特許第6585111号(P6585111)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6585111
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】無線通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04W 28/04 20090101AFI20190919BHJP
   H04W 12/06 20090101ALI20190919BHJP
   H04W 84/12 20090101ALI20190919BHJP
【FI】
   H04W28/04 110
   H04W12/06
   H04W84/12
【請求項の数】5
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-49686(P2017-49686)
(22)【出願日】2017年3月15日
(65)【公開番号】特開2018-152826(P2018-152826A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2018年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】藤原 吉伸
(72)【発明者】
【氏名】大竹 敏史
(72)【発明者】
【氏名】神田 智宏
(72)【発明者】
【氏名】中島 篤
【審査官】 野村 潔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−072917(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/142199(WO,A1)
【文献】 特開2013−247532(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/031368(WO,A2)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0172335(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24− 7/26
H04W 4/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信端末から送信される前記無線通信端末の属性情報を含む認証フレームを受信し、また、前記無線通信端末に対し、前記認証フレームに対する応答フレームを送信する無線通信部と、
前記属性情報に基づき、前記応答フレームの再送回数を設定する再送回数設定部と、
設定された前記再送回数に従い、前記無線通信部から前記応答フレームを送信させる送信制御をする制御部と、
を備える無線アクセスポイントからなる無線通信システムであって
前記認証フレームは、プローブ要求フレームであり、前記応答フレームは、プローブ応答フレームであり、
前記属性情報はSSIDデータであり、前記再送回数設定部は、前記SSIDデータがワイルドカードSSIDである場合に、前記再送回数を通常の設定値よりも小さい値に設定することを特徴とする、無線通信システム。
【請求項2】
前記再送回数設定部は、前記認証フレームがDSSSで変調されており、かつ、前記認証フレームのフレームボディにチャネル情報が登録されていない場合に、前記再送回数を通常の設定値よりも小さい値に設定することを特徴とする、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記再送回数設定部は、前記無線通信部が前記認証フレームを受信する都度、前記再送回数を設定することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
無線通信端末から送信される前記無線通信端末の属性情報を含む認証フレームを受信し、また、前記無線通信端末に対し、前記認証フレームに対する応答フレームを送信する無線通信部と、
前記属性情報に基づき、前記応答フレームの再送回数を設定する再送回数設定部と、
設定された前記再送回数に従い、前記無線通信部から前記応答フレームを送信させる送信制御をする制御部と、
を備える無線アクセスポイントからなる無線通信システムであって
前記認証フレームは、プローブ要求フレームであり、前記応答フレームは、プローブ応答フレームであり、
前記再送回数設定部は、前記認証フレームがDSSSで変調されており、かつ、前記認証フレームのフレームボディにチャネル情報が登録されていない場合に、前記再送回数を通常の設定値よりも小さい値に設定することを特徴とする、無線通信システム。
【請求項5】
前記再送回数設定部は、前記無線通信部が前記認証フレームを受信する都度、前記再送回数を設定することを特徴とする、請求項4に記載の無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンなどの普及により、一人一台以上の無線通信端末(ステーション、(STA)とも呼ばれる)を持ち運ぶことが一般的となっている。特に、駅やイベント会場などの人が多く集まる場所では、無線LANを使用する無線アクセスポイント(AP)や、無線通信端末が密集するため、無線LANで使用する周波数帯は非常に混雑し、通信障害を引き起こしている。
【0003】
無線混雑の主な原因として、無線アクセスポイントからのビーコンの送出、無線通信端末によるAP問い合わせ(プローブ要求)、AP問い合わせに対する無線アクセスポイントからの応答(プローブ応答)といった、アクセスポイント探索パケットが定期的に送信されていることがあげられる。これらのパケットの送信は、通常、低速な通信方式が用いられるため、それぞれのパケット占有時間が長い。よって、これらのパケット通信が、実際のデータ通信の機会を妨げることにより、帯域の利用効率を低下させ、ひいては通信障害を引き起こすという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−80133号公報
【特許文献2】特開2016−72917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本実施形態は、データ通信の機会を増加させ、帯域の利用効率を向上させる、無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態の無線通信システムは、無線通信端末から送信される前記無線通信端末の属性情報を含む認証フレームを受信し、また、前記無線通信端末に対し、前記認証フレームに対する応答フレームを送信する無線通信部と、前記属性情報に基づき、前記応答フレームの再送回数を設定する再送回数設定部と、設定された前記再送回数に従い、前記無線通信部から前記応答フレームを送信させる送信制御をする制御部と、を備える無線アクセスポイントであって前記認証フレームは、プローブ要求フレームであり、前記応答フレームは、プローブ応答フレームであり、前記属性情報はSSIDデータであり、前記再送回数設定部は、前記SSIDデータがワイルドカードSSIDである場合に、前記再送回数を通常の設定値よりも小さい値に設定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の第1実施形態に係わる無線アクセスポイントの構成を示す概略ブロック図。
図2】第1の実施形態におけるプローブ応答の送信手順を説明するフローチャート。
図3】第2の実施形態に係わる無線通信システムの全体図。
図4】第2の実施形態におけるプローブ要求及びその応答の通信シーケンスを説明する図。
図5】第2の実施形態におけるプローブ要求及びその応答の通信シーケンスの別の一例を説明する図。
図6】第3の実施形態に係わる無線通信システムの全体図。
図7】移動APの構成を示す概略ブロック図。
図8】AP制御部で管理する無線アクセスポイントの状態遷移図。
図9】状態遷移条件記憶部に登録されるリストの一例。
図10】無線アクセスポイントの状態を遷移させる手順を説明するフローチャート。
図11】第3の実施形態に係わる別の無線通信システムの全体図。
図12】状態遷移条件記憶部に登録されるリストの一例。
図13】無線アクセスポイントの状態を遷移させる手順を説明するフローチャート。
図14】状態遷移条件記憶部に登録されるリストの一例。
図15】第3の実施形態に係わる更に別の無線通信システムの全体図。
