(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
杭頭部と、前記杭頭部の周りに等間隔で配置されるべき複数の定着筋と、前記杭頭部及び前記複数の定着筋を囲むコンクリートによって構成された基礎コンクリート部とを備える杭頭接合部の設計方法において、
前記杭頭接合部の許容曲げモーメントに対応する許容曲げモーメントデータを用意する許容曲げモーメントデータ用意工程と、
前記杭頭部に発生する発生曲げモーメントを算定する発生曲げモーメント算定工程と、
前記発生曲げモーメントが前記許容曲げモーメントデータ以下になるように、前記杭頭接合部の仕様を決定する仕様決定工程と、
を備え、
前記許容曲げモーメントデータ用意工程において、前記複数の定着筋以外の他の配筋を回避するために前記杭頭部の周方向での前記複数の定着筋の取付間隔が施工現場で不均一になる場合を考慮した許容曲げモーメントデータを用意し、
前記仕様決定工程において、前記複数の定着筋以外の他の配筋を回避するために許容される前記複数の定着筋の取付条件として、
前記杭頭部の軸線を中心として、前記杭頭部の軸線の周りの領域を中心角が90度の4つの領域に区画したときに、前記4つの領域の各々に配置される前記定着筋の数を、前記複数の定着筋の総数を前記領域の区画数で割り算したときの商以上とすることを決定するとともに、前記杭頭部の周方向にて隣り合う前記定着筋の前記杭頭部に対する取付位置を直線で結んだ距離のうち最も長い距離である最大取付間隔を決定する
ことを特徴とする杭頭接合部の設計方法。
前記仕様決定工程において、前記複数の定着筋の総数及び前記杭頭部の周方向にて隣り合う前記定着筋の前記杭頭部に対する取付位置を直線で結んだ距離のうち最も短い距離である最小取付間隔を決定するとともに、前記複数の定着筋のうち可及的に多くの定着筋の間隔が前記最小取付間隔となるように前記許容される複数の定着筋の取付条件を決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の杭頭接合部の設計方法。
前記仕様決定工程において、前記複数の定着筋の取付間隔が施工現場にて不均一になる場合を考慮した許容曲げモーメントデータが、前記複数の定着筋の取付間隔が等間隔である場合の許容曲げモーメントに比べ所定の比率以上になるように、前記杭頭接合部の仕様を決定する
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の杭頭接合部の設計方法。
前記許容曲げモーメントデータ用意工程は、前記複数の定着筋の取付間隔と前記杭頭接合部の許容曲げモーメントとを対応付けて格納したデータベースにアクセスするデータベースアクセス工程を含み、
前記許容曲げモーメントデータ用意工程において、前記データベースの中から前記許容曲げモーメントデータを選択する
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の杭頭接合部の設計方法。
所定の軸力下における、前記複数の定着筋の取付間隔が等間隔である場合の許容曲げモーメントに対する前記複数の定着筋の取付間隔が施工現場で不均一になる場合を考慮した許容曲げモーメントの比率を用意する比率用意工程を更に備え、
前記許容曲げモーメントデータ用意工程において、前記複数の定着筋の取付間隔が等間隔である場合の許容曲げモーメントに前記比率を乗じることにより前記許容曲げモーメントデータを用意する
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の杭頭接合部の設計方法。
前記仕様決定工程において、前記許容曲げモーメントデータが、前記複数の定着筋の取付間隔が等間隔であって前記杭頭部の側面抵抗を考慮しない場合の許容曲げモーメント以上になるように、前記杭頭接合部の仕様を決定する
ことを特徴とする請求項7に記載の杭頭接合部の設計方法。
杭頭部と、前記杭頭部の周りに等間隔で配置されるべき複数の定着筋と、前記杭頭部及び前記複数の定着筋を囲むコンクリートによって構成された基礎コンクリート部とを備える杭頭接合部の施工方法において、
前記杭頭部に対し前記複数の定着筋以外の他の配筋を回避するために前記複数の定着筋を前記杭頭部の周方向にて不均一な間隔で取り付ける定着筋取付工程を備え、
前記定着筋取付工程において、
前記杭頭部の軸線を中心として、前記杭頭部の軸線の周りの領域を中心角が90度の4つの領域に区画したときに、前記4つの領域の各々に配置される前記定着筋の数が、前記複数の定着筋の総数を前記領域の区画数で割り算したときの商以上になり、且つ、前記杭頭部の周方向での前記複数の定着筋の取付間隔が、前記複数の定着筋以外の他の配筋を回避するために許容される予め指定された最大取付間隔以下になるように前記複数の定着筋を取り付ける
ことを特徴とする杭頭接合部の施工方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、杭頭接合部の設計及び施工は、杭頭部の周方向における複数の定着筋の取付間隔(配置間隔)が等間隔であること(施工時の誤差を除く)を前提として行われてきた。
しかしながら、杭基礎の施工現場では、杭頭接合部の上方に配置される上部構造の鉄筋や、杭頭接合部に対し水平方向に配置される基礎梁の鉄筋との兼ね合いより、杭頭接合部内において過密配筋が生じ、定着筋を等間隔で取り付けることが困難になる場合がある。また、設計段階では、等間隔で配置できた場合でも、杭施工後の杭心精度にはばらつきがあり、杭心がややずれた場合、定着筋を等間隔で配置できない場合も考えられる。
【0007】
上記したように、定着筋の取付間隔が不均一となった場合、杭頭接合部の曲げ耐力に異方性が生じ、杭頭接合部の曲げ耐力が設計値と異なってしまう。そこで、このような場合でも、杭頭接合部の設計時に、定着筋の取付間隔を等間隔に限定せずに不均一な場合も考慮して許容曲げモーメントを算定しておき、杭頭部に発生する曲げモーメントが定着筋の取付間隔を考慮した杭頭接合部の許容曲げモーメント以下になるようにすることが望ましい。
【0008】
一方、杭頭接合部の施工の際、定着筋を取り付ける作業者は、杭伏図や仕様特記書等の書類(以下、単に設計図ともいう)に基づいて作業を行うが、設計図には、定着筋の取付間隔についての記載はない。このため、作業者は、等間隔を前提に定着筋の取付作業を進める。このような状況下において、定着筋を等間隔に取り付けることが不可能である場合、作業者は現場責任者等の指示を仰がねばならず、定着筋の取付作業が煩雑になってしまう。
【0009】
また、杭頭接合部に関する技術資料として、杭径及び定着筋の数が記載された杭頭用定着筋の仕様書がパンプレットやインターネット等によって公開されているが、定着筋の最大取付間隔まで記載されているものはない。定着筋の最大取付間隔が杭頭用定着筋の仕様書に記載されていれば、杭頭接合部の設計者や施工者は、定着筋の間隔が不均一な場合についても容易に設計や施工を行うことができる。
【0010】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態の目的は、杭頭部の周方向にて定着筋の間隔が不均一であっても、杭頭部の発生曲げモーメントを定着筋の間隔を考慮に入れた杭頭接合部の許容曲げモーメント以下にすることができる杭頭接合部の設計方法を提供することにある。
また、本発明の少なくとも一実施形態の目的は、杭頭部の周方向にて定着筋の間隔が不均一であっても、杭頭部の発生曲げモーメントを定着筋の取付間隔を考慮に入れた杭頭接合部の許容曲げモーメント以下にすることができる杭頭接合部の施工方法を提供することにある。
また、本発明の少なくとも一実施形態の目的は、杭頭部の周方向にて定着筋の間隔が不均一であっても、杭頭部の発生曲げモーメントを定着筋の取付間隔を考慮に入れた杭頭接合部の許容曲げモーメント以下にすることができる杭頭接合部の設計図を提供することにある。
また、本発明の少なくとも一実施形態の目的は、杭頭部の周方向にて定着筋の間隔が不均一であっても、杭頭部の発生曲げモーメントを定着筋の取付間隔を考慮に入れた杭頭接合部の許容曲げモーメント以下にすることができる杭頭用定着筋の仕様書を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る杭頭接合部の設計方法は、
