【文献】
日産自動車株式会社,ルークス[ROOX]軽自動車Webカタログ,2009年12月,URL,http://history.nissan.co.jp/ROOX/VA0/0912/exterioor.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記塗布液がシランカップリング剤を含み、前記シランカップリング剤の加水分解性基の加水分解及び縮重合により生成する成分の質量pが、前記質量pと前記塗布液中のシリコン含有化合物から生成するSiO 2成分の質量qとの合計(p+q)の20%以上である、請求項1に記載の車両用窓ガラスの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の一形態を説明するが、本発明は以下で説明する形態に制限されるものではない。
【0014】
車両用窓ガラスには、紫外線遮蔽、赤外線遮蔽、防曇、撥水その他の機能の付与のために各種の機能性薄膜が形成される。これらの機能性薄膜は、基本的にはその機能が要求される窓ガラスに形成されることになる。しかし実際には、法規制によって高い可視光透過率の達成(例えば70%以上)が義務づけられながらも、乗員、特にドライバーに近い位置に設置される窓ガラスに形成されることが多い。
図1に示した小型乗用自動車100を例に挙げて説明すると、フロントウインドウ(ウインドシールド)10、フロントサイドウインドウ20、フロントドアウインドウ30に設置される窓ガラスには、機能性薄膜に対する顕著なニーズが存在する。
【0015】
これらの窓ガラスのうち、固定された窓(はめ殺し窓)であるフロントウインドウ10及びフロントサイドウインドウ20に設置される窓ガラス2は、その全周端に沿って遮蔽領域2a(ウインドシールドについては図示省略)が設けられることが多い。遮蔽領域2aは透明領域2bを囲むように形成され、この領域2a内のガラス板の主面にはセラミック遮蔽層が形成されている。セラミック遮蔽層及び機能性薄膜は、その層又は薄膜を構成する材料の劣化又は物理的損傷を考慮して、通常は、車外側空間に露出するガラス面以外のガラス面に形成される。フロントウインドウ10に用いる窓ガラスは2枚のガラス板を樹脂膜で接合した合わせガラスである。このため、セラミック遮蔽層及び機能性薄膜は、車外側空間に露出するガラス面を避けて形成するとしても、同一のガラス面に形成する必要がない。これに対し、単板のガラス板が用いられるフロントサイドウインドウ20では、セラミック遮蔽層と機能性薄膜とが同一のガラス面、すなわち車内側空間に露出するガラス面、に形成することが適切となる。このため、上述した問題、すなわちセラミック遮蔽層から機能性薄膜が剥がれることにより生じる問題は、フロントサイドウインドウ20のようにガラス板を1枚のみ用いた窓ガラスにおいて顕在化する。
【0016】
フロントサイドウインドウ20に使用される窓ガラスは、その主面に垂直な方向から見て、通常、略台形又は略三角形である。ごく小型のフロントサイドウインドウであれば、機能性薄膜による機能付加に対するニーズは高くない。一方、
図2に示すように、各種の機能が要求される程度に面積が大きいフロントサイドウインドウ20に設置される窓ガラス2は、車両高さ方向に沿う長さ(
図2では左右方向の長さ)が車両前後方向に沿う長さよりも相当程度長くなる。このような形状の窓ガラス2に液相法により機能性薄膜を形成する場合、製造現場では、単位時間あたりの塗布面積の増加を図るため、塗布液を吐出するノズルを動かす距離ができるだけ短くなるようにガラス板の姿勢を調整し、ガラス板の主面に塗布液が塗布されている。
図2に示した窓ガラス2を製造する場合には、車両下方側周端部2eが上端に位置し、かつ車両後方側周端部2dが鉛直方向に沿うようにガラス板25を吊り下げ、周端部2eに沿ってノズルを移動させながら塗布液を塗布すると、量産効率は向上する。しかし、このような従来の成膜法により成膜した機能性薄膜は、セラミック遮蔽層の表面から局部的に容易に剥がれていた。
【0017】
機能性薄膜の膜剥がれは、その膜厚の増加に伴って顕著となるから、膜厚を全体として薄くすれば、膜剥がれを抑制することができる。しかし、窓ガラスの透明領域2bの全面にわたって機能性薄膜により所望の機能を付与するためには、機能性薄膜が薄すぎる部分が生じるのは望ましくない。主面に沿って塗布液を流す液相成膜法により形成される機能性薄膜の膜厚は、通常、主面を塗布液が流れる距離が大きくなるにつれて厚くなっていく。そこで、本実施形態では、塗布液を、主面上においてその流れる距離が大きくなりすぎないようにガラス板の主面に供給することにより、機能性薄膜の膜厚分布の幅を小さくすることとした。
