特許第6584815号(P6584815)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6584815感光性樹脂組成物、感光性フィルム積層体、フレキシブルプリント配線板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6584815
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】感光性樹脂組成物、感光性フィルム積層体、フレキシブルプリント配線板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/004 20060101AFI20190919BHJP
   G03F 7/037 20060101ALI20190919BHJP
   G03F 7/031 20060101ALI20190919BHJP
   G03F 7/027 20060101ALI20190919BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20190919BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20190919BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20190919BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20190919BHJP
   C08K 5/33 20060101ALI20190919BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20190919BHJP
   H05K 3/28 20060101ALI20190919BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20190919BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20190919BHJP
   B32B 27/26 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   G03F7/004 502
   G03F7/037 501
   G03F7/031
   G03F7/027 502
   G03F7/004 512
   C08F2/44
   C08F2/50
   C08L79/08
   C08K5/103
   C08K5/33
   C08K5/13
   H05K3/28 D
   H05K3/28 F
   B32B27/34
   B32B27/18 Z
   B32B27/26
【請求項の数】12
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2015-85398(P2015-85398)
(22)【出願日】2015年4月17日
(65)【公開番号】特開2016-206312(P2016-206312A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】水村 華菜子
(72)【発明者】
【氏名】下田 浩一朗
(72)【発明者】
【氏名】山本 正樹
【審査官】 外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−139993(JP,A)
【文献】 特開2013−117614(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/098291(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/024951(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0178823(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/004
G03F 7/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリイミド前駆体と、(B)不飽和二重結合を有する重合性化合物と、(C)光重合開始剤と、(D)酸化防止剤と、を含有し、前記(D)酸化防止剤が、下記一般式(1)で表される構造を含み、前記(A)ポリイミド前駆体が、下記一般式(4)で表されるポリイミド構造、及び下記一般式(5)で表されるポリアミド酸構造をそれぞれ繰り返し構成単位として有することを特徴とする感光性樹脂組成物。
【化1】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立して水素原子、1価の有機基、ハロゲン原子のいずれかを表し、同じであっても異なっていてもよい。RとRの炭素数合計は1〜4であり、かつRとRの炭素数合計は1〜4である。Aは直結あるいは以下の一般式(2)から選択されるいずれかの構造を有する:
【化2】
式中、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24は、それぞれ独立して水素原子、1価の有機基、ハロゲン原子のいずれかを表し、同じであっても異なっていてもよい。m、nはそれぞれ1以上10以下の整数を表す。)
【化3】
【化4】
(式中、R27、R28、R30、R31、R33、R34、R36、R37、R39、R40はそれぞれ独立して水素原子又は数1〜20の1価の有機基を表し、同じであっても異なっていても良い。R29、R32、R35、R38、R41は炭素数1〜20の4価の有機基を表し、m、n、pはそれぞれ独立して0以上100以下の整数を表す。R42は4価の有機基を表し、R43は炭素数1〜90の2価の有機基を表し、R44は炭素数1〜50の4価の有機基を表す。)
【請求項2】
前記(C)光重合開始剤が、下記一般式(3)で表される構造であることを特徴とする請求項1記載の感光性樹脂組成物。
【化5】
(式中、Arは、芳香族を含んでなる1価の有機基、R25は、アルキル基、又は、アリール基を有する有機基、R26は、分岐鎖アルキル基、直鎖アルキル基、脂環構造を有するアルキル基、又は、芳香族構造を有するアルキル基のいずれかである炭素数3〜50の1価の炭化水素基である。)
【請求項3】
前記一般式(4)で表されるポリイミド構造を構成するジアミン成分として、下記一般式(6)で表されるジアミンを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の感光性樹脂組成物。
【化6】
(式中、R27、R28、R30、R31、R33、R34、R36、R37、R39、R40はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜20の1価の有機基を表し、同じであっても異なっていても良い。R29、R32、R35、R38、R41は炭素数1〜20の4価の有機基を表し、m、n、pはそれぞれ独立して0以上30以下の整数であり、1≦(m+n+p)≦30を満たす。)
【請求項4】
(E)ニトロソ化合物、及び/又は、ニトロ化合物を含む重合禁止剤を少なくとも一種類含有することを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)不飽和二重結合を有する重合性化合物として、(ジ)ペンタエリスリトール(メタ)アクリレートエステル化合物を含むことを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項6】
(F)ブロックイソシアネート化合物を少なくとも一種類含むことを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項7】
(G)リン化合物を少なくとも一種類含むことを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項8】
前記一般式(1)におけるR、R、R、Rが、いずれもメチル基であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項9】
基材と、前記基材の表面に、請求項1から請求項のいずれかに記載の感光性樹脂組成物を用いて形成された感光性フィルムと、を有することを特徴とする感光性フィルム積層体。
【請求項10】
前記基材が、キャリアフィルムであることを特徴とする請求項記載の感光性フィルム積層体。
【請求項11】
配線を有する回路基板と、前記回路基板の表面に、請求項1から請求項のいずれかに記載の感光性樹脂組成物を用いて焼成成膜された感光性フィルムと、を有することを特徴とするフレキシブルプリント配線板。
【請求項12】
配線を有する回路基板上の配線面に、ロール式熱真空ラミネーターを用いて、請求項又は請求項10に記載の感光性フィルム積層体を積層したのち、焼成成膜することを特徴とするフレキシブルプリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の表面保護膜、層間絶縁膜、半導体パッケージ基板用やフレキシブルプリント基板用の保護絶縁膜として有用な感光性樹脂組成物、及び、感光性樹脂組成物を用いた感光性フィルム積層体、フレキシブルプリント配線板、並びに、フレキシブルプリント配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年フレキシブルプリント基板(以下、「FPC」ともいう。)と呼ばれるフィルム状のプリント基板が活況を得ている。FPCは配線加工されたFCCL(Flexible Copper Clad Laminate)上にポリイミドフィルムなどから構成されるカバーレイを具備した構造を有しており、主に携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、ノート型パソコン、デジタルカメラなどの機器に用いられている。FPCは折り曲げても機能を維持することから、機器の小型化、軽量化に向けて無くてはならない材料となっている。特に近年、スマートフォンやタブレット端末に代表される電子機器の小型化、軽量化が進んでおり、このような製品にFPCを採用することで、当該電子機器の寸法、及び、重量減少、並びに、製品コストの低減、及び、設計の単純化をすることなどに貢献している。
【0003】
FPCには、プリント配線板の外側表面の導体パターンを全面的又は部分的にカバーするために使用される絶縁材料層のカバーレイが施されている。最も基本的なカバーレイは、信頼性の高い非感光性の打ち抜き材で構成されたフィルムカバーレイであるが、その貼り合わせの工程の自動化は極めて難しく、ロールtoロール化の試みさえ行われず、人手に頼っているのが実情である。カバーレイ処理プロセスの現実的な解決方法としては、硬質プリント基板のソルダーマスクと同様に、カバーレイインクのスクリーン印刷の採用が考えられているが、いずれも現在市販されている材料はフィルムカバーレイに比べて、機械的特性、耐薬品性(特に耐めっき性)などで劣っており、広く一般的に使われるには至っていない。
【0004】
そこで、FPCの微細化や製造工程の省力化に向けて、リソグラフィーによる微細加工を行うための感光性カバーレイの開発が精力的に行われている。近年、環境に対する配慮から、アルカリ水溶液による現像に対応した材料設計がなされており、この中でもポリイミド前駆体を用いた感光性カバーレイは、ポリイミド由来の電気絶縁信頼性、折り曲げ耐性等の機械的物性、耐熱性、耐薬品性、難燃性の観点から優れたカバーレイとして期待されている。特に、ドライフィルムタイプの感光性カバーレイフィルムは、液状の感光性樹脂を塗布する方法に比べて、塗布及び乾燥の手間と時間が省けるだけでなく、両面一括でのラミネート成膜及びリソグラフィーにより、例えば、多数の穴あけ加工を一度に行うロールtoロール生産方式が可能となり、FPCの製造工程の短縮化と省力化を達成できる。
【0005】
これらのアルカリ水溶液による現像が可能な感光性ポリイミドを得るためには、ポリイミドにアルカリ可溶性基を導入したアルカリ可溶性ポリイミドや、全アルカリ可溶性基の一部に光反応性基を導入する方法によるアルカリネガ現像型感光性ポリイミド前駆体に、重合性化合物と光重合開始剤を加えたネガ型の感光性ポリイミドが開発されている(例えば、特許文献1及び、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5092399号公報