図16】無線アクセスポイントの状態を遷移させる手順を説明するフローチャート。
図17】第3の実施形態に係わる無線通信システムの変形例の全体図。
図18】状態遷移条件記憶部に登録されるリストの一例。
図19】第4の実施形態に係わる無線通信システムの全体図。
図20】プロセッサの動作手順を説明するフローチャート。
図21】無線アクセスポイントのフレーム受信動作を説明するフローチャート。
図22】無線アクセスポイントのフレーム送信動作を説明するフローチャート。
図23】無線アクセスポイントのビーコン送信動作を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係わる無線通信システムの構成を示す概略ブロック図である。本実施形態の無線通信システムを構成する無線アクセスポイントは、無線通信インタフェースを有し、無線通信可能エリアに存在する無線通信端末との間で無線通信を行う。
【0009】
無線アクセスポイント1は、無線通信部11と、制御部12と、再送回数設定部13と、アンテナ14とから主に構成されている。
【0010】
無線通信部11は、周囲の無線通信端末から送信されるデータを受信したり、制御部12からのデータ通信指示に従いデータを送信したりする。具体的には、無線通信端末から無線接続を確立するための一連のプロセス(プローブ要求/応答、無線認証手続き、接続許可手続き、暗号鍵の交換、など)で送信されるデータを受信し、応答を送信する。また、無線接続確立後は、接続している無線通信端末との間で随時データを送受信する。
【0011】
制御部12は、ROMなどの記憶部(図示せず)に格納されている制御プログラムに基づき、無線アクセスポイント1全体の動作を制御する。具体的には、無線通信部11にデータの通信を指示したり、無線通信部11で受信したデータの処理を実行したりする。また、無線通信部11で受信したデータから必要な情報を抽出し、再送回数設定部13に出力する。更に、再送回数設定部13から、データの再送回数を取得し、データ通信の指示を行う。
【0012】
再送回数設定部13は、制御部12から取得した情報に基づき、無線通信部11から送信するデータの送信回数を決定する。具体的には、制御部12から入力されたプローブ要求の要素データに基づき、プローブ応答の再送回数を決定する。また、決定した再送回数を、制御部12に出力する。
【0013】
次に、再送回数設定部13における、プローブ応答の再送回数の決定方法について、説明する。IEEE802.11の無線LANシステムにおけるアクティブスキャンでは、無線通信端末が周囲の無線アクセスポイントの存在を確認するために、無線アクセスポイントに対してプローブ要求を送信する。無線アクセスポイントは、プローブ要求を受信すると、自身の存在を通知するために、プローブ応答を送信する。このプローブ応答はユニキャストで送信されるため、プローブ応答を受信した無線通信端末はACKフレームを返信する。ACKフレームを確認できない場合、無線アクセスポイントは、設定された所定の回数までプローブ応答を繰り返し送信する。
【0014】
ここで、2.4GHzの周波数帯では、後方互換性のために、プローブ要求とプローブ応答にはDSSS 1Mbpsで変調されたフレームを用いるのが通例であるが、DSSS 1Mbpsのフレームは、5MHz〜10MHz程度上下にずれたチャネルでも受信されることがある。(ただし、受信の度合いは実装に依存する。)
無線アクセスポイントがずれたチャネルを受信しやすい実装の場合、無線アクセスポイントは、自身が使用しているチャネルから少しずれた周波数のチャネルで無線通信端末が送信したプローブ要求も受信する。プローブ要求に、無線通信端末の送信チャネル情報(DSパラメータセット)が含まれていない場合、無線アクセスポイントは、自機器が使用しているチャネルにプローブ要求が送信されたと仮定し、同チャネルにプローブ応答を送信する。
【0015】
ところが、無線通信端末がずれたチャネルを受信しにくい実装の場合、無線通信端末は無線アクセスポイントが送信したプローブ要求を受信することができないため、ACKフレームを返信しない。この場合、無線アクセスポイントは再送の設定回数に達するまで、プローブ応答を繰り返し送信することになるため、帯域の利用効率を低下させてしまう。
【0016】
このように、DSSS変調を用いた通信であり、かつ、プローブ要求にチャネル情報が含まれていない場合など、APからプローブ応答を送信しても無線通信端末に受信される可能性が少ない場合には、プローブ応答の再送回数を、デフォルト値よりも少ない値に設定する。
【0017】
例えば、IEEE802.11の無線LANシステムでは、特定の長さ以下のデータを送信する際に使用される再送回数(dot11ShortRetryLimit)のデフォルト値は7回、特定の長さより大きなデータを送信する際に使用される再送回数(dot11LongRetryLimit)のデフォルト値は4回が標準とされている。従って、DSSS変調を用いた通信であり、かつ、プローブ要求にチャネル情報が含まれていないには、dot11ShortRetryLimitを6以下の値に設定し、dot11LongRetryLimitを3以下の値に設定することで、無駄なプローブ応答の送信を抑制する。
【0018】
なお、プローブ要求に含まれている送信チャネル情報が、無線アクセスポイントの想定するチャネル情報と異なる場合など、プローブ応答を送信しても無線通信端末に受信されないことが確実である場合、再送回数を0に設定し、プローブ応答を送信しないようにしてもよい。
【0019】
また、プローブ要求に含まれるSSID要素がwildcard SSIDであり、自機以外にもプローブ応答を送信する無線アクセスポイントが存在する可能性がある場合も、再送回数をデフォルト値よりも小さい値に設定する。
【0020】
次に、無線アクセスポイント1におけるプローブ応答の送信手順を説明する。図2は、第1の実施形態におけるプローブ応答送信の手順を説明するフローチャートである。
【0021】
まず、無線通信部11において、アンテナ14を介して周囲の無線通信端末からプローブ要求を受信する(S1)。無線通信部11は、受信したプローブ要求のデータを制御部12に出力する。
【0022】
次に、制御部12は、再送回数設定部13にプローブ要求のデータを出力し、プローブ応答の再送回数の設定を指示する。再送回数設定部13は、プローブ要求に含まれるSSID要素がwildcard SSIDであるか否かを判定する(S2)。wildcard SSIDである場合(S2、Yes)、プローブ応答の再送回数を、予め登録されているデフォルト値よりも小さい値に設定する(S7)。例えば、IEEE802.11の無線LANシステムの場合、dot11ShortRetryLimitを6以下の値に設定し、dot11LongRetryLimitを3以下の値に設定する。再送回数設定部13は、プローブ応答の再送回数を設定が完了した旨を制御部12に通知する。最後に、制御部12は、設定された再送回数に従って、プローブ応答を送信する(S5)。
【0023】
一方、プローブ要求に含まれるSSID要素がwildcard SSIDでない場合(S2、No)、プローブ要求がDSSSで変調されているか否かを判定する(S3)。DSSSで変調されていない場合(S3、No)、再送回数設定部13は、プローブ応答の再送回数を予め登録されているデフォルト値に設定する(S4)。例えば、IEEE802.11の無線LANシステムの場合、dot11ShortRetryLimitの値を7に設定し、dot11LongRetryLimitの値を4に設定する。そして、プローブ応答の再送回数を設定が完了した旨を制御部12に通知する。制御部12は、設定された再送回数に従って、プローブ応答を送信する(S5)。
【0024】
プローブ要求がDSSSで変調されている場合(S3、Yes)、プローブ要求のフレームボディにチャネル情報が含まれているか否かを判定する(S6)。チャネル情報が含まれていない場合、S7に進み、プローブ応答の再送回数を、予め設定されているデフォルト値よりも小さい値に設定する。チャネル情報が含まれている場合(S6、Yes)、再送回数設定部13は、プローブ応答の再送回数を、予め登録されているデフォルト値に設定する(S4)。制御部12は、設定された再送回数に従って、プローブ応答を送信する(S5)。
【0025】
