特許第6584779号(P6584779)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6584779
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】車両姿勢制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20190919BHJP
   B60W 40/068 20120101ALI20190919BHJP
   B60T 8/172 20060101ALI20190919BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20190919BHJP
   B60K 17/356 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   B60W30/02
   B60W40/068
   B60T8/172 B
   B60T8/1755 A
   B60K17/356 B
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-13904(P2015-13904)
(22)【出願日】2015年1月28日
(65)【公開番号】特開2016-137820(P2016-137820A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2017年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】水貝 智洋
【審査官】 鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−276841(JP,A)
【文献】 特開2010−188918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00−10/30
30/00−50/16
B60T 7/12− 8/1769
8/32− 8/96
B60K 17/28−17/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の車輪の制駆動トルクを、これら左右の車輪に対して個別に設けられた動力源を制御することで独立に制御可能な車両を制御する車両制御装置に設けられる車両姿勢制御装置であって、
車速と操舵角から規範ヨーレートを求める暫定規範ヨーレート演算手段と、前記規範ヨーレートとヨーレートセンサによって検出された実ヨーレートとの偏差に基づいて目標ヨーモーメントを生成する目標ヨーモーメント演算手段と、前記目標ヨーモーメントを実現するために必要な制駆動力を、制駆動力指令手段から与えられて各輪の動力源に配分する制駆動力に加えるヨーモーメント制御手段とを備え、
路面摩擦係数を推定し、推定された路面摩擦係数に基づき限界ヨーレートを定める限界ヨーレート演算手段と、前記規範ヨーレートが前記限界ヨーレート演算手段で定められた限界ヨーレートより大きい場合に、前記限界ヨーレートを用いて規範ヨーレートを修正する規範ヨーレート修正手段とを備え、前記限界ヨーレート演算手段は、推定路面摩擦係数に予め定められた定数を加算した値と重力加速度との積を限界横加速度とし、限界横加速度を車速で除して限界規範ヨーレートとし、これを前記限界ヨーレートとして出力し、前記限界ヨーレート演算手段は、車速と操舵角から規範横加速度を求め、規範横加速度と実横加速度を比較し、両者の偏差である横加速度偏差が閾値1を超え、かつ実横加速度の変化率が閾値2未満の場合は、実横加速度を重力加速度で除した値を路面摩擦係数の推定値とし、前記横加速度偏差が閾値1以下、または実横加速度の変化率が閾値2以上の場合は、前記路面摩擦係数の推定値を予め定められた値とする車両姿勢制御装置。
【請求項2】
請求項に記載の車両姿勢制御装置において、前記限界ヨーレート演算手段は、推定された路面摩擦係数の推定値の変化を、増加時には減少時より遅くなるようにした車両姿勢制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、旋回性能の向上と旋回限界領域での車両挙動の安定化を図る車両姿勢制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両姿勢制御装置において、車速や操舵角等の各種車両状態量から目標ヨーレートを求め、目標ヨーレートと実ヨーレートとの偏差に基づいて目標ヨーモーメントを生成し、その目標ヨーモーメントを実現するために必要な制駆動力を各輪に加えることにより、安定した車両挙動を確保するものが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、車両の運動目標となる状態量をヨーレートのみとした場合、タイヤのコーナリングパワーが非線形特性となる限界領域では、目標ヨーレートを実現すると車両横滑り角も増大し、車両の挙動が不安定となる場合がある。