(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、特定の非球状シリカ粒子を砥粒として含有する研磨液組成物を粗研磨に用いることにより、研磨速度を大きく低下させることなく、そして、粗研磨後のロールオフを大きく悪化させることなく、長波長うねりを低減できるという知見に基づく。一般に、磁気ディスク基板の製造において、長波長うねりを低減できれば生産性も向上する。
【0014】
特定の非球状シリカ粒子を砥粒として用いることで、研磨速度を大きく低下させることなく、そして、粗研磨後のロールオフを大きく悪化させることなく、長波長うねりを低減できるメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推察される。被研磨基板は、通常、研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨基板を挟み込み、研磨液組成物を研磨機に供給しながら、定盤や被研磨基板を動かして被研磨基板を研磨する方法により研磨される。被研磨基板を挟み込んだ研磨パッドは被研磨基板の端部で変形しやすいため、基板面の中央部よりも基板面の端部において高い荷重がかかることによりロールオフが発生すると考えられる。これに対し、本開示に係る研磨液組成物では、特定の非球状シリカ粒子を用いることで、基板外周部に比べて基板内周部の研磨速度が向上し、その結果、ロールオフが抑制されると考えられる。さらに、研磨時に研磨パッドと基板との間に起こる振動の大きさを小さくすることができ、長波長うねりを低減できると考えられる。ただし、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0015】
すなわち、本開示に係る研磨液組成物は、非球状シリカ粒子A及び水を含み、pHが、0.5以上6.0以下であり、前記非球状シリカ粒子Aの平均二次粒子径D2と平均一次粒子径D1との比D2/D1が、2.1以上4.0以下であり、前記非球状シリカ粒子Aの平均二次粒子径D2が、180nm以上である、磁気ディスク基板用研磨液組成物に関する。
【0016】
本開示において基板の「うねり」とは、粗さよりも波長の長い基板表面の凹凸をいう。本開示において「長波長うねり」とは、500〜5000μmの波長により観測されるうねりをいう。研磨後の基板表面の長波長うねりが低減されることにより、磁気ディスクドライブにおいて磁気ヘッドの浮上量を低くすることができ、磁気ディスクの記録密度の向上が可能となる。基板表面の長波長うねりは、実施例に記載の方法により測定できる。
【0017】
[非球状シリカ粒子A]
本開示に係る研磨液組成物は、上述したように、非球状シリカ粒子A(以下、「粒子Aともいう」)を含有する。
【0018】
粒子Aの平均球形度は、0.60以上が好ましく、0.70以上がより好ましく、そして、0.85以下が好ましく、0.80以下がより好ましく、0.75以下が更に好ましい。本開示において、粒子Aの平均球形度は、少なくとも200個の粒子Aの球形度の平均値である。粒子Aの球形度は、例えばTEMによる観察及び画像解析ソフト等を用いて、粒子Aの投影面積Sと投影周囲長Lとを求め、以下の式から算出できる。
球形度=4π×S/L
2
個々の粒子Aの球形度は、前記平均球形度と同様、0.60以上が好ましく、0.70以上がより好ましく、そして、0.85以下が好ましく、0.80以下がより好ましく、0.75以下が更に好ましい。
【0019】
粒子Aの平均短径は、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、100nm以上が好ましく、150nm以上がより好ましく、180nm以上が更に好ましく、そして、500nm以下が好ましく、450nm以下がより好ましく、400nm以下が更に好ましい。
【0020】
本開示において、粒子Aの平均短径は、少なくとも200個の粒子Aの短径の平均値である。粒子Aの短径は、例えばTEMによる観察及び画像解析ソフト等を用いて、投影された粒子Aの画像に外接する最小の長方形を描いたときの、前記長方形の短辺の長さである。同様に、粒子Aの長径は、前記長方形の長辺の長さである。
【0021】
粒子Aの平均アスペクト比は、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、1.10以上が好ましく、1.15以上がより好ましく、1.20以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、2.00以下が好ましく、1.70以下がより好ましく、1.50以下が更に好ましい。