このように、本実施形態によれば、プローブ要求の各種情報(例えば、送信先SSID、変調方法、チャネル情報)に基づき、送信元の無線通信端末に対し、他の無線アクセスポイントからプローブ応答が送信される可能性が高い場合や、当該無線アクセスポイントがプローブ応答を送信しても送信元STAが受信する可能性が低い場合には、プローブ応答の再送回数をデフォルト値よりも低い値に設定する。従って、無駄なプローブ応答の送信が抑制されるので、データ通信の機会を増加させ、帯域の利用効率を向上させることができる。
【0026】
なお、再送回数は、判定内容に応じて異なる値を設定するようにしてもよい。例えば、SSID要素がwildcard SSIDである場合は、dot11ShortRetryLimitの値を5に、dot11LongRetryLimitの値を3に設定し、プローブ要求がDSSSで変調されており、かつ、フレームボディにチャネル情報が含まれていない場合は、dot11ShortRetryLimitの値を3に、dot11LongRetryLimitの値を1に設定してもよい。
【0027】
また、フレームボディにチャネル情報が含まれているが、当該無線アクセスポイントが想定するチャネル情報でない場合、dot11ShortRetryLimitとdot11LongRetryLimitの値を共に0に設定し、フレーム応答を送信しないように設定してもよい。
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、フレーム要求の送信元の無線通信端末が受信する可能性が低い場合に、無線アクセスポイントから送信するフレーム応答の再送回数を低減し、無駄なプローブ応答の送信を抑制することで、帯域の利用効率を向上させていた。これに対し、第2の実施形態においては、無線アクセスポイントから送信するフレーム応答をブロードキャストで送信することで、1回のフレーム応答で複数の無線通信端末に当該アクセスポイントの存在を認識させる。これにより、フレーム応答に対する無線通信端末からのACKフレームの送信を不要とし、また、無線通信端末からのフレーム要求の送信回数を削減させ、帯域の利用効率を向上させる。
【0028】
図3は、第2の実施形態に係わる無線通信システムの全体図である。無線アクセスポイント21は、無線通信インタフェースを有する無線アクセスポイントであり、無線通信可能エリアに存在する無線通信端末22a、22bとの間で無線通信を行う。なお、無線通信可能エリアに存在する無線通信端末の台数は、2台に限定されるものでなく、3台以上でもよい。
【0029】
無線通信端末22a、22bは、無線通信インタフェースを有するものであり、例えば、ノートPC、タブレット、スマートフォン等である。なお、無線通信は、例えば、IEEE802.11規格などに適合する無線LANにより実現される。
【0030】
次に、本実施形態における無線アクセスポイント21と、無線通信端末22a、22bとの間で行われる、プローブ要求とプローブ応答のシーケンスについて、説明する。図4は、第2の実施形態におけるプローブ要求及びその応答の通信シーケンスを説明する図である。
【0031】
まず、無線通信端末22aから無線アクセスポイント21に対し、プローブ要求を送信する(S11)。このとき、無線通信端末22aは、プローブ要求のフレームデータに、プローブ応答をブロードキャストでも受信可能である旨を付加して送信する。例えば、インフォメーションエレメントの「OuiType」に「AskProbeReqByBroadCast」を設定して送信する。
【0032】
次に、無線アクセスポイント21は、無線通信端末22aから受信したプローブ要求のフレームデータを解析し、プローブ応答をブロードキャストで送信する(S12)。プローブ応答は、無線通信端末22aに受信されると共に、当該無線通信エリア内に存在し、無線通信端末22aと同じチャネルを監視している他の無線通信端末にも受信される。例えば、無線通信端末22bが無線通信端末22aと同じチャネルを監視している場合、無線アクセスポイント21から送信されたプローブ応答は、無線通信端末22bでも受信される。
【0033】
このように、無線通信端末22aのプローブ要求に対する無線アクセスポイント21からのプローブ応答を、無線通信端末22bが受信できた場合、無線通信端末22bから無線アクセスポイント21に対してプローブ要求を送信する必要がなくなる。また、無線アクセスポイント21からプローブ要求をブロードキャストで送信しているので、これを受信した無線通信端末22a、22bはACKの返信が不要となる。従って、プローブ要求やACKの送信回数が抑制されるので、データ通信の機会が増加し、帯域の利用効率を向上させることができる。
【0034】
図5は、第2の実施形態におけるプローブ要求及びその応答の通信シーケンスの別の一例を説明する図である。まず、無線アクセスポイント21の無線通信可能エリアに存在する無線通信端末22a、22bは、設定された特定の時間に、プローブをスキャンするチャネルを同期する(S13)。なお、無線通信端末22a、22bが有する時計は、合致しているものとする。
【0035】
時計を合致させておく方法としては、例えば、無線アクセスポイント21から定期的にビーコンが送信されている場合には、ビーコンに絶対時刻の情報を含める方法を用いることができる。当該ビーコンを受信した無線通信端末22a、22bは、フレームデータに含まれている絶対時刻情報に基づき、自身の時計を調整する。また、例えば、無線アクセスポイント21から送信されるプローブ応答のフレームデータのインフォメーションエレメントに、絶対時刻を設定することで、これを受信した無線通信端末22が自身の時計を調整するようにしてもよい。
【0036】
無線通信端末22a、22bが有する時計が合致していることを利用し、チャネルを同期する時刻に基づき、無線通信端末22a、22bが自動的にチャネルを設定するような仕組みを予め設定しておく。例えば、同期する時刻の秒の下一桁の数からチャネルを求める仕組みを設定しておくことで、同期チャネル情報を他から与えられなくても、無線通信端末22a、22bは、同じチャネルを設定することができる。例えば、12時34分56秒にチャネルを同期する場合は、無線通信端末22a、22bは共に、スキャンするチャネルを6chに設定する。
【0037】
次に、各無線通信端末22a、22bは、チャネルを同期した時刻から、ランダムに設定された待ち時間t1、t2を経過したら、無線アクセスポイント21に対し、プローブ要求を送信する。図5に示す一例の場合、無線通信端末22aの待ち時間t1のほうが無線通信端末22bの待ち時間t2より短く設定されているので、チャネルを同期した時刻からt1後に、無線通信端末22aから無線アクセスポイント21に対し、プローブ要求を送信する(S14)。
【0038】
このとき、無線通信端末22aは、プローブ要求のフレームデータに、プローブ応答をブロードキャストでも受信可能である旨を付加して送信する。例えば、インフォメーションエレメントの「OuiType」に「AskProbeReqByBroadCast」を設定して送信する。
【0039】
次に、無線アクセスポイント21は、無線通信端末22aから受信したプローブ要求のフレームデータを解析し、プローブ応答をブロードキャストで送信する(S15)。このとき、無線通信端末22bは無線通信端末22aと同じチャネルを監視しているので、無線アクセスポイント21から送信されたプローブ応答は、無線通信端末22bでも受信される。
【0040】
プローブ応答が、チャネル同期からt2が経過するまでの間に送信された場合、無線通信端末22bは、プローブ要求を送信することなく無線アクセスポイント21の存在を認識することができる。また、プローブ応答はブロードキャストで送信されているため、無線通信端末22a、22bともにACKの送信は不要となる。なお、無線通信端末22aからのプローブ要求に対するプローブ応答が、チャネル同期からt2が経過するまでに送信されなかった場合、チャネルを同期した時刻からt2後に、無線通信端末22bはプローブ要求を送信する。
【0041】
このように、無線アクセスポイント21の無線通信可能エリア内に存在する複数の無線通信端末22a、22bの時計を合致させておき、同時刻にプローブをスキャンするチャネルを同期させることで、他の無線通信端末22aが送信したプローブ要求に対する無線アクセスポイント21からのプローブ応答を、別の無線通信端末22bが受信し利用する可能性を増大させることができる。
【0042】