杭頭部と、前記杭頭部の周りに配置される複数の定着筋と、前記杭頭部及び前記複数の定着筋を囲むコンクリートによって構成された基礎コンクリート部とを備える杭頭接合部の設計方法において、
前記杭頭接合部の許容曲げモーメントに対応する許容曲げモーメントデータを用意する許容曲げモーメントデータ用意工程と、
前記杭頭部に発生する発生曲げモーメントを算定する発生曲げモーメント算定工程と、
前記発生曲げモーメントが前記許容曲げモーメントデータ以下になるように、前記杭頭接合部の仕様を決定する仕様決定工程と、
を備え、
前記許容曲げモーメントデータ用意工程において、前記杭頭部の周方向での前記複数の定着筋の取付間隔が不均一である場合の許容曲げモーメントデータを用意する。
【0012】
上記構成(1)によれば、杭頭部の周方向での複数の定着筋の取付間隔が不均一である場合の許容曲げモーメントに対応する許容曲げモーメントデータを用意することで、定着筋の取付間隔が不均一であっても、杭頭部に発生する曲げモーメントが定着筋の取付間隔を考慮に入れた杭頭接合部の許容曲げモーメント以下になるように、杭頭接合部の仕様を決定することができる。
【0013】
(2)幾つかの実施形態では、上記構成(1)において、
前記仕様決定工程において、前記複数の定着筋の取付条件として、
前記杭頭部の軸線を中心として、前記杭頭部の軸線の周りの領域を中心角が90度の4つの領域に区画したときに、前記4つの領域の各々に配置される前記定着筋の数を、前記複数の定着筋の総数を前記領域の区画数で割り算したときの商以上とすることを決定するとともに、前記杭頭部の周方向にて隣り合う前記定着筋の前記杭頭部に対する取付位置を直線で結んだ距離のうち最も長い距離である最大取付間隔を決定する。
【0014】
上記構成(2)によれば、仕様決定工程において、定着筋の取付条件として、4つの領域の各々に配置される定着筋の数を、複数の定着筋の総数を領域の区画数である4で割り算したときの商以上とすること、及び、複数の定着筋の最大取付間隔が決定される。定着筋の配置の際、仕様決定工程で決定された定着筋の取付条件を守れば、杭頭部に発生する曲げモーメントを定着筋の取付間隔を考慮に入れた杭頭接合部の許容曲げモーメント以下に確実にすることができる。
【0015】
(3)幾つかの実施形態では、上記構成(2)において、
前記仕様決定工程において、前記4つの領域は、前記杭頭接合部に接続される梁の方向に沿って区画される。
【0016】
上記構成(3)によれば、4つの領域を杭頭接合部に接合される梁の方向に沿って区画することで、4つの領域の境界が明確になり、4つの領域の各々に配置される定着筋の数が複数の定着筋の総数を領域の区画数である4で割り算したときの商以上となるように、複数の定着筋を確実に取り付けることができる。
【0017】
(4)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(3)の何れか1つにおいて、
前記仕様決定工程において、前記複数の定着筋の取付間隔が不均一である場合の前記杭頭接合部の許容曲げモーメントが、前記複数の定着筋の取付間隔が等間隔である場合の許容曲げモーメントに比べ所定の比率以上になるように、前記杭頭接合部の仕様を決定する。
【0018】
上記構成(4)によれば、仕様決定工程において、複数の定着筋の取付間隔が不均一である場合の杭頭接合部の許容曲げモーメントデータが、複数の定着筋の取付間隔が等間隔である場合の許容曲げモーメントに比べ所定の比率以上になるように、杭頭接合部の仕様を決定するので、定着筋の取付間隔を考慮に入れた杭頭接合部の許容曲げモーメントが過度に小さくなることを防止することができる。
【0019】
(5)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(4)の何れか1つにおいて、
前記許容曲げモーメントデータ用意工程は、前記複数の定着筋の取付間隔と前記杭頭接合部の許容曲げモーメントとを対応付けて格納したデータベースにアクセスするデータベースアクセス工程を含み、
前記許容曲げモーメントデータ用意工程において、前記データベースの中から前記許容曲げモーメントデータを選択する。
【0020】
上記構成(5)によれば、複数の定着筋の取付間隔と杭頭接合部の許容曲げモーメントとを対応付けて格納したデータベースを予め用意しておくことで、複数の定着筋の取付間隔が不均一な場合であっても、定着筋の取付間隔を考慮に入れた杭頭接合部の許容曲げモーメントデータを容易に用意することができる。
【0021】
(6)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(4)の何れか1つにおいて、
所定の軸力下における、前記複数の定着筋の取付間隔が等間隔である場合の許容曲げモーメントに対する前記複数の定着筋の取付間隔が不均一である場合の許容曲げモーメントの比率を用意する比率用意工程を更に備え、
前記許容曲げモーメントデータ用意工程において、前記複数の定着筋の取付間隔が等間隔である場合の許容曲げモーメントに前記比率を乗じることにより前記許容曲げモーメントデータを用意する。
【0022】
上記構成(6)によれば、予め用意しておいた比率を杭頭接合部の許容曲げモーメントに乗じることで、許容曲げモーメントデータを容易に用意することができる。
【0023】
(7)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(6)の何れか1つにおいて、
前記許容曲げモーメントデータ用意工程において、前記許容曲げモーメントデータとして、前記杭頭部の側面抵抗を考慮した許容曲げモーメントデータを用意する。
通常、許容曲げモーメントデータを算定する際、杭頭部の側面抵抗を考慮に入れない。特に、主筋定着方式(定着筋で主に定着させる方式)を用いる場合、杭頭部の側面抵抗を考慮に入れない。しかしながら、杭頭部に曲げモーメントが作用したときに、杭頭部の側面抵抗は現に発生し、杭頭部の曲げモーメントに対して抵抗として機能する。このため、許容曲げモーメントの一部として杭頭部の側面抵抗を考慮することは妥当である。
そこで、上記構成(7)によれば、定着筋の取付間隔が不均一な場合に、杭頭部の側面抵抗を考慮した許容曲げモーメントデータを用意することで、妥当な大きさの許容曲げモーメントデータを用意することができる。
【0024】
(8)幾つかの実施形態では、上記構成(7)において、
前記仕様決定工程において、前記許容曲げモーメントデータが、前記複数の定着筋の取付間隔が等間隔であって前記杭頭部の側面抵抗を考慮しない場合の許容曲げモーメント以上になるように、前記杭頭接合部の仕様を決定する。
上記構成(8)によれば、許容曲げモーメントデータが複数の定着筋の取付間隔が等間隔であって杭頭部の側面抵抗を考慮しない場合の許容曲げモーメント以上になるように杭頭接合部の仕様が決定されるので、複数の定着筋の取付間隔が不均一であっても、所望の大きさの許容曲げモーメントを実現することができる。
なお杭頭部の側面抵抗は、例えば、基礎コンクリート部に対する杭頭部の埋込み長に依存し、埋込み長を長くすることで、大きくすることができる。
【0025】
(9)本発明の少なくとも一実施形態に係る杭頭接合部の施工方法は、
杭頭部と、前記杭頭部の周りに配置される複数の定着筋と、前記杭頭部及び前記複数の定着筋を囲むコンクリートによって構成された基礎コンクリート部とを備える杭頭接合部の施工方法において、
前記杭頭部に対し前記複数の定着筋を取り付ける定着筋取付工程を備え、
前記定着筋取付工程において、
前記杭頭部の軸線を中心として、前記杭頭部の軸線の周りの領域を中心角が90度の4つの領域に区画したときに、前記4つの領域の各々に配置される前記定着筋の数が、前記複数の定着筋の総数を前記領域の区画数で割り算したときの商以上になり、且つ、前記複数の定着筋の取付間隔が予め指定された最大取付間隔以下になるように前記複数の定着筋を取り付ける。
【0026】