【0022】
本開示において、粒子Aの平均アスペクト比は、少なくとも200個の粒子Aのアスペクト比の平均値である。粒子Aのアスペクト比は、粒子Aの長径と短径との比(長径/短径)である。
【0023】
粒子AのBET比表面積は、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、50m
2/g以下が好ましく、40m
2/g以下がより好ましく、30m
2/g以下が更に好ましく、そして、10m
2/g以上が好ましく、15m
2/g以上がより好ましく、20m
2/g以上が更に好ましい。本開示において、BET比表面積は、窒素吸着法(以下、「BET法」ともいう)により算出できる。具体的には、実施例に記載の測定方法により算出できる。
【0024】
粒子Aの平均一次粒子径D1は、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、60nm以上が好ましく、70nm以上がより好ましく、80nm以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましく、120nm以下が更に好ましい。
【0025】
本開示において、粒子Aの平均一次粒子径は、BET比表面積S(m
2/g)を用いて、下記式から算出できる。具体的には、実施例に記載の測定方法により算出できる。
平均一次粒子径(nm)=2727/S
【0026】
粒子Aの平均二次粒子径D2は、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、180nm以上であり、200nm以上が好ましく、220nm以上がより好ましく、そして、500nm以下が好ましく、400nm以下がより好ましく、300nm以下が更に好ましい。
【0027】
本開示において、粒子Aの平均二次粒子径とは、動的光散乱法により測定される散乱強度分布に基づく平均粒径をいう。本開示において「散乱強度分布」とは、動的光散乱法(DLS:Dynamic Light Scattering)又は準弾性光散乱(QLS:Quasielastic Light Scattering)により求められるサブミクロン以下の粒子の重量換算の粒径分布のことをいう。本開示における粒子Aの平均二次粒子径は、具体的には実施例に記載の方法により得ることができる。
【0028】
粒子Aの平均二次粒子径D2と平均一次粒子径D1との粒径比(D2/D1)は、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、2.1以上であり、2.2以上が好ましく、2.4以上がより好ましく、そして、4.0以下であり、3.0以下が好ましく、2.8以下がより好ましい。
【0029】
本開示において、粒径比(D2/D1)は、粒子Aの異形度合いを意味し得る。一般的に動的光散乱法によって測定される平均二次粒子径D2は、シリカ粒子が異形粒子の場合、長方向での光散乱を検出して処理を行うため、長方向と短方向の長さを考慮して異形度合いが大きいほど大きな数値となる。BET法によって測定される比表面積値から換算される平均一次粒子径D1は、求まる粒子の体積をベースとして球換算で表されるため、平均二次粒子径D2に比べると小さな数値となる。研磨速度の観点から、粒径比(D2/D1)は、上述の範囲のなかでも大きいことが好ましい。
【0030】
粒子Aの二次粒子径の変動係数(以下、「CV値」ともいう)は、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上が更に好ましく、そして、30%以下が好ましく、28%以下がより好ましい。
【0031】
本開示において粒子Aの二次粒子径のCV値とは、動的光散乱法により検出角90°の散乱強度分布に基づき、測定される二次粒子径の標準偏差を平均二次粒子径で除して100を掛けて得られる値(単位:%)をいう。前記CV値は、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0032】
