特許第6584484号(P6584484)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6584484自律運転車両/自動運転車両のための予測的なパワートレイン限界戦略
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6584484
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】自律運転車両/自動運転車両のための予測的なパワートレイン限界戦略
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/11 20160101AFI20190919BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20190919BHJP
   B60W 20/13 20160101ALI20190919BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20190919BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20190919BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20190919BHJP
   B60W 10/26 20060101ALI20190919BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20190919BHJP
   B60L 50/10 20190101ALI20190919BHJP
   B60L 50/50 20190101ALN20190919BHJP
【FI】
   B60W20/11ZHV
   B60K6/54
   B60W20/13
   B60W30/02 300
   B60W10/06
   B60W10/08
   B60W10/26
   B60L15/20 J
   B60L15/20 Y
   B60L50/10
   !B60L50/50
【請求項の数】18
【外国語出願】
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-241858(P2017-241858)
(22)【出願日】2017年12月18日
(65)【公開番号】特開2018-108810(P2018-108810A)
(43)【公開日】2018年7月12日
【審査請求日】2017年12月18日
(31)【優先権主張番号】62/436,050
(32)【優先日】2016年12月19日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】15/463,350
(32)【優先日】2017年3月20日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】313005662
【氏名又は名称】コンチネンタル オートモーティブ システムズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】CONTINENTAL AUTOMOTIVE SYSTEMS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン マッケイ
(72)【発明者】
【氏名】イハブ ソリマン
【審査官】 田中 将一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−239605(JP,A)
【文献】 特開2014−222988(JP,A)
【文献】 特開2009−241827(JP,A)
【文献】 特開2002−192979(JP,A)
【文献】 特開2008−024010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 − 6/547
B60W 10/00 − 50/16
B60L 1/00 − 3/12
B60L 7/00 − 13/00
B60L 15/00 − 15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律運転システムのパワートレインインターフェースにおいて、
少なくとも1つの自律運転操縦を実施するように車両を構成するために動作可能な自律運転制御装置と、
前記自律運転制御装置と電気的に通信するパワートレイン制御装置と、
前記パワートレイン制御装置によって制御される少なくとも1つのパワートレインコンポーネントであって、前記パワートレイン制御装置は、当該少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの現在の性能と、当該少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの未来の性能とを計算するために動作可能である、少なくとも1つのパワートレインコンポーネントと
を含み、
前記自律運転制御装置は、前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの前記現在の性能と、前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの前記未来の性能とに基づいて前記少なくとも1つの自律運転操縦を実施するように、前記車両を構成し、
前記車両を加速するための前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能を表す車両加速度に関する少なくとも1つの予測的な動的限界をさらに含み、
前記自律運転制御装置は、前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントを使用して、前記車両加速度に関する少なくとも1つの予測的な動的限界に基づいて前記少なくとも1つの自律運転操縦を実施するように、前記車両を構成し、
前記車両加速度に関する少なくとも1つの予測的な動的限界は、
前記車両を加速するための前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能を表す複数の第1のデータ点をさらに含み、
前記複数の第1のデータ点のうちの少なくとも1つは、現在の時間における前記車両を加速するための前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能を表し、
前記複数の第1のデータ点のうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの未来の時間における前記車両を加速するための前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能を表し、
前記自律運転制御装置は、前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントを使用して、前記現在の時間における前記車両を加速するための前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能と、前記少なくとも1つの未来の時間における前記車両を加速するための前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能との両方に基づいて前記少なくとも1つの自律運転操縦を実施するように、前記車両を構成する、
