【実施例】
【0011】
図1は、本発明の実施例に係るエレベータードア用敷居溝異物診断装置の基本構成を含むエレベーターの乗りかごの着床階近傍の周辺機構を示す外観斜視図である。
【0012】
図1を参照すれば、エレベーターの乗りかごの着床階近傍の周辺機構は、略図する建物の昇降路における各階床間を昇降走行する乗りかご1と、乗りかご1の着床階に設けられて乗りかご1に設けられたかごドア4と連動する乗場ドア3と、乗場ドア3に連結されたドアハンガー5と、ドアハンガー5に連結されてドアレール2の上面に対して回転しながら乗場ドア3を移動させるハンガーローラ6と、乗りかご1に設けられたかごドア4の開閉動作を駆動するドアモータ10と、乗りかご1の着床階の手前側から奥側へと延在して位置される敷居7と、敷居7の奥側に設けられて乗場ドア3の開閉移動をガイドする乗場ドア側敷居溝8と、敷居7の更に奥側に設けられてかごドア4の開閉移動をガイドするかごドア側敷居溝9と、ドアモータ10と同期して回転しながらパルス信号を発信し、パルス信号を積算してエレベータードア(通常はかごドア4を示すが、これに連動する乗場ドア3を含むものとする)の移動量を測定することでエレベータードアのドア開閉位置を算出するドア開閉位置検出装置11と、を備える他、ドアモータ10の駆動量を制御するドア制御装置12と、エレベーターの乗りかご1の走行動作を制御すると共に、ドア開閉位置検出装置11からのドア開閉位置に応じてドア制御装置12による駆動量の制御値を指令するエレベーター制御装置としての制御盤13と、を含んで構成される。
【0013】
このうち、制御盤13は、ドア開閉位置検出装置11及びドア制御装置12と協働してエレベータードア用敷居溝異物診断装置として機能するもので、乗りかご1が着床階レベルにあって敷居溝(乗場ドア側敷居溝8やかごドア側敷居溝9を示す)に異物を検知した場合、ドアモータ10のトルク電流値とドア開閉位置検出装置11からのドア開閉位置とに基づいて異物の除去の可否を判定する。この制御盤13では、ドアモータ10のトルク電流値とドア開閉位置検出装置11からのドア開閉位置とに基づいてドア反転位置を算出し、ドア開閉動作を複数回繰り返した際のドア反転位置が所定量以上で変化した場合にはドア開閉動作を継続し、所定量以内で変化した場合にはドア開閉動作を停止する。具体的に云えば、制御盤13は、異物の検知に際して、後文で詳述するように、ドア開閉動作を継続させたときのドア開閉動作の可否の判定結果に応じて、ドア閉不可能で且つドア開不可能であれば異物を除去できないとみなしてドア制御装置12による駆動を行わせずに一定時間経過後に図示されない通信接続可能な監視用装置(監視端末や管制センタを示す)へ発報を行い、ドア閉不可能で且つドア開可能であれば異物を除去できる可能性有りとみなしてドア開閉動作を規定回数繰り返した後にドア反転位置が変化していなければ異物を除去できないとみなしてドア制御装置12による駆動を行わせずに一定時間経過後に監視用装置へ発報を行い、ドア反転位置が変化していれば再度ドア開閉動作を規定回数繰り返してからドア閉可能とならなければ異物を除去できないとみなしてドア制御装置12による駆動を行わせずに一定時間経過後に監視用装置へ発報を行い、ドア閉可能となればエレベータードアが正常に開閉可能になった状態を確認した時点で異物が除去されたとみなして通常サービスを開始する。こうした制御を行うことにより、エレベータードアに過剰な負担をかけずに異物の除去機能を持たせられると共に、発報の伝達を受けた担当者が迅速に対応することができるようになる。
【0014】
図2は、上述したエレベータードア用敷居溝異物診断装置に備えられるドア制御装置12による制御対象となるドアモータ10のトルク電流とドア開閉時間との相関を表わす特性図であり、同図(a)はドア閉動作が正常な場合のドアが閉じ始めてから閉まるまでの時間的変化を示す特性図、同図(b)はドア閉動作が異常な場合の一例に係るトルク電流値がドア閉じの途中で急激に上昇した後に一定時間、且つ一定の大きさのトルク電流値をドアモータに供給した状態でドアが反転して開いた場合の特性図、同図(c)はドア閉動作が異常な場合の他例に係るトルク電流値が緩やかに変化した後に一定時間、且つ一定の大きさのトルク電流値をドアモータに供給した状態でドアが反転して開いた場合の特性図である。
