特許第6585106号(P6585106)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585106
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】抗体の血中動態を制御する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20190919BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20190919BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20190919BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20190919BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20190919BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20190919BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20190919BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20190919BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20190919BHJP
【FI】
   C12N15/09 ZZNA
   C12P21/08
   A61K39/395 W
   !C07K16/00
   !C07K16/46
   !C12N1/15
   !C12N1/19
   !C12N1/21
   !C12N5/10
【請求項の数】2
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2017-34246(P2017-34246)
(22)【出願日】2017年2月27日
(62)【分割の表示】特願2015-81671(P2015-81671)の分割
【原出願日】2007年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-99402(P2017-99402A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2017年3月28日
(31)【優先権主張番号】特願2006-97796(P2006-97796)
(32)【優先日】2006年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】井川 智之
(72)【発明者】
【氏名】角田 浩行
(72)【発明者】
【氏名】橘 達彦
【審査官】 池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/123126(WO,A1)
【文献】 特開平02−028200(JP,A)
【文献】 国際公開第99/051743(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/035756(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/068931(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/067620(WO,A1)
【文献】 特開平07−067688(JP,A)
【文献】 特表2005−535341(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/019447(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/047327(WO,A1)
【文献】 特表2005−501514(JP,A)
【文献】 J. Biol. Chem. (2004) vol.279, no.8, p.6213-6216
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 − 15/90
C07K 16/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血中動態が制御されたFcRn結合領域を含むポリペプチドの製造方法であって、(a)FcRn結合領域を含むポリペプチドの表面に露出し得る少なくとも一つのアミノ酸残基の電荷が変わるように、該アミノ酸残基を含むポリペプチドをコードする核酸を改変し、(b)宿主細胞を該核酸が発現するように培養し、(c)宿主細胞培養物からFcRn結合領域を含むポリペプチドを回収することを含む方法であって、
工程(a)におけるアミノ酸残基の電荷の改変が、前記FcRn結合領域を含むポリペプチドの等電点を変化するように行われ、
前記FcRn結合領域を含むポリペプチドが抗体であり、ここで、該抗体はscFv-Fc、dAb-FcまたはIgG抗体であり、さらにここで、前記改変の箇所が該抗体の重鎖及び/又は軽鎖の可変領域である、
前記方法。
【請求項2】
FcRn結合領域を含むポリペプチドの血中動態を制御する方法であって、FcRn結合領域を含むポリペプチドの表面に露出し得る少なくとも一つのアミノ酸残基の電荷をアミノ酸置換により変えることを含む方法であって、
前記アミノ酸残基の電荷の改変が、前記FcRn結合領域を含むポリペプチドの等電点を変化するように行われ、
前記FcRn結合領域を含むポリペプチドが抗体であり、ここで、該抗体はscFv-Fc、dAb-FcまたはIgG抗体であり、さらにここで、前記改変の箇所が該抗体の重鎖及び/又は軽鎖の可変領域である、
前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体の血中動態を制御するための抗体改変方法、血中動態が制御された抗体を有効成分として含有する医薬組成物、および、その製造法等に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は血中での安定性が高く、副作用も少ないことから医薬品として注目されている。中でもIgG型の抗体医薬は多数上市されており、現在も数多くの抗体医薬が開発されている(非特許文献1、非特許文献2)。第2世代の抗体医薬として、エフェクター機能等を増強させる技術が開発されている。例えば、IgG抗体のFc領域のアミノ酸置換により抗体依存性細胞障害活性(ADCC)活性や補体依存性細胞障害活性(CDC)活性を増強させる技術が知られている(非特許文献3)。このようなエフェクター機能を増強させるだけではなく、抗体の血中半減期を向上させるFcのアミノ酸置換が報告されている(非特許文献4、非特許文献5)。血中半減期を向上させることによって、投与量の低減や投与間隔の延長が期待でき、低コスト且つ利便性の高い抗体医薬を提供することが可能である。具体的には、IgGのサルベージレセプターとして知られているneonatal Fc receptorに対する親和性を向上させるアミノ酸置換をFc領域に施すことによって血中半減期を延長することが可能である。また、CH1、CH2、CH3の定常領域をshufflingすることで血中半減期を向上させることが可能である(非特許文献6)。しかしながら、IgG抗体の定常領域のアミノ酸配列はヒトにおいて保存されているため、抗原性の観点からは、定常領域に導入する人工的なアミノ酸置換は少ない方がよい。
【0003】
IgG抗体の可変領域にアミノ酸置換を施す技術は、ヒト化(非特許文献7)をはじめとして、結合活性を増強させるための相補性決定領域(CDR)のアミノ酸置換によるaffinity maturation(非特許文献8)、フレームワーク(FR)のアミノ酸置換による物理化学的安定性の向上(非特許文献9)が報告されている。よって、定常領域のアミノ酸置換とは異なり、可変領域のアミノ酸置換は抗体の機能の増強や特性の向上のために一般的に行われる手法である。ヒト化抗体のCDRのアミノ酸配列は、ヒト以外の動物種のアミノ酸配列であるために抗原性のリスクは問題視する必要はない。また、FR配列においても、Kabat Database (http://ftp.ebi.ac.uk/ pub/databases/kabat/) およびIMGT Database (http://imgt.cines.fr/)で公開されているヒト抗体のFR配列と同じであれば、抗原性のリスクは小さいと考えられる。しかしながら、IgG抗体の血中半減期を向上させる方法は、上述した定常領域であるFcのアミノ酸置換によるものだけであり、抗原性のリスクが小さい可変領域のアミノ酸置換によるIgG抗体の血中半減期を向上させる方法はこれまで報告されていない。この理由としては、IgGの血中半減期はIgGのサルベージレセプターであるneonatal Fc receptorへの結合と抗原依存的な消失に大きく依存しており(非特許文献10)、可変領域は大きく血中半減期に影響しないと考えられてきたことが挙げられる。また、IgGをスクシン化することによりアニオン化しIgGの等電点(pI)を低下させる(非特許文献11)、あるいは、ポリアミンにより修飾することでカチオン化しIgGのpIを上昇させているが(非特許文献12)、いずれも血中半減期が向上することはなく、逆に半減期は短くなっており、修飾によりpIを改変することで血中半減期を向上することはできていない。
【0004】
一方、全長抗体であるIgGに対して低分子化された低分子化抗体であるFabやscFvは半減期が短いことから、ポリエチレングリコール等の高分子により修飾することで腎排泄を低減させ血中半減期を向上させることが可能である(非特許文献13)。高分子修飾以外では低分子化抗体の等電点(pI)を改変することで血中動態が変化することが報告されている。例えば、非特許文献14にはAnti-Tac Fabを有機酸により修飾することでpIを低下させAUC(Area under curve)は向上したことを示している。一方、非特許文献15および非特許文献16にはAnti-Tac dsFvを有機酸により修飾することでpIを低下させたところAUCは低下したことを示している。非特許文献17にはAnti-Tac-scFv toxinの可変領域にアミノ酸置換により改変を加えることでpIを低下させると半減期(t1/2)およびAUCが低下することを示している。非特許文献18にはscFvのC末にpIを低下させるアミノ酸を付加したが、AUCはほとんど変化しなかったことを示している。このように低分子化抗体においては修飾ないしはアミノ酸置換によりpIを低下させた場合、AUCが向上する場合もあればAUCが低下する場合もあり、pIを改変することで必ずしも血中半減期を目的どおり制御することはできない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Monoclonal antibody successes in the clinic, Janice M Reichert, Clark J Rosensweig, Laura B Faden & Matthew C Dewitz, Nature Biotechnology 2005 ;23: 1073 - 1078
【非特許文献2】Pavlou AK, Belsey MJ., The therapeutic antibodies market to 2008., Eur J Pharm Biopharm. 2005 Apr;59(3):389-96.
【非特許文献3】Kim SJ, Park Y, Hong HJ., Antibody engineering for the development of therapeutic antibodies., Mol Cells. 2005 Aug 31;20(1):17-29. Review.
【非特許文献4】Hinton PR, Xiong JM, Johlfs MG, Tang MT, Keller S, Tsurushita N., An engineered human IgG1 antibody with longer serum half-life., J Immunol. 2006 Jan 1;176(1):346-56.
【非特許文献5】Ghetie V, Popov S, Borvak J, Radu C, Matesoi D, Medesan C, Ober RJ, Ward ES., Increasing the serum persistence of an IgG fragment by random mutagenesis., Nat Biotechnol. 1997 Jul;15(7):637-40.
【非特許文献6】Zuckier LS, Chang CJ, Scharff MD, Morrison SL., Chimeric human-mouse IgG antibodies with shuffled constant region exons demonstrate that multiple domains contribute to in vivo half-life., Cancer Res. 1998 Sep 1;58(17):3905-8.
【非特許文献7】Tsurushita N, Hinton PR, Kumar S., Design of humanized antibodies: from anti-Tac to Zenapax., Methods. 2005 May;36(1):69-83.
【非特許文献8】Rajpal A, Beyaz N, Haber L, Cappuccilli G, Yee H, Bhatt RR, Takeuchi T, Lerner RA, Crea R., A general method for greatly improving the affinity of antibodies by using combinatorial libraries., Proc Natl Acad Sci U S A. 2005 Jun 14;102(24):8466-71.
【非特許文献9】Ewert S, Honegger A, Pluckthun A., Stability improvement of antibodies for extracellular and intracellular applications: CDR grafting to stable frameworks and structure-based framework engineering., Methods. 2004 Oct;34(2):184-99. Review
【非特許文献10】Lobo ED, Hansen RJ, Balthasar JP., Antibody pharmacokinetics and pharmacodynamics., J Pharm Sci. 2004 Nov;93(11):2645-68. Review.
【非特許文献11】Yamasaki Y, Sumimoto K, Nishikawa M, Yamashita F, Yamaoka K, Hashida M, Takakura Y., harmacokinetic analysis of in vivo disposition of succinylated proteins targeted to liver nonparenchymal cells via scavenger receptors: importance of molecular size and negative charge density for in vivo recognition by receptors., Pharmacol Exp Ther. 2002 May;301(2):467-77.
【非特許文献12】Poduslo JF, Curran GL., olyamine modification increases the permeability of proteins at the blood-nerve and blood-brain barriers., Neurochem. 1996 Apr;66(4):1599-609.
【非特許文献13】Yang K, Basu A, Wang M, Chintala R, Hsieh MC, Liu S, Hua J, Zhang Z, Zhou J, Li M, Phyu H, Petti G, Mendez M, Janjua H, Peng P, Longley C, Borowski V, Mehlig M, Filpula D., Tailoring structure-function and pharmacokinetic properties of single-chain Fv proteins by site-specific PEGylation., Protein Eng. 2003 Oct;16(10):761-70.
【非特許文献14】Kobayashi H, Le N, Kim IS, Kim MK, Pie JE, Drumm D, Paik DS, Waldmann TA, Paik CH, Carrasquillo JA., The pharmacokinetic characteristics of glycolated humanized anti-Tac Fabs are determined by their isoelectric points., Cancer Res. 1999 Jan 15;59(2):422-30.
【非特許文献15】Kim I, Kobayashi H, Yoo TM, Kim MK, Le N, Han ES, Wang QC, Pastan I, Carrasquillo JA, Paik CH., Lowering of pI by acylation improves the renal uptake of 99mTc-labeled anti-Tac dsFv: effect of different acylating reagents., Nucl Med Biol. 2002 Nov;29(8):795-801
【非特許文献16】Kim IS, Yoo TM, Kobayashi H, Kim MK, Le N, Wang QC, Pastan I, Carrasquillo JA, Paik CH., Chemical modification to reduce renal uptake of disulfide-bonded variable region fragment of anti-Tac monoclonal antibody labeled with 99mTc., Bioconjug Chem. 1999 May-Jun;10(3):447-53.
【非特許文献17】Onda M, Nagata S, Tsutsumi Y, Vincent JJ, Wang Q, Kreitman RJ, Lee B, Pastan I. , Lowering the isoelectric point of the Fv portion of recombinant immunotoxins leads to decreased nonspecific animal toxicity without affecting antitumor activity., Cancer Res. 2001 Jul 1;61(13):5070-7.
【非特許文献18】Pavlinkova G, Beresford G, Booth BJ, Batra SK, Colcher D., Charge-modified single chain antibody constructs of monoclonal antibody CC49: generation, characterization, pharmacokinetics, and biodistribution analysis., Nucl Med Biol. 1999 Jan;26(1):27-34.
