【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
実施例1における無段変速機の制御装置は、変速機をベルト式無段変速機とするエンジン車やハイブリッド車等のエンジン搭載車に適用したものである。以下、実施例1のベルト式無段変速機の制御装置の構成を、「全体システム構成」、「油振対策によるソレノイド電流制御系構成」、「油振対策によるソレノイド電流制御処理構成」に分けて説明する。
【0011】
[全体システム構成]
図1は、実施例1の制御装置が適用されたベルト式無段変速機を示す。以下、
図1に基づき、ベルト式無段変速機CVTの全体システム構成を説明する。
【0012】
ベルト式無段変速機CVTは、
図1に示すように、プライマリプーリ1と、セカンダリプーリ2と、ベルト3と、を備えている。
【0013】
前記プライマリプーリ1は、シーブ面11aを有する固定プーリ11と、シーブ面12aを有する駆動プーリ12と、の組み合わせにより構成され、図外の原動機(エンジンやモータ等)からの駆動トルクが入力される。前記駆動プーリ12には、固定プーリ11に対して駆動プーリ12を軸方向に油圧駆動するプライマリ圧室13が形成されている。
【0014】
前記セカンダリプーリ2は、シーブ面21aを有する固定プーリ21と、シーブ面22aを有する駆動プーリ22と、の組み合わせにより構成され、終減速機等を介して駆動輪に駆動トルクを出力する。前記駆動プーリ22には、固定プーリ21に対して駆動プーリ22を軸方向に油圧駆動するセカンダリ圧室23が形成されている。
【0015】
前記ベルト3は、プライマリプーリ1のシーブ面11a,12aとセカンダリプーリ2のシーブ面21a,22aに掛け渡され、シーブ面11a,12aの対向間隔とシーブ面21a,22aの対向間隔を変化させることで無段階に変速する。このベルト3は、例えば、円弧の面を持ったピン2本を背中合わせに重ね、多数のリンクで繋ぎ合わせた引っ張りによりトルクを伝達するチェーンベルトにより構成される。そして、ベルト3は、最ハイ変速比のとき、プライマリプーリ1に対する接触半径が最大半径で、セカンダリプーリ2に対する接触半径が最小半径となる。また、最ロー変速比のとき、
図1に示すように、プライマリプーリ1に対する接触半径が最小半径で、セカンダリプーリ2に対する接触半径が最大半径となる。
【0016】
ベルト式無段変速機CVTの油圧制御系としては、
図1に示すように、オイルポンプ4と、プレッシャレギュレータ弁5(油圧制御弁)と、プライマリ圧変速弁6(油圧制御弁)と、セカンダリ圧変速弁7(油圧制御弁)と、を備えている。これらの弁(以下、油圧制御弁5,6,7という。)は、いずれもソレノイド5a,6a,7aへ印加されるソレノイド電流により可動するスプール等によるソレノイド可動部を有する。なお、油圧制御弁5,6,7は、指示電流が最小で出力される制御圧が最大になり、指示電流が最大で出力される制御圧が最小になる形態である。
【0017】
前記プレッシャレギュレータ弁5は、オイルポンプ4からのポンプ吐出圧に基づき、変速圧として最も高い油圧であるライン圧PLを調圧する。
【0018】
前記プライマリ圧変速弁6は、ライン圧PLを元圧とし、プライマリ圧室13へ導くプライマリ圧Ppriを調圧する。例えば、最ハイ変速比のとき、プライマリ圧Ppriは、ライン圧PLとされ、ロー変速比側へ移行するほど低圧の変速圧とされる。
【0019】
前記セカンダリ圧変速弁7は、ライン圧PLを元圧とし、セカンダリ圧室23へ導くセカンダリ圧Psecを調圧する。例えば、最ロー変速比のとき、セカンダリ圧Psecは、ライン圧PLとされ、ハイ変速比側へ移行するほど低圧の変速圧とされる。
【0020】
ベルト式無段変速機CVTの電子制御系としては、
図1に示すように、ベルト式無段変速機CVTの変速比制御等を行うCVTコントローラ8(コントローラ)を備えている。CVTコントローラ8への入力センサとして、車速センサ81、アクセル開度センサ82、CVT入力回転数センサ83、CVT出力回転数センサ84、プライマリ圧センサ85、セカンダリ圧センサ86、油温センサ87、インヒビタースイッチ88等を備えている。さらに、CVTコントローラ8へは、他の車載コントローラ90からCAN通信線91を介して、エンジン回転数情報やバッテリ電源電圧情報等の制御に必要な情報がもたらされる。
【0021】
前記CVTコントローラ8で実行される変速比制御は、センサ81,82により検出された車速VSPとアクセル開度APOにより特定される変速スケジュール上での運転点により目標プライマリ回転数を決め、目標プライマリ回転数を油圧指令値に変換する。そして、油圧指令値をPWM制御によるリップル電流によるベース電流指令値に変換し、PWM周波数同期型の2自由度制御(FF+PID)によってプライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecを制御することで行われる。なお、「PWM制御」とは、所定の周波数によるパルス幅変調制御のこといい、「PWM」は「Pulse Width Modulation」の略である。「FF」はフィードフォワード制御のことであり、「PID」は比例(P)・積分(I)・微分(D)によるフィードバック制御(FB制御)のことである。
