特許第6584785号(P6584785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6584785
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】回転慣性質量ダンパー
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20190919BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20190919BHJP
   F16F 9/20 20060101ALI20190919BHJP
   F16F 9/49 20060101ALI20190919BHJP
   F16F 7/10 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   F16F15/02 C
   F16F15/023 A
   F16F9/20
   F16F9/49
   F16F7/10
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-25320(P2015-25320)
(22)【出願日】2015年2月12日
(65)【公開番号】特開2016-148390(P2016-148390A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304039065
【氏名又は名称】カヤバ システム マシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 康裕
【審査官】 鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−052066(JP,A)
【文献】 特開2007−205433(JP,A)
【文献】 特開昭59−187124(JP,A)
【文献】 特表2003−526059(JP,A)
【文献】 特表2004−537009(JP,A)
【文献】 特表2002−502942(JP,A)
【文献】 特開昭57−171132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00− 15/08,
9/00− 9/58,
15/30, 7/10
F04B 39/00− 39/16
B60T 7/12− 8/1769,
8/32− 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに近接離反する方向に相対変位する2つの部材間に介装されていて、それら2つの部材間に生じる近接離反方向の相対加速度により力を生じる回転慣性質量ダンパーであって、
前記2つの部材のうち一方に連結されるとともに、作動油が封入されたシリンダと、
前記2つの部材の他方に連結され、一部が前記シリンダ内で進退自在に収容されるピストンロッドと、
前記ピストンロッドのピストン軸方向の中間部に設けられるとともに、前記シリンダを2つの油室に区画するピストンと、
前記2つの油室のそれぞれに連結管を介して連結された回転軸を有する油圧モータと、
前記連結管のそれぞれに設けられた減衰弁と、
前記油圧モータの回転軸に一体的に設けられた回転錘と、
を備え、
前記油圧モータの回転軸は、前記ピストンロッドの進退移動によって前記油室のいずれか一方から押し出される作動油の油圧によって回転し、
前記減衰弁によって前記連結管を流通する作動油に粘性抵抗が生じ
一対の前記連結管同士を連結するバイパス管が設けられ、
前記一方の連結管に一定以上の作動油の速度が生じた際に、該一方の連結管内の作動油が前記バイパス管を通して他方の連結管側に向けて流通されることを特徴とする回転慣性質量ダンパー。
【請求項2】
前記ピストンには、リリーフ弁が設けられていることを特徴とする請求項に記載の回転慣性質量ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの部材間に生じる近接離反方向の相対振動を低減するための回転慣性質量ダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転慣性質量ダンパーとして、例えば特許文献1に示されるように、ダンパー両端の相対加速度に比例した反力を生じさせる装置であって、ボールねじ機構を利用して錘質量の数千倍の慣性質量効果が得られる構成のものが知られている。
