特許第6584646号(P6584646)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6584646
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】軸受装置を備えた回転振動ダンパ
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/173 20060101AFI20190919BHJP
   F16F 15/10 20060101ALI20190919BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20190919BHJP
   F16C 17/04 20060101ALI20190919BHJP
   F16C 3/06 20060101ALI20190919BHJP
   F16C 35/067 20060101ALI20190919BHJP
   F16C 23/04 20060101ALI20190919BHJP
   F16F 15/14 20060101ALI20190919BHJP
   F16F 15/16 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   F16F15/173 A
   F16F15/10 Y
   F16C17/02 Z
   F16C17/04 Z
   F16C3/06
   F16C35/067
   F16C23/04 Z
   F16F15/14 Z
   F16F15/16 M
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-510943(P2018-510943)
(86)(22)【出願日】2016年8月29日
(65)【公表番号】特表2018-525590(P2018-525590A)
(43)【公表日】2018年9月6日
(86)【国際出願番号】EP2016070340
(87)【国際公開番号】WO2017037031
(87)【国際公開日】20170309
【審査請求日】2018年4月26日
(31)【優先権主張番号】102015114534.0
(32)【優先日】2015年8月31日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】599169003
【氏名又は名称】ハッセ・ウント・ヴレーデ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Hasse & Wrede GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ボーマイアー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル シュタイドル
(72)【発明者】
【氏名】ノーベアト ラインシュペアガー
【審査官】 大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第00745784(EP,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02824362(EP,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102009041452(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/173
F16C 3/06
F16C 17/02
F16C 17/04
F16C 23/04
F16C 35/067
F16F 15/10
F16F 15/14
F16F 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性回転振動ダンパであって、下記の特徴、すなわち、
a)ダンパ室(2)を画定する内壁を有するリング形状のダンパハウジング(1)と、
b)前記ダンパ室(2)内に配置された振動減衰リング(3)と、
