(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼は、耐候性、加工性、溶接性等に優れることから、屋根材、壁材、建築部材等の建材用途で多用されている。また、ステンレス鋼管は、意匠性にも優れるため、表面研磨されて手摺、フェンス、パイプシャッター等の用途で使用されている。
【0003】
このステンレス鋼管の一般的、工業的な研磨は、まず研磨前素管の疵等の除去のために、疵取り研磨を行い、次に仕上げ研磨および光沢研磨等を行っている。この研磨作業における粗研磨、仕上げ研磨では、フラップホイールや研磨ベルト等を使用した乾式研磨が行われている。さらに、上記工程後、所望の表面を得るためにバフ研磨による湿式研磨を行う場合がある。
【0004】
従来より、ステンレス鋼は、素材として優れた耐候性を有しているものの、研磨仕上げの状態によっては、本来素材がもつ耐候性を発揮せず、著しく発銹を生じる場合があり、ステンレス鋼の耐候性の安定性(信頼性)をなくす要因の一つとなっている。例えば、屋外の手摺等へ施工した後、1ヶ月程度の短期間で発銹する場合がある。
【0005】
発銹については、ステンレス鋼管の研磨後の表面に残存している酸化皮膜や研磨目が起点になっていると考えられている。残存する酸化皮膜とは、研磨時の発熱に起因して生成された皮膜であり、酸化皮膜の直下にはCr欠乏層が形成されている。このため、酸化皮膜が残存していると、該酸化皮膜及びその直下のCr欠乏層を起点として発銹が進行し、耐食性が劣化しやすくなる。また、研磨によってステンレス鋼管表面に刻まれた疵である研磨目についても、研磨目の凹部が深いほど、フラップホイール研磨等で生成した酸化皮膜がバフ研磨で除去され難くなって残存する可能性が高くなり、その研磨目の凹部が発銹起点になることから、発銹が進行し、耐食性が劣化しやすくなる。
【0006】
特許文献1では、屋外環境においても短期間で発銹が生じることのない表面研磨状態にして、長期にわたって光沢性、耐候性を維持できるステンレス管を提案している。
【0007】
特許文献1に記載の発明は、最終研磨後の表面粗さがRy0.6μm以下で、残存する酸化皮膜の面積率が7.0%以下のステンレス鋼管である。すなわち、最終研磨後の表面粗さをRy0.6μm以下とすることによって、研磨目の凹部に残存する酸化皮膜を少なくしようとしている。また、残存する酸化皮膜の面積率が7.0%以下とすることによって、該酸化皮膜及びその直下のCr欠乏層を起点とした発銹の進行及び耐食性の劣化を抑制しようとしている。
【0008】
しかしながら、特許文献1の実施例を参照すると、耐候性合格品における残存酸化皮膜面積率は3.1〜6.8%であり、酸化皮膜は残存している。このため、残存した酸化皮膜及びその直下のCr欠乏層を起点として発銹が進行し耐食性が劣化し得るという問題は、依然として残っている。
【0009】
特許文献2には、フッ酸及び硝酸の混合液にステンレス鋼管を浸漬し、ステンレス鋼表面の酸化スケールやスケール層直下のCr欠乏層を溶解することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年、都市再開発などに伴い建築需要が増加しており、ウォーターフロント環境における建築需要が増加している。ウォーターフロント環境においては、大気中に含まれるエアロゾル粒子の一種であって、海水に由来する塩分からなる微粒子である海塩粒子の影響を建築部材が受けやすいという問題がある。このため、より高い耐食性を有する建築部材のニーズが高まっている。
【0012】
特許文献1では、耐候性に優れるステンレス鋼管の鋼種の一つとして、SUS304を挙げている。しかしながら、海塩粒子の影響を受けるウォーターフロント環境では、SUS304は早期に発銹してしまい、メンテナンスが必要になるという問題がある。
【0013】
特許文献2では、ステンレス鋼管を酸洗する溶液として5%フッ酸及び15%硝酸の混合液を用いている。しかしながら、当該溶液で酸洗しても、早期に発銹してしまう場合があり、ステンレス鋼管の耐食性は十分ではない。
