(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プレトリートメント条件設定部は、前記現イオンソース条件および/または前記保持時間および/または前記新イオンソース条件に基づいて前記第1プレトリートメント設定部を無効化するか否かを判定する第1無効化判定部を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のイオン注入装置。
前記プレトリートメント条件設定部は、前記現イオンソース条件および/または前記保持時間および/または前記新イオンソース条件に基づいて前記第2プレトリートメント設定部を無効化するか否かを判定する第2無効化判定部を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のイオン注入装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0012】
図1は、本発明のある実施形態に係るイオン注入装置10を概略的に示す図である。
図1の上部はイオン注入装置10の概略構成を示す上面図であり、
図1の下部はイオン注入装置10の概略構成を示す側面図である。
【0013】
イオン注入装置10は、真空空間において被処理物の表面にイオン注入処理をするよう構成されている。被処理物は、例えば基板Wであり、例えば半導体ウエハである。よって以下では説明の便宜のため被処理物を基板Wまたは半導体ウエハと呼ぶことがあるが、これは注入処理の対象を特定の物体に限定することを意図していない。
【0014】
イオン注入装置10は、ビームスキャン及びメカニカルスキャンの少なくとも一方により基板Wの全面にわたってイオンビームBを照射するよう構成されている。本書では説明の便宜上、設計上のイオンビームBの進行方向をz方向とし、z方向に垂直な面をxy面と定義する。後述するようにイオンビームBを被処理物に対し走査する場合には走査方向をx方向とし、z方向及びx方向に垂直な方向をy方向とする。よって、ビームスキャンはx方向に行われ、メカニカルスキャンはy方向に行われる。
【0015】
イオン注入装置10は、イオンソース12と、ビームライン装置14と、注入処理室16と、を備える。イオンソース12は、イオンビームBをビームライン装置14に与えるよう構成されている。ビームライン装置14は、イオンソース12から注入処理室16へとイオンを輸送するよう構成されている。また、イオン注入装置10は、イオンソース12、ビームライン装置14、及び注入処理室16に所望の真空環境を提供するための真空排気系(図示せず)を備える。
【0016】
図示されるように、ビームライン装置14は例えば、上流から順に、質量分析磁石装置18、ビーム整形装置20、偏向走査装置22、Pレンズなどのビーム平行化装置24、及び、角度エネルギーフィルター26を備える。なお本書において、上流とはイオンソース12に近い側を指し、下流とは注入処理室16に近い側を指す。
【0017】
質量分析磁石装置18は、イオンソース12の下流に設けられており、イオンソース12から引き出されたイオンビームBから必要なイオン種を質量分析により選択するよう構成されている。ビーム整形装置20は、Qレンズなどの収束レンズを備えており、イオンビームBを所望の断面形状に整形するよう構成されている。
【0018】
偏向走査装置22は、ビームスキャンを提供するよう構成されている。偏向走査装置22は、イオンビームBをx方向に走査する。こうして、イオンビームBは、y方向の幅よりも長いx方向の走査範囲にわたって走査される。
図1において矢印Cによりビームスキャン及びその走査範囲を例示し、走査範囲の一端及び他端でのイオンビームBをそれぞれ実線及び破線で示す。なお明確化のためにイオンビームBに斜線を付して図示する。
【0019】
ビーム平行化装置24は、走査されたイオンビームBの進行方向を平行にするよう構成されている。角度エネルギーフィルター26は、イオンビームBのエネルギーを分析し必要なエネルギーのイオンを下方に偏向して注入処理室16に導くよう構成されている。このようにして、ビームライン装置14は、基板Wに照射されるべきイオンビームBを注入処理室16に供給する。
【0020】
注入処理室16は、1枚又は複数枚の基板Wを保持し、イオンビームBに対する例えばy方向の相対移動(いわゆるメカニカルスキャン)を必要に応じて基板Wに提供するよう構成されている物体保持部(図示せず)を備える。
図1において矢印Dによりメカニカルスキャンを例示する。また、注入処理室16は、ビームストッパ28をビームライン終端に備える。イオンビームB上に基板Wが存在しない場合には、イオンビームBはビームストッパ28に入射する。