【0015】
図2(a)を参照すれば、ドア閉動作が正常な場合では、ドアモータ10によるエレベータードアの開閉駆動時に発生するドアモータ10のトルク電流が特性上で反転せず、エレベータードアが閉じ始めてから閉まるまでのドア開閉時間の経過に応じて次第に増加してピークを過ぎると急峻に減少し、その後はほぼ一定値を保持してから緩やかに減少する傾向を示す。
【0016】
これに対し、
図2(b)を参照すれば、ドア閉動作が異常な場合の一例では、ドアモータ10によるエレベータードアの開閉駆動時に発生するドアモータ10のトルク電流が特性上で反転する一形態を示しており、具体的にはエレベータードアが閉じの途中でトルク電流値が急激に上昇した後に制御盤13により一定時間、且つ一定の大きさのトルク電流値をドア制御装置12に指令してドアモータ10に供給した状態でエレベータードアが反転して開いた様子を示している。こうした異物の検知状況において、制御盤13は、ドア制御装置12に指令してドア開閉動作を規定回数n繰り返した後にドア開閉位置検出装置11からのドア開閉位置に基づいてドア反転位置を算出した結果、ドア反転位置が変化していないか否かをドア制御装置12を介して判定する。また、制御盤13は、ドア制御装置12に指令してドア開閉動作を規定回数n繰り返してもこの状態が継続して実線で示すようにドア反転位置が変化しなければ、敷居溝(敷居7における乗場ドア側敷居溝8やかごドア側敷居溝9を示す)に挟まっている異物が硬い物体であると想定する。これに対し、点線で示されるトルク電流の特性は、ドア制御装置12に指令してドア開閉動作を規定回数n繰り返したときにドア反転位置が変化した様子を示しており、この場合には異物の位置が移動して異物が除去され得る可能性を示すことになるため、制御盤13はドア制御装置12に指令して継続してドア開閉動作を再度規定回数n繰り返す処理へ移行する。
【0017】
更に、制御盤13は、敷居溝に挟まっている異物が硬い物体であると想定し、ドア反転位置が変化しない判定を行った場合には、敷居溝から異物を除去できないとみなしてドア制御装置12による駆動を行わせずに一定時間経過後に監視用装置へ発報を行う。このように、制御盤13ではドア制御装置12に指令して或る規定回数nドア開閉動作を繰り返してもドア反転位置の状況が変わらない場合には、図示されない発報装置に指令して図示されない通信回線(電話回線やブロードバンド回線等)を介して監視用装置に発報して伝達する。発報の伝達を受けた担当者は、専門技術者を出動させてエレベータードアのドア開閉状態の確認又は対応策を検討するか、若しくは管理人室へ直接連絡して対応を促すことになる。こうした制御を行えば、硬い異物を除去できない場合には無理にエレベータードアのドア開閉動作を継続させずに発報の伝達を受けた担当者が迅速に対応することができる。
【0018】
また、
図2(c)を参照すれば、ドア閉動作が異常な場合の他例では、ドアモータ10によるエレベータードアの開閉駆動時に発生するドアモータ10のトルク電流が特性上で反転する他形態を示しており、具体的にはエレベータードアが閉じの途中でトルク電流値が緩やかに上昇した後に制御盤13により一定時間、且つ一定の大きさのトルク電流値をドア制御装置12に指令してドアモータ10に供給した状態でエレベータードアが反転して開いた様子を示している。こうした異物の検知状況において、制御盤13は、ドア制御装置12に指令してドア開閉動作を規定回数n繰り返した後にドア開閉位置検出装置11からのドア開閉位置に基づいてドア反転位置を算出した結果、ドア反転位置が変化していないか否かをドア制御装置12を介して判定する。また、制御盤13は、ドア制御装置12に指令してドア開閉動作を規定回数n繰り返してもこの状態が継続して実線で示すようにドア反転位置が変化していなければ異物を除去することが困難であると判定するが、点線で示すようにドア反転位置が変化していれば敷居溝(ここでも敷居7における乗場ドア側敷居溝8やかごドア側敷居溝9を示す)に挟まっている異物が柔らかな物体であると想定する。