【非特許文献19】Deen WM, Lazzara MJ, Myers BD. , Structural determinants of glomerular permeability., Am J Physiol Renal Physiol. 2001 Oct;281(4):F579-96.
【非特許文献20】Schaeffer RC Jr, Gratrix ML, Mucha DR, Carbajal JM., The rat glomerular filtration barrier does not show negative charge selectivity., Microcirculation. 2002 Oct;9(5):329-42.
【非特許文献21】Goode NP, Shires M, Davison AM., The glomerular basement membrane charge-selectivity barrier: an oversimplified concept?, Nephrol Dial Transplant. 1996 Sep;11(9):1714-6.
【非特許文献22】Comper WD, Glasgow EF., Charge selectivity in kidney ultrafiltration., Kidney Int. 1995 May;47(5):1242-51.
【非特許文献23】Ghetie V, Ward ES. FcRn: the MHC class I-related receptor that is more than an IgG transporter.Immunol Today. 1997 Dec;18(12):592-8.
【非特許文献24】He XY, Xu Z, Melrose J, Mullowney A, Vasquez M, Queen C, Vexler V, Klingbeil C, Co MS, Berg EL. Humanization and pharmacokinetics of a monoclonal antibody with specificity for both E- and P-selectin. J Immunol. 1998 Jan 15;160(2):1029-35.
【非特許文献25】Gobburu JV, Tenhoor C, Rogge MC, Frazier DE Jr, Thomas D, Benjamin C, Hess DM, Jusko WJ. Pharmacokinetics/dynamics of 5c8, a monoclonal antibody to CD154 (CD40 ligand) suppression of an immune response in monkeys. J Pharmacol Exp Ther. 1998 Aug;286(2):925-30.
【非特許文献26】Kashmiri SV, Shu L, Padlan EA, Milenic DE, Schlom J, Hand PH., Generation, characterization, and in vivo studies of humanized anticarcinoma antibody CC49., Hybridoma. 1995 Oct;14(5):461-73.
【非特許文献27】Graves SS, Goshorn SC, Stone DM, Axworthy DB, Reno JM, Bottino B, Searle S, Henry A, Pedersen J, Rees AR, Libby RT., Molecular modeling and preclinical evaluation of the humanized NR-LU-13 antibody., Clin Cancer Res. 1999 Apr;5(4):899-908.
【非特許文献28】Couto JR, Blank EW, Peterson JA, Ceriani RL., Anti-BA46 monoclonal antibody Mc3: humanization using a novel positional consensus and in vivo and in vitro characterization., Cancer Res. 1995 Apr 15;55(8):1717-22.
【非特許文献29】Adams CW, Allison DE, Flagella K, Presta L, Clarke J, Dybdal N, McKeever K, Sliwkowski MX. Humanization of a recombinant monoclonal antibody to produce a therapeutic HER dimerization inhibitor, pertuzumab., Cancer Immunol Immunother. 2005 Sep 3;:1-11
【非特許文献30】Binz HK, Amstutz P, Pluckthun A., Engineering novel binding proteins from nonimmunoglobulin domains., Nat Biotechnol. 2005 Oct;23(10):1257-68.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みて為されたものであり、その目的はIgG抗体等のFcRn結合領域を含むポリペプチドの表面に露出するアミノ酸残基の置換による改変により、FcRn結合領域を含むポリペプチドの血中半減期を制御する方法、アミノ酸置換により血中半減期が制御されたFcRn結合領域を含むポリペプチドからなる医薬組成物、並びに、それらの医薬組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、アミノ酸置換によりFcRn結合領域を含むポリペプチドの血中半減期を制御する方法について、鋭意研究を行った。その結果、本発明者らはFcRn結合領域を含むポリペプチドであるIgG抗体の可変領域残基のうち、表面に露出している残基を改変し表面電荷をコントロールすることでIgG抗体の血中半減期を制御する方法を開発した。具体的には抗体の機能・構造に影響を与えること無く表面電荷をコントロールしIgG抗体の血中半減期を制御することができる可変領域の改変箇所を見出した。さらに本発明により、血中半減期が制御された抗体が、実際に活性を保持していることを確認した。
【0008】
本発明の方法は、標的抗原の種類によらず、IgG等のFcRnのサルベージ経路によりリサイクルされ、主代謝経路が腎排泄ではないFcRn結合領域を含むポリペプチドに対して広く適用可能である。
【0009】
本発明は、FcRn結合領域を含むポリペプチドの表面に露出するアミノ酸残基の置換による改変により、FcRn結合領域を含むポリペプチドの血中半減期を制御する方法、アミノ酸置換により血中半減期が制御されたFcRn結合領域を含むポリペプチドからなる医薬組成物、並びに、それらの医薬組成物の製造方法に関し、より具体的には、
〔1〕 血中動態が制御されたFcRn結合領域を含むポリペプチドの製造方法であって、(a)FcRn結合領域を含むポリペプチドの表面に露出し得る少なくとも一つのアミノ酸残基の電荷が変わるように、該アミノ酸残基を含むポリペプチドをコードする核酸を改変し、(b)宿主細胞を該核酸が発現するように培養し、(c)宿主細胞培養物からFcRn結合領域を含むポリペプチドを回収することを含む方法、
〔2〕 前記FcRn結合領域を含むポリペプチドの表面に露出し得るアミノ酸残基が、FcRn結合領域を含むポリペプチド中のFcRn結合領域以外の領域にある〔1〕に記載の方法、
〔3〕 前記FcRn結合領域が、Fc領域またはFc様領域からなる〔2〕に記載の方法、
〔4〕 FcRn結合領域を含むポリペプチドがIgG抗体である〔1〕に記載の方法、
〔5〕 工程(a)で電荷が変えられるアミノ酸残基が、IgG抗体の重鎖可変領域または軽鎖可変領域のアミノ酸残基である〔4〕に記載の方法、
〔6〕 前記血中動態の制御が、血中半減期、平均血中滞留時間、血中クリアランスのいずれかのパラメーターの制御である〔1〕に記載の方法、
〔7〕 工程(a)におけるアミノ酸残基の電荷の改変が、アミノ酸置換による〔1〕に記載の方法、
〔8〕 〔1〕に記載の方法により製造されるFcRn結合領域を含むポリペプチド、
〔9〕 FcRn結合領域を含むポリペプチドの血中動態を制御する方法であって、FcRn結合領域を含むポリペプチドの表面に露出し得る少なくとも一つのアミノ酸残基の電荷を変えることを含む方法、
〔10〕 前記FcRn結合領域を含むポリペプチドの表面に露出し得るアミノ酸残基が、FcRn結合領域を含むポリペプチド中のFcRn結合領域以外の領域にある〔9〕に記載の方法、
〔11〕 前記FcRn結合領域が、Fc領域またはFc様領域からなる〔10〕に記載の方法、
〔12〕 FcRn結合領域を含むポリペプチドがIgG抗体である〔9〕に記載の方法、
〔13〕 電荷が変えられるアミノ酸残基が、IgG抗体の重鎖可変領域または軽鎖可変領域のアミノ酸残基である〔12〕に記載の方法、
〔14〕 前記血中動態の制御が、血中半減期、平均血中滞留時間、血中クリアランスのいずれかのパラメーターの制御である〔9〕に記載の方法、
〔15〕 アミノ酸残基の電荷の改変が、アミノ酸置換による〔9〕に記載の方法、
〔16〕 〔9〕に記載の方法により血中動態が制御されたFcRn結合領域を含むポリペプチド、
〔17〕 ヒト以外の動物由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト由来のフレームワーク領域(FR)およびヒト定常領域を含むヒト化抗体であって、CDRまたはFRにおいて抗体表面に露出し得る少なくとも一つのアミノ酸残基が野生型のCDRまたはFRの対応する位置のアミノ酸残基とは異なる電荷を有するアミノ酸残基であり、可変領域が該ヒト以外の動物由来の抗体に由来し且つ同じ定常領域を有するキメラ抗体に比べて血中動態が制御されたヒト化抗体、
〔18〕 前記ヒト定常領域が野生型のヒトFc領域を含む〔17〕に記載のヒト化抗体、
〔19〕 〔17〕または〔18〕に記載のヒト化抗体および医薬的に許容される担体を含む組成物、
〔20〕 〔17〕または〔18〕に記載のヒト化抗体を構成するポリペプチドをコードする核酸、
〔21〕 〔20〕に記載の核酸を有する宿主細胞、
〔22〕 〔21〕に記載の宿主細胞を培養する工程、細胞培養物からポリペプチドを回収する工程を含む〔17〕または〔18〕に記載のヒト化抗体の製造方法、
〔23〕 重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる10位、12位、23位、39位、43位、および105位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷が改変され、当該アミノ酸残基の改変前と比べて血中動態が制御されたIgG抗体、
〔24〕 前記改変されたアミノ酸残基が、以下の(a)または(b)いずれかの群に含まれるアミノ酸残基から選択される〔23〕に記載のIgG抗体:
(a)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D);
(b)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)、
〔25〕 〔23〕または〔24〕に記載のIgG抗体および医薬的に許容される担体を含む組成物、
〔26〕 〔23〕または〔24〕に記載のIgG抗体を構成するポリペプチドをコードする核酸、
〔27〕 〔26〕に記載の核酸を有する宿主細胞、
〔28〕 〔27〕に記載の宿主細胞を培養する工程、細胞培養物からポリペプチドを回収する工程を含む〔23〕または〔24〕に記載の抗体の製造方法、
を、提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ヒト化二重特異性抗体(ヒト化A69(hA69a)/ ヒト化B26 (hB26-F123e4)/ヒト化BBA(hAL-F123j4))の凝固活性について評価した結果を示す図である。評価の結果、キメラ二重特異性抗体と同等以上の凝固活性を示した。
図2】ヒト化A69-H鎖可変領域(hA69a)とヒト化BBA(hAL-F123j4)およびヒト化hB26-H鎖可変領域(hB26-F123e4)とヒト化BBA(hAL-F123j4)を使用して抗体モデリングを実施した結果を示す図である。表面電荷を変化させることが可能なアミノ酸について側鎖を強調して示した。番号については、Kabatデータベースの配列番号(Kabat EA et al. 1991. Sequences of Proteins of Immunological Interest.NIH)を採用した。
図3】ATF、hA69-PF、BiAb、hB26-PF、hA69-N97R、hA69-p18、hB26-F123e4、hB26-p15について等電点電気泳動による分析結果を示す写真である。
図4】ATF、hA69-PF、BiAb、hB26-PF、hA69-N97R、hA69-p18、hB26-F123e4、hB26-p15について等電点電気泳動におけるpIマーカーの検量線、および、検量線より算出された各サンプルのpIを示す図である。可変領域のアミノ酸配列の違いによる表面電荷の変化、および、アミノ酸改変による表面電荷の変化によりpIの変化が観察された。
図5】未改変および可変領域を改変したヒト化A69抗体(hA69a、hA69-N97RおよびhA69-N97R、hA69-p18、hA69-PF)を用いて抗原であるFactor IXaへの結合活性を解析した結果を示す図である。解析の結果、等電点を変化させた改変体の結合活性は同等であることが確認された。
図6】未改変および可変領域を改変したヒト化B26抗体(hB26-F123e4、hB26-p15)を用いて抗原であるFactor Xへの結合活性を解析した結果を示す図である。解析の結果、等電点を変化させた改変体の結合活性は同等であることが確認された。
図7】ATF、hA69-PF、BiAb、hB26-PFのマウス血漿中濃度推移を示した図である。
図8】ATF、hA69-PF、BiAb、hB26-PF、hA69-N97R、hA69-p18、hB26-F123e4、hB26-p15の薬物動態的パラメーターであるクリアランス(CL)と半減期(T1/2)とpIの相関を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、FcRn結合領域を含むポリペプチドの血中動態を制御する方法を提供する。本発明の方法の好ましい態様としては、FcRn結合領域を含むポリペプチドの表面に露出し得る少なくとも一つのアミノ酸残基の電荷を変えることを含む方法である。即ち、アミノ酸残基の電荷を変えることによって、FcRn結合領域を含むポリペプチドの等電点(pI)を変化させることにより、該タンパク質の血中動態を制御することができる。
【0012】
上述のようにscFvやFabのような低分子化抗体は、pIの改変によって血中動態を必ずしも制御することはできない。scFvやFabのような低分子化抗体の主代謝経路は腎排泄であることが知られている。しかしながら、非特許文献19〜22に示されている腎排泄における腎ろ過の効率はタンパク質の電荷に陰性であるほどに抑制されることもあれば、一方でタンパク質の電荷は影響しないという報告もある。実際、非特許文献14〜18に示されているように、低分子化抗体のpIを低下させることによって血中半減期を長くすることができる報告もあれば、短くすることができる報告もある。腎ろ過されたタンパク質の近位尿細管への再吸収はタンパク質の電荷に陰性であるほどに抑制されることもあり、pIにより低分子化抗体の血中半減期を自在に制御することはできないと考えられる。