【0021】
ある他の実施形態においては、イオン注入装置10は、z方向に垂直な一方向に長い断面を有するイオンビームを注入処理室16に与えるよう構成されていてもよい。この場合、イオンビームは例えば、y方向の幅よりも長いx方向の幅を有する。こうした細長断面のイオンビームはリボンビームと呼ばれることもある。あるいは、更なる他の実施形態においては、イオン注入装置10は、イオンビームを走査することなく、スポット状の断面を有するイオンビームを注入処理室16に与えるよう構成されていてもよい。
【0022】
図2は、本発明のある実施形態に係るイオンソース12の一部を概略的に示す斜視断面図である。
図3は、本発明のある実施形態に係るイオンソース12の一部の概略断面図をイオンソース12の関連要素とともに概略的に示す図である。
【0023】
イオンソース12は、傍熱型のイオンソースであり、アークチャンバ30と、熱電子放出部32と、リペラー34と、第1引出電極36と、第2引出電極38と、各種電源を備える。
【0024】
アークチャンバ30は、略直方体の箱型形状を有する。アークチャンバ30は一方向に細長い形状を有しており、以下ではこの方向をアークチャンバ30の縦方向と称する。縦方向は
図2及び
図3の紙面における上下方向である。
【0025】
アークチャンバ30は、高融点材料、具体的には、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)などの高融点金属やそれらの合金、グラファイト(C)等で構成されている。これにより、アークチャンバ内が比較的高温となる環境下でも、アークチャンバを溶けにくくできる。
【0026】
アークチャンバ30の縦方向一方側に熱電子放出部32が設けられている。アークチャンバ30の縦方向他方側にリペラー34が設けられている。リペラー34は熱電子放出部32に対向する。以下では説明の便宜上、アークチャンバ30の熱電子放出部32側を上側と称し、アークチャンバ30のリペラー34側を下側と称する。
【0027】
また、アークチャンバ30の一方の側部には、原料ガスを導入するガス導入口40が設けられている。アークチャンバ30の他方の側部には、イオンビームBが引き出される開口部としてのビーム引出スリット42が形成されている。
【0028】
原料ガスには、希ガスや、水素(H
2)、ホスフィン(PH
3)、アルシン(AsH
3)等の水素化物、三フッ化ホウ素(BF
3)、四フッ化ゲルマニウム(GeF
4)等のフッ化物、三塩化インジウム(InCl
3)等の塩化物、等のハロゲン化物が用いられる。また、原料ガスには、二酸化炭素(CO
2)、一酸化炭素(CO)、酸素(O
2)などの酸素原子(O)を含む物質も用いられる。
【0029】
アークチャンバ30は、チャンバ本体44とスリット部材46とを備える。スリット部材46にビーム引出スリット42が形成されている。チャンバ本体44は、一方の側部が開放された箱部材である。スリット部材46は、チャンバ本体44の開放側に取り付けられる蓋である。チャンバ本体44にスリット部材46が取り付けられることにより、イオンソース12のプラズマ室が形成される。熱電子放出部32、リペラー34、及びガス導入口40は、チャンバ本体44に設けられている。
【0030】
アークチャンバ30は高電圧電源48の正極に接続されている。よって、チャンバ本体44及びスリット部材46には高電圧電源48によって正の高電圧が印加される。
【0031】
ビーム引出スリット42は、スリット部材46の上側から下側へと延びる細長スリットである。ビーム引出スリット42は、フロントスリットとも呼ばれる。このような上下長孔は、円形などの小孔に比べて面積が大きいので、イオンソース12から引き出されるイオンビーム量を増加することができる。
【0032】
以下では説明の便宜上、ビーム引出スリット42の延びる方向をスリット長手方向と称する。スリット長手方向は、アークチャンバ30の縦方向に相当する。スリット長手方向は、イオンソース12のビーム引出方向に直交する。また、以下では、スリット長手方向及びビーム引出方向の双方に直交する方向をスリット幅方向と称する。よって、
図2及び
図3に示される断面は、スリット長手方向及びビーム引出方向に平行な平面によるビーム引出スリット42における断面である。
図3においては、スリット長手方向は上下方向であり、ビーム引出方向は左右方向であり、スリット幅方向は紙面に垂直な方向である。
【0033】