【0022】
[油振対策によるソレノイド電流制御系構成]
図2は、実施例1のCVTコントローラ8及び油圧制御弁5,6,7に有する油振対策によるソレノイド電流制御系構成を示すブロック図である。以下、
図2に基づいて、PWM周波数同期型の2自由度制御(FF+PID)にディザ(Dither)を加えた構成による油振対策によるソレノイド電流制御系構成を説明する。
【0023】
前記CVTコントローラ8には、
図2に示すように、油圧/電流変換部18と、電子キャリブ補正部28と、ソレノイド電流制御部38と、SOL駆動IC51,61,71と、IF/制御切替部48と、を備えている。なお、「制御周期」としては、ディザによるうねり現象防止のため、PWMの偶数分周でディザ周波数を設定できるようにPWM周波数同期の関数を設けている。
【0024】
前記ソレノイド電流制御部38は、FF補償器38aと、ディザ指令部38bと、第1加算器38cと、位相合わせ部38dと、減算器38eと、PD補償部38fと、第2加算器38gと、電圧変動補正部38hと、第3加算器38iと、を有する。
【0025】
FF補償器38aは、電流応答性を確保する。ディザ指令部38bは、動摩擦領域で使用することで、ソレノイド弁のメカニカルなヒステリシスを低減する。ディザ指令は、パラメータ(ベース電流指令値,電源電圧,ENG回転,PL圧指令値,油温)により振幅をスケジュールとして記憶している。第1加算器38cは、振幅指令値のみでディザ振幅を調整するディザ別体型としている。位相合わせ部38dは、プラントダイナミクスと、IC-マイコン間の通信ディレイと、電流平均処理分の位相合わせを行う。なお、位相合わせ部38dには、ゲインスケジュール(FF,位相合わせ,PD補償)を有する。PD補償部38fは、減算器38eからの電流偏差に対してPD補償をし、減衰特性を改善する。電圧変動補正部38hは、電源電圧変動時に指示電流を補正して外乱抑制性を確保する。
【0026】
SOL駆動IC51,61,71は、PWM制御の指令値をソレノイド本体に送信する。ここで、SOL駆動IC51,61,71は、実電流を検出する電流検出回路51a,61a,71aとFB制御器(フィードバック制御器)51b,61b,71bを有する。
【0027】
[油振対策によるソレノイド電流制御処理構成]
図3は、実施例1のCVTコントローラ8にて実行される油振対策によるソレノイド電流制御処理流れを示すフローチャートである。以下、油振対策によるソレノイド電流制御処理構成をあらわす
図3の各ステップについて説明する。なお、この制御処理は、所定の制御周期(例えば、10msec)で繰り返し実行される。
【0028】
ステップS1では、運転シーンを判別し、ステップS2へ進む。
ここで、「運転シーン」としては、ディザ作動させたいシーンを判別するため「運転シーン」と、ディザ作動させたくないシーンを判別するための「運転シーン」を含む。
【0029】
ステップS2では、ステップS1での運転シーンの判別に続き、油振現象を判定し、ステップS3へ進む。
ここで、「油振現象の判定」は、プライマリ圧センサ85とセカンダリ圧センサ86からのセンサ信号に基づき、プライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecの最大ピーク圧と最初ピーク圧の差圧PRIPRS_AMP,SECPRS_AMPを監視することで行う。
【0030】
ステップS3では、ステップS2での油振現象の判定に続き、プライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecの油振を検知し、かつ、ディザをONにしたい運転シーンであるか否かを判断する。YES(油振検知条件とディザ要求運転シーン条件が共に成立)の場合はステップS4へ進み、NO(油振検知条件とディザ要求運転シーン条件の少なくとも一方が不成立)の場合はステップS5へ進む。
【0031】
ここで、「油振検知条件の成立」は、
図4に示すように、プライマリ圧Ppriの差圧PRIPRS_AMP、又は、セカンダリ圧Psecの差圧SECPRS_AMPが、所定値以上である状態が所定時間継続することで、ディザ用油振判定フラグを立てる。つまり、
