特許第6584928号(P6584928)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6584928
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】電子装置
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/228 20060101AFI20190919BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20190919BHJP
   H01L 23/02 20060101ALI20190919BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20190919BHJP
   H01L 25/00 20060101ALI20190919BHJP
   H05K 1/18 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   H01G4/228 G
   H01G4/30 560
   H01L23/02 H
   H01L23/12 Q
   H01L23/12 301Z
   H01L25/00 B
   H05K1/18 K
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-224197(P2015-224197)
(22)【出願日】2015年11月16日
(65)【公開番号】特開2017-92393(P2017-92393A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000154325
【氏名又は名称】住友電工デバイス・イノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】児玉 晃忠
【審査官】 木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−239112(JP,A)
【文献】 特開平7−263634(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/157584(WO,A1)
【文献】 特開平5−166969(JP,A)
【文献】 特開平9−82844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/228− 4/252
H01G 4/30
H01L 23/02 −23/10
H01L 23/12 −23/15
H01L 25/00
H05K 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属により形成されたベースと、
セラミックスにより形成された絶縁基板、前記絶縁基板の上面に設けられた上部電極、および前記絶縁基板の下面に設けられた下部電極を有するキャパシタと、を具備し、
前記上部電極および前記下部電極は、矩形の角部が欠如した形状を有するとともに、前記下部電極はロウ付けにより前記ベースと接合される電子装置。
【請求項2】
前記上部電極は前記下部電極より厚い請求項1に記載の電子装置。
【請求項3】
前記絶縁基板の上面における前記上部電極の形状は、前記絶縁基板の下面における前記下部電極の形状と同一である請求項1または2に記載の電子装置。
【請求項4】
前記絶縁基板はチタン酸バリウムにより形成され、
前記下部電極および前記上部電極は金を含み、
前記ベースは銅を含む請求項1から3のいずれか一項に記載の電子装置。
【請求項5】
前記下部電極は直線状の辺を備え、前記辺には切り込みが設けられている請求項1から4のいずれか一項に記載の電子装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は電子装置に関する。
【0002】
電子装置では、例えばキャパシタなどとして機能する電子部品をベースに実装する。電子部品は、絶縁基板と、実装のための下部電極とを備える。下部電極はベタ電極であり、金属のベースの表面にロウ材を用いて接合する。これにより電子部品をベースに固定する(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−208660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロウ材による接合の工程では、電子装置をロウ材の融点以上の温度まで加熱する。このとき、ベースと電子部品の絶縁基板との熱膨張係数の違いに起因して、電子部品の絶縁基板に応力が加わる。こうした応力により、電子部品の絶縁基板にクラックが発生してしまう。
【0005】