熱電子放出部32は、アークチャンバ30内に熱電子を放出するものであり、フィラメント50とカソード52を有する。熱電子放出部32は、チャンバ本体44のカソード取付孔に挿入され、アークチャンバ30と絶縁された状態で固定される。また、熱電子放出部32に関連して、フィラメント電源54、カソード電源56、及びアーク電源58が設けられている。
【0034】
フィラメント50は、フィラメント電源54で加熱され、先端に熱電子を発生させる。フィラメント50で発生した(1次)熱電子は、カソード電源56によるカソード電界で加速される。(1次)熱電子は、カソード52に衝突し、その衝突時に発生する熱でカソード52を加熱する。加熱されたカソード52は(2次)熱電子を発生する。
【0035】
アーク電源58によってカソード52とアークチャンバ30との間にアーク電圧が印加されている。アーク電圧によって(2次)熱電子が加速される。(2次)熱電子は、ガス分子を電離するに十分なエネルギーを持ったビーム電子としてアークチャンバ30内に放出される。ビーム電子は、磁場Mによってほぼ限定された範囲に存在するのでイオンはその範囲で主に生成される。ビーム電子は、拡散によりアークチャンバ30の内壁、ビーム引出スリット42、カソード52、リペラー34に到達し、壁面で失われる。
【0036】
リペラー34は、リペラープレート60を有する。リペラープレート60は、カソード52と対向してほぼ平行に設けられている。リペラープレート60は、アークチャンバ30内の電子を跳ね返して、プラズマPが生成される領域に電子を滞留させてイオン生成効率を高める。
【0037】
イオンソース12には磁場発生器62が設けられている。磁場発生器62はアークチャンバ30の外に配置されている。磁場発生器62は一対のソース磁場コイルを備え、その一方がアークチャンバ30の上方にあり、他方がアークチャンバ30の下方にある。磁場発生器62によってアークチャンバ30内に磁場Mが印加される。磁場Mはアークチャンバ30の縦方向に印加される。
【0038】
カソード52からアークチャンバ30に放出されたビーム電子は磁場Mに沿ってカソード52とリペラー34との間を往復移動する。往復移動するビーム電子は、アークチャンバ30に導入された原料ガス分子と衝突し原料ガス分子を電離させてイオンを発生させ、アークチャンバ30にプラズマPを生成する。アークチャンバ30が縦長であるので、プラズマPも縦長となる。
【0039】
第1引出電極36は、アークチャンバ30の外側に隣接して設けられている。第1引出電極36は、スリット部材46からビーム引出方向に隙間を空けて配置されている。第2引出電極38は、スリット部材46と反対側に第1引出電極36に隣接して設けられている。第2引出電極38は、第1引出電極36からビーム引出方向に隙間を空けて配置されている。
【0040】
第1引出電極36及び第2引出電極38にはそれぞれ、図示されるように、ビーム引出スリット42に対応する開口がイオンビームBを通すために設けられている。これらの開口は、ビーム引出スリット42と同様に上下長孔形状を有する。第1引出電極36及び第2引出電極38は、例えば、ステンレス鋼、グラファイト、モリブデン、またはタングステンで形成されている。
【0041】
第1引出電極36は、サプレッション電源64に接続されている。サプレッション電源64は、第2引出電極38に対して第1引出電極36に負電位を印加するために設けられている。第2引出電極38は接地されている。第1引出電極36はサプレッション電極とも呼ばれる。第2引出電極38はグランド電極とも呼ばれる。
【0042】
ビーム引出は、第1引出電極36とスリット部材46との間に印加された電圧に応じてビーム引出スリット42に生じる電界によって行われる。その電界により、プラズマからイオンビームBがビーム引出スリット42を通じて引き出される。イオンビームBは、第1引出電極36及び第2引出電極38を通過し、ビームライン装置14によって注入処理室16に輸送され、基板Wに照射される。
【0043】
図4は、あるイオンソース条件から別のイオンソース条件への切り替えたときのアークチャンバ30の内壁の状態変化を例示する図である。イオンソース条件とは、イオンソース12の運転条件であり、使用されるガス種およびその流量、プラズマ励起用の投入電力(例えば、アーク電流、アーク電圧)、印加磁場等のパラメータを含む。イオンソース条件が切り替わるとき、これらのパラメータの少なくとも1つが変更される。以下では説明の便宜上、切替前の条件を、現在運用されているイオンソース条件であることから「現イオンソース条件」と適宜称し、切替後の条件を、次に運用されるイオンソース条件であることから、「新イオンソース条件」と適宜称する。
【0044】
図4の左上部は、イオンソース12の運転が現イオンソース条件で十分な時間継続されたときのアークチャンバ30の内壁の状態を示す。また、