【0014】
本発明は、上述した課題を解決し、海塩粒子の影響を受けるウォーターフロント環境でも、早期に発銹することのない、耐食性に優れたステンレス鋼管及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、特許文献1に記載のステンレス鋼管について検討を行った。特許文献1の実施例においては、フラップホイールによる乾式研磨を行っている。このため、乾式研磨であるフラップホイール研磨時にステンレス鋼管表面が高温となり酸化被膜が発生するとともに、乾式研磨による高い研削抵抗によって刻まれた疵である研磨目とともに、表面欠陥が生じていることを突き止めた。ここでいう表面欠陥とは、鋼管表面を研磨する時に研磨材や研磨紙が連続して鋼管表面に接触し、表面の金属が部分的に剥がされ、素地部分に被さった「バリ」や「かぶさり」と呼称されている。表面欠陥は、短冊状や笹の葉状のように金属がめくれている部分を含み、素地に接着している部分における一方の端部から剥がれの先端における他方の端部までの最大長さが5μm以上の欠陥である。当該表面欠陥は、ステンレス鋼管の表面素地部分と微小な隙間を形成することから、隙間腐食を生じやすく、鋼管の耐食性低下の要因となる。
【0016】
本発明者らは、研磨されたステンレス鋼管表面に着色を有する酸化皮膜が存在せず、表面上における表面欠陥が抑制されていることによって、海塩粒子の影響を受けるウォーターフロント環境でも、早期に発銹することのない、耐食性に優れたステンレス鋼管となると考えた。このような耐食性に優れたステンレス鋼管を得るために、ステンレス鋼管を酸洗する溶液中のフッ化水素酸及び硝酸の含有量を検討し、酸化皮膜や表面欠陥を抑制する最適な表面処理条件を見出したものである。
【0017】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)の耐食性に優れたステンレス鋼管及びその製造方法を提供する。
(1)研磨目をステンレス鋼管の表面に有し、着色を有する酸化皮膜が該表面上に存在せず、該表面上における表面欠陥が抑制された、孔食電位が0.4V以上である、耐食性に優れたステンレス鋼管。
【0018】
本発明のステンレス鋼管は、研磨目をステンレス鋼管の表面に有することから、意匠性や防眩性に優れる。また、着色を有する酸化皮膜がステンレス鋼管表面上に存在しないことから、酸化皮膜及びその直下のCr欠乏層を起点とする発銹が進行しにくく、耐食性が劣化しにくい。さらに、ステンレス鋼管表面上における表面欠陥が抑制されていることから隙間腐食を抑制された、孔食電位が0.4V以上の耐食性に優れたステンレス鋼管となる。
【0019】
(2)5μm以上の金属素地の被さりを含む上記表面欠陥の平均個数が上記表面上0.01mm
2当たり5個以内に抑制された、(1)記載のステンレス鋼管。
【0020】
本発明のステンレス鋼管表面上における5μm以上の金属素地の被さりを含む表面欠陥の平均個数が表面上0.01mm
2当たり5個以内に抑制されていると、隙間腐食を抑制し、耐食性に優れたステンレス鋼管となることから、好ましい。
【0021】
(3)上記研磨目が長手一方向の研磨目を含む、(1)又は(2)に記載のステンレス鋼管。
【0022】
長手一方向の研磨目を有するステンレス鋼管は、防眩性に優れる点で好ましい。従来、長手一方向の研磨目を付与するために湿式研磨を行おうとすると、ステンレス鋼管が滑って搬送できず、研磨できないという問題があり、乾式研磨が必要であった。このため、上述のように乾式研磨によって、長手一方向の研磨目を有するステンレス鋼管表面には酸化皮膜と表面欠陥が形成されるという問題があった。これに対し、本発明では酸洗における最適な表面処理条件を見出したことにより、酸化皮膜や表面欠陥を抑制した、長手一方向の研磨目を有するステンレス鋼管を提供することができる。
【0023】
(4)ステンレス鋼管がフェライト系ステンレス鋼管であり、耐孔食指数(PI)が20以上である、(1)〜(3)のいずれかに記載のステンレス鋼管。
