特許第6584338号(P6584338)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6584338
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/083 20060101AFI20190919BHJP
   A61K 6/08 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   A61K6/083 500
   A61K6/08 H
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-23592(P2016-23592)
(22)【出願日】2016年2月10日
(65)【公開番号】特開2017-141188(P2017-141188A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2018年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】鳥谷部 慈
(72)【発明者】
【氏名】秋積 宏伸
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−063490(JP,A)
【文献】 特開2014−015408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00−6/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重合性単量体、
(B)アミン化合物、
(C)フタル酸エステルを含む蛍光剤、及び
(D)フッ素原子を含む無機粒子からなる、X線造影性を有する酸性フィラー
を含み、該(A)重合性単量体100質量部に対し、該(B)アミン化合物を0.01〜3.0質量部、該(C)フタル酸エステルを含む蛍光剤を0.0005〜0.05質量部、該(D)フッ素原子を含む無機粒子からなる、X線造影性を有する酸性フィラーを1〜100質量部含有する硬化性組成物。
【請求項2】
前記(B)アミン化合物が、(B1)脂肪族アミン化合物、及び(B2)芳香族アミン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種類のアミン化合物を含む請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記(D)フッ素原子を含む無機粒子からなる、X線造影性を有する酸性フィラーが、三フッ化イッテルビウムである請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
さらに、線造影性を有する酸性フィラー以外の(E)フィラーを含み、前記(A)重合性単量体100質量部に対し、該(E)フィラーを50〜1500質量部含有する請求項1〜のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
さらに(F)重合開始剤を含有し、該(F)重合開始剤がα−ジケトン化合物と光酸発生剤とを含む請求項1〜のいずれか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載の硬化性組成物を含有する歯科用修復材料。
【請求項7】
請求項1に記載の硬化性組成物の製造方法であって、
(B)アミン化合物及び(D)フッ素原子を含む無機粒子からなる、X線造影性を有する酸性フィラーを混合する混合工程、並びに前記混合工程で得られた混合物に(C)フタル酸エステルを含む蛍光剤を配合する配合工程を有する硬化性組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、特に歯科用修復材料として有用な硬化性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、種々の歯牙修復材料が使用されている。例えば、齲蝕や破折等により損傷をうけた歯牙の修復においては、一般にコンポジットレジンと呼ばれる光硬化性の複合充填修復材料が、操作の簡便さや審美性の高さから汎用されている。このようなコンポジットレジンは、通常、重合性単量体、充填材、及び重合開始剤の各成分が配合されてなる。従来、上記コンポジットレジンに使用される重合性単量体としては、光重合性の良さから(メタ)アクリレート系ラジカル重合性単量体が用いられており、最近では酸素による重合阻害のないカチオン重合性単量体を使用することも報告されている。
【0003】
歯科用コンポジットレジンを用いた修復は、天然歯と見分けがつかないほどに周囲と調和し、審美性の高い修復が可能である。しかしながら、紫外光または短波長の可視光などを発する環境下においては、修復部位が黒く見え、患者に精神的な負担を強いていた。この欠点を改良すべく、歯科用コンポジットレジンに蛍光剤を配合することが提案されている。そして、この際に用いる蛍光剤の中でも、フタル酸エステル系蛍光剤は入手し易く、天然歯に似た蛍光を発し、格別に審美性に優れる特長を有しているため、有利に使用されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
一方、X線造影性を利用する歯牙の損傷部位の診断は、歯牙の治療分野に於いて重要である。この要望に応えるものとして、高X線造影性を有するフィラーの利用がある。ジルコニア、アルミナ、三フッ化イッテルビウム等の金属化合物、シリカとジルコニア、シリカとチタニア、シリカと酸化バリウム等を主な構成成分とする複合酸化物がX線造影性を有することから、これらを主成分とする無機フィラーも知られている。
【0005】
ところで、言うまでもなく、歯牙修復材料には審美性が求められ、そのためには天然歯質にできるだけ近い透明性を有することが求められる。しかしながら、X線造影性を有する金属酸化物は、屈折率が前述した重合性単量体よりも高いのが普通であり、これらをそのままコンポジットレジンに配合すると硬化物の不透明性が天然歯質よりも著しく強くなってしまう。従って、歯科用修復材料において、X線造影性を有する無機フィラーは、高X線造影性を有し、且つ天然歯に近い透明性が得られやすいものが有用であり、三フッ化イッテルビウム等の希土類化合物粒子が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−520347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、天然歯と見分けがつかないほどに周囲と調和する審美性の高い修復が可能であり、天然歯に似た蛍光性を有する、X線造影性が高い硬化性組成物の開発を行った。
【0008】
ところが、本発明者らの検討によると、前記アミン化合物、及びフタル酸エステル系蛍光剤からなる光重合開始剤と、X線造影性の高いフィラーを組合せて硬化性組成物に配合すると、硬化前の組成物の状態及び、硬化後の硬化体の状態で黄色い変色が発生し、実使用において問題を引き起こす可能性があることが分かった。具体的には、X線造影性が高く、強い表面酸点を有する酸性フィラーを用いた場合に強い変色が発生することが分かった。
【0009】
歯科用コンポジットレジンとして使用する場合には、天然歯にあった色調を選んで充填、修復することができるように、顔料や染料等によって色調を調整した複数の種類の材料を用意することが一般的である。しかし、前述のような黄色い変色は、天然歯に近い色調に調整できなくなり、調整できたとしても濃い色調しか調整できず、天然歯に調和した修復ができないという問題を引き起こすことになる。