粒子Aとしては、例えば、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、表面修飾したシリカ等が挙げられる。研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、粒子Aとしては、コロイダルシリカが好ましく、下記の特定の形状をもったコロイダルシリカがより好ましい。
【0033】
粒子Aの形状は、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、好ましくは、粒子Aの二次粒子径よりも粒径が小さいシリカ粒子を前駆体粒子として、複数の前駆体粒子が、凝集又は融着した形状である。粒子Aは、同様の観点から、金平糖型のシリカ粒子Aa、異形型のシリカ粒子Ab、及び異形かつ金平糖型のシリカ粒子Acから選ばれる少なくとも1種のシリカ粒子であることが好ましく、異形型のシリカ粒子Abがより好ましい。
【0034】
本開示において、金平糖型のシリカ粒子Aa(以下、「粒子Aa」ともいう)は、球状の粒子表面に特異な疣状突起を有するシリカ粒子をいう(
図1参照)。粒子Aaは、好ましくは、最も大きい前駆体粒子a1と、粒径が前駆体粒子a1の1/5以下である1個以上の前駆体粒子a2とが、凝集又は融着した形状である。粒子Aaは、好ましくは粒径の小さい複数の前駆体粒子a2が粒径の大きな1個の前駆体粒子a1に一部埋没した状態である。粒子Aaは、例えば、特開2008−137822号公報に記載の方法により、得られうる。前駆体粒子の粒径は、TEM等による観察画像において1個の前駆体粒子内で測定される円相当径、すなわち、前駆体粒子の投影面積と同じ面積である円の長径として求められうる。シリカ粒子Ab及びシリカ粒子Acにおける前駆体粒子の粒径も同様に求めることができる。
【0035】
本開示において、異形型のシリカ粒子Ab(以下、「粒子Ab」ともいう)は、2個以上の前駆体粒子、好ましくは2個以上10個以下の前駆体粒子が凝集又は融着した形状のシリカ粒子をいう(
図2参照)。粒子Abは、好ましくは、最も小さい前駆体粒子の粒径を基準にして、粒径が1.5倍以内の2個以上の前駆体粒子が、凝集又は融着した形状である。粒子Abは、例えば、特開2015−86102号公報に記載の方法により、得られうる。
【0036】
本開示において、異形かつ金平糖型のシリカ粒子Ac(以下、「粒子Ac」ともいう)は、前記粒子Abを前駆体粒子c1とし、最も大きい前駆体粒子c1と、粒径が前駆体粒子c1の1/5以下である1個以上の前駆体粒子c2とが、凝集又は融着した形状である。
【0037】
粒子Aは、好ましくは粒子Aa、Ab及びAcから選ばれる1種以上を含む。粒子A中の粒子Aa、Ab及びAcの合計量は、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が更により好ましく、実質的に100質量%が更により好ましい。
【0038】
粒子Aは、粗研磨における研磨速度の低下抑制、粗研磨後のロールオフ及び長波長うねりの低減、並びに粗研磨及び仕上げ研磨後の突起欠陥低減の観点から、火炎溶融法、ゾルゲル法、及び粉砕法で製造されたものでもよいが、珪酸アルカリ水溶液を出発原料とする粒子成長法(以下、「水ガラス法」ともいう)により製造されたシリカ粒子であることが好ましい。粒子Aの使用形態としては、スラリー状であることが好ましい。
【0039】
粒子Aの粒径分布を調整する方法は、例えば、その製造段階における粒子の成長過程で新たな核となる粒子を加えることにより所望の粒径分布を持たせる方法や、異なる粒径分布を有する2種類以上のシリカ粒子を混合して所望の粒径分布を持たせる方法等が挙げられる。
【0040】
研磨液組成物中の粒子Aの含有量は、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましく、2質量%以上が更により好ましく、そして、経済性の観点から、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましく、15質量%以下が更により好ましい。
【0041】
本開示に係る研磨液組成物が粒子A以外のシリカ粒子を含有する場合、研磨液組成物中のシリカ粒子全体に対する粒子Aの含有量は、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、98.0質量%超が好ましく、98.5質量%以上がより好ましく、99.0質量%以上が更に好ましく、99.5質量%以上が更により好ましく、99.8質量%以上が更により好ましく、実質的に100質量%が更により好ましい。
【0042】
[pH調整剤]
