特許第6584911号(P6584911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6584911インバータ一体型電動圧縮機及び回路基板、並びに回路基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6584911
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】インバータ一体型電動圧縮機及び回路基板、並びに回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20190919BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20190919BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   H02M7/48 Z
   F04B39/00 106
   F04C29/00 T
   F04C29/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-205628(P2015-205628)
(22)【出願日】2015年10月19日
(65)【公開番号】特開2017-79515(P2017-79515A)
(43)【公開日】2017年4月27日
【審査請求日】2018年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 将人
(72)【発明者】
【氏名】相場 謙一
(72)【発明者】
【氏名】中神 孝志
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 恭平
(72)【発明者】
【氏名】西川 尚希
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 克弘
(72)【発明者】
【氏名】清水 健志
【審査官】 柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/062079(WO,A1)
【文献】 特開2005−294940(JP,A)
【文献】 特開平08−139342(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/141654(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
F04B 39/00
F04C 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ収容部に、インバータ回路が実装された回路基板を含むインバータ装置が一体に組み込まれ、吸入した冷媒を圧縮して吐出するインバータ一体型電動圧縮機であって、
前記回路基板は、
前記インバータ回路と直列に接続され、電流を検出する電流検出抵抗と、前記電流検出抵抗における電圧降下として現れる電圧を増幅して出力する第1増幅器とを有し、前記インバータ回路に流れる入力電流を検出する電流検出回路と、
前記第1増幅器のオフセット補正を行う第2増幅器を有するオフセット補正回路と、を備え、
前記第1増幅器と前記第2増幅器とが、1つの集積回路に集積され
前記電流検出回路は、前記第1増幅器の値を調整するための第1周辺部品を備え、
前記オフセット補正回路は、前記第2増幅器の値を調整するための第2周辺部品を備え、
前記電流検出回路の前記第1周辺部品に含まれる抵抗及び前記オフセット補正回路の前記第2周辺部品に含まれる抵抗は、製造段階の同ロットのものが用いられるインバータ一体型電動圧縮機
【請求項2】
前記電流検出回路及び前記オフセット補正回路は、前記第1増幅器、前記第2増幅器、前記第1周辺部品に含まれる抵抗、及び前記第2周辺部品に含まれる抵抗が前記回路基板における同一の面に実装され、かつ、同一のグランドプレーンに設けられる請求項1に記載のインバータ一体型電動圧縮機。
【請求項3】
吸入した冷媒を圧縮して吐出するインバータ一体型電動圧縮機のインバータ収容部にインバータ回路を実装し、インバータ装置として一体に組み込まれている回路基板であって、