【0010】
以上の状況にあって本発明は、前記アミン化合物、及びフタル酸エステルを含む蛍光剤からなる光重合開始剤と、X線造影性を有する酸性フィラーとを組合せて配合させた硬化性組成物であって、該硬化性組成物の重合活性が良好に保持され、且つフタル酸エステルを含む蛍光剤の蛍光性も良好に発現し、高いX線造影性を有するものを開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、このような問題は、アミン化合物とフタル酸エステルを含む蛍光剤と酸性フィラーが共存することにより黄色い着色物質が生成することが原因であることを見出し、各成分について適切な配合量とすることで、前記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、(A)重合性単量体、(B)アミン化合物、(C)フタル酸エステルを含む蛍光剤、及び(D)フッ素原子を含む無機粒子からなる、X線造影性を有する酸性フィラーを含み、該(A)重合性単量体100質量部に対し、該(B)アミン化合物を0.01〜3.0質量部、該(C)フタル酸エステルを含む蛍光剤を0.0005〜0.05質量部、該(D)フッ素原子を含む無機粒子からなる、X線造影性を有する酸性フィラーを1〜100質量部含有する硬化性組成物である。

【発明の効果】
【0013】
本発明の硬化性組成物は、天然歯に近い蛍光性を有し、高いX線造影性により天然歯と該硬化性組成物の硬化物を容易に区別することができる。したがって、歯科用コンポジットレジン、硬質レジン等の歯科用修復材料に用いる硬化性組成物として極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の硬化性組成物の各成分について説明する。
【0015】
<(A)重合性単量体>
前記(A)重合性単量体は、重合硬化する成分である。好ましい(A)重合性単量体は、後述する(F)重合開始剤、及び(B)アミン化合物を重合開始成分の共存下において、光の照射等により重合硬化する成分である。
【0016】
前記(A)重合性単量体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択される。中でも、酸性基(スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸残基等)を有さない(メタ)アクリレート系の重合性単量体が、硬化速度や硬化体の機械的物性、耐水性、耐着色性等の観点から好適に用いられ、特に、複数の重合性官能基を有する、多官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体が好ましい。
【0017】
前記多官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択されるが、20℃の水に対する溶解度が5質量%以下の非水溶性化合物が好ましい。
【0018】
前記非水溶性化合物としては、例えば、以下に詳述する、下記(I)二官能重合性単量体、(II)三官能重合性単量体、(III)四官能重合性単量体が挙げられる。
【0019】
(I)二官能重合性単量体
前記(I)二官能重合性単量体としては、(i)芳香族化合物系のものと、(ii)脂肪族化合物系のものが挙げられる。
【0020】
(i)芳香族化合物系のもの
前記(i)芳香族化合物系のものとしては、例えば、2,2−ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル]プロパン(「bis−GMA」)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(「D−2.6E」)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレート又はこれらメタクリレートに対応するアクリレート等の水酸基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加体から得られるジアダクトなどが挙げられる。
【0021】
(ii)脂肪族化合物系のもの
前記(ii)脂肪族化合物系のものとしては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(「3G」)、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレート又はこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等の水酸基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)等のジイソシアネート化合物との付加体から得られるジアダクト;1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エチルなどが挙げられる。
【0022】
(II)三官能重合性単量体
前記(II)三官能重合性単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート等のメタクリレート及びこれらメタクリレートに対応するアクリレートなどが挙げられる。
【0023】
(III)四官能重合性単量体
前記(III)四官能重合性単量体としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート;ジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とグリシドールジメタクリレートとの付加体から得られるジアダクトなどが挙げられる。
【0024】
前記多官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0025】
更に、必要に応じて、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリレート及びこれらメタクリレートに対応するアクリレート等の単官能の(メタ)アクリレート系単量体と併用してもよい。なお、以上例示した重合性単量体は、20℃の水に対する溶解度が5質量%以下の非水溶性化合物に該当する。
【0026】
本発明の硬化性組成物では、良好な硬化体物性(機械的強度、非溶出性など)を得る観点から前記多官能の(メタ)アクリレート系単量体以外の単量体の配合量が、前記(A)重合性単量体の全量中、30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下が特に好ましい。ただし、最もよい硬化体物性のものを得るためには、(A)重合性単量体は、前記多官能の(メタ)アクリレート系単量体のみからなることが好ましい。
【0027】
なお、本発明において、複数種類の重合性単量体を使用する場合には、以下の各成分の配合量においては、該重合性単量体の合計量を(A)重合性単量体の質量部と見なすものとする。
【0028】
<(B)アミン化合物>
前記(B)アミン化合物は、前記(A)重合性単量体の重合開始成分として配合される。
【0029】
前記(B)アミン化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。第1級アミン化合物、第2級アミン化合物、及び第3級アミン化合物のいずれも用いることができるが、これらの中でも、臭気等の観点から前記第3級アミン化合物が好ましい。
【0030】
また、前記(B)アミン化合物としては、特に制限はなく、窒素原子に結合している有機基が、全て脂肪族基(但し、置換基を有していてもよい)である化合物(以下、「(B1)脂肪族アミン化合物」とも呼ぶ)、窒素原子に1つ以上の芳香族基が直接結合したアミン化合物(以下、「(B2)芳香族アミン化合物」とも呼ぶ)のいずれも用いることができる。
