(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記冷却要因は、前記潤滑油温度検知手段で検知された実測値である温度と、前記温度推定手段によって過去に推定された推定値である温度との温度差に基づいて算出されることを特徴とする請求項2に記載の自動変速機の潤滑量制御装置。
前記負荷算出手段は、前記湿式クラッチの伝達トルクと前記湿式クラッチの滑り速度の積として前記負荷を算出することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の自動変速機の潤滑油供給量制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
湿式クラッチでは、クラッチ負荷に対して適切な潤滑量を確保することが重要である。クラッチ負荷に対して潤滑量が過剰になるとクラッチの接続応答性が低下するおそれがある一方、潤滑量が不足すると摩擦や発熱を十分抑制できなくなるおそれがある。前者の状況は、例えば緩やかな発進、変速時の半クラッチ制御、クリープ動作或いはクラッチの繋ぎ始めのようなクラッチ負荷が少ない場合に生じやすく、後者の状況は例えば登板路での発進時のように比較的クラッチ負荷が大きい場合に生じやすい。
また湿式クラッチにとって適切な潤滑量は、クラッチ温度にも依存する。例えば高い負荷を受けると湿式クラッチの温度が上昇するが、その後、負荷が無くなった場合であってもある程度の間は高温状態が継続するため、クラッチに印加される負荷が小さい状態であっても必要な潤滑油量が多くなる場合がある。
【0006】
しかしながら従来の潤滑量制御は、潤滑油の供給のオン/オフを選択するだけの単純な制御であったため、クラッチ負荷や温度に対して適切な潤滑量をきめ細やかに制御することが難しかった。特許文献1においても、潤滑油の供給量を3段階に調節可能ではあるものの、クラッチ負荷や温度に対応するような制御がなされていないため、このような問題を解決するに至っていない。
【0007】
本発明の少なくとも1実施形態は上述の問題点に鑑みなされたものであり、クラッチ負荷及び温度に対して適切な潤滑量を確保可能な自動変速機の潤滑量制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の少なくとも1実施形態に係る自動変速機の潤滑量制御装置は上記課題を解決するために、動力伝達経路上に設けられた湿式クラッチへの潤滑油の供給量を調整可能な潤滑油供給量調整機構と、前記湿式クラッチの負荷を算出する負荷算出手段と、前記湿式クラッチの温度を推定する温度推定手段と、前記負荷算出手段で算出された負荷に対応する第1の供給量と、前記温度推定手段で推定された温度に対応する第2の供給量とのうち多い方を目標供給量として算出する目標供給量算出手段と、前記湿式クラッチへの供給量が前記目標供給量算出手段で算出された目標供給量になるように前記潤滑油供給量調整機構を制御する制御手段と、を備える。
【0009】
上記(1)の構成によれば、湿式クラッチへの潤滑油の供給量として、クラッチ負荷に基づく第1の供給量とクラッチ温度に基づく第2の供給量とのうち多い方が採用される。これにより、クラッチ負荷及びクラッチ温度の双方の観点から潤滑油の供給不足を防止できるので、湿式クラッチの潤滑を十分確保することができる。
【0010】
幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、前記湿式クラッチに供給される潤滑油の温度を検知する潤滑油温度検知手段を更に備え、前記温度推定手段は、前記潤滑油温度検知手段で検知された潤滑油の温度に基づいて算出された冷却要因、及び、前記負荷
算出手段で
算出された負荷に基づいて算出された加熱要因に基づいて、前記湿式クラッチの温度を推定する。
【0011】
上記(2)の構成によれば、湿式クラッチに供給される潤滑油の温度を実測することにより、湿式クラッチにおける冷却要因及び加熱要因を評価し、クラッチ温度を適切に推定できる。これにより、より精度のよい潤滑量制御が可能となる。
【0012】
幾つかの実施形態では、上記(2)の構成において、前記冷却要因は、前記潤滑油温度検知手段で検知された実測値である温度と、前記温度推定手段によって過去に推定された推定値である温度との温度差に基づいて算出される。