【0019】
制御盤13は、ドア反転位置が変化して敷居溝に挟まっている異物が柔らかな物体であると判定した場合には、更にドア制御装置12に指令してドア開閉動作を再度規定回数n繰り返し、ドア反転位置の状況変化の有無を確認し、変化がある場合にはエレベータードアが閉じ可能であるかの試行を繰り返し行うことになるが、ドア開閉動作を再度規定回数n繰り返してもドア閉可能とならなければ異物を除去することが困難であると判定し、ドア制御装置12による駆動を行わせずに一定時間経過後に監視用装置へ発報を行う。ここでも発報の伝達を受けた担当者は、専門技術者を出動させてドア開閉状態の確認又は対応策を検討するか、若しくは管理人室へ直接連絡して対応を促すことになる。こうした制御を行えば、柔らかい異物であっても除去できない場合には発報の伝達を受けた担当者が迅速に対応することができる。更に、制御盤13は、上述した異物の種別の想定結果に拘らず、ドア制御装置12に指令してドア開閉動作を継続する再度の規定回数n繰り返しでドア閉可能となっても、エレベータードアが正常に開閉可能になった状態を確認できなければ(トルク電流が反転していれば)、エレベータードアが支障を来しているとみなして保守点検の保全上の理由により、同様にドア制御装置12による駆動を行わせずに一定時間経過後に監視用装置へ発報を行う。こうした制御を行えば、仮に異物除去のためのドア開閉動作の継続によってエレベータードアの開閉動作に支障を来した場合においても発報の伝達を受けた担当者が迅速に対応することができる。尚、ドア反転位置が変化しているか否かについては、エレベータードアのドア開閉動作を連続して所定回数行った際に、所定量以上動いたかで判定しても良いし、連続して所定回数行った後に、所定の位置を超えたか否かで判定しても良い。また、異物が柔らかいか否かについては、トルク電流の立ち上がりの変化量によって判断しても良い。更に、異物が硬い場合と柔らかい場合とで規定回数nの値や所定の長さ(位置)を異ならせても良い。例えば異物が硬い場合には、規定回数nや所定の長さを小さくすると機械保護の効果が得られる。
【0020】
図3は、上述したエレベータードア用敷居溝異物診断装置に備えられる制御盤13による異物除去の可否判定に係る敷居溝異物診断結果に応じた動作処理を示したフローチャートである。
【0021】
図3を参照すれば、制御盤13による動作処理では、まず乗りかご1が昇降路における各階床の着床階レベルにあるか否かの判定(ステップS1)を行う。この判定の結果、着床階レベルになければ、この判定(ステップS1)の処理前に戻って着床階レベルになるまで判定(ステップS1)を繰り返すが、着床階レベルにあれば、エレベータードアを閉じることができるか否かをドア閉不可能か否かの判定(ステップS2)により行う。この判定の結果、ドア閉不可能でなければ(ドア閉可能であれば)、最初の判定(ステップS1)の前に戻ってそれ以降の処理を繰り返すが、ドア閉不可能であれば、引き続いてエレベータードアを開くことができるか否かをドア開可能か否かの判定(ステップS3)により行う。因みに、ここでのエレベータードアについてのドア閉不可能か否かの判定(ステップS2)やドア開可能か否かの判定(ステップS3)でのドア開閉状態の確認は、制御盤13の指令を受けたドア制御装置12からのドア開閉指令に対し、エレベータードアの開端及び閉端に設置された図示されないドア開閉状態確認スイッチの作動状態、及びドア開閉時に駆動する図示されないベルトを駆動させるドアモータ10と同期して回転するドア開閉位置検出装置11によるドア開閉位置状態の合理性によりドア開閉可否が判断されるものである。
【0022】