特許文献1に示すボールねじ機構を用いた回転慣性質量ダンパーは、外周面にねじが形成されているとともに2つの部材のうち一方の部材を貫通する状態で配置されるボールねじと、そのボールねじの先端部に固定されて一方の部材の外側においてボールねじとともに回転可能な回転錘と、ボールねじの中間部に螺着されてボールねじの軸方向に相対変位可能とされるとともに、一方の部材に対して固定されるボールナットと、ボールねじの基端部を回転自在且つ軸方向に変位不能に支持するとともに、他方の部材に対して固定されるサポートユニットと、を備えた構成となっている。
【0003】
また、前述のようなボールねじを使用したダンパーの他の構成の回転慣性質量ダンパーとして、シリンダとピストンからなる油圧機構により直動運動を回動運動に変換して回転錘を回転させるものが、例えば特許文献2に開示されている。特許文献2には、シリンダ内をピストンによって区画された一対の油室同士をバイパスする流路中に回転羽根を設け、その回転羽根を内接する回転錘を備えた構成により、ピストンの直動運動を回転羽根の回転運動に変換する機構を用い、回転錘による慣性質量効果を得る構成の振動抑制装置について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−196606号公報
【特許文献2】特開2014−52066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の回転慣性質量ダンパーでは、以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1に示す回転慣性質量ダンパーでは、ボールねじ、ボールナット、及び軸受は、ダンパーの軸方向変位(直動運動)を回転運動に変換する周知のものであるが、高価なボールねじやボールナット等を使用するボールねじ機構がダンパーのコストの大半を占める基幹部品となっており、コストの低減が求められていた。
【0006】
また、特許文献2に示す油圧機構を用いる構造の場合には、低速時には作動油が回転羽根の隙間を通過してしまい回転羽根が回転しないで回転錘が回転せず、十分な慣性質量効果が得られないという問題があり、その点で改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、低コストで、かつ低速度から高速度まで安定したダンパー性能を発揮することができる回転慣性質量ダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る回転慣性質量ダンパーは、互いに近接離反する方向に相対変位する2つの部材間に介装されていて、それら2つの部材間に生じる近接離反方向の相対加速度により力を生じる回転慣性質量ダンパーであって、前記2つの部材のうち一方に連結されるとともに、作動油が封入されたシリンダと、前記2つの部材の他方に連結され、一部が前記シリンダ内で進退自在に収容されるピストンロッドと、前記ピストンロッドのピストン軸方向の中間部に設けられるとともに、前記シリンダを2つの油室に区画するピストンと、前記2つの油室のそれぞれに連結管を介して連結された回転軸を有する油圧モータと、前記連結管のそれぞれに設けられた減衰弁と、前記油圧モータの回転軸に一体的に設けられた回転錘と、を備え、前記油圧モータの回転軸は、前記ピストンロッドの進退移動によって前記油室のいずれか一方から押し出される作動油の油圧によって回転し、前記減衰弁によって前記連結管を流通する作動油に粘性抵抗が生じ、一対の前記連結管同士を連結するバイパス管が設けられ、前記一方の連結管に一定以上の作動油の速度が生じた際に、該一方の連結管内の作動油が前記バイパス管を通して他方の連結管側に向けて流通されることを特徴としている。
【0009】
本発明では、2つの部材間に近接離反する方向に相対振動が生じて、ピストンロッドがシリンダ内でピストン軸方向に進退移動すると、シリンダ内の油室と油圧モータとを連結する連結管に作動油が流れ油圧モータの回転軸が回転する。これにより回転錘が回転軸回りに回転し、回転錘により慣性質量が付与されることになる。このとき、連結管の途中に減衰弁が設けられ、減衰弁を通過する作動油に粘性抵抗が生じるので、減衰弁によってピストン軸方向の変位量、すなわち連結管を流れる作動油の速度に比例した減衰を生じさせることができる。