図5のタイミングチャートに示すように、差圧PRIPRS_AMP又は差圧SECPRS_AMPがタイマ演算開始閾値以上の時刻t1になるとタイマ起動を開始する。そして、時刻t1からタイマ演算終了閾値に到達せずに所定の継続時間を経過する時刻t2になるとディザ用油振判定フラグが立てられる。そして、差圧PRIPRS_AMP又は差圧SECPRS_AMPがタイマ演算終了閾値以下の時刻t3になると、タイマをクリアする。さらに、油振判定クリア閾値以下の時刻t4になると、ディザ用油振判定フラグを降ろす。なお、差圧の各閾値の関係は、タイマ演算開始閾値>タイマ演算終了閾値>油振判定クリア閾値という関係にあり、判定タイミングが早くなるように閾値が設定されている。油振判定におけるタイマ演算開始閾値としては、例えば、0.5MPa程度に設定され、油振を判定する継続時間(t1〜t2)としては、例えば、0.6sec程度に設定される。
【0032】
又、「ディザ要求運転シーン条件の成立」は、
図6の“作動させたいシーン”に示すように、
・Dレンジ低開度オートアップ走行中
・Dレンジコースト走行中又はDレンジブレーキON中
・ドライバー操作による減速要求中(Lレンジ、Mレンジ、OD/OFF)
・停車中
による4つの運転パターンの何れかのパターンに該当するとき、ディザ要求運転シーン条件の成立と判断する。条件の成立は、各種センサ等からの情報に基づいて判断される。
【0033】
ステップS4では、ステップS3での油振検知条件とディザ要求運転シーン条件が共に成立であるとの判断に続き、ディザをONにしてはいけない運転シーンであるか否かを判断する。YES(ディザONがNGの運転シーン)の場合はステップS5へ進み、NO(ディザONがOKの運転シーン)の場合はステップS6へ進む。
【0034】
ここで、「ディザをONにしてはいけない運転シーン」とは、
図6の“作動させたくないシーン”に示すように、
・無段変速機CVTのメカLow&メカHigh
・エンジン高回転数域
・バッテリ電圧が低電圧、かつ、変速機作動油温が高油温
による3つの運転パターンのうち、何れか一つのパターンに該当するとき、ディザをONにしてはいけない運転シーンと判断する。この判断も、各種センサ等からの情報に基づいて行われる。
【0035】
ステップS5では、ステップS3での油振検知条件とディザ要求運転シーン条件の少なくとも一方が不成立であるとの判断、或いは、ステップS4でのディザONがNGの運転シーンであるとの判断に続き、ディザをOFFにし、エンドへ進む。
ここで、「ディザをOFFにする」とは、各油圧制御弁5,6,7のソレノイド5a,6a,7aに対して印加するベース電流指令値による電流波形を、
図7の最上部に示すように、PWM制御によるリップル電流波形にすることをいう。
【0036】
ステップS6では、ステップS4でのディザONがOKの運転シーンであるとの判断に続き、ディザをONにし、ステップS7へ進む。
ここで、「ディザをONにする」とは、各油圧制御弁5,6,7のソレノイド5a,6a,7aに対して印加するベース電流指令値による電流波形を、
図7に示すように、PWM制御によるリップル電流波形に、ディザ電流波形を重畳することで形成されるディザ作動波形にすることをいう。
なお、「ディザ電流波形」とは、リップル電流(例えば、数百Hz)よりも低周波数(例えば、数十Hz)の矩形電流波形をいう。なお、ステップS4でディザONがOKの運転シーンであると判断されても、フェールフラグが立っている場合はディザをOFFにする。
【0037】
ステップS7では、ステップS6でのディザONに続き、バッテリ電源電圧を読み込み、ステップS8へ進む。
【0038】
ステップS8では、ステップS7でのバッテリ電源電圧の読み込みに続き、油圧指令値から算出されるベース電流指令値を決定し、ステップS9へ進む。
【0039】
ステップS9では、ステップS8でのベース電流指令値の決定に続き、バッテリ電源電圧が電圧閾値batt_vol1(以下、電圧閾値V1という。)未満であり、かつ、ベース電流指令値が電流閾値i_base_cmd1(以下、電流閾値A9という。)を超えているか否かを判断する。YES(バッテリ電源電圧<電圧閾値、かつ、ベース電流指令値>電流閾値)の場合はステップS10へ進み、NO(バッテリ電源電圧≧電圧閾値、又は、ベース電流指令値≦電流閾値)の場合はエンドへ進む。
【0040】
ここで、「電圧閾値」とは、バッテリ電源電圧が低電圧であることを判定する閾値であり、例えば、定格電圧が16Vであるとき、電圧閾値V1=10Vに設定される。「電流閾値」は、ベース電流指令値が高電流であることを判定する閾値であり、例えば、電流閾値A9=1000mAに設定される。
【0041】
「バッテリ電源電圧<電圧閾値、かつ、ベース電流指令値>電流閾値」の領域とは、バッテリ電源電圧が電圧閾値V1未満で、かつ、ベース電流指令値が電流閾値A9を超える
図8のハッチングにて示す領域をいう。なお、
図8のハッチング領域以外の領域は、ディザ振幅として最大振幅(100%)を設定できる部分である。
【0042】
ステップS10では、ステップS9でのバッテリ電源電圧<電圧閾値、かつ、ベース電流指令値>電流閾値であるとの判断に続き、ディザ振幅をマップにて調整し、ステップS11へ進む。