【特許文献2】特開2011−59656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら従来の感光性樹脂組成物では、ロール式熱真空ラミネーターを用いて両面一括でのラミネート成膜を行った場合、現像後に現像残渣が発生する場合があった。また、プロセス回路基板の薄膜化のニーズに対応して感光性カバーレイも薄膜化した場合、従来の感光性樹脂組成物では、配線上での被覆信頼性が悪化する場合があった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、特に、アルカリ現像可能で光感度に優れ、ロール式熱真空ラミネーターを用いて成膜しても現像残渣を抑制でき、薄膜化した場合であっても優れた配線被覆性を得ることができる感光性樹脂組成物、感光性フィルム積層体、フレキシブルプリント配線板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の感光性樹脂組成物は、(A)ポリイミド前駆体と、(B)不飽和二重結合を有する重合性化合物と、(C)光重合開始剤と、(D)酸化防止剤と、を含有し、前記(D)酸化防止剤が、下記一般式(1)で表される構造を含み、前記(A)ポリイミド前駆体が、下記一般式(4)で表されるポリイミド構造、及び下記一般式(5)で表されるポリアミド酸構造をそれぞれ繰り返し構成単位として有することを特徴とする。
【化1】
(式中、R、R、R、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立して水素原子、1価の有機基、ハロゲン原子のいずれかを表し、同じであっても異なっていてもよい。RとRの炭素数合計は1〜4であり、かつRとRの炭素数合計は1〜4である。Aは直結あるいは以下の一般式(2)から選択されるいずれかの構造を有する:
【化2】
式中、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24は、それぞれ独立して水素原子、1価の有機基、ハロゲン原子のいずれかを表し、同じであっても異なっていてもよい。m、nはそれぞれ1以上10以下の整数を表す。)
【化3】
【化4】
(式中、R27、R28、R30、R31、R33、R34、R36、R37、R39、R40はそれぞれ独立して水素原子又は数1〜20の1価の有機基を表し、同じであっても異なっていても良い。R29、R32、R35、R38、R41は炭素数1〜20の4価の有機基を表し、m、n、pはそれぞれ独立して0以上100以下の整数を表す。R42は4価の有機基を表し、R43は炭素数1〜90の2価の有機基を表し、R44は炭素数1〜50の4価の有機基を表す。)
【0010】
本発明の感光性樹脂組成物においては、前記(C)光重合開始剤が、下記一般式(3)で表される構造であることが好ましい。
【化5】
(式中、Arは、芳香族を含んでなる1価の有機基、R25は、アルキル基、又は、アリール基を有する有機基、R26は、分岐鎖アルキル基、直鎖アルキル基、脂環構造を有するアルキル基、又は、芳香族構造を有するアルキル基のいずれかである炭素数3〜50の1価の炭化水素基である。)
【0012】
本発明の感光性樹脂組成物においては、前記一般式(4)で表されるポリイミド構造を構成するジアミン成分として、下記一般式(6)で表されるジアミンを含むことが好ましい。
【化6】
(式中、R27、R28、R30、R31、R33、R34、R36、R37、R39、R40はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜20の1価の有機基を表し、同じであっても異なっていても良い。R29、R32、R35、R38、R41は炭素数1〜20の4価の有機基を表し、m、n、pはそれぞれ独立して0以上30以下の整数であり、1≦(m+n+p)≦30を満たす。)
【0013】
本発明の感光性樹脂組成物においては、(E)ニトロソ化合物、及び/又は、ニトロ化合物を含む重合禁止剤を少なくとも一種類含有することが好ましい。
【0014】
本発明の感光性樹脂組成物においては、前記(B)不飽和二重結合を有する重合性化合物として、(ジ)ペンタエリスリトール(メタ)アクリレートエステル化合物を含むことが好ましい。
【0015】
本発明の感光性樹脂組成物においては、(F)ブロックイソシアネート化合物を少なくとも一種類含むことが好ましい。
【0016】
本発明の感光性樹脂組成物においては、(G)リン化合物を少なくとも一種類含むことが好ましい。
【0017】
本発明の感光性樹脂組成物においては、前記一般式(1)におけるR、R、R、Rが、いずれもメチル基であることが好ましい。
【0018】
本発明の感光性フィルム積層体は、基材と、前記基材の表面に、上記に記載の感光性樹脂組成物を用いて形成された感光性フィルムと、を有することを特徴とする。
【0019】
本発明の感光性フィルム積層体においては、前記基材が、キャリアフィルムであることが好ましい。
【0020】
本発明のフレキシブルプリント配線板は、配線を有する回路基板と、前記回路基板の表面に、上記に記載の感光性樹脂組成物を用いて焼成成膜された感光性フィルムと、を有することを特徴とする。
【0021】
本発明のフレキシブルプリント配線板の製造方法は、配線を有する回路基板上の配線面に、ロール式熱真空ラミネーターを用いて、上記に記載の感光性フィルム積層体を積層したのち、焼成成膜することを特徴とする
【発明の効果】
【0022】
本発明の感光性樹脂組成物によれば、アルカリ現像可能で光感度に優れ、しかも、ロール式熱真空ラミネーターを用いて成膜しても現像残渣を抑制でき、薄膜化した場合であっても優れた配線被覆性を得ることができる。
【0023】
したがって、本発明の感光性樹脂組成物を用いることで、アルカリ現像による光感度性に優れ、現像残渣が発生せず、及び優れた配線被覆性を備える感光性フィルム積層体及び、フレキシブルプリント配線板を得ることができる。
【0024】
また本発明のフレキシブルプリント配線板の製造方法によれば、アルカリ現像による光感度性に優れ、ロール式熱真空ラミネーターを用いて成膜しても現像残渣が発生せず、及び配線被覆性に優れたフレキシブルプリント配線板を適切かつ容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施の形態と略記する)を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で変形して実施することができる。
【0026】
本実施の形態に係る感光性樹脂組成物は、(A)ポリイミド前駆体と、(B)不飽和二重結合を有する重合性化合物と、(C)光重合開始剤と、(D)酸化防止剤と、を含有し、前記(D)酸化防止剤が、下記一般式(1)で表される構造を含む。
【化7】
ここで、一般式(1)の式中、R、R、R、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立して水素原子、1価の有機基、ハロゲン原子のいずれかを表し、同じであっても異なっていてもよい。また、RとRの炭素数合計は1〜4であり、かつRとRの炭素数合計は1〜4である。また、Aは直結あるいは以下の一般式(2)から選択されるいずれかの構造を有する。
【化8】
ここで一般式(2)の式中、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24は、それぞれ独立して水素原子、1価の有機基、ハロゲン原子のいずれかを表し、同じであっても異なっていてもよい。m、nはそれぞれ1以上10以下の整数を表す。
【0027】
本実施の形態の感光性樹脂組成物は、(A)ポリイミド前駆体を含むことから、アルカリ現像可能となる。また、(C)光重合開始剤を含むとともに、本実施の形態の酸化防止材を含むことで、酸化防止剤の添加量を減らすことができ、光感度が向上する。また、(D)上記の一般式(1)で表される構造を有する酸化防止剤を含むことで、ロール式熱真空ラミネーターを用いて成膜しても現像残渣が発生しない。そして、(D)酸化防止剤は、水酸基の両オルト位に適度な立体障害を有するため、少ない添加量で効果的に現像残渣を抑止できる。このため、露光時の硬化反応を阻害することなく、薄膜化した場合でも優れた光感度とともに配線被覆性を有する。以下、各構成要件について説明する。
【0028】
(A)ポリイミド前駆体
本実施の形態に係る感光性樹脂組成物におけるポリイミド前駆体は、特に限定されるものではないが、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることによって得ることができる。使用するテトラカルボン酸二無水物に制限はなく、従来公知のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族テトラカルボン酸や脂肪族テトラカルボン酸二無水物等を適用することができる。また、使用するジアミンに制限はなく、従来公知のジアミンを用いることができる。
【0029】
テトラカルボン酸二無水物としては、ビフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物(以下、「BPDA」と略称する)、ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物(以下、「BTDA」と略称する)、オキシジフタル酸二無水物(以下、「ODPA」と略称する)、ジフェニルスルホン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(以下、「TMEG」と略称する)、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、m−フェニレンビス(トメリット酸モノエステル酸無水物)、o−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ペンタンジオールビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(以下、「5−BTA」と略称する)、デカンジオールビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、無水ピロメリット酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、メタ−ターフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−カルボキシメチル−2,3,5−シクロペンタトリカルボン酸−2,6:3,5−二無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸無水物、及び、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、などが挙げられる。上述したテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。なお、ポリイミド前駆体の現像性の観点から、BPDA、ODPA、BTDA、TMEG、5−BTA、及び、デカンジオールビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)がより好ましい。
【0030】
ジアミンとしては、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)アルカン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)アルカン、1,5−ビス(4−アミノフェノキシ)アルカン、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,7−ジアミノ−ジメチルジベンゾチオフェン−5,5−ジオキシド、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノベンズアニリド、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−2,2−ジメチルプロパン、1,2−ビス[2−(4−アミノフェノキシ)エトキシ]エタン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、5−アミノ−1−(4−アミノメチル)−1,3,3−トリメチルインダン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(以下、「APB」と略称する)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4、4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(以下、「BAPP」と略称する)、トリメチレン−ビス(4−アミノベンゾエート)(以下、「TMAB」と略称する)、4−アミノフェニル−4−アミノベンゾエート、2−メチル−4−アミノフェニル−4−アミノベンゾエート、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,5−ジアミノ安息香酸、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、及び、1,3−ビス(4−アミノフェノキシベンゼン)などが挙げられる。この中で、ポリイミド前駆体のガラス転移点(Tg)を低くし、現像性を向上させる観点から、APB、BAPP、及び、TMABが好ましい。これらのジアミンは、後述するポリイミド前駆体のポリイミド構造部の合成に用いるジアミン成分としても用いることができる。