このように、本発明では、シリンダ及びピストンロッドからなる従来のオイルダンパーと油圧モータとを組み合わせることにより回転慣性質量ダンパーを構成することができるので、高価なボールねじや軸受が不要となり、コストの低減を図ることができる。
【0010】
また、本発明では、シリンダの油室と油圧モータを連結する連結管の途中に減衰弁を設けることで、慣性質量に並列する減衰を付与することができる。そのため、減衰弁を調整することで任意の減衰係数を付与することができ、応答低減に効果的な最適減衰を設定することが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る回転慣性質量ダンパーでは、架構に剛性を有することから、通常のオイルダンパーと同様に地震後には回転慣性質量ダンパーを構成するいずれの部位も元の位置に復帰することができる。そのため、大地震後の余震など、複数の地震を受けた場合でも回転慣性質量ダンパー内のピストンロッドが特定方向にドリフトすることがなく、初期の性能を保持することができる。また、ボールねじを使用した従来のダンパーのように残留変形のためボールねじのストロークが減少することがなく、ダンパー性能を安定して発揮できる構成とすることができる。
【0013】
また、本発明の構成によれば、連結管を通過する作動油の速度が一定以上で過大になる場合に、例えば減衰弁が大きく開くことで作動油の一部をバイパス管に流すことができる。これにより、油圧モータに流入する油量が制約され、回転軸の過大な回転を防ぐことができる。
【0014】
また、本発明に係る回転慣性質量ダンパーは、前記ピストンには、リリーフ弁が設けられていることが好ましい。
【0015】
ピストンにリリーフ弁を設けることで、回転慣性質量ダンパーに過大な負担力が生じるのを抑制することができる。つまり、すべりを利用した摩擦ダンパーのように摩耗による性能の低下が生じず、安定した性能を発揮できるフェールセーフ機構となる。
また、本発明の回転慣性質量ダンパーの油圧回路では油圧モータと減衰弁とが直列に配置されるが、振動モデルでは油圧モータによる慣性質量と減衰弁による減衰が並列に配置されることになる。さらに油圧回路では上記と並列に配列されるピストン内のリリーフ弁だが、振動モデルではこれらに直列配置となる。このように、油圧回路内に各種バルブ等を組み込むことで、振動モデルに各種減衰や頭打ち特性(リミッター)等を付加することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の回転慣性質量ダンパーによれば、油圧モータを使用することで、高価なボールねじや軸受を用いることなく、低コストで、かつ低速度から高速度まで安定したダンパー性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態による回転慣性質量ダンパーの構成を示す一部断面図表示した側面図である。
図2図1に示す連結管を模式的に示した図である。
図3図1に示す回転慣性質量ダンパーの振動モデルを示す図である。
図4】通常時における減衰弁による作動油の流れを示す図である。
図5】過大入力時における減衰弁による作動油の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態による回転慣性質量ダンパーについて、図面に基づいて説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態による回転慣性質量ダンパー1は、例えば建物の柱梁や床、或いはばね等で互いに近接離反する方向(近接離反方向Yという)に相対変位する2つの部材11、12間に介装されていて、それら2つの部材11、12間に生じる近接離反方向Yの相対加速度により力を生じる構成となっている。
【0020】
回転慣性質量ダンパー1は、2つの部材11、12のうち一方の第1部材11に連結されるとともに、作動油Lが封入されたシリンダ2と、他方の第2部材12に連結され、一部がシリンダ2内でシリンダ軸方向に沿って進退(摺動)自在に収容されるピストンロッド3と、ピストンロッド3のピストン軸O方向の中間部に設けられるとともに、シリンダ2を2つの油室R(第1油室R1、第2油室R2)に区画するピストン4と、第1油室R1および第2油室R2のそれぞれに連結管6(6A、6B)を介して連結された回転軸51を有する油圧モータ5と、連結管6のそれぞれに設けられた減衰弁7と、油圧モータ5の回転軸51に一体的に設けられた回転錘8と、を備えている。
【0021】