本願発明は、上記課題に鑑み、電子部品の絶縁基板のクラックを抑制することが可能な電子装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態は、金属により形成されたベースと、セラミックスにより形成された絶縁基板、前記絶縁基板の上面に設けられた上部電極、および前記絶縁基板の下面に設けられた下部電極を有するキャパシタと、を具備し、前記上部電極および前記下部電極は、矩形の角部が欠如した形状を有するとともに、前記下部電極はロウ付けにより前記ベースと接合される電子装置である。
【発明の効果】
【0007】
上記発明によれば、電子部品の絶縁基板のクラックを抑制することが可能な電子装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A図1Aは実施例1に係る電子装置を例示する平面図である。
図1B図1B図1Aの線A−Aに沿った断面図である。
図2A図2Aは実施例1に係るチップを例示する下面図である。
図2B図2Bは実施例1に係るチップを例示する上面図である。
図2C図2C図2Aおよび図2Bの線B−Bに沿った断面図である。
図3図3図2Aの円C1で囲んだ部分を拡大した図である。
図4A図4Aは比較例に係るチップを例示する下面図である。
図4B図4B図4Aの線C−Cに沿った断面図である。
図5A図5Aは比較例に係るチップの絶縁基板における応力のシミュレーション結果を示す図である。
図5B図5Bは実施例1に係るチップの絶縁基板における応力のシミュレーション結果を示す図である。
図6図6は温度サイクル試験の結果を示す図である。
図7A図7Aは実施例1の変形例に係るチップを例示する下面図である。
図7B図7Bはチップを例示する上面図である。
図7C図7C図7Aおよび図7Bの線D−Dに沿った断面図である。
図8A図8Aは実施例2に係るチップを例示する下面図である。
図8B図8B図8Aの円C3で囲んだ部分を拡大した図である。
図9図9は実施例2に係るチップの絶縁基板における応力のシミュレーション結果を示す図である。
図10図10は実施例3に係るチップを例示する下面図である。
図11A図11Aは実施例4に係るチップを例示する下面図である。
図11B図11Bは実施例4に係るチップを例示する上面図である。
図11C図11C図11Aおよび図11Bの線E−Eに沿った断面図である。
図12A図12Aは実施例5に係るチップを例示する下面図である。
図12B図12B図12Aの線F−Fに沿った断面図である。
図13A図13Aはチップを例示する下面図である。
図13B図13Bはチップを例示する上面図である。
図13C図13C図13Aおよび図13Bの線G−Gに沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一形態は、(1)金属により形成されたベースと、セラミックスにより形成された絶縁基板、前記絶縁基板の上面に設けられた上部電極、および前記絶縁基板の下面に設けられた下部電極を有するキャパシタと、を具備し、前記上部電極および前記下部電極は、矩形の角部が欠如した形状を有するとともに、前記下部電極はロウ付けにより前記ベースと接合される電子装置である。これにより、絶縁基板における応力の集中が抑制され、絶縁基板のクラックを抑制することができる。
(2)前記上部電極は前記下部電極より厚いことが好ましい。ともに金属で形成されたベースおよび上部電極が絶縁基板を上下から挟むため、絶縁基板における応力の集中が緩和され、クラックを効果的に抑制することができる。
(3)前記絶縁基板の上面における前記上部電極の形状は、前記絶縁基板の下面における前記下部電極の形状と同一であることが好ましい。これにより、絶縁基板、下部電極および上部電極で平行平板キャパシタを形成し、所望のキャパシタンスを得ることができる。
(4)前記絶縁基板はチタン酸バリウムにより形成され、前記下部電極および前記上部電極は金を含み、前記ベースは銅を含むことが好ましい。これにより、ベースと絶縁基板とで熱膨張係数に違いがある場合でも、クラックを抑制することができる。またキャパシタンスを大きくすることができる。
(5)前記下部電極は直線状の辺を備え、前記辺には切り込みが設けられていることが好ましい。これにより絶縁基板の辺における応力の集中を抑制し、クラックを抑制することができる。
【0010】
本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0011】
図1Aは実施例1に係る半導体装置100を例示する平面図である。図1B図1Aの線A−Aに沿った断面図である。図1Aおよび図1Bに示すように、半導体装置100(電子装置)は、ベース10、枠体12、チップ14、16、20および22、半導体チップ18、ならびに2つのフィードスルー30を備える。X方向は2つのフィードスルー30が並ぶ方向である。Y方向は、枠体12の壁のうちフィードスルー30の設けられる壁が延伸する方向である。Z方向はXY平面の法線方向である。
【0012】