【0018】
したがって、
図2及び
図3に示すように、ノズル15から塗布液11を供給する際、ガラス板25は、塗布液がその主面を流れる距離が長くなりすぎないように保持される。具体的には、図示を省略する吊り具(トング)等を用いた吊り下げにより、ガラス板25の姿勢は、塗布液が流れる方向12に沿ったガラス板25の主面の最大長さLが30cm以下となるように定められる。図示した形態では、ガラス板25は、車両前方側周端部2cが鉛直方向上方に位置し、車両後方側周端部2dが鉛直方向下方に位置するように保持されている。周端部2cは水平(紙面左右方向)に延びている。塗布液11の流れ方向12(紙面を上から下へと向かう鉛直方向)に沿った主面の最大長さLは、周端部2cから、周端部2dのうち最下方に位置する端部2gまでの長さにより定まる。フロントサイドウインドウ20に適合するように、流れ方向12に直交する方向に沿ったガラス板25の主面の最大長さWは、50cm以上となっている。
【0019】
このようにガラス板25を保持した状態で、ノズル15を車両前方側周端部2cに沿って移動させながら、塗布液11を窓ガラス2の主面、具体的には車両内部側主面へと供給していく。この主面には、予めセラミック遮蔽層が形成されている。ノズル15は、例えば車両下方側周端部2e側から車両上方側周端部2f側へと周端部2cに沿って進み、引き続き周端部2fに沿って下方へと移動しながら、塗布液11をガラス板25の主面へと供給していく。ノズル15からの塗布液の吐出量は、好ましくは一定に維持される。本実施形態では、セラミック遮蔽層をマスキングすることなく塗布液が供給される。こうして、透明領域2b及び遮蔽領域2a、より詳細には透明領域2bの全域と遮蔽領域2aの少なくとも一部とを含む領域に、塗布液11が供給される。
【0020】
遮蔽領域2aの一部、例えば上方に位置する周端部2cにごく近い部位及び吊り具が接触している微小な部位には塗布液が供給されなくてもよい。一方、マスキングをしていないため、透明領域2bから見て下方に存在する遮蔽領域2a、例えば周端部2dに沿って延びる遮蔽領域には塗布液が供給される。本実施形態では、遮蔽領域2aの全域に塗布液が供給されたとしても、塗布液が流れる距離は、最大でも長さL、すなわち30cmに止まることとなる。
【0021】
なお、形成溶液の塗布工程では、雰囲気の相対湿度を40%未満、さらには30%以下に保持することが好ましい。相対湿度を低く保持すると、膜が雰囲気から水分を過剰に吸収することを防止できる。雰囲気から水分が多量に吸収されると、膜のマトリックス内に入り込んで残存した水が膜の強度を低下させるおそれがある。
【0022】
塗布液を塗布する塗布工程の後、塗布液を乾燥させる乾燥工程が実施される。塗布液の乾燥工程は、風乾工程と、加熱を伴う加熱乾燥工程とを含むように実施することが好ましい。風乾工程は、相対湿度を40%未満、さらには30%以下に保持した雰囲気に塗布液を曝すことにより、実施するとよい。風乾工程は、非加熱工程として、言い換えると室温で実施できる。加熱乾燥工程では、塗布液中の金属化合物とガラス表面及びセラミック遮蔽層の表面に存在する水酸基とが関与する反応が進行する。具体的には、例えば、シリコンアルコキシドの加水分解により生成したシラノール基の縮重合反応が進行すると共に、膜に残存する液体成分の除去、特に水の除去、が進行し、酸化ケイ素のマトリックス(Si−O結合のネットワーク)が発達する。このマトリックスの周縁には上記表面に存在する水酸基が結合し、膜を上記表面に固定する。こうして、機能性薄膜が形成される。
【0023】
塗布液に、機能性薄膜に機能を付与するための成分として有機物が含まれている場合には、有機物の分解を避けるべく、加熱乾燥工程において適用する温度は過度に高くしないほうがよい。この場合の適切な加熱温度は、300℃以下、例えば100〜200℃である。
【0024】
図4及び
図5に示すように、ガラス板25上に形成された機能性薄膜22の膜厚は、塗布液の流れ方向12に進むにつれて徐々に厚くなる傾向を有する(
図4及び