【0013】
一方、IgG抗体は分子量が十分大きいため主代謝経路が腎排泄ではない。Fcを有するIgG抗体は血管等の内皮細胞で発現しているFcRnのサルベージ経路によりリサイクルされることによって長い半減期を有することが知られており、IgGは主に内皮細胞において代謝されていると考えられている(非特許文献23)。すなわち、内皮細胞に非特異的に取り込まれたIgGがFcRnに結合することによってIgGはリサイクルされ、結合できなかった分子は代謝されると考えられている。FcRnへの結合性を低下させたIgGは血中半減期が短くなり、逆にFcRnへの結合性を高めることで血中半減期を長くすることができる(非特許文献23)。このように、これまでのIgGの血中動態の制御方法はFcを改変することでFcRnへの結合性を変化させることで行われてきたが、本発明の実施例8において、標的抗原の種類に関わらず、同一のFcを有するIgGの血中半減期がpIと高い相関係数で相関することが示され、実際に異なる抗原に対する2種類の抗体において可変領域のpIを改変することで、Fcを改変することなく血中半減期を制御することが可能であることが示された。内皮細胞への非特異的な取り込みの速度は、負電荷を帯びた細胞表面とIgGの物理化学的なクーロン相互作用に依存すると考えられることから、IgGのpIを低下(上昇)させることでクーロン相互作用が低減(増大)し、内皮細胞への非特異的な取り込みが減少(増大)し、結果として内皮細胞における代謝を減少(増大)させることで血中動態を制御することができたと考えられる。内皮細胞と細胞表面負電荷とのクーロン相互作用は物理化学的な相互作用であることから、この相互作用は標的抗原に依存しないと考えられる。そのため、本発明で見出された血中動態の制御方法は、標的抗原の種類によらない任意のIgGなど、FcRnのサルベージ経路によりリサイクルされる主代謝経路が腎排泄ではないFcRn結合領域を含むポリペプチドに広く適用可能である。
【0014】
従って、本発明におけるFcRn結合領域を含むポリペプチドは、IgG抗体に限定されず、Fcレセプター(FcRn)と結合し得る(結合活性もしくは親和性を有する)タンパク質であればよい。好ましくは、本発明におけるFcRn結合領域を含むポリペプチドは、特に制限されないが、抗体のFc領域もしくはFc様領域を含むタンパク質である。本発明におけるFcRn結合領域を含むポリペプチドとしては、例えば、IgG抗体が挙げられる。また、これらの抗体(タンパク質)の改変体であっても、FcRnと結合し得るタンパク質であれば、本発明のFcRn結合領域を含むポリペプチドに含まれる。本発明においてFcRn結合領域を含むポリペプチドの最も好ましい例としては、IgG抗体を挙げることができる。
【0015】
本発明のFcRn結合領域を含むポリペプチドとしてIgG抗体を用いる場合、IgGタイプの抗体分子であればいかなるサブタイプでもよく、二重特異性のIgG抗体であってもよい。この二重特異性抗体は2種類の異なるエピトープに対して特異性を有する抗体であり、異なる抗原を認識する抗体のほか、同一の抗原上の異なるエピトープを認識する抗体も含まれる。また、抗体分子であっても、scFvやFabにように腎排泄が主要な代謝経路であるような低分子化抗体の場合は前述のようにpIでは血中動態を制御することができないが、本発明は腎排泄が主要な代謝経路ではないFc結合タンパク質であればいかなる抗体分子形でも適用可能であり、例えば、scFv-Fc、dAb-Fc、Fc融合タンパク質等が挙げられる。これらの分子の腎排泄は主要な代謝経路ではないため、本発明で見出された方法によりpIを変化させることで血中動態を制御することが可能である。本発明が適用できる抗体分子は、抗体様分子であってもよい。抗体様分子とは、ターゲット分子に結合することで機能を発揮するような分子であり(非特許文献30)、例えば、DARPins、Affibody、Avimer等が挙げられる。
【0016】
本発明において「血中動態が制御された」とは、FcRn結合領域を含むポリペプチドの改変前と改変後の血中動態を比較して、血中動態が目的の方向に変化していることを意味する。すなわち、血中半減期を長くすることが目的の場合は、血中動態の制御は血中半減期を長くすることを意味し、血中半減期を短くすることが目的の場合は、血中動態の制御は血中半減期を短くすることを意味する。
【0017】
本発明においてFcRn結合領域を含むポリペプチドの血中動態が目的の方向に変化している、すなわち血中動態が目的どおり制御できているか否かは、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サル等を用いた動態試験を実施することによって適宜評価することができる。本発明における「血中動態の制御」とは、より具体的には、血中半減期、平均血中滞留時間、または血中クリアランス等のいずれかのパラメーター(ファーマコキネティクス 演習による理解 (南山堂))の制御を挙げることができる。例えば、体内動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight)を用いて、付属の手順書に従いNoncompartmental解析することによって適宜評価することができる。
【0018】
本発明において「表面に露出し得るアミノ酸」とは、通常、FcRn結合領域を含むポリペプチドを構成するポリペプチドの表面にあるアミノ酸を指す。ポリペプチドの表面にあるアミノ酸は、その側鎖が溶媒分子(通常は水分子)に接し得るアミノ酸であり、必ずしも側鎖の全てが溶媒分子に接する必要はなく、側鎖の一部でも溶媒分子に接する場合は、そのアミノ酸は表面にあるアミノ酸である。当業者であれば、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、ポリペプチドや抗体のホモロジーモデルを作製することができ、それにより適切な残基を表面にあるアミノ酸として選択することができる。
【0019】
本発明において「表面に露出し得るアミノ酸」は、特に制限されないが、FcRn結合領域を含むポリペプチド中のFcRn結合領域の外にあることが好ましい。このFcRn結合領域とは、例えば、Fc領域またはFc様領域を挙げることができる。
【0020】
本発明におけるFcRn結合領域を含むポリペプチドがIgGである場合には、本発明において電荷を変えるアミノ酸残基は、IgG抗体の重鎖可変領域または軽鎖可変領域のアミノ酸残基であることが好ましい。該可変領域としては、具体的には、相補性決定領域(CDR)、フレームワーク領域(FR)を挙げることができる。
【0021】
当業者であれば、抗体可変領域における表面アミノ酸はホモロジーモデリング等により作製されたホモロジーモデルにより適宜選択することが可能であるが、例えばH鎖FR領域においてはH1, H3, H5, H8, H10, H12, H13, H15, H16, H19, H23, H25, H26, H39, H42, H43, H44, H46, H68, H71, H72, H73, H75, H76, H81, H82b, H83, H85, H86, H105, H108, H110, H112が表面アミノ酸として例示することができるが、本発明はこれらに限定されることはない。
【0022】
またH鎖CDR領域に関しては、同様にしてホモロジーモデルにより表面アミノ酸を選択することが可能であり、例えばH97はほぼ全ての抗体で表面に露出している。L鎖FR領域においてはL1, L3, L7, L8, L9, L11, L12, L16, L17, L18, L20, L22, L38, L39, L41, L42, L43, L45, L46, L49, L57, L60, L63, L65, L66, L68, L69, L70, L74, L76, L77, L79, L80, L81, L85, L100, L103, L105, L106, L107, L108が表面アミノ酸として例示することができるが、本発明はこれらに限定されることはない。またL鎖CDR領域に関しては、同様にしてホモロジーモデルにより表面アミノ酸を選択することが可能である。
【0023】
本発明の方法におけるアミノ酸残基の「改変」とは、具体的には、元のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換すること、元のアミノ酸残基を欠失させること、新たなアミノ酸残基を付加すること等を指すが、好ましくは、元のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換することを指す。即ち、本発明における「アミノ酸残基の電荷の改変」とは、好ましくはアミノ酸置換が挙げられる。
【0024】
本発明においてFcRn結合領域を含むポリペプチドがIgG抗体である場合には、上記「アミノ酸残基の電荷を変える」ために、例えば、該IgG抗体の重鎖可変領域におけるKabatナンバリングによる10位、12位、23位、39位、43位、および105位のアミノ酸残基から選ばれる、少なくとも1つのアミノ酸残基の電荷を改変する態様を挙げることができる。上記のナンバリングで示されたアミノ酸残基のうち、当該電荷が改変されたアミノ酸残基以外のアミノ酸残基は、目的とする血中動態の制御が得られていれば改変する必要はないが、適宜、改変されたアミノ酸残基と同種の電荷を有する、または電荷を有しないように改変することができる。
【0025】
アミノ酸の中には、電荷を帯びたアミノ酸が知られている。一般的に正の電荷を帯びたアミノ酸(正電荷アミノ酸)としては、リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)が知られている。負の電荷を帯びたアミノ酸(負電荷アミノ酸)としては、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)等が知られている。これら以外のアミノ酸は電荷を有さないアミノ酸として知られている。
【0026】
上記「改変されたアミノ酸残基」としては、好ましくは、以下の(a)または(b)いずれかの群に含まれるアミノ酸残基から適宜選択されるが、特に制限されない。
(a)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)
(b)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)
【0027】
なお、元の(改変前の)アミノ酸残基が既に電荷を有する場合、電荷を有さないアミノ酸残基となるように改変することも本発明の好ましい態様の一つである。すなわち、本発明における改変としては、(1)電荷を有するアミノ酸から電荷を有さないアミノ酸への置換、(2)電荷を有するアミノ酸から元とは反対の電荷を有するアミノ酸への置換、(3)電荷を有さないアミノ酸から電荷を有するアミノ酸への置換、が挙げられる。
【0028】
本発明の方法においては、FcRn結合領域を含むポリペプチドの等電点(pI)が変化するように、アミノ酸残基が改変されることが好ましい。また、改変によって導入されるアミノ酸残基が複数の場合、これらアミノ酸残基の中に電荷を持たないアミノ酸残基が少数程度含まれていてもよい。
【0029】
本発明の方法において改変に供されるアミノ酸残基の数は、特に制限されないが、例えば、抗体の可変領域を改変する場合、抗原との結合活性を低下させないために、また抗原性を上げないために、目的の制御された血中動態を達成するための必要最低限のアミノ酸残基を改変することが好ましい。
【0030】
また好ましくは、抗原性を上げないために、改変後のアミノ酸配列がヒト配列であることが好ましいが本発明はこれに限定されることはない。さらに、改変後のFR(FR1、FR2、FR3、FR4)が各FRとしてヒト配列になるように、等電点が変化するように導入した改変以外の箇所に変異を導入してもよい。このようにして各FRをヒト配列に置き換える方法は非特許文献(Ono K et al., Mol Immunol. 1999 Apr;36(6):387-395.)で報告されている。また、各FRの等電点を変化させるために、等電点が変化する他のヒトFRに改変してもよい(例えばFR3を等電点が低下する他のヒトFRと交換してもよい)。このようなヒト化方法は非特許文献(Dall'Acqua WF., Methods. 2005 May;36(1):43-60.)で報告されている。
【0031】
また、僅かな表面電荷の改変において目的の制御された血中動態に到達しない場合に、表面電荷の改変と血中動態の評価を繰り返し行うことで、血中動態に制御された所望のFcRn結合領域を含むポリペプチドを取得することが可能である。
【0032】
非特許文献24には抗E, P-Selectin抗体のキメラ抗体(IgG4)であるchimeric EP5C7.g4とヒト化抗体(IgG4)であるHuEP5C7.g4のアカゲサルにおける血中動態を比較し両者の血中動態は同等であることが示されている。また非特許文献25には、抗CD154抗体のキメラ型抗体であるch5d8とヒト化抗体であるHu5c8のカニクイサルにおける血中動態を比較し両者の血中動態は同等であることが示されている。非特許文献26には、キメラ抗体のcCC49とヒト化抗体のHuCC49のマウスにおける血中動態が同等であることが示されている。また非特許文献27、および、非特許文献28には、マウスにおける評価において、マウス抗体とヒト化抗体の血中動態・分布が同等であることが示されており、マウスFcおよびヒトFcは共にマウスFcRnに交差することから、同キメラ抗体と同ヒト化抗体の血中動態・分布は同等であると考えられる。これらの例に示されているように、キメラ抗体とヒト化抗体の間で血中動態は同等である。すなわち、非特許文献7等に示される公知の方法によってヒト化した場合、キメラ抗体と比較して血中動態は同等であり、公知の方法では血中動態が制御されたヒト化抗体を作製することはできない。
【0033】
本発明で見出された方法により、キメラ抗体をヒト化する際に、表面アミノ酸に改変を加えることで抗体のpIを変化させることにより、キメラ抗体と比較して血中動態が制御された(すなわち、血中半減期を長くした、あるいは、血中動態を短くした)ヒト化抗体が作成可能である。血中動態を制御するための表面アミノ酸の改変は、ヒト化と同時であってもよく、あるいは、ヒト化抗体をさらに改変することであってもよい。
【0034】
非特許文献29には、同じヒト抗体のFR配列を用いてヒト化を行った3種類のヒト化抗体trastuzumab、bevacizumab、pertuzumabの血中動態はほぼ同等であることが記されている。すなわち、同じFR配列を用いてヒト化を行った場合、血中動態はほぼ同等である。血中濃度を制御するためには、上述のようなヒト化の工程に加えて、本発明で見出された方法により表面アミノ酸に改変を加えることで抗体のpIを変化させることで初めて可能となる。
【0035】
またヒト抗体ライブラリーやヒト抗体産生マウス等から作製されたヒト抗体の表面アミノ酸に改変を加えることで抗体のpIを変化させることにより、最初に作製されたヒト抗体に比べて血中動態が制御された(すなわち、血中半減期を長くした、あるいは、血中動態を短くした)ヒト抗体が作成可能である。
【0036】
本発明における「抗体」には、上述のようにアミノ酸残基の電荷を改変した抗体に対して、さらにアミノ酸の置換、欠失、付加及び/若しくは挿入等により、アミノ酸配列が改変された抗体が含まれる。また、アミノ酸の置換、欠失、付加及び/若しくは挿入、またはキメラ化やヒト化等により、アミノ酸配列が改変された抗体に対して、さらに、アミノ酸残基の電荷が改変された抗体が含まれる。