そのため、ヨーレートフィードバックによって演算する一方、車両の横滑り角フィードバックによっても演算し、これらを所定の条件に応じて切り換えることで、このような状態での車両の挙動を安定させるものが公知である(特許文献2)。
【0004】
特許文献3では、特許文献2のように横滑り角フィードバックによる制御を付加する対策を止め、この代わりに車体横滑り角に応じヨーイング運動目標値を修正することで、従来のヨーイング挙動制御で生じていた車両挙動が益々不安定になるという前記の問題を解消する方法が提案されている。
特許文献3や特許文献4では、実横加速度を車速で除したヨーレートの値を上限として、車速や操舵角等の各種車両状態量から求めた目標ヨーレートを修正することによっても、横滑り角の過大な増加を抑制している。しかし、この方法を用いると、操舵初期の車両運動の応答性向上は望めない。
【0005】
また、横滑り防止制御装置では、路面の摩擦係数を随時推測しながら制御を行うものがあり、例えば特許文献4では,横加速度評価値が第1の閾値以上であるという第1の条件を満たす場合、または、前記横加速度評価値が前記第1の閾値よりも小さな第2の閾値以上であるとともに前記横加速度評価値の時間的変化率が所定値以上であるという第2の条件を満たす場合に、前記車両が走行している路面が高μ路であると判定し、第1の条件および第2の条件のいずれをも満たさない場合に、前記路面が低μ路であると判定する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−86378号
【特許文献2】特開平4−362470号公報
【特許文献3】特開平9 −2316号公報
【特許文献4】特許第5078484号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2の方法では、制御の切り替え時にドライバに違和感を与える恐れがあり、また実横滑り角の値が必要である。特許文献3の方法でも、やはり実横滑り角の値が必要である。横滑り角を実測するためのセンサを搭載すると非常にコストがかかり、あらゆる状況において精度良く推定することは困難である。また、特許文献3や特許文献4では、実横加速度を車速で除したヨーレートの値を上限として、車速や操舵角等の各種車両状態量から求めた目標ヨーレートを修正することによっても、横滑り角の過大な増加を抑制しているが、この方法では操舵初期の車両運動の応答性向上は望めない。
特許文献4では、直進走行状態のような横加速度が小さい場合は高μ路でも低μ路と判断してしまう。
【0008】
この発明は、上記課題を解消するものであり、操舵初期の車両の応答性を向上させ、また限界性能の向上と限界領域での過大な横滑りを防止し車両姿勢を安定化する車両姿勢制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の車両姿勢制御装置は、左右の車輪2の制駆動トルクを、これら左右の車輪2に対して個別に設けられた動力源4を制御することで独立に制御可能な車両1を制御する車両制御装置10に設けられる車両姿勢制御装置24であって、
車速と操舵角から規範ヨーレートを求める暫定規範ヨーレート演算手段25と、前記規範ヨーレートとヨーレートセンサ19によって検出された実ヨーレートとの偏差に基づいて目標ヨーモーメントを生成する目標ヨーモーメント演算手段26と、前記目標ヨーモーメントを実現するために必要な制駆動力を、制駆動力指令手段21から与えられて各輪の動力源4に配分する制駆動力に加えるヨーモーメント制御手段27とを備え、
路面摩擦係数を推定し、推定された路面摩擦係数に基づき限界ヨーレートを定める限界ヨーレート演算手段28と、前記規範ヨーレートが前記限界ヨーレート演算手段28で定められた限界ヨーレートより大きい場合に、前記限界ヨーレートを用いて規範ヨーレートを修正する規範ヨーレート修正手段29とを備え、前記限界ヨーレート演算手段28は、推定路面摩擦係数に予め定められた定数を加算した値と重力加速度との積を限界横加速度とし、限界横加速度を車速で除して限界規範ヨーレートとし、これを前記限界ヨーレートとして出力する
【0010】