図5では膜厚の相違をやや強調して表示している)。正確に述べると、セラミック遮蔽層21の表面とガラス板25の表面との境界部分では膜厚が急激に変化する場合がある。しかし、少なくとも表面状態が同じ領域2a(又は2b)では、機能性薄膜22の膜厚は、一方の端部22a側から他方の端部22c側へと、塗布液の流れ方向12に進むにつれて、徐々にかつ単調に増加する。すなわち、透明領域2b及び遮蔽領域2aのそれぞれにおいて、主面上を塗布液が流れる方向(第1方向)12の一端側から他端側へと進むにつれて、機能性薄膜22の膜厚は厚くなっていく。後述する実験例のように、主面の全域にわたって、同方向12の一端側から他端側へと進むにつれて機能性薄膜22の膜厚が厚くなっていくこともある。
【0025】
機能性薄膜22の膜厚は、塗布液11の流れ方向12についての最上流側(上流端)22aにおいて最小値(膜厚A)をとる。膜厚Aは、機能性薄膜によって付与するべき機能のレベルによって適宜設定するとよいが、例えば0.8μm以上、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは1.5μm以上、場合によっては2.0μm以上である。また、機能性薄膜22の膜厚は、通常、流れ方向12についての最下流側(下流端)22c、22dのうち、ガラス板25の主面上を塗布液11が流れる距離が最大となる位置22dにおいて最大値(膜厚B)をとる。膜厚Bは、セラミック遮蔽層上において機能性薄膜が剥がれやすくなる最小膜厚よりも小さい値となるように定められる。この最小膜厚は、機能性薄膜の種類、より具体的には機能性薄膜の構成成分、によって相違するため、膜厚Bの好ましい範囲を一律に記述することはできない。しかし、膜の種類によらず膜剥がれを防止することを前提とすると、膜厚Bは、例えば2.8μm以下、好ましくは2.7μm以下、より好ましくは2.5μm以下とするべきである。したがって、機能性薄膜の好ましい膜厚の範囲としては、0.8〜2.8μmを例示できる。
【0026】
機能性薄膜の膜厚は、塗布液の成分、粘度、供給量等によって調整できる。例えば塗布液の総固形分濃度を増すと、機能性薄膜は厚くなる。機能性薄膜の膜厚を0.8μm〜2.8μmの範囲とするべき場合、望ましい塗布液の粘度は、例えば0.0055〜0.0072Pa・s、特に0.0055〜0.0065Pa・sである。
【0027】
後述するように、機能性薄膜の塗布液に、シランカップリング剤を所定量以上加えたり、所定の有機ポリマーを添加したりすることにより、機能性薄膜が剥がれやすくなる最小膜厚を引き上げることができる。このような場合、膜厚Bは、例えば15μm以下、また例えば12μm以下、さらには10μm以下であってもよい。また、機能性薄膜が剥がれやすくなる最小膜厚を引き上げる場合、膜厚Aは、例えば2μm以上、好ましくは2.5μm以上、さらに好ましくは3μm以上であってもよい。したがって、機能性薄膜の好ましい膜厚の別の範囲として、2〜10μmを例示できる。本発明の一形態では、セラミック遮蔽層上の機能性薄膜の膜厚が8.0μm以上、さらには10.0μm以上、に及ぶ部位があっても、機能性薄膜は剥離が抑制されたものとなる。
【0028】
塗布液の成分の改善による機能性薄膜の剥離抑制は、従来は専ら、ガラスが露出している表面、すなわち透明領域2bにおいて適用されていた。この場合、例えばシランカップリング剤は、機能性薄膜における有機成分(例えば紫外線吸収剤)と無機成分とを結合させるため、言い換えると膜の成分同士の結合のために添加される。シランカップリング剤がセラミック遮蔽層に含まれる有機成分と機能性薄膜の無機成分との結合に寄与することに着目されていなかったのは、セラミック遮蔽層をマスキングすることが従来は当然の前提であったためである。従来は、例えばシランカップリング剤を含む塗布液を用いる場合であっても、マスキングテープの貼り付け作業及び引き剥がし作業が実施されていた。
【0029】
塗布液に有機ポリマー等を添加すると塗布液の粘度が高くなり、その結果、塗布液11の流れ方向12についての機能性薄膜の膜厚の相違が拡大することがある。このため、膜の剥離の抑制に有効な成分を添加した塗布液を用いた場合であっても、ガラス板25の主面を塗布液が流れる距離が長すぎると、ガラス板の下端における機能性薄膜の膜厚が極端に大きくなり、膜剥がれを抑制できない場合があった。透明領域における膜厚分布が小さいと、付与される機能の程度のバラツキも小さくなる。したがって、膜の剥離の抑制に有効な成分を添加した塗布液を用いる場合にも、塗布液が流れる距離を小さく制限すると有利である。
【0030】