本開示に係る研磨液組成物のpHは、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、0.5以上6.0以下である。本開示に係る研磨液組成物は、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、長波長うねり低減、及びpHを調整する観点から、pH調整剤を含有することが好ましい。pH調整剤としては、同様の観点から、酸及び塩から選ばれる1種以上が好ましい。
【0043】
酸としては、例えば、硝酸、硫酸、亜硫酸、過硫酸、塩酸、過塩素酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、アミド硫酸等の無機酸;有機リン酸、有機ホスホン酸等の有機酸;等が挙げられる。中でも、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、リン酸、硫酸及び1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸から選ばれる少なくとも1種が好ましく、硫酸及びリン酸から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、硫酸が更に好ましい。
【0044】
塩としては、例えば、上記の酸と、金属、アンモニア及びアルキルアミンから選ばれる少なくとも1種との塩が挙げられる。上記金属の具体例としては、周期表の1〜11族に属する金属が挙げられる。これらの中でも、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、上記の酸と、1族に属する金属又はアンモニアとの塩が好ましい。
【0045】
研磨液組成物中のpH調整剤の含有量は、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましく、0.1質量%以上が更により好ましく、そして、同様の観点から、5.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下が更に好ましく、2.5質量%以下が更により好ましい。
【0046】
[酸化剤]
本開示に係る研磨液組成物は、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、酸化剤を含有してもよい。酸化剤としては、同様の観点から、例えば、過酸化物、過マンガン酸又はその塩、クロム酸又はその塩、ペルオキソ酸又はその塩、酸素酸又はその塩、硝酸類、硫酸類等が挙げられる。これらの中でも、過酸化水素、硝酸鉄(III)、過酢酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、硫酸鉄(III)及び硫酸アンモニウム鉄(III)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、研磨速度向上の観点、被研磨基板の表面に金属イオンが付着せず汎用に使用され安価であるという観点から、過酸化水素がより好ましい。これらの酸化剤は、単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0047】
研磨液組成物中の前記酸化剤の含有量は、研磨速度向上の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、そして、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、4.0質量%以下が好ましく、2.0質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下が更に好ましい。
【0048】
[水]
本開示に係る研磨液組成物は、媒体として水を含有する。水としては、蒸留水、イオン交換水、純水及び超純水等が挙げられる。研磨液組成物中の水の含有量は、研磨液組成物の取扱いが容易になるため、61質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、85質量%以上が更により好ましく、そして、同様の観点から、99質量%以下が好ましく、98質量%以下がより好ましく、97質量%以下が更に好ましい。
【0049】
[その他の成分]