【0037】
アミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入、並びにヒト化、キメラ化などのアミノ酸配列の改変は、当業者に公知の方法により行うことが可能である。同様に、本発明における抗体を組換え抗体として作製する際に利用する抗体の可変領域及び定常領域も、アミノ酸の置換、欠失、付加及び/若しくは挿入、またはキメラ化やヒト化等によりそのアミノ酸配列を改変してもよい。
【0038】
本発明における抗体はマウス抗体、ヒト抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体、ラクダ抗体など、どのような動物由来の抗体でもよい。さらに、例えば、キメラ抗体、中でもヒト化抗体などのアミノ酸配列を置換した改変抗体でもよい。また、各種分子を結合させた抗体修飾物であってもよい。
【0039】
「キメラ抗体」とは、異なる動物由来の配列を組合わせて作製される抗体である。例えば、マウス抗体の重鎖、軽鎖の可変(V)領域とヒト抗体の重鎖、軽鎖の定常(C)領域からなる抗体を例示することができる。キメラ抗体の作製は公知であり、例えば、抗体V領域をコードするDNAとヒト抗体C領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることによりキメラ抗体を得ることができる。
【0040】
「ヒト化抗体」とは、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される、ヒト以外の哺乳動物由来の抗体、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)をヒト抗体のCDRへ移植したものである。CDRを同定するための方法は公知である(Kabat et al., Sequence of Proteins of Immunological Interest (1987), National Institute of Health, Bethesda, Md.; Chothia et al., Nature (1989) 342: 877)。また、その一般的な遺伝子組換え手法も公知である(欧州特許出願公開番号EP 125023号公報、WO 96/02576 号公報参照)。そこで公知の方法により、例えば、マウス抗体のCDRを決定し、該CDRとヒト抗体のフレームワーク領域(framework region;FR)とが連結された抗体をコードするDNAを取得し、ヒト化抗体を通常の発現ベクターを用いた系により産生することができる。このようなDNAは、CDR及びFR両方の末端領域にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いてPCR法により合成することができる(WO98/13388号公報に記載の方法を参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、CDRが良好な抗原結合部位を形成するように選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するように、抗体の可変領域におけるFRのアミノ酸を改変してもよい(Sato et al., Cancer Res. (1993) 53: 851-6)。改変できるFR中のアミノ酸残基には、抗原に直接、非共有結合により結合する部分(Amit et al., Science (1986) 233: 747-53)、CDR構造に影響または作用する部分(Chothia et al., J. Mol. Biol. (1987) 196: 901-17)及びVH-VL相互作用に関連する部分(EP239400号特許公報)が含まれる。
【0041】
本発明における抗体がキメラ抗体またはヒト化抗体である場合には、これらの抗体のC領域は,好ましくはヒト抗体由来のものが使用される。例えばH鎖では、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4を、L鎖ではCκ、Cλを使用することができる。また、抗体またはその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C領域を必要に応じ修飾してもよい。本発明におけるキメラ抗体は、好ましくはヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来の定常領域とからなる。一方、ヒト化抗体は、好ましくはヒト以外の哺乳動物由来抗体のCDRと、ヒト抗体由来のFRおよびC領域とからなる。ヒト抗体由来の定常領域は、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA、IgD及びIgE等のアイソタイプごとに固有のアミノ酸配列を有する。本発明におけるヒト化抗体に用いられる定常領域は、どのアイソタイプに属する抗体の定常領域であってもよい。好ましくは、ヒトIgGの定常領域が用いられるが、これに限定されるものではない。また、ヒト化抗体に利用されるヒト抗体由来のFRも特に限定されず、どのアイソタイプに属する抗体のものであってもよい。
【0042】
本発明におけるキメラ抗体及びヒト化抗体の可変領域及び定常領域は、元の抗体の結合特異性を示す限り、欠失、置換、挿入及び/または付加等により改変されていてもよい。
【0043】
ヒト由来の配列を利用したキメラ抗体及びヒト化抗体は、ヒト体内における抗原性が低下しているため、治療目的などでヒトに投与する場合に有用と考えられる。
【0044】
本発明の方法における変異導入前の抗体(本明細書においては、単に「本発明の抗体」と記載する場合あり)のH鎖又はL鎖をコードする遺伝子は既知の配列を用いることも可能であり、又、当業者に公知の方法で取得することもできる。例えば、抗体ライブラリーから取得することも可能であるし、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから抗体をコードする遺伝子をクローニングして取得することも可能である。
【0045】
抗体ライブラリーについては既に多くの抗体ライブラリーが公知になっており、又、抗体ライブラリーの作製方法も公知であるので、当業者は適宜抗体ライブラリーを入手することが可能である。例えば、抗体ファージライブラリーについては、Clackson et al., Nature 1991, 352: 624-8、Marks et al., J. Mol. Biol. 1991, 222: 581-97、Waterhouses et al., Nucleic Acids Res. 1993, 21: 2265-6、Griffiths et al., EMBO J. 1994, 13: 3245-60、Vaughan et al., Nature Biotechnology 1996, 14: 309-14、及び特表平20−504970号公報等の文献を参照することができる。その他、真核細胞をライブラリーとする方法(WO95/15393号パンフレット)やリボソーム提示法等の公知の方法を用いることが可能である。さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することができる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列を元に適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に周知であり、WO92/01047、WO92/20791、WO93/06213、WO93/11236、WO93/19172、WO95/01438、WO95/15388を参考にすることができる。
【0046】
ハイブリドーマから抗体をコードする遺伝子を取得する方法は、基本的には公知技術を使用し、所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングし、得られたハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成し、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結することにより得ることができる。
【0047】
より具体的には、特に以下の例示に限定される訳ではないが、上記のH鎖及びL鎖をコードする抗体遺伝子を得るための感作抗原は、免疫原性を有する完全抗原と、免疫原性を示さないハプテン等を含む不完全抗原の両方を含む。例えば、目的タンパク質の全長タンパク質、又は部分ペプチドなどを用いることができる。その他、多糖類、核酸、脂質等から構成される物質が抗原となり得ることが知られており、本発明の抗体の抗原は特に限定されるものではない。抗原の調製は、当業者に公知の方法により行うことができ、例えば、バキュロウィルスを用いた方法(例えば、WO98/46777など)などに準じて行うことができる。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(G. Kohler and C. Milstein, Methods Enzymol. 1981, 73: 3-46)等に準じて行うことができる。抗原の免疫原性が低い場合には、アルブミン等の免疫原性を有する巨大分子と結合させ、免疫を行えばよい。また、必要に応じ抗原を他の分子と結合させることにより可溶性抗原とすることもできる。受容体のような膜貫通分子を抗原として用いる場合、受容体の細胞外領域部分を断片として用いたり、膜貫通分子を細胞表面上に発現する細胞を免疫原として使用することも可能である。
【0048】
抗体産生細胞は、上述の適当な感作抗原を用いて動物を免疫化することにより得ることができる。または、抗体を産生し得るリンパ球をin vitroで免疫化して抗体産生細胞とすることもできる。免疫化する動物としては、各種哺乳動物を使用できるが、ゲッ歯目、ウサギ目、霊長目の動物が一般的に用いられる。マウス、ラット、ハムスター等のゲッ歯目、ウサギ等のウサギ目、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、チンパンジー等のサル等の霊長目の動物を例示することができる。その他、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物も知られており、このような動物を使用することによりヒト抗体を得ることもできる(WO96/34096; Mendez et al., Nat. Genet. 1997, 15: 146-56参照)。このようなトランスジェニック動物の使用に代えて、例えば、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原または所望の抗原を発現する細胞で感作し、感作リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させることにより、抗原への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878号公報参照)。また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで所望のヒト抗体を取得することができる(WO93/12227、WO92/03918、WO94/02602、WO96/34096、WO96/33735参照)。
【0049】
動物の免疫化は、例えば、感作抗原をPhosphate-Buffered Saline(PBS)または生理食塩水等で適宜希釈、懸濁し、必要に応じてアジュバントを混合して乳化した後、動物の腹腔内または皮下に注射することにより行われる。その後、好ましくは、フロイント不完全アジュバントに混合した感作抗原を4〜21日毎に数回投与する。抗体の産生の確認は、動物の血清中の目的とする抗体力価を慣用の方法により測定することにより行われ得る。
【0050】
ハイブリドーマは、所望の抗原で免疫化した動物またはリンパ球より得られた抗体産生細胞を、慣用の融合剤(例えば、ポリエチレングリコール)を使用してミエローマ細胞と融合して作成することができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, Academic Press, 1986, 59-103)。必要に応じハイブリドーマ細胞を培養・増殖し、免疫沈降、放射免疫分析(RIA)、酵素結合免疫吸着分析(ELISA)等の公知の分析法により該ハイブリドーマより産生される抗体の結合特異性を測定する。その後、必要に応じ、目的とする特異性、親和性または活性が測定された抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法等の手法によりサブクローニングすることもできる。
【0051】
続いて、選択された抗体をコードする遺伝子をハイブリドーマまたは抗体産生細胞(感作リンパ球等)から、抗体に特異的に結合し得るプローブ(例えば、抗体定常領域をコードする配列に相補的なオリゴヌクレオチド等)を用いてクローニングすることができる。また、mRNAからRT-PCRによりクローニングすることも可能である。免疫グロブリンは、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMの5つの異なるクラスに分類される。さらに、これらのクラスは幾つかのサブクラス(アイソタイプ)(例えば、IgG-1、IgG-2、IgG-3、及びIgG-4;IgA-1及びIgA-2等)に分けられる。本発明において抗体の製造に使用するH鎖及びL鎖は、これらいずれのクラス及びサブクラスに属する抗体に由来するものであってもよく、特に限定されないが、IgGは特に好ましいものである。
【0052】
ここで、H鎖及びL鎖をコードする遺伝子を遺伝子工学的手法により改変することも可能である。例えば、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ハムスター抗体、ヒツジ抗体、ラクダ抗体等の抗体について、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体等を適宜作製することができる。キメラ抗体は、ヒト以外の哺乳動物、例えば、マウス抗体のH鎖、L鎖の可変領域とヒト抗体のH鎖、L鎖の定常領域からなる抗体であり、マウス抗体の可変領域をコードするDNAをヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得ることができる。ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、たとえばマウス抗体の相補性決定領域(CDR; complementary determining region) を連結するように設計したDNA配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR法により合成する。得られたDNAをヒト抗体定常領域をコードするDNAと連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(EP239400; WO96/02576参照)。CDRを介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(K. Sato et al., Cancer Res. 1993, 53: 851-856)。
【0053】