c)該振動減衰リング(3)を前記ダンパハウジング(1)内において支持する軸受装置であって、該軸受装置は、前記振動減衰リング(3)と前記ダンパハウジング(1)の前記内壁との間に予荷重なしに配置されていて、かつ少なくとも1つの軸受エレメント(5,6;5’,6’)を有していて、該軸受エレメント(5,6;5’,6’)がスラスト軸受部分(8)および/またはラジアル軸受部分(7)を有している軸受装置と、
d)前記振動減衰リング(3)と前記ダンパハウジング(1)との間における、粘性流体で満たされた剪断間隙(4)と、
を有しており、
e)周囲に分配されて、前記少なくとも1つの軸受エレメント(5,6;5’,6’)に、前記スラスト軸受部分(8)のうちの複数のスラスト軸受部分(8)および/または前記ラジアル軸受部分(7)のうちの複数のラジアル軸受部分(7)が、設けられており、前記少なくとも1つの軸受エレメント(5,6;5’,6’)は、さらに複数の材料ウェブを有していて、該材料ウェブはそれぞれ、前記スラスト軸受部分のうちの2つのスラスト軸受部分または前記ラジアル軸受部分のうちの2つのラジアル軸受部分を互いに結合している、粘性回転振動ダンパにおいて、
前記スラスト軸受部分(8)のうちの複数のスラスト軸受部分(8)が、材料ウェブによって互いに結合されており、かつ前記材料ウェブは軸方向ウェブ(10)として形成されており、および/または前記ラジアル軸受部分(7)のうちの複数のラジアル軸受部分(7)が、材料ウェブによって互いに結合されており、かつ前記材料ウェブは半径方向ウェブ(9)として形成されていることを特徴とする、粘性回転振動ダンパ。
【請求項2】
それぞれ周囲に分配されて、前記ラジアル軸受部分(7)および前記スラスト軸受部分(8)は、補足し合って、横断面L字形の軸受部分を形成している、請求項記載の粘性回転振動ダンパ。
【請求項3】
前記スラスト軸受部分(8)および/または前記ラジアル軸受部分(7)のベルト厚さ(X1,Y1)は、前記軸方向ウェブ(10)および/または前記半径方向ウェブ(9)の領域におけるベルト厚さ(X2,Y2)よりも大きい、請求項1または2記載の粘性回転振動ダンパ。
【請求項4】
前記軸受エレメント(5,6;5’,6’)のうちの2つの軸受エレメント(5,6;5’,6’)が、前記ダンパ室内に配置されている、請求項1からまでのいずれか1項載の粘性回転振動ダンパ。
【請求項5】
前記ダンパ室は、内側および外側の角隅領域(12,13,16,17)を備えたほぼ方形の横断面を有している、請求項1からまでのいずれか1項載の粘性回転振動ダンパ。
【請求項6】
前記軸受エレメント(5,6;5’,6’)のうちの2つの軸受エレメント(5,6;5’,6’)が、前記ダンパ室(2)の前記外側の角隅領域(12,13)において前記ダンパハウジング(1)と前記振動減衰リング(3)との間に配置されており、および/または前記軸受エレメントのうちの2つの軸受エレメント(5’,6’)が、前記ダンパ室(2)の前記内側の角隅領域(16,17)において前記ダンパハウジング(1)と前記振動減衰リング(3)との間に配置されている、請求項記載の粘性回転振動ダンパ。
【請求項7】
前記軸受エレメントのうちの1つの軸受エレメント(5’)が、前記外側の角隅領域のうちの1つの外側の角隅領域(12)に配置されており、前記軸受エレメントのうちの1つの別の軸受エレメント(6’)が、前記ダンパ室(2)の前記内側の角隅領域のうちの1つの内側の角隅領域において、前記ダンパハウジング(1)と前記振動減衰リング(3)との間に配置されており、かつ前記軸受エレメント(5,6;5’,6’)は、前記ダンパ室(2)内において互いに対角線方向で向かい合って位置している角隅領域に配置されている、請求項記載の粘性回転振動ダンパ。
【請求項8】
前記軸受装置は、予荷重なしに前記ダンパハウジング(1)と前記振動減衰リング(3)との間に配置されている、請求項1からまでのいずれか1項載の粘性回転振動ダンパ。
【請求項9】
前記軸受エレメント(5,6;5’,6’)のうちの少なくとも1つの軸受エレメントが、単に前記スラスト軸受部分(8)および該スラスト軸受部分(8)を結合する前記軸方向ウェブ(10)だけを有しており、または前記軸受エレメント(5,6;5’,6’)のうちの1つの軸受エレメントが、単に前記ラジアル軸受部分(7)および該ラジアル軸受部分(7)を結合する前記半径方向ウェブ(9)だけを有している、請求項からまでのいずれか1項記載の粘性回転振動ダンパ。