自律運転システムのパワートレインインターフェース。
【請求項2】
前記パワートレイン制御装置は、前記現在の時間における前記車両を加速するための前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能と、前記少なくとも1つの未来の時間における前記車両を加速するための前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能との両方に基づいて、前記少なくとも1つの自律運転操縦を完了することができないと判断されるときに、前記車両加速度に関する予測的な動的限界を再計算する、
請求項記載の自律運転システムのパワートレインインターフェース。
【請求項3】
前記車両を減速するための前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能を表す車両減速度に関する少なくとも1つの予測的な動的限界をさらに含み、
前記自律運転制御装置は、前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントを使用して、前記車両減速度の少なくとも1つの予測的な動的限界に基づいて前記少なくとも1つの自律運転操縦を実施するように、前記車両を構成し、
前記車両減速度に関する少なくとも1つの予測的な動的限界は、
前記車両を減速するための前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能を表す複数の第2のデータ点をさらに含み、
前記複数の第2のデータ点のうちの少なくとも1つは、現在の時間における前記車両を減速するための前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能を表し、
前記複数の第2のデータ点のうちの少なくとも1つは、少なくとも1つの未来の時間における前記車両を減速するための前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能を表し、
前記自律運転制御装置は、前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントを使用して、前記現在の時間における前記車両を減速するための前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能と、前記少なくとも1つの未来の時間における前記車両を減速するための前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能との両方に基づいて前記少なくとも1つの自律運転操縦を実施するように、前記車両を構成する、
請求項記載の自律運転システムのパワートレインインターフェース。
【請求項4】
前記パワートレイン制御装置は、前記現在の時間における前記車両を減速するための前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能と、前記少なくとも1つの未来の時間における前記車両を減速するための前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能との両方に基づいて、前記少なくとも1つの自律運転操縦を完了することができないと判断されるときに、前記車両減速度に関する予測的な動的限界を再計算する、
請求項記載の自律運転システムのパワートレインインターフェース。
【請求項5】
前記少なくとも1つの自律運転操縦は、前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能に基づいて変更される、
請求項1記載の自律運転システムのパワートレインインターフェース。
【請求項6】
前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能は、前記少なくとも1つの自律運転操縦が進行している間ずっと変化する、
請求項記載の自律運転システムのパワートレインインターフェース。
【請求項7】
前記少なくとも1つの自律運転操縦は、前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能に基づいて中止される、
請求項1記載の自律運転システムのパワートレインインターフェース。
【請求項8】
前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントは、トラクションドライブのモータリング限界と、トラクションドライブの発生限界とを有する少なくとも1つの駆動アクチュエータをさらに含む、
請求項1記載の自律運転システムのパワートレインインターフェース。
【請求項9】
前記少なくとも1つの自律運転操縦は、前記トラクションドライブのモータリング限界と、前記トラクションドライブの発生限界とに基づいて変更される、
請求項記載の自律運転システムのパワートレインインターフェース。
【請求項10】
前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントは、最大充電限界および最大放電限界を有する少なくとも1つのバッテリをさらに含む、
請求項1記載の自律運転システムのパワートレインインターフェース。
【請求項11】
前記少なくとも1つの自律運転操縦は、前記最大充電限界および前記最大放電限界に基づいて変更される、
請求項10記載の自律運転システムのパワートレインインターフェース。
【請求項12】
前記自律運転制御装置は、前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントが最も効率的に動作するように前記少なくとも1つの自律運転操縦を変更する、
請求項1記載の自律運転システムのパワートレインインターフェース。
【請求項13】
車両の加速度限界を予測するための方法であって、
前記車両の現在の速度を供給するステップと、
前記車両の所望の速度を供給するステップと、
前記車両の車両加速度に関する予測的な動的限界を供給するステップと、
前記車両の車両減速度に関する予測的な動的限界を供給するステップと、
現在の時間を供給するステップと、
少なくとも1つの未来の時間を供給するステップと、
少なくとも1つのパワートレインコンポーネントを供給するステップと、
少なくとも1つの自律運転操縦を実施するために、前記現在の時間と前記少なくとも1つの未来の時間との両方における前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能に基づいて、前記車両加速度に関する予測的な動的限界と、前記車両減速度に関する予測的な動的限界とを計算するステップと、
前記車両加速度に関する予測的な動的限界を使用して前記車両を前記所望の速度まで加速するステップと、
前記車両減速度に関する予測的な動的限界を使用して前記車両を前記所望の速度まで減速するステップと、
前記車両加速度に関する予測的な動的限界と、前記車両減速度に関する予測的な動的限界とに基づいて前記車両加速度および前記車両減速度を変更して、前記現在の速度での走行から前記所望の速度での走行へと前記車両を変更するステップと
を含む、方法。
【請求項14】