上述のヒト化以外に、例えば、抗原との結合性等の抗体の生物学的特性を改善するために改変を行うことも考えられる。本発明における改変は、部位特異的突然変異(例えば、Kunkel (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488参照)、PCR変異、カセット変異等の方法により行うことができる。一般に、生物学的特性の改善された抗体変異体は70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%以上、97%、98%、99%等)のアミノ酸配列相同性及び/または類似性を元となった抗体の可変領域のアミノ酸配列に対して有する。本明細書において、配列の相同性及び/または類似性は、配列相同性が最大の値を取るように必要に応じ配列を整列化、及びギャップ導入した後、元となった抗体残基と相同(同じ残基)または類似(一般的なアミノ酸の側鎖の特性に基き同じグループに分類されるアミノ酸残基)するアミノ酸残基の割合として定義される。通常、天然のアミノ酸残基は、その側鎖の性質に基づいて(1)疎水性:アラニン、イソロイシン、バリン、メチオニン及びロイシン;(2)中性親水性:アスパラギン、グルタミン、システイン、スレオニン及びセリン;(3)酸性:アスパラギン酸及びグルタミン酸;(4)塩基性:アルギニン、ヒスチジン及びリジン;(5)鎖の配向に影響する残基:グリシンおよびプロリン;ならびに(6)芳香族性:チロシン、トリプトファン及びフェニルアラニンのグループに分類される。
【0054】
通常、H鎖及びL鎖の可変領域中に存在する全部で6つの相補性決定領域(超可変部;CDR)が相互作用し、抗体の抗原結合部位を形成している。このうち1つの可変領域であっても全結合部位を含むものよりは低い親和性となるものの、抗原を認識し、結合する能力があることが知られている。従って、本発明のH鎖及びL鎖をコードする抗体遺伝子は、該遺伝子によりコードされるポリペプチドが所望の抗原との結合性を維持していればよく、H鎖及びL鎖の各々の抗原結合部位を含む断片部分をコードしていればよい。
【0055】
重鎖可変領域は、上述のように、通常3つのCDR領域と4つのFR領域によって構成されている。本発明の好ましい態様において「改変」に供するアミノ酸残基としては、例えば、CDR領域あるいはFR領域に位置するアミノ酸残基の中から適宜選択することができる。一般的にCDR領域のアミノ酸残基の改変は、抗原に対する結合能を低下させる場合がある。従って、本発明において「改変」に供するアミノ酸残基としては、特に限定されるものではないが、FR領域に位置するアミノ酸残基の中から適宜選択することが好ましい。CDRであっても改変によって結合能が低下しないことが確認された場合は、その箇所を選択することが可能である。
【0056】
また、ヒトもしくはマウス等の生物において、抗体の可変領域のFRとして利用可能な配列を、当業者であれば、公共のデータベース等を利用して適宜取得することができる。
【0057】
さらに本発明は、本発明の方法によって血中動態が制御されたFcRn結合領域を含むポリペプチドに関する。
【0058】
本発明の好ましい態様においては、本発明の方法によって血中動態が制御されたヒト化抗体を提供する。該ヒト抗体は、例えば、ヒト以外の動物由来の相補性決定領域(CDR)、ヒト由来のフレームワーク領域(FR)およびヒト定常領域を含むヒト化抗体であって、CDRまたはFRにおいて抗体表面に露出し得る少なくとも一つのアミノ酸残基が野生型のCDRまたはFRの対応する位置のアミノ酸残基とは異なる電荷を有するアミノ酸残基であり、可変領域が該ヒト以外の動物由来の抗体に由来し且つ同じ定常領域を有するキメラ抗体に比べて血中動態が制御されたヒト化抗体である。
【0059】
上記ヒト定常領域とは、好ましくは、野生型のヒトFc領域を含む領域を指すが、改変されたFcであってもよい。
【0060】
また本発明は、本発明の方法を利用することによる、血中動態が制御されたFcRn結合領域を含むポリペプチドの製造方法に関する。即ち、本発明は血中動態が制御されたFcRn結合領域を含むポリペプチドの製造方法を提供する。さらに、本発明の方法によって製造されるFcRn結合領域を含むポリペプチドもまた本発明に含まれる。
【0061】
本発明の製造方法の好ましい態様としては、血中動態が制御されたFcRn結合領域を含むポリペプチドの製造方法であって、(a)FcRn結合領域を含むポリペプチドの表面に露出し得る少なくとも一つのアミノ酸残基の電荷が変わるように、該アミノ酸残基を含むポリペプチドをコードする核酸を改変し、(b)宿主細胞を該核酸が発現するように培養し、(c)宿主細胞培養物からFcRn結合領域を含むポリペプチドを回収することを含む方法である。
【0062】
本発明の上記方法において「核酸を改変する」とは、本発明における「改変」によって導入されるアミノ酸残基に対応するように核酸を改変することを言う。より具体的には、元(改変前)のアミノ酸残基をコードする核酸について、改変によって導入されるアミノ酸残基をコードする核酸へ改変することを言う。通常、目的のアミノ酸残基をコードするコドンとなるように、元の核酸に対して、少なくとも1塩基を挿入、欠失または置換するような遺伝子操作もしくは変異処理を行うことを意味する。即ち、元のアミノ酸残基をコードするコドンは、改変によって導入されるアミノ酸残基をコードするコドンによって置換される。このような核酸の改変は、当業者においては公知の技術、例えば、部位特異的変異誘発法、PCR変異導入法等を用いて、適宜実施することが可能である。
【0063】
また、本発明における核酸は、通常、適当なベクターへ担持(挿入)され、宿主細胞へ導入される。該ベクターとしては、挿入した核酸を安定に保持するものであれば特に制限されず、例えば宿主に大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターとしてはpBluescriptベクター(Stratagene社製)などが好ましいが、市販の種々のベクターを利用することができる。本発明のポリペプチドを生産する目的においてベクターを用いる場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、生物個体内でポリペプチドを発現するベクターであれば特に制限されないが、例えば、試験管内発現であればpBESTベクター(プロメガ社製)、大腸菌であればpETベクター(Invitrogen社製)、培養細胞であればpME18S-FL3ベクター(GenBank Accession No. AB009864)、生物個体であればpME18Sベクター(Mol Cell Biol. 8:466-472(1988))などが好ましい。ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11)。
【0064】
上記宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の宿主細胞が用いられる。ポリペプチドを発現させるための細胞としては、例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、真菌細胞(例:酵母、アスペルギルス)、昆虫細胞(例:ドロソフィラS2、スポドプテラSF9)、動物細胞(例:CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowes メラノーマ細胞)および植物細胞を例示することができる。宿主細胞へのベクター導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクション法、マイクロインジェクション法などの公知の方法で行うことが可能である。
【0065】
宿主細胞において発現したポリペプチドを小胞体の内腔に、細胞周辺腔に、または細胞外の環境に分泌させるために、適当な分泌シグナルを目的のポリペプチドに組み込むことができる。これらのシグナルは目的のポリペプチドに対して内因性であっても、異種シグナルであってもよい。
【0066】
上記製造方法におけるポリペプチドの回収は、本発明のポリペプチドが培地に分泌される場合は、培地を回収する。本発明のポリペプチドが細胞内に産生される場合は、その細胞をまず溶解し、その後にポリペプチドを回収する。
【0067】
組換え細胞培養物から本発明のポリペプチドを回収し精製するには、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法を用いることができる。
【0068】
また本発明は、本発明の方法によって血中動態が制御されたFcRn結合領域を含むポリペプチド(例えばIgG抗体)、および医薬的に許容される担体を含む組成物(薬剤)に関する。
【0069】
本発明において医薬組成物とは、通常、疾患の治療もしくは予防、あるいは検査・診断のための薬剤を言う。
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は、指示された範囲の適当な容量が得られるように設定する。
【0070】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液が挙げられる。適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80(TM)、HCO-50等)を併用してもよい。
【0071】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル及び/またはベンジルアルコールを併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液及び酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール及びフェノール)、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填する。
【0072】
本発明の医薬組成物は、好ましくは非経口投与により投与される。例えば、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型の組成物とすることができる。例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。
【0073】
投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択することができる。抗体または抗体をコードするポリヌクレオチドを含有する医薬組成物の投与量は、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲に設定することが可能である。または、例えば、患者あたり0.001〜100000mgの投与量とすることもできるが、本発明はこれらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量及び投与方法は、患者の体重、年齢、症状などにより変動するが、当業者であればそれらの条件を考慮し適当な投与量及び投与方法を設定することが可能である。
【0074】
また本発明は、本発明の方法によって血中動態が制御されたFcRn結合領域を含むポリペプチド(例えば、ヒト化抗体等)を構成するポリペプチドをコードする核酸を提供する。さらに該核酸を担持するベクターもまた、本発明に含まれる。
【0075】
さらに本発明は、上記核酸を有する宿主細胞を提供する。該宿主細胞は、特に制限されず、例えば、大腸菌や種々の動物細胞などを挙げることができる。宿主細胞は、例えば、本発明の抗体もしくはポリペプチドの製造や発現のための産生系として使用することができる。ポリペプチド製造のための産生系には、in vitroおよびin vivoの産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系及び原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
【0076】
宿主細胞として使用できる真核細胞として、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞が挙げられる。動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、CHO(J. Exp. Med. (1995) 108: 945)、COS、HEK293、3T3、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa、Vero等、両生類細胞、例えばアフリカツメガエル卵母細胞(Valle et al., Nature (1981) 291: 338-340)、及び昆虫細胞、例えば、Sf9、Sf21、Tn5が例示される。本発明の抗体の発現においては、CHO-DG44、CHO-DX11B、COS7細胞、HEK293細胞、BHK細胞が好適に用いられる。動物細胞において、大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。宿主細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(Boehringer Mannheim製)を用いた方法、エレクトロポレーション法、リポフェクションなどの方法で行うことが可能である。
【0077】
植物細胞としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞およびウキクサ(Lemna minor)が蛋白質生産系として知られており、この細胞をカルス培養する方法により本発明の抗体を産生させることができる。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属の細胞(サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・ポンベ(Saccharomyces pombe)等)、及び糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属の細胞(アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等)を用いた蛋白質発現系が公知であり、本発明の抗体産生の宿主として利用できる。
【0078】
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、上述の大腸菌(E. coli)に加えて、枯草菌を用いた産生系が知られており、本発明の抗体産生に利用できる。
【0079】
本発明の宿主細胞を用いて抗体を産生する場合、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターにより形質転換された宿主細胞の培養を行い、ポリヌクレオチドを発現させればよい。培養は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、動物細胞を宿主とした場合、培養液として、例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができる。その際、FBS、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用しても、無血清培養により細胞を培養してもよい。培養時のpHは、約6〜8とするのが好ましい。培養は、通常、約30〜40℃で約15〜200時間行い、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を加える。
【0080】
一方、in vivoでポリペプチドを産生させる系としては、例えば、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。これらの動物又は植物に目的とするポリヌクレオチドを導入し、動物又は植物の体内でポリペプチドを産生させ、回収する。本発明における「宿主」とは、これらの動物、植物を包含する。