【0043】
ここで、ディザ振幅の「マップ」とは、
図9に示すように、ベース電流指令値と電源電圧の二次元座標において、電圧閾値V1と電流閾値A9を結ぶ線Lよりベース電流指令値が高く電源電圧が低い領域に、線Lから離れるほど振幅比率を99%〜95%へと低く設定したものをいう。なお、線Lよりベース電流指令値が低く電源電圧が高い領域は、振幅比率が100%とされ、初期ディザ振幅のままとされる。
【0044】
ステップS11では、ステップS10でのディザ振幅のマップ調整に続き、変速機作動油のATF油温を油温センサ87により読み込み、ステップS12へ進む。
【0045】
ステップS12では、ステップS11での油温読み込みに続き、油温が油温閾値を超え、かつ、バッテリ電源電圧が電圧閾値batt_vol2未満であり、かつ、ベース電流指令値が電流閾値i_base_cmd2を超えているか否かを判断する。YES(油温>油温閾値、かつ、バッテリ電源電圧<電圧閾値、かつ、ベース電流指令値>電流閾値)の場合はステップS13へ進み、NO(油温≦油温閾値、又は、バッテリ電源電圧≧電圧閾値、又は、ベース電流指令値≦電流閾値)の場合はエンドへ進む。
【0046】
ここで、電圧閾値batt_vol2は、例えば、ステップS9での電圧閾値batt_vol1と同じ値に設定され、電流閾値i_base_cmd2は、ステップS9での電流閾値i_base_cmd1と同じ値に設定される。つまり、ベース電流指令値が電流閾値i_base_cmd2を超えている高電流領域内のとき、
図10に示すように、バッテリ電源電圧が電圧閾値batt_vol2未満で、かつ、油温が油温閾値を超える領域であると、次の積分下げ側の停止制御を実行する。
【0047】
ステップS13では、ステップS12での油温>油温閾値、かつ、バッテリ電源電圧<電圧閾値、かつ、ベース電流指令値>電流閾値であるとの判断に続き、セカンダリ圧Psecの積分FB制御の下げ側積分量を停止し、エンドへ進む。
【0048】
ここで、セカンダリ圧Psecの積分FB制御の下げ側積分量を停止するとは、セカンダリ圧Psecの積分FB制御における積分操作量の下げ側出力を「0(ゼロ)」に規制することをいう。
【0049】
次に、作用を説明する。
実施例1のベルト式無段変速機の制御装置における作用を、「油振対策によるソレノイド電流制御処理作用」、「油振対策によるソレノイド電流制御作用」、「セカンダリ圧の積分FB制御作用」、「セカンダリ圧の積分FB制御の特徴作用」に分けて説明する。
【0050】
[油振対策によるソレノイド電流制御処理作用]
以下、
図3のフローチャートに基づき、油振対策によるソレノイド電流制御処理作用を説明する。
【0051】
プライマリ圧Ppri又はセカンダリ圧Psecの油振が検知されないときは、
図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS5→エンドへと進む。そして、ステップS5では、ディザOFFにし、各油圧制御弁5,6,7のソレノイド5a,6a,7aに対して印加するベース電流指令値による電流波形が、PWM制御によるリップル電流波形にされる。
【0052】
ディザをONにしたい運転シーンでないときは、
図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS5→エンドへと進む。そして、ステップS5では、ディザOFFにし、各油圧制御弁5,6,7のソレノイド5a,6a,7aに対して印加するベース電流指令値による電流波形が、PWM制御によるリップル電流波形にされる。
【0053】
プライマリ圧Ppri又はセカンダリ圧Psecの油振が検知され、かつ、ディザをONにしたい運転シーンであるが、ディザをONにしてはいけない運転シーンであるときは、
図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS5→エンドへと進む。そして、ステップS5では、ディザOFFにし、各油圧制御弁5,6,7のソレノイド5a,6a,7aに対して印加するベース電流指令値による電流波形が、PWM制御によるリップル電流波形にされる。
【0054】
一方、プライマリ圧Ppri又はセカンダリ圧Psecの油振が検知され、かつ、ディザをONにしたい運転シーンであり、かつ、ディザをONにしてもよい運転シーンであるときは、
図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS6へと進む。そして、ステップS6では、ディザをONにし、各油圧制御弁5,6,7のソレノイド5a,6a,7aに対して印加するベース電流指令値による電流波形が、PWM制御によるリップル電流波形に、ディザ電流波形を重畳することで形成されるディザ作動波形にされる。
【0055】