図1Bに示すようにベース10は例えば、−Z側から順に銅(Cu)層10a、モリブデン(Mo)層10b、Cu層10cを積層したものである。ベース10は他の金属により形成されてもよい。図1Aに示すように、ベース10の±Y側の側面には凹部11が設けられている。凹部11に例えばネジをはめ込むことで、ベース10を基板に実装する。
【0013】
ベース10、枠体12、リッド13およびフィードスルー30はパッケージを構成する。パッケージに収納される電子部品は、例えばチップ14、16、20および22、半導体チップ18である。これらの電子部品は、例えば金および錫(Au−Sn)の合金により形成されたロウ材15により、ベース10のCu層10cの上面に設けられる。枠体12は、リング状の部材であり、例えばコバールなどの金属により形成されている。リッド13はコバールなどの金属により形成されている。図1Aに示すように、枠体12は、XY平面内において、チップ14、16、20および22、半導体チップ18を囲む。ベース10、枠体12およびリッド13により、チップ14、16、20および22、半導体チップ18は気密封止される。
【0014】
図1Aに示すように、枠体12のX方向において対向する2つの壁には開口部12aが設けられており、2つの開口部12aのそれぞれにフィードスルー30が挿入されている。フィードスルー30は、ボディ32および34、配線パターン36を備える。図1Aに示すように、ボディ32は、突出部32aを有するT字形状の部材である。突出部32aは、開口部12aのY方向の両側において枠体12の外壁に沿って突出する。配線パターン36は、ボディ32の上面に設けられ、X方向に伸びている。ボディ32および34は例えばセラミックス等の絶縁体により形成され、配線パターン36は例えばAuなどの金属により形成されている。ボディ32および34の表面に不図示の金属層が設けられている。フィードスルー30とベース10および枠体12の内壁との間には例えばロウ材が充填され、フィードスルー30はロウ材によりベース10および枠体12に固定されている。
【0015】
図1Aに示すように、フィードスルー30の配線パターン36とチップ14、チップ14とチップ16、チップ16と半導体チップ18、半導体チップ18とチップ20、チップ20とチップ22、チップ22と配線パターン36とは、それぞれボンディングワイヤ24により電気的に接続されている。ボンディングワイヤ24は例えばAuなどの金属により形成されている。
【0016】
半導体チップ18は基板、および基板上に設けられた窒化物半導体層を含む。窒化物半導体層には例えば電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor:FET)が形成されている。例えば、基板は炭化シリコン(SiC)、FETのチャネル層は窒化ガリウム(GaN)、電子供給層は窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)により形成されている。後述するように、チップ14および22は例えば伝送線路を含み、チップ16および20は例えばキャパシタを含む。
【0017】
2つのリード40の一方(入力端子)から配線パターン36に、例えば高周波(Radio Frequency:RF)信号が入力され、2つのリード40のうち他方(出力端子)からRF信号が出力される。またリード40には、半導体チップ18のFETのバイアス電圧が入力される。フィードスルー30は伝送線路として機能し、RF信号がフィードスルー30の配線パターン36を流れる。RF信号の周波数において、チップ14および16、ならびにチップ20および22は、フィードスルー30と半導体チップ18との間のインピーダンスを整合する整合回路として機能する。半導体装置100は例えばRF信号を増幅する増幅器として機能する。
【0018】
図2Aは実施例1に係るチップ16を例示する下面図である。図2Bは実施例1に係るチップ16を例示する上面図である。図2C図2Aおよび図2Bの線B−Bに沿った断面図である。図3図2Aの円C1で囲んだ部分を拡大した図である。チップ20はチップ16と同じ構成を有する。チップ14および22については図13A図13Cにおいて後述する。
【0019】
図2Aから図2Cに示すように、チップ16は絶縁基板50、下部電極52および上部電極54を備える。図2Aおよび図2Cに示すように絶縁基板50の下面に下部電極52が設けられ、図2Bおよび図2Cに示すように絶縁基板50の上面に上部電極54(金属層)が設けられている。絶縁基板50、下部電極52および上部電極54はキャパシタを形成する。下部電極52は、図1Bに示したロウ材15によりベース10の上面に接合される。下部電極52およびベース10は基準電位(例えばグランド電位)を有する。上部電極54には図1Aおよび図1Bに示したボンディングワイヤ24が電気的に接続される。絶縁基板50は、例えば厚さ0.2mmのチタン酸バリウム(BaTiO)などのセラミックスにより形成された矩形の基板である。絶縁基板50のX方向の長さL1は例えば2.5mm以下、Y方向の長さL2は例えば3.5mm以下である。