前記インバータ回路と直列に接続され、電流を検出する電流検出抵抗と、前記電流検出抵抗における電圧降下として現れる電圧を増幅して出力する第1増幅器とを有し、前記インバータ回路に流れる入力電流を検出する電流検出回路と、
前記第1増幅器のオフセット補正を行う第2増幅器を有するオフセット補正回路とを備え、
前記第1増幅器と前記第2増幅器と、1つの集積回路に集積され、
前記電流検出回路は、前記第1増幅器の値を調整するための第1周辺部品を備え、
前記オフセット補正回路は、前記第2増幅器の値を調整するための第2周辺部品を備え、
前記電流検出回路の前記第1周辺部品に含まれる抵抗及び前記オフセット補正回路の前記第2周辺部品に含まれる抵抗は、製造段階の同ロットのものが用いられる回路基板
【請求項4】
吸入した冷媒を圧縮して吐出するインバータ一体型電動圧縮機のインバータ収容部に、インバータ回路を実装し、前記インバータ回路と直列に接続され、電流を検出する電流検出抵抗における電圧降下として現れる電圧を増幅して出力する電流検出回路の第1増幅器と、前記第1増幅器のオフセット補正を行うオフセット補正回路の第2増幅器とを1つの集積回路に集積して構成し、インバータ装置として一体に組み込まれている回路基板の製造方法であって、
前記電流検出回路は、前記第1増幅器の値を調整するための第1周辺部品を備え、前記オフセット補正回路は、前記第2増幅器の値を調整するための第2周辺部品を備え、前記電流検出回路の前記第1周辺部品に含まれる抵抗及び前記オフセット補正回路の前記第2周辺部品に含まれる抵抗は、製造段階の同ロットのものが用いられる回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ一体型電動圧縮機及び回路基板、並びに回路基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両用空調設備に用いられる電動圧縮機を駆動する電動圧縮機用インバータは、入力電流がシャント抵抗に流れることにより生じるシャント抵抗の両端の電圧をオペアンプ回路で増幅後、CPU(Central Processing Unit)にてA/D(アナログ/デジタル)変換してインバータの入力電流を検出する入力電流検出回路を備えている。入力電流検出回路で検出された入力電流は、入力電圧との積によって電動圧縮機の消費電力が得られる。
【0003】
近年、自動車業界では低燃費とされる運転が望まれており、低燃費運転を実現する電動圧縮機の消費電力を正確に検出するために、インバータの入力電流の検出精度の要求も厳しくなっている。
下記特許文献1では、シャント抵抗の両端の電位差を作動増幅してCPUに出力する第1オペアンプと、オフセット電圧を検出する第2のオペアンプとを備え、時間経過に伴って変化する第1のオペアンプの出力に基づき演算されるモータ負荷電流値を補正するモータ制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2004/062079号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、入力電流検出回路で用いられるオペアンプ回路は、温度変化に応じて出力信号に誤差を生じさせ、この誤差が入力電流の精度低下に繋がるので、誤差を低減して入力電流の精度を向上させる必要がある。特に、例えば車両の空調設備で用いられる電動圧縮機は、起動前はエンジンの輻射熱等により高温であるが、起動運転後は流れる冷媒(吸入冷媒)によりインバータの冷却が行われるため、インバータを制御する基板側も間接的に冷やされる。そのため、車両の空調設備用の電動圧縮機は、運転前後の温度変化が大きくなることから、入力電流の検出誤差が大きくなるという問題があった。