【請求項10】
前記軸受エレメント(5,6)は、それぞれ一体に形成されており、かつ/またはプラスチックから成っている、請求項1からまでのいずれか1項記載の粘性回転振動ダンパ。
【請求項11】
前記軸受エレメント(5,6;5’,6’)のうちの少なくとも1つの軸受エレメントが、取り付けられた状態において周囲を閉じられたリングとして形成されており、または前記軸受エレメント(5,6;5’,6’)のうちの少なくとも1つの軸受エレメントが、取り付けられた状態において周囲を閉じられていないリングとして形成されている、請求項1から10までのいずれか1項記載の粘性回転振動ダンパ。
【請求項12】
前記スラスト軸受部分(8)のうちの少なくとも3つのスラスト軸受部分および/または前記ラジアル軸受部分(7)のうちの少なくとも3つのラジアル軸受部分が、周囲に分配されて、1つのまたは2つのまたはそれ以上の前記軸受エレメント(5,6;5’,6’)に設けられている、請求項1から11までのいずれか1項記載の粘性回転振動ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部に記載された回転振動ダンパに関する。
【0002】
このような形式の回転振動ダンパは、機械軸、しばしばエンジンクランク軸において、回転振動を減衰するために働く。機械軸において、回転振動ダンパのダンパハウジングは、機械軸、しばしばエンジンクランク軸に回動不能に結合され、この機械軸の回転振動を減衰するようになっている。ダンパハウジングおよび振動減衰リングは、機械軸の平均回転速度にスリップなしに追従する。これに対して機械軸の、均一な回転に重畳する回転振動は、まずダンパハウジングにだけ伝達される。振動減衰リングは、もしこの振動減衰リングを、狭い剪断間隙を満たす粘性流体、例えばシリコンオイルがダンパハウジングに連結していない場合には、一様に回転することになる。この連結は、弾性的であり、かつ減衰特性を有している。その結果ダンパハウジングと振動減衰リングとの間には、例えば+−1°の角度までの相対回転角が、励起する軸振動のサイクルで発生する。つまり振動減衰リングはダンパハウジング室内においてダンパハウジングに対して幾分回転することができるので、振動減衰リングはその支持のために、通常、少なくとも1つの軸受装置を必要とする。
【0003】
回転振動ダンパの軸受装置の設計時における重要な要求は、ダンパ室内にある振動減衰リングが、軸受装置によって自由に可動に支持されること、およびダンパ室との、もしくはダンパ室を形成するダンパハウジングとの衝突が回避されていることである。このことは、振動減衰リング、軸受装置およびダンパ室の適宜な公称値および公差の決定によって行われる。しばしば、エンジンもしくは内燃機関における回転振動ダンパのための構造空間は制限されている。同時に、エンジンもしくは内燃機関の開発に基づいて、回転振動ダンパの機能に対する要求は高まっている。
【0004】
軸受装置として、特にルーズに挿入された軸受エレメントが好適であることが判明しており、この軸受エレメントは、振動減衰リングとダンパ室との間において滑り軸受を形成している。例えばその周囲の1箇所にスリットを備えた半径方向ベルトを、2つの軸方向ベルトと組み合わせること(欧州特許出願公開第0423243号明細書(EP 0423243)、または軸受装置として複数の軸方向ガイドプレートを軸受エレメントとして設けること(英国特許出願公開第1307607号明細書(GB 1307607))が公知である。
【0005】
上位概念部に記載する独国特許出願公開第19519261号明細書(DE 19519261 A1)に基づいて公知の、ダンパハウジング内において振動減衰リングを案内するための軸受装置を備えた回転振動ダンパでは、軸受装置として、横断面L字形の少なくとも1つの軸受エレメントが設けられており、この軸受エレメントは、L字形の軸受エレメントのラジアル軸受部分がダンパハウジングに対して振動減衰リングを半径方向において支持しかつ案内するように、およびL字形の軸受エレメントのスラスト軸受部分が軸方向における支持および案内を保証するように、ダンパハウジング内に挿入されている。振動減衰リングとダンパハウジングとの間には、剪断間隙が存在しており、この剪断間隙は粘性流体で満たされている。この刊行物の変化形態によれば、L字形の軸受エレメントのうちの2つのL字形の軸受エレメントが、振動減衰リングの内側または外側の周方向間隙内に配置されているか、またはL字形の軸受エレメントのうちの1つのL字形の軸受エレメントが、軸方向ベルトと組み合わされるようになっている。L字形の軸受エレメントは、周囲を閉じられたアングルリングとして設計されているか、またはその周囲の1箇所にスリットを備えて形成されていてよい。