【0013】
上記(3)の構成によれば、クラッチ温度の冷却要因を温度検知手段による実測値と前回推定値との温度差に基づいてフィードバック的に求めることができる。
【0014】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)から(3)のいずれか1構成において、前記第1の供給量は、前記負荷が大きくなるに従って増加するように規定されており、前記第2の供給量は、前記温度が高くなるに従って増加するように規定されている。
【0015】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)から(4)のいずれか1構成において、前記負荷算出手段は、前記湿式クラッチの伝達トルクと前記湿式クラッチの滑り速度の積として前記負荷を算出する。
【0016】
上記(5)の構成によれば、このような演算によって湿式クラッチの負荷を適切に求められるので、クラッチ負荷の大きさに対応する適切な潤滑量が得られる。
【0017】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)の構成において、前記湿式クラッチの入力側に動力源として設けられたエンジンを更に備え、前記伝達トルクは前記エンジンの出力トルクから前記エンジンの慣性トルクを減算することにより算出され、前記エンジンの慣性トルクは、前記エンジンの回転加速度と慣性質量の積として算出される。
【0018】
上記(6)の構成によれば、湿式クラッチが設けられる動力伝達経路の動力源としてエンジンが採用されている場合には、当該演算によりクラッチ負荷の算出に必要なエンジンの出力トルク及び慣性トルクを適切に求めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の少なくとも1実施形態によれば、クラッチ負荷及び温度に対して適切な潤滑量を確保可能な自動変速機の潤滑量制御装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
また例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0022】
図1は本発明の少なくとも1実施形態に係る自動変速機の潤滑油回路を概略的に示す模式図であり、
図2は本発明の少なくとも1実施形態に係る自動変速機の潤滑油回路を概略的に示す模式図であり、
図3は
図2の可変オリフィスの1構造を示す模式図であり、
図4は本発明の少なくとも1実施形態にかかる潤滑油量制御装置の構成を示すブロック図である。
【0023】
以下の説明では、エンジンを動力源とする車両の動力伝達経路上に設けられたクラッチを有する自動変速機を例に説明する。また以下の実施形態におけるクラッチは、発進時や変速時における摩擦や発熱を抑制するために、クラッチ板間に潤滑油を供給することで潤滑を行う湿式クラッチであり、クラッチ制御電流によってクラッチ板へ掛かる油圧を調節しクラッチ板間の距離、及び、クラッチ板間の押し付け圧を制御可能に構成されたクラッチである。具体的に説明すると、クラッチ制御電流はクラッチ制御用のリニアソレノイドバルブ(電磁比例弁)に印加され、リニアソレノイドバルブによりクラッチ押し付け油圧が発生し、この油圧がピストンに供給され、該ピストンによってクラッチ板が駆動される。
【0024】
図1に示されるように、自動変速機の湿式クラッチに潤滑油を供給するための潤滑油回路1は、重力方向下方側(底側)に潤滑油を貯留可能に構成されたオイルパン2を備える。オイルパン2に貯留されている潤滑油は、オイルポンプ4によって潤滑油回路1に汲み上げられる。オイルポンプ4は、エンジン6に対して機械的に直結されており、油圧調節機構によってオイルポンプ4で汲み上げられた潤滑油の圧力を調節することによりポンプ負荷が可変に構成されている。このような油圧調節機構は、後述する潤滑油量制御の他、クラッチ板の押し付け圧制御、ギヤ切り替え動作、オイルクーラへの潤滑油の循環等に寄与してもよい。
尚、オイルパン2から組み上げられた潤滑油は、潤滑油回路1の入口近傍に設けられたフィルタ8を通過することにより、潤滑油に含まれる異物が除去されるようになっている。
【0025】