透明領域2bについての最上流側22bにおける機能性薄膜22の膜厚(膜厚T)は膜厚A以上、例えば0.8μm以上、となる。なお、
図4に示したように、膜厚Tを定める最上流側22bは、セラミック遮蔽層21の側面に付着した塗布液により局部的に肉厚となる部分を除いて定めるのが適切である。こうして、機能性薄膜22は、透明領域2bの全域において、膜厚A以上膜厚B以下、例えば0.8〜2.8μm、また例えば2〜10μmの範囲内の膜厚を有することとなる。従来から実施されているとおり、塗布液は、流れ方向12に沿って塗布液が流れる距離等に応じ、少なくとも透明領域2bの全域を覆うに足りる量、より具体的にはその流れ方向12に沿ってガラス板25の主面上を進むにつれて、少なくとも表面状態が同じ領域2a(又は2b)においては形成される機能性薄膜22の膜厚が厚くなっていくに足りる量、が供給される。
【0031】
塗布液が主面上を流れる最大距離を30cm以下に制限するためには、上述のように、主面の最大長さが30cm以下となる方向に沿って塗布液が流れるようにガラス板の姿勢を吊り下げ等により定めて、塗布液をガラス板の主面上に供給するとよい。ガラス板の姿勢の維持は、吸盤を有する保持具を用いて実施してもよく、ガラス板の下端及び/又は塗布液を塗布しない側の主面を支持具等により支持して実施してもよい。
【0032】
塗布液の流れ方向は鉛直方向とすることが好ましい。したがって、ガラス板の姿勢は、主面が平面である場合は第1方向が鉛直方向となるように、主面が曲面である場合はその曲面の第1方向に沿った接線の少なくとも一部が鉛直方向となるように、それぞれ定めることが好ましい。ガラス板の主面が曲面である場合には、主面のすべてにおいて塗布液が流れる方向(第1方向)を鉛直方向とする姿勢をガラス板が取り得ないことがある。これは、主面上を第1方向に沿って進む軌跡が曲線となる場合である。この場合は、主面の一部の領域における塗布液の流れ方向を鉛直方向とする。なお、本明細書において、「鉛直方向」は、「略鉛直方向」及び「実質的に鉛直方向」を含む意味であり、「略鉛直方向」とは、鉛直線との間に形成される角度が45°以下、好ましくは30°以下である方向を意味し、「実質的に鉛直方向」とは、鉛直線との間に形成される角度が15°以下である方向を意味する。
【0033】
最大長さLは28cm以下、特に25cm以下が好ましい。最大長さWは、60cm以上であってもよい。なお、窓ガラス2の主面が曲面となっている場合、最大長さL及びWは、その曲面に沿って測定した長さに基づいて定められる。なお、塗布開始側の膜の端部丁度では、膜厚が局部的に全体の変化の傾向を反映しない値をとることがある。このため、最上流側の膜厚Aとして妥当な値を得るためには、端部丁度からの距離が1.5mmの位置における測定値を採用するとよい。
【0034】
姿勢によらず最大長さLが常に30cmを超える大型の窓ガラスに対しては、上述した方法を適用することができない。例えば、再び
図1を参照しつつ乗用自動車について述べると、フロントウインドウ10及びフロントドアウインドウ30に加え、リアドアウインドウ40及びリアウインドウ60に設置される窓ガラスに対しては、本実施形態の方法を適用できないことが多い。しかし、セラミック遮蔽層の上に機能性薄膜を形成しなければならない窓ガラスは、上述したようにフロントサイドウインドウ20に設置されることが多く、この窓ガラスは、通常、
図2及び
図3に示したような「細長い」形状を有する。本実施形態の方法は、適用できる窓ガラスの形状には制限があるが、上述した課題の解決には有効である。もっとも、本実施形態の方法の適用が、フロントサイドウインドウ20に設置される窓ガラスに限られるわけではない。本実施形態の方法は、例えば、周縁部にセラミック遮蔽層が形成された遮蔽領域5aを有することが多いリアサイドウインドウ50用の窓ガラス5等にも、その形状によっては適用できる。
【0035】
機能性薄膜により窓ガラスに付与される機能に特段の制限はない。この機能は、例えば、紫外線遮蔽、赤外線遮蔽、防曇及び撥水から選ばれる少なくとも1種である。機能性薄膜は、従来から公知の紫外線遮蔽膜、赤外線遮蔽膜、防曇膜、撥水膜等であってもよい。機能性薄膜は、上記に例示した複数の機能を備えていてもよい。このような機能性薄膜としては、紫外線吸収成分及び赤外線吸収成分を共に含む光線透過率制御膜を例示できる。機能性薄膜は、少なくとも紫外線吸収成分を含むことが好ましい。
【0036】