【0020】
下部電極52および上部電極54は、矩形の角部が直線状に欠如した(カットされた)形状を有するベタ電極である。図2Aに示すように、下部電極52には、X方向に延伸する一辺とY方向に延伸する一辺とを接続する直線部51が形成されている。4つの直線部51は、矩形の四隅に対応する位置に設けられている。図3に示す直線部51のX方向の長さL3およびY方向の長さL4は、ともに例えば0.05mm以上、0.1mm以下である。X方向およびY方向における絶縁基板50の端部から下部電極52の端部までの距離D1は例えば0.1mm以下である。上部電極54の絶縁基板50の上面における形状は、下部電極52の絶縁基板50の下面における形状と同一である。図2Bに示すように、上部電極54には、直線部53が形成されている。このように、下部電極52および上部電極54のXY平面内の形状は八角形である。下部電極52および上部電極54は例えばAuなどの金属により形成されている。下部電極52の厚さは例えば2μmであり、上部電極54の厚さは例えば4μmである。チップ20はチップ14と同じ構成を有する。
【0021】
次に比較例について説明する。図4Aは比較例に係るチップ16Rを例示する下面図である。図4B図4Aの線C−Cに沿った断面図である。図4Aおよび図4Bに示すように、下部電極52は絶縁基板50と同一の形状を有し、絶縁基板50の下面全体に設けられている。上部電極54は絶縁基板50の上面全体に設けられている。下部電極52に直線部51は形成されておらず、上部電極54に直線部53は形成されていない。
【0022】
チップ16および16Rなどの電子部品は、ロウ材15によりベース10の上面に接合される。ロウ材15は、例えばSn組成比が22%のAu−Sn合金などの金属により形成されている。接合の際、ベース10および電子部品をロウ材15の融点(例えば320℃)以上の温度まで加熱し、その後に常温まで冷却することでロウ材15を固化する。接着剤による接着に比べ、ロウ材15による接合では温度が高い。ベース10は2つのCu層10aおよび10cを含むため、ベース10の熱膨張係数はCuの熱膨張係数である16.7×10−6/Kにほぼ等しい。一方、絶縁基板50を形成するBaTiOの熱膨張係数は34.0×10−6/Kである。このようにベース10と絶縁基板50とで熱膨張係数に違いがあるため、温度変化に伴い絶縁基板50に応力が発生する。また、絶縁基板50は絶縁体で形成されているため、金属に比べて脆い。さらに、ロウ材15は接着剤に比べ固く、チップ16および16Rをベース10に強固に接合する。したがって絶縁基板50に応力が集中すると、絶縁基板50にクラックが発生する恐れがある。特に、絶縁基板50の材料としてBaTiOなど比誘電率の高い材料を用いると、絶縁基板50がより脆くなる。実施例1によれば、下部電極52に直線部51を形成することで、応力の集中を抑制し、絶縁基板50のクラックを抑制することができる。
【0023】
実施例1および比較例において、ロウ材15を用いてチップ16および16Rをベース10に実装する工程における絶縁基板50の応力のシミュレーションを行った。シミュレーションの条件は以下のものである。
ベース10のCu層10aの厚さ:3mm
Cu層10cの厚さ:1mm
Mo層10bの厚さ:2mm
絶縁基板50の材料:BaTiO
絶縁基板50の長さL1:2.5mm
絶縁基板50の長さL2:3.5mm
絶縁基板50の厚さ:0.2mm
下部電極52および上部電極54の材料:Au
下部電極52の厚さ:2μm
上部電極54の厚さ:4μm
距離D1:2mm
直線部51および53の長さL3、L4:1mm
ロウ材15の材料:Au−Sn合金(Sn組成比22%)
ベース10とチップとの接合温度:320℃
シミュレーションした温度:330℃
【0024】
図5Aは比較例に係るチップ16Rの絶縁基板50における応力のシミュレーション結果を示す図である。図5Bは実施例1に係るチップ16の絶縁基板50における応力のシミュレーション結果を示す図である。図5Aおよび図5Bにおいては絶縁基板50の下部電極52が設けられる面が上を向いている。図5Aおよび図5Bに斜線で示した領域80は応力が2Pa以上の領域である。
【0025】
図5Aに示すように、比較例においては領域80が絶縁基板50の角部、および絶縁基板50の辺の中央部などに分布した。つまり、角部および辺の中央部など狭い部分に応力が集中する。このため、円C2で囲んだ部分のように応力の高い部分と低い部分との境界において、絶縁基板50にクラックが発生する。クラックによりチップ16Rのキャパシタとしての機能が損なわれる。またクラックにより生じる絶縁基板50の破片がパッケージ内に飛散し、半導体チップ18に接触することで、半導体チップ18を破壊することもある。
【0026】