【0081】
動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系がある。哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシ等を用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications (1993))。また、哺乳類動物を用いる場合、トランスジェニック動物を用いることができる。
【0082】
例えば、本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドを、ヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生されるポリペプチドをコードする遺伝子との融合遺伝子として調製する。次いで、この融合遺伝子を含むポリヌクレオチド断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ移植する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から、目的の抗体を得ることができる。トランスジェニックヤギから産生される抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに投与してもよい(Ebert et al., Bio/Technology (1994) 12: 699-702)。
【0083】
また、本発明の抗体を産生させる昆虫としては、例えばカイコを用いることができる。カイコを用いる場合、目的の抗体をコードするポリヌクレオチドを挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させることにより、このカイコの体液から目的の抗体を得ることができる(Susumu et al., Nature (1985) 315: 592-4)。
【0084】
さらに、植物を本発明の抗体産生に使用する場合、例えばタバコを用いることができる。タバコを用いる場合、目的とする抗体をコードするポリヌクレオチドを植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入し、このベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)のようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)に感染させ、本タバコの葉より所望の抗体を得ることができる(Ma et al., Eur. J. Immunol. (1994) 24: 131-8)。また、同様のバクテリアをウキクサ(Lemna minor)に感染させ、クローン化した後にウキクサの細胞より所望の抗体を得ることができる(Cox KM et al. Nat. Biotechnol. 2006 Dec;24(12):1591-1597)。
【0085】
このようにして得られた抗体は、宿主細胞内または細胞外(培地、乳汁など)から単離し、実質的に純粋で均一な抗体として精製することができる。抗体の分離、精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせて抗体を分離、精製することができる。
【0086】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al.(1996) Cold Spring Harbor Laboratory Press)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。アフィニティクロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムが挙げられる。例えば、プロテインAを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose F. F. (Pharmacia製)等が挙げられる。
【0087】
必要に応じ、抗体の精製前又は精製後に適当なタンパク質修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり、部分的にペプチドを除去することもできる。タンパク質修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼなどが用いられる。
上述のように本発明の宿主細胞を培養し、該細胞培養物からポリペプチドを回収する工程を含む、血中動態が制御された本発明のFcRn結合領域を含むポリペプチドの製造方法もまた、本発明の好ましい態様の一つである。
なお本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕二重特異性抗体のヒト化
特願2005-112514において血液凝固時間の短縮効果が最も高かった抗FactorIXa抗体 A69-VH、抗FactorX抗体 B26-VH、ハイブリッドL鎖(BBA)の組み合わせから成る二重特異性抗体について、以下のようにヒト化を実施した。
1−1.ヒト抗体の相同性検索
一般公開されているKabat Database (ftp://ftp.ebi.ac.uk/pub/databases/kabat/) およびIMGT Database (http://imgt.cines.fr/)よりヒト抗体アミノ酸配列データを入手し、構築したデータベースを用いてマウスA69-H鎖可変領域(アミノ酸配列:配列番号:15)、マウスB26-H鎖可変領域(アミノ酸配列:配列番号:16)、マウスBBA-L鎖可変領域(アミノ酸配列:配列番号:17)に分けてホモロジー検索を行った。その結果、以下に示すヒト抗体配列と高い相同性を持つことが確認されたことからヒト化抗体のフレームワーク領域(以下、FR)に使用することにした。
(1)A69-H鎖可変領域:KABATID-000064 (Kabat Database)
(Kippsら、J Clin Invest. 1991;87:2087-2096)
(2)B26-H鎖可変領域:EMBL Accession No. AB063872(IMGT Database)
(Unpublished data)
(3)BBA-L鎖可変領域:KABATID-024300 (Kabat Database)
(Welschofら、J Immunol Method. 1995;179:203-214)
(1)-(3)のヒト抗体のFRに各マウス抗体の相補性抗原決定領域(以下、CDR)を移植したヒト化抗体を作製した。
また、NCBIより一般公開されている相同性検索Web site(http://www.ncbi. nlm.nih.gov/BLAST/)を使用して、(4)-(6)のヒト抗体に相同性の高いヒト抗体の分泌シグナル配列を検索した。検索により得られた以下に示す分泌シグナル配列を使用した。
(4)A69-H鎖可変領域:GenBank Accession No. AF062257
(5)B26-H鎖可変領域:GenBank Accession No. AAC18248
(6)BBA-L鎖可変領域:GenBank Accession No. AAA59100
【0089】
1−2.ヒト化抗体遺伝子発現ベクターの構築
分泌シグナル配列から抗体可変領域にいたるアミノ酸配列をコードする塩基配列において、50 base程度の合成オリゴDNAを3’末端が約20 base程度アニ−ルするように交互に12本作製した。合成オリゴDNAは5'末端側にヒト配列、3'末端側にマウス配列をコードするか、または全塩基がヒト配列をコードするように設計した。さらに、抗体可変領域遺伝子の5’末端にアニ−ルし、XhoI切断配列を有するプライマーと抗体可変領域遺伝子の3’末端にアニ−ルし、SfiI切断配列を有し且つイントロン配列の5’末端配列をコードするプライマーを作製した。
2.5μMに調製した合成オリゴDNAを各1μLで混合し、1x TaKaRa Ex Taq Buffer, 0.4 mM dNTPs, 0.5 units TaKaRa Ex Taq(全て宝酒造)を加え、反応液48μLになるように調製した。94℃ 5分保温した後に、94℃ 2分、55℃ 2分、72℃ 2分からなる反応を2サイクル行い、各合成オリゴDNAのアッセンブルおよび伸長反応を実施した。次に、抗体遺伝子の5’末端および3’末端にアニ−ルするプライマー(各10μM)を1μL添加し、94℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 1分からなる反応を35サイクル行い、72℃ 5分反応させ、抗体可変領域遺伝子を増幅した。PCR後、反応液全量を1 %アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400 bp)の増幅断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μlで溶出した。該断片をpGEM-T Easy Vector Systems (Promega)を用いて、添付説明書記載の方法でクローニングを行った。各DNA断片の塩基配列は、BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用い、DNAシークエンサーABI PRISM 3730xL DNA SequencerまたはABI PRISM 3700 DNA Sequencer(Applied Biosystems)にて、添付説明書記載の方法に従い決定した。
正しいヒト化抗体可変領域遺伝子配列であることが確認されたH鎖可変領域断片挿入プラスミドをXhoIおよびSfiIで、L鎖可変領域断片挿入プラスミドをEcoRIで消化した後に、反応液を1 %アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400 bp)のDNA断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μlで溶出した。その後、以下のようにして動物細胞用発現ベクターを作製した。H鎖がヘテロな組み合わせであるIgG4を優先的に発現させるために、IgG1のknobs-into-hole技術(Merchant AM ら、Nature Biotechnology、1998年、Vol.16、p.677-681)を参考にIgG4のCH3部分へのアミノ酸置換体を用いた。さらにH鎖のダイマー形成促進のためにヒンジにもアミノ酸置換(-ppcpScp- →-ppcpPcp-)を導入した。ニワトリβアクチンプロモーターを有するpCAGGS(Niwa ら、Gene、1991年、Vol. 108、p.193-199)にY349C、T366Wに置換した定常領域遺伝子を組み込んだ発現ベクターにヒト化A69 H鎖可変領域抗体遺伝子断片を挿入し、ヒト化A69H鎖発現ベクターを作製した。また、pCAGGSにE356C、T366S、L368A、Y407Vに置換した定常領域遺伝子を組み込んだ発現ベクターにヒト化B26 H鎖可変領域抗体遺伝子断片を挿入し、ヒト化B26H鎖発現ベクターを作製した。また、pCAGGSに野生型の抗体L鎖定常領域が挿入されたプラスミド(pCAG-gκDNA)をEcoRIで消化し、ヒト化BBA L鎖可変領域抗体遺伝子断片を挿入した発現ベクターを作製した。連結反応はRapid DNA Ligation Kit (Roche Diagnostics)を用い、大腸菌DH5α株 (東洋紡績)を形質転換した。
【0090】
1−3.ヒト化二重特異性抗体の発現
ヒト化二重特異性抗体の発現は、以下の方法を用いて行った。ヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)を10 % Fetal Bovine Serum (Invitrogen)を含むDMEM培地(Invitrogen)へ懸濁し、5〜6×105個 /mLの細胞密度で接着細胞用ディッシュ(直径10 cm, CORNING)の各ディッシュへ10 mLずつ蒔きこみCO2インキュベーター(37℃、5 % CO2)内で一昼夜培養した後に、培地を吸引除去し、1 %のFetal Bovine Serum(Invitrogen)を含むCHO-S-SFM-II(Invitrogen)培地6.9 mLを添加した。1−2で調製したプラスミドDNA混合液(合計13.8μg)を1μg /mL Polyethylenimine (Polysciences Inc.) 20.7μLとCHO-S-SFMII培地 690μLと混合して室温10分間静置したものを各ディッシュの細胞へ投入し、4〜5時間、CO2インキュベーター(37℃にて5 % CO2)内でインキュベートした。その後、1 %のFetal Bovine Serum(Invitrogen)を含むCHO-S-SFM-II(Invitrogen)培地6.9 mLを添加して、3日間 CO2インキュベーター内で培養した。培養上清を回収した後、遠心分離(約2000 g、5分間、室温)して細胞を除去し、さらに0.22μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)を通して滅菌した。該サンプルは使用するまで4℃で保存した。
【0091】
1−4.ヒト化二重特異性抗体の精製
実施例1−2に記載の方法で得られた培養上清に100μLのrProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を添加し、4℃で4時間以上転倒混和した。その溶液を0.22μmのフィルターカップUltrafree(R)-MC(Millipore)に移し、0.01 % Tween(R) 20を含むTBS 500μLにて3回洗浄後、rProtein A SepharoseTM樹脂に100μLの 0.01 % Tween(R) 20を含む50 mM 酢酸ナトリウム水溶液, pH 3.3に懸濁して2分間静置したのち、抗体を溶出させた。直ちに、6.7μLの1.5 M Tris-HCl , pH 7.8を加えて中和した。
【0092】
1−5.ヒト化二重特異性抗体の濃度定量
以下に示すとおり、2種類の方法で測定した。
Goat anti-human IgG(Biosource International)をcoating bufferにて1μg/mLに調製し、Nunc-Immuno plate(Nunc)に固相化した。Diluent buffer(D.B.)にてブロッキング処理した後、D.B.を用いて適当に希釈した培養上清サンプルを添加した。また、抗体濃度算出のためのスタンダードとして、2000 ng/mLから3倍系列でD.B.にて11段階希釈したヒトIgG4(ヒト型化抗TF抗体、WO 99/51743参照)を同様に添加した。3回洗浄したのち、Goat anti-human IgG, alkaline phosphatase(Biosource International)を反応させた。5回洗浄したのち、Sigma 104(R) phosphatase substrate(Sigma-Aldrich)を基質として発色させ、吸光度リーダーModel 3550(Bio-Rad Laboratories)により、参照波長655 nmとして405 nmの吸光度を測定した。Microplate Manager III(Bio-Rad Laboretories)ソフトウェアを用いて、スタンダードの検量線から培養上清中のヒトIgG濃度を算出した。