また、無線通信端末22a、22bがプローブ要求を送信する時間をずらすことで、他の無線通信端末から送信されたプローブ要求に対する無線アクセスポイント21からのプローブ応答を利用する機会を増大させることができる。従って、プローブ要求やACKの送信回数が抑制されるので、データ通信の機会が増加し、帯域の利用効率を向上させることができる。
【0043】
なお、チャネルの同期の仕組みや各無線通信端末22a、22bの時刻を合致させる方法は、上述した方法に限定されるものではなく、他の仕組みや方法を用いてもよい。また、無線アクセスポイント21の無線通信可能エリア内に存在する全ての無線通信端末について、上述のようにチャネルの同期を行って時間差でプローブ要求を送信させることが望ましいが、一部の無線通信端末で行ってもよい。
(第3の実施形態)
ところで、無線アクセスポイントには、所定の位置に固定的に設置され使用されるもの(以下、固定無線アクセスポイント、固定APと示す)の他に、電車や車などの移動体に設置されたり、人等に持ち運ばれ使用されたりするもの(以下、移動無線アクセスポイント、移動APと示す)もある。
【0044】
駅やイベント会場などの人が多く集まる場所では、固定APが数多く設置されている上に、移動APが設置されている電車が到着したり、モバイルルータなどを付帯している人が出入りしたりすることにより、無線アクセスポイントは更に密集する傾向にある。これにより、無線LANで使用する周波数帯は非常に混雑し、通信障害を引き起こす可能性が増大するという問題があった。
【0045】
そこで、本実施形態は、周囲に存在する他の無線アクセスポイントの密集状況に応じ、移動APからの、プローブ応答やビーコンの送出など、アクセスポイント探索パケットの送出度合いを制御することにより、データ通信の機会を増加させ、帯域の利用効率を向上させる、無線通信システムを提供する。
【0046】
図6は、第3の実施形態に係わる無線通信システムの全体図である。図6は、多数の固定APが配置された場所に、移動APが持ち込まれる場合の一例を示している。移動AP30a、30b、30cは、無線通信インタフェースを有する移動無線アクセスポイントであり、それぞれ、無線通信可能エリア31a、31b、31cに存在する無線通信端末(図示せず)との間で無線通信を行う。移動AP30a、30b、30cは、移動体である電車300の各車両300a、300b、300cに、それぞれ設置されている。
【0047】
駅301には、固定AP40が設置されている。固定AP40は、無線通信インタフェースを有する移動無線アクセスポイントであり、固定ブロードバンドに接続されている。固定AP40は、無線通信可能エリア41に存在する無線通信端末(図示せず)との間で無線通信を行う。なお、駅301には固定AP40以外にも、図示しない多数の固定APが存在する。
【0048】
なお、電車300は図面の左手方向に向かって進行しており、駅301に近づくにつれ、移動AP30a、30b、30cの無線通信可能エリア31a、31b、31cと、固定AP40の無線通信可能エリア41が重なる領域が増加する。
【0049】
図7は、移動APの構成を示す概略ブロック図である。移動AP30aは、無線通信部32と、AP制御部33と、状態遷移条件記憶部34と、アンテナ35と、上流網インタフェース部36とから主に構成されている。
【0050】
無線通信部32は、周囲の無線通信端末から送信されるデータを受信したり、AP制御部33からのデータ通信指示に従いデータを送信したりする。具体的には、無線通信端末から無線接続を確立するための一連のプロセス(プローブ要求/応答、無線認証手続き、接続許可手続き、暗号鍵の交換、など)で送信されるデータを受信し、応答を送信する。無線接続確立後は、接続している無線通信端末との間で随時データを送受信する。また、無線通信可能エリア31aに存在する他の無線アクセスポイントからのビーコンを受信し、AP制御部33に通知する。
【0051】
AP制御部33は、無線通信部32から受信した他の無線アクセスポイントからのビーコンの情報と、ROMなどの記憶部(図示せず)に格納されている制御プログラムと、状態遷移条件記憶部34に格納されている条件リストの内容に基づき、移動AP30aの通信状態を管理し、全体の動作を制御する。
【0052】
図8は、AP制御部33で管理する移動AP30の状態遷移図である。移動AP30aは、通常状態C1、通信抑制状態C2、機能停止状態C3の三つのいずれかの通信状態に設定される。
【0053】
通常状態C1は、特別な制限なく、通常の通信(ビーコンやプローブ応答)を行うことができる状態である。
【0054】
通信抑制状態C2は、ビーコンやプローブ応答の送信や、無線通信端末とのデータの送受信が制限される状態である。具体的には、ステルス状態にしてビーコンの送信を停止したり、プローブ応答の送信を停止したり、プローブ応答の再送回数の上限値を通常状態C1より低い値に設定したりする。また、既に接続されている無線通信端末は接続状態を維持するが、新規接続は禁止してもよい。なお、ビーコンは、送信を停止するのではなく、送信間隔を長く設定したり、送信電波強度を弱めたりしてもよい。
【0055】
機能停止状態C3は、ビーコンやプローブ応答の送信や、無線通信端末とのデータの送受信を行わない状態である。具体的には、ビーコンやプローブ応答の送信を停止し、接続されている無線通信端末がある場合には、接続を切断する。また、無線通信端末との新規接続も禁止する。ただし、パッシブスキャンにより、他のAPから送出されているビーコンを受信することは可能とする。
【0056】
AP制御部33は、無線通信部32から受信した、周囲に存在するAPの情報と、状態遷移条件記憶部34に登録されている情報とを照合し、自機の通信状態を設定する。
【0057】
状態遷移条件記憶部34は、通信状態を遷移させるためのトリガーとなるAPの情報(遷移条件)と、具体的にどのような通信状態に遷移させるか(遷移状態設定)とが、例えばリスト形式で登録されている。
【0058】
図9は、状態遷移条件記憶部34に登録されるリストの一例である。リスト341a、341bは、特定のAPを検知した場合に、通信状態を遷移させる場合のリストの一例である。
【0059】
遷移条件となる特定のAPは、対象となるAPのSSID(ESSID、またはBSSID)、検知対象のチャネル番号、電波強度閾値(検知の閾値)、の3つの項目について設定する。また、これらの項目の他に、検知対象となる時刻範囲などを加えてもよい。
【0060】
また、遷移状態設定は、遷移状態(通信抑制状態C2、または機能停止状態C3)、プローブ応答の再送回数の上限値、無線通信端末との新規接続の可否、の3項目について設定する。なお、プローブ応答の再送回数の上限値、無線通信端末との新規接続の可否の2項目については、遷移状態として通信抑制状態C2が設定されている場合に有効な項目である。また、これらの項目の他に、例えば、ビーコン送出の可否(自機をステルス状態にするか否か)、ビーコン送出の間隔、ビーコン送信電波強度、などを加えてもよい。
【0061】
リスト341aでは、SSIDがEki_Free_Wi-Fiで電波強度-60dBm以上のAPを検知した場合(=遷移条件)、自機を通信抑制状態C2に遷移させ、プローブ応答の再送回数を4回、無線通信端末との新規接続を不許可に設定する(=遷移状態設定)旨の条件が登録されている。また、リスト341bでは、SSIDがEki_Business_Wi-Fiで、チャネル番号が11、電波強度-100dBm以上のAPを検知した場合(=遷移条件)、自機を通信抑制状態C2に遷移させ、プローブ応答の再送回数を3回、無線通信端末との新規接続を不許可に設定する(=遷移状態設定)旨の条件が登録されている。
【0062】
上流網インタフェース部36は、移動通信のアンテナや、固定ブロードバンドなどと接続され、無線通信部32を介して通信接続されている無線通信端末と、移動AP30aより上流に配置された機器との間でのデータの送受信を行う。
【0063】
なお、移動AP30b、30cの構成は、図7に示す移動AP30aの構成と同様である。
【0064】
次に、AP制御部33における自機の通信状態の設定手順を説明する。図10は、移動APの状態を遷移させる手順を説明するフローチャートである。
【0065】
まず、無線通信部32において、パッシブスキャンを行い、アンテナ35を介して周囲の移動/固定APから送信されるビーコンを受信する(S21)。無線通信部11は、受信したビーコンのデータをAP制御部33に出力する。
【0066】