図4の中央上部は、現イオンソース条件から新イオンソース条件に切り替えた直後のアークチャンバ30の内壁の状態を示し、
図4の右上部は、その後新イオンソース条件でイオンソース12の運転が十分な時間継続されたときのアークチャンバ30の内壁の状態を示す。
図4の下部は、現イオンソース条件から新イオンソース条件に切り替えたときのアークチャンバ30の内壁の物質形成量(例えば、物質層の厚さ)の変化を示す。
【0045】
本発明者の考察によると、アークチャンバ30の内壁にはイオンソース条件に応じて異なる物質が形成されうる。例えば、
図4の左上部に示されるように、現イオンソース条件においてはアークチャンバ30に第1プラズマPaが生成され、それにより内壁に第1物質αが形成される。現イオンソース条件から新イオンソース条件に切り替わると、
図4の中央上部に示すように、第1プラズマPaとは異なる第2プラズマPbがアークチャンバ30に生成される。切替直後であるからアークチャンバ30の内壁には依然として第1物質αが残留している。
図4の右上部に示されるように、新イオンソース条件の運用開始から十分な時間が経過すると、第2プラズマPbによってアークチャンバ30の内壁に第2物質βが形成される。
【0046】
このように、イオンソース条件の切替はアークチャンバ30の内壁の状態遷移を伴う。
図4の下部に示されるように、現イオンソース条件で形成された第1物質αが徐々に内壁から除去され、新イオンソース条件のもとで第2物質βが徐々に内壁に形成される。内壁から除去された第1物質αはイオンビームとともにアークチャンバ30の外に排出されると考えられる。第2物質βは内壁にある程度形成されると飽和する。
【0047】
こうした遷移状態ではイオンソース12から引き出されるイオンビームの品質が十分に安定しない。そのため、新イオンソース条件の運用開始からしばらくの間、イオンビームの安定を待つ必要がある。この待ち時間ΔT1は、現イオンソース条件と新イオンソース条件の組み合わせによっては、かなりの時間を要する。待ち時間ΔT1が終わるまでイオン注入装置10の注入処理を開始できない。そこで、イオン注入装置10の生産性を向上するうえで、イオンソース条件の切替に伴うイオンビーム安定待ち時間の短縮が望まれる。
【0048】
そこで、イオンビーム安定待ち時間を削減すべく、本発明者らは、以下に説明する構成を考案した。
【0049】
図5(A)から
図5(D)は、本発明のある実施形態に係り、あるイオンソース条件から別のイオンソース条件への切り替えたときのアークチャンバ30の内壁の状態変化を例示する図である。
【0050】
新イオンソース条件に適する表層領域をアークチャンバ30の内壁に形成するための操作が、現イオンソース条件から新イオンソース条件に切り替える際に実行される。この操作を以下では、プレトリートメントと適宜称する。プレトリートメントを定めるプレトリートメント条件が現イオンソース条件と新イオンソース条件の組み合わせに応じて予め定められており、イオンソース条件の切替時に自動的にプレトリートメントが実行される。
【0051】
図5(A)は、
図4の左上部と同様に、イオンソース12の運転が現イオンソース条件で十分な時間継続されたときのアークチャンバ30の内壁の状態を示す。よって、アークチャンバ30の内壁に第1プラズマPaが生成され、それにより内壁に第1物質αが形成されている。
【0052】
図5(B)は、アークチャンバ30の内壁に現イオンソース条件のもとで形成される第1物質αをプラズマとの反応(例えばプラズマエッチング)により内壁から除去するための第1プレトリートメントを示す。第1プレトリートメントにおいては、アークチャンバ30に第1プレトリートメント用のプラズマ(以下、第1プレトリートメントプラズマと適宜称する)P1が生成され、それにより内壁から第1物質αが除去される。
【0053】
図5(C)は、アークチャンバ30の内壁に新イオンソース条件のもとで形成される第2物質βをプラズマとの反応(例えばプラズマ成膜)により内壁に予め形成するための第2プレトリートメントを示す。第2プレトリートメントにおいては、アークチャンバ30に第2プレトリートメント用のプラズマ(以下、第2プレトリートメントプラズマと適宜称する)P2が生成され、それにより内壁に第2物質βが形成される。
【0054】
第2プレトリートメントによってアークチャンバ30の内壁に第2物質βが急速に蓄積された後に、
図5(D)に示されるように、新イオンソース条件でのイオンソース12の運用が開始される。アークチャンバ30の内壁に第2物質βが既に形成されているため、新イオンソース条件の運用開始直後から安定したイオンビームを引き出すことができる。