そして、各油圧制御弁5,6,7のソレノイド5a,6a,7aに対して印加するベース電流指令値がディザ作動波形であるディザON中においては、ステップS6からステップS7→ステップS8→ステップS9へと進む。ステップS9において、バッテリ電源電圧≧電圧閾値、又は、ベース電流指令値≦電流閾値であると判断された場合は、ステップS9からエンドへ進む。一方、ステップS9において、バッテリ電源電圧<電圧閾値、かつ、ベース電流指令値>電流閾値であると判断された場合は、ステップS9からステップS10へ進む。ステップS10では、ディザ振幅がマップにより調整される。
【0056】
ステップS10にてディザ振幅のマップ調整があると、ステップS10からステップS11→ステップS12へと進む。ステップS12において、油温≦油温閾値、又は、バッテリ電源電圧≧電圧閾値、又は、ベース電流指令値≦電流閾値と判断された場合は、ステップS12からエンドへ進む。ステップS12において、油温>油温閾値、かつ、バッテリ電源電圧<電圧閾値、かつ、ベース電流指令値>電流閾値と判断された場合は、ステップS12からステップS13→エンドへと進む。ステップS13では、セカンダリ圧Psecの積分FB制御の下げ側積分操作量が停止される。
【0057】
[油振対策によるソレノイド電流制御作用]
上記のように、油振検知条件と、ディザ要求運転シーン条件と、ディザOK運転シーン条件とが共に成立する場合に限り、ディザをONにし、各油圧制御弁5,6,7のソレノイド5a,6a,7aに対してディザ作動波形を印加する油振対策が実行される。
【0058】
即ち、油振検知条件が不成立であると、ディザ要求運転シーン条件とディザOK運転シーン条件が共に成立であっても、ディザOFFにされる。
ここで、「油振検知条件が不成立である」とは、プライマリ圧Ppriの差圧PRIPRS_AMP、及び、セカンダリ圧Psecの差圧SECPRS_AMPが、所定値未満であるとき、若しくは、差圧PRIPRS_AMP、又は、差圧SECPRS_AMPが、所定値以上であるが所定時間継続していないときをいう。
【0059】
また、ディザ要求運転シーン条件が不成立であると、油振検知条件とディザOK運転シーン条件が共に成立であっても、ディザOFFにされる。
ここで、「ディザ要求運転シーン条件が不成立である」とは、
・Dレンジ低開度オートアップ走行中
・Dレンジコースト走行中又はDレンジブレーキON中
・ドライバー操作による減速要求中(Lレンジ、Mレンジ、OD/OFF)
・停車中
による4つの運転パターンの何れのパターンにも該当しないときをいう。これらのパターンに該当するか否かの判断は、各種センサ等からの情報に基づいて行われる。
【0060】
さらに、ディザOK運転シーン条件が不成立であると、油振検知条件とディザ要求運転シーン条件が共に成立であっても、ディザOFFにされる。
ここで、「ディザOK運転シーン条件が不成立である」とは、
・無段変速機CVTのメカLow&メカHigh
・エンジン高回転数域
・バッテリ電圧が低電圧、かつ、変速機作動油温が高油温
による3つの運転パターンの何れかのパターンに該当するときをいう。これらのパターンに該当するか否かの判断は、各種センサ等からの情報に基づいて行われる。
【0061】
加えて、油振検知条件、ディザ要求運転シーン条件、ディザOK運転シーン条件のうち、2つの条件が不成立、若しくは、3つの条件が不成立であると、1つの条件が不成立である場合と同様に、ディザOFFにされる。
【0062】
次に、油振対策によるソレノイド電流制御による効果を確認するための実験結果について説明する。
【0063】
図11は、油振が発生する低バッテリ電圧で高油温での低開度オートアップのシーンにおいてディザ作動させない比較例での実験結果を示すタイミングチャートである。
この比較例の場合は、ディザOFFにし、各油圧制御弁5,6,7に印加するソレノイド電流(PL,PRI,SEC)の電流波形を、PWM制御によるリップル電流波形としている。
比較例の実験結果によると、ドライブシャフトトルク(=ドラシャトルク)による油振ジャダーとして、領域Aにおいて、0.1G超えの油振LUジャダーが発生し、領域Bにおいて、0.06G前後の油振ジャダーが発生した。さらに、各油圧(PL圧,PRI圧,SEC圧)の油振として、領域Cにおいて、振幅P-Pで1.5MPa級の油振が発生し、特に、PL圧はさらに大きな油振が発生した。
【0064】
図12は、油振が発生する低バッテリ電圧で高油温での低開度オートアップのシーンにおいてディザ作動させた実施例1での実験結果を示すタイミングチャートである。
この実施例1の場合は、ディザONにし、各油圧制御弁5,6,7に印加するソレノイド電流(PL,PRI,SEC)の電流波形を、PWM制御によるリップル電流波形にディザ電流を重畳したディザ作動波形としている。
実施例1の実験結果によると、ドライブシャフトトルク(=ドラシャトルク)による油振ジャダーとして、領域Dにおいて、油振LUジャダーや油振ジャダーが消えた。さらに、各油圧(PL圧,PRI圧,SEC圧)の油振として、領域Eにおいて、油振が消えた。