前記車両を加速するための前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能を表す複数の第1のデータ点を供給するステップと、
前記複数の第1のデータ点を使用して、前記車両加速度に関する予測的な動的限界を計算するステップと、
前記複数の第1のデータ点のうちの少なくとも1つを使用して、前記現在の時間における前記車両を加速するための前記パワートレインコンポーネントの性能を表すステップと、
前記複数の第1のデータ点のうちの別の1つを使用して、前記少なくとも1つの未来の時間における前記車両を加速するための前記パワートレインコンポーネントの性能を表すステップと、
前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントを使用して、前記現在の時間と前記少なくとも1つの未来の時間との両方における前記複数の第1のデータ点に基づいて前記少なくとも1つの自律運転操縦を実施するように、前記車両を構成するステップと、
前記複数の第1のデータ点に基づいて前記車両加速度を変更するステップと
をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記車両を減速するための前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントの性能を表す複数の第2のデータ点を供給するステップと、
前記複数の第2のデータ点に基づいて前記車両減速度に関する予測的な動的限界を計算するステップと、
前記複数の第2のデータ点のうちの少なくとも1つを使用して、前記現在の時間における前記車両を減速するための前記パワートレインコンポーネントの性能を表すステップと、
前記複数の第2のデータ点のうちの別の1つを使用して、前記少なくとも1つの未来の時間における前記車両を減速するための前記パワートレインコンポーネントの性能を表すステップと、
前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントを使用して、前記現在の時間と前記少なくとも1つの未来の時間との両方における前記複数の第2のデータ点に基づいて前記少なくとも1つの自律運転操縦を実施するように、前記車両を構成するステップと、
前記複数の第2のデータ点に基づいて前記車両減速度を変更するステップと
をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つの駆動アクチュエータである前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントを供給するステップと、
トラクションドライブのモータリング限界を有する前記少なくとも1つの駆動アクチュエータを供給するステップと、
トラクションドライブの発生限界を有する前記少なくとも1つの駆動アクチュエータを供給するステップと、
前記トラクションドライブのモータリング限界と、前記トラクションドライブの発生限界と、前記車両の所望の速度とに基づいて前記車両加速度に関する予測的な動的限界を計算するステップと、
前記トラクションドライブのモータリング限界と、前記トラクションドライブの発生限界との両方に基づいて前記車両加速度を変更するステップと
をさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項17】
電気モータである前記少なくとも1つの駆動アクチュエータを供給するステップをさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つのバッテリである前記少なくとも1つのパワートレインコンポーネントを供給するステップと、
最大放電限界を有する前記少なくとも1つのバッテリを供給するステップと、
最大充電限界を有する前記少なくとも1つのバッテリを供給するステップと、
前記最大放電限界と、前記最大充電限界と、前記車両の所望の速度とに基づいて前記車両加速度に関する予測的な動的限界および前記車両減速度に関する予測的な動的限界を計算するステップと、
前記最大放電限界および前記最大充電限界に基づいて前記車両加速度に関する予測的な動的限界を変更するステップと、
前記最大放電限界および前記最大充電限界に基づいて前記車両減速度に関する予測的な動的限界を変更するステップと
をさらに含む、請求項13記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2016年12月19日に出願された米国仮特許出願第62/436050号(U.S. Provisional Application No. 62/436, 050)の利益を主張するものである。上記の出願の開示内容は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、概して、車両のパワートレインコンポーネントの現在の性能および予測される性能に基づいて車両の運転経路を修正することができる自律運転システムのパワートレインインターフェースに関し、さらには、パワートレインコンポーネントの性能の変化に基づいてパワートレインコンポーネントの更新された運転性能を提供するものである。
【0003】
発明の背景
自律運転制御装置とパワートレイン制御装置との間における現在の自律運転経路計画インターフェースは、現在の時点における単純なパワートレイントルク(または車両の前後方向の加速要求/減速要求)である。これは、クルーズコントロールシステムと比較すると、パワートレイン制御装置に類似した種類のインターフェースであり、所望の自律運転経路を車両が走行できるように要求されたトルク(または車両加速度/車両減速度)をパワートレインが供給できない場合には、不正確な車両経路計画につながる場合がある。このことは、特に車両の車線変更または追い越し操縦において特に重大であり、この場合には、車両加速度の点でパワートレインの性能が急激に変化または飽和する可能性があり、図1の時間t1に示されるように安全でない状態に潜在的につながる可能性がある。この状況は、トラクションドライブの動作限界、高電圧の出力限界、熱管理等を含む、パワートレインの内部の複数の条件に起因して生じ得る。典型的な自律経路計画アルゴリズムは、パワートレインコンポーネントが目標プロファイル(図1に図示)を満たすことができる場合には、自律運転操縦の間に現在の車両の動作状態において未来の(または予測的な)把握なしに目標車両加速要求(または目標車両ホイールトルク要求)を出力する。パワートレインコンポーネントが自律運転操縦中に目標車両加速要求を満たすことができない場合には、既存の1つの解決策は、自律運転操縦が実施されているときに新しい目標経路計画に更新することであるか、または自律運転機能を停止して運転者に通知し、操縦中に車両の制御を運転者に戻すことであった。このことは、自律運転操縦を実施する場合に最適ではなく、潜在的に安全でない。1つの潜在的な負の結果は、自律運転操縦を実施している車両に他の車両が接近している間における、自律運転操縦の追い越し部分の間(時間t1の間)での車両加速度の不足であろう。
【0004】
したがって、種々のパワートレインコンポーネントの性能を予測し、パワートレインコンポーネントの性能の変化に基づいて車両の自律運転経路を変更するための戦略を提供し、この場合に、完全自律運転車両または半自律運転車両の加速/減速の制御のための最適化されたパワートレイン制御戦略を設けることが必要とされている。
【0005】
発明の概要