【0055】
図6は、本発明のある実施形態に係るイオン注入装置10の制御装置100を概略的に示す図である。制御装置100は、ハードウエア、ソフトウエア、またはそれらの組合せによって実現される。また、
図6においては、関連するイオン注入装置10の一部の構成を概略的に示す。
【0056】
イオンソース12は、ガス供給部70、プラズマ励起源72、および引出電極部74を備える。ガス供給部70は、アークチャンバ30に原料ガスを供給するよう構成されている。ガス供給部70は、原料ガス源(図示せず)を備え、原料ガスを、
図3に示すガス導入口40を通じてアークチャンバ30内に供給する。ガス供給部70は、アークチャンバ30内に供給される原料ガスの流量を調整するマスフローコントローラ(図示せず)を備える。
【0057】
プラズマ励起源72は、アークチャンバ30に供給された原料ガスをプラズマ状態に励起するよう構成されている。プラズマ励起源72は、
図3に示す熱電子放出部32および磁場発生器62を備える。引出電極部74は、アークチャンバ30からイオンを引き出すよう構成されており、
図3に示す第1引出電極36および第2引出電極38を備える。
【0058】
制御装置100は、イオンソース制御部102、保持時間取得部104、およびプレトリートメント条件設定部106を備える。プレトリートメント条件設定部106は、第1プレトリートメント設定部108、第2プレトリートメント設定部110、第1無効化判定部112、および第2無効化判定部114を備える。また、制御装置100は、入力部116および出力部118を備える。
【0059】
イオンソース制御部102は、現イオンソース条件および新イオンソース条件に従ってガス供給部70およびプラズマ励起源72を制御するよう構成されている。また、イオンソース制御部102は、現イオンソース条件から新イオンソース条件に変更するときプレトリートメント条件に従ってガス供給部70およびプラズマ励起源72を制御するよう構成されている。
【0060】
保持時間取得部104は、現イオンソース条件の保持時間を取得するよう構成されている。
【0061】
プレトリートメント条件設定部106は、現イオンソース条件、保持時間、および新イオンソース条件に基づいてプレトリートメント条件を設定するよう構成されている。第1プレトリートメント設定部108は、第1プレトリートメントを定める第1プレトリートメント条件を、現イオンソース条件および保持時間に基づいて設定するよう構成されている。第1プレトリートメント条件は、プラズマ励起用の第1投入電力(例えばアーク電力)、第1原料ガスの種類および流量、第1プレトリートメントの実施時間を含む。第2プレトリートメント設定部110は、第2プレトリートメントを定める第2プレトリートメント条件を、新イオンソース条件に基づいて設定するよう構成されている。第2プレトリートメント条件は、プラズマ励起用の第2投入電力、第2原料ガスの種類および流量、第2プレトリートメントの実施時間を含む。
【0062】
第1無効化判定部112は、現イオンソース条件および/または保持時間および/または新イオンソース条件に基づいて第1プレトリートメント設定部108を無効化するか否かを判定するよう構成されている。第2無効化判定部114は、現イオンソース条件および/または保持時間および/または新イオンソース条件に基づいて第2プレトリートメント設定部110を無効化するか否かを判定するよう構成されている。
【0063】
入力部116は、ユーザまたは他の装置からの、イオン注入装置10の制御に関連する入力を受け付けるよう構成されている。入力部116は例えば、ユーザからの入力を受け付けるためのマウスやキーボード等の入力手段、及び/または、他の装置との通信をするための通信手段を含む。出力部118は、イオン注入装置10の制御に関連する情報を出力するよう構成され、ディスプレイやプリンタ等の出力手段を含む。入力部116および出力部118はそれぞれ制御装置100と通信可能に接続されている。
【0064】
なお、制御装置100は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、
図6では適宜、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0065】
アークチャンバ30の内壁に形成された第1物質αのような反応性物質を内壁から除去するには、その反応性物質の原料ガスの供給を減らすことが有効である。それとともに、原料ガスと異なるクリーニング専用のガスがアークチャンバ30に供給されてもよい。
【0066】