【0031】
(B)アミン化合物としては、(B1)脂肪族アミン化合物、及び(B2)芳香族アミン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種類のアミン化合物を使用すればよい。その中でも、前記(B1)脂肪族アミン化合物、及び前記(B2)芳香族アミン化合物の両方を含有することが好ましい。さらに、後述するが、重合開始剤として光酸発生剤を併用すると硬化性が向上するためより好ましい。これらを併用すると、前記脂肪族アミン化合物のみを配合した場合よりも、硬化速度を向上させることができ、前記芳香族アミン化合物のみを配合した場合よりも、前記重合硬化体が太陽光等の紫外光に暴露されたときの変色を抑えることができる。そのため、脂肪族第3級アミン化合物と芳香族第3級アミン化合物との併用が特に好ましい。
【0032】
前記(B1)脂肪族アミン化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。具体的には、2−エチルヘキシルアミン、n−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン等の脂肪族第1級アミン化合物;ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジアリルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、ジ−n−オクチルアミン等の脂肪族第2級アミン化合物;トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン、トリアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリ(イソプロパノール)アミン等の脂肪族第3級アミン化合物を挙げることができる。
【0033】
これらの中でも、窒素原子に結合している3つの飽和脂肪族基のうち、2つ以上が電子吸引性基を置換基として有している前記脂肪族第3級アミン化合物は、より高い重合活性を得ることができ、さらに優れた保存安定性を得ることができる。このような脂肪族第3級アミン化合物の中でも、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン等の電子吸引性基置換飽和脂肪族基数が2つのもの、及びトリエタノールアミン、トリ(イソプロパノール)アミン等の電子吸引性基置換飽和脂肪族基数が3つであるものが特に好ましい。なお、前記脂肪族アミン化合物としては、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0034】
前記(B2)芳香族アミン化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アニリン、トルイジン等の芳香族第1級アミン化合物;N−メチルアニリン、N−メチル−p−トルイジン等の芳香族第2級アミン化合物;下記一般式(1)で表される芳香族第3級アミン化合物を挙げることができる。
【0035】
【化1】
【0036】
これらの中でも、歯科用として使用することを考慮すると、臭気等の点から前記第3級芳香族アミン化合物が好ましく、更に、高い重合活性を示し、環境光に対する安定性と照射光による短時間での重合硬化性を維持し、かつ、高い硬化体物性を発現させることが可能な点で、前記一般式(1)で表される芳香族第3級アミン化合物が特に好ましい。
【0037】
ただし、前記一般式(1)中、R及びRは、相互に独立してアルキル基、又はアリール基を示し、Rは、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、及びアルキルオキシカルボニル基のいずれかを示す。また、nは、0〜5の整数を示す。nが2以上の場合は、複数のRは、互いに同一でも異なっていてもよい。更に、R3同士が結合して環を形成していてもよい。
【0038】
前記一般式(1)中、R〜Rで示されるアルキル基としては、炭素数1〜6のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基などを挙げることができる。また、これらアルキル基としては、置換基を有している置換アルキル基であってもよく、このような置換アルキル基としては、フロロメチル基、2−フロロエチル基等のハロゲン置換アルキル基;2−ヒドロキシエチル基等の水酸基置換アルキル基などを挙げることができる。中でも、前記一般式(1)中、R及びRとしては、炭素数1〜3の非置換のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基)、2−ヒドロキシエチル基が特に好ましい。
【0039】
前記一般式(1)中、R〜Rで示されるアリール基としては、置換基を有するものであってよい。具体的には、フェニル基、p−メトキシフェニル基、p−メチルチオフェニル基、p−クロロフェニル基、4−ビフェニリル基等の炭素数6〜12のものを挙げることができる。
【0040】
前記一般式(1)中、Rで示されるアルケニル基、アルコキシ基及びアルキルオキシカルボニル基としては、置換基を有するものであってよい。
【0041】
前記アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、2−フェニルエテニル基等の炭素数2〜12のものを挙げることができる。前記アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜10のものを挙げることができる。また、前記アルキルオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、アミルオキシカルボニル基、イソアミルオキシカルボニル基等のアルキルオキシ基部分の炭素数が1〜10のものを挙げることができる。
【0042】
また、n=1の場合は、R3の結合位置がパラ位であることが好ましく、中でもR3がアルキルオキシカルボニル基であることが好ましい。一方、nが2〜3の場合には、結合位置は、オルト位及びパラ位の少なくともいずれかであることが好ましい。特に、複数のR3がオルト位及びパラ位に結合していることによって、硬化体の太陽光安定性を向上させることができる。
【0043】
前記一般式(1)の化合物を具体的に例示すると、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジメチルアミノ安息香酸、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸アミル等が挙げられる。
【0044】
なお、前記芳香族アミン化合物としては、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0045】
また、前記(B1)脂肪族アミン化合物と前記(B2)芳香族アミン化合物とを併用する場合、これらの配合比としては、質量比で、前記(B1)脂肪族アミン化合物:前記(B2)芳香族アミン化合物=1:99〜99:1が好ましく、3:97〜97:3がより好ましい。
【0046】
前記(B)アミン化合物の配合量は、前記(A)重合性単量体100質量部に対して、0.01質量部〜3質量部でなければならない。
中でも、より本発明の効果を発揮するためには、前記(B)アミン化合物の配合量は0.02質量部〜2質量部とすることが好ましい。なお、(B1)脂肪族アミン化合物と前記(B2)芳香族アミン化合物とを併用する場合には、この(B)アミン化合物の配合量は、(B1)脂肪族アミン化合物と前記(B2)芳香族アミン化合物との合計量である。