上記構成(9)によれば、4つの領域の各々に配置される定着筋の数が、複数の定着筋の総数を領域の区画数である4で割り算したときの商以上になり、且つ、複数の定着筋の最大取付間隔が予め指定された最大取付間隔以下になるように複数の定着筋を取り付けることにより、杭頭部にて発生する曲げモーメントが定着筋の取付間隔を考慮に入れた杭頭接合部の許容曲げモーメント以下になるように、複数の定着筋を容易に取り付けることができる。この結果として、杭頭接合部を容易に施工することができる。
【0027】
(10)幾つかの実施形態では、上記構成(9)において、
前記定着筋取付工程において、前記4つの領域は、前記杭頭接合部に接続される梁の方向に沿って区画される。
【0028】
上記構成(10)によれば、4つの領域を杭頭接合部に接合される梁の方向に沿って区画することで、4つの領域の境界が明確になり、4つの領域の各々に配置される定着筋の数が複数の定着筋の総数を領域の区画数である4で割り算したときの商以上になるように、複数の定着筋を確実に取り付けることができる。
【0029】
(11)本発明の少なくとも一実施形態に係る杭頭接合部の設計図は、
杭頭部と、前記杭頭部の周りに配置される複数の定着筋と、前記杭頭部及び前記複数の定着筋を囲むコンクリートによって構成された基礎コンクリート部とを備える杭頭接合部の設計図であって、前記複数の定着筋の配置を実施する作業者が参照する杭頭接合部の設計図において、
前記複数の定着筋の最大取付間隔を含んでいる。
【0030】
上記構成(11)によれば、杭頭接合部の設計図が複数の定着筋の最大取付間隔を含んでいるので、定着筋の取付作業を行う作業者は、取付作業を円滑に進めることができる。
【0031】
(12)本発明の少なくとも一実施形態に係る杭頭用定着筋の仕様書は、
杭頭部の周りに配置される複数の定着筋の仕様が記載された杭頭用定着筋の仕様書において、
前記複数の定着筋の最大取付間隔が記載されている。
【0032】
上記構成(12)によれば、杭頭用定着筋の仕様書が複数の定着筋の最大取付間隔を含んでいるので、杭頭接合部の設計者や施工者は、杭頭接合部の設計や施工を円滑に進めることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、杭頭部の周方向にて定着筋の間隔が不均一であっても、杭頭部の発生曲げモーメントを定着筋の取付間隔を考慮に入れた杭頭接合部の許容曲げモーメント以下にすることができる杭頭接合部の設計方法が提供される。
また、本発明の少なくとも一実施形態によれば杭頭部の周方向にて定着筋の間隔が不均一であっても、杭頭部の発生曲げモーメントを定着筋の取付間隔を考慮に入れた杭頭接合部の許容曲げモーメント以下にすることができる杭頭接合部の施工方法が提供される。
また、本発明の少なくとも一実施形態によれば、杭頭部の周方向にて定着筋の間隔が不均一であっても、杭頭部の発生曲げモーメントを定着筋の取付間隔を考慮に入れた杭頭接合部の許容曲げモーメント以下にすることができる杭頭接合部の設計図が提供される。
また、本発明の少なくとも一実施形態によれば、杭頭部の周方向にて定着筋の間隔が不均一であっても、杭頭部の発生曲げモーメントを定着筋の取付間隔を考慮に入れた杭頭接合部の許容曲げモーメント以下にすることができる杭頭用定着筋の仕様書が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0036】
以下、本発明の実施形態に係る杭頭接合部の設計方法及び製造方法について説明するが、その前提として、設計対象の杭頭接合部の一例についてまず説明する。
【0037】
〔杭頭接合部の構成〕
図1は、構造体1の概略的な構成を示す図である。構造体1は、複数の杭2と、複数の杭2の杭頭部の各々に接合されたパイルキャップ4aと、パイルキャップ4a同士を連結する梁5と、パイルキャップ4aを介して杭2によって支持された上部構造6と有する。杭2、パイルキャップ4a及び梁5は、上部構造6を支持するための杭基礎8を構成している。
なお、杭基礎8は、パイルキャップ4aに代えて、フーチングを有していてもよい。以下では、パイルキャップ4aやフーチングを基礎コンクリート部4とも称する。
【0038】
図2は、杭頭接合部10を説明するための図である。
図3は、
図2中の杭頭部、接合部材、定着筋及び定着体を概略的に示す図であり、左半分は側面図、右半分は断面図である。
図4は、杭頭部及び接合部材を概略的に示す上面図である。
図5は、接合部材を概略的に示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は上面図、そして、(d)は下面図である。
図6は、定着筋を概略的に示す側面図である。
図7は、杭頭部、接合部材及び定着筋の一部を概略的に示す断面図である。
図8は、杭頭部の一部及び接合部材を概略的に示す上面図である。
【0039】
図1〜
図8に示したように、杭頭接合部10は、杭2の上端部(杭頭部)12と、複数の接合部材14と、複数の定着筋16と、基礎コンクリート部4とを備えている。
杭2は、場所打ち杭であっても既製杭であってもよい。また、本実施形態では、定着筋16が接合部材14を介して杭頭部12に固定されるが、接合部材14を省略して、定着筋16を溶接等により杭頭部12に直接固定してもよい。
【0040】
接合部材14又は定着筋16を杭頭部12の外周面に溶接することを考慮すると、場所打ち杭の場合には、杭2は鋼管コンクリート杭である。また、既製杭の場合には、杭2は、鋼管杭(SPP杭)若しくは外殻鋼管付きコンクリート杭(SC杭)であるか、又は、上端部に鋼製の補強バンドが取り付けられているコンクリート杭、例えば、鉄筋コンクリート杭(RC杭)、プレストレストコンクリート杭(PC杭,PRC杭)、若しくは、高強度プレストレストコンクリート杭(PHC杭)等である。
なお、接合部材14又は定着筋16の固定方法は溶接に限定されることはなく、杭2として、他の種類のものを用いることも可能である。
【0041】
本実施形態では、杭2は、SC杭であり、コンクリートによって構成された円筒形状のコンクリート部17と、コンクリート部17の両端を覆う金属製の端板18と、コンクリート部17の外周面を覆う外殻鋼管19とを有する。端板18は環形状を有し、外殻鋼管19に対して溶接されている。
【0042】
複数の接合部材(ジョイントカプラ)14は、金属製であり、杭頭部12の周方向に間隔をおいて、杭頭部12の外周面に溶接によって固定されている。
複数の定着筋16は、金属製であり、杭頭部12に対し接合部材14を介してそれぞれ取り付けられている。
基礎コンクリート部4は、コンクリートによって構成され、杭頭部12、複数の接合部材14、及び、複数の定着筋16を囲んでいる。基礎コンクリート部4のコンクリートは、例えば、24N/mm
2の設計基準強度Fcを有している。
なお図示しないけれども、基礎コンクリート部4内には、定着筋16以外の鉄筋として、割裂防止筋や、水平方向に延びる梁5の主筋、上下方向に延びる上部構造6の柱の主筋等が配置されていてもよい。
【0043】
本実施形態では、定着筋16は、軸部20と、軸部20の一端側に連なり軸部20よりも小さい断面積を有する螺子部21と、を有する。なお、定着筋16は、軸部20の両側に螺子部21を有していてもよい。この場合、定着筋16の上端側の螺子部21に定着体22としてのナットが螺合されていてもよく、定着筋16としては、異形鉄筋やアンボンド(丸鋼)を用いることができる。
例えば、定着筋16として、
図6に示したような異形鉄筋を用いることができるが、定着筋16の形状は、
図6に示したものに限定されることはない。
【0044】
接合部材14は、下側突起部23と上側突起部24とを有する。下側突起部23及び上側突起部24は、杭頭部12の外周面に溶接によって固定され、杭頭部12の外周面から側方に突出している。そして、上側突起部24は、杭頭部12の軸線方向にて下側突起部23の上方に配置されている。例えば、杭頭部12の軸線方向にて、上側突起部24の上面の位置が、杭頭部12の上端面の位置に一致するように、接合部材14は杭頭部12の外周面に溶接される。
【0045】
定着筋16の螺子部21は下側突起部23に結合されている。例えば、