しかしながら、上記特許文献1は、車両の空調設備用の電動圧縮機のように運転前後の温度変化が大きくなる装置に用いることを示唆するものでなく、電動圧縮機の運転後の入力電流の検出誤差が大きくなるという問題を解決できない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、運転前後の温度変化が大きくなる電動圧縮機の運転後において、電動圧縮機に流れる電流の検出精度を向上させることができるインバータ一体型電動圧縮機及び回路基板、並びに回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、インバータ収容部に、インバータ回路が実装された回路基板を含むインバータ装置が一体に組み込まれ、吸入した冷媒を圧縮して吐出するインバータ一体型電動圧縮機であって、前記回路基板は、前記インバータ回路と直列に接続され、電流を検出する電流検出抵抗と、前記電流検出抵抗における電圧降下として現れる電圧を増幅して出力する第1増幅器とを有し、前記インバータ回路に流れる入力電流を検出する電流検出回路と、前記第1増幅器のオフセット補正を行う第2増幅器を有するオフセット補正回路と、を備え、前記第1増幅器と前記第2増幅器とが、1つの集積回路に集積され、前記電流検出回路は、前記第1増幅器の値を調整するための第1周辺部品を備え、前記オフセット補正回路は、前記第2増幅器の値を調整するための第2周辺部品を備え、前記電流検出回路の前記第1周辺部品に含まれる抵抗及び前記オフセット補正回路の前記第2周辺部品に含まれる抵抗は、製造段階の同ロットのものが用いられるインバータ一体型電動圧縮機を提供する。
【0008】
本発明によれば、インバータ回路に流れる入力電流を検出する電流検出回路に設けられ、インバータ回路と直列に接続され電流を検出する電流検出抵抗における電圧降下として現れる電圧を増幅して出力する第1増幅器と、第1増幅器のオフセット補正を行うオフセット補正回路の第2増幅器とが1つの集積回路に集積された回路基板がインバータ一体型電動圧縮機に組み込まれる。
これにより、インバータ一体型電動圧縮機は、起動前と比較して起動運転後において、吸入冷媒の影響により温度変化は大きくなるが、同じ集積回路に集積されている第1増幅器と第2増幅器とは温度が略同じになるので、温度ドリフトが生じても第1増幅器と第2増幅器のオフセット値を等しくすることができ、インバータ回路に流れる入力電流の検出誤差を可及的に小さくすることができる。
さらに、本発明によれば、電流検出回路は、前記電流検出回路は、前記第1増幅器の値を調整するための第1周辺部品を備え、前記オフセット補正回路は、前記第2増幅器の値を調整するための第2周辺部品を備え、前記電流検出回路の前記第1周辺部品に含まれる抵抗及び前記オフセット補正回路の前記第2周辺部品に含まれる抵抗は、製造段階の同ロットのものが用いられる。
各周辺部品の抵抗は、同ロットのものが用いられることにより、電流検出回路及びオフセット補正回路は温度特性、精度のばらつきの個体差等が少なくなり、入力電流の検出誤差を小さくできる。
【0011】
前記電流検出回路及び前記オフセット補正回路は、前記第1増幅器、前記第2増幅器、前記第1周辺部品に含まれる抵抗、及び前記第2周辺部品に含まれる抵抗が前記回路基板における同一の面に実装され、かつ、同一のグランドプレーンに設けられてもよい。
【0012】
前記電流検出回路及び前記オフセット補正回路の増幅器及び抵抗が、回路基板における同一の面に実装され、かつ、同一グランドプレーン上に設けられることにより、前記電流検出回路と前記オフセット補正回路の温度ムラが小さくなる。これにより、インバータ回路に流れる入力電流の検出誤差をより小さくできる。
【0013】
本発明は、吸入した冷媒を圧縮して吐出するインバータ一体型電動圧縮機のインバータ収容部にインバータ回路を実装し、インバータ装置として一体に組み込まれている回路基板であって、前記インバータ回路と直列に接続され、電流を検出する電流検出抵抗と、前記電流検出抵抗における電圧降下として現れる電圧を増幅して出力する第1増幅器とを有し、前記インバータ回路に流れる入力電流を検出する電流検出回路と、前記第1増幅器のオフセット補正を行う第2増幅器を有するオフセット補正回路とを備え、前記第1増幅器と前記第2増幅器と、1つの集積回路に集積され、前記電流検出回路は、前記第1増幅器の値を調整するための第1周辺部品を備え、前記オフセット補正回路は、前記第2増幅器の値を調整するための第2周辺部品を備え、前記電流検出回路の前記第1周辺部品に含まれる抵抗及び前記オフセット補正回路の前記第2周辺部品に含まれる抵抗は、製造段階の同ロットのものが用いられる回路基板を提供する。
【0014】