次に、AP制御部33は、無線通信部32から受信したビーコンのデータと、状態遷移条件記憶部34に登録されている情報とを照合する。具体的には、ビーコンのデータが状態遷移条件記憶部34に登録されているリストの遷移条件に合致するか否か、すなわち、リストに登録されている固定APを検知したか否かを判定する(S22)。例えば、状態遷移条件記憶部34に、リスト341a、341bの2つのリストが登録されている場合、SSIDがEki_Free_Wi-Fiで電波強度-60dBm以上のAP、または、SSIDがEki_Business_Wi-Fiで、チャネル番号が11、電波強度-100dBm以上のAPを検知した場合に、対象固定APを検知したと判定する。
【0067】
対象固定APが検知されなかった場合(S22、No)、自機の通信状態を通常状態C1に遷移させ(S23)、設定を終了する。
【0068】
一方、対象固定APが検知された場合(S22、Yes)、遷移条件を設定する(S24)。対象固定APが1台のみ検知された場合は、当該APが遷移条件として設定されているリストに記述されている遷移状態設定に従い、遷移条件を設定する。例えば、リスト341aに記述されている、SSIDがEki_Free_Wi-Fiで電波強度-60dBm以上のAPが検知された場合、遷移条件は、通信状態は通信抑制状態C2、プローブ応答の再送回数は4回、無線通信端末との新規接続は不許可、となる。
【0069】
対象固定APが2台以上検知された場合は、それらのAPが遷移条件として設定されているリストに記述されている遷移状態設定の各項目をそれぞれ比較して、より制約が厳しいものを採用する。具体的には、通信状態は、通信抑制状態C2より機能停止状態C3のほうが、制約が厳しい。また、プローブ応答の再送回数は、数が少ないほうが、制約が厳しい。更に、無線通信端末の新規接続設定は、許可より不許可のほうが、制約が厳しい。
【0070】
例えば、リスト341aに記述されている、SSIDがEki_Free_Wi-Fiで電波強度-60dBm以上のAPと、リスト341bに記載されている、SSIDがEki_Business_Wi-Fiで、チャネル番号が11、電波強度-100dBm以上のAPとが検知された場合、遷移条件は、通信状態は通信抑制状態C2、プローブ応答の再送回数は3回、無線通信端末との新規接続は不許可、となる。
【0071】
最後に、設定された遷移条件に従って自機の通信状態を遷移させ(S25)、設定を終了する。
【0072】
このように、駅に設置されている固定AP40など、人が多く集まる場所に設置された固定APを状態遷移条件記憶部34に登録しておき、スキャンによって当該固定APを検知したら、移動AP30a、30b、30cの通信状態を、通信抑制状態C2または機能停止状態C3に切り替える。従って、プローブ応答やビーコンの送出などアクセスポイント探索パケットの送出が抑制されるので、データ通信の機会が増加し、帯域の利用効率を向上させることができる。
【0073】
また、固定AP40が検知されなくなると、移動AP30a、30b、30cの通信状態が自動的に通常状態C1に切り替わる。従って、人が多く集まる場所などから離れ、通信の制約が必要なくなった場合には、プローブ応答やビーコンの送出などが通常通りに行われるので、周囲の無線通信端末が移動AP30a、30b、30cと接続されやすくなり、良好な通信環境が維持できる。
【0074】
なお、上述の一例では、特定のAP(固定AP)を検知した場合に、通信状態を遷移するように設定しているが、一定数以上のAPを検知した場合に、通信状態を遷移するように設定してもよい。
【0075】
図11は、第3の実施形態に係わる別の無線通信システムの全体図である。図11は、多数のAP(固定AP/移動AP)が存在する場所に、移動APが持ち込まれる場合の一例を示している。この場合、移動AP30aの無線通信可能エリア31aと、AP42a、42b、42cの無線通信可能エリア43a、43b、43cとで、重なり合う領域が存在し、この領域では、無線LANで使用する周波数帯は非常に混雑し、通信障害を引き起こす可能性が増大する。このような場合、検出されるAPの数を遷移条件として状態遷移条件記憶部34に登録しておくことで、周囲のAPの名称が不明な場合にも、通信抑制状態C2または機能停止状態C3に通信状態を切り替えることができる。
【0076】
図12は、状態遷移条件記憶部34に登録されるリストの一例である。リスト341cは、周囲のAPを所定の台数以上検知した場合に、通信状態を遷移させる場合のリストの一例である。リスト341cでは、自機と同じチャネルを使用しており、電波強度-60dBm以上のAPを3台以上検知した場合(=遷移条件)、自機を通信抑制状態C2に遷移させ、プローブ応答の再送回数を3回、無線通信端末との新規接続を不許可に設定する(=遷移状態設定)旨の条件が登録されている。
【0077】
なお、上記の遷移条件を一定時間以上継続して満たした場合に、遷移状態設定に登録された状態に変更するようにしてもよい。また、これらの項目の他に、例えば、ビーコン送出の可否(自機をステルス状態にするか否か)、ビーコン送出の間隔、ビーコン送信電波強度、などを加えてもよい。
【0078】
次に、AP制御部33における自機の通信状態の設定手順を説明する。図13は、移動APの状態を遷移させる手順を説明するフローチャートである。
【0079】
まず、無線通信部32において、パッシブスキャンを行い、アンテナ35を介して周囲のAPから送信されるビーコンを受信する(S26)。無線通信部11は、受信したビーコンのデータをAP制御部33に出力する。
【0080】
次に、AP制御部33は、無線通信部32から他APのビーコンのデータが送信されたか否かを判定する(S27)。ビーコンのデータが送信されていない、すなわち、他のAPが検出されていないと判定された場合(S27、No)、自機の通信状態を通常状態C1に遷移させ(S28)、設定を終了する。
【0081】
一方、他のAPが検出されたと判定された場合(S27、Yes)、AP制御部33は、無線通信部32から受信したビーコンのデータと、状態遷移条件記憶部34に登録されている情報とを照合する。具体的には、ビーコンのデータが状態遷移条件記憶部34に登録されているリストの遷移条件に合致するか否か、すなわち、リストに登録されている台数のAPを検知したか否かを判定する(S29)。例えば、状態遷移条件記憶部34に、リスト341cのリストが登録されている場合、自機と同じチャネルを使用しており、電波強度-80dBm以上のAPを3台以上検知した場合に、遷移条件に合致すると判定する。
【0082】
所定条件のAPが指定された台数未満しか検知されなかった場合(S29、No)、
自機の通信状態を通常状態C1に遷移させ(S28)、設定を終了する。
【0083】
一方、所定条件のAPが指定された台数以上検知された場合(S29、Yes)、リスト341cに記述されている遷移条件に従って自機の通信状態を遷移させ(S30)、設定を終了する。例えば、リスト341cの場合、通信状態を通信抑制状態C2、プローブ応答の再送回数を3回、無線通信端末との新規接続は不許可と設定する。
【0084】
このように、遷移条件として、周囲に存在するAPの台数を登録することで、特定のAPを登録しなくても、移動AP30aの通信状態を通信抑制状態C2または機能停止状態C3に切り替えることができる。従って、プローブ応答やビーコンの送出などアクセスポイント探索パケットの送出が抑制されるので、データ通信の機会が増加し、帯域の利用効率を向上させることができる。
【0085】
なお、上述の一例では、通信抑制状態C2において、ビーコンの送出頻度や送信電波強度、プローブ応答の再送回数、無線通信端末との新規接続を不許可にすることで、他のAPと無線通信可能エリアが重なる領域における、データ量を削減していた。これに加えて、自機から送信する電波の方向を、接続されている無線通信端末の方向に絞り込むことで、他のAPと無線通信可能エリアが重なる領域を縮小することで、更なる混雑緩和を図ることができる。
【0086】
図14は、状態遷移条件記憶部34に登録されるリストの一例である。リスト341c´は、図12に示すリスト341cと同じ遷移条件において、自機を通信抑制状態C2に遷移させ、プローブ応答の再送回数を3回、無線通信端末との新規接続を不許可に設定すると共に、電波の送信方向を制限する(=遷移状態設定)旨の条件が登録されている。この場合の送信方向とは、自機に既に接続されている無線通信端末の方向である。
【0087】