ただし、PIは以下の式(1)で与えられる。
PI=Cr+3Mo 式(1)
【0024】
従来、耐候性に優れるとされたステンレス鋼管の鋼種の一つであるSUS304は、海塩粒子の影響を受けるウォーターフロント環境では、早期に発銹してしまう。これに対し、耐孔食指数(PI)が20以上の本発明のフェライト系ステンレス鋼管は、耐食性に優れ、早期の発銹を抑制することができる。
【0025】
(5)60度光沢度が75以下である、(1)〜(4)のいずれかに記載のステンレス鋼管。
【0026】
本発明のステンレス鋼管は、60度光沢度が75以下であれば、防眩性により優れた、高耐食性ステンレス鋼管となる点で好ましい。
【0027】
(6)研磨後のステンレス鋼管の表面を、酸性溶液に浸漬させる工程を有し、該酸性溶液はフッ化水素酸を3〜12質量%、硝酸を3〜12質量%含有する、(1)〜(5)のいずれかに記載のステンレス鋼管の製造方法。
【0028】
本発明のステンレス鋼管の製造方法によれば、酸化皮膜や表面欠陥を抑制する最適な表面処理条件を実現できる。これにより、研磨されたステンレス鋼管表面に着色を有する酸化皮膜が存在せず、表面上における表面欠陥が抑制されていることによって、海塩粒子の影響を受けるウォーターフロント環境でも、早期に発銹することのない、耐食性に優れたステンレス鋼管を製造することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、海塩粒子の影響を受けるウォーターフロント環境でも、早期に発銹することのない、耐食性に優れたステンレス鋼管及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に本発明を実施するための形態について説明する。なお、本発明は当該実施形態によって限定的に解釈されるものではない。
【0032】
(ステンレス鋼管)
本発明のステンレス鋼管は、研磨目をステンレス鋼管の表面に有し、着色を有する酸化皮膜が該表面上に存在せず、該表面上における表面欠陥が抑制されている、孔食電位が0.4V以上の耐食性に優れたステンレス鋼管である。
【0033】
本発明において、ステンレス鋼管は表面に凹凸や光沢を付与するために表面の研磨仕上げが行われたものである。これにより、ステンレス鋼管は研磨目を備え、意匠性や防眩性に優れたステンレス鋼管となる。研磨目とは、研磨によってステンレス鋼管表面に刻まれた疵である。
【0034】
研磨後の表面の研磨目は、研磨目の凹部が深いほど、フラップホイール研磨等で生成した酸化皮膜が残存する可能性が高くなり、その研磨目の凹部が発銹起点になって、発銹が進行し、耐食性が劣化しやすくなる。よって、本発明におけるステンレス鋼管表面の研磨後の表面粗さRaは、0.1〜1.0μmであることが好ましく、0.2〜0.5μmであることがより好ましい。研磨後の表面粗さは、JIS B 0601に準拠し測定されたものであり、例えば接触式の表面粗度計によって測定できる。
【0035】
研磨仕上げとしては、従来よりフラップホイール等による乾式研磨が行われているが、乾式研磨を行うとステンレス鋼管の表面が高温となり、酸化皮膜が形成される。一方、本発明のステンレス鋼管においては、着色を有する酸化皮膜が表面上に存在しないことを特徴とする。この理由として、本発明のステンレス鋼管は、研磨後の酸洗処理において、フッ化水素酸を3〜12質量%、硝酸を3〜12質量%と特定の範囲とした酸性溶液を用いることによって、表面の酸化皮膜が十分に除去されることによるものと本発明者らは考えている。
【0036】
研磨目は長手一方向の研磨目であることが好ましい。長手一方向の研磨目を有するステンレス鋼管は、防眩性に優れる。ここで、長手一方向の研磨目を付与するために湿式研磨を行おうとすると、ステンレス鋼管が滑って搬送できず、研磨できないという問題があり、乾式研磨が必要であった。このため、上述のように乾式研磨によって、長手一方向の研磨目を有するステンレス鋼管表面には酸化皮膜と表面欠陥が形成されるという問題があった。これに対し、本発明では酸洗における最適な表面処理条件を見出したことにより、酸化皮膜や表面欠陥を抑制した、長手一方向の研磨目を有するステンレス鋼管を提供することができる。