【0031】
本実施の形態に係るポリイミド前駆体としては、現像性及び分子量安定性の観点から、下記一般式(4)で表されるポリイミド構造、及び下記一般式(5)で表されるポリアミド酸構造をそれぞれ繰り返し構成単位として有することが特に好ましい。
【化9】
【化10】
ここで、式中、R27、R28、R30、R31、R33、R34、R36、R37、R39、R40はそれぞれ独立して水素原子又は数1〜20の1価の有機基を表し、同じであっても異なっていても良い。R29、R32、R35、R38、R41は炭素数1〜20の4価の有機基を表し、m、n、pはそれぞれ独立して0以上100以下の整数を表す。R42は4価の有機基を表し、R43は炭素数1〜90の2価の有機基を表し、R44は炭素数1〜50の4価の有機基を表す。上記した一般式(4)及び一般式(5)を備えるポリイミド前駆体としては、後述する実施例で示される、ポリイミド前駆体(A1)及びポリイミド前駆体(A2)が該当する。
【0032】
また、ポリイミド前駆体としては、上記一般式(4)で表されるポリイミド構造を構成するジアミン成分として、下記一般式(6)で表されるジアミンを含むことが好ましい。
【化11】
ここで、式中、R27、R28、R30、R31、R33、R34、R36、R37、R39、R40はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜20の1価の有機基を表し、同じであっても異なっていても良い。R29、R32、R35、R38、R41は炭素数1〜20の4価の有機基を表し、m、n、pはそれぞれ独立して0以上30以下の整数であり、1≦(m+n+p)≦30を満たす。
【0033】
上記一般式(4)及び上記一般式(5)で表されるポリイミド前駆体においては、ポリイミド前駆体の分子鎖に導入されたオキシアルキレン骨格により、ポリイミド前駆体の分子鎖に適度な柔軟性が付与されるので、感光性樹脂組成物の現像性を向上させることが可能となる。ここで、ポリイミド前駆体のポリアミド酸構造部に、上記一般式(6)で表されるジアミンによりオキシアルキレン骨格を導入した場合、当該ジアミンに由来する第2級アミノ基がポリアミド酸構造部に導入される。この第2級アミノ基は、塩基性が高く、従来のポリアミド酸と比較して、ポリアミド酸構造部の解重合を促進し、ポリイミド前駆体の分子量低下が著しくなる問題がある。このため、本実施の形態においては、ポリイミド前駆体のポリイミド構造部に、上記一般式(6)で表されるジアミンによりオキシアルキレン骨格を導入することにより、上述した第2級アミノ基の塩基性の悪影響を防ぎ、分子量を安定化させつつ、感光性樹脂組成物の現像性を向上させることができる。
【0034】
上記一般式(6)におけるm、n、及び、pは、それぞれ独立して0以上30以下の整数である。絶縁信頼性の観点から、1≦(m+n+p)≦30であることが好ましく、3≦(m+n+p)≦10であることがより好ましい。1≦(m+n+p)≦30の範囲内であれば、オキシアルキレン基を有する骨格が短くなるので、ポリイミド前駆体の弾性率が高くなり、絶縁信頼性が向上すると推定される。
【0035】
上記一般式(6)で表されるジアミンとしては、上記一般式(4)で表されるポリイミド構造が得られるものであれば制限はない。このようなジアミンとしては、1,8−ジアミノ−3,6−ジオキシオクタンなどのポリオキシエチレンジアミン化合物、ハンツマン社製ジェファーミン(登録商標)EDR−148、EDR−176などのポリオキシアルキレンジアミン化合物、ジェファーミンD−230、D−400、D−2000、D−4000、BASF社製のポリエーテルアミンD−230、D−400、D−2000などのポリオキシプロピレンジアミン化合物、及び、HK−511、ED−600、ED−900、ED−2003、XTJ−542などの異なるオキシアルキレン基を有する化合物などが挙げられる。これらのオキシアルキレン基を有する骨格により、ポリイミドの焼成後のFPCの反りを低減させることができる。
【0036】
ポリイミド前駆体の主鎖末端は、性能に影響を与えない構造であれば、特に制限はない。ポリイミド前駆体を製造する際に用いる酸二無水物、又は、ジアミンに由来する末端の構造でもよく、その他の酸無水物、又は、アミン化合物などにより末端を封止した構造でもよい。
【0037】
ポリイミド前駆体の重量平均分子量としては、1000以上1000000以下であることが好ましい。ここで、重量平均分子量とは、既知の重量平均分子量のポリスチレンを標準として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定される分子量をいう。重量平均分子量は、感光性樹脂組成物によって得られる樹脂層の強度の観点から、1000以上であることが好ましく、感光性樹脂組成物の粘度及び成型性の観点から、1000000以下であることが好ましい。重量平均分子量は、5000以上500000以下がより好ましく、10000以上300000以下が特に好ましく、15000以上80000以下が最も好ましい。
【0038】
ポリイミド構造及びポリアミド酸構造をそれぞれ繰り返し単位として有するポリイミド前駆体は、酸二無水物とジアミンを非等モル量で反応させて1段階目のポリイミド部位を合成する工程(工程1)、続いて2段階目のポリアミド酸部位を合成する工程(工程2)により作製することができる。以下、それぞれの工程について説明する。
【0039】
(工程1)
1段階目のポリイミド部位を合成する工程について説明する。1段階目のポリイミド部位を合成する工程としては特に限定されず、公知の方法を適用することができる。より具体的には、以下の方法により得られる。まずジアミンを重合溶媒に溶解、及び/又は、分散し、これに酸二無水物粉末を添加し、水と共沸する溶媒を加え、メカニカルスターラーを用い、副生する水を共沸除去しながら、0.5〜96時間、好ましくは0.5〜30時間加熱撹拌する。この際、モノマー濃度は、0.5質量%以上、95質量%以下、好ましくは1質量%以上、90質量%以下である。
【0040】
ポリイミド部位を製造する際は、公知のイミド化触媒を添加することによっても、無触媒によっても、得ることができる。イミド化触媒は特に制限されないが、無水酢酸のような酸無水物、γ―バレロラクトン、γ―ブチロラクトン、γ−テトロン酸、γ−フタリド、γ−クマリン、γ−フタリド酸のようなラクトン化合物、ピリジン、キノリン、N−メチルモルホリン、トリエチルアミンのような三級アミンなどが挙げられる。また、必要に応じて1種、あるいは2種以上の混合物であっても良い。この中でも特に、反応性の高さ、及び次反応への影響の観点からγ−バレロラクトンとピリジンの混合系、及び無触媒が特に好ましい。
【0041】
イミド化触媒の添加量は、ポリアミド酸を100質量部とすると、50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。
【0042】
前記ポリイミド部位の製造の際に使用される反応溶媒としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルのような炭素数2以上9以下のエーテル化合物;アセトン、メチルエチルケトンのような炭素数2以上6以下のケトン化合物;ノルマルペンタン、シクロペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリンのような炭素数5以上10以下の飽和炭化水素化合物;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリンのような炭素数6以上10以下の芳香族炭化水素化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、γ―ブチロラクトン、安息香酸メチルのような炭素数3以上12以下のエステル化合物;クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタンのような炭素数1以上10以下の含ハロゲン化合物;アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンのような炭素数2以上10以下の含窒素化合物;ジメチルスルホキシドのような含硫黄化合物が挙げられる。これらは必要に応じて1種、あるいは2種以上の混合物であっても良い。特に好ましい溶媒としては、炭素数2以上9以下のエーテル化合物、炭素数3以上12以下のエステル化合物、炭素数6以上10以下の芳香族炭化水素化合物、炭素数2以上10以下の含窒素化合物が挙げられる。これらは工業的な生産性、次反応への影響などを考慮して任意に選択可能である。
【0043】
ポリイミド部位の製造においては、反応温度は15℃以上250℃以下で実施することが好ましい。15℃以上あれば反応が開始され、また250℃以下であれば触媒の失活が無い。好ましくは20℃以上220℃以下、さらに好ましくは20℃以上200℃以下である。
【0044】
反応に要する時間は、目的あるいは反応条件によって異なるが、通常は96時間以内であり、特に好適には30分から30時間の範囲で実施される。
【0045】
(工程2)
次に、2段階目のポリアミド酸部位を合成する工程について説明する。2段階目のポリアミド酸部位の合成は、工程1で得られたポリイミド部位を出発原料として用い、ジアミン、及び/又は、酸二無水物を追添して重合させることで実施できる。2段階目のポリアミド酸部位の製造の際の重合温度については、0℃以上250℃以下が好ましく、0℃以上100℃以下がさらに好ましく、0℃以上80℃以下が特に好ましい。
【0046】
ポリアミド酸の反応に要する時間は、目的あるいは反応条件によって異なるが、通常は96時間以内であり、特に好適には30分から30時間の範囲で実施される。
【0047】
反応溶媒としては、工程1でポリイミド部位の製造に使用したものと同じものを用いることができる。その場合、工程1の反応溶液をそのまま用いることができる。また、ポリイミド部位の製造に用いたものと異なる溶媒を用いてもよい。
【0048】
このような溶媒として、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルのような炭素数2以上9以下のエーテル化合物;アセトン、メチルエチルケトンのような炭素数2以上6以下のケトン化合物;ノルマルペンタン、シクロペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリンのような炭素数5以上10以下の飽和炭化水素化合物;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリンのような炭素数6以上10以下の芳香族炭化水素化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、γ―ブチロラクトン、安息香酸メチルのような炭素数3以上12以下のエステル化合物;クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタンのような炭素数1以上10以下の含ハロゲン化合物;アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンのような炭素数2以上10以下の含窒素化合物;ジメチルスルホキシドのような含硫黄化合物が挙げられる。
【0049】
これらは必要に応じて1種、あるいは2種以上の混合物であっても良い。特に好ましい溶媒としては、炭素数2以上9以下のエーテル化合物、炭素数3以上12以下のエステル化合物、炭素数6以上10以下の芳香族炭化水素化合物、炭素数2以上10以下の含窒素化合物が挙げられる。これらは工業的な生産性、次反応への影響などを考慮して任意に選択可能である。