本発明は、自律運転制御装置からの入力を拡充して、現在の動作点におけるパワートレイントルク性能(または車両加速性能/車両減速性能)と、さらには未来における後続の動作点における性能とを、未来におけるパワートレインのエネルギ管理、サブシステムの制約/限界、および性能に基づいて制御するための、拡張されたパワートレインインターフェースおよび戦略である。本発明は、自律運転(AD)性能(完全自律運転または半自律運転)を有する電気的なパワートレイン制御装置を有する車両(ハイブリッド電気自動車(HEV)または純バッテリ式電気自動車(BEV))に適用される。この概念は、目標車両速度およびギアにおいて利用可能な燃焼エンジントルクに基づいて非電気的なパワートレインの(従来の)システムに拡張することができる。
【0006】
1つの実施形態では、本発明は、少なくとも1つの自律運転操縦を実施するように車両を構成するために動作可能な自律運転制御装置と、前記自律運転制御装置と電気的に通信するパワートレイン制御装置と、前記パワートレイン制御装置によって制御される少なくとも1つのパワートレインコンポーネントとを有する、自律運転システムのパワートレインインターフェースである。前記パワートレイン制御装置は、前記パワートレインコンポーネントの現在の性能と、前記パワートレインコンポーネントの未来の性能とを計算するために動作可能であり、前記自律運転制御装置は、前記パワートレインコンポーネントの前記現在の性能と、前記パワートレインコンポーネントの前記未来の性能とに基づいて前記自律運転操縦を実施するように、前記車両を構成する。
【0007】
前記自律運転システムのパワートレインインターフェースは、前記車両を加速するための前記パワートレインコンポーネントの性能を表す車両加速度に関する少なくとも1つの予測的な動的限界も含む。前記自律運転制御装置は、前記パワートレインコンポーネントを使用して、前記車両加速度に関する予測的な動的限界に基づいて前記自律運転操縦を実施するように、前記車両を構成する。
【0008】
1つの実施形態では、前記車両加速度に関する予測的な動的限界は、前記車両を加速するための前記パワートレインコンポーネントの性能を表す複数の第1のデータ点を含み、前記複数の第1のデータ点のうちの少なくとも1つは、現在の時間における前記パワートレインコンポーネントの性能を表し、前記複数の第1のデータ点のうちの別の1つは、少なくとも1つの未来の時間における前記パワートレインコンポーネントの性能を表す。前記自律運転制御装置は、前記パワートレインコンポーネントを使用して、前記現在の時間と前記未来の時間との両方における前記複数の第1のデータ点に基づいて前記自律運転操縦を実施するように、前記車両を構成する。前記パワートレイン制御装置はまた、前記車両が前記自律運転操縦を実施するときに、前記車両加速度に関する予測的な動的限界が変更され得るように、そして前記車両加速度に関する予測的な動的限界が変更されると前記自律運転操縦が変更され得るように、前記車両加速度に関する予測的な動的限界を再計算する。
【0009】
本発明の自律運転システムのパワートレインインターフェースは、前記車両を減速するためのパワートレインコンポーネントの性能を表す車両減速度に関する予測的な動的限界も含み、前記自律運転制御装置は、前記パワートレインコンポーネントを使用して、前記車両減速度に関する予測的な動的限界に基づいて前記自律運転操縦を実施するように、前記車両を構成する。
【0010】
前記車両減速度に関する動的限界は、前記車両を減速するための前記パワートレインコンポーネントの性能を表す複数の第2のデータ点を含み、前記自律運転制御装置は、前記パワートレインコンポーネントを使用して、前記現在の時間と前記未来の時間との両方における前記複数の第2のデータ点に基づいて前記自律運転操縦を実施するように、前記車両を構成する。前記パワートレイン制御装置は、前記車両が前記少なくとも1つの自律運転操縦を実施するときに、前記車両減速度に関する予測的な動的限界が変更され得るように、そして前記車両減速度に関する予測的な動的限界が変更されると前記自律運転操縦が変更され得るように、前記車両減速度に関する予測的な動的限界を再計算する。
【0011】
本発明の自律運転システムのパワートレインインターフェースの特徴の1つは、前記パワートレインコンポーネントの性能が、前記自律運転操縦が進行している間ずっと変化する場合に、当該パワートレインコンポーネントの性能に基づいて前記自律運転操縦を変更することができることである。さらに、前記パワートレインコンポーネントが、前記自律運転操縦を実施するための性能を有していない場合には、当該自律運転操縦を完全に中止することができる。
【0012】
1つの実施形態では、前記パワートレインコンポーネントは、トラクションドライブのモータリング限界と、トラクションドライブの発生限界とを有する少なくとも1つの駆動アクチュエータであり、前記自律運転操縦は、前記トラクションドライブのモータリング限界と、前記トラクションドライブの発生限界とに基づいて変更される。
【0013】
別の実施形態では、前記パワートレインコンポーネントは、最大充電限界および最大放電限界を有する少なくとも1つのバッテリであり、前記自律運転操縦は、前記最大充電限界および前記最大放電限界に基づいて変更される。
【0014】
さらに別の実施形態では、前記自律運転制御装置は、前記パワートレインコンポーネントが最も効率的に動作するように前記自律運転操縦を変更する。
【0015】
本発明の適用可能性のさらなる範囲は、以下に記載される詳細な説明から明らかになるであろう。詳細な説明および特定の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すものであり、例示のみを目的としたものであって、本発明の範囲を限定するものではないことを理解すべきである。
【0016】
図面の簡単な説明
本発明は、詳細な説明および添付の図面からより完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】他の車両を追い越しする或る1つの車両に関する自律運転経路および動作特性を示す図であり、この場合、当該車両のパワートレインコンポーネントは、当該車両が操縦を完了するための性能を有していない。
図2】本発明の実施形態による自律運転システムのパワートレインインターフェースのシステム図である。
図3】自律運転システムのパワートレインインターフェースを使用して他の車両を追い越しする或る1つの車両に関する自律運転経路および動作特性を示す図であり、この図には、本発明の実施形態による予測的なパワートレインの性能のウィンドウが含まれている。
図4A】自律運転システムのパワートレインインターフェースを使用して他の車両を追い越しする或る1つの車両に関する自律運転経路および動作特性を示す第1の図であり、この図には、本発明の実施形態による第1の位置における予測的なパワートレインの性能のウィンドウが含まれており、このウィンドウは、時間の経過に伴って変化する。
図4B】自律運転システムのパワートレインインターフェースを使用して他の車両を追い越しする或る1つの車両に関する自律運転経路および動作特性を示す第2の図であり、この図には、本発明の実施形態による第2の位置における予測的なパワートレインの性能のウィンドウが含まれており、このウィンドウは、時間の経過に伴って変化する。