また、Biacore1000またはBiacoreQ(BIACORE)を使用し、ProteinAを固定化したSensor Chip CM5(BIACORE)を用いて定量した。具体的にはメーカーのプロトコールに従い、活性化したセンサーチップに10 mM 酢酸ナトリウム水溶液(pH 4.0, BIACORE)で50μg/mLに希釈したProteinA(SIGMA)溶液を5μL/分で30分間反応させ、その後ブロッキング操作を実施してProteinA固定化センサーチップを作製した。このセンサーチップを用いて、Biacore 1000(BIACORE)を使用して培養上清および精製品の濃度を測定した。センサーチップの固定および濃度測定にはHBS-EP Buffer(BIACORE)を使用した。また、濃度測定時の標準品として4000 ng/mLから2倍系列でHBS-EP Bufferにて6段階希釈したヒト化IgG4抗体(ヒト化抗組織因子抗体、WO 99/51743参照)を使用した。
【0093】
1−6.ヒト化二重特異性抗体の血液凝固活性評価
血友病A血液の凝固能を二重特異性抗体が是正するか明らかにするために、Factor VIII欠乏血漿を用いた活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)に対する同抗体の影響を検討した。様々な濃度の抗体溶液 50μL、Factor VIII欠乏血漿(Biomerieux)50μL及びAPTT試薬(Dade Behring)50μLの混合液を37℃で3分間加温した。凝固反応は20 mMのCaCl2(Dade Behring)50μLを同混合液に加えることにより開始させた。CR-A(Amelung)が接続されたKC10A(Amelung)により凝固するまでの時間を測定した。
Factor VIII欠乏血漿の凝固時間を0%、正常血漿の凝固時間を100 %としたときに作製される検量線を用いて、二重特異性抗体を添加した際の凝固時間から二重特異性抗体のFactor VIII様活性(%)を算出した。
【0094】
1−7.血液凝固活性を保持したヒト化二重特異性抗体の取得
上述した血液凝固活性評価において、血液凝固能が低下したヒト化二重特異性抗体について、活性上昇を目指してヒト抗体のFRのアミノ酸を改変した。具体的には、QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene)を用いて、添付説明書記載の方法でヒト化抗体可変領域に変異を導入した。目的のヒト化抗体可変領域遺伝子配列であることが確認されたH鎖可変領域断片挿入プラスミドをXhoIおよびSfiIで、L鎖可変領域断片挿入プラスミドをEcoRIで消化した後に、反応液を1 %アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400 bp)のDNA断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて、添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μlで溶出した。その後、実施例1−2に示す方法で、動物細胞用発現プラスミドを作製した。実施例1−3、1−4、1−5に示す方法でヒト化二重特異性抗体を調製し、実施例1−6に示す方法で血液凝固活性を評価した。
【0095】
FR配列のアミノ酸改変および血液凝固能の評価を繰り返すことでキメラ二重特異性抗体(A69/B26/BBA)と同等の活性を有するヒト化二重特異性抗体(ヒト化A69(hA69a)/ ヒト化B26 (hB26-F123e4)/ヒト化BBA(hAL-F123j4))を取得した(図1)。各抗体可変領域配列を以下の配列番号に示した。
(1) ヒト化A69抗体VH(hA69a) 配列番号:1(塩基配列)、配列番号:2(アミノ酸配列)
(2) ヒト化B26抗体VH(hB26-F123e4) 配列番号:3(塩基配列)、配列番号:4(アミノ酸配列)
(3) ヒト化BBA抗体VL(hAL-F123j4) 配列番号:5(塩基配列)、配列番号:6(アミノ酸配列)
【0096】
〔実施例2〕二重特異性抗体の分離に向けた可変領域のアミノ酸改変箇所の選定
ヒト化A69抗体およびヒト化B26抗体の可変領域表面に露出するアミノ酸残基を確認するために、MOEソフトウェア(Chemical Computing Group Inc.)を用いて、ホモロジーモデリングによりヒト化A69抗体およびヒト化B26抗体の抗体Fv領域モデルを作製した。モデルを図2に示した。本モデルの詳細な解析により、CDR以外のFR配列において表面に露出するアミノ酸の中で、H10、H12、H23、H39、H43、H105(Kabatナンバリング、Kabat EA et al. 1991. Sequences of Proteins of Immunological Interest. NIH)が、活性を低下させること無く、等電点を変化させることができる候補になると考えられた。CDRにおいては、表面に露出するアミノ酸としてH97を選択した。
【0097】
〔実施例3〕ヒト化A69抗体とその改変体およびヒト化B26抗体の可変領域アミノ酸配列の改変
ヒト化A69抗体とヒト化B26抗体の等電点を変化させるために、ヒト化A69 H鎖可変領域およびヒト化B26 H鎖可変領域のアミノ酸改変を行った。具体的には、QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit (Stratagene)を用いて、添付説明書記載の方法で作製したヒト化A69抗体H鎖可変領域(hA69a、塩基配列番号:1)およびヒト化B26抗体H鎖可変領域(hB26-F123e4、塩基配列番号:3)に変異を導入した。目的のヒト化抗体可変領域遺伝子配列であることが確認されたH鎖可変領域断片挿入プラスミドをXhoIおよびSfiIで消化した後に、反応液を1 %アガローズゲル電気泳動に供した。目的のサイズ(約400 bp)のDNA断片をQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて添付説明書記載の方法で精製し、滅菌水30μlで溶出した。実施例1−2に示す方法で、野生型定常領域をもつ発現プラスミドにDNA断片を挿入し、H鎖発現ベクターを作製した。各抗体の改変したアミノ酸残基および配列番号を表1に示した。 (hA69-N97R、hA69-p18)、ヒト化B26抗体(hB26-F123e4)とその改変体(hB26-p15)を調製した。ヒト化A69抗体(hA69a)とその改変体(hA69-N97R、hA69-p18)は、H鎖発現ベクター(可変領域はhA69-N97R、hA69-p18)とL鎖発現ベクター(可変領域はhAL-F123j4、配列番号:6)を組み合わせて、実施例1−3に従い発現した。また、ヒト化B26抗体(hB26-F123e4)とその改変体(hB26-p15)は、H鎖発現ベクター(可変領域はhB26-F123e4、hB26-p15)L鎖発現ベクター(可変領域はB26-VL、アミノ酸配列はWO2005/035756(配列番号:18)を組み合わせて、実施例1−3に従い発現した。培養上清中の抗体を実施例1−4に示す方法で精製した。
【0098】
【表1】
【0099】
〔実施例4〕ヒト化A69抗体およびヒト化B26抗体からなる二重特異性抗体発現細胞株の樹立
ヒト化二重特異性抗体を調製するために、以下のようにして抗体発現細胞株を樹立した。
ヒトIgG4の野生型H鎖定常領域遺伝子を鋳型にしてH鎖定常領域のN末端側の2アミノ酸(Ala-Ser)をコードする塩基配列がNheI認識配列(GCTAGC)になるように設計した5’末端側プライマーと3’末端側にアニーリングし、かつNotI認識部位を持つように設計したプライマーを用いてH鎖定常領域をPCR増幅し、pBluescriptKS+ベクター(東洋紡)をNheI, NotI(ともに宝酒造)で消化したベクターと連結したpBCH4(IgG4定常領域遺伝子を含む)を作製した。ヒト化A69-H鎖抗体(hA69-PFL:配列番号:11)およびヒト化B26-H鎖抗体(hB26-PF:配列番号:12)のH鎖可変領域の5’末端塩基配列に相補的でコザック配列(CCACC)およびEcoRI認識配列を有するプライマーとNheI認識配列を有する3’末端塩基配列にプライマーを用いてPCRを行い、得られたPCR産物をEcoRI, NheI(ともに宝酒造)で消化、同様にEcoRI, NheIで消化したpBCH4に挿入して可変領域と定常領域を連結した。作製したヒト化A69-H鎖抗体ベクターをEcoRI, NotI(ともに宝酒造)で消化し、同様にEcoRI, NotIで消化した動物細胞用発現ベクターpCXND3にクローニングした。本ベクターpCXND3の構築の流れについて、以下に述べる。
【0100】
DHFR-ΔE-rVH-PM1-f(WO92/ 19759参照)の抗体H鎖遺伝子とベクターを分割するために、制限酵素EcoRI, SmaI部位で消化し、ベクター側のみ回収した後に、EcoRI-NotI-BamHI adaptor(宝酒造)をクローニングした。このベクターをpCHOIと命名した。pCHOIのDHFR遺伝子発現部位をpCXN(Niwaら、Gene 1991;108:193-200)の制限酵素HindIII部位にクローニングしたベクターをpCXND3と命名した。また、作製したヒト化B26-H鎖抗体ベクターをEcoRI, NotI(ともに宝酒造)で消化し、同様にEcoRI, NotIで消化した動物細胞用発現ベクターpCXZD1にクローニングした。pCXZD1ベクターはpCXND3ベクターのネオマイシン耐性遺伝子をゼオシン耐性遺伝子に置き換えた発現ベクターである。また、実施例1−2に従って、ヒト化BBA-L鎖抗体(hAL-s8、配列番号:8)のL鎖可変領域をL鎖定常領域が挿入されたプラスミド(pCAG-gκDNA)にクローニングして、L鎖発現ベクターを作製した。作製した3種類の発現ベクターを制限酵素で直鎖上にしたのちに、CHO-DG44細胞に遺伝子導入して抗体発現細胞株を樹立した。
【0101】
安定発現細胞株の作製は次に示すようにして行った。GenePulserXcell(Bio-Rad)を用いたエレクトロポレーション法により遺伝子導入した。各抗体発現ベクターとPBSに懸濁したCHO細胞(1×10細胞 /mL)の0.75mLを混合したものを氷上で10分間冷却し、キュベットに移した後に1.5 kV、25μFDの容量にてパルスを与えた。室温にて10分間の回復期間の後、エレクトロポレーション処理された細胞を、HT supplement(Invitrogen)を1倍濃度で含むCHO-S-SFMII培地(Invitrogen)40 mLに懸濁した。同様の培地で10倍希釈液を作製し、96ウェル培養用プレートに100μL/wellで分注した。CO2インキュベーター(5 % CO2)で24時間培養後、Geneticin(Invitrogen)を0.5 mg/mL、Zeocin(Invitrogen)を0.6 mg/mLになるように、添加して2週間培養した。薬剤耐性を示す形質転換細胞のコロニーを順次拡大培養し、樹立した高産生細胞株を用いて大量培養を行い、培養上清を得た。
【0102】
〔実施例5〕ヒト化抗体ホモダイマーとヒト化二重特異性抗体の分離精製
実施例4で得られた培養上清から以下の方法で二重特異性抗体を精製した。培養上清を平衡化バッファー (20 mmol/L Sodium Phosphate buffer, 150 mol/L NaCl, pH 7.0)で平衡化したrProtein A Sepharose Fast Flowカラム (Amersham Biosciences、50 mmI.D.×9.9 cmH. = 194.3 mL-resin)に添加し、洗浄用バッファー1(20 mmol/L Sodium Phosphate buffer, 150 mol/L NaCl, pH7.0)、洗浄用バッファー2(50 mmol/L Sodium Acetate buffer, pH6.0)で洗浄した後に50 mmol/L Acetic acidを用いて溶出した。溶出後に直ちに1.5 mol/L Tris-HCl, pH 7.8を加えてpH 6.3に調整した。
【0103】
得られた精製溶液をSolvent A (10 mmol/L sodium Phosphate buffer, pH6.3)で平衡化したSP TOYOPEARL 650Mカラム (東ソー、26 mmI.D.×22.3 cmH. = 118.3 mL-resin)に添加した。以下に示すような溶液およびGradientで抗体の表面電荷の差を用いた分離を行った。
Solvent A : 20 mmol/L Sodium Acetate buffer, pH6.0
Solvent B : 20 mmol/L Sodium Acetate buffer, 1 mol/L NaCl, pH6.0
Flow rate : 10 mL/min (113 cm/h)溶出時のみ5.3 mL/min (60 cm/h)
Gradient : 0→ 15 % B Step wise 3 Column Volume (CV)通液
15→ 35 % B gradient 6 CV
35→ 50 % B gradient 10 CV
50→100 % B gradient 3 CV
100 % B Step wise 4 CV通液
溶出の結果、検出された3本のピークを分取することで、2種類のホモダイマー(hA69-PF、hB26-PF)と1種類のヘテロダイマーである二重特異性抗体BiAbを回収した。
【0104】
〔実施例6〕調製抗体の等電点電気泳動による分析
ATFはヒト組織因子に対するモノクローナル抗体として取得され、ヒトIgG4の定常領域を持つヒト化抗体である。ATFの由来については WO99/051743に詳細に記載されており、H鎖可変領域とL鎖可変領域のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号:13、配列番号:14に示した。ATFおよび実施例5において調製したhA69-PF、BiAb、hB26-PF、実施例3において調製したhA69-N97R、hA69-p18、hB26-e、hB26-p15について、可変領域のアミノ酸配列の違いによる表面電荷の変化、および、アミノ酸改変による表面電荷の変化について評価するために等電点電気泳動による分析を実施した。
【0105】
ATF、hA69-PF、BiAb、hB26-PF、および、ヒト化A69抗体であるhA69-N97Rとその改変体であるhA69-p18、および、ヒト化B26抗体であるhB26-F123e4とその改変体であるhB26-p15の等電点電気泳動は以下のとおり行った。Phastsystem Cassette (AmerchamBioscience社製) を用いて以下の膨潤液で30 minほどPhast-Gel Dry IEF (AmerchamBioscience社製)ゲルを膨潤させた。
ミリQ水 1.5mL
Pharmalyte 5-8 for IEF (AmerchamBioscience社製) 50μL
Pharmalyte 8-10.5 for IEF (AmerchamBioscience社製) 50μL
膨潤したゲルを用いてPhastSystem(AmerchamBioscience社製)により以下のプログラムで電気泳動を行った。サンプルはStep 2でゲルに添加した。pIマーカーとして、Calibration Kit for pI(AmerchamBioscience社製)を使用した。
Step 1: 2000 V 2.5 mA 3.5 W 15℃ 75 Vh
Step 2: 200 V 2.5 mA 3.5 W 15℃ 15 Vh
Step 3: 2000 V 2.5 mA 3.5 W 15℃ 410 Vh