【0006】
同様に上位概念部に記載する独国特許発明第10126477号明細書(DE 10126477 C1)に基づいて公知の構成では、L字形の軸受エレメントは、周囲の1箇所に突合せ部を有しており、この突合せ部は、少なくとも1つのまたは複数の材料ウェブによって橋渡しされており、これによって周囲を閉じられたリングが形成される。好ましくは、この材料ウェブは、熱によるブシュの長さ増大時に裂開するように、または弾性・塑性変形するように構成されている。独国特許発明第10126477号明細書の別の変化形態によれば、突合せ部は、裂開ウェブとして形成された1つまたは2つの材料ウェブによって橋渡しされており、このもしくはこれらの材料ウェブは、ラジアル軸受部分と一列におよび/またはスラスト軸受部分と一列に位置している。同様に、突合せ部が、メアンダウェブとして形成された材料ウェブによって橋渡しされていることおよび材料ウェブがフィルムウェブであることが公知である。
【0007】
上位概念部に記載する従来技術を出発点として、本発明は、支持形態を改善するという課題を有している。
【0008】
本発明は、この課題を請求項1の対象によって解決する。本発明によって提供される粘性回転振動ダンパは、下記の特徴、すなわち、ダンパ室を画定するリング形状のダンパハウジングと、ダンパ室内に配置された振動減衰リングと、該振動減衰リングをダンパハウジング内において支持する軸受装置であって、少なくとも1つの軸受エレメントを有していて、該軸受エレメントがスラスト軸受領域および/またはラジアル軸受領域を有している軸受装置と、振動減衰リングとダンパハウジングとの間における、粘性流体で満たされた剪断間隙と、を有しており、このとき周囲に分配されて、少なくとも1つの軸受エレメントに、スラスト軸受部分のうちの複数のスラスト軸受部分および/またはラジアル軸受部分のうちの複数のラジアル軸受部分が、設けられている。
【0009】
請求項1の対象は、それにより一連の利点をもたらす。スラスト軸受部分および/またはラジアル軸受部分は、もはや軸受エレメントの全周にわたってまたはほぼ全周にわたって延びておらず、単に周囲に分配されて、3つまたはそれ以上のスラスト軸受部分および/またはラジアル軸受部分が設けられているので、それぞれの軸受エレメントが剪断間隙において満たす空間は、減じられ、粘性媒体によって満たすことができる相応に追加的な空間が発生し、かつこの空間内において振動減衰リングとダンパハウジングとの間における粘性カップリングが可能である。このことは、利用可能な剪断間隙を最大にすること、および振動減衰リングとダンパハウジングとの間における取付けを最適化することを可能にする。スラスト軸受部分および/またはラジアル軸受部分と呼ばれる部分において、軸方向もしくは半径方向で運転中に連続的にダンパハウジングと振動減衰リングとの間における滑り支持を、これらの部分によって実現することができる。好ましくは、スラスト軸受部分のうちの少なくとも3つのスラスト軸受部分および/またはラジアル軸受部分のうちの少なくとも3つのラジアル軸受部分が、周囲に分配されて、1つまたは2つまたはそれ以上の軸受エレメントに設けられている。
【0010】
追加的に粘性媒体によって満たされる領域を大きく構成するために、スラスト軸受部分および/またはラジアル軸受部分の周囲長さの総和は、好適な実施形態によれば、全軸受エレメントの周囲の50%未満、特に40%未満、特に好ましくは30%未満である。
【0011】