【0037】
本発明において、着色を有する酸化皮膜が存在するとは、ステンレス鋼管の表面の任意の10点を光学顕微鏡で400倍の倍率で観察したときに、着色を有するシミ状物質である酸化皮膜が50μm四方において面積比率で5%以上存在している場合をいう。ここで、着色は特定に限定されず、ステンレス鋼管の金属素地や金属光沢と目視で区別できる色であればよい。着色として代表的な色は、茶褐色である。
【0038】
また、研磨仕上げとして、フラップホイール等による乾式研磨を行うと、ステンレス鋼管表面に研磨材や研磨紙が連続して接触し、表面の金属が部分的に剥がされ素地部分に被さったバリやかぶさりである表面欠陥が生じる。該表面欠陥は、ステンレス鋼管の表面素地部分と微小な隙間が生じることから、隙間腐食の要因となる。
【0039】
図1は、ステンレス鋼管の表面を光学顕微鏡で拡大した写真であり、(a)表面欠陥が抑制された表面と、(b)表面欠陥が生じた表面である。
図1(a)は本発明のステンレス鋼管の表面であり、研磨目を有しているが表面欠陥は抑制されている。一方、
図1(b)はステンレス鋼管表面を乾式研磨したものであり、囲み部分1〜9は、表面の金属が部分的に剥がされ素地部分に被さった表面欠陥を示している。本発明者らは、
図1(a)のように本発明のステンレス鋼管表面が研磨後に表面欠陥が抑制されている理由として、研磨後の酸洗処理において、フッ化水素酸の濃度を3〜12質量%、硝酸の濃度を3〜12質量%と特定の範囲とした酸性溶液を用いることによって、研磨後の表面欠陥が十分に除去されることによるものと本発明者らは考えている。なお、
図1中の白色の横線は研磨の際にできる凸部を示し、凸部である白色の横線と隣の白色の横線との間の凹部が、研磨目である。
【0040】
本発明において、表面欠陥は、欠陥における最大の長さ部分が5μm以上の大きさの金属素地の被さりを有するものをいう。また、光学顕微鏡を用いて研磨されたステンレス鋼管表面の任意の10点における100μm×100μm(0.01mm
2)の範囲を200倍に拡大し観察した場合に、測定した表面欠陥の数の平均が5個以内の場合は、本発明における表面欠陥が抑制された状態として好ましい。研磨されたステンレス鋼管表面上の表面欠陥の数は、100μm×100μm(0.01mm
2)の単位面積当たり3個以内がより好ましく、さらに好ましくは2個以内である。なお、表面欠陥の最大の長さ部分に上限はないが、測定する際の基準として上限を50μmとしてもよい。
【0041】
図2及び
図3は、表面欠陥と電流密度変化の関係を示す図であり、
図2(a)はステンレス鋼管の表面欠陥を示す拡大写真、
図3(a)はステンレス鋼管の表面欠陥が抑制された表面を示す拡大写真であり、
図2(b)及び
図3(b)は、
図2(a)及び
図3(a)のステンレス鋼管の孔食電位測定における電流密度変化を示すグラフである。
【0042】
ステンレス鋼の孔食電位測定方法は、JIS G 0577に準拠し、B法を用いる。B法は、3.5質量%塩化ナトリウム水溶液中における動電位法による孔食電位測定法である。該塩化ナトリウム水溶液のpHは7とし、温度は30℃とする。また、電位掃引速度は20mV/分とする。
【0043】
本発明のステンレス鋼管は、孔食電位が0.4V以上である。より好ましくは0.5V以上であり、さらに好ましくは0.6V以上である。
図3(a)は、本発明のステンレス鋼管の表面であり、表面欠陥が抑制されている。このため、
図3(b)に示すように孔食電位が約0.5Vと高く、耐食性に優れている。一方、
図2(a)のように表面欠陥を有するステンレス鋼管は、
図2(b)に示すように孔食電位が0.4Vを下回り、耐食性に劣っている。
【0044】