【0050】
製造終了後のポリイミド前駆体は反応溶媒に溶かしたまま用いても良いし、以下の方法で回収・精製してもよい。製造終了後のポリイミド前駆体の回収は、反応溶液中の溶媒を減圧留去することに行うことができる。
【0051】
ポリイミド前駆体の精製方法としては、反応溶液中の不溶解な酸二無水物及びジアミンを減圧濾過、加圧濾過などで除去する方法が挙げられる。また、反応溶液を貧溶媒に加え析出させる、いわゆる再沈精製法を実施することができる。更に特別に高純度なポリイミド前駆体が必要な場合は、二酸化炭素超臨界法による抽出法も可能である。
【0052】
(B)重合性化合物
本実施の形態における感光性樹脂組成物は、不飽和二重結合を有する重合性化合物を含む。本実施の形態における不飽和二重結合を有する重合性化合物とは、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、及び、メタクリロイル基などの重合性不飽和官能基を含有するものであり、これらの中でも共役型のビニル基、アクリロイル基、及び、メタクリロイル基を有するものが重合性の面で好ましい。また、重合性化合物における重合性不飽和官能基の数としては、重合性の観点から2個以上であることが好ましい。この場合、重合性不飽和官能基は、必ずしも同一の官能基でなくとも構わない。また、重合性化合物の分子量としては、100〜5000が好ましい。特に、分子量が60〜2500の範囲であれば、アルカリ可溶性樹脂との相溶性が良好であり、保存安定性に優れる。
【0053】
本実施の形態に係る不飽和二重結合を有する重合性化合物は、光照射により構造が変化することにより、感光性樹脂組成物のアルカリ現像液に対する溶解性が変化する性質に寄与する。本実施の形態に係る感光性樹脂組成物においては、不飽和二重結合を有する重合性化合物と光重合開始剤とを含むことにより、光照射によって架橋体が形成されるので、現像液耐性が向上する。
【0054】
不飽和二重結合を有する重合性化合物としては、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、エチレンオキシド(EO)変性ビスフェノールAジメタクリレート、EO変性水添ビスフェノールAジアクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−ジ(p−ヒドロキシフェニル)プロパンジ(メタ)アクリレート、トリス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ε−カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピルトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチルトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、β―ヒドロキシプロピル−β’−(アクリロイルキシ)−プロピルフタレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。その中で、現像性や焼成後の反りの観点から、EO変性ビスフェノールAジメタクリレート、EO変性水添ビスフェノールAジアクリレート、ペンタエリスリトールトリ/テトラ(メタ)アクリレートが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
不飽和二重結合を有する重合性化合物として特に好ましい形態として、配線被覆性の観点から、(ジ)ペンタエリスリトール(メタ)アクリレートエステル化合物を含むことが好ましい。なお、(ジ)ペンタエリスリトール(メタ)アクリレートエステル化合物とは、ジペンタエリスリトールメタクリレートエステル化合物、ジペンタエリスリトールアクリレートエステル化合物、ペンタエリスリトールメタクリレートエステル化合物、及びペンタエリスリトールアクリレートエステル化合物を意味する。(ジ)ペンタエリスリトール(メタ)アクリレートエステル化合物を含む不飽和二重結合を有する重合性化合物としては、例えば、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレートを例示できる。
【0056】
(ジ)ペンタエリスリトール(メタ)アクリレートエステル化合物としては、ペンタエリスリトールトリ/テトラアクリレート(商品名:アロニックス(登録商標)M−303、305、306、450、452、東亞合成社製)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(商品名:A−TMMT、新中村化学工業社製)、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(商品名:SARTOMER(登録商標)SR−494、サートマー社製)、ジペンタエリスリトールペンタ/ヘキサアクリレート(商品名:アロニックスM−400、402、403、404、405、406、東亞合成社製)、などが挙げられる。
【0057】
2つ以上の光重合可能な不飽和二重結合を有する(メタ)アクリレート化合物の量は、ポリイミド前駆体の量を100質量部とした場合、現像性の観点から5質量部以上100質量部以下が好ましく、10質量部以上80質量部以下がより好ましい。
【0058】
(C)光重合開始剤
本実施の形態に係る光重合開始剤は、下記一般式(3)で表されることが好ましい。
【化12】
ここで、式中、Arは、芳香族を含んでなる1価の有機基、R25は、アルキル基、又は、アリール基を有する有機基、R26は、分岐鎖アルキル基、直鎖アルキル基、脂環構造を有するアルキル基、又は、芳香族構造を有するアルキル基のいずれかである炭素数3〜50の1価の炭化水素基である。
【0059】
本実施の形態における光重合開始剤は、光照射によりラジカルを発生させ、不飽和二重結合を有する重合性化合物を重合反応させることにより、感光性樹脂組成物のアルカリ現像液に対する溶解性が変化する性質に寄与する。
【0060】
特に、R26が分岐鎖アルキル基、直鎖アルキル基、脂環構造を有するアルキル基、又は、芳香族構造を有するアルキル基であることで、疎水性や嵩高い骨格を有することにより、不飽和二重結合を有する重合性化合物との相溶性が良くなり重合反応性が向上する。特に、(ジ)ペンタエリスリトール(メタ)アクリレートエステル化合物のように、4級炭素を有する不飽和二重結合を有する重合性化合物と組み合わせることで顕著な効果を示し、高感度であり、感光性樹脂組成物を薄膜化した場合でも優れた配線被覆性を発現する。重合反応性の観点から、R26は脂環構造を有するアルキル基であることが好ましく、炭素数5〜炭素数7の脂環構造を有するアルキル基であることがより好ましい。
【0061】
Arとして芳香族を含んでなる1価の有機基を有することにより、光リソグラフィー技術として工業的に広く用いられている露光波長であるi線(365nm)からg線(436nm)にわたって高い光感度を示す。
【0062】
光重合開始剤の量は、光感度及びリソグラフィー特性の観点から、ポリイミド前駆体100質量部に対して0.01質量部以上40質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。上記の一般式(3)を有する光重合開始剤としては、例えば、後述する実験で使用される、1,2−プロパンジオン−3−シクロペンチル−1−[4−(フェニルチオ)フェニル]−2−(O−ベンゾイルオキシム)、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)フェニル]−,2−(O−ベンゾイルオキシム)、及び1,2−プロパンジオン,3−シクロヘキシル−1−[9−エチル−6−(2−フラニルカルボニル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,2−(O−アセチルオキシム)が該当する。
【0063】
本実施の形態に係る光重合開始剤は、他の公知の光重合開始剤と組み合わせて用いることもできる。他の公知の光重合開始剤としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンのようなベンジルジメチルケタール類、ベンジルジプロピルケタール類、ベンジルジフェニルケタール類、ベンゾインメチルエーテル類、ベンゾインエチルエーテル、チオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−イソプロピルチオキサントン、2−フルオロチオキサントン、4−フルオロチオキサントン、2−クロロチオキサントン、4−クロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン[ミヒラーズケトン]、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンなどの芳香族ケトン化合物、ロフィン二量体などのトリアリールイミダゾール二量体、9−フェニルアクリジンなどのアクリジン化合物、α、α―ジメトキシ−α−モルホリノ−メチルチオフェニルアセトフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、N−アリール−α―アミノ酸などのオキシムエステル化合物、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジエチルアミノ安息香酸、p−ジイソプロピルアミノ安息香酸、p−安息香酸エステル、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−{4−[(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチルプロパン−1−オンなどのα―ヒドロキシアルキルフェノン類、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホニル)フェニル]−1−ブタノンなどのα―アミノアルキルフェノン類、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドなどのアシルフォスフィンオキサイド類、スルホニウム塩系光カチオン重合開始剤、及び、ヨードニウム塩系光カチオン重合開始剤などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
(D)酸化防止剤
本実施の形態に係る光重合開始剤は、下記一般式(1)で表される構造を含むことを特徴とする。
【化13】
ここで、式中、R、R、R、R、R、R、R、Rは、それぞれ独立して水素原子、1価の有機基、ハロゲン原子のいずれかを表し、同じであっても異なっていてもよい。RとRの炭素数合計は1〜4であり、かつRとRの炭素数合計は1〜4である。また、Aは直結あるいは以下の一般式(2)から選択されるいずれかの構造を有する。
【化14】
ここで式中、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24は、それぞれ独立して水素原子、1価の有機基、ハロゲン原子のいずれかを表し、同じであっても異なっていてもよい。m、nはそれぞれ1以上10以下の整数を表す。
【0065】
本実施の形態における酸化防止剤は、光重合開始剤が熱によりラジカルを発生させた場合、発生したラジカルを補足することで不飽和二重結合を有する重合性化合物の重合反応の開始を阻害する。これにより、ロール式熱真空ラミネーターを用いて長尺でラミネートする様な、より現像残渣が発生し易い状況でも、現像残渣の発生を抑止することに寄与する。
【0066】
特に、上記の一般式(1)においてR、R、R、Rがいずれもメチル基である場合、ラジカルを補足する水酸基に対して適度な立体障害を有するため、より少ない添加量で現像残渣の発生を抑止することができる。このため、露光時の硬化反応を最小限に抑えられ、その結果、硬化膜のアルカリ現像液耐性としての配線被覆性も良好となる。例えば、後述する実験で使用される、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス[2,6−ジメチルフェノール])、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビス(2,6−ジメチルフェノール)、ビス(4−ヒドロキシー3,5−ジメチルフェニル)スルホンが該当する。