紫外線吸収成分は、例えばベンゾトリアゾール化合物[2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’―ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール等]、ベンゾフェノン化合物[2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、5,5’−メチレンビス(2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン)等]、ヒドロキシフェニルトリアジン化合物[2−(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4,6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−プロポキシ−5−メチルフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−s−トリアジン等]及びシアノアクリレート化合物[エチル−α−シアノ−β,β−ジフェニルアクリレート、メチル−2−シアノ−3−メチル−3−(p−メトキシフェニル)アクリレート等]等が挙げられる。紫外線吸収成分は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、紫外線吸収成分は、ポリメチン化合物、イミダゾリン化合物、クマリン化合物、ナフタルイミド化合物、ペリレン化合物、アゾ化合物、イソインドリノン化合物、キノフタロン化合物及びキノリン化合物から選ばれる少なくとも1種の有機色素であってもよい。紫外線吸収成分のうち好ましいのは、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、ヒドロキシフェニルトリアジン化合物及びシアノアクリレート化合物から選ばれる少なくとも1種である。
【0037】
塗布液は、少なくとも、機能性薄膜に上記機能を付与するための成分と、液が塗布される表面に存在する水酸基と反応して化学結合を形成しうる金属化合物とを含んでいることが好ましい。金属化合物は、それ自体が水酸基と反応するものであってもよく、その反応物(例えば加水分解物)が水酸基と反応するものであってもよい。
【0038】
塗布液は、水酸基と反応して化学結合を形成しうる金属化合物の一部として、シランカップリング剤を含むことが好ましい。シランカップリング剤は、例えば、以下の式(1)で表される化合物であってもよい。シランカップリング剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
R
1mR
2nSiX
14−m−n (1)
式(1)において、R
1は反応性官能基を有する有機基であり、R
2は反応性官能基を有しない有機基であり、X
1は加水分解性官能基又はハロゲン原子であり、mは1以上3以下の整数であり、nは0以上2以下の整数であり、m+nは1以上3以下である。
【0040】
反応性官能基は、例えば、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、イソシアヌレート基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、エポキシ基及びアミノ基から選ばれる少なくとも1種である。エポキシ基は、グリシジル基、特にオキシグリシジル基の一部であってもよい。アミノ基は、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基のいずれであってもよい。好ましい反応性官能基は、エポキシ基及びアミノ基、特にエポキシ基である。反応性官能基を有する有機基は、例えば有機基自体が反応性官能基(例えばビニル基)であってもよく、また例えば反応性官能基により少なくとも1つの水素原子が置換された脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基であってもよい。脂肪族炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖アルキル基及び炭素数3〜10の分岐を有するアルキル基を例示できる。芳香族炭化水素基としてはフェニル基を例示できる。
【0041】