図3(a)及び(b)に示すとおり、表面欠陥が抑制された表面を有するステンレス鋼管の場合は、孔食電位測定における電流密度変化において、孔食電位未満の電位における電流密度の値の変化は小さく、自然電位から孔食電位までの間、すなわち電位が0.1〜0.5の範囲(
図3(b)のB部分)における電流密度の変化率(最大電流密度/最小電流密度)が10以上を示す部分は認められない。
【0045】
一方、
図2(a)及び2(b)に示すとおり、表面欠陥を有するステンレス鋼管の場合は、孔食電位測定における電流密度変化において、孔食電位未満の電位における電流密度の値の変化が大きく、自然電位から孔食電位までの間、すなわち電位が0.1〜0.3の範囲(
図2(b)のA部分)における電流密度の変化率が10を超えた部分が10箇所以上ある。この電流密度の大きな変化は、腐食が生じたことに起因する。したがって表面欠陥が存在することで生じた隙間腐食の存在を示すと本発明者らは推察している。よって、本発明においては、孔食電位測定における電流密度変化において、電位が自然電位から孔食電位までの範囲における電流密度の変化率(最大電流密度/最小電流密度)が10以上となる部分が10箇所未満、より好ましくは5箇所以下であることが好ましい。
【0046】
本発明のステンレス鋼管は、フェライト系ステンレス鋼管であることが好ましい。フェライト系ステンレス鋼管の組成としては、例えば、Cは、鋼の強度を得るために有用な元素であるが、多量に含むと耐食性を低下させる傾向にあることから、0.02質量%以下が好ましい。Siは、製鋼工程における脱酸剤及び熱源として有用な元素であるが、多量に含むと鋼を硬化させる傾向にあることから、1.00質量%以下が好ましい。Mnは、製鋼工程における脱酸として有用な元素であるが、多量に含むとオーステナイト相を形成する傾向にあることから、2.00質量%以下が好ましく、1.00質量%以下がより好ましい。Crは、耐食性を確保するために有用な元素であるが、多量に含むと高コストだけでなく加工性が低下する傾向にあることから、17.00〜30.00質量%が好ましく、20.00〜24.00質量%がより好ましい。Moは、Crの存在下でステンレス鋼の耐食性を向上させるために有用な元素であるが、多量に含むと高コストだけでなく加工性が低下する傾向にあることから、1.00〜2.50質量%が好ましく、1.00〜1.50質量%がより好ましい。Pは、耐食性を低下させるので少ない方が好ましく、0.040質量%以下が好ましい。Sは、耐食性を低下させるので少ない方が好ましく、0.030質量%以下が好ましい。Niは、腐食の進行を抑制する効果やフェライト系ステンレス鋼管の靱性改善に有効である点で好ましいが、多すぎるとオーステナイト相の生成やコスト高の原因となることから、0.6質量%以下が好ましい。TiおよびNbは、これらを1種または2種含むのが好ましい。Tiは、C、Nとの親和力が強くフェライト系ステンレス鋼管の粒界腐食を抑制する点で好ましいが、多量のTi含有は鋼の表面品質を低下させる傾向にあることから0.05〜0.5質量%が好ましい。Nbは、C、Nとの親和力が強くフェライト系ステンレス鋼管の粒界腐食を抑制する点で好ましいが、多量のNb含有は靱性を阻害する傾向にあることから、0.1〜0.6質量%が好ましい。Nは、Cと同様に多量に含むと耐食性を低下させる傾向にあることから、0.025質量%以下が好ましい。Alは、脱酸剤として精錬や鋳造に有効な元素であるが、過剰に添加すると表面品質を劣化させるとともに、鋼の溶接性や低温靭性を低下させることから、0.01〜0.50質量%が好ましい。残部はFeと不可避的不純物であることが好ましい。また、例えば、Cが0.02質量%以下、Siが0.40質量%以下、Mnが0.40質量%以下、Crが21.00〜23.00質量%、Moが1.00〜1.50質量%、Pが0.040質量%以下、Sが0.030質量%以下、Niが0.60質量%以下、Tiが0.05〜0.5質量%、Nbが0.10〜0.6質量%、Nが0.025質量%以下、Alが0.15質量%以下、残部はFeのものを本発明のステンレス鋼管として使用することもできる。