泳動後のゲルは20 % TCAで固定した後、Silver staining Kit, protein(AmerchamBioscience社製)を用い、キットに添付されているプロトコールに従い銀染色を行った。染色後、pIマーカーの既知等電点からサンプルの等電点を算出した。等電点電気泳動による分析結果を図3に示した。pIマーカーから作製したpIと移動度の検量線およびそれより算出された等電点を図4に示した。なお各サンプルは抗体由来の電荷的ヘテロジェニティーが存在するため、メインのバンドの移動度をもとに等電点を算出した。
【0106】
これより可変領域のアミノ酸配列の違いによる表面電荷の変化、および、アミノ酸改変による表面電荷の変化によりpIの変化が観察された。hB26-PFが約9.2、BiAbが約8.7、hA69-PFが約8.0、ATFが約7.2、hA69-N97Rが約8.9、hA69-p18が約8.5、hB26-F123e4が約8.7、hB26-p15が約9.0であった。hA69-N97RとhA69-p18、hA69-PFは同じヒト化抗体可変領域を改変しており、hA69-N97Rと比較してhA69-PFにおいては約0.9のpIの変化を付与することができ、hB26-F123e4と比較してhB26-p15は約0.3のpIの変化を付与することができた。本検討において、可変領域のアミノ酸配列の違いにより等電点が変化し、さらに選択した可変領域のH10、H12、H23、H39、H43、H97、H105の表面アミノ酸の電荷的に改変することによって等電点を変化させることが可能であることが示された。
【0107】
〔実施例7〕ヒト化A69抗体とその改変体およびヒト化B26抗体とその改変体の結合活性評価
ヒト化A69抗体とその改変抗体の機能を評価するために、以下の方法で抗原であるFactor IXaに対する結合活性を評価した。ヒト化A69抗体(hA69a)とその改変抗体(hA69-N97R)の評価は以下のように行った。Coating buffer(100 mM sodium bicarbonate, pH 9.6, 0.02 % sodium azide)で1μg/mLに希釈したFactor IXaβ(Enzyme Research Labratories)を、Nunc-Immuno plate(Nunc-ImmunoTM 96 MicroWellTM plates MaxiSorpTM(Nalge Nunc International))に100μL/wellで分注後、4℃で一晩インキュベーションした。Tween(R) 20を含むPBS(-)で3回洗浄後、diluent buffer (50 mM Tris-HCl, pH 8.1, 1 % bovine serum albumin, 1 mM MgCl2, 0.15 M NaCl, 0.05 % Tween(R) 20, 0.02 % sodium azide)でplateを室温で2時間blockingした。Bufferを除去後、diluent bufferで希釈した精製抗体を100μL/well添加し、室温で1時間インキュベーションした。Plateを3回洗浄後、diluent bufferで1/4000希釈したアルカリホスファターゼ標識ヤギ抗マウスIgG(BIOSOURCE)を100μL/well添加し、室温で1時間インキュベーションした。Plateを5回洗浄後、発色基質(Sigma)を100μL/well添加し、室温で30分インキュベーションした。405 nm(対照655 nm)における吸光度をMicroplate Reader Model 3550(Bio-Rad Laboratories)で測定した。
【0108】
実施例8に使用した改変抗体(hA69-N97R, hA69-p18, hA69-PF)の評価は以下のように行った。Coating buffer(0.05 M carbonate-bicarbonate buffer, pH 9.6)で1μg/mLに希釈したFactor IXa(Enzyme Research Labratories)を、Nunc-Immuno plate(Nunc-ImmunoTM 96 MicroWellTM plates MaxiSorpTM(Nalge Nunc International))に100μL/wellで分注後、4℃で一晩以上インキュベーションした。0.05 % Tween(R) 20を含むPBSで3回洗浄後、diluent buffer (tris buffered saline with tween20 pH 8.0 (SIGMA), 1 % bovine serum albumin, 0.02 % sodium azide)をplateに200μL/well添加し、室温で2時間blockingした。Bufferを除去後、diluent bufferで希釈した精製抗体を100μL/well添加し、4℃で一晩インキュベーションした。Plateを3回洗浄後、diluent bufferで1/500希釈したアルカリホスファターゼ標識マウス抗ヒトIgG4(Southern Biotechnology)を100μL/well添加し、室温で2時間インキュベーションした。Plateを5回洗浄後、BluePhos Microwell Phosphatase Substrates System(Kirkegaard & Perry Laboratories社製)を基質として100μL/well添加し、室温で約30分インキュベーションした。650 nmにおける吸光度をMicroplate Reader Vmax(Molecular Devices)で測定した。その結果、図5に示すとおり、表面電荷を変化させるために可変領域を改変した抗体は、改変前の抗体と同等の結合活性を示した。
【0109】
また、ヒト化B26抗体(hB26-F123e4)とその改変抗体(hB26-p15)の機能を評価するために、以下の方法で抗原であるFactor Xに対する結合活性を評価した。Coating buffer(100 mM sodium bicarbonate, pH 9.6, 0.02 % sodium azide)で1μg/mLに希釈したFactor X(Enzyme Research Labratories)を、Nunc-Immuno plate(Nunc-ImmunoTM 96 MicroWellTM plates MaxiSorpTM(Nalge Nunc International))に100μL/wellで分注後、4℃で一晩インキュベーションした。Tween(R) 20を含むPBS(-)で3回洗浄後、diluent buffer (50 mM Tris-HCl, pH 8.1, 1 % bovine serum albumin, 1 mM MgCl2, 0.15 M NaCl, 0.05 % Tween(R) 20, 0.02 % sodium azide)でplateを室温で2時間blockingした。Bufferを除去後、diluent bufferで希釈した精製抗体を100μL/well添加し、室温で1時間インキュベーションした。Plateを3回洗浄後、diluent bufferで1/4000希釈したアルカリホスファターゼ標識ヤギ抗マウスIgG(BIOSOURCE)を100μL/well添加し、室温で1時間インキュベーションした。Plateを5回洗浄後、発色基質(Sigma)を100μL/well添加し、室温で30分インキュベーションした。405 nm(対照655 nm)における吸光度をMicroplate Reader Model 3550(Bio-Rad Laboratories)で測定した。その結果、図6に示すとおり、表面電荷を変化させるために可変領域を改変した抗体は改変前の抗体と同等の結合活性を示した。
以上のことから、本実施例における可変領域の改変は抗体の抗原結合に影響しないことが示された。
【0110】
〔実施例8〕調製抗体の体内動態評価
8−1.マウスを用いた体内動態試験
ATFはヒト組織因子に対するモノクローナル抗体として取得され、ヒトIgG4の定常領域を持つヒト化抗体である。ATFの由来については WO99/051743に詳細に記載されており、H鎖可変領域とL鎖可変領域のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号:13、配列番号:14に示した。ATFおよび実施例5において調製したhA69-PF、BiAb、hB26-PF、実施例3において調製したhA69-N97R、hA69-p18、hB26-e、hB26-p15について、マウス(C57BL/6J、日本チャールズリバー)における体内動態を評価した。ATF、hA69-PF、BiAb、hB26-PFをマウス(C57BL/6J、日本チャールズリバー)に5 mg/kgで静脈内単回投与し投与前および投与後15分間、2時間、8時間、1日間、2日間、4日間、7日間、11日間、14日間、21日間、28日間で採血を行った。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。同様に、hA69-N97R、hA69-p18、hB26-F123e4、hB26-p15をマウス(C57BL/6J、日本チャールズリバー)に1 mg/kgで静脈内単回投与し投与前および投与後15分間、2時間、8時間、1日間、2日間、5日間、7日間、9日間、14日間、21日間、28日間で採血を行った。採取した血液は直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離し、血漿を得た。分離した血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存した。
【0111】
8−2.ELISA法による血漿中濃度測定
マウス血漿中濃度測定はELISA法にて測定した。血漿中濃度として6.4、3.2、1.6、0.8、0.4、0.2、0.1μg/mLの検量線試料を調整した。検量線試料およびマウス血漿測定試料をAnti-human IgG(γ-chain specific) F(ab')2(Sigma社製)で固相化したイムノプレート(Nunc-Immuno Plate,MaxiSorp(Nalge nunc International社製))に分注し、室温で1時間静置後、Goat Anti-Human IgG-BIOT(Southern Biotechnology Associates社製)およびStreptavidin-alkaline phosphatase conjugate (Roche Diagnostics社製)を順次反応させ、BluePhos Microwell Phosphatase Substrates System(Kirkegaard & Perry Laboratories社製)を基質として用い発色反応を行い、マイクロプレートリーダーにて650 nmの吸光度を測定した。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices社製)を用いて算出した。ATF、hA69-PF、BiAb、hB26-PFの血漿中濃度推移を図7に示した。
【0112】
8−3.薬物動態データの算出方法
得られた血漿中濃度推移のデータを薬物動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight社製)で非モデル依存的解析を行い薬物動態学的パラメーター(クリアランス(CL)、半減期(T1/2))を算出した。T1/2は最終の3点もしくはWinNonlin が自動設定した最終相の血漿中濃度から算出した。得られた薬物動態的パラメーターを表2に示した。
【0113】
【表2】
【0114】
さらにpIに対して、各抗体のクリアランス(CL)、半減期(T1/2)をプロットしたものを図8に示した。使用した各抗体は同一の定常領域配列を有するにも関わらず、pIとクリアランス(CL)および半減期(T1/2)は高い相関関係を示し、pIが低いほどクリアランスが低下し、長い血中半減期を有することが見出された。このように同一の定常領域配列であってもpI値によって血中半減期を制御することが可能であり、すなわち、pIを低下させることによって血中半減期を延長させることが可能であり、pIを上昇させることによって半減期を短くすることが可能であることが示唆された。実際に、本実施例ではhA69-N97Rの可変領域の表面アミノ酸を改変し(改変した箇所を表3に示した)、pIを低下させることで血中半減期を長くすることが可能であり、またhB26-F123e4の可変領域の表面アミノ酸を改変し(改変した箇所を表4に示した)、pIを上昇させることで血中半減期を短くすることが可能であることが示された。これらのことから可変領域の表面アミノ酸(具体例として、H10、H12、H23、H39、H43、H97、H105)を電荷的に改変することで、IgGの血中動態を制御できることが示された。
【0115】
【表3】
【0116】
【表4】
【0117】
上記表3および表4中、Pyr(Q)はピログルタミル化していると考えられるN末のグルタミン残基でありN末のアミノ基が保護されているため、Pyr(Q)とEでは電荷的に大きな差異はない。また、表3および表4中でアミノ酸置換によりpIが変化する箇所を*で示した。
本発明により、可変領域の表面アミノ酸を置換しIgGのpIを低下させることでIgGの血中半減期を延長できることが可能であり、また、逆に可変領域の表面アミノ酸を置換しIgGのpIを上昇させることでIgGの血中半減期を短くすることが可能であることが見出された。
マウスを用いた血中動態の検討においては、非特許文献(Nat Biotechnol. 1997;15:637-640)に定常領域のFcに存在するアミノ酸を改変し、FcRnへの親和性を高めることで血中半減期(T1/2)を約1.5倍延長することが可能であることが示されており、本発明においてもhA69-N97RとhA69-PFを比較した場合、同一の定常領域配列において可変領域の表面アミノ酸を改変しpIを低下させることによって血中半減期(T1/2)を約1.5倍延長することができた。さらにhA69-N97RとhA69-PF、ATFを比較すると、pIの最も低いATFのT1/2は、hA69-N97Rよりも約2.1倍も長いことから、hA69-N97Rの可変領域に存在する表面アミノ酸をさらに改変しpIを低下させることによって、hA69-N97Rの血中半減期をさらに長くすることが可能である。本実施例に使用した抗体を比較すると、pIが最も高いhB26-PFと最も低いATFの血中半減期では約2.4倍異なっており、可変領域のアミノ酸改変による血中動態制御は既存の制御技術と比較して高い効果が期待できる。また、抗原性の観点からは定常領域に導入する人工的なアミノ酸置換は少ないほうがよく、可変領域の表面アミノ酸を改変することで血中半減期を制御する本発明は医薬品の開発において有用であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の方法の好ましい態様においては、アミノ酸の置換が可変領域にて行われることから、定常領域を改変する従来の方法に比べて、抗原性のリスクが小さい。また、血中半減期を延長させる制御においては、従来法である定常領域を改変する方法よりも大きな効果を示すことが可能である。また、可変領域において構造・機能(活性)を変化させることなく、表面電荷をコントロールすることでIgG抗体等のFcRn結合領域を含むポリペプチドの血中半減期を制御することが可能である。本発明の方法を用いることにより、実際に活性を保持したまま血中半減期が制御されたFcRn結合領域を含むポリペプチドの取得が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]