本開示に係る研磨液組成物は、必要に応じてその他の成分を含有してもよい。他の成分としては、増粘剤、分散剤、防錆剤、塩基性物質、研磨速度向上剤、界面活性剤、高分子化合物等が挙げられる。前記その他の成分は、本開示の効果を損なわない範囲で研磨液組成物中に含有されることが好ましく、研磨液組成物中の前記その他の成分の含有量は、0質量%以上が好ましく、0質量%超がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、そして、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0050】
[アルミナ砥粒]
本開示に係る研磨液組成物は、突起欠陥の低減化の観点から、アルミナ砥粒の含有量が、0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましく、0.02質量%以下が更に好ましく、アルミナ砥粒を実質的に含まないことが更に好ましい。本開示において「アルミナ砥粒を実質的に含まない」とは、アルミナ粒子を含まないこと、砥粒として機能する量のアルミナ粒子を含まないこと、又は、研磨結果に影響を与える量のアルミナ粒子を含まないこと、を含みうる。アルミナ粒子の研磨液組成物中の含有量は、研磨液組成物中の砥粒全量に対し、2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましく、実質的に0質量%であることが更により好ましい。
【0051】
[pH]
本開示に係る研磨液組成物のpHは、研磨速度向上、及び長波長うねり低減の観点から、0.5以上であり、0.7以上が好ましく、0.9以上がより好ましく、1.0以上が更に好ましく、1.2以上が更により好ましく、1.4以上が更により好ましく、そして、同様の観点から、6.0以下であり、4.0以下が好ましく、3.0以下がより好ましく、2.5以下が更に好ましく、2.0以下が更により好ましい。pHの調整は、前述の酸や公知のpH調整剤を用いて、調整することが好ましい。上記のpHは、25℃における研磨液組成物のpHであり、pHメータを用いて測定でき、好ましくは、pHメータの電極を研磨液組成物へ浸漬して2分後の数値である。
【0052】
[研磨液組成物の製造方法]
本開示に係る研磨液組成物は、例えば、粒子Aを含むシリカスラリーと、更に所望により、pH調整剤、酸化剤及びその他の成分とを公知の方法で配合し、pHを0.5以上6.0以下とすることにより製造できる。したがって、本開示は、少なくとも粒子A及び水を配合する工程を含む、研磨液組成物の製造に用いられるシリカスラリーの製造方法に関する。さらに、本開示は、少なくとも粒子A及び水を配合する工程を含み、必要に応じてpHを0.5以上6.0以下に調整する工程を含む、研磨液組成物の製造方法に関する。本開示において「配合する」とは、粒子A及び水、並びに必要に応じてpH調整剤、酸化剤及びその他の成分を同時に又は任意の順に混合することを含む。前記配合は、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機及び湿式ボールミル等の混合器等を用いて行うことができる。研磨液組成物の製造方法における各成分の好ましい配合量は、研磨液組成物中の各成分の好ましい含有量と同じである。
【0053】
本開示の研磨液組成物の製造方法は、シリカ粒子の分散性の観点から、好ましくは以下の工程を有する。
工程1:水と、pH調整剤と、任意で酸化剤を混合し、pH6.0以下の分散媒を調製する工程
工程2:前記分散媒と、粒子Aを含むシリカスラリーとを、混合する工程
工程1において、得られる分散媒のpHは、研磨液組成物のpHが所望の値となるように調整されることが好ましい。
【0054】
本開示において「研磨液組成物中の各成分の含有量」とは、研磨液組成物を研磨に使用する時点での前記各成分の含有量をいう。したがって、本開示に係る研磨液組成物が濃縮物として作製された場合には、前記各成分の含有量はその濃縮分だけ高くなりうる。
【0055】
[研磨液キット]
本開示は、研磨液組成物を製造するためのキットであって、前記粒子Aを含むシリカスラリーが容器に収納された容器入りスラリーを含む、研磨液キットに関する。本開示に係る研磨液キットは、前記容器入りスラリーとは別の容器に収納されたpH6.0以下の分散媒をさらに含むことができる。本開示によれば、砥粒としてシリカ粒子を使用した場合でも、粗研磨における研磨速度を大きく損ねることなく、さらに、粗研磨後のロールオフを大きく悪化させることなく、粗研磨後の基板表面の長波長うねりを低減できる研磨液組成物が得られうる研磨液キットを提供できる。