そこで、ガス供給部70は、第1プレトリートメントにおいて、現イオンソース条件に使用される原料ガスとは異なる第1原料ガスをアークチャンバ30に供給してもよい。第1原料ガスは、典型的に、希ガス、ハロゲン、または、希ガスまたはハロゲンを含有する混合ガスである。希ガスはアークチャンバ30の内壁と反応し難い。よって、内壁表面のスパッタリングによる除去効果の促進が期待される。ハロゲン等の反応性の高いガスを使用すれば、内壁表面のエッチングによる除去効果の促進も期待される。また、アークチャンバ30内の圧力を低くすることは第1物質αの蒸発を促進するので、アークチャンバ30に供給されるガスの流量を比較的小さくすることも有効である。
【0067】
加えて、アークチャンバ30の内壁から反応性物質を除去するには、アークチャンバ30の温度を高くすることも有効である。昇温により第1物質αの蒸発が促進される。そこで、第1プレトリートメントにおけるプラズマ励起源72への第1投入電力は、現イオンソース条件におけるプラズマ励起源72への投入電力より大きくてもよい。
【0068】
第1プレトリートメントの実行中はイオン注入装置10の注入処理が停止されるので、イオン注入装置10の生産性を高めるうえで、第1プレトリートメントの実施時間は極力短くすることが望まれる。現イオンソース条件での第1物質αの形成量は、現イオンソース条件の保持時間にも依存する。そこで、プレトリートメント条件設定部106は、現イオンソース条件の保持時間に基づいて第1プレトリートメントの実施時間を決定してもよい。
【0069】
図7は、本発明のある実施形態に係る現イオンソース条件の保持時間と第1プレトリートメントの実施時間との関係を例示する図である。
図7に示される第1プレトリートメント実施時間テーブル120は、現イオンソース条件の保持時間に対応する第1プレトリートメントの実施時間を定義する。図示される第1プレトリートメント実施時間テーブル120においては、現イオンソース条件の保持時間が長いほど第1プレトリートメントの実施時間が長い。第1プレトリートメント実施時間テーブル120は予め用意され、制御装置100に記憶されている。第1プレトリートメント実施時間テーブル120は、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。
【0070】
一方、第2プレトリートメントにおいて、アークチャンバ30の内壁に第2物質βのような反応性物質を形成するために、ガス供給部70は、典型的に、新イオンソース条件に使用される原料ガスと同じガス種である第2原料ガスをアークチャンバ30に供給する。形成を促進するには原料ガス流量の増加が有効であるから、第2原料ガスの流量は、新イオンソース条件での原料ガス流量より大きいことが好ましい。
【0071】
加えて、アークチャンバ30の内壁への反応性物質を形成するには、アークチャンバ30の温度を低くすることも有効である。降温により第2物質βの形成が促進される。そこで、第2プレトリートメントにおけるプラズマ励起源72への第2投入電力は、新イオンソース条件におけるプラズマ励起源72への投入電力より小さくてもよい。
【0072】
図8は、本発明のある実施形態に係る新イオンソース条件で使用されるガス種と第2プレトリートメントの実施時間との関係を例示する図である。
図8に示される第2プレトリートメント実施時間テーブル122は、新イオンソース条件で使用されるガス種に対応する第2プレトリートメントの実施時間を定義する。図示される第2プレトリートメント実施時間テーブル122においては、リンを含有するガス(例えばPH
3)が新イオンソース条件で使用される場合に第2プレトリートメントが実施されるが、他の場合(例えば、BF
3、AsH
3が使用される場合)には第2プレトリートメントが実施されない。第2プレトリートメント実施時間テーブル122は予め用意され、制御装置100に記憶されている。第2プレトリートメント実施時間テーブル122は、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。
【0073】
図9は、本発明のある実施形態に係るイオンソース12の制御方法を概略的に示す図である。この方法は、制御装置100によってイオンソース12の運転中に実行される。
図9に示されるように、イオンソース制御部102は、現イオンソース条件に従ってガス供給部70およびプラズマ励起源72を制御し、イオンソース12を運転する(S10)。現イオンソース条件は、イオン注入装置10の操作者が入力部116から入力する。入力されたイオンソース条件がイオンソース制御部102に与えられる。また、入力されたイオンソース条件は、必要に応じて、出力部118に出力される。
【0074】