図5に示したように、下側突起部23に螺子孔26が形成され、螺子部21は螺子孔26に螺合される。或いは、図示しないけれども、下側突起部23には貫通孔が形成され、下側突起部23の下側に、貫通孔と同軸にてナットが溶接される。この場合、ナットを下側突起部23の一部と見なすことができ、ナットに螺子部21を螺合することにより、下側突起部23に螺子部21が螺合されていると見なすことができる。
【0046】
定着筋16の軸部20は、杭頭部12の軸線方向にて下側突起部23と上側突起部24との間を延びるとともに、上側突起部24及び杭頭部12の端面から上方に突出して延在している。
従って、上側突起部24は、定着筋16の通過を許容するような形状を有している。一方で、上側突起部24は、下側突起部23と上側突起部24との間を延びる定着筋16の軸部20の部分に付着した基礎コンクリート部4の部分と、杭頭部12の軸線方向にて係合するように構成されている。
例えば、
図5に示したように、上側突起部24は、定着筋16の通過を許容する切り欠き28が形成されたフォーク部29を有し、フォーク部29は、軸部20に付着したコンクリート部4の一部と杭頭部12の軸線方向にて係合するように構成されている。
【0047】
好ましくは、接合部材14は、下側突起部23及び上側突起部24と一体に形成された連結部30と、2つの補強ビーム部32と、2つの補強リブ部34とを更に有する。
連結部30は、杭頭部12の軸線方向及び周方向に延びる板形状を有し、下側突起部23と上側突起部24を相互に連結している。連結部30は、杭頭部12側に、杭頭部12の外周面に沿って配置可能な湾曲面35を有する。
補強ビーム部32は、杭頭部12の軸線方向に延び、角柱形状を有している。補強ビーム部32は、杭頭部12の周方向にて連結部30の両側に一体に形成されている。補強ビーム部32は、下側突起部23と上側突起部24との間を延びている。
補強リブ部34は、補強ビーム部32と下側突起部23との間に形成される隅に一体に形成されている。
【0048】
好ましくは、
図8に示したように、杭頭部12の周方向にて連結部30の両側が、杭頭部12の外周面に溶接される。そのために、杭頭部12の周方向にて連結部30の両側には、杭頭部12の外周面に対し傾斜した開先面36が設けられ、開先面36と杭頭部12の外周面との間に溶接ビード38が形成される。好ましくは、開先面36及び溶接ビード38は、杭頭部12の軸線方向にて、下側突起部23から上側突起部24まで延びている。
なお、接合部材14の形状は上述したものに限定されることはなく、例えば、特開2015−34458号公報に記載された接合部材を用いることができる。
【0049】
〔杭頭接合部の設計方法〕
図9は、本発明の一実施形態に係る杭頭接合部の設計方法の手順を概略的に示すフローチャートである。
図10は、許容曲げモーメントを算定するための抵抗機構モデルを説明するための図である。
図9に示したように、杭頭接合部の設計方法は、許容曲げモーメントデータ用意工程S1と、発生曲げモーメント算定工程S2と、仕様決定工程S3とを備えている。
【0050】
許容曲げモーメントデータ用意工程S1では、杭頭接合部10の仕様、すなわち、杭頭部12、接合部材14、定着筋16及び基礎コンクリート部4の仕様を仮定し、杭頭接合部10の許容曲げモーメント(短期許容曲げモーメント)sMaに対応する許容曲げモーメントデータが用意される。許容曲げモーメントデータは、杭頭接合部10の仕様に基づいて直接算定される許容曲げモーメントsMaそのものであってもよいし、許容曲げモーメントに所定の余力を見込んだものであってもよい。
【0051】
杭頭部12の仕様とは、杭2の仕様であり、杭径、杭種、壁厚、板厚及び材質等である。接合部材14の仕様とは、接合部材14の形状、寸法及び材質等である。定着筋16の仕様とは、定着筋16の形状、寸法、数、配置及び材質等である。基礎コンクリート部4の仕様とは、基礎コンクリート部4の形状、寸法及び強度等である。また、基礎コンクリート部4の仕様には、杭頭部12と基礎コンクリート部4との相対的な配置関係、すなわち、杭頭部12の埋込み長hpや、へりあきh’も含まれる。
なお、接合部材14を用いない場合には、接合部材14の仕様を考慮する必要はない。
【0052】
発生曲げモーメント算定工程S2では、杭頭接合部10に水平力が加わったときに、杭頭部12に発生する発生曲げモーメントM
0を算定する。
【0053】
仕様決定工程S3では、許容曲げモーメントデータ及び発生曲げモーメントM
0に基づいて、許容曲げモーメントデータ用意工程S1にて仮定された杭頭接合部10の仕様の適否が判定される。例えば仕様決定工程S3では、許容曲げモーメントデータと杭頭部12の発生曲げモーメントM
0とを比較し、発生曲げモーメントM
0が許容曲げモーメントデータよりも小さければ、仮定された仕様が適当であると判定され、仮定された仕様が採用される。
【0054】
例えば、許容曲げモーメントデータ用意工程S1では、
図10に示した抵抗機構モデルに基づいて、許容曲げモーメントsMaを算定する。杭頭接合部10に剪断力Qが作用し、曲げモーメントMが発生した場合、以下の機構I,II,IIIが適宜組み合わさり、曲げモーメントMに抵抗すると考えられる。
【0055】
機構Iは、
図10(a)に示したように、定着筋16を主筋とみなす仮想RC断面としての抵抗であり、定着筋16及び杭頭部12に作用する圧縮力C、並びに、定着筋16に作用する引張力Tに対する抵抗である。機構Iによる許容曲げモーメントsMaの成分を、以下では第1許容曲げモーメント成分sMa1とも称する。
機構IIは、
図10(b)に示したように、基礎コンクリート部4から杭頭部12の外周面に作用する圧縮力Cに対する抵抗である。機構IIによる許容曲げモーメントsMaの成分を、以下では第2許容曲げモーメント成分sMa2とも称する。
機構IIIは、
図10(c)に示したように、基礎コンクリート部4から接合部材14の凹凸に作用する圧縮力Cに対する抵抗である。機構IIIによる許容曲げモーメントsMaの成分を、以下では第3許容曲げモーメント成分sMa3とも称する。
【0056】
そして、本実施形態の許容曲げモーメントデータ用意工程S1では、杭頭部12の端面から上方に突出する定着筋16の軸部20の部分を囲む基礎コンクリート部4の上側部分40と、下側突起部23と上側突起部24との間を延びる定着筋の軸部20の部分を囲む基礎コンクリート部4の下側部分42との間に、ひび割れ44が生じていると仮定する(
図10(a)参照)。ひび割れ44は、典型的には、上側突起部24から斜め45度下方に向かって延びる。このため、ひび割れ44を斜めひび割れ44とも称する。
なお以下の説明では、ひび割れ44が生じていない状態を「状態A」とも称し、ひび割れ44が生じている状態を「状態B」とも称する。本実施形態では、状態Bであると仮定する。
【0057】
状態Bの場合、ひび割れ44の存在によって、抵抗機構モデル中の機構IIIに期待することはできず、機構IIIに基づく抵抗を無視する必要がある。
一方、ひび割れ44の有無にかかわらずに、機構Iとして、定着筋16の引張降伏強さを考慮する必要があるが、ひび割れ44が存在する場合には、定着筋16の引張降伏強さとして、定着筋16の軸部20の引張降伏強さを考慮することができる。軸部20の断面積は螺子部21の断面積よりも大きく、軸部20の引張降伏強さは螺子部21の引張降伏強さよりも大きい。このため、定着筋16の軸部20の引張降伏強さを考慮することができることは、許容曲げモーメントsMaの算定にあたり有利に働く。
【0058】
図11は、状態Bにおいて、定着筋16の軸部20の引張降伏強さTbyを考慮することができる理由を説明するための図である。ひび割れ44が発生した場合、ひび割れ44より下方にて定着筋16に基礎コンクリート部4の下側部分42が付着していることから、付着による抵抗力Fsbの発生を見込むことができる。そして、通常、抵抗力Fsbと螺子部21の引張降伏強さTsyの和(Fsb+Tsy)が、軸部20の引張降伏強さTby以上になるように設計されるので、軸部20の引張降伏強さTbyまで、定着筋16が耐えることができる。
【0059】
このため、本実施形態の許容曲げモーメントデータ用意工程S1では、杭頭部12の端部から上方に突出する定着筋16と定着筋16を囲む基礎コンクリート部4の抵抗を算定する際には、定着筋16の軸部20の引張降伏強さTbyを考慮する一方、接合部材14から基礎コンクリート部4に作用する抵抗を無視して許容曲げモーメントsMaを算定する。つまり、許容曲げモーメントsMaとして、第1許容曲げモーメント成分sMa1を算定する。