この構成によると、操舵初期は、車速と操舵角から規範ヨーレートを求め、規範ヨーレートと実ヨーレートとの偏差に基づいて目標ヨーモーメントを生成し、その目標ヨーモーメントを実現するために必要な制動力または駆動力を各輪に加えるため、応答性が向上する。
また、路面摩擦係数を推定し、推定された路面摩擦係数に基づき限界ヨーレートを定め、前記規範ヨーレートが限界ヨーレートより大きい場合は限界ヨーレートを用いて規範ヨーレートを修正するため、限界域では、規範ヨーレートは路面摩擦係数推定値を考慮して計算され、現在の路面において発生し得る最大ヨーレートによって値が制限されることになる。そのため、過大な横滑り角が生じることがなく、車両の挙動が不安定となる恐れがない。これにより、限界性能の向上と限界領域での過大な横滑りの防止との効果を得ることができる。
【0011】
記限界ヨーレート演算手段28は、推定路面摩擦係数に予め定められた定数を加算した値と重力加速度との積を限界横加速度とし、限界横加速度を車速で除して限界規範ヨーレートとし、これを前記限界ヨーレートとして出力する。
このように限界横加速度を求め、この限界横加速度を車速で除して限界規範ヨーレートとすると、実横加速度より僅かに大きな横加速度に基づいて限界ヨーレートが計算されるようにでき、車両の横滑り角が僅かに増加し、効果的にアンダーステアを低減することができる。
【0012】
この発明において、前記限界ヨーレート演算手段28は、車速と操舵角から規範横加速度を求め、規範横加速度と実横加速度を比較し、横加速度偏差が閾値1を超え、かつ実横加速度の変化率が閾値2未満の場合は、実横加速度を重力加速度で除した値を路面摩擦係数の推定値とし、前記横加速度偏差が閾値1以下、または実横加速度の変化率が閾値2以上の場合は、前記路面摩擦係数の推定値を予め定められた値とする。
このように、実横加速度と規範横加速度の偏差と、実横加速度の変化率とを用いることによって、タイヤの限界(横滑り角に対するコーナリングフォースの飽和)を精度良く検出することができる。そのため、より一層の限界性能の向上と限界領域での過大な横滑りの防止との効果を高めることができる。
【0013】
この構成の場合に、前記限界ヨーレート演算手段28は、推定された路面摩擦係数の推定値の変化を、増加時には減少時より遅くなるようにしても良い。
推定路面摩擦係数の変化を、増加時には減少時より遅くなるようにすることで、路面のμ値が増加しても、限界ヨーレートの増大を抑制し、限界領域での過大な横滑りの防止をより確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の車両姿勢制御装置は、左右の車輪の制駆動トルクを、これら左右の車輪に対して個別に設けられた動力源を制御することで独立に制御可能な車両を制御する車両制御装置に設けられる車両姿勢制御装置であって、車速と操舵角から規範ヨーレートを求める暫定規範ヨーレート演算手段と、前記規範ヨーレートとヨーレートセンサによって検出された実ヨーレートとの偏差に基づいて目標ヨーモーメントを生成する目標ヨーモーメント演算手段と、前記目標ヨーモーメントを実現するために必要な制駆動力を、制駆動力指令手段から与えられて各輪の動力源に配分する制駆動力に加えるヨーモーメント制御手段とを備え、路面摩擦係数を推定し、推定された路面摩擦係数に基づき限界ヨーレートを定める限界ヨーレート演算手段と、前記規範ヨーレートが前記限界ヨーレート演算手段で定められた限界ヨーレートより大きい場合に、前記限界ヨーレートを用いて規範ヨーレートを修正する規範ヨーレート修正手段とを備え、前記限界ヨーレート演算手段は、推定路面摩擦係数に予め定められた定数を加算した値と重力加速度との積を限界横加速度とし、限界横加速度を車速で除して限界規範ヨーレートとし、これを前記限界ヨーレートとして出力し、前記限界ヨーレート演算手段は、車速と操舵角から規範横加速度を求め、規範横加速度と実横加速度を比較し、両者の偏差である横加速度偏差が閾値1を超え、かつ実横加速度の変化率が閾値2未満の場合は、実横加速度を重力加速度で除した値を路面摩擦係数の推定値とし、前記横加速度偏差が閾値1以下、または実横加速度の変化率が閾値2以上の場合は、前記路面摩擦係数の推定値を予め定められた値とするため、操舵初期の車両の応答性を向上させ、また限界性能の向上と限界領域での過大な横滑りを防止し車両姿勢を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の一実施形態に係る車両姿勢制御装置を搭載した電気自動車の概念構成を示すシステム構成図である。
図2】同車両姿勢制御装置の制御ブロック図である。