図5】自律運転経路に沿って車両を操縦するために使用される、車両のパワートレインの予測的な加速度限界および減速度限界と、自律運転経路とを示す図であり、当該車両は、本発明の実施形態による自律運転システムのパワートレインインターフェースを有する。
図6】本発明の実施形態による自律運転システムのパワートレインインターフェースによって実施される各ステップを説明するフローチャートである。
【0018】
好ましい実施形態の詳細な説明
好ましい実施形態の以下の説明は、本質的に単なる例示に過ぎず、本発明、その適用、または使用を限定することを意図したものでは決してない。
【0019】
本発明は、車両のパワートレインコンポーネントの現在の運転性能および予測される運転性能に基づいて車両の運転経路を修正することができる自律運転システムのパワートレインインターフェースであり、さらには、パワートレインの性能の変化に基づいて、もしくは道路勾配、車両環境、路面状態、交通流、または交通タイミング情報のような車両の外部の環境の変化に基づいて更新された運転性能を提供するものである。
【0020】
自律運転システムのパワートレインインターフェースの1つの実施形態を有する車両のための自律運転システムが、図2に一般的に参照符号10で示されている。システム10は、パワートレイン制御装置14と電気的に通信する自律運転車両制御装置12を含む。自律運転車両制御装置12は、車両によって種々の自律運転操縦が実施され得るように、短距離(SR)レーダ16、長距離(LR)レーダ18、カメラ20、およびライダ22のような種々の装置からの入力を受信する。これらの装置のそれぞれから自律運転車両制御装置12によって受信されたデータは、車両経路に関する計画を展開するために使用され、この場合、この車両経路を車両が走行するように1つまたは複数の自律運転操縦が実施される。パワートレイン制御装置14は、車両運転者24からの入力と、(限定するわけではないが、車両速度、温度、気圧、および車両からの他の任意の種類の所望の入力のような)種々の種類の車両の入力26と、シャーシ28と、種々の道路データ30とを受信し、これらの情報を使用してエネルギを管理し、本実施形態ではトラクションドライブのモータ32A、バッテリ32B、エンジン32C、およびドライブラインコンポーネント32Dである少なくとも1つのアクチュエータのような種々のパワートレインコンポーネント32A〜32Dに動作戦略を提供する。ドライブラインコンポーネント32Dは、ギアボックスまたは動力分割装置のような、車両のドライブラインにおける任意のコンポーネントとすることができる。
【0021】
(車両が走行しているときのような)未来における車両のパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能は、複数の要因に依存しており、なお、これらの要因には、限定するわけではないが、トラクションドライブの限界(ピーク/連続)、バッテリシステムの限界/充電状態(最大充電限界および最大放電限界を含む)、熱管理、パワートレインの動作状態等が含まれる。本発明の自律運転システム10は、自律運転車両制御装置12とパワートレイン制御装置14との両方によって受信されたデータを使用して車両経路のより正確な計画が提供され得るように、車両のパワートレインシステムと自律運転制御装置12との間のインターフェースを拡張し、現在の動作時間と未来の複数の時点との両方におけるパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能に基づいて車両経路を潜在的に変更し、これによって、自律運転操縦を安全に中断することなく完了することができるようにするか、または要求された自律運転操縦を車両が実施し得るように要求された性能を、パワートレインコンポーネント32A〜32Dが有していない場合には、自律運転操縦を中止することができるようにする。これによって、前後方向の加速性能または減速性能の予期しない損失に起因した、自律操縦中における潜在的な機能安全性の危険が最小化される。
【0022】
自律運転制御装置12は、所望の自律運転経路に基づいてパワートレインシステムの現在の動作状態と未来の動作状態との両方における目標車両加速度/目標車両減速度(または目標車両ホイールトルク)を提供することもできる。パワートレイン制御装置14は、所望の車両経路の情報と、パワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能の情報とを使用してエネルギ管理および燃費を最適化し、さらには車両の今後の加速要求に向けてパワートレインコンポーネント32A〜32Dを準備する。
【0023】
上で説明した種々のステップは、パワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能に基づいた自律運転経路の計画と、潜在的な経路変更との一部であり、その例が図3に示されている。図3は、一般的に参照符号34A〜34Eで示された5つのフェーズを含む。これらのフェーズ34A〜34Eはそれぞれ、一般的に参照符号36で示された第1の車両38Aの所望の自律運転経路を生成するために自律運転システム10(図2に図示)の一部として使用される種々の動作パラメータを示す。図3は、2つの他の車両38Bおよび38Cも含み、この場合、第1の車両38Aは、当該第1の車両38Aに第2の車両38Bが接近する前に第3の車両38Cを追い越すための追い越し操縦を実施するために、自律運転経路36に追従する。
【0024】
引き続き図2〜3を参照すると、示された例における車両38Aの動作中に、自律運転制御装置12は、前述した追い越し操縦を実施するために第1の車両38Aに対して要求される、当初の目標車両速度40と、対応する当初の目標車両加速度とを命令する。しかしながら、パワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能の限界に起因して、車両38Aが追い越し操縦を実施することができないおそれがある状況が存在し得る。パワートレインコンポーネント32A〜32Dの限界に起因して当初の目標車両速度40が達成できない場合には、車両38Aは、当初の目標車両加速度に到達することができず、したがって、追い越し操縦を実施するために所望の自律運転経路36を走行することができない。車両38Aが、当初の目標車両速度40と対応する当初の目標車両加速度とに基づいて追い越し操縦を試みたとして、それでも要求された速度40および対応する加速度を達成することができないような場合には、車両38Aは、他の車両38B,38Cに衝突する危険があるだろう。
【0025】
しかしながら、本発明のシステム10は、パワートレインコンポーネント32A〜32Dの限界に基づいて速度および加速度のような車両38Aの動作を変更することができるか、または要求された自律運転経路36に沿った操縦をキャンセルすることができる。図2〜3に示された例では、車両38Aは、t0とt1との間の第1のフェーズ34Aの間、一定速度で走行している。自律運転制御装置12は、対応する目標車両加速度42A(すなわち目標車両加速性能または目標車両ホイールトルク性能)を含む、新しい目標車両速度42を要求し、なお、この新しい目標車両速度42は、時間t1での操縦の開始時におけるパワートレインコンポーネント32A〜32Dの限界と、未来の或る時点または未来の時間tYにおけるパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能とに基づいて達成可能な速度である。実際に達成された車両加速度が、参照符号42Bで示されている。