好ましくは、それぞれ周囲に分配されて、ラジアル軸受部分およびスラスト軸受部分は、補足し合って、横断面L字形の軸受部分を形成しており、これらのL字形の軸受部分は、周囲に分配されて軸受エレメントに設けられている。このようなL字形の軸受部分によって、振動減衰リングは、特に良好にセンタリングされかつ案内される。取付けはさらにこの構成において極めて簡単に行われる。それというのは、このように構成された軸受エレメントは、剪断間隙内に良好に位置決め可能であり、その後で、通常取付けのために最初は片側が開放しているダンパハウジングが、軸受エレメントおよび振動減衰リングの挿入後に閉鎖され、かつさらに後で閉鎖すべき充填開口において粘性流体で満たされるからである。
【0012】
好適な変化形態によれば、少なくとも1つの軸受エレメントは、さらに複数の材料ウェブを有していて、該材料ウェブはそれぞれ、スラスト軸受部分のうちの隣接した2つのスラスト軸受部分および/またはラジアル軸受部分のうちの隣接した2つのラジアル軸受部分を互いに結合している。これらの材料ウェブは、軸受エレメントの取付けを大幅に簡単にする。材料ウェブは、好ましくは、該材料ウェブにおいて運転中に滑り支持がまったく、またはいずれにせよ極めて僅かな滑り支持しか生じないように、寸法設定されている。このとき種々様々な変化形態が可能である。
【0013】
例えば、スラスト軸受部分のうちの複数のスラスト軸受部分が、材料ウェブによって互いに結合されており、かつ材料ウェブは軸方向ウェブとして形成されていることが可能である。しかしながらまた択一的にまたは追加的に可能な実施形態では、ラジアル軸受部分のうちの複数のラジアル軸受部分が、材料ウェブによって互いに結合されており、かつ材料ウェブは半径方向ウェブとして形成されている。単に半径方向ウェブまたは軸方向ウェブだけを実現すると、粘性媒体のための増大された空間が発生する。半径方向ウェブおよび軸方向ウェブの両方を設けると、軸受エレメントの安定性が得られ、かつ軸受エレメントの取付けが簡単になる。さらに材料ウェブは、剪断間隙幅を画定するために働き、かつ場合によっては、運転中に強い荷重が材料ウェブの領域において発生した場合に、短時間の非常時支持のためにも役立つ。
【0014】
このときさらに好ましくは、材料ウェブの領域における軸受エレメントのベルト厚さが、スラスト軸受部分および/またはラジアル軸受部分におけるベルト厚さよりも僅かである。それというのは、このように構成されていると、軸受エレメントが占める空間をさらに減じることができるからである。
【0015】
良好な支持を実現するために好ましくは、軸受エレメントのうちの2つの軸受エレメントが、ダンパ室内に配置されている。確かに理論的には、軸受エレメントのうちのさらに多くの軸受エレメントが設けられていてもよい。しかしながら通常、振動減衰リングを支持するためには、2つの軸受エレメントで十分である。これによってまた取付けも簡単になる。
【0016】
好ましくは、ダンパ室は、内側および外側の角隅領域を備えたほぼ方形の横断面を有している。この場合変化形態によれば、軸受エレメントのうちの2つの軸受エレメントが、ダンパ室の外側の角隅領域においてダンパハウジングと振動減衰リングとの間に配置されていてよい。この実施形態は、特に容易に取り付けることができる。この構成は好ましいが、しかしながら不可欠ではない。また、C字形形状およびこれに類した形状のような他の横断面も可能である。
【0017】
択一的に、軸受エレメントのうちの2つの軸受エレメントが、ダンパ室の内側の角隅領域においてダンパハウジングと振動減衰リングとの間に配置されていてもよい。
【0018】
最後にまた、軸受エレメントのうちの1つの軸受エレメントが、外側の角隅領域のうちの1つの外側の角隅領域に配置されており、軸受エレメントのうちの1つの別の軸受エレメントが、ダンパ室の内側の角隅領域のうちの1つの内側の角隅領域において、ダンパハウジングと振動減衰リングとの間に配置されている実施形態も可能である。このとき好ましくは、軸受エレメントは、ダンパ室内において互いに対角線方向で向かい合って位置している角隅領域に配置されている。それというのは、この構成は振動減衰リングを良好にセンタリングするからである。
【0019】