尚、オイルポンプ4は、エンジン6との間に動力伝達機構を介在することにより、エンジン6の動力の一部により駆動可能に構成されていてもよい。例えばECUのような制御系からの制御信号に応じて動力伝達機構を制御することにより、エンジン6からオイルポンプ4に伝達される動力を調整し、オイルポンプ4の動作をオン/オフ切り替え可能に構成してもよい。
【0026】
オイルポンプ4の下流側には、潤滑油調整機構10が設けられている。潤滑油調整機構10は、潤滑油回路1を流れる潤滑油の圧力を制御可能に構成された圧力制御部と、該圧力制御手段より下流側に設けられ、潤滑油の流量を制御可能に構成された流量制御手段と、を備える。
図1の例では、潤滑油回路1は分岐点12を起点に第1経路14及び第2経路16に分岐されている。第1経路14には、油圧制御手段の一例であるリニアソレノイド18が設けられている。リニアソレノイド18に電流が印加されると、図示のスプールが左側に駆動され、これに伴い下流に潤滑油が流れ、油圧が発生する。この油圧は同時にスプール左側にも供給される。スプールは右側から電流の電磁力で押されると共に、左側からバネ反力に加え下流の油圧によって押される。そして左右の押し力が釣り合うと、スプールは中間位置(どの油路も閉じた位置)に止まる。このようにリニアソレノイド18は、制御用電流の大小により、下流の油圧大小が制御可能に構成されている。
【0027】
第1経路14のうちリニアソレノイド18の下流側及び第2経路16には、流量制御手段の一例である第1オリフィス20及び第2オリフィス22がそれぞれ設けられている。ここで第1オリフィス20は、第2オリフィス22に比べて流路断面が大きいものが採用されている。これにより、第1オリフィス20は、上流側のリニアソレノイド18による圧力調整と合わせることで下流側の流量が可変に構成されている。一方、第2オリフィス22は、第1経路に設けられたリニアソレノイド18とは関係なく、下流側の流量が一定になるように潤滑油を規制する。
【0028】
また第1経路14のうちリニアソレノイド18及び第1オリフィス20間には、制御信号に応じて開閉可能に構成された電磁弁である流量制御弁(油圧調節弁)24が設けられている。流量制御弁24にはリニアソレノイド18の油圧が印加されることにより、第1オリフィス20に印加される油圧が調節され、流量が制御される(すなわちリニアソレノイド18がマスター、流量制御弁24がスレーブとして構成されている)。第1経路14では、流量制御弁24が閉状態のときに流量がゼロになる一方で、流量制御弁24が開状態のときにリニアソレノイドを制御することによって、リニアソレノイド18を最大電流で制御する事で油圧調節弁24の下流には最大油圧が発生し、例えば最大7L/mまでの範囲で流量制御が可能となる。一方、第2経路16では、流量制御弁24の開閉状態に関わらず、第2オリフィス22によって一定の流量(例えば1.5L/m)が維持される。第1経路14及び第2経路16は下流側に設けられた合流点26において再度合流し、クラッチ30に潤滑油が供給されるように構成されている。これにより、潤滑油調整機構10の全体としては、第1経路14及び第2経路16における流量を加算することにより、1.5〜8.5L/mの範囲で流量調整が可能となっている。
【0029】
上述したように潤滑油調整機構10では流量制御範囲の下限値がゼロではなく、所定値(上記例では1.5L/m)に設定されている。湿式クラッチでは、潤滑油の供給量をゼロにすると、時間が経過するに従って湿式クラッチに供給された潤滑油が順次排出され、しまいには潤滑油が抜けきることによって不足してしまうおそれがある(例えば、潤滑油が不足することにより、次に負荷を掛ける際のクラッチ潤滑油量供給が間に合わないという問題が生じる)。本実施形態では、流量制御範囲の下限値を有限値に設定することで、このような潤滑油不足を回避できるようになっている。すなわち、流量制御範囲の下限値はクラッチ30の仕様に応じて潤滑油不足を回避するために必要な値として設定され、例えば第1経路14の流量制御範囲の上限値(上記例では7L/m)及び下限値(上記例では0L/m)間の値であり、より好ましくは、当該上限値及び下限値の中間値(上記例では3.5L/m)より小さい値である。
尚、潤滑油不足のおそれがない場合には、当該下限値をゼロに設定してもよいことは言うまでもない。