【0047】
<(C)フタル酸エステルを含む蛍光剤>
前記、フタル酸エステルを含む蛍光剤としては、公知のものが何ら制限なく使用できる。特に好ましいフタル酸エステル系を含む蛍光剤を一般式で示すと下記一般式(2)で表される。
【0048】
【化2】
【0049】
(式中、R及びRは各々独立に、アルキル基であり、Rは水素原子、アミノ基、又は水酸基であり、Rはアミノ基、又は水酸基である。)
上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基等の炭素数1〜3のものが好ましく、特に、炭素数1〜2のものがより好ましい。
【0050】
具体的なフタル酸エステルを含む蛍光剤を例示すると、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸ジメチル、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル、ジメチルアミノテレフタレート、ジエチルアミノテレフタレートなどが挙げられ、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸ジエチルなどの水酸基で置換されたフタル酸エステルを含む蛍光剤が、天然歯に似た蛍光を発し、強い発色を示すためより好ましい。これらフタル酸エステルを含む蛍光剤は単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0051】
前記フタル酸エステルを含む蛍光剤の配合量は、(A)重合性単量体100質量部に対して、0.0005〜0.05質量部でなければならない。
【0052】
フタル酸エステルを含む蛍光剤の配合量が0.0005質量部に満たない場合は、天然歯に近い十分な蛍光性が得られない。一方、0.05質量部を超える場合は、(B)アミン化合物と後述する(D)X線造影性を有する酸性フィラーとの併用によって黄色い着色が発生し、天然歯の色調にあった審美性の高い修復が困難となる。そのため、蛍光性、審美性等を考慮すると、フタル酸エステルを含む蛍光剤の配合量は、(A)重合性単量体100質量部に対して、0.001〜0.04質量部であることが好ましい。
【0053】
<(D)X線造影性を有する酸性フィラー>
前記、X線造影性を有する酸性フィラー(以下、酸性フィラーともいう)は、厚さ1.0±0.1mmに圧縮成形した試料片をJIST6514に規定されるX線造影性試験に準じた方法により評価した際に、そのX線造影性が2.0mmアルミニウム板以上である酸性フィラーである。このように高いX線造影性を有しているため、これを用いて得られる歯科用修復材料はX線造影性が付与され,予後の診断等において有利なものになる。
【0054】
ここで、JIST6514に規定されるX線造影性試験は、X線フィルムを2.0mm以上の厚さの鉛シートの上に置き、フィルム中央に厚さ1.0mmの試験片とX線造影性を対比するアルミニウム板を置き、該試験片、アルミニウム板、X線フィルムに、40cmの距離から管電圧60kVpのX線を、現像した時に試験片の周囲のフィルムの部分とアルミニウム板の部分の映像が完全に現れるような適切な時間、一般には0.3秒間照射し、現像、定着後、試験片の映像の濃さをアルミニウム板の映像の濃さと比較する試験である。測定に供するX線発生装置は、JISZ4711の規定に適合する診断用一体型X線発生装置であり、管電圧60kVpで1.5mmのアルミニウム板を全透過する能力のものである。
【0055】
上記X線造影性試験は、歯科充填用コンポジットレジンにおいて、その硬化体のX線造影性を評価する試験であるが、本発明では、該X線造影性を有している上記酸性フィラー自体の同性質を評価するのに、この測定方法に準じた方法を適用する。上記JIST6514に規定されるX線造影性試験において使用する試料片は、厚さ1.0±0.1mmの歯科充填用コンポジットレジンの硬化体であるが、本発明では、厚さ1.0±0.1mmに圧縮成形した酸性フィラーの圧縮成形体を用いる。この酸性フィラーの厚さ1.0±0.1mmの圧縮成形体は、該酸性フィラーを、1cm×1cm以上の形状の型に入れ、例えば手動油圧プレス機を用いて、厚さ1.0±0.1mmになるようプレス成形し、1cm×1cmに切り出すことにより作製する。
【0056】
JIST6514に規定されるX線造影性試験において、厚さ2.0mmのアルミニウム板以上のX線不透過性を有することが分かればよく、X線造影性を対比するアルミニウム板は厚さ2.0mmのものが使用される。すなわち、該厚さ2.0mmのアルミニウム板の映像よりも、試験片の映像の方が、より白色であれば、試験片の方がX線造影性が強いと評価される。この試験片のX線造影性の強さをより明瞭に評価するために、アルミニウム板は厚さ2.0±0.01mmのものだけでなく、1.0±0.01mmから5.0±0.01mmまでの範囲で0.5mm間隔の厚みが異なるものを複数用意して、同じフィルム上に同時にX線造影性を測定し、比較するのが好ましい。この場合において、本発明の酸性フィラーは、X線造影性が3.0mmアルミニウム板以上であるのが特に好ましい。
【0057】
本発明のX線造影性を有する酸性フィラーは、フィラーの表面に酸点を有していることが特徴である。歯科用修復材料には、使用される重合性単量体の屈折率に近い屈折率を有するフィラーである、シリカと金属酸化物の複合酸化物が使用されることが多い。シリカに比べ、シリカと金属酸化物の複合酸化物は、表面に強い酸点が形成されることが知られている。そのため、歯科用修復材料に用いる場合には、重合性単量体が重合して形成される硬化体との界面強度の改善を目的として、シランカップリング剤などにより表面処理されたフィラーが用いられる。しかし、シランカップリング剤による表面処理は、シリカのシラノール基に由来する酸点の低減が可能であるが、シリカと金属酸化物の複合酸化物に由来した強酸点が残存してしまう。さらに、シリカとの複合酸化物ではない金属酸化物は、シランカップリング剤との反応性が低く、特に金属フッ化物はシランカップリング剤との反応点がなく、その強酸点により様々な問題が発生していた。
【0058】
その問題の一つとして、酸性フィラーとアミン化合物とフタル酸エステルを含む蛍光剤を共存させた場合に、黄色い着色が発生することが挙げられる。特に、シリカと金属酸化物の複合酸化物の場合、高X線造影性を付与するために金属酸化物を多く含むような複合酸化物では、シランカップリング剤によって表面処理を施しても表面酸点が残存し、黄色い着色が発生した。つまり、高X線造影性と天然歯に近い蛍光性を両立し、天然歯に合う色調を有する修復材料を得ることができていなかった。発明者らが鋭意検討を行った結果、各成分の配合量を適切は範囲とすることで、X線造影性を有する酸性フィラーを配合していながら、着色のない、天然歯に近い蛍光性と色調を有する歯科用修復材料が得られることが分かった。
【0059】
該X線造影性を有する酸性フィラーとしては、前記X線造影性を有し、表面に酸点を有するものであればよく、公知のものが使用できるが、メチルレッド滴下前後のΔa*値が10以上30未満であることが好ましい。Δa*値をこの範囲とすることで、フタル酸エステルとアミン化合物とを併用しても黄色い着色が抑制され、高いX線造影性により予後の診断を有利に診断できながら、天然歯に合った色調と蛍光性を有する審美性の高い歯科用修復材料とすることができる。なお、本発明において、上記酸性フィラーの酸点は、無水トルエン中における、指示薬を滴下する前後のΔa*値により表される。指示薬としては、メチルレッドを用いる。シラノール基やそれよりも強い酸点が存在すると、メチルレッドはオレンジ色から赤紫色に呈色するため、その変化をΔa*値として測定する。