図3】同車両姿勢制御装置の限界ヨーレート演算を示すフローチャートである。
図4】(A),(B)はそれぞれ同車両姿勢制御装置を適用した4輪駆動車および後輪駆動車における姿勢制御時の各駆動力を示す説明図である。
図5】インホイールモータ駆動装置の一例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の一実施形態を図1ないし図5と共に説明する。図1は、この実施形態に係る車両姿勢制御装置24を車両制御装置10に搭載した左右輪独立駆動式車両である電気自動車の概念構成のブロック図であり、図の上側が車両の前方である。この電気自動車は、車両1の左右の後輪となる車輪2および左右の前輪となる車輪2が、いずれも動力源となる電動のモータ4で独立して駆動される4輪独立駆動の自動車である。前輪となる車輪2は操舵輪とされている。各モータ4は、例えば図5のインホイールモータ駆動装置5を構成するが、車台(図示せず)上に搭載されるオンボード形式であっても良い。
【0017】
図5において、インホイールモータ駆動装置5は、インホイールモータ(IWM)であるモータ4、減速機6、および車輪用軸受7を有し、これらの一部または全体が車輪2内に配置される。モータ4の回転は、減速機6および車輪用軸受7を介して車輪2に伝達される。車輪用軸受7のハブ輪7aのフランジ部には摩擦ブレーキ装置8を構成するブレーキロータ8aが固定され、同ブレーキロータ8aは車輪2と一体に回転する。モータ4は、例えば、ロータ4aのコア部に永久磁石が内蔵された埋込磁石型同期モータである。このモータ4は、ハウジング4cに固定したステータ4bと、回転出力軸9に取り付けたロータ4aとの間にラジアルギャップを設けたモータである。
【0018】
図1において、制御系を説明する。車両制御装置10は、車両1に搭載されたECU11と、前後のモータ4に対して設けられた複数(この例では2つ)のインバータ装置12とで構成される。ECU11は、その基本的な構成として、統合制御手段23と、駆動力指令手段21と、制駆動力分配手段22とを有する。統合制御手段23は、自動車全般の統括制御や協調制御を行う制御手段である。駆動力指令手段21は、アクセルペダル14等のアクセル操作手段の操作量の検出信号と、ブレーキペダル15等のブレーキ操作手段の操作量の検出信号とから、車両全体の制駆動力(制動力および駆動力)の指令、例えばトルク指令を生成する手段である。制駆動力分配手段22は、駆動力指令手段21の出力する指令を、設定規則に従って各モータ4のインバータ装置12へ個別の制駆動力指令、例えばトルク指令として分配する。
【0019】
各インバータ装置12は、バッテリ(図示せず)の直流電力をモータ4の駆動のための交流電力に変換する手段であって、その出力を制御する制御部(図示せず)を有し、上記の分配されたトルク指令等の制駆動力の指令に従って担当のモータ4を制御する。インバータ装置12は、図示の例では、前後それぞれ2台のモータ4に対して一台ずつ設けているが、前後の各インバータ装置12は、一台のインバータ装置12内に左右のモータ4を個別に制御する構成を有している。例えば、各インバータ装置12は、交流電力に変換するスイッチング素子のゲート回路等のパワー回路部(図示せず)が左右のモータ4に対してそれぞれ別に設けられ、その制御部は時分割等により1台で左右のパワー回路部を制御する構成とされる。前記インバータ装置12は、上記のように2台設ける代わりに、各モータ4毎に個別として合計4台設けても良い。
【0020】
ECU11は、マイクロコンピュータ等のコンピュータとこれに実行されるプログラム、並びに各種の電子回路等で構成される。ECU11と各インバータ装置12とは、CAN(コントロール・エリア・ネットワーク)等の車内通信網で接続されている。上記の基本構成を有する車両制御装置10におけるECU11に、車両姿勢制御装置24が設けられている。また、車両1には、センサ類として、車速検出手段16、横加速度センサ17、操舵角センサ18、およびヨーレートセンサ19が設けられている。操舵角センサ18は、ステアリングハンドル等の操舵手段13の操舵角を検出するセンサ、または転舵装置(図示せず)から操舵角を検出するセンサである。
【0021】
車両姿勢制御装置24は、概要を説明すると、車速や操舵角等の各種車両状態量から規範ヨーレートを求め、規範ヨーレートと実ヨーレートとの偏差に基づいて目標ヨーモーメントを生成し、その目標ヨーモーメントを実現するために必要な制駆動力を各輪に加える。この場合に、ヨーレート、横加速度、横加速度変化率から路面摩擦係数を推定し、推定された路面摩擦係数に基づき限界ヨーレートを定め、車速と操舵角より演算される規範ヨーレートを限界ヨーレートで修正することにより、操舵初期の車両の応答性を向上させ、また限界性能の向上と限界領域での過大な横滑りを防止し車両姿勢を安定化する。