【0067】
その他、酸化防止剤としては、2,2−ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、4,4’−チオビス[3−メチル−6−(1,1−ジメチルエチル)フェノール]、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジオール、4,4’−オキシビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2,6−ジメチルフェノール)、3,3’−ジメチル―1,1’−ビフェニル−4,4’−ジオール、4,4’−メチレンビス(o−クレゾール)、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチルビフェニル−4,4’−ジオールが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
酸化防止剤の添加量は、ポリイミド前駆体の量を100質量部とした場合、現像残渣抑制効果、光感度、及び配線被覆性の観点から0.01質量部以上10質量部以下が好ましく、0.1質量部以上4質量部以下がさらに好ましく、0.1質量部以上2質量部以下が特に好ましい。
【0069】
(E)ニトロソ化合物、及び/又は、ニトロ化合物
本実施の形態に係る感光性樹脂組成物においては、熱安定性に用いられる重合禁止剤として、ニトロソ化合物、及び/又は、ニトロ化合物を少なくとも一種類含むことが特に好ましい。ニトロソ化合物とは、構造式中にニトロソ基を含有し、ニトロ化合物とは、ニトロ基を含有するものである。
【0070】
ニトロソ化合物としては、例えば、ニトロソベンゼン、ニトロソトルエン、p−ニトロソフェノール、ニトロソレゾルシノール、1−ニトロソ−2−ナフトール、2−ニトロソ−1−ナフトールなどのニトロソ芳香族炭化水素や、N−ニトロソジフェニルアミン、N−ニトロソ−N−メチルアニリン、N−ニトロソ−N−フェニルアニリン、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩(金属塩、アンモニウム塩等)などのN−ニトロソ類が挙げられる。
【0071】
また、ニトロ化合物としては、例えば、o−ジニトロベンゼン、m−ジニトロベンゼン、p−ジニトロベンゼン、2,4−ジニトロクロロベンゼン、1,5−ジニトロナフタレン、2,4−ジニトロ−1−ナフトール、2,4−ジニトロフェノール、2,5−ジニトロフェノール、2,4−ジニトロ−6−第二級−ブチル−フェノール、4,6−ジニトロ−o−クレゾール、及び、1,3,5−トリニトロベンゼンなどのニトロ芳香族化合物が挙げられる。
【0072】
これらのうち、重合禁止能力及び入手の容易さを考慮すると、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩、2,4−ジニトロフェノールを選択することが好ましい。
【0073】
重合禁止剤の添加量としては、アルカリ可溶性樹脂の質量に対して1ppm〜100000ppmであることが好ましく、100ppm〜10000ppmであることがより好ましい。また、添加量は、重合禁止効果を十分に発揮させる観点から、1ppm以上であることが好ましく、光感度を維持する観点から、100000ppm以下であることが好ましい。
【0074】
(F)ブロックイソシアネート
本実施の形態における感光性樹脂組成物においては、ブロックイソシアネートを含むことが好ましい。ブロックイソシアネートとは、分子内に2個以上のイソシアネ−ト基を有するイソシアネ−トにブロック剤を反応させることにより得られる化合物である。
【0075】
イソシアネ−トとしては、例えば、1,6−ヘキサンジイソシアネ−ト、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、2,4−トリレンジイソシアネ−ト、2,6−トリレンジイソシアネ−ト、キシリレンジイソシアネ−ト、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、4,4’−水酸化ジイソシアネ−ト、イソホロンジイソシアネ−ト、1,5−ナフタレンジイソシアネ−ト、4,4−ジフェニルジイソシアネ−ト、1,3―ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、フェニレン1,4−ジイソシアネ−ト、フェニレン2,6−ジイソシアネ−ト、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネ−ト、及び、ヘキサメチレンジイソシアネートが挙げられる。
【0076】
ブロック剤としては、例えば、アルコ−ル類、フェノ−ル類、ε−カプロラクタム、オキシム類、活性メチレン類、メルカプタン類、アミン類、イミド類、酸アミド類、イミダゾ−ル類、尿素類、カルバミン酸塩類、イミン類、及び亜硫酸塩類が挙げられる。
【0077】
ブロックイソシアネートの具体例としては、旭化成ケミカルズ社製の商品名デュラネート(登録商標)SBN−70D、TPA−B80E、TPA−B80X、17B−60PX、MF−B60X、E402−B80T、ME20−B80S、MF−K60X、及び、K6000などのヘキサメチレンジイソシアネート(以下、「HDI」とも言う。)系ブロックイソシアネート、三井化学ポリウレタン社製品の商品名タケネート(登録商標)B−882N、トリレンジイソシアネート系ブロックイソシアネートである商品名タケネートB−830、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネ−ト系ブロックイソシアネートである商品名タケネートB−815N、及び1,3―ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン系ブロックイソシアネートであるタケネートB−846N、日本ポリウレタン工業社製の商品名コロネート(登録商標)AP−M、2503、2515、2507、2513、及び、ミリオネート(登録商標)MS−50など、イソホロンジイソシアネート系ブロックイソシアネートであるBaxenden社製の品番7950,7951,7990などが挙げられる。これらのブロックイソシアネートは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。ブロックイソシアネートを用いることで、焼成後の絶縁信頼性の向上と、反りの抑制との効果を奏することができる。
【0078】
なお、本実施の形態においては、多官能イソシアネートとしてのブロックイソシアネートを用いる例について説明したが、本実施の形態の効果を奏する範囲で2以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネートを用いることも可能である。
【0079】
(G)リン化合物
本実施の形態における感光性樹脂組成物においては、感光性樹脂組成物の難燃性が向上する観点から、リン化合物を含むことが好ましい。リン化合物としては、ホスファゼン化合物を含むことが特に好ましい。これにより、特に感光性樹脂組成物の難燃性が向上する。なお、ホスファゼン化合物とは、分子内にホスファゼン構造を有する化合物である。なお、リン化合物としては、1種類のリン化合物を用いてもよく、2種類以上のリン化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
ホスファゼン化合物としては、下記一般式(7)、下記一般式(8)で表される構造を有するものなどが挙げられる。
【化15】
【化16】
【0081】
上記一般式(7)及び上記一般式(8)で表されるホスファゼン化合物におけるR42、R43、R44、R45は、炭素数1以上20以下の有機基であれば限定されない。炭素数1以上であれば、難燃性が発現する傾向にあるため好ましい。炭素数20以下であれば、ポリイミド前駆体と相溶する傾向にあるため好ましい。
【0082】
42、R43、R44、R45としては、難燃性発現の観点から、炭素数6以上18以下の芳香族性化合物に由来する官能基が特に好ましい。このような官能基としては、例えば、フェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−ヒドロキシフェニル基、3−ヒドロキシフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、2−シアノフェニル基、3−シアノフェニル基、4−シアノフェニル基などのフェニル基を有する官能基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などのナフチル基を有する官能基、ピリジン、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾールなどの含窒素複素環化合物に由来する官能基、などが挙げられる。これらの化合物は、必要に応じて1種類でも2種類以上の組み合わせで用いても良い。この中で、入手の容易さからフェニル基、3−メチルフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、4−シアノフェニル基、を有する化合物を選択することが好ましい。
【0083】
上記一般式(7)で表されるホスファゼン化合物におけるvは、3以上25以下であれば限定されない。3以上であれば、難燃性を発現し、25以下であれば、有機溶剤に対する溶解性が高い。この中で特に、入手の容易さからvが3以上10以下であることが好ましい。
【0084】
上記一般式(8)で表されるホスファゼン化合物におけるwは、3以上10000以下であれば限定されない。3以上であれば、難燃性を発現し、10000以下であれば、有機溶剤に対する溶解性が高い。この中で特に、入手の容易さから3以上100以下が好ましい。
【0085】
上記一般式(8)で表されるホスファゼン化合物におけるD及びEは、炭素数3以上30以下の有機基であれば限定されない。この中で、Dは−N=P(OC、−N=P(OC、(OCOH)、−N=P(OC)(OCOH)、−N=P(OCOH)、−N=P(O)OC、−N=P(O)(OCOH)が好ましい。Eは−P(OC、−P(OC(OCOH)、−P(OC(OCOH)、−P(OC)(OCOH)、−P(OCOH)、−P(O)(OC、−P(O)(OCOH)、−P(O)(OC)(OCOH)などが好ましい。リン化合物は、1種類でも2種類以上の組み合わせで用いても良い。
【0086】
感光性樹脂組成物においてリン化合物の添加量は、ポリイミド前駆体の量を100質量部とした場合、現像性などの観点から、50質量部以下が好ましい。硬化体の難燃性の観点から、45質量部以下がより好ましい。また、5質量部以上あれば効果を発揮する。
【0087】
(G)その他の化合物
本実施の形態における感光性樹脂組成物においては、その性能に悪影響を及ぼさない範囲で、その他の化合物を含むことが出来る。その他の化合物としては、具体的には、焼成後のフィルムの靭性や耐溶剤性、耐熱性(熱安定性)を向上させるために用いられる熱硬化性樹脂、ポリイミド前駆体などのアルカリ可溶性樹脂と反応性を有する化合物、密着性向上のために用いられる複素環化合物、及び、感光性樹脂組成物を用いて形成されたフィルムの着色のために用いられる顔料や染料などの着色物質が挙げられる。
【0088】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ベンゾオキサゾリン、フェノール樹脂、メラミン樹脂、及び、マレイミド化合物などが挙げられる。
【0089】
アルカリ可溶性樹脂と反応性を有する化合物としては、ポリマー中のカルボキシル基及びアミノ基や、酸無水物に由来する構造を有する末端と反応して三次元架橋構造を形成する化合物などが挙げられる。これらの中でも、加熱することで塩基であるアミノ基を発生する化合物である、いわゆる熱塩基発生剤が好ましい。熱塩基発生剤としては、例えば、アミンなどの塩基化合物のアミノ基とスルホン酸などの酸との間で塩構造を作りジカーボネート化合物や、酸クロライド化合物として保護することにより得られる化合物が挙げられる。このため、熱塩基発生剤は、室温では塩基性を発現せず安定であり、加熱により脱保護して塩基を発生させることができる。
【0090】