反応性官能基を有しない有機基は、例えば、脂肪族又は芳香族の炭化水素基である。脂肪族炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖アルキル基及び炭素数3〜10の分岐を有するアルキル基を例示できる。芳香族炭化水素基としてはフェニル基を例示できる。
【0042】
加水分解性官能基は、例えば、アルコキシル基、アセトキシ基及びアルケニルオキシ基から選ばれる少なくとも1種である。アルコキシル基としては、炭素数1〜4のアルコキシル基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基)を例示できる。好ましい加水分解性官能基はアルコキシル基である。ハロゲン原子は、例えば塩素及び臭素、好ましくは塩素である。
【0043】
好ましいmは1又は2であり、好ましいnは0又は1であり、好ましいm+nは1又は2である。
【0044】
シランカップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、トリス−(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを例示できる。
【0045】
シランカップリング剤は、シランカップリング剤の加水分解性基の加水分解及び縮重合により生成する成分の質量pが、質量pと塗布液中のシリコン含有化合物から生成するシリカ(SiO
2)成分の質量qとの合計(p+q)の20%以上となるように含まれていることが好ましい。この程度にシランカップリング剤を含む塗布液を用いると、機能性薄膜がセラミック遮蔽層から剥離しにくくなる。シランカップリング剤は、その加水分解性基が機能性薄膜の無機成分との結合に関与し、その反応性官能基がセラミック遮蔽層に含まれる有機成分との結合に関与することにより、セラミック遮蔽層からの機能性薄膜の剥離の抑制に寄与すると考えられる。
【0046】
なお、ここでは、「加水分解性基」を加水分解性官能基及びハロゲン原子を含む意味で用いている。また、「シリカ成分」には、有機基と直接結合したシリコン原子が含まれる成分を含まない。
【0047】
式(1)により示されるシランカップリング剤の加水分解性基を加水分解及び縮重合して生成する成分は、以下の式(2)により示すことができる。
【0048】
R
1mR
2nSiO
(4−m−n)/2 (2)
【0049】
ここで、R
1、R
2、m及びnは、上述したとおりである。
【0050】
シリカ成分を生成するシリコン含有化合物は、具体的には以下の式(3)によって表されるように、4つの加水分解性基と結合したシリコン原子を含む。
【0051】
SiX
24 (3)
式(3)において、X
2は加水分解性官能基又はハロゲン原子であり、X
2の具体例はX
1の具体例に同じである。このシリコン含有化合物としては、テトラアルコキシシランを例示できる。ここでも、アルコキシル基は炭素数1〜4のアルコキシル基が好ましい。
【0052】
p/(p+q)により示される比率は、10%以上、さらに25%以上、特に40%以上がより好ましい。この比率は、80%以下、さらに70%以下、特に60%以下が好ましい。
【0053】
塗布液は、有機ポリマーとして、ポリエポキシドを含むことが好ましい。ポリエポキシドを含む塗布液を用いると、セラミック遮蔽層から機能性薄膜が剥離しにくくなる。ポリエポキシドの分子中平均エポキシ基数は2〜10であってもよい。ポリエポキシドに含まれるエポキシ基は、セラミック遮蔽層に含まれる有機成分との結合に関与すると考えられる。塗布液は、シランカップリング剤及びポリエポキシドを含むことが好ましい。なお、「ポリエポキシド」とは、複数のエポキシ基を有する化合物の総称である。
【0054】
ポリエポキシドとしては、ポリグリシジルエーテル化合物、ポリグリシジルエステル化合物、ポリグリシジルアミン化合物等のポリグリシジル化合物を例示できる。ポリエポキシドは、脂肪族ポリエポキシド、芳香族ポリエポキシドのいずれであってもよいが、脂肪族ポリエポキシドが好ましい。好ましいポリエポキシドは、ポリグリシジルエーテル化合物、特に脂肪族ポリグリシジルエーテル化合物である。ポリグリシジルエーテル化合物は、水酸基を2個以上有するアルコールのグリシジルエーテルが好ましい。なお、アルコールは、脂肪族アルコール、脂環式アルコール又は糖アルコールが好ましい。
【0055】