【0056】
本開示に係る研磨液キットとしては、例えば、前記粒子Aを含有するシリカスラリー(第1液)と、被研磨物の研磨に用いる研磨液組成物に配合され得る他の成分を含む溶液(第2液)とが、相互に混合されていない状態で保存されており、これらが使用時に混合される研磨液キット(2液型研磨液組成物)が挙げられる。研磨液組成物に配合され得る他の成分としては、例えば、pH調整剤、酸化剤等が挙げられる。前記第1液及び第2液には、各々必要に応じて任意成分が含まれていても良い。該任意成分としては、例えば、増粘剤、分散剤、防錆剤、塩基性物質、研磨速度向上剤、界面活性剤、高分子化合物等が挙げられる。
【0057】
[被研磨基板]
本開示に係る研磨液組成物が研磨の対象とする被研磨基板、磁気ディスク基板の製造に用いられる基板であり、例えば、Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板や、珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、結晶化ガラス、強化ガラス等のガラス基板が挙げられ、強度と扱いやすさの観点からNi−Pメッキされたアルミニウム合金基板が好ましい。本開示において「Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板」とは、アルミニウム合金基材の表面を研削後、無電解Ni−Pメッキ処理したものをいう。被研磨基板の表面を本開示にかかる研磨液組成物を用いて研磨する工程の後、スパッタ等でその基板表面に磁性層を形成する工程を行うことにより、磁気ディスクを製造できうる。被研磨基板の形状には、例えば、ディスク状、プレート状、スラブ状、プリズム状等の平面部を有する形状や、レンズ等の曲面部を有する形状が挙げられ、好ましくはディスク状の被研磨基板である。ディスク状の被研磨基板の場合、その外径は、例えば10〜120mmであり、その厚みは、例えば0.5〜2mmである。
【0058】
一般に、磁気ディスクは、研削工程を経た被研磨基板が、粗研磨工程、仕上げ研磨工程を経て研磨され、磁性層形成工程を経て製造される。本開示に係る研磨液組成物は、粗研磨工程における研磨に使用されることが好ましい。
【0059】
[磁気ディスク基板の製造方法]
本開示は、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する工程(以下、「本開示に係る研磨液組成物を用いた研磨工程」ともいう)を含む、磁気ディスク基板の製造方法(以下、「本開示に係る基板製造方法」ともいう。)に関する。
【0060】
本開示に係る研磨液組成物を用いた研磨工程では、例えば、研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨基板を挟み込み、本開示に係る研磨液組成物を研磨面に供給し、圧力を加えながら研磨パッドや被研磨基板を動かすことにより、被研磨基板を研磨する。
【0061】
本開示に係る研磨液組成物を用いた研磨工程における研磨荷重は、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、30kPa以下が好ましく、25kPa以下がより好ましく、20kPa以下が更に好ましく、そして、3kPa以上が好ましく、5kPa以上がより好ましく、7kPa以上が更に好ましい。本開示において「研磨荷重」とは、研磨時に被研磨基板の被研磨面に加えられる定盤の圧力をいう。研磨荷重の調整は、定盤や基板等への空気圧や重りの負荷によって行うことができる。
【0062】
本開示に係る研磨液組成物を用いた研磨工程における、被研磨基板1cm
2あたりの研磨量は、研磨速度向上、粗研磨後のロールオフ低減、及び長波長うねり低減の観点から、0.20mg以上が好ましく、0.30mg以上がより好ましく、0.40mg以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、2.50mg以下が好ましく、2.00mg以下がより好ましく、1.60mg以下が更に好ましい。
【0063】
本開示に係る研磨液組成物を用いた研磨工程における被研磨基板1cm
2あたりの研磨液組成物の供給速度は、経済性の観点から、2.5mL/分以下が好ましく、2.0mL/分以下がより好ましく、1.5mL/分以下が更に好ましく、そして、研磨速度の向上の観点から、被研磨基板1cm
