(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ハロゲン化星状分岐ブチルゴムを60質量部以上含むゴム成分100質量部に対し、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンを1〜10質量部含有する、請求項1記載のタイヤインナーライナー用ゴム組成物。
【背景技術】
【0002】
チューブレス空気入りタイヤにおいては、気密性を確保するために、タイヤ内面にインナーライナーと呼ばれる空気透過性の低いゴム層が設けられている。かかるインナーライナーを形成するゴム組成物には、耐空気透過性に優れるブチル系ゴムがゴム成分として使用されており、従来様々な提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ゴム成分としてC
4〜C
7イソオレフィン及びアルキルスチレンのハロゲン化インターポリマーを含むゴム組成物が提案されており、二次ゴム成分としてハロゲン化星状分岐ブチルゴムを用いてもよいことが開示されている。また、特許文献2には、ブチル系ゴムを含むゴム成分にハイドロタルサイトを配合した場合におけるハイドロタルサイトの分散不良を抑制するために、無水フタル酸及び/又は無水マレイン酸を配合することが開示されている。
【0004】
なお、インナーライナー用ゴム組成物に関するものではないが、特許文献3には、有機化処理された層状粘土鉱物をゴム中に微分散させるために、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンなどの無水マレイン酸基含有化合物を配合することが開示されている。また、特許文献4には、ジエン系ゴムに可塑性を付与しつつブルームを抑制したジエン系ゴム用加工助剤として、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンをアミド化又はエステル化した化合物を用いることが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係るタイヤインナーライナー用ゴム組成物は、ハロゲン化星状分岐ブチルゴムを含むゴム成分と、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンと、を含有するものであり、これにより、未加硫状態での粘着性(タック)を向上することができる。その理由は、限定することを意図するものではないが、次のように推測される。すなわち、ハロゲン化星状分岐ブチルゴムが分岐構造を持つうえに、その分子中のハロゲンと無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン中の無水マレイン酸基の酸素原子とが相互作用することにより、架橋構造に類似した網目状のマトリクス構造が形成され、この網目状のマトリクス構造によりステアリン酸などの薬品が捕捉されてゴム表面への移行が阻害されるものと考えられる。また、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンは、液状であるが故に混練時や加工時にオイルの代替にもなる一方で、混練後は上記の相互作用によりゴム表面に移行しにくいので、移行しやすいオイルを削減ないし除去することができ、これによりオイルとともに移行する薬品の移行を一層抑制することができると考えられる。
【0011】
ゴム成分として用いるハロゲン化星状分岐ブチルゴムは、星状に分岐したハロゲン化ブチルゴムであり、スターブランチハロゲン化ブチルゴムとも称される。星状分岐としては、主鎖上の同じ又は近い位置にある分岐点から数本の(普通は線状)枝分かれ(例えば3〜6本)が出ている場合が挙げられる。かかる分岐構造を持つことにより、薬品の移行を抑制して粘着性を改善する効果を高めることができる。
【0012】
ハロゲン化星状分岐ブチルゴムについては、例えば、特許第2865299号公報、特表2005−533163号公報、特表2008−525628号公報などに記載されており、一実施形態として、ハロゲン化又は非ハロゲン化のブチルゴム、及び、ハロゲン化又は非ハロゲン化のポリジエン又はブロックコポリマーを含む組成物が挙げられる。ここで、ポリジエン又はブロックコポリマーが分岐剤であり、陽イオン反応により星状分岐したポリマーが形成される。なお、分岐剤の量は、全モノマー質量基準で、0.3質量%以上でもよく、0.3〜3質量%でもよい。
【0013】
ハロゲン化星状分岐ブチルゴムとしては、例えば、臭素化星状分岐ブチルゴム及び/又は塩素化星状分岐ブチルゴムが挙げられ、耐熱性の観点から臭素化星状分岐ブチルゴムを用いることがより好ましい。ハロゲンの含有量は、特に限定されず、ハロゲン化星状分岐ブチルゴムの質量に基づいて、0.1〜10質量%でもよく、0.5〜5質量%でもよく、1〜3質量%でもよい。
【0014】
このようなハロゲン化星状分岐ブチルゴムとしては、エクソンモービル・ケミカル社製「ブロモブチル6222」が市販されており、好適に使用可能である。ブロモブチル6222は、27〜37のムーニー粘度(125℃でのML
1+8、ASTM D1646)と、2.2〜2.6質量%の臭素含有量と、MHが24〜38dN・mかつMLが6〜16dN・m(ASTM D2084)の硬化特性を有するものである。
【0015】