なお、引張降伏強さTbyを考慮して許容曲げモーメントsMaを算定するとは、具体的には、引張降伏強さTbyを変数として直接又は間接的に含む関数を用いて許容曲げモーメントsMaを算定することを意味する。
【0060】
上述した抵抗機構モデルを用いた許容曲げモーメントデータ用意工程S1によれば、基礎コンクリート部4にひび割れ44が生じると仮定した場合、即ち状態Bの場合に、定着筋16の軸部20の引張降伏強さTbyを考慮する一方、接合部材14から基礎コンクリート部4に作用する抵抗を無視して許容曲げモーメントsMaを算定することで、許容曲げモーメントsMaを的確に算定することができる。
【0061】
なお、上記した許容曲げモーメントデータ用意工程S1においては、機構IIに基づく抵抗、すなわち杭頭部12の側面抵抗を考慮してもしなくてもよい。機構IIに基づく抵抗を考慮する場合、許容曲げモーメントsMaとして、第1許容曲げモーメント成分sMa1と第2許容曲げモーメント成分sMa2の和(sMa1+sMa2)を算定すればよい。このように、機構IIに基づく抵抗を考慮すれば、許容曲げモーメントsMaが大きくなり、杭頭部12、接合部材14、定着筋16及び基礎コンクリート部4の仕様を抑制することができる。一方、機構IIに基づく抵抗を考慮しなければ、許容曲げモーメントsMaが小さくなり、安全率を見込むことができる。
【0062】
以下、
図10(a)〜(c)に示した機構I〜IIIについて詳細に説明する。
〔機構I〕
機構Iに基づく抵抗は、杭頭部12に生じる圧縮力Cと定着筋16の引張力Tによる抵抗である。ここで、
図12に示したように、杭頭接合部10は、杭断面積Acよりも大きな基礎コンクリート部4(パイルキャップ4a)のコンクリートを圧縮する。このため、局部支圧効果により、杭頭接合部10が接するコンクリートの圧縮耐力fcが上昇する。パイルキャップ断面積(支承面積)A
0と杭断面積(支圧面積)Acの比は5倍以上であり、純圧縮状態で2倍以上の支圧効果が見込める。なお、支圧効果により、コンクリートの圧縮耐力fcは、(A
0/Ac)
0.5倍となる。
【0063】
そして、
図13に示したように、曲げによる偏心圧縮状態を考慮すると、支圧面積Ac’は杭断面積Acよりも小さくなり、更に支圧効果が大きくなる。
機構Iに基づく抵抗、即ち第1許容曲げモーメント成分sMa1の算出に際し、支圧効果による耐力上昇を、本実施形態では、仮想RC断面径Dを拡大することによって取り入れる。
本実施形態のように、杭頭接合部10の許容曲げモーメントsMaの算定の際、定着筋16が引張力Tに抵抗し、仮想のRC断面を有する円柱体が基礎コンクリート部4内に発生する圧縮力Cを負担すると考えることは一般的である。
【0064】
本実施形態のような主筋定着方式による杭頭接合工法の場合、日本建築学会「建築基礎構造設計指針(1988)」や社団法人 道路協会「杭基礎設計便覧 平成18年度改訂版」に記載のある、杭径に200mmを加えた直径Dを有する仮想RC断面として杭頭接合部の断面照査を行う方法が一般的である。最近では、平成24年3月に改訂された社団法人 道路協会「道路橋示方書・同解説 IV下部構造編」において、仮想RC断面の直径Dを杭径Dpに0.25Dp+100mm(加算径は最大400mm)を加えた径として照査する方法が示されている。社団法人道路協会では仮想RC断面の直径Dの見直し改訂がなされている。そこで、本実施形態において許容曲げモーメントsMaを算出する際にも、仮想RC断面を仮定した杭頭接合部10の断面照査方法を採用することができる。
【0065】
そこで、下側突起部23から上側突起部24の上端までの間で、基礎コンクリート部4が定着筋16の軸部20に付着している長さ(以下、有効付着長さとも称する)をLeとしたときに、仮想RC断面の直径Dの最大値として、杭径Dpに2Leを足した値を設定することとした。つまり、定着筋16が引張力に抵抗し、基礎コンクリート部4内に発生する圧縮力は仮想RC断面径D(ただしD=Dp+2Le)を有する円柱体が負担するものとした。
【0066】
好ましくは、仮想RC断面の直径Dと杭径Dpとの間において、次式:
Dp+Le≦D≦Dp+2Le
で示される関係が成立するよう、直径Dが選択される。
より好ましくは、仮想RC断面の直径Dと杭径Dpとの間において、次式:
Dp+1.5Le≦D≦Dp+2Le
で示される関係が成立するよう、直径Dが選択される。
なお例えば、有効付着長さLeは、140mm以上200mm以下である。
【0067】
仮想RC断面の直径Dをこのように選択することで、仮想RC断面径Dの大きさを従来よりも大きく設定可能である。仮想RC断面径Dが大きいほど、基礎コンクリート部4や杭頭部12に作用する応力を小さくすることができ、許容曲げモーメントsMaを大きく算定することができる。この結果として、上記構成によれば、十分な大きさの許容曲げモーメントsMaを有する杭頭接合部10を低コストな仕様で実現可能である。
【0068】
そして、機構Iによる第1許容曲げモーメント成分sMa1は、公知の手順によって、適宜算出すればよい。例えば、日本建築学会「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説(2010)」を参考に算出する方法や、断面の平面保持を仮定した曲げ解析を用いて算出する方法がある。
【0069】
図14は、幾つかの実施形態における定着筋16の取付間隔が不均一な場合を示している。ひび割れ44が発生している状態Bでは、定着筋1本の公称断面積a
bとして、定着筋16の軸部20の公称断面積が用いられる。なお、
図14中の記号は以下のものをそれぞれ表している。
D :仮想RC断面の直径(mm)
D
b :定着筋の配置直径(mm)
d
c:圧縮縁から圧縮側定着筋の重心までの距離(mm)
d
t:引張縁から引張側定着筋の重心までの距離(mm)
R :仮想RC断面の半径(mm)
R
b :定着筋の配置半径(mm)
X
0:仮想RC断面の図心から中立軸までの距離(mm)
θ:円形断面において中立軸位置を定める角度(rad)
θ
j:定着筋位置の配置角度(rad)
【0070】
〔機構II〕
機構IIによる第2許容曲げモーメント成分sMa2は、杭頭部12の側面抵抗(杭側面抵抗)であって、基礎コンクリート部4の支圧抵抗によるものであり、以下の[数1]に示す式により算出可能である。機構IIの支圧強度σ
cとしては、RC構造の許容圧縮応力度である2/3・F
cを用いることができる。
ただし、支圧強度σ
cに対し、杭2が埋め込まれているパイルキャップ4aの拘束効果による圧縮強度の上昇を加味してもよい。
また、許容曲げモーメントデータ用意工程S1においては、第2許容曲げモーメント成分sMa2を考慮してもしなくてもよい。
なお、
図15は、式中の記号の詳細を示している。
【0072】
〔機構III〕
機構IIIによる第3許容曲げモーメント成分sMa3は、定着筋16の許容引張耐力を接合部材14の凹凸による圧縮強度C
cに置き換えて機構Iによる第1許容曲げモーメント成分sMa1を求める際と同じ算定方法を用いて算出することができる(RCでは、短期許容時にコンクリートの局部的な塑性化を許容している)。接合部材14の凹凸の圧縮反力の強度は、コンクリートの支圧破壊によって決まると考えられる(この場合、接合部材14からの斜めひび割れ44は発生しない。定着筋16の降伏ひずみは、コンクリート圧縮降伏ひずみよりも大きい)。
ただし、第3許容曲げモーメント成分sMa3は、杭頭接合部10に斜めひび割れ4が発生していると仮定される場合、許容曲げモーメントデータ用意工程S1において無視される。
また、機構IIIによる抵抗を見込む場合、接合部材14は圧縮力C
cに対して降伏しないよう設計される。
なお、接合部材14を省略して、定着筋16を溶接等により杭頭部12に直接固定している場合には、機構IIIを考慮する必要はない。
【0073】
一方、発生曲げモーメント算定工程S2においては、水平力Hが作用したときに杭頭部12に発生する発生曲げモーメントM