好ましくは、軸受装置の軸受エレメントは、良好な支持を保証するために、予荷重なしにダンパハウジングと振動減衰リングとの間に配置されている。この実施形態は、このように構成されていると良好な支持が保証されるので、特に好適である。軸受装置の軸受エレメント用の材料としては、好ましくはプラスチックが使用される。粘性流体は、好ましくはシリコンオイルである。しかしながらまた軸受エレメントは、個々の場合において予荷重をもって取り付けられてもよい。
【0020】
本発明の枠内においてはまた、軸受エレメントのうちの少なくとも1つの軸受エレメントが、単にスラスト軸受部分および該スラスト軸受部分を結合する、僅かなベルト厚さの軸方向ウェブだけを有している、軸受装置の構成、および/または軸受エレメントのうちの1つの軸受エレメントが、単にラジアル軸受部分および該ラジアル軸受部分を結合する、僅かなベルト厚さの半径方向ウェブだけを有している構成も、実現可能である。これらの軸受エレメントは、このとき好ましくは、不可欠ではないが、それぞれ周囲に分配されてラジアル軸受部分およびスラスト軸受部分が補足し合って横断面L字形の軸受部分を形成している軸受エレメントと組み合わされる。このとき軸受エレメントのうちの一方の軸受エレメントは、リングを好ましくは半径方向および軸方向において案内し、かつ他方の軸受エレメントは、振動減衰リングを単にこれらの方向のうちの1つの方向においてだけ案内する。
【0021】
本発明の好適な実施形態は、その他の従属請求項に記載されている。
【0022】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳説する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1のリング形状の粘性回転振動ダンパの1つのリング半部を示す断面図である。
図2図2aは、リングとして形成された軸受エレメントの斜視図であり、図2bは、図2aに示された軸受エレメントを詳細に示す図である。
図3】第2のリング形状の粘性回転振動ダンパの1つのリング半部を示す断面図である。
図4図4aは、リングとして形成された別の軸受エレメントの斜視図であり、図4bは、図4aに示された軸受エレメントを詳細に示す図である。
図5】第3のリング形状の粘性回転振動ダンパの1つのリング半部を示す断面図である。
【0024】
図1には、ダンパ室2を画定するリング形状のダンパハウジング1を備えた粘性回転振動ダンパが示されている。ダンパハウジング1は、ここには図示されていない機械軸Mに、特にエンジンクランク軸に回転可能に結合可能であり、この機械軸Mの回転振動を減衰することが望まれている。
【0025】
ダンパ室2内には、周囲を閉鎖された振動減衰リング3が挿入されている。この振動減衰リング3は、ここでは、好適な、しかしながら不可欠ではない構成において、ほぼ方形の横断面を有している。振動減衰リング3は、軸受装置によってダンパハウジング1内において支持される。この軸受装置は、好ましくはルーズに、つまり予荷重なしに、振動減衰リング3とダンパハウジング1の内壁との間に配置されている。ダンパハウジング1の内壁と振動減衰リング3との間には、ダンパ室2内に剪断間隙4が形成されており、この剪断間隙4は、緩衝媒体、特に粘性流体で満たされている。
【0026】
軸受装置は、リング形状に形成された軸受エレメント5,6を有している。軸受エレメント5,6は、振動減衰リング3をダンパハウジング1内においてダンパハウジングに対して回転可能に支持するために働く。これらの軸受エレメント5,6は、好ましくはプラスチックから成っており、それぞれダンパハウジング1と振動減衰リング3との間における滑り軸受を形成している。軸受エレメント5,6は、好ましくは一体であり、このことは、取扱いを特に簡単にするが、しかしながら別の実施形態では、2つまたはそれ以上の部材から形成されている。
【0027】
図2aには、軸受エレメント5が示されている。他方の軸受エレメント6は、ここでは軸受エレメント5と同一に形成されているので、以下の記載は軸受エレメント6にも当て嵌まる。軸受エレメント5,6の同一の形成には、製造のために軸受エレメント5のただ1の構造形式を準備するだけでよいという利点がある。しかしながらまた、振動減衰リング3が横断面において方形に形成されているのではなく、例えば段付けされていて、これによって支持が軸方向において異なった直径において実現されねばならない場合(ここには図示せず)には、両方の軸受エレメント5,6が異なった構成を有していることも可能である。