【0065】
つまり、油振の原因は、ソレノイド応答不良による油圧制御弁の位相遅れFB調圧にある。これに対し、PWM制御によるリップル電流波形に低周波ディザを入れることで、各油圧制御弁5,6,7のソレノイド可動部を、静摩擦領域を超えて動摩擦領域で動かすことになる。この結果、各油圧制御弁5,6,7のソレノイド可動部において摺動抵抗が無くなり油圧系の応答性が上がるというディザ効果が実験によって確認された。
【0066】
[セカンダリ圧の積分FB制御作用]
上記のように、ディザON中、ステップS12において、油温>閾値、かつ、バッテリ電源電圧<電圧閾値、かつ、ベース電流指令値>電流閾値であると判断された場合は、ステップS12からステップS13へと進む。そして、ステップS13では、セカンダリ圧Psecの積分FB制御における下げ側の積分操作量が停止される。以下、
図13〜
図17に基づいて、セカンダリ圧Psecの積分FB制御作用を説明する。
【0067】
まず、本発明者等が行った実機検証の結果、低電圧で高油温時に低周波ディザを重畳させると、高電流側で実電流中央値が、ベース電流指令値よりも下側にオフセットすることが明らかとなった。
【0068】
つまり、
図13の矢印Fに囲まれた枠内特性に示すように、ベース電流指令値が高く、高電圧(例えば、13V以上)、低油温(例えば、50℃以下)の時には、実電流中央値がベース電流指令値に一致し、
図13の矢印Gに囲まれた枠内特性に示すように、ライン圧の最低圧を出している。しかし、
図14の矢印Hに囲まれた枠内特性に示すように、ベース電流指令値が高く、低電圧(例えば、10.0V以下)、高油温(例えば、100℃以上)の時には、実電流中央値がベース電流指令値より下側にオフセットする。そして、
図14の矢印Iに囲まれた枠内特性に示すように、指令油圧よりも実油圧が上がりライン圧PLの最低圧を出せない。
【0069】
ベース電流指令値&低電圧&高油温時に実電流中央値がベース電流指令値より下側にオフセットする現象を分析すると、以下の要因によると考えられる。
(a)低電圧のとき、ディザ指令の上側はデューティ比が100%を超える領域になる。
(b)高油温のとき、ソレノイドコイルの抵抗が大きくなるため、同じ電源電圧値だと上限の実電流値が小さくなる。
このため、ディザ実電流波形が、
図15の矢印Jに示すライン以上となる上端側の実電流が出せず、その結果として、実電流中央値がベース電流指令値より下側にオフセットすることが判明した。
【0070】
このオフセットを解決する手段として、実電流中央値がベース電流指令値より下側にオフセットする条件が成立するとき、ディザ振幅の上端側を出せるように、ディザ振幅を調整する制御を実行するようにした(ステップS10)。
【0071】
しかし、ディザ振幅の調整を行ったとしても、実電流中央値とベース電流指令値のオフセット量が小さく抑えられるだけで、オフセット量をゼロにすることはできない。勿論、ディザ振幅の調整を行わないと、実電流中央値とベース電流指令値のオフセット量が出たままになる。そして、このオフセット量(=実電流中央値−ベース電流指令値)は、プライマリ圧Ppriやセカンダリ圧PsecをFB制御するときの油圧偏差(=実油圧値−油圧指令値)となる。
【0072】
そこで、ソレノイド7aへの実電流値と電流指令値の電流偏差に対するセカンダリ圧Psecの積分FB制御に着目すると、目標とするセカンダリ圧Psecより実際のセカンダリ圧Psecが高くなってしまう場合においては、油圧偏差が時間の経過と共に積算されることで積分出力の誤差が溜まる。このため、アクセル踏み込み操作によりベース油圧指令値が増加したとき、積分出力の誤差影響によってセカンダリ圧Psecの実油圧がすぐに上昇せず、ベルトクランプ力が不足してベルト滑りを生じる可能性がある。
【0073】
即ち、積分下げ側の停止が無い比較例において、ディザ電流の実電流中央値がベース電流指令値より低下するディザON中にアクセル踏み込み操作が行われたときの作用を、
図16に示すタイミングチャートにより説明する。
【0074】
積分下げ側の停止が無い場合、油圧偏差が残り始める時刻t1からアクセル踏み込み操作時刻t2までの区間では、
図16の矢印Pに示すように、ベース油圧指令値<実油圧のために、セカンダリ圧Psecを下げようと積分出力は減少する。しかし、物理的な限界でセカンダリ圧Psecの実油圧が下がらないため、積分出力に誤差が溜まってゆく。
【0075】
アクセル踏み込み操作時刻t2から時刻t3までの区間では、
図16の矢印Qに示すように、アクセル開度が増加するのに伴いベース油圧指令値も増加するが、時刻t1〜t2の間に溜まった積分出力の誤差の影響により、セカンダリ圧Psecの実油圧はすぐに変わらない。その後、積分制御作用によりセカンダリ圧Psecの実油圧は増加してゆくが、
図16の矢印Rに示すように、ベース油圧指令値に到達するまでに時間がかかる。