0が、例えば、以下の〔数2〕に示される式によって求められる。
【0075】
ここで、本実施形態では、
図4及び
図14に示したように、許容曲げモーメントデータ用意工程S1において、杭頭部12の周方向での複数の定着筋16の取付間隔(配置間隔)が不均一である場合の許容曲げモーメントデータを用意する。
【0076】
図16は、定着筋16の取付間隔が等間隔である場合のNM曲線とともに、許容曲げモーメントデータとして、定着筋16の取付間隔が不均一である場合のNM曲線を示している。定着筋16の取付間隔が不均一な場合、許容曲げモーメントsMa(曲げ耐力)に異方性が生じるため、曲げ耐力が大きい方向(強軸方向)と、曲げ耐力が小さい方向(弱軸方向)とが現れる。
図16に示した例では、定着筋16の取付間隔が不均一な場合の弱軸方向での許容曲げモーメントsMaが、軸力Nが0kNのときに、定着筋16の取付間隔が均一な場合の許容曲げモーメントsMaに対し80%まで減少している。
【0077】
図2においては図示を省略したが、杭頭接合部10では、梁5の主筋や上部構造6の柱の主筋等により過密配筋が生じ、定着筋16を等間隔に配置できない場合がある。このような事態を想定し、杭頭接合部10の設計者は、定着筋16の取付間隔が不均一になる場合であっても、杭頭部12の発生曲げモーメントM
0が、定着筋16の取付間隔を考慮に入れた許容曲げモーメントsMa以下、即ち許容曲げモーメントデータ以下になるように、杭頭接合部10を設計すればよい。
【0078】
上記構成によれば、杭頭接合部10の設計者は、杭頭部12の周方向での複数の定着筋16の取付間隔が不均一である場合の許容曲げモーメントsMaに対応する許容曲げモーメントデータを用意することで、定着筋16の取付間隔が不均一であっても、杭頭部12に発生する曲げモーメントM
0が定着筋16の取付間隔を考慮に入れた杭頭接合部10の許容曲げモーメントsMa以下になるように、杭頭接合部10の仕様、すなわち定着筋16の取付間隔を決定することができる。
【0079】
図17は、幾つかの実施形態における、仕様決定工程S3での複数の定着筋16の取付条件を説明するための図である。
図18は、仕様決定工程S3で決定された定着筋16の仕様の例を示す表である。
幾つかの実施形態では、
図17及び
図18に示したように、仕様決定工程S3において、複数の定着筋16の取付条件として、杭頭部12の軸線を中心として、杭頭部12の軸線の周りの領域を、中心角が90度の4つの領域I,II,III,IVに区画したときに、4つの領域I,II,III,IVの各々に配置される定着筋16の数Nqを、複数の定着筋16の取付総数を領域I,II,III,IVの区画数である4で割り算したときの商以上とすることを決定するとともに、複数の定着筋16の最大取付間隔Pjmaxを決定する。
【0080】
上記構成によれば、仕様決定工程S3において、定着筋16の取付条件として、4つの領域I,II,III,IVの各々に配置される定着筋16の数を、複数の定着筋16の総数を領域I,II,III,IVの区画数である4で割り算したときの商以上とすること、及び、複数の定着筋16の最大取付間隔Pjmaxが決定される。定着筋16の配置の際、仕様決定工程S3で決定された定着筋16の取付条件を守れば、杭頭部12に発生する曲げモーメントM
0を定着筋16の取付間隔を考慮に入れた杭頭接合部10の許容曲げモーメントsMa以下に確実にすることができる。上記割り算の商は正の整数であり、割り算の余り(小数点以下の値)は切り捨てられる。
定着筋16は、各領域の境界線上に配置してもよい。係る場合には、一方の領域にカウントして他方の領域にはカウントしない。具体的に、領域Iと領域IIの境界線上に定着筋16を取り付ける場合には、例えば領域Iに当該定着筋16の数をカウントし、領域IIにはカウントしない。
【0081】
なお、定着筋16の取付間隔は、
図17に示したように、杭頭部12の周方向にて隣り合う2つの定着筋16の杭頭部12に対する取付位置を直線で結んだ距離であり、杭頭部12との接続位置を基準として決定されるが、杭径が明らかであれば、中心角(例えば
図4、
図17中のθmax)によって表すこともできる。なお、定着筋16が接合部材14のような部材を介して杭頭部12の周りに配置・固定されている場合に、定着筋16の杭頭部12に対する取付位置とは、杭頭部12の中心と定着筋16の中心とを結ぶ線が杭頭部12の外周面と交差する位置であるものとする。このように定義しておくことにより、取付間隔を直線距離で表す場合に、接合部材14のような部材を用いることで定着筋16を杭頭部12に対し直接取り付けない場合でも、定着筋16の杭頭部12に対する取付位置が変化せず、定着筋16の取付間隔の表示が変わることを防止することができる。
【0082】
幾つかの実施形態では、4つの領域I,II,III,IVは、杭頭接合部10に接続される梁5の方向に沿って区画される。
上記構成によれば、4つの領域I,II,III,IVを杭頭接合部10に接合される梁5の方向に沿って区画することで、4つの領域I,II,III,IVの境界が明確になり、4つの領域の各々に配置される複数の定着筋の数が複数の定着筋の総数を領域I,II,III,IVの区画数である4で割り算したときの商以上になるように、複数の定着筋を確実に取り付けることができる。
【0083】
幾つかの実施形態では、仕様決定工程S3において、所定の軸力下、例えば0kNにおいて、複数の定着筋16の取付間隔が不均一である場合の杭頭接合部10の許容曲げモーメントsMaが、複数の定着筋16の取付間隔が等間隔である場合の許容曲げモーメントsMaに比べ所定の比率以上になるように、杭頭接合部10の仕様を決定する。
なお、軸力0kNにおける、複数の定着筋16の取付間隔が等間隔である場合の杭頭接合部の許容曲げモーメントsMaに対する、複数の定着筋16の取付間隔が不均一である場合の杭頭接合部10の許容曲げモーメントsMaの比率を軸力0kNM低減率とも称する。また、軸力0kNM低減率の算出に用いられる許容曲げモーメントsMaは、不均一配置及び等間隔配置の場合のいずれも機構IIによる第2許容曲げモーメント成分sMa2(杭頭部12の側面抵抗)及び機構IIIによる第3許容曲げモーメント成分sMa3を考慮に入れていないものである。
【0084】
上記構成によれば仕様決定工程S3において、複数の定着筋16の取付間隔が不均一である場合の杭頭接合部10の許容曲げモーメントsMaが、複数の定着筋16の取付間隔が等間隔である場合の許容曲げモーメントsMaに比べ所定の比率以上になるように、杭頭接合部10の仕様を決定するので定着筋16の取付間隔を考慮に入れた杭頭接合部10の許容曲げモーメントsMaが過度に小さくなることを防止することができる。
なお、比率は特に限定されることはなく、例えば70%以上95%以下、好ましくは80%以上90%以下に設定される。当該比率が高いほど、定着筋16の取付間隔を考慮した場合の許容曲げモーメントは大きくなる。この一方で、施工時に守らなくてはならない定着筋16の取付条件が厳しくなる。
【0085】
幾つかの実施形態では、定着筋16の最小取付間隔Pjminは、所定の軸力下、例えば0kNにおいて、定着筋16の取付間隔を考慮に入れた杭頭接合部10の許容曲げモーメントsMaが、複数の定着筋16の取付間隔が等間隔である場合の許容曲げモーメントsMaに比べ、予め設定した比率を下回らないように設定される。このため定着筋16の最小取付間隔Pjminは、施工方法や施工条件(溶接条件等)によって適宜変更されてもよい。
【0086】
例えば、
図23の軸力0kNM低減率の欄に示すように、定着筋16の取付間隔を考慮に入れた許容曲げモーメントを、定着筋16の取付間隔が等間隔である場合の許容曲げモーメントの80%以上とした場合において、杭径が1200mmの杭での定着筋16の総数(取付総数)を12本にすると最小取付間隔Pjminは145mmとなり、杭径が1200mmの杭での定着筋16の取付総数を8本にすると最小取付間隔Pjminは132mmとなる。
かくして幾つかの実施形態では、定着筋16の取付間隔は、最小取付間隔Pjmin以上最大取付間隔Pjmax以下となる。
なお、最小取付間隔Pjminについても、最大取付間隔Pjmaxの場合と同様、杭径が明らかであれば、中心角(例えば