シリンダ2は、密封された中空筒状のハウジングであり、第1部材11側の端部に環状の第1連結環(クレビス)21が設けられている。シリンダ2の軸方向両側の端板22、22には、それぞれピストンロッド3をピストン軸O方向に沿って摺動可能に液密に挿通する挿通孔22aが形成されている。また、シリンダ2の両端板22、22側のそれぞれ周面には、連結管6の一端が接続されている。一対の連結管6A、6Bは、油室R1、R2のいずれか一方に連通している。
【0022】
ピストンロッド3は、シリンダ2の両端に形成される一対の挿通孔22aに摺動可能に挿通され、シリンダ2の第2部材12側の端板22から突出した端部に環状の第2連結環(クレビス)31が設けられている。
【0023】
ピストン4は、円柱状をなし、ピストンロッド3と同軸に一体化して設けられ、近接離反方向Yに移動自在となっている。ピストン4の径方向外側の外周縁は、パッキン等によってシリンダ2の内面に液密に接触している。つまり、シリンダ2内は、第1部材11側の第1油室R1と第2部材12側の第2油室R2とがピストン4によって画成されている。
ピストン4には、第1油室R1に接する第1端面4aと第2油室R2に接する第2端面4bとを繋ぎ、第1油室R1と第2油室R2とを連通する連通路4cが形成され、その連通路4cの中間にリリーフ弁41が設けられている。
【0024】
油圧モータ5は、ピストンロッド3の進退移動によって第1油室R1および第2油室R2のいずれか一方から押し出される作動油Lの油圧によって回転軸51が回転する。このとき、減衰弁7によって連結管6を流通する作動油Lに粘性抵抗が生じるようになっている。
油圧モータ5の回転軸51には略円盤形状の回転錘8が同軸に、かつ一体的に設けられており、回転錘8が回転軸51とともに回転可能となっている。
【0025】
連結管6A、6Bには、図2に示すように、減衰弁7が設けられ油室R内の作動油Lを油圧モータ5に流入させる減衰流路61と、減衰流路61と並列に配置され、油圧モータ5から油室Rへ向かう一方向(以下、戻り方向E2という)のみの作動油Lを流す戻り流路62と、が設けられている。戻り流路62には、油室Rから油圧モータ5へ向かう方向(以下、往き方向E1という)に付勢され、戻り流路62内を開閉する逆止弁71が設けられている。
なお、図2(後述する図4及び図5も同様)において、流路(連結管6A、6B)内の矢印は、作動油Lの流通方向を示している。
【0026】
減衰弁7は、図2に示すように、減衰流路61に設けられ、戻り方向E2に減衰ばね7aの付勢力によって付勢され、減衰流路61内を開閉する構成となっている。具体的には、減衰流路61に第1弁座61aが設けられ、減衰弁7は第1弁座61aに対して油圧モータ5側から付勢された状態で液密に当接離反可能に設けられている。なお、減衰ばね7aは、減衰流路61内で行き方向E1に流れる作動油Lによって減衰弁7を開弁させる適宜なばね剛性に設定されている。
【0027】
つまり、減衰弁7は、油室R内の作動油Lが往き方向E1に向けて流れるときに開弁となり、戻り方向E2向けて流れるときに閉弁となる。そして、減衰流路61を流れた作動油Lが油圧モータ5に送り込まれると、回転軸51が所定の回転方向に回転することになる。なお、回転軸51の回転方向は、第1油室R1に連結される第1連結管6Aと、第2油室R2に連結される第2連結管6Bと、を通過する作動油Lによって油圧モータ5が正逆回転となる。
【0028】
逆止弁71は、往き方向E1に逆止弁用ばね71aの付勢力によって付勢され、戻り流路621内を開閉する構成となっている。戻り流路62に第2弁座62aが設けられ、逆止弁71は第2弁座62aに対して油室R側から付勢された状態で液密に当接離反可能に設けられている。逆止弁71は、作動油Lが往き方向E1に向けて流れるときに閉弁となり、戻り方向E2に向けて流れるときに開弁となる。
【0029】
また、各連結管6A、6Bには、それぞれの減衰流路61と他方の連結管6同士を連絡するバイパス管63A、63Bが設けられている。バイパス管63A、63Bの減衰流路61側に開口する第1接続口63aは、減衰弁7が減衰ばね7aの付勢力に抗して所定量よりも大きく開弁したときに、減衰流路61内とバイパス管63A、63B内とが連通する位置に配置されている。また、第1接続口63aと反対側の第2接続口63bは、他方の連結管6(図2では第2連結管6B)において減衰弁7よりも油室R側の位置に接続されている。