図5Bに示すように、比較例に比べ、実施例1においては領域80が広い。具体的には、領域80が絶縁基板50の角部から辺にかけて広がっている。このように、下部電極52に直線部51が形成されていることにより、応力が絶縁基板50に広く分散し、応力の集中が抑制される。また実施例1によれば、図5Aの円C2の領域のような応力が急激に変化する部分も生じにくい。このため絶縁基板50のクラックが抑制される。クラック抑制により、絶縁基板50の破片による半導体チップ18などのダメージも抑制される。このため半導体装置100の信頼性が向上する。
【0027】
チップ16に温度サイクル試験を行った。温度サイクル試験では、チップ16の実装されたベース10を、凹部11にネジを係合することで、Cuで形成された実装基板に固定した。そして−65〜175℃の温度変化を100サイクル繰り返した。絶縁基板50、下部電極52および上部電極54の材料および寸法は、図5Bに示したシミュレーションで用いたものと同じである。
【0028】
図6は温度サイクル試験の結果を示す図である。縦軸は図2Aに示した長さL1、横軸は長さL2を表す。白丸はクラックの発生しなかったサンプルの結果(クラックなし)を表し、黒丸はクラックの発生したサンプルの結果(クラックあり)を表す。L1>2.5mmかつL2>3.5mmのサイズの絶縁基板50を用いると、実施例1の構成でもクラックが発生した。一方、図6中に点線で示した範囲、つまりL1≦2.5mmかつL2≦3.5mmの範囲において、実施例1の構成により、絶縁基板50のクラックを抑制することができた。
【0029】
実施例1においては上部電極54に直線部53が形成されている。このため、ロウ材15による接合の際に、絶縁基板50の上面側においても応力の集中が効果的に抑制され、クラックが抑制される。この結果、チップ16の絶縁基板50、下部電極52および上部電極54がキャパシタとして有効に機能する。
【0030】
図2Aおよび図2Bに示したように、絶縁基板50の上面における上部電極54の形状は、絶縁基板50の下面における下部電極52の形状と同じである。これにより、絶縁基板50、下部電極52および上部電極54により平行平板キャパシタを形成し、所望のキャパシタンスを得ることができる。上部電極54の形状は、例えば製造誤差の範囲内で下部電極52の形状と同一であればよい。
【0031】
直線部51の長さL3およびL4は0.05〜0.1mmであることが好ましい。L3およびL4が0.05mm未満の場合、直線部51による応力集中の緩和の効果は小さく、応力が絶縁基板50の角部に集中してしまう。L3およびL4を大きくすることで応力集中の緩和をすることができる。しかし、下部電極52および上部電極54のXY平面内の面積が小さくなり、キャパシタンスが小さくなってしまう。長さL3およびL4を0.05〜0.1mmとすることで、応力の集中を抑制することができ、かつ大きなキャパシタンスを得ることができる。また下部電極52を大きな面積を有するベタ電極とすることにより、チップ16とベース10との密着性を高めることができる。L3はL4と等しくてもよいし、異なってもよい。
【0032】
下部電極52の端部と絶縁基板50の端部との距離D1が大きい場合、応力の集中が抑制される。例えばD1が0.2mm以上の場合、直線部を設けなくても、応力の集中が抑制され、クラックを抑制することができる。しかし下部電極52のXY平面内の面積が小さくなり、キャパシタンスが小さくなってしまう。このため、距離D1を0.1mm以下にすることが好ましい。これにより下部電極52のXY平面内の面積を大きくし、キャパシタンスを大きくすることができる。また、下部電極52に直線部51を形成することで、応力の集中を抑制し、クラックを抑制することができる。絶縁基板50の上面においても、上部電極54の端部と絶縁基板50の端部との距離を0.1mm以下とすることが好ましい。キャパシタンスを大きくするため、D1は例えば0.08mm以下、0.05mm以下などとしてもよい。
【0033】
上部電極54の厚さは例えば4μmであり、下部電極52の厚さ(例えば2μm)より大きい。ともに金属で形成されたベース10および上部電極54が絶縁基板50を上下から挟むため、絶縁基板50における応力の集中が緩和され、クラックが効果的に抑制される。下部電極52はロウ材15と共晶を形成するため、厚くすることが難しい。したがって、下部電極52の厚さは上部電極54より小さくし、例えば2μm程度とする。上部電極54と下部電極52とで厚さの比は2:1でもよいし、例えば3:1などでもよい。
【0034】