【0028】
軸受エレメント5は、リング形状に形成されており、周囲に分配されて少なくとも2つまたはそれ以上のスラスト軸受部分8および/または少なくとも2つまたはそれ以上のラジアル軸受部分7を有している。図1によれば、スラスト軸受部分8およびラジアル軸受部分7は、全周にわたって分配されて好ましくは、対応する角度位置に配置されており、これによって、図1の横断面図で見て、全周にわたって分配されて、L字形の軸受部分が形成され、これらの軸受部分の脚は、それぞれスラスト軸受部分8のうちの1つおよびラジアル軸受部分7のうちの1つを形成している。
【0029】
剪断間隙4には、ダンパハウジング1と振動減衰リング3との間に、剪断間隙・軸方向領域4c,4dおよび剪断間隙・半径方向領域4a,4bが形成されている。スラスト軸受部分8は、全構成において剪断間隙・軸方向領域4c,4dに位置していて、かつラジアル軸受部分7は剪断間隙・半径方向領域4a,4bに位置している。「半径方向」というのは、回転振動ダンパの技術においてかつ本出願の図面および記載において、一定の半径において、図示されていないエンジン軸と平行な方向のことであり(エンジン軸は、図1において下側の一点鎖線に相当する)、かつ「軸線方向」というのは、可変の半径において、半径方向に対して垂直な方向のことである。
【0030】
ラジアル軸受部分7のうちの1つのラジアル軸受部分7とスラスト軸受部分8のうちの1つのスラスト軸受部分8とをそれぞれ備えたL字形の軸受部分5は、リング形状の軸受エレメント5の全周にわたって延びているのではない。これらの軸受部分5は、むしろ部分的にだけ設けられている。軸受部分5は、全体として周方向において、好ましくは、軸受エレメント5の全周の50%未満、好ましくは40%未満、特に30%未満にわたって延びている。
【0031】
軸受エレメント5の互いに隣接したスラスト軸受部分8は、軸方向ウェブ10を介して、周方向において互いに結合されている。互いに隣接したラジアル軸受部分7は、半径方向ウェブ9を介して、周方向において互いに結合されている。
【0032】
図2bに示されているように、ブリッジウェブ11(図2a)は、軸受エレメント5の周方向領域の1箇所にだけ設けられており、このブリッジウェブ11(図2b)は、スラスト軸受部分8のうちの2つのスラスト軸受部分8またはラジアル軸受部分7のうちの2つのラジアル軸受部分7の間で半径方向および/または周方向において、好ましくは半径方向ウェブ9よりも細く寸法設定されており、ブリッジウェブ11は、ダンパハウジング内への挿入時に裂開することができ、これによって軸受エレメント5の挿入後に運転中、通常、周囲を閉じられた軸受リングがもはや形成されておらず、その周囲の1箇所において開放した軸受リングが形成される。これによって種々様々な直径および公差を補償することができる。このようなブリッジウェブ11の詳細な説明および変化形態については、冒頭に述べた独国特許発明第10126477号明細書を参照のこと。
【0033】
択一的な実施形態によれば、公差を補償するために、軸受エレメント5はまた、その周囲の1箇所にスリットを備えて形成/製造されていてよい。
【0034】
軸受部分7,8は、もはやほとんど軸受リングの全長にわたって延びておらず、角度分配されて部分においてしか設けられていないので、追加的に粘性媒体によって満たすことができる領域が発生し、これによって上位概念部に記載する従来技術に比べて、振動減衰リング3とダンパハウジング1との間における粘性カップリングが可能である追加的な領域を形成することができる。このことは、剪断間隙を最大にすること、および振動減衰リング3とダンパハウジング1との間における連結を最適化することを可能にする。粘性媒体によって追加的に満たされる領域を大きく構成するために、スラスト軸受部分8および/またはラジアル軸受部分7の周囲長さの総和は、好ましくは軸受エレメントおよび/または振動減衰リング3の周囲長さの前記50%未満、好ましくは40%未満、特に30%未満である。
【0035】