【0022】
車両姿勢制御装置24は、暫定規範ヨーレート演算手段25、目標ヨーモーメント演算手段26、ヨーモーメント制御手段27、限界ヨーレート演算手段28、および規範ヨーレート修正手段29を有する。
【0023】
図2は、車両姿勢制御装置24の制御ブロック図である。暫定規範ヨーレート演算手段25は、車速と操舵角から規範ヨーレートを求める手段であり、車速は車速検出手段16から、操舵角は操舵角センサ18から取得する。図2において、目標ヨーモーメント演算手段26は、前記規範ヨーレートとヨーレートセンサ19(図1)によって検出された実ヨーレートとの偏差に基づいて目標ヨーモーメントを生成する。ヨーモーメント制御手段27は、前記目標ヨーモーメントを実現するために必要な制駆動力を、制駆動力指令手段21から与えられた各輪のモータ4に配分する制駆動力に対して加える。ヨーモーメント制御手段27は、前記制駆動力制御手段11の一部として構成されていても、また制駆動力制御手段11とは別に設けられていても良い。
【0024】
限界ヨーレート演算手段28は、路面摩擦係数を推定し、推定された路面摩擦係数に基づき限界ヨーレートを定める。
規範ヨーレート修正手段29は、前記規範ヨーレートが前記限界ヨーレート演算手段28で定められた限界ヨーレートより大きい場合に、前記限界ヨーレートを用いて規範ヨーレートを修正する。
【0025】
限界ヨーレート演算手段28は、規範横加速度演算部31、加算部32、微分部36、路面摩擦係数推定器33、勾配制限器34、および限界ヨーレート演算部35を有する。
【0026】
前記限界ヨーレート演算手段28は、後により詳しく説明するが、推定路面摩擦係数に予め定められた定数を加算した値と重力加速度との積を限界横加速度とし、限界横加速度を車速で除して限界規範ヨーレートとする。
また、前記限界ヨーレート演算手段28は、車速と操舵角から規範横加速度を求め、規範横加速度と実横加速度を比較し、両者の偏差である横加速度偏差が閾値1を超え、かつ実横加速度の変化率が閾値2未満の場合は、実横加速度を重力加速度で除した値を路面摩擦係数推定値とし、前記横加速度偏差が閾値1以下、または実横加速度の変化率が閾値2以上の場合は、前記路面摩擦係数の推定値を予め定められた値とする。
この構成の場合に、前記限界ヨーレート演算手段28は、推定された路面摩擦係数の推定値の変化を、増加時には減少時より遅くなるようにしても良い。
【0027】
次に、この実施形態の車両姿勢制御装置24につき、その作用と、各構成手段のより具体的な機能を説明する。この車両姿勢制御装置24は、次の手順で演算を実行する。図3はその規範ヨーレート演算のフローチャートである。
【0028】
(1) 暫定規範ヨーレート演算手段25は、操舵角δと車速Vより、次式のように、車両モデルに基づき暫定規範ヨーレートγref*を求め、限界ヨーレート演算手段28の規範横加速度演算部31(図2参照)が規範横加速度αyrefを求める(図3のステップS1)。
【0029】
【数1】
ここで、Gδ(0)はヨーレートゲイン定数、ωは車両の固有振動数、ζは減衰比、Tは定数、sはラプラス演算子である。
【0030】
(2) 規範横加速度αyrefと横加速度センサ17で検出した実横加速度αとの偏差Δαを加算部32(図2参照)で算出する(ステップS2)。
路面摩擦係数推定器33(図2参照)は、横加速度偏差の大きさ|Δα|が閾値1を超え、かつ実横加速度の変化率の大きさが閾値2未満の場合、実横加速度αを重力加速度gで除して路面摩擦係数推定値μesとする(ステップS3)。
μes=|α/g|
横加速度偏差の大きさ|Δα|が閾値1以下、または実横加速度の変化率の大きさが閾値2以上の場合は、路面摩擦係数推定値μesは路面摩擦係数の規定値μとする(ステップS4)。
μes=μ
路面摩擦係数の規定値μは、予め定められた高μ路における路面摩擦係数であり、車両によって異なる。
実横加速度と規範横加速度の偏差と、実横加速度の変化率を用いることによって、タイヤの限界(横滑り角に対するコーナリングフォースの飽和)を精度良く検出することができる。
【0031】
(3) 勾配制限器34(図2参照)は、推定された路面摩擦係数推定値μesから路面摩擦係数評価値μevを定める。このとき、路面摩擦係数評価値μevは、勾配制限器34により、路面摩擦係数推定値μesが減少するときは路面摩擦係数推定値μに倣って減少し、増加するときは、徐々に増加するようにする(ステップS5)。