【0047】
本発明のステンレス鋼管は、耐孔食指数(PI)が20以上であることが好ましい。PIは以下の式(1)で与えられる。
PI=Cr+3Mo 式(1)
【0048】
耐孔食指数(PI)が20以上の本発明のステンレス鋼管は、耐食性に優れ、耐孔食指数が19と低いSUS304が海塩粒子の影響を受けるウォーターフロント環境では早期に発銹するのに対して、発銹を抑制することができる。耐孔食指数(PI)は、耐食性の観点からは、24以上がより好ましく、30以上がさらに好ましい。
【0049】
(製造方法)
本発明のステンレス鋼管の製造方法は、研磨後のステンレス鋼管の表面を、酸性溶液に浸漬させる工程を有し、該酸性溶液はフッ化水素酸を3〜12質量%、硝酸を3〜12質量%含有する製造方法である。酸性溶液は、酸化性の酸である硝酸と還元性の酸であるフッ化水素酸とを含むことにより強い溶解力を持つ混酸である。
【0050】
酸性溶液におけるフッ化水素酸の含有量は、3〜10質量%が好ましく、4〜10質量%がより好ましい。フッ化水素酸の含有量が3質量%未満であると、研磨されたステンレス鋼管表面上の酸化皮膜や表面欠陥を十分に除去することができない。また、フッ化水素酸の含有量が12質量%を超えると、過度にステンレス鋼管表面を溶解させてしまう恐れがある。
【0051】
酸性溶液における硝酸の含有量は、4〜11質量%が好ましく、5〜10質量%がより好ましい。硝酸の含有量が3質量%未満であると、酸性溶液による溶解能力が強すぎるため、研磨されたステンレス鋼管表面上の研磨目が溶解し、防眩性および意匠性を低下させる。また、硝酸の含有量が12質量%を超えると、フッ化水素酸による溶解能力を阻害し、酸化皮膜やCr欠乏層の除去能力が劣化する恐れがある。
【0052】
酸性溶液に研磨されたステンレス鋼管を浸漬させる処理時間は、酸性溶液に含まれるフッ化水素酸及び硝酸の含有量によって変化するが、15〜90分であることが好ましく、より好ましくは30〜60分である。研磨されたステンレス鋼管を浸漬させる処理時間が15分未満であると、研磨されたステンレス鋼管表面上の酸化皮膜や表面欠陥を十分に除去しにくい傾向にあり、90分を超えると過度なステンレス鋼管表面の溶解が生じる傾向にある。
【0053】
酸性溶液に浸漬させる工程における酸性溶液の温度は、30〜60℃であることが好ましく、より好ましくは40〜50℃である。研磨されたステンレス鋼管を浸漬させる酸性溶液の温度が30℃未満であると、研磨されたステンレス鋼管表面上の酸化皮膜や表面欠陥を十分に除去しにくい傾向にあり、60℃を超えると過度なステンレス鋼管表面の溶解が生じる傾向にある。
【0054】
本発明におけるステンレス鋼管表面の酸洗後の表面粗さRaは、Ra≧0.10μmであることが好ましく、Ra≧0.20μmがより好ましい。酸洗後の表面粗さRaが0.10μm未満であると、防眩性に劣り、さらに研磨目残りが維持されにくく意匠性を確保しにくい傾向にある。
【0055】
本発明におけるステンレス鋼管表面の酸洗後の光沢度は、60度光沢度が75以下であることが好ましい。より好ましくは60以下である。光沢度は、JIS Z 8741に準拠して測定されたものであり、例えば光沢計によって測定できる。具体的には、光沢度測定時に試料面に規定された入射角で規定の開き角の光束を入射し、反射方向に反射する規定の開き角の光束を受光器で測る。60度光沢度とは、規定された入射角が60度の場合の光沢度である。60度光沢度が75以下であることによって、ステンレス鋼管表面は好ましい防眩性を有する。
【実施例】
【0056】
ステンレス鋼管の造管、形状修正を行い、装飾用研磨仕上げを行った。ステンレス鋼管は以下の2種類を用いた。組成(質量%)及び寸法は以下のとおりである。
【0057】
鋼種1(SUS445J1) Cr:22%、Mo:1.05%、Ti:0.2%、Nb:0.2%、Al:0.09%、残部Fe
鋼種2(SUS304) Cr:18%、Ni:8%、Si:0.6%、Mn:0.8%、残部Fe