水酸基を2個以上有するアルコールのグリシジルエーテルとしては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、及びペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルを例示できる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
これらのうちでも、機能性薄膜の剥離が生じにくくなるという点から、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等の3個以上の水酸基を有する脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル(1分子あたり平均のグリシジル基(エポキシ基)数が2を超えるもの)が好ましい。
【0057】
ポリエポキシドは、その質量sが、塗布液中のシリコン含有化合物の加水分解性基を加水分解及び縮重合して生成する成分の質量tの1%以上となるように含まれていることが好ましい。式(1)により示されるシランカップリング剤の加水分解性基を加水分解及び縮重合して生成する成分は式(2)に示されており、その質量を上記ではpとした。式(3)により示されるシリコン含有化合物を加水分解及び縮重合して生成する成分はSiO
2であり、その質量を上記ではqとした。したがって、塗布液中のシリコン含有化合物が式(1)により示されるシランカップリング剤と式(3)により示されるシリコン含有化合物とから構成される場合、質量tは質量(p+q)に等しい。
【0058】
s/tにより示される比率は、1%以上、さらに1.5%以上、特に2%以上がより好ましい。この比率は、10%以下、さらに7%以下、特に5%以下が好ましい。
【0059】
上記のように塗布液の成分を改善することにより、機能性薄膜の膜剥がれを抑制することができる。機能性薄膜は、例えば、シランカップリング剤を含み、好ましくはさらにポリエポキシドを含む塗布液を用いる液相成膜法により形成することができる。機能性薄膜は、その最大膜厚が8.0μmを超え、さらには10.0μmを超えても、その剥離が抑制されたものとすることが可能である。
【0060】
本発明を適用すれば、機能性薄膜が、日本工業規格(JIS)R3212によるテーバー摩耗試験の後にガラス板から剥離しない車両用窓ガラス、特に、機能性薄膜が、セラミック遮蔽層上においても上記試験の後に剥離しない車両用窓ガラスを提供することもできる。
【0061】
ガラス板及びセラミック遮蔽層には特段の制限はなく、公知の材料を用い、あるいは従来から知られている方法を用いて形成すればよい。
【0062】
以下、塗布液の流れる距離による機能性薄膜の膜厚の変化を測定した実験例について説明する。ここでは、機能性薄膜として紫外線遮蔽膜を作製した。
【0063】
(実験例)
ポリエチレングリコール(キシダ化学製)0.45g、エチルアルコール(片山化学製)12.6g、純水17.2g、濃塩酸(関東化学製;35質量%)0.025g、シランカップリング剤である3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業製)0.64g、テトラエトキシシラン(TEOS;信越化学工業製)29.7gを溶質として含み、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製「TINUVIN360」)を分散質として含む塗布液(固形分濃度3.6重量%)39.4gを調製した。この塗布液の粘度は、0.006Pa・sであった。なお、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、予め、平均粒径が55nmとなるように、ペイントコンディショナーを用い、ジルコニアビーズと共に混合して粉砕したものを用いた。得られた塗布液について上記p/(p+q)を計算すると0.05(5%)となる。
【0064】
平板状のソーダ石灰珪酸塩ガラス板(日本板硝子製UVカットグリーンガラス長辺450mm×短辺400mmの矩形、厚さ3.1mm)を準備した。このガラス板の一方の主面上には、その周端部に沿って幅120mmの黒色のセラミック遮蔽層が形成され、この層により透視できなくなった遮蔽領域が中央の透明領域を囲んでいる。このガラス板を洗浄し、2つの吊り具を用いて上記長辺が水平方向に沿って延び、上記短辺が鉛直方向に沿って延びるように吊り下げた。
【0065】