複素環化合物としては、ヘテロ原子を含む環式化合物であれば限定されない。ヘテロ原子としては、酸素、硫黄、窒素、及び、リンが挙げられる。複素環化合物としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールのようなイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾールなどのN−アルキル基置換イミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾールなどの芳香族基含有イミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールなどのシアノ基含有イミダゾール、イミダゾールシランなどのケイ素含有イミダゾールなどのイミダゾール化合物、5−メチルベンゾトリアゾール、1−(1’,2’−ジカルボキシエチルベンゾトリアゾール)、1−(2−エチルヘキシアミノメチルベンゾトリアゾール)などのトリアゾール化合物、及び、2−メチル−5−フェニルベンゾオキサゾールなどのオキサゾール化合物が挙げられる。
【0091】
着色物質としては、例えば、アントラキノン系化合物、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系化合物、フクシン、オーラミン塩基、カルコキシドグリーンS、パラマジェンタ、クリスタルバイオレット、メチルオレンジ、ナイルブルー2B、ビクトリアブルー、マラカイトグリーン、ベイシックブルー20、及び、ダイヤモンドグリーンが挙げられる。
【0092】
また、着色物質としては、光照射により発色する発色系染料を用いることもできる。このような発色系染料としては、ロイコ染料又はフルオラン染料とハロゲン化合物との組み合わせがある。このような組み合わせとしては、例えば、トリス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)メタン[ロイコクリスタルバイオレット]、トリス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)メタン[ロイコマラカイチグリーン]が挙げられる。ハロゲン化合物としては、例えば、臭化アミル、臭化イソアミル、臭化イソブチレン、臭化エチレン、臭化ジフェニルメチル、臭化ベンザル、臭化メチレン、トリブロモメチルフェニルスルフォン、四臭化炭素、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート、トリクロロアセトアミド、ヨウ化アミル、ヨウ化イソブチル、1,1,1−トリクロロ−2,2−ビス(p−クロロフェニル)エタン、ヘキサクロロエタン、及び、トリアジン化合物が挙げられる。トリアジン化合物としては、例えば、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、及び、2−(4−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンが挙げられる。
【0093】
その他の化合物の添加量は、アルカリ可溶性樹脂100質量部に対して0.01質量部以上30質量部以下であれば限定されない。添加量が、0.01質量部以上であれば添加した効果が十分に奏される傾向にあり、30質量部以下であれば光感度などへの悪影響を及ぼさない。
【0094】
本実施の形態における感光性樹脂組成物においては、さらに有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤としては、アルカリ可溶性樹脂を均一に溶解、及び/又は、分散させうるものであれば限定されない。このような有機溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、及びイソプロピルアルコールのような炭素数1以上炭素数9以下のアルコール化合物;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、及び、トリエチレングリコールジメチルエーテルのような炭素数2以上炭素数9以下のエーテル化合物;アセトン、及び、メチルエチルケトンのような炭素数2以上炭素数6以下のケトン化合物;ノルマルペンタン、シクロペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、及び、デカリンのような炭素数5以上炭素数10以下の飽和炭化水素化合物;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、及び、テトラリンのような炭素数6以上炭素数10以下の芳香族炭化水素化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン、及び、安息香酸メチルのような炭素数3以上炭素数9以下のエステル化合物;クロロホルム、塩化メチレン、及び、1,2−ジクロロエタンのような炭素数1以上炭素数10以下の含ハロゲン化合物;アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、及び、N−メチル−2−ピロリドンのような炭素数2以上炭素数10以下の含窒素化合物;ジメチルスルホキシドのような含硫黄化合物が挙げられる。
【0095】
これらは必要に応じて単独で用いてもよく、2種以上の混合溶剤として用いてもよい。特に好ましい有機溶剤としては、炭素数1以上炭素数9以下のアルコール化合物、炭素数2以上炭素数9以下のエーテル化合物、炭素数3以上炭素数9以下のエステル化合物、炭素数6以上炭素数10以下の芳香族炭化水素化合物、及び、炭素数2以上10炭素数以下の含窒素化合物、並びに、それらの2種以上の混合溶剤が挙げられる。また、アルカリ可溶性樹脂の溶解性の観点からは、トリエチレングリコールジメチルエーテル、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0096】
アルカリ可溶性樹脂と有機溶剤とを有する感光性樹脂組成物においては、アルカリ可溶性樹脂の濃度としては、樹脂成型体を形成可能な濃度であれば、特に制限されない。作製する樹脂成型体の膜厚の観点からアルカリ可溶性樹脂の濃度が1質量%以上であることが好ましく、樹脂成型体の膜厚の均一性からアルカリ可溶性樹脂の濃度が90質量%以下であることが好ましく、2質量%以上80質量%以下がより好ましい。
【0097】
<感光性フィルム積層体>
本実施の形態に係る感光性フィルム積層体は、基材と、基材の表面に、上記した本実施の形態に係る感光性樹脂組成物を用いて形成された感光性フィルムと、を有して構成される。このように本実施の形態に係る感光性樹脂組成物は、感光性フィルムの形成に好適に用いることができる。感光性フィルムの製品形態にすることで、液状の製品形態に比べてプリント配線板生産現場での溶剤の乾燥揮発工程が不要となり作業環境が向上する。また、両面同時加工が可能となることから生産性向上に寄与する。また、配線上のカバー材の表面平滑性に優れる製品を容易に生産できるメリットがある。また、本実施の形態に係る感光性フィルム積層体においては、基材と、この基材上に設けられた上記の感光性樹脂組成物を含む感光性フィルムと、この感光性樹脂上に形成された防汚用や保護用のカバーフィルムと、を具備する感光性フィルム積層体とすることが好ましい。
【0098】
基材としては、感光性フィルム積層体形成の際に、感光性フィルムを損傷しない基材であれば、特に限定されない。このような基材としては、例えば、シリコンウエハ、ガラス、セラミック、耐熱性樹脂、キャリアフィルムが挙げられる。これらの中でも、ロールtoロール生産方式における適合性、及び取り扱いの容易さの観点から、キャリアフィルムであることが好ましい。
【0099】
キャリアフィルムとしては、紫外線活性光を透過する透明なものが望ましい。紫外線活性光を透過するキャリアフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、塩化ビニリデン共重合フィルム、ポリメタクリル酸メチル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、スチレン共重合体フィルム、ポリアミドフィルム、セルロース誘導体フィルムが挙げられる。これらの中でも、回路基板圧着、露光後の剥離性の観点から、PETフィルムであることが好ましい。これらのフィルムとしては、必要に応じて延伸されたものも使用できる。これらのフィルムの厚みは、薄い方が画像形成性、経済性の面で有利であるが、強度を維持する必要等から10μm〜30μm程度のものが一般的である。
【0100】
次に、感光性フィルム積層体の製造方法について説明する。まず本実施の形態に係る感光性樹脂組成物の溶液を任意の方法で任意の基材上に塗布する。次に、感光性樹脂組成物を乾燥してドライフィルム化する。これにより、例えば、キャリアフィルムと感光性フィルムとを有する感光性フィルム積層体を製造することができる。感光性樹脂組成物の基材上への塗布は、例えば、バーコート、ローラーコート、ダイコート、ブレードコート、ディップコート、ドクターナイフ、スプレーコート、フローコート、スピンコート、スリットコート、及び、はけ塗りなどの各種コート方法を用いることができる。コート後、必要に応じてホットプレートなどによりプリベークと呼ばれる加熱処理を行ってもよい。
【0101】
<フレキシブルプリント配線板>
本実施の形態に係る感光性フィルムは、フレキシブルプリント配線板の製造に好適に用いることが可能である。本実施の形態に係るフレキシブルプリント配線板は、配線を有する回路基板と、この回路基板の表面に、本実施の形態に係る感光性樹脂組成物を用いて焼成成膜された感光性フィルムと、を有して構成される。配線は例えば銅配線であるが、特に限定されない。このフレキシブルプリント配線板は、配線を有する回路基板上に感光性フィルムを圧着し、アルカリ現像した後、焼成を行うことにより得ることができる。このとき、配線を有する回路基板上の配線面に、ロール式熱真空ラミネーターを用いて上記の感光性フィルムを積層したのち、焼成成膜することがフレキシブルプリント配線板を効率良く量産する手法の観点から好ましい。本実施の形態の感光性樹脂組成物を用いることで、アルカリ現像による光感度性に優れ、現像残渣が発生せず、及び優れた配線被覆性を備えるフレキシブルプリント配線板を得ることができる。
【0102】
フレキシブルプリント配線板における配線を有する回路基板としては、ガラスエポキシ基板、ガラスマレイミド基板などのような硬質基板、及び銅張積層板などのフレキシブル基板などが挙げられる。この中で、折り曲げ可能の観点からフレキシブル基板が好ましい。
【0103】
フレキシブルプリント配線板の製造方法は、感光性フィルムが配線を覆うように回路基板上に設けられるものであれば特に限定されない。このような製造方法としては、配線を有する回路基板の配線側と本実施の形態に係る感光性フィルム積層体とを接触させた状態で、熱プレス、熱ラミネート、熱真空プレス、熱真空ラミネートなどを行う方法などが挙げられる。この中で、配線間への感光性フィルムの埋め込みの観点から、熱真空プレス法、熱真空ラミネート法が好ましく、特に、ロール式熱真空ラミネーターを用いて積層することが好ましい。本実施の形態のフレキシブルプリント配線板の製造方法によれば、アルカリ現像による光感度性に優れ、ロール式熱真空ラミネーターを用いて成膜しても現像残渣が発生せず、及び配線被覆性に優れたフレキシブルプリント配線板を適切かつ容易に製造することができる。
【0104】
配線を有する回路基板上に感光性フィルム積層体を積層する際の加熱温度は、感光性フィルムが回路基板に密着しうる温度であれば限定されない。回路基板への密着の観点や感光性フィルムの分解や副反応の観点から、30℃以上400℃以下が好ましい。より好ましくは、50℃以上150℃以下である。
【0105】
配線を有する回路基板の整面処理は、特に限定されないが、塩酸処理、硫酸処理、及び、過硫酸ナトリウム水溶液処理などが挙げられる。
【0106】
感光性フィルム積層体は、任意のフォトマスクにより光照射部分を選択し、光照射後、光照射部位以外をアルカリ現像にて溶解することにより、ネガ型のフォトリソグラフィーが可能である。この場合において、回路基板が室温になった後に光照射することが好ましい。加えて、光照射後にキャリアフィルムを剥離し、アルカリ現像処理を行うことが、酸素阻害の影響により、(C)光重合開始剤によって発生したラジカルが失活することを防止し、光感度の安定性を向上させる観点から好ましい。光照射に用いる光源としては、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、蛍光灯、タングステンランプ、アルゴンレーザー、及び、ヘリウムカドミウムレーザーなどが挙げられる。この中で、高圧水銀灯、超高圧水銀灯が好ましい。
【0107】