図15は、第3の実施形態に係わる更に別の無線通信システムの全体図である。図15で、図12に示す無線通信システムにおいて、移動AP30aに無線通信端末44が接続されている場合に、リスト341c´に従って移動AP30aの状態を遷移させ、電波の送信方向を制限した場合の無線通信可能エリア31a´を示している。
【0088】
このように、移動AP30aの電波の送信方向を無線通信端末44方向に絞ることで、他のAP42a、42b、42cの無線通信可能エリア43a、43b、43cと、自機の無線通信可能エリア31a´との重なる領域を縮小することができる。従って、同領域において、プローブ応答やビーコンの送出などアクセスポイント探索パケットの送出が抑制されるので、データ通信の機会が増加し、帯域の利用効率を向上させることができる。
【0089】
なお、移動AP30aの電波の送信方向を、無線通信端末44の方向に絞る方法としては、例えば、デジタルアシストアンテナなどを用いた、一般的にビームフォーミングと呼ばれる技術を用いることができる。ただし、この技術に限定されるものではなく、他の方法を用いてもよい。また、方向を絞るだけでなく、STBC(Space-time block coding)を用いて受信信号の品質を高めてもよい。
【0090】
状態遷移条件記憶部34には、特定のAPと、周囲に存在するAPの台数の両方を、遷移条件として、登録することもできる。例えば、図9に示したような、特定のAPの検出を遷移条件とするリスト341a、341bと、図12に示したような、周囲に存在するAPの台数が所定数以上である場合を遷移条件とするリスト341cの3つのリストを、状態遷移条件記憶部34に登録することで、3つのリスト341a、341b、341cのいずれかの条件が満たされた場合に、自機の通信状態を遷移させることができる。
【0091】
図16は、無線アクセスポイントの状態を遷移させる手順を説明するフローチャートである。特定のAPと、周囲に存在するAPの台数の両方を、遷移条件として登録
した場合の手順を示している。以下の手順では、3つのリスト341a、341b、341cが状態遷移条件記憶部34に登録されている場合について、説明する。
【0092】
まず、無線通信部32において、パッシブスキャンを行い、アンテナ35を介して周囲の移動/固定APから送信されるビーコンを受信する(S31)。無線通信部11は、受信したビーコンのデータをAP制御部33に出力する。
【0093】
次に、AP制御部33は、無線通信部32から受信したビーコンのデータの中に、リスト341a、341bに登録されている固定APが存在するか否かを判定する(S32)。具体的には、SSIDがEki_Free_Wi-Fiで電波強度-60dBm以上のAP、または、SSIDがEki_Business_Wi-Fiで、チャネル番号が11、電波強度-100dBm以上のAPを検知した場合に、対象固定APを検知したと判定する。
【0094】
リストに登録されている固定APを検出したと判定した場合(S32、Yes)、当該固定APが登録されているリストに記述されている遷移条件を、遷移状態予約として設定する(S33)。対象固定APが1台のみ検知された場合は、当該APが遷移条件として設定されているリストに記述されている遷移状態設定に従い、遷移状態予約を設定する。例えば、リスト341aに記述されている、SSIDがEki_Free_Wi-Fiで電波強度-60dBm以上のAPが検知された場合、遷移条件は、通信状態は通信抑制状態C2、プローブ応答の再送回数は4回、無線通信端末との新規接続は不許可、となる。
【0095】
対象固定APが2台以上検知された場合は、それらのAPが遷移条件として設定されているリストに記述されている遷移状態設定の各項目をそれぞれ比較して、より制約が厳しいものを採用する。
【0096】
S33における遷移状態予約の設定が終了すると、リスト341cに登録されている台数のAPを検知したか否かを判定する(S34)。なお、S32において、リスト341a、341bに登録されている固定APが検知されないと判定された場合(S32、No)も、S34に進む。所定条件のAPが、指定された台数以上検知された場合(S34、Yes)、リスト341cに記述されている遷移条件を、遷移状態予約として設定する(S35)。例えば、リスト341cの場合、通信状態を通信抑制状態C2、プローブ応答の再送回数を3回、無線通信端末との新規接続は不許可と設定する。
【0097】
次に、遷移状態予約の有無を判定する(S36)。なお、S34において、リスト341cに登録されている所定条件のAPが、指定された台数未満しか検知されなかった場合(S34、No)も、S36に進む。遷移状態予約がないと判定された場合(S36、No)、自機の通信状態を通常状態C1に遷移させ(S37)、設定を終了する。
【0098】
一方、遷移状態予約があると判定された場合(S36、Yes)、遷移条件を設定する(S38)。S33またはS35のどちらか一方でのみ遷移状態予約がなされている場合、遷移状態予約の設定内容に従って、自機の通信状態を遷移させ(S39)、設定を終了する。S33とS35の両方で遷移状態予約がなされている場合、遷移状態予約の各項目をそれぞれ比較して、より制約が厳しいものを、遷移条件として設定する。そして、遷移状態予約の設定内容に従って、自機の通信状態を遷移させ(S39)、設定を終了する。
【0099】
このように、特定のAPと、周囲に存在するAPの台数の両方を、遷移条件として登録することで、より厳しい条件で、移動AP30aの通信状態を通信抑制状態C2または機能停止状態C3に切り替えることができる。従って、プローブ応答やビーコンの送出などアクセスポイント探索パケットを送出する度合いがより一層抑制されるので、データ通信の機会が増加し、帯域の利用効率を向上させることができる。
【0100】
最後に、本実施の形態の変形例について説明する。上述の無線通信システムでは、状態遷移条件記憶部34に登録されたリストの遷移条件に合致する状況になった場合に、自機の通信状態を通信抑制状態C2に切り替えていた。これに対し、変形例では、自機の通信状態を機能停止状態C3に切り替え、接続されている無線通信端末を切断する。
【0101】
図17は、第3の実施形態に係わる無線通信システムの変形例の全体図である。例えば、ユーザが移動通信のブロードバンド回線へ接続するモバイルルータを利用している場合が、図17の無線通信システムに相当する。すなわち、移動AP30aは、無線LANの機能、及び、移動通信ブロードバンドサービスの機能を有するモバイルルータである。無線通信端末44は、移動AP30aに接続してインターネットなどを使用するノートPCである。無線通信端末44は、公衆無線LANにも接続が可能である。公衆無線LANは、移動AP30aを介しての無線LANよりも高速な通信が可能である。従って、無線通信端末44は、公衆無線LAN固定AP45の無線通信可能エリア46に入ったら、移動AP30aとの接続を切断して公衆無線LAN固定AP45と接続して使用することが好ましい。
【0102】
また、公衆無線LANのある場所にて、移動AP30aで無線LANを使用する場合、無線LAN利用周波数が重なっていたら、干渉し合って互いの通信が阻害されてしまう可能性がある。
【0103】
そこで、このような場合においては、移動AP30aが公衆無線LAN固定AP45を検知したら、自機の通信状態を機能停止状態C3に切り替え、接続されている無線通信端末44を切断し、無線通信端末44は公衆無線LAN固定AP45に接続を切り替えて無線通信を行うように設定する。
【0104】
図18は、状態遷移条件記憶部34に登録されるリストの一例である。リスト341dは、無線通信端末44が接続可能な公衆無線LANである固定AP45のSSIDであるFree_Wi-Fiで電波強度-60dBm以上のAPを検知した場合(=遷移条件)、自機を機能停止状態C3に遷移させる(=遷移状態設定)旨の条件が登録されている。なお、機能停止状態C3においては、自機に接続されている無線通信端末44が接続され切断し、無線通信端末との新規接続が不許可になされる。
【0105】
このように、自機よりも通信速度の速いAP(図17における公衆無線LAN固定AP45)を遷移条件として登録し、遷移状態設定を機能停止状態C3とすることで、AP30aが無線通信可能エリア46を検知すると、移動AP30aの通信状態を、自動的に機能停止状態C3に切り替えることができる。無線通信端末44は、移動AP30aとの接続が切断されると、公衆無線LAN固定AP45を検知してこれに接続するため、より快適な通信環境が得られる。また、互いの無線通信可能エリア31a、46が重なると、移動AP30aのプローブ応答やビーコンの送出などアクセスポイント探索パケットの送出が停止されるので、電波の干渉による通信阻害を防ぐことが出来る。