図4、
図17中のθmin)によって表すこともできる。
【0087】
幾つかの実施形態では、
図17に示したように、杭頭部12の径方向において、一つの方向(弱軸方向)にて許容曲げモーメントが最小となり、弱軸方向と直交する方向(強軸方向)にて許容曲げモーメントが最大となるように複数の定着筋16が配置される。そして、定着筋16の配置パターンが弱軸を挟んで対称となり、可及的に多くの定着筋16の取付間隔が最小取付間隔Pjminとなり、弱軸を挟んで隣り合う2つの定着筋16の取付間隔が最大取付間隔Pjmaxとなるように定着筋16が配置される。
【0088】
上述した
図17のような定着筋16の配置パターンは、強軸方向両側での定着筋16の配置密度が高く、弱軸方向で最も小さい許容曲げモーメントをもたらす厳しい条件のものである。このような厳しい条件の配置パターンを想定し、当該配置パターンを考慮した弱軸方向の許容曲げモーメントが杭頭部12の発生曲げモーメント以下になるように最大取付間隔Pjmaxを設定しておけば、定着筋16のほぼあらゆる配置パターンについて、定着筋16の取付間隔を考慮した杭頭接合部10の許容曲げモーメントを杭頭部12の発生曲げモーメント以下にすることができる。例えば、複数の定着筋16の取付間隔を最小取付間隔132mmで設計していたときに、現実の最小取付間隔が150mmになれば、それだけで許容曲げモーメントの増加を見込むことができ、安全率を見込むことができる。
【0089】
図19は、許容曲げモーメントデータ用意工程S1の概略的な手順を説明するためのフローチャートである。幾つかの実施形態では、
図19に示したように、許容曲げモーメントデータ用意工程S1は、複数の定着筋16の取付間隔と杭頭接合部10の許容曲げモーメントsMaとを対応付けて格納したデータベースにアクセスするデータベースアクセス工程S10を含んでいる。そして、許容曲げモーメントデータ用意工程S1において、データベースの中から許容曲げモーメントデータを選択する。
【0090】
上記構成によれば、複数の定着筋16の取付間隔と杭頭接合部10の許容曲げモーメントsMaとを対応付けて格納したデータベースを予め用意しておくことで、複数の定着筋16の取付間隔が不均一な場合であっても、杭頭接合部10の許容曲げモーメントデータを容易に用意することができる。
つまり、許容曲げモーメントデータは、杭頭接合部10を設計する際にその都度算定してもよいし、予め用意されたデータベースの中から取得してもよい。
なおデータベースは、例えばサーバに格納され、インターネットを通じてアクセス可能である。
【0091】
図20は、他の実施形態に係る杭頭接合部の設計方法の概略的な手順を説明するためのフローチャートである。
図21は、当該杭頭接合部の設計方法で用意される許容曲げモーメントデータを説明するための図である。
幾つかの実施形態では、
図20に示したように、杭頭接合部の設計方法は、比率用意工程S4を更に備えている。
比率用意工程S4では、所定の軸力N下での、複数の定着筋16の取付間隔が等間隔である場合の許容曲げモーメントsMaに対する複数の定着筋16の取付間隔が不均一である場合の許容曲げモーメントsMaの比率を用意する。軸力Nは杭頭部12に対し軸線方向に作用するものであり、所定の軸力Nは例えば0kNである。
【0092】
そして、許容曲げモーメントデータ用意工程S1において、複数の定着筋16の取付間隔が等間隔である場合の許容曲げモーメントsMaに比率用意工程S4で用意された比率を乗じることにより、許容曲げモーメントデータを用意する。
図21では、定着筋16の間隔が等間隔である場合のNM曲線に比率を乗じることによって、許容曲げモーメントデータとしてのNM曲線を求めている。
【0093】
上記構成によれば、予め用意しておいた比率を、複数の定着筋16の取付間隔が等間隔である場合の杭頭接合部10の許容曲げモーメントsMaに乗じることで、複数の定着筋16の取付間隔が不均一である場合の許容曲げモーメントデータを容易に用意することができる。こうして求められたNM曲線は、定着筋16の取付間隔に基づいて直接算定されたNM曲線よりも小さく、安全率を見込むことができる。
例えば、比率は、複数の定着筋16の取付間隔と対応付けてサーバに格納され、インターネットを通じてアクセス可能である。
【0094】
〔杭頭接合部の施工方法〕
以下、本発明の一実施形態に係る杭頭接合部の施工方法について説明する。
図22は、本発明の一実施形態に係る杭頭接合部の施工方法の概略的な手順を説明するためのフローチャートである。
杭頭接合部の施工方法は、
図2に例示したように、杭頭部12と、杭頭部12の周りに配置される複数の定着筋16と、杭頭部12及び複数の定着筋16を囲むコンクリートによって構成された基礎コンクリート部4とを備える杭頭接合部10の施工方法である。
【0095】
杭頭接合部の施工方法は、杭頭部12の周方向にて所定の間隔で複数の定着筋16を杭頭部12に取り付ける定着筋取付工程S5と、コンクリート打設工程S6とを備える。
定着筋取付工程S5では、
図17及び
図18に示したように、杭頭部12の軸線を中心として、杭頭部12の軸線の周りの領域を、杭頭接合部10に接続される梁5の方向に沿って中心角が90度の4つの領域I,II,III,IVに区画したときに、4つの領域I,II,III,IVの各々に配置される定着筋16の数Nqが、複数の定着筋16の総数を領域I,II,III,IVの区画数である4で割り算したときの商以上になり、且つ、複数の定着筋16の取付間隔が予め指定された最大取付間隔Pjmax以下になるように複数の定着筋16を杭頭部12に対し取り付ける。なお、杭頭部12に対し定着筋16を取り付けるという表現は、杭頭部12に対し定着筋16を直接取り付けることのみならず、接合部材14のような部材を介して杭頭部12の周りに定着筋16を配置して固定することも含む。
コンクリート打設工程S6では、杭頭部12及び定着筋16を囲むようにコンクリートが打設される。
【0096】
上記構成によれば、現場で不均一な配置になった場合でも、4つの領域I,II,III,IVの各々に配置される定着筋16の数が、複数の定着筋の総数を領域I,II,III,IVの区画数である4で割り算したときの商以上になり、且つ、複数の定着筋16の取付間隔が予め指定された最大取付間隔Pjmax以下になるように複数の定着筋16を取り付けることにより、杭頭部12にて発生する曲げモーメントM
0が定着筋16の取付間隔を考慮に入れた杭頭接合部10の許容曲げモーメントsMa以下になるように、複数の定着筋16を容易に取り付けることができる。この結果として、杭頭接合部10を容易に施工することができる。
【0097】
〔杭頭接合部の設計図〕
以下、本発明の一実施形態に係る杭頭接合部の設計図について説明する。
杭頭接合部の設計図は、杭頭部12と、杭頭部12の周りに配置される複数の定着筋16と、杭頭部12及び複数の定着筋16を囲むコンクリートによって構成された基礎コンクリート部4とを備える杭頭接合部10の設計図であって、複数の定着筋16の取付作業を実施する作業者が参照するものである。
本実施形態に係る杭頭接合部の設計図は、
図4に例示するように、複数の定着筋16の最大取付間隔Pjmaxを情報として含んでいる。
【0098】
上記構成によれば、杭頭接合部の設計図が複数の定着筋16の最大取付間隔Pjmaxを含んでいるので、定着筋16の取付作業を行う作業者は、取付作業を円滑に進めることができる。
なお、本明細書における設計図は、定着筋16の取付作業を行う作業者が参照するものであればよく、杭伏図の他に、仕様特記書等のようなものも含む。また、設計図の媒体は、書面に限定されず、液晶モニタ等の表示装置に表示されるものであってもよい。
【0099】
幾つかの実施形態では、
図4に例示するように、杭頭接合部の設計図は、複数の定着筋16の最小取付間隔Pjminを、最大取付間隔Pjmaxとともに情報として含んでいる。
上記構成によれば、杭頭接合部の設計図が複数の定着筋16の最小取付間隔Pjminを更に含んでいるので、定着筋16の取付作業を行う作業者は、取付作業を更に円滑に進めることができる。
【0100】
〔杭頭用定着筋の仕様書〕