チップ16のキャパシタンスを高めるため、絶縁基板50はBaTiOのような比誘電率の高い絶縁体で形成する。このような絶縁基板50は金属と比較して脆く、応力の集中によりクラックが発生しやすい。ベース10は2つのCu層10aおよび10cを含むため、ベース10の熱膨張率は16.7×10−6/Kに近くなる。絶縁基板50の材料であるBaTiOの熱膨張係数は34.0×10−6/Kである。ベース10と絶縁基板50とで熱膨張係数に違いがあるため、温度の上昇に伴い大きな応力が発生する。下部電極52に直線部51が形成され、上部電極54に直線部53が形成されていることにより応力の集中を抑制し、絶縁基板50のクラックを抑制することができる。また、比誘電率の高いBaTiO3で絶縁基板50を形成し、キャパシタンスを大きくすることができる。クラックを抑制することができるため、絶縁基板50の材料の選択肢が多くなる。例えば比誘電率などに応じて材料を選択することができ、絶縁基板50をBaTiO以外の絶縁体により形成してもよい。
【0035】
下部電極52および上部電極54は例えば絶縁基板50に近い方からチタン(Ti)層、パラジウム(Pd)層、Au層を積層し、さらにAuメッキ層を設けた電極でもよい。また下部電極52および上部電極54は上記以外の金属により形成されてもよい。ベース10は図1Bに示したようにCu層10aおよび10c、Mo層10bの積層体としたが、他の構成を有してもよい。ベース10がCuで形成された上面を含むことで、当該上面に電子部品が接合される。またベース10は他の金属により形成されてもよい。ロウ材15は、Au−Sn合金以外に、例えば半田および銀(Ag)などの金属により形成されてもよい。
【0036】
図7Aは実施例1の変形例に係るチップ16aを例示する下面図である。図7Bはチップ16aを例示する上面図である。図7C図7Aおよび図7Bの線D−Dに沿った断面図である。図7Aから図7Cに示すように、X方向およびY方向において、下部電極52および上部電極54の端部と絶縁基板50の端部とが一致している。下部電極52および上部電極54の面積が大きくなるため、より大きなキャパシタンスを得ることができる。また、下部電極52は直線部51を有し、上部電極54は直線部53を有する。このため絶縁基板50における応力の集中を抑制し、クラックを抑制することができる。
【実施例2】
【0037】
実施例2は下部電極52および上部電極54に曲線部を形成した例である。図8Aは実施例2に係るチップ16bを例示する下面図である。図8B図8Aの円C3で囲んだ部分を拡大した図である。チップ16bは、図1Aおよび図1Bに示したベース10の上面に搭載される。実施例1と同じ構成については説明を省略する。
【0038】
図8Aおよび図8Bに示すように、下部電極52は、矩形の角部が曲線状にカットされた形状を有するベタ電極である。下部電極52には、外側に凸の曲線部55が形成されている。曲線部55は半径R1の円弧状であり、半径R1は例えば0.5mmである。X方向およびY方向における絶縁基板50の端部から下部電極52の端部までの距離D1は例えば0.1mm以下である。上部電極54の絶縁基板50の上面における形状は、下部電極52の絶縁基板50の下面における形状と同一である。下部電極52および上部電極54の形状は丸い角部を有する四角形である
【0039】
実施例2において、チップ16bをベース10に実装する際の絶縁基板50の応力のシミュレーションを行った。シミュレーションの条件は実施例1と同様とし、また曲線部55の半径R1は0.5mmとした。
【0040】
図9は実施例2に係るチップ16bの絶縁基板50における応力のシミュレーション結果を示す図である。図9に示すように、実施例2においては領域80が絶縁基板50の2つの辺に沿って広がっている。このように実施例2によれば、実施例1に比較して、応力がより広く分散するため、絶縁基板50のクラックが効果的に抑制される。半径R1は0.5mm以下または0.5mm以上でもよい。また曲線部55は例えば楕円弧など、円弧以外の曲線でもよい。
【実施例3】
【0041】
実施例3は下部電極52および上部電極54の辺に切り込みを形成した例である。図10は実施例3に係るチップ16cを例示する下面図である。チップ16cは、図1Aおよび図1Bに示したベース10の上面に搭載される。実施例1と同じ構成については説明を省略する。
【0042】
図10に示すように、下部電極52は、矩形の角部が直線状にカットされ、かつ辺に切り込みが形成された形状を有するベタ電極である。下部電極52には直線部51が形成されている。下部電極52の四つの辺それぞれの中央部に切り込み57が形成されている。切り込み57のX方向の長さL5は例えば2mm、Y方向の長さL6は例えば3mmである。実施例3における直線部51の長さは実施例1における長さと同じである。上部電極54の絶縁基板50の上面における形状は、下部電極52の絶縁基板50の下面における形状と同一である。
【0043】
図5Aに示したように、絶縁基板50の角部および辺の中央部には応力が集中しやすい。実施例3によれば、下部電極52に直線部51を設け、辺に切り込み57を設けるため、絶縁基板50の角部および辺の中央部における応力の集中を効果的に抑制することができる。したがって実施例1に比べ、さらに効果的に絶縁基板50のクラックを抑制することができる。