【0106】
なお、機能停止状態C3においては、ビーコンの送出を停止するのではなく、ビーコン送信間隔を増加させたり、送信電波強度を弱めたりするように設定してもよい。
(第4の実施形態)
ところで、近年、在日外国人の急増などにより、無線による無料インターネット接続サービスの提供が急がれている。しかし、無料無線インターネットの提供には、コストがかかるために、まだまだ限られた事業者や場所のみでしか展開されていないという現状がある。このため、運営費用を低減したり、費用回収を行ったりするためのビジネスモデルの構築が課題となっている。
【0107】
また、無料無線インターネット接続サービスを、不特定のユーザに制限なく提供すると、無線LANで使用する周波数帯が非常に混雑し、通信障害を引き起してしまうという問題があった。
【0108】
そこで、本実施形態は、無料無線インターネットに接続可能なユーザ及び時間を制御することで、運営費用を低減させたり費用回収の機会を増加させたりすることができ、かつ、利用帯域の混雑を緩和して利用効率を向上させる、無線通信システムを提供する。
【0109】
図19は、第4の実施形態に係わる無線通信システムの全体図である。図19は、無料無線インターネット提供型デジタルサイネージ、すなわち、無料で誰でも接続できる無線アクセスポイントと、デジタルサイネージとを組み合わせた、無線通信システムの一例を示している。
【0110】
本実施形態の無線通信システムは、無線アクセスポイント50と、プロセッサ51と、ディスプレイコントローラ52と、液晶ディスプレイ53と、メモリ54と、ストレージ55とから主に構成されている。
【0111】
無線アクセスポイント50は、無線通信インタフェースを有する固定アクセスポイントであり、無線通信エリアに存在する無線通信端末(図示せず)との間で無線通信を行う。また、無線アクセスポイント50は、固定ブロードバンドと接続されている。従って、通信接続されている無線通信端末は、無線アクセスポイント50を介して固定ブロードバンドに接続し、インターネットなどを使用できるようになされている。
【0112】
プロセッサ51は、無線アクセスポイント50の認証動作、及び、プローブ要求/応答動作を制御する。また、プロセッサ51には、Linux(登録商標)などのOSが搭載されており、広告を表示させるための動作表示機能や、HTML5レンダリング機能を搭載している。Linux(登録商標)上には、広告を表示するためのプログラムが搭載されている。同プログラムを実行することにより、ディスプレイコントローラ52に対し、液晶ディスプレイ53に表示させるコンテンツを指示する。
【0113】
ディスプレイコントローラ52は、プロセッサ51の指示に従い、所定のコンテンツを所定の時間、液晶ディスプレイ53に表示させる。液晶ディスプレイ53は、ディスプレイコントローラ52から入力されたコンテンツを表示する。
【0114】
メモリ54は、プロセッサ51のプログラムで使用される各種設定値などが登録されている。
【0115】
ストレージ55は、液晶ディスプレイ53に表示させるコンテンツが格納されている。すなわち、広告データと、無線アクセスポイント50に無線通信端末を接続するための方法を説明するチュートリアルデータとが格納されている。
【0116】
次に、プロセッサ51による、無線アクセスポイント50とディスプレイコントローラ52の制御方法について説明する。図20は、プロセッサ51の動作手順を説明するフローチャートである。
【0117】
無線通信システムを起動すると、まず、プロセッサ51は、無線アクセスポイント50に対し、認証フレーム制御を有効にするよう指示する(S41)。なお、認証フレーム制御を有効にすると、無線アクセスポイント50と無線通信端末との認証フレーム送受信動作が抑制される。抑制の具体的な方法は、無線アクセスポイント50側の実装による。次に、ストレージ55から所定の広告データを抽出し、ディスプレイコントローラ52に対し、同データを液晶ディスプレイ53に表示させるよう指示する(S42)。
【0118】
指示後、所定時間が経過すると、無線アクセスポイント50に対し、認証フレーム制御を無効にするよう指示する(S43)。すなわち、無線アクセスポイント50は、通常状態に戻る。続いて、ストレージ55からチュートリアルデータ(無線通信端末を無線アクセスポイント50に接続する方法を説明する画像または映像データ)を抽出し、ディスプレイコントローラ52に対し、同データを液晶ディスプレイ53に表示させるよう指示する(S44)。なお、S44の手順は、S43の手順に引き続き遅滞なく実行される。
【0119】
チュートリアルデータの表示指示後、所定時間が経過すると、次の広告を表示するか否かを判定する(S45)。次に表示する広告がある場合(S45、Yes)、S41からS44の手順を繰り返す。一方、次に表示する広告がない場合(S45、No)、プロセッサ51による制御動作を終了する。
【0120】
次に、無線アクセスポイント50におけるフレーム受信動作について説明する。図21は、無線アクセスポイントのフレーム受信動作を説明するフローチャートである。まず、他の無線通信端末から、無線でデータフレームを受信する(S46)。次に、受信したフレームの種類を識別する(S47)。S47で識別したフレームの種類が、認証フレーム(アソシエーション要求、または、プローブ要求)である場合、更に、プロセッサ51からの指示により、認証フレーム制御が有効になされているかどうかを判定する(S48)。
【0121】
受信したフレームが認証フレームであり、かつ、認証フレーム制御が有効になされている場合(S48、Yes)、受信した認証フレームを破棄し(S50)、受信動作を終了する。一方、受信したフレームが、データフレームなど認証フレーム以外のフレームである場合、または、認証フレーム制御が無効になされている場合(S48、No)、受信したフレームの処理を継続する(S49)。
【0122】
このように、本実施形態の無線通信システムは、液晶ディスプレイ53に、広告データをある一定時間だけ表示した後に、チュートリアルデータを表示する。そして、チュートリアルデータを所定の時間表示すると、また、広告データを一定時間表示する。液晶ディスプレイ53に広告データを表示している間は、無線アクセスポイント50への無線通信端末の新規接続を不可とし、チュートリアルデータが表示されている間のみ、新規接続を許可する。従って、広告データ表示期間中は、ユーザは広告を閲覧してから無線通信端末の接続を行うので、広告効果が向上し、無料インターネット接続サービスを提供するための費用を獲得することができる。
【0123】
また、広告データ表示期間中は、新規接続が制限されており、無線アクセスポイント50は、アソシエーション要求やプローブ要求を受け付けないよう設定されている。従って、無線アクセスポイント50からアソシエーション応答やプローブ応答が送信されないため、利用帯域の混雑が緩和され、利用効率を向上させることができる。
【0124】
更に、広告データ表示期間中は、新規接続は制限されるが、既に無線アクセスポイント50に接続されている無線通信端末については、その接続は維持される。従って、ユーザの利便性は確保される。
【0125】
なお、上述の一例では、認証フレーム制御の有効/無効の切り替えにより、無線アクセスポイント50におけるアソシエーション要求やプローブ要求の受け付け可否を制御していたが、アソシエーション応答やプローブ応答の送信電力を調整することで、無線アクセスポイント50の無線通信可能エリアを制御してもよい。
【0126】
図22は、無線アクセスポイントのフレーム送信動作を説明するフローチャートである。まず、他の無線通信端末などから、無線フレームの送信要求を受信する(S46)。次に、送信するフレームの種類を識別する(S52)。S52で識別したフレームの種類が、認証フレーム(アソシエーション応答、または、プローブ応答)である場合、更に、プロセッサ51から指示されている認証フレーム制御が、有効に設定されているかどうかを判定する(S53)。
【0127】