寸法:直径34mm×厚み1.5mm×長さ4000mm。
【0058】
研磨は、4つのフラップホイール(#240、#240、#240、#400)が鋼管表面を長手方向に研磨(長手方向に研磨目を付与)するように並んだラインで行い、乾式研磨を行った。なお、「#240」等はメッシュ粒度を示す。
【0059】
(研磨条件)
ライン速度:1.8m/min
管の回転数:380rpm
ホイール回転数:1500rpm
ホイール直径:400mm
【0060】
研磨を行った後、酸洗処理を表1のとおり行った(実施例1〜6、比較例2、3、4、6)。比較例1、比較例5については酸洗処理を行っていない。
【0061】
(表面欠陥)
光学顕微鏡を用いて、実施例1〜6及び比較例1〜6のステンレス鋼管表面を200倍に拡大し、100μm×100μm(0.01mm
2)の範囲を観察した。5μm以上の金属素地の被さりを有する表面欠陥が5個以内の場合には表面欠陥が抑制された状態として「○」と評価し、5個より多い場合には表面欠陥が抑制されていない状態として「×」と評価した(表1参照)。
【0062】
(酸化皮膜)
実施例1〜6及び比較例1〜6のステンレス鋼管の表面を光学顕微鏡で400倍の倍率で観察し、茶褐色のシミ状物質である酸化皮膜が50μm四方において面積比率でどの程度存在しているかを算出した。残存酸化皮膜の面積比率5%未満である場合は、着色を有する酸化皮膜が存在しないとして「○」と評価し、面積比率5%以上の場合は着色を有する酸化皮膜が存在するとして「×」と評価した(表1参照)。
【0063】
(孔食電位)
実施例1〜6及び比較例1〜6のステンレス鋼管の孔食電位を測定した。具体的には、JIS G 0577に準拠して行い、B法(3.5%(質量分率)塩化ナトリウム水溶液試験方法)を用い、3.5質量%塩化ナトリウム水溶液中における動電位法を用いた。該塩化ナトリウム水溶液のpHは7とし、温度は30℃とした。また、電位掃引速度は20mV/分とした。孔食電位が0.4V以上0.6V未満の場合は耐食性に優れるとして「○」とし、0.6V以上の場合は耐食性に特に優れるとして「◎」とし、0.4V未満の場合は「×」と評価した(表1参照)。
【0064】
(研磨目残り)
研磨目残りを評価するために、実施例1〜6及び比較例1〜6のステンレス鋼管の表面粗度Raを測定し、Ra≧0.10μmの場合に「○」と評価した。一方、Ra<0.10μmの場合に「×」と評価した。表面粗度Raは、JIS B 0601に準拠し測定し、接触式の表面粗度計を用いた(表1参照)。
【0065】
(光沢度)
JIS Z 8741に準拠して、実施例1〜6及び比較例1〜6のステンレス鋼管表面の60度光沢度を、光沢計を用いた測定した(表1参照)。
【0066】
(耐食性試験)
実施例1〜6及び比較例1〜6のステンレス鋼管について、以下の条件で耐食性試験(塩乾湿複合サイクル試験(CCT試験))を行った。
条件:(1)塩水噴霧(35℃、5%NaCl、15分)
(2)乾燥 (60℃、30%RH、60分)
(3)湿潤 (50℃、95%RH、3時間)
(1)〜(3)を1サイクルとして、30サイクル繰り返した。
評価:試験後の発銹面積が、鋼管表面全体の5%以内のときに耐食性が良好として「○」と評価し、5%より大きい場合は耐食性が不良として「×」と評価した(表1参照)。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示すとおり、実施例1〜6にステンレス鋼管(SUS445J1)は、研磨目をステンレス鋼管の表面に有し、表面欠陥が抑制され、着色を有する酸化皮膜も表面上に存在せず、孔食電位は0.4V以上であった。
【0069】
図5は、実施例1〜6、比較例1、3、5のステンレス鋼管のCCT試験後の外観を示す写真であり、A〜Fが順に実施例1〜6であり、G〜Iが順に比較例1、3、5である。
図5に示すとおり、CCT試験によっても実施例1〜6のステンレス鋼管(SUS445J1)は、発銹が抑制されており、耐食性に優れていることを実証した。