【0044】
切り込み57は辺の中央部以外に形成されてもよい。ただし、前述のように、応力の集中を効果的に抑制するためには、辺の中央部に切り込み57を形成することが好ましい。切り込み57は、下部電極52の4つの辺のうち少なくとも一対の辺、つまり対向する二辺に設けられていればよい。また一辺に2つ以上の切り込み57を設けてもよい。これにより応力の集中を効果的に抑制することができる。図8Aに示した曲線部55を下部電極52に設け、さらに辺に切り込み57を設けてもよい。実施例2および3において、図7Aおよび図7Bのように、下部電極52の端部を絶縁基板50の端部と一致させてもよい。
【実施例4】
【0045】
実施例4はチップに複数のキャパシタが形成されている例である。実施例4に係るチップ16dは、実施例1の図1Aおよび図1Bに示したベース10の上面に搭載される。図11Aは実施例4に係るチップ16dを例示する下面図である。図11Bは実施例4に係るチップ16dを例示する上面図である。図11C図11Aおよび図11Bの線E−Eに沿った断面図である。実施例1と同じ構成については説明を省略する。
【0046】
図11Aおよび図11Bに示すように、チップ16dの絶縁基板50はY方向に長い矩形の形状を有する。絶縁基板50の長さL7は例えば2.5mm以下、L8は例えば3.5mm以下である。図11Aに示すように、下部電極52はY方向に長いベタ電極であり、直線部51を有する。下部電極52はロウ材15によりベース10の上面に接合される。図11Bおよび図11Cに示すように、絶縁基板50の上面に4つの上部電極60が設けられている。図11Bに示すように上部電極60のそれぞれは、矩形の角部がカットされた形状を有するベタ電極であり、直線部61が形成されている。4つの上部電極60のそれぞれに図1Aおよび図1Bに示したボンディングワイヤ24が電気的に接続される。
【0047】
実施例4によれば、下部電極52に直線部51を形成し、かつ4つの上部電極60それぞれに直線部61を形成するため、応力の集中が効果的に抑制され、絶縁基板50のクラックが効果的に抑制される。下部電極52および4つの上部電極60に曲線部を設けてもよいし、少なくとも一対の辺に切り込みを形成してもよい。上部電極60は3つ以下でもよいし、5つ以上でもよい。
【実施例5】
【0048】
実施例5はチップに複数のキャパシタが形成されている例である。実施例5に係るチップ16eは、実施例1の図1Aおよび図1Bに示したベース10の上面に搭載される。図12Aは実施例5に係るチップ16eを例示する下面図である。図12B図12Aの線F−Fに沿った断面図である。実施例1および4と同じ構成については説明を省略する。チップ16eの上面は実施例4の図11Bと同じ構成であるため説明を省略する。
【0049】
図12Aおよび図12Bに示すように、チップ16eの絶縁基板50の下面に4つの下部電極62が設けられている。図12Aに示すように、4つの下部電極62それぞれに直線部63が形成されている。4つの下部電極62はロウ材15によりベース10の上面に接合される。上部電極60の絶縁基板50の上面における形状は、下部電極62の絶縁基板50の下面における形状と同一である。
【0050】
実施例5によれば、4つの上部電極60および4つの下部電極62それぞれに直線部を形成するため、応力の集中が効果的に抑制され、絶縁基板50のクラックが効果的に抑制される。また、上部電極60および下部電極62に曲線部を設けてもよいし、少なくとも一対の辺に切り込みを形成してもよい。上部電極60および下部電極62は、それぞれ3つ以下でもよいし、5つ以上でもよい。
【0051】
次にチップ14について説明する。チップ14は、実施例1の図1Aおよび図1Bに示したベース10の上面に搭載される。図13Aはチップ14を例示する下面図である。図13Bはチップ14を例示する上面図である。図13C図13Aおよび図13Bの線G−Gに沿った断面図である。チップ22はチップ14と同じ構成を有する。
【0052】
図13Aから図13Cに示すように、チップ14は絶縁基板70、下部電極72および金属層74を備える。図13Aおよび図13Cに示すように絶縁基板70の下面に下部電極72が設けられている。図13Bおよび図13Cに示すように絶縁基板70の上面に金属層74が設けられている。絶縁基板70、下部電極72および金属層74は、RF信号を伝送する伝送線路を形成する。絶縁基板70は、例えば厚さ0.2mmの酸化アルミニウム(Al)などの絶縁体により形成されている。下部電極72および金属層74は例えばAuなどの金属により形成されている。下部電極72はベタ電極であり、ロウ材15によりベース10の上面に接合される。金属層74は配線パターンであり、図1Aおよび図1Bに示したボンディングワイヤ24が電気的に接続され、RF信号などの電気信号を分配または結合する。下部電極72には、例えば実施例4の直線部51と同じ長さの直線部71が形成されている。このため、絶縁基板70における応力の集中が抑制され、クラックが抑制される。