【0030】
また潤滑油調整機構10の他の構成例としては、例えば
図2がある。この例では、潤滑油回路1は分岐されておらず、当該経路上に流路断面が可変に構成された可変オリフィス32が設けられている。可変オフィス32の具体的構成は、例えば
図3に示されるように、潤滑油回路1上に穴34が設けられた隔壁36を有しており、穴34への挿入度が可変に構成されたニードル38と、を備える。ニードル38はステッピングモータのような動力源40によって穴34への挿入度が調整されることにより、可変オリフィス32の流路断面が可変に構成されている。この場合、可変オリフィスの動力機構を設ける必要が生じるものの、
図1のように潤滑油経路10を分岐する必要がなくなるので、構造の簡素化を図ることができる。
【0031】
再び
図1に戻って、湿式クラッチ30へ潤滑油の供給量は、制御部50によって制御される。制御部50は例えばマイクロプロセッサのような演算処理装置から構成されており、特にリニアソレノイド18を制御することにより、湿式クラッチ30に供給される潤滑量を調整する。
【0032】
また本実施形態では、エンジン6の回転数を検出するための回転数センサ44、クラッチ出力軸回転数を検出するためのクラッチ出力軸回転数センサ46、及び、湿式クラッチ30に供給される潤滑油の温度を検知するための温度センサ45と、を備える。
【0033】
尚、自動変速機の入力側にクラッチ出力軸回転数センサ46が設けられていない場合には、自動変速機の出力側に設けられた出力軸回転数センサの検知値を自動変速機の選択ギアに応じた変速比で換算することにより演算によって入力軸回転数を算出してもよい。また自動変速機の入力軸・出力軸共に回転数センサを備えていない場合には、駆動輪の回転数に基づいて演算的に入力軸回転数を算出してもよい。
【0034】
図4に示されるように、制御部50は、潤滑油の負荷及び供給量の相関マップ60A及び湿式クラッチ30の温度及び潤滑油の供給量の相関マップ60Bを予め記憶する記憶手段54と、湿式クラッチ30に供給される潤滑油の温度を検知する温度検知手段55と、湿式クラッチ30の負荷を算出する負荷算出手段56と、湿式クラッチ30の温度を推定する温度推定手段58と、潤滑油供給量を算出する目標供給量算出手段62と、潤滑油供給量調整機構10を制御する制御手段64と、を備える。
【0035】
続いて、
図5乃至
図7を参照して、上述の構成を有する潤滑油回路の制御内容について説明する。
図5は本実施形態の少なくとも1実施形態に係る潤滑油量制御方法を工程毎に示すフローチャートであり、
図6は
図5のステップS20における負荷算出手順を示すフロー図であり、
図7は
図5のステップS30におけるクラッチ温度の推定手順を示すフロー図であり、
図8Aは相関マップ60Aの一例であり、
図8Bは相関マップ60Bの一例である。
【0036】
まず制御部50は、以下の潤滑油量制御に必要な各種情報を取得する(情報取得工程:ステップS10)。具体的には、回転数センサ44、クラッチ出力軸回転数センサ46及び温度センサ45の検出値、並びに、エンジン6の運転状態を制御するECUにおける燃料噴射量のような各種指示値を取得する。
【0037】
続いて制御部50のうち負荷算出手段56は、ステップS10で取得した各種情報に基づいて、クラッチ負荷Lを算出する(クラッチ負荷算出工程:ステップS20)。具体的なクラッチ負荷の参照手順の一例が
図6である。この例では、回転数センサ42から取得したエンジン回転数R(rpm)と、クラッチ出力軸回転数センサ46から取得したクラッチ30の入力軸回転数Ri(rpm)との差分を求め、その絶対値|R−Ri|(rpm)が求められる。
【0038】
また負荷算出手段56は、ECUからクラッチ30に出力される制御指示値に基づいてクラッチ制御電流I(A)を取得し、予め記憶手段54に記憶されているクラッチ30のトルク特性マップに基づいてクラッチトルクT(kgf・m)を求める。
そして、クラッチ負荷Lは次式
L(kW)=|R−Ri|×T×1.027/1000 (1)
として求められる。
【0039】
また他の負荷算出方法としては、クラッチ30における伝達トルクTとすべり速度Vの積としてクラッチ負荷Lを算出してもよい。例えばエンジントルクTe、エンジン慣性加減速トルクTiを用いて、クラッチ伝達トルクTが次式