2あたり0.01mL/分以上が好ましく、0.03mL/分以上がより好ましく、0.05mL/分以上が更に好ましい。
【0064】
本開示に係る研磨液組成物を研磨機へ供給する方法としては、例えば、ポンプ等を用いて連続的に供給を行う方法が挙げられる。研磨液組成物を研磨機へ供給する際は、全ての成分を含んだ1液で供給する方法の他、研磨液組成物の保存安定性等を考慮して、複数の配合用成分液に分け、2液以上で供給することもできる。後者の場合、例えば供給配管中又は被研磨基板上で、上記複数の配合用成分液が混合され、本開示に係る研磨液組成物となる。
【0065】
本開示に係る基板製造方法によれば、粗研磨における研磨速度を大幅に損なうことなく、粗研磨後の基板表面の長波長うねり及びロールオフを低減できるため、基板品質が向上した磁気ディスク基板を効率よく製造できるという効果が奏されうる。
【0066】
[研磨方法]
本開示は、本開示に係る研磨液組成物を用いた研磨工程を含む、磁気ディスク基板の研磨方法(以下、本開示に係る研磨方法ともいう)に関する。
【0067】
本開示に係る研磨方法を使用することにより、粗研磨における研磨速度を大幅に損なうことなく、粗研磨後の基板表面の長波長うねり及びロールオフを低減できるため、基板品質が向上した磁気ディスク基板の生産性を向上できるという効果が奏されうる。具体的な研磨の方法及び条件は、上述した本開示に係る基板製造方法と同じようにすることができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【0069】
1.研磨液組成物の調製
表1の砥粒(非球状シリカ粒子A、アルミナ砥粒)、pH調整剤(硫酸)、酸化剤(過酸化水素)、及び水を用い、実施例1〜4及び比較例1〜4の研磨液組成物を調製した。研磨液組成物中の各成分の含有量は、砥粒:7.5質量%、硫酸:0.5質量%、過酸化水素:0.5質量%であった。研磨液組成物のpHは1.4であった。粒子Aは、水ガラス法により製造されたコロイダルシリカ粒子である。pHは、pHメータ(東亜ディーケーケー社製)を用いて測定し、電極を研磨液組成物へ浸漬して2分後の数値を採用した(以下、同様)。
【0070】
2.各パラメータの測定方法
[シリカ粒子の平均短径、平均アスペクト比及び平均球形度の測定方法]
シリカ粒子をTEM(日本電子社製「JEM−2000FX」、80kV、1〜5万倍)で観察した写真をパーソナルコンピュータにスキャナで画像データとして取込み、解析ソフト(三谷商事「WinROOF(Ver.3.6)」)を用いて500個のシリカ粒子の投影画像について下記の通り解析した。
個々のシリカ粒子の短径及び長径を求め、短径の平均値(平均短径)を得た。さらに、長径を短径で除した値からアスペクト比の平均値(平均アスペクト比)を得た。さらに、個々のシリカ粒子の面積Sと周囲長Lとから、下記式により個々のシリカ粒子の球形度を算出し、球形度の平均値(平均球形度)を得た。
球形度=4π×S/L
2
【0071】
[シリカ砥粒の平均一次粒子径の測定方法]
シリカ砥粒の平均一次粒子径は、BET法によって算出されるBET比表面積S(m
2/g)を用いて下記式から算出した。
平均一次粒子径(nm)=2727/S
【0072】
BET比表面積Sは、下記の[前処理]をした後、測定サンプル約0.1gを測定セルに小数点以下4桁(0.1mgの桁)まで精量し、比表面積の測定直前に110℃の雰囲気下で30分間乾燥した後、比表面積測定装置(マイクロメリティック自動比表面積測定装置、フローソーブIII2305、島津製作所製)を用いてBET法により測定した。
[前処理]
スラリー状の粒子をシャーレにとり150℃の熱風乾燥機内で1時間乾燥させた。乾燥後の試料をメノウ乳鉢で細かく粉砕して測定サンプルを得た。
【0073】
[シリカ粒子の平均二次粒子径及びCV値の測定方法]
シリカ粒子をイオン交換水で希釈し、シリカ粒子を0.02質量%含有する分散液を調製して試料とし、動的光散乱装置(大塚電子社製「DLS−7000」)を用いて、下記の条件で測定した。得られた重量換算での粒度分布の面積が全体の50%となる粒径(D50)を平均二次粒子径とした。同時に、得られた重量換算分布における標準偏差を、前記平均二次粒径で除して、100をかけた値をCV値(単位:%)とした。
測定条件:試料量 30mL
:レーザー He−Ne、3.0mW、633nm
:散乱光検出角 90°
:積算回数 200回
【0074】
