の形成を更に補填して、コンクリート硬化体中の全体の空気量を6%以下に保ったまま、コンクリート硬化体の凍結融解抵抗性を担保するために必要な微細気泡部の体積比を、1.0%以上とすることができる。
【0033】
又、消泡剤として、例えば、ポリアルキレングリコール等、従来公知の消泡剤を用いることができる。主にエントラップドエアからなるフレッシュコンクリート中の中空ビーズ内の空気以外の空気を、必要に応じて適切に除去可能なものを、適宜添加することができる。
【0034】
(その他の材料と配合比)
フレッシュコンクリートのその他の材料と組成物の配合比については特段限定されない。用途を考慮して適宜設定すればよい。具体的には例えば、水結合材比40〜60%、細骨材率(s/a)20〜60%、単位水量110〜185kg/m、単位結合材量210〜450kg/m、単位細骨材量450〜1000kg/m、単位粗骨材量650〜1500kg/mの範囲で配合を設定すればよい。フライアッシュ等の粉体で結合材の一部を置換してもよい。
【0035】
<コンクリート硬化体>
本発明のコンクリート硬化体(以下、単に「コンクリート硬化体」とも言う)は、上記のフレッシュコンクリートを硬化させて得ることができる。
【0036】
コンクリート硬化体は、セメント内に多数の気泡部が分散形成された所謂気泡コンクリートである。このコンクリート硬化体は、空気量が、一般的な気泡コンクリートの基準よりも小さい6%以下であり、高い強度を有するものである。そして、その気泡部は、凍結融解抵抗性を担保するために、コンクリート硬化体に対する体積比において1.0%以上の割合で、直径0.01mm以上0.1mm以下の微細気泡部を含んで構成されている。更に、当該微細気泡部の少なくとも一部は、直径0.01mm以上0.1mm以下の樹脂製の中空ビーズによって形成されている樹脂製微細気泡部である。この樹脂製微細気泡部のコンクリート硬化体中における体積比が0.4%以上0.8%以下であることが本発明のコンクリート硬化体の主たる特徴である。樹脂製微細気泡部の体積比を0.4%以上とすることで、空気の総量を抑制して高い強度を保ったまま良好な凍結融解抵抗性をコンクリート硬化体に備えさせることができる。又、同体積比を0.8%以下に抑えることで、フレッシュコンクリートのスランプを最適して良好な施工性を保持することができる。
【0037】
樹脂製微細気泡部は、そのサイズのバラツキが極めて小さい。コンクリート硬化体の全気泡部のうち少なくとも、体積比において10%以上がこの樹脂製微細気泡部によって占められていることが好ましい。
【0038】
又、コンクリート硬化体の気泡間隔係数は、0.4mm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.2mm以下である。気泡間隔係数を上記範囲とすることによって、コンクリート硬化体の凍結融解抵抗性を更に向上させることができる。
【0039】
尚、コンクリート硬化体における気泡間隔係数等を測定する方法については、上記同様、例えば、公知の方法である「ASTM C457 硬化コンクリートの気泡パラメータの顕微鏡による測定方法」等によることができる。
【0040】
<フレッシュコンクリートの製造方法>
本発明のフレッシュコンクリートを製造するための材料は上述した通りである。本願独自の樹脂製の中空ビーズを含むそれらの材料を混錬するためには、従来公知の一般的なフレッシュコンクリートの混錬方法、混錬手段を用いることができる。
【0041】
(弾性中空体混入工程)
この工程では、直径0.01mm以上0.1mm以下の樹脂製の中空ビーズを、フレッシュコンクリート材料に混入する。この処理は、空気除去工程に先行して行うことが好ましい。中空ビーズの混入量は、フレッシュコンクリートの硬化後におけるコンクリート硬化体に対する前記中空ビーズの体積比が0.4%以上0.8%以下とすることができる範囲で適宜調整する。
【0042】
(AE剤添加工程)
この工程では、AE剤をフレッシュコンクリート中に適量比で添加する。これにより、セメント、水、中空ビーズ、及び、必要に応じて添加されるその他の材料からなるフレッシュコンクリート中に存在する直径0.01mm以上0.1mm以下の気泡部である微細気泡部を増加させて、微細気泡部のコンクリート硬化体に対する体積比が1.0%以上となるようにする。尚、後に実施例において示す通り、中空ビーズ由来の気泡部のみにより微細気泡部のコンクリート硬化体に対する体積比を、上記のように、1.0%以上とすると、フレッシュコンクリートの施工性が低下してしまう。適量のAE剤を添加することによりこれを回避することができる。又、AE剤の適切な添加により、高価な中空ビーズの添加量を半減させることも可能であり、経済性の面においても適量のAE剤の添加は極めて好ましい。
【0043】
尚、主として、直径1.0mm以上の大型気泡を排除又は減少させるために、本製造方法においては、必要に応じて適宜消泡剤を併用することが好ましい。消泡剤の添加によって、フレッシュコンクリート中の全空気量を6%以下となるようにすることで、硬化後のコンクリートの強度を適切な強度に保つことができる。
【0044】
上記製造方法によって得ることができるフレッシュコンクリートを、従来公知の手順で硬化させることにより、強度や施工性等のコンクリートとしての基本性能を確保しながら、凍結融解抵抗性を十分に向上させた本発明のコンクリート硬化体を得ることができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明のコンクリート硬化体及びその製造方法について、実施例を挙げて詳細に説明する。尚、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