保持時間取得部104は、現イオンソース条件の保持時間を取得する(S12)。保持時間取得部104は、現イオンソース条件の運用開始からの経過時間を算出し、これを保存する。保持時間取得部104は、必要に応じて、現イオンソース条件の保持時間を出力部118に出力する。
【0075】
プレトリートメント条件設定部106は、イオンソース条件の切替指示がなされたか否かを判定する(S14)。イオン注入装置10の操作者は、現イオンソース条件の次に運用される新イオンソース条件を入力部116から入力することができる。こうしたイオンソース条件の切替指示がなされた場合には(S14のY)、プレトリートメント条件設定部106は、現イオンソース条件およびその保持時間と、新イオンソース条件とに基づいてプレトリートメント条件を設定する(S16)。プレトリートメント条件は、上述のように、新イオンソース条件に適する表層領域をプラズマチャンバ内壁に形成するためのプレトリートメントを定める。プレトリートメント条件設定部106は、設定されたプレトリートメント条件を必要に応じて出力部118に出力する。イオンソース条件の切替指示がなされていない場合には(S14のN)、現イオンソース条件の運用が継続される。
【0076】
あるいは、イオン注入装置10の操作者は、現在のイオンビーム条件または現在の注入レシピの次に運用される新たなイオンビーム条件または注入レシピを入力部116から入力することができる。この場合、プレトリートメント条件設定部106は、イオンビーム条件または注入レシピの切替に伴ってイオンソース条件の切替が必要であるか否かを判定してもよい。
【0077】
プレトリートメント条件の設定に際し、第1無効化判定部112は、現イオンソース条件および/または保持時間および/または新イオンソース条件に基づいて第1プレトリートメント設定部108を無効化するか否かを判定してもよい。例えば、現イオンソース条件がプラズマチャンバ内壁に物質を形成し難い条件である場合や、現イオンソース条件の保持時間が短いためプラズマチャンバ内壁への形成量が十分に少ない場合には、第1プレトリートメントが省略されてもよい。あるいは、現イオンソース条件で形成される物質が新イオンソース条件に与える影響が十分に小さい場合には、第1プレトリートメントが省略されてもよい。
【0078】
また、第2無効化判定部114は、現イオンソース条件および/または保持時間および/または新イオンソース条件に基づいて第2プレトリートメント設定部110を無効化するか否かを判定してもよい。例えば、新イオンソース条件がプラズマチャンバ内壁に物質を形成し難い条件である場合には、第2プレトリートメントが省略されてもよい。
【0079】
第1無効化判定部112によって第1プレトリートメント設定部108が無効化されている場合を除き、第1プレトリートメント設定部108は、第1プレトリートメント条件を、現イオンソース条件および保持時間に基づいて設定する。また、第2無効化判定部114によって第2プレトリートメント設定部110が無効化されている場合を除き、第2プレトリートメント設定部110は、第2プレトリートメント条件を、新イオンソース条件に基づいて設定する。
【0080】
イオンソース制御部102は、こうして設定されたプレトリートメント条件に従って、現イオンソース条件から新イオンソース条件に変更するときガス供給部70およびプラズマ励起源72を制御する。このようにして、プレトリートメントが実行される(S18)。プレトリートメントが終了すると、イオンソース制御部102は、新イオンソース条件に従ってガス供給部70およびプラズマ励起源72を制御し、イオンソース12を運転する。こうして、イオンソース条件の切替が完了し、新イオンソース条件の運用が開始される(S20)。制御装置100は、その旨を必要に応じて出力部118に出力してもよい。
【0081】
図10は、現イオンソース条件から、本発明のある実施形態に係るプレトリートメントを経て新イオンソース条件に切り替えたときのアークチャンバ30の内壁の物質形成量の変化を示す。上述のように、現イオンソース条件、第1プレトリートメント条件、第2プレトリートメント条件、新イオンソース条件の順に自動的に実行される。図示されるように、第1プレトリートメント条件および第2プレトリートメント条件の所要時間はそれぞれΔTp1およびΔTp2である。新イオンソース条件の開始後の安定待ち時間はΔTwである。これらの合計である総待ち時間ΔT2(=ΔTp1+ΔTp2+ΔTw)は、
図4に例示したプレトリートメント無しの場合の待ち時間ΔT1より相当に短縮されることがわかる。
【0082】
図11から
図13は、本発明のある実施形態に係るプレトリートメントの効果を表す実験例を示す図である。