引き続き、ガラス板の主面にノズルを用いて、塗布液を吹き付けた。塗布液は、ガラス板の上方に位置する長辺に沿ってノズルを移動させながら供給した。塗布液は吊り具により吊り下げている部位を避け、2つの吊り具の間において供給した。ガラス板の主面の上端に供給された塗布液は、下方へと流れ、ガラス板の下端から流れ落ちた。ガラス板は、その状態で5分間乾燥させ、予め内部を200℃に保持したオーブンに投入し、15分間加熱した。こうして、セラミック遮蔽層及びガラス面上に紫外線遮蔽膜が形成された窓ガラスを得た。
【0066】
ガラス板の表面上に形成された紫外線遮蔽膜の膜厚を、テンコール製表面凹凸計アルファステップ500を用いて測定した。結果を表1に示す。表1における距離は、ガラス板の主面上を塗布液が流れた距離である。本実験例では、この距離は、ガラス板の上端からの距離に等しい。距離122mmは、透明領域における塗布液の流れ方向の最上流側の位置に相当する。上述のように、塗布開始側の端部丁度における膜厚が全体の傾向とは異なる値をとる場合があることを考慮し、最上流側の膜厚Aとしては、距離が1.5mmの位置における測定値を採用した。
【0067】
上記から得た窓ガラスについて、剥離試験として、JIS R3212によるテーバー摩耗試験を実施した。この剥離試験は、市販のテーバー摩耗試験機を用いて実施できる。この試験は、上記JISに規定されているとおり、500g重の荷重を印加しながら行う回転数1000回の摩耗試験である。結果を表1に示す。
【0069】
実験例の剥離試験の結果、塗布液がガラス板の主面上を流れる距離が30cmを超える部分において、紫外線遮蔽膜には部分的な剥離が生じた。これに対し、塗布液がガラス板の主面上を流れる距離が30cm以下の部分では紫外線遮蔽膜の剥離は観察されなかった。
【0070】
(実施例1)
平板状のソーダ石灰珪酸塩ガラス板(日本板硝子製UVカットグリーンガラス長辺450mm×短辺300mmの矩形、厚さ3.1mm)を準備した。このガラス板の一方の主面上には、その周端部に沿って幅120mmの黒色のセラミック遮蔽層が形成され、この層により透視できなくなった遮蔽領域が中央の透明領域を囲んでいる。このガラス板を用いた以外は、上記実験例と同様にして、セラミック遮蔽層及びガラス面上に紫外線遮蔽膜が形成された窓ガラスを得た。得られた窓ガラスについて、実験例と同様の方法によりテーバー摩耗試験を実施したところ、窓ガラスの全域にわたって紫外線遮蔽膜の剥離は観察されなかった。紫外線遮蔽膜の膜厚は2.0〜2.8μmの範囲にあった。
【0071】
(実施例2)
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤(BASF製「Uvinul3050」)1.5g、工業用アルコール(大伸化学製「P−7」)42.334g、シリコーン系界面活性剤(ビックケミー製「BYK−345」)0.040g、シランカップリング剤である3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業製)11.264g、テトラエトキシシラン(信越化学工業製)22.656g、ソルビトールポリグリシジルエーテル(坂本薬品工業製「SR−SEP」)0.435g、パラトルエンスルホン酸一水和物(関東化学製)0.025g、純水21.746gを含む塗布液100gを調製した。
【0072】
得られた塗布液について上記p/(p+q)を計算すると0.55(55%)となる。また、得られた塗布液について上記s/tを計算すると0.03(3%)となる。
【0073】
上記塗布液と実施例1で使用したガラス板を用いた以外は、上記実験例と同様にして、セラミック遮蔽層及びガラス面上に紫外線遮蔽膜が形成された窓ガラスを得た。得られた窓ガラスについて、実験例と同様の方法によりテーバー摩耗試験を実施したところ、窓ガラスの全域にわたって紫外線遮蔽膜の剥離は観察されなかった。紫外線遮蔽膜の膜厚は、3〜5μmの範囲にあった。
【0074】
(実施例3)
液中の総固形分濃度が実施例2よりも高く固形分成分の比率が実施例2の塗布液と同一である塗布液を調製した。この塗布液と実施例1で使用したガラス板を用いた以外は、上記実験例と同様にして、セラミック遮蔽層及びガラス面上に紫外線遮蔽膜が形成された窓ガラスを得た。得られた窓ガラスについて、実験例と同様の方法によりテーバー摩耗試験を実施したところ、窓ガラスの全域にわたって紫外線遮蔽膜の剥離は観察されなかった。得られた窓ガラスの紫外線遮蔽膜の膜厚の最大値は10.0μm程度となった。