【0060】
ここで、指示薬を用いた上記酸点の測定は、常法に従えばよいが、通常は、次の方法により実施する。すなわち、まず、フィラーを100℃で3時間以上乾燥後、五酸化二燐を収容したデシケーター中にて保管し、その1gをサンプル管ビンに入れ、次いで、無水トルエン3gを入れて激しく振盪し、凝集物の無い様に分散させる。分散後、サンプル管ビンを静置し、フィラーを沈降させる。完全に沈降した後、予め白背景にてスタンダードを測定しておいた色差計の測定孔がサンプル管ビンの底の中心に位置するように置き、黒背景にて色差を測定し、このときのa*値をa*mbとする。色差測定後、該サンプル管ビンに、遮光下で保存した0.004mol/lのメチルレッドの無水トルエン溶液を一滴(約0.016g)加え、同様に振盪、静置した後に色差を測定し、このときのa*値をa*mbとし、メチルレッド溶液滴下前後のa*の差をΔa*mとして、下記式
(式) Δa*m=a*ma−a*mb
より求める方法である。
【0061】
本発明のX線造影性を有する酸性フィラーとしては、X線造影性を有し、上記方法により酸性を示すフィラーであれば、公知のものが使用できる。具体的には、酸化亜鉛、アルミナ、ジルコニアなどの金属酸化物、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−酸化マグネシウム、チタニア−ジルコニアなどの複合酸化物、三フッ化イッテルビウムなどの金属フッ化物が挙げられる。
【0062】
これら酸性フィラーの屈折率としては、特に制限はなく、1.4〜3.0の範囲の屈折率を有するフィラーを用いることができる。中でも、ジルコニア(屈折率2.2程度)やアルミナ(屈折率1.7程度)は、少量で高いX線造影性を付与することができるため好ましいが、歯科用修復材料の重合性単量体(屈折率1.5程度)よりも屈折率が高く、歯科用修復材料の透明性が低くなりやすく、審美性が劣ることがある。このようなフィラーを用いる場合には、可視光の波長より小さいナノスケールの粒径のものを用いることにより審美性を良いものとすることが可能である。さらに歯科用修復材料の重合性単量体の屈折率に近く、前述のような工夫をせずともX線造影性と審美性を両立できることから、三フッ化イッテルビウム(屈折率1.5程度)がより好ましい。
【0063】
本発明の酸性フィラーは、シランカップリング剤により表面処理されていてもよい。該シランカップリング剤による表面処理により、上記酸性フィラーは、歯科修復材料中において、重合性単量体と混合されやすくなり、フィラーの充填率が向上し、X線造影性や機械的物性が優れたものになる。本発明の酸性フィラーは、シランカップリング剤による表面処理により、前記指標の酸性度が抑制されるものの、強酸点が残存するため、酸性度は、前記範囲内に維持される。
【0064】
本発明の酸性フィラーの形状は、特に限定されず、球状であっても、不定形であっても良い。また、本発明の酸性フィラーの粒径は、歯科用修復材料等の用途に使用することを考慮すると、平均粒子径が0.001〜100μmであることが好ましく、0.005〜5μmであることが特に好ましく、さらに、0.01〜1μmであることが好ましい。また、比表面積も特に限定されないが、一般的には、0.1〜250m/gであり、好適には1〜200m/gである。
【0065】
本発明の酸性フィラーの配合量は、前記(A)重合性単量体100質量部に対して、1〜100質量部でなければならない。酸性フィラーが5質量部以下であると、X線造影性が得られにくく、天然歯と修復部の区別がつきにくくなる場合がある。一方、100質量部を超えるとフタル酸エステルとアミン化合物による変色が強くなり、審美性が失われる場合がある。そのため、X線造影性、審美性等を考慮すると、酸性フィラーの配合量は、前記(A)重合性単量体100質量部に対して、10〜80質量部であることが好ましい。
【0066】
各成分の好適な配合割合
本発明の特徴は、(B)アミン化合物、(C)フタル酸エステルを含む蛍光剤、及び(D)酸性フィラーの配合比を特定の範囲とすることで、蛍光性とX線造影性を両立しながら、変色を抑えたことにある。そのため、各成分の配合割合は、以下の通りにすることが好ましい。具体的には、(B)アミン化合物:(C)フタル酸エステル:(D)酸性フィラーの配合比が、1:0.0002〜5:4〜10000の範囲であることが好ましく、1:0.001〜3:4〜3000であることがより好ましく、1:0.005〜2:5〜400であることがさらにより好ましい。
【0067】
<(E)フィラー>
前記(E)フィラーは、前記硬化性組成物の重合硬化体に機械的強度を付与し、重合収縮や熱膨張を低減させる目的で配合される。
【0068】
前記(E)フィラーとしては、前述の(D)酸性フィラー以外のものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の無機充填材、有機充填材を用いることができるが、中でも、前記無機充填材が好ましい。(D)酸性フィラー以外のものとは、フィラー表面の酸点が少ないものであって、具体的には、前述の酸点の評価方法によって、メチルレッド滴下前後のΔa*値が10以内のものをいう。なお、フィラー表面の酸点は、公知の表面処理剤を使用する表面処理の方法によって適宜選択することが可能である。
【0069】
前記無機充填材の材料としては、特に制限はなく、石英、シリカ、アルミナ、シリカチタニア、シリカジルコニア、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等の金属酸化物類を挙げることができる。特に、シリカチタニアやシリカジルコニアといったシリカ系複合酸化物は、ゾルゲル法により比較的容易に調製することが可能であり、シリカと金属酸化物の混合比によって屈折率を調整しやすいため、好適である。また、必要に応じて、ケイ酸塩ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス等の歯科用の無機充填材として公知のカチオン溶出性の無機充填材を配合してもよい。
【0070】
また、これら無機充填材に前記(A)重合性単量体を添加し、ペースト状とした後、重合硬化させ、これを粉砕して得られる粒状の有機−無機複合充填材を用いてもよい。これら(E)フィラーの粒径としては、特に制限はなく、一般的に歯科用材料として使用されている0.01μm〜100μm(好ましくは0.01μm〜5μm)の平均粒径の充填材を用いることができる。中でも、球状の前記無機充填材を用いると、得られる硬化体の表面滑沢性を向上させることができる。
【0071】
また、前記(E)フィラーの屈折率としても、特に制限はなく、一般的な歯科用材料として使用される無機充填材の屈折率である、1.4〜1.7の範囲の屈折率を有する充填材を用いることができる。前記無機充填材としては、前記(A)重合性単量体とのなじみを向上させ、また、機械的強度や耐水性を向上させる観点から、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で表面処理されることが好ましい。
【0072】
前記表面処理の方法としては、公知の方法を挙げることができ、また、前記シランカップリング剤としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンなどを挙げることができる。
【0073】