本発明は、吸入した冷媒を圧縮して吐出するインバータ一体型電動圧縮機のインバータ収容部に、インバータ回路を実装し、前記インバータ回路と直列に接続され、電流を検出する電流検出抵抗における電圧降下として現れる電圧を増幅して出力する電流検出回路の第1増幅器と、前記第1増幅器のオフセット補正を行うオフセット補正回路の第2増幅器とを1つの集積回路に集積して構成し、インバータ装置として一体に組み込まれている回路基板の製造方法であって、前記電流検出回路は、前記第1増幅器の値を調整するための第1周辺部品を備え、前記オフセット補正回路は、前記第2増幅器の値を調整するための第2周辺部品を備え、前記電流検出回路の前記第1周辺部品に含まれる抵抗及び前記オフセット補正回路の前記第2周辺部品に含まれる抵抗は、製造段階の同ロットのものが用いられる回路基板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、運転前後の温度変化が大きくなる電動圧縮機の運転後において、電動圧縮機に流れる電流の検出精度を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るインバータ一体型電動圧縮機の概略構成を説明する縦断面図である。
図2】本発明に係るインバータ一体型電動圧縮機のインバータ装置の回路概略図である。
図3】本発明に係るインバータ一体型電動圧縮機のインバータ装置の回路基板の概略図である。
図4】本発明に係るインバータ一体型電動圧縮機のインバータ装置の回路基板の表面を示す概略図である。
図5】本発明に係るインバータ一体型電動圧縮機のインバータ装置の回路基板の断面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係るインバータ一体型電動圧縮機及び回路基板、並びに回路基板の製造方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
本実施形態で説明するインバータ一体型電動圧縮機は、車両用の空調装置に用いられる場合を例に挙げて説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係るインバータ一体型電動圧縮機の主要部の縦断面図が示されている。
インバータ一体型電動圧縮機1は、外殻を構成するアルミニウム合金製のハウジング8を備えている。ハウジング8は、電動モータ3を内蔵するための電動機ハウジング5と、スクロール圧縮機構(以下「圧縮機構」という)4を内蔵する圧縮機ハウジング7と、それらの間に軸受ハウジング6とを一体に結合した構成とされている。
【0019】
インバータ一体型電動圧縮機1は、ハウジング8内に内蔵されている電動モータ3と圧縮機構4とが主軸(回転軸)10を介して連結されており、電動モータ3が後述するインバータ装置2を介して回転駆動されることにより圧縮機構4が駆動される。
電動機ハウジング5内には、電動モータ3を構成するステータ11およびロータ12が組み込まれる。圧縮機構4と電動モータ3は、主軸10を介して連結され、電動モータ3を回転させることにより、圧縮機構4が駆動されるよう構成されている。主軸10は、軸受ハウジング6に保持されたメインベアリング14と、電動機ハウジング5の端部に保持されたサブベアリング15とによって回転自在に軸支されている。
【0020】
また、電動機ハウジング5の端部には、図示しない冷媒吸入口が設けられており、該冷媒吸入口には冷凍サイクルの吸入配管が接続され、低圧の冷媒ガスが電動機ハウジング5内に吸入されるようになっている。冷媒ガスは、電動機ハウジング5内を流通して電動モータ3を冷却した後に圧縮機構4に吸い込まれ、そこで圧縮されて高温高圧の冷媒ガスとなり、圧縮機ハウジング7の端部に設けられている図示しない吐出口から冷凍サイクルの吐出配管へと吐出されるように構成される。
【0021】
電動モータ3は、インバータ装置2を介して駆動され、空調負荷に応じて回転数が可変制御されるものである。本実施形態において、インバータ装置2は、ハウジング8の外周部、例えばハウジング8の紙面左側に一体形成されたインバータケース(インバータ収容部)9の内部に、回路基板60(図3図4図5参照)が収納設置される構成とされており、インバータ一体型電動圧縮機1と一体化されている。インバータケース9は、インバータ装置2が組み込まれた後、インバータカバー13が取り付けられることによって密閉される構成とされている。