[アルミナ砥粒の平均二次粒子径の測定方法]
ポイズ530(花王社製、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤)を0.5質量%含有する水溶液を分散媒として、下記測定装置内に投入し、続いて透過率が75〜95%になるようにサンプル(アルミナ粒子)を投入し、その後、5分間超音波を付与した後、粒径を測定した。
測定機器 :堀場製作所製 レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置 LA920
循環強度 :4
超音波強度:4
【0075】
3.基板の研磨
調製した実施例1〜4及び比較例1〜4の研磨液組成物を用いて、下記の研磨条件で被研磨基板を研磨した。
【0076】
[研磨条件]
研磨機:両面研磨機(9B型両面研磨機、スピードファム社製)
被研磨基板:Ni−Pメッキされたアルミニウム合金基板、厚み:1.27mm、直径95mm、枚数:10枚
研磨液:研磨液組成物
研磨パッド:スエードタイプ(発泡層:ポリウレタンエラストマー)、厚み:1.0mm、平均気孔径:30μm、表面層の圧縮率:2.5%(Filwel社製)
定盤回転数:40rpm
研磨荷重:9.8kPa(設定値)
研磨液供給量:60mL/min
研磨時間:シリカ砥粒5分30秒、アルミナ砥粒3分30秒
【0077】
4.評価方法
[研磨速度の評価]
実施例1〜4及び比較例1〜4の研磨液組成物の研磨速度は、以下のようにして評価した。まず、研磨前後の各基板1枚当たりの重さを計り(Sartorius社製、「BP−210S」)を用いて測定し、各基板の質量変化から質量減少量を求めた。全10枚の平均の質量減少量を研磨時間で割った値を研磨速度とし、下記式により算出した。さらに比較例1を100とした相対値を算出した。
質量減少量(g)={研磨前の質量(g)−研磨後の質量(g)}
研磨速度(mg/min)=質量減少量(mg)/研磨時間(min)
【0078】
[長波長うねりの評価]
研磨後の10枚の両面、計20面について、下記の条件で測定した。その20面の測定値の平均値を基板の長波長うねりとして算出した。さらに比較例1を100.0とした相対値を算出した。
測定機器: KLA Tencor社製「OptiFLAT III」
Radius Inside/Out: 14.87mm/47.83mm
Center X/Y: 55.44mm/53.38mm
Low Cutoff: 2.5mm
Inner Mask: 18.50mm
Outer Mask: 45.5mm
Long Period: 2.5mm
Wa Correction: 0.9
Rn Correction: 1.0
No Zernike Terms: 8
【0079】
[ロールオフの評価]
研磨後の10枚の基板から任意に1枚を選択し、選択した基板のロールオフ値について、Zygo社製「New View 5032(レンズ:2.5倍、ズーム:0.5倍)」を用いて下記のとおり測定した。
(測定条件)
図3のように、基板表面の中心から外周方向に向かって43.0mm及び44.0mmとなる位置をそれぞれA点及びB点とし、A点とB点とを結ぶ延長線上において基板表面の中心から46.6mmとなる位置をC点とする。そして、研磨後の基板1枚のC点の位置を表裏3箇所ずつ(計6箇所)算出し、それぞれのC点から基板表面までの基板の厚み方向の距離を測定し、それらの平均値をロールオフ値(nm)とした。各測定点の位置算出には、Zygo社製の解析ソフト(Metro Pro)を用いた。ロールオフ値が正(プラス)の値に近づくほど、基板の端部が盛り上がっていることを示し、ロールオフが抑制されたといえる。
【0080】
[アルミナ残留の評価方法]
研磨後の各基板の表面を走査型電子顕微鏡(日立製作所社製:S−4000)にて1万倍で観察し、下記の3段階評価をした。
○:表面にアルミナ残留物が全く観察されないもの
△:表面にわずかにアルミナ残留物が観察されたもの
×:表面にアルミナ残留物が観察されたもの
【0081】
5.結果
各評価の結果を表1に示した。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示されるように、特定の非球状シリカ粒子を砥粒として含有する実施例1〜4は、特定の非球状シリカを砥粒として含まない比較例1〜4に比べて、研磨速度を大幅に損ねることなく、さらにロールオフを大幅に悪化させることなく、研磨後の長波長うねりが低減された。