以下、本発明の一実施形態に係る杭頭用定着筋の仕様書について説明する。
図23は、本発明の一実施形態に係る杭頭用定着筋の仕様書を概略的に示している。杭頭用定着筋の仕様書は、
図23に示したように、杭頭部12の周りに配置される複数の定着筋16の仕様が記載されており、複数の定着筋16の最大取付間隔Pjmaxが杭径と対応付けて記載されている。
【0101】
上記構成によれば、杭頭用定着筋の仕様書が複数の定着筋16の最大取付間隔Pjmaxを含んでいるので、杭頭接合部10の設計者や施工者は、杭頭接合部10の設計や施工を円滑に進めることができる。
好ましくは、杭頭用定着筋の仕様書は、定着筋16の最大取付間隔Pjmaxと対応付けて、定着筋16の取付間隔が等間隔である場合の許容曲げモーメントに対する、定着筋16の取付間隔が不均一である場合の許容曲げモーメントの比率(軸力0kNM低減率)が記載されている。杭頭接合部10の設計者や施工者は、当該比率を参照することで、杭頭接合部10の設計や施工をより一層円滑に進めることができる。
なお、杭頭用定着筋の仕様書についても、媒体は書面に限定されず、液晶モニタ等の表示装置に表示されるものであってもよい。
【0102】
幾つかの実施形態では、
図23に例示するように、杭頭用定着筋の仕様書には、複数の定着筋16の最小取付間隔Pjminが、杭径、定着筋16の総数、杭頭部12の軸線を中心とする中心角90度の範囲(1/4範囲)に配置される定着筋16の数Nq、及び、定着筋16の最大取付間隔Pjmaxと対応付けて記載されている。上記構成によれば、杭頭用定着筋の仕様書が複数の定着筋16の最小取付間隔Pjminを更に含んでいるので、杭頭接合部10の設計者や施工者は、杭頭接合部10の設計や施工を更に円滑に進めることができる。
【0103】
〔杭頭部の側面抵抗〕
図24及び
図25は、本発明の他の一実施形態に係る杭頭接合部の設計方法を説明するための表であり、杭頭接合部10の仕様として、定着筋16の取付間隔以外に、杭頭部12の側面抵抗に関するパラメータを示している。なお、
図24及び
図25中のΔMは、等間隔配置での第1許容曲げモーメント成分sMa1と不均一配置での第1許容曲げモーメント成分sMa1との差である。
【0104】
幾つかの実施形態では、許容曲げモーメントデータ用意工程S1において、杭頭部12の周方向にて複数の定着筋16の取付間隔が不均一である場合の許容曲げモーメントデータとして、杭頭部12の側面抵抗(杭側面抵抗)を考慮した許容曲げモーメントデータを用意する。杭頭部12の側面抵抗は、上述した機構IIによる第2許容曲げモーメント成分sMa2であり、上記[数1]に示した式によって求められる。
図24及び
図25には、杭側面抵抗の値が示されている。
通常、杭頭部の周方向にて複数の定着筋の取付間隔が等間隔である場合、許容曲げモーメントを算定する際、杭頭部の側面抵抗を考慮に入れない。特に、定着筋を用いる場合、杭頭部の側面抵抗を考慮に入れない。しかしながら、杭頭部に曲げモーメントが作用したときに、杭頭部の側面抵抗は現に発生し、杭頭部の曲げモーメントに対して抵抗として機能する。このため、許容曲げモーメントsMaの一部として杭頭部12の側面抵抗を考慮することは妥当である。
そこで、上記構成では、杭頭部12の周方向にて定着筋16の取付間隔が不均一な場合に、杭頭部12の側面抵抗を考慮した許容曲げモーメントデータを用意することで、妥当な大きさの許容曲げモーメントデータを用意することができる。杭頭部12の側面抵抗を考慮した許容曲げモーメントデータは、第1許容曲げモーメント成分sMa1と第2許容曲げモーメント成分sMa2との和であり、若しくは、第3許容曲げモーメント成分sMa3を更に考慮に入れる場合には第1許容曲げモーメント成分sMa1と第2許容曲げモーメント成分sMa2と第3許容曲げモーメント成分sMa3との和であってもよい。なお、前述したように、許容曲げモーメントデータは、許容曲げモーメントに対応していればよく、許容曲げモーメントに所定の余力を見込んだものであってもよい。
【0105】
幾つかの実施形態では、仕様決定工程S3において、杭頭部12の周方向にて定着筋16の取付間隔が不均一な場合に杭頭部12の側面抵抗を考慮した許容曲げモーメントデータが、杭頭部の周方向にて複数の定着筋の取付間隔が等間隔であって杭頭部の側面抵抗を考慮しない場合の許容曲げモーメント以上になるように、杭頭接合部10の仕様を決定する。つまり、
図24及び
図25に示したΔMに対する杭側面抵抗sMa2の比sMa2/ΔMが1以上になるように、杭頭接合部10の仕様(例えば埋込み長hp等)を決定する。
上記構成によれば、許容曲げモーメントデータが、複数の定着筋の取付間隔が等間隔であって杭頭部の側面抵抗を考慮しない場合の許容曲げモーメント以上になるように杭頭接合部10の仕様が決定されるので、複数の定着筋16の取付間隔が不均一であっても、所望の大きさの許容曲げモーメントsMaを実現することができる。
なお、複数の定着筋の取付間隔が等間隔であって杭頭部の側面抵抗を考慮しない場合の許容曲げモーメントとは、複数の定着筋の取付間隔が等間隔である場合の第1許容曲げモーメント成分sMa1、若しくは第3許容曲げモーメント成分sMa3を更に考慮に入れる場合には複数の定着筋の取付間隔が等間隔であるときの第1許容曲げモーメント成分sMa1と第3許容曲げモーメント成分sMa3との和である。
【0106】
ここで、[数1]に示した式から明らかなように、杭頭部12の側面抵抗は、基礎コンクリート部4に対する杭頭部12の埋込み長hpに依存する。埋込み長hpは、
図15に示したように、基礎コンクリート部4内を延びる杭頭部12の軸線方向長さである。例えば、
図24に示した杭径Dp600mmの例から、埋込み長hpを長くすることで、杭頭部12の側面抵抗が大きくなることがわかる。
その反面、埋込み長hpを長くした場合、杭頭部12周辺の掘削量が増大したり基礎コンクリート部4が大きくなってしまうので、埋込み長hpは短い方がよい。このため、杭2の外径である杭径Dpに対する埋込み長hpの比hp/Dpは、例えば、0.5以下であるのが望ましい。
【0107】
幾つかの実施形態では、sMa2/ΔMが1以上である場合、1を超える部分については、許容曲げモーメントデータとして考慮しない。つまり、許容曲げモーメントデータの算定にあたり、杭頭部12の側面抵抗は、最大でも、複数の定着筋の取付間隔が等間隔である場合の許容曲げモーメントからの減少分であるΔMの分までしか考慮しない。このようにすることで、杭頭部12の側面抵抗を考慮することにより、許容曲げモーメントデータを過度に大きく算定することを防止することができる。
【0108】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
例えば、上述した実施形態では、基礎コンクリート部4にひび割れ44が発生している状態Bを前提として許容曲げモーメントsMaを算定したが、ひび割れ44が発生していない状態Aを前提として許容曲げモーメントを算定してもよい。つまり、定着筋16の取付間隔が不均一であることが考慮されてさえいれば、許容曲げモーメントsMaの算定方法は特に限定されることはない。
なお、従来の設計図等にも、定着筋の配置位置の許容誤差が記載されていることがあったが、当該記載はあくまでも取付作業によって生じる目標位置からの施工時の誤差の許容範囲を示すものであり、従来の設計図等の目標位置によって定まる定着筋の取付間隔は等間隔であった。上述した本実施形態の杭頭接合部の設計方法は、目標位置からの施工時の誤差によって生じる定着筋16の間隔の最大値を制限するものではなく、定着筋16を配置すべき目標位置の間隔の最大値として最大取付間隔Pjmaxを規定している。つまり、最大取付間隔Pjmaxは、定着筋16以外の他の配筋を回避するために許容される定着筋16同士の最大取付間隔である。
なお、本実施形態の杭頭接合部の設計方法によって設計された杭頭接合部10であっても、目標位置から±3mm程度の定着筋16の配置誤差が生じてもよい。
【0109】
最後に、上述した実施形態に係る杭頭接合部の設計方法は、方法に係る発明であったが、本発明によれば、物の発明として、当該方法をコンピュータに実行させるためのプログラムも提供可能であるのは勿論である。