そのため、第1接続口63aが開口すると、往き方向E1に流れる作動油Lの一部がバイパス管63A、63B内を流通し、他方の連結管6側に流入して他方の連結管6に連通される油室R内に送られる構成となっている。
【0030】
このように構成される回転慣性質量ダンパー1は、図1に示すように、上述した2つの部材11、12が互いに近接離反するとき、一方の第1部材11に固定されているシリンダ2に対して他方の第2部材12に固定されているピストンロッド3が近接離反方向Y(ピストン軸O方向)に直線運動し、ピストン4によって変化する油室R1、R2の体積に応じた作動油Lが回転駆動する油圧モータ5に流れ、回転軸51を回転させることにより回転運動する構成であって、ピストンロッド3の直線運動が回転軸51の回転運動に変換されるようになっている。
【0031】
次に、上述した構成の回転慣性質量ダンパー1について、図1などを用いてさらに詳細に説明する。
ダンパー変位(ピストンロッド3及びピストン4のピストン軸O方向の変位)がxのときに連結管6を通じて油圧モータ5に供給される作動油Lの油量V(cm)は、シリンダ2の内法断面積をA(cm)とすると、V=A・xで求められる。そのため、ピストンロッド3に設けられるピストン4にリリーフ弁41を設けることで、過大な荷重反力が生じないフェールセーフ機構となる。
そして、上述したように、本実施の形態の回転慣性質量ダンパー1は、連結管6の途中に減衰弁7を設けるとともに、油圧モータ5の回転軸51に回転錘8を接合することで、連結管6を流れる作動油Lの速度に比例した減衰を生じさせる構成となっている。
【0032】
ここで、油圧モータ5としては、作動油Lが全てモータシリンダに入り、低速時の回転追随性が良く、油圧を高圧にできることからコンパクトに大トルクに対応できる構成のピストン型の油圧モータを使用する。
そして、油圧モータ5が1回転するのに要する油量(押しのけ容積)をVcm、定格出力トルクをT(N・m)、定格回転数をn(1分間あたりの回転数:rpm)、作動油の定格圧力をp(MPa)、シリンダ2の内法断面積をAcmとすると、ダンパー負担力F(kN)を示す(1)式が得られる。
また、油圧モータ5が1回転するときのダンパー変位xは、(2)式となる。
【0033】
【数1】
【0034】
【数2】
【0035】
これは、従来型のボールねじを使用した回転慣性質量ダンパーにおけるボールねじのリード寸法Lに相当(L=x)する。
また、定格回転数(60秒当たりの値)時におけるダンパー速度xmax(cm/s)は、(3)式となる。
【0036】
【数3】
【0037】
油圧モータ5の回転軸51に、回転慣性モーメントIθ(ton.cm)の回転錘8を取り付けた場合の慣性質量Ψは、(4)式のようになる。
【0038】
【数4】
【0039】
これにより、ピストンロッド3の移動加速度x(xの上に・・)(=ダンパー両端の相対加速度)に比例した負担力FΨ=Ψ・x(xの上に・・)を生じる機構となる。
【0040】
次に、上述した連結管6と減衰弁7について、図1及び図2等を用いて詳細に説明する。
本実施の形態の回転慣性質量ダンパー1では、減衰弁7はピストンロッド3の進退移動による特性を揃えるため、作動油Lを戻り方向E2にだけ通過させる逆止弁71と、速度に比例した粘性抵抗を生じる減衰弁7と、をセットで使用し、これを油圧モータ5の両ポート(接続口52)に設ける。これにより、ピストンロッド3の移動速度x(ダンパー速度)に比例した減衰力F=c・x(cは減衰係数)を生じる機構となる。
【0041】
減衰弁7と油圧モータ5とが油圧回路で直列に配置されていることから、ダンパー負担力(反力)Fは、回転錘8の慣性質量ΨによるFΨ(相対加速度に比例)と、減衰係数cによるF(相対速度に比例)の和となり、図3に示す振動モデルとしては、慣性質量と減衰が並列した形で表される。なお、図3においてピストンロッド3に設けたリリーフ弁41により負担力を頭打ちにする摩擦要素と作動油Lの剛性を評価したばね要素も併せて示している。
【0042】
また、ダンパー速度xが油圧モータ5の定格回転数に達するxmaxを上回る場合に、バイパス管63に作動油Lを流して油圧モータ5に流入する油量を制限する構成を加える。これにより、油圧モータ5は定格回転数を超えることを抑制し、摺動部にかじりが生じるのを防ぐことができ、過大な入力時においても回転数の増大を抑制することが可能となる。
【0043】