このため、
図16の矢印Sに示す領域が、セカンダリ圧Psecの実油圧が、ベース油圧指令値に対して不足する領域になり、矢印Sに示す領域において、ベルトクランプ力が不足してベルト滑りを生じる可能性がある。
【0076】
これに対し、積分下げ側の停止がある実施例1においてディザ電流の実電流中央値がベース電流指令値より低下するディザON中にアクセル踏み込み操作が行われたときの作用を、
図17に示すタイミングチャートにより説明する。
【0077】
積分下げ側の停止がある場合、油圧偏差が残り始める時刻t1からアクセル踏み込み操作時刻t2までの区間では、
図17の矢印Tに示すように、ベース油圧指令値<実油圧であるが、積分下げ側を停止しているため、積分出力に誤差が溜まらない。
【0078】
アクセル踏み込み操作時刻t2から時刻t3までの区間では、
図17の矢印Uに示すように、アクセル開度が増加するのに伴いベース油圧指令値も増加する。しかし、時刻t1〜t2の間に積分出力の誤差が溜まらないため、セカンダリ圧Psecの実油圧がすぐにベース油圧指令値に到達する。
このため、
図16の矢印Sに示すベルトクランプ力が不足する領域が解消され、ベルト滑りが発生するのが防止される。
【0079】
[セカンダリ圧の積分FB制御の特徴作用]
実施例1では、ベルト式無段変速機CVTの制御装置において、CVTコントローラ8は、セカンダリプーリ2へのセカンダリ圧Psecの制御を、油圧偏差に積分ゲインを掛け合わせた積分操作量により補償する積分FB制御とする。そして、ソレノイド5a,6a,7aへ出力するベース電流指令値に対してディザ電流を付加するディザ作動の実行中、ディザ電流の実電流中央値がベース電流指令値より低いとき、積分FB制御での積分操作量の下げ側出力を停止する。
【0080】
即ち、ディザON中であって、ディザ電流の実電流中央値がベース電流指令値より低いとき、セカンダリ圧Psecの積分FB制御を行うと、積分FB制御での積分操作量の下げ側出力を停止しているため、積分出力に誤差が溜まらない。その後、アクセル踏み込み操作が行われると、アクセル開度が増加するのに伴いベース油圧指令値も増加するが、積分出力の誤差が溜まらないため、セカンダリ圧Psecの実油圧がすぐにベース油圧指令値に到達する。従って、ディザ作動中であってディザ電流の実電流中央値がベース電流指令値より低いとき、油振を低減しつつ、アクセル踏み込み操作の介入によるベルト滑りが防止される。
【0081】
実施例1では、CVTコントローラ8は、ベルト式無段変速機CVTの変速機作動油の油温が閾値より高いとき、ディザ電流の実電流中央値がベース電流指令値より低いときと判断する。
【0082】
即ち、変速機作動油の油温が高いときには、ディザ電流の実電流中央値がベース電流指令値より低下(下側オフセット)することがある。従って、変速機作動油の油温が高いとき、セカンダリ圧Psecの積分FB制御における積分操作量の下げ側出力が停止される。
【0083】
実施例1では、CVTコントローラ8は、バッテリ電源電圧が閾値より低いとき、ディザ電流の実電流中央値がベース電流指令値より低いときと判断する。
【0084】
即ち、バッテリ電源電圧が低いときは、ディザ電流の実電流中央値がベース電流指令値より低下(下側オフセット)することがある。従って、バッテリ電源電圧が低いとき、セカンダリ圧Psecの積分FB制御における積分操作量の下げ側出力が停止される。
【0085】
実施例1では、CVTコントローラ8は、ベース電流指令値が高いとき、ディザ電流の実電流中央値がベース電流指令値より低いときと判断する。
【0086】
即ち、ベース電流指令値が高いときは、ディザ電流の実電流中央値がベース電流指令値より低下(下側オフセット)することがある。従って、ベース電流指令値が高いとき、セカンダリ圧Psecの積分FB制御における積分操作量の下げ側出力が停止される。
【0087】
実施例1では、CVTコントローラ8は、油圧制御弁5,6,7のソレノイド5a,6a,7aへのベース電流指令値を、PWM制御によるリップル電流波形とする。ディザ電流を、リップル電流よりも低周波数の矩形電流によるディザ電流波形とする。そして、リップル電流波形にディザ電流波形を重畳したディザ作動波形を、ディザ作動によりソレノイド5a,6a,7aへ印加する電流波形とする。
【0088】
即ち、ディザ作動でソレノイド5a,6a,7aへ印加する電流波形が、リップル電流波形にディザ電流波形を重畳したディザ作動波形とされる。このため、ディザ電流波形の重畳により、各油圧制御弁5,6,7のソレノイド可動部を、静摩擦領域を超えて動摩擦領域で動かす作用を示す。このため、ディザ作動時に各油圧制御弁5,6,7のソレノイド可動部において摺動抵抗が無くなって油圧系の応答性が上がり、油振を有効に抑えるディザ効果が得られる。
【0089】
次に、効果を説明する。