図11及び
図12の実験例においては、ガス種として現イオンソース条件でPH
3が用いられ新イオンソース条件でBF
3が用いられている。
図13の実験例においては、ガス種として現イオンソース条件でBF
3が用いられ新イオンソース条件でPH
3が用いられている。
【0083】
図11には、新イオンソース条件への切替後に測定される、現イオンソース条件に由来するビーム電流が示される。
図11には、第1プレトリートメントを行っていない場合と行った場合とが図示されている。第1プレトリートメントが行われない場合には、現イオンソース条件に由来するビーム電流、つまりリンイオンビームが、新イオンソース条件の開始後も長く残る。これに対し、第1プレトリートメントが行われる場合には、新イオンソース条件への切替直後から、現イオンソース条件に由来するビーム電流が、実際上無視できる程度に十分に小さい。
【0084】
図12には、新イオンソース条件への切替後に測定される新イオンソース条件でのビーム電流が示される。
図12には、
図11と同様に、第1プレトリートメントを行っていない場合と行った場合とが図示されている。第1プレトリートメントが行われない場合には、新イオンソース条件でのビーム電流、つまりボロンイオンビームの立ち上がりに時間がかかる。これに対し、第1プレトリートメントが行われる場合には、新イオンソース条件への切替直後から、安定したビーム電流が得られる。
【0085】
なお、
図11及び
図12の実験例においては、第2プレトリートメントは行われていない。
【0086】
図13には、新イオンソース条件への切替後に測定される新イオンソース条件でのビーム電流が示される。
図13には、第2プレトリートメントを行っていない場合と行った場合とが図示されている。第2プレトリートメントが行われない場合には、新イオンソース条件でのビーム電流、つまりリンイオンビームの立ち上がりに時間がかかる。これに対し、第2プレトリートメントが行われる場合には、新イオンソース条件への切替直後から、安定したビーム電流が得られる。なお、
図13の実験例においては、第1プレトリートメントは行われていない。
【0087】
説明したように、イオンソース条件を切り替える際に切替前後のイオンソース条件に応じた最適な内容のプレートリートメントを最適な時間行うことにより、イオンソース条件の切替後のイオンビーム安定待ち時間が短縮される。それにより、イオン注入装置10の生産性が向上される。
【0088】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【0089】
上述の実施形態においては、引出電極部74は、現イオンソース条件および新イオンソース条件のもとでプラズマチャンバからイオンを引き出すよう構成されている。ここで、引出電極部74は、第1プレトリートメント条件および第2プレトリートメント条件の少なくとも一方のもとでプラズマチャンバからのイオン引出を停止するよう構成されていてもよい。第1プレトリートメントにおいて第1物質αの除去効果を高めるために高アーク電力を使うと、プラズマ密度が大きくなりすぎることがある。これにより、正常なイオンビーム引出が妨げられうる。そこで、第1プレトリートメントは、引出電圧をオフとし、イオンビームを引き出さずに実施してもよい。第2プレトリートメントについては、低アーク電力を使用することでプラズマ密度が小さくなりすぎ、イオン引出の条件が不適切になることがある。そこで、第2プレトリートメントについても同様に、引出電圧をオフとし、イオンビームを引き出さずに実施してもよい。
【0090】
現イオンソース条件は、イオン生成装置の非運転条件であってもよい。このようにして、イオン生成装置の運転開始時(いわゆるコールドスタート)に適切なプレトリートメントを適用することができる。また、新イオンソース条件は、イオン生成装置の非運転条件であってもよい。このようにして、イオン生成装置の運転停止時に適切なプレトリートメントを適用することができる。
【0091】
第2プレトリートメント条件は、新イオンソース条件と同じイオンソース条件であってもよい。
【0092】
プレトリートメント条件は、手動で設定されてもよい。
【0093】
上記の説明は傍熱型のイオンソースを参照して行っているが、本発明はこれに限られず、RFイオンソース、マイクロ波イオンソース、バーナス型イオンソースなど、プラズマチャンバに反応性原料ガスが供給されそのプラズマがチャンバ内壁に作用するその他の任意のイオンソースに適用されてもよい。この場合、上記の説明で言及される「アークチャンバ」との用語は、より一般化された表現として使用される「プラズマチャンバ」との用語に読み替えることができる。