本実施形態に係るゴム組成物において、ゴム成分は、上記ハロゲン化星状分岐ブチルゴムを含むものであり、ハロゲン化星状分岐ブチルゴム単独でも、ハロゲン化星状分岐ブチルゴムと他のゴムとのブレンドでもよい。併用する他のゴムとしては、例えば、星状分岐でないハロゲン化ブチルゴム(例えば、臭素化ブチルゴム(BIIR)、塩素化ブチルゴム(CIIR)など)、及びブチルゴム(IIR)の他、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン−イソプレンゴム、ブタジエン−イソプレンゴム、スチレン−ブタジエン−イソプレンゴムなどのジエン系ゴムが挙げられ、これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、上記他のゴムとしては、星状分岐でないハロゲン化ブチルゴム、ブチルゴム、及び天然ゴムからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、より好ましくは星状分岐でないハロゲン化ブチルゴムである。
【0016】
ゴム成分中に占めるハロゲン化星状分岐ブチルゴムの比率としては、60質量%以上であること(即ち、ゴム成分100質量部中に60質量部以上含まれること)が好ましく、より好ましくは80質量%以上である。
【0017】
なお、以上のゴム成分は、常温(23℃)で流動性を持たない固形状のゴムからなるものであり、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンは該ゴム成分には含まれない。ゴム成分に用いる固形状のゴムの数平均分子量(Mn)は通常10万以上であり、一実施形態としてMnは10万〜150万でもよい。本明細書において、数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)、溶媒:THF(テトロヒドロフラン)、40℃で測定される値(ポリスチレン換算値)である。
【0018】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記のように、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンが配合される。無水マレイン酸基の酸素原子がハロゲン化星状分岐ブチルゴムのハロゲンと相互作用することで、ステアリン酸などの薬品の移行が抑制され、これにより粘着性が改善されると考えられる。なお、無水マレイン酸単独では、ポリマー鎖が無いので、薬品の移行を抑制することができず、粘着性の改善効果は得られない。
【0019】
無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンは、常温(23℃)で流動性を持つ液状のポリブタジエンである。常温で流動性を持つため、その数平均分子量(Mn)は、1000〜50000であることが好ましく、より好ましくは1000〜15000である。そのため、数平均分子量が通常10万以上である上記ゴム成分とは区別される。無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンは、オイルの一部又は全部を置換する成分として用いてもよいが、置換して配合する場合に限定されるものではない。
【0020】
無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンは、一実施形態において、液状ポリブタジエンに無水マレイン酸を付加させて得られる。無水マレイン酸基は、ポリブタジエンの分子鎖の末端(両末端又は片末端)に導入されてもよく、あるいはまた分子鎖中の1箇所又は複数箇所に導入されてもよく、一実施形態として、分子鎖中にランダムに導入されてもよい。
【0021】
無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンのミクロ構造は特に限定されない。ポリブタジエンにおける主鎖のミクロ構造について、シス−1,4結合単位の含有量は、一実施形態において40質量%以上でもよく、60〜90質量%でもよい。ここで、シス−1,4結合単位の含有量は、赤外吸収スペクトル法(モレロ法)によって求められる。
【0022】
無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンは、DIN EN ISO 3219に準拠して測定された常温(20℃)での粘度が、3000〜16000mPa・sでもよく、5000〜13000mPa・sでもよく、6000〜9000mPa・sでもよい。
【0023】
無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンは、DIN EN ISO 2114に準拠して測定された酸価が、20〜160mgKOH/gでもよく、50〜140mgKOH/gでもよく、70〜90mgKOH/gでもよい。
【0024】
無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンの配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜8質量部であり、3〜7質量部でもよい。
【0025】
本実施形態に係るゴム組成物には、カーボンブラックやシリカなどの充填剤を配合してもよい。充填剤としては、カーボンブラックを用いることが好ましい。充填剤(好ましくはカーボンブラック)の配合量は、特に限定されず、ゴム成分100質量部に対して、20〜100質量部でもよく、30〜80質量部でもよい。
【0026】
本実施形態に係るゴム組成物には、ステアリン酸を配合してもよい。ステアリン酸の配合量は、特に限定されず、ゴム成分100質量部に対して、0.1〜5質量部でもよく、0.3〜3質量部でもよい。
【0027】
本実施形態に係るゴム組成物には、亜鉛華(ZnO)を配合してもよい。亜鉛華は、ハロゲン化ブチルゴムの加硫剤(架橋剤)として配合されるものであり、その配合量は、ゴム成分100質量部に対して0.5〜10質量部でもよく、1〜5質量部でもよい。
【0028】