【0026】
本発明のシステム10の利点の1つは、(パワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能に基づいた)車両38Aの新しい目標車両速度42および目標車両加速度42Aを変更することができ、したがって、車両38Aが命令された自律運転経路36を走行するときに、現在の動作時間と未来の複数の時点とに関してリアルタイムに更新することができることである。パワートレイン制御装置14は、操縦の開始時である現在の時間t1においてのみならず、未来の時間(すなわちt2,t3,t4,・・・tY)において要求される数のデータ点に関しても、パワートレインコンポーネント32A〜32Dの更新された性能を、自律運転車両制御装置12に通信する。図4A〜4Bには、コンポーネント32A〜32Dの現在の動作特性を強調する移動ウィンドウ44も示されている。図4A〜4Bに示されるように、車両38Aが自律運転経路36を走行するときにパワートレインコンポーネント32A〜32Dの状態および限界が動的に変化する場合があるので、移動ウィンドウ44は変化する(すなわち図4A〜4Bでは左から右に移動する)。これによってパワートレイン制御装置14は、車両38Aが自律運転経路36を走行するときに、パワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能の未来における状況を、自律運転車両制御装置12のために更新することが可能となる。
【0027】
示されている例では、時間t1においてパワートレイン制御装置14は、現在の時間t1と、未来(すなわちt2,t3,t4,・・・tY)において所望される数のデータ点とに関して、パワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能の未来における状況を、自律運転車両制御装置12のために更新する。時間t2においてパワートレイン制御装置14は、現在の時間t2と、未来(すなわちt3,t4,・・・tY)において要求される数のデータ点とに関して、パワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能の未来における状況を、自律運転車両制御装置12のために更新する。パワートレイン制御装置14は、未来におけるt1とtYとの間の複数の異なる点におけるパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能に関して、自律運転車両制御装置12を更新することもできる。図3〜4Bに示されるように、パワートレインの予測的な車両加速性能の情報が自律運転制御装置12に供給される時期が早ければ早いほど、自律運転経路36の軌道がより正確かつより迅速に更新される。
【0028】
パワートレインコンポーネント32A〜32Dの限界に基づいた予測的な車両加速度に関する計算は、多数の要因を考慮に入れており、なお、これらの要因には、限定するわけではないが、トラクションドライブの限界(ピーク/連続)、バッテリシステムの限界/充電状態(SOC)、車両安定化装置の限界、パワートレインの動作状態等が含まれる。図5〜6を参照すると、車線追い越し操縦のような自律運転操縦の一例が、車両38Aの動作特性と共に示されており、この例では、パワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能の限界に基づいて自律運転経路36を適合および変更する、予測的な車両加速度によるパワートレイン限界戦略(a predictive vehicle acceleration powertrain limit strategy)が使用されている。
【0029】
図3〜6を参照すると、第1のフェーズ34Aでの時間t0から開始して、ステップ100において、車両38Aは一定速度で運転しており、車両38Aが加速されるか、または減速されるかについての判定がなされる。この例では、ステップ102において、車両38Aを加速して追い越し操縦を実施するという決定がなされる。第1フェーズ34Aでの時間t0から開始して、ステップ104において、パワートレイン制御装置14は、車両38Aを加速するために車両加速度46に関する予測的な動的限界を計算する。この場合、車両加速度46に関する予測的な動的限界は、複数の第1のデータ点を有し、これら複数の第1のデータ点は、現在の時間(この例ではt0)と、所望の任意数の未来の時間(すなわちt1,t2,t3,t4・・・tY)との両方におけるパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能を表す。
【0030】
次に、自律運転車両制御装置12は、ステップ106において車両38Aが自律運転操縦を実施するように、車両38Aに対して自律運転操縦を実施するよう命令する。この例での操縦の間に、すなわち車両38Aが加速している第2のフェーズ34Bにおける操縦の一部の間に、車両38Aが自律運転操縦を完了し得るような性能をパワートレインコンポーネント32A〜32Dが有しているかどうかについて、ステップ108における別の判定がなされる。車両38Aは、図示のように第2のフェーズ34Bにおいて加速するが、車両加速度46に関する予測的な動的限界は、フェーズ34A〜34Eのそれぞれにおいて変化する。なぜなら、現在の時間と未来の時間との両方におけるパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能は、変化する場合があるからである。
【0031】
ステップ108において、考えられるいくつかの結果が存在する。1つの結果は、ステップ110に示されるように、車両38Aが自律運転操縦を実施することができるような性能をパワートレインコンポーネント32A〜32Dが有していることである。別の結果は、ステップ112に示されるように、自律運転操縦を完全に中止しなければならないことである。自律運転操縦の中止は、1つまたは複数のパワートレインコンポーネント32A〜32Dの故障、または車両38Aのその他のコンポーネントの故障の結果であり得る。
【0032】
ステップ108のさらに別の結果は、1つまたは複数のパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能の変化に基づいて自律運転操縦および自律運転経路36が修正または変更され得ることである。パワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能が変化すると、車両加速度46に関する予測的な動的限界が変化し、そうすると、パワートレイン制御装置14は、パワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能に関する情報を自律運転車両制御装置12に通信することができ、パワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能の変化に応じて自律運転経路36を変更することができる。
【0033】