本発明の優れた物性を確認するために、以下に説明する各材料を用いて、下記の表1の組成によりコンクリート硬化体の製造を行った。各実施例及び比較例の製造は上記のフレッシュコンクリートの製造方法に従って各フレッシュコンクリートを得ることによって行った。
【0047】
フレッシュコンクリートについて、各フレッシュコンクリート内に存在する全空気量(体積)を測定した。又、添加した中空ビーズの体積を、樹脂製微細気泡部の体積とみなし、全空気量とのこの量との差を、「中空ビーズに由来しない気泡部」の体積とみなした。
【0048】
又、硬化後のコンクリートについて、各硬化体内に存在する全空気量(体積)と、直径0.1mm以下の微細気泡部の空気量(体積)と、をそれぞれ測定した。又、更に、微細気泡部については、中空ビーズ由来の気泡と、それ以外の気泡の空気量を峻別し、それぞれについて空気量(体積)を測定した。全空気量の測定は、ASTM−C457に準拠して行った。微細気泡部の空気量についても、硬化体の表面を研磨仕上げした供試体について、気泡組織をASTM−C457のリニアトラバース法に準拠して顕微鏡で測定することにより、直径が0.1mm以下の気泡部の割合を算出し、その空気量を微細気泡部の空気量とした。又、樹脂製微細気泡部の空気量は、上記同様の顕微鏡による観測により、中空ビーズ由来の気泡部とそれ以外の気泡部を峻別した上で、その空気量を上記方法によって測定した。
【0049】
上記の測定結果から算出した各実施例及び比較例のフレッシュコンクリート、及び、コンクリート硬化体における、全空気量、直径0.01mm以上0.1mm以下の微細気泡部の体積比、及び、樹脂製微細気泡部の体積比等をそれぞれ算出した。結果を表2に示す。
【0050】
セメント1:「普通ポルトランドセメント」、密度3.16kg/cm。全ての実施例及び比較例において、セメントとしてこれを用いた。
細骨材:5mm以下、表乾密度2.63g/cm
粗骨材:25mm〜5mm、表乾密度:2.65g/cm
AE減水剤(No.70、BASFジャパン社製)
AE助剤(マイクロエア202、BASFジャパン社製)
消泡剤(マイクロエア404、BASFジャパン社製)
中空ビーズ:平均粒径0.04mm、密度0.16kg/l、直径の分散が、10.0×10−3〜30.0×10−3の範囲にある、中空の樹脂製のビーズを用いた。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
(凍結融解抵抗試験)
実施例、比較例について、JIS A 1148−A法に従ってコンクリートの凍結融解試験を行った。同試験により、凍結融解サイクルと相対動弾性係数(%)の関係を求めた。結果は図1及び表3に示す通りである。比較例5については、600サイクル時点において相対動弾性係数が80%以上を維持可能であった。そして、これらの結果に基づいて、凍結融解抵抗性を評価した。具体的な評価は、600サイクル時点においても、相対動弾性係数が60%以上を確保することをもって良品(表中「○」と記載)、それ以外を非良品(表中「×」と記載)とする評価基準の下に行った。
【0054】
樹脂製の中空ビーズの硬化体中の体積比が0.4%以上0.8%となる範囲で、AE剤と樹脂製の中空ビーズを適切に併用することにより、コンクリート硬化体に対する全空気量を6%以下に保持しながら、微細気泡部の体積比を1.0%以上とした、実施例の硬化体は、いずれも、600サイクル時点においても、相対動弾性係数が依然として60%以上であり、耐凍結融解抵抗性に優れるものであることが確認された。尚、AE剤を添加せずに樹脂製の中空ビーズ由来の気泡部のみで、微細気泡部の体積比を1.0%以上に確保した比較例5については、実施例と同程度の耐凍結融解抵抗性を発揮するが、以下に示す通り、コスト面の問題のみならず、施工性が低い点において好ましくないものとなっている。
【0055】
(施工性試験)
実施例、比較例について、JIS A 1101「コンクリートのスランプ試験方法」に従ってコンクリートの施工性試験を行った。試験は、実施例、比較例の各フレッシュコンクリートについてスランプを測定することにより行った。結果は表3に示す通りである。具体的な評価は、スランプ値が8.0cm以上のものを、施工性に優れるフレッシュコンクリート(表中「○」と記載)とする評価基準の下に行った。
【0056】
樹脂製の中空ビーズの過剰な添加は、フレッシュコンクリートの施工性低下を引き起こすため、これを回避するためにはAE剤の併用が有効であることが分かる。実施例のフレッシュコンクリートは、いずれも施工性においても優れたものであることが確認された。
【0057】
(強度試験)
実施例、比較例の硬化体についてJlSA1108−1999に準じて圧縮強度を測定した。結果は表3に示す通りである。比較例6の試験結果より、中空ビーズ由来の気泡部が所定量以下である場合、これをAE剤の増量等で補填することによって微細気泡部の体積を確保すれば、耐凍結融解性は担保できるが、この場合、全空気量の増大によって強度の低下が免れえないことが分かる。
【0058】
【表3】
【0059】
以上の結果より、本発明に係るコンクリート硬化体は、フレッシュ時における施工性と硬化後の強度を好ましい範囲に維持したまま、凍結融解抵抗性を十分に向上させたコンクリート硬化体であることが分る。
図1