実施例1におけるベルト式無段変速機CVTの制御装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0090】
(1) 無段変速機(ベルト式無段変速機CVT)は、ベルト3が掛け渡されたプライマリプーリ1とセカンダリプーリ2へのプーリ油圧を制御する油圧制御弁5,6,7を備える。
制御装置は、プライマリプーリ1とセカンダリプーリ2へのプーリ油圧指令値に基づいて、油圧制御弁5,6,7のソレノイド5a,6a,7aへ出力するベース電流指令値を設定するコントローラ(CVTコントローラ8)を備える。
この無段変速機(ベルト式無段変速機CVT)の制御装置において、コントローラ(CVTコントローラ8)は、セカンダリプーリへのセカンダリ圧の制御を、油圧偏差に積分ゲインを掛け合わせた積分操作量により補償する積分FB制御とする。
ソレノイド5a,6a,7aへ出力するベース電流指令値に対してディザ電流を付加するディザ作動の実行中、ディザ電流の実電流中央値がベース電流指令値より低いとき、積分FB制御での積分操作量の下げ側出力を停止する(
図2)。
このため、ディザ作動中であってディザ電流の実電流中央値がベース電流指令値より低いとき、油振を低減しつつ、アクセル踏み込み操作の介入によるベルト滑りを防止することができる。
【0091】
(2) コントローラ(CVTコントローラ8)は、無段変速機(ベルト式無段変速機CVT)の変速機作動油の油温が閾値より高いとき、ディザ電流の実電流中央値がベース電流指令値より低いときと判断する(
図10)。
このため、(1)の効果に加え、変速機作動油の油温が高いとき、セカンダリ圧Psecの積分FB制御における積分操作量の下げ側出力を停止することができる。
【0092】
(3) コントローラ(CVTコントローラ8)は、電源電圧(バッテリ電源電圧)が閾値より低いとき、ディザ電流の実電流中央値がベース電流指令値より低いときと判断する(
図10)。
このため、(1)又は(2)の効果に加え、電源電圧(バッテリ電源電圧)が低いとき、セカンダリ圧Psecの積分FB制御における積分操作量の下げ側出力を停止することができる。
【0093】
(4) コントローラ(CVTコントローラ8)は、ベース電流指令値が閾値より高いとき、ディザ電流の実電流中央値がベース電流指令値より低いときと判断する(
図10)。
このため、(1)〜(3)の効果に加え、ベース電流指令値が高いとき、セカンダリ圧Psecの積分FB制御における積分操作量の下げ側出力を停止することができる。
【0094】
(5) コントローラ(CVTコントローラ8)は、油圧制御弁5,6,7のソレノイド5a,6a,7aへのベース電流指令値を、パルス幅変調制御(PWM制御)によるリップル電流波形とする。ディザ電流を、リップル電流よりも低周波数の矩形電流によるディザ電流波形とする。そして、リップル電流波形にディザ電流波形を重畳したディザ作動波形を、ディザ作動によりソレノイド5a,6a,7aへ印加する電流波形とする(
図7)。
このため、(1)〜(4)の効果に加え、ディザ作動時に各油圧制御弁5,6,7のソレノイド可動部において摺動抵抗が無くなって油圧系の応答性が上がり、油振を有効に抑えるディザ効果を得ることができる。
【0095】
以上、本発明の無段変速機の制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0096】
実施例1では、油温が油温閾値よりも低く、かつ、バッテリ電源電圧が電圧閾値よりも低く、かつ、ベース電流指令値が電流閾値よりも高い運転点の領域を、セカンダリ圧Psecの積分FB制御における積分操作量の下げ側出力を停止する例を示した。しかし、油温のみをパラメータとし、油温が油温閾値よりも低いとき、セカンダリ圧の積分FB制御における積分操作量の下げ側出力を停止する例としても良い。バッテリ電源電圧のみをパラメータとし、バッテリ電源電圧が電圧閾値よりも低いとき、セカンダリ圧の積分FB制御における積分操作量の下げ側出力を停止する例としても良い。又、ベース電流指令値のみをパラメータとし、ベース電流指令値が電流閾値よりも高いとき、セカンダリ圧の積分FB制御における積分操作量の下げ側出力を停止する例としても良い。
【0097】
実施例1では、油温条件とバッテリ電源電圧条件とベース電流指令値条件によりセカンダリ圧の積分FB制御における積分操作量の下げ側出力を停止する例を示した。しかし、ディザ作動の実行中、ディザ電流の実電流中央値とベース電流指令値の差を演算し、差の絶対値が所定値以上大きいとき、セカンダリ圧の積分FB制御における積分操作量の下げ側出力を停止する例としても良い。
【0098】
実施例1では、本発明の無段変速機の制御装置を、エンジン車やハイブリッド車等のエンジン搭載車に適用する例を示した。しかし、本発明の無段変速機の制御装置は、油圧制御による無段変速機を搭載する車両であれば、電気自動車や燃料電池車等に対しても適用することができる。