なお、前記(E)フィラーとしては、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。前記(E)フィラーの配合量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記(A)重合性単量体と混合させたときの粘度(操作性)や硬化体の機械的物性を考慮して、前記(A)重合性単量体100質量部に対して、50質量部〜1500質量部が好ましく、70質量部〜1000質量部がより好ましい。
【0074】
<(F)重合開始剤>
前記重合開始剤は、前記(A)重合性単量体を重合硬化させるために配合されることが好ましい。前記重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、特に(A)重合性単量体として(メタ)アクリレート類を重合硬化させるためには、ラジカル重合開始剤が配合されていることが好ましい。
【0075】
(メタ)アクリレート類を重合硬化させるためのラジカル重合開始剤は、特に限定されるものではない。公知の如何なるラジカル重合開始剤を使用することができる。具体的には、紫外線或いは可視光、赤外線を照射することで重合開始種を発生させることのできる光ラジカル重合開始剤(組成)の他、非光照射下において、2種、或いはそれ以上の化合物の反応によって、重合開始種を発生させることのできる所謂化学重合開始剤組成、或いは加熱によって重合開始種を発生させることのできる熱重合開始剤(組成)等が利用できる。中でも、口腔内で硬化させる場合が多い歯科用途では光ラジカル重合開始剤(組成)、又は化学重合開始剤組成が好ましく、混合操作の必要が無く簡便な点から、光ラジカル重合開始剤(組成)が好ましい。
【0076】
このような光ラジカル重合開始剤の具体例を挙げると、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール類、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノ)−2−ブタノ−1−オン等のα−アミノアセトフェノン類、4,4−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、9−フルオレノン、3,4−ベンゾ―9−フルオレノン、2―ジメチルアミノ―9−フルオレノン、2−メトキシ―9―フルオレノン、2−クロロ―9−フルオレノン、2,7−ジクロロ―9―フルオレノン、2−ブロモ―9―フルオレノン、2,7−ジブロモ―9―フルオレノン、2−ニトロ−9−フルオレノン、2−アセトキ−9−フルオレノン、ベンズアントロン、アントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ジメチルアミノアントラキノン、2,3−ジメチルアントラキノン、2−t e r t−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1,5−ジクロロアントラキノン、1,2−ジメトキシアントラキノン、1,2−ジアセトキシ−アントラキノン、5,12−ナフタセンキノン、6、13−ペンタセンキノン、キサントン、チオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、9(10H)−アクリドン、9−メチル−9(10H)−アクリドン、ジベンゾスベレノン等のジアリールケトン類、カンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、アセチルベンゾイル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、4,4’−ジメトキシベンジル、4,4’−オキシベンジル、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等のα−ジケトン類、3−ベンゾイルクマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−7−メトキシクマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)7−メトキシ−3−クマリン、3−アセチル−7−ジメチルアミノクマリン、3−ベンゾイル−7−ジメチルアミノクマリン、3,3’−クマリノケトン、3,3’−ビス(7−ジエチルアミノクマリノ)ケトン等のケトクマリン類、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等のモノアシルホスフィンオキシド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメチルオキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドなどのビスアシルホスフィンオキサイド類、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)フェニル)チタニウム等のチタノセン類等が使用できる。中でも、370〜500nmに吸収を持つものが好適に用いられる。
【0077】
なお、光ラジカル重合開始剤には、還元性の化合物が添加されることもあるが、その例としては、前記(B)アミン化合物を挙げることができる。更に、上記光ラジカル重合開始剤、還元性化合物に加えて光酸発生剤を加えて用いられることもある。このような光酸発生剤としては、ジアリールヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、スルホン酸エステル化合物、およびハロメチル置換−S−トリアジン有導体、ピリジニウム塩系化合物等が挙げられる。
【0078】
これらの中でも、ジアリールヨードニウム塩系化合物及びスルホニウム塩系化合物が、重合活性が特に高い点で優れている。これらのジアリールヨードニウム塩系化合物及びスルホニウム塩系化合物の具体例は、例えば特開2004−196949号公報に開示されているものが好適に使用できる。
【0079】
これら光酸発生剤の使用量は、光照射により重合を開始しうる量であれば特に制限されることはないが、適度な重合の進行速度と得られる硬化体の各種物性(例えば、耐候性や硬度)を両立させるために、一般的には(A)重合性単量体100質量部に対し、0.001〜10質量部を用いればよく、好ましくは0.05〜5質量部を用いるとよい。
【0080】
上記のような光酸発生剤は通常、近紫外〜可視域には吸収の無い化合物が多く、重合反応を励起するためには、特殊な光源が必要となる場合が多い。そのため、近紫外〜可視域に吸収をもつ化合物を増感剤として、上記光酸発生剤に加えてさらに配合することが好ましい。
【0081】
このような増感剤として用いられる化合物は、例えばアクリジン系色素、ベンゾフラビン系色素、アントラセン、ペリレン等の縮合多環式芳香族化合物、フェノチアジン等が挙げられる。これら増感剤のなかでも、重合活性が良好な点で、縮合多環式芳香族化合物が好ましく、さらに、少なくとも1つの水素原子を有する飽和炭素原子が縮合多環式芳香族環と結合した構造を持つ縮合多環式芳香族化合物が好適である。この縮合多環式芳香族化合物の具体例も、前記した特開2004−196949号公報に示されるものが好適に使用できる。
【0082】
縮合多環式芳香族化合物の添加量も、組み合わせる他の成分や重合性単量体の種類によって異なるが、通常は前期した光酸発生剤1モルに対し、縮合多環式芳香族化合物が0.001〜20モルであり、0.005〜10モルであることが好ましい。
【0083】