現像に用いるアルカリ水溶液としては、光照射部位以外を溶解しうる溶液であれば特に限定されない。このような溶液としては、例えば、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液が挙げられる。現像性の観点から、炭酸ナトリウム水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。現像方法としては、スプレー現像、浸漬現像、及び、パドル現像などが挙げられる。必要に応じて、水洗処理や乾燥処理を施すこともできる。
【0108】
次に、感光性フィルムを圧着したプリント配線板を焼成することによりフレキシブルプリント配線板を得る。焼成は、溶媒の除去の観点や副反応や分解などの観点から、30℃以上400℃以下の温度で実施することが好ましく、100℃以上300℃以下で実施することがより好ましい。
【0109】
焼成における反応雰囲気は、空気雰囲気下でも不活性ガス雰囲気下でも実施可能である。プリント配線板の製造において、焼成に要する時間は、反応条件によって異なるが、通常は24時間以内であり、特に好適には1時間から8時間の範囲で実施される。
【0110】
本実施の形態に係る感光性フィルムを用いた感光性フィルム積層体は、焼成後の反りが良好であり、かつ現像性も良好であり、硬化体とした際に耐薬品性を示すことから、エレクトロニクス分野で各種電子機器の操作パネルなどに使用されるプリント配線板や、回路基板の保護層形成、積層基板の絶縁層形成、半導体装置に使用されるシリコンウエハ、半導体チップ、半導体装置周辺の部材、半導体搭載用基板、放熱板、リードピン、半導体自身などの保護や絶縁及び接着に使用するための電子部品への膜形成用途に利用される。
【0111】
また、本実施の形態に係る感光性フィルムを用いた感光性フィルム積層体は、フレキシブルプリント配線回路(FPC)用基板、テープオートメーションボンディング(Tape Automated Bonding;TAB)用基板、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜及び液晶ディスプレー用基板、有機エレクトロルミネッセンス(Electro―Luminescence;EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板にも用いることができ、特に、シリコンウエハ、銅張積層板、フレキシブルプリント配線回路用などを保護する保護膜であるのカバーレイとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0112】
以下、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例における種々の物性及び特性の測定法、定義は下記の通りである。
【0113】
<試薬>
実施例及び比較例において、用いた試薬は以下の通りである。なお、以下の実施例1から実施例11及び比較例1から比較例5の各説明箇所では、以下の試薬の略称を適宜表記している。
【0114】
(A)ポリイミド前駆体
BPDA(三井化学社製)
APB(商品名:APB−N、三井化学社製)
一般式(6)で表されるジアミン:ポリエーテルアミン(商品名:ポリエーテルアミンD−400(以下、単に「D−400」と表記する)、BASF社製、一般式(6)に示されるm+n+p=6.1)、ジェファーミン(商品名:ジェファーミンD−230(以下、単に「D−230」と表記する)、ハンツマン社製、一般式(6)に示されるm+n+p=2.5)
【0115】
(B)不飽和二重結合を有する重合性化合物
EO変性ビスフェノールAジメタクリレート(商品名:BPE−500、新中村化学工業社製)
エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(商品名:SARTOMER SR−494(以下、単に「SR−494」と表記する)、サートマー社製)
トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート(商品名:アロニックスM−310(以下、単に「M−310」と表記する)、東亞合成社製)
【0116】
(C)光重合開始剤
1,2−プロパンジオン−3−シクロペンチル−1−[4−(フェニルチオ)フェニル]−2−(O−ベンゾイルオキシム)(商品名:PBG−305、常州強力電子社製)
1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)フェニル]−,2−(O−ベンゾイルオキシム)(商標名:IRGACURE(登録商標) OXE−01(以下、単に「OXE−01」と表記する)、チバ・ジャパン社製)
1,2−プロパンジオン,3−シクロヘキシル−1−[9−エチル−6−(2−フラニルカルボニル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,2−(O−アセチルオキシム)(オキシムエステル化合物(C3))
【0117】
(D)酸化防止剤
4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス[2,6−ジメチルフェノール](商品名:Bis26X−A、本州化学工業社製)
4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルフェノール)(商品名:TM−BPF、本州化学工業社製)
4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビス(2,6−ジメチルフェノール)(商品名:BIS−2,6−XYLENOL−P、三井化学ファイン社製)
ビス(4−ヒドロキシー3,5−ジメチルフェニル)スルホン(東京化成工業社製)
2,2−ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(東京化成工業社製)
2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(東京化成工業社製)
4,4’−チオビス[3−メチル−6−(1,1−ジメチルエチル)フェノール](東京化成工業社製)
4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)(商品名:ノクラックNS−30、大内新興化学工業社製)
2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(東京化成工業社製)
4−メトキシフェノール(東京化成工業社製)
4,4’−メチレンジフェノール(東京化成工業社製)
【0118】
(E)ニトロソ化合物、及び/又は、ニトロ化合物(重合禁止剤)
N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム(商品名:Q−1301、和光純薬工業社製)
【0119】
(F)ブロックイソシアネート
ブロックイソシアネート(商品名:デュラネート(登録商標)SBN−70D(以下、単に「SBN−70D」と表記する)、旭化成ケミカルズ社製)
【0120】
(G)リン化合物成分
4−シアノフェノール(東京化成工業社製)
フェノール(東京化成工業社製)
ジクロロホスファゼンオリゴマー(東京化成工業社製)
【0121】
(H)その他化合物
ソルベントグリーン−3 (商品名:OPLAS(登録商標) GREEN533、オリエント化学工業社製)
トルエン(和光純薬工業社製、有機合成用)
γ−ブチロラクトン(和光純薬工業社製)
炭酸ナトリウム(和光純薬工業社製)
水酸化ナトリウム(和光純薬工業社製)
クロルベンゼン(和光純薬工業社製)
【0122】
<重量平均分子量測定>
重量平均分子量の測定法であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(Gel Prmeation Chromatography;GPC)は、下記の条件により測定を行った。溶媒としてN、N−ジメチルホルムアミド(和光純薬工業社製、高速液体クロマトグラフ用)を用い、測定前に24.8mmol/Lの臭化リチウム一水和物(和光純薬工業社製、純度99.5%)及び63.2mmol/Lのリン酸(和光純薬工業社製、高速液体クロマトグラフ用)を加えたものを使用した。
カラム:Shodex(登録商標) KD−806M(昭和電工社製)
流速:1.0mL/分
カラム温度:40℃
ポンプ:PU−2080Plus(JASCO社製)
検出器:RI−2031Plus(RI:示差屈折計、JASCO社製)
UV―2075Plus(UV−VIS:紫外可視吸光計、JASCO社製)
【0123】
また、前記分子量を算出するための検量線は、スタンダードポリスチレン(東ソー社製)を用いて作成した。
【0124】
<感光性フィルムロールの製造>
感光性樹脂組成物の塗布方法は、コンマコーター(ヒラノテクシード社製)を用いて行った。PETフィルム(帝人デュポンフィルム社製、商品名;G2、膜厚=16μm)に乾燥後の膜厚が15μmとなるように塗布した。次に、ドライヤーゾーンを95℃で6分間乾燥した後、保護層としてポリエチレンフィルム(タマポリ社製、商品名;GF−818、膜厚=19μm)を貼り合わせて感光性フィルムロールを得た。膜厚は、膜厚計(ID−C112B、Mitutoyo社製)を用いて測定した。
【0125】
<フレキシブルプリント配線板の製造>
フレキシブル基板ロール(エスパネックス(登録商標):MC12−20−00CEM、新日鐵化学社製)の銅面上に、JPCA−2006−DG2付属書2に準じ耐マイグレーション試験配線(導体幅/導体間げきは50/50μm、パターン数は10本)及び、ベタ銅箔部分(5cm×5cm)を形成した試験ロール基板を作成した。
【0126】
次に、ロール式熱真空ラミネーター(エム・シー・ケー社製、MVR−250)を用いて、ロール温度80℃、シリンダー圧0.4MPa、真空度=100Pa、速度1m/分に設定し、試験ロール基板の銅配線面に感光性フィルム(膜厚=15μm)をラミネートし、フレキシブルプリント配線板を得た。
【0127】
<実用特性評価>
感光性フィルムのリソグラフィパターン作製過程で実用特性を目視又は顕微鏡を用いて観察し、その品質により感光性フィルム積層体の実用特性評価を行った。以下の3つの評価について、◎又は○を合格とした。
【0128】
(光感度評価)
上記で得られたフレキシブルプリント配線板のベタ銅箔部分(5cm×5cm)を切り出し、ステップ・タブレット(Stouffer(登録商標)21)を配置した。そして、両者を真空密着させた後、超高圧水銀灯(HMW−201KB、オーク製作所社製)を用い50mJ/cmにて露光した。その後、得られた積層体からPETフィルムを剥がし、30℃、1.0質量%の炭酸ナトリウム水溶液にて30秒間、スプレー現像処理と水によるリンスを行った後、乾燥して感光性樹脂組成物のフォトリソグラフィーパターンを作製した。得られたフォトリソグラフィーパターンにより、現像除去されず銅面が完全に露出していない部分のステップ・タブレットの段数を観察した。
◎:8段以上
○:6〜7段
×:5段以下
【0129】
(現像残渣評価)
上記のフレキシブルプリント配線板の製造方法を用いて、50mの長さのフレキシブルプリント配線板ロールを作成した。得られたフレキシブル配線板ロールの0m、15m、30m、45mに位置するベタ銅箔部分(5cm×5cm)を切り出し、得られた積層体からPETフィルムを剥がし、30℃、1.0質量%の炭酸ナトリウム水溶液にて60秒間スプレー現像処理と水によるリンス、乾燥を行った。得られた基板を目視観察し、未処理の試験基板の銅面との色目を比較した。
○:0m、15m、30m、45mすべての基板において銅表面の色目の違いは無い
×:0m、15m、30m、45mいずれかの基板において現像除去された銅面が変色している
【0130】
(過現像条件下での配線被覆性の評価)
上記で得られたフレキシブルプリント配線板の耐マイグレーション試験配線(導体幅/導体間げきは50/50μm、パターン数は10本)を切り出し、超高圧水銀灯(HMW−201KB、オーク製作所社製)を用いて50mJ/cmにて露光した。その後、得られた積層体からPETフィルムを剥がし、30℃、1.0質量%炭酸ナトリウム水溶液にて80秒間スプレー現像処理と水によるリンスを行った後、乾燥した。得られた耐マイグレーション試験配線上の感光性フィルムの状態を光学顕微鏡(50倍)で観察した。評価の基準は次のとおりである。
◎:配線上の感光性フィルムの膨潤や剥離は観察されない
○:配線端部上の感光性フィルムの膨潤が観察されるが、剥離しておらず銅配線は露出していない
×:配線上の感光性フィルムが剥離し、銅配線が露出している