第2フェーズ34Bでの時間t1において、パワートレイン制御装置14は、パワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能に基づいて車両加速度46に関する予測的な動的限界を再び計算するが、この例では車両38Aは、第2フェーズ34Bの間に加速しているので、車両加速度46に関する予測的な動的限界は、トラクションドライブのモータリング限界48と、トラクションドライブのモータ制御装置の限界(図示せず)と、高電圧バッテリの放電限界52とによって制限される。車両加速度46に関する予測的な動的限界は、車両38Aの現在の速度(および対応するトラクションドライブのモータ32Aの速度)においても、自律運転制御装置12から受信された所望の未来の目標車両加速度42Aにおいても計算される。最初は、つまりこの例では第2のフェーズ34Bの間は、車両加速度46に関する予測的な動的限界は、トラクションドライブのモータリング限界48ではなくバッテリ放電限界52によって制限される。トラクションドライブのモータリング限界48はピークに達しておらず、バッテリ32Bは、バッテリ放電限界52の最大値に接近しているところである。
【0034】
この例では時間t1に、すなわち第2のフェーズ34Bの開始中に、1つまたは複数のパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能が不足しているせいで車両38Aが自律運転操縦を実施することができなくなると、ステップ114において、未来の時間(すなわちt2を過ぎて)のための新しい目標車両速度42と、車両加速度46に関する予測的な動的限界とが、自律運転制御装置12およびパワートレイン制御装置14によって再計算される。パワートレイン制御装置14は、時間t1に新しい目標車両速度42および新しい目標車両加速度42Aを受信することにより、これらの情報を使用して、未来の或る時間(すなわちt1を過ぎて)におけるパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能を再び予測することができ、ひいては車両38Aの加速性能を予測することができる。車両加速度46に関する予測的な動的限界は、ここでも複数のデータ点を含み、この場合、t1とtYとの間の時間は、t1とtYとの間に所望の任意数のデータ点が含まれ得るように増分的に分割される。第2のフェーズ34Bの間、データ点は、新しい現在の時間t1と、それぞれの未来の時間(すなわちt2,t3,t4・・・tY)とを含む。それぞれのデータ点は、全てのパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能に基づいて計算され、この例では、全てのパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能は、トラクションドライブのモータリング限界48と、トラクションドライブのモータ制御装置の限界と、高電圧バッテリの放電限界52とによって制限される。
【0035】
第2のフェーズ34Bにおいて、車両38Aが第3の車両38Cの追い越しを開始するように、車両38Aが新しい目標車両速度42および新しい目標車両加速度42Aまで加速すると、パワートレインコンポーネント32A〜32Dの車両加速度46に関する予測的な動的限界は、高電圧バッテリの放電限界52ではなく、トラクションドライブのモータリング限界48によって制限されることとなる(すなわちモータ32Aが最大速度に達する)。車両加速度46に関する予測的な動的限界は、時間t3での第3のフェーズ34Cにおいて、バッテリ放電限界52によって制限されることから、トラクションドライブのモータリング限界48によって制限されることへと推移する。この例では、この推移は、車両38Aの変化する速度と、これに応じて調整されるトラクションドライブのモータ32Aの速度と、さらには、モータ32Aの連続出力性能に対するピーク(すなわちモータ32Aの最大速度)とに起因して生じる。モータ32Aのトルク出力は、速度およびピークの正のトルク限界の関数である。第3のフェーズ34Cでは、現在の時間がt3になり、それぞれの未来の時間がt4・・・tYになり、車両加速度46に関する予測的な動的限界は、現在の時間t3とそれぞれの未来の時間(t4・・・tY)との両方における新しいデータ点を含む。
【0036】
自律運転操縦の間に、要求された自律運転操縦を車両38Aがパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能に基づいて実施できること、または要求された自律運転操縦が必要に応じて中止または修正されることを保証するために、ステップ106〜114を所望の回数だけ繰り返すことができる。
【0037】
図3〜5に示された追い越し操縦のような自律運転操縦を実施することの別の態様は、車両38Aを減速することであり、この場合、種々のパワートレインコンポーネント32A〜32Dが、車両38Aの減速度を供給するためにも使用される。ステップ116において、パワートレイン制御装置14は、車両38Aを減速するために、複数の第2のデータ点を有する車両減速度64に関する予測的な動的限界を計算する。この場合、これら複数の第2のデータ点は、現在の時間(第1のフェーズ34Aの間はt0である)と、それぞれの未来の時間(すなわちt1,t2,t3,t4・・・tY)との両方におけるパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能を表す。この例では車両38Aは、第4のフェーズ34Dにおいて減速しているが、車両減速度64に関する予測的な動的限界は、それぞれのフェーズ34A〜34Eに示されている。なぜなら、現在の時間と未来の時間との両方における、車両を減速するためのパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能は変化する場合があるので、車両38Aは、常に車両減速度64に関する予測的な動的限界を有しているからである。
【0038】
この例では、第1の車両38Aが第3の車両38Cを追い越した後に、すなわちステップ116において車両減速度64に関する予測的な動的限界が計算された後に、ステップ102において、第1の車両38Aを減速するとの決定がなされると、車両38Aは、ステップ118において自律運転操縦を実施することを試みる。
【0039】
この例での操縦の間に、すなわち車両38Aが減速している第4のフェーズ34Dにおける操縦の一部の間に、車両38Aが自律運転操縦を完了し得るような性能をパワートレインコンポーネント32A〜32Dが有しているかどうかについて、ステップ120における別の判定がなされる。ステップ120において、考えられるいくつかの結果が存在する。1つの結果は、ステップ110に示されるように、車両38Aが自律運転操縦を実施することができるような性能をパワートレインコンポーネント32A〜32Dが有していることである。別の結果は、ステップ112に示されるように、自律運転操縦を完全に中止しなければならないことである。
【0040】