上述したドア開可能か否かの判定(ステップS3)の結果、ドア開可能でなければ(ドア開不可能であれば)、エレベータードアをドア開閉動作できない異常状態にあると判断し、ドア制御装置12による駆動を行わせずに一定時間の経過を待つようにエレベータードアを駆動せずに待機(ステップS4)する処理へ移行し、一定時間後、発報装置に指令して監視用装置としての管制センタへ発報する(ステップS5)処理を行う。これにより、発報の伝達を受けた担当者は、専門技術者を出動させてドア開閉状態の確認又は対応策を検討するか、若しくは管理人室へ直接連絡して対応を促すのは上述した通りである。
【0023】
また、ドア開可能か否かの判定(ステップS3)の結果、ドア開可能であれば、エレベータードアが異常で例えば敷居溝に異物が挟まっていてもエレベータードアを正常なドア開閉動作に復旧できる余地があるとみなし、上述したステップS1からステップS3までの処理(ドア開閉動作)を規定回数繰り返す(ステップS6)処理の試行を行った後、ドア開閉位置検出装置11からのドア開閉位置に基づいてエレベータードアの閉じる位置、即ち、ドア反転位置は変化しているか否かの判定(ステップS7)を行う。この判定の結果、ドア反転位置が変化していなければ、敷居溝に挟まっている異物が硬くて除去することが困難であるとみなしてドア制御装置12による駆動を行わせずに一定時間の経過を待つようにエレベータードアを駆動せずに待機(ステップS4)する処理へ移行し、一定時間後、発報装置に指令して管制センタへ発報する(ステップS5)処理を行うが、ドア反転位置が変化していれば、敷居溝に挟まった異物が硬くても位置移動されたか、或いは柔らかい異物であって、エレベータードアを正常なドア開閉動作に復旧できる余地があるとみなし、上述したステップS1からステップS3までの処理(ドア開閉動作)を再度規定回数繰り返す(ステップS8)処理の試行を行う。
【0024】
この後、再びエレベータードアを閉じることができたか否かの判定(ステップS9)を行う。この判定の結果、エレベータードアを閉じることができなければ、敷居溝に挟まった異物を除去できないとみなし、ドア制御装置12による駆動を行わせずに一定時間の経過を待つようにエレベータードアを駆動せずに待機(ステップS4)する処理へ移行し、一定時間後、発報装置に指令して管制センタへ発報する(ステップS5)処理を行うが、エレベータードアを閉じることができれば、異物が除去されたか否かを確認するためにエレベータードアを正常に開閉可能か否かを確認する判定(ステップS10)を行う。この判定の結果、トルク電流の反転が解消されずにエレベータードアを正常に開閉可能でなければ、エレベータードアのドア開閉動作に支障を来しているとみなしてドア制御装置12による駆動を行わせずに一定時間の経過を待つようにエレベータードアを駆動せずに待機(ステップS4)する処理へ移行し、一定時間後、発報装置に指令して管制センタへ発報する(ステップS5)処理を行うが、エレベータードアを正常に開閉可能であれば、敷居溝の異物が除去されたとみなして通常サービスを開始する(ステップS11)ようにしてから動作処理を終了する。
【0025】
以上に説明した通り、実施例に係るエレベータードア用敷居溝異物診断装置によれば、制御盤13がエレベータードア下部における敷居溝(敷居7の乗場ドア側敷居溝8やかごドア側敷居溝9)に異物を検知すると、ドアモータ10のトルク電流値とドア開閉位置検出装置11からのドア開閉位置とに基づいて異物の除去の可否を判定すべく、ドア制御装置12に指示してドア開閉動作を継続させて規定回数繰り返した後にドア開閉動作の可否を判定する処理を行うため、ドア開閉動作に支障を来す敷居溝に挟まった異物を可能な限り除去する機能を持たせられるようになる。
【0026】
尚、実施例では
図1を参照して説明した乗りかご1が1系統のエレベーターへの適用について説明したが、乗りかご1が2系統以上で並設される構成のエレベーターにも同様に適用できるため、本発明のエレベータードア用敷居溝異物診断装置は実施例で開示した形態に限定されない。