【0053】
下部電極72に曲線部を設けてもよいし、少なくとも一対の辺に切り込みを形成してもよい。また、半導体チップ18の下部電極も実施例1〜5のいずれかと同様の形状とすることができる。これにより、半導体チップ18のクラックを抑制することができる。
【0054】
実施例1の図1Aおよび図1Bに示した半導体装置100に実施例4に係るチップ16dまたは実施例5に係るチップ16e、チップ14および22を適用する。チップにより整合回路を形成することができる。図13Bに示した金属層74の+X側端部を、図1Aおよび図1Bに示したフィードスルー30の配線パターン36とボンディングワイヤ24で電気的に接続する。金属層74の−X側の4つの端部を、図11Bおよび図12Aに示した上部電極60とボンディングワイヤ24で電気的に接続する。また半導体チップ18のFETの電極を上部電極60とボンディングワイヤ24で電気的に接続する。各電子部品の下部電極はベース10の上面に接合され、基準電位を有する。RF信号の周波数において、チップ14および16、ならびにチップ20および22は、フィードスルー30と半導体チップ18との間のインピーダンスを整合する整合回路として機能する。
【0055】
チップ14、16、20および22、ならびに半導体チップ18をベース10に実装する際、ベース10を例えばロウ材15の融点である320℃以上まで加熱する。チップ14および22の実装、チップ16および20の実装、ならびに半導体チップ18の実装のために、熱処理は3回行われる。チップ14および22の絶縁基板は例えばAlで形成されているため、高い耐熱性を有する。一方、チップ16および20の絶縁基板は例えばBaTiOで形成されているため、耐熱性がチップ14および22より低い。また半導体チップ18は熱により劣化する可能性がある。そこで、チップ14および22を最初に実装し、次にチップ16および20を実装し,最後に半導体チップ18を実装する。これにより、チップ14および22は3回加熱され、チップ16および20は2回加熱され、半導体チップ18は1回のみ加熱されることになる。この結果、チップ14、16、20および22、ならびに半導体チップ18の熱によるダメージを抑制することができる。
【0056】
チップ16および20は絶縁基板にBaTiOを用いたキャパシタとしたが、絶縁基板には例えばAlなどの絶縁体を用いてもよい。チップ14および22は絶縁基板にAlを用いた伝送線路としたが、絶縁基板には例えばBaTiOなどの絶縁体を用いてもよい。また、チップ14、16、20および22は、キャパシタおよび伝送線路以外に、例えばインダクタなどを含んでもよい。
【0057】
実施例1〜5において、半導体チップ18は基板、および基板上に設けられた半導体層を含む。基板はSiC、シリコン(Si)、サファイア、GaNなどにより形成される。半導体層には、例えば窒化物半導体を含むFETなどが形成されている。窒化物半導体とは、窒素(N)を含む半導体であり、例えばGaN、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化インジウム(InN)、および窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)などがある。半導体チップ18には、窒化物半導体以外に、例えば砒素系半導体などの化合物半導体を用いてもよい。砒素系半導体とはガリウム砒素(GaAs)など砒素(As)を含む半導体である。この場合、半導体チップ18の基板をGaAsで形成してもよい。また半導体チップ18にはFET以外のトランジスタなどが形成されていてもよい。半導体装置は例えば増幅器として機能するが、他の機能を有してもよい。
【0058】
電子装置に含まれるチップは3つ以下でもよいし、5つ以上でもよい。半導体チップ18は2つ以上でもよい。また実施例1〜5では半導体装置を例としたが、半導体チップ18を含まない電子装置にも実施例1〜5は適用可能である。
【0059】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0060】
10 ベース
11 凹部
12 枠体
12a 開口部
13 リッド
14、16、16a、16b、16c、
16d、16e、20、22 チップ
15 ロウ材
18 半導体チップ
24 ボンディングワイヤ
30 フィードスルー
32、34 ボディ
32a 突出部
36 配線パターン
40 リード
50、70 絶縁基板
51、53、61、63、71 直線部
52、62、72 下部電極
55 曲線部
54、60 上部電極
57 切り込み
74 金属層
80 領域
100 半導体装置
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図13A
図13B
図13C