これにより、低μを検出した場合には、すみやかに路面摩擦係数評価値μevを低下させ、規範ヨーレートも低下させて車両が不安定になるのを防止しつつ、操舵が小さく規範横加速度と実横加速度との偏差が小さい場合や高μ路に移行した場合には、徐々に路面摩擦係数評価値μevを増加させることにより、規範ヨーレートγrefの急激な増加,車両姿勢の急激な変化を防ぐことができる。
【0032】
(4) 限界ヨーレート演算部35(図2参照)は、路面摩擦係数評価値μevに予め定められた定数を加算し(ステップS6)、重力加速度gとの積を限界横加速度Gylimitとする(ステップS7)。限界横加速度Gylimitから、次式により限界ヨーレートγlimitを定める(ステップS8)。
γlimit=Gylimit/V
路面摩擦係数評価値μevに予め定められた定数を加算することにより、実横加速度より僅かに大きな横加速度に基づいて限界ヨーレートが計算されるため、車両1の横滑り角が僅かに増加し、効果的にアンダーステアを低減することができる。
なお、他の方法により計測または推定された路面摩擦係数を用いる場合は、その路面摩擦係数を路面摩擦係数評価値μevとする。
【0033】
(5) 規範ヨーレート修正手段29(図2参照)は、暫定規範ヨーレートγref*が限界ヨーレートγlimitより大きい場合、限界ヨーレートの大きさで制限して暫定規範ヨーレートを修正する(ステップS9)。すなわち、
|γref|≦|γlimit
とする。
【0034】
(6) 目標ヨーモーメント演算手段26(図2参照)は、修正後の規範ヨーレートγrefとヨーレートセンサ19(図2参照)で検出された実ヨーレートγの偏差Δγに基づいて、目標ヨーモーメントを計算する。ヨーレートγ、ヨーレート偏差Δγ、車速V、横加速度α等の車両挙動の情報から、オーバーステア状態またはアンダーステア状態を判断する。例えば、規範ヨーレートの絶対値|γref|より実ヨーレートの絶対値|γ|が小さい場合は、アンダーステアと判断する。アンダーステア状態の場合は、アクセルペダル14の操作量等により制駆動力指令手段21で決定される制駆動力指令値に加えて、目標ヨーモーメントとなるように、車両旋回の内側となる前後の車輪2に制動力、車両旋回の外側となる前後の車輪2に駆動力を付加する。これにより、内向きのヨーモーメントが発生し、アンダーステア傾向を低減することができる。
【0035】
図4(A)に、図1の4輪駆動車の場合における右旋回アンダーステア時に、各輪2に加えられる制駆動力の例を示す。後輪駆動車の場合は、同図(B)のように旋回外側の後輪に駆動力を加えることになるが、四輪駆動車の場合は旋回外側の前輪にも駆動力を加えることが可能である。
【0036】
以上により、操舵初期の規範ヨーレートγrefは高μ路において発生し得るヨーレートで計算されるため、より応答性が向上する。さらに、アンダーステア傾向が低減され、旋回限界が向上する。また、限界域では、規範ヨーレートγrefは路面摩擦係数推定値μesを考慮して計算され、現在の路面において発生し得る最大ヨーレートによって値が制限されるため、過大な横滑り角が生じることがなく、車両の挙動が不安定となる恐れがない。
【0037】
なお、インホイールモータ方式の四輪駆動車を用いて実施例を説明したが、後輪2輪のみにインホイールモータを備える後輪駆動車や、非インホイールモータ方式の車両、例えば、左右輪それぞれに対応させて車体に設置された2つのモータの出力をドライブシャフト等を介して各車輪にそれぞれ伝達し、各車輪の駆動トルクを独立して制御する構成の電気自動車においても、この発明を適用することができる。
【0038】
以上、実施例に基づいて本発明を実施するための形態を説明したが、ここで開示した実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0039】
1…車両
2…車輪
4…モータ(動力源)
5…インホイールモータ駆動装置
8…摩擦ブレーキ装置
10…車両制御装置
11…ECU
12…インバータ装置
13…操舵手段
14…アクセルペダル
15…ブレーキペダル
16…車速検出手段
17…横加速度センサ
18…操舵角センサ
19…ヨーレートセンサ
21…駆動力指令手段
22…制駆動力分配手段
24…車両姿勢制御装置
25…暫定規範ヨーレート演算手段
26…目標ヨーモーメント演算手段
27…ヨーモーメント制御手段
28…限界ヨーレート演算手段
29…規範ヨーレート修正手段
図1
図2
図3
図4
図5