【0131】
<合成例>
(ポリイミド前駆体(A1))
窒素雰囲気下、ディーンシュタルク装置及び還流器を備えたセパラブルフラスコに、γ―ブチロラクトン(255g)、トルエン(51.0g)、ポリエーテルアミンD−400(86.8g(201.9mmol))、BPDA(120g(407.9mmol))を入れ、180℃まで昇温し、180℃で1時間加熱撹拌した。共沸溶媒であるトルエンを除去した後に、40℃まで冷却し、続いてAPB−N(48.4g(165.7mmol))を加え、40℃で4時間撹拌し、ポリイミド前駆体(A1)の溶液を得た。得られたポリイミド前駆体(A1)の重量平均分子量は23000であった。
【0132】
(ポリイミド前駆体(A2))
窒素雰囲気下、ディーンシュタルク装置及び還流器を備えたセパラブルフラスコに、γ―ブチロラクトン(80.0g)、トルエン(16.0g)、ポリエーテルアミンD−230(16.8g(73.04mmol))、BPDA(30.0g(102.0mmol))を入れ、180℃まで昇温し、180℃で1時間加熱撹拌した。共沸溶媒であるトルエンを除去した後に、40℃まで冷却し、続いてAPB−N(5.60g(19.16mmol))を加え、40℃で4時間撹拌し、ポリイミド前駆体(A2)の溶液を得た。得られたポリイミド前駆体(A2)の重量平均分子量は21000であった。
【0133】
(ホスファゼン化合物(G1))
ホスファゼン化合物(G1)は、特開2002−114981号公報の合成例17に記載の方法で合成した。
【0134】
攪拌装置、加熱装置、温度計及び脱水装置を備えた容量2リットルの四ツ口フラスコに4−シアノフェノール1.32モル(157.2g)、フェノール2.20モル(124.2g)、水酸化ナトリウム2.64モル(105.6g)及びトルエン1000mlを添加した。この混合物を加熱還流し、系から水を除き、シアノフェノール及びフェノールのナトリウム塩のトルエン溶液を調製した。このシアノフェノール及びフェノールのナトリウム塩のトルエン溶液に、1ユニットモル(115.9g)のジクロロホスファゼンオリゴマーを含む20%クロルベンゼン溶液580gを撹拌しながら内温30℃以下で滴下した。この混合溶液を12時間還流した後、反応混合物に5%水酸化ナトリウム水溶液を添加し2回洗浄した。次に有機層を希硫酸で中和した後、水洗を2回行い、有機層を濾過し、濃縮、真空乾燥して、目的物(ホスファゼン化合物(G1))を得た。
【0135】
<各成分の略号>
以下、実施例1から実施例11及び比較例1から比較例5を、表1に示される各成分を用いて作製した。表1に示す略号は以下の通りである。なお、表1においては、配合量を質量固形分比で表している。
(A)成分:ポリイミド前駆体
A1:ポリイミド前駆体(A1)
A2:ポリイミド前駆体(A2)
(B)成分:不飽和二重結合を有する重合性化合物
B1:BPE−500(EO変性ビスフェノールAジメタクリレート)
B2:SR−494(エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート)
B3:M−310(トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート)
(C)成分:光重合開始剤
C1:PBG−305(1,2−プロパンジオン−3−シクロペンチル−1−[4−(フェニルチオ)フェニル]−2−(O−ベンゾイルオキシム))
C2:OXE−01(1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)フェニル]−,2−(O−ベンゾイルオキシム))
C3:オキシムエステル化合物(C3)(1,2−プロパンジオン,3−シクロヘキシル−1−[9−エチル−6−(2−フラニルカルボニル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,2−(O−アセチルオキシム))
(D)成分:酸化防止剤
D1:Bis26X−A(4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス[2,6−ジメチルフェノール])
D2:TM−BPF(4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルフェノール))
D3:BIS−2,6−XYLENOL−P(4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビス(2,6−ジメチルフェノール))
D4:ビス(4−ヒドロキシー3,5−ジメチルフェニル)スルホン
D5:2,2−ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン
D6:2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン
D7:4,4’−チオビス[3−メチル−6−(1,1−ジメチルエチル)フェノール]
D8:4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)
D9:2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール
D10:4−メトキシフェノール
D11:4,4’−メチレンジフェノール
(E)成分:ニトロソ化合物、及び/又は、ニトロ化合物(重合禁止剤)
E1:Q−1301(N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム)
(F)成分:ブロックイソシアネート
F1:SBN−70D(ブロックイソシアネート)
(G)成分:リン化合物
G1:ホスファゼン化合物(G1)
(H)成分:その他化合物
H1:OPLAS GREEN533(ソルベントグリーン−3)
【0136】
ここで、上記したD1〜D11は以下の一般式(9)〜一般式(19)により示される。
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【0137】
【表1】
【0138】
【表2】
【0139】
上記の表2は、実施例1から実施例11及び比較例1から比較例5におけるポリイミド前駆体100質量部に対する酸化防止剤の質量部数を示した表である。
【0140】
実施例1から実施例11及び比較例1から比較例5の作製方法について以下、具体的に説明する。
【0141】
[実施例1]
ポリイミド前駆体(A1)47質量部に対して、BPE−500(B1)(18質量部)、SR−494(B2)(10質量部)、PBG−305(C1)(0.6質量部)、オキシムエステル化合物(C3)(0.5質量部)、Bis26X−A(D1)(0.8質量部)、Q−1301(E1)(0.1質量部)、SBN−70D(F1)(10質量部)、ホスファゼン化合物(G1)(18質量部)、OPLAS GREEN533(H1)(0.2質量部)を混合し、感光性樹脂組成物を調整した。そして、得られた感光性樹脂組成物を用い、上述した方法にて15μm厚みの感光性フィルムを作製した。この感光性フィルムを上述の方法にて、光感度、現像残渣、配線被覆性について評価した。評価結果を下記の表3に示す。
【0142】
[実施例2]
酸化防止剤において、表1に記載の量で添加したこと以外は実施例1と同様にして15μm厚みの感光性フィルムを作製した。この感光性フィルムを上述の方法にて、光感度、現像残渣、配線被覆性について評価した。評価結果を下記の表3に示す。
【0143】
[実施例3]
ポリイミド前駆体及び光重合開始剤として、表1に記載の化合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして15μm厚みの感光性フィルムを作製した。この感光性フィルムを上述の方法にて、光感度、現像残渣、配線被覆性について評価した。評価結果を下記の表3に示す。
【0144】
[実施例4から実施例6及び実施例8から実施例11]
酸化防止剤として、表1に記載の化合物を表1に記載の量で添加したこと以外は実施例1と同様にして15μm厚みの感光性フィルムを作製した。この感光性フィルムを上述の方法にて、光感度、現像残渣、配線被覆性について評価した。評価結果を下記の表3に示す。
【0145】
[実施例7]
不飽和二重結合を有する重合性化合物及び酸化防止剤として、表1に記載の化合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして15μm厚みの感光性フィルムを作製した。この感光性フィルムを上述の方法にて、光感度、現像残渣、配線被覆性について評価した。評価結果を下記の表3に示す。
【0146】
[比較例1]
酸化防止剤を添加しないこと以外は実施例1と同様にして15μm厚みの感光性フィルムを得た。この感光性フィルムを上述の方法にて、光感度、現像残渣、配線被覆性について評価した。評価結果を下記の表3に示す。
【0147】
[比較例2及び比較例3]
光重合開始剤及び酸化防止剤として、表1に記載の化合物を表1に記載の量で添加したこと以外は実施例1と同様にして15μm厚みの感光性フィルムを作製した。この感光性フィルムを上述の方法にて、光感度、現像残渣、配線被覆性について評価した。評価結果を下記の表3に示す。
【0148】
[比較例4及び比較例5]
酸化防止剤として、表1に記載の化合物を表1に記載の量で添加したこと以外は実施例1と同様にして15μm厚みの感光性フィルムを作製した。この感光性フィルムを上述の方法にて、光感度、現像残渣、配線被覆性について評価した。評価結果を下記の表3に示す。
【0149】
【表3】
【0150】
実施例1から実施例11で得られた感光性フィルムロールを使用した配線保護膜は、比較例1から比較例5の感光性フィルムロールを使用した配線保護膜と比較して、光感度、現像残渣、及び過現像条件下での配線被覆性のいずれも良好であった。また、実施例1から実施例6で得られた感光性フィルムロールを使用した配線保護膜は、特に優れた配線被覆性を有する。これは、酸化防止剤の現像残渣抑止効果が高く、添加量を減量でき、露光時の硬化反応の阻害を最小限に抑えられるためと思われる。実施例1から実施例6では、酸化防止剤として、4,4’−(1−メチルエチリデン)ビス[2,6−ジメチルフェノール])、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビス(2,6−ジメチルフェノール)、ビス(4−ヒドロキシー3,5−ジメチルフェニル)スルホンのいずれかを用いた。これら酸化防止剤は、フェノールの2,6位にメチル基があり、これにより、より効果的に、現像残渣抑止効果が高くなる。また、実施例7以外の実施例では、(B)成分:不飽和二重結合を有する重合性化合物として、SR−494(エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート)を使用したが、これにより、配線被覆性の向上効果を有することがわかった。また実施例3では、(C)成分:光重合開始剤をC2に変えたため、若干光感度が落ちる結果になったが、C2も問題なく使用できるレベルの光重合開始剤であることが確認できた。
【0151】
一方、比較例1に記載の感光性フィルムロールには、酸化防止剤が添加されていないため、現像残渣の発生を抑えることができないことがわかった。また比較例2に記載の感光性フィルムロールでは、酸化防止剤を増量することで現像残渣は抑えられるが、露光時の硬化反応が阻害され光感度と配線被覆性を満足することができないことがわかった。さらに比較例3に記載の感光性フィルムロールでは、比較例2に対して酸化防止剤を減量することで光感度と配線被覆性を満足することができたが、酸化防止剤の添加量が十分ではないため現像残渣が発生してしまうことが分かった。また比較例4及び比較例5記載の感光性フィルムロールでは、酸化防止剤の効果が低いため現像残渣を抑えることができず、また添加量を増量することで配線被覆性も悪化することがわかった。
【0152】
以上より、本実施例の感光性樹脂組成物は、光感度、現像残渣抑止効果及び配線被覆性がいずれも良好であり、本実施例の感光性樹脂組成物からなる感光性フィルムは、ロールtoロール生産方式における適合性や生産性の向上に寄与するフレキシブルプリント配線板に好適な配線保護膜であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明では、光感度に優れ、信頼性が高い配線保護層(感光性フィルム)を得ることができ、特に、半導体素子の表面保護膜、層間絶縁膜、半導体パッケージ基板、フレキシブルプリント基板用保護絶縁膜の分野に好適に利用できる。