T=Te−Ti (2)
により算出される。ここで(2)式におけるエンジントルクTeはエンジン6の運転状態との相関を予め取得しておき、エンジン6の運転状態の実測値に対応する値を求めることにより取得される。例えばエンジン6の運転状態が回転数及び燃料噴射量で規定される場合には、予めエンジンの回転数及び燃料噴射量を変数パラメータとしてエンジントルクを規定する相関マップをメモリ等の記憶手段に用意しておく。そして、回転数センサ42の検出値R及びECUの指令値である燃料噴射量を取得することにより、これら実測値に対応するエンジントルクTeを相関マップに基づいて算出する。
【0040】
(2)式におけるエンジン慣性加減速トルクTiは、エンジン回転数R及びエンジンの重量モーメントMにより次式
Ti=dR/dt×M (3)
により求められる。ここでdR/dtは回転数センサ42の検知値Rの時間微分であり、いわゆるエンジンの回転加速度である。このようにdR/dtのような時間微分成分はノイズ等を含むことで制御精度に影響を与えるおそれがあるため、好ましくは所定周波数未満の成分を除去するフィルタリング処理をしてもよい。またMはエンジン6の質量モーメントであり、予めメモリ等の記憶装置に記憶されているものが読み出されることにより取得される。
【0041】
一方でクラッチ30の滑り速度Vは次式
V=|R−Ri| (4)
により算出される。回転数Rは上述したように回転数センサ42の検知値として取得され、Riはトランスミッション入力軸回転数であり、クラッチ出力軸回転数センサ46の検知値として取得される。
そして、(2)〜(4式)に基づいてクラッチ負荷Lを次式
L=T×V (5)
により求める。
【0042】
続いて制御部50のうち温度推定手段58は、ステップS10で取得した各種情報に基づいて、クラッチ温度Tを算出する(クラッチ温度推定工程:ステップS30)。具体的には、温度推定手段58は、温度検知手段55で検知された潤滑油の温度に基づいて算出された冷却要因、及び、前記負荷
算出手段で
算出された負荷に基づいて算出された加熱要因に基づいて、湿式クラッチ30の温度を推定する。
ここで
図7は具体的なクラッチ温度の推定手順の一例である。この例では、温度検知手段55によって温度センサ45から取得された潤滑油の温度と、前回の推定結果である温度推定値とが減算器66に入力されることにより、差分ΔTが出力される。差分ΔTは所定の係数Kcを乗算されることにより、湿式クラッチ30の冷却要因による温度変化速度V1(℃/SEC)が求められる。このように冷却要因は、温度検知手段55で検知された実測値である温度と、過去に推定された推定値である温度との温度差に基づいて算出される。一方、ステップS20で求められたクラッチ負荷Lは、所定の係数Khが乗算される。これにより、湿式クラッチ30の加熱要因による温度変化速度V2(℃/SEC)が求められる。
尚、係数Kc及びKhは湿式クラッチ30の熱容量及び熱伝達率に基づいて実験的、理論的又はシミュレーション的手法により設定される定数である。
【0043】
このように求められた温度変化速度V1及びV2は、減算器68に入力される。減算器68の出力は、湿式クラッチ30に冷却要因及び加熱要因が与えられた結果生じるトータルの温度変化速度Vを意味する。トータルの温度変化速度Vは、積分器70に入力されることにより、所定期間における温度変化値が求められ、潤滑油の温度Tが推定される。
【0044】
そして、目標供給量算出手段62は、ステップS20で求められたクラッチ負荷Lに対応する潤滑油の第1の供給量を相関マップ60Aに基づいて算出する(ステップS40)。ここで相関マップ60Aは、例えば
図8Aに示されるように、クラッチ負荷Lに対応する第1の供給量を規定する相関を規定している。ここに例示される相関マップ60Aでは、基本的に、クラッチ負荷Lが増加するに従って第1の供給量が増加するように規定されている。詳しく説明すると、クラッチ負荷がL0〜L1の範囲はいわゆるクリープ走行時に相当する範囲であり、クラッチ負荷Lに関わらず第1の供給量が一定になる規定されている。またクラッチ負荷がL1〜L2の範囲はクラッチ負荷Lに対して第1の供給量が比例的に増加するように設定されている。またクラッチ負荷がL2以上の範囲では、潤滑油供給機構10が供給可能な供給量の上限値に到達するため一定に規定されている。