なお、ハウジング8内に設けられる電動モータ3や圧縮機構4は、よく知られたものでよく、説明は省略する。
【0022】
インバータ装置2は、図示しないバスバー、ガラス絶縁端子、モータ端子、リード線等を介して電動モータ3に電気的に接続されている。
図2には、インバータ装置2に含まれる回路の概略図が示されている。図2に示されるように、インバータ装置2は、インバータ回路40と、電流検出回路30と、オフセットキャンセル回路(オフセット補正回路)20と、ノイズ除去回路45と、制御部41とを備えている。
【0023】
本実施形態においては、インバータ装置2は、図3に示されるように、後述する多数の発熱性のある電気部品(スイッチング素子S)とCPU80や電流検出回路30等の低電圧で動作する素子とを含んでいる。スイッチング素子Sを含むインバータ回路40、電流検出回路30、及びオフセットキャンセル回路20は回路基板60に設けられる。
【0024】
インバータ回路40は、各相に対応して設けられた上側アームのスイッチング素子S1u、S1v、S1wと下側アームのスイッチング素子S2u、S2v、S2wと(スイッチング素子S)を備えている。インバータ回路40は、これらのスイッチング素子Sが上位制御装置からの制御信号に基づいてゲートドライバ(図示省略)によって駆動されることにより、車両に搭載されている電源ユニットから供給される直流電力を3相交流電力に変換し、UWV端子から出力して電動モータ3に供給する。スイッチング素子Sは、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のパワー半導体素子である。
【0025】
また、インバータ回路40は、発熱性のある電気部品(発熱素子)であるパワー半導体素子が冷媒によって冷却されるように構成される。なお、インバータ回路40は、スイッチング回路やその制御回路が実装された制御基板、平滑コンデンサ、インダクタコイル等の高電圧系部品を備えたものであり、公知のもの故、ここでの説明は省略する。
【0026】
電流検出回路30は、第1増幅器31とシャント抵抗(電流検出抵抗)32とを備えている。また、電流検出回路30は、第1増幅器31から出力される値を調整するために設けられる周辺抵抗R1,R2,R3,R4を含む第1周辺部品35をも備えている。
シャント抵抗32は、インバータ回路40とアースの間に介挿され、インバータ回路40と直列に接続され、流れる電流を検出する。
第1増幅器31は、両端が、シャント抵抗32の両端に接続され、シャント抵抗32における電圧降下として現れる電圧を増幅して、制御部41に出力する。
【0027】
オフセットキャンセル回路20は、第1増幅器31のオフセット電圧を検出する第2増幅器21を有する。具体的には、オフセットキャンセル回路20の第2増幅器21は、両端がグランド電位に接続されており、常に0[V]の値を検出して制御部41に出力する。また、オフセットキャンセル回路20は、第2増幅器21から出力される値を調整するために設けられる周辺抵抗R1’,R2’,R3’,R4’を含む第2周辺部品25をも備えている。
【0028】
なお、図2に示されるように、電流検出回路30は、オフセットキャンセル回路20と比較してシャント抵抗32を設ける点で異なるが、増幅回路として、電流検出回路30とオフセットキャンセル回路20とは、第1周辺部品35と第2周辺部品25とを等しく構成しており、電流検出回路30のオフセットと等しい値が、オフセットキャンセル回路20より制御部41に出力される。
ノイズ除去回路45は、抵抗やコンデンサを備えており、電流検出回路30から出力される信号のノイズを除去する。
ノイズ除去回路45’は、抵抗やコンデンサを備えており、オフセットキャンセル回路20から出力される信号のノイズを除去する。
【0029】
制御部41は、例えば、CPU(中央演算装置)80、図示しないRAM(Random Access Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体等から構成されている。後述の各種機能を実現するための一連の処理の過程は、プログラムの形式で記録媒体等に記録されており、このプログラムをCPU80がRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、後述の各種機能が実現される。