好ましくは、スラスト軸受部分8および/またはラジアル軸受部分7の板厚もしくはベルト厚さX1および/またはY1は、軸受部分を結合する軸方向ウェブ10および半径方向ウェブ9の領域における板厚もしくはベルト厚さX2および/またはY2よりも大きい。好ましくはさらに、スラスト軸受部分8の軸方向幅および/またはラジアル軸受部分7の半径方向幅は、軸受部分自体におけるよりも大きい。またこのことはそれぞれ、振動減衰リング3とダンパハウジング1との間における連結のための粘性流体のための追加的な空間の利点をもたらす。
【0036】
軸受エレメント5,6は、ダンパ室2内において、振動減衰リング3とダンパハウジング1との間における外側の角隅領域12,13内に設置される。そのために振動減衰リング3は、対応する角隅領域12,13の領域に、好ましくは、いずれにせよ半径方向に、または角隅を越えて半径方向および軸方向に延びる凹部14,15を有しており、これらの凹部14,15の構造深さは、軸受エレメント5,6のベルト厚さよりも僅かであり、この構成は、剪断間隙4を細く形成するために、および軸受エレメント5,6が占める空間を小さく保つために、ならびに剪断間隙4における粘性流体のための適宜に寸法設定された空間を得るために好適である。
【0037】
図3には、回転振動ダンパの択一的な変化形態が示されており、この回転振動ダンパでは、軸受エレメント5’,6’は、該軸受エレメント5’,6’がダンパ室2の半径方向内側の角隅領域16,17において振動減衰リング3とダンパハウジング1との間に挿入されるように形成されている。
【0038】
軸受エレメントの別の変化形態が、図4に示されている。図4の軸受エレメントは、図3に示されているような粘性回転振動ダンパ内に挿入されるのに適している。その他の点では、図3の粘性回転振動ダンパの構成は、図1の粘性回転振動ダンパの構成に相当している。
【0039】
図5に示された別の変化形態では、一方の軸受エレメント5は、図2の形式で形成されていて、ダンパ室2の外側の角隅領域12内に挿入されており、これに対して他方の軸受エレメント6’は、図4の形式で形成されていて、ダンパ室2の内側の角隅領域17内に挿入されている。このとき軸受エレメント5,6’は、互いに対角線方向で向かい合って位置しており、つまり軸受エレメント5,6’は、ダンパ室2の、対角線方向で互いに向かい合って位置している角隅領域12,17内に挿入されている。
【0040】
また、軸受エレメント5,6’のスラスト軸受部分8およびラジアル軸受部分7をそれぞれ軸方向ウェブ10および半径方向ウェブ9によって互いに結合するのではなく、結合する半径方向ウェブ9および軸方向ウェブ10のただ1つの形式だけを、つまり軸方向ウェブ10または半径方向ウェブ9だけを設けることも可能である。例えば図4の実施形態では、単にラジアル軸受部分7だけが半径方向ウェブ9によって互いに結合されている。
【0041】
最後にまた、図示されていないが、スラスト軸受部分8およびラジアル軸受部分7を、周囲の同じ箇所に設けるのではなく、周方向において互いにずらして設けることも可能である。このような場合には、例えば軸受エレメントに、40°の間隔をおいてスラスト軸受部分8が形成されていて、かつそれに対して20°だけ角度をずらされてそれぞれラジアル軸受部分7が形成されている。このときスラスト軸受部分8およびラジアル軸受部分7はまた、それらを結合する軸方向ウェブ10および/または半径方向ウェブ9よりも大きなベルト厚さを有している。
【0042】
ダンパハウジング1は、図1図2および図3によれば、(図示されていない)機械軸に取り付けるためのそれぞれ少なくとも1つの部分を有している。ここではこの部分はそれぞれ、半径方向内側に向かって延びるフランジ18である。
【符号の説明】
【0043】
1 ダンパハウジング
2 ダンパ室
3 振動減衰リング
4 剪断間隙
4a,4b 剪断間隙・半径方向領域
4c,4d 剪断間隙・軸方向領域
5,5’ 軸受エレメント
6,6’ 軸受エレメント
7 ラジアル軸受部分
8 スラスト軸受部分
9 半径方向ウェブ
10 軸方向ウェブ
11 ブリッジウェブ
12 角隅領域
13 角隅領域
14 凹部
15 凹部
16 角隅領域
17 角隅領域
18 フランジ
X1,Y1 ベルト厚さ
X2,Y2 ベルト厚さ
図1
図2a
図2b
図3
図4a
図4b
図5