第1連結管6Aにおいて、第1油室R1の作動油Lが往き方向E1に向けて流れる場合について説明する。第1連結管6A内を流れる作動油Lの速度がx≦xmaxの場合(通常時)には、図4に示すように、作動油Lは第1連結管6Aの減衰流路61の減衰弁7を開弁させて通過し油圧モータ5に流入する。このとき戻り流路62の逆止弁71は閉弁した状態となる。そして、油圧モータ5内に流入した作動油Lは、第2連結管6Bの戻り流路62の逆止弁71を開弁させて通過しシリンダ2の第2油室R2内に戻る。このとき、作動油Lはバイパス管63Aには流れない。
【0044】
一方、第1連結管6A内を流れる作動油Lの速度がx>xmaxの場合(過大入力時)には、図5に示すように、xの増大によって減衰力Fが大きくなって減衰弁7の減衰ばね7aが圧縮しバイパス管63Aの第1接続口63aが開口するため、バイパス管63Aに作動油Lが流れ、油圧モータ5に入る油量が制限される。なお、この構成は油圧モータ5の回転数に対するフェールセーフ機構であり、ダンパー反力を頭打ちにする目的でシリンダ2内のピストンロッド3に設けたリリーフ機構とは異なっている。
【0045】
次に、上述した回転慣性質量ダンパー1の作用について、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施の形態では、第1部材11と第2部材12との間に近接離反方向Yに相対振動が生じて、ピストンロッド3がシリンダ2内でピストン軸O方向に進退移動すると、シリンダ2内の油室R1、R2と油圧モータ5とを連結する連結管6(6A、6B)に作動油Lが流れ油圧モータ5の回転軸51が回転する。これにより回転錘8が回転軸51回りに回転し、回転錘8により慣性質量が付与されることになる。このとき、連結管6の途中に減衰弁7が設けられ、減衰弁7を通過する作動油Lに粘性抵抗が生じるので、減衰弁7によってピストン4のピストン軸方向の変位量、すなわち連結管6を流れる作動油Lの速度に比例した減衰を生じさせることができる。
【0046】
このように、本実施の形態では、シリンダ2及びピストン4からなる従来のオイルダンパーに相当する構成と油圧モータ5とを組み合わせることにより回転慣性質量ダンパー1を構成することができるので、高価なボールねじや軸受が不要となり、コストの低減を図ることができる。
【0047】
また、本実施の形態では、図2に示すように、シリンダ2の油室R1、R2と油圧モータ5を連結する連結管6の途中に減衰弁7を設けることで、図3に示すような振動モデルにおいて慣性質量に並列する減衰を付与することができる。そのため、減衰弁7を調整することで任意の減衰係数を付与することができ、応答低減に効果的な最適減衰を付与することが可能となる。
【0048】
また、本実施の形態の回転慣性質量ダンパー1では、通常のオイルダンパーと同様に架構剛性を有することから、地震後には回転慣性質量ダンパーを構成するいずれの部位も元の位置に復帰することができる。そのため、大地震後の余震など、複数の地震を受けた場合でも回転慣性質量ダンパー1内のピストン4が特定方向にドリフトすることがなく、初期の性能を保持することができる。
したがって、ボールねじを使用した従来のダンパーに比べて残留変形のためボールねじのストロークが減少したりすることがなく、ダンパー性能を安定して発揮できる構成とすることができる。
【0049】
また、本実施の形態の回転慣性質量ダンパー1では、連結管6を通過する作動油Lの速度が一定以上で過大になる場合に、減衰弁7が大きく開くことで作動油Lの一部をバイパス管63に流すことができる。これにより、油圧モータ5に流入する油量が制約され、回転軸51の過大な回転を防ぐことができる。
【0050】
また、本実施の形態では、ピストン4にリリーフ弁41を設けることで、回転慣性質量ダンパー1に過大な負担力が生じるのを抑制することができる。つまり、すべりを利用した摩擦ダンパーのように摩耗による性能の低下が生じず、安定した性能を発揮できるフェールセーフ機構となる。
【0051】
また、本実施の形態の回転慣性質量ダンパー1の油圧回路では、油圧モータ5と減衰弁7とが直列に配置されるが、振動モデルでは油圧モータ5による慣性質量と減衰弁7による減衰が並列に配置されることになる。さらに油圧回路では、上記と並列に配列されるピストンロッド3内のリリーフ弁41だが、振動モデルではこれらに直列配置となる。このように、油圧回路内に各種バルブ等を組み込むことで、振動モデルに各種減衰や頭打ち特性(リミッター)等を付加することができる。
【0052】