【0030】
具体的には、制御部41は、一体型電動圧縮機1の起動前において、電流検出回路30から取得した第1増幅器31のオフセット電圧を計測し、記憶部(図示略)に記憶させておき、記憶されたオフセット電圧分を補正することによって第1増幅器31のゼロ電圧を補正し、補正された第1増幅器31の出力値をA/D変換し、さらに電流値に変換してインバータ回路40の入力電流を検出する。
【0031】
また、制御部41は、一体型電動圧縮機1の起動後(運転中)において、第1増幅器31の電圧出力値を、第2増幅器21の出力値(0[V])によって逐次補正することによって、第1増幅器31のオフセット電圧を補正する。制御部41は、補正された第1増幅器31の電圧出力値をA/D変換し、さらに電流値に変換してインバータ回路40の入力電流を検出する。すなわち、制御部41は、オフセット電圧をキャンセルした検出電圧値を以下の(1)式のように算出する。
(検出電圧値)=(第1増幅器の出力値)−(第2増幅器の出力値) (1)
このように、運転中に逐次補正することにより、運転後の温度変化によるオフセット電圧をキャンセルすることができる。
【0032】
以下に、本実施形態におけるインバータ一体型電動圧縮機のインバータ装置の回路基板について説明する。
図4及び図5には、インバータ装置2内の回路基板60における各部品の配置の一例が示されている。図4は、回路基板60の基板表面の概略図を示しており、図5は、回路基板60の縦断面図を示している。
【0033】
図4の符号Xは、集積回路を示している。集積回路Xは、上述した電流検出回路30の第1増幅器31と、オフセットキャンセル回路20の第2増幅器21とを集積して構成されている。第1増幅器31と第2増幅器21とが1つの集積回路Xに集積されていることにより、回路基板60の温度変化が生じた場合であっても、第1増幅器31と第2増幅器21の素子の温度差は小さく、半導体としての特性も近いものとなる。
このように、第1増幅器31と第2増幅器21を1つの集積回路Xに集積するので、温度ドリフトを正確に検出し、温度ドリフトの影響により第1増幅器31と第2増幅器21のオフセット値が異なることにより生じるオフセット誤差を可及的に小さくすることができる。
【0034】
図4に示されるように、第1増幅器31及び第2増幅器21を含む集積回路X、周辺抵抗R1〜R4を含む第1周辺部品35、及び周辺抵抗R1’〜R4’を含む第2周辺部品25は、全て回路基板60の同じ面に実装され、同一のグランドプレーン50上に配置される。電流検出回路30及びオフセットキャンセル回路20を同じ面、かつ、同一のグランドプレーン50上に実装することにより、両回路の温度ムラを小さくすることができる。
グランドプレーン50は、図4に示されるように回路基板60の内層に配置される。
【0035】
本実施形態における電流検出回路30とオフセットキャンセル回路20で用いられる部品は、それぞれ製造段階の同ロットのものが用いられることが好ましい。具体的には、電流検出回路30の周辺抵抗R1〜R4と、オフセットキャンセル回路20の周辺抵抗R1’〜R4’とをそれぞれ製造段階の同ロットのものとする。電流検出回路30とオフセットキャンセル回路20で用いられる部品は製造段階の同ロットのものが用いられることで、温度特性、初期精度誤差の個体差が少なくなる。
【0036】
以下に、本実施形態に係るインバータ一体型電動圧縮機1の作用を説明する。
インバータ一体型電動圧縮機1は、起動前、車両のエンジンの輻射熱等の影響で温度が上昇するため、それに伴ってインバータ装置2の回路基板60の温度も上昇している。インバータ一体型電動圧縮機1の起動前においては、記憶部に記憶されている電流検出回路30の第1増幅器31のオフセット電圧の計測値を用いて第1増幅器31のゼロ電圧が補正され、補正された第1増幅器31の出力値がA/D変換され、さらに電流値に変換されることにより、インバータ回路40の入力電流が検出される。
【0037】