送信するフレームが認証フレームであり、かつ、認証フレーム制御が有効に設定されている場合(S53、Yes)、フレーム送信電力を低減し(S50)、フレーム送信処理動作を継続する。一方、送信するフレームが、データフレームなど認証フレーム以外のフレームである場合、または、認証フレーム制御が無効に設定されている場合(S53、No)、フレーム送信処理動作を継続する。
【0128】
このように、無線アクセスポイント50は、認証フレーム制御の有効/無効に応じて、認証フレームの送信電力を調整する。すなわち、広告データ表示期間中は、フレーム送信電力を低減させ、無線通信可能エリアを縮小する。また、チュートリアルデータの表示期間は、フレーム送信電力を通常状態に戻して無線通信可能エリアを拡大する。従って、広告データ表示期間中は、無線通信端末の接続エリアが限定されるので、大多数のユーザは広告を閲覧してから無線通信端末の接続を行うため、広告効果が向上し、無料インターネット接続サービスを提供するための費用を獲得することができる。
【0129】
なお、上述の例は、いずれも認証フレームの送受信のタイミングやエリアを制御することで、無線アクセスポイント50への無線通信端末の接続可否をコントロールしているが、ビーコンフレームの制御により行ってもよい。
【0130】
図23は、無線アクセスポイントのビーコン送信動作を説明するフローチャートである。まず、設定されたビーコン間隔で、ビーコンフレーム送信要求が発生する(S55)。次に、送信するビーコンフレームの種類を識別する(S56)。ビーコンフレームの種類が、データが存在することを通知するDTIM(Delivery Traffic Indication Message)でなく、かつ、設定された割合から送信出力を低減すべきフレームであると判定された場合(S57、Yes)、フレーム送信電力を低減し、かつ、ビーコンフレームのSSIDフィールドをステルスAPとして上書きし(S58)、ビーコンフレーム送信処理動作を継続する。
【0131】
一方、ビーコンフレームの種類が、DTIMである場合、または、設定された割合から送信出力を低減すべきフレームでないと判定された場合(S57、No)、特に設定を変更せずに、通常状態のままビーコンフレーム送信処理動作を継続する。
【0132】
このように、ビーコンフレームについて、ステルス状態と非ステルス状態の切り替え、及び、送信電力の切り替えを行うことで、無線通信端末が新規に接続できる時間を制限したり、無線通信可能エリアを制限したりすることができる。このとき、無線通信端末の接続維持に最低限必要であるDTIMを検出し、DTIMのフレームは、通常の非ステルス状態、かつ通常の電力で送信する。そして、DTIM以外のフレームは、ステルス状態、かつ、送信電力を低減させる。これにより、無線通信端末の新規接続を制限しつつ、既に無線アクセスポイント50に接続されている無線通信端末については、その接続を維持できる。従って、ユーザの利便性を確保することができる。
【0133】
なお、認証フレーム制御の有効/無効の切り替えと、ビーコンフレームの送出制御を同時に行ってもよい。すなわち、認証フレーム制御が無効であり、認証フレーム(アソシエーション要求/応答、プローブ要求/応答)の送受信が可能となる時間帯にのみビーコンフレームを非ステルス状態かつ通常の電力で送信する。一方、認証フレーム制御が有効であり、認証フレームの送受信が不可となる時間帯には、ビーコンフレームをステルス状態かつ低電力で送信する。
【0134】
これにより、利用帯域の混雑がよりいっそう緩和され、利用効率を向上させることができる。また、無線通信端末の新規接続をより確実に制限することができ、認証フレーム制御を有効とする期間において、広告効果が向上し、無料インターネット接続サービスを提供するための費用を獲得することができる。
【0135】
なお、認証フレーム制御を有効とする期間においても、既存の接続を維持するために、DTIMのフレームは、通常の非ステルス状態、かつ通常の電力で送信することが望ましい。
【0136】
また、上述の一例においては、液晶ディスプレイ53へ広告データを表示させる期間と、チュートリアルデータを表示させる期間の切り替えは、予め設定された時間間隔で行っているが、液晶ディスプレイ周辺に人感センサを設置し、該人感センサの反応に応じて広告データを表示するタイミングや表示時間を切り替えるようにしてもよい。
【0137】
例えば、人感センサが反応すると、液晶ディスプレイ53に広告データを表示し、認証フレーム制御を無効から有効に設定する。そして、広告データが終了したら、チュートリアルデータの表示に切り替え、認証フレーム制御を無効に切り替える。このように制御することにより、デジタルサイネージの広告効果が更に高まる。
【0138】
なお、人感センサの反応がない期間は、広告を閲覧する人も無料インターネット接続サービスを利用する人も存在しないため、液晶ディスプレイ53の表示を停止し、また、認証フレーム制御を有効に設定しておくことができる。このような、いわゆる待機モードにすることで、システム全体の運用コストを削減し、また、無線LANで使用する周波数帯の混雑を緩和することができる。
【0139】
最後に、本実施の形態の変形例について説明する。上述の無線通信システムでは、無線アクセスポイントをデジタルサイネージとリンクさせることで、無線インターネットを無料で提供するために必要なコストを広告収入で回収していた。これに対し、変形例では、ターゲットユーザのみが無線アクセスポイントに接続できる最低限の条件でフレーム送信電力を制御することで、無線インターネットの運用費用を低減する。
【0140】
変形例の無線通信システムの一例として、例えば、無料無線インターネットを提供するタクシー、すなわち、移動無線アクセスポイントが載置されたタクシーがあげられる。この場合のターゲットユーザは、タクシーに乗車した客である。従って、タクシーのメータと無線アクセスポイントの認証フレーム制御を連動させ、メータが入っている(課金状態にある)間は認証フレーム制御を無効にし、メータが入っていない間は認証フレーム制御を有効にする。このように連動制御することで、タクシーに客が乗っていない間は、無線アクセスポイントからの認証フレーム送信を停止し、消費電力を低減することができる。また、無線LANで使用する周波数帯の混雑を緩和することができる。
【0141】
なお、認証フレーム制御が無効である場合においても、フレーム送信電力を制御し、できるだけ車外に認証フレームが送信されないような低電力で送信することが好ましい。また、認証フレームだけでなく、ビーコンフレームについても、同様に低電力で送信することが望ましい。更に、ビーコンフレームを制御する場合は、認証フレーム制御が有効である場合はステルス状態に設定し、認証フレーム制御が無効である場合は非ステルス状態に設定することで、ターゲットユーザがいない状態において、意図しないユーザ(車外にいる通行人など)に無線アクセスポイントに接続される可能性をより低減することができる。
【0142】
更に、認証フレーム制御の切り替えは、加速度センサやジャイロなど、タクシーの走行状態を検知する機器と連動させて行ってもよい。すなわち、タクシーが走行中であると判定される場合は認証フレーム制御を無効とし、停車中であると判断される場合は認証フレーム制御を有効とする。加速度センサやジャイロは安価で小型であるため、無線アクセスポイントに搭載することが可能である。従って、タクシーメータと無線アクセスポイントを連動させる場合に比べ、設置コストが削減できるため、無線インターネットの運用費用をより低減する効果がある。
【0143】
本明細書における各「部」は、実施の形態の各機能に対応する概念的なもので、必ずしも特定のハードウェアやソフトウエア・ルーチンに1対1には対応しない。従って、本明細書では、実施の形態の各機能を有する仮想的回路ブロック(部)を想定して説明した。
【0144】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、一例として示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0145】
1、21、50…無線アクセスポイント、11、32…無線通信部、12、33…制御部、13…再送回数設定部、14、35…アンテナ、22、22a、22b、44…無線通信端末、31a、41、46…無線通信可能エリア、34…状態遷移条件記憶部、36…上流網インタフェース部、51…プロセッサ、52…ディスプレイコントローラ、53…液晶ディスプレイ、54…メモリ、55…ストレージ、
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