本実施形態に係るゴム組成物には、粘着付与剤を配合してもよい。粘着付与剤は、未加硫ゴム組成物に粘着性を付与する添加剤であり、タッキファイヤーとも称される。粘着付与剤としては、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂などの炭化水素樹脂が好ましく、より好ましくは炭素数4〜5個相当の石油留分であるイソプレンやシクロペンタジエンなどの不飽和モノマーをカチオン重合することにより得られるC5系石油樹脂である。粘着付与剤の配合量は、特に限定されず、ゴム成分100質量部に対して、1〜15質量部でもよく、2〜10質量部でもよい。
【0029】
本実施形態に係るゴム組成物には、上述した各成分の他、老化防止剤、オイル、加工助剤、硫黄、加硫促進剤など、インナーライナー用ゴム組成物に通常配合される各種添加剤を配合することができる。硫黄としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などが挙げられ、その配合量は、ゴム成分100質量部に対して3質量部以下(配合しなくてもよい。)であることが好ましく、より好ましくは0.1〜2質量部である。オイルの配合量は、ゴム成分100質量部に対して5質量部以下であることが好ましく、耐ガス透過性の観点からは実質的に含まれないこと(詳細には1質量部未満)が好ましい。
【0030】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。得られたゴム組成物は、空気入りタイヤのインナーライナーを構成するゴム組成物として用いることができる。例えば、常法に従って、ロールや押出機などでシート状物とし、該シート状物をインナーライナーとして成型ドラム上に巻き付ける。このインナーライナー上にカーカスプライを貼り付け、更にベルト、トレッドゴム及びサイドウォールゴムなどの各タイヤ部材を貼り重ねるとともにインフレート(拡張)することによりグリーンタイヤ(未加硫タイヤ)が作製される。該グリーンタイヤをモールド内で加硫成型することにより、タイヤ内面に薄いゴム層よりなるインナーライナーを備えた空気入りタイヤが得られる。なお、インナーライナーの厚みは、タイヤサイズなどにより異なるが、通常は0.5〜3.0mmである。
【0031】
本実施形態によれば、上記のように、ハロゲン化星状分岐ブチルゴムと無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンとを併用したことにより、未加硫状態での粘着性を向上することができるので、タイヤ成型の拡張時にインナーライナーが剥がれることを抑制することができる。なお、空気入りタイヤの用途としては、特に限定されず、乗用車用、トラックやバスの重荷重用など各種用途、サイズの空気入りタイヤに用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、タイヤインナーライナー用ゴム組成物を調製した。表1中の各成分の詳細は、以下の通りである。
【0034】
・臭素化ブチルゴム:エクソンモービル・ケミカル社製「ブロモブチル2222」(ムーニー粘度(125℃でのML
1+8、ASTM D1646):31)
・臭素化星状分岐ブチルゴム:エクソンモービル・ケミカル社製「ブロモブチル6222」(臭素含有量:2.4質量%)
・カーボンブラック:GPF、東海カーボン(株)製「シーストV」
・粘着付与剤:C5系石油樹脂、エクソンモービル・ケミカル社製「エスコレッツ1102」
・オイル:JX日鉱日石エネルギー社製「NC−140」
・無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン:エボニック社製「POLYVEST MA75」(Mn:3000、ポリブタジエンにおけるシス−1,4結合単位含有量:75質量%、粘度(20℃):6000〜9000mPa・s、酸価:70〜90mgKOH/g)
・無水マレイン酸:東京化成工業(株)製
・マレイン化ポリブタジエンステアレート:特開昭62−072733号公報の実施例(加工助剤4)に基づいて作製(詳細には、無水マレイン酸変性液状ポリブタジエン(1.0モル)にステアリルアルコール(1.3モル)、ジオクチル酸スズ(0.1%対全系)を窒素気流中で180℃、3時間脱水反応することにより得た。)
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華3号」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーDM−P」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「5%油処理粉末硫黄」
【0035】
得られた各ゴム組成物について、未加硫状態での粘着性を評価した。評価は、試験用ロールを用いて厚み1mmの未加硫ゴムシートを作製し、23℃で24時間放置した後、該未加硫ゴムシートを用いてタックテスター(東洋精機製作所製)により、粘着力を測定し、粘着性(タッキネス)を評価した。比較例1の値を100とする指数で示し、値が大きいほど粘着性が高く、良好である。
【0036】
結果は表1に示す通りであり、コントロールである比較例1に対し、オイルの代替として無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンを用いた比較例2では粘着性の改善効果は得られなかった。また、ゴム成分として臭素化星状分岐ブチルゴムを用いたものの、ポリマーでない無水マレイン酸を併用した比較例3や、エステル化した無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンを併用した比較例4では、粘着性の改善効果は得られなかった。これに対し、臭素化星状分岐ブチルゴムと無水マレイン酸変性液状ポリブタジエンを併用した実施例1,2では、粘着性が顕著に改善されていた。
【0037】
【表1】