インバータ一体型電動圧縮機1が作動すると、冷凍サイクル中を循環した後の低圧冷媒ガスが、図示しない冷媒吸入口から電動機ハウジング5内に吸入され、電動機ハウジング5内を流通して圧縮機構4に吸い込まれる。圧縮機構4で圧縮され、高温高圧となった冷媒ガスは、圧縮機ハウジング7の端部に設けられている図示しない吐出口から吐出配管を経て冷凍サイクルへと循環される。この間、電動機ハウジング5内を流通する低温な低圧冷媒ガスは、インバータケース9内でインバータ装置2から発せられる作動熱に対し、電動機ハウジング5のハウジング外壁部等を介して吸熱作用を行い、スイッチング素子S等の発熱素子を冷却する。そうすると、間接的に回路基板60が冷やされる。
【0038】
インバータ一体型電動圧縮機1の運転中は、インバータ回路40と直列接続されるシャント抵抗32の電圧降下として現れる電圧が第1増幅器31で増幅されて制御部41に出力されるとともに、両端がグランド電位にされている第2増幅器21で検出されるゼロ電圧によって、第1増幅器31の出力が逐次オフセット補正される。こうしてオフセット補正された第1増幅器31の出力に基づいて、インバータ回路40の入力電流が検出される。
【0039】
第2増幅器21で検出されるゼロ電圧によって、第1増幅器31の出力が逐次オフセット補正されることにより、インバータ一体型電動圧縮機1の運転後に、回路基板60に温度変化が生じても、オフセット誤差を抑制でき、電流検出回路30の入力電流検出の精度向上を図ることができる。車両の空調設備用のインバータ一体型電動圧縮機1の運転中は、起動前と比較して吸入冷媒の影響により温度変化が大きくなるが、本実施形態においては、逐次オフセットをキャンセルする演算を行うことにより、冷媒冷却による温度変化を常に補正することができる。また、第1増幅器31と第2増幅器21は1つの集積回路Xに集積されているので、インバータ一体型電動圧縮機1の起動前と起動後のように温度変化が大きくなっても、第1増幅器31と第2増幅器21の温度差は抑えられ、オフセット誤差をより抑制できる。
【0040】
このように、電流検出回路30、オフセットキャンセル回路20、インバータ回路40を備えた回路基板60を構成することにより、電動モータ3の運転後の温度変化により生じる第1増幅器31及び第2増幅器21のオフセット誤差を打ち消すことができ、電流検出回路により検出されるインバータ回路40の入力電流の精度向上を図ることができる。
【0041】
以上説明してきたように、本実施形態に係るインバータ一体型電動圧縮機1及び回路基板60、並びに回路基板60の製造方法によれば、インバータ回路40に流れる入力電流を検出する第1増幅器31と、第1増幅器31のオフセット電圧を検出する第2増幅器21とが1つの集積回路に集積された回路基板60がインバータ一体型電動圧縮機1に組み込まれる。
【0042】
これにより、車両の空調設備用のインバータ一体型電動圧縮機1は、起動前と比較して起動運転後において、吸入冷媒の影響により回路基板60の温度変化が大きくなるが、同じ集積回路に集積されている第1増幅器31と第2増幅器21とは温度が略同じになるので、第1増幅器31と第2増幅器21のオフセット値を等しくでき、インバータ回路40に流れる入力電流の検出誤差を可及的に小さくすることができる。
【0043】
また、電流検出回路30とオフセットキャンセル回路20に備えられる各部品は、製造段階の同ロットのものが用いられることにより、電流検出回路30及びオフセットキャンセル回路20は温度特性、精度のばらつきの個体差等が少なくなり、入力電流の検出誤差を小さくできる。
また、回路基板60の同一の面で、かつ、同一グランドプレーン50上に電流検出回路30及びオフセットキャンセル回路20が設けられることにより、電流検出回路30及びオフセットキャンセル回路20の温度ムラが小さくなる。これにより、インバータ回路40に流れる入力電流の検出誤差をより小さくできる。
【0044】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 インバータ一体型電動圧縮機
2 インバータ装置
3 電動モータ
4 スクロール圧縮機構
20 オフセットキャンセル回路(オフセット補正回路)
25 オフセットキャンセル回路の第2周辺部品
30 電流検出回路
32 シャント抵抗(電流検出抵抗)
35 電流検出回路の第1周辺部品
50 グランドプレーン
60 回路基板

図1
図2
図3
図4
図5