さらに上記縮合多環式芳香族化合物に加えて、酸化型の光ラジカル発生剤を配合すると、より一層重合活性が向上し好ましい。酸化型の光ラジカル発生剤とは、光照射により励起してラジカルを発生する化合物であって、励起により水素供与体から水素を引き抜いてラジカルを生成するいわゆる水素引き抜き型のラジカル発生剤、励起により自己開裂を起こしてラジカルを発生し(自己開裂型ラジカル発生剤)、次いで該ラジカルが電子供与体から電子を引き抜くタイプのもの、及び光照射により励起して電子供与体から直接電子を引き抜いてラジカルとなるもの等の、光照射による励起によって活性ラジカル種を発生させる機構が酸化剤的な作用による(自らは還元される)ものである光ラジカル発生剤である。これら酸化型の光ラジカル発生剤は特に制限されず、公知の化合物を用いれば良いが、光照射を行った際の重合活性が他の化合物に比してより高い点で、水素引き抜き型の光ラジカル発生剤が好ましく、なかでも上述の光ラジカル重合開始剤中の、ジアリールケトン化合物、α−ジケトン化合物又はケトクマリン化合物が特に好ましい。
【0084】
これら酸化型の光ラジカル発生剤は単独または2種類以上を混合して用いて使用できる。また、添加量も組み合わせる他の成分や重合性単量体の種類によって異なるが、通常は前記した光酸発生剤1モルに対し、光ラジカル発生剤が0.001〜20モルであり、0.005〜10モルであることが好ましい。
【0085】
一方、自身に重合開始能が無い場合であっても、上記還元性化合物と光酸発生剤とを組
み合わせ、3元系開始剤としたときに高い重合開始能を発揮する色素を用いてもよい。このような色素としては、その他クマリン系色素、ポルフィリン系色素、シアニン系色素、スチリル系色素、キサンテン系色素等が挙げられる。
【0086】
また、その他、光ラジカル重合開始剤以外の利用できるラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩類等が挙げられる。なお、これら光ラジカル重合開始剤以外の利用できるラジカル重合開始剤と、上記還元性の化合物を添加しても何ら差し支えない。
【0087】
これらラジカル重合開始剤は単独で用いることもあるが、2種以上を混合して使用してもよい。ラジカル重合開始剤の添加量は目的に応じて選択すればよいが、前記(A)重合性単量体100質量部に対して通常0.01〜10質量部の割合であり、より好ましくは0.1〜5質量部の割合で使用される。一般に、配合量が多いほど照射光による硬化時間が短くなり、他方、少ないほど環境光安定性に優れるものになる。
【0088】
<その他の配合成分>
また、前記その他の成分として、硬化性組成物の保存安定性を得る目的で重合禁止剤、歯牙の色調に合わせる目的で顔料、染料、紫外線に対する変色防止目的で紫外線吸収剤を配合してもよいし、歯科用コンポジットレジン用途として公知の添加剤を配合してもよい。
【0089】
<製造方法>
本発明の硬化性組成物の製造方法は、特に限定されないが、好ましくは、(B)アミン化合物と(D)X線造影性を有する酸性フィラーをあらかじめ接触させておくことが良い。詳細な機構は不明であるが、本発明者らは、変色の原因が(D)酸性フィラーの表面酸点の存在により、(C)フタル酸エステルの不対電子が偏在化し、(B)アミン化合物によって(C)フタル酸エステルの水素が引き抜かれ、着色物質が生成されているためであると推測している。そのため、(D)X線造影性を有する酸性フィラーの表面酸点に(B)アミン化合物をあらかじめ吸着させることにより変色が抑制される。
【0090】
したがって、以下の方法、具体的には、(B)アミン化合物、及び(D)X線造影性を有する酸性フィラーを混合する混合工程、並びに、前記混合工程で得られた混合物に(C)フタル酸エステルを含む蛍光剤を配合する配合工程を含む製造方法により、本発明の硬化性組成物を製造することが好ましい。上記方法により得られた硬化性組成物は、より変色が発生しにくくなる。
【0091】
また、(B)アミン化合物及び(C)フタル酸エステルを含む蛍光剤の添加量は、他の成分に比べて添加量が少ないため、(A)重合性単量体を(B)アミン化合物及び(C)フタル酸エステルを含む蛍光剤に混合して添加(配合)してもよい。(A)重合性単量体を混合することにより、操作性が向上する。なお、(E)フィラーを使用する場合には、硬化性組成物の変色にあまり影響を与えないため、混合工程、及び配合工程の何れの工程で添加(配合)してもよい。
【実施例】
【0092】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0093】
(各成分並びにその略称及び略号)
<(A)重合性単量体>
・2,2−ビス[4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル]プロパン(bis−GMA)
・トリエチレングリコールジメタクリレート(3G)
【0094】
<(B)アミン化合物>
(B1)脂肪族アミン化合物
・N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMEM)
・N−メチルジエタノールアミン(MDEOA)
・トリエタノールアミン(TEOA)
(B2)芳香族アミン化合物
・4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル(DMBE)
・N,N−ジメチル−p−トルイジン(DMPT)
【0095】
<(C)フタル酸エステルを含む蛍光剤>
・ジメチルアミノテレフタレート(DATP)
・2,5−ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル(DHTP)
【0096】
<(D)酸性フィラー及び(E)フィラー)>
・使用したフィラーを表1に示した。各フィラーの特性は、以下の方法を用いて評価した。
【0097】
【表1】
【0098】
<(F)重合開始剤>
・カンファーキノン(CQ)
・2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン(TCT)
【0099】
<(その他の成分)>
・ヒドロキノンモノメチルエーテル(HQME)
【0100】
(特性評価)
(1)フィラーの屈折率の測定
各無機充填材の屈折率は、アッベ屈折率計(アタゴ社製)を用いて液浸法によって測定した。すなわち、23℃の恒温室において、100mlサンプルビン中、無機充填材1gを無水トルエン50ml中に分散させる。この分散液をスターラーで攪拌しながら1−ブロモトルエンを少しずつ滴下し、分散液が最も透明になった時点の分散液の屈折率を測定し、得られた値を無機充填材の屈折率とした。
【0101】
(2)フィラー表面の酸性度の測定(メチルレッドによるΔa*)
100℃で3時間以上乾燥後、五酸化二燐を収容したデシケーター内で保管した複合酸化物粒子の1gを、内径約16mmのサンプル管に入れ、次いで無水トルエン3gを入れて激しく振盪し、凝集物の無いように分散させた後、サンプル管ビンを静置し、複合酸化物粒子を沈降させた。完全に沈降した後、予め白背景にてスタンダードを測定しておいた色差計(TC−1800MKII、東京電色社製)の測定孔がサンプル管ビンの底の中心に位置するように置き、黒背景にて色差を測定し、このときのa*値をa*mbとした。色差測定後、該サンプル管ビンに、遮光下で保存した0.004mol/lのメチルレッド(東京化成品)の無水トルエン溶液を一滴(約0.016g)加え、同様に振盪、静置した後に色差を測定し、このときのa*値をa*maとした。下記(式)より、Δa*mを求めた。
(式) Δa*m=a*ma−a*mb
【0102】
(3)フィラー単体のX線造影性評価試験