第4のフェーズ34Dでの時間t4において、パワートレイン制御装置14は、パワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能に基づいて車両減速度64に関する予測的な動的限界を再び計算する。第1のフェーズ34Aおよび第2のフェーズ34Bの間、車両減速度64に関する予測的な動的限界は、全てのパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能によって決定され、高電圧バッテリシステムの充電限界56によって制限される。なお、高電圧バッテリシステムの充電限界56は、バッテリの充電状態58が増加するにつれて低下する。第3のフェーズ34Cが開始されて第4のフェーズ34Dに進むと、車両減速度64に関する予測的な動的限界は、ここでも全てのパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能によって決定されるが、現在のトラクションドライブのモータ制御装置の動作点におけるトラクションドライブの発生限界60によって制限される。この例では車両38Aは、第4フェーズ34Dにおいて減速しているので、車両38Aを減速するためのパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能は、バッテリ充電限界56と、充電状態58と、トラクションドライブの発生限界60(ピークおよび連続の両方)と、車両安定化装置の回生限界62とによって制限される。たとえ高電圧バッテリの充電限界56が増加したとしても(車両38Aの加速要求に基づいてバッテリ32Bが放電されているので)、車両38Aを減速するためのパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能を制限しているのが、トラクションドライブの発生限界60であることに留意すべきである。
【0041】
パワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能が変化すると、車両減速度64に関する予測的な動的限界が変化し、そうすると、パワートレイン制御装置14は、パワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能に関する情報を自律運転車両制御装置12に通信することができ、車両減速度64に関する予測的な動的限界を更新および変更することもできる。この例では時間t4に、すなわち第4のフェーズ34Dの開始中に、1つまたは複数のパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能が不足しているせいで車両38Aが自律運転操縦を実施することができなくなると、ステップ122において、未来の時間(すなわちt4を過ぎて)のための新しい目標車両速度42と、車両減速度64に関する予測的な動的限界とが、パワートレイン制御装置14によって再計算される。パワートレイン制御装置14は、時間t4に新しい目標車両速度42および新しい目標車両加速度42Aを受信することにより、これらの情報を使用して、未来のある時間(すなわちt4を過ぎて)におけるパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能を再び予測することができ、ひいては車両38Aの加速性能を予測することができる。
【0042】
自律運転操縦の間に、要求された自律運転操縦を車両38Aがパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能に基づいて実施できること、または要求された自律運転操縦が必要に応じて中止または修正されることを保証するために、ステップ106〜114を所望の回数だけ繰り返すことができる。
【0043】
上述したように、車両減速度64に関する予測的な動的限界は、複数の第2のデータ点を含み、この場合、t0とtYとの間の時間は、ここでもt0とtYとの間に所望の任意数のデータ点が含まれ得るように増分的に分割される。ここでも、車両38Aが自律運転操縦を実施すると、現在の時間および未来の時間が変化する。要求された自律運転操縦を車両38Aがパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能に基づいて実施できることを保証するために、車両減速度64に関する予測的な動的限界を、第4フェーズ34Dの間に必要な回数だけ再計算することができる。
【0044】
車両38Aが第5のフェーズ34Eに到達すると、車両38Aは、自律運転操縦を完了して自律運転経路36を継続する。第5のフェーズ34Eの間に、車両38Aは、減速を完了し、車両38Aは、一定速度での走行を再開し、図3〜5に示されるように目標加速度42Aと、実際に達成される加速度42Bは、実質的にゼロである。
【0045】
バッテリ放電限界52およびバッテリ充電限界56は、バッテリ32Bが放電および充電されるレートを意味しており、バッテリ32Bの充電状態とは別のパラメータであることに留意すべきである。
【0046】
本発明のシステム10は、自律運転操縦の間に種々のパワートレインコンポーネント32A〜32Dの性能の予測に組み込むことができる他の特徴を含むこともできる。1つの実施形態では、車両38Aが回生制動性能を有し、この場合、回生ブレーキは、車両安定化装置/ESP(Electronic Stability Program)に起因した回生制動限界を有する。回生制動限界は、車両減速度64に関する予測的な動的限界の一部として含めることができる。別の実施形態では、熱管理やパワートレインの動作状態(エンジンオン/オフ)等も含まれる。種々のパワートレインコンポーネント32A〜32Dのこれらの予測的な限界(回生制動の使用、熱管理、パワートレイン動作状態等を含み得る)は、自律運転制御装置12によって供給される車両38Aの経路計画のための目標加速度軌道/目標速度軌道に基づいて、現在の時間に関する時間t1と、1つまたは複数の未来の時点tYとにおいて計算することができる。パワートレインコンポーネント32A〜32Dからの車両加速性能および車両減速性能の両方に対するこのアプローチは、現在および未来におけるエネルギ需要またはエネルギ回生に基づいている。この戦略には、種々異なるアルゴリズムおよびバリエーションが存在する。例えば、限定するわけではないが、道路勾配、車両環境、路面、交通流、または交通タイミング情報のような静的データおよび動的データを供給する追加的なコネクティビティが車両38Aに含まれている場合には、これらの情報を、車両38Aのパワートレインの予測的な加速および減速に関する限界計算に含めることもできる。静的データおよび動的データの埋め込みの一例は、パワートレインコンポーネント32A〜32Dの熱管理の負荷を増加させるおそれがある未来の道路勾配が判明している状況であり、この追加的なエネルギ需要は、車両加速度46に関する予測的な動的限界と、車両減速度64に関する予測的な動的限界とに関する計算においてより早期に適時に予測的に考慮されるであろう。
【0047】
上述した特徴に加えて、本発明の自律運転システムのパワートレインインターフェースを有するシステム10を使用して運転経路36または自律運転操縦の実施方法を修正して、車両38Aの効率も同様に最適化することもできる。例えば、車両38Aが電気自動車またはハイブリッド電気自動車である場合には、運転経路36または自律運転操縦を修正して、トラクションドライブのモータ32A、パワーインバータ(図示せず)、高電圧バッテリシステム32B等の効率を最適化することができる。
【0048】
本発明の説明は、本質的に単なる例示に過ぎず、したがって、本発明の要旨から逸脱しない変形形態は、本発明の範囲内にあることが意図される。そのような変形形態は、本発明の精神および範囲からの逸脱であると見なすべきではない。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6