【0045】
尚、クリープ走行時に相当するL0〜L1の範囲についても、L1〜L2の範囲と同様にクラッチ負荷Lが増加するに従い比例的に第1の供給量が増加するように規定してもよい。この場合、クラッチ負荷L0〜L1の範囲に比べて、クラッチ負荷L1〜L2における増加度が大きく規定されるとよい。
また相関マップ60ではクラッチ負荷がゼロ(L=L0)である場合における第1の供給量がゼロではなく有限値(1.5L/m)に規定されている。これは、
図1に示された潤滑油量調整機構10からの最小供給量である1.5L/mに対応するものである。
【0046】
続いて目標供給量算出手段62は、ステップS30で求められたクラッチ温度Tに対応する第2の供給量を相関マップ60Bに基づいて算出する(ステップS50)。ここで相関マップ60Bは、例えば
図8Bに示されるように、クラッチ温度Tに対応する第2の供給量を規定する相関を規定している。ここに例示される相関マップ60Bでは、基本的に、クラッチ温度Tが増加するに従って第2の供給量が増加するように規定されている。詳しく説明すると、クラッチ温度がT0〜T1の範囲はいわゆる冷態状態に相当する範囲であり、クラッチ温度Tに関わらず第2の供給量が一定になる規定されている。またクラッチ温度がT1〜T2の範囲はクラッチ温度Tに対して第2の供給量が比例的に増加するように設定されている。またクラッチ温度がT2以上の範囲では、潤滑油供給機構10が供給可能な潤滑油量の上限値に到達するため一定に規定されている。
【0047】
そして目標供給量算出手段62は、ステップS40で求められた第1の供給量及びステップS50で求められた第2の供給量のうち多い方を潤滑油の目標供給量として算出する(ステップS60)。このようにステップS60で目標供給量が算出されると、制御手段64は目標供給量算出手段62で算出された目標供給量になるように、潤滑油供給量調整機構10を制御する(ステップS70)。
【0048】
このような潤滑油供給量調整機構10の制御の結果について、
図9を参照して説明する。
図9はクラッチ負荷の変動パターンに対するクラッチ温度及び潤滑油の供給量の推移を示すタイムチャートである。
【0049】
この例では(1)に示されるように、時刻t1〜t2においてクラッチ負荷がL1(>0)に変化する。(2)に示されるように、当該時刻t1〜t2ではクラッチ負荷L1によってクラッチ温度Tが次第に上昇し、時刻t2以降では時間の経過に従って低下する振る舞いが示されている。ここで時刻t2以降におけるクラッチ温度Tの低下速度は、上述の制御によって参考例(破線を参照)に比べて促進される。
【0050】
参考例は(3)の破線で示されるように、目標供給量をクラッチ負荷のみによって決定した場合(すなわち、クラッチ温度への依存性を考慮せずに目標供給量を求める場合)に相当し、クラッチ負荷がL1である時刻t1−t2の間で供給量P1を有するものの、時刻t2以降では供給量がゼロ(若しくは下限値)になる場合である。この場合、時刻t2以降は潤滑油の供給量がゼロになるため、湿式クラッチ30は高温状態が継続することとなる。この状態で潤滑油量が不足すると、冷却が不足し、不都合を生じるおそれがある(例えばクラッチ焼損、劣化の進行、再度負荷が発生した際にクラッチ温度が基準値を超えることによる警報や負荷制限制御の介入による利便性の低下などが生じやすくなる)。
【0051】
一方、本実施形態では、時刻t2以降における潤滑油の供給量は参考例とは異なり、すぐさまゼロになることはなく、クラッチ温度に応じて次第に減少する振る舞いを示す。これにより、(2)に示されるように、時刻t2以降においてクラッチ温度の冷却が促進されることとなる。その結果、湿式クラッチ30は早期に高温状態から脱却することができるので、高温状態で時間とともに進行するクラッチ摩擦材(フェーシング)の劣化進行を抑制し、クラッチの故障防止、寿命延長を図ることができる。また時刻t2以降において再び負荷が入力された場合の熱受容容量(ヒートキャパシティ)が確保されるので、クラッチ高温時に発生するドライバーへの警報や、負荷制限(出力低下)の介入を回避することで、ドライバーに対する利便性も向上できる。