約7cm×2cmの充填部を有する厚さ1mmのSUS製の型にフィラーを充填し、約10cm×5cm、厚さ5mmのSUS製の板で挟み、手動の油圧プレス機で約50kg/cmでのプレスを繰り返しながら、成形体の厚さが1mmになるようにフィラーを追加し圧縮成形した。最後に約150kg/cmでプレスし、得られた成形体について、厚みが1.0±0.1mmであることをマイクロメーターで確認した。この成形体を約1cm×1cmに切り出し、X線造影性試験用の試験片とした。
【0103】
次に、X線フィルム(コダック社製超高感度歯科用X線フィルム)を2.0mm以上の厚さの鉛シートの上に置き、フィルム中央に上記試験片と、その周囲に、1.0±0.01mmから5.0±0.01mmまでの範囲で1.0mm感覚で厚みが異なるアルミニウム板を置き、該試験片、アルミニウム板、X線フィルムに、40cmの距離から管電圧60kVpのX線(YOSHIDA社製 PANPAS−E)を、0.3秒間照射した後、フィルムを現像し、更に印画紙に焼き付けた。試験片とアルミニウム板を比較し、試験片を同じ黒色量を示すアルミニウム板の厚みを求めた。
【0104】
(4)硬化体のX線造影性評価試験
φ15mm×1.0mmの孔を有するポリテトラフルオロエチレン製のモールドにペーストを充填してポリプロピレンフィルムで圧接した。歯科用光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマデンタル社;光出力密度600mW/cm)をポリプロピレンフィルムに密着して片面につき場所を変えて5点30秒照射し、裏面についても同様に光照射し、硬化体を作製した。試験片が上記硬化体である他は、フィラー単体のX線造影性評価試験と同様に評価し、アルミニウム板の厚みを求めた。
【0105】
(5)蛍光性評価試験
7mmφ×3.0mmの孔を有するポリテトラフルオロエチレン製のモールドにペーストを充填してポリプロピレンフィルムで圧接し、歯科用光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマデンタル社;光出力密度600mW/cm)をポリプロピレンフィルムに密着して30秒照射し、硬化体を調製した。得られた硬化体を紫外光照射器(MINERALIGHT LAMP、フナコシ薬品社;最大吸収波長366nm)を用いて、その蛍光の発光状態を観察した。特に優れた蛍光が確認できたものを◎、良好な蛍光が確認できたものを○、蛍光が確認できなかったものを×で評価した。
【0106】
(6)色調評価試験
JIS Z8729に規定にしたがって測定した。具体的には、直径7mmの貫通孔を開けた厚さ1.0mmのポリアセタール製型に硬化性組成物を填入し、ポリプロピレンフィルムで圧接して、歯科用光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマデンタル社製;光出力密度600mW/cm)で30秒光照射した。得られた硬化体について、標準光Cを照射した際の反射光における色調を、色差計(東京電色社製:TC−1800MKII)を用い、白背景条件下で測定し、CIELab表色系で表される、明度L*、及び色度a*、b*を夫々得た。黄色い変色を評価するため、青−黄を示すb*を比較した。なお、b*が大きいほど黄色い色調であることを示し、b*が10以内で白色と判断される色調であり、b*が15以上で明らかに黄色い色調であった。
【0107】
(7)硬化体の硬度(ヴィッカース硬度)
7mmφの貫通孔を有する厚さ1.0mmポリテトラフルオロエチレン製のモールドにペーストを充填してポリプロピレンフィルムで圧接した。歯科用光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマデンタル社;光出力密度600mW/cm)の照射口をポリプロピレンフィルムに密着して10秒照射して硬化体を作製し、これを試験片とした。微小硬度計(松沢精機製MHT−1型)にてヴィッカース圧子を用いて、荷重100gf、荷重保持時間30秒で試験片にできたくぼみの対角線長さにより求めた。
【0108】
(実施例1〜17、比較例1〜4)
bis−GMA(60質量部)、3G(40質量部)からなる重合性単量体をM−1とし、M−1を100質量部、重合禁止剤としてHQMEを0.15質量部、及び表2に示す重合開始剤、アミン化合物、フタル酸エステルを含む蛍光剤、酸性フィラー及びフィラーからなる硬化性組成物を暗所下、メノウ乳鉢を用いて攪拌混合してペースト状の組成物を調製した。得られた組成物を用いて特性評価を行い、その結果を表2に示した。
【0109】
(実施例18、19)
実施例18は、各成分の配合量は実施例2と同様であり、製造方法を次のように変更し組成物を調製した。重合性単量体M−1を50質量部に対し、重合禁止剤としてHQMEを0.075質量部、及び表2に示す重合開始剤とアミン化合物を溶解し、マトリックスm−1を調製した。重合性単量体M−1を50質量部に対し、重合禁止剤としてHQMEを0.075質量部、及び表2に示すフタル酸エステルを含む蛍光剤を溶解し、マトリックスm−2を調製した。暗所下、メノウ乳鉢を用いて、表2に示す酸性フィラーとマトリックスm−1を撹拌混合した。次いで表2に示すフィラーとマトリックスm−2を追加して、さらに撹拌混合し、ペースト状の組成物を調製した。実施例19は、各成分の配合量は実施例3と同様であり、実施例18と同様な製造方法で硬化性組成物を得た。得られた組成物を用いて、特性評価を行い、その結果を表2に示した。
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
【表4】
【0113】
前記表2〜4に示すように、実施例1〜18の硬化性組成物は、高いX線造影性と天然歯に近い蛍光性を有しながら、着色のない硬化物を得ることができている。
【0114】
これに対し、比較例1〜4の硬化性組成物は、高いX線造影性と良好な蛍光性と着色のない良好な色調を両立させることができていない。
【0115】
すなわち、実施例1の硬化性組成物に対し、比較例1の硬化性組成物は、(C)フタル酸エステルを含む蛍光剤の配合量が過剰であり、(B)アミン化合物と(D)酸性フィラーとの併用による強い着色が生じたものと考えられる。
【0116】
また、(C)フタル酸エステルを含む蛍光剤を含まない比較例2の硬化性組成物は、高いX線造影性を有し、着色のない良好な色調であるものの、蛍光性がなく、審美性の劣るものとなっている。
【0117】
さらに(D)酸性フィラーを含まない比較例3の硬化性組成物は、X線造影性が著しく低く、(D)酸性フィラーを過剰に含む比較例4の硬化性組成物は、高いX線造影性を示すものの、強い着色が生じるものとなっている。
【0118】
従って、実施例1〜18と比較例1〜4の硬化性組成物の比較から、(B)アミン化合物、(C)フタル酸エステルを含む蛍光剤、(D)酸性フィラーの3成分の配合量を本発明の範囲とすることで、高いX線造影性と天然歯に近い良好な蛍光性を示す、着色の硬化物を得ることができることが示された。
【0119】
さらに、(F)重合開始剤として光酸発生剤を併用した実施例15,16の硬化性組成物は、高いX線造影性と良好な蛍光性と着色のない良好な色調を両立しながら、硬化体の硬度が向上し、歯科用コンポジットレジンとして、より有用で優れたものとなっている。
【0120】
また、実施例2、3の硬化性組成物の製造方法を変更した実施例18、19では、より着色が抑えられ、良好な色調の硬化物を得ることができている。製造方法を変更し、(B)アミン化合物と(D)X線造影性を有する酸性フィラーをあらかじめ接触させたことにより、フタル酸エステルの着色物質への変換が抑制されたためと考えられる。