上述のように本実施の形態による回転慣性質量ダンパーでは、油圧モータ5を使用することで、高価なボールねじや軸受を用いることなく、低コストで低速度から高速度まで安定したダンパー性能を発揮することができる。
【0053】
次に、上述した実施の形態による回転慣性質量ダンパーの具体的な数値を試算した設計例について以下説明する。
この試算例では、図1図3で示した回転慣性質量ダンパー1を採用し、バイパス管63A、63Bやリリーフ弁41が作動する前の線形範囲を対象とする。
架構内で構造体と接合されるシリンダ及びピストンとして1500kNの制震オイルダンパーを使用し、油圧モータ及びオイルダンパーの作動油圧力を30MPaとする。ここで、シリンダの外径寸法Dを310mm、内法断面積Aを460cmに設定する。
【0054】
油圧モータとして、川崎重工業社製のM3X800(質量133kg)を使用する。また、押しのけ容積Vは800cm/rev、x=V/A=1.74cmで1回転する。すなわちリードLが17.4mmのボールねじに相当する。そして、ダンパー負担力(反力)は、F=30A/10より1380kNとなる。
そして、定格回転数nは1200rpmであり、ダンパー軸速度はnx/60=34.8cm/s=34.8kineとなる。最大速度34.8kine、軸耐力は1380kNでリード17.4のボールねじ機構に等価な装置となる。
【0055】
そして、直径が500mm、厚さ寸法が400mm、質量mが0.62ton、回転慣性モーメントIθが193ton・cmの回転錘を設けた場合の慣性質量Ψは、上述した(4)式により2516ton(実質量の4058倍)と求められる。
これにより、負担力が1380kN、慣性質量が2500tonの回転慣性質量ダンパーを実現することができる。
この場合、ダンパー速度が34.8kineまで対応することができることから、通常の制振装置としては十分な性能を有する。
【0056】
以上、本発明による回転慣性質量ダンパーの実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0057】
例えば、本実施の形態では、ピストン4にリリーフ弁41を設ける構成としているが、リリーフ弁41を省略することも可能である。
また、本実施の形態のバイパス管63A、63Bを設ける構成に制限されることはなく、このバイパス管63A、63Bを省略することも可能であり、減衰流路61を往き方向E1に通過するすべての作動油Lを油圧モータ5に流入させるようにしてもよい。
【0058】
また、本実施の形態では、減衰弁7として、減衰ばね7aの付勢力によって減衰流路61の第1弁座61aに当接した弁構造を採用しているが、これに限定されることはなく、他の構成による弁構造を採用することも可能である。なお、逆止弁71の構造についても同様である。
さらに、連結管6の減衰流路61において1つの減衰弁7を設けた構成としているが、複数の減衰弁を直列に配置して、減衰流路61全体で減衰係数を調整することも可能である。
【0059】
また、本実施の形態で採用しているピストン型の油圧モータとして、他にピストンを放射状に配置したラジアル式モータや、ピストン軸と出力軸が角度をもつように構成された斜軸式モータ等を採用してもよい。
【0060】
さらに、シリンダ2、ピストンロッド3、ピストン4の形状、寸法などの構成は、ダンパー負担力、設置位置などの条件に合わせて適宜設定することができる。
また、連結管6A、6Bのシリンダ2に対する接続位置や、長さ寸法、連結管における減衰流路61、戻り流路62の位置などの構成についても、とくに制限されることはなく、適宜設定することができる。
【0061】
また、回転錘8の形状、大きさ、材質などの構成についても、油圧モータ5の回転軸51に接合されていればとくに限定されることはない。
また、ダンパー両端の連結部材として連結環(クレビス)を用いる代わりにボールジョイント等の他の接合手段を用いてもよい。
【0062】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 回転慣性質量ダンパー
2 シリンダ
3 ピストンロッド
4 ピストン
5 油圧モータ
6、6A、6B 連結管
7 減衰弁
8 回転錘
11 第1部材
12 第2部材
41 リリーフ弁
51 回転軸
61 減衰流路
62 戻り流路
63、63A、63B バイパス管
71 逆止弁
E1 往き方向
E2 戻り方向
R 油室
R1 第1油室
R2 第2油室
O ピストン軸
Y 近接離反方向
図1
図2
図3
図4
図5